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暴れん坊兄弟

山本周五郎原作の明朗時代劇

「新諸国物語」の頃からの名コンビ中村錦之助、東千代之介が共演している作品ながら、この映画では、錦之助はゲスト的に登場するだけで、千代之介の弟役としてメインとなっているのは、錦之助の実弟中村賀津雄(=中村嘉葎雄)の方である。

実兄の錦之助が、実弟の中村賀津雄に、兄弟仲良くなどと説いているところが面白い趣向になっている。

内容は、何やら「椿三十郎」にも通ずる青年たちと腐敗した上役との対立に、奇妙な性格の兄弟が巻き込まれると言う展開になっている。

地方は純朴で善良なイメージとは裏腹に、実は政治的には汚れまくっていると言う設定も今に通じる部分があり、興味深い。

東千代之介が、見た目通りの気取ったイケメン剣士ではなく、どこかとぼけた情けない侍を演じているのが面白いし、酒好きで、その気になると大暴れするなどと言う辺りの豪快さは、ご本人の性格に近いのかも知れない。

中村賀津雄演じる弟泰三も、マンガチックに誇張されたキャラなのだが、本人の若さもあり、笑えるキャラクターになっている。

進藤英太郎が、何だか、大久保彦左衛門のイメージに似たご意見番を演じているのも、山形勲や原健策、沢村宗之助らが、いかにもな悪役を楽しそうに演じているのも嬉しい。

女性キャラたちも、現代風と言うか、明るく活発に描かれており、通俗娯楽時代劇の見本のような展開である。

そんな中、印象に強く残るのは、妻に先立たれ、子だくさんなために生活に追われ、悪事に誘われても断れない小役人を演じている田中春男のうらぶれた姿だ。

同じように、お人好しそうな性格を利用され、無惨な最期を遂げる小役人たちの姿も哀しい。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1960年、東映、山本周五郎「思い違い物語」原作、鷹沢和善脚色、沢島正継監督作品。

「青年隊」の歌と、お城のイラストを背景にタイトルとスタッフ、キャストロール

鯉のぼりが上がっている江戸の町

そんな屋根の後にある物干し台にカメラが寄ると、昼間から大の字になって寝ている典木泰助(東千代之介)の姿が見える。

皆さん、どうです?この男振り…

美男で腕が立って…

ところがこれが思い違い。

城中では、昼行灯、石仏、あげくの果てに大バカ侍などと言われているんです。

この男の名前?

典木泰助(のりきたいすけ)、たった一人の兄なんです。(と、スクリーンの方に目を向けながら、兄、典木泰助の横に姿を表した弟の典木泰三が話す)

典木泰三(中村嘉葎雄)は、寝ていた兄を揺り起こし、兄さん!殿のお召しなんです。起きて下さい。殿直々に声をかけられるんなんて、これこそ絶好の出世の機会じゃないですか!と呼びかけるが、俺には昼寝の方がありがたいよと言った泰助は、そのまま寝続けようとする。

しかし、そんなめぼけ眼の泰助に羽織を着せ、何とか松平長門守の屋敷まで背中を押して連れて行った泰三は、門から中に兄を無理矢理押し込む。

屋敷内の庭では、松平長門守知宣(中村錦之助=萬屋錦之介)が、呼び寄せた家来たち相手に剣術の稽古をしていたので、泰助は、これがお呼出しか…、あいつの兄思いにも恐れ入る…と弟泰三のそそっかしさに呆れる。

知宣の腕は確かで敵うものはいなかったが、そうした中、他の家来たち同様居並んで出番を待っていた泰助に参れ!と声をかけるが、相手が正座したまま眠りこけているのに気くと、笑って自ら泰助に近づくと、竹刀で押して目覚めさせる。

参ったか?参ったと言え!とからかいながら知宣が攻めると、突然、わ~っ!と大声を出した泰助は、やけになったように斬り掛かって行くが、そのまま知宣の竹刀の勢いに押され、背後にあった池の中に背中から落ちてしまう。

それを観て笑う知宣。

その後、稽古が終わった後、泰助だけが屋敷に残され、知宣と差し向かいで酒をよばれることになる。

泰助は酒には目がなかったので、喜んで付き合うが、着替えた泰助に、風邪を引くなよと優しくねぎらった知宣は、余はそちを観ていると、死んだお前の親爺茂平のことを思い出してならん…、頑固でせっかちな爺であった…と感慨深気に言う。

私にとっては怖い父でありましたが、私を沈着で大らかな人間に育てようとしておりましたと泰助は答える。

知宣が、弟の泰三の粗忽さは爺そっくりだな…と苦笑すると、父も弟までは努力が及ばなかったようです…と泰助も鷹揚に笑い返す。

兄弟揃って、知宣の良く知る相手だった。

その知宣、いきなり、その方、国表へ出立致せ。余の国入り前に、その方に国詰めを命じると言い出したので、さすがに、泰助も唖然とし、殿がお国入りするのなら、私も一緒にお供して参りたいですと申し出るが、知宣は、余の目に狂いはない!御主1人じゃと言うだけだった。

拙者、家中でも評判の昼行灯…と、泰助は自分が向いてないことを主張するが、近う寄れ!と知宣は、そんな泰助を側に呼び寄せる。

その後、知宣の国元にある若葉城内では、ご意見番山治右衛門(進藤英太郎)が、近々、自分の元親友の倅、典木泰助なる人物が、殿の命を受けこちらへやって来る。殿のお眼鏡にかなうような相手だけに武芸百般!さぞ立派な人物だと思われるので、皆見習うようにと、持病の喘息で咳き込みながらながらも、青年隊の連中を前に言い渡していた。

しかし、血気盛んな青年隊の頭、金吾六平太(加賀邦男)は、そんな上役からの指示を面白く思わず、右衛門が立ち去ると、ふん、喘息持ちが!と憎まれ口を叩き、一緒におとなしく聞いていた他の青年隊の連中には、青年隊の意気を見せてやろうじゃないか!と檄を飛ばす。

一方、勘定方の部屋に来た山治右衛門は、典木泰助と言う人物、計数に明るい人物だそうじゃから、くれぐれも書き間違いなどを見破られぬよう注意されい!と、同じように釘を刺して去って行ったので、勘定方の面々は顔をしかめる。

そんな典木泰助の噂を聞いた城代稲葉兵部(山形勲)は、井上図書(原健策)や安藤伊十郎(沢村宗之助)と3人になると、一体、殿から何を言われてやって来るのだろう?と相談し合っていた。

おそらく幕政視察であろう…と言うのが彼ら上役たちの読みだった。

山治右衛門も、泰助と言う人物は藩の情勢の見極めに来るのであろう。そう言う人物が来ないと幕政の改革はならんからな…と独り合点していた。

普請奉行所の下役人新井新助(星十郎)と角丸平左衛門(阿部九洲男)も、やがて来ると言う泰助の素性をの推測を話し合っていた。

新井は、上役へのおべっかばかりを言う口先人間だったし、槍一筋32年と言う武芸を持つ角丸も、平和な時代では何の役にも立っていなかった。

そこにやって来たのが、普請奉行の上役安藤伊十郎だったので、すぐさま新井は、自分が飲みかけていた湯飲みを差し出し、お茶を!と勧めるが、新井のおべっかを知り抜いている安藤は、叱りつけて逃げて行く。

同じく部署に戻って来た奉行井上図書に、江戸に発覚したら大変なことになります。これ以上の不正はお止め下さい。私にはもう不正の帳簿をつけられません。家には10人の子供がいるのです!と泣きついていたのは、記録係の下島孝之進(田中春男)だった。

城から帰る山治右衛門は、城中くまなく宣伝しておいた。しかし、泰助なる人物どんな男なのか?顔を見たことがない…と呟いていた。

国表がそんな騒ぎになっているとも知らず、1人で国入りして来た泰助は、世話焼きの泰三がいないのに、俺は何をしたら良いんだろう?とぼやきながら荷物を担いで歩いていた。

そんな泰助に、お侍さん!若葉のお城に行くんでしょう?みんな噂してるわよ。乗って行かない?と声をかけて来たのは、側の川に浮かんだ小舟に乗っていた娘だった。

ありがとう!と喜んだ泰助は、早速その小舟に乗せてもらうことにするが、小さな橋をくぐり抜けたとき、待ち構えていたらしき覆面姿の男たちが、橋の上から小舟に飛び移って来たので、バランスを失った泰助は、又三川の中に落ちてしまう。

良く観ずに落ちるな~、我ながら感心する…などとぼやいていた泰助だったが、覆面の一団が刀を抜いて襲いかかって来たので、人違いではないのか?と聞くが、どうやら泰助と知っての襲撃のようなので、持っていた土産を包んだ風呂敷を振り回し、川の中でメチャクチャに応戦するしかなかった。

船からその様子を見た娘は、止めて!と叫ぶが、その時、橋にやって来た井上図書が、ばか者!、江戸からの客に何故の無礼!捨て置かんぞ!と覆面の連中に怒鳴りつけるたので、賊たちは退散して行く。

一方、泰助の身を案じて、川岸に残ろうとした娘を、船の船頭をやっていた父親が、こっちへ来い!と叱りつけ、その場から連れて行こうとしていた。

そんな父親に、どうしたって言うの?お金をもらったというから何も知らず声をかけたのに、これは人殺しの手伝いじゃない!と娘は責める。

その時、父は、遠くから自分たちの方を見守っていた相模屋(高松錦之助)に気づいて思わず立ち止まるが、誰?と娘が聞くと、お前の知ったことじゃない!と叱り、一緒にその場を立ち去る。

川から泰助を助け出し、途中まで同行して来た図書は、あれは城の青年隊だ。そなたへの妬みそねみだろう。何かと言うと不正不義だ!とバカにしたように説明する。

そんな図書に、助けてもらった礼を言い別れた泰助だったが、今の争いで、持って来た土産物を全て川に流してしまったので困っていた。

やがて泰助は、近くの家にあった鶏小屋に目を留める。

夕方、山治右衛門は自宅前の門前に立ち、なかなかやって来ない泰助のことを案じていた。

家の中では、右衛門の長女千賀(大川恵子)が来客を気にして妙に着飾っていることを、次女津留(丘さとみ)がからかい、互いにはしゃいでいた。

そんな娘たちを、母親のみね(岡村文子)が、女は慎みが大事なのよと叱っていると、右衛門が戻って来て、表の気色を観ていただけだなどと言い訳したので、女たちは苦笑する。

そんな中、津留が、お姉様は今日やって来られるお父さまの御親友のご子息を結婚相手と考えています。私にも同じ権利を与えて下さい!などと右衛門に訴え出る。

右衛門が呆れていると、庭先に鶏が走り込んで来て、その後を追って見知らぬ男が侵入して来たので、何者だ!と怒鳴りつける。

男は、土産物を川に落としたので、その代わりとして鶏を買ったのですが、良く暴れる奴でして…などと言うので、名を名乗らんか!と右衛門が叱ると、山名のおじ様ですね?典木泰助です!とその男が言うので、座敷にいた家族全員あっけにとられる。

一方、井上図書から泰助襲撃の話を聞いた稲葉兵部は、巧く言いくるめたな…と苦笑していた。

同席していた安藤伊十郎は、どんなことを殿から言われているのか…と泰助の目的を怪しんでいた。

右衛門の家では、夕食を食べていた泰助が、遠慮も知らず10杯もごはんをお代わりしていたので、姉の千賀はすっかり見とれ、逆に妹の津留の方はバカにし、廊下に姉を呼びだすと、私、さっきの話棄権するわ。私の理想とは遠いんですもの…などと言い出す。

しかし、千賀の方は、うっとりしながら、私にはぴったり!などと答えるのだった。

右衛門は妻みねに、婆さん、気に入ったか?と尋ね、あなたの御親友のご子息ですものと答えたみねの答えに満足そうだった。

あの人物に目をつけられるとは、江戸の殿のご成長がうかがわれる…と、すっかり泰助のことを気に入った右衛門は微笑むのだった。

その頃、江戸の松平長門守知宣は、やって来た泰三が部屋の隅でじっと固まっているので、いつまでそこに座っているのだ?頑固者も良くそこまで爺に似たものだと呆れていた。

泰三も国表へお遣わし下さい!我ら兄弟、共に足らざる所を補い合い、2人力を合わせることで怖いものはございません!などと泰三が訴えて来たので、そちの本心、見抜いていたと思うたが…、兄のことがそれほど心配か?と呆れながらも頷くと、ただちに出立致せ!泰三、行け!と笑顔で命じる。

それを聞いて喜んだ泰三は、急いで帰ろうとして、障子を踏み倒してしまう粗忽さを見せたので、慌てず行け!と背後から知宣は声をかける。

稲葉兵部、井上図書、安藤伊十郎らは、翌朝、右衛門と一緒に登城して来る泰助の様子を城の窓から覗き観ていた。

すると、橋を渡りかけた泰助が、欄干から下の掘りを覗き込んでじっとし始めたので、掘りの深さを測りおる…と兵部は感心する。

しかし、泰助が観ていたのは、掘を泳いでいた鯉で、旨そうな鯉がおりますな…、父は鯉が大好きでしたなどと右衛門に話しかけ、そう言えばそうだったわいと笑われていた。

城に入った泰助は、まず右衛門に連れられ、青年隊の面々に挨拶をすることになる。

泰助は、昨日はお出迎えいただき、ごくろうさまでございましたと皮肉を交え挨拶する。

それを聞いた金吾六平太や青年隊の面々は、泰助が去った後、あいつ…、出迎えなど行かなかったのを皮肉りやがった…と睨みつける。

続いて、下島孝之進や原田孫兵衛の前に連れて行かれた泰助は、面倒なので、青年隊と同じ挨拶を繰り返した後、下島の前に置かれていた書面と相手の顔をじっと見つめる。

泰助は、顔に似合わず巧い字だな…と感心していたのだが、後ろめたさがある下島は、早くも不正を見破られたと怯える。

泰助が去った後、井上図書の元に来た原田孫兵衛は、あいつ、昨日の切込みの礼を言いましたと驚き、下島は、全部見透かされています!私は終わりです。子供が10人もいるのに…!と1人狼狽する。

その噂を図書や安藤ら伝え聞いた稲葉兵部は、顔をしかめ、何か使命あってのことだ…と、泰助の行動に疑心暗鬼になる。

新井新助は、挨拶しに来た泰助にまで世辞を言って来るが、私は忘れっぽいので、又今度会った時に行ってくれと泰助が返事をしたので唖然とする。

角丸平左衛門は、戦さえあればわしもお役に立てるのに…、毎日材木の勘定ばかり…と愚痴をこぼすばかり。

そんな泰助の元にやって来た青年隊の使いが、歓迎会を開くので、暮れ六ツ、千条河原に来てくれと言う。

千条河原に行ってみると、大きな松明を焚いた周囲に集まった青年たちが、大太鼓に合わせ「青年隊の歌」を歌い出したので、泰助はあっけにとられて見守るばかり。

歌い終わった金吾六平太が進み出て、国元の青年隊の意気を観たか!今日の貴様の挨拶は何だ!生意気言うな!国の挨拶を見せてやる!と言うと、いきなり泰助に殴り掛かって来る。

泰助は驚き、静かに話しましょう!私の話も聞いて下さい!と声をかけ、昨日、私は斬り込まれたのですと事情を説明する。

それを聞いた六平太は、さては、誰かにたくまれたな?おそらく勘定奉行の井上図書だろう。汚職の中心人物だと教える。

それを聞いた泰助が、それが分かっていて何故幕政を正さないのです?と聞くと、我々微禄の者が反抗すればたちまち浪人だなどと青年隊が言うので、だから黙っているのですか?と問いかけると、その方の使命はそこにあると読んだ。その方は我らの希望だ!などと急におべっかを使って来たので、難しいことはできませんが、図書に何かあったら相談に来いと言われたんですと泰助が答えると、何!といきり立った青年隊から、ボコボコに殴り倒されてしまう。

翌朝、河原で気絶していた泰助を助け起こしたのは、一昨日、小舟に誘った娘だった。

死んだのかと思った…と、起き上がった泰助を観た娘は喜ぶが、もうちょっと強いのかと思ったと言うので、反抗してもしようがない。あの連中は、ああでもしないと収まらなかったのだろう…と泰助は、青年隊に殴られたことを恨もうとはしなかった。

私、お春(花園ひろみ)と言うの、お父っつあん、お金をもらって、あんたを呼んだのよ。

お父っつあん、山の木こりをしているの。

最近、御領林がすっかり切り開かれている。私たち百姓は、山の木がないから、洪水ばかり起こって困るのよ。

昨日のこと頼んだのも、山のお役人らしいわよ…とお春が打ち明けていると、いきなり、泰助に襲いかかって来たものがあったので、どうしてこう狙われるのだろう?教えて下さい!と、抵抗しながら、短刀を持った相手に聞く。

すると、襲って来た下島孝之進は、私を見逃して下さい!私には10人の子供がいるのです!お役御免にでもなれば、家は破滅です!その時は…などと言うので、訳が分からない泰助は、私は廻りが鈍いので、遠回しに言わず、はっきり言って下さいと頼む。

昨日、何故、私を観たんです!と下島が言うので、字が巧いなと思ったんですと泰助は教えるが、その直後、大変なことを忘れてた!と叫ぶと、近くにあった神社の手水舎の水を桶に汲み、さっき倒れていた場所へ走り出したので、側で観ていたお春も、何ごとかと後に付いて行く。

泰助は、持って来た水を、くすぶっていた松明の焼跡にかけ、火を消し止めると、ああ良かった!火事にならずにすんだ!と安堵したので、それを観たお春は、呆れながらも、泰助の人柄に惚れ、微笑むのだった。

ある日、泰助は、角丸平左衛門や新井新助と一緒に、御領林伐採現場の側にある山小屋に出張に来ていた。

千賀に作ってもらった握り飯を食いながら、山道を何気なく眺めていた。

泰助は、あのたくさんの木を城の普請に使うのですか?見張りはしなくて良いのですか?などと、山小屋の中で昼間から酒を飲んでいる新井たちに聞くと、殿には内緒ですよ。見張りは下役に任せておけば良いのです。さあ、あなたも酒をお飲みなさいなどと勧めて来るだけだった。

自分たちの方をじっと観察しているような泰助を発見したのは、木材を積んだ馬車の列に随行して山道を歩いていた相模屋だった。

青葉城では、江戸からの知らせを受けた稲葉兵部や井上図書たちが、泰助が切れ物どころか、昼行灯とか石仏、はたまた大バカ侍などと揶揄され、誰からも相手にされていない男だと知り、自分たちの思い違いを爆笑していた。

青年隊の金吾六平太たちにもその噂はすぐに伝わり、全員で嘲笑し始める。

下島も又、これで10人の子供が助かった…と安堵していた。

一方、そんな噂を聞き、情けない!と嘆きながら帰宅していた山治右衛門は、自宅前の塀の瓦が落ちて来たので驚く。

しかし、平の上には見知らぬ男が乗って、自宅の柿の実をもいでおり、軒下を歩く時は木をつけろ!などと注意して来たので二度驚く。

何者だ、貴様!と右衛門が怒鳴りつけると、早く取ってよ!と甘えるような津留の声が庭の方から聞こえ、変な爺さんがいるんだと聞くと門から出て来て、あっ、父さん!と驚いたので、塀の上にいた典木泰三も驚く。

その後、塀の外で、泰助の帰りを待っていた千賀は、握り飯美味しかったよと言いながら帰って来た泰助に、弟の泰三さんってどんな人?と聞く。

良い奴ですよ。私より数倍良い!などとべた褒めするので、男の兄弟は良いですわ…と千賀は羨む。

何しろ、嵐みたいな奴なんですよと泰助が話すので、江戸からお着きになったんですよと千賀が教えると、急に笑顔になった泰助は、千賀をその場に残して屋敷に駈けて帰る。

屋敷では、兄弟揃って、食事を始めるが、おば上!あなたの料理はあまり旨くありませんな。魚はまあまあですなどと、遠慮するどころか、べらべらと批評を始めたので、聞いていた右衛門は、うるさくて頭がキンキンすると言い出し、咳き込みながら部屋を後にする。

するとそれに気づいた泰三は、おじ上は喘息持ちでしたか、それはいけません!お部屋まで御送りします!等と言いながら、後を追って行こうとするが、そそっかしいので、お膳をひっくり返してしまう。

翌日、相模屋から泰助が新井と角丸に付いて山に行ったことを聞いた稲葉兵部は、万一悪事がバレたとしても、見回り役の新井と角丸を差し出せば良いと井上図書や安藤伊十郎に告げていた。

そして、相模屋には、どんどん山の木を伐れと命じ、殿がお国入りされても、まだまだ手はある…と兵部はうそぶく。

そうした4人の会話を、隣の部屋で仕事をしていた下島孝之進ははっきり聞いていた。

その日、登城した泰助は、江戸での評判を聞いた角丸や新井から、腐らずやれよなどと、急に上から目線の言葉を吐いて来る。

他の侍たちも、大バカ侍!とか石仏の朴念仁!などバカにした言葉を投げかけて来ては、泰助を嘲笑するようになる。

それを聞いて怒り狂ったのが、一緒に付いて来た泰三で、良くも兄のことを!と言いながら、新井に殴り掛かる。

新井は驚き、みんな来てくれ〜!昼行灯の弟が暴力をふるうぞ!と救援を頼んで逃げ出したので、他の侍たちが泰三を止めようとするが、興奮状態になり暴れ回る泰三を止めることは誰にもできなかった。

それを観た侍たちは、兄弟揃って大バカ侍、兄貴がバカなら、弟は大キ○ガイ!などと揶揄する。

そんな泰三の様子を、下島孝之進もじっと見守っていた。

廊下で暴れ回っていた泰三に、バカもん!と一喝して止めさせたのは山治右衛門だった。

帰宅した泰三に右衛門は、沈着を持ってなる兄に比べ、粗忽で何一つ取り柄がない!親爺の名を汚さぬために、しばらく謹慎じゃ!と叱りつける。

それを知った津留が泣き出すが、女の口出しする幕ではありませんとみねが言い聞かせる。

津留は謹慎になった泰三の元に来ると、歯を食いしばってやって行きましょう。誰も泰三さんの本当の良さを分からないんですもの。お可哀想な泰三様…と、一人悲劇のヒロインを演じる。

一方、泰助は、1人、城下の木の下に腰掛け、夕日を眺めていた。

その側を通りかかったのが、10人の子供を連れた下島孝之進だった。

何となく親近感を覚え出していた下島は、赤ん坊をおんぶしたまま、典木さん!と声をかけ近づくと、良いなあ〜…あなたは。実にのんびりとして全く良い…と感心したように語りかける。

親爺が大らかに育てたものですから…と泰助が答えると、私なんか、いつも何かに追いかけられているような毎日…、人間、あなたのようになりたいものですと下島は心底訴える。

人間、みんな弱いものです。負けそうになった時は話して下さいと泰助が答えた時、側で待っていた子供たちが、お父さん、早く帰ろうよと急かすので、典木さん、女房も殺生ですよ。あれだけ置いて先に死ぬんですから…と、子供の方を観ながら愚痴る。

そして、典木さん、実は…と言いかけた下島だったが、その後は言わず、黙って子供たちの元へ戻って行く。

そんな下島に、泰助は、さようなら〜!と声をかける。

そこにやって来たのが千賀で、急に、泰助の胸にすがりついて泣き出したので、どうしたんです?と泰助が困惑すると、私、くやしいんです!あなたの本当の値打ちを、みんなは分からないのよ!典木泰助は大人物です!と義憤に駆られたように言う。

そんなことですか…と笑った泰助は、千賀さん、観なさい、あの大空を…、きれいじゃないですかと言葉をかける。

泰助さん、あなたが何をなさろうとしているか、私には良く分かるわ。お殿様のご指示で汚職を追及して、みんなをアッと言わせるおつもりなんでしょう?と千賀は言うが、泰助は、私はできるだけ、みんなが傷つかず、何とかならないかと思っていますと答えるだけだった。

その頃、自宅では、津留が泰三の部屋に二人分の夕食のお膳を持って来て、差し向かいで食べようとしていた。

夜中、寝床に入った山治右衛門は、津留の言うことも頷ける。しかし、泰助も信じたい…と、自分の揺れる気持ちを、隣の布団で寝ていたみねに囁きかけるのだった。

お父さん、だんだん私たちには、若い人のこと、分からなくなりますね…と、みねは寂し気に答える。

千賀も寝室で津留に、泰助の素晴らしさを切々と訴えていた。

すると、津留の方も、泰三さんを始めて観た時から、胸の中に嵐が起きたのなどとのろけ返す。

泰三は泰三で、泰助の前で怒りまくっていた。

田舎の人たちはもっと良い人たちだと思っていたが、人間のクズじゃないか!

山治のおじさんはガミガミ言うだけだし、言ってることは人の悪口だけ。青年隊だって何もしない!

そんな泰三の言葉を聞いていた泰助は、もっと大変なことがあるんだよ。奥山の木材が秘密裏に持ち出されている。ここでは汚職や横流しは普通らしい。泰三、あまり嵐を起こすなよ…と諌める。

翌朝、津留が慌てて、お父さま、大変よ!青年隊が泰三さんに決闘を申し込んで来たんです!と部屋に駆け込んで来る。

それを聞いた泰三は、待ってましたと言わんばかりに、又障子を蹴り倒しながら部屋を飛び出して行ったので、こんなことでもないと、あいつの軽率とおしゃべりは直らんかも知れん…と右衛門は呟く。

千賀も泰助に、のんびりお茶なんか飲んでる場合じゃありません!と声をかけるが、泰三のことを心配してやれと言う訳ですか?と泰助は鷹揚に答える。

河原で待ち受けていた青年隊の元にやって来た泰三は、日頃の鬱憤晴らしもあって、大暴れを始める。

しかし、その最中、物陰に隠れて様子をうかがっていた新井新助と角丸平左衛門の姿を見かけたので、急に喧嘩を止めた泰三は、おいみんな!この2人の顔を見てくれ!こいつら、この数年、奥山の木材を横が餓死している見張り焼くらしいぞ!上役は普請奉行か?と暴露すると、その二人を捕まえ城に向かおうとする。

青年隊が付いて来ないので、おいどうした?一緒に行かないのか?歌は歌えど、行動はせぬか?俺に言わせれば、そう言うのは骨抜きの青年隊と言うんだ!と泰三はバカにする。

泰三から新井、角丸を差し出され、兄泰助がこの二人に付いて行ったんです!と木材の横流しのことを追求された安藤伊十郎は、知らん!この両名を引っ立てい!と言うだけだった。

泰三は、殿お国入りまで調べといて下さいよと念を押す。

金吾六平太ら青年隊は泰三をすっかり見直し、いよいよ青年隊の力を見せる時だ!などと息巻くが、この事を調べたのは俺じゃないんだ!兄さんなんだ!と泰三は必死に弁解する。

いつものように大木の下で空を観ていた泰助の元にやって来たのは、下島孝之進の子供たちだった。

お父ちゃんは?と聞くと、まだお城から帰って来ないのだと言う。

下島の家に行ってみると、みんな元気がないので、おじちゃんが遊んでやろう!と泰助は言い出し、子供たちは大喜びで泰助の身体に飛びついて来る。

その頃、御領林横流しの件がバレたことを知った稲葉兵部、井上図書、安藤伊十郎は、捕まえられて命乞いをしている新井と角丸に、素直に筆をとって、わしの言うとおりに書けば命は助けてやると言い、紙を差し出す。

御領林の木材横領の罪を詫び、ここに自決す…、新井新助、角丸平左衛門!と稲葉は、書く内容を伝える。

その一部始終を隣の部屋で聞いていた下島孝之進は、その直後、新井と角丸が斬殺された悲鳴を聞き、思わず耳を押さえ、その場に突っ伏してしまう。

この事を知った泰三は、なんてことだ!自決してお終いなんて…、どうして上役から責任者がでないんだ?やっぱり殿様がいないとダメだな。兄さん、俺、バカバカしくて嫌になったよ…と愚痴るが、その話を聞いていた泰助は、いきなり泰三を殴りつけると、あれほど嵐を起こすなと言ったろ!可哀想に、2人を殺してしまった!と嘆く。

しかし、殴られた泰三の方も、意気地なし!思ったことを言えないじゃないか!俺は兄さんが一番偉いと思っているんだ!こんな意気地なしと思わなかったよ!と兄をなじる。

その後、泰助は、いつもの木の下に座り、夕日の中の青葉城を眺めていた。

自宅に戻って来た泰三は、赤ん坊を背負って帰る下島孝之進のすれ違う。

自分の部屋に戻り、大の字にふて寝した泰三だったが、今、お城の方がお兄さんにこれを持って来たのよと言いながら、津留がふろしき包みを見せる。

一方、木の下にいた泰助の元に駆け寄って来た下島の子供たちが、おじちゃん!お父ちゃんが殺される!八幡様の前で!と訴え、泣き始めたので、ここで待っているんだぞ!と言い聞かし、そこにやって来た千賀に子供を託すると、自分は急いで八幡様へと走る。

八幡様の手水舎の前で、下島孝之進は赤ん坊を抱いたまま、暴漢に斬りつけられる。

暴漢が逃げた直後、現場に駆けつけて来た泰助は、倒れていた下島を抱き上げ、下島さん!しっかりして下さい!と呼びかける。

うっすら目を開けた下島は、典木さん…、手紙…、手紙…と呟く。

その手紙を自宅で開封していたのは泰三だった。

そこには、税金横領に結託し、拒否できなかった自分の非力さを詫びる下島の言葉が書かれてあった。

さらに、稲葉兵部、井上図書、安藤伊十郎が結託して、新井新助と角丸平左衛門に遺書を書くように強要したと告発してあった。

瀕死の飯島も、同じ内容を口頭で泰助に告げ、今宵、相模屋で、連中は悪事の成功を祝って酒宴をやっています。子供を…と託し、飯島は息絶えてしまう。

そこに駆けつけて来たお春に遺された赤ん坊を預けた泰助は、顔の表情が一変していた。

泰三と共に、飯島の手紙と、これまでの不正を記した記録帳を観た山治右衛門は、泰三!ぐずぐずしとっては行かんぞ!と叱り、泰三も、おじ上、私は今まで落ち着いていた頃などありません!と言うと、障子を蹴破って外へ走り出す。

怒りの形相も凄まじい泰助は、木材置き場で大きな丸太を一本見つけると、それを持って、越後屋の料亭へと向かう。

庭先に入り込んだ泰助は、障子の向うに人影が見えたのを確認すると、持って来た大木を投げ込む。

障子が数枚、一挙に壊れ、丸太を投げ込まれた座敷の中は騒然となる。

上座に座っていた稲葉兵部は、典木!貴様!木でも違ったか?こいつ、バカが高じてキ○ガイになりおった!と周囲の仲間たちに伝え、嘲笑する。

そこに、下島から預かった証拠書類を持った泰三と山治右衛門が駆けつけて来て、こいつらが汚職して、材木の横流しをしていた張本人だ!と泰助に告げたので、老いぼれとキ○ガイと粗忽者の言うことなど誰が信じる!3人揃って、あの世に送り込め!と兵部は命じる。

山治右衛門は、若いもんに政治を任せ過ぎた!と反省していた。

兄さん!今日は嵐を起こして良いですか?と泰三が聞くと、おお!起こしなさい!と泰助は答える。

かかって来た敵を相手に、泰助、泰三、山治右衛門の3人は大暴れを始める。

暴れていた泰三は、おじ上!粗忽者も捨てたもんじゃないでしょう?などと右衛門に自慢する。

一方、河原でいつものようにたむろしていた青年隊の元に駆けつけ、急を知らせたのは津留だった。

その頃、大乱闘の現場では、右衛門が落とした証拠の書類の風呂敷を稲葉兵部に拾われていた。

その風呂敷を抱えた稲葉兵部、井上図書、安藤伊十郎の三悪人が現場から逃げ出そうとする。

その前に泰三が立ちふさがる。

右衛門は相模屋を捕まえていた。

泰助は兵部を殴りつけるが、ふろしき包みを抱きしめた兵部は最後の最後まで抵抗する。

そこに、遅ればせながら、青年隊が駆けつけて来て、残党共を蹴散らせる。

泰助、泰三、でかした!でかした!と山治右衛門は、幌式包みを取り戻した2人を前に大喜びだった。

やがて、お殿様がお国入りされました。(と、泰三の声)

半生粛正に勤めた功により、城代家老を命じる!と松平長門守知宣は、みんなが居並ぶ中、発表する。

泰助は仰天し、辞退しようとするが、横にいた泰三が遠慮するなよと声をかけると、黙れ、粗忽者!と知宣が叱り、泰三、互いに足らぬ所を補うのだぞと言い聞かせる。

やはり余の目に狂いはなかった。泰助!思い違いではなかったの?と知宣は笑い、いつまでも昼行灯でいてくれと泰助に言うと、泰三!いつまでも粗忽者でいてくれと声をかける。

人の価値は外見や世評で決めるものではない。この兄弟のように、互いに足らぬ所を補い、みんなで若葉城を支えてくれよと全員に言い渡す知宣。

自宅に戻った山治右衛門は、すっかり泰三の女房気取りになった津留のおしゃべりに、又始まった!頭がキンキンする!と悲鳴をあげる。

泰三は、城代家老はごこにいるのだ?と姿が見えぬ泰助を案じていたが、千賀がそっと耳打ちすると、あっ!そうか!と気がつき、おじ上、行って参ります!と言うや否や、いつものように障子を蹴倒しながら外へ走り出す。

それを観た、千賀と津留は笑い出す。

泰助はいつものように木の下に座り、星空を眺めていた。

皆さん、やっぱり兄さんは少し変わっていますね?(と、泰三の声)

泰助はは~っとため息をつくと、横に座った泰三と顔を見合わせ、急に笑い出すのだった。


 

 

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