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ラブ&ピース

現代の寓話とも言うべき内容だが、メッセージ性があるようなないような不思議な展開になっている。

特に意味もなく、テレビで言っていた「ピカドン」と言う言葉をカメの名前にしたら、それが曲になり、反戦歌と誤解され、さらには「ラブ&ピース」と言う意味ありげだが、実は中味空っぽの空疎な言葉に置き換えられてしまう空しさ…

夢を持って突き進んでいたはずの青年が手にする空しさ…

一見、「ウルトラQ」の「育てよ !カメ」の大人版と「トイ・ストーリー」をミックスしたような設定だが、この二つのストーリーの合体はあまり成功しているようには見えない。

何となく最後まで、2つのストーリーは解け合ってない印象なのだ。

ピカドンと言う名称には、怪獣映画に反核だの反戦だのと言う意味付けしたがる一部オタクたちへの風刺とも取れなくもない。

この映画を見て、反核などと言う気持ちには到底ならないからだ。

また、東京オリンピック開催への風刺のようにも見えるが、それも徹底しておらず、全体的に、甘いメッセージ性だけで描かれがちな子供映画パロディのように感じなくもない。

もの哀し気な要素があるとは言え、これも大の大人が泣くほどでもないし…

全体的に、どこかで観たような画面や設定をミックスしただけのように見えてしまうため、今ひとつ、力強く胸に迫って来るものがないのだ。

本来なら子供向けではないかと思う玩具爺さんの話と、若者向け風の主人公と亀の話を強引に合体させてしまったため、ターゲット不鮮明な作品になってしまったような気もする。

一見意味ありげだが、実は薄っぺらな映画のように感じてしまうのは何故だろう?

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

2015年、「ラブ&ピース」製作委員会、園子温脚本+監督作品。

5年後に2020年オリンピックを迎えるにあたり、テレビで「東京オリンピックを問う」と題された討論番組が行われていた。

コメンテーターたち(水道橋博士、宮台真司、津田大介、茂木健一郎)の発言が続き、司会者の田原総一郎(本人)が、こんな大事な話をしている今でも寝っころがってこれを見ている奴がいるんだ!とTVの中で憤り始める。

鈴木良一!35才!元ロックシンガー!

21才でロックシーンに登場したが、その後売れずに会社に就職!お前だ!鈴木良一!とアシスタントと田原総一朗がTVの中で嘲り出す。

狭い部屋に置いてある炬燵に潜り込んでいた鈴木良一(長谷川博己)は、そんな罵倒を聞きたくないので、炬燵を亀の甲らのようにかぶったままテレビに四つん這いで這って近づき、必死にスイッチを消す。

翌朝、電車で出社しようと満員電車に乗り込んだ良一だったが、おなかの調子が悪く、ずっとかがんだ姿勢でいるのを、入口その横に立っていた女子高生(真野恵里菜)に嘲り笑われる。

駅に降りた良一は、すぐさま落書きだらけのトイレに駆け込む。

ようやく勤め先の株式会社「ピース」に到着した良一だったが、入口の所で立ちすくんでいると、後からやって来た同僚田中透(深水元基)に、おい!バカ!朝から辛そうだな?と声をかけられ、先にエレベーターに乗り込まれてしまう。

他の同僚たちと共に、兼ねてより惹かれていた寺島裕子(麻生久美子)もエレベーターに乗り込んだので、ぼーっとしていた良一も慌てて一緒にエレベーターに乗り込もうとするが、まだ乗り込まないうちにドアが閉まり、カバンだけを挟まれてしまう。

会社内でも、良一は、上司の課長(マキタスポーツ)から、君は欠片でしかない!などとバカにされる始末。

がっくりして席に着いた良一に、ドンマイ!などと励ますように背中を叩いて来た田中は「廃棄」と書かれたシールを良一の背中に貼ってからかう。

いつも会社内で周囲から蔑まれて萎縮している良一の様子を横目で見ていた裕子は、おなか痛いんなら、これどうぞとカプセル剤を手渡してくれながら、すばやく「廃棄」シールを剥がしてやる。

昼休み時間、そごうデパートの横のビルの屋上のベンチで、1人焼きそばパンを食べていた良一は、目の前にいたミドリガメを撃っている男と目が合う。

良一は、そのカメを買う決心をする。

その日、帰宅したアパートのTVでは、「広島・長崎を考える」と言う特集をやっていた。

しかし、良一はそんなものを見ていたのではなかった。

真っ赤なヘアウィッグをかぶり、ギターをかき鳴らすミュージシャンの姿になっていたのだ。

昼間の姿は仮の姿なんだ。これが本当の俺の姿さ!

良一はアパートの中で、買って来たミドリカメを前に語りかけていた。

カメちゃん!と最初語りかけていた良一だったが、何か良い名前はないかな?と考え始める。

その時、テレビ画面では、「ピカドンとは何の意味か?」と言うインタビューを女性レポーターが外でやっていた。

マイクを向けられた若者は「怪獣?」などと答えるが、ピカドンと言うのは原爆のことだと答える女性レポーター

それを観た良一は、ミドリガメにピカドンと名付けることにする。

その後、炬燵の上に「人生ゲーム」を拡げた良一は、ピカドンをスタート地点に乗せ、自分の将来を占ってみることにする。

俺をビッグにしてくれぇ~!良一が雄叫びを挙げる。

ピカドンは、次々と幸運が訪れる進路を歩き、良一を喜ばせる。

いよいよ「大富豪」か「ホームレス」のどちらかのゴールの二叉路に到着したピカドンだったが、良一の期待とは裏腹に、ピカドンは「ホームレス」の方へ進んでしまう。

その後、ピカドンが、ゲームの上に置いていたカプセル錠の上を歩こうとしたので、慌ててカプセルを取り上げると、これは寺島裕子さんからもらったものだ!僕は寺島裕子さんが大好きだ!付き合いたい!と叫ぶ。

TVでは、東京オリンピックの会場となる、8万人収容の日本スタジアムの紹介をしていた。

良一は、すぐさま「日本スタジアムへの道」と紙に書き始める。

そして、炬燵の上に、その「日本スタジアムへの道」と書かれた紙をゴール地点にし、まっすぐな双六のようなものを作ると、ピカドンを真ん中の道のスタート地点に置き、行け!日本スタジアムへ!と良一は叫ぶ。

カメは真ん中の通路を、「日本スタジアムへの道」と書かれたゴール目指して歩き始める。

翌朝も、電車の中で、良一はいつもの女子高生に嘲り笑われる。

しかし、会社のエレベーターに乗り込んだ良一は、あの憧れの裕子と二人きりだった。

何か話しかけようとした良一だったが、裕子はずっとヘッドホンで音楽を聴いていたので、そのチャンスはなかった。

その日も、仕事中はずっと同僚たちからからかわれ、罵倒される良一だったが、今日からは、日本スタジアムと言う目標が出来たので、それを心の支えとして必死に耐えようとし、ピカドンを両手で挟むように持つと、それを機関銃に見立て、同僚たちを全員射殺するような真似をする。

日本スタジアムでライブをやるんだ!

タイトル(段ボールの一部が破れて穴になっている部分に)

会社内でこっそりピカドンに、お前だけが友達だよ…と話しかけていた良一だったが、領収書の件で鈴木に聞くようにと言われた裕子が良一に近づき、制服の胸ポケットから顔を出していたピカドンに気づき、思わず声をあげてしまう。

慌てて隠そうとした良一だったが、騒ぎに気づいた上司から呼ばれたので、仕方なく上司の机の前に向かうと、それがお前のピースか?と上司はピカドンのことを嘲り、他の写真たちも一斉に笑い始める。

もはやパニック状態になりかけた良一だったが、その時、裕子が自分に向かって口だけを動かし、何かメッセージを送ろうとしているのに気づく。

しかし、その意味は分からず、いつものようにその場を逃げ出した良一は、トイレの個室に閉じこもると、水洗便器の水の中にピカドンを入れ、ごめん!と言うなり流してしまう。

外に逃げ出した良一は、道ばたにいたストリートミュージシャン(奥野瑛太)の持っていたエレキのボディ部分がカメであることに気づくと、たった今、水洗トイレに流してしまったピカドンのことを思い出し、ピカ!と叫びながら抱きつこうとする。

気持ち悪がったミュージシャンはその場を離れていくが、良一は哀しそうに顔を歪め、四つん這いになって、その後を追おうとする。

水と共に、下水道の中に落ちて来たピカドンは、水に浮かんだ木片の上に乗り、どんどん奥の方へ流されていく。

外は雷雨になっていた。

やがて、ピカドンは、下水道の奥にある不思議な空間に到着する。

そこには、壁に無数の動物の写真が貼られ、いくつもの壊れた玩具や動物たちがいた。

良~く来たな!ガラクタ天国へようこそ!

下水から降り立ったピカドンに、そう言いながら近づいて来たのは、ウィスキーのポケット瓶を片手に持った謎の老人(西田敏行)だった。

爺!直るのか?そう声をかけて来たのは、黒猫の人形スネ公(声-犬山イヌコ)だった。

ピカドンと一緒に流れ着いたバラバラに壊れたロボットの玩具のことを聞いたのだった。

老人はその場で、壊れていたロボットの修理を始める。

私、マリア(声-中川翔子)って言うのとピカドンに話しかけたのは女の子の人形だった。

まだしゃべれないよ、爺ちゃんから飴もらってないから…とマリアにスネ公が言う。

上の世界の名前なんかもうないの…。私を棄てたのは私のご主人様じゃなくてその親よとなどとマリアはピカドンに話しかける。

どんな事情があって捨てられたのか知らんけど、ゆっくり休んでいけば良い。ここにいるのはみんな同じ類いのものだからだな…と、謎の老人はピカドンに話しかけると、みんな、仲良くしてやるんだぞ!わしはもう寝る…と他の玩具や動物たちに声をかける。

するとマリアが、おじいちゃん、飴をカメちゃんにあげて、お話したいのと頼む。

老人は奥の棚に並んでいたガラス瓶の方へ向かうと、ポケット瓶のウィスキーを飲む。

そこにあった鍋の蓋を開けた老人だったが、たくさんの光の珠が飛び出し、床に転がってしまう。

どの飴がしゃべる奴だっけ?と迷いながら、老人は転がった光の珠を拾い集め出す。

全部の珠を集め終わった老人は、今からカメちゃんのセレモニーの時間ですよ!と宣言すると1個の光る飴をピカドンの口の前に差し出す。

すると、その光はピカドンの口に吸い込まれていく。

その後、マリアが再び自己紹介して話しかけるが、ピカドンは何故か何もしゃべらなかった。

どうせ人間のせいで、飽きられてぽいされたんだろうとスネ公が言う。

老人はそのまま寝てしまうが、マリアはまだ、私のご主人のなはユリって言うのよなどと話しかけていた。

いつしか、他の玩具や動物たちも眠りにつくが、捨てないで~!帰りたいよ~などと言う寝言があちこちから聞こえて来る。

そんな中、ただ一匹起きていたピカドンの身体が光に包まれていたことに誰も気づかなかった。

その頃、アパートで寝ていた良一も、忘れない…ピカドン…と寝言を言っていた。

ピカドン!お前を忘れない♪いつしか良一は、歌いながら夜のマリにさまよい歩いていた。

この国は豊かになっていくに吊れ、過去の傷を捨てていく~♪

耳塞ぎ、口とじ~♪

同じ頃、下水道のガラクタ天国にいたピカドンも、ファファファ~♪と可愛らしい声で歌っていた。

その声に気づいたのか、老人が目を覚ます。

あっ!いかん!とんでもない間違いをしちまった!と老人は、いつの間にか大きくなっていたピカドンの様子に気づき狼狽する。

あんたにあげた飴、言葉をしゃべる飴じゃなくて、願い事を叶える飴だったんだ!

その老人の言葉を聞いたスネ公ら、他の玩具や動物は、僕らにはそんな飴があること教えてくれなかったたじゃない!酷いわ!と怒り出す。

しかし老人は、そんなに欲しいか?願い事の数の分だけ、身体が大きくなっちまうんだぞと言い聞かす。

あんたらの願いが叶い、地上に戻っても、あんたのご主人が頼み事をしたらどうする?人間の願いはどん欲だぞ…とみんなに言い聞かせた老人は、ピカドンに、あんた、怪物みたいな願い事頼まれたようだね?と同情すると、他の玩具や動物たちには、あんたたちの願いは今年中に叶えてやる。ここから旅立たせてやる。もうじき今年も終わりだ…と言い聞かす。

すると、スネ公だけが、俺は良いよ、俺、爺ちゃん所にいると答える。

今、このカメさんは危険な状態だ。どれだけどでかい願いを頼まれたのか…と老人は案ずる。

どのくらいカメさん大きくなるの?とマリアも心配するが、このカメ、捨てたご主人のことが大好きなんだな~…、これからご主人は、ええことづくめになるだろうな…と呟く。

その日、道ばたに力なく座り込んでいた良一の前に停まったのは、カメの絵が側面に描かれたライトバンだった。

そこから降りて来たのは、先日、良一が迫った亀の形のギターを持ったストリートミュジしゃんとその仲間たちのようで、こいつ面白い奴なんだと言いながらいきなり良一を捕まえると、有無を言わさず車に押し込んでその場を出発する。

降ろされた良一は、鎖が付いた犬のような首輪をはめられ、奴隷のようにそのバンドの路上ライブのマイクの前に引き出される。

ミュージシャンは、自分たちのマークであるカメのイラストを示し、これは昔の人がカメが世界を支えていると想像した図なんだと説明し、ギターをあげるから歌ってごらんと良一に言うと、マイクの前に立っていた良一にギターを手渡す。

集まった観客の後で、この様子を興味深そうに観ていたのは、レコード会社のプロデューサー松井(松田美由紀)とマネージャー稲川さとる(渋川清彦)だった。

しばし、呆然と立ち尽くしていた良一だったが、いつしかギターをかき鳴らし、東京オリンピックに向い、この国はどんどん豊かになっていく~♪と歌い始めたので、驚きながらも他のメンバーたちも演奏し始める。

過去のを捨て~、どんなに幸せを取り繕ってみても~♪

ピカドン~!お前を忘れない~!♪

観客たちはその曲に乗り始め、聞いていた松井もすっかり感心するが、歌い終わった良一は、突然その場から逃げ出そうとする。

松井は稲川に、絶対捕まえてよ!と叫び、バンドのメンバーたちと稲川が良一の後を追いかける。

ガラクタ天国では、ピカドンの様子を観ていたマリアが、嬉しがってるよ、この子!と気づく。

翌日、出社した良一に課長は、鈴木良一くん、昨日何してたの?今日はペット連れて来なかったの?などとからかって来る。

その日の昼休み、又屋上で1人で便利に座っていた良一に、目の前のカメ売りが、カメちゃん元気ですか?と笑顔で聞いて来たので、ごめんなさい!と絶叫した良一は、あのトイレに駆け込むと、もはやいないピカドンを取り戻そうと、便器の水の中に手を突っ込むのだった。

会社に戻って来た良一に、裕子が、お客さんですよと耳打ちして来る。

恐る恐る応接セットの所へ行くと、課長や先輩社員(小倉一郎)と向かい合っていたのは、路上ライブの時いた松井と稲川だった。

立上がった松井は、昨日のライブ拝見させて頂きました。素晴らしかったです。外へ行きましょうと良一に話しかけて来る。

会社の外に出て車に乗せられた良一に、隣に座った松井から、今すぐに我が社へ来てください。はっきり言います。あなたはスターになれる素質がある!などと説得される。

ピカドンを忘れない!あんな反戦曲聞いたことがない。原爆を忘れるな!と松井は勝手に熱弁を奮う。

松井らが良一を連れて来たのは「ジャパンレコード」だった。

稲川は良一に、「レボリューションQ」とチュウ、レッド、ベガなどメンバーを紹介する。

この間良一を拉致したバンドとリーダーだった。

今日から君はワイルド・リョウだ。契約書にサインしてくれ!とあっという間に稲川から良一は契約させられる。

チュウは良一に、会社辞めちゃいなよ、忙しいから両立できないよと勧めて来る。

これから現代の日本に向かって立ち向かうんだ!ピカドンって言うのはちょっとあれなんで、ラブ&ピースってしようよと良一に話しかけて来た稲垣は、急にチュウたちから良一を引き離すと、良いかリョウ!良く聞け!君が「レボリューションQ」を解散させるんだ。その後名声を君が一手に引き受け、俺がマネージャーになると耳元で囁きかけて来る。

その後、大きな部屋で稲川と二人きりになった良一は、あまりに急な申し出に呆然となり、ちょっと家に帰って考えてみますと答えるが、隣の部屋を開けてみろよと稲川が言うので、部屋の中央を仕切っていたカーテンドアを開くと、そこに、良一のアパートが再現されていた。

勝手に君の部屋の物移動した…、冗談だよ、金かけて作ったレプリカだ。帰りたかったら君の部屋は残っているから…と稲川は言い、お前の携帯は預かっとく。明日になればその意味が分かって来るから…、今晩はこの中で考えろと言うと、良一の携帯を隣の部屋のテーブルに置き、自分は部屋を出て行く。

その晩、用意された部屋で一夜を明かした良一は、自分の携帯音が隣から聞こえて来たので、起きて来る。

携帯を取ると、それは会社からで、遅刻だよ!おい!カメ!聞こえてんのか?とバカにする同僚の声が聞こえて来る。

その時、大きなガラス戸の向うの川の方から差し込んで来る朝日を見た良一は、無言で電話を切ってしまう。

その後、課長や田中、裕子たち同僚がいる所へ向かった良一は、すっかりロックシンガー風になっており、ぜひ観に来てくださいと言いながら、ライブのチケットを手渡す。

何やってんだ!と課長が怒ったように聞いて来たので、ボーカルです!オレ、ワイルド・リョウって言うんです、昨日からと良一は答える。

他の女子社員たちと共にチケットを受け取った裕子の方も、良一のあまりの様変わり振りにあっけにとられていた。

結成から1週間、10日とバンドの練習を重ねて行った良一は、いつの間にか一人前のロックシンガーになっていた。

20日後のライブには、もう満員の客が集まっており、その中に、裕子や課長、元会社の同僚たちの姿もあった。

ライブが終わり、客席に降りて来た良一は、裕子の方へ近づいて来るが、一緒にいた元同僚の田中は、お前、すげえよ感心する。

しかしそんな言葉は無視した良一は、裕子に、今日は来てくれてありがとうと礼を言う。

その頃、下水の奥のガラクタ天国に戻って来た老人はそこにいたピカドンを見て、カメちゃん、嬉しそう、良かったね。何か良いこと起きていそうだぞ…と我が事のように喜ぶ。

良一は、自分の新しいマンションに裕子を連れて来ると、一緒にシャンパンで乾杯をする。

アパートを模した部屋の炬燵に裕子を招き入れた良一は、ギターを弾いてやる。

一夜を明かした2人は、ベランダから河を見ながら、モーニングコーヒーを一緒に飲む。

下水道をゴムボートに乗ってガラクタ天国に戻って来た老人は、良一が歌う歌が流れていることに気づく。

玩具のロボットPC‐30(星野源)の胸の部分に付いたラジオから流れていたのだった。

この人ビッグになるわねと、その歌を聞いていたマリアは言うが、ピカドンが又一回り大きくなっていることに老人は気づく。

このままでかくなったら、ここじゃ住めないよ…とスネ公が心配する。

その時、老人のウィスキーを勝手の飲み干したPC‐300は壊れてしまったので、老人は又修理を始める。

犬のコリーは、僕はもう子犬じゃない…、僕はもう可愛くないんだと嘆き始める。

爺ちゃんは、みんなと同じような境遇のものたちを外に送り出して来た。

ここは1年制の学校なの。みんながずっとここにいたら、ここ、いっぱいになっちゃうでしょう?と老人は玩具や動物たちに言い聞かすと、咽が渇いたから水飲んで来ると言い残し、その場を立ち去る。

後に残った玩具や動物たちは、僕たちこんな汚い身体だよ。帰っても、元のご主人どういうと思う?とスネ公がみんなに聞く。

おい、タマ!と猫に声をかけたスネ公は、あいつらみたいになるだけだよ…と、壁に貼られた動物たちの写真を見る。

そこに貼られていた動物たちはみんな処分されてしまったものたちだった。

それに気づいた玩具や動物たちはみんな落ち込む。

その時、マリアが、ラブ&ピースの歌を歌い始め、やがてその場にいたみんながその歌を歌い出す。

離れた所でその歌を聞いていた老人は、1人涙するのであった。

そして、大きくなっていたピカドンの目からも涙が流れていた。

その後、玩具や動物と一緒に老人も眠りにつくが、そんな中、スネ公だけは、老人が乗っていたゴムボートに乗り、ガラクタ天国から下水へ戻っていくピカドンの姿を寝ぼけ眼で見守っていた。

その頃、良一は、新曲を作ろうとギターを触っていたが、その内、俺に曲が作れるか!と投げ出してしまう。

その時、川の方から汽笛の音が聞こえて来る。

良一の隣のフローリング部分には、ベランダから続く水の後が付いていた。

炬燵からその部屋にやって来た良一は、大きくなったピカドンがいたので、ピカドン!随分でかくなって!と驚きながらも大喜びする。

すると、ピカドンが突然、ファファファ~♪と唄のようなものを歌い出す。

その曲を聞いた良一は感激するが、歌詞は?と聞くと、急にピカドンは、側のテーブルの上にうずたかく積まれていた本の山を崩し始める。

良一は、崩れた本の表紙のタイトルを繋げると、歌詞になっていることに気づく。

何も分かっちゃいねえ~♪そうさ、俺たちは一緒なんだよ~♪

それを読んだ良一は、思わず、ごめんな…ピカ!あんなことした俺を許してくれるか!と、ピカドンの身体を触りながら、水洗トイレに流したことを詫びる。

その時、突然玄関チャイムが鳴ったので、驚いた良一は、炬燵部屋からシーツを持って来て、それをピカドンの上にかけ姿を隠す。

ドアを開けると、お腹空いたでしょうと言いながら入って来たのは裕子だった。

裕子はすぐに、シーツをかぶった大きなものがあることに気づく。

良一は慌ててピカドンの上に股がると、これは新しい椅子なんだなどとごまかそうとするが、どう見てもそれは大きなカメだったので、あの時のカメさん!会社に持って来た!と裕子は指摘する。

すると、ごまかしきれなくなったことに切れたのか、もう帰ってくれ!こんな奴は知らねえ!俺はワイルド・リョウだ!と裕子を追い返す。

ところが、気づいてみると、ピカドンは又川に戻っていったらしくいなくなっていた。

次のコンサート会場で、ボーカルだったリョウは、新しい曲を作ったんだと観客に発表すると、何も聞いていなかった他のメンバーたちがあっけにとられる中、1人で歌い始める。

ずっとずっと一緒なんだよ~♪

コンサート終了後、ステージを降りたチュウが良一につかみ掛かって来て、俺たちは反骨なんだよ!やわなラブソングなんて勝手に歌ってんじぇねえよ!と文句を言って来る。

しかし、良一は、うるせえんだよ!誰のお陰でここまで来れたと思ってるんだよ!と逆切れをする。

「レボリューションQ」はTV出演も果たし、いつしか、良一のマンションの部屋でパーティを開くまでになる。

その時、寺島裕子が訪ねて来るが、それを伝え聞いた良一は、会いたくない、帰してくれと言い放つ。

数日後、良一は、新曲のレコーディングをしていた。

俺たちはずっと一緒なんだよ~♪

そんな中、クリスマスが近づいて来る。

街角の路上では、玩具のバーゲンセールをやっていたが、命にバーゲンはありません!と売っていた店員の邪魔をしていたのは、酔っぱらったあの老人だった。

店員は、販売の邪魔になる老人を追い払おうとするが、おい、頑張れ!と老人は、ワゴンの上に置いてあったトナカイの人形に話しかけていた。

マンションにいた良一は、次の曲が思い浮かばず、次の曲を作ってくれよ~!とベランダから川に向かって呼びかけていた。

その後、下水道を戻って来た老人は、世界の冷たさを知ってしまった。だから外には出しませんと言いながら、途中にあった鉄柵を次々に閉めていく。

ガラクタ天国に戻って来た老人は、ピカドンの身体がさらに一回り大きくなっていることに気づく。

マリアは、外に出たがっていたピカドンに、おじいちゃまが二度と外に出ちゃダメだってろ言い聞かそうとするが、ピカドンはご主人様に唄を届けたくて仕方ないようだった。

良一のマンションのTVでは、最近、この界隈に巨大な生物が出回っていると言う噂があると女性レポーターが紹介していたので、それを観た良一はピカドンのことだと気づく。

その時、裕子から電話が入り、何故会ってくださらないの?あの頃のこと、カメのことが恥ずかしいんでしょう?と言って来る。

裕子は額に「廃棄」シールを貼付け、夜の無人の商店街を歩いていた。

いよいよ良一たちのコンサートの日

ガラクタ天国では、スネ公とマリアが老人に酒を飲ませ、早々に寝かせていた。

老人が寝付いた時、ゴリラ人形が、下水の鉄柵の開閉ハンドルを回し、開く。

大きな段ボーツ箱をかぶしたピカドンの背中に乗ったスネ公、マリア、PC‐300は、そのまま下水溝から地上の町に出て行く。

コンサート会場では、女性コーラスをバックに、良一が熱唱していた。

表通りに出た段ボールの隙間から外の様子を観ていたスネ公は、人間共め、覚えてろ!と日頃の鬱憤を吐き出していた。

良一のマンションを目指していたはずのピカドンは、違う方向に向かい始めたので、マリアやスネ公は慌てるが、PC-300は、これで良いのかも知れませんと言う。

コンサート会場に直接向かっていることが分かったからだ。

その時、マリアが、段ボールの隙間から見えて来たとある店のショーウィンドーに気づく。

私はあの店にいたの…、ユリちゃん元気かな…とマリアは、前のご主人様のことを思い出したようだった。

私はクリスマスプレゼントだったけどあなたは何だったの?と聞かれたPC-300は、私は誕生日のプレゼントでしたと答える。

その日は雪が降っていたの…と、マリアは、自分が前のご主人様と出会った日の事を懐かしがっていた。

もうすぐ着きます!とPC-300が言うと、私たちは行けないわ…とマリアが言いだし、カメちゃん、止ってと頼む。

俺がカメに乗っていくから、お前たちはここから帰れとスネ公が言い出す。

その時、大きな段ボールに不信感を抱いた通行人が突然段ボール箱を開けてしまう。

大きな亀の上に、玩具が3体乗っていたので、通行人たちは驚く。

その隙に、亀の背中から滑り降りたマリアはPC-300に、帰りましょうと声をかける。

その頃、ステージ上で曲を歌い終わった良一が、今日は重大な発表があります!今夜を持って「レボリューションQ」は解散します!と突然宣言する。

それを背後で聞いていたチュウたちメンバーは、事情を聞かされてなかったので唖然とする。

ステージを終え、楽屋に戻ろうとした良一にチュウがつかみ掛かって来ようとしたので、記者団を待たせているので…と、マネージャーの稲川が止めたので荒れ狂う。

そんな記者会見場の建物内までやって来たスネ公は、カメ、言ったらもう戻って来れないぞ…、さよならだ…と言い聞かせるが、ピカドンはそのまま嬉しそうに、記者団の集団の背後から迫っていく。

そのピカドンの後ろ姿を、物陰から見送りながら、ご主人様か…とスネ公は寂しそうに呟く。

記者会見場に現れた良一を、稲川は反戦ロックシンガーとして紹介するが、他のメンバーたちは?と記者団は不思議がる。

そんな中、前に進み出た良一が、今後はソロで…と説明しかけるが、その時、記者団の背後から迫って来た巨大なカメに記者団が気づき、一斉に退く。

ピカドンの出現に良一も驚くが、僕が超能力で呼んだんです。次の曲は自然保護がスローガンなんですなどともっともらしい説明をし始める。

背後でピカドンを初めて観た稲川も肝を潰していた。

良一はさらに、今、僕の頭の中に浮かんだメロディをカメにテレパシーで送ります!などと訳の分からない事を言い出すが、次の瞬間、ピカドンが突然、ファファファ~♪と新しい曲を歌い出す。

それを聞いた良一は感激し、これが僕の次の曲です!バンドを解散させたのは、もっともっと世界中に曲を広めるためです!ラブ&ピース!こいつのために歌い続けます!このカメがラブ!俺がピースです!などと記者団に説明する。

その良一の姿には、マネージャーの稲川もすっかり参り、リョウさん…、カッコいい!とうっとりしていた。

しかし、そんな記者会見の様子を柱の影から覘き見ていたスネ公だけは、全く…と人間のバカさ加減に呆れていた。

その後、メンバーたちは、戻って来たリョウに、勝手過ぎるぞ!と鬱憤をぶつける。

利用するだけ利用して!と女性メンバーも怒るが、君たちがここ前で来れたのは、リョウさんのお陰だろう?と稲川が言い聞かす。

俺たちの友情は?と言いながら、良一にすがって来たチュウだったが、何甘えてるんだよ!と良一からはり倒される。

他のメンバたちも、女性以外は殴り飛ばされる。

その後、今後もバックで演奏させてやるよ…と良一が言うと、メンバーたちは全員、ありがとう…と、すっかり萎縮して感謝する。

一方、ピカドンの元に近づいて来たのは、白衣を着た謎の一団だった。

TVでは、巨大な亀の名前はラブだと紹介される。

町から帰ったはずのマリアは、あの人形がたくさん並んだ店のショーウィンドーをまだ覗き込んでいた。

そこに戻って来たスネ公は、帰ったんじゃなかったのか?と聞くと、私はここで良いの…とマリアは答える。

そんなスネ公のことに気づいた酔ったサラリーマンが、猫がしゃべった!と驚いていた。

その頃、ピカドンは、謎の科学者(手塚とおる)たちによって捕獲され、注射をされようとしていた。

良一は、週に一度は会わせて欲しい!2つで1つなんだよ!と訴えるが、そのまま科学者たちによって台車に縛り付けられたピカドンは連れて行かれ、日科研の建物に連れて行かれる。

科学者が自分用の胃薬カプセル錠を飲もうとすると、突然、それを目にしたピカドンが嬉しそうに声を上げ始める。

そのカプセルは、寺島裕子が良一に渡した胃薬のカプセル剤と同じだと気づいたからだった。

しかし、科学者は、そのピカドンの反応の意味も分からずカプセル剤を飲んでしまったので、ピカドンは台車に縛られていたロープを引きちぎらんばかりに暴れ出す。

町にはいつしか雪が舞い降りていた。

まだ、玩具屋の前に残っていたマリアは、近くの噴水に腰掛けたりしていたが、その横に、少女二人が腰掛け、すぐに親が行くよ!と呼びかけたので立ち去って行く。

去っていく少女たちを見送ったマリアは、前のご主人様を思い出しため息をつく。

その時、近くのブティックで赤いパーティドレスを買おうとしていたのは寺島裕子だった。

しかし裕子は、ちょうど店の前を通り過ぎて行く良一をガラス窓越しに発見する。

良一はファンらしき女性を連れていた。

それを観てしまった裕子は、買いかけていたドレスと女店員に返すと、店を出て行く。

玩具屋から親と一緒に出て来たのは、マリアの前のご主人様だったユリちゃんだった。

ユリちゃんは、新しい人形を買ってもらっていた。

それに気づいたマリアは、待って!ユリちゃん!と叫びながら、後を追おうとするが、ユリちゃんは全くその声が聞こえないのか行ってしまう。

近くから、玩具のバーゲンセールの呼び込みが聞こえて来る。

どうして?…、振り返ってくれないユリちゃんを見送りながら立ち止まったマリアは泣き出していた。

その頃、下水の奥のガラクタ天国では、サンタの格好をした老人が、クリスマスツリーに飾り付けをしていた。

その場にマリアは戻っていなかった。

老人は、みんなが爺ちゃんのことを信用できなくなっているのも分かる。でも、カメちゃんとマリアがここに戻って来たら、みんなにも良いことが起きる。

今日は、スペシャルドリンクをみんなに振る舞うから…と玩具や動物たちに言い聞かすと、奥の方へ向かう。

スネ公は、寂しそうな老人のことを気遣い、みんな!爺ちゃんが戻って来たら、歌でも歌って元気出せよ!とみんなに声をかける。

老人は、奥の棚に置かれていた瓶から光の珠を取り出すと、それをグラスに入れた飲み物の中に1個ずつ入れていく。

さあ、今夜は楽しくやろう!みんなこれを飲みましょう!とグラスを乗せたトレイを持って来た老人が戻って来る。

おじいちゃん、ありがとう!と感謝し、みんなその飲み物を飲み干す。

PC‐300は、カメちゃんとマリアが戻って来たら、みんなでパーティをやりましょう!と提案する。

スネ公は、俺、海に行ったことがあるんだ…などと話しだす。

いつの間にか、ガラクタ天国に本物のトナカイが1頭紛れ込んでいた。

老人はいつの間にか、完全なサンタクロースの格好になっていた。

飲み物を飲んだ玩具や動物たちはみんな眠ってしまっていた。

老人は、そんなみんなに、バイバイ!と小さく声をかけ、サンタの帽子と付け髭を取ると哀し気な顔になる。

マリアは、町のゴミ捨て場で汚れた状態で捨てられていた。

その場に近づいて来た老人は、マリアを抱き上げると、光る液体を飲ませる。

ガラクタ天国でふと気がついたマリアは、おじいちゃま、私、何だか前にもおじいちゃんにここに連れて来てもらったような気がするの…と呟く。

マリア、お休み…と声をかけた老人は、いつの間にか新品の人形に変化していたマリアを新品の箱の中に納める。

今年こそ巧くいって、ここには戻って来るんじゃねえぞともはや口を聞かぬ人形に戻っていたマリアに話しかけ、箱の蓋を閉める。

達者でな、スネ公…、PCも元気でな…と、老人が声をかけた他の玩具たちも新品の玩具に戻って、きれいな箱に入っていた。

動物たちはみんな子供に戻っていた。

みんな、元気でな!とソリに積んだたくさんの新品の玩具に話しかけたサンタ姿の老人は、行くぞ〜!と言うと、トナカイにソリを引かせガラクタ天国を出発する。

その時、どうせ来年も、あんたの配った夢はみんなここに戻って来るんだ…と、後に積んだ箱の中のスネ公の声が聞こえて来る。

2015年12月25日

東京都庁の側の日本スタジアムは、良一のコンサートの観客で埋め尽くされいた。

入場口からやって来た良一は、元同僚の田中がサイン下さいと差し出した色紙を叩き落とす。

すると田中は、カッコいい!と逆に感動する。

会場を見た良一は、俺、もっともっとビッグを目指したいと言い出したので、後についていた稲川は、世界一か…、そいつは良いな…と嬉しそうに賛同する。

サンタ姿の老人は、捕まっていたピカドンの所へやって来るが、部屋にいた科学者たちには老人の姿は見えないようだった。

あんたのご主人様が又祈ったぞ…、又でかくなるぞ!カメちゃん、もうじき終わるからね…、悪かったね…、この飴嘗めて!カメちゃん、自分の言葉でしゃべることが出来るんだ。

もうじき、カメちゃん、幸せになる。メリークリスマス!と言いながら、老人はピカドンに飴を与える。

日本スタジアムでは、観客が全員、ラブ&ピースを歌い始めていた。

すると、ピカドンの身体が光り出し、さらに身体も巨大化する。

それに気づいた科学者たちが逃げ出した直後、ピカドンは怪獣のように巨大化し、建物を破壊して地上に現れる。

ステージに上がった良一が歌い始める。

巨大化したピカドンは、秋葉原、浅草方面から、ビルをなぎ倒しながら新宿の東京スタジアムを目指す。

自衛隊の戦車部隊が出動する。

ピカドンには、かつて、

良一のアパートの炬燵の上で、紙で作った「日本スタジアムへの道」を目指す双六を進んでいるイメージがだぶっていた。

行け!行け!日本スタジアム!

やがてピカドンは、日本スタジアム前に立ちふさがっていた東京都庁をよじ上ろうとする。

ベートーベンの「第九」が鳴り響く中、戦車部隊の総攻撃が始まる。

都庁の照明が消え、日本スタジアムで熱唱中の良一の背後で、東京都庁は崩れ去る。

その直後、日本スタジアムを覗き込むように怪獣のように大きくなったピカドンが出現したので、観客たちも、ステージ上の良一も固まる。

ピカドンは、又新しい歌を歌い出したので、ピカドン!と良一は叫ぶ。

僕はビッグだ!カメちゃん、聞いてるかい?と突然、ピカドンがしゃべり始める。

鈴木良一、ビッグになりたいんだ!ここから脱出するんだ!

ピカドンの言葉を聞いていた稲川は、新しいスターの誕生だ!と喜ぶ。

僕は寺島裕子さんが大好きだ!付き合いたいよ…、ピカドンがしゃべっていたのは、かつて、良一がアパートでピカドンに話しかけていた独り言だった。

会場内でその言葉を聞いていた元同僚の女子社員は、一緒に来ていた裕子に、あれってあんたのことじゃない?と話しかける。

ピカドン!と絶叫した良一の様子がおかしくなり、ふらふらと夢遊病者のような足取りでステージを降りると、客席内の中央通路を歩き出す。

女子社員たちに押されるように、通路脇の柵にたどり着く裕子。

それに気づいた稲川が、作を少し開いてやり、裕子を通路内に入れる。

しかし、良一の表情は、自信にあふれたロックシンガー、ワイルド・リョウのそれではなく、会社勤めをしていた頃のいつも何かに怯えたような元の顔に戻っていた。

良一は、ウィッグを脱ぎ捨てると、裕子にも目も合わせず退場して行く。

派手なスパンコールの衣装も脱ぎ捨て、Tシャツ姿になった良一は、雪が降りしきる寂しい町を歩いていく。

いつしか良一は泣いていた。(RCサクセション「スローバラード」が流れる中)

良一がやって来たのは、元のボロアパートの二階の部屋だった。

裸電球を点けると、昔のように炬燵に入り込む。

気がつくと、元のミドリガメの大きさに戻ったピカドンが、窓から入って来る。

そのピカドンを手に乗せた良一は、カメ…、お前か?と呟く。

日本スタジアムから良一を追いかけて来たのか、部屋の外の通路に上がって来たのは、寺島裕子だった…


 

 

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