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黒の駐車場

大映「黒シリーズ」の1本で、田宮二郎主演の産業スパイもの。

大企業に踏みにじられる下請けの悲哀をベースに、殺人事件の謎解きも絡む展開になっている。

松本清張の登場でブームになった「社会派推理」のジャンルに入るのかも知れない。

主人公を演じる田宮二郎が、元ぼったくりバーのチンピラだったと言うのは、後半、チンピラ仲間と共に、アクションなどをやり易くするための設定だろうが、そんなチンピラが、5年くらいで、下請け工場の社長などになれるのだろうか?と言う素朴な疑問は残る。

それなりの知力と才覚があったと言うことなのだろう。

殺人事件の方はそんなにトリッキーなものではなく、あくまでも話の中心は、コネを失った途端、大会社に良いように振り回されてしまう下請けの危うさだろう。

モノクロ作品と言うこともあり、キャスティングなどを観ても、かなり地味な印象の作品ながら、観ていて退屈するような事はない。

ただし、興行的に大ヒットしそうなタイプの映画でもないような気がする。

あくまでも、ミステリやサスペンス映画好きな人向けの作品だと思う。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1963年、大映、黒岩重吾「廃虚の唇」原作、星川清司+石松愛弘脚色、弓削太郎監督作品。

地下駐車場からライトをつけた車が迫って来る。

タイトル

車が明るい外の道路に出る。

丸木製薬では、新社長になった角沼満次(小沢栄太郎)が、社員たちを前に挨拶をしていた。

現在の会社の不振はひとえに前社長の放漫経営にせいだと批判した角沼は、大胆な人事異動で根本的な体質改善を図る!と挨拶する。

そんな中、珍しく留任が決まった松崎勇太郎(見明凡太朗)は、挨拶に来ていた下請けの泉薬品社長泉田敬(田宮二郎)から、良かったですねとねぎらわれると、社長が君を呼んでいるんだと言い、一緒に新社長の角沼の部屋に向かう。

松崎が泉田を紹介すると、なかなかのやり手だそうじゃないか?と角沼が話しかけると、自分は畑違いの分野から社長になったので、薬の事は全く分からないと言うので、泉田も、自分も薬のいろはから松崎さんに教えて頂いたのですと泉田は謙虚に答える。

近々株式総会を開き、松崎君には取締役に昇進してもらうつもりだと角沼が言うと、泉田は我が事のように喜ぶが、うちと君の所、合併した方が良くはないかね?そうなったら、君のポストも用意しておくよと角沼が言い出すと、泉田は驚き、松崎の顔を見る。

いつまでも下請けのままで良いのかね?などと角沼は誘うが、泉田は、うちは小さな会社ですが、5年かかってやっと軌道に乗って来た所ですから…と口ごもったので、同席していた松崎が、社長、その話はいずれ又…と声をかける。

泉薬品の昼休み、庭先では工員たちが集まった楽隊が演奏している中、他の従業員と同じ部屋の中でラーメンをすすっていた泉田だったが、お茶を運んで来た事務員が貧血で倒れたので驚く。

その事務員が別室に連れて行かれた後、楽隊も巧くなりましたねなどと言う雑談が始まり、合併の話はきっぱり断ったから心配ないよと泉田は事務員たちに説明する。

弁当を食べていた女子工員は、私はこのままの方が良いわと言い、ベテラン経理係の寺島(松村達雄)は、大きな会社なんて、36年勤めてもあっさり首だからな…と自らの苦い経験を話す。

そこにふらりやって来たのは、業界誌の記者北見典子(藤由紀子)だった。

服部君に会わせて、土壌菌に着いて聞きたいのよと泉田に言って来たので、泉田は研究室にいた服部修吉(仲村隆)を呼び寄せる。

服部は、臨床試験に廻さないと、今のところ何も分からないと典子に答える。

丸木に大いに宣伝して下さいよと泉田が声をかけると、売り出すのは丸木でしょう?と典子は聞く。

泉薬品は丸き製薬の下請けなので、新薬が完成すれば、今までの慣習通り、丸木から売り出すはずだったからだ。

ある日、泉田は松崎からバー「かんぱーら」で会い、合併の話は松崎さんの判断でやって下さいと一任する。

松崎はそんな泉田に、君は金の卵を育てて、新薬を開発した立派な事業家だよと褒める。

うちの新薬は、絶対他では作れませんから!と泉田は得意げに報告する。

典子が会いに行ったと思うがね?どうかね?と松崎が笑うと、松崎さんこそ再婚なさらないと、見抜いてますよ!と泉田もやり返す。

そこに、マダムがやって来ると、急に松崎は、明日大阪に出張なんだと言って立上がったので、マダムは気を効かせて、松崎が気があるホステスの高橋久子(加茂良子)を一緒に送らせる。

久ちゃん、ゆっくり別れを惜しんだ方が良いよと泉田も笑うと、帰り次第、君に会わせたい人がいるんだと松崎は泉田に言い残し帰って行く。

後日、泉薬品の空地では、ボロ車を磨いている寺島を、若い行員たちがからかっていた。

そこにやって来た泉田は、寺島さんが稼いだ金は、お前たちみたいにゆすりやたかりで取った金じゃないんだと、元不良の工員たちに言い聞かし、ボクシングごっこを誘う。

そんな中、服部は研究室に出かけて行く。

その時、泉田は警察から電話が入ったと聞き、お前たち、又何かやったのの?と若い行員たちを睨みながら事務室に向かう。

電話に出た泉田は、松崎が高津の崖から飛び降りて自殺したと聞き、絶句する。

早速、典子と共に、高津の現場に向かった泉田だったが、会わせたい人がいると言っていた松崎が自殺するとはどうしても思えなかった。

あの版の松崎さんは変だった…と泉田は呟くが、元松崎の秘書だった典子は、奥さんを亡くした後、私を業界誌「薬事タイムス」に紹介してくれたけど、寂しかったんでしょう。私、秘書を辞めなければ良かったと悔む。

松崎の葬儀は、角沼が仕切って丸木製薬の葬儀として、立派に執り行われる。

典子と一緒に焼香をすませた泉田に近づいて来た角沼は、惜しい人物を亡くしたな…、丸木の切り札だった…、君の面倒は仏に代わって引き受けるよと言ってくれる。

それを聞いていた典子は、就任早々行き届いてるわね…と皮肉を言う。

そんな中、泉田は、ここに来るべき人物が来ないのを不思議がっていた。

事実上のバーのママだ…と典子に打ち明けた泉田は、見慣れぬ女性が式場に現れたので、誰?と聞くと、吉野製薬の社長よ。製薬界の淀君と称されており、丸木とは泥仕合をしているのよと典子が教える。

その吉野夏子(中田康子)は、静かに焼香をしていた。

その後、バー「かんぱーら」にやって来た泉田は、マダムから、久子があの夜以来店に来ていない、今の子は義理もヘチマもないわねと聞かされる。

典子と久子のアパートを訪ね、管理人にドアを開けて中の様子を見せてもらうが、投函されていた新聞が、4日前の10日の朝刊から開かれないまま落ちていたので、つまり、久子は「かんぱーら」から松崎を送って行った夜以来自室にも戻ってない事が分かる。

典子は、部屋の中に置いてあった写真立ての中の写真を見て、松崎と一緒に写っている女性が久子であると知る。

泉田はその後、角沼社長に会いに行き、松崎の大阪出張の目的を尋ねるが、角沼は出張命令など出しておらず、あれは松崎の休暇だと言う。

よほど慌てていたんだろう…、会社を裏切っていたんだよと角沼は突然言いだす。

泉田は到底信じられなかったが、社長室にいた見知らぬ男が、薬の横流しだよ。日本橋の問屋に流れたんだと言う。

一時の気の迷いからやったのかも知れんが…と角沼は言い、見知らぬ男は、社長は、松崎君の背任をもみ消してくれたんだよと恩着せがましく言って来る。

あなたはどなたですか?と泉田が見知らぬ男に聞くと、新営業部長の津川(早川雄三)だと紹介した角沼は、あの男に限って間違いないと思ってたんだが…と悔しそうに言う。

信頼しきっていた松崎が薬の横流しをするとはどうしても思えず、自ら、日本橋の「マルタン薬局」と言う問屋に言って確認してみた所、確かに松崎さんが持って来て、売値の4掛け半で引き受けたと主人は言う。

唖然としながらも帰りかけた泉田に、店の主人は、強力ホルンだったらいくらでも引き受けますよ!と声をかけて来る。

その夜、泉田は典子を誘い、バーでやけ酒を飲む。

典子はそんな泉田を冷めた目で見るが、泉田は席に着いていたホステスたちに、典子の事を、僕のアイドル、憧れの君さ…と冗談めかして紹介する。

帰ろうとすると、バーテンがやって来て3万ですと言うので、はい3万と言い、泉田は5000円札を出したので、バカにされたと思ったバーテンが凄んで来たので、泉田は殴りつける。

そして泉田は、俺は昔、ここと同じような暴力バーを経営していたんだ!と逆に凄む。

(回想)たまたま泉田が経営していたバーに飲みに来た松崎は、法外な請求書を出されても、酒に似合うだけの額しかさしださなかったので、バーテンが殴りつけ、泉田が出て来て、うちのカクテルは特別製なんですよ。ここは普通のバーじゃねえんだよ!払えなければ奥さんに来てもらいましょうか?と脅す。

しかし松崎は、家内は死んだよ。自分が稼いだ金をどう使おうが勝手だ!と平然と答える。

お客さん、あんた変わってますね?これは痛い目に合わせたお詫びですと言い、泉田は、松崎が払おうとしていた金を返そうとするが、松崎は、飲んだ金は支払うと聞かない。

そんな松崎を気に入った泉田は、あんたなら、取りスバー並みにしときますと答える。

(回想明け)バーを出て、典子と一緒にタクシーで帰る途中、松崎さんは翌日も来てくれた。そして、真っ当な生活をするように言ってくれたんだ…と泉田は打ち明ける。

僕が10歳の時、酷い空襲で良心も兄弟も亡くしてしまった。

子供の事から1人で食べて行くしかなく、気がついた時には悪の道に入ってたんだ。ぼくにとっては、松崎さんは神様なんだ。松崎さんはきっと殺されたんだ。僕はきっと犯人を取っ捕まえてやる!と泉田は誓う。

僕に会わせたがっていた人って、仕事に関係あるはずだから、その内向うから連絡して来ると思う…と泉田は予想する。

そんな中、大学から徒歩で会社に帰って来ていた服部は、途中で、車に横付けされ、降りて来た男3人にカバンを寄越せと脅かされる。

後で、中味と相当の金を送ってやると言われた服部は、素直にカバンを手渡す。

会社では、寺島が泉田に、この頃、丸木から注文来ませんなと嘆いていた。

しかし、うちには服部の新薬があるんですから、取引してもらった儲かるんですがね〜と社員が口を挟む。

泉田は、うちがここまでこれたのも丸木のお陰だよと言っていると、そこに服部が戻って来て、カバンを取られましたと冷静に報告すると、でも、必要なものはここにありますから大丈夫ですと自分の頭を指す。

泉田は、今度からタクシー乗ってけよと勧める。

その頃、調査部長と販売部長から、色々報告を受けていた吉野製薬社長吉野夏子は、丸木の情報は入ってないの?と聞いていたが、そこに、泉薬品の社長が面会に来たとの知らせが来る。

やっと来たわね、あなたが来るのを待ってたのよと吉野夏子は言い、お葬式の時お会いしたわね?松崎さんの…と続ける。

松崎さんとはどんな御関係です?僕がやって来る事が何故分かったんですか?と泉田が聞くと、そう言う予感がしたのよ店と夏子は言うだけ。

あの方が自殺するなんて考えられないわね?私が殺したとは思わないでねと冗談を言って来たので、松崎さんが僕に会わせたい人がいるって言ってましたが…と泉田がカマをかけると、松崎さんの事はあなたの方が詳しいはずよ…と又、夏子ははぐらかすので、失礼しましたと泉田が席を立って帰ろうとすると、お待ちなさい、気の短い方ねと夏子が止める。

うちの服部のカバンが狙われたんですが、心当たりはありませんか?と聞くと、言って良い事と悪いことがあるわよと夏子は言う。

後日、角沼社長に料亭に呼ばれた泉田は、合併は白紙に戻したよと言われたので、正直ほっとするが、角沼が新薬の製造に早速かかって欲しいなどと言いだしたので慌てる。

まだ実験段階で、これから臨床試験をしたり、政府の申請をするのが大変なんですと、薬の事に素人の角沼に説明しようとするが、その辺の事は任せてくれ、金はこちらで用意する。清算があるからこそ言ってるんだ。泉田君、吉野の女社長に会ったそうだね?などと一方的に角沼が攻めて来たので、売りませんよと泉田は答え、何故、そうお急ぎになるんです?と聞く。

我が社を立て直すには、抗生物質の新薬しかないんだよと角沼は強調するので、事を急ぎ過ぎると、下手をすると信用を失いかねませんよと泉田は説得する。

翌日、この事を社員たちに教えると、心配性の寺島などは、断った事でしっぺ返しを喰わなければ良いのですが…と案じるが、はっきり断って来たよと泉田は自信ありげに答える。

その直後、丸木の津田部長から電話があり、総合ビタミン剤を10万ダース依頼して来たので、ビタミン剤は売れてないのでは?と首をひねった泉田だったが、角沼社長の依頼を断ったばかりなので、さすがに二度も続けて断るわけにはいかなかった。

その時、泉田に、お迎えですと言って来た女性がいた。

吉野の社長から言われて来たらしく、泉田はホテルで夏子に再会する。

松崎さんは自殺じゃないとおっしゃってましたね?と泉田が突っ込むと、高津には私が案内したの、ずっと前の話よ、2、3度…、実はあそこで土壌菌が唸るほど取れるのよと夏子は告白する。

私が発見して、山を買い取っといたの…、土壌菌をお渡ししても良かったのよ…と夏子が言うので、松崎さんから何も聞いてなかった…と泉田は驚き、出張する前、相談しようと言ってたわと言うので、私に会わせたい人って、やっぱりあなただったんですか!と泉田は納得する。

私はあなたへの援助は惜しまないわと夏子は色目を使って来たので、女なんて結婚か遊びの相手でしかない!と泉田ははっきり言い、この話は、泉田さんの事件の真相を掴んでからにしましょうとはっきり言う。

その後、松崎からピーストを買ったと言う問屋「マルタン薬局」に現れたチンピラが、松崎から代金受け取ってない、早く支払え!と因縁を付けて来る。

薬を売りに来たのは松崎さんじゃなかったんじゃないのか?と、チンピラに代わって「マルタン薬局」を脅したのは、隠れていた泉田だった。

星野一味じゃなかったら誰なんだよ!と泉田は迫る。

津川営業部長は子だくさんらしく、家の前まで帰って来た所で、出迎えの子供たちに囲まれるが、そこに待ち受けていたのが泉田だった。

子供たちを先に帰し、2人きりになった津川に、ピーストの横流しはあなたですね?問屋の主人が口を割ったんですよ。あなたの一存ですか?正直におっしゃらないとまずいことになりますよ。社長に頼まれたんですか?と泉田が聞くと、自分の一存でやったと言うので、株屋上がりのあんたにそんな才覚はないはずだが…?僕がどうしてあなたにこんな話をしているのか?あなたの可愛いお子さんのためですよ…と静かに脅して帰る。

翌日、泉食品は騒然としていた。

研究室が何者かに荒らされていたからだった。

しかし、服部は冷静に、盗まれたのは二束三文のデータです…と言いながら、隠しておいた書類を見つけると、ありました!これさえあれば大丈夫ですと泉田に伝える。

見直したぜと服部を褒めた泉田だったが、そこに、女性から電話だと事務員が言う。

電話の相手は、失踪していた久子からで、松崎さんかから、もしものことがあったら身を隠せと忠告されていたのだと言い、誰かに狙われているので怖い。助けに来てと言うので、日東駐車場のG-21の黒のクラウンに乗っていると聞いた泉田はすぐにその場に向かう。

目的の車を見つけ、中の様子を覗こうとした泉田は、暗闇に隠れていた暴漢に殴られ、昏倒する。

意識を失う直前、泉田は、賊の靴を目に焼き付けていた。

気がついた泉田は病院のベッドの上だった。

典子が看病してくれていたのだ。

泉田は、俺がいては都合の悪い奴がやったんだと言うと、車のナンバーは偽造品だったわと典子も教える。

津川は使い走りでしかない。靴を調べてくれ、黒と白のコンビなんだと泉田は典子に頼み、電話の声は確かに久子だった。事件の鍵は彼女にある…、もう殺されているかも知れないな…と案ずる。

数日後、丸木製薬が新作を発売すると言う新聞記事が載る。

典子は久々に、丸木製薬の秘書室に出向き、かつての同僚女性社員に津川部長に会いたいと伝える。

女性社員は、津川は出張だと言う。

津川部長は、白と黒のコンビ靴持ってない?と聞いてみるが、はっきりした返事は得られなかった。

その頃、角沼社長は、とある料亭で、井上(中条静夫)と赤沢(大山健二)と言う人物に会っていたが、その料亭にやって来た久子は、部屋に向かおうとしていた仲居を呼び止め、かまをかけて、角沼と会っていた2人の名前を聞き出す。

井上と言うのは、大塚清太郎と言う政治家の秘書だと久子は気づき、入院中の泉田に伝える。

新薬発表した丸木製薬の株は高騰する。

吉野夏子にその新聞を見せられた泉田は、まだ頭に包帯をまいていたが、寝ているときではなく、あの発表は撤回させますと伝える。

来週の発表に新薬を間に合わせるつもり?巻図絵で泉薬品も潰れかねないわねとからかう。

工場だけが頼りなんですと泉田は訴え、それを聞いた夏子は、私が責任を持って引き受けるわと言うが、うちの新薬は松崎さんのお陰で出来たんです。この間、服部の研究室が荒らされましたと泉田が言うと、丸木があなたを殴って新薬を発表したんじゃないの?と夏子は言う。

泉製薬の方にも新聞記者が詰め掛けており、服部に新薬の事について執拗に説明を求める。

服部は、新薬は関東医科大学に臨床試験を頼んでいる段階ですと答えるしかなかった。

記者たちに混じり取材に来ていた典子は、社長が入院中なのよ!と他の記者たちの取材攻勢を諌める。

記者たちが帰ってから、泉田が戻って来て、丸木の新聞発表は吉野の社長に見せられたと言うと、服部は、全面的に否定しておきましたと報告する。

しかし、寺島は、丸木はこのまま黙ってないでしょうな…と心配する。

そこに、社員がやって来て、丸木がカプセル10万ダースを引き取ってくれないんですと言って来たので、泉田は唖然とし、角沼社長に会いに行って、作るだけ作らせといて引き取らないとはどう言う事ですか?実費だけでも出して下さいと請求するが、別にうちは下請けには不自由してないんだと津川が返事して来る。

泉田が、松崎の横流しの件をほのめかすと、あれは問屋の思い違いだったよと角沼は平然と言い、君の所の若造が新製品の事を新聞に否定したので、それを押さえるのが大変だったよなどと逆に脅して来る。

それを聞いた泉田は、松崎さんのピーストの横流しがなかったのなら、死の謎が残ります!我々は何としても生き残ります!と言い切る。

会社に戻って来た泉田は、関西から、カプセルの件で不渡りを出しそうだと文句を言って来たので、寺島に頼んで、ストックを問屋に原価を割って売って、払ってくれと頼み、問屋には明日の午後、出直してくれと頼む。

服部は、これを機会に丸木から離れたらどうです?他の社員たちも心配しています。新薬は松崎さん殺し探しの餌に過ぎないんですか?社長は古くさい仇討ちをしているじゃないですか!と泉田に迫ると、泉田も感情的になり、ここは大会社の研究室じゃないんだ!と怒鳴り殴りつけたので、服部は憤慨したように出て行ってしまう。

その後を追った寺島は、大学に行くと言う服部を呼び止め、僕の車で送るよ。今度は少しデラックスなのを買ったからと言葉をかける。

大学近くまで来た時、家内にちょっと電話して来る。胃の薬をタンスの上に置いたのを探しているかも分からないからと言って降りて行く。

関東医科大学にやって来た服部は、入口で待っていた教授から、丸木の新薬発表を観たらしく、君の研究は営利目的だからここでの臨床試験は打ち切る。これ以上の責任は持てない。帰ってくれたまえと言われてしまう。

とぼとぼと帰りかけた服部に、大学の前に停まっていた車の中から声をかけて来たのは、吉野夏子だった。

夏子は服部を、自社の研究室に連れて行き、いかが?と聞くので、最新鋭の機材に驚いた服部は、申し分ないですと感心する。

うちの純利益の3%をここに注ぎ込んでおり、毎年1億投資していますと夏子が言うと、あの人は、犯人探しに夢中なんですと、泉田に対する服部は不満を言う。

現代人は、仇討ちより、1円でも儲ける事に賭けるべきよ。しばらく休養でもした方が良くはなくて?と勧める。

その夜、なかなか戻って来ない服部を、経理で残業していた寺島と2人で待っていた泉田は、昼間は僕もちょっと言い過ぎた…と反省しながら待ち受けていた。

すると、その服部から電話が入り、2、3日、休暇を頂きたい。頭を冷やしたいんですと言って来たので、会って話し合おうと呼びかけるが、電話は切れてしまう。

交換台に急いでかけ直し、今の話し相手の電話先を聞くと、特急の中からだと言う。

横で話を聞いていた寺島は、誰かに誘拐されたんでしょうか?と案ずる。

とある料亭で、顧問弁護士の赤沢と井上と密会していた角沼の席にいきなり乗り込んだ泉田は、服部を返して下さい!あいつを誘拐するのはあなたしかいない!と迫るが、部屋を押し出して廊下に出た角沼は、わしが金の卵を潰すはずがないと否定する。

丸木の非常識な発表のせいです!と泉田が言うと、その剣に関しては明日取り消すと角沼は約束する。

「かんぱーら」で泉田と会う約束で来ていた典子は、見知らぬ男がマダムに会いに来たので身を隠し、ホステスに今のは誰か?と聞くと、ヤクザの立花(千波丈太郎)と言う男で、マダムに時々会いに来ているのだと言う。

泉薬品に電話を入れると、寺島が出たので、泉田さんが来ないんだけど?と聞いてみるが、服部がいなくなったと聞いて驚き、連絡があったら大至急来て欲しいって伝えてくれと頼む。

その直後、マダムと立花が出かけたので、典子はその後を尾行する。

とある屋敷のような所に着いたので、運転手に待ってもらい、典子は中に入ってみる。

そこはどうやら精神病院のようで、林の中で様子をうかがっていると、マダムたちの車が帰って行ったので、典子は事務室で、今やって来た2人の目的を聞く。

すると、2人は入院中の患者に面会に来たと言うので、自分もその患者に会わせてくれ、重大な事なんですと頼み込む。

病室に看護婦と共にやって来た典子は、そこにいるのが、失踪中の久子だと気づく。

看護婦に聞くと、さっきの人たちが連れて来たんだけど、事情を説明してくれないので、処置のしようがないのだと言う。

久子さん!と話しかけても、久子は突然叫びだすだけで、精神錯乱状態にあり、酷いショックを受けたのだろうと看護婦は言う。

直る見込みを聞くと、設備の良い病院でじっくり時間をかけてみないと分からないと看護婦は答える。

病院の外で出ようとした所で、典子は待ち伏せしたいた立花に襲撃させるが、運転手さん!と呼び掛け、運転手が車から出て来たので、立花は慌てて逃げ去る。

翌日、丸木製薬で新聞記者を集めて行われた角沼の新薬発売の訂正発表の席、いきなり、自分は丸木製薬から手を引くと言い出したので、同席していた泉田はあっけにとられる。

画期的新薬の発表をしたが見通しが甘かった。弁解は許されないと言うので、聞いていた記者たちからは、辞めるなんて、責任回避じゃないですか!との怒号が飛ぶが、泉薬品との連絡が不十分だったと言い、後の質問は泉田が受けるかのように話を持って行ってしまう。

泉田は慌て、新薬を売り出すには時間がかかるんです!と必死に記者たちに説明する一方、話が違うじゃないですか!と角沼に迫るが、角沼は知らんぷりだった。

この会見の結果、責任を負わされた泉薬品は、データの一般公開を迫られることになる。

そんな事をすれば、泉食品の独占が出来なくなり、今までの研究費が全部ふいになってしまう。

泉田は、角沼は株のつり上げしか狙っておらず、最初から会社を食いつぶすつもりだった事を悟る。

そんな泉薬品に、ふらりと戻って来た服部は、新薬はどうなったでしょう?自分は急に田舎の空気が吸いたくなって…、一般公開するくらいなら、吉野社長に渡した方が…と言い出したので、吉野の社長が仕組んだ事かも知れず、服部が失踪すれば、丸木に打撃を与えられると思ったのかも知れないと泉田は慎重になる。

しかし、寺島も、社長、今がチャンスです!と吉野と手を結ぶよう説得して来る。

その場で、他の社員たちの気持ちも聞いた泉田は、こうなると、吉野を味方にしておいた方が良いかも知れない。後は、久子をどう使うかだ…と言い、元チンピラだった社員、三郎(工藤堅太郎)たちを呼びに行かせる。

その後、「かんぱーら」のマダムの自宅マンションに出向いた泉田は、久子さんが精神病院で見つかったと報告すると、あの子はキ○ガイの気があった…とマダムは言う。

あの子は、僕の恩人の恋人だから、今より良い病院に移せば大丈夫だと思うんだと教える。

その後、儲けた金で広大な土地を手に入れていた角沼は、赤沢と井上と一緒にススキが生い茂るその場所を観に来ていた。

赤沢弁護士は、角沼君も今回は危ない橋を渡ったな…と苦笑し、こう世の中が平和になると、仕事がやり難いよなどと角沼も笑っていた。

そこにタクシーでやって来た「かんぱーら」のマダムは、久子の居場所が見つかったと角沼に報告する。

すると角沼は、お前のボーイフレンドを使って、久子を処分するんだと冷徹に命じる。

マダムは黙って、タクシーに乗り帰って行く。

久子が入っている精神病院の中で、密かに待ち伏せていた泉田や三郎たちは、久子の病室の窓の外に現れた立花の姿に気づく。

同じく、窓の外の立花に気づいた久子に、立花は、ちょっと側に来てくれねえか?と呼びかける。

すると、久子は、特に精神に異常があるようにも見えない普通の態度で、何ごとかと窓際に近づく。

立花は、松崎を殺したときの礼金を渡しに来たんだ。手を出せよと言い、久子が右手を出すと、急にその手を引いて窓際に久子の身体を引き寄せると、首に手を廻し絞め始める。

それを目撃した泉田たちは、立花!手を離せ!と怒鳴りながら姿を現したので、驚いた立花は逃げ出そうとする。

追いついた泉田は、立花に殴り掛かると、貴様がやったな!松崎さんを!と問いつめるが、立花は違う!と否定する。

どうやって殺したんだ!と責めながら、泉田はライターの火を立花の顔に押し付ける。

立花は、俺は頼まれて突き落としただけなんだと言うので、貴様のような虫けらに松崎さんが!と激高した泉田は、徹底的に殴りつける。

「東亜開発KK」と大きくガラス窓に貼られたビルの一室にやって来た角沼は、津川が熱心に窓磨きなどをやっているので、君はそんな事やらんで良いよと注意するが、将来もご奉公出来ますように頑張って参りますなどと津川はヨイショをして来る。

そこにやって来た泉田は、不愉快そうな2人を前に、お祝いに来たんですよなどとうそぶくと、あなたの芝居の幕を降ろしに来たんですと言うと、負け惜しみを言いよって!と角沼が嘲って来たので、松崎さんは久子が連れ出したんですと話し始める。

その直後、キ○ガイに見せかけたんでしょう?丸木は最初から食いつぶすつもりで乗っ取ったんでしょう?日迫から全部聞きました。あなたが殺したんだ!実行した犯人は分かっている、立花だ!と泉田は言い切る。

ヤクザ上がりのくせに…と角沼が言うので、立ち直っていれば、ヤクザよりはましだ。立花を警察に引き渡したらどうする?と泉田が言うと、そんな男は知らんし、その男もわしを知らんと言うさ…と角沼は平然としている。

それで、泉田は久子を引きずり出すと、私は全部話すわ。松崎を呼び寄せたのはあなたよ!とぶちまける。

諦めるんだな、角沼!否…、社長!と泉田は言う。

その後、服部を連れ、泉田は吉野夏子に会いに行くと、やっと、松崎さん殺しの犯人が分かりました。新薬はお任せしますと申し出る。

ところが夏子は、泉田さん、女性をビジネスの相手とは考えないと言ってませんでしたか?と冷淡に答えるので、新薬は煎らないと言われるのですね?と泉田はちょっと意外そうに答える。

泉薬品の事業内容も良くないようですし…と夏子が言うので、そうですか、でも、新薬は引く手あまたですから…と言い残し帰ろうとした泉田に、方々の会社に無駄足を踏ませるのもなんですからお見せしましょうと言い出した夏子が取り出したのは、吉野製薬の新薬見本の瓶だった。

その成分表を観た服部は、僕の新薬だ!と驚くと、言いがかりは止めてちょうだい!うちで作ったのよと夏子は言う。

盗みましたね!と夏子を睨んだ泉田だったが、先を越された俺たちの負けだと服部に言い聞かすと、帰ろうとする。

そんな泉田に、私を女性として認めるなら、泉に仕事を任せても良いのよ…と夏子は声をかける。

一つだけ確認しておきたいことがあるんですが、全部うちのやり方を盗んだんでしょうね?土壌菌を液体の中で培養する方法も、そっくり服部の研究を盗んだんですね?と聞いた泉田は、そうすると、あなたがこれから作ろうとする新薬は特許権を侵害することになりますよ。私は、その部分のパテントを取ってるってことです。バイオ装置を替えないと特許法に触れるんですと泉田は告げる。

それを聞いていた服部は驚きながらも、そんな事しても薬は作れませんよと太鼓判を押す。

その話を聞いた夏子の顔色が変わる。

9回裏の逆転ホーマーと言った所かな?新薬の純益の50%、否、それ以上頂かないと…、これも、松崎さんのご忠告のお陰です…と言い残し、部屋を出た泉田に、服部は感心したように、危ない所でしたねと言う。

松崎さんのお陰だ。あの時は殴ったりしてすまなかったな…と服部に話しかけた泉田だったが、その時、吉野製薬の廊下を通過する寺島の姿を見かける。

寺島の方も、まずい所を観られたと言う風に慌てて逃げ出す。

スパイはあいつだったのか…と、服部も気づく。

その後、外で再会した典子が、踏みつぶされそうになったけど、あなたは勝ったわ!と言うので、明日から又新しい戦いが始まるんだと泉田は答える。

そんな泉田に、あなたは負けないわよと典子は笑いかける。

腹減ったなと急に言い出した泉田に、ビフテキおごりましょうか?それとも、女からはおごってもらいたくない?と典子はからかうように言うので、新薬が売れれば五万と入って来るんだ。一生、この俺にたかる気あるかい?と泉田は意味ありげに言う。

それを聞いた典子は、OKよとあっさり答えたので、泉田は嬉しそうに彼女の肩を抱いて歩き出すのだった。


 

 

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