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お役者文七捕物暦 蜘蛛の巣屋敷

中村錦之助(萬屋錦之介)主演で、横溝正史原作の捕物帳の映画化

東映の全盛期の作品でカラー作品と言うこともあり、なかなか見応えのある娯楽映画になっている。

劇中劇として、中村時蔵、中村芝雀らによる舞台芝居が見られるのも豪華。

昔の残酷な処刑が元で祟りの噂が立ったり、三人姉妹の姫が登場したりするのも横溝作品らしくて楽しい。

さらに、大岡越前を御大片岡千恵蔵が演じているのも見物。

加藤剛主演のテレビ版「大岡越前」では、越前の父親役を演じていた片岡千恵蔵だが、当人も越前役を演じていることは今回始めて知った。

この作品、文七が事件を解き明かすというより、むしろ文七は狂言回しの立場に近く、最後に謎解きを大見栄切ってやるのは大岡越前である。

比佐芳武脚色と言うこともあり、謎解きをする時の御大の声の大仰な調子は、まるで「多羅尾伴内」か「金田一耕助」…、どちらかと言えば、林家木久扇師匠がオーバーに真似をしている御大そのもの。

金田一役としても有名な御大だが、スーツ姿の金田一に違和感を覚える人も、時代劇での御大に違和感はないはず。

錦ちゃんも元気一杯の頃で、正に脂が乗り切った役者とスタッフが、がっぷり四つに組んで仕上げた作品と言った感じがする。

捕物帳なので、本格謎解きミステリほど厳格な謎解きはないが、逆に、立ち回りなどの動きが加わっているだけに、映画としては面白く出来ていると思う。


▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1959年、東映、横溝正史原作、比佐芳武脚色、沢島正継監督作品。

享保元年、勝田藩にて、土蜘蛛党の蜂起が起こったが、首領永瀬大全(原健策)以下13人は磔極処に処せられた。

その直後、城主豊前守尚勝死亡

土蜘蛛の呪いと噂され、勝田藩の上屋敷は「蜘蛛の巣屋敷」と呼ばれるようになる。

勝田家には輝姫(雪代敬子)振姫(横田真佐子)小夜姫(三原有美子)と言う三人の姉妹があったが、ある夜、天井から巨大な蜘蛛が降りて来たので、三人の姫たちは悲鳴をあげる。

タイトル(絵の具のようなものが垂れるバックに)

掛川藩上屋敷の側にある勝田藩上屋敷の通用門から、拍子木を手に夜出て来たのは、中間の松助(津村礼司)だった。

火の用心の夜回りを始めようと、暗がりの角を曲がった時、目の前に、黒服面の集団が待ち構えていたので、松助は驚いて逃げようとするが、その場で掴まり、当身で気絶させられる。

同じ頃、勝田藩の屋敷内では、腰元の弥生(月笛好子)が、輝姫(雪代敬子)の部屋の障子に浮かんだ怪しい連獅子のような影を観たので、怪しんで、輝姫様!いかがあそばされました?と廊下から声をかけるが、返事がないので、そっと障子を開け、隙間から中を覗き込むと、布団の中で輝姫がぐったりしており、突然、歌舞伎の蜘蛛の精の扮装をした男が迫って来たので、怯えて廊下を逃げ出そうとすると、さらに同じような扮装の男が4人も廊下に立ちふさがるように出現して来たので、弥生は恐れて屋敷の外へ逃げ出す。

すると、そこには黒装束の一団がいたので、弥生は逃げ出す。

その頃、輝姫は布団の中で気がついて起き上がっていた。

黒装束の一団は、逃げる弥生を追って捕まえると、その場で当身を食らわせ気絶させる。

その時、ちょっと待ちねえ!と声をかけて来たのは、しがねえ遊び人と自称する文七(中村錦之助)だった。

良くねえこと観たらしいな…、落としまえくれよ。無理にとは言わないけど、近所に薬代に困っている老人がいてな…と文七が言うと、金か?新谷やってやれ…と、首領格の黒装束が言う。

新谷と呼ばれた黒装束が文七に近づくと、いきなり斬り掛かろうとしたので、おっと、こう見えても道場通ってるんだよ!と身を交わすが、倒れていた弥生の身体に躓いてしまった文七は左腕を斬られ、覚えて嫌がれ!と捨て台詞を残して何とかその場を逃げ出す。

そんな文七が出会ったのが、目明しのだるまの金兵衛(沢村宗之助)、文七の手の怪我を観て、又喧嘩したな?とからかって来るが、相手は12〜3人の黒装束に腰元がさらわれていたので助けようとしたんだと文七が答えると、その場所へ急ぐ。

翌朝、宇田川町の伝兵衛長屋にやって来たお半(桜町弘子)は、表にいた文七の同居人の三吉(加藤武彦)に声をかけると、夕べ、兄貴、大けがしたんだ。上野では花が咲こうってのに、今年は年回りが悪いや…などと言うので、慌てて文七の部屋を覗くと、自分で包帯を不自由そうに巻いており、お半の姿を観ると、手を貸してくんなと頼む。

お半は文七に近寄り、包帯を巻くのを手伝ってやると、文七はお半の髪に付いた簪を観て、すげえ簪刺してるな。どう観ても1両になるな…などと言う。

佃の仁平さんの賭場で2両負けたんでしょう?とお半が言うので、どうして知ってるんだ!と文七が驚くと、さっき、仁平さんの所の寛治さんにあったのよ。

今から、山村座に行かない?お父さんと兄さんの弥生狂言も、後3日じゃない!お父っつぁんの芝居を見るのは最後になるかもしれないのよとお半は誘うが、俺は芝居が嫌いでぐれた男だと言って立上がると、これから真柄道場へ行って来るぜと言って出て行こうとする。

そんな文七に、お半は財布を渡して来たので、一瞬笑顔になった文七だったが、すぐに真顔に戻り、大事にしろと言いながら、投げて返す。

その後、同じ長屋に住む病気の母親と暮らしていた秀坊こと秀太郎(中村米吉)に声をかけ、お母ちゃんどうした?昨日約束した金、都合付かなかったんだ。今日はきっと持って来るから待ってろ!と約束し出かけて行く。

中村歌六(中村時蔵)の家の前には人だかりが出来ていた。

播磨屋親子だわ。もう次の狂言の稽古をしているんだと、野次馬の中の女が感心したように呟く。

そんな播磨屋親子の勝手口から入って来た文七に気づいたおとよ(花園ひろみ)は、若旦那!どうなすったんです?と近寄って来る。

実はな…、困ったことが起きちまってなと文七は言い難そうに話す。

座敷では、子持山を歌六が長男の秀歌(中村芝雀)に指導している所だった。

金を落としちまったんだ。自分のだけじゃなく、人様から預かった金まで…と文七が噓をつくと、おふだちゃん、若旦那にお茶をお出ししてと女中に声をかけたおとよは奥に駆け込んで行く。

そして、持って来た5両を渡すと、すまねえ、4〜5日したらきっと返すと文七は礼を言う。

そこに出て来たのは、おとよの慌てぶりに先ほどから気づいていた歌六だった。

あれだけ言って聞かせたのに、何でこの敷居を跨ぐんだ!役者の性根を直すまで敷居を跨ぐなと言ったはずだ!と厳しい表情で叱りつけ、帰れ!と怒鳴る。

文七が頭を下げ出て行くと、しょうのない奴だ…、おとよ、奥へ来なさいと呼ぶと、奥の座敷でおとよに、酷い怪我をしていたようだが、喧嘩したのだな?アホな奴だ…と言いながら、5両をおとよに渡す。

取っておきなさい。お前に苦労させたくない。文七は私の子だ…と厳しい表情で言う。

寺の前にやって来た文七に声をかけて来たのは、たまたま通りかかった兄の秀歌だった。

しかし、文七は兄の顔を見るなり、何も言わず、脱兎のごとく逃げ出してしまう。

真柄道場にやって来た文七の腕の怪我を観た真柄十太夫(香川良介)は、どうした?又喧嘩か?と聞いて来るが、お前に怪我をさせるとは、相当相手は強かったようだな…と気づく。

文七は、池田大作さんは?と聞くと、ちょうどその池田大作(中村嘉葎雄)が出て来て、夕べのことは金兵衛から聞いたが、現場に駆けつけると何もなかったので、文七の狂言だろうと言っていたと愉快そうに話しかけて来る。

それを聞いた文七は心外そうに、こうして怪我したんだし、頭風の男が1人の侍を新谷と呼んでいましたと伝える。

女を助けるために戦ったのか?この話は打ち切りにしようと池田が言うので、真に受けて下さらねえんで?と文七がすねると、後日証拠が出て来たら又考えようと言うので、分かりました。証拠を挙げましょう!大岡様には文句がござんすからね。覚悟しといておくんなさいよと文七は息巻く。

水野和泉守(山形勲)に呼ばれ、江戸城に登城した大岡越前(片岡千恵蔵)は、水野の嫡男忠常が勝田家の輝姫と祝言する予定になっているのだが、今朝方投げ文があったと言い、その髪を越前に見せる。

そこには、輝姫を中傷する文と「土蜘蛛」の文字があり、存念を聞きたいと和泉守が聞いて来たので、取るに足らん悪戯かと…、あなた様が御家老筆頭で、奥州勝田藩と結ばれることを快く思わぬ者もおりましょうと越前は答えるが、実は先方の兄駿河守から直々に破談を忠常に申し出て来ているのだと和泉守は打ち明ける。

和泉守は、かつて棚倉で起きたという土蜘蛛の騒動の残党が報復のためにやっているのではないか、確かめてくれと越前に願い出る。

そもそもこの土蜘蛛の蜂起は、勝田藩が播州からお国替えになったことが発端らしく、捉えられた一党のものたちは磔になったと聞く。そなた、棚倉へ行ってくれぬかと、奉行所に戻って来た越前は池田大助に命じる。

翌日、勝田藩の上屋敷前にやって来た文七は、門前を歩いていた内藤監物(薄田研二)らに、こちらのお殿様は今御国元へ?こちらの腰元衆の1人に行方知れずの人がいねえかと思いやして…と声をかけるが、大名屋敷でものを聞くときは、裏手に廻れ!と睨みつける。

そんな文七の様子を近くからうかがっていた深編み笠の侍がいた。

その後、裏手に廻り、そこにいた門番に、勝田様のお屋敷の腰元の中に、夕べ、行方不明になったものがおられませんか?と尋ねるが、縁起でもないことを言うな!と叱りつけられ追い払われる。

そこに帰って来たもう1人の門番が、どうした?今のは誰だ?と聞くと、文七を追い払った文七は、フーテンだよと答える。

しかし、腰元のことを聞きに来たと知った門番は、早速屋敷の中に知らせに行く。

その知らせを受けた老女篠の井(松浦築枝)は、その男が聞いて来たのは弥生の件だけか?中間の松助のことは聞かなんだか?夜回りの途中で行方不明になったことを聞かなかったか?と問いただす。

そして、弥生の件しか聞かなかったと知ると、どうやら2人は別々に姿を消したらしいと篠の井は推測する。

輝幸様のご縁組みがすむまでは、いらぬ噂を立てられたくない…と篠の井は案ずるのだった。

その輝姫は、勝田駿河守(中村歌昇)の部屋に呼ばれ、この兄の心が分からぬか?そなたを無理に嫁がせようとしているのではない。辞退の申し込みをしたが、理由がない限り、受け入れられぬと御老中様は仰せじゃ!訳を申せ!と迫られ、思わず、自分の部屋に逃げ込んでいた。

滝川(日高澄子)は、お千賀(喜多川千鶴)を呼び、部屋が暗いので灯を早く!と指示し、輝姫の部屋に向かうと、私がきっとお力になりますと、泣いている輝姫に声をかける。

我らの身体に、亡き父上様の報いが、罰が…と輝姫が打ち明けた時、お千賀が行灯を部屋に持って来る。

報い、罰とは?と滝川が尋ねると、輝姫は行灯に蜘蛛がいる!と怯える。

何ですか、蜘蛛くらいで…と滝川は慰めるが、蜘蛛の精が出るのですと輝姫は言う。

その頃、文七は長屋に戻り、秀坊に、おとよからもらって来た金を渡していた。

そして自分の部屋に戻ると、先に寝ていた三吉を蹴って起こし、おはんはどうした?と聞く。

今まで待っていたが、帰ったよと三吉が教えていると、文七を訪ねて、播磨屋出入りの呉服屋と称する客がやって来る。

大旦那様からこれを、道のついでに渡してくれと言われまして…とふろしき包みを差し出したので、親父が?と言いながら受け取った文七は、礼を言って帰す。

三吉と二人で、菓子だったら良いんだけどななどと言いながら、包みを開けてみると、木箱の中に入っていたのは大量の蜘蛛だった。

やろう!ふざけた真似しやがって!と怒った文七が外へ飛び出すと、そこには先日の黒覆面の一団が待ち構えていた。

三公!早く逃げろ!こんなに早く仕返しに来るたあ思わなかった!この様子じゃ、手前らの悪事は麻美大抵の悪じゃないな!と叫んだ文七は、部屋の中に戻ると灯を消す。

そして、暗闇の中、乱入して来た賊が接近すると、新谷!俺だ!と文七は仲間を装い、屋根に飛び移ると、こうなったら、俺も意地だ!お前らの悪事を掴んでみせるぜ!と捨て台詞を残し逃げ去って行く。

下からその騒ぎを観ていた秀坊が、おじちゃん、大丈夫かな?と案ずると、三吉が、そんなドジ踏むような兄貴じゃないよと慰める。

文七が逃げ込んだのはお半の家だった。

驚いたお半に、居候だいと言うことだと、手持ちの金を渡した文七は、あそこにいると、長屋の連中にとばっちりになるんだ。黒覆面の連中が乗り込んで来やがったと事情を打ち明ける。

誰?とお半が聞いても、分からないよと文七は答えるしかなかった。

とある屋敷に戻って来た黒覆面の首領丹沢大五郎(岡譲司)や新谷八郎兵衛(中野文男)は、そこにいたごろつき藤兵衛(吉田義夫)から、御首尾は?と聞かれ、又仕損じた!と悔しそうに言う。

新谷は、座敷の隅で酒を飲んでいた藤川市之丞(徳大寺伸)に嫌味を言うが、飲むより他に手はありませんや、新谷さん、俺の代わりにやったらどうですか?と言い返されたので、何!と気色ばむが、丹沢に、内輪もめは止めろ!と叱りつけ、藤兵衛、飯村から何か言って来たか?と聞く。

あの二人を始末しろと…と藤兵衛が答えると、手はず通りだな?と丹沢は頷く。

上人の読経が聞こえて来る、中間の松助と腰元の弥生が掴まっていた部屋にやって来た藤兵衛は、気の毒だが逝ってもらうことになった。極楽往生だから安心しな…、隣の上人さんは念仏を唱えているし、裏は、妙法院の墓地だと笑う。

そこに、別の男が香炉を持って来て、運が良いぞとからかう。

藤兵衛たちが部屋を出た後、香炉から立ち上る煙を吸った松助と弥生は息絶える。

部屋で、上人の読経を聞いていた藤川市之丞は、いつ聞いても、あの声にはぞっとするような凄みがありますね〜と感心すると、大日上人こと永瀬七之助は永瀬大全の倅だからな…、10数年の恨みを込めて読むからだ…と丹沢が答える。

勝田藩の輝姫の部屋にやって来た滝川は、松前屋が参っておりまして、山村座の芝居を観にお出かけになりませんか?と…、本日で終わりでございます。ぜひとも!と伝えに来る。

輝姫は、気が進まぬ…と断ろうとするが、中村秀歌は水も滴る美しさと大変な評判でございます。目正月なさいませ。芝居がはねた後、手前の別宅に秀歌を呼びます。さぞ、御気が晴れましょうと松前屋多左衛門(進藤英太郎)は熱心に勧める。

一方、文七は、金兵衛さんの所へ大助さんのことを聞きに行くから、俺の代わりに親父と兄貴の芝居を観に行ってくれ。俺だって、「女暫」は観たいんだよとお半に告げ、出かけて行く。

山村座には、松前屋多左衛門に説得されやって来た輝姫と滝川、それに保科家の内藤監物も観に来ていた。

芝居が始まった頃、山村座の前に、藤兵衛たちごろつきが2〜3人やって来る。

多左衛門は舞台を指し、あれが秀歌でございますと輝姫に教える。

山村座の裏口に入ってきた藤兵衛たちは、引込み役の作右衛門に、藤川市之丞から聞いているだろう?と金を掴ませると、奥に向かう。

舞台では、花道に中村歌六扮する女暫が登場していた。

藤兵衛たちは奈落にやって来ると、源蔵!と呼びかける。

その頃、金兵衛の家に来ていた文七は、不在だと言うので、「女暫」のセリフを口に出してみたりして待っていたが、そこに金兵衛が帰ってくる。

花道では、文七の父と兄、歌六と秀歌の掛け合いが始まっていた。

文七は金兵衛に、大助さん、旅に出たってことですね…と聞くが、金兵衛は用心して詳細を話そうとしない。

それで、この間のあっしの一件と繋がりがあるんで?と文七がカマをかけると、輝姫の一件?と思わず金兵衛は口走ってしまったため、観念して、文七を奥の部屋に通す。

女暫を演じる歌六は、刀を肩に担ぎ、女だてらに八方を踏んでみせるが、すぐに恥ずかしがって、刀を花道に棄てると、逃げるように下がって行く。

奈落に降りて来た歌六は、待ち伏せしていた藤兵衛たちごろつきにいきなり襲撃され、右手を斬られてしまう。

奈落は、狼藉に気づいた関係者が騒ぎ出す。

その直後、金兵衛の家にお半が駈けて来て、お父っつあんが山村座の奈落で斬られた!と知らせたので、仰天した文七は自宅へ、金兵衛は山村座に駈けて行く。

自宅に帰り着いた文七は、そこにいたおとよに、親父は?と聞くと、今お医者様の手当を受けています。右の肩口から三カ所ばかり…と言うので、命に別状はないんだな…と一安心しながらも、ひょっとすると、この種は、俺が撒いたのかも知れねえな…と考え込む。

奈落に入ったとなりゃ、誰か手引きがいたに違いねえ。確か、手引き番は作右衛門だったな?穴番は?と聞くと、源蔵さん…とおとよが答える。

その名を聞いた文七は、源蔵だ?と不振な顔になる。

歌六の側にいた秀歌は、松前屋の別邸で大口屋さんが待っておられるそうですが?と弟子が伝えに来たので、こんな時だからお断りしておくれと答えるが、怪我をしている歌六自身が、札差屋の大口屋さんと言えば大切な客だ。お断りすると罰が当たるよ。私に構わず行っておいでと言い聞かす。

文七は、源蔵の家に向かっていた。

源蔵の家では、作右衛門が源蔵に金を渡し、急に金遣いが荒くなってバレないようにしろよなどと言い聞かせていた。

その時、戸が開く音がしたので、2人は緊張するが、気のせいだよと様子を観に立上がった源蔵は、そこに黒服面の男が立っており、銃口を向けていることに気づく。

源蔵の家に近づいていた文七は、起きなり聞こえて来た銃声に驚き、家の中に入り込む。

すでに源蔵は即死していたが、庭先に逃げかけて倒れていた作右衛門にはまだ息があり、しっかりしろ!と助け起こすと、播磨屋さんか…、申し訳ないことをいたしやして…と言うので、誰に頼まれた?と聞くと、藤川…い…とまで言った所で、作右衛門は息絶えてしまう。

「い」の後を言ってくれなきゃ!と文七は無念がる。

その藤川市之丞は、松前屋多左衛門の別邸で待ち構えていた。

そこに、駕篭で中村秀歌がやって来る。

同じく、別邸内に潜んでいたお千賀がm別室で控えていた滝川に、お見えになりましたと伝える。

奥の部屋にいた輝姫は、香炉の煙で眠り込んでいた。

秀歌を出迎えた多左衛門は挨拶をし、実はあなたにお詫びせねばならないことがあり、のっぴきならない急用で大口屋さんが一時ばかり遅れることになったので、ここで待ってくれと言い、自分は下がってしまう。

部屋に1人取り残された秀歌は、急に眠気を覚え、床の間に置いてある香炉を怪しみ、部屋を出ようとするが、そこに立ちはだかったのは、土蜘蛛の精の化粧と衣装を着た藤川市之丞だった。

秀歌は、その蜘蛛の精に押し戻されて部屋に戻ることになる。

松前屋多左衛門はお千賀に、行きなさい!と声をかけ、お千賀は別邸から外へ走り出す。

そのお千賀に気づいて呼び止めたのは、見回り中の石子伴作(片岡栄二郎)であった。

急いでいる訳を聞いて来た石子に、お千賀は、飯倉で奥女中をやっていると名乗るが、お家の恥ですので…と言いよどむ。

内密に致すからと石子が迫ると、では申しましょう。ご長女の輝姫様が、中村秀歌のために御一命を…とお千賀は打ち明ける。

その頃、別邸の奥座敷で気がついた秀歌は、自分の右手に握っていた血の付いた短刀と、側でのどを斬られ絶命していた輝姫を発見、思わず立上がって短刀を投げ捨てていた。

お半の家にやって来た金兵衛が、文七は?と聞くと、まだ帰ってませんとお半は答えるが、そこに文七が帰って来たので、秀歌さんが勝田藩のお姫様殺害の下手人として、石子伴作様の手で掴まったと伝える。

それを聞いた文七は驚きながらも、罠だよ、兄貴がそんな大それたことをするはずがないじぇねえかと言う。

その頃、秀歌と松前屋多左衛門は、大岡越前の裁きを受けるため、お白州に引き立てられていた。

秀歌は、客間に通されてから多左衛門の言動を仔細を越前に説明していたが、隣に座していた松前屋多左衛門は、そんなこと言うはずないじゃありませんかと口を挟んだので、越前は控えよ!と叱る。

秀歌は、その後、お香の匂いが強かったので気が遠くなり、廊下に出ようとすると、芝居の土蜘蛛の精そっくりの男が立っており、後は何も…と続ける。

越前から、その香のことを聞かれた多左衛門は、昨年の暮、長崎の商人から土産にもらったもので、もう残りはないと答える。

越前は、仔細は日を改めて調べると申し渡す。

越前はその後、呼び寄せていた、先代から勝田藩に仕えている老女の篠の井に話を聞く。

ここ数日、変わったことはなかったかと聞くと、7日の晩、中間の松助と弥生という腰元がいなくなり、輝姫様の御様子が、その明くる朝から変わったと篠の井は答える。

他に何か心当たりは?と聞くと、このたびの重なる凶事は、土蜘蛛の仕業に違いありませんと篠の井が言うので、東宝が必ずその真相を暴いてみせますと約束し、越前は篠の井を帰させる。

ちょうどそこに旅から戻って来たのが池田大助で、留守中、数々の返事があったそうで?と越前に聞いて来る。

調査の次第は?と越前に聞かれた大助は、処刑された永瀬大全の一子七之助 は、7歳の時、僧侶に連れられ国元を離れると、その後、谷中の寺の住職になっておりますと伝える。

その時、秀歌の弟文七がお目通りを願いたいと参っておりますと言うので、お白州を見やると、金兵衛を伴った文七が控えていた。

越前が用向きを聞くと、兄貴はあっしのとばっちりを食っただけで、数日前、西念寺付近で、黒装束の一団に襲われていた腰元風の女を観ました。

その時、あっしは腕を斬られました。悔しいんで、そいつらの正体を暴こうとしたのですと文七は言い、それを聞いた越前が、吟味の参考にすると答えると、気に入ったよ!などと急に文七がため口を聞いたので、横に控えていた金兵衛が言葉遣いに気をつけろ!と焦って注意する。

越前は、文七!この一件、命に賭けてもしかと胸に叩き置くぞと言い、帰すと、側に控えていた大助には、あやつ、なかなかもって気骨のある奴だ。役に立ちそうだな…と笑いかける。

その後、おとよに外で会い、父のことを聞くと、秀歌さんは大口屋さんと一緒に箱根に湯治に行ったと話してあると言うので、それで良いんだと文七は安心する。

さらに文七は、藤川一門に「い」で始まる名前で素行の悪い奴はいないかい?と聞くと、市之丞が去年、身持ちが悪いので破門を喰ってますとおとよは教える。

それを聞いた文七は、俺は今から役者になるぜと笑い出す。

松前屋多左衛門は、座敷内で、この辺を廻るようになって5日目だと言う新米の按摩に身体を揉ませていた。

そこに、軍之進と鉄斎様がお急ぎの御用だとかで…と手代が言って来たので、多左衛門は按摩に銭を払い、部屋を出て行く。

部屋に残った按摩は、文七の変装した姿だった。

手代木軍之進(中村時之介)が待っていた部屋にやって来た多左衛門が用向きを聞くと、御国元の殿より、藩の財政一切、その方に任せても良いとのことだと言うので喜ぶ。

例の女中たちのことを大岡に気づかれますまいか?と多左衛門が案ずると、既に谷中の妙法寺に埋めてあると軍之進は答える。

妙法寺の裏の墓地の中では、何かを埋めた後を前に、住職の大日上人(原健策-二役)が念仏を唱えていた。

その隣の屋敷から、丹沢たちが出かけて行く。

その妙法寺にやって来たのは、池田大助と金兵衛たちだった。

上人の姿が見えないので、本堂に飾ってあった位牌を確認してみると、永瀬大全の名が書いてあるではないか。

それを拝んでいると言うことは、大日上人は一子七之助に相違あるまいと大助は判断する。

御奉行様の采配を仰ごうと言い、帰りかけていた所に立ちふさがったのが大日上人だった。

何奴だ?と聞かれたので、町方の手のものでございますと大助は答えるが、領外もの!寺を管轄するのは寺社奉行のはず。掟を守る番人が掟を破ってどうする!と叱りつけて来る。

お詫びは後ほど…と頭を下げた大助たちは寺を出ようとするが、そこにやって来たのが文七だった。

腰元の死骸は妙法寺にあるに違いないと文七から聞いた大助は、裏の墓にやって来て探し始める。

一緒に付いて来た文七が、土の色が変わっている部分を発見、すぐに掘ってみると、あの夜腰元が着ていた着物が出て来る。

すぐに大日上人を捉えようと、本堂に戻った一行だったが、そこには「バカめ」と書かれた紙が残されているだけだった。

急いで寺を出て後を追おうとした文七たちは、そこにいた藤兵衛を敵の仲間とも気づかず、30前後の男が来なかったか?と聞くと、この向うの辻ですれ違いましたと言うので、その言葉を信じ駈けて行く。

しかし、その後、大日上人を取り逃がし、しょげてお半の家に戻って来た文七は、あの男に一杯食ったに違いないと悔んでいた。

目から鼻に抜けるお兄さんでも、騙されることがあるってことだと言うので、そのお兄さんってあんたのこと?とお半が聞くと、俺だよ!と文七は答える。

翌日、妙法院の隣の屋敷前にやって来た深編み笠の侍が笠を上げると、中からのぞいた顔の右半分には大きな痣と、不気味な白い目があった。

その侍も文七の変装だったが、そこに、寺の中から、夕べ出会った藤兵衛が出て来たので、拙者は、新谷の昔の仲間だがいるか?と声をかける。

藤兵衛は、ここにはいませんぜ、思い違いをなさっているのでは?と答えると、では、藤川市之丞はいるかと聞くと、真っ昼間から根も葉もない言いがかりを言いなさるとただじゃおきやせんぜと凄んで来る。

疑っているのか?と言う侍は、2人に聞いてみろ、顔に痣のある男と申せば分かると言い、帰って行く。

その後ろ姿を見送った藤兵衛は、急いで屋敷に戻ると、そこにいた新谷と市之丞に、顔に痣がある片目の男を知っているかと確認する。

2人とも知らないと言うので、探りに来たのだろうと気づいた藤兵衛は、約束の2千両を早く頂きたいと丹沢に申し出る。

しかし、丹沢は、保科家の姫のお輿入れが決まらんと…とためらう。

金兵衛の家に、浪人の変装のママでやって来た文七に、金兵衛は気づかず身構えたので、俺だよ、俺!と正体を明かした文七は、奴らの塒は妙法寺横の侍屋敷だぜと教える。

それを聞いた池田大助や金兵衛たちは、御用行灯を持った捕り方を連れて屋敷を取り囲む。

屋敷の中に乗り込むが、既に誰もいなかったので、証拠が残ってないかくまなく探せ!と大助は命じる。

大きな長持があったので、蓋を開けてみると、首を絞められ絶命した大日上人の遺体が入っていた。

これで、土蜘蛛党の仕業ではないことが分かったと判断した大助は、出直そう。捜査の糸口はがっちり握っているんだと大助が言うと、後は大岡様に一芝居してもらうんだなと文七は言い出す。

水野和泉守に再び対面した大岡越前は、土蜘蛛も秀歌も一切無関係と分かりましたと報告する。

その後、忠常殿は?と越前が聞くと、輝姫の妹の振姫を迎えようかと…と和泉守が打ち明けると、ならば、本日直ちに話をまとめ、明日にでも御祝言を!と越前が言い出したので、驚きながらも和泉守は、そちのような切れ者が言うのだから、仔細あってのことだろう。直ちに駿河森様に伝えようと和泉守は答える。

その後、保科家の屋敷にいた内藤監物の元に、勝田藩の滝川が駆けつけて来る。

その場にいた松前屋多左衛門は、隣屋敷に異変でも?と監物に話しかける。

部屋に来た滝川は、水野様のお相手は妹の振姫様に決まりましたと報告する。

それを聞いた内藤監物は、ではあの晩のように手引きを頼むぞと滝川に頼む。

一方、勝田家の屋敷の前にやって来たのは、文七とお半だった。

俺が中に入って騒がしくなったら、金兵衛さんに知らせてくれと文七はお半に告げる。

もしものことがあったら、あたい、生きてられないから!とお半が言うので、世話女房みてえなことを言うじゃないか、早く身を隠しなと優しく言葉をかけた文七は、塀の上に身軽く飛び移る。

座敷の中から、滝川と、蜘蛛の精の化粧をした白装束の女が出てくるのを、庭に忍び込んだ文七は目撃する。

その頃、振姫と不寝番の腰元たちは、深夜と言うこともあり、うとうととしていた。

その部屋の中に、土蜘蛛の精の化粧をした女が香炉を差し入れる。

その直後、香炉の煙で、部屋の中にいた腰元たちは、全員本格的に眠りこみ、振姫は苦しみ出す。

その様子を、障子の隙間から覗き来んで確認した滝川と土蜘蛛の精に化けたお千賀は、互いの顔を見合って頷く。

そこに、藤川市之丞が演ずる土蜘蛛の精が登場、部屋の中に入って振姫に迫る。

その時、庭先から、待ちねえ!市之丞と呼びかけたのは文七だった。

手前、破門を食らったくせに、とんだ所で座頭やってるじゃねえか?どこのどいつに頼まれて、その役もらったんだ?と嫌味を言うと、蜘蛛の精の面をかなぐり捨てた市之丞。

滝川とお千賀は、曲者じゃ!と叫んだので、勝田家の使用人たちが駆けつけて来る。

しかし取り囲まれた文七は、おっと、あっしは、大岡様の息がかかったものですぜと言うと、控えい!と言いながら近づいて来たのは勝田駿河守だった。

滝川!身に覚えがないなら、その言い繕いは何じゃ!部屋を改めい!と駿河守は命じる。

部屋の中に逃げ込んだ滝川とお千賀 は、床の間の掛け軸の裏に開いた抜け道から逃げ出す。

その後を追った文七は、そこに隣の屋敷と繋がる地下道が掘られていたことに気づく。

地下道の先にあった保科家の中に入った滝川は、監物様大変です!と叫ぶ。

そこに乗り込んで来た文七は、とうとう招待を現しやがったな!俺に手を引かせたいばかりに、親父を傷つけ、兄貴に人殺しの罪を着せようとしやがったな!重なる悪事、この文七が見て取った!と言うと、斬り掛かって来た保科家の侍たちと斬り合いを始める。

その頃、お半は金兵衛の家にやって来ると、文七さんが!と知らせる。

事情を知った池田大助たちが捕手と共に、保科家に向かう。

呼び子が吹き鳴らされ、捕手の数が増えて行く。

保科家の中では、丹沢が刀を抜いていた。

そんな保科家の塀の外にやって来た頭巾姿の侍がいた。

動くな!と文七に叫んだ監物は、銃を突きつけていた。

作右衛門と源蔵を殺したのもお前らだな?と睨みつけた文七は、売ってみろ、屋敷の廻りは捕手に囲まれているんだ。帰って呼子代わりになるぜ!と粋がる。

監物は発砲するが、身を避けた文七の背後にいたため倒れたのは、蜘蛛の巣の精の扮装して逃げて来ていた藤川市之丞だった。

静かに!と言いながら、庭先から屋敷内に入って来たのは、頭巾をかぶって様子を探っていた大岡越前だった。

御奉行様!と文七が喜ぶと、監物たちはぎょっとして立ちすくむ。

内藤監物!仔細は分かっておる。勝田家に代わって、自分の所の姫を水野家と縁組みさせたいと言うのは国元の主君への忠義であろう。気持ちは分かる…と越前が言っている所へ、池田大助ら捕り方が乱入して来る。

相生町の大工が殺されたのは、地下道を造らせたためか?さらに、滝川や藤川市之丞、札差屋松前屋多左衛門と組み、土蜘蛛となるべく浪人無頼を集め、中村秀歌には罪を着せ、大日上人はじめ多くの人を殺めたは許されん!と越前が迫ると、それも御主君のお指図とあれば仕方ない…と監物は言い訳する。

保身のため、根も葉もないことを言って、掛川6万石を潰してどうなる?と越前が叱りつけると、開き直ったのか、監物は撃て!と命じる。

伏せろ!と叫びながら飛び込んだ大助は、松前屋多左衛門を捕まえ、神妙にせい!と言い放つ。

他の一味も捕まった後、文七、なかなかの働きであった。礼を言うぞと大岡越前は言葉をかける。

秀歌 はどうしました?と文七が聞くと、もう帰って夜の酒を飲んでいる所であろうと越前が答えたので、大岡様に頼った俺の勘が当たった!と文七は満面の笑顔になる。

どこへ行くの?と屋敷の外に出た文七にお半が聞くと、親父の所によ…と文七が答えたので、勘当されている身じゃないかとお半が呆れると、あ、そうか…と気づいた文七だったが、今夜は別だ、待ってろよとお半に言い残し、朝焼けの空の下、自宅に向かってまっすぐ走って行くのだった。


 

 

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