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乞食大将('52)

1964年、勝新主演、田中徳三監督版の方を先に観ていたこともあり、ストーリー展開はすんなり理解できた。

展開は、リメイク版とほぼ同じである。

主役の後藤又兵衛基次と宇都宮鎮房の対決は、この作品でもあっという間に決着がついており、リメイク版であっさりしていたと感じたのは、元ネタ通りだった事が分かった。

この作品の見所は、何と言っても、市川右太衛門や月形龍之介が皆若い事である。

羅門光三郎や香川良介、見明凡太朗など、後のプログラムピクチャーでお馴染みになるおじさん俳優たちの若かりし姿に驚かされる。

中でも一番驚くのは、花若を演じている澤村マサヒコと言う子役が、後の津川雅彦である事。

この当時から可愛らしい。

リメイク版では、その花若の成長した朝末を、田村正和が演じていたが、この作品では島田照夫と言う若い俳優さんが演じているのだが、これまた目元涼しいイケメンである。

市川右太衛門の、終始にこやかで豪放磊落なキャラクターはぴったり合っており、勝新とは又違ったハマり役と言う感じがする。

リメイク版と若干印象が違うように感じるのは、こちらの方がユーモラスに描かれているように感じる事。

かと言って、別にコメディと言う感じでもないのだが、この当時の時代劇は、本当に明るくて面白いものが多いと思う。

ベタベタしたものがないので、今観てもすんなり受け入れられる。

逆に、チャンバラや合戦などアクションを期待すると、そう言うものはほとんど出て来ないので、肩すかしを食うのは本作も同じ。

時代劇が色んな意味で豊かだった時代の佳作だと思う。

ただし、使われている言葉が、本格的な時代劇用語であり、部分的に、意味がわからない言葉もないではない。

一番、理解出来なかったのは、「だまし討ち」の意味らしい「しものにする(?)」と聞こえる言葉。

どういう字を当てるのかすら分からなかった。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1952年、大映、大佛次郎原作 、八尋不二脚本、松田定次監督作品。

慶長2年

黒田長政 領下の豪族 宇都宮鎮房を攻めて大敗す(野を奔る騎馬隊を背景にテロップ)

戦いに疲弊した家臣たちが座り込む中、黒田甲斐守長政 (月形龍之介)も屋敷の中で悄然と座り込んでいた。

そこに、後藤又兵衛討ち死にの知らせが届く。

何!又兵衛を死なせてか?又兵衛をか…と長政 は驚く。

庄治丸の昔より、父上の元に兄弟同様に育てられ、俺が西がと呼び合うて来た基次…、父上が何と思われよう…、えい、基次が羨ましいわ!と言うと、小刀を抜き、その場で自らの髷を切ってしまう。

周囲にいた家来たちはそれを観て、殿!何となさる!と驚くが、討ち負け、又兵衛までも討ち死にさせ、父上に顔を合わされようか!せめてもの申し訳じゃ!と長政は言う。

それを聞いた家来たちも、次々に自らの髷を切って行く。

そこに戻って来たのが、今死んだと聞かされたばかりの後藤又兵衛基次(市川右太衛門)で、又兵衛!そち!と喜び驚く長政に、これは何の真似でござると、周囲の家来たちの頭を観て基嗣は聞く。

大殿への申し訳じゃ!お前も殿に習え!と家来の1人が言うと、又兵衛は急に笑い出し、これは異な事を承る。勝こともあれば負けることもあるのが戦でござる。戦に負けるたびに髪を切っていては、毛の伸びる暇はござるまいと嘲るように言うので、長政はむっとして、何と!と気色ばむ。

しかし、又兵衛は平然として、殿!夜討ちをおかけなされ!今夜こそ、今夜の敵は勝ち誇って油断をしておりますぞ、この気を逃がしてはなりませぬ…と言い出す。

手負いが何をほざく…と長政はバカにするが、否、八幡!この機を逃す事はならぬ。夜討ちをかければ、敵の一つや二つ…、ご決断を!と又兵衛は迫る。

しかし長政は決断をせぬので、今夜を見送っては、縁代懲りず、同じ事を繰り返すことになりますぞ!と又兵衛は焦れる。

え〜い、聞かぬ気の奴め…と怒った長政は、その深手で動けるか?と又兵衛に聞く。

大将が動けば、又兵衛は動く!このお供はきっとつかまつる!動くなもうされても動いてみせます!と又兵衛は愉快そうに答える。

強情な奴め…と長政は呆れ、ならん!明日の事にいたす。そちも傷の手当をせいと、しつこく迫る又兵衛に言い聞かす。

いや、明日ではすでに…と又兵衛は反対しようとするが、長政は、ええい!皆も疲れておる。手負いも多い。その上の無理はならぬ!と聞かない。

無理と仰せられるか?勝つ戦、動かぬ戦いをお捨てなさるか?何ほど味方は手負えておれど…と又兵衛がしつこいので、黙れ!とさすがに長政は制する。

否、お返事一つで、動かぬものが動く!これが大将の御器量でござるぞ!とまで又兵衛は言うので、又兵衛、俺に器量なしというか!と長政が立腹すると、御器量あればこそお頼み申す!と又兵衛は引かぬ。

さすがに、廻りで聞いていた家来たちも又兵衛を諌め、長政はそちの指図は受けぬ!と厳しく言い聞かす。

すると、さすがに真顔になった又兵衛だったが、何かを思いついたように立上がると、槍を杖代わりに1人で出かけて行く。

すると、心得たとばかりに馬番馬蔵(南部彰三)が馬を差し出し、又兵衛はその馬に股がったので、周囲にいた家来たちも、その又兵衛に続けとばかり、めいめい馬に股がると後に付いて行く。

南へ向かわれましたぞ〜!との呼び声を聞いた長政は、ええい、強情な奴め!と憤慨しながらも、夜討ちじゃ!と言いながら立上がる。

これには、家来一同も、おお!とかけ声をかけ立上がるしかなかった。

形勢一転 破れた宇都宮は 嫡子花若と妹鶴姫を人質として和を乞う(のテロップ)

駕篭に乗せられやって来た花若(澤村マサヒコ=津川雅彦)と鶴姫(中村芳子)を迎える又兵衛。

間宮殿に紐を付ける事を念願といたしておった。心残りの事でござると又兵衛が言うと、御姓名は?と鶴姫が聞いて来たので、後藤又兵衛基次と申すと答える。

折あらば兄鎮房に申し伝えまするでございましょうと鶴姫は講ずる。

否、人質くらいでは安堵いたされぬ。この野望の前には肉親兄弟でも見殺しにするが当節の習いじゃ。所詮、災いの根を絶たねば埒があかん。と申して、宇都宮を討つには、所詮下のにかけるしかないと思うが…、下の?して、下野の役は?などと、黒田の屋敷内では家臣たちが相談し合っていた。

結果、呼びだされたのは又兵衛であった。

宇都宮をうぬの槍でやれ!干物じゃ!俺が会うて、何気のう話しをする。酒くらいは出して馳走しよう…と長政が計略を打ち明けると、聞いていた又兵衛は、ご免被りますと返答する。

何故じゃ?と問われた又兵衛は、手前には難儀でござる。他の者に仰せ下さいと言う。

又兵衛!主命じゃぞ!と長政が言うと、これははなはだお眼鏡違い。この役目不向きでござる!と何としても又兵衛は言うことを聞かぬ。

しかし、長政は、すでに宇都宮には呼び出しをかけたわ!この命、きっと申し付ける!と言うが、嫌です!お断り申す!ご容赦下さい!お頼み申す!と又兵衛も引かなず、さっさと立上がり部屋を出て行ったので、家臣たちは、無礼であろう!と叱責するが又兵衛は聞かない。

そこに、宇都宮鎮房が参上いたしましたと言う知らせが長政の元に届く。

各人馬に乗り、総勢100人、大門口に差し掛かっておりますと言うではないか。

宇都宮鎮房、黒田の殿にお目通り申す!と馬から降りた鎮房(羅門光三郎)は堂々と言う。

屋敷内に入った鎮房が手にした太刀を、何とか受け取ろうと家来たちが声をかけるが、鎮房は聞かない。

しかも、100人からの鎮房の家来たちは、門を入った所で馬から降り、その場で警戒なくこちらの様子をうかがっているではないか。

叔母様、!お父上がおこしでございますか?とまだ幼い花若が聞く。

花若!しかと覚えておりまするか?人質の身の覚悟のほどはかねて申し聞かせた通り、良いか、取り乱してはなりませぬぞと鶴姫は花若に言い聞かす。

そこに、黒田家の女人たちがやって来て、神妙になさいませと2人に言い聞かすと、その場で紐で縛り、そのまま奥へと連れて行く。

そんな中、庭先をやって来た又兵衛の馬番馬蔵は、旦那様!首尾よく手柄をお立てなされ!と言いながら、又兵衛に槍を差し出す。

しかし、又兵衛は、たわけめ!と叱りつけ、馬蔵を追い払う。

馬蔵は不満そうな顔つきで、槍を欄干に立てかけて去って行く。

残った又兵衛は、膨れっ面をしながらも、そっとその槍に眼を落とす。

門内では、宇都宮の家臣たちと黒田家の家臣たちがにらみ合いを続けていた。

長政は、予定通り、鎮房に酒を出していた。

大きな盃にこぼれるほど、なみなみと注がれる酒。

鎮房がその盃に口をつけると、長政は、肴はどうした!と叫ぶ。

そこに運ばれて来た鯛を置いたお膳を、鎮房の頭に打ち付ける家臣。

鎮房は額から出血しながら立上がるが、そこに長政がいきなり刀を抜いて迫る。

鎮房は、黒田家の家臣に囲まれた事を知ると、もっていた太刀を抜き、鞘を投げ捨てると、にやりと笑う。

その気迫に押された長政は後ずさる。

そんな騒ぎを知った又兵衛は、むんずと槍を握る。

じりじりと長政に迫る鎮房。

耐えきれず、自ら飛びかかって行った長政の刀をかわした鎮房だったが、そこに槍を突きだして、主君を守ろうとしたのが又兵衛であった。

後藤又兵衛基次、見参!と名乗ると、鎮房も、おお!と答え刀を構え直す。

二度三度互いに剣と槍を交差した直後、又兵衛の槍が鎮房を貫く。

鎮房は、やりよった…と呟き、にやりと笑うと、その場にどうと倒れる。

城の前では、大工たちが仕事を始めていた。

牢に入れられていた鶴姫は、お聞かせ下され!鎮台の者は何としました?鎮の最後を見届けずして山に戻る訳には参りませぬ。お聞かせ下さいませ!と、牢の前にいた牢番(水野浩)に声をかけるが、勇ましく戦われ、一人残らず戦死なさいました。さすが宇都宮の一党と、御家中の方々も舌を巻いておられもうしたと牢番が答えると、鶴姫は、左様でありましたか…、して、兄、鎮房を御仕留めなさないましたはどなら様にござりましたか?お情けでございます。あの世の土産にも、名もなき武士に討たれたとは考えとうございません…と聞く。

後藤又兵衛基次殿、槍を持って向かわれたとうかがっております…と牢番は情に負けて教えてしまう。

後藤…、基次殿…と涙ながらに鶴姫は、その名を繰り返す。

その鶴姫の袖に、しっかりと掴まっていたのは花若だった。

やがて、鶴姫と花若は、駕篭に乗せられ、山の処刑場へと向かう。

大工が作っていた十字架が山の上に立てられる。

処刑場で待ち受けていたのは、槍を持った又兵衛であった。

その顔を観た鶴姫は、思わず、あっと驚く。

今日限り、この又兵衛、黒田の家を退去いたしますと又兵衛が言いだしたので、何と仰せられます!と鶴姫は驚く。

なれど、ご信用下され。我ら武士らしゅう、一騎打ちの勝負をいたしてござる…と又兵衛は言う。

それを聞いて、静かに頷く鶴姫。

そんな姫に、さらば!と言い残し、馬に乗った又兵衛は、堅固でおわせ!と声をかけ、走り去って行く。

それを見送る鶴姫に、又兵衛、こたびの功名に代え、御身たちの命乞いをなされたのですよと家来が教えたので、鶴姫は驚く。

その頃、長政は、又兵衛が退去したと聞き驚いていた。

察する所、宇都宮下野の事、たって申し付けられしこと、根に持っての事かと…家来は浅薄な意見を言う。

しかし、それを真に受けた長政は、おのれ〜…、不埒者め!と激怒すると、蒲地弥惣(横山文彦)と掘五郎太(藤川準)を呼び寄せる。

汝ら両名力を合わせ、又兵衛の首必ず討って参れ!と長政は、やって来た2人に命じる。

早速、2人は又兵衛を追って旅立つ。

その頃、馬を歩かせていた又兵衛を追って来たのは馬蔵で、馬に近づくと土下座して、お側に置いてくれ!と頼む。

しかし又兵衛は、退去する身故、側には誰一人置かぬ!と叱る。

それでも馬蔵は、話はお聞きしましたが、我らは別にござります!と申し出る。

それを聞いた又兵衛は、もう何も言い返すことができず、同行を許す事にする。

2人が進み始めると、又、殿〜!と呼びかけながら追って来た者がいる。

又しても、お願い申す!と土下座して乞うて来たので、つい笑顔になりかけた又兵衛だったが、すぐに真顔になり、帰れ!と叱りつける。

しかし、我が儀は別にござると馬蔵と同じようなことを言うので、仕方なく連れて行く事にする。

やがて、又1人、殿〜!と呼びかけながら近づいて来る。

御供つかまつる!と又しても同じようなことを言う。

その後も、長者丸弥八(小池柳星)が付けて来たので、弥八!己、女房子供は何とした?と馬上から又兵衛が睨みつけると、倅も女房も置いて来たと言う。

コ○キ同然の又兵衛、付いて来ても良いが、腹が減るぜよと又兵衛は念を押すと、は!早速のご承認かたじけのうござる!一同に成り代わり、弥八、御礼を申し上げますと喜んだ弥惣、背後の方に呼びかける。

すると、旅支度をして物陰に隠れていた6〜7人の家来たちが、嬉しそうに、殿!と言いながらやって来るではないか。

それを観た又兵衛は、笑顔が真顔になる。

後藤又兵衛御宿と書かれた旅籠の前で、中の様子をうかがっていたのは、追って来た夜須平四郎と掘五郎太だったが、そこに来客らしき馬が近づいて来たので、思わず身を隠す。

馬から降り立った左衛門太夫家来福島丹波(香川良介)は、後藤殿に御意得たいと宿の中に声をかける。

主人正則には、貴殿をお招き存じたき所存でござる。曲げて、ご承認お願い申すと、又兵衛に対面した丹波は挨拶をする。

せっかくのご厚志ながら、手前、いささか禄に望みがござってな…と又兵衛が言うと、ごもっとも、ご所望の高はいかほどでござろうか?と丹波が聞くと、又兵衛、いささか家来どもを召使いおりますれば、かの者に、300石ほど頂きとうございますと言うので、丹波は、ほほう…、貴殿の御家来には禄高の上下はござらんのか?と驚く。

現在、コジキ同様の又兵衛、志に上下はござりませぬから…と答えるので、御家来衆はともかく、御貴殿は?と丹波が聞くと、又兵衛は笑いながら、手前は無禄で結構でござると又兵衛は答える。

無禄…、無禄で何とする?と丹波が唖然とすると、家来どもに順繰りに厄介になりますと又兵衛は言うではないか。

家来どもさえ、助けに困らなければ、手前、一向に苦しゅうござらぬと又兵衛は笑う。

その言葉を離れで聞いていた家来たちは、感激して泣き出す。

家来10人として3000石、15人とした所で4500…、それで後藤殿を雇えれば、とんだ儲け物じゃ…と丹波は喜んで宿を出る。

そこに、又兵衛家来、朝倉嘉兵衛(津島慶一郎)でござる!夜須平四郎(荒木忍)でござる!拙者、長者丸弥八!拙者、篠隈助之丞(興津光)、又兵衛家来馬蔵でございます。同じく渡辺天膳!松田伝八、山本伝六、中本玄蕃…と注ぐ次に名乗りを上げて出て来た家来を数えていた丹波は、次第にあまりの数の多さにあっけにとられる。

そんな中、刺客2人が宿の庭先に降り立つ。

丹波の家来は、とうとう、又兵衛の家来が100人を超えたと使える。

何?100?ならば3万…、3万石か!と丹波は驚く。

座敷で庭に背を向け横になっていた又兵衛に近づく刺客2人。

その時、ムクリと起き上がった又兵衛、2人の刺客を観て、おお、弥惣に五郎太ではないか!懐かしいの〜と嬉しそうに呼びかける。

しかし、2人が、後藤殿、御意じゃ!覚悟!と言い、身構えると、又兵衛を討つというか?ならば討て!と言いざま立上がって、そのまま雪駄を履いて庭に出て来る。

2人は刀に手をかけながらも、相手の気迫に飲まれ、抜くことができない。

結局、長政の元に戻って来た2人は、又兵衛を観ながら、討ちざれし不覚…。その場で腹切らねどと存じたれど、この儀お知らせつかまらずんば、いまだ役目相済まぬと存知、かくはおめおめと立ち返ってござる。御報通りのお仕置き、願わしゅう存じます!と詫びていた。

そんな2人の話を聞いていた長老は、未練ものめが!使命を恥ずかしむる者とはそなたたちの事だ!何故、その場で又兵衛と刺し違えをいたさぬ!えい!目通り敵わぬ!下がれ!とは2人を叱りつけるが、これは与の誤りだったわい!又兵衛ほどの男を討たせんとした与の不覚じゃ…と長政は、笑いながら長老を止める。

良い良い、爺、この両名にに本日より、100石ずつ加増を遣わしてやれと言いつける。

それを聞いた爺は唖然とし、弥惣と五郎太も、驚いて平伏するだけだった。

時は流れる(のテロップ)

青空の雲

川の流れ

又兵衛と100人を越す家来たちは旅を続けていた。

野宿をしていた又兵衛は、湯の準備をしていた馬蔵に、風流だな…と笑いかけると、馬蔵は、風流と言うものはひもじいものでございまするなと答える。

又兵衛は、腰に下げていたひょうたんを手に取り、中身が入ってないかと振ってみるが、何も入ってはいなかったので、どれ、松風の音でも聞こうか…と笑いながら、ひょうたんを枕に横になる。

そこに、鎧を売った金で買って来た鶏を下げた家来が嬉しそうに帰って来る。

他の家来たちも、川で釣った鯉を持って来たり、野菜を持って駆けつけて来る。

これは何ごとじゃ!と、大量の食料を前に家来たちに尋ねた又兵衛は、殿!執着に存じます!と言われたので、何の事だ?と戸惑うと、御失念でござるか?本日は、殿の御誕生日にございまするぞと家来が言うではないか。

おお、左様であったか…と又兵衛は喜び、して、これらの品々は如何致した?と聞くと、百姓衆の手伝いをいたし、使用賃としてもろうたのでございますと言う。

早速料理が始められ、そこに、鎧を売って酒樽を抱えて来た者がおり、どうせ戦場に出れば、鎧は向うさんの貰えば良かたいなどと仲間と笑い合う。

その後、河原で家来たちが円陣になった中、槍を使い、「黒田節」を舞ってみせる又兵衛。

その頃、成人した花若こと宇都宮朝末(島田照夫)が泣き始めたのを観た鶴姫は、童のように別れを嘆いて何とするぞと叱っていた。

すると、朝末は、叔母上!別れが辛くて泣くのではござりませぬ。叔母上が、緑の黒髪を降ろされるのかと思うと…、お労しゅう、心が痛むのでござりまする…と言う。

朝末は吉岡とのの家で腕を磨き、必ず、父上のお恨みをお晴らし申し上げます!そして…、そしてきっと…、宇都宮の家名を世に出して見せますと約束する。

宇都宮一族に生き残れるは、天にも地にも我ら二人…、一瞥の後は随分体に気をつけますよう…と鶴姫が言うと、朝末も、叔母上にも、お身体をお厭い下さいませ…と再び泣き崩れる

2人は翌朝、揃って渡し場に来る。

すると、大勢の男たちが、1人の大将のような侍を神輿のような輿に乗せ、自分たちはわっしょい!わっしょい!と囃しながら、裸になって川を渡っている姿を見かける。

又兵衛とその家来たちだった。

河原で唖然と観ていた鶴姫と朝末は、周囲の町人たちが、あれは黒田の後藤か、後藤の黒田かと言われた豪傑だそうですな…などと噂話をしているのを聞き、その正体を知る。

思わず、後を追おうとした朝末だったが、それを鶴姫が止める。

それでも、その手を振り払って川縁まで走り寄った朝末は、刀に手を掛け、歯を食いしばりながら、遠ざかって行く宿敵の姿を眼に焼き付けるのだった。

慶長19年

江戸城

秀頼公、お招きの浪人共、もはやおびただしい数に及んだとの事にございます。諸国に名のある浪人は、ほとんど大阪に馳せ参ずる始末にございますと報告を受けていた徳川家康(藤野秀夫)は、浪人共じゃと?誰じゃ?と聞く。

まぜ、真田に長宗我部、後藤などでござりましょうと家臣の答えを聞いた家康は、後藤…、又兵衛か?と聞き返す。

そこにやって来たのが、黒田長政だった。

甲州!良い所へ見えた!と喜んだ家康は、又兵衛がの…、秀頼の味方とはの…、どうあろうの?どうじゃ?又兵衛、どれほどの男かの?と話しかける。

又兵衛1人大阪に入城いたさば、1年で落ちる城も、2年はかかりましょう。まず、当時、浪人共の中では屈強の人物にござりますと長政は答える。

又兵衛と昵懇の者はござるまいか?と家康の家臣が聞く。

左様…、堤西堂と申す禅僧がいまだに懇意にいたしておる由…と長政は答える。

山の上から、続々と街道を通る浪人たちの姿を見下ろしながら、アリの行列ではないか!と愉快そうに笑う又兵衛の家来。

いよいよ、関東、関西戦いでございましょうか?と馬蔵が聞くと、大分、雲行きが早くなったようじゃ…と言うのを聞いた馬蔵は、皆さん、この合図をお待ちでございましょうと狼煙用の薪を組み立てながら聞くと、一日千秋の思いで待っているんだ。馬蔵、合図の狼煙は威勢良く上げてくれよと家来も浮き浮きした様子で答える。

殿は?と馬蔵が聞くと、当にお越しじゃ。今日は宇都宮殿のあの日ではないか。近くに寺があると言うことで、そこに参られたのであろうて…と家来は言う。

宇都宮殿の…、そうか…、十七回忌であったか…と馬蔵は思い出す。

寺に、頼もう!と訪れたのは又兵衛だったが、それを出迎えた尼僧は鶴姫だった。

互いに顔を思い出し驚く。

17年の歳月は夢のようでござります…と、座敷に又兵衛を招き入れた鶴姫が言うと、お変わりなされたのう…と相対した又兵衛も嘆息する。

あなた様も…と鶴姫も又兵衛の風貌の変化を言う。

花若殿はいかがなされた?と又兵衛が思い出すと、都の吉岡殿に身を寄せ、兵法を励みおりますと鶴姫は教える。

左様でござったか…と又兵衛が安堵すると、で、今のお住まいは?と鶴姫が聞く。

決まった住まいとてござらぬ。とんだコ○キの境涯にござる…とおどけたように答え、又兵衛、今の世に、用ない男になりもうしたと笑う。

左様ではござりますまい…、世はただならぬ雲行きと我ら世捨て人さえ承知いたしております。今日、後藤殿ほどの大将を、江戸表にても大阪にても捨ておく通りはござりますまいと鶴姫は言う。

よしなに頼みいる。秀頼様、待ちかねてあらせられると大阪よりの使者から聞いた家来は、伝えおきましょうと答える。

寺から出て来た又兵衛とすれ違い、怪訝そうに帰る又兵衛を振り返って観たのは、鶴姫を訪ねて来た朝末だった。

叔母上には、ご健勝にて何よりでござりまする…と鶴姫と再開し挨拶する朝末。

持参した花を鶴姫に渡した朝末は、思い出したかのように、叔母上、今のコ○キ浪人は?と聞く。

おお、会われたか…、後藤殿じゃと鶴姫が教えると、後藤?又兵衛でござるか!と朝末は驚く。

静かに頷いた鶴姫は、追いかけようとする朝末に、待ちや!と止めると、どこへ参られる?と聞く。

知れた事、父上の仇!、本日巡り会うたは、御仏のお導きでございます!ごめん!と朝末は言って、帰ろうとする。

朝末、そなた、まだそのような事を…と止める鶴姫に、艱難辛苦、叔母上は、亡き父上のご無念をお忘れになりましたか?と朝末は逆に聞いて来る。

忘れはいたしませぬ。基次殿を仇と狙うは筋ではありますまい…と鶴姫は言う。

しかし、納得出来ない朝末は外へ駆け出して行くが、もはや又兵衛の姿はなかった。

又兵衛が家来たちの元へ戻ると、そこには立派な駕篭が置いてあった。

殿、お客様でございますと言う。

掘ったて小屋の中で寝て待っていたのは、旧知の堤西堂(見明凡太朗)であった。

佐渡に頼まれてのう…と堤西堂は切り出す。

本多佐渡守殿か?と又兵衛が聞くと、左様と言う。

そんな掘ったて小屋にやって来たのは鶴姫だった。

小屋の中では、昨日まではコ○キの大将が今日は日本一の果報者じゃと、おびただしい引き出物を前に堤西堂が愉快そうに話していた。

しかも、姫路10万石までくれると言う。

のう堤西堂…、わしは日の出じゃ。草木もなびく勢い…。日本中の大名1人として関東になびき従わぬ者はないわ…。西は、あれじゃ…、日は傾く…と言いながら外を見やった又兵衛は、和尚!基次は西へ参る!と言い出す。

日本中の大名を相手にするか?と堤西堂が聞くと、日本中の大名を引き受けて戦うも大丈夫の本懐、この上なき死に場所ではあるまいか?和尚!如何?と愉快そうに又兵衛は言う。

それを聞いた堤西堂も愉快そうに笑い出す。

さてさて…、侍と言うものは、贅沢な死に場所を選びたがるものじゃのう…と堤西堂は言い、2人は互いに笑い合う。

それを小屋の外でじっと聞いている鶴姫。

さて和尚、改めて頼みがある…と言い出した又兵衛、手前、世にある頃、宇都宮殿を下のにかけるはめになり、宇都宮家は滅亡いたしたが、聞けば、鎮房が忘れ形見がいる。京の吉岡方に修行まかりある由。会われ願わくば和尚、御昵懇の大名に、右の者、御取り立ての事、推挙してはくれまいか?

いと易き事じゃ。堤西堂、確かに引き受けもうしたと和尚が快諾するのを、外で聞いている鶴姫。

ご承引かたじけない!と嬉しそうに頭を下げる又兵衛。

これにて宇都宮の再興もなり、手前、十有余年、心にかかりし雲が晴れもうした!と又兵衛は喜ぶ。

又兵衛の愉快そうな笑い声を、外でじっと聞いている鶴姫。

大阪冬の陣

入城の時は来た(とテロップ)

山にこだまするホラ貝の音

又兵衛の家来たちは、時は来足りぬと、全員、古道具屋に預けてあった鎧櫃を背負い、槍を持って、又兵衛の元に駈け参じる。

そんな中、士官がなり、鎧姿も誇らし気に、朝末が鶴姫を訪ねて来る。

おお、朝末、その姿は?と出迎えた鶴姫に、叔母上、いよいよ宇都宮家再興の季節到来であります。某、桜殿のお招きに預かってでござりまする!と自慢げに報告する朝末。

何?所司代殿の?と驚く鶴姫。

はい!一陽来復の春来るでございます。某、関東のご信望を受け、華々しき功名を立て、家名を上げる所存でござりまする!と張り切る朝末。

それを聞いて喜ぶ鶴姫と朝末は手を取り合う。

そこへ、姫!と呼びかけながらやって来たのが、馬蔵を従え、鎧姿になった又兵衛であった。

姫!ここにござったか!又兵衛、お暇乞いに参った!と挨拶すると、おお、貴殿は!と驚く朝末。

良う、忘れはいたすまい。某こそ、宇都宮鎮房の忘れ形見、幼名は花若と言い、宇都宮朝末なるわ!と叫ぶと抜刀する。

おお!と喜んだ又兵衛だったが、朝末の家来たちに取り囲まれた事に気づくと緊張する。

その時、控えませ!と鶴姫が止める。

叔母上!といきり立つ朝末に、朝末!戦場にて討ち討たるることも武士の習い。ここは基次殿を討ち立て祀る場合ではありませんと言い聞かせると、若年もの慮外なる振る舞いご容赦下さりませと又兵衛に詫びる。

何の…、勇ましき若武者になられもうしたわ…と朝末の事を褒める。

恐れ入ります…と礼を述べた鶴姫は、つきましては、御出陣のはなむけに…というと、自ら保管しておいた鎮房の兜を差し出す。

この兜を又兵衛に?と驚く又兵衛。

御受納下さりませと頼む鶴姫。

かたじけなきはなむけ…とそれを受け取った又兵衛は感激する。

ならば宇都宮殿の武勇にあやかり、頂戴いたすでござろう!と押し頂くと、朝末殿!御身とは再び敵味方と会い別れ、戦場にて相まみえるときが参った!お忘れあるな!戦場にてこの兜を目印に!良いか!この兜を目印に…、必ず又兵衛が首とって、手柄にされよ!と言う。

兜を目印に…と朝末は呟くと、おう!心得てござる!と返答する。

うん、さらば!さらば!と言うと、又兵衛は兜をかぶる。

戦が始まり、兜をかぶった又兵衛が馬に股がり突き進んで行く。


 

 

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