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べらんめえ芸者と大阪娘

美空ひばり主演「べらんめえ芸者シリーズ」第三作

この当時、ひばりさんは、劇中でも年齢を言っている通り、20そこそこの年齢だったはずだが、芸者姿を演じていることもあってか、貫禄があり大人っぽく見える。

御相手役はお馴染みの高倉健さんで、この頃の健さんは、まだ特定の役のイメージが固まっていないのか、やや軽薄と言うか世間知らずのお坊ちゃんキャラを懸命に演じている様子が見て取れる。

さらに、今回は、水原弘まで御相手役として登場しており、後半、ひばりさんとデュエットシーンも披露する。

話自体は、ザ・ピーナッツ主演の「可愛い花」(1959)そっくりの内容で、さらに同じザ・ピーナッツ主演で原作付きの「私と私」(1962)にもそっくりなので混乱してしまう。

別れた両親に別々に育てられ、互いの存在を知らなかった双子姉妹がひょんなことから再会すると言う話なのだが、ここでは美空ひばりさんが二役を演じており、二人でデュエットをするシーンもある。

二人が同一画面に登場するシーンは、スタンドインの背中越しに撮って、カメラを切り返す(カットが変わるとカメラの向きを変えて、もう1人の役を演じているひばりさんをこちらも着替えたスタンドインの背中越しに写す)ケースと合成シーンを使い分けている。

又、双子が互いの衣装を換えて母親に会いにいく所などは、「若い仲間たち うちら祇園の舞妓はん」(1963)にそっくりなので、偶然なのか、互いに意識したものかはにわかに判断し難い。

ザ・ピーナッツの映画と決定的に違うのは、ピーナッツ映画が、双子が歌手デビューして成功すると言う、どちらかと言うとからっとしたサクセスストーリーになっているのに対し、この作品は、最終的にはハッピーエンドなのだが、途中、かなり鼻につくお涙頂戴シーンがある点だと思う。

全体的には明るいタッチなのだが、後半急に、母子もののような愁嘆場になるのはちょっと興ざめ。

この映画のもう一つの特長は、ポンジュースと提携しているためか、全編ポンジュースの名前を出して宣伝していること。

今考えたら、高倉健さんと美空ひばりさんが、終始、ポンジュース!と言っているなんて考えられないような気がする。

健さんの方は当時まだ新人扱いだったとしても、ひばりさんの方は押しも押されもしない大スターだったはずだから、なおさらだ。

劇中で、ひばりさんが健さんに、一瞬だが、フレンチキスをしているのも驚きだ。

この時期、健さんは、3人娘の一人だった江利チエミさんと結婚していた時期のはず。

健さんの方の気持ちも複雑だったのではないだろうか?

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1962年、ニュー東映、葉山浩三原案、須崎勝弥脚本、 渡辺邦男脚本+監督作品。

火山の火口から煙が立ち上る会社クレジット

都おどりの鳴りものを背景にタイトル、キャスト、スタッフロール

正月

晴れ着の女性が行き交い、人力車が走り、獅子舞が繰り出す中、路上で歌を歌い始めたのは、下駄屋「助六」の店員鉄也(小野透)だった。

鉄也は、獅子舞をからかうように歌っていたが、その時、置屋「富貴乃家」の玄関先から出て来た美千代(滝千江子)梅奴(阿久津克子)ら芸者たちの中に小春(美空ひばり)もいることに気づき慌てる。

他の芸者たちは、獅子舞の足は多く、ムカデみたいね?と不思議がったので、事情を察した小春は前を通り抜けようとした獅子舞の衣装をめくり、真ん中の足に化けていた鉄也を発見する。

悪戯を見つかったような罰の悪い顔になった鉄也に、お年始の時、一番最初に挨拶に行かなきゃいけないのは誰なの?と小春が聞くと、もちろん、小春姉さんの所ですと鉄也は答えるが、噓おっしゃい!蕎麦屋の花ちゃんの所でしょう?と小春が見透かしたので、バレたか?と鉄也は肩をすくめる。

思い返せば15年昔、大川端で浮浪児だったあんたを助けてやったのはこの私でしょう?などと小春が恩を売り始めたので、聞き飽きていた鉄也は、小春の足下を見て、あ!ゲジゲジだ!と叫ぶと、嫌~!どこ!と騒ぐ小春を後に、その場を逃げ出す。

人気のない川縁にやって来た鉄也は、そこに娘姿に変装した小春がいたので、先回りされたと思い驚いてしまう。

観念して小春姉さん!と声をかけて近づいた鉄也だったが、呼びかけられた娘は、きょとんとし、東京に着いた途端、財布掏られて…、うち、真弓(美空ひばり)言いますねんと言うので、ますます鉄也は驚く。

どうやら瓜二つの別人だったと分かったからだ。

うち、ここ歩いていたら、大阪の道頓堀、懐かしゅうなって…と真弓が言うので、大阪出身だと分かった鉄也は、彼女を「助六」に連れて帰る。

下駄屋「助六」の主人久吉(坂本武)と女将のおたけ(沢村貞子)は、真弓と小春が生き写しであることに驚きながらも、事情を聞くと、真弓の身なりが良い所からそれなりの良家の娘と判断、しばらく家にいて良いと言ってくれる。

しかし、連れて来た鉄也の目論みは別の所にあったようで、いつも小春に威張られている反動からか、初対面の真弓を前に威張り始める。

そんな鉄也の態度に呆れた久吉は、さっさと風呂を沸かせ!と鉄也に言いつける。

お父さんやお父さんが心配してるんじゃない?と久吉とおたけが言うと、うち、お母さん、いはらしまへんねん。もう大阪には帰りたくない。うち、家出してきたねんなどと真弓が言うので、どうして家出なんか?とおたけが聞くと、うち、見合いさせられるんだすと真弓は答える。

その頃、「富貴乃家」では、美千代や梅奴たちが年賀状の仕訳をしていたが、大半の年賀状が小春宛だと言うことに気づき、ちょっとむくれていた。

そんな中、自分宛てに来ていた年賀状を読み、「旧年中と相変わり、本年はどうぞ悪しからず」等と言う内容で、客に振られたことを知った〆香(星美智子)は、「ポンジュース」をヤケ飲みし、すでに2本の瓶が空になっていたので、小春は呆れる。

何でも、「ポンジュース」の謳い文句が「恋の活力源」だそうで、〆香は、「ポンジュース」の広告が載った新聞を小春に見せ、効いて来たわ!などと胸を押さえてみせる。

何気なく小春が点けたTVでも、3人娘(光岡早苗、梅野邦子、矢島由紀子)が「ポンジュース」の宣伝をしていた。

さらに障子窓を明けて外を見た小春は、川縁に「ポンジュース」のアドバルーンまで上がっているので呆れてしまう。

その直後、〆香の様子が急変し、お母さん!苦しい!と言い出したので、小春の母で「富貴乃家」の女将綾子(木暮実千代)が部屋にやって来て、いつものお医者さん呼びましょうと言う。

〆香の急な腹痛の原因は、「ポンジュース」だと思い込んだ小春は、容器に書かれていた販売元の道頓堂の名前を確認する。

その頃、その道頓堂東京支社では、支店長の桧山圭吉(高倉健)が、販売好調のポンジュースをますます売っていこう!と社員たちを前に、新年の挨拶をしていた。

大阪から赴任して来た社員の馬場三郎(水原弘)も、1000万の東京都民の腹をポンジュースでがばがばにしよう!などと大きなことを言う。

そんな馬場を支店長室に呼び込んだ桧山支店長は、お前の殺し文句が当たったな!と「恋の活力素」と言うキャッチコピーを考えた馬場の功績を褒める。

2人は年が近いと言うこともあり、上司と部下の関係よりも、友人のような関係だった。

あの文句どうやって考えついたんだ?と桧山から聞かれた馬場は、僕、もっか恋愛中でっしゃろ?それでぴかっと来たんや!などと嬉しそうに答えたので、君は今日、大阪本社へ出張や!今後は僕の右腕になってくれ。親父がそろそろ引退したいと言ってるんで…と桧山は言う。

それを聞いた馬場は喜び、支店長!頑張りまひょう!と桧山と堅く握手をする。

出張に出かける馬場に、1週間くらい行って来い!と、桧山は、恋人に会いに行く馬場をねぎらう。

その直後、内線電話がかかって来たので、それに出た桧山は来客と聞くと応接室に向かう。

応接室に来ていたのは小春だった。

怒った顔の小春は、お宅のジュースで当たったのよ!と文句を言うと、うちは懸賞を出しておりませんが?と桧山は困惑する。

友達が飲んだら、おなか痛くなったのよ!と小春が言い直すと、そんなはずはありません、うちの商品は250年前の元禄時代に8代前の創業者時代から受け継がれたもので、大阪の道頓堀と言うのは、うちの会社名からつけられたものです!と桧山は心外そうに反論する。

すると江戸っ子の小春も負けておらず、江戸の真ん中で大阪の会社に威張られてたまるか!べらんめえ!とにかく、罪な宣伝文句を止めてちょうだい!と言い返す。

人の弱みに付け込み、失恋した人にって何よ!と小春は、宣伝文句に文句をつけ始め、ムキになった桧山と世の失恋者が何人くらいいるかの言い争いになる。

小春が自分の失恋経験を指折り数え始めると、7回も恋を失われた?と桧山は驚き、将来、恋をしたい人ですか?と聞くので、そりゃ、私だって…と小春は頬を赤らめる。

桧山は、おなかが痛くなったと言うのは、おなかの方がおかしかったんではないかな?と桧山は疑い始める。

そこに、紋付袴を来た壮士風の来客(関山耕司)がやって来て、年始の挨拶に来た舎弟たちにポンジュースを振る舞ったら、急に腹痛を起こし始めたんだ!と桧山に詰め寄る。

それを聞いた小春は、わが友を得たと喜び、一緒に桧山を再び追求し始める。

二人のクレーマーを前にした桧山は、噓だか本当だか、手っ取り早くこの場で飲んでみましょう。のれんのためなら死んでも構わん!と言い出すと、自ら、壮士風の男が持ち込んだポンジュースを湯飲みに注ぎ、飲んでみせる。

桧山が置き時計を見ると、1時32分だったが、その時、電話がかかって来たので、小春が出ると、相手は、母親の綾子だった。

お医者さんに診てもらったら、〆香の腹痛の原因はジュースではなく単なる食べ過ぎで、ジュースを飲む前に、鰻、くさやの干物、タコにアイスクリームなど、暴食していたことが分かったのだと言う。

その電話している綾子の側では、もうおなかの具合も直った〆香が、焼いた餅を食べていた。

それを聞いた小春は自分の早合点を後悔し、支店長さん、ごめんなさい!私の方は取り下げるわと謝り、あなたの男振りに惚れたわと感心する。

しかし、ジュースを飲んだ桧山は少しおなかの調子が悪くなったようだったので、不思議がった小春は、桧山が今栓を抜いたジュースの瓶の中味の匂いを嗅いでみる。

そして、壮士風の客に向かうと、一体いくら欲しいの?安手の強請りたかりは止めてもらいたいわ!このひまし油、あんたが入れたの?と睨みつける。

すると、狂言がバレたと察した壮士風の男は慌てて応接室から逃げ出す。

階段を降りて下に来た壮士風の男は、そこに今叱られた小春そっくりの真弓がいたので、驚いてまた階段を駆け上がる。

しかし、上から小春が降りて来て、まだいたの?あんた!と怒鳴りつけて来たので、急いで階段を下りると、そこには真弓がいる。

また階段を登ると小春がいるので、訳が分からなくなった壮士風の男はその場で気を失ってしまう。

一方、他の社員の所に戻って来た桧山は、例のご婦人はもう帰られたのか?お名前は御聞きしたかね?と部下(仲塚光哉)に確認するが、名前は聞き逃したと知ると、個人的にお会いしたかったのに…と残念そうに言う。

「富貴乃家」ヘ戻って来た小春は、すっかりポンジュースのファンになっており、また、〆香に勧めたりする始末。

そんな小春の態度の急変振りをからかっていた〆香だったが、綾子が持って来た速達が贔屓の杉山のスーさんからだと知ると、急に喜び出したので、他の芸者たちは呆れてしまう。

小春は、支店長さんのファンになったの!と、嬉しそうに、ポンジュースへの態度が変わった理由を打ち明ける。

一方、道頓堂へ会いに出かけた馬場三郎が大阪へ出張したと聞き、がっかりして「助六」に帰って来た真弓の方は、今頃、大阪で、私のこと探しているだろうな…と鉄也に打ち明け、うち、当分、ここにお世話になってもええやろか?と頼む。

無地10本、柄物10本の鼻緒を納めに来た業者にお年玉を渡して帰らせていた久吉とおたけは、何か仕事はないでしょうか?ただで御邪魔しているのは心苦しいのでと真弓が申し出たので、はあ、鼻緒でも作ってみるかい?と勧める。

それを聞いた鉄也は、性根込めて作るんだぞと偉そうに真弓に言うので、お前、35束の注文に何本持って行った?鼻緒って言うのは2本で一足なんだ!35足の注文なら70本持って行くんだよ、間抜け!と久吉が、35本しか持って行かなかった鉄也を叱りつける。

その後、道頓堂の支店長室に大阪から帰って来た馬場三郎は、社長からの伝言で、15日に支店長に帰って来いとのことでしたと報告した後、わての恋人大阪にいいしまへんねん!と嘆くと、桧山が、そう言えば、君の留守中に何度も女性から電話がかかって来たが、バーの女給かなにかだと思ったんで相手にしなかったんだと言うので、気のきかん男やな~、これからこの店を継ぐ人が、そんなことでどうします?と上司にも関わらず呆れ、説教する。

その時、部屋の電話が鳴り出したので、真弓からだと思い、受話器を取った三郎だったが、それは間違い電話だったのでがっかりして切る。

すると、その直後、又電話が鳴ったので、三郎は無視するが、桧山が取ってみると、今度こそ真弓だったので、お待ちかねの電話だよと三郎に言いながら受話器を渡してやる。

久々に聞いた真弓の声で安堵した三郎だったが、大阪での見合いの相手は道頓堂のボンボンなんやと聞くと愕然とする。

そんな三郎の気持ちも知らず、目の前にいた桧山は、俺に出来ることなら何でも相談してくれと気安気に声をかける。

その後、川縁で出会った真弓に三郎は、そんな政略結婚の犠牲になってええのか!と憤慨するが、うちの会社は道頓堂さんから資金が出ているから断れんのや。でも見合いしたらお終いやから、うち、家出して来たんや!と真弓は言う。

三郎はん、何で僕の部屋に来い、言うてくれはらへんの?うち、東京ではあんただけが頼りなんやと真弓はすがって来るが、三郎は困惑していた。

うちは独身寮だし、隣の部屋には支店長が住んでるんやと打ち明けた三郎は、支店長があんたのこと、どない思うてるんか、探りを入れてみるわ。何ちゅうても、互いに愛し合っている言うのが一番やと提案する。

真弓も、それまではうちも下駄屋さんのお世話になるわと答える。

その後、「助六」に戻って来た真弓は、自分で作ってみた鼻緒を久吉に見せると、久吉は褒めてくれる。

そこに、製材所から戻って来て、来年から桐が値上げするから、買うなら今だって…と久吉に報告した鉄也は、真弓が作った鼻緒を見ると、これじゃネズミの尻尾じゃないか!と叱りつける。

久吉は、少しは気を効かせろ!と鉄也を叱りつけるが、真弓は自分の力のなさを痛感し、部屋に戻っていく。

その後、部屋に来た鉄也に、何かうちにできる仕事ないやろか?小k所の下宿代、どのくらい払えばええのかな?などと真弓が聞いて来たので、三食付きで1ヶ月8000円くらいかな…と答えた鉄也だが、本当にお金が欲しいの?と確認すると、あるある…、良い内職があるよと何かを思いついたように答える。

その後、鉄也は「クラブ ハーテクイン」にやって来て馴染みのマネージャー(大東良)に、小春をステージに出したいんだって?と聞いてみる。

マネージャーがどうしても出て欲しいが無理なんだと言うので、小春と僕の間柄を知らないだろう?15年前、大川端で浮浪児をしていた僕は、小春に助けられてやった仲なんだと自慢げに告げる。

交渉して、小春が出てくれるなら5万出すとマネージャー(大東良)が言い出したので、さすがに気が引けた鉄也は3万で良いよと答え、交渉は成立する。

しかしk、帰って来た鉄也から、ナイトクラブで歌う仕事を取って来ると聞かされた真弓は青ざめ、うち、人前に出るのがダメなんや。堪忍や!と必死に断る。

しかし、出演料の半分を手付けとして受け取って来た鉄也は、もう後戻りできないんだと説得する。

自分が小春と言う芸者の替え玉になると知った真弓は、そんな詐欺みたいなことさせるのね!と憤慨するが、そうでもしないとまとまった金なんか手に入らないと聞くと、どないしよう…、困ったわ…と悩み始める。

とうとう真弓は、「富貴乃家」の小春に電話を入れ、甘味処で会ってくれないかと頼む。

甘味処で真弓を見た小春は愕然とする。

真弓が自分と瓜二つだったからだ。

勝手に私の顔に似ないでよ!と小春は文句を言うが、自分が頼んだあんみつを、真弓も大好きだと言うので、仕方なく二つ注文してやる。

真弓は、ナイトクラブで歌うことになったので、代わってもらうわけにはいかないだろうかと持ちかけるが、小春は、断るわ。私より巧い人の身替わりならともかく、下手な人の身替わりなんて…と答える。

すると、がっかりした真弓が泣き出したので、小春が呆れると、男親だけで育てられたのでこう言う弱虫になってしまったのと真弓は弁解する。

それを聞いた小春も、私も女親だけで育てられたのよと不思議そうに答える。

真弓は、テーブル横の棚に飾られていた2つのこけし人形を見て可愛い!と嬉しそうに言う。

その行為で何かを思いついた小春は、あんたいくつ?と聞くと、数えで21どすと真弓は答え、父親は日夏製作所の日夏研造ですと教える。

真弓と別れ、「富貴乃家」の帰って来た小春は、綾子に、真弓と言う自分そっくりな娘と会って来たと打ち明け、自分の出生のことを聞いてみるが、綾子は、あんたそろそろ、お座敷じゃないの?と話をはぐらかせて来る。

真弓ちゃんはお母さんの味を知らないのよ!女の子って、恋をしている時が一番お母さんが必要なんじゃないかしら?お母さん、真弓さんのこと、アカの他人だと思ってるの?実は私たち、双子の姉妹なんじゃないのと小春が追求すると、あなたの言う通りなのよ…と綾子は涙ながらに答える。

それを聞いた小春も、やっぱり…と言いながら泣き出す。

私の死んだお父さんは、将来を嘱望されていた絵描きさんなんて言うから、ロマンチックなので信じていたのに…、真弓ちゃんのお父さん、生きていたのね!酷い、お母さん!と小春は今まで騙して来た綾子をなじる。

真弓はあなたの妹なの、20何年も前のこと、その頃は、芸者と言うと酷く蔑まれていたことでしょう?格式のある家の前に出たりすることは出来なかったの。

今でも忘れないわ…、天神様の前であの人と別れる時、あの方が真弓を、私が小春を抱き取ったの…、そしたらどちらかの赤ん坊が泣き出し、それに釣られるようにもう1人の赤ん坊も泣き出したの。

私はあの方を愛していたから別れたの…、許してね、お母さんを…と綾子は言うが、会ってあげてと頼む小春に、会えないの、真弓が芸者が生んだ子だと分かったら、先々どんなことになるか分からないでしょう?と綾子は言い聞かせる。

しかし、母親として無責任だわ!と小春が怒ると、ふがいないと思うわ。生んだだけで何一つ出来ないんだから…、今の私にとって、あの子の邪魔をしないことだけが出来ることなのよ…と綾子は言う。

その後、綾子は、客を装い、猫を相手に店番をしていた真弓の様子を観に行く。

綾子のことは知らない真弓は、品物を見始めながらも涙ぐみ、目にゴミが…とごまかす綾子にハンカチを差し出す。

ハンカチに書かれたネームで、真弓さんっておっしゃるのね?可愛らしい名前だわと話しだした綾子だったが、真弓が、あまりその名前好きじゃないんです。何や、キザっぽう思うて…、お父さんが1人で決めたんですなどと言うので、お母さんは?と綾子が聞くと、うちを産んですぐ、死なはったんですと真弓は答える。

だったら、そのお名前、ご両親があなたが生まれる前に話し合って決めたのかも知れないじゃない?と綾子は言い聞かす。

その時、店の電話がかかって来たので真弓が出ると、相手は小春で、又例の甘味処で会おうと言う誘いだったので真弓は喜ぶが、気がつくと、店内にいた綾子の姿は消えていた。

先に甘味処に来ていた小春は、今会ったら、姉妹と言うことを言ってしまうわ!と自分の気持ちを考え、ウエイトレス(愛川かおる)に手紙を託すことにする。

少し遅れてやって来た真弓は、ウエイトレスから手紙を受け取ると、小春さんがナイトクラブに出てくれるんだわ!と喜び、お礼に私も観に行こうなどと呟くが、側の机の下に身を潜めていた小春は、そんなことしたら替え玉だってバレちゃうじゃない!と思わず声をあげてしまったので、真弓は、それもそうね…と納得しながらも、今確か、小春さんの声がしたような?…と周囲を見回しながら不思議がる。

その頃、鉄也は、道頓堂の三郎を訪ね、今日、ナイトクラブで真弓が歌うので、応援しに来てくれと頼んでいた。

ナイトクラブなどに出ると知った三郎は憤慨し、金を払って断ってやる!と興奮するが、今言ったら大変なことになるとなだめた鉄也は、あんたは、真弓が頼っているたった1人の男やろ?と頼むと、おっしゃ!と三郎は承知し、そうや、ちょっと思い出した!と言うと、応接室から出て行く。

その際、三郎はちゃっかり、テーブルに置いてあった客用の煙草を全部取ってしまう。

支店長室にやって来た三郎は、15日大阪に帰ると言う桧山に、見合い相手はご存知なんですか?と聞くと、相手の顔は知らないんだよと言う。

すると三郎は、支店長、どうです?今夜当たり、ナイトクラブへでも?と誘うと、意外と君も隅におけないねなどと支店長がからかって来たので、ポンジュースの大得意先ですよと三郎は心外そうに答え、今日は、ハリケーン・ローズって言う覆面歌手が出るんですよと教える。

その夜、ナイトクラブにやって来た三郎と桧山だったが、桧山は、何とかローズって出ないじゃないかと焦れる。

その時、ステージに登場したのは、先日クレームを言いに来た小春だったので、お!と桧山は喜ぶ。

恋はチャチャチャ♪などと歌う小春に、すっかり桧山は見とれてしまう。

店の隅でステージを見守っていたマネージャーは、大成功だねと満足し、側で見守っていた鉄也は、真弓と小春が入れ替わっている事を知らないので、わりと巧いな…と感心する。

三郎は、桧山がすっかり真弓に夢中になったと思い込み焦ってしまうが、鉄也は、あれだったら本物の小春でも足下に及ばないだろうなどと言う始末だった。

カウンター席に移った檜山は、三郎からあれは自分の恋人の真弓だと教えられ、運命の出会いだったとは言え、あの人が君の恋人だったとは…と驚く。

あんた、見合い相手を知らないと言っていたはずなのに、今、手を振ってたじゃないですか!と三郎が憤慨すると、じゃあ、あの人が!とクレームを言いに来たのも真弓だったのだと桧山は思い込む。

あんた、どこで見初めたんや?と三郎から聞かれた桧山は、お前が大阪に行った日、会社に来たんだ。こうなったら君と親友であろうとなかろうと、あの人を諦めるわけにはいかない!と桧山は張り切り出す。

「富貴乃家」ヘ戻って来た小春は、桧山のことが好きになったと打ち明けるが、綾子は身分が違うから諦めなさいと言われたので、お母さんたら、昔から私ばかり我慢しろ、諦めろと言うのね!酷いわ。真弓ちゃんにはちゃんとした恋人がいるのに…と嘆く。

しかし綾子は、真弓さんと桧山さんの縁組みは、世間でもう決まったようなものだし…と説得するが、これだけは嫌!と小春は抵抗し、部屋を飛び出して行く。

その後、いつもの甘味処で真弓と会った小春は、支店長さん、私のこと、好きやないかと思って…、良いとこのボンボンが芸者なんか見初めるはずないから、この際、支店長さんの目をあんたに向かわせんようにしてみるわ…と提案する。

「富貴乃家」では、この頃、小春ちゃんの様子が変ね?恋の活力素を飲み過ぎたんと違う?などと言っていた。

小春は綾子に、支店長とのことどうするの?と迫っていたが、もし私が支店長と唇を合わせたりしたら、もう支店長は真弓ちゃんの相手が出来なくなるはずだわ…と呟く。

その頃、ナイトクラブでは、君は彼女と接吻をしたのか?と三郎に確認した桧山が、まだしてないと知ると、こうなったら、どちらが先に真弓さんからキスしてもらうかで勝負しようと言い出す。

こっちから接吻するのはなしなしにしようぜと桧山が条件を出したので、あくまでも向うがキスして来るのを待つんだな?と念を押した三郎は、そのまま店を飛び出して行く。

三郎は真弓を、例の川縁に呼びだし会っていた。

まるで道頓堀のネオンや…とムードを出した三郎は、歌い出した真弓とデュエットをする。

ムードが盛り上がって来た中、三郎は自ら真弓に唇を近づけるが、あかん!フェアプレーや!と桧山との約束を思い出し、キスを思いとどまる。

唄の途中、せっかくムードが盛り上がったのに、一向に三郎がキスしてくれないことの焦れた真弓は、三郎さんの弱虫!と言うと帰って行ってしまう。

一方、ナイトクラブに戻って来た小春は、喜んだ桧山とダンスを踊り出すが、その最中、突然小春の方から桧山にキスをし、恥ずかしがった小春はさっさとテーブル席に戻ってしまう。

感激した桧山は嬉しそうに同じテーブル席に戻って来る。

すると、小春は、誓約書なるものを取り出し、これにサインしてくださいと頼む。

そこには、私はあなたとキスしましたので、今後、あなた以外の娘とはお付き合いしませんと書かれてあったが、恋の勝負に勝ったと思い込んだ桧山はあっさりその場でサインし、拇印まで押してしまう。

翌日、三郎を支店長室に呼び、昨夜の結果を話した桧山は、意外な結果になったてしまった。俺の方が後からスタートした身だからな…とすまなそうに言うので、三郎は、やめとくんなはれ、ここでくよくよするなら、最初からあんたをナイトクラブに連れて行ったりせえへんよとやせ我慢する。

すまんな、こればっかりは譲れんのだと桧山は重ねて詫びるが、じゃあ、最後のお別れに行ってきますと言い残し、三郎は真弓に会いに行く。

その頃、いつもの甘味処で真弓と会った小春は、昨夜桧山に書かせた誓約書を見せていた。

その後、いつしか2人はデュエットを始める。

そんな二人を見守るような2つのこけし人形。

歌い終わった小春は、真弓ちゃん、私たちってね…と話しかけるが、薄々何かを察していた真弓も、お姉さん!小春さんは私のお姉さんでっしゃろ?と叫ぶ。

私たちは双子で生まれたのね!小春はんのお母はんはうちのお母はんですね?と真弓が見抜いたので、今後は2人で力を合わせて、お父さんとお母さんを一緒にさせてあげましょう。私に良い考えがあるわと小春は提案する。

「助六」にやって来た三郎は、真弓が急に大阪に帰ってしまったと聞き驚いていた。

しかし三郎は気持ちを切り替え、これからはポンジュース!仕事、仕事や!売って売って売りまくるで!と言いながら帰っていったので、久吉は鉄也に、お前もあの人を見習え!と叱りつける。

その頃、ごめん…ただいま…とおかしな挨拶をしながら「富貴乃家」に戻って来た小春は、部屋にいた綾子を見ると、いつかお店で会ったおばはん!と驚く。

綾子の方も小春の様子がおかしいと気づき、あんたは!と絶句するので、真弓だす…と小春に化けていた真弓は明かす。

お母さん!うちのお母さんですな?と言いながら綾子に迫った真弓だったが、綾子は、いけません!うちみたいなものをお母さんなどと呼んでは…、あんたは日夏家の大事な娘さんですと拒絶する。

それでも真弓は、一度で良いから真弓と呼んで!とせがみながら、綾子にすがりつく。

大阪

屋敷の庭にいた日夏研造(伊志井寛)に、旦那はん!いとはんが御帰りだす!と婆やおさと(不忍郷子)が言いに来る。

帰って来た真弓を案内してきながら、おさとは、旦那はんはあれからずっと工場を止めて…と娘を案じていたことを教えるが、研造がそれを制する。

そんな研造と座敷で対峙した真弓は、うちは何番目に大事なの?といきなり聞く。

一番目が工場で、二番目がお金ね、私は三番目くらいかな?と皮肉を言うと、研造は何を言い出すんだ?お前、東京に行って変わったな?といぶかる。

ならどうして、道頓堂の将来を考えず、資本と手を握りたいんや?うちには真意が分からないと真弓が責めると、お前、圭吉君と会うたことあるのか?と研造は聞く。

すらっとした美男子で、さぞかし立派な方でしょう?と真弓が答えると、やっぱり会うたことがあるのか!と研造は驚く。

そこへ、おさとが、道頓堂の旦那がボンとお二人で御見えになりましたと告げに来る。

父親の桧山宗太郎(石黒達也)と一緒に部屋に入ってきた圭吉は、そこに真弓がいたので感激する。

研造は宗太郎に、2人はもうとくに恋仲だったようだと教える。

僕の誓約書持ってますね?と圭吉が聞くと、真弓は誓約書を取り出して見せるが、それはあなたと真弓が絶対婚約しない誓約書です。私は真弓ではありません。真弓の純真な恋を止めさせたくないのですと訴える。

そこにいたのも、真弓に化けて大阪に乗り込んで来た小春だったのだ。

あっけにとられた圭吉だったが、でも、ポンジュースの文句を言いに来たのはあなたでしょう?クラブで歌を歌っていたのもあなたでしょう?キスしたのもあなたでしょう?と聞き、小春が頷くと、じゃあ、何の問題もない。私が好きなのはあなたなんですと答える。

しかし小春は、私は芸者ですと打ち明けたので、どうして自分が芸者であることを卑下してるんだ?と圭吉は不思議がる。

私の母は、私にだけは自分と同じ道を歩かせたくないのです。20何年前、母は私の父と別れました。そこにいるのは私のお父さんです!と小春は、途中からうつむき黙り込んだ研造を指差す。

その時、部屋の電話が鳴り出したので、受話器を取った圭吉は、それが真弓からのものであることを知ると小春に受話器を渡す。

真弓は小春に、うち、偽もんと言うことがバレてしもうたのよと詫び、お母さん、とっても水臭いんや。うちのこと、お嬢さんなんて他人のように言わはるのと報告する。

それを聞いた小春も、こっちもそうなの。でも、どんなことがあっても、あんたと私は姉妹だわ!と言うので、感激した真弓は、うちはもう、お姉さんしか頼る人いないんやとすがって来る。

私たちは、肩チ○バの愛で育ったけど、吐噶喇を会わせると人並みになれるのよと小春が言い聞かすと、ここにいはるのはお母ちゃんや。お母ちゃんは死んだと思ってから寂しかったけど、生きていると分かるともっと寂しゅうなって…、お母さんの顔を見たらもっと哀しゅうなった…。芸者とバカにしているような人はお父さんやない!もうお父さんもお母さんもいらん!と真弓は言う。

その姉妹の会話を横で聞いていた研造は、さすがにいたたまれなくなり、すまんが、ちょっとその電話を…と受話器を受け取ろうとするが、小春は拒否し、これは私たち姉妹の血の通った電話です!他人が口を挟まないで!と言いはる。

責めて一言だけ…と研造は頼むが、小春は嫌です!と受話器を放さない。

「富貴乃家」の方でも、電話を取ろうとしない綾子の姿に苛立った真弓が、お母さんのバカ!と叱りつける。

すると、ようやく目が覚めたかのように、真弓!と叫んだ綾子は娘を抱きしめる。

その会話を聞いていた小春は、真弓ちゃんとお母さんが泣いてますと研造に伝え、ようやく受話器を手渡す。

綾さんか?と声を出した研造に、はい!御久しゅうございます!と答える綾子。

苦労したんだろうね?20年前別れたあの赤ん坊を良くここまで育ててくれた。ありがとう!と研造は感謝する。

綾子の方も、あなたこそ、あの時泣き出した赤ん坊がこんなにきれいになって、お母さんと呼んでくれたと答える。

小春もお父さんと呼んでくれた。すまなかった!と研造は深々と頭を下げ詫びる。

そんな会話を聞いていた桧山宗太郎が、さっきから15通話だ、後からすごい料金を請求されるぞなどと無粋なことを言い出したので、圭吉はむっとして、お父さんは商売、商売かも知れないが、僕は愛情、愛情ですよ!僕はお父さんが反対しようとこの人と…と言いかけるが、宗太郎は良いんだと答えるではないか。

あの電話を聞いたときから、お前の嫁はあの人しかいないとわしも決めた。

15通話…、それがあの人の土性っ骨や!と宗太郎は言う。

まだ、伝ンわ、切れてないよと宗太郎が言うので、慌てて小春が受けとると、しばらく返事がなかったので、どないしてましたんや?と真弓が聞いて来る。

小春は嬉しそうに、真弓さん!と呼びかける。

その後、「助六」には、大阪に戻った真弓から現金封筒が送って来る。

中を開けると2万円も入っていたので、やっぱり義理堅い人だったねと感心した久吉は、鉄也には別に入っていた1万円を手渡す。

それを受け取った鉄也は、一番損したのは三郎さんだったな〜と気の毒そうに呟く。

道頓堂の会社の屋上で、ポンジュースのアドバルーンを揚げようとしていた三郎は、真弓と小春の2人がやって来たので面食らう。

小春は、そんな三郎をからかうように、1人は支店長の恋人、もう1人は三郎さんの恋人…、どっちか分かる?と謎掛けをする。

その時、三郎が持っていたアドバルーンが風にあおられ浮き上がったので、思わずロープを握りしめようとしてバランスを崩しかけるが、危ない!と抱きついて来た方が真弓だと気づく。

すると、建物から桧山圭吉も姿を現し、さっきからずっと見てたよと言いながら、小春に近づくと抱きしめるのだった。


 

 

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