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日本のいちばん長い日('15)

 

岡本喜八監督で映画化された同じ原作(1967年版の原作は大宅壮一名義)の二度目の映画化で、太平洋戦争を終結させようとする天皇をはじめとする当時の関係者たちの混乱と苦悩が描かれているのだが、雰囲気は岡本版とはかなり違っている。

この原田版も封切り時劇場で見たが、難解な言葉が多いだけではなく、早口だったり、意図的に言葉を聞き取りにくくさせていたりと言った演出もあるため、そこで語られている情報量全体、とてつもないと感じ、記憶だけの再現は無理だと断念した。

岡本喜八版は、撮影所システムの余力がまだ残っていた60年代後半に作られたパワーあふれるオールスター作品だったため、極端に言えば、舞台背景や台詞の意味を解さぬ子供でもそれなりに楽しめる映画だったと思う。

それに対しこの作品は、台詞の情報量の多さに加え、画面の暗さからか場所の区別のつけにくさもある上に、俳優陣に馴染みの薄い人が多い事などもあり、誰がどこで発言しているのか、一度見ただけではにわかに判断しにくくなっている。

おそらくそれは意図的な演出なのだとは思うが、分かりにくいのか?と言われればそんな事もなく、混乱の中で苦悩する昭和天皇をはじめ、阿南、鈴木と言った主要メンバーたちの凛とした姿は焼き付く。

画面はハリウッド流の陰影を強調した深みのあるものになっており、演じている役者も、知名度より雰囲気のある人物を中心に選んでいるように見える。

戦後教育を受けた目線で見てしまうと、青年将校たちの行動や考えは、考えの足りない愚かな行動、もしくは狂信に写る。

しかし、それは、歴史のその後を知っている目で見ているからであり、当時の彼らは全員、終戦を迎えた後、日本がどうなるのか、天皇陛下がどうなるのか、誰も予測できない状態だった訳である。

立場の違いはあれ、陛下を守るため、日本を守るためと全員が信じていたのだと思う。

そこに、この一連の出来事の悲劇制がある。

その矢面に立たされたのが阿南陸相で、彼の一見優柔不断に見える態度に、その苦悩を見て取る事が出来る。

そんな彼も、守ろうとしていたのは、天皇であり、その背後にある日本の未来だったはずだ。

岡本版も名作だったが、本作もまた名作だと思う。
▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼
2015年、「日本のいちばん長い日」製作委員会、半藤一利原作、原田眞人脚本+監督作品。

※劇中で飛び交う会話などに難解な言葉や聞き取れないものなどが多いため、この文字起こしはかなり不正確である事をご承知おきください。

キャスト(菊の御紋が付いた門を背景に)

タイトル

部屋から出る東条英機(中嶋しゅう)

1945年4月

組閣

どうか一つ御願いできませんか?と話しかけられ部屋を出てきた鈴木貫太郎首相(山崎努)に、鈴木閣下と部屋の前で呼びかけたのは東条だった。

海軍出身の総理では陸軍はそっぽを向きますよ。

陸軍がそっぽを向けば内閣は崩壊だ!と東条が言ってきたので、私は誇示致しました…と鈴木は答える。 東条閣下、陸軍がそっぽを向くとはどういう事ですか?聞き捨てなりません!兆しがあると言う事ですか?と聞くと、ない事はないと東条は答える。

その時、岡田啓介海軍大将(吉澤健)が、この困難の時局にあっていやしくも大命を拝したものに対して、そっぽを向くとは何事だ!と東条に対し怒声を上げる。

大命を拝した訳では…と鈴木は否定するが、岡田大将は東条に、国土を防衛する責任は誰にあるんだ?陸海軍の他にはないんだぞ!と言うと、その懸念があるからご注意ありたいと言っただけですと東条は譲らない。

懸念すべきはだ、国民が軍に対してそっぽを向きつつあると言う事だ!と岡田海軍大臣に言い捨て、東条は部屋の中にさっさと入っていく。

岡田さんが言っている事は正論だ。しかし、東条さんが言っているのも一理ある…、侍従長として7年も陛下の御話し相手を務めてきた橋月閣下ではありませんか、思う所を存分におっしゃってください。

陛下はこちらですと侍従長は鈴木を案内する。

昭和天皇(本木雅弘)は、日本では動物学と名のつく研究範囲は、海産の無脊椎動物と生理学と定められている…と言うので、牛や馬、豚は動物学ではございませんか?と藤田尚徳侍従長(麿赤兒) が尋ねると、ああ…、それは畜産学科だねと陛下は御答えになる。

そこに、鈴木がやってきたので、卿に組閣を命ずると陛下は告げる。 しかし鈴木は、私は老齢77歳にして、政治には疎く、耳も遠く、内閣の首班としては不適当ですと申し出る。

すると陛下は、その鈴木が耳に手を添える真似をなさり、耳が聞こえなくても良い…とおっしゃる。

鈴木は軍人が政治に関わらぬ事を明治天皇に教えられ、今日までモットーとして参りました。何とぞこの一事を拝辞のお許しを願っております…と鈴木は頭を下げる。

鈴木がいて、阿南がいた…と陛下は、遠くを見つめるような顔をなさり仰せられる。

(回想)あの年月が今は懐かしく思う…(と陛下の独白)

陛下が神宮を拝礼なさっていた時、背後に控えていた閣僚の中から一人が前に進み出て、陛下の軍服の後ろの乱れを直す。

それが阿南惟幾陸軍大臣(役所広司)であった。 列に戻ってきた阿南を、驚いたように見る鈴木

(回想明け)鈴木に近づいて来られた陛下は、もう人がいない…、頼むから、どうか気持を曲げて承知してもらいたい…と仰せられる。

皇居から、焼け野が原になった東京の町中を車で帰る鈴木。 帰宅した鈴木は、困った事になった…と出迎えた家人に伝える。

孫たちが疎開して、うちは火が消えたようだね…と鈴木はつぶやく。

こうなった以上、私は農水省を辞めますと長男の一(小松和重)と言い出したので、辞めてどうするんです?と一の妻の布美(小野愛寿香)が聞くと、秘書官としてお父さんを助けるんだよと答える。

そうか…、そうしてくれるか…と鈴木は感謝するが、格下げですね…と布美は言うので、格下げです…と一が答えると、この年で秘書なんて…と布美は不満そうにつぶやく。

妻のたか(西山知佐)が着替えましょうと音の鈴木に呼びかけると、また狙われるな…と、着替えながら鈴木はつぶやく。

何発撃たれても平気でしたから、次も平気ですよ…とたかは、諦めたように言う。

頭と心臓と肩と足の付け根だったな…、足の奴は睾丸まで入り込んで…と一が思い出す。

鉛玉、金の玉をば通しかね…と鈴木が言うと、たかは診察なさった塩田先生が御詠みになったのよ…と笑い出す。

問題は陸軍大臣ですね…と一が言うと、御上は阿南が懐かしいと言われた…と鈴木が言うので、阿南?と一は聞き返す。

阿南惟幾陸軍大将の事です。お父さんが侍従長の時、4年間だけ侍従武官でした…とたかが教えると、じゃあ、陸軍大臣は決まったも同然ですねと一は言う。

そうかな?と鈴木が言うと、そうですとたかも同意し、陛下は私が教育係を務めた幼少期から周囲を気遣ってそっとものをおっしゃるのよ…と言う。

その時、空襲警報が鳴りだしたので、父さん、頭巾!と一が言い、布美がはい!と答え頭巾を取りにいく。 一は、灯火管制をするように、電気!と命じる。

翌日、車でやって来た鈴木を部屋で出迎えた梅津美治郎陸軍大将(井之上隆)は、わざわざお越し頂かなくとも連絡を頂ければ…と恐縮すると、組閣が急務ですので…と鈴木はソファに座りながら答える。

既にどなたか入閣されましたか?と梅津大将が聞くと、まずは陸軍大臣からと思っておりますと鈴木が答えたので、誰か心当たりは?と梅津が問いかけると、阿南惟幾大将を入閣させていただきたいと鈴木が申し出たので、理由を御聞かせ願えますか?と梅津は言う。

侍従武官時代から人柄を良く知っておるので…と鈴木が言うと、分かりました、すぐ陸軍三長官会議を開いてすぐ結論を出します、このままお待ち願えますか?と梅津は答え、部屋を後にする。

三長官会議の部屋に来た梅津大将は阿南を名指ししてきたと、先に待っていた二人に告げる。

予想通りですねと一人が答えると、阿南の入閣に異議はありませんが、あっさり受けるのもしゃくなので厳しい条件をつけましょう。

戦争の完遂が第一、新内閣が和平論に引きずられたら困ると部屋にいた二人は意見を言う。

第二は?と梅津が問いかけると、戦艦大和が沈み、海軍はアメリカ海軍と対等に戦えない状態です。

今こそドイツ式の陸主海従を押し進めましょう。主人は陸軍!無論海軍は家来ですなどと言い出したので、そんな説教は出来ん!陸海軍一体化くらいの条件で良いと梅津は反対する。

そんな程度では、海軍は米内を留任させ、同等と主張します。閣下がなされた苦労を阿南に押し付けるだけですよと言うので、第三は?と梅津は聞く。

第三!、本土決戦必勝のため、陸軍の基をする諸政策を具体的かつ躊躇なく実行する事…、鈴木は梅津から渡された条件案をソファで読み上げる。

良く分かりました、陸軍の意向に沿うよう、極力努力致しましょう…と言うと鈴木は立ち上がる。

この後、航空総監部の阿南大将を訪問しますが、宜しいでしょうか?と、秘書になった一が聞くと、阿南大将は本日三鷹の自宅です。長女の婚約者を見定めると言っておったようですなと梅津大将は答える。

陸軍省を帰る鈴木を見かけた将校は、予備役の海軍大将が何しにきたんだ?と、鈴木を階段の所で見送った同僚に聞く。

軍務課の隣の軍事課の部屋にやってきて、今度の陸相は阿南さんだぞ!と知らせた竹下正彦(関口晴雄)の言葉を聞いた畑中健二陸軍少佐(松坂桃李)は、これで本土決戦の弾みがつきますね!と喜ぶ。

部屋の仲間たちも、陸相は阿南さんで決まりだ!と言う報告に、これで志気が上がるぞ!とみんな沸き立つ。

その頃、阿南邸では、阿南の妻の綾子(神野三鈴)に弟の正彦から電話がかかってきていた。

鈴木総理がそっちに向かったから、義兄さんが陸軍大臣だよと軍事課の部屋から正彦が伝える。

まだ決まった訳じゃないでしょうと綾子が言うので、決まったも同然さ!すぐに参謀総長から連絡が来るので電話を切るよと言い、正彦は一方的に電話を切る。 居間では阿南が孫たちとトランプに興じていた。

そんな居間から聞こえてくる夫と息子たちの声を廊下の電話の前で聞いていた綾子は複雑な顔になる。

お父さん、帝国ホテルの婚礼の件だけど…と、長女の喜美子(蓮佛美沙子)が、婚約者の秋富(渡辺大)の顔色をちらりと見て切り出すと、おう!と阿南は応じ、どかん!と派手にやるぞ…と言うと、いや…、空襲も激しくなってますし、時節柄自粛すべきなんじゃないかと思いますが…と秋富が提案すると、秋富君、うちはね、次男惟晟が一昨年、20で戦死した…、どんな状況で死んだのか良くわからん…、こんな時節だから、出来るときに出来る限りの事をしておきたいんだよ。正々粛々とやろう!と阿南は言う。

秋富は素直に、はいと答える。 その時、部屋に入ってきた綾子が、あなた…と阿南に呼びかける。

桜並木の道を車で阿南邸に向かっていた鈴木は、本土決戦となれば、桜はもう咲かないな…と窓の外を見ながらつぶやく。

軍服に着替え、家で庭を眺めていた阿南に、鈴木総理が到着されましたと綾子が伝える。

聖断

首相官邸に、自転車を押しながらやってきた迫水久常内閣書記官長(堤真一)は、枕を持参していており、枕だけは自分のでないと…、焼けだされたときもこいつだけは持って逃げましたと出迎えた一に答え、書記たちの部屋は二階だと教えられる。

その頃、鈴木はルーズベルト急死の件で新聞記者の取材に応じていた。

今日の戦争でアメリカが優勢であるのは、ルーズベルト大統領の指導力がきわめて優れているからです。その偉大な大統領を本日亡くしたのですから、アメリカ国民にとっては非常な悲しみであり、痛手でありましょう…、ここに私は、深甚なる弔意をアメリカ国民意申し上げる次第であります…と鈴木は答えていた。

そんな鈴木の様子を、二階に案内されていた迫水は少し立ち止まり、興味深げに眺める。 しかし、大統領の死去によって、アメリカの戦争努力が変わるとは思いません。より激化するとも思われます…と続ける鈴木の姿を迫水はじっと見つめていた。

戦争の記録映像が、三分割マルチ映像で映し出される。

ヒトラー死亡を報ずる海外の新聞

空襲の火災から逃げ惑う民衆の姿

落下する焼夷弾

敵機250機侵入!出来るだけ早く退避を!と報ずるラジオ

官邸の窓から空襲の様子を見ていた書記は、もうすぐ来ます!と報告する。

懐中電灯を持った迫水は他の書記たちに、空襲の間、窓ガラスが焼けて壊れないように水をかけ続けましょう!と指示を出していた。

外に出た迫水は、避難所から出てきた鈴木から、迫水君も無事で良かった!皇居は?と聞かれたので、両陛下はご安泰ですが、直撃を受けた参謀本部の部屋が宮城の方に飛び火して…と言うと、燃え落ちたのか?と鈴木から聞かれたので、宮殿は焼け落ちました。

外宮省も消失ですと答える。 鉄塔の火の見やぐらが残っている… 下村大臣と会いますと鈴木が言い出したので、車をまわします…と?と秘書が走っていく。

こうなったら、最後の一兵まで戦うしかないのでしょうか?と迫水がつぶやいても、鈴木は何も答えなかった。

数日後、官邸に集まった下村宏情報局総裁(久保酎吉)が、ワシントンポストは東京は焦土と化す、宮城は大破などと書いてますが、アメリカに宮城を焼く意思はありませんなどと雑談を始めたので、左近司政三国務大臣(鴨川てんし)が、宮殿消失はいわば燃え殻一つでしょうなど返事をするので、のべ1万人が火と戦いましたと言いながら書類を持った迫水が通り過ぎる。

消防、警察、近衛兵合わせて33名が犠牲です…と下村報局総裁。 この話は陸軍大臣と海軍大臣の前ではご遠慮くださいと一が頼んで来たので、どうして?と左近司が聞きかえすと、お二人は互いに宮殿消失の責任をとって辞任すると強硬におっしゃってますと一が言うと、ありゃあ説得するのにえらく苦労したね…と鈴木が笑う。

阿南は終わった話を蒸し返す男ではありませんと安井藤治国務大臣(山路和弘)が言うので、君たちは同期だったね?と左近司が指摘する。

下村が主馬寮には二度焼夷弾が落ちていますと言うと、はぐれ焼夷弾です、戦争にはそう云う偶然がつきものですなどと左近司が受け流す。

ところが、不思議な事にB−29の乗員地図には球場内は一カ所だけ×印が着いていたんですと下村が言うので、主馬寮ですか?と迫水が言葉を挟むと、狙って落とした跡があると下村は頷くので、主馬寮は御陵入寮所の資料倉庫でしょう?何のために?と迫水は不思議がる。

訓練でしょうね、いざという時のと言いながら阿南がやってくる。

海軍省が焼け、閣僚の官舎も半分は焼かれた…、住まいも見つけなければいけません…と鈴木はぼやく。 外務省と言えば、川合玉堂の絵も焼けました。僕は大好きだった…などと下村が懐かしむ。

その時、国務大臣3人と陸海省を集めて何の懇談会ですか?と言いながらやってきたのは米内光政海軍大臣(中村育二)だった。

これは下村宏情報局総裁と左近司国務大臣の要請です、戦局の見通しと時局の将来についてざっくばらんに話し合えたらと思いますと説明しながら、迫水が椅子の用意をする。

陸海軍一体化の話でしたら論ずるまでもありませんと米内海軍大臣が言うので、本土決戦も近いんです、もっと柔軟に考えましょうよと阿南が諭す。

英国式の海主陸従にしたいと言うのであれば聞く耳はあるが…などと米内が言い出したので、海軍が主流になるわけないでしょう。陸軍には無傷の将兵が国内国外合わせて600万もおるんですと阿南が言うと、何を持って無傷と言うんだ!と米内は反発してくる。

陸海軍はもはや手足をもがれたも同然じゃないか!と米井が言うと、手足をもがれているのは海軍でしょう。

その海軍と比較して陸軍は無傷だと申し上げているのです!と阿南は答える。

精神論だけで国を守る事などできん!と米内が言うと、精神論の話など話していません!私は海種陸従はあり得ないと言っていると阿南も熱くなる。

左近司が2人をなだめようとするが、海軍は手足どころか金玉もとられている!と阿南が暴言を吐いたので、金玉とは何だ!と米井も激高するが、鈴木首相も頭を抱える。

6月12日

宮中では、本日も雑炊でございますと朝食の席で侍従が天皇に伝える。

天皇は皇后陛下(池坊由紀)と食事を始めようとするが、侍従たちが立ち去らぬので、何か?と不思議がると、食料事情は民間の方が多少は融通が利きますので…、侍従各自が自宅から弁当を持ち込み、陛下のお食事に陪席させていただけたら…と思いまして、君臣語り合う長年の美風をいささかでも回復できるのではと思います…などとと侍従たちが説明するので、皆に食事の心配をさせて気の毒に思う…、しかし弁当の会食とは良い考えだ、ありがとう…と陛下は礼を述べられる。

軍務課の井田正孝陸軍中佐(大場泰正)の所へやってきた畑中少佐は、井田さん、古賀近衛師団参謀の相談に乗ってやってもらえませんか?と声をかける。

久保って、東条閣下のお嬢さんと結婚したあいつか?と、井田の隣にいた椎崎二郎中佐(田島俊弥)が聞くと、気さくで良い奴ですと畑中少佐は言う。

畑中少佐が呼び寄せると、近づいてきた古賀秀正近衛師団参謀(谷部央年)が井田に名乗って挨拶をする。

内省関係の防空施設を構築するため、軍の資材・合材を御願いしに参った次第でありますと古賀は言う。

どこに作るの?と井田が聞くと、軽井沢ですと古賀は答える。

のどこ?と椎崎中佐が聞くと、計画担当者はスイス公使館の隣が良いのではないかと申しておりますがと古賀は言うので、浅はかだな…と井田が嘲ると、中立国の安全性にあやかろうと言うんだろう?浅はかだよ…と椎崎中佐も言う。

良く和尚さんが許したな?と井田が言うと、森師団長は井田中佐に聞いてみろとおっしゃったので…と古賀が言うと、資材・合財は御断りすると井田が即答したので、古賀は、分かりました、失礼しますと挨拶し、即座に帰ってゆく。

一刀両断ですね…と畑中少佐が井田に言うと、陸相だって同じことを言うさと井田が答えると、俺もそう思います、でも良い奴でしょう?古賀…と畑中少尉が聞くと、ああ、汚れっぷりが良いと井田は認める。

6月22日

御文庫地下防空壕

岡部長章侍従(中村靖日)に先導され、やって来た鈴木首相らは、天皇御臨席の席に付く。

これはあくまで懇談である故、今日は最高戦争指導会議の6名に加え、木戸内大臣にも同席してもらいたいと天皇が口火を切られる。

去る6月8日の会議で今後の戦争指導要綱は決まり、4日前の会議では、陸相と統帥部両総長は本土決戦で勝利を挙げた上で和平交渉をなすのが可であると主張した。 ため、3月から5月にかけての空襲で東京の半分は焼け野原となった…。 今は地方都市への空襲が続いている。

この際、従来の概念にとらわれる事なく、戦争の終結に付いて速やかに具体的な研究を遂げ、これの実現に努力するよう希望する…と陛下は述べられた後、退席される。

その後、今日は陛下から、我々が心で思っても口にするのは憚られる和平に対するお言葉を直接御聞きする事が出来た。誠にありがたい事です…と鈴木首相が言う。

その直後、阿南閣下、ちょっとと呼ばれた阿南が席を立ち鈴木首相のそばに近づくと、他のものたちは退席していく。 通路で待っていた阿南の前に現れたのは、退席したはずの天皇だった。

5月の空襲で帝国ホテルは休業していたと聞くが結婚式は無事すんだのか?と陛下が聞いて来られたので、はっ!九段の軍人会館に急遽会場を移しまして、何とか!と阿南が答えると、良かった、良かった…と頷かれた陛下は帰っていかれる。

ある日、東条が阿南を訪ねてやってくる。

水際作戦で九州に出張しております!と留守番をしていた将校が答えると、陸相の部屋にずかずかと入り込み、壁にかかっていた額を見るなり、余が陸相だった頃はこんな額はなかった…と言い出す。

正眼禅師の言葉です!狂人が1人走り出すとそうでない人間も走り出すと言う…と将校が答えると、そんな事は知っとる!と東条は語気を荒げる。

そして、阿南君が持ち込んだのかね?と冷めたように聞く。

その頃、陸軍省の軍務課内では、かつて中国で野戦軍の指揮を執った時に、阿南閣下はこうおっしゃったそうだ、積極ハ如何ニ努メテモ猶ホ神ノ線ヨリ遠シ…と、将校が話していた。 その言葉を聞いた畑中少尉は感心する。

勝利は攻撃精神に徹してこそと信じて疑わない人が…と竹下中佐が言うと、あれだけ部下を殺しても恨まれなかったのは野木大将と阿南大将だけですと井田が言うので、不愉快な言い方をするな!と竹下は注意する。

ビアク戦線を考えろ、南方戦線に阿南閣下は15000の兵を送り込んだ、結果、捜索隊に収容された生存者は90人ですと井田が指摘すると、ビアク玉砕は統帥が麻のごとく乱れたからだ…と竹下中佐が指摘している時、東条がやってくる。

部屋に入り軍帽を畑中少尉に持たせた東条は、楽にしてくれと言うと、陸軍大臣が留守だと言うので、君たちに一つ忠告しておく。昨日の陛下の御発言の事だ。勤王には二つある。狭義と広義だ。 競技では、陛下より和平せよとの勅命あればこれに従う。広義の解釈では国家永遠を考える。 例え陛下より仰せられるも、まず諫言し奉る。それでもお許しなくばどうする?どうする?と東条が将校たちに聞くので、強制し奉りても初心を断行すべし!と答えた将校がいたので、貴様、名前は?と東条は聞く。

椎崎二郎であります!と椎崎中佐は答えると、良く言った!椎崎中佐!と東条は褒める。

強制し奉りても、初心を断行すべし!余はこれを取る!君たちはいかに心得る?と東条が聞くので、積極ハ如何ニ努メテモ猶ホ神ノ線ヨリ遠シであります!と畑中が答えると、何?と東条は聞き、本土決戦、徹底抗戦あるのみと信じます!との声があがったので、良し!と東条は答える。

そして東条は、軍事課長!このやり取り、そのまま陸軍大臣に伝えておくように…と命じ、軍帽を持った畑中を睨みつけながら防止を受け取ると帰ってゆく。

宮城内吹上御苑

天皇は散策をしておられる。

一方、阿南は、弓の稽古に励んでいた。 そこにやって来た安井中将は東条さんはやる気満々だね…、あちこちで火を点けてる…と話しかける。

うちにも来たそうだ…、若いのが何人か火を点けたらしい…と阿南が答える。 ヒメジオンは見つけ次第、採らないといけないね…と御苑で植物を観察なさっていた陛下はおっしゃる。

ドクダミなど日本固有の雑草は隣近所と共存共栄の慎ましさですが、外来種は非常な繁殖力がございますね…とお供のものが答える。

言いたい事があれば言え、安井!と稽古を終えた阿南が勧める。

地方の豪族にすぎない楠一族が天皇を御守りするため、数万の敵軍に挑んだ姿は日本軍人の鑑だ…と安井は言い出す。

だから銅像も宮城の南を守ってる。 だが、今、楠一族はいらん…と安井が言いながら阿南の横に座り込んだので、戦うなと言うのか?貴様…と阿南は聞く。

この戦は応仁の乱だね…、もう15年も続いている…と言いながら、天皇はヒメジオンを引き抜かれる。

しかし、どうやったら戦争を集結させられるか…と、阿南は道場でつぶやく。

安井は、手帳に自ら書いた「聖断」と言う文字を差し出してみせたので、それを見た阿南は、畏れ多い事だ…と厳しい表情になる。 陛下に大元帥陛下として号令してもらうしかない…と安井は言うと、英国式の立憲君主制では許されんい、内閣が一致して検討した事に関しては反対であろうが承認するのが原則だと阿南は否定する。

総理が命を賭ければなせる!と安井は言う。 首相官邸大会議室 閣僚会議 けんけんがくがくの議論が続いていたが、そんな中、鈴木は一に、耳が悪いと言うのは便利だね、何も聞こえん…とささやきかける。

総力戦と戦う糧食はもはやない! 長野県松代への宮城移転は、二ヶ月前に結論が出ました! 戦局が変わったんです。

本土決戦の時が近づいた以上、移転は不可避だ! 陸軍大臣も同意見なのでしょうか?と迫水が聞くと、御上は国民とともに東京で苦痛を分ちたいとおっしゃっていたと記憶しますが…と言うので、帝都固守!これあるのみ!と鈴木は言い、先守は宮城内のおいて決する!と誰かが発言すると、本日の閣議は以上!これより月例会を始めますと議論を切り上げる。

それを聞いた迫水は、すぐに立ち上がり、月例会に入ります!と宣言する。

御配りしているのは上海陸戦隊の歌に、書記官長が作成しました一億総決起の歌であります!と秘書が説明する。 一億総決起は一億総拮据で頑張ろうってことかい?と鈴木が混ぜっかえす。

その後、閣僚たちが全員、その歌を唱和しだす。

閣下は600万将兵の頂点におります。心してくださいと、会議後散会して外に出た下村が阿南に話しかける。

すると、私は大本営直属の軍人ではありませんと阿南が言うので、どういう事ですか?と下村が聞くと、天皇直属です!と笑顔で阿南は答える。 その後、鈴木や閣僚、書記たちは、とある学校の武器の展示室にやってくる。

では、義勇隊用に用意した兵器をごらんください、機関銃!エンフィールド銃!手榴弾!日本刀!火縄銃!槍!刺股!袖絡み!梳、桑、鎌! その見学に加わっていた下村が、米井大臣の血圧は相変わらず高い?…と聞くと、280に達しましたと同行した海軍将校が言うので驚き、当然、遺言状は書かれておるんでしょうな?と小声で聞く。

鈴木首相も、まともな兵器はもう残ってないのだね…と嘆息するんおで、まともな思考力がもう日本には残ってませんよ!と迫水が苛立たしそうに言うと、しーぃ!と鈴木は慌てて一本指を口の前に立ててみせ、鍋の火加減は慎重に…、小魚はすぐに煮崩れするからね…と忠告する。

阿南は、学校の窓から見える、女子たちの竹槍の稽古を見て暗澹たる思いに駆られる。

しかし、そうした中、全国民は火の玉になって敵に当たる覚悟がある!などと言った言葉が聞こえてくる。

7月27日

ポツダム宣言発令:日本に対し無条件降伏を勧告

この通知状にはソ連の首相が名前を連ねておりません。

故に、現在行われている大作をすっぽかして、ポツダム受諾は好ましくないと考えております…、閣議ではポツダム宣言の内容を読み、閣僚から意見が出る。 最後通牒でもないですな…、日時の制限も書かれておらんし…左近司が言うと、陛下は原則として受諾するしかあるまいとおっしゃっておる訳で…と鈴木首相も発言する。

国体護持に関しての確証が全く与えられていない以上、拒否を明らかにすべきです!と阿南は語気を強める。

確かに知りたい事は書かれていない…との声 政府の方針としては静観…、もしくは黙殺ですかな…?と鈴木首相

広島に原爆投下

8月9日

5時35分

広島の新型爆弾に注いでソ連参戦ですか…と、首相官邸内では一が頭を抱えていた。

もう、何でもありってことなんでしょうね…と迫水が答える。

広島では多くの国民が犠牲になりました。今度は内閣が勧めていたソ連を解しての和平交渉が見事に裏切られた訳ですから、本質の責任上、総辞職をするのが順序だと思いますと東郷茂徳外務大臣(近童弐吉)が鈴木首相に勧めると、鈴木は、辞職はしません!その戦争はこの内閣で決着です!と即答したので、側にいた迫水は驚く。

陸軍大臣が総辞職に追い込むのではありませんか?」と東郷が案ずると、阿南さんは…倒れません!と鈴木は答える。 8時38分 東京陸相官邸 今日の閣議は荒れるでしょう…と竹下正彦中佐が聞くと、うん…荒れる!と軍服を着替え終えた阿南が答える。

原子爆弾恐るるに足りずです!ぜひとも本土決戦を!と正彦が声をかけた時、外で掃除をしていた絹子(キムラ緑子)が戻ってきて、秘書官の林さんが御見えになりましたと阿南に伝える。

絹子さん、今日、綾子が着替えを三鷹の言えから持ってくるので、外出するときには鍵をかけないでくださいと阿南が声をかける。

そう云う訳にもいきませんので、奥様を御待ちしますと絹子が答えると、いや…、綾子がそう言ってくれと…と阿南は気弱そうに言う。

一方、首相官邸に戻ってきた鈴木首相が、陛下に詳しいご報告を申し上げてきた…と言うので、迎えた迫水は、ポツダム宣言受諾ですか?と聞く。 鈴木はうん…と答え、水を求める。

さらに陸軍は?と迫水が聞くと、最高戦争指導会議次いで閣議を招集します。

その後抜き打ち御前会議をして、御聖断をあおぐ所存ですと一は教える。

憲法運行上の規範を破る事になります!と迫水が驚くと、ルールを破る!大元帥命令によって軍を押さえる!と鈴木は言い放ち、ウインクしてくる。 国の方針を陛下の意思で決したら…と迫水がおののくと、必然的に陛下にして大元帥に全責任が生じます。

しかし、陛下に責任を負わすことは出来ません。皇室の最高責任者たる総理大臣が一命を投げ出してかかりますと一は説明する。

臣下がやってはいけない事だ、死刑は覚悟している…と鈴木は言い、それぞれの段取りを考え、間違いないように運んでくれ!と受け取った水を飲むと迫水たちに頼む。

海軍省

仮庁舎

自転車でやってきた迫水は、御前会議開催の場合は必ず事前に連絡しますと豊田副武軍令部総長(井上肇)に申し出る。

大西!事実未記入の書面にさ、花押署名しろって言うんだよ!と豊田が聞くと、近づいてきた大西瀧治郎軍令部次長(嵐芳三郎)は、署名したら良いんですよと言い、書記官長!とにかく戦争を続ける方策を考えようよ、あんた大番頭なんだから、2000万人の国民を特攻で殺す気なら、必ず勝てるんだ!などと迫水に言ってくる。

10時10分

その後、陸軍にやってきた迫水は、梅津参謀総長の花押証明は頂きましたと告げると、御前会議が正式に最高戦争指導会議として成立するためには、総理大臣と統帥部の両総長の3人が念書し、花押を添えた期日貴面を宮中へ打診…、宮中が大本営に打診が入る…などと吉積正雄軍務局長(桂憲一)がうるさい事を言い出したので、ですから問題は緊急対応なんです!そうでなくとも、総理は相当体調を崩されております!と迫水は説明する。

かなり悪いの?と吉積が聞いた時、吉積!行くぞ、参謀総長がお待ちだと阿南が出てきたので、必ず事前連絡を!と吉積は念を押し、阿南は迫水にも、ご一緒に!と誘う。

梅津陸軍大将と阿南らが、陸軍省を出ようと階段を降りかけたとき、下に整列していた畑中少佐ら青年将校が、命を賭けて本土決戦を御願いします!と願い出てくる。

阿南たちは、その青年将校たちが列を開けた道を通って外に出る。

11時20分

戦争指導会議 広島の原爆と言いソ連の参戦と言い、これ以上の戦争継続は不可能であると考えます。ポツダム宣言を受諾し、戦争を終結させる他はない。ついては各員のご意見を承りたい!と鈴木首相がまずは発言する。

しかし、なかなか誰もいけんを発しないので、黙っていては分からんよ!と米内がじれたように言い出す。

ポツダム宣言を無条件で鵜呑みにするか、それともこちらから希望条件を提示するか?と米内が言うと、まずは国体の護持の確認ですと阿南が発言する。

天皇の国務上の地位を変更しない!と鈴木。

占領は小兵力小配、武装解除は日本人の手で行う!と阿南が言うと、あり得ない!と米内が口を挟む。

軍人にとって武装解除は屈辱的であり危険です!この条件が入らなければ船倉継続の他ありません…と阿南は言う。

死中に活を求める戦法に出れば、正気は必ずあります!と言う阿南に対し、希望的観測でものを言うのは止めたまえ、日本は事実上敗北してるんだぞ!と米内は言う。

敗北とは聞き捨てなりませんと阿南が反論すると、この状況を敗北と言わずして、何が敗北だ!と米内が語気を荒げると、局地的会戦では負けています、が、戦争には負けていません!と阿南は言い張る。

大日本帝国陸軍は明治4年の創立以来、一度も戦争に負けた事はない!こんな理論で敗北を受け入れるわけにはいかない!と阿南が言う。

その時、迫水がああ!と声を上げたので、どうした!と聞くと、11時2分に2発目の原子爆弾が長崎に投下されました!被害は広島と同じく甚大であります!と迫水は答える。

その後、天皇に謁見した鈴木首相は、戦争指導会議では結論が出なかったので、これより首相官邸に移動し閣議に入ります。おそらく深更まで議論を重ねても結論は出ないと思われます。

その場合、陛下のお助けを御願い致します…と頭を下げる。 私の名によって始められた戦争を私の本心からの言葉で収集できるなら…、ありがたく思う…と陛下は仰せられる。

歩いて帰っていた阿南に、閣下!お車!と駆け寄ってきた吉積に、首相官邸まで歩く!と阿南は答える。

その道の横で車を修理していた大西軍令部次長が、阿南大臣!皇族を訪問して戦争継続を御願いしとるのですが巧くいかんのです、車も燃料切れですと自嘲気味に話しかける。

海軍大臣はとっくに官邸へ移動したよと阿南が教えると、米内大臣は腰抜けです、陸軍大臣に期待するしかありません。手中に活を求める戦法は私と同じです。

特攻あるのみ、2000万の国民特攻隊で戦えば神風が吹く…などと話しかけてくるので、誤解するなよ、中将、死によってのみ遂行される作戦は、武士の情けに欠ける。統帥の道にも外れる。行軍精神への冒涜だ!と阿南が言い聞かせると、冒涜!と気色ばんだ大西は、腰の小刀に手をかけたので、海軍大臣の立場もあるぞ、この話以上!と言い、阿南は立ち去ろうとしたので、 ただ真なれ、真なれ、真、真で真なかりし…と阿南がつぶやくので、あんた何考えてるんだ!訳分からんよ!このまま終戦なら、大和民族は死すたるも同然ですぞ!と大西は背後から罵倒してくる。

官邸での閣議は、鈴木の予想通り何の進展も見せなかった。

受諾は次期尚早!尚早とは何だ!と言った怒号が飛び交うだけ。

我が国がなす事は戦争終結です!と安井国務大臣が言うと、筋道から言えば、内閣は総辞職するべきですよ、総理!いかがお考えですかと言うものが出てくる。 直面する重大問題を私の内閣で解決する決心ですと鈴木は答える。

筋道から言えば、この内閣が総辞職したら国が崩壊する。

そんな無責任な人間がここにいるのかね?と左近司国務大臣が言う。

その時、暫時、陸軍省に戻りますと、メモを読んだ阿南が鈴木に断って席を立つ。

21時40分

閣下!と廊下で呼び上げられた阿南は、何があった?と聞くと、竹下正彦は決起案をまとめましたと言い、書面を阿南庭足すと、全国に戒厳令を敷き、内閣を倒して軍事政権の確立を目指しますと言う。

閣僚の席で一は鈴木にさりげなく近づくと、そろそろいかがでしょうか?と小声で伺うが、阿南陸相が戻ってから…と、鈴木小声で答える。

阿南は一人で決起書を読んでいた。

やがてその阿南が部屋に戻ってきたので、鈴木が迫水を呼び、御前会議の段取りは?と聞く。

はい、総理と統帥部の両総長の3人の列記に花押を添えた書類をいつでも宮中に提出できますと迫水は答える。

これから参内するので、閣僚はしばらく待機されたい!と言いながら席を立ち上がった鈴木首相は、部屋を後にする。

迫水君!統帥部には事前連絡したのかね?と閣僚たちはざわめきだすが、ですから念書と花押は頂いておりますと迫水はごまかす。

迫水君、これは大本営条項に違反してないか?と阿南も聞いてくる。

本日の会議は結論を出すと言うものではなく、実情をそのまま陛下に聞いていただくものと考えておりますと迫水が答えると、だったら閣僚を待機させる必要はないと阿南は言う。

御前会議には平沼枢密院議長にも列席していただく訳で、ならば、そこで出た決議を閣議にかける体裁を整えるよう、皆様にも待機を御願いしろと…と迫水は苦しい説明をする。

阿南は、分かった…と承知する。

平沼さんが評決に加わると4対3になるな…と米井が話しかけると、普段から賛否がはっきりしない方ですから…と迫水は答える。

こういう時に限って妙に張り切るぞ、あの爺さん…と米内は言う。

そこはもう首相に任せるしかありませんと迫水が答えると、遺言状は加筆する事で自分はよく見ています…と下村も話に加わってくる。

会議の内容は逐一参謀たちに漏れていると安井が阿南に話しかけると、分かってる…と阿南が言うので、全軍が貴様の一挙手一投足を注視している。

陸相が孤軍奮闘している限り、クーデターは起こらないと安井が言うので、そのつもりでやっている…と阿南も答えるが、足りない!と安井は叱責する。

8月10日 ソ連は不審の国、米国は非人道の国、こんな敵共に保証もなきまま皇室を任せる事は絶対に出来ない!一億枕を並べて倒れても、大義にいくべきであります!ただし、4条件で戦争が終結できるのであればポツダム宣言受諾に賛成致します…と阿南は閣議で発言する。

それでは参謀総長、ご意見を!と鈴木が指名すると、陸軍大臣と同意見です、本土決戦の準備は既に完了しておりますと 梅津参謀総長は答える。 私はですね、自分の意見を言う前に、国体の護持を求める軸に問題があると思うんですね…、天皇統治の体系は、国法によって定められたものではなく…と長々と平沼騏一郎枢密院議長(金内喜久夫)がしゃべりだしたので、それで、枢密院議長はどちらに賛成ですか?と鈴木が問うと、外務大臣の原案に同意ですと答える。

連合国への要望は、陛下の国法上の地位護持を一点に集中すべきであります。しかしながら、陸軍大臣の4か条も至極最もなるが故、これも十分に考慮したい…、以上と平沼は話を終える。

議を尽くす事、既に2時間に及びましたが、戦争指導会議の6名は3:3のまま議決する事が出来ません。しかも事態は一刻の遅延も許さないのであります。この上は、誠に異例で畏れ多い事でございますが、御聖断を拝しまして、本会議の結論にしたいと存じます…と、立ち上がった鈴木首相が発表する。

そして、天皇の前に進み出た鈴木だったが、席に復して良いと天皇が語りかけられると、耳に手を当て、は?と問い返す。

席に復するよう…と再度陛下が繰り返された時、席を立ち上がった阿南が進み出て、鈴木の背後に立つと、手を添え、そのまま鈴木を元の席に戻す。

天皇は、それならば、私が意見を言おう…、私は外務大臣の意見に同意である。

このまま本土決戦に突入すれば、日本民族は死に絶えてしまう…、私の任務は、祖先から受け継いだ日本と言うこの国を子孫に伝える事である。

1人でも多くの日本国民に生き残ってもらって、その人たちに将来再び立ち上がってもらう他、道はない… このまま戦争を続け、文化を破壊し、世界人類の不幸を招く事は私の望む所ではない…と陛下は仰せられる。

海上を飛ぶ戦闘機の編隊

9時30分

陸軍省

防空壕

阿南を前にした陸軍将校たちがざわめいていた。

黙って聞け!の喝が入る。

御前会議の席で主張すべき事は十分主張した!と阿南は話し始める。

大臣はソ連を不審と言い、米国を非人道となじったと聞くが、そんな連中が更なる難題を突きつけてきたらどうなさるおつもりか?との質問が飛ぶ。

堕ちるも戦うも、敵方の回答遺憾による!ポツダム宣言受諾は皇室保全の確証が得られて初めて実行される。

この条件がなければ、戦争を続ける! 陸軍は和戦両様の構えで連合国からの回答を待つ! 厳粛な空気のもと、一糸乱れず、貫徹してゆけ!と阿南は呼びかける。

重臣たちは政府の方針に賛同したと聞く…と天皇は東条に話していた。

先ほどの集まりは重臣会議ではなく、鈴木首相の決定通告でございました。東条は納得致しておりません。

改めて、ポツダム宣言反対を奏上に参りましたと東条は言う。

陛下のお好きな生物学に例えれば、軍はサザエの殻と申し上げても良いと思います。

その殻を失ったサザエは、中身も死なない訳にはいきません…と東条が言うと、東条…、一つ聞かせて欲しい…と陛下はお尋ねになる。

何なりと陛下!と東条が畏まると、椅子に腰掛けられた陛下は、サザエは学名をターボコーミュタスと言う。

18世紀に英国のジョン・ライトフット氏が命名したが、お前は、チャーチル首相がサザエを食する姿が想像できるか?スターリン元帥も…、トルーマン大統領も… サザエは殻ごと捨てるだろう!と陛下が仰せられると、東条の比喩は不適切でございました!と東条は詫びる。

ナポレオンの前生は本当に良くフランスに尽くしたが、後半生は自己の名誉のためにのみ働き、その結果はフランスのためにも世界のためにもならなかった…、私は歴史をそのように見ている…、日本はその轍を踏みたくない…、違うか?東条…と陛下は仰せられる。

東条はただ頭を深く下げ続けるしかなかった。

陸軍官邸に戻った阿南は、公子にビタミン注射を打ってもらっていた。

首相官邸に行ったら、着替えにため、官舎に回られたと聞いて慌てました!と言い、やってきたのは竹下正彦だった。

君も打ってもらったらと阿南が言うので、何です?と竹下が聞くと、ビタミンと公子は教える。

遠慮しときますと竹下は言い、公子が着替えのランニングシャツを取りに部屋を後にすると、稲葉は書状を差し出し、新聞社に流す前にぜひとも陸相の確認を頂きたいと思いまして…と言う。

その文を読んだ阿南は、陛下のご意志に反する訓示だな…とつぶやく。

陸軍中央は二つに割れていますと竹下正彦が言うと、和平派と交戦派のことか?と阿南は聞く。

陸相を担ぎ出そうと言うクーデター派と、陸相ごと内閣を倒そうと言う過激派ですと竹下は教え、双方を牽制するためにも、ここはこの訓示を出すべきであると判断しましたと竹下は言う。

首相官邸の庭先から鈴木の姿を見て、一瞬躊躇しながらも近づいてきた迫水に、受諾の文書はスイスとスゥーデンに届いた頃だねと鈴木が縁側に座って言う。

はい!と迫水が答えると、蝉時雨は格別だ…と鈴木は葉巻を持ってつぶやく。

特に今年は…と迫水が言いかけると、今度は何?と鈴木は用向きを聞く。

陸軍名義の布告が放送局や新聞社に出回ってます…と迫水は紙片を鈴木に渡して報告する。

全軍将兵に告ぐ!か…、ああ勇ましいね~…と鈴木は書面を読み始める。

阿南閣下の真意が分からなくなりましたと迫水が嘆くと、断じて戦う所、手中自ずから勝つあるを信ず、これすなわち必勝法国…と鈴木が読み進めると、将兵一人残らず楠木正成になれと激励してます、徹底抗戦の檄文ですよ、放送及び新聞掲載を阻止すべく、下村情報局総裁に強く進言しましたと迫水は言う。

下村総裁には阿南陸相と直接話してもらいなさい、本人が望むならそのまま流せば良い…と鈴木は言うので、それはあまりに危険です!と迫水が危惧すると、鈴木は平然と葉巻をくゆらせるだけだった。

下村総裁!阿南陸相にかかりました!と部下が電話連絡が出来た事を告げると、電話に出た下村は、阿南閣下、陸相布告の事なんですが、私は閣議の件を踏まえ、微妙に終戦を臭わせる不透明な談話を発表しております。

陸相訓示は戦争の継続を謳っておりますから、両方並べて掲載と言うのは…と伝える。 敵方の返答があるまでは和戦両方ですし、陸相訓示は合わせて載せてくださいと阿南は頼む。

しかしですね…と下村が困惑すると、陸軍と言うのはこういう所なんです…と阿南は言う。

…と言われましてもですね…と下村が躊躇していると、遺言状だと考えたらどうです?下村総裁は国民宛て、私は将兵に宛てて書いた…と阿南は説明する。

いや…、二つの遺言状ですか?と下村が納得しかけると、じゃあ、そう云う事でお願いします…と阿南は言い、電話を切る。

叛乱

8月11日

整列!警官隊集合!

20時30分

自宅で、2人の孫たちと一緒に入浴していた阿南に、綾子が、あなた!憲兵が大勢!と知らせにくる。

玄関を出て、何事だ!と阿南が声を掛けると、警備強化のため、憲兵を連れて参りました!和平派が閣下を監禁すると言う噂が流れております!暗殺も気がかりですと井田と畑中が交互に答える。

分かった、中で話そう…と阿南は二人を言えの中に招き入れる。

私は和平派からも過激派からも狙われているのか?と阿南が座敷で聞くと、そう云う事になりますと井田が答える。

憎むべきは和平派です、奴らは国賊です。全滅か勝利しかないときに、妥協的な国体護持などあり得ません!と畑中が熱く語りだす。

陸軍省部には終戦は大御心だからこれに従うべしと言うものもいますと井田が言うと、東条閣下が昨日午後、陛下に叱責され、矛を収めたと言う噂が立っています。

日清日露の対戦で輝かしい連戦連勝の陸軍の栄光を守り、戦争継続を遂行できるのは閣下だけですと畑中は言う。

まあ、ゆっくり飲めと阿南は、綾子が用意した酒を勧め、綾子も別室にお布団も用意しましたから…と二人に話しかける。

連合国から連絡が入るかもしれません!とそれまでは陸軍省で待機しますと畑中は断るが、せっかくだから一杯だけ頂こうと井田が諭し、二人は阿南から一杯だけ酒を注いでもらう。

閣下は飲まれないんですか?と井田が不思議がると、飲まない!と阿南は即答し、お母様がなくなって以来、お酒は断っていますのよと綾子が打ち明ける。

酒の席で良く閣下が長沙作戦の話をなさっていたのを思い出しました…、どんどん行け!と井田が言い出す。 それを聞いた阿南はどんどん行け!どんどん行け!か…と思い出したように笑い出す。

8月12日

0時15分

3時5分

正面切って、こちらの条件を受け入れる表現じゃないんですが、決して否定している訳でもない… 鈴木がポーチドエッグを食べている間、書記たちは、連合国からの回答書の内容を吟味していた。

陸軍省内でも、この回答書の「Subject to」の解釈でもめていた。

「隷属する」となってますが?と辞書を調べた将校が答えると、天皇陛下及びかの地の権限は、連合司令官最高司令官に隷属すると言う事を行ってるんだぞ、奴らは! 隷属するとは何だ!と興奮する将校が出始める。

7時33分

阿南は軍服の胸ポケットから「大君の深き恵みに浴びし身は言い残すべき片言もなし」と書かれた紙を綾子に渡すと、 第109師団を率いて中国山西省に出征するときに、陛下は私と食卓をともにあそばれた…と阿南が言うので、お二人だけで?と綾子が聞くと、うん…と阿南は答える。

侍従武官を四年間勤めたが前例のない事だった…、この恩に報いるためには戦場に散る敷かない…、そう思って詠んだ…と阿南は言うので、その詠を私に?と綾子は聞くと、もう何も恐れるものはないからね…と阿南は言う。

綾子は六男惟茂を抱いて、五男惟道、四男惟正ら息子たちと共に玄関先に来ると、夫を見送る。 阿南は陸軍大臣公用車で陸軍省へ向かう。

敵の回答は天皇の尊厳を冒涜しております!此れを受諾する事は、我が国体の破滅…、公国の滅亡を将来するものと断言できます!などと…天皇の前で意見を具申する2人の軍人

8時25分

しかし二人の意見を聞いた陛下は、議論するとなれば際限はない…、気に入らないからと戦争を継続する事はあり得ないと仰せられる。

陸軍省に到着した阿南を待ち受けていた畑中や椎崎ら青年将校たちは、ポツダム宣言受諾を阻止するべきです!などと阿南に迫ってくる。

しかし、阿南は無言で自分の部屋へ向かう。

8月13日

7時15分

天皇の前に立った阿南は、陛下の御信任が厚い波田元帥から陸軍の総意を上奏してもらうべく広島へ迎えの飛行機を出しておりますと申し上げると、阿南よ、もう良い…と陛下は仰せられる。

最終的な日本の国体の決定に、陸軍として大きな不安を抱えておりますと阿南は続ける。

そんな阿南に自ら近づかれた天皇は、心配してくれるのはうれしいが、もう良い。私には国体護持の確証がある!と仰せられる。

自宅で一人トランプ占いをしていた鈴木首相の元へ一と共にやって来た布美は、お父様、何か?と聞く。

美智子は秋田だったね?と鈴木が聞くので、はい、5月から学校疎開で秋田に行きましたと答えると、寂しがっているだろう、会いに行ってあげなさいと鈴木は言い出す。

一もすぐに出発した方が良いと言うので、でもこの大事なときに私だけ…と布美が躊躇すると、何が起こるか分からんのだよと鈴木は答えていると、突如、空襲警報が鳴りだす。

7時49分

陸軍省の軍事課にやって来た伝令は、報告します!0730時の空襲は、長野、上野方面!艦載機62機による掃射のみでした!と言うので、ご苦労と答えた将校たちは、伝令が帰ると、再会しようと声をかけ、再びテーブルに集まる。

1、使用兵力、東部軍及び防衛師団!

2、使用方針、宮城と和平派要人とを遮断する。 木戸、鈴木、東郷、米内ら和平派要人を兵力を持って遮蔽する、次いで、東京に戒厳令を布告!と畑中は言う。

3、目的、国体保持に関する我が保証権を取り付けるまで降伏せず!行使を継続する!

4、広報、陸軍大臣の金を警備上の応急極地執柄権を持って発動する。

実行には条件をつけたい!と荒尾興功軍務課長(田中美央)が言い出したので、どんな条件です?と畑中が聞くと、陸軍大臣、参謀総長、東部軍司令官、近衛師団長の四者は省略する事!と荒尾は言う。

無理です!と反論があると、貴様、負傷事件を繰り返すつもりか!と荒尾は迫る。

四者の同意がなければ、我々は理念なき逆賊に堕ちる!俺は荒尾課長に賛成ですと井田が言い出す。

陸相官邸に戻ってきた阿南は、 絹子の慌てた声に気づき縁側から廊下の方をのぞくと、青年将校らが勝手に入り込んできていた。

荒尾らは、我々の練り上げた兵員動員計画書でありますと阿南に見せる。

明14日、午前10時に予定されている閣議に押し入り、主要な和平派要人を監禁、陛下に制度の変更を迫ります。

逆賊と呼ばれても行動致しますと竹下が言うので、あらゆる事を考え抜いた上の事なのか?と阿南は確認する。

当然でありますと竹下が答えると、それにしては根本が漠然としておるぞと阿南は指摘する。

閣下の指示は頂けますか?と畑中が聞くと、今は閣議に全力を注ぐ。経過は吉積軍務局長に伝えると阿南は答える。

では、吉積軍務局長室にて待機しますと言うので、軽挙妄動は慎め!と阿南は言い聞かせる。

阿南が立ち上がったのを期に全員が立ち上がると、我々は右するも左するも、一に大臣を中心に一糸乱れず行動する決意であります!その辺は重々御安堵ください!と井田が述べる。

閣議の席上、いよいよ最後の決定をすべき段階に到達しました…、今日は皆様方全閣僚から、忌憚のない意見を賜りたいと思います。それでえは法相から順に…と鈴木首相が各閣僚たちに伝える。

秘書から耳打ちされた鈴木は、あ、ご意見は結論だけ、簡潔にお願いします!と言い添える。

受諾に賛成の意見が大勢を占める。 そんな状況を見て取った阿南は、迫水を呼び、隣の部屋に移動すると、入り口に迫水を断たせ、自分は陸軍省軍務局長室へ電話をかける。

吉積軍務局長が出ると、閣僚たちの大半は受諾反対だと阿南は嘘を伝える。

最終回論も支持しつつある…、だからね、私がそちらへ帰るまで動かないで、じっと待っていてもらいたい。ここに今、内閣書記官長がいるから、もし閣議の模様を直接聞きたければ代わるよ…と阿南が言うので、側に断っていた迫水は緊張する。

すると吉積は信用したのか、大丈夫です、閣下にお任せしますと答える。

午前0時には陸軍省に戻って、荒尾課長に決心を伝えるから、皆にそう伝言してくれと言うと阿南は電話を切るが、その途端、どっと疲れたような表情になる。

阿南とともに、閣議の席に戻ろうとした迫水を部屋の外で待っていた書記仲間が、妙な事になっています。書記官長はこれをご存知ですか?と書状を見せながら聞いてくる。

大本営が今頃こんなもの発表するはずないぞ!と迫水が驚くと、新聞社や放送局に配られているんです、ラジオは午後4時に放送するつもりですよと書記が言うので、後30分もない!と一は焦る。

放送局へ連絡して!と迫水が言うと、止めます!と良いながら一が走り出す。

迫水は、閣議の席の阿南の所へ向かい、この大本営発表をご存知ですか?と尋ねる。 全く知らない、大本営報道部の管轄は参謀本部だ…と阿南が答えると、その書面を鈴木が奪い取り読み始める。

しかし、さらに阿南がその書面を奪い返すと部屋から走り去る。

大本営、午後13次午後4時発表 皇軍新たな勅命を拝し、米英ソ連支那の四カ国軍隊に対し、作戦を開始せりだと?知らんぞ、知らんぞ、そんな命令…と電話を受け、報道部責任者が狼狽していると、私が決済しましたと申し出たのは部下だったので、何?と驚く。

参謀決裁の判があったので…と部下は戸惑いながら言う。

その直後、川辺参謀はどこだ!と大騒ぎになる。 こそくな真似をするな!と責任者は部下たちの前で怒鳴りつける。

閣議では、私は本日の閣議のありのままを陛下に申し上げ、明日、重ねて御聖断をあおぐ所存であります!と鈴木はまとめていた。

御前会議の手続きはどうします?と米内が聞くと、陛下のお召しであれば手続きは省けますと鈴木は答える。

迫水が素早く、散会にしますと宣言する。 しかし、阿南は何か苦悩しているようで席を立たなかった。

18時28分

その後、別室で休憩していた鈴木首相の前にやってきた阿南は、御前会議を開くのを、もう二日…、いや、一日待っていただく訳には行きますまいか?と問いかける。

しかし鈴木は、時期は今です。この機会を外してはなりません。どうか…、どうか…あしからず…と答える。

それを聞いた阿南は頷き、おくつろぎの所、お邪魔しましたと詫び、部屋を後にする。

阿南さんは陸軍の暴発を押さえようとと苦悩されているようです…、一日待つわけには…?と迫水が鈴木に言いかけると、一日待てば、ソ連が満州、朝鮮、樺太ばかりか、北海道にまで来る…、ドイツ同様分断される…、相手がアメリカのうちに始末を付けねばならん…と鈴木は答える。

陸軍省に戻ってきた阿南は、クーデターに訴えては国民の協力は得られないと言うので、廊下で待ち受けていた荒尾軍務課長も同感ですと言うので、君も綱渡りだったか?と阿南は聞く。

はい、どうおさめて良いか分かりません。とりあえず、よう将軍の合意を得ると言う条件だけ付けさせました。しかし、何人かは近衛師団の東部軍の若手幕僚と連絡を取り合っていますと荒尾は言う。

竹下たちには、明朝7時、私が参謀長の意見を聞くと伝えてくれ、梅津さんはクーデターには絶対反対だ。その前に森師団長、田中東部司令官、大木戸憲兵司令官と会うと阿南が言うと、手配致しますと荒尾は答える。

8月14日

5時50分

神社に詣でていた綾子は、空から堕ちてきたビラに気づき拾い上げる。 日本国民は軍人の抵抗を排除して政府と協力し終戦になるよう努力する方が将来のためでしょう…と書かれた内容を綾子は読む。

阿南は、森赳近衛師団長(高橋耕次郎)と田中静壹東部軍管区司令官(木場勝己)に会っていた。 阿南閣下も田中閣下も死ぬ…と言う森に、死ぬかどうかは俺の勝手だよ、和尚…と田中は言う。

梅津閣下は死なんでしょう…と森は続ける。 腹を切るのは痛ぇだろうな~…と田中は言い、和尚はいつ死ぬんだと聞くので、御聖断が下ったら…、同期の連中に死ねと言ってまわって、その後ゆっくり…と自分で割腹する真似をしてみせる。

そこに大木戸憲兵司令官が到着したので、阿南は3人に、若い幕僚連中が戒厳令を強く要求している…、戒厳は断固阻止ですと打ち明ける。 しかし、若い連中を罰する事は極力避けていただきたい…と阿南は頼む。

宮城内御文庫棟

11時13分

ごきげんよう!今、塩原からお帰りですか?肌もつやつやで…と入江相政侍従(茂山茂)が話しかけると、新型爆弾が堕ちたりソ連が参戦したり、こんなわやくちゃな時に塩原に一週間、内親王様と温泉につかっているのも惨めなものですよ…と、久々に東京に戻ってきた徳川義寛侍従(大藏基誠)は答える。

陛下が閣僚全員をお召しになりましたと入江が教える。

御文庫地下防空壕 陸海軍の将兵に取って、武装解除や保証千慮と言う事は堪え難い事であろう…、しかし、私自身はいかになろうとも、私は国民の生命を助けたいと思う…と天皇は閣僚たちに語りかけられる。

三国干渉のときの明治天皇の苦しいお心持ちを偲び、堪え難きを堪え、忍び難きを忍び、将来の回復に期待したいと思う。 私としてなすべき事があれば何でもいとわない。 国民は定めて動揺すると思うが、私が呼びかける事が良ければ、いつでもマイクの前に立つ。 必要であれば、私はどこへでも出かけて親しく説き諭しても良い…と天皇は涙を流され、聞いていた閣僚たちからもすすり泣きの声が聞こえてくる。

内閣では至急に終戦に関する詔書を用意して欲しい。

12時30分

自分はいかになろうとも、万民の生命を助けたい。この上戦争を続けては、我が国は焦土となる…、そう陛下は申された…と、陸軍省に戻ってきた阿南は将校たちに伝える。

陸軍大臣には治安維持のための兵力があります、これを行使していただきたく思います!と将校が迫ってきたので、悪あがきだ!と阿南は諌めると、辞職して全部ひっくり返してください!と畑中も声をかける。

私が辞職した所で終戦は揺るがない!と阿南が言うと、全てを放棄しろとおっしゃるんですか?と将校は聞く。

最後の御聖断は下った!と阿南は言う。

大臣の決心変更の理由をお伺いしたいと井田が聞いてきたので、納得できんなら、まず私を斬れ!阿南を斬ってからやれ!と阿南は怒鳴り返す。

その阿南の言葉を聞いていた畑中は、側にあった机を叩き、悔しさを身体で表すが、井田たちになだめられ、部屋を連れ出される。

我々は戦えるんですよ、戦いましょう、閣下!と叫び続ける畑中。

軍事化で気が抜けたように放心した畑中 一方、道場で剣を振るう阿南 ふと何かを思いついた畑中は拳銃を持ち出すと、自転車で近衛師団指令部にやってくる。

14時55分 皇軍が武装解除されて国体護持などあり得ません!と話し合っていた古賀たちは、古賀、溝口!元気か?と突然部屋に駆け込んできた畑中に驚く。

石田?お前いつから近衛師団参謀になったんだ?と畑中が聞くと、一昨日からこちらに配属になった、宮城警備の強化だと言う。

溝口は皇太子殿下をお迎えするためめ日光に向かってる…と古賀が教える。

畑中が見知れぬ兵隊がいたが、陸軍航空師団第一戦隊第三中隊副隊長上原大尉であります!と自己紹介すると、連絡将校として来た、俺の大親友の部下だ…と古賀が言う。

これがないと宮城に入れないからな…と言われた畑中は、軍帽を別のものに帰ると、古賀たちとともに自転車で走り出す。

そこに戻って来たのが井田で、中央の奴が分からんので出て来た。まさかポツダム宣言受諾はないだろうな?とその場にいた将校に聞く。

宮城内司令部には芳賀連隊長が詰めている。芳賀さんには渡りが利く…などと話し合いながら、古賀や畑中は自転車を走らせる。

宮内省 15時5分 東部軍司令部 東部軍でも顔が割れている、顔見知りから説得だ…と古賀が言うと、いや、時間がない、軍司令官に直接ぶつかると畑中は言いだし、一人階段を駆け上がっていく。

田中軍司令官に合わせてください!と畑中は、警備兵に頼む。 何用だ?名乗れ!と警備兵が聞くと、陸軍省畑中少佐です!と答える。

聞こえた、通せ!と入室を許可した田中だったが、畑中が入って来た途端、馬鹿者!俺の所に何しに来た!貴様の考えとる事は分かっとる!帰れ!と一喝する。 畑中が一礼をして退室すると、塚本、気が抜けんな…と田中はつぶやく。

15時45分

高台から、廃墟になった東京の町並みを見る井田

陸軍省裏庭

そこでは資料の焼却処分の作業が行われていた。

大東亜戦争の間は一つのかげりもなかった。最後だけは美しくありたいな…と井田が、焼却処分を眺めていた仲間たちに語りかける。

しかし、仲間たちは何も答えず、その場を離れていく。

その頃、自宅前にいた綾子の所に、あの…、阿南少尉殿の…と声をかけて来た兵隊がいた。

母ですと綾子が答えると、松山言います…と軍帽を脱いで名乗った兵隊は、阿南少尉殿の部下でした、少尉殿が戦死された時、私もそこにいました、それでご報告に参りました…と言う。

いっぺんにいろんなことが起こってしまって…と言いながら、綾子は松山を言えに招き入れる。

陸軍省 軍事課の部屋に戻って来た畑中は、先輩たちはこれからどうされますか?と、部屋に残っていた井田と椎崎に聞く。

俺と一緒に腹を切る将校を集める。

陸軍の将校を一人残らず並べて腹を切り、敗戦のお詫びを申し上げる、将校総自決!…などと言うので、私は、明日正午の予定されている陛下の御放送前の20時間を無為に過ごすのは最悪に存じますと畑中が言うと、御聖断が下った後も、兵力小計画を断行する気か?とあきれたように椎崎は聞いてくる。

連絡をつけました、宮城内に陣取って、外部との連絡を絶ち!近く収集の最後の努力をします!少数が決起する事で全軍が立ち上がります!などと畑中がしゃべりだすと、畑中!貴様の純粋さには敬意を表する。しかし、近衛師団が動くとは思えない。椎崎、行こうか?と言いながら、井田が部屋を出ようとすると、将校総自決は無理だ…と言う椎崎の声が聞こえる。

分かった…、やるからには内乱にならぬよう気をつけろと井田は言い残し、1人で部屋を出て行く。

17時

18時に予定していた録音ですが、詔書の内容で意見が分かれております。19時には大丈夫と思いますが…と迫水が電話をしていると、無理!と言う声がしたので、もう少しかかるかもしれません、まとまり次第すぐ連絡入れますと迫水は電話で伝える。

外地第一戦では、今なお敵と戦っている300万余りの将兵がいます。彼らの闘志は烈々としてなお止まずです!それが明日は武器を捨てなければいけない!負けたから終戦にするんじゃない!戦局好転せず!やむなく終戦なんです!戦局、必ずしも好転せずに訂正していただきたい!と阿南は閣議で力説していた。 しかし、米内は、原案のままで良いよと諭す。

戦勢日に非にして…と言うのは負けたと言う意味はない、それほどむきになる事かね?と疑問の声も上がるが、戦局、好転せず!その方がふさわしい…と、阿南の態度は変わらなかった。

すると立ち上がった米内が、突然苛立ったように黒板を叩き、訂正不要!戦勢日に非にしてで十分!と言い出す。 そして、30分ほど海軍省に戻りますと挨拶し、米内は退室する。

車で海軍省へ戻る途中、米内は、あいつら、何でうろついているんだ?と、外を駆け回っている将兵たちの姿を見て怪しむ。

歩哨所が消失したので待機しているのではないでしょうか?と、後部座席の隣に座っていた部下が答えると、それにしては数が多い…と米内は指摘する。

部下は、念のため拳銃を取り出す。

徳永侍従は、庭先から見える近衛兵たちの姿を目にした散策中の陛下から、疎開している家族とも会えたかね?と聞かれたので、塩原に行く途中、日光で…と答える。

あ、そう…とお答えになった陛下だったが、その時、徳川侍従は、外の人がここまで!と近衛兵の姿の多さに驚く。

近衛師団が、治安上、心配だと言うのでね…と天皇は仰せられる。

海軍省に戻って来た米内が、どうした!と聞くと、中央の中継将校たちらに不穏な動きがあります!と待機していた将校たちが報告したので、具体的に言ってくれと米内は頼む。

鈴木総理と米内大臣の暗殺計画ですと部下が小声で知らせる。

陸相官邸に戻り、身体を拭いていた阿南が、林君、辞表の書式と手続きを調べといてくれと頼むと、明日正午、総辞職の予定だと内閣総務課長が言っておられましたと林は答える。

公子さん、酒の準備をしておいてもらえますか?手に入るものなら何でも…と台所に入って来た阿南は頼むと帰ろうとするので、あの…、奥さんからに度ほど電話がありました、どうしてもお伝えしたい事があるご様子でしたと公子は伝える。

阿南は、色々ありがとう…と公子に感謝し、車へ向かう。

阿南が戻って来た閣議では、まだ詔書の文言について議論が続いていた。

詔書を書いていただいた安岡先生は、戦争に負けたから、あるいは負けそうになったから終戦にするのではなく、今戦争を終結させるのが正しい筋道であると言う見地に立たなければいけない!だから、義命の存する所だと…と迫水が立ち上がって説明する。

辞書にもない熟語を使ったら、国民には何の事か分からんだろう!時運で言いじゃないか!と意見が出る。

いや、時運の赴く所じゃダメなんですよ!時の運びでそうなったから仕方ない!つまり、行き当たりばったりですよ、戦後の政治が理想も筋道もないものになってしまう!じよう(?)派の政治家が量産させることになります。

我々はぎめい(?)派の政治家を生む筋道を付けるべきなんです!と迫水は必死に説明をする。

そこに帰ってきた米内は、秘書官長、戦局必ずしも好転せずにしよう、陸軍大臣の意見に僕は賛成すると言ってくる。

何ですか?突然!と戸惑いの声が上がり、ちょっと待ってください!と迫水も面食らう。

では、戦勢日に非にしてを戦局好転せずに改め、義命の存する所を時運の赴く所に改める事にしましょう!と鈴木がまとめる。

夜、陸軍省前に車で帰って来た阿南は、衛兵も警備憲兵もいません…と運転手から言われ、集団脱走か…とつぶやく。

荒尾課長を捜してきますと運転手は建物の中に走り込む。

臨時ニュースを申し上げます、明日15日正午に重大なるラジオ放送があります。国民は皆謹んで聞くように…、繰り返します、大本営発表!と伝えるラジオ放送が流れていたので、洋楽が流れている曲にまわした阿南は、鈴木首相宛の辞表をしたためる。

電話の所には、奥様から電話ありと書かれたメモが残されていた。

そこに入って来た運転手は、竹下中佐殿は省内のどこにもおりませんと報告する。

前線の軍司令官、師団長の予定表だ、参謀長を確認してくれと頼み、また閣議に戻ると伝える。

荒尾課長は官舎で閣下をお待ちしていたようですと別の部下が言うので、こっちへ来るのか?と阿南は聞く。 奥様から…と言いかけた部下は、阿南が手で制したので、それ以上言うのは止め、車で待機しますと言い、下がっていく。

綾子は自宅の電話が鳴ったので、急いで出てみるが、相手は阿南ではなく、お母さん、何かあったの?と聞く喜美子からだった。

今日ね、惟晟の部下だったと言う方がお見えになってね…と綾子は話しだすが、その時、自宅に電話を入れた阿南の電話は話し中で通じなかった。

そこに、荒尾が駆けつけて来て、てっきり官舎に戻られたと思って…と言い訳をする。

惟晟兄さんの戦死の様子を、ずっと父さんも知りたがっていたけど、でも一刻を争う事じゃないでしょう?と喜美子は不思議がっていた。

そうね…、そうなんだけど…と綾子は言う、お父さんが帰ってきた時、ゆっくり話せば良いじゃないと喜美子は諭す。

しかし、綾子が返事をしなかったので、お母さん、もしかして、お父さん、もう帰らないの?と喜美子は聞く。

我々はこの後、どうすれば良いのでしょう?と荒尾は阿南に聞く。

軍をなくして国を残す、日本は滅びるものか!と阿南は答える。 勤勉な国民だ、必ず復興する。

中央幕僚の最大任務は平静な終戦処理だ。外地に残された将兵の復員も早急に実現してくれ…、そう言い残した阿南は、荒尾に葉巻を手渡すと、頼んだよと腕を叩き立ち去る。

近衛師団司令部

父は大命通りに従って行動しろと申しましたと言いながら一人の兵士が戻って来たので、東条閣下がどうおっしゃろうが事は決した。我々が規範した近衛師団作戦命令だと畑中が書状を渡すと、決起の連判状と思えば良い。 水谷参謀長には本部に残ってもらい、我々は全員宮城内警備司令部に入る。

上原は俺と向こうで合流し、全員で芳賀連隊長の説得にかかる。

私物の整理を慕い、少し時間をくださいと、作戦書に判を押した上原が言うので、畑中や久保田ら三人は自転車で宮城に向かう。

21時30分

宮城内警備司令部

芳賀豊次郎近衛師団第二連隊長(安藤彰則)は、やって来た畑中から、羽賀連隊長が動き、近衛師団を持って宮城内とその周辺を守り、外部との交通を遮断する事で、各方面で迷う陸軍は一つになります!陸軍による軍事政権を樹立し、御聖断の変更を天皇陛下にお願いするのは我々の使命であります!と作戦を打ち明けられると、近衛師団長は承認しているのか?と聞く。

はい、陸軍大臣、参謀総長、東部軍司令長官も承認していますと畑中は嘘をつく。

他力的な国体護持か、それとも戦争完遂に邁進するか?どちらが良いか結果を見なければ判断できません。しかし運を天に任せるのなら、軍人として残された最善の実行の道を取るべきではないでしょうか?と畑中は迫る。

東京まで歩くと何時間かかるやら…と呆れる女中の絹子に手伝ってもらい、綾子は外出の準備を終えていた。

4時間くらいのものよ、二階に気をつけてね、焼け残った電柱から変圧器が堕ちてくると言うから、じゃあ、子供たちをお願いね…と頼み、綾子は自宅を出発する。

井田さん!と呼びかけながら防空壕内で寝そべっていた井田の元に駆け寄って来た畑中に、何しに来やがった?と井田が聞くと、同志は見つかったか?と久保田に逆に問われたので、終戦と決まれば急に命が惜しくなるのが人情なんだねと井田は答える。

1人で腹を斬る気か?と聞かれたので、斬るさ、俺をからかいに来たのか?と良いながら身体を起こす井田。

近衛歩兵第二連隊が立ちます!森師団長を説得してくれ!和尚さんを説得できるのは井田さんしかいないと皆の意見が一致しました、出馬してください!と頼み込む畑中。

俺が行っても同意しなかったらどうする覚悟だ?と井田は自分の頭を片手で叩きながら聞くと、今は同意するしないが問題ではなく、最後の努力をするかしないかが問題なんです!と畑中は頼む。

私物の整理と言っていたが、遺書だろ?と聞かれた将校は、母と妻と、それから息子に書いた…と打ち明ける。

息子には何と書いた?聞かせてくれ、俺には子供がいないと言うので、国正、強く正しく健やかに大きくなり、母様に孝行せよ。

父は常に汝と共にあり…と将校は答える。 森師団長を訪ねた畑中や井田だったが、師団長来客中です。参謀室で待機してくださいと言われる。

その時、空襲警報が鳴りだす。 閣議では、鈴木首相に続き、米内海軍大臣が署名をしていた。

阿南も署名する。

署名を終えた閣僚たちが三々五々帰っていく。

一生一度の一番貧乏くじ引いたぞ…と安いに語りかける阿南は、立ち上がった安井と固い握手をする。

22時50分

参謀室で待たされていた畑中は焦れ、来客は誰ですか?と聞く。

師団長の義弟の白石中佐だよと聞いた井田は、広島で壊滅的な被害を受けた第2総軍の参謀ですか?と聞く。

迫水と一緒にいた鈴木首相の控え室にやって来た阿南は、総理、私は陸軍の意思を代表して、ずいぶん強行な意見を申し上げました。慎んでお詫び致します…と挨拶したので、鈴木も立ち上がる。

私の真意は一つ、ただただ国体を護持せんするにありまして、何とぞご了解くださいますよう…と阿南が頭を下げたので、私こそ、あなたの率直なご意見を感謝し、拝聴しました。みな、国を思う情熱でした。阿南さん、日本の皇室は絶対に御安泰ですと良いながら、鈴木は阿南の肩を抱く。

私もそう信じておりますと阿南は笑顔で答える。

総理、これは南方第一線からの届け物であります。私はたしなみませんので、総理に吸っていただきたく持参致しましたと、阿南は陸軍省から持って来た小箱を手渡す。

阿南が部屋を出て行くと、阿南君は暇乞いに来たんだね…と鈴木はつぶやく。 宮城の防空壕内では、敵機は東京に向かう様子はありませんとの報告を受けていた。

警戒警報が止むまで待ちましょうとつぶやく侍従たち。 しかし天皇は、こうしている間にも国民は苦しんでいる…と案じておられた。

もう十分待ったと天皇が仰せられたので、録音機を起こします、至急通達を!と侍従たちは動き出す。 陸相官舎に一人戻って来た阿南は、夜が明けるまで誰も入れるなと見張り兵に命じる。

宮内省 23時25分 天皇は用意されていた録音機の前に到着する。

阿南は、用意して来た長男惟晟の写真立てを、酒の準備がしてあったテーブルの上に置く。

マイクの前に立たれた天皇は、用意されていた詔書を開かれる。

とっくりの下には、奥様にご連絡してください 絹子…と書かれたメモが残されていた。

参謀室で待たされていた畑中は、井田に、15分待ってダメなら入りますと申し出ていた。

その時、やって来た将校が、畑中、竹下中佐の居所が分かったぞと伝えたので、どこだ?と聞くと、駿河台の宿舎で酒を食らっている、どうする?と伝令は聞く。

井田さん、私は竹下中佐と話してきます、師団長の事は頼みますと言い残し部屋を出て行く。

天皇の玉音の録音テープのスイッチが入れられる。

声はどの程度で宜しいのか?と陛下がお尋ねになったので、そのお声のままで宜しいかと思いますと録音係は答える。 朕、深く世界の大勢と帝国の現状とに鑑み…と陛下は書状を読み始められる。

その頃、仲間とともに森師団長の部屋にやって来た井田は、閣下に国家を守り行為を波状する陸軍軍人の指命を聞いていただきたく参りました!本土決戦なくして各国と和平するのは下の下であります!全国民も本土決戦の覚悟を決めております!と井田たちがまくしたてると、待て、待て、座れ!道教、椅子!と森師団長は、同室していた白石通教中佐(本郷壮二郎) に頼む。

お前らの意見を聞く前に俺の人生観を聞いてくれ!と森が言い出したので、井田たちは、閣下!人生観をお聞きする時間はございません!と反発する。

椅子!と何度も森が急かしているのを見かねた井田たちは、閣下、それには及びません!と遠慮するが、森は聞き入れない。

おのおの最善を尽くせるに関わらず、戦局、必ずしも好転せず…天皇の録音はまだ続いていた。

8月15日

0時8分

東京へ歩いて向かっていた綾子は、大勢の人が移動しているに出会ったので、何かありましたのか?と聞くと、兵隊さんが逃げるから、私たちも逃げてるんですと言う。

明日は陸軍が上陸するそうです。

爆弾が東京に落ちるんだよ、沼津の方じゃねえのか?沼津に落としてどうするんだよ!などと無責任なうわさ話も聞こえて来る。

一方、飲んだくれていた竹下の所へやって来た畑中は、万事休すだ…とぼやいていた竹下に、今、森師団長の説得をしている所です、いずれにせよ、午前2時を期して、我々は決起します!と伝える。

阿南大臣は同意しないぞと竹下が言うと、必ず全軍が立ち上がります!と畑中は言う。

その時、担いだ神輿の上にいるべきは阿南閣下です!竹下中佐殿、説得してくださいと伝令は頼むが、無駄だ、今更何をしても始まらないと一緒に飲んでいた男が言うので、貴様らそれでも男か!陸軍の恥さらし!などと畑中は切れる。

その反応に怒った竹下が立ち上がり、畑中につかみ掛かり、とっくみ合いが始まる。

その頃、天皇の玉音録音は終了しており、これらは放送局に預かってもらえますか?と侍従が頼むと、放送局は帰って危ないのではないですか?陸軍の不穏な動きもあるようですし、むしろ、正午の放送まで宮内省に保管した方が…と徳川侍従は提案する。

この二組、侍従職にお預けできませんでしょうか?と放送局員から言われた徳川は承知して受け取る。 下村総裁が、総理官邸の報告はすみました。

空襲警報発令中なんで、しばらくこちらで待機しましょうと放送局員に話しかける。

無事録音は終了しました、内容は皆さんに配りました写しの通りですが、正午の玉音が終わるまで長官を出さぬようにお願い致しますと迫水は集めた新聞各社に通達していた。

もし放送の前に発売されるような事があると、一部陸海軍軍人がどのような暴挙をするか計りがたいので…と一も重ねて頼む。 1時3分 阿南は官舎で、一人遺書を書いていた。

しばらく座って休んでいた綾子は、また歩き始めるが、あんた、今は危ないよと見知らぬ婦人が声をかけて来たので、どうしても今夜中に行きたい所があるんですと答える。

陛下のご意志に反する行動は絶対に許さん、これがこの近衛師団の本分だが、由来、驀進中の大部隊を整然たる退却に導くのが名将とされる阿南閣下然り!正々粛々と終生を全うしよう!と、森師団長室にいた白石中佐が言うと、死を賭して陛下をお守りすると言われた陸相が、このまま辞するとは思われません!と井田が反論する。

阿南閣下の真意が分からんのか!と白石中佐は怒鳴りつける。

神国日本が生きるか死ぬか、国体の安全が守れるかどうか、これを確認するための歴史的瞬間は刻々と迫りつつあります!と椎崎も力説する。

ソ連も1941年の6月22日のドイツ軍奇襲開戦で2000万人の犠牲を払って本土決戦を敢行し、ドイツ軍を撃退しました。その時もヒトラーの死まで本土決戦を継続し、ドイツ国家と民族の名誉を守りました!今、陛下の御安否と日本の運命は森師団長の双肩にあります!と井田も言う。 閣下!ご決断を!と椎崎は森師団長に迫る。

1時20分

畑中が帰ってきましたと、師団長に合うため、控え室で待っていた仲間たちが、窓の外を見ながら言うので、師団長の様子を見て来ようか? 諸君の考えは分かった。率直に言って感服した。

どちらが正しいのか、井田!わしには分からん。参拝するか?と森師団長が言い出したので、井田は戸惑う。 どちらへ?と椎崎が聞くと、明治神宮…と森は答える。

何のため?と井田が問うと、神前で心を清めて…などと森が、団扇を扇ぎながら言うので、閣下!決断してくださるんですか!と井田は苛立つ。

師団部は決断されましたか?と、そこに畑中たちが乗り込んで来たので、これから一緒に明治神宮に参拝して決断なさるそうだと井田が伝えると、それは時間の無駄ですと畑中は言い、拳銃を取り出そうとする。

白石が軍刀を抜こうとするので、井田たちが妨害する間、畑中は森師団長を撃つ。

白石中佐も斬殺する。

何しろ、時間がなかったので…と畑中が言うので、お前!と井田は愕然としながら言う。

井田さん、早く東宮軍に行きましょうと畑中は勧め、銃声に気づいて駆けつけた兵隊たちには、何でもないとなだめる。

そんな中、畑中!命令書に師団長の判を押すぞ!と言い、石原!決起だ、決起!と室内は騒然と鳴る。

古賀!連判状はどうした? 近衛師団の石原です、決起しました!東部軍も立ち上がってもらいたい!お願いします!と電話で連絡をする石原参謀、その後も各署に電話連絡を入れる。

その電話を受けた芳賀第二連隊長は、第二連隊主導の準備!近衛兵は全員白襷!と部下に命じる。 畑中は、地図だ!と叫ぶが、室内は興奮状態にあり、自邸の急変に対処できないものもいた。

1時37分 決起だ!芳賀連隊長!師団命令書です!と自転車で第二連隊に駆けつけた兵が伝える。

それを受けた芳賀は、各方面警備に注ぐ!現時点で宮城から外へ出る車両は玉音放送関係者及び情報総裁下村宏などである!全て捕虜とせよ!と電話連絡する。

東宮警察の武装解除! 東部軍司令部 高島辰彦東部軍管区参謀長(奥田達士)の前にやって来た兵は、森師団長が殺害され、自分は東部軍司令官の指示を仰ぐために参りました!と報告後、緊張の糸が切れたのかその場に気絶する。

何者だ!と司令官に誰何された同伴者は、一応、反乱軍です…と答える。

それは、井田だった。

官舎にいた阿南は、竹下が来たので、今夜自刃する事にした…と告げる。

事ここに至った以上、あえてお止めしませんと竹下は言うので、そうか…安心したと安堵した阿南は、一緒に飲もうと勧める。 畑中には閣下にご出馬願う用意がありましたが、お顔を見て吹っ切れましたと竹下は言う。

私が死ねば、一つの幕引きになるさ…と阿南は言う。 私の生家には家訓があります…と井田は高島参謀長に打ち明けていた。

王子に仕うるも、武家に仕うる事なかれ…、これにもとる事なきやと自問自答して行動したんですが、国体護持に全てを捧げよと言う教えであると想定した所で、武力に訴える事はダメなんです…と、その場にあぐらをかいて腰を下ろした井田は言う。

2時

白襷をつけた第二連隊が放送会館前にやってくる。

放送局を占拠する! 天皇陛下の六音版はどこにある?と局内に侵入した兵は聞くが、まだどこにも…と局員は戸惑う。

徹底的に探せ! 録音ミスでやって来た放送関係者は、兵隊に取り囲まれてしまう。

一方、録音を終え帰る途中だった下村総裁や録音関係者は、警備兵に捕えられ兵舎に監禁される。

宮城内と電話連絡できん!塚本!反乱軍を説得鎮圧するぞ!と田中司令官は命じる。

はい、参謀を数名宮城内に派遣しました、状況が明らかになるまで、今しばらくお待ちくださいと塚本は答える。

陛下に万一の事があったら、腹を斬るだけではすまんぞ!と田中司令官は叱咤する。

闇夜に動いても同士討ちの可能性があります!閣下のご同意を得て、高島は軍参謀室にて陣頭指揮を執りますと高島参謀長は答え、警備指令に軍司令官出動の護衛憲兵の派遣を要請しろ!宮城内のあらゆる電話回線を調べろ!反乱軍が使う生きている回線がどこかにあるはずだ!と矢継ぎ早に指示を出す。

井田が待機していた部屋の中に次々と兵士が訪れ、近衛歩兵第七連隊長が命令確認に参りました。ただいま電話で師団参謀から重要命令が下達されましたが、不審な点があります、軍事司令官のご意図を伺いに参りましたなどと聞いてくる。

近衛師団長が殺害され、偽命令が飛び交っている。第七連隊は東部軍の指揮下に入って待機!と指示を出す参謀。 井田中佐!君は宮城に戻って畑中少佐の説得だ…、うちの車両を使えと高島は語りかける。

宮内省

クーデターで間違いないですか?

226の時と同じだと侍従たちが、窓の外の様子を見ながら話し合っていた。

地下の防空本部に近衛兵直通の電話がありますと一人が思い出す。

近衛兵たちは、宮城内の電話線を切断し始める。 近衛兵が暴れている!誰とも連絡が出来ない!と寝室で眠っていた他の侍従に知らせる。

起きだした侍従たちは、とにかく陛下のおそばに行かないと…と言うと、近衛兵の目を盗み、部屋を移動しようとする。

表玄関はダメです…、北口だ! 扉を出ようとすると、出てはいかん!と近衛兵が立ちふさがったので、出るものですか!ごきげんようとごまかす。

3時

宮城内に来た畑中が、捕虜を尋問しますと言いながら兵舎に入ろうとすると、大臣はまだ来られないがどうしたんだ?と芳賀連隊長が聞くので、電話で問い合わせてみましょうと畑中はごまかす。

その直後、師団長が死亡せられました!ただいまより連隊長が二師団の指揮を執っていただきたいと畑中と一緒に来た兵が言うので、水谷参謀長はどうした?と芳賀が驚いて聞くと、参謀長は東部軍司令部に行きました、決起の要請ですと畑中はしれっと答える。

さすがに、目の前の3人の様子がおかしいと感じた芳賀は、師団長はどう言う経緯で死なれたのか教えてもらいたい…と軍刀に手を添え詰問する。

経緯は久保田少佐が調査中です。指揮をお願いできますか?と畑中が聞くと、指揮は執る…、ただし0500時までに大臣が来られなければ宮城から撤退すると芳賀は答える。

分かりました、後2時間ですね、古賀、捕虜を尋問しようと畑中は腕時計を見て言うと、兵舎に入っていく。

宮内省御政務室で録音が行われた事は掴んでいます。玉音盤は誰が放送局に運んだのですか?と畑中は下村総裁を尋問し始める。

録音技師が保管したように記憶しておりますが…と下村が答えると、録音技師は局長が知っていると言う、局長はあなたが知っていると言っていますと畑中が詰め寄ると、と言われましても…と下村は口ごもる。

木戸内大臣と石綿宮内大臣はどこです?と古賀が聞くと、我々が宮内省を出た時は、お二人は大変お疲れで、自室でお休みになっていましたと下村は答え、あの~…、一つ尋ねていいですか?と逆に聞いてくる。

どうぞ…と畑中が許すと、遺言書は書いてありますか?と下村が聞くので、遺言書?と畑中は不思議がる。 私は家族友人に宛てて30通の遺言書を書いてあります。

それを書き直す事で自分を見直す…と下村は話しだしたとき、井田中佐が戻りましたと伝令が来る。

驚いて畑中が井田の元へ行くと、冷めきっている、畑中、失敗だ、手を引け!と井田は言う。

下村総裁以下16名います!陛下も周囲を固めていますと古賀が伝えると、恐れるものは何もないと言う畑中に、バカを言え!と井田は叱りつける。

椅子に座っていた下村を立たせ、兵舎に戻した後、反乱軍とともに兵舎の中に入って来た井田は、師団長の死は師団中に広まっている。

第七連隊は東部の直轄になった。各連隊もそれに続く。

ろう城は混乱を招くだけだ、それが貴様らには分からんのか!と仲間たちに説得する。

畑中、夜が明けるまでに身を引こう…、我々だけで責任を取ろうと仲間たちが呼びかける。

そのとき、電話が鳴りだす。 真夏の夜の夢を見たと許してくれるさ…と井田は仲間たちをなだめようとするが、阿南閣下がくれば事情は変わる、今説得中だ!と椎崎が反発して来たので、無理だよ…俺が確認する!夜明けまでには必ず引け!と井田は命じ去っていくが、畑中は納得していなかった。

放送会館を占拠した本田中尉の報告では、玉音版はまだ宮城内にあるそうですと伝令が来たので、まだ運び出していないのか?と畑中は聞き返す。

もう一度、放送関係者を尋問しますか?と聞かれた畑中は、宮内省を探して木戸内相と石原を捕える方が早いと畑中は答える。

その直後、すっかり闘志を失ったような古賀に詰め寄った畑中は、しっかりしろ、古賀!と叱りつける。

宮内省内で、録音盤はどこだ!と聞かれた侍従は、分かりません!と答えるしかなかった。

今になって騒いで何になるんだ?バカめ!と苛立っていた侍従は、石原宮内大臣はどこだ?と聞き、徳川侍従は、既に地下金庫にお隠れです、いつ兵士が戻ってくるか分かりません、急いで地下金庫室へ!と答える。

精一杯急いでおる!と侍従は答える。

陛下は公子の結婚を気遣ってくださった…、阿南は幸せもんですと、官舎にいた阿南は、少し酩酊し、うれしそうに竹下に話していた。

おっと、もう3時になったか…と、置き時計に気づいた阿南は、自決は14日のつもりでやる。はじめは20日にするつもりだったんだ…、次男の命日だったから…と、写真立てを見ながら阿南は言う。

しかしそれでは諸々遅すぎる…、14日なら父の命日だからな…と阿南が淡々と言うので、家族ありきなんですねと竹下が言うと、楠木正成の真の教えとは何か?家族を大切に…と思う事だよと阿南は愉快そうに酒を飲む。

東京に近づいていた綾子は、深夜なのに、何かをあさっていた子供たちを見つけると、ねえ、宮城ってどっちか分かる?と聞く。

そのとき、綾子は通り過ぎていく井田の車を目撃する。

録音盤は大丈夫でしょうか?今はとにかく、お文庫への連絡方法を考えましょうと侍従たちは、近衛兵が周囲を走り回る中、相談し合っていた。

内苑門もダメでしたと別の侍従が知らせに来たので、後は紅葉山を抜けるトンネルだけですねと言う事になる。

3本の道の2本がダメなんですよ。残り1本も当然封鎖されています、日本兵はそんなに甘くないです!と1人が言う。

侍従武官と相談しますと三井侍従が階段を上っていく。 外に出た入江侍従は徳川侍従に、行くと言わずに戻ると言ったらどうでしょうかと提案する。

言い方の問題ですか?違うでしょう!と徳川はその案をバカにする。

途中、おい!と近衛兵に呼ばれたので、侍従職ですが、お文庫の方に戻りたいのですが?通していただけませんでしょうか?と徳川が言ってみると、あっさり、通れ!と許可される。

言い方の問題でしたね…と入江侍従はつぶやく。

刀だ…と阿南が小刀を取り出したので、閣下、家族に何か伝える事はありませんか?と竹下が聞くと、綾子には感謝し、信頼していると伝えてくれ、良く尽くしてくれた…と、シャツを脱ぎながら阿南は言う。

そのとき、玄関先が騒がしくなったので、様子を見に竹下が向かう。

4時5分

やって来たのは井田だった。

介添えは二人か…と、シャツを一旦着直した阿南がつぶやく。 いえ、私は後からお供致しますと井田が言うので、阿南は思い切りビンタを食らわせる。

バカ言うな!と阿南が言うと、お供させてくださいと井田が迫るので、さらに往復ビンタをした阿南は、死ぬのは俺一人だ!良いな!と言い渡す。 井田は涙ながらに、はい!と答える。

仕方ない、決別の宴だ…と阿南は言うので、あまり飲まれると、手元が狂ってし存じると困りますと竹下が諌める。

まだまだ!飲めば血行が良くなるから、出血多量で確実に逝ける!心配せんで飲もう!と阿南は、竹下と泣いている井田に言う。

参謀長!宮城の芳賀連隊長に回線につながりました!と聞いた東部軍高島参謀長は、芳賀連隊長か?ただちに…と電話を入れるが、電話状態が良くなく、受けた芳賀はその内容が良く聞き取れない。

高島参謀長ですか?ただちに何です?と焦っている芳賀連隊長から受話器を奪い取った畑中は、どうか我々の熱意を組んでください!お願いします!と一方的に頼み込む。

私情を捨てた君たちの気持には頭が下がるが、東部軍は大命に従って動く、今引けば反乱とは見なさないと高島は言い聞かそうとするが、10分間だけ時間をください、陛下ご放送ある前に10分間!我々の気持を一般国民に聞いてもらいたいのです!と訴える畑中。

異常に気づいた芳賀には、反乱軍が拳銃を突きつけて黙らせていた。

東部軍のご尽力に放送局へ行かせてください!と畑中は要求するが、分からんのか!畑中少佐!と言われたので電話を切ってしまう。

もしこれ以上反乱行動を続けるなら、私を殺せ!と芳賀は畑中に言い放つ。

積極は如何に努めても猶を神の線より遠し…とつぶやきながら拳銃を抜こうとする畑中に、古賀が銃を向け、もう終わったんだ畑中!と止めさせる。 お文庫内に集まった侍従たちは今後の善後策を検討していた。 反乱が進行している事は承知しております。

お文庫全体としては反乱軍と戦う構えを見せましょうと保科武子女官長(宮本裕子)が発言する。

戦う構え?と聞かれた保科女官長は、一階の窓には鉄の扉が付いておりますと答えたので、敵の空襲のときにも閉めた事はございませんが?と他の侍従たちが戸惑うと、今がその時です!と言う。

首相官邸のソファで仮眠を取っていた迫水は、時ならぬ機銃掃射の音で慌てて目覚める。

二階に駆け上がり、窓からそっと外の様子を覗いてみると、首相は円山町のご自宅にお帰りになりました!そちらを襲った方が宜しいかと思います!と答えている見張り兵の声が聞こえた。

軍刀を片手に、迫水はいるか!と迫っていたのは佐々木武雄横浜警備隊長(松山ケンイチ)だった。 首相の秘書です!と見張り兵が答えると、どこにいる!と拳銃を構えた佐々木は問いかける。

そのとき、迫水さん!早く逃げないと!と仲間が声をかけに来たので、逃げます!と言って、迫水は飛び出すと、総理の私邸に連絡してください、脱出するように!と頼む。

円山町、お分かりになりますか?円山町の道順…と見張り兵が聞くと、官邸に火を点けようか?と学生たちに佐々木は言い出す。

見張り兵に、官邸に火を点けると宣言した佐々木は、行け!と学生たちを煽動する。

その頃、陸相官邸の阿南は、軍服に付けられた勲章を広げて、これは御上が肌に付けられていたものだ、侍従武官だった頃陛下に拝領した…と竹下と井田に教えていた。

4時50分

空襲警報は解除されましたが、引き続き警戒してください…との放送会館のスタジオではアナウンスが流れていた。

その時、これより自分たちが放送するからすぐに準備してくれと、放送会館の女性スタッフに反乱軍の一人が言いにくる。

防空情報が出ている時は放送できませんと女性が言うと、何を言うか!やれ…と反乱軍は命じる。

そこに、銃を構えながら入って来たのが畑中で、5時からの報道番組のとき、自分に放送させてくださいと命じる。

男性スタッフが、警報発令中の放送は東部軍各部に連絡しないと…と言うと、今そこにいるじゃないか!と畑中は苛立つ。

彼はマイクのテストをしているだけで…、東部軍の許可を待つ…とスタッフが答えかけると、反乱軍がなだれ込んで来て局員たちを包囲すると、畑中は、マイクテストを始めろ!と命じる。

女性スタッフが機転を利かせ、スタジオ内の電源を切る。 外では反乱軍が集結し整列していた。

全軍将兵に告ぐ!畑中は、電源が切れたスタジオのマイクの前で、用意していた檄文を読み始める。

整列していた反乱軍の前に車で乗り付けた田中司令官は、命令は偽物だ!と兵士たちに叫びかける。

5時30分 「神州不滅」と書かれた額を下ろしていた兵士の前にやって来た田中司令官は、貴様らの行為は反逆罪だと声をかけ、その兵士が連行されていくと、渡辺大佐、宮城内の芳賀連隊長に連絡して、私を乾門で迎えるように告げよと命じる。

憲兵司令官が宮城の事件を報告に参りましたと竹下が阿南に伝える。

君が聞いてくれ、宮城の件が終わっていなければ、もう終わる…と、シャツの袖口をまくりながら阿南は言う。

はいと竹下が下がると、井田、一人にしてくれと阿南は頼む。

畑中はどうなりましたか?と廊下で竹下が憲兵司令官の話を聞いてみると、放送会館の兵を投降させており、宮城へ向かったそうだ…と司令官は言う。

部屋に一人残っていた阿南は、正座したままズボンのベルトを緩め、小刀を腹に突き刺す。

その気配を察した井田や憲兵司令官は、廊下で阿南のいる部屋の方に会釈をする。

部屋に戻り、介錯致しましょうか?と井田が声を掛けると、無用だ…、あっちへ行ってくれと阿南は答える。

右手で自分の首筋の頸動脈の辺りを探った阿南は、最後の力を振り絞って、小刀の刃をその部分にあてがう…

天皇陛下は寝室で、はっと目覚められていた。

部屋の外では、そろそろ陛下をお起こししなければ…と侍従たちがタイミングを見計らっていた。

そこに起きて来こられた陛下が近づき、何があった?と聞かれる。

綾子はようやく陸相官邸に到着するが、そこにいた竹下がそれに気づき、姉さん…と声をかける。

綾子は、すでに安置されていた阿南の遺体の前に案内されてくると、あなたが一番知りたかった事をお話しに来ました…と、阿南の耳元の近づき話しかける。

惟晟は兵隊の気持ちが分かり、兵隊と心の通い合う将校でした…

8時

侍従たちが集まっている所に、夕べの出来事を何も知らないでやって来た岡部侍従が、ごきげんよう!と笑顔で声をかける。

何だか夕べは大騒ぎがあったようですね…と岡部は人ごとのように聞く。

陛下はご無事です、ご無事ですよ…と、侍従たちは口々に教える。 玉音盤は?と岡部が聞くと、無事ですよ…と言う。

今どこに?と岡部が聞くと、ここに!と言う。 テーブルの上に、二つの録音盤が置いてあった。

井田は自決して果てていた。

椎崎中佐も拳銃を口に突っ込み発砲し、畑中も、宮城の広場の中で、側頭部を自ら撃ち抜き倒れる。

東京郊外

鈴木家の朝食の席、警備の人が土足で飛び込んで来て、お父さんを抱えるようにして、連れ出してくださって…と、たかが話すと、兄貴は強運の持ち主だから…と、鈴木首相の弟の孝雄(福本清三)が笑う。

正午の御放送の見通しもつきました、これで私たちの任務は終わったと考えて良いと思います、総辞職を願い出る時期だと思いますがと一が、縁側にいた鈴木首相に教えると、賛成だね、辞表の案分を頼むと鈴木首相は答える。

一は、ここに…と、既に用意していたものを渡す。

これからは老人の出る幕ではないな…、二度までも聖断をあおぎ、誠に面目ない…と鈴木は言う。

陸相官邸では、まだ綾子が阿南の遺体の枕元で、20日の日も先頭に立って、大きな声を出して、みんなを鼓舞していたそうです…と話しかけていた。

どんどん行け!どんどん行け! 中国の湖で、釣りにも行ったそうです。

お酒を飲んだ時は歌も歌って、踊りも踊ったそうです…、河童踊りをあなたから教わったと言っていたそうです… そのとき、玉音放送が始まる。

堪え難きを堪え、忍びがたきを忍び、以て万世のために太平を開かむと欲す…

天皇陛下も、自らのお声をお部屋で1人、ラジオで聞いておられた。
 


 

 

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