白夜館

 

 

 

幻想館

 

13号待避線より その護送車を狙え

 

鈴木清順監督作品だが、当時の人気作家の原作である事や脚本の関沢新一の力もあってか、テンポの良い通俗娯楽ミステリになっている。

ただし、飽きずに最後まで引っ張られる展開なのだが、事件の真相は良くわからない部分が多い。

一番分からないのは、謎の黒幕の正体が分かった所で、何故、その黒幕は変名を使っていたのかと言う最大の謎が残る事だろう。

意外な人物と言う事で、薄々途中辺りからその人物の察しは付くのだが、正体を隠している理由が今ひとつ飲み込みにくい。

さらに、途中のストリッパー殺害事件の真相なども良くわからないまま。

悪く言えば、勢いだけで見せているが、謎解きとしては不完全なままと言った印象が残る。

さらに、この作品のもう一つの謎は、何故、どう見ても悪役顔の水島道太郎さんが主役なのかと言う事もある。

時折、ネット上などで、アイドルやスターなどに頼るのではなく、あまり有名ではなくても役柄にあった役者で映画を撮れば良いじゃないかと言う声を見かけたりするが、正にこの作品などがその良い例で、ひょっとしたら、若き鈴木清順監督も同じような発想からこのキャスティングをしたのではないかと想像したりしたくなる。

水島道太郎さんは、いわゆるスタータイプの人ではないが、ハードボイルドタッチのこの作品の主役が似合ってない訳ではない。

とは言え、この映画、どう見ても華がないのだ。

渡辺美佐子さんとの関係も、どうもロマンチックな雰囲気がない。

作品全体の出来も悪くないのに、記憶には残りにくいような気がする。

やはり、スターやアイドルを主役に起用すると言うのは、それなりの理由があるのだと、この作品などを見ると思い知らされる。

安部徹、内田良平、小沢昭一、白木マリと言った常連たちが、当時のパターン通りのキャラクターで登場しているのも楽しい。
▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼
1960年、日活、島田一男原作、関沢新一脚色、鈴木清順監督作品。

夜の引き込み線 カービン銃を取り出した男がスコープで狙いをつける。

スコープの中に「事故」「多発」「地点」「危険」と書かれた4つの看板が見える。

タイトル

夜の町を走る護送車 その中で護送されていた小峰竜太(上野山功一)が隣に座っていた辰馬冬吉(岩崎重野)に余計な軽口を叩いたので、刑務官として随行していた多門大二郎(水島道太郎)が注意する。

同じく護送されていた香島五郎(小沢昭一)は、曇った窓ガラスに指で「アキ アキ」と書いていたが、その時、刑務所の塀の横に立って護送車の方を見ていた女に気づく。

どうやら、明日出所予定の五郎の保釈金を出してくれたと言う女らしかったので、先生には色々世話になって…と礼を言って来た五郎に、そんな事より、二度と来るような事をするなよと多門は言い聞かす。

一方、カービン銃の狙いを定めていた狙撃手の側に別の男が突然近づき、格闘の末、カービン銃を奪いとる。

護送車が「事故」「多発」「地点」「危険」と書かれた4つの看板の箇所に差し掛かった時、T字路の坂道上に停めてあったトラックのタイヤ止め用の石を蹴った男がいた。

トラックは荷台の方から坂道を滑り落ち、走り抜けようとしていた護送車の横っ腹に追突する。

護送車は停まり、次の瞬間、カービン銃が狙い撃って来たので、多門は思わず囚人たちに、伏せろ!と叫ぶ。

結果、無事だった囚人は五郎ただ一人で、小峰竜太と辰馬冬吉は即死、多門は護送の責任者として停職六ヶ月の懲罰を受ける事になる。

アパートの部屋で好きな拳銃の玩具をいじっていた多門のところにやって来た管理人のおばさん(山本かほる)は、それにしても六ヶ月の停職なんてね~と多門に同情するが、六ヶ月の休養をもらったと思えば良いんですよ。そいつも六ヶ月の停職なんでよろしくお願いしますと、多門は刑務官の制服のクリーニングを頼む。

刑務官に犯人を捜す権限はない。しかし俺はやるぞ!と多門は心に決めていた。

最初似たもんが向かったのは五郎のアパートだった。 しかし応対に出て来た内儀(初井言栄)は、五郎さん?今いないよ、部屋代払わないのよ。お金払わないんだったら、出て行ってと言っといてと、逆に五郎を探している多門に頼むので、五郎が行きそうな場所を知りませんか?と聞くと、関西料理「鴨川」と言う店を紹介してもらう。

しかし、女将のお千(新井麗子)は、昔、ここに五郎ちゃんの恋人が働いていたからね~…、でも最近は最近来へんのよなどと言ってごまかそうとするので、女将さん、どさ回りの役者だってもっと巧い嘘をつくよ、これは五郎が書いたんだろう?と言いながら、カウンターに追いてあった紙片を見せる。 そこには「アキ アキ アキ」と何度も書きなぐってあった。

しかしお千は、いてへんのや…と言いながらも、玄関先に人影が見えたので、どなたどす?と声を掛けるが、ガラス戸の向こうの人影はさっといなくなる。 一本付けてくれないか?と多門が注文していた時、先生?と言いながら奥から出て来たのは五郎だった。

この人は良いんだよと女将に教えた五郎が「Uターン禁止」の絵が入ったバッグを持っているので、出かけるのか?と多門が聞くと、先生にはお気の毒な事になっちゃって…と五郎は、多門が停職になった事を同情する。

お前があの時見た奴を教えて欲しい。「アキ」って何だ?と多門は聞くが、それはこの頃、癖になっちゃってるイタズラ書きですよ…、ちょっとチャンスなんで…と言葉を濁した五郎は、でもなんで先生が犯人追ってるんです?と聞くので、そのバッグと同じで、Uターン禁止、前へ進む!ただそれだけだと多門もごまかし、表はヤバいから裏から行けと五郎に忠告する。

その後、店を出た多門は、外で待ち受けていた2人の男に拉致される。

連れて行かれたのは、多門を知る高村部長刑事(松下達夫)がいる警察だった。

張り込んでいた山岡刑事(花村典克)ら2人は、多門を五郎の仲間と勘違いしていたらしく、尋問に何も応えなかった多門が刑務所の刑務官だと知ると、もっと素直になれと言ってくださいと高村に頼む。

高村さん、俺を張っていたのか?と聞くと、銃はどうした?刑務官一の腕前だからねと高村部長刑事が言うので、ハジキは返納したよと応えた多門は、殺された2人は単なるチンピラだったのでと聞き、それで五郎に目をつけたんですねと納得する。

すぐに保釈された多門は、殺された2人の内の1人小峰竜太には姉がいたはずだ…、こいつを当たってみようと思い出す。

姉は三条マリ(久木登紀子)と言うストリッパーだったので小屋を訪ねてみるが、支配人(野呂圭介)は、壁に貼ってあったマリの宣伝写真を見せながら昨日辞めたと言う。

その写真を眺めていた多門は、事件当夜、塀の前で護送車を見ていた五郎の女を発見する。 聞けば安藤津奈子(白木マリ)と言うストリッパーで、マリと一緒に辞め、金になりそうな新しい仕事をしに行ったらしいと言う。

それは、お座敷ストリップなのだと言う。

その頃、その安藤津奈子は五郎と熱海の海岸縁で会っていた。

うんと金になる当てがある。明日の8時に秋葉と言う旦那と会うんだと自慢げに話していた五郎だったが、突然足を滑らせて道路に転がり落ちる。

そこに近づいた乗用車が危うく五郎を轢きそうになるが、乗っていた久慈(内田良平)と湯畑 (長弘)は、にやりと笑っただけで走り去って行く。

その頃、多門は、ストリッパーの支配人から聞いた熱海の「河鹿館」と言う旅館に泊まっていた。

部屋に番頭(青木富夫)が、東芝の「うぐいすA8」と言うラジオを持ち込んで来てスイッチを入れたので、そんなものより面白いところはないかい?とカマをかけてみる。

近頃は、しゃもじを持ったおばさんたちがうるさくて…とごまかしながら番頭が帰ろうとしたので、そのネクタイを裏返すと、ヌードの絵が描いてあったので、これは何だい?と多門は言いながら金をつかませる。

番頭は、元浅草で踊っていたと言う二人なんですが、ロハで覗くんで大きな声を出さないでくださいなどと言いながら、多門をとある一室の前に案内してくると、そっと障子を開けて中を覗き込もうとする。

すると、突然、裸の女が番頭に倒れ掛かってくる。 見ると、裸の胸に矢が突き刺さっているではないか。

お座敷ストリップをやっていた部屋の障子窓を破って、外から飛んで来た矢らしかった。

もう一人のストリッパー津奈子はパニックになり廊下にいた多門に抱きついてくるし、客の中には久慈と湯畑もいた。

多門は腰を抜かしていた番頭を捕まえ、あの女たちはどこから雇ったんだ?と聞くと、浜十組だと言う。

浜十興行の事務所では、赤堀(安部徹)が女集めに失敗したと帰って来た太田(弘松三郎)を殴りつけ、期日までに頭数をそろえろ!福島がダメなら山形に行け!と怒鳴りつけていた。

子分が事務所を出て行くと、一人の女が入って来て、赤堀さん、どっかで働かせてよと甘えてくる。

一口良いのがあるんだか…、ちょっと遠いぜ…、船に乗って行くんだ…、決心付いたら乗ってやっていいぜ…などと新聞を広げながら赤堀は言うが、その新聞をいきなり取り上げて、親分に会わせろと言って来たのは多門だった。

思わぬ闖入者の出現に怒った赤堀が、机の引き出しから拳銃を取り出そうとすると、素早く机を押した反動でその銃を奪った多門は、おとなしく親分に会わせてくれと赤堀に銃を向けながら聞く。

「三晃館」と言う旅館に親分がいると聞きやって来た多門だったが、庭先で、宿泊客らしき久慈と湯畑の前で、見事な洋弓の腕前を披露していたのは女性だった。

やがて、多門の前に現れた親分とは、今、外で洋弓の練習をしていた浜島優子(渡辺美佐子)だったので、多門は驚く。

父はあいにく身体を悪くして、東京で入院していますと優子は説明する。

女がストリッパーで稼いでいるのか?と多門が皮肉を言うと、私は彼女たちは商品と思っていますと優子は答える。

殺されたマリの事を教えて欲しい。それから、障子越しに矢を射る方法も…と多門が聞くと、あなた推理小説がお好きなの?カー、クイーン、アイリッシュなんかの作品に、もっと気の利いたトリックがあったと思いますけど…と優子は切り返してくる。

五郎って男が世話になっているはずなんですが?と聞くと、事務所に聞いてみましょうと優子は言う。

その後、風呂に入った多門は、この間は大変でしたな、私たちはセールスマンです…と、殺害現場であった久慈と湯畑が声をかけて来たので無視する。

優子の部屋にやって来た赤堀は、津奈子は一応調べは付いたようで保釈されましたと報告すると、お嬢さん、最近、寄せ場役人に親切ですねと多門と会った事を皮肉ってくる。

それに対し優子の方は、赤堀さん、父さんいない間に好き勝手な事やっているようね。

あんたがやっている事がだんだん分かって来たわ、浜十組は私のものよ!あんたの好きにさせないわ!と釘を刺す。

しかし赤堀はポケット瓶の酒をグラスに注ぐと、飲みませんか?などと馴れ馴れしく優子に抱きつこうとする。

その後、警察署から保釈された安藤津奈子を出迎えた多門は、五郎は?と聞く。

湯河原の和泉屋ですと津奈子が言うので、アキって知ってるか?と聞くと、秋葉じゃないですか?秋葉の旦那に会いに行くと言ってましたと津奈子は答える。

そいつだ!と多門は気づくが、その時、通りかかった車の運転席から顔をのぞかせたのが優子だと知ると、津奈子をちょっと借りますよ!と声をかける。

湯河原でしょう?津奈ちゃん、夜のハイウェイも良い感じよ、ゆっくり眺めて行くと良いでしょうなどと優子も声を返してくる。

その後、タクシーで湯河原に向かう事にした多門と津奈子だったが、途中、争っている二人の男の姿が道路上で見え、次の瞬間、一人がもう一人の男を崖に突き落とすのが見える。

車を停め、男が落ちた場所に来ると、「ユーターン禁止」の絵が描かれたバッグが落ちていたので、それを見た津奈子は、五郎さんだわ!と叫ぶ。

突き落とした男が逃げていたので、多門は後を追おうとするが、狙撃されたので、走り出したタクシーの後ろに捕まり、引きずられる形で後を追う。

途中のトンネル内で振り落とされた多門だったが、向かい車線を来た車から降りて、多門さんじゃないですかと言いながら近づいて来たのは赤堀だった。

その後、多門と津奈子は列車で東京へ向かう事にするが、五郎が墜落したと思しき場所から、バッグの他に靴が片方だけ残ってたと多門は教え、落ち着く先は、新宿の「鴨川」か?と津奈子に確認すると、ええ…と津奈子は答える。

そんな列車を、優子が乗った車が並走する。 同じく東京へ向かうバスには、赤堀や久慈たちが乗り込んでいた。

彼らも高架線の上を走る列車の事を気にして、窓からずっと見上げていた。

あの晩、辰馬冬吉と小峰竜太を狙った奴を五郎は知っており、アキと言う人物を強請ろうとして逆に殺された。

三条マリ殺害も関係ありそうだ…と、東京に戻り、警察署の高村部長刑事に会った多門は、自分がこれまでにつかんだ情報を元に推理を聞かせていた。

秋葉と言う人物が鍵を握っているようだが…と高村部長刑事も考えていたが、そこにやって来た刑事が、秋葉と言う名前からそれらしい人物や会社名は浮かび上がって来なかったと報告する。

洋弓同好会に浜島優子と言う名前があったと聞いた多門は帰ろうとするが、おい、素人の火遊びは怪我の元だよと高村部長刑事が釘を刺してくる。

その後、多門は、冬吉の女を探しに、冬吉が住んでいた下宿へ向かう。

下宿へやって来た多門に応対した主婦(福田トヨ)は、おや?またですか?刑事さんでしょう?と言う。 ちょっと前に同じように冬吉を訪ねて来た刑事が二人いて、その一人は多門大二郎と名乗っていたと言うではないか。

冬吉の友達の昭子ちゃんなら知っているかも…と言い出したおばさんは、近く遠いところに新しい勤め先が見つかったらしいと言い、家も清々しますよなどと言いながら、あそこにいますよ!と背後の墓地の方を指差す。

墓場の側で、じっと多門の方を見ていた娘は、浜十興行の事務所で赤堀に甘えかかっていた昭子(夏今日子)だった。

そんな昭子に多門は近づこうとするが、いち早く昭子は逃げ出す。 墓場を探しまわっていた多門は、眼鏡をかけた見知らぬ男とすれ違う。

その後、「鴨川」に来ると、あっさり振られたんでしょう?口説くのに自分の下宿なんて誘うから…などと女将のお千が妙なことを言うので、訳を聞いてみると、先ほど、友達から頼まれたと言う人物が津奈子に電話をかけて来たので、出かけて行ったのだと言う。

気になった多門は、すぐに自分の下宿に帰る事にする。 下宿のおばさんに、女の人来てるかい?と訪ねると、部屋で待っていると言うので上がってみると、そこにいたのは津奈子ではなく、優子だった。

優子は、多門の玩具の拳銃を持っており、普段はこんなもので遊んでらっしゃるの?とからかいながらも、女はこんな生活に興味があるのなどと言い、病院の父を見舞いに来ましたのと、上京した理由を打ち明ける。

お芝居にお誘いしようと思ったんだけど、あなたは私の住む世界とは違うのねと言いチケットを出したので、お聞きしたい事があるんですが…と多門が返事をすると、ご興味がおありでしたら…と言い、チケットを押し付けた優子はさっさと帰って行ってしまう。

その後、多門は、優子はなぜ来たんだろう?昭子はなぜ俺を避けたんだろう?と自問する。

そこへ、おばさんがお茶を持って来て、あらもう帰っちゃったの?と驚くので、おばさん、女の人がもう一人来ませんでしたか?と多門は確認するが、おばさんは、え?もう一人?と驚いただけだった。

とある駅前で多門を待っていた津奈子は、そこにやって来たのが五郎だったので驚く。

秋葉の旦那に殺されたんじゃ?と津奈子が聞くと、実は仕事を手伝う事になったんだ。それで、お前は御殿場で待っててくれないかと五郎は頼む。

病院に入院中の父親の浜島十兵衛(芦田伸介)を見舞った優子は、赤堀がたびたび来るんですって?と聞くと、赤堀は子飼いのものだ、心配はいらん。大学出は困るな。

多門とか言う医務官と親しくしているそうだね?と十兵衛から聞かれたので、失礼だわと憤慨するが、組内の始末は組内でする。これが同業の掟だ。お父さんは前の事が心配だ。お前がこの先困らないだけの事はしてやりたいと言うので、逆にお小遣いよと言って優子が用意して来た金を渡すと、もういらなくなったのと言いながら、多門と行くはずだった芝居のチケットの自分の分を取り出し、その場で破り捨てる。

翌日も、多門は新宿の町を歩き回っていた。

その時、店の外に出したジュークボックスの前でたむろしているロカビリー族の娘たちの中に、昭子がいるのに気づいた多門は、昭子君だね?ちょっと聞きたい事があるんだけど…と声をかけようとするが、昭子は逃げ出し、他の娘たちは、その後を追おうとした多門を邪魔するように襲いかかってくる。

そんな通りを、墓場にいた眼鏡の男が乗った車がゆっくり様子を見るように通り過ぎて行く。

逃げ切れたと思って油断していた昭子だったが、新宿西口に先回りしていた多門に難なく捕まえられる。

昭子は、金は返したはずよ!と言いながら抵抗するので、何の事だ?と多門が困惑すると、秋葉の使いじゃなかったの?と昭子は拍子抜けしたように言い、急に抵抗をやめる。

秋葉を知ってるのか?と聞くと知らないと言う。

そんな昭子の様子を車の中から監視していた眼鏡の男正木(久松晃)が、別の車に乗って待機していた赤堀に無線で連絡し、トラックを新宿西口へ回せ!と指示する。

頼む!秋葉の事を教えてくれ!と多門が頼むと、いつもガム噛んでんだ、でも、もっと金持って来た男に乗り換えたんだと昭子は答える。

その時、先ほどのロカビリー仲間たちが車でやって来たので、昭子は勘違いだったんだ!と訳を話、その車に乗り込む。

君が乗り換えたのは誰だ?と多門が聞くと、女よ、きれいな人…などと昭子は言い立ち去って行ったので、思わず多門はポケットに入れていた優子からもらった新橋演舞場のチケットを取り出して眺める。

その時、「秋葉山丸専門」と後部に書かれたトラックが通り過ぎたので、その「秋葉」の文字に気づいた多門は急いでタクシーを広い尾行を始める。

正木は、第一の計画は失敗した、多門を誘導する。手はず整えろ!と無線で赤堀に伝える。

とあるバンガロー内では、久慈と湯畑が銃の事でもめていたが、今、仲間割れする奴があるか!と赤堀が注意する。

久慈は、現に金を狙っている奴がいるんだと言うので、五郎は文無しだ、じゃあ、誰だ?と赤堀が聞くと、優子だと久慈は答え、あんたは惚れてるから目が見えないのさと嘲ってくる。

何!と赤堀は気色ばむが、殺しは俺の役目だとうそぶいた久慈は、カービン銃を手に取る。

そこへ太田がやって来て、集めたよ、あそこは駐留軍が引き上げたので、タマが揃っているんだ!などとうそぶきながら、女の写真をテーブルにぶちまける。

その写真を見た赤堀は、今夜に間に合うと喜ぶ。

そこに、眼鏡の正木もやってくる。 久慈は銃を構えて待ち伏せするが、そこにやって来たのは多門ではなく五郎だった。

多門が尾行していた「秋葉山丸専門」と書かれたトラックは、港の引き込み線の所へやってくる。

物陰からカービン銃を構えて待ち受ける久慈と五郎。

その視界に入って来たのは多門だったので、それを知った五郎は思わず、あっ!先生!と驚く。 一方、構内を見回っていた多門は、優子の姿を見つける。

五郎は、狙撃しようとする久慈に辞めるように説得し、久慈は発砲するが弾がそれてしまう。

発砲音に気づいた優子は、構内にあった非常ベルのボタンを押す。

その音を聞いた五郎は、兄貴、やばいよ!と言うと、久慈の手を引いてその場を逃げ出す。

多門は、貨車に乗っていた男からスパナで頭を殴られ倒れる。

多門の脳裏には、優子や墓場であった眼鏡の男の姿などが駆け巡る。

秋葉!と叫んだ時、目覚めた多門は病院のベッドに寝かされており、側では優子が看病していたので、やっぱりあなたに助けられたんだ…と多門はつぶやく。

ゆっくり養生されると良いですわと優子が言うので、優子さん、あなたは何故、月出の倉庫にいたんですか?僕はどんな事があっても聞き出すつもりです。話してください!何故昭子を買ったんですか?言えないんですか!と迫る。

話を聞いたら僕は内密にしておく事が出来ません。浜十組の命取りになるかもしれません…と言う多門を残し、優子は黙って帰ってゆく。

入れ替わるように病室にやって来たのは高村部長刑事だった。 これに見覚えないか?と高村が差し出したライターを見た多門は、五郎のだ!と驚く。

君が倒れていた倉庫の中に落ちていた。五郎も秋葉の事を知っていた事になると高村が話していると、高村さん、お電話がかかってますと看護婦が知らせにくる。

病院内の公衆電話に向かった高村は、本部からの連絡を受け、ライターの指紋?彼は五郎だ!死んだんじゃない!偽装だ!と答えていた。

その後、病室に戻って来た高村は、ベッドの多門がいなくなってしまった事に気づく。

列車で熱海に向かう多門だったが、同じ車中にやって来たマスクで顔を隠した五郎は、多門の後ろ姿に気づくと、慌てて逃げ出す。

熱海に到着した多門は、「三晃館」の優子の部屋に乗り込み、あなたの知っている事を話してください。

このままだとまた犠牲が出そうなんです。あなたの良心に訴えたいんです。協力してくれませんか?秋葉に会わせてくれませんか?ダメですか!と迫る。

それでも優子が何も言いそうにないので、あなたは冷たい人間だ。ストリッパーを殺し、五郎を殺す偽装をし、私まで殺そうとした!となおも責める多門に、誤解です!私は、浜十で働いている女です。私には、組の問題は組が解決する掟があります!と優子は話し始める。

赤堀です、赤堀が秋葉に組を売ろうとしたのです。夕べは秋葉に会いに行ったのです。あなたに相談したかったけど、でも、あなたを引き込みたくはなかった。あなたがいては殺される。身を引いてもらいたかったのです…と、切々と優子は訴える。

そんな多門と優子の会話を、部屋のカーテンの陰に忍び込んだ銃を持った男も聞いていた。

いつしか抱き合った多門と優子だったが、昭子を助けたのは、浜十から守るためだったのです…と優子は続ける。

私の母もそうでした…、カラユキさんって知っているでしょう?私は南方で母が相手をさせられた誰の子かも分からない女なんですと優子は告白する。

その時、お楽しみの所お邪魔してすみませんね…と笑いながら、銃を構えた赤堀が姿を現す。

キスくらいなら大目に見ても良いぜ、秋葉の旦那から色よい返事があれば、すぐに楽にしてやるから、後ろを向くんだ!と赤堀は多門と優子に命じる。

その言葉に従う振りをした多門は、いきなり赤堀に体当たりし、格闘の末、ピアノの鍵盤蓋の部分で赤堀の右手を押さえつける。

秋葉は誰だ!女たちはどこにいる?と多門が聞くと、赤堀は痛そうに、御殿場だ…と答えたので、案内しろ!と、拳銃を奪い取った多門はそれを赤堀に突きつける。

その時、部屋の電話が鳴りだす。

その電話は、御殿場駅前にいた湯畑だったが、誰も出ないので、タンクローリーの側にいた久慈の所へ戻ってくる。

その頃、御殿場のとある山荘の中では、就職祝いと称した若い娘たちを集めたパーティをやっていた。

そんな店内の片隅に五郎と座っていた津奈子は、あんたが手伝っている仕事って、人身売買じゃないの?と探りを入れていた。

湯河原であんた死んだ振りさせたの、秋葉の仕業でしょう?と迫る津奈子に、俺は金が欲しいんだよと五郎は悪びれた風もなく答える。

そんな五郎の所へやって来た太田が、五郎!あのスケたちに、この睡眠薬を飲ませるんだと小声で指示してくる。

丸善石油のタンクローリーの運転席では、カービン銃を持った久慈が待ち構えていた。 そこにやって来た多門と優子は久慈に捕まってしまう。

一方、山荘には、正木に連れられた秋葉らしき男がやって来たので、出迎えた五郎がへりくだって挨拶する。 捕まった多門と優子は、タンクローリーの運転席に縛られて乗せられる。

外に立っていた赤堀は、鉄砲で一思いに死ぬのも良いが、2人でゆっくり死ぬってのもオツなもんだぜ…とあざ笑う。

タンクローリーの背後の注入口の蓋を開け、久慈がタンクのガソリンを放出すると、赤堀は、ユーこのバッグを悔し紛れに運転席に投げ込み、湯畑が、運転席を操作してタンクローリーを動かす。

ハンドルに手を縛り付けられた多門はどうする事も出来ず、ガソリンを垂れ流しながらタンクローリーは前進して行く。

久慈が、布切れを取り出した赤堀にマッチを手渡すと、赤堀は布切れを地面にこぼれていたガソリンに浸して火をつける。

その種火を、タンクローリーが垂れ流して行ったガソリンの跡に投げ込むと、導火線のように火はタンクローリーに向かい燃えて行く。

運転席では、助手席で後ろ手に縛られていた優子が、バッグから取り出したライターの火で、必死に綱を焼き切ろうとしていた。

ハンドルに縛り付けられていた多門は、早く逃げるんだ!爆発するぞ!と優子に警告するが、何とか綱を焼き切った優子が、その多門のハンドルに縛ら

れていた綱をほどいたので、急ブレーキをかけた多門は運転席から降り、急いで、後部の注入口の蓋を閉める。

その直後、優子がタンクローリーを少し前進させたので、迫って来た火は、タンクローリーに燃え移る寸前の所で止まり、間一髪引火は免れる。

その頃、山荘を一台のバスが出発していた。

中には、眠り薬で眠らされた娘たちと、見張り役の久慈や五郎、津奈子らが乗っていた。

その時、バスの前方からタンクローリーに乗った多門と優子が接近して来たので、正面衝突を避けるため、バスが減速した時、津奈子と五郎がバスから飛び降りる。

逃げたと悟った久慈は、バスの窓ガラスを割り、カービン銃で逃げて行く五郎と津奈子を撃つ。

その時、すれ違ったタンクローリーがバックでバスで戻ってくる。

五郎!と呼びかけながら多門が駆け寄ると、先生!俺はチャンスに弱いんだ…と言うので、秋葉の旦那って誰なんだ!と聞くと、黒めがねをかけていて、今、駅前の小屋にいると教えた五郎は、持っていた拳銃を多門に手渡し息絶える。

多門はその銃で久慈たちを撃つ。

その後、タンクローリーで駅前の踏切までやって来た多門だったが、一緒に乗って来た優子が案ずるので、心配しないでください、表から乗り込むような無茶はしませんからと安心させ、降りて行く。

窓から小屋の中の様子をうかがうと、赤堀と秋葉らしき男が座っていたが、テーブルに黒めがねを置いていた秋葉は背中を向けていたので顔は見えなかった。

その時、子分の一人が、窓の外の多門に気づき撃ってくる。

引き込み線に秋葉、赤堀、正木らが逃げ込む。

赤堀が追ってくる多門に向かって拳銃を撃つと、馬鹿野郎!こっちの居場所を教えるようなもんじゃねえか!奴が一人かどうかも分からねえんだぞ!と黒めがねをかけた秋葉が叱りつける。

その後、駅員の一人を捕まえた赤堀たちは、出口はねえのか?と首を絞めながら聞くと、向こうの回送列車が山下駅に回送します…と駅員は教え気を失う。

列車の間を探しまわっていた多門は、敵の子分を一人撃つ。

回送列車に乗り込んだ、秋葉、赤堀、正木たちに気づいた多門は近づこうとするが、秋葉が撃ってくる。

それでも列車に近づいた多門を、デッキから赤堀が殴り掛かって来たので、二人は取っ組み合いになる。

その時、黒めがねをかけた秋葉が近づいて来たので多門は発砲する。

逃げようとした秋葉と、多門を案じ構内に入り込んで来た優子が出会う。

その時、撃ってきた多門に秋葉は打ち返すが、その時黒めがねが取れ、その素顔を見た優子は、父さん!秋葉は父さんだったの!と驚く。

秋葉の正体は浜島十兵衛だったのだ。

そこへ高村部長刑事たち警察も駆けつけて来たので、撃たないでください!と優子は叫ぶ。

秋葉こと浜島が逃げ出そうとするが、接近して来た貨物列車の線路の切り替え部分に足を挟まれて動けなくなってしまう。

貨物列車は急ブレーキをかけるが、停めて!と叫んだ優子の目の前で、浜島は停まりきれなかった貨物列車に轢かれてしまう。

父さん!と絶叫しながら駆け寄ろうとする優子を、多門は抱きとめる。

警官隊がそんな二人のいる場所に接近してくる。

 


 

 

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