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日本のいちばん長い日('67)

 

半藤一利著、大宅壮一名義原作を元にした岡本喜八監督作品で、東宝撮影所システム末期の作品だが、ヒットしたため、この後「8:15シリーズ」として、終戦にちなんだ映画シリーズが作られるきっかけとなった作品でもある。

東宝系の役者総出演のオールスター感に加え、白黒映像と役者たちの狂気じみた熱気あふれる演技が相まって、一種独特の熱っぽい映像になっている。

2015年の原田眞人監督版との違いも興味深い。

終戦を迎えようとする政府首脳陣の苦悩と、それを阻止せんとする陸軍若手将校たちのクーデター未遂事件を中心に描いている。

冒頭部分はほとんど仲代達矢さんのナレーションで説明し、途中から役者芝居になっている。

原田版では省かれていた終戦前夜の埼玉県児玉基地や厚木基地の様子なども興味深い。

横浜警備隊の高校生の姿とともに、特攻兵たちの若さ、その無名性が生々しい。

一般的に戦争映画には女性がほとんど登場しないのが普通だが、この作品も徹底しており、エキストラ的な出演と新珠三千代さんのワンシーンを除けば、ほとんど男だけの映画になっている。

本作では何と言っても、畑中少佐を演じている黒沢年雄さんと、横浜警備隊の佐々木大尉を演じている天本英世さんの強烈な絶叫演技が凄まじい。

不気味な知将椎崎中佐を演じている中丸忠雄さんと石原少佐役の久保明さんの存在も忘れがたい。

そう言う役者たちの熱演だけではなく、本物の市ヶ谷の陸軍本部でのロケなど、リアリティのある描き方は見事と言うしかない。

戦闘シーンのような派手なシーンはないにせよ、宮内省の中の各部屋の調度など、美術部の仕事の丁寧さには驚かされる。

その丁寧さがあるから、玉音盤を兵士たちが探すときのサスペンスが盛り上がるのでる。

エキストラの使い方、見せ方も巧い。

後半の畳み掛けるような緊張感も尋常ではなく、娯楽に徹した「独立愚連隊」などとは真逆なシリアス描写に、岡本監督の比類ない才能を感じずにはおかない。

魂に突き刺さるような名作ではないだろうか。
▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼
1967年、東宝、大宅壮一原作、橋本忍脚色、岡本喜八監督作品。

創立35周年記念 (のロゴ)

ポツダム宣言

我らアメリカ合衆国大統領、中華民国国民政府主席、及び、イギリス帝国総理大臣は、数億の国民を代表して、日本に対し、今時の戦争を集結せしめる機会を与えることに意見の一致を見たり、アメリカ、イギリス、及び中華民国の巨大な陸、海、空軍は、日本に対し最後的な打撃を加える体制を整えたり。(英語で読む声)

1、我らは幸福に対する遅延を認めることを得ず

2、我らは無責任なる軍国主義者が日本より…

埼玉県大和田 海外放送受信局

日本に降伏を求めるアメリカ、中国、及びイギリスのポツダム宣言が海外放送で傍受されたのは、昭和20年7月26日、午前6時だった。(とナレーション)

外務省 大臣室

そのポツダム宣言を読む東郷外務大臣(宮口精二)に、松本外務次官(戸浦六宏)が、以前のカイロ宣言とは著しく内容が変わって来ており、絶対的な無条件降伏の条件を捨てて、8項目に渡る平和樹立の特定条件を示しておりますと指摘したので、 それは分かっているがね、そう簡単に陸軍や海軍が…、特に陸軍は絶対に承知しそうにもないからね…と東郷外務大臣は言う。

7月27日 首相官邸 閣議室 このポツダム宣言について話し合われる。

現在我々はソ連に仲裁役を求めているのだが、とにかくソ連から何か言ってくるまでは、これを一方的に拒否せず、しばらく待っているのが一番良いと思います…と東郷外務大臣が発言する。

この意見に反対するものはなく、ポツダム宣言には静観と決まった。

だがこれを国内的にどうするかが難しかった… 岡田厚生大臣(小杉義男)は、世界中に発表されているものだから、国民にもすぐ知れ渡る。早い方が良いと言うと、下村情報局総裁(志村喬)は、発表が遅れると政府が動揺しているように海外では受け取られる恐れがあると発言する。

それに対し、いや、発表するからには断固反対意見を述べるべきである!と言い出したのは阿南陸相(三船敏郎)であった。

ポツダム宣言を受諾した訳ではない、しかるにこれに対して反対意見を述べない場合には、あたかも受諾したように取られる恐れがある。もしそうなっては、軍の士気、ならびに一般国民に与える影響があまりにも大きすぎると立ち上がった阿南は発言する。

閣議は紛糾した。

そしてその結果、何も発表しないのは良くないから、当たらず障らずと言う事になり、政府の公式見解は発表せず、新聞は出来るだけ調子を下げて扱うよう指導し、政府はこの宣言を無視するらしいと付け加えても差し支えないとの意見一致を見た。

新聞はポツダム宣言を軽く取り扱い、中にはこれを「笑止」とさえ形容するものもあり、ほとんどの国民は関心を持たなかった。(とナレーション)

市ヶ谷台 陸軍省

ところが、陸軍の第一線部隊から、何故ポツダム宣言には明確な反対をしないのかとの詰問電報がしきりに届き始めた。

国民は聾桟敷に置かれていたが、アジア大陸と太平洋諸島に布陣する272万の第一線部隊は作戦上のラジオ通信機器その他でポツダム宣言の内容を詳細に知っていたのである。

陸軍大臣室にやって来た軍務課畑中少佐(黒沢年雄)ら青年将校は、閣下!これでは前線の維持が出来ません!と阿南に詰め寄る。

分かっておる、ただし、国家非常の折であるから、軽挙妄動は厳に慎むように!阿南に付いてくる!良いな!と阿南は言い渡す。

その後、総理大臣室で鈴木総理(笠智衆)に会った阿南は、前線が動揺する、このまま降伏勧告を黙って放置する事は、将兵の士気に大きな影響を与え、前線の維持が難しいのではないかと考えますと伝える。

首相官邸 広場

政府は陸軍の申し出により、やむなくポツダム宣言には積極的には答えないが、新聞記者の質疑に応じる形で意思を表明する事になり、鈴木総理が記者会見に臨んだ。

そしてポツダム宣言はカイロ宣言の焼き直しであるから、これを重要視しないと発表した。

だが、新聞記者の質問に対して「重要視しない」を繰り返しているうちに、つい「黙殺」の言葉が出た。(とナレーション)

回答をする必要を認めません…と鈴木首相は記者会見の席で発言する。

新聞は、前とは違いポツダム宣言を大々的に報じ、断固「黙殺」でこれを国民に示した。

そしてこれが海外放送網を通じて、全世界に報道された。

だが外国では「黙殺」が「無視」になり、やがては「拒絶」として報道され、その結果、アメリカとイギリスの世論が著しく硬化した。 アメリカは8月6日に、広島へ原爆を落とした。

そして一瞬にして20万の人間が消滅した。

日本がもしポツダム宣言を受諾しない場合は、即時恐るべき方スクを加えると警告していたのが事実となって現れて来たのである。

この原子爆弾は戦争に革命的変化を与えるものであった。

日本が即時降伏に応じない限り、さらに他の場所にも投下する。

2日後の8月8日にはソ連が参戦した。

日ソ不可侵条約も一片のほごにすぎなかったのである。(とナレーション)

8月9日

午前10時30分

宮城内 望岳台下 地下防空壕

最高戦争指導会議が行われたが、その劈頭…(とナレーション)

広島の爆弾とソ連の参戦で、戦争の継続は今や不可能であり、どうしてもポツダム宣言を受諾するより他はないと思われるが、各自の意見を述べていただきたい…と鈴木首相が発言する。

一同は重苦しい顔でじっと黙り込んでいた。

その時、みんな黙り込んでいたんじゃ何も分からんじゃないか!それぞれに意見を出さなくては…と米内海相(山村聡)が文句を言う。

参集者は思い思いに意見を言い始めた。

だがこの会議は紛糾し、容易に結論を得る事が出来ず、しかもこの会議中、長崎に第二の原子爆弾が落ちた。

長崎も広島同様、一瞬にして壊滅した。

この間に戦争指導会議は結論を得ないために打ち切り、改めて総理官邸に閣議が招集され、戦争続行か終結かの議論が戦わされていた。

先ほどの戦争指導会議でも述べた通り、第一には天皇の地位の保証!第二に日本本土へ上陸する占領軍はできるだけ小範囲の小兵力で、しかも短期間である事、第三、日本軍の武装解除は日本人の手によって自主的に行われる事、第四、戦争犯罪人の処置は日本人に任せる事、以上四つの条件を敵が入れざる場合には、あくまでも戦争を遂行する!これが陸軍の意見である!と阿南は述べる。

すると、東郷外務大臣が立ち上がり、天皇の地位については同感です、しかし他の三条件は、おそらく連合国側が拒否するに違いありません。この際、絶対的な条件以外は差し控えたい。もしこの時機を逃せば、和平の機会を失う事になる!と意見を言う。

しかし阿南は、だから本土決戦が必要になってくる!本土決戦によってを戦局の好転を待ち、それを和平の機会とすれば、もっと優位な条件を敵側に認めさせる事も出来る!と主張するので、陸相は一戦後和平、一戦後和平と本土決戦を強調させるが、はたしてそれを行うだけの国力が今の日本にあるのかどうか?と米内が疑問を投げかける。

現在の戦争は総力戦である。他の部門の見解も聞きたいと、米内は他の参加者に問いかける。

軍需大臣豊田貞次郎、農商大臣石黒忠篤、運輸大臣小日向直登らが次々と所見を述べた。

日本にまだ戦う力が残っているかどうかである。(とナレーション)

(回想)大本営陸海軍部、12月8日午前6時発表 本8日未明

帝国陸海軍は、アメリカ、イギリス軍と戦闘状態に入れり!と言う臨時ニュース

戦争が始まってから約7ヶ月は日本は圧倒的に強かった。

瞬く間に太平洋、インド洋、オーストラリアまでも巨大な軍事力で制圧した。

だが太平洋戦争の天王山とも言うべきミッドウェイ会戦に敗れてよりは、次第に国力のさが現れじり貧状態となり、伸びきった前線はこれを支える事が出来ず、やがては沖縄までも陥落し、サイパン、テニアンの基地より飛来するB-29の爆撃に、東京を始め、全国の92の都市が焼け野が原になり、軍需工場はめくら潰しに破壊され、陸海軍の死傷は既に360万、非戦闘員の死傷147万、罹災者は1000万人以上にも及び、国力の余命はもう幾ばくもなかった。 その上になお、オリンピック作戦と呼号する連合国100万の上陸を目前としていたのである。 加えて…(とナレーション)

(回想明け)今年の秋は、昭和6年以来の凶作が見込まれており、農民以外はほとんど餓死に近い有様に…、日本にもう戦う余力などは…と石黒農商大臣が閣議で述べると、かかる事態は誰もが十分承知のはずである!と言いながら阿南が立ち上がる。

この実情の元でもなお戦い続けるのが、これ決心であると思う!

激論3時間にも及んだが、この会議でも結論を得る事が出来ず、最後には御前会議を開いて、天皇に直接決定をあおぐ事に決まった。

夜の11時50分から、天皇の稟議をあおぎ、御前会議が開かれた。

しかし個々でも意は容易に決せず、その最終段階において、天皇は次のように決済せられた。

これ以上戦争を継続させる事は我が民族を滅亡させる事になる。速やかに終結せしめたい。(とナレーション)

そのお言葉に動揺する阿南のアップ

8月10日 午前6時

スイスとスウェーデン公使を介し、連合国宛の電文が発信された。

天皇の大権に変更を加えるがごとき条文は、これを含んでいないものと了解して…と言う、条件付き宣言受諾の電報である。

大江電信課長が動く。

陸軍省 地下防空壕

午前9時30分

阿南は、閣下の高級部員佐官以上の全員を地下防空壕に集めた。

かくなる上は、和するも戦うも全て敵側の回答いかんにある。今後いかなる事態に立ち至るとも、厳正なる軍紀の元に一糸乱れず団結し!越規の行動は厳に戒めなければならない! 一人の無統制が法を破る因をなすと阿南が言うと、大臣は進むも引くもこの阿南について来いと言われたが、それでは引く事も考えておられるのですか?と一歩前に進み出た椎崎中佐(中丸忠雄)が質問する。

不服なものは、この阿南を斬れ!と阿南は言い返す。

迫水書記官長(加藤武)は、木原通庸(川辺久造)内閣嘱託が小瓶を差し出して来たのに気づく。

青酸カリです、いざと言うときにはこれを…、軍部たちがいつ180度の方向転換をするか分かりません。もしそうなった場合はお互いに…と木原は言う。

頷いて胸ポケットに青酸カリの瓶を入れた迫水は、戦争が継続になったら全て終わりだ…、これしか方法はないかもしれんね…と言う。

8月12日 0時45分

海外放送受信局は、サンフランシスコ放送を傍受した。

それは日本の条件付き宣言受諾に対する連合国の回答であった。(とナレーション)

この回答書を持参した軍事課長荒尾大佐(玉川伊佐男)らとともに、阿南の元に押し掛けて来た椎崎中佐は、この連合国の回答は少しおかしいですよと言ってくる。

天皇及び日本国政府は、連合国司令官に「subject to」するとなっておる。これは明らかに隷属する事であり、絶対受諾などできません!と畑中少佐(黒沢年雄)が言うと、軍務課竹下中佐(井上孝雄)も、大臣は断固として受諾を阻止するべきです!もし、それが出来なければ切腹を!切腹をするべきです!と迫る。

回答書を読んだ阿南の表情が曇る。

ただちに、連合国の回答に対する閣議が行われた。

いや、「subject to」は外務省の見解によれば、隷属ではなく、その制限課に置かれると言う意味ですが…と東郷外務大臣が説明すると、そんな不確かな事では困る!天皇の大権が存続されるかどうか、もう一度、再照会していただきたい。それが不可能であるならば、徹底抗戦あるのみである!と阿南は主張する。

再交渉は交渉の決裂を意味する。そしてそれは天皇のお言葉にも反する!と東郷外務大臣が反論すると、阿南は軍刀を握りしめる。

こうして意見が正面から衝突してまとまらず、またもや御前会議を開き、天皇に直接ご決済を願う事に決めた。

閣僚控室

この閣議後、官邸を去らんとする東郷外相を、陸海の統帥部の人が引き止めた。

外相!もう後2000万、2000万の特攻を出せば、日本は必ず、必ず勝てます!と大西軍令部次長(二本柳寛)が主張するので、大西さん、勝つか負けるかはもう問題ではないのです、日本の国民を生かすか殺すか、二つに一つの…と東郷が言い聞かそうとするが、いや、もう後2000万、日本の男子の半分を特攻に出す覚悟で戦えば!外相!と大西は説を曲げようとしなかった。

東郷外相は、憮然として立ち上がると、失礼する!と言い残し立ち去る。

翌8月13日に、一通の計画書が陸軍大臣に提出された。

それは、ポツダム宣言受諾を工作する和平派を天皇から隔離し、東京に戒厳令を引くものである。

それを読んだ阿南は、明日の御前会議、天皇の御聖断をもう二日だけ待っていただきたいと鈴木首相に頼みにいく。

しかし鈴木首相は、いや、それはできません、悪しからずと断る。

阿南は鈴木首相の意思の硬さを知ると、無言で帰るしかなかった。

大臣室に残っていた小林海軍軍医(武内亨)は、総理、陸軍大臣も部内からの突き上げで苦しいんです。いや、一部では暴発しそうな危険な動きもあります。それを押さえるためにも、総理、待てるものなら…と助言しかけるが、いや、小林君、それはいかん、今を外したら、ソ連は満州、朝鮮、樺太だけじゃなく北海道まで…、戦争の始末は何としても今のうちに付けねばならん…と鈴木首相は答える。

阿南さんは死にますね…と小林がつぶやくと、茶を飲みかけていた鈴木首相は驚いたようにその顔を凝視する。

望岳台下 地下防空壕入口

8月14日 午前8時50分

第二回目の御前会議が開かれた。 劈頭鈴木総理は、最高戦争指導会議が意見の一致を見ないので、ポツダム宣言反対意見を聞かれた上で、再度の御聖断をあおぎたいと申し出た。(とナレーション)

陸軍を代表して申し上げます。もしこのままの条件で宣言を受諾するならば、国体の護持はおぼつかない。よってぜひとも敵側に再照会をし、もしそれが聞き入れられない場合は、一戦を試み、死中に活を求めるしか道はございませんと阿南が立ち上がり意見を言う。

不気味な静寂が流れた。(とナレーション)

やがて天皇が静かに立ち上がられ、かくして日本には、その一番長い日が始まった!

タイトル

反対論の趣旨はつぶさに良く聞いた。しかし、私の考えはこの前も言った通りで変わりはない。これ以上戦争を続ける事は無理である。陸海軍の将兵にとって武装解除や歩哨戦虜は堪えられないであろう。 国民が玉砕しても国に従ぜんとする気持も良くわかる。しかし、私自身はいかようになろうとも、国民にこれ以上苦痛をなめさせる事は私には忍び得ない…と陛下は、ハンカチを取り出され、涙ながらに語られる。

出来る事は何でもする。私が直接国民に呼びかけるのが良ければマイクの前にも立つ! 陸海軍の将兵を納得させるのに、陸軍大臣や海軍大臣が困難を感ずるのであれば、どこへでも出かけてなだめて説き伏せる。 鈴木!内閣は至急、終戦に関する証書を用意して欲しいと陛下は仰せられる。

陛下が退席される時、立ち上がった閣僚たちの大半が涙する中、阿南だけは涙を流さなかった。 首相官邸 迫水書記官長は、部屋のドアの所で出した木原に、終戦の証書は僕がやる、君は陸海軍人にお与えになる証書の原稿を至急に…、お互い泣いているときじゃない、忙しい、これからは身体がいくつ会っても足りないぞ!と伝える。

日本の意思ははっきり決定した。はっきりとな…、すぐに…、いや、大至急用意してもらいたい、ポツダム宣言受諾の電報を!と東郷外務大臣も松本外務次官に伝える。

打電は?と松本外務次官が聞くと、終戦の証書交付と同時だ。アメリカと中国にはスイス公使の加瀬俊一、イギリスとソ連にはスウェーデン公使の岡本李正を通じると東郷は答える。

陸軍省に戻って来た阿南のことを知った将校たちは一斉に阿南を取り囲み、大臣!閣下!と呼びかける。

大臣室に入った阿南に、御前会議の結果をお聞かせ願いたい!と椎崎中佐が求めると、御聖断は下った!ポツダム宣言を無条件で受諾すると御聖断あらせられた。

この上はただ大御心に沿って進むより他に道はない、陛下がこのようにご決断なされたのも、全陸軍の忠誠に信を置かれているからであると阿南は部屋に集まっていた将校たちに告げる。

すると、戦争継続は全陸軍の方針のはずです!閣下の意思転換の理由を伺いたい!と井田中佐(高橋悦史)が発言する。

陛下はこの阿南に対し、お前の苦しい気持は良くわかる。我慢をしてくれと涙を流して仰せられた。自分としてはもうこれ以上の反対を申し上げる事は出来ない!不服なものはこの阿南に屍を越えていけ!と阿南は言い渡す。

すると、突然は畑中少佐が号泣しだす。

井田もまた、部屋を飛び出すと、息苦しさから逃れるように軍服の詰め襟を外す。

下村情報局総裁(志村喬)から、御聖断の内容を聞いていた記者たちも泣き出す。

それでは陛下は、これからの日本について、どのように仰せられたんですか?と、涙をこらえながら老政治部記者(三井弘次)が質問する。

これからの日本は平和な国家として再建したい。しかしこれは難しい事であり、また時も長くかかる。しかし、国民が協力一致をすれば必ず出来ると思う。私も国民と一緒に努力する…と下村総裁が涙ながらに答えると、聞いていた政治部記者も涙をこらえきれなくなる。

大臣室では、お願いします、大臣!この際思い切って辞職を強行してください!と、1人残った竹下中佐が阿南に迫っていた。

大臣に辞職さえしていただければ、たちまち内閣はつぶれ、終戦のあらゆる手続きが出来なくなります。そうなればまた新しい情勢の展開が!どんな政権でも戦争継続!必ず本土決戦に持ち込めます!と訴えるが、阿南はただ目をつぶり、黙って聞いているだけだった。

近衛師団司令部 同師団長室 内輪を使っていた森近衛師団長(島田正吾)は、悩みとは何だ?と、相談に来ていた東部軍、不破参謀(土屋嘉男)に聞く。

師団長閣下とは同じ騎兵課出身であります。その上、陸軍大学では親しく教官として…などと不破が言うので、それは分かっとる。息子が親父の意見でも聞きに来たと?さっさと言えと森師団長は急かす。

万一、両院が終戦と決定した場合は、東部軍の作戦参謀としていかなる態度を取るべきかでありますと不破は聞く。 それを聞いた森師団長は、東部軍の参謀とも思えんが?後ろを見ろと言う。

そこには、東部軍の組織を書いた紙が貼られてあった。

近衛師団は別格であるが、一応東部軍の指揮下にある。その東部軍の中枢とも言うべき作戦参謀がそんな腹の座らん事では…、終戦と決まれば、文字通り、詔書を引っ切る。断じて盲動をすべきではない。 朝からもな、陸軍省の若い連中がしきりにやって来て近衛師団の決起を促すが、わしは追い返しとる。しかし若い連中は納得しそうにも…、しかし、わしの信念は動かん。東部軍もしっかり腹を決めとけ!かりそめにも陛下の大御心に背くような事は…と森師団長は言う。

ただし、これは終戦とはっきり決まったらの話だがな…と森師団長は付け加える。

海軍302航空隊 厚木基地 司令所

司令、協議はいよいよ終戦と決まったようでありますとの菅原中佐(平田昭彦)の報告を聞いた小薗大佐(田崎潤)は、哄笑し、そう云う事はあり得ないよ、いや、あっても意味はない!と言い切る。

重臣共がどんな恥っさらしな事を決めようと、そんな事は関係ない!俺が司令をしている限り、この厚木基地は最後まで戦う!と小薗は言い放つ。 見ろ!鍛えに鍛えて温存して来たあの新鋭機を!と、窓から見える戦闘機を見ながら小薗は愉快そうに言う。

陸軍省 軍事課

机に突っ伏し泣き続ける畑中少佐、憮然とした様子で椅子に座るし伊崎中佐、ソファに寝そべりじっと天井を見上げる井田中佐。

そんな中、何かを思いついたのか、突然泣き止んだ畑中が顔を上げる。 宮内省 武官府 木戸内大臣(中村伸郎)が、問題はですね、陸軍や海軍がこのままおとなしく黙っているかと言う事ですな…と石渡宮相(竜岡晋)と蓮沼侍従武官長(北竜二)に話しかける。

健軍以来、一度も敗戦を知らず、その上、生きて虜囚の恥ずかし目を受けずと徹底的に教育されとりますからね、それに本土決戦では最後の勝利を掴むものとして、その整えておる地上軍230万、特攻飛行機7000機、海軍特攻兵機3000!このままおめおめとは…と答える。

武官長、陛下もその点を特に…と木戸内大臣が案ずると、とにかく陸軍大臣と海軍大臣に使いを差し向け、その点を確かめてみましょうと蓮沼武官長は言い、側に控えていた中村少佐(野村明司)と清家少佐(藤木悠)らの方を見る。

その頃、腕時計が1時を指しているのを確認した畑中少尉は、椎崎中佐と共に陸軍省から自転車で走り出していた。

日本放送協会の「JOAK」の旗をなびかせた車が到着する。

荒川技術局長(石田茂樹)と矢部国内局長(加東大介)が先に降り立ち、後から降りてくる大橋会長(森野五郎)に、何でしょう?玉音放送ってと聞く。

官房総務課長室 佐藤内閣官房総務課長(北村和夫)から話を聞いた矢部たちは、終戦に!と驚く。

終戦の詔勅が出るのは、陛下の直接放送にするのか、それとも録音にするのか、ただ今内閣で審議中ですと佐藤は言う。

どちらかに決まったらすぐに知らせますから、至急その準備を整えておいてくださいと佐藤は頼むので、大橋会長たちは呆然と立ち尽くす。 閣議では、松阪法相(村上冬樹)が、直接陛下にマイクの前に立っていただくと言うのは…と戸惑っていた。

あまりにもそれは恐懼にたえない…と広瀬蔵相(北沢彪)も言うので、しかし、それではどうしたら…、それでは終戦を国民に知らせる方法がないではありませんか…と下村総裁が戸惑う。

しかし、それにしても…、陛下に直接マイクの前に立っていただくと言うのは…あまりにも…と広瀬蔵相はためらう。 近衛師団司令部 参謀室 扉を閉めた中、ポツダム宣言を受諾して国体の護持など出来るか!と駆けつけて来た畑中少佐がぶちまける。

武装解除された我々軍隊に一体何が出来る!と畑中がわめくと、古賀少佐(佐藤允)も、元々全滅か勝利か、二つに一つしかない戦争だ、重臣共は一体何を!と悔しがる。

石原参謀(久保明)も、全ては敗北主義の重臣共が勝手に取り決め、気弱になられている天皇や皇后に無理矢理承知をさせただけの事だよと言う。

それを陸軍の上層部までが…と畑中は悔しそうに吐き出す。

承詔必謹!承詔必謹!戦争に疲れたのか?命が惜しくなったのか!この地球上から日本が消えてしまっても良いと言うのか!と畑中は激高する。

いくら論じても、もうどうにもならん!と椎崎中佐は悔やむが、もう良い…、これからは行動あるのみ…と、部屋にいた他の3人の顔を見、事の成敗を問わず、一死を持って、真の日本の生き方を示す!それだけだな…と談ずる。

横浜市内

わらじ姿で外で作業中だった横浜高工生たちに、集まれ!と声がかかる。

そこに車でやって来た横浜警備隊長佐々木大尉(天本英世)に、頭~、右!と号令がかかり、佐々木の後輩に当たる学生たちは敬礼する。

諸君!かねてより憂慮していた事態がいよいよやって来た! 情報によれば、重臣共は、卑劣極まる事を策しておる!戦争継続のためにいよいよ我々の立ち上がるときが来たのだ! 東京への出発は、横浜警備隊だけではなく、忠勇たる民間人の参加を切に望んで止まない! 集合時間は追って知らせる!終わり! 警備隊長殿に敬礼!頭~右!と班長(阿知波信介)が叫ぶ。

高校生の破れたポケットには「出家とその弟子」の文庫本が入っていた。

川本情報局総裁秘書官(江原達怡)は、放送協会の大橋会長が出ましたと、電話を下村に手渡す。

放送は録音に決まりました、そうです、直接放送でなく録音です、なおその録音は宮内省で行いますから、午後3時までに録音班を連れて宮内省に出頭してくださいと下村総裁は電話で伝える。

宮内省 表御座所

加藤総務局長(神山繁)は、広さと良い場所と良い、ここが一番…と、案内して来た筧庶務課長(浜村純)に確認する。

準備は放送局のものが来てからに…と筧庶務課長は答える。

2時

陛下の意を体しました木戸内大臣、ならびに蓮沼侍従武官長のお言葉をお伝えしますと、閣議の席で迫水書記官長が発表する。

事態を平穏に収拾するため、陛下が直接、陸軍省と海軍省に出向くと仰せられておりますが?この議をお分かりくださいと迫水が、阿南と米内の方に伝えると、いや、これ以上陛下にご迷惑をおかけて師は相済まぬ、海軍は自分が責任を持ってまとめますと米内は答える。

しばしの沈黙の後、陸軍は責任を持って自分がまとめます、そのように陛下に申し上げていただきたい…と阿南も答える。

陸軍省 大臣応接室

「陸軍方針」と題された詔書を差し出し、終戦に際して、陸軍が一糸乱れぬ行動をとる事を陸軍の長老の方々によって申し合わせをしていただきたいのですと若松陸軍次官(小瀬格)が申し出る。

第一総軍 杉山元帥(岩谷壮)が、誰の発議かね?と聞くと、川辺参謀次長閣下の御意志と閣議中の陸軍大臣の指示により、本職が書式にしたものでありますが…と若松が答えると、じゃあ、陸軍大臣はこちらに帰って来られるのだね?と第二総軍 畑元帥(今福将雄)が聞く。

はっ、閣議中でありますが、間もなく!と若松は答える。

近衛師団司令部 参謀室内で「兵力動員計画書」に目を通した石原少佐は、まずこの計画には陸軍大臣の同意を必要とすると椎崎中佐の方に目をやる。

その説得は大丈夫だろうな?と古賀少佐が確認すると、いや、今の段階では難しいと畑中少佐が答える。

しかし、計画が順調に進みだしさえすれば、やがては大臣も立たざるを得ない!と畑中は言う。

続いて、この東部軍が動いてくれるためにはだな…と石原少佐が指摘しかけると、いやそれは、自分が直接田中軍司令官を説得に行くと畑中は言う。

いずれにしても、まず宮城に入りこれを確保、外部の連絡を一切遮断する!と椎崎が説明し、真っ先に火ぶたを切ってもらうのは、君たちのこの近衛師団だ!その手配は良いな?と確認すると、石原と古賀は黙って頷く。

3時

宮内省に到着した放送協会の矢部たちが、筧庶務課長立ち会いのもと、録音の準備にかかる。

録音されたものをすぐに陛下にお聞かせする事は?と筧庶務課長が聞くと、いえ、録音再生機の準備はしておりませんが…、必要なら…と荒川技術局長は戸惑う。

必要かどうかは分かりませんが、もし陛下がそう仰せられる場合も…と筧庶務課長が言うので、荒川技術局長は長友君、再生機をすぐに!と長友技師に命じる。

陸軍省 大臣応接室に戻って来た阿南が、まず「陸軍方針書」に署名すると、続いて畑元帥が筆を取る。

これで陸軍の方針は決まる訳だが、これに反するものは反逆者…、つまり反乱軍になる訳だなと畑元帥はつぶやく。

その頃、畑中少佐は自転車で坂道を上っていた。

陸軍省 廊下

課員以上、全員直ちに会議室へ集合せよ、14時15分より、大臣の訓示ありとの館内放送が響いていた。

同 裏庭

資料類の消却処分が行われていた。

軍服の前をはだけ、ポケットに手を突っ込んで立ち尽くしていた井田中佐が、今更大臣の訓示なんて聞いて何になる?…と心の中でぼやいていた。

もう終わったよ…、何でもかんでもみんな燃やしてしまえ!そして、それが終わったら…、陸軍の将校は… 我々市ヶ谷台上の将校は潔く、全員が揃って切腹をするのだ! 大東亜戦争は無意味に終わった…、しかしこれだけは、この事だけは永遠に… 陸軍省と参謀省の将校全員が切腹した事だけはな…と井田は考え続けていた。

東部軍司令部 自転車でその前に乗り付けた畑中は、陸軍省 畑中少佐!と見張り兵に敬礼をし、中に入る。

東部軍司令官 田中大将(石山健二郎)は、司令官、お会いにならない方が…と制止する不破参謀たちに、いや、顔を見て一言だけと言う。

入れ!と声を掛けると、陸軍省軍務課畑中少佐入ります!と返事をした畑中が扉を開けて中に入ってくる。

その途端、俺の所に何しに来た!貴様らの考えは聞かずとも分かっとる!帰れ!と田中大将は一喝する。

近衛師団司令部

遅いな、畑中は!計画が順調に進むかどうか大きな分かれ道だと古賀少佐は苛立っていた。

畑中の説得で東部軍は果たして…と古賀がつぶやいていると、いや!今の段階ではまだ無理かもしれんな…と石原少佐が言葉を挟む。

今は動かなくても、最後にはいやがおうにも動かざるを得なくなると椎崎中佐が言うので、それは分かっておる!しかしだな、しかし!と古賀はさらに苛立つ。

3時50分、ぼつぼつ4時か…と腕時計を確認した椎崎は、窓の外から宮城の乾門の方を眺め、宮城警備の交代だな…とつぶやく。

第一連隊に変わり、第二連隊が芳賀大佐のもと、軍旗を奉じ、今、乾門をくぐってておると石原少佐が椎崎の背後から窓を見て解説をする。 乾門に入る近衛第二連隊長、芳賀大佐(藤田進)

時間はちょうど4時だった。

閣議では、終戦の詔書案が閣僚たちに配られていた。

宮内省では、筧庶務課長が内閣で詔書案の審議が始まりました。これは大体1時間くらいかかるそうですから、録音は6時頃からになりますと放送局員たちに伝えられる。

6時でございますね?と矢部国内局長が確認すると、詔書案ができましても、それを鈴木総理から陛下へ奉呈し、御名御璽を頂く手続きがありますからねと筧庶務課長は答える。

外務省 次官室

6時ですね、6時には交付の手続きが終わりますね、こちらもそれがぎりぎりですよ!連合国へ打つ電報の時間がね…と松本外務次官で確認していた。

陸軍省

講堂にいた井田の元にやって来た畑中は、市ヶ谷台の将校全員が自決する…、なるほど、それは美しい姿かもしれない。しかしそれは最後の最後の手段であって、その前に我々にはなすべき事があります!承詔必謹で戦争を止めるのか?それともあくまで戦争完遂を貫き通すのか?この二つに一つです!と畑中は説得する。

しかし井田さん!そのどちらかが果たして日本のためになるかは、これは結果を待たなければ誰にも分かりません!いかなる人といえども、その結果の善し悪しは予測できないはずです。とすれば、所詮は運を天に任せての事、同じ運を天に任せるなら、井田さん!我々は軍人です!例え反乱軍、いや、逆賊の汚名を受けても良い、直ちに宮城に入り、陛下に御寡言を申し上げ、聖戦遂行の道を取るべきではないでしょうか! 天運がどちらに組しようが、それは分からないでしょう。どちらに組しても良い、その判決はただ実行する事によって決まると思います。 井田さん!自分は全てを今夜に、今夜一晩に賭けたいのです! 市ヶ谷台将校全員自決より、それの方が遥かに、遥かに正しいと自分は信じます! 近衛師団との連絡はもうついているのです。必要な準備は全て整っており、我々の行動によって、東部軍を始め、やがては必ず全陸軍が立ち上がります!と畑中が力説していると、しかし、巨大な敵を前にして成功すれば良いが…と井田はようやく口を開く。

もし!と井田が続けようとしたので、井田さん!井田さんはまだ成功、不成功を?その点では承詔必謹も同じです。承詔必謹ではたして国体の護持が出来るのかどうか!その清算は、首相、陸相、海相、誰にもないではありませんか!だから我々は決起を!井田さん、ぜひ同意してください!と畑中は迫る。

井田さん、戦争はまだ現実に続いていります。東部軍の情報によれば、有力な敵機動部隊が房総沖に近づきつつあるとか…、全ての戦う意志をなくしたら、その時にこそ日本は一気に粉みじんになります! 井田さん、今こそ我々は志雄として日本の為に決然と立ち上がるべきです!と畑中は呼びかける。

畑中!貴様の精神の純粋さは…、いや、その純粋さのみに俺は同意する。しかし行動はしない…、貴様たちだけで勝手にやれ!と井田は言い聞かせる。

どうせ明日はお前も俺もみんな死ぬんだからな…と井田が冷めたように言うと、唖然としたような顔つきの畑中は、師のまま黙って帰ってゆく。

5時

迫水は、証書案の決定が一向に進まないので苛立っていた。

私は「戦勢日に非にして」で良いな、もはや我が国は軍事的には崩壊してしまっておると米内海相が言うと、個々の戦争では負けたが、最後の勝負はまだついておらんと阿南が言うので、ついておらん?と米内は異を唱える。 陸軍と海軍ではその辺の感覚が違う。負けたとすれば補給戦で負けただけの事であると阿南は言う。

何?と米内が聞くと、開戦以来3年半、陸軍は小さな島々で戦っただけで、一度も本格的な開戦をやっておらん、本土決戦こそ、その開戦と称すべき勝負であったと阿南が言うので、では陸相は、これまでの戦いは小さな局地戦にすぎぬと言うのか?20万5000の兵力を投じて、その内の戦死者は20万、フィリピン・ルソン島のこの悲惨な戦いを、単に補給戦に負けたに過ぎんと、陸相はその責任を他の者に転嫁されようとするのか!と米内は迫る。

数え上げたらきりがない、ビルマには23万6000を投入して16万4000、沖縄には10万2000を投入して9万、いや、沖縄では軍人だけではなく9万2000の一般国民までが…と米内が続けると、わしが言いたいのもその点である!と阿南が言い返してくる。

何?と米内が戸惑うと、何故多くの者が涙をのんで死んでいったのか?結果的な批判は何とでも言える。しかしこれは誰にしても日本を愛し、日本の勝利を固く信じたればこそである!しかるに、負けたと言う「戦勢日に非にして」では、これまで死んでいったその300万の人に、何と申し訳が立つ!またいまだに戦っている700万の部下には何としてでも栄光ある敗北を与えてやらねばならん!それがせめてもの我々の責務ではないか!これはあくまで「戦勢日に非にして」ではなく、絶対に「戦局好転せず」と訂正すべきである!と阿南は言い返す。

いや、あなたがどのように言われようとも、私はそうは思わんと米内も譲らない。

腕時計で時間を気にしながら、下村総裁が迫水に何事かを伝えにくる。

宮内省 総務局長室

では6時には出来ないのですね?と電話を受けた加藤総務局長が確認する。

じゃあ何時になったら?と聞くと、7時!7時なら間に合うと思いますが…、そうです、7時です!と首相官邸 官房総務室から電話を入れていた迫水は答えるが、電話を切った後、何が7時だ、7時になっても出来ない事だけは間違いないよとぼやく。

書記官長、何がそんなに?と仲間が聞くと、難しいよ、戦争をやめる事じゃなくて、どうやって陸軍を押さえるかだね!と言いながら迫水は戻っていく。

閣議室から出て来た米内は、官長、よんどころない用件で海軍省へ帰らなくてはならないので中座します、しかし「戦勢日に非にして」ですよ、絶対に!負けた事は率直に国民に知らせるべきだ、良いね!この期に及んでまで国民に嘘はつけない!と廊下で出会った迫水に迫る。

東部軍管区司令部

第17並びに第23洋上艦より指定の報告、房総方面に近づきつつある敵機動部隊は、エンタープライズ型1隻、ホーネット型空母2隻、なおこれに巡洋艦7隻、駆逐艦19隻を帯同、北上中なり

厚木基地

副将入ります!と声をかけ、小薗大佐の部屋にやって来た菅原中佐は、司令!要人からの情報によりますと、終戦はいよいよ本決まりで動かないとの事です!と報告する。

すると小薗大佐は、正に天佑神助だと答えたので、は?と菅原中佐は戸惑う。

今日は珍しく持病のマラリアが熱を出さん、今夜は各課の課長を集めて訓示だが、なかなか文案が難しくてな…、副将!下らん上層部の右往左往などいちいち気にするな!それより房総沖に近づいている敵の機動部隊は?と小薗大佐は聞く。

空母3隻を含む機動部隊で、迎撃は児玉207部隊に発令されております!と菅原中佐は答える。

空母三隻か…、雑魚にしちゃちょっと大きいが、まあ、そいつは児玉に任せとく。この厚木基地の全機が殺到するのは、本土上陸を狙う100万の連合国だ。そいつらを一人残らず水際でぶっつぶす!それまで戦争は…、いや、副長!戦争が本当に終戦になるのはこの時だ…と小薗大佐は言う。

腕時計で6時10分過ぎを確認しながら、まだできない?冗談じゃないですよ!まだ!佐藤さん、あなたじゃ話が分からん!書記官長に出てもらってくれ!と松本外務次官が電話口で苛立っていた。

宮内省でも、しかし、録音が何時になるか分からんではこちらもですね?はぁ?海軍大臣が?と加藤総務局長も同じように電話口で焦っていた。

そうです、陸軍大臣や海軍大臣がよんどころない用で中座をされるものですから、詔書案の審議がなかなか…、現在も海軍大臣が…、あ?大体の予定と言われましても…と迫水書記官長も、控え室で電話対応に当惑していた。

その時、書記官長!海軍大臣が海軍省から帰って来られました!と佐藤内閣官房総務課長が知らせにくる。

米内海相は、閣議部屋に入りかけ、何か思いとどまり、トイレに入る。 そこですれ違った川本秘書官は、米内の様子にただならぬものを感じる。

米内は用は足さず、ただ便器の前で深くため息をつく。

閣議の席に戻って来た米内は、何事かを隣の阿南にささやきかけると、書記艦長、「戦勢日に非にして」の点だが、これは陸軍大臣の主張するように「戦局好転せず」と訂正しようと言い出す。

しかし、先ほどあなたは…と迫水は戸惑うが、書記官長!その通りにこれは訂正しましょうと鈴木首相も声をかける。

え、詔書案の審議が順調に進みだした!それは結構でした、で何時頃になりますか?と宮内省の加藤総務局長が電話で聞くと、大体、今の予定だと、7時か7時半には終わるんじゃないでしょうかと佐藤内閣官房総務課長が電話口で答える。

しかし、米内さんが妥協されるとは思わなかったな…、しかし良く譲歩を…と、電話を切った佐藤内閣官房総務課長はつぶやく。

海軍省に帰られてみて、部内の突き上げの激しさに、阿南さんと同じ苦しさをひしひしと身に染みるほど感じられたんじゃないでしょうか…と川本秘書官が言う。

しかし、もうこれで全ては順調に…と安堵した川本秘書官に、いやいやまだ手放しでは…、中座された阿南さんが陸軍省から帰って来られたらまたどうなるか…、詔書にきちんと復唱されるまで安心できんよ、陸軍大臣の署名のない終戦の詔書は、交付の手続きの出来ないほご同様だからね…と佐藤内閣官房総務課長は答える。

市ヶ谷台の陸軍省で燃やされる資料類。

井田は、玄関前に一つ転がっていたヘルメットを見つけ、何事か考える。

横浜警備隊 新子安兵舎

非常呼集の予定は12時!なお、東京への出発までには一個大隊を接続!これをして同一行動とする! 作戦目的、一つ!無条件降伏を策しおる愚か極まる鈴木総理大臣以下、重臣共の襲撃!と佐々木大尉が学生へ医師たちを前に絶叫していた。

出来た?詔書案が出来たんですね!と佐藤からの電話連絡を受けた松本外務次官が喜ぶ。

修正をやり抜いた詔書を感慨深げに眺めた鈴木首相は立ち上がり、直ちにこれを宮中へお届けしますと一同に告げる。

宮内省内で総務課員、佐野恵作(佐田豊)に、推敲だらけの詔書案を手渡した加藤総務局長は、これを録音の際はこれを御上がお読みになる、急いで清書を!放送局の録音は昼から来て待っている、急いでね!と依頼する。

一方、官邸でも内閣理事官、佐野小門太(上田忠好)も詔書の清書を始める。

陛下の御名御璽を頂いた上で各大臣が復唱する正式なものだからね、間違いのないように、急いでねと、佐藤内閣官房総務課長も頼んでいた。

放送局員たちは、録音の最終準備を行っていたが、そうした中、録音がこのように遅れますと、実際の放送は何時頃に?と矢部国内局長が困惑気味に大橋会長に話しかけていた。

いや、今日の夜の放送はとても無理ですよ、国民には予告も何も…、詔書の審議に時間がかかりすぎましたからね…と下村情報局総裁が閣議の席で発言していた。

それでは明日の朝の7時では?とにかく放送は早い方が…と東郷外務大臣が提案すると、いやそれは16日にしてもらいたいと阿南が言い出す。

この放送は外地のあらゆる部隊まで聞かせなければいけない。特に第一線は相手側の武装解除を受けるのであるから、十分納得させる時間が必要である!と阿南は主張する。

しかし、連合国には降伏の電報を打っておき、国民には二日間も知らせないと言うのは…と東郷が難色を示すと、しかし、明日の朝では聴取率が大変低いですね、特に農民は朝が早いし、もう農耕には出かけてしまっているし、放送には適当な時間…と下村が発言していると、冗談じゃないよ!と米内が口を挟んでくる。

冗談じゃない!16日まで延長して、その間に万一の事でも起きたら…と米内が言うので、いや、それでですね、今晩のニュースの時間にその予告をしておいて、明日の正午に放送する…、それが一番適当だと私は…と下村が説明すると、いや、それは…と阿南がまた口を挟みかけたので、いや、それは宜しい!それを閣議の決定とすると首相が言うので、しかし総理!と阿南は抵抗しようとするが、放送は明日の正午とし、それまでにこの通達が第一線に到達するよう、陸軍大臣にはあらゆる努力をしてもらいたいと頼む。

阿南は苦渋の表情になる。

陸軍省では、明朝、畑閣下と共に飛行機で広島に帰ります。ついては軍の真意をお聞かせねがいたいと第二総軍参謀、白石中佐(勝部演之)が荒尾大佐(玉川伊佐男)に尋ねる。

真意?真意などは別に…と荒尾が答えると、しかしこんな簡単な全面降伏、軍がそれを承知したからには、その裏には何か? いや、阿南閣下を中核に、全軍が粛々と規律正しく退却するのですと荒尾が答えると、では、特別の意図みたいなものは何もないのですね?と白石は確認する。

その通りですと言う荒尾の返事を聞いた白石は、分かりました、戦うにせよ戦わざるにせよ、私もそれが一番正しい…、では、と言いながら立ち上がったので、宿舎へですか?これから…と荒尾が聞くと、いや、まだ時間も早いし、久しぶりですから、近衛師団に言って森師団長にお訪ねしたいと思っていますと白石は答える。

中村少佐、清家少佐と共に食事中だった蓮沼侍従武官長の元に、石原少佐と共にやって来た古賀少佐は、今日は陛下の録音があるとの事ですが、それは何時から行われますか?と聞く。

近衛師団の参謀として兵力運用の都合があるので一応お聞きしておきたいと石原も聞く。

蓮沼らが何も言わないので、じゃあ、もう録音は終わったんですね?と古賀が聞くと、武官長も我々も録音のあるのは聞いておるが、その詳細については聞かされていないと清家が答える。

しかし!と詰め寄ろうとした古賀を止せ!と止めた石原は、本当にご存じないんだろうと言い、帰ってゆく。

8時

厚木基地で次官たちを前に、無条件降伏に関する外務大臣命令は以上になるが、それに対するこの厚木基地の取るべき態度、その興廃を明らかに!今後いかなる事態が発生しても将官は断固交戦する!次官たちも一心同体で進んでもらいたい!と小薗大佐が訓辞を述べると、海軍大臣命令は承詔必謹とのことですが、それでは命令違反にならないんでしょうか?と飛行整備科長(堺左千夫)が質問する。

今の質問に答える!我々の行動に命令違反はあり得ない!房総沖」には敵の機動部隊が現れ、埼玉県の児玉基地陸海混成第207飛行集団は今出撃を準備中である!戦争はまだ終わってない!と小薗大佐は言い張る。

児玉基地では、陸海混成第207飛行集団はプロペラが回り、最終整備の真っ最中だった。

見送りの町民たちが旗を振る中、まだ若年の特攻兵たちを前にした、飛行団長、野中俊雄少将(伊藤雄之助)が、攻撃目標は房総沖400kmにある空母3隻を含む、30数隻の敵機動部隊!出撃予定時刻は払暁攻撃を目指す、午前0時!なお本日の出撃については、特に双葉町町民に諸君の歓送を許した!久しく敵機の徴用化にあって、切歯扼腕している銃後の人々に翼に日の丸をつけて大空をかけめぐる36機の大編隊を見せるぞ!本土決戦の緒戦!皇国の興廃はかかって出撃諸君の壮健にある!と檄を飛ばす。

宮内省 総務課

詔書の清書を仕上げ間近だった佐野恵作の所にやって来た筧庶務課長は、ちょっと待ってくれ!御上が詔書に目を通されて、5カ所ほど訂正されたと言いにくる。

しかし今更書き直しとなると1時間以上は…と佐野が困惑すると、仕方がない、直された所に紙を貼り、そこだけでも…、さっき電話で知らせたが、内閣の方も大騒ぎだと筧は言う。

仕方ありません…、異例の事だが…、すいません、手伝ってくださいと佐野は筧らに頼む。

官邸の控え室でも、世界の体勢また我に利あらず、しかのみならず敵は新たな残虐なる爆弾を使用し、惨害の及ぶ所…と、書き上げたばかりの詔書を読み上げていた佐野小門太に、ちょっちっょちょっ!と慌てて止めた佐藤内閣官房総務課長は、「しきりに無辜を殺傷し」の後が「惨害の及ぶ所」と…と訂正し、仕方がない、時間がない、そこは小さな字で横に書き込みを!と指示を出す。

閣僚たちを前に、書き上がった清書を読み終えた鈴木首相は立ち上がり、ではこれより直ちに陛下に拝謁し、この詔書を奉呈、御名御璽を頂きます。 児玉基地では、夜を徹して町民たちが歌って見送る中、特攻兵たちは母親の持って来たおはぎを頬張ったりし、士気を高めていた。

宮城内 地下御政務室

天皇陛下は、鈴木首相の奉呈した詔書に御名御璽を記される。

詔書を受け取り、退室しかけた鈴木首相を、総理!と廊下で呼び止めた木戸内大臣は、ちょっと他から聞いたんですが、近衛師団に何か不穏な動きがあるなどと…、総理はこれをお聞きに?と聞く。

私は誰からもそんな事は…、バカな!近衛師団に限ってそんな…、大体近衛師団は陛下をお守りするための師団ですよと鈴木首相は笑う。

9時5分

謡がラジオから流れる中、近衛師団司令部にこもって作戦を練っていた古賀少佐は、参謀長は師団長の意向でどうにでもなる!問題は師団長だ!と言い出す。

しかし、大隊長クラスは丸が多いから、次第にこれを増やしていけば最後には師団長も動かざるを得ないだろうと畑中が言うと、いや、そうは簡単に…、この説得は骨だぞ…と石原少佐が案ずると、その説得には我々が当たる…軍事課の井田中佐を駆り出してだ…と椎崎中佐が言う。 しかし、いずれにしても天皇の放送が先にあってはどうにもならんと椎崎が言うと、今夜中だ!何としても今夜中にやらないと…と畑中は焦る。

あ、それから、航空士官学校の黒田に連絡が取れた、間もなくこちらへ顔を出すが、明日になれば黒田は航空部隊を率いて宮城上空に飛来し、我々を援護激励してくれる!と畑中は補足する。

これで航空部隊も一斉に立ち上がるだろうし…と畑中が続けようとした時、ラジオの臨時ニュースのチャイムが聞こえたので椎崎が制し、それを聞いてみる事にする。

国民の皆様にお知らせを致します。明日8月15日の正午から重大な放送があります。国民の全員がこれを謹聴するように…との放送を聞いた畑中が、良し!明日の正午までだな、森師団長の説得を急ごう!それから陸軍大臣の説得ですが…と言うと、それには適任者がいる、軍務課の竹下中佐だ、奴の姉は大臣の奥さんで、義理の兄弟だ…と椎崎が言う。

陸軍大臣室で、御聖断既に下る!全軍こぞってこの大御心に従い、最後の瞬間まで光輝ある伝統とかくかくたる部分とを辱めず、一兵に至るまで断じて軽挙妄動する事なく、皇軍の名誉と栄光とを中外に闡明されん事を切望して止まず、小職は万国の涙をのんでこれを伝達する。

なお、右に関する詔書は明15日発表せられ、特に正午、陛下御自らラジオによりこれを放送したもう予定なるを持ってその大御心のほど、つぶさにご拝察を願う…と荒尾大佐が読み上げると、それを聞いていた阿南は頷く。

さっそくに全陸軍部隊に打電を!と荒尾大佐が阿南に告げると、椅子から立ち上がった阿南は窓辺に立ち、荒尾、若い軍人を何とか生き残れるようにしてもらいたいものだな…と言う。

警察官などに転業できるような措置を、そうした便宜をな…と阿南は荒尾に伝える。

閣議へお戻りに?と荒尾が聞くと、まるで飛脚のように総理官邸と陸軍省の間を往復だ。忙しい一日だったが、もうする事は全部…と阿南は言う。

詔書が出来上がり、天皇が御名御璽を押されれば、もうそれで良いんでしょう?こちらはね!と電話で松本外務次官が苛立たしそうに確認すると、いや、それがですね、陛下の御名御璽だけでは交付の手続きが…、総理以下各大臣の復誦がないと…、今始まる所なんですよ、もう少し!もう少しだけ!と佐藤内閣官房総務課長が電話口で頼む。 鈴木首相が、詔書に記名をする。

夜10時

宮城内 衛兵司令所

やって来た畑中と椎崎から話を聞いた芳賀大佐は、それではその計画に対しては、陸軍大臣、参謀総長、東部軍司令、近衛師団長、この全員が既に承認をされておるんだね?と確認する。

そうですと畑中が答えると、間違いないね?と芳賀は念を押す。

連隊長、このような重要な事が我々だけで出来るとお思いですか?と椎崎が問いかける。

閣議で阿南が最後に詔書に記名すると、それでは陛下の録音がございますのでこれから宮内省へ言って参りますと下村総裁が立ち上がって挨拶をする。

軍服を脱ぎ捨て寝転がっていた井田は、やって来た畑中と椎崎の話を聞き、森師団長?と言いながら起き上がる。 師団長以外は我々に全員が賛成です!今こそ、井田さんに出馬をお願いしたい!と畑中が言う。

森師団長は陸大時代の教官でね、我々だけではちょっと子供扱いで押しが効きにくいんだよと椎崎が言うと、しかし俺が言っても同意されるかどうか…と井田は躊躇する。

いや…、誰が言った所でおそらく…、もし師団長が反対された場合はどうするんだ?と井田が聞くと、 いや、井田さんにさえ出ていただければ絶対に!と畑中は保証し、君に動いてもらってもだな、師団長が同意をされない場合は仕方がないからこの計画は諦める…と椎崎は言う。

井田さん!成功するしないはもう問題ではありません!それは今日、良く申し上げたではないですか!と畑中は迫る。

東部軍の動きはどうなんだ?と言いながら井田が立ち上がると、軍司令官の説得は自分が参りました、今の所未知数です、しかし近衛師団が決起をし、宮城内にろう城すれば、全陸軍がこれに従うに違いありません!と畑中は言う。

師団長が…と井田が言いながらタバコを吸い始める。

だから私たちは井田さんに懇請を!もしあなたに出馬をしていただいても、師団長が動かない場合は、潔く決起は諦めます!井田さん、お願いします!何とか!と畑中は言う。

畑中!森師団長の説得はほとんど見込みはない!だが、やれるだけやってみよう…と井田は言い出す。

畑中、俺はな、市ヶ谷台の将校全員が潔く自決すべきだと思っていた…。しかしそれは言うが易しだが、なかなか…、俺はお前のその一本気な熱情に打たれたと言いながら軍服の上着を着た井田は、俺はそのお前に賭けてみると言う。

それでは井田さん!と喜ぶ畑中に、しかしな…、俺が説得しても師団長が動かれない場合には、本当にその計画は諦めるんだな?と井田は念を押す。 畑中は、はい!と答える。

横浜警備隊 鶴見総持寺

皇軍の辞書には降伏の二字なき!最後の一兵まで戦うのみである!しかるに貴様らは…と檄を飛ばしていた佐々木大尉は、テントの中から出て来た兵隊が、大尉!渋谷本部からは決起命令も行動命令もまだ何も…と言って来たので、何を手ぬるいことを!貴様らも9時の報道を聞いたはずだ、明日の正午には重大放送がある事をな!もう一刻の遅滞も許されん!直ちに同意の上、協力一致!決行~望む!と絶叫する。

11時過ぎ

じゃあ良いんですね、佐藤さん、電報を打ちますよ!連合国宛の電報を、良いですね?と松本外務次官が電話で聞いていた。

では発信!と部下に電文を託した松本は、全てが終わったよ、これでな…、11時か…と椅子に腰を下ろしタバコを口にすると、いや~…、今日ほど長い日は…、本当に長い1日だったよな~…と漏らす。

9日以来、議論に議論を重ねて来た閣僚たちは、疲労と心労が一時に吹き出し、ほとんど虚脱状態に近かった。

その頭の中で、鈍いいろいろな思いが去来して交錯する。(とナレーション)

(阿南の姿)ある者は、歴史上初めて経験する敗北の意味を何とか噛み締めようとし…

(東郷の姿)ある者は、終戦に持ち込めなかった日本をぼんやり想像した。

原爆が次々と各都市を破壊していく。

九州の薩摩半島と関東地方の九十九里浜に殺到してくる100万の連合軍…

北海道にはソ連…、いやソ連は朝鮮半島を一気に南下し北九州や中国地方へ…

日本は各所で分断され、男も女も子供も老人もその砲火と硝煙の中で倒れていき、日本列島は8000万の累々たる屍骸の死の島に…

だがこれらの曖昧模糊とした思いも肉体的な疲労感には勝てず、ともすれば薄れ、そして誰しも考えた事は皆一様に同じだった…、疲れた…、長い日だった…、本当に長い一日だった…、だがその長い日も今ようやく終わった…

しかし、その一同の考えは間違っていた。 長い日は終わるどころか、まだその半分しか過ぎていなかった。(とナレーション)

自転車で森師団長の元へ駆けつけた畑中、井田、椎崎の3人だったが、森師団長に来客と知ると誰だ?と聞く。

第二総軍の参謀白石中佐と聞いた椎崎は、白石が師団長の義弟である事を思い出す。 待っている暇はない!と叫んだ畑中は、自分はこの間に駿河台の市民宿舎へ行って来ます!と言うので、井田は不思議がる。

軍務課の竹下中佐殿に懇請し、陸軍大臣の決起をお願いしてきます!と畑中は言う。 閣議室で立ち上がった阿南は、東郷外相の前に来ると、色々お世話になりましたと頭を下げる。

とにかく無事に終わって、本当に良かったと思いますと東郷も立ち上がり頭を下げる。

その後、隣の控え室にいた鈴木首相を訪ねた阿南は、終戦の儀が起こりましてからは、私は陸軍の意志を代表し、これまでにずいぶん強硬な意見を申し上げましたが、慎んでそれをお詫び申し上げます。私の真意はただ一つ、国体を護持せんとするものであって他意はありません。何とぞご了承くださいと詫びる。

それを聞いた鈴木首相も立ち上がり、その事は良くわかっております。私はあなたの率直なご意見に心から感謝を…、あれもこれもみんな国を想う熱情から出たものですと言いながら、阿南の肩に手を置く。

しかし阿南さん、日本の国体は安泰であり、その前途に私はそれほど不安を感じておりませんと鈴木首相が言うと、私もそのように信じてはおりますと阿南も笑顔を見せる。

これは南方の第一線から届いたものですが、私はたしなみませんので総理にと持参しましたと言いながら、阿南は小箱を手渡し、帰ってゆく。

阿南君は暇乞いに来てくれたんだね…と鈴木首相はつぶやく。

その頃、宮内省では、天皇の玉音録音が始まっていた。

声はどの程度で宜しいのか?と聞かれた天皇に、はい、普通のお声で結構でございますと下村総裁が答える。

朕、深く世界の大勢と…と陛下が証書をお読みになり始める。

児玉基地から、特攻機が飛び立っていく。

陛下の録音は続いていた。

その間も次々と発進していく特攻機

最後の12機体飛び立ちます!との声を耳に、野中少将は直立不動で敬礼をしたままじっと特攻機を見つめていた。

飛び立つ特攻機を見送る町民たち 陛下の玉音録音は終了する。

その頃、森師団長の前に立った井田は、師団長閣下!既に近衛歩兵第二連隊は軍旗を奉じ宮城内に入っているんです!と呼びかけ、同行していた椎崎も、彼らは午前2時を期して立ち上がり、宮城を占拠しますと告げる。

ただ皇室が残れば良いと言う政府の敗北主義に私たちは反対しているんです。形骸に等しい皇室、腰抜けになってしまった国民、そして荒廃した国土さえ保全されればそれで良いんでしょうか? 極端に言えば、敗戦処理だけを陛下に任せておいて、自分たちは責任逃れをしようとしているのが現在の重臣たちなんです。

扇いでいた団扇を置いた森師団長は、理屈はいかにあろうと、ひとたび御聖断の下った今、陛下のご意志に反するような動きには賛成できないなと答える。

しかし師団長閣下!と井田は食い下がる。

宮内省 侍従室

このままで蓋が開いては…、何か適当な入れものが…と、録音盤の容器だけでは不安な様子の長友技師(草川直也)から指摘された荒川技術局長は、大丈夫だとは思うが…と言いながら、何か適当な入れ物があれば…と侍従たちに声をかける。

こんなものしか…と言いながら、写真立ての上にかぶせてあった袋を差し出すと、これで結構ですと受け取った荒川たちは、その袋に録音盤をおさめた容器を入れる。

放送は正午ですが、それまでこれをどこに保管しておきましたら?と荒川技術局長が侍従に聞く。

既に就寝していたは、尋ねて来た畑中から話を聞くと、連隊長が?軍旗を報じて宮城内に入っている…と驚きながら起き上がる。

芳賀連隊長は同意をされているんだな?と竹下が聞くと、そうです!彼らは午前2時に立ち上がり、宮城を占拠します、連隊長の他にも4人の大隊長がこの計画に対し積極的な同意を!と畑中は嘘を言う。

で、森師団長は?と竹下が聞くと、いや、その師団長だけが不同意で、今、椎崎さんと井田さんが説得をされており、これも時間の問題です。竹下さんにお願いしたいのは阿南陸軍大臣の説得です。あなた以外にそれをしてくださる方は!と畑中は頼む。

しかし、それを説いてみても今更大臣が…と竹下は首を捻るが、いえ、大丈夫です!竹下さんさえ動いてくだされば、お願いします!時間がありませんから自分は近衛師団に帰ります。

ここまでくれは自分たちはどこへでも!竹下さん、自分は今すぐに同意してくださいと言っているのではありません、我々の計画が巧く動き出したらそのときにはぜひとも!と畑中は説得する。

畑中、俺はこれから大臣の所へ行ってくると竹下は言い出し、着替えを始める。 いや、決起の要請をするしないは別にして、ちょっと様子が気になるんでな…と竹下は言う。

宮内省で、玉音盤をどこに保管するかで話し合った結果、放送局が預かる?下村総裁が驚くと、そうです、放送は放送局がするのであるからそれが当然だと思いますが?と筧は言う。

しかしこの深夜に玉音盤を持ち帰ると言うには畏れ多い事でございますし、それに陸軍の一部には不穏な動きもあるとか…、もしそうだとすると、これはやはり宮内省で保管していただいた方が…と矢部国内局長が答える。

しかし宮内省には適当な保管場所が…、むしろ、陛下にお側に近い侍従の方々に預かっていただいた方が…と筧が言うので、それを聞いた徳川侍従(小林桂樹)は、そうですか…、じゃ、そう云う事なら私の所で…と引き受ける。

午前3時

師団長閣下、これで私の申し述べたい事は全て申し上げました。いや、最後にもう一言だけ!と井田が森師団長に言う。 本土決戦も行わず、こんな中途半端な形でもし戦争を止めるなら、我々はこれまで戦場で散った300万以上の英霊をことごとく欺いていた事にはならないんでしょうか? 現に今でも飛行基地からは敵の機動部隊をめざし特攻機は帰らぬ出撃を続けております。 最後の一兵まで戦うのならともかく、天皇が止めると言われるからその命令を守って止める、聞こえは良いがこれは一種の責任逃れです。国民はこの軍の態度を…、打算的で御都合主義の軍の態度を一体…、閣下、もうこれ以上は何も申しません。 今こそ全ての軍人が死を賭して立つときであり、近衛師団はその中核となるべきです。どうか閣下の御決意を!と井田は訴える。

つぶっていた目を見開いた森師団長は、諸君の意図は十分に分かった。率直に言って感服もした。私はこれから明治神宮へ行くと言い出したので、井田も椎崎も、は?と虚をつかれる。

赤裸々な一人の日本人として、明治神宮の社前に額ずき、右するか左するかの決断をつけたいともう…と森は言う。

水谷参謀長の意見も一応聞いといてくれと腕時計で時間を確認し森師団長が言うので、はっ!それでは!と井田は喜色を浮かべる。

廊下に出た井田の前にやって来た畑中は、航空士官学校の黒田大尉(中谷一郎)ですと同伴の男を紹介し、いかがでした?と聞いてくる。

大体動いてくださると思うが…、ちょっと水谷参謀長に話を!と井田が答えると、それでは!と畑中が期待すると、詳しい話は後でな、椎崎も中にいる、中で一緒に待っててくれと言い残し、井田は水谷参謀長の所へ向かう。

陸軍省畑中少佐入ります!と声をかけ、中に入ると、そこには確かに森師団長とその横に白石中佐が座り、黙り込んだ椎崎が壁際のソファに座っていたが、室内の空気はどんよりしていた。

椎崎さん、一体話はどうなっているんです?と、座り込んでいた椎崎に聞くと、師団長閣下はな、これから明治神宮へ行かれると椎崎が教えると、明治神宮じゃなく、宮城のはずだ!と黒田大尉が激高する。

それを聞いた森師団長は、何?と気色ばみ、貴様は何者だ?と聞く。

航空士官学校の黒田大尉です!森師団が決起すると聞いて駆けつけて参りました!と言いながら近づくと、何が決起だ!と森が怒鳴りつけたので、閣下、それでは決起のご意志は?と唖然としながら畑中が聞くと、ないと森は言い切る。

畑中少佐、もう最後の手段だ!ぐずぐずしてると夜が明けるぞ!と黒田は言い、閣下、もう一度お考え直しを!と畑中は頼み込むが、くどい!と森が拒否すると、黒田が軍刀を抜き、白石中佐に斬り掛かる。

黒田が白石中佐の首を切断すると、拳銃を取り出した畑中が、驚いて立ち上がり、馬鹿者!と叫んだ森師団長の脇腹を撃つ。

別室でその銃声を聞き、驚く水谷参謀長(若宮忠三郎)と井田。 貴様ら!と睨みつけながら、自分の軍刀に手をかけた森師団長に、黒田が斬り掛かる。

床に倒れ臥す森師団長。

愕然とし虚脱状態になった畑中はふらふらと部屋の外に出、黒田大尉は自ら握りしめた軍刀を指から外そうと焦っていた。

そこに水谷参謀長と駆けつけて来た井田は、畑中!と肩を抱くが、師団長は我々には…、時間がなかったんです…、それでとうとう…、仕方がなかったんです!と畑中は何を言っているのか分からない状態だった。

井田!とりあえず、東軍へ!と、事件現場を見て興奮した水谷参謀長が叫びながらその場を立ち去ると、井田さん、早く!一刻も早く、東軍の決起を!と畑中も言い出す。

室内では、まだ黒田が軍刀を右手から取ろうともがいており、椅子から立ち上がった椎崎は唖然として、森師団長と白石中佐の死体を見つめていた。

その頃、徳川侍従は、宮内省の皇后官職事務官室で、玉音盤を手提げ金庫の中に納め、戸棚の中に隠すようにしまっていた。

近衛師団命令!8月15日2時、一つ、師団は敵の謀略を破砕!天皇陛下を奉じ!我が国体を護持せんとす! 二つ…と古賀少佐が命令書を読み上げる。

井田は水谷参謀長と共に、車で東部軍に向かっていた。

動揺を隠せない水谷参謀長は、急げ!もっと早く!と運転手を急かす。

古賀少佐の命令書読み上げはまだ続いていた。 最後に、近衛師団、森赳!と師団長名を読み上げるが、本人は側の床に血まみれで倒れていた。

石原少佐、椎崎中佐らと古賀少佐が頷き合うと、畑中が代表して、森師団長の判を机の上から取り上げ、その偽の命令書に判を押す。

その後、畑中と椎崎はサイドカーで、芳賀連隊長の近衛師団第二連隊へ向かう。

私たち2名は、このたび大本営命令により、陸軍省より増加参謀として近衛師団に配属されましたと畑中が芳賀に申告すると、間もなく宮城確保の師団命令が正式に下達されるはずであります!計画通り兵力配備を!と椎崎も嘘を言う。

陸軍大臣は予定通りお見えになるんだね?と芳賀は確認する。

は、間もなく!と椎崎が嘘を言うと、それを真に受けた芳賀連隊長は、命令!大体は直ちに宮城を占拠!確保せよ!と第三隊隊長に指示を出す。

白襷をつけた近衛師団はただちに宮城内を占拠し始める。

横浜警備隊 新子安兵舎

非常呼集は終わり、準備でき次第、直ちに東京へ出発する! 国家存亡の危機にありながら、立ち上がるものきわめて少ないにも関わらず、民間人である諸君の参加には、隊長として心から礼を述べたい!と佐々木大尉が絶叫していた。

陸相官邸

竹下、参りました!と声を掛けると、何しに来た?との阿南の声が室内から聞こえてくる。

まあ良い、入れと言われたので、部屋の中に入りかけた竹下は、自決用の小刀を置き、遺書をしたためていた阿南の姿に気づき愕然とする。

宮内省 総務課

換台を探せ!電話線は全て叩き切るぞ!と近衛兵たちが暴れ回っていた。

玉音の録音盤を探しまわっていた。

宮城内

坂下門を出かかっていた下村情報総裁の車も近衛兵たちに止められ、バックを命じられる。

情報局総裁が捕まったとの知らせを受けた畑中と椎崎は、録音関係者か…、良いものが捕まったなと喜ぶ。

良くやった、引き続き、警戒を厳重にしろ!と畑中も伝令の伍長(山本廉)に指示を出す。

奥の部屋にいる芳賀連隊長の様子を盗み見ながら、畑中は椎崎に、東部軍に行かれた井田さんの説得ですが、巧く…とささやきかけると、そう、早く東部軍が動いてくれないと発覚する恐れがある、偽の命令がな…と椎崎も案ずる。

東部軍司令部 参謀室 駆けつけて来た水谷参謀長と井田の報告を受けた不破参謀は、近衛師団が決起をした?と驚く。

さっき近衛の参謀から電話でそう云う連絡があったが、決起とはどう言う意味だ?と不破が聞くと、森師団長が殺害された…と水谷が行きも絶え絶えに伝えたので、何!と緊張する。

以上申し上げましたように、近衛師団決起はあくまで国体護持のため、陛下に対し最後の意見具申を行うためであり、他意はありません!と井田から説明を受けていた高嶋参謀長(森幹太)は、板垣参謀(伊吹徹)から事情を聞くと、何!と驚愕する。

参謀長閣下!東部軍さえ立っていただければ必ず日本の全陸軍が動きます!そうすれば陛下のお気持ちもお変わりに!お願いします!今立っていただかなければ手遅れに!陛下の録音が放送されてしまっては全てが終わりになってしまいます!今こそ断固として、日本の国体護持のため!参謀長閣下!と井田は必死に説得する。

深夜2時 衛兵司令所内一室に閉じ込められていた下村情報局総裁たちは暑さに苦しんでいた。

そこに長友技師らが新たに入って来て、先に捕えられていた局長に声をかける。

すると、話してはならん!私語と喫煙は禁止じてあるはずだ!と見張り兵が怒鳴り、伍長が、今新たに入った者は、この紙に位階勲等と氏名を書けと指示を出す。

暑くてたまらないんですけど、上着を脱いでも宜しいでしょうか?と川本秘書官が聞くが、いかん!命令だ!と伍長から一喝される。

東部軍では、田中大将(石山健二郎)が、直ちに自分が宮城へ行き、反乱軍を鎮圧する!と言い、出かけようとするが、いや、今しばらく様子を!状況が明らかにしてからでなければ…、どういう事態になっているか良くわかりません、とにかく武装した一個l師団が立ち上がっているのです、まず状況を調べてからでなければ…と言った不破参謀たちに止められる。

宮城内との連絡はどうなっておるのだ!と田中大将が聞くと、色々やっているのですが、電話線が全部切断されているらしくて…と不破は報告する。

田中大将は、黙って窓から外を眺める。 衛兵司令所では、では録音は、今夜宮中で行われたのだな?と畑中が放送局員たちを尋問していた。

その録音盤はどこにある?と聞くと、宮内省の方に預けましたと矢部国内局長が答えると、宮内省の誰にだ?と畑中は聞く。

どなたかは存じませんが、侍従の方ですと矢部が答えると、侍従だと?と畑中は言うが、一緒に話を聞いていた椎崎はにやりと笑い、もう良いと言って局員たちを部屋に帰らせる。

職音盤は我々の手の内にある…と椎崎が言うと、後は東部軍の決起と陸軍大臣の!と畑中は話しかけるが、その時、陸軍大臣はまだお見えにならんのか?と芳賀連隊長が出て来る。

ただいま陸軍省軍務課の竹下中佐がお迎えに…、間もなくお見えになりますと椎崎がしらっと答える。

陸相官邸で阿南と酒を酌み交わしていた竹下だったが、航空士官学校黒田大佐、竹下中佐殿に連絡に参りました!と表で声がするので、玄関口に向かう。 何!森師団長を…と、黒田から話を来た竹下は愕然とする。

深夜3時

衛兵司令所に戻って来た車の前に駆け寄る椎崎、畑中、古賀。

車から降りて来て3人の前に立ったのは、東部軍から戻って来た井田だった。

畑中、いかん!と首を横に振ってみせた井田は、東部軍は冷えきっている。

立つ気配はない。諦めて兵を引け!もし、このままろう城を続けると、国家の非常事態を前にして東部軍との一戦になるぞと井田は言い聞かせる。

一戦恐るるに足らずです!自分たちは宮城を占拠し、天皇を擁護しております。

その上、下村総裁他捕虜も多数!と畑中は言い返すが、バカ言え!師団長を殺しておいて、何が師団の団結だ!何が一戦だ!師団長の死が伝われば、たちどころに師団の士気は崩壊する。貴様にはそれが分からんのか!と井田は叱りつける。

夜が明けるまで必ず兵を引け!そして今夜の事は我々だけで責任を取ろう!畑中、それで良いじゃないか…、世の中の人もな、今夜の事は苦い笑いで見過ごしてくれるだろう。儚い日本陸軍の最後のあがき…、真夏の夜の夢とでもな…、とにかくこの状況を今から陸軍大臣に報告してくる。 良いか、畑中、夜が明けるまでに必ず兵を引けよ…と、言い残し、車に乗り込んだ井田は去ってゆく。

少し予定が狂って、長期戦になるかもしれないな…と、残った椎崎はつぶやく。

東部軍が我々と一戦を交える?冗談じゃないよ、天皇を擁している我々にどうして戦車や飛行機を…? 226の連中は反乱軍になった…、天皇を擁してなかったためにな…、しかし、今の我々の立場は正にその正反対、攻めて来る奴の方が反乱軍になる。

それに第一、我々の命令はまだ生きておる。ろう城が長引けばやがてそれが全軍に知れ渡り、必ず決起する部隊が…、最後の勝利は我々のものだ!どう転んでもな!いや…、もしそれを阻むものがあるとすれば…、そうだ!あの録音盤だ!あれが放送されれば万事休す!こうなれば1分でも1秒でも早く、しっかりとこの手にあの録音盤を!衛兵司令、放送関係者をもう一度呼べ!と椎崎は叫ぶ。

その頃、トラックに乗り込んだ横浜警備隊や民間人を乗せ、佐々木大尉は東京に向かう。

確かに録音盤は侍従の一人に渡したんだな?何と言う侍従に渡した!と古賀少佐が矢部国内局長に聞く。

それが…、何しろ今夜初めてお会いしたんで、名前までは?と矢部国内局長が答えると、では、顔を見れば分かるんだな?と古賀が言うので、はい…、それは多分…と矢部国内局長は答える。

第二連隊長!この人を案内人として、宮内省から録音盤を探して来い!貴重品だから粗雑に扱わないようにな…と古賀は命じる。

宮内省

連隊止まれ!弾込め!玉音盤捜索、はじめ!と隊長は第二連隊の衛兵たちに命じる。

宮内省に乱入した衛兵たちは、ただちに録音盤を探し始める。

その頃、近衛師団司令部の門前で、止まれ!誰か!と見張りから制せられた車から降り立った2人は、東部軍の作戦参謀だ、近衛の参謀と作戦打ち合わせに来たと言い、陸軍省に入る。

一人残っていた石原少佐の部屋にやって来た不破参謀と板垣参謀は、貴様たちは何と言う馬鹿な事をしでかしたのだ!状況を視察に来た、官姓名を名乗れ!と叱りつける。

すると、軍刀を手に立ち上がった石原少佐と不破たちがにらみ合って対峙する。

先に師団長の様子を…と不破が板垣に話しかけ、貴様らの偽命令の仔細は後で詳しく聞かせてもらうからな!と石原少佐に告げ、部屋を出てゆく。

師団長室の前には見張りが二人おり、やってきた不破たちに銃剣を突きつけて来たので、不破たちは、退け!と声を荒げる。

その時、構わん!お見せしろ!国家の危機に対して立ち上がろうともしない、ふぬけ同様の軍人の最後がどうなるか!腰抜けの東部軍参謀たちに良く見せてやれ!と石原少佐が後ろから声をかけてくる。

不破たちは、銃剣を払いのけ、部屋の中を覗き込む。 床に倒れていた二体の死体を前にした不破と板垣は、直立して敬礼する。

宮内省

まだ録音盤の捜索が継続していた。 総務課の部屋も徹底的に調べられるが、戸棚の中に隠されていた録音盤は見つけられなかった。

その間にも、矢部国内局長の前に連れて来られた戸田侍従(児玉清)を前に、こいつではないのか?お前が録音盤を渡したのは…と隊長は聞く。

いえ、もっと背の高い、鼻の大きな方だったと思いますが…と矢部は否定する。 ではこれで…、私は陛下のお側に参らなければいけませんので…と戸田侍従は穏やかに隊長に言う。

まだ発見できない?と隊長から聞かれた部下は、捜査は迅速に進めておりますが、部屋の数が多く、それに建物自体が迷路のように入り組んでおりまして…と報告する。

なかなか録音盤が見つからないと聞いた椎崎は、兵力を増やすんだ!と指示する。

命令!予備の一個中隊を直ちに捜査隊に編入!録音盤捜索に全力を挙げ、速やかに入手すべし!復誦良し!と古賀が命じる。

その時、陸軍大臣はまだ来られないが、一体どうなっとるのか?と芳賀連隊長が奥の部屋から出てくる。

こちらにお出かけになられたどうかもう一度!と畑中が答えると、君たちはさっきから同じ事ばかり言っておるじゃないか!そう言えば、あれほど師団長に連絡を取ってくれと言ってるのに、何故実行しないんだ! 椎崎が目で合図するのを見た古賀が、連隊長殿、師団長は死亡されました!と伝える。

何!と芳賀が驚くと、これよりは連隊長が師団長に代わって近衛師団の指揮を執っていただきますと古賀は続ける。

師団長が死亡された!師団長が死亡…、それは一体どう言う事なんだ!師団参謀の君が知らん訳がない!と芳賀は聞いてくる。

すると、椎崎が間に入り、間もなく陸軍大臣がお見えになります。それまでは連隊長殿が近衛師団の士気を!作戦内容は我々が良く心得ておりますと説明する。

その頃、陸相官邸の阿南の前にやって来た井田は、阿南が自決する事を知り、涙ながらに崩れ落ちる。

井田!何も言わなくて良い!詳細はある程度…、森師団長を斬った事もな…と、阿南は酒を手酌で注ぎながら言う。

そのお詫びも一緒に…、東部軍が立たない以上、全てはもう間もなく収まる…と阿南は言う。

泣いていた井田は、その言葉を聞き、顔を上げる。

京浜国道 多摩川大橋

これより東京に入ります!との運転席からの声を聞いた佐々木大尉は、第一の攻撃目標は、鈴木内閣総理大臣!と叫ぶ。

深夜4時

芳賀連隊長は奥の部屋で一人苦悩していた。

隣室から、まだ見つからない?!抵抗する奴は叩き斬れ!容赦なく叩き斬り、一刻も早く録音盤を手に入れるんだ!と苛立たしそうに叫ぶ古賀の声が聞こえてくる。

こんなに探しても見つからないと言う事は、もしかすると録音盤は陛下のごく御身近に…と椎崎がつぶやいて時、もう自分には分かっておる!自分には…、自分にはもう分かっておる!と言いながら芳賀が出てくる。

君たちは反乱を行っているんだ!阿南大臣も東部軍司令官もやって来ないのはそのせいだ。いや…、もしかしたら、近衛師団長閣下を殺害したのは君たちかも知れない!そうしておいて、私を騙しておるんだ! 自分はもうこれ以上君たちの指導に従わん、さあ宮城から出て行ってもらおう!これ以上反乱を続けるのなら私を殺せ!この私を殺してからせい!と芳賀連隊長が言うので、畑中たちは、もはやこれまでと黙り込む。

しかしその時、命令には従ってもらわなければ困るな…と椎崎が言い出したので、芳賀は何!と気色ばむ。 連隊長は師団長の指揮下にあるはずだ。不幸にも師団長は死亡されたが、その師団命令はまだ生きておる!と椎崎が言うと、しかし、その命令はおそらく君たちが勝手に…!と芳賀は歯向かおうとするが、軍隊は命令で動くものだ!上官の命令は事の如何を問わないはずである!と椎崎は迫る。

宮内省

まだ、録音盤捜索は続いていた。 縫手室、女嬬室、用度倉庫、皇后官職事務官室 録音盤の金庫は見つかりそうで見つからない…

録音盤と内大臣を捜しておるんだ!貴様、知ってるだろう!と兵士(桐野洋雄)に聞かれた徳川侍従は、知るもんか!とそっぽを向く。

斬れ!と兵士は部下に命じるが、斬るなら斬れ!しかし斬っても何にもならんだろうと徳川は言う。

貴様らのような腰抜けを斬った所で刀のさびに…、その代わり日本精神のあり方を教えてやる!と、軍刀を手にした兵士が言うので、日本精神?君たちだけが日本を守っているんじゃない!我々が一人一人力を合わせなければ…と徳川が反論しかけると、いきなり殴りつけられる。

首相官邸に乗り付けたトラックから降り立った横浜警備隊の面々は、佐々木大尉の撃て!の声とともに、機銃掃射を始める。

その音で目覚めた迫水書記官長は、窓から外をのぞく。

玄関扉に突っ込んで来た佐々木大尉は、開けろ!開けろ!と戸を叩きながら叫ぶ。 扉を開けて顔を覗かせた巡査(小川安三)が、首相は中に…、ここ

にはおられません!と言うので、何!そんな!と佐々木大尉は憤る。

いえ…、私もあなた方のお考えに賛成です…と、兜を脱ぎながら出て来た巡査は、今更無条件降伏など…、首相は円山町の私邸に帰っております、どうかそちらを襲撃してくださいと頼む。

円山町の私邸だな?ありがとう!と佐々木大尉は感激し、巡査と握手する。

宮城 御文庫前 反乱軍の小隊が集合し、機関銃を御文庫の方に向けて来たので、徳川侍従たちは、窓の鉄扉を閉め始める。

敵の空襲にも閉めた事がないこの窓を…と入江侍従(袋正)が嘆く。

そこに三井侍従(浜田寅彦)がやって来たので、御上は?と徳川が聞くと、起きておられると三井は答える。

ここまで探しても見つからないとすれば、もしかすると録音盤は放送局…、しかし…と椎崎は外で考えていた。

その側で苛立っていた畑中が、椎崎さん、陸軍大臣立たれず、東部軍動かず、その上、録音盤も見つからない!この上は、もうこの上は!と迫ると、慌てるな!まだ機はある!直ちに占拠中の放送局へ行け!そしてな、夜が明けるのと同時に日本全国へ放送するのだ!ポツダム宣言を受諾してはいけない!日本はあくまでも徹底抗戦をする!もし仮に天皇のポツダム宣言受諾の放送がどこからかが行われたにしても、それは忠臣共の策略である、陛下の真意は、あくまでも光輝ある陸軍と共に最後まで戦われると仰せられているとな!と椎崎は言い聞かせる。

陸相官邸で酒を飲み終えた阿南が小刀を取ったので、閣下!私もお供を!と井田が申し出るが、馬鹿者!何を言うか!とビンタをした阿南は、死ぬのは俺一人!死ぬより生き残る方がずっと勇気がいる事だぞ! 俺くらいの年配となると、腹を斬るのはそんなに難しい事ではない。難しいのは、むしろ後に残るお前たち若い者の方だと阿南は言う。

生き残った我々に一体何が出来るんです?大臣!と井田が問うと、大臣は日本の国が再建出来るとでも?と竹下も聞く。

再建しなければならんのだ!生き残る人々にはあらゆる苦しみが待ち構えておる。しかし…、しかし…、これからは日本の歴史が変わるのだ。どう変わるのか?どう変えなければならぬのか?それは今の俺にはさっぱり見当もつかん…と言いながら、阿南は竹下と井田に酒を注いでやる。

ただ例え歴史がどう変わろうとも、日本人一人一人がそれぞれの立場で生き抜き、堪え抜き、懸命に働く…、それ以外に再建の道はない。いやそればかりでなく、生き残った人々が二度とこのような惨めな日を迎えないような日本に…、そのような日本に再建してもらいたい! 自分の盃を臥せた阿南は、もう間もなく夜が明けるな…、昭和20年8月15日か… と阿南はつぶやく。

早朝5時

近衛歩兵 第一連隊 第一小隊前へ! 整列する兵士たち 近衛第一連隊長渡辺大佐(田島義文)の前に、東部軍司令閣下が車で到着する。

車を降りて来た田中大将が、誰の命令で動いとる?と聞くと、師団命令であります!師団参謀石原参謀の指導でこれより宮城へ!と渡辺大佐が答える。

それは偽の命令だ!奴は森師団長を殺しておいて、勝手に偽の命令を出しておるんだ!その石原参謀はどこにおる!と田中大将が聞く。

その石原参謀の前にやって来た田中大将は、貴様らのやった事は何と言うざまだ!反逆罪だ!検挙せい!と言い放つ。

憲兵は無言の石原に手錠をかける。

東京放送局 第一スタジオ

放送できない!と乗り込んで来た畑中が聞くと、館野守男(加山雄三)は、現在は警戒警報発令中であります。東部軍の許可がない限り、一切の放送は禁じられておりますと答える。

今から自分が軍の真意を全国民に訴えるのだ!すぐに用意しろ!と畑中は迫るが、何と言われましても、東部軍の許可がない限り放送は…と舘野が引かないので、何!と畑中は激高し、拳銃を抜く。

宮城内 御文庫前 鉄の防護窓を少し開き、外の様子をうかがった徳川侍従は、周囲を兵隊たちが取り巻いているので、何と言う事だ、御上を御守りする、陛下を御守りするはずの近衛兵が…と呆れる。

そこに三井侍従がやって来たのの、御上はどのように?と徳川が聞くと、私が出て行く、兵を庭に集めろ、兵には私の心を言って聞かせる、いずれにせよ、すぐに侍従武官長を呼べと…と三井が答えると、しかし武官長は宮内省に軟禁を…、狼の群れの中を通っていくようなものですと徳川は暗い顔になる。

外からは、近衛兵たちの声が絶えず聞こえていた。 畑中から銃を突きつけられる舘野。

見張り兵が、やって来た車に銃剣を突きつけ、誰か!と誰何すると、車の名から顔を出し、東部軍司令官だ!門を開けろ!と田中大将が命じる。

芳賀連隊長、椎崎らを前にした田中大将は、以上伝えたごとく、師団命令はそこにいる策謀者たちの偽命令であり、以後はこの田中が近衛師団の指揮を執る!と告げる。

はっ!と芳賀が答えると、速やかに兵を撤して義務配置に帰れ!その処置が終われば、直ちに軍司令官まで実行報告せよ!と田中大将は命じる。

その途端、逆上したかのような椎崎が部屋の外に飛び出し、軍刀で庭木の枝を切り始める。

無言で動かない舘野に銃を突きつけていた畑中だったが、その時電話がかかって来て、それに出た兵が、東部軍からですと畑中に受話器を差し出す。

はい!畑中少佐!と電話に出る畑中。 阿南は、遺書を前にして廊下に正座をし、その背後には竹下と井田も正座をして、阿南の背中を見守っていた。

鈴木首相私邸

首相以外に乱暴するな!目標は鈴木貫太郎だけだぞ!と、屋敷内に乱入した佐々木大尉が叫ぶ。

学生たちは、あらゆる場所に銃剣を突き刺す。

何!首相はいないんだな!と佐々木大尉から聞かれた女中の原百合子(新珠三千代)は、はい、官邸の方からそちらに反乱軍が向かったと電話がありまして、皆様…と言うので、どこへ行ったのだ!と佐々木大尉が聞くと、それは…、私にもてんと百合子は口ごもる。

ええい!焼け!国賊の家は不浄だ!ただちに焼き払え!と苛立った佐々木大尉は命じ、ガソリンを家財道具に浴びせた所へ銃弾を撃ち込ませる。

阿南は小刀を抜くと自らの腹に突き刺す。

では、これほど御願いしましても!と電話口で頼んでいた畑中だったが、放送は許可できないと言うので、受諾反対の放送は無理としても、せめて、せめて昨夜立ち上がった我ら青年将校の気持を!それを5分!いや3分だけでも!と畑中は粘るが、畑中!もう止せ!それが未練と言うものだぞ… と、電話の相手は言い聞かす。

未練…とつぶやいた畑中は、受話器を置くと、がっくり壁に身体を寄せかける。

次の瞬間、軍帽の紐を顎にかけて歩き出す。

燃え上がった鈴木首相の家を前にした佐々木大尉は、良し、もう良い!次は!英米贔屓の枢密院議長!平沼騏一郎だ!と絶叫する。 阿南は苦しい息づかいで自らの腹を搔き切っていた。

その背中を固唾をのんで見守る竹下と井田。 自分の頸動脈を探る阿南の姿を見かね、大臣!介添えを!と竹下が申し出るが、無用だ!あっちへ行け!と叱りつけた阿南は、自らの右手に左手を添え、自らの頸動脈を切断する。

飛び出した血潮が、前に広げていた遺書に飛び散る。

大臣!閣下!と叫ぶ竹下と井田の目の前で、阿南は崩れ落ち、竹下と井田もその場に泣き崩れる。

朝、軟禁から解放され、外に出た川本秘書官は、水を!水を一杯くださいと頼む。

放送局では、マイクの前の舘野が放送を始める。

謹んで御伝え致します。賢き辺りにおかせられましては、このたび大詔渙発あらせられます。

畏くも天皇陛下におかせられましては、本日正午、御自ら放送をあそばされます。誠に畏れ多い極みでございます。国民は一人残らず玉音を拝聴しますよう…

8時

乾門に入って来た近衛連隊に、敬礼して出迎える田中大将、不破と板垣両参謀。

それと交代し。皇居を出て行く芳賀連隊長率いる第二連隊。 それを見送った田中大将は、ほっとため息をつく。

宮内省では、徳川侍従、筧庶務課長、三井侍従たちが隠し通せた玉音放送の録音盤を金庫の中から取り出していたが、そこに何も知らない岡部侍従(関口銀三)が御早うございますと明るい挨拶をしながらやってきて、何か、変わった事でもあったんですか?と不思議そうに聞く。

国民各位に注ぐ!我らは敵の謀略に対し、天皇陛下を奉じ、国体を護持せんとす!と叫びながら、馬の上からビラをまく畑中。 椎崎はサイドカーで走り、畑中が馬を走らせる。

阿南陸相自決現場の側には、次男惟晟少尉の遺影が、阿南が畳んで置いた軍服に抱きかかえられるように挟まれている。

安置された阿南の遺体を前に、駆けつけた米内海相が正座していた。

玉音盤(副)と(正)の二缶を徳川侍従は放送局員に手渡す。

首相実弟孝雄大将仮宅に駆けつけて来た迫水は、そこに無事だった鈴木首相の姿を見つける。

本当に、本当に良く御無事で!と感激して上がり込んで来た迫水に、迫水君、宮中の枢密院会議は11時からだったね?それが終わったら閣議を開いて内閣の総辞職をしたいと思います。そのつもりで…、もう年寄りの出る幕じゃないよ、これからの日本はもっと若い人が中心になってやるべきでね…と鈴木首相は言う。

畑中と椎崎は、まだ馬とサイドカーで、ビラをまき続けていた。

それを拾う子供二人

あ、東郷さん?今日11時から宮中で枢密院会議が行われる。改めて終戦の儀が決定してですね…と迫水が電話を入れると、いやそれは、昨日から御聞きして良く…と東郷外相は答えるが、いや、その後でですね、閣議を開いて内閣の総辞職を行いますから…、そうです、総辞職ですと迫水は伝える。

放送局?何!録音盤が着いた!正副とも間違いなく着いたんですね!と確認の電話を受けている将校の横で、目をつぶって考え事をしていた不破参謀は、はっと目を開ける。 宮中では、徳川侍従がラジオのアンテナを伸ばしていた。

下村総裁に総辞職の件の伝達に行った迫水書記官長は、私はこれから11時から行われる枢密院の打ち合わせのため宮中へ…と言い残し去ってゆく。

それを見送った川本秘書官は、お忙しいですね、書記官長も…、昨日から身体が二つあっても三つあっても足りないくらいですよ…と下村に話しかける。

しかし、今更枢密院会議を開き、改めて終戦の儀を決定するって言うのも、もう事実上終戦は決まっているんですからね…と川本が言うと、いや、そうでもないよ、あらゆる手続きが必要だよ…、「儀式」と言った方が正しいのかもしれないがね…、日本帝国の葬式だからね…と下村は言う。

市ヶ谷台の陸軍本部では、まだ資料類の焼却処分が続いていた。

枢密院議会に集まる鈴木首相たち。 宮城前に来て絶叫する畑中。

古賀少佐は1人腹を突いて絶命していた。

戦争終結の処置に突きまして、本日正午より、陛下の玉音が…と鈴木首相が天皇陛下に報告する。

宮城前にたどり着いた椎崎は割腹して倒れ、その横に座った畑中は、拳銃を自分のこめかみに押し当て、大声を上げると同時に引き金を引く。

馬が驚いていななく。

小薗大佐は、持病のマラリアの熱に苦しみながら、この非常事態に!と悔しがっていた。

しかし、この厚木基地は、最後まで抵抗するぞ!と窓の外を見やりながら小薗大佐は叫ぶ。

この厚木基地は、最後までと言いながら立ち上がろうとした小薗大佐は、机の上の扇風機を床に落としてしまう。

玉音放送を拝するため、全員整列終わりました!との報告を受ける児玉基地の野中俊雄少将は不動の姿勢のまま、空を見上げ立ち尽くしていた。

一同の中には、このたびの攻撃は成功せん、その上、熊谷市がB-29の爆撃による炎上するのを目撃しておりますので、今日の放送は、陛下が我々軍人に対し、御自ら、一層奮励努力せよと叱咤激励されると思い込んでいる者が多数あるようでありますが…と部下は話しかけてくる。

放送局 第8スタジオ前 東部軍参謀長閣下だ、放送の立ち会いのため入られたと紹介された不破参謀は、いよいよ陛下の放送が始まるな…、警備を一層厳しくするようにと、そこに立っていた憲兵中尉(井川比佐志)に声をかける。

すると、急に軍刀を抜いた憲兵中尉は、終戦の放送などさせん!奴ら俺が叩ききってやる!何が終戦だ!と言い暴れだしたので、他の憲兵に押さえられ連れ出されていくが、それを見送る不破は、構わん、斬り捨てろ!と睨みつける。

何が終戦だ〜!憲兵中尉の絶叫がこだます。 正午の時報 重大な放送があります、全国の聴取者の皆様、ご起立を御願いしますと、放送局員和田信賢(小泉博)が放送を始める。

天皇陛下におかせられましては、全国民に対し、畏くも御自ら対処を述べさせられたまう事になりました。これより慎んで玉音を御送り申します。 レコードの玉音盤に針が落とされ、君が代が流れる。

阿南の死に顔のアップ

宮城前で死んでいる畑中と椎崎

児玉基地の前で整列している兵士たち

天皇陛下は、宮中内のラジオから聞こえてくる、ご自分の声を聞かれていた。

長い長い24時間だった…(とナレーション)

そして、その日本で一番長い日が終わった…(廃墟と化した東京の空撮映像)

昭和20年8月15日 太平洋戦争が終わった日である… (学徒動員の映像をバックに玉音放送の声が重なる)

太平洋戦争に兵士として参加した日本人(の白抜き文字)

1000万人(日本人男子の4分の1)

戦死者200万

一般国民の死者 100万人

計300万人(5世帯に1人の割合いで肉親を失う)

家を焼かれ財産を失った者 1500万人 今私たちは、このようにおびただしい同胞の血と汗と涙であがなった平和を確かめ、そして日本と日本人の上にこのような日が訪れないのを願うのみである。 ただそれだけ…(とナレーション)

日本を中心とした地球の上にエンドロール
 


 

 

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