「旗本退屈男捕物控 七人の花嫁」の後編に当たる。 スタッフロールの進行主任に岡田茂氏の名前がある。 謎解き編に当たるが、推理もののネックとなる長い推理説明部分で観客を飽きさせないためか、探偵役の主水之介が早口で簡潔に推理をして行くので、それを逐一文字で再現するのは難しい。 しかし、映画を見ている分には、ちゃんと理解できるようになっている。 病気見舞いに陽気な阿波踊りの一団が招かれる…と言うのも異例だが、その阿波踊りの一団が、上屋敷の廊下を踊りながら移動して行くなどと言う情景はシュールですらある。 やはり、ミステリもの特有の動きの少なさをカバーする演出ではないかと思う。 横溝正史原作の「本陣殺人事件」を「三本指の男」(1947)にアレンジした比佐芳武氏の脚本だけに、映画ならではの工夫が施されていると解釈すべきだろう。 主水之介がひょっとこの面をかぶっておどけた踊りを披露する所なども見所。 高田浩吉が、歌の得意な元スリの男として主水之介の子分風に活躍したり、月形龍之介が渋い目明しを演じている所なども楽しめる。 千石規子さんがエキセントリックな役柄を演じているのも、当時からその演技力を買われていたからなのか?と想像したりする。 この頃の大友柳太朗さんはほっそりとしたイケメンで、快活なキャラクターを巧く演じている。 主水之介の父親備前守を演じている進藤英太郎さんなども、この当時はまだまだ若々しい印象で、すでに中年っぽく見える市川右太衛門さんと大して年の差がないようにも見える。 時代劇ファンによると、時代劇は古い時代に作られたものほど面白いものが多いと言う意見もあるようだが、この一作なども、正にそれを証明する一本のような気がする。 ユーモアあり、踊りあり、剣劇あり、謎あり、怪奇あり…と娯楽要素は盛りだくさんだし、テンポも良く、今見ても古さは全く感じない。 「旗本退屈男」がシリーズ化され、この後も何本も作られたのも分かるような気がする。 ちなみに、本作に登場する御典医を、キネ旬データのキャスト欄では「宗像ユウ庵」と記してあるのだが、聞こえた感じは「むなかたほうあん」と言っているようなので、あらすじの中では「法庵」とした。 |
▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼ |
1950年、東横映画、佐々木三津三原作、比佐芳武脚本、松田定次監督作品。 空に浮かぶ雲の絵を背景に、東映三角マークと東京映画配給の文字 回転する飾り花を背景に、東横映画の文字 スタジオに勢揃いした天狗長屋の面々 子供の三平(かつら五郎?)、横這いの円太(横山エンタツ)、とぼけの矢八(団徳麿)、藪井珎庵(二代目桂春団治)、一念堂一徹(水野浩)らがそれぞれ歌ったり早口セリフで、前編のあらすじを語って行く。 夜中、家に飛び込んで来た賊一味と闇の中、ガンドウの灯にスポットライトのように照らされ、一人戦う早乙女主水之介(市川右太衛門) 後編タイトル 主水之介の家に乱入した頭巾姿の一味。 家を飛び出した円太は、みんな!起きてくれ!えらいこっちゃ!と長屋の連中を起こしてまわる。 すぐに、半次が飛び出して、主水之の家に飛び込むと、匕首で賊と戦う。 そんな主水之介の家に近づいて来た頭巾姿の早乙女備前守 一方、円太と長屋の連中は押っ取り刀で表戸の付近に集まると、外から応援を始める。 一徹は、中の賊に聞かすために、備前守様が見えられた!とか、御用提灯が連なっている!などと法螺を吹き始める。 主水之介が賊の1人を斬り殺すと、他の賊たちは一斉に逃げ出して行く。 死んだ賊の頭巾をはいでみると、その男は浪川鉄斎(戸上城太郎)だった。 賊がいなくなったので、長屋の連中も、おっかなびっくり家の中に入っていたが、その時、主水之介はおらぬか?と表で声がしたので、驚いた主水之介は表に出る。 確か、父上のお声だった…と主水之介は周囲を見渡すが、既に誰もいなかった。 長屋の連中もその後に出て来るが、玄関脇の板壁に書状が小柄で打ち付けられているのを発見する。 その小柄を抜いてみた主水之介は、まさしく父上の柄!と気づき、急いで書状の中身を読む。 お達しだと主水之介が言うと、何故か一徹が緊張したので、お達しは拙者へだと諭した主水之介は、雲州松江藩の事件は当方でも独自に追求していると言う父親からの伝言を皆に教える。 翌日、松平藩上屋敷に様子を観に来た伝七は、門前に人だかりがしており、次々と屋敷内に入って行くものがいるので中間を捕まえて訳を聞くと、御殿様の病気見舞いに猿若三彌がいなさるそうだと言う。 しかし、阿波の国から松江藩の病気祝いにと、阿波踊りをしながら大勢が屋敷内に入って行く様を見た伝内はさすがに呆れる。 そこに主水之介もやって来て、伝内の家に預かってもらっている濱田宗之助(片岡栄二郎)の事を聞いて来たので、すっかり元気になりましたと伝内は答えるが、何故、お梶を連れて帰った?と聞かれると、色男ぶって戻ると思い込んでおられる…とはぐらかす。 さらに伝内は、この事件は初手から目先が効きませぬ…と弱音を吐くので、岡っ引き30年の伝七も分からぬこの一件…、下手人の当たりは付いているが、さすれば、今捕まっている犯人は毒殺されよう…と主水之介は呟く。 その言葉通り、毒殺の首謀者として牢に入れられていお由良の方は、差し入れられた食事を食べ毒死していた。 その側には、先に亡くなったお蓮の方の愛猫がいた。 伝内の家で世話になっていた宗之助は、くじいていた足も快癒し歩けるようになっていたので、お母様とぬい様は今、江戸におられます、近いうちに対面できる案配ですぜと伝内は教える。 御家老様からのお使いが来て、ぬい様の御出仕が許されたとか…、そろそろ地金が出て参りましたね…と伝七は主水之介に伝えると、そろそろ拙者にもお招きがあろう…と主水之介は答える。 その言葉通り、その後、主水之介も松平吉則(大友柳太朗)に呼ばれ出向くことになる。 大儀!と元気そうに出迎えた吉則に、今回のお蓮様毒殺の下手人として捕まったお由良様は、上様のご寵愛を独り占めしようとしたのでは?と主水之介は推理する。 側に控えていた石丸刑部(四代目澤村國太郎)は、お蓮様もお由良様も、吉則様のお兄様のご寵愛を受けておられた。お由良様毒殺は御自害でございますと口を挟む。 すると主水之介は、自白を恐れた一味の仕業では?と反論する。 吉則は、自分への毒殺未遂以来、熟睡が出来なくなったと訴え、下手人を見つけてくれと主水之介に頼む。 その直後、突然、吉則は、猫じゃ!と騒ぎ出す。 そして刀を取ると、側に座していた御典医宗像法庵(原健策)を斬ろうと近づく。 刑部がすぐに立上がって、吉側を羽交い締めにし、猫が!と叫ぶ吉則に、御鎮まり下さい!となだめる。 法庵は、いつもの発作だ…と見立てるが、その様子を主水之介は、座ったまま、興味ぶかそうに仰視していた。 刑部は、腰元に、主水之介を部屋に案内するように命じる。 腰元は、思いがけぬ不調法、申し訳ありませんと主水之介に詫び、部屋を出ると、廊下を先導して行く。 その途中、主水之介は正座をしてお辞儀をしている腰元を見かけたので、お顔を御上げ下さい。お名前は?と聞く。 その腰元は、浜路でございますと答える。 御顔立ちは立派だが、凶運が出ておりまするぞと主水之介は言い、先に進む。 すると、ある部屋の障子の奥に、おかめの面が覘いているのが見える。 しかし、そのおかめの面はすぐに引っ込んだので、主水之介はいぶかし気な案内の腰元に、いや何…、疑心暗鬼…とだけ答える。 その頃、つむじ風の半次(高田浩吉)らは伝七の家に集まり、早乙女様は、今後は万事、伝七さんの言いつけに従えと言われてきましたと伝える。 早乙女様は、生きて帰れるか、そのまま煙のように消えてしまうか、丁半勝負と申しておられましたと半次が言うので、さしもの伝七も容易ならざる事態と気づき緊張する。 主水之介が案内されて来た控えの間に、萩乃が行灯を持って来る。 さらに、柳田右近が酒の毒味を…と挨拶に来たので、名乗るほどのものではないか…と主水之介は、以前、右近が言ったことを繰り返し皮肉ると、毒味をするほど、この屋敷では毒殺が多いのか?菅谷三右衛門の遺体はどこにある?などとちくちくと聞いてみる。 答えに窮した右近に気づいた仲間が、右近はいずれだ!と廊下から呼びかけて来たので、右近はほっとし、暫時失礼!と言って部屋を後にしようとする。 すると主水之介は笑い出し、今言うたのは、す今日に思いついたこと、どなた様にも言いめさるなと右近に声をかける。 右近に代わり、主水之介の部屋に来た腰元は、何とお梶であった。 お梶は泣き出すが、涙する場合ではないぞ。そなたの心、振る舞いは、夫の私には良く分かる。命を惜しめ!と主水之介は言い聞かす。 その言葉で気を取り直したお梶は、緋牡丹お銀さんが先日、お局入りを致しましたと告げる。 その緋牡丹お銀(朝雲照代)は、上屋敷内の一室で1人酒を飲んでいた。 堅苦しく挨拶する腰元にいら立ちながら、お銀は、上様のお客様と言う早乙女備前守の御嫡男の部屋はどこか尋ねる。 腰元は、紅葉の間でございますと答える。 主水之介は、わざとお梶が粗相をして叱りつける芝居をし、部屋から去らせる。 そこに、別の腰元が酒を持ってきて、主水之介に酌をしようとするので、独酌をやるので下がられいと追い出す。 その頃、阿波踊りの一団が、廊下を踊りながら吉則の部屋にやって来る。 それを見た吉則は大喜びで、もはや病気の気配は微塵もなかった。 お銀は、その阿波踊りの一行と同じ扮装に化けると、お付きの腰元には、誰にも内緒にするんだよと釘を刺し、部屋を出て行く。 一方、主水之介の部屋にやって来たのは、先ほどおかめの面をちらり覘かせた女役者猿若三彌(宮城千賀子)だった。 それに気づいた主水之介は、親方は愚か者だ。500両の金子でそなたを売るとは…、一昨日、両国の札差屋大口屋で聞いて来たのだ…と主水之介は教える。 「川甚」での鉄斎の身体改めもそのためのもの。その身を是が非でも守り抜くのだ!良いな?と主水之介は、事情を聞き打ちひしがれた三彌に言い聞かす。 そんな主水之介の部屋にやって来たのは、阿波踊りの列に紛れ込み、部屋の前まで来たお銀だった。 とっさに三彌は障子の端に身を隠すが、すぐに振り返ったお銀に発見される。 三彌さんか…、お互い、このキ○ガイ御殿の囚われ人だよ…と呟いたお銀は、何だかお前さんは他人とは思えないよなどと言う。 そしてお銀は主水之介に対し、お耳に入れたいことがあるんです。キ○ガイ御殿の裏の裏もからくりをね…と意味ありげに告げる。 そして、先ほど、腰元が部屋に持って来ていた酒を無遠慮に口に含む。 その途端、お銀が苦しみ出したので、主水之介は抱き起こし、お銀!しっかりしろ!と声をかけるが、もう事切れていた。 おの直後、廊下で萩乃が悲鳴をあげたので、何ごとかと家臣たちが駆けつけると、曲者の姿があの辺りに…などと言いながら、庭の一隅を指差す。 すると、どこからともなく猫の鳴き声が聞こえて来たので、又、萩乃は悲鳴をあげる。 屋敷に忍んでいた半次が伝七に、お銀さんが毒殺されたと伝えると、どうやら今夜が勝負の山だな…と伝七は緊張する。 一方、主水之介は、柳田右近が昨夜から行方知らずと書かれた投げ文を部屋で拾い上げたので、一読後、火鉢でその文を燃やす。 その宵、萩乃が又、部屋で琴を奏で始める。 その萩乃の部屋にやって来た主水之介は、猫じゃ!血を浴びた猫点、ギラギラ目を光らせ、女ののど笛を狙う!と言いながら、怯える萩乃を指差す。 入信の演技でキ○ガイの真似か…、先君、お毒味の時も、その芝居で毒味役菅谷三右衛門の注意を引き、その隙に誰かが椀に毒を入れた…。しかし、そなたを背後で操るのは何者?と主水之介は詰めよる。 刑部様は今、飛竜の間に…と言うので、石丸刑部(四代目澤村國太郎)に会いに行った主水之介は、昨夜、右近殿が姿を消した。浪川鉄斎は拙者を斬りに来て、拙者に斬られた。 札差屋は浪川鉄斎に相当の金を渡したはず。根もないことに1万両借り入れるはずがない。 しかもそれは、先君毒殺以前!…と主水之介は刑部に詰め寄る。 刑部は、いくら上様のお客人とは言え聞き捨てなりませぬ!と気色ばむ。 その頃、萩乃が下手で事切れていた。 その知らせを聞き、萩乃の部屋に駆けつけた主水之介は、畳に残された血染めの猫の足跡が廊下の方に続いていることに気づく。 主水之介は笑い出し、姿なき幻の猫が、かくもはっきり血染めの足跡を記すとは…と矛盾を指摘する。 そこにやって来た猿若三彌は、明日、お局入りと決まりました。今夜は三彌の舞い収めでございますと主水之介に告げる。 それを聞いた主水之介は、拙者もいささか覚えがござる。とっくり拝見致そうと答える。 その後、三彌の踊りが披露させる。 一方、松平家の上屋敷にやって来ていた円太と半次は、塀の上に登って中の様子をうかがっていた。 下には伝七も出ばっていた。 何の役にも立たない長屋の一念堂一徹や藪井珎庵まで屋敷の外に来ていたので、伝七は帰らせる。 三彌の踊りはおかめの面をかぶったおどけたものになっていた。 そこに、ひょっとこの面をかぶった男が飛び入りで踊り出す。 主水之介であった。 見物していた御典医の宗像法庵が何事かを石丸刑部に耳打ちする。 ひょっとことおかめの2人は、踊り子たちが大勢部屋になだれ込んで来た隙に、踊りながら廊下に出る。 おかめとひょっとこは、そのまま廊下を奥に進むが、その時、庭の方から悲鳴が聞こえて来たので、その声をのした方へ行ってみる。 木の影から覘き見ると、何やら、池の辺りに人影が蠢いていたので、2人は、一旦外した面を又付けて、屋敷へ戻る。 塀の外には、早乙女備前守も駆けつけて伝七と合流していた。 伝七は備前守に、ご子息は今宵この屋敷の中で生涯の幕を閉じるやも知れませんので、この場でお見守り下さいと伝える。 備前守は援軍を呼んで来させようとするが、もはやその時間はございませぬと伝七は止める。 その後、部屋に戻っていた主水之介を、吉則直々に出向いて来て、一緒に外歩きをせぬかと誘う。 主水之介は承知し、刀を手に部屋を出るが、吉則は、外歩きにも刀を持つか?と不審がる。 主水之介は、滅多に無手では出られませぬと答えると、それも然り…と吉則はあっさり納得する。 その頃、お梶と三彌が腰元たちに捕まっていた。 塀の上では円太たちが、じっと屋敷内の同行を監視している。 お梶と三彌が連れて来られたのは、腰元早苗(月宮乙女)の部屋だった。 そこには、もう1人腰元弥生も捕まえられており、早苗は、三人ともお命をちょうだいするとお梶らに言う、 庭を散策する吉則は、猫の鳴き声だと言い出したので、同行していた主水之介は、猫は救いの神でございますと答える。 先君毒殺の真相は、腰元萩乃が毒味役菅谷三右衛門の注意をそらし、その隙に腰元の早苗が毒を入れしもの…と主水之介は絵解きして行く。 それを見て見ぬ振りをしていたのは腰元弥生、早苗、萩乃、弥生の三人が犯行に及びしは、石丸刑部様への奉公の誠。 その刑部様の犯行の動機も奉公の誠!一味の頭目は松平吉則!と主水之介は言い放つ。 正気か?とそれを聞いた吉則は呆れたように聞き返すが、寝とぼけ半分では申されますまいと主水之介は答える。 いつからそのように目を付けた?と吉側が聞くと、永昌院(?)でお目にかかった、その時からでございますと主水之介は言う。 仔細はあの切り髪! 仏門に入ったものが髪を伸ばしていること事態異例なのに、あの時、吉則様の髪は肩まで伸びておりました。 あそこまで髪が伸びるには7ヶ月はかかるはず。 動機は、早苗、お蓮、お由良などを我がものにせんとする色欲から出たもの! 正に、人間ならぬ極悪人! それを黙って聞いていた吉則は、では、余が狙われた毒殺の真相は?と聞く。 あなたは毒酒を飲み下さず、口中を噛み切り、その血と共に吐き出したもの! 宗像法庵 !その方も極悪人!と、池の側に付いて来た御典医をも睨みつける主水之介。 池の橋の上にいた吉則が、推理を続けている主水之介につかみ掛かろうとしたので、主水之介は身を避け、バランスを失った吉則は、泥で濁った池の中に落ちる。 天の配剤なるか!己の悪事は己に返る! もがきながら、底なし沼化した池に沈んで行く吉則。 法庵は、助けてくれ〜!殿が池に沈んだ!と叫んで逃げ出したので、声を聞きつけた家臣共が駆けつけて来る。 殿が、奥庭の池で無惨な御最期を遂げられたぞ!と法庵が告げたので、家臣たちは、主水之介に刀を抜いて向かって行く。 一方、お梶や三彌を捉えていた早苗は、吉則の死を知ると、3人もこの早苗も、お殿様にお供せねばなりませぬぞ!と言い、毒を飲ませるため、腰元たちに、お梶の身体を押さえさける。 その時、どこからともなく猫の鳴き声が聞こえて来る。 円太と矢八が、猫の鳴き声を真似しながら屋敷内に侵入して来たのだった。 半治も、匕首を抜き、主水之介が戦い始めた家臣たちに立ち向かって行く。 円太と矢八は、お梶と三彌を助け出し、庭先へ逃げようとする。 その時、お梶は、戦っている主水之介に気づき、あなた!と呼びかける。 その声を聞いた主水之介は、たわけ!円太、矢八!三彌と先に行け!と命じたので、それを聞いた円太は、そんな水臭い…とぼやく。 主人が極悪人なら、家来も同じか!諸刃流正眼崩しの一つ二つ、お見せしようか!と見栄を切った主水之介は、二刀流を構える。 塀の外で様子をうかがっていた伝七は、焦る備前守に、まだ中庭で太刀音が聞こえます!と落ち着かせる。 そこへ、門から、半治に連れられた猿若三彌が出て来る。 若様は?と伝七が聞くと、まだ中に!と半治が答えたので、門の方に目をやると、今度は円太、矢八と共にお梶が助け出されて来る。 何故、若様を一人残して来た!と伝七は円太らを叱りつけるが、その時、当の主水之介も門から出て来たのでほっと胸を撫で下ろす。 それを子供の三平も迎える。 その時、待て!と声をかけたのが先ほどから待っていた早乙女備前守、その声に驚いた主水之介がかしこまって前に進み出る。 この極悪人はどうなった?と備前守が聞くと、天の配剤で自滅致しましたと主水之介が答える。 その答えに頷いた備前守は、退屈男とやら、これからは弱い者を守り、思うがまま過ごすが良いぞと言い聞かせると、お梶とやらを見せてみろと語りかける。 されば…と主水之介はお梶を側に寄せ、父親に顔を見せると、お梶聞いたろう?お言葉に甘えよう…と言うと、会釈すると互いに手を繋いで去って行く。 その真似をして円太と矢八も手を繋いで帰って行く。 一人残った三平だけは、手をつなぐ相手がいないのでふて腐れて長屋に帰って行く。 去って行くお梶の後ろ姿を見送っていた伝七に、何を泣く?泣くな!泣くでない!と備前守が言い聞かせる。 |