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警視庁物語 全国縦断捜査

「警視庁物語」シリーズの第二十二話らしいが、これだけシリーズが続いているのに、この作品も密度が濃く、見応えがあって面白いのがすごい。

奥多摩から始まり、沖縄、秋田、四日市…と刑事たちが捜査のため全国へ飛ぶスケールの大きさも嬉しい。

沖縄や秋田、四日市など、全部ロケーションしており、その土地土地の問題点などもさりげなくちりばめてあるのも興味深い。

特に、まだ返還前の沖縄ロケは貴重。

フマキラーの電気蚊取り「ベープ」などが、宣伝のため、わざとらしく登場するのも楽しい。

後年は悪役のイメージが強くなる神田隆演ずる主任を中心に、「七人の刑事」でもお馴染みの堀雄二や花澤徳衛と言ったベテランが渋い刑事を演じている。

まだこの頃は、山本麟一は、南廣らと共に独身の若手刑事をやっておる。

この作品で始めてお目にかかったのは、太田刑事役の大木史朗と言うイケメンくらい。

初期の頃にはいなかったはずなので、途中から参加したレギュラーなのだろう。

八名信夫、今井健二、潮健児、室田日出男と言った後の名悪役、名脇役陣が、色々な役で登場しているのも嬉しい。

今回注目したいのは、幸薄そうな女として登場している星美智子さんや岩崎加根子さん、中原ひとみさんと言った女優陣。

3人ともインパクトのあるキャラクターを演じている。

特に、清純派イメージだった中原ひとみさんの狂気演技は見物。

いまだに続く東映の刑事物の、この時代からの安定感は恐ろしいほどである。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1963年、東映、長谷川公之脚本、飯塚増一監督作品。

夕暮れ時の奥多摩の山中、待っていた男がやって来たもう1人の男と出会うと、いきなり二人は草むらの中でもみ合いを始め、1人が相手の首をベルト上のもので締め上げ殺害すると、ガソリンの一斗缶で遺体の顔面を何度も強打、その後、ガソリンを遺体に撒くと火を点ける。

タイトル

翌日発見された黒焦げ死体の廻りに集まったのは、捜査主任(神田隆)以下の警視庁の刑事たち。

顔が潰されていること、ガソリンをかけたことなどが彼らにも分かったので、林刑事(花澤徳衛)が、動機は怨恨では?と感想を述べる。

鑑識係は、これだけ焼けていたら、指紋の採取は難しいと言うので、主任は遺体を解剖に廻すように指示すると、現場の近くに落ちていた吸い殻を確認してくれと付け加える。

長田部長刑事(堀雄二)が林刑事に吸い殻2本入ったビニール袋を渡す。

そこへやって来た北川刑事(南廣)が、上の方に残っていた車の跡は、草の上だったので、石膏型を取るのは難しいそうですと主任に報告する。

主任は、犯人がガソリンをどこで手に入れたか、ガソリンスタンドを当たってくれと金子刑事(山本麟一)と北川刑事に頼む。

その時、長田部長刑事が主任に、ガイシャの首の辺りに落ちていたと言い、黒焦げになったベルトのバックル部分を持って来る。

表には花の絵が浮き彫りにされており、裏には「○○第一小学校」の文字がかすかに判読できた。

犯人が遺した凶器の一部らしかったので、早速近くの小学校へ向かう長田部長刑事。

女性教師が花の図鑑を調べてくれて、バックルの花は「扶桑花(ぶっそうげ)」と言う南国の花らしいと言う所までは分かるが、バックル自体には見覚えはないし、この辺に「第一小学校」と言う名称はないと言う。

これの花言葉のようなものを知りませんか?と聞いた長田だったが、女性教師は知らないと言う。

そこに帰って来た男先生が、バックルの文字を黒板に再現してみた結果、見え難かった最初の二文字は「那覇」だと分かる。

本部に戻っていた主任は、鑑識からの報告で、ガイシャの首の擦溝は幅2cmと判明、やはり、あのバックルの付いたバンドが凶器だった可能性が高くなる。

長田部長刑事からの報告も聞いた捜査第一課長(松本克平)は、犯人は沖縄出身者か…と呟く。

そこへ今度は、渡辺刑事(須藤健)から電話が入り、目撃者がいたと連絡して来る。

何でも、昨日の6時頃、現場の上の道で2人がタバコを吸っていたと言う。

さらにグレーのライトバンも停まっており、○に「川」のような三本線のマークが付いていたと言う。

主任は引き続き当たってくれと頼む。

そこに戻って来た太田刑事(大木史朗)が、吸い殻は沖縄煙草の「うるま」だったと報告する。

捜査第一課長は、そのライトバンを手配した方が良いと主任に意見を言い、自分は会議に出かけて行く。

長田が沖縄県人会の電話番号を調べ主任に伝え、主任はその場でかけてみる。

「エッソ」の会社を訪ねた金子刑事は北川刑事に、こんな大きな所は大抵外資が入っているんだな、これから他にもコルゲートなど外資の会社がどんどん入って来るらしいぜと話しかける。

本部では、沖縄学徒援護会からの連絡を受けた主任が、バックルのことは分からないと言う返事を聞いていた。

ライトバンの目撃者もその後は見つからなかったが、6時半頃、山の上の方で火の手が上がったが、たき火か何かと目撃者は思ったそうで、犯行時刻はほぼその辺りだろうと言うことだけが判明する。

その時、北川、金子、林刑事たちが次々と本部に戻って来る。

死亡推定時刻は昨夜の6時半頃、ガイシャは身長160cmの30才くらいで、血液はO型と林刑事が報告すると、現場に遺されていた煙草「うるま」から採取した唾液の血液型はA型だったので、犯人が吸ったものらしいねと主任は言う。

その時、捜査第一課長から主任に電話が入り、捜査課長からの指示があったそうだから、長田部長刑事に明日の8時の便で沖縄へ飛んでくれないかと主任は頼む。

翌日、ジェット機が上空を飛ぶ沖縄国際空港に到着した長田を出迎えたのは、南風原(はえばら)部長刑事(清水元)と言う珍しい名前の地元刑事だった。

今朝方バックルの電送写真が届いたと言う南風原部長刑事は、終戦の前の年に生き残った5人が一昨々年のクラス会の時に配ったものだった、今その内、2人は本土にいる。行政府からちょっと行った所に住んでいる運天(うんてん)と言う尾横に聞けば、誰に配ったか分かるだろうと言う。

発展した町の様子に驚いた永田に、車と人口は多く、前は57万人だったのが今では90万人住んでいる。敗戦で多くの人が引き上げてきたこと。出生率は高く、死亡率は世界一低いからですと南風原部長刑事は説明する。

訪問した二人からバックルの写真を見せられた運天(中野誠也)は、確かに私が作ったものです。戦争で死んだ旧友たちを供養するために花を彫ったのです…と認める。

ここはお客さんが多い。お客さんとは米軍のことです。信託統治領と言われているが、もう18年も居座っている…と南風原部長刑事が長田に説明する。

バックルは、校長の分も入れて6個ですか?と確認すると、そこに茶を運んで来た運天の妻(田中恵美子)が、もう一つ…、家の母が…と言葉をかけて来る。

これの兄が同級だったものですから…と運天が説明したので、バックルは全部で7個存在すると言うことが分かった。

その内、校長と運天が持っていることは既に確かめた…と言うと、2個は内地に行っている…と運天が補足する。

その頃、警視庁の捜査本部では、主任と林刑事が一緒にターメンを啜りながら、沖縄へ行っている長田のことを噂していた。

あちらでは米がまずいそうだなと主任が言うと、外米ですか?と林が聞く。

こんな蕎麦でも50セントもするそうだと主任が知識を披露する。

そこに金子刑事から電話が入り、ガソリン缶を売った店がなかなか見つからないと言ってくる。

もっと都心に近い所で買ったのかな?と主任が推理していると、福生署から電話が入り、ライトバンが見つかったと言って来る。

置き去りにされていたライトバンは一昨日盗まれたもので、現場近くでライトバンを観たと言う目撃者に確認してもらった所、これに間違いないとのことだった。

車に遺っていた指紋から、樺太から引き上げてきた永井清太と言う男の名前が浮かび上がる。窃盗で捕まったことがあったからだった。

ライトバンの吸い殻入れには「うるま」が6本入っていたとも言う。

さらに、車に残っていた証拠からガイシャの名前は佐山久と言う男と判明する。

主任は林刑事に金子くんと合流してくれと頼む。

その頃、沖縄の長田と南風原は、バックルを持っている次の男を捜し、地元の飲屋街にやって来ていた。

南風原は、この手のバーには黒人用と白人用があり、我々日本人はカラーに関係なく入れると説明する。

店に入ると、手伝いをしている妹は、この商売あんまり儲からないんですよ。ウィスキーなんてノータックスの奴を持ち込むんですからと愚痴を言う。

今、沖縄は1億ドル、360億円もの赤字を抱えており、それを返還したとして、日本政府は持ってくれるのか?と南風原も愚痴る。

バーの主人の兄古宇利(北山達也)は、自分のバックルを持って来て二人に見せたので、長田は名簿から名前を消す。

北川刑事と渡辺刑事は、川に浮かぶ舟の上にいた林刑事と合流する。

林刑事は水上生活者の中に佐山伸作がいるのではないかと気づいたのだった。

佐山久は?と林刑事が久の義理の姉(谷本小夜子)に声をかけると、うちの人の弟だけど?と義理の姉は答え、一昨日の昼頃来て、これから甲府の方へ行って北村さんと言う人からブドウ園に紹介してもらうと言っていた。

北村さんとは飲み屋で知り合ったらしく、久は、佐々木組で人夫をしていたが、樺太時代から身体が弱く、力仕事には向いていなかったから…と言う。

林刑事は、実は、その久さんが殺されたんですよと伝えると、新聞に載っていたあれですか?でもそんなはずありません。久さん、給料取りになるんだと、戸籍謄本持って行ったし…と義理の姉は戸惑う。

その時、船の下から、口の不自由な老人(沖野一夫)が盛んに女性に声をかけて来たので、あれは?と聞くと、久のお父っあんなどだと言う。

林刑事らは、この義理の姉に北村と言う男のモンタージュを作らせようかと話し合う。

沖縄では、次のバックルの持ち主今皈仁(なきじん)を訪ねた南風原と長田だったが、運搬を手伝っていたが今は職場を辞めてしまったと知るが、南風原は心当たりがあると言い、そこへ車で向かう。

車を降りた南風原は、今皈仁の妻は、米軍基地に弾拾いに入って撃たれたと言うので、長田も、本土でも同じような事件がありましたと教える。

今皈仁(今井健二)は、闘牛場の客席にいた。

このバックルを持っているか?と長田が写真を見せると、2年ほど前なくしよ言うだけで、闘牛の応援に夢中だったので、長田は落胆するが、南風原は、今皈仁は2年ほど前に基地の飯場にいたことがあり、その時に落としたバックルを誰かに拾われた可能性があることを指摘する。

奥さんが亡くなったことはどう思っているんだろう?と長田が呟くと、補償の代わりに窃盗の罪をもらったんですよ…と南風原は答える。

林、渡辺、北川の3人は、佐山が働いていたと言う工事現場で中井(潮健児)と言う男に話を聞くと、佐山は大久保三郎と言う奴ともめていたと言う。

何でも、半年ほど前、大久保の女を佐山が取ったからだと言う。

大久保は腕に女の彫り物までしていたくらいだったので、取られたと知ったときは、酒の勢いもあってか、佐山を追いかけ回していたと言う。

女の名前はソメ子と言い、「千鳥」と言う飲み屋に勤めているのだと言う。

佐山の住まいは、鮫洲の「東ハウス」と言い風呂屋の近くなので、煙突を目印に行けばすぐ分かると中井は明るく教えてくれる。

大塚三郎はこんなの持ってなかったか?と渡辺刑事がバックルの写真を見せて聞くと、沖縄だったらあっしも行きました。組の仕事で…、2年ほど前、大塚もいたよよと中井は言う。

それを聞いた林刑事は、大塚があのバックルを持っていてもおかしくないな…と呟く。

沖縄では、島の娘たちが八重山民謡を踊っている宴会場に長田と南風原は来ていた。

店の女性が珍しいものを仕掛けていたので、長田が不思議がると、あれはフマキラーのベープと言う電気蚊取りですよと南風原が教え、虫と言えば、この島の娘たちは貞操が堅く、難攻不落ですよと付け加える。

その店には、城間(ぐすくま)正夫の従兄弟さゆり(川田礼子)が踊子だったので、消息を聞こうと来たのであった。

舞台衣装に着替えたさゆりは、正夫さんは、岡山の実家に疎開したと言い、母の話ではタクシーの運転手をやっていたそうですと言う。

では、岡山の実家の方に問い合わせれば分かりますか?と聞くと、叔母は沖縄出身の正夫さんとの結婚を反対されたので実家を家出したそうです。正夫さんのお父さんは、マグニで戦死しましたとさゆりは言う。

さゆりが舞台に上がると、マグニと言うのは激戦地で、全滅だったそうですと南風原が長田に教える。

城間の行方は本土にいる宜保に聞くしかないと分かったので、本部に洗わしましょうと長田は提案する。

警視庁内「奥多摩殺人事件捜査本部」

ガソリンの一斗缶を売った店が分かりました。田無に近い所でした…と言いながら金子刑事が戻って来る。

買った相手は30才くらいの細面、木綿のシャツを着ていたそうですと金子は報告する。

それを聞いた主任は、ガイシャの義姉さんとモンタージュを作れるねと言う。

その時、林刑事から電話が入り、佐山のアパートの大家の話では、一昨日から帰ってないと言う。

それを聞いた主任は、渡辺と北川はその場に残り、君はその飲み屋に行ってくれと指示を出す。

「千鳥」と言う飲み屋にやって来た林刑事がソメ子はいないかと聞くと、大塚と1時間くらい前に出かけたが、どこに行ったから分からないと女将が言う。

すると、カウンターで酔っていた女(星美智子)が、ソメちゃんの居所なら知っているなどと言うので、林刑事が聞こうとすると、なら、これ食べてなどと言いながら、焼き鳥を無理矢理食わせようとする。

林が困っていると、ソメちゃんだったら食べるんでしょう?などと言いながら、まずは自分が半分食べ、残りを林刑事の口に押し込む。

林が焼き鳥を食べると、ソメちゃんは佐山さんに会いに行ったんだよと女は言う。

どこにいるのかは知らないけど、大塚さんが佐山さんに会わせてやるって言いに来たのと女が言うと、何しろ、ソメちゃん、佐山さんに乗り換えちゃったからねと側で聞いていた女将も口を挟んで来る。

ソメちゃん、国に仕送りしなくちゃいけないんだ!親父さん、死んじゃったんだ!と女はソメ子に同乗するように付け加える。

林刑事はすぐさま、大塚は腕に「ソメ子命」よ刺青を入れていると本部に電話する。

それを聞いた主任は、大塚に警戒しなければいけないな…と呟くと、佐々木組が2年前、沖縄に行ったと言う長田さんの話とも合う!大塚三郎を手配しましょうと、側にいた金子が提案する。

大塚は飲み代を随分払ってないらしいから詐欺で手配しようと主任は言うが、その大塚は意外な所で見つかる。

旅館でソメ子と無理心中を計り、自分だけ死んで、遺体安置所に送られて来たのだった。

遺体の腕には、ソメ子命と刺青が入っていた。

それを確認した主任は、大塚を探しに出向いた刑事たちを本部に引き上げさせろと命じる。

心中を発見した警官によると、二人は睡眠薬を飲んで苦しんでいたのだと言う。

一方、ソメ子(小林裕子)の方は命が助かり、入院していたので事情を聞きに行く。

大塚から佐山さんに会わせると言われ、宿に付いて行ったが、佐山さんはいなかった。ウィスキーのようなものを大塚に飲まされたとソメ子は言うので、大塚が一昨々日、佐山に合ったかどうか知らんかな?と聞くと、一昨々日の5時頃、大塚さんは蕎麦屋におったよ、佐山さんのこと諦めて、俺と一緒になれなんて迫り、1時間くらい一緒にいたと言うので、大塚のアリバイはあることが分かる。

さらに、遺体を解剖した医者によると大塚の血液型はB型で、現場に遺されていた煙草のA型とは違っていることを知る。

佐山をやったのは大塚ではなかったことになる。

その頃、沖縄では、南風原が長田を玉城に案内し、ここは沖縄の歴史の発祥の地ですよ教える。

その後、家の中で機を織っていた牧志コト(岸田輝子)を訪ねた2人は、運天さんからバックルをもらいましたか?と聞くと、ハルオの?とすぐに分かったらしいコトは、部屋の隅に置かれた誰かの机の中からバックルを取り出して来る。

その様子を観ていた長田は、運天さん夫婦の話によると、ここは1人で暮らしていると…と南風原に小声で確認する。

2人の前にバックルを持って来たコトは、はるおが帰ったらやるつもりで取っておりますと言うので、南風原が不思議そうに、息子さんは亡くなったんでしょう?と聞くと、きっとマグニから帰ってくる!いつ帰って来ても良いように、ハルオのものはちゃんと取ってあるんだ!とコトは睨みつけて来る。

その様子に驚いた二人が、御邪魔しましたと言いながら、戸口を閉めて帰ろうとすると、締めたらいかん!はるおが入れないじゃないか!と言いながら、コトは又、入口の戸を開け放つのだった。

沖縄戦の記録フィルムが流れる。

戦没者記念碑に詣る長田と南風原

随分若い人たちが亡くなったんですね…と長田が驚くと、当時15、6才から20くらいでした。いつまで経っても子供の死が信じられないさっきのお母さんのような人はたくさんいます。

ここもアマクダリと言って激戦地なのです。

あの頃は、それでも貴様たちは日本人か!と良く言われたものです。我々は、俺たちも日本人だ!と思って戦ったのです。これが扶桑花ですと言いながら、南風原は、咲いていた花を長田に見せる。

東京では、林刑事と金子刑事、渡辺刑事らは、五輪選手の合宿コーチをしていると言う宜保(室田日出男)を訪ねて、女学生たちが泳いでいたプールを訪れる。

バックルのことを聞かれた宜保は、僕のは寮にありますが、城間のはどうか…と考え込む。

城間さんの居所は分かりませんか?と聞くと、タクシー会社に勤めているのを訪ねて行ったことがありますと宜保は思い出す。

そのタクシー会社にやって来た林刑事らは、城間なら1年半ほど前に辞めたと社長から聞かされる。

そして、奴なら知っているかも…としばし考えた社長は、5~6年勤続している水谷と言う男を紹介するが、今日はその水谷の結婚式なのだと言う。

結婚式場へやって来た林刑事と金子刑事は、あまりの人の多さに驚いてしまう。

ここで結婚した連中が子供を1人ずつ生めば、日本の人口は2億だぜと林は冗談を言う。

そこに、親戚の女性に頼んで呼びだした新郎姿の水谷(岡部正純)が出て来たので、城間の事を聞くと、四日市の石油会社に行ったはずだと言う。

何でも、タクシーの運転手時代、胃下垂になり水揚げが減ったので辞めちゃったのだと言う。

石油会社への就職は、偶然飲み屋で会った男に紹介してもらったらしい。

その時、式が始まると急かしに来たので、式は15分ですみますから…と断って水谷は式に赴く。

林は思わず、あんたも頑張って!と水谷に声をかける。

本部では主任が、佐山の下宿の大家によると、佐山は1年半前から戻ってないのだと、戻って来た金子と林に教える。

沖縄から帰って来ていた長田が、林たちにはパイナップル、金子にはアワモリの土産を渡し、持参して来た城間の写真を見せる。

ホシは城間ってことですか?と渡辺刑事が怪訝そうに聞く。

城間の写真を観た主任や刑事たちは、その顔をどこかで見たような不思議な感覚に襲われ、皆一様に首をひねる。

その時、林刑事が、私は良く銭湯に行くんですが、この写真はこの男じゃないですかね?と言いながら、壁に貼られていた指名手配犯たちの写真の中の一枚を指差す。

中北金造(八名信夫)と書かれた指名手配の写真こそ、城間だった。

犯人は中北金造!昭和32年10月秋田で二人を殺害して指名手配されている男で、年齢は32才!と捜査第一課長が記者発表する。

早速秋田署に向かった歯谷地刑事と北川刑事は、地元署で宮原部長刑事(織本順吉)と榊主任(河合絃司)に出迎えられる。

宮原は、中北の奴、てっきり自殺していたと思ってました、盗んだ150万も使い込んだので死ぬと遺書まで遺していましたからと、生きていたことに驚いているようだった。

犯行の手口はジュースに青酸カリを入れており、いまだに実母の所にもかみさんの所にも帰ってないと言う。

中北の父親は?と聞くと、生まれる前に内縁の妻と家を出ており、酒乱だったので母方に入籍したようですと宮原は教え、子供時分から厳しい生活だったようで暗い性格だったようです。義理の爺さんと婆さんを殺したんですから…と言う。

かみさんに会ってみたいのですがと申し出ると、実家の方へ行かれては?と宮原部長刑事が提案し、ジープで林と北川を送って行く。

人口が少ないようですが、こんな所まで耕しているんですねと林が感心すると、何せ貧乏県ですから…、百姓でも死に際には白い飯を腹一杯食いたいと言うらしいですと宮原は教える。

ジープを降りた宮原は、積んである藁をくわで移していた中北の妻、芳江(岩崎加根子)に、亭主のことで東京から来られたんだ…と言いながら林たちを紹介する。

頼りのようなものはありませんか?最近、生きていることが分かったので…と北川が聞くと、あんたら薄情な男…、オラ実家さ戻ろうと思ったが、あの子がその時腹に入っていたので…と言いながら、側で何かをしていた子供を見る。

子供は石で帰るを叩き殺している所だったので、何してるだ!と叱りつけ、父親の血があの子に流れている!今でもオラたちは、周囲から白い目で見られると、絞り出すように芳江は嘆く。

刑事さん!あの子抱えて何できる?あの人が出て来たら、引っ張ってでも駐在所へ連れて行く!と芳江は言う。

その頃、本部にいた主任に、品川の捜査から電話が入って来る。

昨日、林や金子が訪問した城間の下宿のおばさんが、城間が半年前に起こした交通事故の督促状が届いたと連絡して来たと言うのだった。

1年半前に四日市に行ったはずなのに?と主任は首を傾げる。

四日市の石油会社を訪問していた金子刑事は、同行した地元署の赤間刑事(浜田寅彦)から、こうした大きな会社には外国資本が入ってない所はないそうで安い所から買うと差し障りがあるらしいと聞かされる。

一方、秋田へ来ていた林と北川両刑事は、八郎潟の干拓事業の説明を宮原から聞いていた。

大正8年から始まったこの事業も40年振りに実現し、その総面積は沖縄と同じらしいと言う。

魚を捕っていた猟師たちのことを聞くと、大半は保証金で解決したが、中には反対している漁師もおり、これから行く中北の実母の家もその一軒だと宮原は言う。

中北の実母とめ(山本みどり)は、今、亭主は北海道へ行っており、倅は自衛隊、今は娘1人と暮らしていると、やって来た刑事たちに教え、干拓事業のことでは事務所の話など信用できないと頑固そうに話す。

そんな中、林刑事は、白と黒の洒落た靴が庭先に置かれているのに気づくと、あの靴は金造さんのでは?と聞く。

するととめは、わしの息子は、宮下幸一ただ一人だよ。あれはオラの息子なんかじゃねえ!と吐き捨てる。

その頃、警視庁の捜査本部では、交通違反の車の住所が分かり、結果、中北金造と城間は同一人物だったことが判明していた。

中北はおそらく城間を殺して、その戸籍謄本を手に入れ、城間に成り済ましていたのか!と渡辺刑事は気づく。

佐山も戸籍謄本を持って中北に会いに行って殺されていますから、交通事故を起こし、城間でいられなくなった中北は、今度は佐山に成り済まそうとしたのでしょう。城間は沖縄…、佐山は樺太帰り…、被害者は両名とも内地以外出身です!と渡辺が気づき、中北って奴はとんでもない曲者ですねと緊張する。

そこに、四日市に行っている金子刑事が、こちらには城間の該当者はいないと言う報告の電話をかけて来る。

そんな金子は、主任からの話を聞き、城間は戸籍剥奪目的で中北に殺された?!と驚く。

すぐに、中北を全国指名手配しようと思うと主任は言う。

下宿に城間名で過去2枚ハガキが届いているくらいだから、まだ生きているはずだと言うのだ。

城間名義で中北が働いていたトラック運送業者を訪ねた長潟と太田は、運転手仲間たちから、あんな真面目一本槍でおとなしそうな奴が犯人とは…と驚かれる。

何でも、中北の女房は、今日辺り出産予定だと言うのだ。

長田たちはそんな運転手たちから、中北、つまり城間の住所を聞き出す。

一方、四日市では、金子刑事と赤間刑事が、地元で見つかった身元不明遺体の中に城間がいないか、警察署の膨大な資料の中から探していた。

城間の身体的特徴は、右下6cmの所に骨髄炎の傷跡があるはずだった。

2人で手分けして探している中、金子は一枚の写真に目を留める。

それも黒焦げ死体だった。

金子からの連絡を受けた主任は、見つかった遺体は去年の正月に見つかったもので、死因は青酸中毒、死後ガソリンで焼いていると聞く。

さたに、長田からも連絡が入り、中北の細君が出産で入院している病院が分かったと言う。

中北のアパートの方は太田刑事に見張らせ、長田は病院へと向かう。

主任は、親心で、中北が赤ん坊に会いに行かんとも限らないので…と言い、渡辺刑事も病院へ応援に向かわせる。

病院の待合室で渡辺刑事が座っていると、出産予定時刻が伸びている亭主らしき男がそわそわしながら、始めてなので落ち着きませんね。その点あなたは落ち着いておられる。お子さんは何人ですかと聞いて来たので、渡辺は、女の子が1人ですと答えると、じゃあ今度は男の子が良いですねと言われたので返事に困る。

渡辺刑事が食事に行った時、金子刑事が病院にやって来て長田と合流する。

長田は、お産は今朝始まったばかりだと教える。

その頃、捜査本部に戻って来た北川刑事は、入口付近で待ち構えていた新聞記者たちからあれこれ質問されるが無視して部屋の中に入る。

すると、その直後、1人の老婆(戸田春子)が本部に話があると入って来て、家の息子が狙われているんです。新聞に犯人って出ていた相手に…と言い出したので、主任たちは、中北に?と驚く。

老婆は、浜田三之助(ピエール瀬川)と言う、持参して来た息子の写真を見せる。

一方、やっと面会の許可が降りたと言うので、長田と金子は、中北の妻に会うため病室に入る。

お産を終えたばかりの城間こと中北の妻、光代(中原ひとみ)は、突然刑事が来たと知り怯えていた。

長田たちは、そんな光代を刺激しないように、出来るだけ穏やかに、ご主人はここ2〜3日どこかへ行かれているのですか?と尋ねる。

光代は、5費ほど前から残業が多いと言ってましたが…と答え、刑事さん!うちの人が何かしたんですか!一度もここには来ないんです!うちの人が一体何を!と興奮気味に聞いて来ると、突然泣き出す。

本部では主任が老婆に、村中と言う男に息子さんが一昨日知り合ったんですね?そして置き手紙を預かったんですな?と確認していた。

村中の人相を聞くと、メガネをかけており、30くらいだそうで、三之助と言う息子は満州生まれで31才だと言う。

置き手紙を読むと、待ち合わせ場所は上野駅、今日1時過ぎの仙台行きホームと書いてあった。

何でも、息子も戸籍謄本を取って行ったそうで、就職の世話をしてもらえると言っていたと言う。

主任が、直ちに上野駅に行こうと立上がると、老婆も、わしも連れて行ってくれ!三之助にもしものことがあったら!と頼んで来るが、その場で待つよう言い聞かせ、刑事たちだけで出かける。

病院で電話連絡を受けた長田は金子に、主任は上野駅に張り込みに行ったと知らせる。

先代、山形行き列車のホームに三之助はいた。

刑事たちがその周囲を固める。

1時7分過ぎ、サングラスの男が三之助に近づいたので主任たちは緊張するが、すぐにその男は去ったので、別人だと分かる。

1時25分、別のサングラス男が三之助に近づき肩を叩く。

三之助はその男を見て安堵したようだった。

次の瞬間、周囲から一斉に刑事たちがサングラスの男に飛びかかる。

サングラスを取ってみると、まさしくその男は中北金造(八名信夫)だった。

その頃病院では、金子が廊下を通る看護婦が抱いている赤ん坊を覗き込み、微笑んでいた。

その時、光代の病室から悲鳴が聞こえたので、長田と共に飛び込むと、赤ん坊を抱いた看護婦が、赤ちゃんの首を急に!と言いながらベッドの方を見て言う。

ベッドの上では、尋常ならざる目の色になった光代が、返して!と赤ん坊の方へ手を伸ばしていた。

人殺しの血を引いているのよ!その子の親はどこの誰か分からないんですよ!私には育てられない…と訴えた光代は、急に泣き崩れる。

廊下に出た長田に、やって来た北川が、ホシは今しがた駅で捕まえました!と報告すると、看護婦が抱いていた赤ん坊を見て、親は中北のような奴でも、赤ん坊は可愛いですねと言い、車を回して来ると言いながら出て行く。

長田は金子刑事に、残ってくれるか?と声をかけると、金子はハイと返事をして、又病室内に入って行く。

廊下に一人残った長田部長刑事は、窓の外をじっと眺めるのだった。


 

 

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