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右門捕物帖 片眼狼

佐々木味津三原作の映画化で、嵐寛寿郎が演じる「むっつり右門」シリーズの一作

同じ嵐寛寿郎主演で山本嘉次郎監督の東宝版「むっつり右門 鬼面屋敷」(1955)では、エノケンが、右門の子分、おしゃべり伝六を演じていたが、この新東宝版では、柳家金語楼が伝六を演じており、エノケンは特別出演の形で登場している。

沢島忠監督の東映版「右門捕物帖 片目の狼」(1959)では、大友柳太朗が右門、堺駿二が伝六を演じており、タイトルが似ている所から、原作は同じ話ではないかと思うのだが、両者の内容は全く違っている。

東映版で、あば敬こと村上敬四郎を演じた進藤英太郎が、先に作られたこの作品にも出ている所が興味深い。

本作は音楽映画風のシーンも多く、シリアスな捕物帳と言うより、おとぼけあり、歌あり、叶わぬ悲恋あり…と言った分かり易い要素で成り立った通俗娯楽になっている。

片目狼の着物には「狼」の文字、最後に登場する右門の羽織の紋は○に右の字…、子供マンガのような分かり易さである。

頻繁に登場する吹き抜けスタイルで一階と二階部分が作られている酒場の大セットは、おそらくクラブやキャバレーのイメージなのではないかと推測するが、音楽映画特有のものかもしれない。

タイトルにもなっており、劇中に登場する「片目狼」と言う荒くれ者風の浪人は誰が見てもアラカンで、言わば「囮捜査」なのだが、右門と気づかないのは敵方ばかりで、味方側は全員承知していると言う設定になっている。

最後まで姿を現さない賊の首領の正体こそ意外性があるが、事件そのものに謎はなく、右門が推理をするような要素はほとんどない。

言わば「座長芝居」のように、アラカンが無頼漢を演じたり、鞍馬天狗のような馬に乗った覆面の正義の味方になったり…と言う衣装替えを楽しむような趣向になっているだけと言っても良い。

馬での追跡シーンなど、捕物帳と言うより、完全に活劇風

途中で、店の客として登場しているエノケンやあのねのおっさんこと高瀬実乗?(そっくりさんかも)も、観客サービス以外には登場する必然性に乏しく、唐突な印象しかない。

注目すべきは、進藤英太郎の子分の浪人として、若き日の伊藤雄之助が出ている事。

まだ顔つきもほっそりとしており、かなりのイケメン風にも見える。

飲み屋の若女将が、荒くれ男風の片目狼に心惹かれる描写なども興味深い。

昔から、女性は「悪の匂い」に惹かれる…と思われていたと言う事なのだろう。

全体としては、観客に極力頭を使わせないように作られた、肩のこらない軽い娯楽映画と言った印象になっている。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1951年、新東宝、佐々木味津三原作、豊田榮脚本、中川信夫監督作品。

馬に乗った野党のような一団が暴れ回っている。

彼らが立ち去った後には、「卍」の印が付いた旗が打ち捨てられていた。

タイトル

海沿いの街、海津

その巣窟

大きな「酒」を書かれた提灯を店の中に掲げたのは、町一番の飲み屋「萬燈屋」

おかめの面をかぶった酌婦たちと、卍組の荒くれ者たちが、揃って愉快そうに酒を飲み、酌婦のお春(高杉妙子)が愉快そうに歌っていた。

卍組のまとめ役一発屋斉兵衛(進藤英太郎)も、楽しそうに酌婦と踊っていた。

お春が歌いながら階段を登って行くと、孔雀の羽で出来た扇子で顔を隠した女が二階から登場する。

扇子を外すと、この萬燈屋の美貌の名代女、お吉(花井蘭子)だった。

お吉が歌い始めると、種子島を持った卍組のザンバラ髪の黒松が、お吉!話がある!降りて来い!と酔った勢いで呼びかけるが、お吉は相手にせず、歌い続ける。

その態度にいら立ったのか、黒松は、種子島を天井に向かって発砲、しかし、踊り狂っている店のものたちは誰も相手にしない。

そんな港町に馬に乗って駆けつけて来たのは、卍組の連絡係三吉で、馬を降り、萬燈屋の中に入って来ると、仲間たちに声をかけ、店の奥の隠し戸の部屋に全員集まる。

江戸の一行が近づいている。峠に到達するのは明け六つ!と三吉からの報告を聞いた一発屋は、三吉を帰すと、新しい代官として石子伴作がやって来る。さらに、松平伊豆守が特に選んだ近藤右門も一緒に乗り込んで来る。後7日もすれば薩摩から船が着く。その薩摩に荷物を送れば良いのだと仲間たちに言い聞かす。

それを聞いた仲間の鶴舞(伊藤雄之助)たちは口々に、右門を倒せ!右門斬るべし!と興奮し出す。

港町に近づいていた石子たち一行の列に付いて歩いていたおしゃべり伝六(柳家金語楼)は、同じく列に同行していたあばたの敬四郎(鳥羽陽之助)の子分ちょんぎれの松(渡辺篤)に、おい、松!と偉そうに声をかけたので、怒った松が追いかけ回し出す。

一行が峠に差しかかった時、道ばたの木の上などに身を潜め、種子島や矢を引いて待ち受けていたのは卍組だった。

黒松が、右門は顔を狙え!と声をかけ、待ち伏せしていた連中は一斉に矢や種子島を放つ。

襲撃に気づいた一行の列は乱れ、同行していた駕篭かきは慌てて走り出す。

その駕篭こそ、右門が乗っていると察した卍組は馬で襲いかかる。

駕篭かきたちは、槍が飛んで地面に突き刺さったので、慌てて駕篭を放し逃げ出す。

置き去りにされた駕篭に近づいた鶴舞は槍で駕篭を突き刺すが手応えがなかったので、覆いをめくってみると、中には「卍組の諸君ご苦労 右門」と書かれた紙が入っているだけだった。

その頃、当の近藤右門(嵐寛寿郎)は、小舟で川岸に密かに到着していた。

海津代官所

石子らを襲撃して戻って来ていた黒松らが盛り上がっていた「萬燈屋」に、1人の眼帯姿の見知らぬ浪人ものがやって来て、店の中央の台の上に置いてあった大太鼓を叩き出したので、どこのでくの坊か知らないが、聞いた風な事抜かすでないよ!と、酔ったお吉が因縁をつけて来る。

黒松がからかうように種子島を威嚇射撃し、片目の浪人は風来坊だ、今日はこの店を買い取った!などと、その見知らぬ男が景気の良い話をするので、怪しんだ一発屋が、おめえ、「萬燈屋」を目指して来たのか?どこから来た?と聞くと、巧い話が山ほどあると聞いて来た。首領は誰だ?と片目の浪人は逆に聞いて来る。

一発屋は、奥へ来い!と片目の浪人を誘う。

その頃、海津代官所では、先の代官大浦に仕えていた配下のものが、襲撃を逃れ、無事、到着していた石子伴作(清川荘司)やあばたの敬四郎、伝六と松を前に、わざわざ江戸から足を運ばせるに至った自分の力のなさを恥じていた。

石子は、悪の根源は浜の「萬燈屋」にあると内通があったが、近藤右門は同行できなかったのだと代官に教える。

すると、あばたの敬四郎こと村上敬四郎が、自分も右門同様、数々の手柄を立てて来たものだなどとありもせぬ自慢話を始めたので、聞いていた松と伝六は呆れる。

ここは腐敗し切っていると江戸からの使者の1人が責めると、配下のものは憮然とする。

その頃、その「萬燈屋」の奥を一発屋が片目の浪人を案内していた。

卍組の一党がたむろしている「浪人部屋」に連れて来られた片目の男は、「五人組」「十人衆」などと一発屋が紹介しても、用心棒のたまり場だな…と吐き捨てる。

部屋に奥には、何か患っているのか寝込んでいる浪人者もいた。

そんな奥の部屋には、長持の中から、誘拐して来た女を出してやっている浪人たちがいた。

その女たちは、同じように誘拐されて来た大勢の女と共に大部屋に幽閉される。

その部屋の前にやって来た片目の男は、中を覗き込み、金蔵と思ったら、女蔵か…と嘲るようにつぶやいたので、口を慎め!と一発屋が叱りつける。

さらに奥へ案内した一発屋は、ここは店の女共の部屋で男禁制だ!と釘を刺すと、中から出て来たお春が、黒松さんが酔って寝転がり困っているんだよと一発屋に苦情を言いに来る。

しかし、一発屋が相手をしないので、店の酌婦たち全員で黒松を店から追い出す。

さらに奥へ案内して来た一発屋は、ここから先は誰も入れねえ。入れるのは、この一発屋斉兵衛の他、2~3人の者だけだと言うので、じゃあ、俺もしっかり働いて、その仲間に入るとするか…と片目の男はうそぶく。

板場では、酌婦のお米(星美千子)が粥を作っていたので、安爺が、山形さんの病気はどうなの?と話しかける。

江戸の右門を言うのはどんな男なの?とお米が逆に聞いて来たので、松平伊豆守のお気に入りで大した奴らしい。山形さんも出世したらああなるぜと安爺は教える。

その後、粥を持って浪人部屋にやって来たお米は、省さん、気分どう?と声をかける。

寝込んでいた浪人、山形省吾(杉山昌三九)は、もう大丈夫と答える。

その頃、うぐいすの鳴きまねを口笛で吹きながら、奥から1人、店の方へ戻りかけた片目の男に近づいて来たお吉が、インチキはなしよと言いながら、眼帯を取ろうとしたので、さっと身を交わした男は、又、何食わぬ顔で、うぐいすの鳴きまねの口笛を吹きながら去って行く。

そんな「萬燈屋」の店先に、おっとり刀でやってきたのがあばたの敬四郎と松で、互いに先に入れと牽制しあっていると、店から卍組がぞろぞろ出て来たので、慌てて逃げ出す始末。

店の中では、白塗りのとぼけた客(高瀬実乗?)などで溢れており、客として先に入り込んでいた伝六は、銭がないので着物で払う、俺は江戸っ子だ!などと言い出し、その場で脱ぎ出したので、店のものが奥へ連れて行く。

そこへようやく入り込んだのが、あばたの敬四郎と松だった。

板場の所へ連れて来られた伝六が、銭を払うには江戸の料理屋に行かないと…、俺は板前だよなどと言い出したので、店の男は、店の板場親爺安 (中村是好)に預ける。

安爺は、前にいた板前は、ちょっと料理でしくじっただけで一発屋に一太刀で斬られたぜと伝六を脅す。

それを聞いて怯えた伝六の前に姿を現したのが、一発屋本人で、一発屋は俺だ!と伝六を睨みつける。

店の中では、敬四郎と松が客として呑み始めていたが、松が酌婦相手に愉快そうにしていたので、敬四郎は酌婦を追い払い、松を叱りつける。

松は、首領の事を調べました…とちゃんと仕事をしている事をアピールし、若い男でいつも覆面をしているそうですと敬四郎に教える。

その時、二階の通路にいた客が、酒を松の頭上にこぼして来たので、松は怒って、その客と喧嘩を始める。

その様子を観ていた一発屋は、店の中にいた片目の男の肩を叩き、目で合図をする。

それで、敬四郎たちの前に近づいた片目の男は、貴様何者だ?と睨みつけると、自分たちは旅芸人ですなどと敬四郎が言い出したので、良し、踊ってみせろと片目の男は凄んでみせる。

仕方ないので、敬四郎は松も呼び、一緒におどけた踊りを披露する。

お吉が歌いだしたので、片目の男も愉快そうに手拍子を始め、逃げるとぶっ飛ばすぞ!と敬四郎を威嚇していると、そこにやって来たのが石子で、片目じゃないか!と声をかけて来る。

俺はお前など知らん!と片目が顔を背けると、お前は本名を風太郎と言い、江戸を追われた「片目狼」だろう?西に逃げたと聞いたぞと石子は指摘し、松!ひっとらえろ!と命じるが、お役人、やりますか?と片目狼が刀に手をかけたので、石子は人で賑わう店の中と言うこともあり、噂通り、人を観れば噛み付いて来る奴だ…と呆れ、良し、今日は勘弁してやろうと言い残し、その場は引き上げて行く。

松と共に帰りかけた敬四郎には、旅芸人!今度姿を見つけたら、その首を引っこ抜くぞ!と片目狼は凄んでみせる。

その一部始終を見ていた一発屋は、大した奴だと感心し、奴は石子伴作と言う代官だと、気に入ったらしい片目狼に教える。

しかし、側にいたお吉は、ふん!片目狼か…と嘲るようにつぶやいたので、片目はお吉の頬を掴んで睨みつける。

その頃、伝六は、「萬燈屋」の奥を単独で探っていたが、女たちが幽閉されている部屋を覗いた後、無人の部屋の中に入った所、いきなり畳がどんでん返しになっており、地下室に墜落してしまう。

部屋の中には、薩摩に送ると思しき盗品の数々が置かれていたので、右門の旦那に知らせたいな~と伝六は悔しがる。

誰もいない店先で、横になっていた片目狼に、あんた、いつまでここにいるつもりさ…などと言いながら側に寄ったお吉は、悪戯するように片目狼の眼帯を外す。

すると、片目狼の右目は確かに傷が付いており、見えないようだった。

その眼帯をふざけて自分で付けようとしたお吉から取り返した片目狼は、ぼつぼつ出かけようかな…とつぶやくと、酔った勢いで甘えかかっていたお吉の手を振り払って店を後にする。

そこにやって来たお春は、姉さん、じれったいね!と、お吉がなかなか片目狼を口説き落とせない事に同情する。

お吉は、ふて腐れたのか、店の床に寝っころがって見せる。

その後、海津代官所の庭先で、何やら帳面に書込んでいた近藤右門(嵐寛寿郎)に近づいて来た石子は、何か手掛かりはありましたか?と声をかけるが、思うに任せませぬ…と右門は答えるだけだった。

その頃、「萬燈屋」の酌婦お米は、川縁で待っていた山形省吾と落ち合っていた。

2人で店を逃げ出すつもりだったのだ。

しかし、山形は、奴等の秘密を知っているので、逃げたらお米さんまで奴等に追われる…と案ずる。

そこに人影が近づいて来たので、お米は急ぎましょうと急かす。

一方、「萬燈屋」の奥の部屋の落とし穴にいた伝六は、そこにあった兜などを手に、のんきに遊んでいたが、その時、天井の落とし口が開き、「伝六は確かに預かった 右門」と書かれた紙を差し出して来たものがいた。

板場の安爺だった。

そんな「萬燈屋」に、1人の男が魚を一匹持って来る。

その魚は、何人かの男たちに次々に手渡され、奥の隠し部屋に持ち込まれる。

秘密部屋にいた一発屋は、その魚の腹に仕込んであった手紙を抜き取ると、石子は油断が出来ぬ。右門もいつ来るか分からぬ…と書かれた内容を読んでみせる。

それを聞いた鶴舞は、みんな右門の恐ろしさに取り憑かれておるぞと注意する。

御簾の奥には、首領らしき人物の影が座って聞いていた。

一発屋は、右門が来る前に、骨董の「松風」と雪姫をさらって来たいと、今後の計画をその部屋にいた仲間たちに打ち明ける。

その雪姫(深川清美)は、そのような企みが進行しているとはつゆ知らず、別荘の庵で琴を弾いていた。

その庵の塀の外に潜んでいたのは片目狼だった。

その時、どこからともなく、うぐいすの鳴き声が聞こえて来たので、姫は喜ぶ。

側に控えていた爺は、姫の琴の音に惹かれたのでございましょうなどと世辞を言い、腰元汐路(伊達里子)が、そのうぐいすを見つけようと庭先へ出てみるが、そこにいたのは片目狼だったので驚く。

醜いうぐいすで気の毒だぜ…などと笑いながら、庵の雪姫に近づいた片目狼は、無礼者!と制する爺やを無視し、姫の着物を勝手に掴んでみせ、無礼者が花の色香に迷うて来たなどとうそぶく。

姫、又来るぜ!と立ち去りかけた片目狼は、門番2人が棒を持って打って来たので、難なく交わすと、花の蜜を心行くまで吸いたくなった…などと言い残し、平然と立ち去って行く。

その頃、お米と共に、小舟に乗り込んで逃げようとしていた山形は、駆けつけて来た浪人たちに取り囲まれ、裏切り者として背中を斬られていた。

瀕死の状態で、何とかその場を逃げ延びた山形は、塀の所で倒れかけた所を、偶然通りかかった石子に助けられる。

一方、捕まって「萬燈屋」に連れ戻されたお米の方は、お春に、お前さんも、この仲間に入りな…と嘲られ、幽閉された女たちが閉じ込められていた部屋に閉じ込められる。

力を落として崩れ込んだお米は、省さん…と、生き別れた山形の身を案じる。

板場では安爺が、可哀想なお米ちゃん…、助けることは出来なかったのかね…と同情していた。

その頃、1人でいた片目狼に寄り添っていたお吉は、お前さん、好きな女が出来たら、いつまでもここにいるって言ってたわね?と話しかけていた。

お前は?と片目狼が聞くと、私に惚れたら、一生苦労を背負い込むよと言うので、俺が背負ってやると片目狼は答える。

その夜、店の中では、伝六が大勢の客たちの前で、今日は、大金持ちの紀の国屋金左衛門(榎本健一)様が大盤振る舞いをしてくださると紹介し、その紀の国屋金左衛門が、大太鼓の台の上に上ると、自ら歌を歌い出し、客たちは大喜びし出す。

1曲歌い終わった金左衛門は、客たちの中に紛れ込み、今度は樽の上に登ってさらに歌い始めたので、客たちは乗って来る。

海津代官所の座敷では、布団の中で寝たまま意識が戻らぬ山形を、石子が付き添って様子を観ていた。

そこに、卍組が押し込みに入ったとの知らせが届く。

賊に押し入った卍組の中には、片目狼も加わっていた。

石子たちは直ちに馬で現場に駆けつけるが、馬に乗り慣れないあばたの敬四郎は、途中で馬からずり落ちてしまう。

片目狼は、箱に入った「松風」の壺を自ら掴んで持ち出すが、そこに、役人だ!引き上げろ!と声がしたので、他の仲間と共に、馬に乗って逃亡を計る。

しかし、その途中、お頭が欲しがっていた土産だと言いながら、自分が抱えていた「松風」の箱を、隣で走っていた馬の仲間に渡した片目狼は、もう一つ盗って来ると言い残し、屋敷の方へと引き返して行く。

襲撃された屋敷では、斬られて倒れていた侍が、駆けつけて来た石子たち役人の姿を観ると、卍組は引き上げましたと報告する。

その頃、馬から落ちて足をくじいていた敬四郎は、付いてきた松から、乗り馴れないものに乗るから…などとバカにされていたが、医者に行くんだ!と怒鳴り返す。

その頃、逃亡していた卍組の前に、模様を染め抜いた覆面姿の男の馬が立ちふさがる。

何者だ!と卍組が誰何すると、貴公等がお待ちかねの近藤右門!天に代わって、この道は通さぬ!右門の正義の刃を受けてみよ!と覆面の男は答える。

「松風」の箱を持っていた男は、逆方向に逃げ出すが、それを追って行った右門は、途中で追いつき、男を斬り捨てながら、箱を奪還すると屋敷の方へ駈けて行く。

一方、海津代官所でまだ眠っていた山形に近づき、斬ろうとしていたのは、元代官の配下のものだった。

そこに密かに入って来たのが片目狼で、刀を振りかぶっていた男の左手を背後から握りしめ、その手を調べると、卍の刺青が入っていた。

代官所から一発屋たちに魚の中に密書を入れ、内通していたのはこの男だったのだ。

片目狼は、その内通者の曲げを斬り落とすと、俺が代官所に挨拶に来たと言っておけと言い残し去って行く。

「萬燈屋」では、一発屋が、右門に「松風」を奪い返され戻って来た黒松たちを叱りつけていたが、そこに戻って来た片目狼は、土産だと言いながら、「海津代官所」の看板を床に放り投げる。

それを観た一発屋は、大した度胸だ!この一発屋、惚れ込んだ!と、又も片目狼の仕事振りに感心するが、当の片目狼は、くだらないとでも言うように、つばを吐き出すだけだった。

お吉も片目狼に惚れ込んだのか、板場に来ると、自ら樽酒を升に入れ、片目狼に、飲んでおくれよと勧める。

それを受け取った片目狼が旨そうに呑み出すと、あたしゃ、得体の知れないお前さんだから、惚れちゃいけないと思っているんで苦しいよ…、その腕に抱かれたい…と、胸の内を告白し出す。

俺に惚れると、苦労が一生付いて来るぞと片目狼が冗談で返すと、その片目狼の持っていた升を取り上げ、お吉も酒を飲み出し、だから、諦めようか、諦めまいか…迷っているんだと言うので、良し!お吉、付いて来い!と片目狼は呼びかける。

「萬燈屋」の店内は、その日も満員の大盛況だったが、大太鼓の台にお吉を連れて登った片目狼は、お吉、叩け!そうすれば胸のモヤモヤも晴れるぞと言いながらバチを手渡す。

すると、お吉も、良し!叩くわよ!と答え、叩き出そうとするが、そこに駆け込んで来た三吉が、大変だ!右門が江戸を発ったと知らせて来た!とみんなに知らせる。

その後、代官所の庭先にいた右門に近づいて来た石子は、貴殿には申し訳ないが、伝六の行方が知れぬと伝え、何とか連中を一網打尽にしたいと考えを述べる。

そんな代官屋敷の中の様子をうかがっていた三吉は、役人たちが駆けつける前に逃げ去る。

伝六は「萬燈屋」の板場の安爺に匿われていたが、そんな安爺の元に、魚を持った子供が届けに来る。

安爺が、仲間を呼びにちょっと離れた隙に、伝六は、二匹置いてあった魚の1匹をそっと取り上げると、何食わぬ顔で、戻って来た安爺に、今度、江戸から右門って奴が来るんだってなと話しかける。

所で、江戸で一番の捕物上手と言えば誰だと思う?と伝六から聞かれた安爺は、一番は松平伊豆守!と即答したので、二番は?と伝六が聞くと、大岡越前だと言う。

三番は佐々木蔵之介で、四番は遠山金四郎、五番は柳家金語楼などと安爺が言うものだから、焦れた伝六が、肝心の名前を忘れてやしませんか!今、江戸で売り出し中の近藤右門さ!と教えると、そうそう、右門!と安爺が思い出したので、神田の生まれだってな!と伝六は褒める。

そこに、いつの間にか一発屋が鶴舞と共に近づいて来たので、そっと立上がった伝六は、今、取り上げた魚を持って店を出て行こうとする。

店の外にいた松が、店の中に変わりに入り込もうとしていたが、こら!どこに行く?叩き斬るぞ!と片目狼が怒鳴りながら帰って来たので、松は逃げ出し、伝六は驚いて店の中に戻ってしまう。

板場では、黒松が安爺に、もう一匹魚がここにあったはずだが?と問いつめていた。

安爺は、知らないと答えていたが、そこに、魚?これと違うか?と言いながら、魚を持った片目狼がやって来る。

その魚を観た鶴舞は、黒松さん、これです!と魚のはらわた部分を確認するが、ない!と驚く。

黒松は、貴様、中の手紙を盗んだな!と安爺に詰めよる。

すると、それなら俺が取ったんだ!俺は天下のおしゃべり伝六様だ!と言いながら、安爺をかばおうと姿を現したので、その場で浪人たちに取り押さえられる。

その後、秘密の部屋に集まった仲間たちに一本松は、雪姫には護衛がいると思うので、こちらも大勢で行く方が良いと思うのだが、それでは目だってしまうと相談する。

すると、寝そべって聞いていた片目狼が、他に行く奴がいないなら、俺が行っても良いぜと一本松に答える。

お前ならヘマはやるまいと思うが…と一本松が返事を迷うので、俺1人じゃ危ねえと思っているのか?と片目狼は酒を飲みながら問いかける。

じゃあ、頼むか…と一発屋は決心する。

庵の中でうたた寝をしていた雪姫は、急に目を覚ますと、側に控えていた汐路に、あっ!うぐいすが!汐路!今、恐ろしい夢を見たと打ち明ける。

そんな雪姫をなだめた汐路が部屋を後にすると、1人になった雪姫の背後の屏風の影から片目狼が現れる。

庵の警護のため、玄関付近で控えていた松は片目狼の真似などしていたが、そこに気を失った雪姫を方に抱えた片目狼が出て来たので、あばたの敬四郎たちは追いかけて来る。

しかし、片目狼が、叩き斬るぞ!と言いながら刀に手をかけたので、何も出来ずに見送るしか出来なかった。

その夜、「萬燈屋」では、紀の国屋金左衛門が又、大太鼓の台に登り、歌を披露していた。

歌い終わると、安爺が持ってきた三宝に積まれた小判を店の中に撒き出す。

客たちが喜んで、その小判に群がり始めた時、御用だ!と言いながら、役人たちが店の中になだれ込んで来る。

二階から降りて来た一発屋は、仲間たちを呼ぶが、卍組の浪人たちは、浪人部屋で飲んで騒いでいた。

ようやく、一発屋の呼び声に気づいた浪人たちは一斉に部屋を出て店に向かうが、腕枕で横になっていた片目狼だけは、関心がないと言う風に起き上がろうともしなかった。

石子は一発屋に、片目狼がここにいるはずだと聞くと、狼ならここにいるぜ…と言いながら、片目狼本人が姿を現す。

先日代官部屋に乱入、さらに浦江寮から雪姫をさらったそうだが、神妙に縛につけ!と石子が追求すると、行くよ、犯人と決まった訳でもあるまいし…と答えた片目狼は、あっさり石子たちに付いて行く事にする。

そんな片目狼に、お吉が、お前さん!帰って!きっと帰って!と呼びかけながら追いすがって来る。

役人たちが店を出て行くと、お吉は、その場にいた客や浪人たちに、みんな帰って!と喚き出したので、一発屋が叱りつける。

板場では、「子分伝六は、確かに受け取り申した 右門」と言う文字を、安爺が紙に書いていた。

役人と一緒に店を出た片目狼は、突然刀を抜き逃げ出したので、役人たちは慌てて追いかけてるが、店からずっと後を付けていた三吉が、その様子を見て、店に報告に戻る。

その後、海津の港に、薩摩から船が数隻到着する。

「萬燈屋」にいた一発屋は、浪人たちを働かせ、盗品をまとめて船に運ばせ、酌婦たちには炊き出しを命じていた

さらに一発屋は鶴舞に、伝六の始末を頼む。

そこにふらりと帰って来た片目狼は、いつの間にここに!と驚く一発屋に、役人を斬って来たと言いながら、紙で鼻をかもうとするが、二階の方に目をやり、何だ?あれは…と声を出す。

そこには「今夜参上する。太鼓を五つ打て 太鼓を合図に右門参上」と書かれた紙が貼られていた。

それを観た一発屋は。みんな用意しろ!と仲間たちを働かせ、自分も二階に戻って行ったので、店には片目狼だけが残る。

太鼓を合図に右門参上か…と片目狼がつぶやいていると、お吉が近づいて来る。

ね?あんたも一緒に薩摩に行こうよとお吉は誘って来るが、今夜、右門が来るんだぜと片目狼は答える。

あたしは足を洗っても良いのさとお吉は言うが、あの恐いおじさんたちが一緒ではな…と片目狼は苦笑するだけだった。

その時、一発屋がお吉を呼び寄せたので、お吉は思わず片目狼にすがりつこうとするが、片目狼はその手を振り払うのだった。

板場に匿われていた伝六は、父っつぁん!と安爺に感謝していた。

板場にいれば見つかりやしない。下手な字で、右門様がお笑いになるかもしれねえが…と安爺は照れる。

実は、江戸の石子に「萬燈屋」の悪事を密告し、度々伝六たちを影ながら助けていたのは安爺だったのだ。

かどわかされ、大部屋に幽閉されていた女たちは、嫌な晩だね…と、自分たちの運命を察して怯えていたが、その中に紛れていたお米も絶望したかのように落ち込んでいた。

その夜、店に集まった卍組の連中を前に、太鼓は誰が打つ?と一発屋が聞いていた。

俺が打つ!と名乗り出たのは片目狼だった。

大太鼓の台に登った片目狼の様子を、一発屋と、その背後に立ったおこそ頭巾の首領も見守っていた。

卍組の浪人たちも、めったに観る機会がない覆面姿の首領を前に緊張していた。

良いか?打つぞ!と呼びかけた片目狼は、一つ!二つ!と声を出しながら太鼓を打ち始める。

五つ!と打ち終えた時、来んではないか…、野郎、臆病風に吹かれたな?…と一発屋は拍子抜けしたように嘲る。

すると片目狼は、バカを言え、右門はちゃんと来ておるではないかと言い出したので、一発屋は不思議そうに、どこに?と聞き返す。

目の前に!むっつり右門、五つの太鼓を合図に参っておるぞ!と言いながら、眼帯を外した片目狼は、怪我の痕もないきれいな顔だった。

徒党を組んで治安を乱す悪党共を退治してやる!バカめ!石子殿の配下が水も漏らさぬように店を取り囲んでおるわ!と右門が言うと、覆面姿の首領がさっと店の奥へ逃げて行く。

捕手たちが店の中に乱入して来る中、首領を追いかける右門。

裏庭に逃げる首領を追っていた右門は、斬り掛かって来る用心棒たちを次々に斬り捨てて行く。

その間、伝六は、女たちが幽閉されていた部屋の扉を開け、右門様が助けてくださる!と呼びかけ、女たちを逃がしていた。

そんな中、逃げる気力も失ったのか、動こうとしないお米の側にやって来たのは怪我が癒えた山形だった。

声をかけられ、山形に気づいたお米は、省さん!と喜ぶ。

首領に追いついた右門は、神妙に覆面を取れ!と呼びかけるが、覆面の首領は短筒を取り出し発砲する。

しかし、その弾は、右門の背後に近づいていた一発屋に命中したので、外したな…と右門は嘲る。

その場で覆面を取ってみせた首領の正体はお吉だった。

お吉!と右門は驚くが、覚悟は良いか?と詰めよろうとすると、狙いは確かだよ…とお吉が言うので、俺を狙ったんじゃないのか?と右門は意外そうに聞く。

その時、お吉はさらに奥の秘密部屋に逃げ込む。

右門もその部屋に飛び込むが、お吉の姿はなく、壁にかかった掛け軸が揺れていたので、その背後に逃げ道があると悟り、どんでん返しの壁を押して、さらに奥へ進む。

地下室にやって来たお吉は、そこにお春に見張られ幽閉されていた雪姫に懐剣を振り上げると、そなたの父に弄ばれ、死んだ姉の仇!又、死んだ二親の恨みも晴れしてやる!と言いながら刺し殺そうとする。

そこへ駆けつけた右門は、お吉!諦めろ!と制する。

その声で一瞬躊躇したお吉だったが、お春の方を刺し殺すと、さらへ奥に逃げ去ってしまう。

右門は、その後を追い、奥の秘密部屋に飛び込もうとするが、中に火を点けたのか、煙が充満していたので、やむなく外に出て来る。

そこにやって来た石子に右門は、右門、一生の不覚で取り逃がしましたが、首領は潔く自決しました…と報告する。

その後、みんなが立ち去った「萬燈屋」の店の中にやって来た右門は、1人大太鼓の台の上に上ると、バチを取り上げ、静かに太鼓を叩いてみる。

お吉の歌が聞こえたような気がしたが、バチを置いて下に降りた右門は、黙って笠をかぶえい、店を後にする。

松越しの波打ち際

終の文字


 

 

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