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旗本退屈男捕物控 七人の花嫁

新興キネマで戦前に作られた「寶の山に入る退屈男」(1938)以来、12年振りに作られた戦後初の「旗本退屈男」らしく、「捕物控」とタイトルにあるようにミステリ仕立てになっている。

「七人の花嫁」は前後編の前編に当たり、後編は「旗本退屈男捕物控 毒殺魔殿」と言う作品になる。

この手のシリーズものは、後年の作品から見始めると主人公の設定が良く分からなかったりするが、この作品を観て、始めて色々分かった部分がある。

まず、早乙女主水之介は、士農工商の身分制度と武士の身分を嫌い、家を飛び出した南町奉行早乙女備前守の嫡男であることを始めて知った。

この作品では、岡っ引き伝七の娘と結婚しており、天狗長屋と言う所に住んでおり、表向きは「読み書きを教える」生業をしているらしいが、生徒が集まっている様子はない。

踊りの素養もあり、諸刃流正眼崩しはすでに使われているが、この当時はまだ質素な身なりで、絢爛豪華な衣装は着ていない。

勘当されている上に、昼間から働いている風でもないのだから、贅沢な衣装が着られるはずもないと言うことなのだろう。

伝七の子分と昔掏りだった半次(劇中では「はんじ」と何度も呼ばれており、キネ旬データキャスト欄「米次」の呼び方ではないと思う)が、アシスタントとして主水之介を補佐している。

天狗長屋には愉快な連中が集まっており、しょっちゅうにぎやかである。

妙に歌が巧い子供を演じているのは、「鞍馬天狗 鞍馬の火祭」(1951)で子役時代の美空ひばりと共演していたかつら五郎ではないかと思う。

基本設定は大体こんな感じで、肝心の事件は、城中の猫がまつわる怪奇風の不可解な連続毒殺事件と冤罪。

異様な精神状態の若き腰元を演じているのは千石規子さん。

美貌の女役者猿若三彌を演じているのは宮城千賀子さんで、後年の「妖怪人間ベラ」に似た雰囲気は全くなく、この頃はほっそりしており、正に絶世の美貌と言うしかない。

長屋の住民をおちゃらけ風に紹介したり、謎めいた怪奇風連続殺人の導入など、前編部分の見せ方は巧い。

ギョッギョッ!とか、チンチンかもかもと言った懐かしいフレーズを聞くことも出来る。

テンポも早く、作られた時代の古さを全く感じさせないのが凄い。

脚本比佐芳武氏は、片岡千恵蔵が金田一を演じた「三本指の男」(1947)でミステリには慣れているのか、時代劇である本作も堂に入っている感じがする。

原作があるので、映画用のアレンジを楽しんで書かれたものかも知れない。

主人公早乙女主水之介を演じる市川右太衛門さんは、後年ほどまだ太ってはいないが、既に若者と言った感じはなく、顔も白塗りに目張りもくっきり入った化粧顔になっている。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1950年、東横映画、佐々木三津三原作、比佐芳武脚本、松田定次監督作品。

空に浮かぶ雲の絵を背景に、東映三角マークと東京映画配給の文字

回転する飾り花を背景に、東横映画

龍の絵を背景にタイトル

明神下の料亭「川甚」の前に集まった人だかりが、二階の部屋を見上げながらざわついている。

あれじゃ収まらねえな…などと噂しあっている男の横に来た横這いの円太(横山エンタツ)がどないした?と訳を聞くと、赤塚組の浪川鉄斎(戸上城太郎)と言う侍が、女役者の猿若三彌(宮城千賀子)に絡んでいると言う。

そんな野次馬に気づいた鉄斎らが、追い払おうと二階の窓から凄んでみせ、下に降りて行く素振りを見せたので、野次馬たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ出すが、円太は、アホンダラ!ぼけ茄子!などと二階の赤塚組を冷やかして立ち去る。

走って逃げていた円太がぶつかったのは、緋牡丹お銀(朝雲照代)だった。

円太は思わずアホ!と怒鳴りつけるが、お銀は負けじと、アホって何だい?こっちは普通に歩いているのに、よそ見して走ってきたのはそっちじゃないか!このあんぽんたん!と反論したので、さすがに分が悪いと判断した円太は、すんまへん!と謝り、すごすごと帰って行く。

その後に残ったお銀は、しっかり円太から掏り取った財布を手ににやついていたが、その姿を通りがかりに見かけたのが、元スリだったつむじ風の半次(高田浩吉)だった。

半次はお銀の前に立ちはだかると、お銀さん、今擦った財布渡してくれよと話しかける。

おや、半次さんじゃないの!スリから足を洗った自分のためにこれを渡せって言うのかい?とからかうと、今のは早乙女って人の身内だから頼んでいるんだと半次は答える。

早乙女の名前を聞いたお銀は驚く。

帰る円太を呼び止めたのは、子分仲間のとぼけの矢八(団徳麿)に、きちんと言えもしない丁寧語を無理に使おうとする馴染みのヤブ医者、藪井珎庵(二代目桂春団治)だった。

円太と珎庵が互いに文句を言いあっているうちに踊り出したので、珎庵と同じ天狗長屋に住むギョギョッ!が口癖の八卦見の一念堂一徹(水野浩)と子供の講談師三平(かつら五郎?)がそれを観て笑う。

同じ長屋仲間でわいわいからかいあっていると、同じ長屋の半次も近づいてきて、円太に、これお前のじゃないか?向こうで拾ったんだ。気を付けた方が良いぜと、お銀から返してもらった財布を手渡す。

その後、矢八と円太は、天狗長屋の一軒の家に入って、先生!と呼びかけるが、目指す相手がいないので、家を間違えた!と慌てて外へ飛び出し、今出て来た家に掲げられた看板を改めて読むと、読み書き習い。喧嘩買います。ただし喧嘩の相手は侍だけ…などと書いてあったので、やっぱりここや!と気づいた2人はもう1度中に入り、部屋をあちこち見て回るが、奥の間のふすまを開けた途端、女の膝枕に頭を置き、扇で顔を隠して横になっている浪人がいたので、当てられて恥ずかしがる。

謎をかけ追い出したのに、二人とも粋の分からぬ奴だ。この女は、お梶(喜多川千鶴)と言ってわしの妻となって四日目だ…と言いながら、顔を隠していた扇を外したのは、この家の主人早乙女主水之介(市川右太衛門)だった。

のっぴきならない用事が出来たんで!と円太が言うので、聞こうと起き上がった主水之介は、「川甚」で女役者が赤塚組に因縁をつけられているんですと伝える。

それを聞いた主水之介は直ちに出かけようとしたので、円太たちもお供しますと付いて行こうとするが、玄関口にやって来たお梶が、いきなり主水之介の刀の鍔の穴に紙縒りを結び、唾を抜けぬようにする。

誰が為に封じる?と主水之介が聞くと、私の一生の幸せのために…とお梶が言うので、分かった、今日は抜かぬ!と約束し、主水之介は出かける。

「川甚」では、猿若三彌とそのお付きの男の前で店の主人が浪川鉄斎に詫びていたが、そんな言葉に耳を貸す道理もない赤塚組のヒゲの凡天が、立上がって主人を部屋から追い出す。

見かねた三彌が進みでて、私が身に代えましてお詫び申し上げます。何でも仰せの通りに致しますと申し出たので、それを聞いた鉄斎は、では、この場でその衣服を脱げと言い出す。

何でもすると言った以上、三彌は拒むことも出来ず、やむなくその場で着物を脱ぎ始めるが、そこにやって来たのが主水之介だった。

何者だ?と鉄斎から睨まれた主水之介は、人呼んで退屈男!それでは分かるまいから、姓名は早乙女主水之介!と名乗る。

何しに来た!と凄まれると、これなる猿若三彌は拙者の女房、芸を売れとは申したが、女体を売るのは芸ではない!後で話をつけるので、お前は母者の元へ立ち去れ!と、あっけにとられる三彌とお付きの者を一方的に部屋から追い出してしまう。

それを観た鉄斎ら座敷に座していた赤塚組はいきり立ち、全員刀を抜いたので、主水之介も手にしていた刀を抜こうとするが、紙縒りで縛られており、お梶との約束を追い出す。

やむなく主水之介は、鞘に入ったままの刀で応戦することにする。

次から次へと赤塚組を階段から突き落として行く。

それを下で見ていた矢八と円太が、1人!2人!と勘定して行く。

最後に残った鉄斎に、どうじゃ?穏便に話をするか?と主水之介は迫るが、鉄斎は、うるさい!と言うなり刀を振りかぶって来たので、主水之介はかわし、勢い余った鉄斎は、そのまま窓から一階の屋根に落ち、下の川に転がり落ちる。

その頃、南町奉行早乙女備前守(進藤英太郎)に呼ばれ、屋敷にやって来たのは、目明しのほとけの伝七(月形龍之介)だった。

もっと近う寄れと何度も備前守は勧めるが、何故か伝七は遠慮して、私めのことは私めで処置致しますと言うと、あまり備前守の間近には寄らず、で、折り入ってご内勤とは?と聞く。

10日前ほど、そなたは娘のお梶を勘当したそうだな?と備前守は聞くが、伝七は答えないので、勘当したのか!お梶は当屋敷に作法手習いに来た娘、その娘を何故勘当したのかたって聞きたいと備前守は迫る。

すると、伝七は、お殿様も主水之介を勘当なさったとか?と逆に聞いて来る。

備前守は、あまりの放蕩三昧故…と答えたので、娘は道を踏み誤り、高貴な花器に手を付けてしまいましたと伝七も答える。

なるほど…、高貴な花器と言うのは主水之介の事であろうが、主水之介は身分差別を嫌い、武士を厭い、家を出て行ったのだ。

それに対し、世間と言うものがございますと伝七が答えると、拙者はお梶がやったことは誤りとは思わぬ。お梶の道は正しい道じゃと備前守は言い聞かせる。

それでも、許しませぬ!と伝七が頑固なので、もしお梶の帰参許すときが来たら、お梶の真を迎えると伝えてくれ。伝七、お梶を許してやれと備前守は伝七に伝える。

翌日、元気良く表通りに飛び出した三平は、今日はおいらが、昨日の「川甚」での出来事を「早乙女主水之介 明神下の決闘」と題して披露するから、おっちゃんはそのこぼれ銭にありつけるよなどと、相方みたいに付いてきた一念堂一徹に言うと、早速歌い出す。

一念堂一徹は、チャカポコ、チャカポコ!と、その歌の間の手を入れ囃し立てる。

そこに、長屋仲間の藪井珎庵がやって来て、当たらぬ八卦見の一徹をからかったので、一徹負けじと、天眼鏡を取り出すと、珎庵の顔をまじまじと観て、己は今日死ぬ!医者を呼びなさいなどと占ったので、医者はわしじゃ!と珎庵は起こり出す。

天下の名医を捜しなさい。あんたの顔には死相が現れておる。死ぬ病は卒中!時は暮六つの鐘が鳴る時!と断定したので、さすがの珎庵も慌て出す。

1人狼狽し出した珎庵を他所に、三平と一徹はすたこら逃げ去ってしまう。

珎庵は、もう1度若い嫁をもらって、チンチンかもかもしたかったのに〜…などと一人路上でぼやいていたが、そこに声をかけて来たのは見知らぬ中年女と娘だった。

珎庵に案内され、主水之介の家にやって来たのは、松平出羽守江戸上屋敷のお膳係をしていた濱田宗之助の母のぶ(松浦築枝)と許嫁ぬい(香織由起子)であった。

ぬいは、息子宗之助の一命が危うく、雲州松江藩にいた宗之助は主命により昨年暮れに江戸詰めになったが、主殺しの疑いがかけられたと主水之介に切り出したので、主水之介は詳しい話を聞くことにする。

松江藩の上屋敷では主君に出す食事の毒味が行われていた。

その隣の間では、腰元の萩乃(千石規子)が琴を奏でていたが、その表情はどこかうつろで、琴の音もひときわ騒々しかった。

毒味役菅谷三右衛門(高松錦之助)が、椀の汁を味見し終えたその時、突如、萩乃が、猫が!猫がおりまする!などと部屋の一隅を指し叫んだので、一同はぎょっとして探しまわるが、猫などいなかった。

猫などどこにもおらぬではないか!曲を替えなさい!と三右衛門から命じられた萩乃は、別の曲を奏で出す。

今、叫び声が聞こえたようだが?と食事の膳を差し出した主君出羽守(市川男女之助)が聞くので、萩乃が猫を観たなどと言うので…と腰元が答えると、お蓮のたまでは?などと呟き、毒味を終えた椀の汁を一口啜った所で、出羽守は苦しみ出す。

江戸家老の石丸刑部(四代目澤村國太郎)が駆けつけ、既に事切れている出羽守を発見、騒ぎを聞きつけ、出羽守の愛妾で猫を抱いたお蓮の方(高山廣子)とお由良の方(橘公子)の2人も駆けつけて来るが、入ってはなりませぬ!、すぐに知らせに参ります故!と刑部は部屋の前で伝え、2人を下がらせる。

直ちに駆けつけた御典医の宗像ユウ庵(原健策)は、倒れていた出羽守を一目診るなり、毒死では手の施しようがござりませぬ。これは岩見銀山(ねずみ捕り用の猛毒)でございますと刑部に伝える。

毒味を終えた椀に石見銀山が入っていたと言うことで、御前係の濱田宗之助に主殺しの疑いがかかり、このままではぬいとの仮祝言もかなわぬだけではなく、死罪になれば、10万両相当の国元にある田畑も取り上げられることになりますとのぶが説明し終えると、側で聞いていた円太が、それはむちゃくちゃではないか!と怒り出す。

当夜の毒味役だった菅谷三右衛門はその後姿を消したと言うので、主水之介は脱藩では?と疑うと、煙のように忍術使うたんと違いますか?などと、印を結んだ円太が茶化す。

主水之介は、その場にいた半次に、松平家の中間に知り合いはないか?と聞き、実は自分は14〜5の時、出羽守の弟で今は永昌院(?)に出家している松平吉則に書道を習ったことがあるので、向うが覚えていれば、相談にし行ってみるとのぶたちに言い聞かし、すぐさま出かけることにする。

永昌院(?)にやって来た主水之介は、門前に高貴な方用の駕篭が二つ置いてあることに気づく。

寺の中で遭遇したお蓮の方とお由良の方は、互いに、何故相手がこんな所へ来たのか怪しむが、2人とも、先代のお殿様のご命日なので墓参に参ったまで…とごまかしあう。

総髪姿の松平吉則(大友柳太朗)は、南町奉行嫡男早乙女主水之介が来たと知り、会おう!と言い出す。

座敷で待っていた主水之介としばし顔を見合わせた吉則は快活そうに対座し、以前、ここに手習いに来ていたとか?と聞くが、14、5の時は神道、20過ぎればただの人…で、今は勘当の身でございますと主水之介は自嘲気味に打ち明ける。

このたびの兄の休止で、又俗界に戻ることになったと吉則が言うので、兄上様の死因は?と聞くと、卒中だと吉則は答える。

それを聞いた主水之介は、ご病死でございますな?と念を押し、ならば主殺しの大罪人はないと言う事になります。折り入ってお話を!と怪訝そうな顔の吉則に願い出る。

その頃、天狗長屋の主水之介を訪ねて来たのは伝七だった。

出迎えたお梶は、お父っつぁん!と驚くが、伝七は、勘当したのだからもう親でも子でもねえ!とつっけんどんな態度。

そんな伝七を座敷に迎えたお梶は座布団を差し出すが、伝七は敷こうとせず、若様はいなさらねえのか?と聞く。

今、円太らと一緒に永昌院(?)へ出かけていますとお梶が答えると、いい気なもんだ、子分のつもりか?と円太らのことをぼやくと、七日七夜の新所帯はどうだ?七日七夜の間に、数々の幸せの花が咲いたはずだ。それを一生の思い出に、今度は人様の幸せを願ってやるべきだ。御奉行様は、お前の行いを過ちとは思わぬと言われた。帰ることがあったら、お梶の真を迎えるとも仰せられ、許してやれと涙をお流しになった…、岡っ引き風情の娘によ…、御奉行様の真心がお労しい…と伝七は言い聞かす。

頼む!このまま御奉行様に甘えていてはいかん!3500石の早乙女の名代を汚してはならねえ!頼む!頼む!と伝七はお梶に話しかける。

一方、永昌院(?)を出て来た主水之介は、外で待ち受けていた円太、矢八、のぶ、ぬいらに、歩きながら話そうと伝え、そのまま歩き始める。

そんな主水之介の後を寺から尾行する深編み笠の武士がいた。

息子宗之助のことを案ずるのぶたちに、それは大丈夫だ。事の仔細を調べると言って下さったので、宗之助を巡るからくりは早晩明らかになるはず…と伝えた主水之介だったが、尾行に気づくと、事ある時は伝えにやるので、宿で待っていて欲しいとのぶたちに言い聞かせ、円太らには宿の所在を覚えて来るようにと言いつけ、2人を送らせて行く。

その後、1人歩き始めた主水之介は、尾行をおびき出すため、塀の影に身を潜めていると、案の定、深編み笠の侍が追い抜いて行こうとして、隠れていた主水之介に気づく。

そのまま立ち去ろうとする相手の手を掴み、笠の中の顔を確認した主水之介は、姓名をうかがおう!と迫るが、相手は姓名を名乗る謂れはない!等と言うので、腕をねじ上げると、相手はやむなく、柳田右近(上代勇吉)と名乗ったので、御主に付けさせたのは誰だ?お蓮か?お由良か?と責めると、拙者の一存で…と言うので、吉原で退屈男の居場所を聞けば、たちどころに分かるわと教え、そのまま離してやる。

その吉原にやって来た主水之介に声をかけて来たのは「川甚」の主人だった。

使用人が店の屋根の上で見つけたと言う紙包みを見せるので、先日川に転げ落ちた浪川鉄斎のものだな?と主水之介は察しを付ける。

さらに「川甚」の主人は、過日のお礼に…と言うので、三彌が?と驚いた主水之介は、よしなにお伝え下さいとだけ答える。

「川甚」に戻って来た主人は、部屋で待ち構えていた猿若三彌に、主水之介は誘いに乗って来なかったと伝える。

それを聞いた三彌ががっかりするが、その時、隣の部屋から高笑いが聞こえて来たので、襖を開けてみると、そこで一人飲んでいたのはお銀だった。

何故私を嘲る?と三彌が聞くと、だって、あんまりお前さんがお知りないからさ。主水之介様にはお梶さんと言うご内儀がいるんだよ。お前さんも私と同じ、早乙女地獄にハマったんだね…とお銀は愉快そうに答える。

主水之介は、長屋の珎庵を訪ねていたが、何故か、珎庵、頭に三角頭巾を巻き、布団をかぶって横になっているではないか。

訳を聞くと、今日、暮六つに卒中でわしは死ぬのだなどと言い、ちょうど、その暮六つの鐘が聞こえて来たので、又騙されましたなと主水之介は笑う。

ちょうどそこへ、騙した一念堂一徹と三平が戻って来て、今日は大入りだったので酒を持ってきた!と徳利の酒の匂いを嗅がそうとするので、よう言わんわ!と珎庵は膨れる。

すると、三平が、おっさん!おっさん!おっさん!と「買物ブギ」風に歌い出したので、それを止めた主水之介は、持参した紙包みの鑑定を珎庵に頼もうとする。

すると、包みを明けた途端、こんなものでわしを殺そうと言うのか!これは石見銀山、ネズミ捕り!と珎庵は怯えて答える。

それを聞いた主水之介は、浪川鉄斎と石見銀山?と考え込む。

そこに、おのぶとおぬいを宿まで送った円太が戻って来て、御寮はんがドロンしてはります!と主水之介に伝えたので、驚いて自宅に戻ると、置き手紙だけが残されていた。

そこには、猿若三彌さんとの浮気の話を聞きましたのでお別れしますと書かれてあったが、それが口実であり、お梶の本心ではないことを主水之介は見ぬく。

そこに戻って来た半次が、今晩か明朝、宗之助さんの処刑が行われるようですと伝える。

それを聞いた主水之介は黒頭巾をかぶり、円太たちを伴い、ただちに松平家の上屋敷へと出向く。

付いてきた身の軽い半次が塀の上に登り、密かに屋敷内に忍び込む。

主水之介や円太たちも、屋敷の中に入り込む。

見張り小屋にいた牢番たちは、今度は喰ってるかも知れない。見て来いと1人を濱田宗之助の入っている牢の様子を観に行かせる。

しかし、差し入れた食事を宗之助は食べていなかった。

毒入りと知って喰えるか!と宗之助が言うので、確かに毒は入っているが、どっちにしろ、おめえには明日はない!と牢番は教える。

庭先に忍び込んでいた半次は、立てかけられていた竹の束をわざと崩し、見張りの気をそらす。

その間に見張り小屋に入り込んだ主水之介は、牢番たちに当て身を喰わせ気絶させる。

さらに、牢の前にいた最後の1人も当て身で気絶させると牢の鍵を取り上げ、濱田宗之助さんだね?と声をかけた主水之介は、鍵を開けて外に出す。

主水之介は円太らに宗之助を逃がさせると、自分は竹棒を拾い上げ、駆けつけて来た見張りたちと戦い始める。

塀の外では、半次が待ち受けていたが、円太らの助けを借り塀によじ上り、外に飛び降りた宗之助は、足をくじいてします。

それに気づいた円太は、宗之助を背負って屋敷から逃げ出すと、夜分にも関わらず、伝七の家の戸を叩く。

子分のヤー公こと彌六(時田一男)に戸を開けさせた伝七は、見知らぬ男を背負って入って来た円太を見るなり、トンチキめ!この夜更けに何を持ち込みやがった?と叱りつける。

翌朝、南町奉行早乙女備前守を訪ねた伝七は、松平藩の屋敷内で主君出羽守が毒殺され、その主殺しの罪で御膳番が捕まり、死罪を言い渡されただけではなく、その国の田地田畑まで取り上げられたことはご承知でしょうか?と尋ねる。

今、その御膳番は、ある義人に助けられある所に匿われておりますと伝七が伝えると、その義人とは?と備前守が聞いて来たので、極秘ですと言い、そのある所とは?と聞いても極秘ですと答えるだけ。

何を聞いても極秘か…と呆れた備前守は、で、身共に何を望む?と聞くと、この事件のお取り調べをと伝七が頼んで来たので、それは出来ぬ!我らとて、大名の土地屋敷に入る権限はない。

ましてや松平家と言えば、御新番に近い身分。今更毒殺などと騒ぎ立てる訳にはいかん!と言う。

それを聞いた伝七は、若様が武家を嫌うのも当然ですな。臭いものには蓋…と言う訳ですな…と呆れたように答えたので、ある義人と言うのは主水之介か?と備前守は勘づくが、伝七は、旦那様の御嫡男にそのようなことができる通りがございませんととぼけるだけだった。

帰りかけた伝七は、世は様々でございますな。罪もないものが苦しんでいる一方、悪いことをしても何のお咎めも受けずにのうのうと暮らしている者もいる…と皮肉を言う。

後日、松平藩の上屋敷では、新しい主君になった松平吉則が大勢の家来たちを前に、余は政には疎いので、よしなに頼むぞと挨拶をしていた。

そして、石丸刑部に、御膳番の宗之助の処置は?と聞くと、逃げられましたのでただいま探索中ですと言うので、もう良い、罪を憎んで人を憎まずじゃ。宗之助の身内にも優しくしてやれと言い聞かし、柳田右近は?と聞く。

後片付けも兼ね、永昌院(?)へ…と刑部は答える。

永昌院(?)から出て来た2人の侍のうち、柳田右近は、町中で緋牡丹お銀を捕まえて、20日ほど前から狙っていた。場合によっては玉の輿に乗せてやると言い寄っていた。

もう1人の侍は、おじちゃん!助けて!と走り寄って来た三平が背中に隠れたので、その後を追って来た半治とぶつかってしまう。

半治は詫びを言い、さらに逃げて行った三平を追って行く。

その様子を見送っていた侍は、懐を探り、やられた!と叫ぶ。

半次から、今掏り取って来た書状を受け取った主水之介 は、それが、金50両の受取証文であることを知る。

日付は20日と書かれており、今日の受け取ったと言うことだった。

それを聞いた半次は、いよいよからくりの糸がほぐれてきましたねと声をかけるが、石見銀山の値としては、50両は高過ぎる…と主水之介は考え込む。

その頃、松平藩の上屋敷内では、お蓮の方が吉則に御酒を持って行ったと知らせを聞いたお由良の方が、祝いの御酒を真っ先に召し上がって頂くのは妾じゃ!もしもお蓮に先を越されたら、ただでは起きませぬぞ!と腰元たちを叱りつけていた。

お蓮は吉則の前に来て、腰元の弥生から酒を受け取ると、お毒味を…と自ら申し出るが、左様な作法は無用じゃと吉則が言うので、ではご相伴を…自分の盃も用意したお蓮は、幾久しく、あなた様にご多幸がございますように…と口上を述べ、口に含む。

お蓮の側には愛猫たまがいたが急に泣き出し、腰元の萩乃が異様な目つきで見守る中、突如、お蓮と吉則は苦しみ出し、口から血を吐く。

同じ頃、伝七の家の戸を叩くものあり。

円太が玄関口に出て、どなたはんです?と聞くが返事がないので、アホ!何とか言え!と円太は怒鳴りつける。

そこに、矢八もやって来ると、お化けやったらどないする?などと円太が戸を開けるのを怖がっているので、俺がここで見ていてやるから開けてみろと言う。

結局、そんな役目を請け負うことになった円太が戸を開ける。

松平家で、吉則とお蓮が毒手を飲み、お蓮は死亡したものの、吉則は何とか一命を取り留めた。

下手人としてお由良の方が捕まったと言う知らせであった。

命は取り留めたものの、吉則は、時折発作のようなものを起こし、猫じゃ!などと言動がおかしくなっていた。

そんな中、萩乃は又、異様な目つきで事を奏でていた。

そこに、三彌を召し連れて参りました!と刑部に知らせが来る。

突如、萩乃が悲鳴をあげる。

伝七と歩いていた主水之介 は、お由良の方が下手人とはいささか解せぬと呟く。

その時、又、表戸を叩く音がしたので、今度は円太も平気で開けに行くが、外から頭巾姿の侍たちがなだれ込んで来る。

異常に察知した主水之介と矢八 は、急いで部屋の行灯を吹き消す。

部屋に上がり込んで来た賊たちは、室内が真っ暗で、目指す相手が見えぬので、用意して来たガンドウの灯で探しまわる。

その丸い光が、奥の間に立っていた主水之介を照らし出す。

一方、円太は、天狗長屋の仲間たちを起こしに走り、えらいこっちゃ!旦那が!と叫んでまわる。

ただちに半治、一徹、三平、珎庵らが起き出して来る。

1人、家の中で賊と切りあう主水之介

その長屋に近づいていたのは、頭巾姿の早乙女備前守

ピンチの主水之介の顔に「?」が重なり、前編の終わりとなる。


 

 

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