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幻想館

 

鞍馬天狗 黄金地獄(鞍馬天狗横浜に現る)

戦時中に作られた「鞍馬天狗」だが、戦後の「鞍馬天狗」とは色々な面で違っており、シリーズの中でも、屈指の傑作と言っても良い出来ではないかと思う。

一番違うのは、壬生浪士隊…つまり、新撰組の前身のようなライバル組織が全く登場せず、外国人組織が敵になっている点である。

これは、戦時中と言う特殊な時代の影響かも知れない。

さらに決定的に違うのは、杉作役を男の子がちゃんと演じている点。

戦後の鞍馬天狗では、美空ひばりや松島ともこと言った歌の巧い女の子が演じているケースが多いので、劇中の設定通り、男の子が出ているだけでも新鮮に映る。

お陰で、子供ながらも天狗のピンチを救ったり、海に飛び込んだり、馬車を操ったりと言った冒険アクションも、女の子よりは違和感がない。

愛らしい女の子は、チャコと言うもう1人の妹のようなキャラとして登場している。

時代劇ながら、奇抜な敵キャラクター設定の面白さに加え、伏線を巧く生かした軽妙な展開も素晴らしく、銃を持った敵が相手だけに、鞍馬天狗が拳銃を撃ちまくるのも違和感がない。

後半の方は、デイシーンとナイトシーンが混在した、奇妙な編集ミスが気にならなくもないが、スピード感溢れる、正に「インディ・ジョーンズ」のような活劇調になっている。

贋造貨幣を使って、日本の経済を混乱させると言う設定も面白く、難しい経済の説明を、倉田が子供の杉作に噛んで含めるように分かり易く説明し、観客にも分からせると言う手法も巧い。

冒頭の時代劇にゾウやサーカス団が登場する奇抜さ。

杉作がパチンコで狙った風船が割れる音と拳銃のオーバーラップとか、時代を感じさせない斬新な演出も散見できる。

色々観どころがある中でも、やはり、目が不自由なお力が、物語の最後まで密接に絡んで来る所が巧い。

倉田から縫い針を取る所や、ヘボン先生の手術後の忠告が、ちゃんと最後の見せ場に繋がっている。

泣かせと言えば泣かせの演出なのだが、ただ単に、ヒーローに助けられるか弱い女性として描かれているだけではない所が見事。

杉作やチャコだけではなく、観客の胸の中にも、お力の面影はずっと生き残るはずである。

倉田が最後、満身創痍になると言うのもヒーローらしくなく、珍しいような気がする。

古い作品にしては音声が良く保存(再現?)されており、聞き取り易いのも嬉しかった。


▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1942年、大映、大仏次郎原作、伊藤大輔脚本+監督作品。

レリーフ上の大映会社クレジット

明治4年 横浜

通りの真ん中で角兵衛獅子を披露している2人の子供杉作(沢勝彦)とチャコ(上田玲子)の側では、彼らの姉のお力(琴糸路)が小さ目の琴を片手に抱え、それで杉作たちの芸に添える曲を奏でていた。

その廻りには大勢の見物客が取り囲んでいたが、突然、大きな音が響き渡ったかと思うと、空に花火が上がり、そこから何かが落ちて来る。

見物客は、何ごとかとそちらの方へ全員駈けて行ったので、客がいなくなった杉作は、芸を止め。何でぇ!と文句を言い出す。

通りをやって来たのは曲馬団つまりサーカスだった。

像の上には金髪の美女ドロシー(ガーラ・コズロワ)が乗っており、周囲に愛嬌を振りまいている。

サーカス団は、風船を飛ばし始めたので、道を埋め尽くす野次馬たちは大喜び。

その風船目がけ、忌々しそうにパチンコ玉を飛ばそうと狙う杉作。

パンと割れる音

小原さん、決心付きましたか?何故、イエス言えない?と、近くの時計塔付きの洋館の上の窓の所から外を向いていた小原正樹(原健作)に、部屋の中から拳銃を突きつけ聞いている足が悪い中国人王大年(山本冬郷)と、その横に座り、じっと見つめている外国人風のヤコブ(上山草人)

やがて12時ね。1分間だけ待ちましょうと言いながら、自分の懐中時計をテーブルの上に置く王大年

拳銃は小原に突きつけたままである。

お力が、一緒に歩いていたチャコちゃんが止ったので、どうしたの?と聞くと、下駄の鼻緒が切れたのだと言う。

お力は眼が見えないようだった。

後30秒!と王が迫るが、小原は何も言わない。

そうした中、チャコが、洋館の方へ飛んで行く風船を取ろうと近づいて行く。

ミスター・オハラ!と時間切れになった王が迫るが、小原はノーと答えたので、発砲する。

その時、窓際にいた小原の手から何かが下に落ちる。

チャコは、その落ちたものを拾い上げ、鼻緒の切れた下駄にくっつける。

そんなチャコを杉作と共に待っていたお力は、杉ちゃん、私たち、横浜に来るんじゃなかった。曲馬団が客を呼んでいるようじゃ、今さら角兵衛獅子でもないわね。杉ちゃん、横浜から帰ろうと言っていたが、嫌だい!ねえやん、何のために横浜に機たんだい?と杉作は抵抗する。

でも、ヘボン先生に診てもらうどころか、日銭も稼げないのよ…とお力は嘆く。

横浜運上所(今で言う「税関」のこと)

ある小判を調べていた勘定方の役人たちは、金の含有量が異常に少ない不良貨幣を発見していたが、その出所がヤコブ商会と言うことで断定しかねていた。

ヤコブ商会から出る怪しい不良貨幣は、先月までは1千両程度だったが、今や9000両にまで急増しており、このままでは、いくらヤコブ商会であろうと運上所では受け取れないと頭を悩ましていた。

そのことをヤコブ商会に言いに行った役人は、日本政府はヤコブ商会に商いを許しているのです。そのヤコブ商会の金を受け取れないと言うのは何故です?と逆に質問される。

今、大阪で金貨統一の準備中ですから…と答えると、では、ヤコブの不良金を、その新しい貨幣の基準で引き換えてくれますか?と聞かれ、返事に窮する。

そんなある日、横浜港に降り立った舟客の内、1人の男が、自分の知り合いの小原正樹が、ヤコブ商会で造船技師として勤めているので、色々便宜を図って欲しいと名刺を取り出して、舟会社の係員に掛け合う。

その名刺には「三浦勝比古」と書かれてあった。

曲馬団の楽屋裏、縫い針で傘の修理をしていた倉田(嵐寛寿郎)と言う浪人に近づいて来たドロシーは、自分はこれから街に買い物に行くので、付いて来なさい!分かりましたね!と、強い口調で命じていた。

テントの外でたむろしていた曲馬団の用心棒として雇われていた浪人たちは、ドロシーの後に付いて召使いのようにテントから出て来た倉田を見つけ、倉田!又、買物のお供をするのか?相変わらずぼんくらだなとからかってくる。

そうした中、ヤコブ商会では、ヤコブ親方はどこだ?と聞く社員がいた。

何でも、鞍馬天狗が横浜に現れたらしいとその社員から聞いた王たちは驚く。

社員がヤコブに知らせに出かけるのとすれ違うようにヤコブ商会にやって来たのが、三浦勝比古(原健作-二役)だった。

「ヤコブ船渠」の事務所にやって来た社員は、そこにいたヤコブに、ボス!と声をかけ、急を知らせる。

一方、ヤコブ商会の「PRESIDENT」と書かれた部屋の中に招き入れられた三浦は、王大年から、あなたは鞍馬天狗を知らないか?攘夷派の男で外国人排斥を唱えており、ヤコブも狙われています。

小原さんはドックの技師でしたが、その鞍馬天狗に連れて行かれました。机に「鞍馬天狗に…」とだけ書かれており、小原さん、それっきり行方が知れないと、松葉杖をついた王は説明する。

それを聞いた三浦は、鞍馬天狗?と呟き、考え込む。

いやだい!このまま引き返すなんて!と路上でだだをこねていたのは杉作だった。

諦めましょう?あたしたち風情が、西洋のお医者さんに診てもらえるはずなかったのよとお力は説得していたが、杉作は頑として聞き入れず、俺は波止場人足になって金を稼ぐから、ねえやん、チャコ連れて先に帰ると良い!などと杉作は反抗していた。

そうした2人の会話を聞いていたチャコは、ぽっくり占いで決めましょう?表が出たら、杉ちゃんの言う通りにし、裏が出たら、お姉ちゃんの言うことを聞くのよと急に言い出したかと思うと、その場で履いていた下駄を蹴り上げ「ぽっくり!」と叫ぶ。

そのチャコの下駄が通りかかった倉田の顔にぶつかったので、チャコはお力に抱きつき、杉作は、俺たちが下駄が買えないのは、お侍の知ったことか!と妙な憎まれ口を聞いてごまかそうとする。

その時、倉田は、チャコの下駄の鼻緒に留めてあった木札が外れていることに気づき、それを拾い上げると、これを売ってもらえまいか?と杉作に聞く。

それを聞いた杉作が、いくらだったら買う?と聞くと、いくらでも…と倉田が答えたので、じゃあ、ねえやんの目をヘボン先生に診てもらえるだけ出してもらえるかい?と聞く。

世界一のヘボン先生に診にもらいに来たけれど、曲馬団なんてやっているんじゃ、角兵衛獅子なんかじゃ追っ付かないんだと杉作が言うので、倉田は、お力の目が悪いことを知る。

早速、お力を連れ、ヘボン先生の病院に行った倉田は、手術をすれば直ると聞かされる。

J・C・ヘボン先生(アレクサンダー・ペドロウィッチ)は、手術の後が大変大事なので、毎日続けて寄越して下さいと付き添って来た倉田に告げる。

曲馬団の用心棒たちは、宿の二階から、人力車に、黒めがねをかけたお力を連れて、杉作たちが泊まっていた向いの宿に戻って来た倉田の姿を偶然見かけ、ぼんくらのくせに…と嘲っていた。

一方、宿で待っていた杉作は、黒めがねをかけて戻って来たお力を見て、もう見えるようになったのかと喜び、ランプで部屋を明るくしようとする。

しかし、メガネは光線を避けるためにかけているだけで、療治は明日からだと倉田に聞くとがっかりし、メガネをかけているのに見えないなんてインチキだ!とふて腐れる。

そんな中、お力は、少しは見えるんですよと言うので、どのくらい?と倉田が聞くと、近い所なら少し分かりますと言い、黒めがねを外したお力は、そこに何やら白く光るものがありますね?と言いながら、倉田の着物に目を近づけると、襟元に付いていた縫い針を取ってみせる。

やがて、その針の感触を確かめながら、お力は泣き出したので、杉作が驚いて、ねえやん!と声をかけると、私、いつになったら、お針子できるようになるのかしら…と嘆くので、横で聞いていた倉田は、大丈夫!ヘボン博士は世界で何人といない名医なんだからと励ます。

その時、宿の女の飯が炊けたよと言う声が下から聞こえて来たので、倉田は帰ろうとするが、そんな倉田に、今日から俺家来になったんだから、何と呼べば良いのかな?と杉作は聞いて来る。

角兵衛獅子の大将だから親方だ!と倉田は言い残して帰る。

横浜運上所では、先月、金の含有量が2割7分以下の貨幣が87%も横浜に流通していると言う報告が会議でなされていた。

その不平貨幣の9割6分がヤコブ商会から出ているものだと聞いた役人たちは、大規模な不正が行われていることは明白で、さすがにもうヤコブ商会からの不良貨幣を受け取るべきではないと言う意見が出る。

しかし、一方で、今、ヤコブ商会からの上納金を拒否すれば、ドック閉鎖の危機に陥り、もっか建造中の蒸気船が完成しないままになる。

これから世界に向けて発展せねばならぬ日本にとって、蒸気船を一隻でも失うことは多大な損失であり、さらに今建造中の蒸気船は、すぐに軍艦へも転用できる最新式のものであるので、せめて今建造中の船が完成するまでヤコブ商会を叩き潰すわけにはいかない!と言う意見もあり、会議は紛糾する。

しかし、みすみすこのままうっちゃっとく訳にも行かない…と悩んでいると、実は既に監督当局の計らいで、西郷閣下がある人物をドックへ乗り込ませているらしいと言う。

その人物は西郷閣下のお友達で、これまでずっと閣下の下で働いて来た武人だと聞く…と言うのだ。

その頃、「ヤコブ船渠」の事務所では、2人の事務員たちが縛られ、猿ぐつわをはめられ、床に転がされていた。

そして、中国人従業員に案内させ、ドックの地下を案内させていたのは鞍馬天狗であった。

中国人が、ここはちょうどドックの真下辺りだと言う場所まで来た天狗は、ドラム缶の上にコンパスを置き、方位を調べ始める。

この地下道は?と天狗が聞くと、ヤコブ商会の地下道だと中国人は説明するが、その時、背後から人が近づいて来る物音がしたので、天狗が後を振り向いた瞬間、案内役をしていた中国人が逃げ出す。

事務所から地下道へ入る入口付近の見張りをしていた杉作が、親方!と天狗を呼ぶ。

ヤコブ商会の護衛たちが、銃を持って迫って来たことを知らせるためだった。

鞍馬天狗は二丁拳銃を取り出し、護衛たちと撃ち合いながら、杉作に逃げるように命じる。

海岸線に追いつめられた杉作に、飛び込め!と叫ぶ天狗。

杉作は、その天狗の言葉通り、海に飛び込む。

一方、天狗に案内役をさせられた中国人は、王大年に地下道のことを侵入者にしゃべらされたと報告していた。

しゃべったのか?と確認した王は、地下道へ戻ろうとする中国人にランプを渡し、その後を付いて行くような素振りを見せた次の瞬間、持っていた松葉杖で中国人の頭を殴りつけ、撲殺する。

海を泳いで、無事、ヤコブのドックから逃げおうせた杉作と鞍馬天狗こと倉田は、人影のない空地でたき火をしながら、濡れた着物を乾かしていた。

経済と言うものを知っているか?悪い貨幣がはびこると、一国の経済が滅茶苦茶になる。グレシャムと言う西洋の学者の言葉だが、「悪貨は良貨を駆逐する」と言う…と倉田が説明していたが、無学な子供である杉作に理解できるはずもなく、経済問題は苦手だい!と言うだけ。

小判は何で出来ている?と倉田が聞くと、金だい!と杉作は答える。

一両の小判の中には一両の値打ちがある金が含まれているのが普通だが、中には一両分の金が入ってないものがある…と倉田が言うと、すかさず、偽金だね!と杉作は答えるが、偽金じゃないんだと倉田は説明する。

かつて、300諸公の時代には、お大名が300人もおり、そのお大名たちはそれぞれ、自分の藩の中だけで通用する貨幣を発行していたんだ。

国によっては、2割7分の金しか入ってないものまであった。

明治のご一新によって日本から大名がいなくなり全国一列一体になると、これらの貨幣がごっちゃになって日本中に流されるようになった。

そうしたどさくさに紛れて、金が1割1分しか入ってないような貨幣をばらまくような輩が出て来た…と倉田が言うと、ヤコブだね!と杉作が、ようやく分かったと言うように答え、親方!おいらにも何か手伝わせてくれ!と申し出る。

何が出来る?と倉田が聞くと、しばし考えていた杉作は、パチンコ!と答えるが、他には?と聞かれると、逆立ちしか出来ない!と悔しそうに言いながらその場でやってみせる。

そんな杉作の逆さまになった視界に、こちらの様子をうかがっている見慣れぬ男の姿が入ったので、倉田と杉作は、口笛を吹きながら、素知らぬ不利でその場を後にする。

そんな2人の後ろ姿を物陰から観察していたのは、ヤコブ商会で、鞍馬天狗に従兄弟がさらわれたと聞かされた三浦勝比古だった。

その後、横浜の港に、船から降りる若い娘の姿があった。

宿の三浦を訪ねて来たその娘の名前は、小原由香(内田博子)と宿帳に書かれていたので、三浦様とのご関係は?と主人が聞くと、しばし恥ずかしそうにしていた由香は、従兄弟なので…と答える。

宿の主人が退室すると、由香はすぐに、隣室にいた三浦に、兄を殺したと言う下手人は?と聞く。

横浜にいます、しかも、この宿にいるのです…と三浦が答えると、仇がこの宿に!と由香は驚く。

外は雨が降り出していた。

倉田と杉作は、途中の空き家で雨宿りをするが、ヘボン博士の病院に行っているお力とチャコの為に、傘を杉作に持たせて迎えに出す。

自分は頬かぶりをして待とうとしていた倉田に近づいて来たのは三浦だった。

三浦は突然、ヤコブ商会の通用印鑑を拝見したいと申し出る。

倉田が差し出した通行証は、チャコが洋館の下で拾って、切れた下駄の鼻緒の紐代わりに使っていた板だったが、そこに書かれている名前は「小原正樹」だったので、小原正樹は拙者の従兄弟で、今、行方知れずになっている身!その印鑑を所持していると言うことは!と言いながら、三浦は倉田に迫る。

倉田は慌て、その印鑑は子供からもらったもの!と説明するが、興奮した三浦は聞く耳を持たず、本当のことを言うか!言わぬか!それとも力づくで聞くか?と言いながら刀に手をかける。

御随に…と答えた倉田は、頭にかぶっていた手ぬぐいを脱ぎ、それで、三浦が突き出して来た刃を巻いて防ぐ。

しばし、2人はもみ合っていたが、外を護衛隊が通り過ぎて行くのに気づいた倉田が三浦を制し、護衛隊が通り過ぎると、良い具合に気勢を削がれたので、これ以上争う気はない。勝負は私の勝ちだ。互いに同じ宿に泊まっているのだから、話し合う機会はいくらでもあるはず…と言い残し、さっさと空き家を出ると、宿に帰って行く。

宿に帰って来たお力は、手術を受けて来たとかで、両目にはガーゼが当てられ、その上から黒めがねをかけていた。

ヘボン先生が言うには、これで目が見えるようになるでしょう。ただし、今、きつい光線を見たら、取り返しのつかないことになると言われましたと倉田に報告する。

それを聞いていた倉田は、宿の柱に杉作が顔を埋めているので、杉作、どうした?嬉しいんだろう?と声をかけると、何でえ!と言いながら振り向いた杉作の目は涙で濡れていた。

その頃、ヤコブ商会の王は、用心棒の頭のような存在の大の字と言う浪人に、あんた、偽鞍馬天狗になって、三浦さんを斬る。仲間を連れて行く駄賃だと言って、30両を見せていた。

大の字は、良し、やろう!と即答する。

曲馬団の中では、日本髪と着物姿に扮装したドロシーが、客に愛想を振りまいていた。

そうした曲馬団の様子を、物珍しそうにテントの隙間から覗き込む杉作。

テントの中では、空中ブランコまで行われていた。

その後、楽屋裏にたむろしていた用心棒役の浪人たちの中から、大の字に付いて行く手伝い役をくじ引きで決めようとしていた。

部屋の隅で寝そべっていた倉田を見た仕切り役の浪人が、ぼんくらはどうします?と聞くと、大の字は、同じ釜の飯を食っているんだから仲間にしてやろうと言うので、昔、鞍馬天狗と言う人物がひとしきり活躍しており、今や伝説の人物なのだが、その鞍馬天狗が横浜に現れたと言うので、これから親方が天狗に化けて退治に行くのだ。天狗が天狗を退治する。もちろん、本物の天狗なんておりはせんのだと仕切り役の浪人が倉田に説明する。

そして、くじを取り出すと、当たりくじは3本!当たれば金3両の日当が出る!と囃し立てる。

その頃、宿にいた三浦は、手紙を読むなり、しまった!倉田氏は鞍馬天狗ではなかったんだ!と叫び、悔しがっていた。

隣の部屋にいた由香が、その声を聞き、いかがなされました?と声をかけると、鞍馬天狗から呼び出しがあった…、あの曲馬団の男は人違いだったらしい…と三浦は答える。

悪いが、このままかえって来ないかもしれません、その時は、倉田にあなたから言って下さいと由香に言付け、三浦は出かけて行く。

その直後、由香は三浦の部屋に残されていた呼び出し状を読み、月の出一刻、一本松の弁天で待つと書かれた内容を読む。

先に、三浦を呼びだした場所に来ていた王は、偽鞍馬天狗役の大の字と3人の助っ人たちに、これからの手はずを説明していた。

あらかじめ、石灯籠の背後に隠れていた偽天狗役の大の字が三浦に斬り掛かり、逃げ去った後、我々が三浦を助ける…と言うのであった。

その直後、三浦が近づいて来たので、一行は身を隠すが、助っ人の1人に選ばれていたのは、ぼんくら呼ばわりされている倉田だった。

石灯籠の側にやって来た三浦の前に姿を現した偽天狗は、いきなり三浦に斬り掛かり、三浦は手傷を負うが、逃げ出そうとした偽天狗の前に、大の字!と呼びかけながら出現したのはもう1人の鞍馬天狗だった。

本物の天狗は、怪我をした三浦を抱え、その場を逃げ出す。

海から近づいて来た小舟には、船頭と杉作が乗っており、天狗と三浦はそれに乗り込む。

王大年は、拳銃を撃ちながら追って来るが、用心棒たちが海岸線に駆けつけた時には、既に小舟は離れて行っていたので、王は、みんなに引き上げさせる。

小舟を降り、陸地にたどり着いた鞍馬天狗こと倉田は、糸子さんは造船技師として勤めているうちに、ヤコブ商会の贋造貨幣の秘密に気づき、ヤコブ商会を脅迫した…と、私は考えた…と推理を打ち明ける。

それを聞いた三浦は、なるほど…、贋造貨幣…とは気づかなかったと納得する。

その糸口を与えてくれたのが小原さんですと倉田は言い、小原の通用印鑑を見せる。

三浦がその表面を良く見ると、何か引っ掻いたような痕があり、それが文章になっているようだった。

我々には木目や傷が邪魔で読めないのですが、お力さんが読んでくれたんです。それによると、「ヤコブに殺される。偽金工場がドックにある」と書かれていましたと倉田は教えるが、そこに、由香を連れて戻って来た杉作の小舟が近づいて来たので、はっと何事かに気づいた倉田は、由香さん!あなたが宿を出る時、お力さんとチャコちゃんはいたか?と問いかける。

あいてはヤコブだ。私の身替わりに2人を連れ去る恐れがある!と倉田は気づいたのだった。

しかし。時既に遅く、お力とチャコは、新しい機械が入ったから、もう1度手術をしたいと言うヘボン博士からの使いだと言う馬車に乗り込もうとしていた。

チャコは、明日になると、姉ちゃんの目が見えるようになるんだね!と嬉しそうにお力に話しかけていた。

一方、ヤコブドックの地下通路では、火薬が詰まった樽の移動を完了していた。

そんな作業の指揮を執っていた王の元に、メ○ラと小娘を連れてきましたとの報告が入る。

それを聞いた王は、ここをわざと鞍馬天狗に探らせる計略だ…と笑う。

倉田に様子を観に、宿へ帰らせていた杉作が、海岸で待っていた倉田の元に戻って来て、ヘボン先生から新しい機械で又手術をすると言われて出て行ったそうだよ。姉ちゃんもチャコちゃんも大丈夫だよと報告するが、嫌な予感を感じた倉田は、三浦に、あんた、東京に行って西郷さんに会って来てくれんか?手紙は今から書くので…と申し出る。

私が西郷さんに!と三浦は驚くが、敵が先手を打って、偽造工場を爆破する恐れがあると倉田から聞くと、事の重大性を知る。

上に蒸気船があるんだね?と杉作が言うので、ドックまで吹き飛ばすのがヤコブの手なんですと倉田は三浦に説明する。

三浦は行きましょうと答え、倉田はすぐに手紙をしたためる。

その頃、洋館の個室に閉じ込められていたお力は、縫い針を手に、倉田様!倉田様!と心の中で呼びかけていた。

倉田の西郷に宛てた手紙を携えた三浦と由香は、馬車で一路東京へ向かう。

時計の針が10時に移動する。

西郷兵部卿様と書かれた手紙が西郷に届けられる。

時計の針が11時に移動する間、大勢の加勢を連れた三浦の馬車が横浜に戻って来る。

その間、倉田は単身、時計塔のある洋館の入口付近に近づいていた。

鈴が一個、階段付近に落ちていたが、それに気づかぬ倉田は建物の中に入り、階段を登りながら、チャコの名を呼んでみる。

しかし、その頃、チャコとお力は、地下工場に連れて来られていた。

洋館の最上階の部屋に入った倉田は、隠れて待ち受けていた王から銃を突きつけられ、テーブルの前の椅子に腰掛けさせられる。

ピストル撃つ、音する、具合悪い。やがて12時になる。時計鳴り出す。それまで待ちましょうとピストルを倉田に向けたまま王は言う。

倉田は、一つだけ聞いておきたいことがある。メクラの女と娘だと聞くと、二人とも無事です。ドックの地下室にね…、他に何か?と王は聞くが、ありがとう、それだけだと倉田は答える。

時計塔の大きな時計の針が深夜の12時を指そうとしていた。

そんな中、洋館の側の屋根の上に忍んでいた杉作は、自らの判断で、時計塔の角に飛び移ると、最上階の窓目がけ上り始める。

12時ジャスト、杉作が窓からパチンコで王を撃ち、部屋の中にとんぼ返りしながら侵入する。

急襲された王は驚き、部屋から逃げ出すと階段から転がり落ちる。

立上がった倉田は、杉作!何故持ち場を離れた!聞き分けのない!と助けに来た杉作を叱りつける。

だって…と杉作は口ごもるが、部屋に近づいて来た用心棒の相手をするために、倉田は銃で撃ち始める。

恥を知れ!と倉田は、外国人の味方をする用心棒たちを怒鳴りながら斬り合いを始める。

その間、杉作は、又、塔の角を伝って下へ降りていた。

横浜に近づいていた三浦の馬車を道で出迎える杉作。

倉田は、銃を持った中国人に追いつめられていたが、その時、背後の床が持ち上がり、下から別の中国人が上って来ようとする。

倉田は瞬時に身をかわし、二人の中国人を斬り捨ててしまう。

そして、洋館から地下道に入る入口を見つけ、その中に入って行く倉田。

中は贋造貨幣の工場らしく、偽小判が一枚落ちていたので、拾い上げた倉田は、その金の含有量を量ろうと計りに乗せてみるが、その時、潜んでいたカール(トニー・ミスチェンコ)が銃を突きつけられる。

三浦の馬車に乗り込んだ杉作は、おいちゃん、早く!と御者をせき立てる。

世が明けかけた時、トンネルを通過した所で、道の両側の崖上に待ち受けていたヤコブの護衛隊が、銃を撃って来る。

その銃弾を受けた御者が、馬車から転がり落ちる。

馬が暴走を始めたので、客席に座っていた杉作が前の御者席に移り、必死に手綱を引っ張って馬を押さえる。

三浦も前に乗り移り、杉作と共に馬車を操る。

馬車の後から馬で付いて来た応援隊も、銃で崖の上の敵に反撃する。

地下道の倉田は何とか奥へ逃げるが、銃を手にしたカールが追って来る。

出口に近づくと、扉の背後から銃を突きつけて、倉田さんようこそ!お上がり!と声をかけて来たのはヤコブだった。

そこには、火薬の詰まった樽がたくさん積んであり、お力が縛られていた。

どうやら、ドックの真下らしかった。

罪もない女の命、倉田さん御自身の命、それからヤコブの秘密…、取引しませんか?イエス?とヤコブは話しかけるが、柱に縛り付けられた倉田は、くどい!と拒否する。

そんな倉田を前に、余裕綽々のヤコブは、ところでこの上はドックです。ドックの中には何がありますか?と、予想通り、蒸気船を盾に迫って来ると、これは何か知ってますか?と言いながら、マッチを擦り、導火線に火を点けるヤコブ。

倉田は、ああ!と絶望の叫びをあげたので、ヤコブはすぐに、導火線の火をを消して、倉田さん、蒸気船、どうしますか?イエス?と迫る。

その時、闇を突っ切ってドックに近づいた三浦と杉作の馬車と援軍が到着する。

援軍とヤコブの護衛たちとの壮絶な銃撃戦が開始される。

どうしても倉田が取引に応じないと知ったヤコブは、宜しい…と諦める。

三浦と援軍が、地下道内に侵入して来る。

チャコは、お姉ちゃん恐いよ〜と、縛られていたお力にしがみついて来る。

倉田さん、さよなら…と言うと、ヤコブは再度、マッチを擦って、導火線に点火する。

ああっ!と叫んだ倉田は、満身の力を込め、柱に縛り付けられていた綱を断ち切って、ヤコブに飛びかかろうとする。

ヤコブは銃を撃ち、倉田は腕を撃たれるが、そのままヤコブに飛びつき、二人は倒れ込んで銃の奪い合いを始める。

同じく、綱をほどき立上がったお力は、導火線は?倉田さんはどこにいます?と聞きながら近くをうろつき出す。

怯えた幼いチャコが答えられるはずもなく、意を決したお力は、自らメガネを外すと、両目についていたガーゼを自ら剥がし、手術を終えたばかりの目を見開く。

すると、闇の中に輝く導火線の火花がおぼろげに見えるではないか!

強い光を見たらもう直らないと言われていたお力だったが、痛む目を我慢して、その火花の方へ近づこうとする。

何度も火花に近づいて消し止めようとしたお力だったが、巧くいかず、とうとう山と積まれた火薬樽の真ん前まで接近し、樽に引火直前の導火線を踏み消すが、その時、先に床に落とした拳銃を拾い上げたヤコブが発砲し、背中を撃ち抜かれたお力はその場に倒れる。

倉田は、そんなヤコブを刀を拾い上げ斬り捨てる。

ヤコブはそれでも、最後の力を振り絞って立上がろうとするが、それを撃ったのは、ようやく地下道を通ってたどり着いた三浦だった。

お力さん!と叫ぶ倉田だったが、満身創痍状態で倉田自身も動くことができなかった。

お力さんは、ヤコブに殺される前から、死ぬ覚悟は出来ていたようです。書き置きがありました…と三浦が、一枚の紙片を差し出して見せる。

その紙片には、縫い針で突ついて書いた文字が残されていた。

倉田さん、私はヤコブに殺されても何ともありません。ただ一目、お姿が見たかった。どのようなお方か…と書かれてあった。

担架に乗せられて運ばれる倉田は、そんないじらしいお力のことを無念そうに思い浮かべていた。

後日、元気になった倉田は、杉作とチャコを連れ、傘をさして、横浜の海が見える丘にやって来る。

あの船を、ねえやんは見えるかな?命を捨てて助けた蒸気船…、立派に出来て、今日が初航海なんだ…と杉作が言うと、メ○ラでも見えるかな?とチャコも不安そうに口にする。

見えるとも!お姉さんは神様になってあの船と一緒に乗っておられると倉田が言うと、本当?とチャコが聞くので、本当だともと答える倉田。

お姉ち〜ゃん!お姉ち~ゃん!お姉ち~ゃん!

いつまでも、海を走る蒸気船に向かって呼びかけるチャコと杉作。


 

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