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雨は知っていた

「呪いの舘 血を吸う眼」の併映で、前作、「幽霊屋敷の恐怖 血を吸う人形」「悪魔が呼んでいる」の併映同時撮影をした山本迪夫監督が、又しても、併映2作を同時に撮ったものらしい。

本作に出ている黒沢年男は、「血を吸う」三部作の最終作「血を吸う薔薇」(1974)の主役と言うか、狂言回しを演じることになるし、大滝秀治は「呪いの館 血を吸う眼」や「悪魔が呼んでいる」にも出ている。

この作品は、原作ものだった「悪魔が呼んでいる」に似て、ヒロインが次々と不可解な状況に追い込まれて行くと言う謎めいた展開になっているのだが、その不可解な謎の解明はほとんどないまま終わってしまうと言う、何ともあっけない幕切れになっている。

「和製吸血鬼もの」の併映だし、20歳になったばかりと言う設定の女の子がヒロインと言うのだから、作品自体のターゲットもティーン向けであり、大人向けの本格的なミステリやサスペンスと言うほどがっちり作られてないと言うことなのだろう。

ただし、二本立ての両作品を一挙に撮っているにしては、これはこれでそれなりにまとまっているし、目も当てられない…と言うような無惨なものではないのは確か。

途中で色々ばらまかれた謎は、観客が勝手に解釈しろ…と言うことなのだろう。

1971年の作品なので、既にお馴染みの東宝所属俳優は黒沢年男以外にはあまり見当たらず、民芸の役者さん中心と言った感じ。

この時期の黒沢年男はかなりかっこ良いのだが、既に、東宝が製作から手を引き出した時期だけに、スターになる一歩手前で足踏み状態…と言った感じ。

検察官役の伊藤孝雄も若々しくてカッコ良いが、クラブの支配人を演じている新田昌玄と言う方は、なかなか渋い二枚目なので驚いた。

ぱっと見、蟹江敬三さんとティモシー・ダルトンを足したような濃い顔つきなのだが、この当時は若いこともあり、微笑むと甘い二枚目風で印象的な風貌であり、役柄にぴったりだと感じた。

ヒロイン役の鳥居恵子さんは、「悪魔が呼んでいる」の酒井和歌子さんほど華はなく、ちょっと地味な印象を受ける人である。

米倉斉加年さんのちょっととぼけた感じの巡査役や、「男はつらいよ」の三代目おいちゃん下條正巳さんの悪役演技辺りも見所だろう。

大滝秀治さんは、「悪魔が呼んでいる」を先に観ていると、何となく先入観で観てしまうが、本作でのキャラクターは最後の最後まで良く分からない奇妙な存在と言うべきだろう。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1971年、東宝、石松愛弘+長野洋脚本、山本迪夫監督作品。

雨の日

ワイパーを動かしながら、「佐久間」と表札がかかった家の前に停まった車のダッシュボードの上には猫のマスコット人形が置かれていた。

今年20になったばかりのみどり(鳥居恵子)は、応接室に車のセールスマンが客として来ていたので、応対していた母親の章子(南風洋子)に車を買いましょうよとねだっていた。

でもママは、もう2~3年もハンドルを握ってないのよ…と章子は首を振るが、じゃあ、私が自分で買うから!今日で満20才なんだから、もうバーのホステスでも何でも出来るの!とみどりがだだをこねだしたので、まあ!と章子は睨みつけるが、セールスマンは、まるで姉妹のように仲良しですねと2人の事を笑う。

章子は、今日は、7時までに仕事を済ませてあなたと夕食を食べなきゃ行けないからと立上がろうとしたので、せっかく車に乗って来ましたので、お店まで試乗されてはいかがでしょう?と勧める。

その言葉にみどりも喜び、免許証取って来る!と言い、章子の寝室の化粧台から章子の免許証を取り出し、そこに置いてあったマスコット人形のペロに、今日は留守番!と声をかけて部屋を出て行く。

雨の中、セールスマンが持って来た黄色いスポーツカーに乗り込む秋子とみどりの姿を、猫のマスコット人形の車はじっと見守っていた。

章子の車が雨の中走り出すと、猫のマスコット人形の車も尾行し始める。

タイトル

その夜の7時45分

章子と待ち合わせていたレストランで待っていたみどりは、約束の時間を過ぎても章子が現れないので、章子がマダムをやっているクラブにやって来る。

支配人の横田(新田昌玄)は、お誕生日おめでとう!とみどりを向かえるが、もうすぐ8時なのにママが来ないのと聞くと、3時まで集金に廻ってましたけど、ちゃんと入金済みですし、その後美容院に行ったはずですと戸惑いながら教える。

その場から美容院に電話を入れてみると、章子は確かに来たが、5時少し前に帰った。そう言えば、西本さんと言う方から電話が入ったと言う。

その話を電話を代わって確認した横田は、西本さんと言えば、大平機械の技術部長の西本さんしか思いつかないと言う。

(回想)それを聞いたみどりも、以前、章子と一緒で店から出て来た見知らぬ中年男性を町中で観たことがある事を思い出す。

(回想明け)タクシーで帰宅したみどりは、家の中に灯りが点いていたので、章子が先に帰っているものと思い、喜んで家の中に入り、ママ!と呼びかけるが、応接間に置いてあった花瓶の赤いバラが一輪落ちていたので胸騒ぎを感じ、章子の寝室に行くと、ドアが開いており、恐る恐る中を覗くと、部屋の中が荒らされており、犬のぬいぐるみのペロが床に転がっていだけで章子の姿はなかったので、立ちすくんでしまう。

大平機械の本社ビル

翌日、西本に会うため受付にやって来たみどりの前にやって来たのは、西本の部下だと名乗る谷沢(黒沢年雄)だった。

西本は昨日から休暇でいないと言う矢沢に、どうしてもお会いしたいので、自宅の住所を教えてくれと頼み込む。

渋る矢沢から聞き出した西沢の屋敷に行ったみどりは、出て来た女中(津田京子)から、旦那様はここの所お帰りじゃないと言われるが、そこに出て来た西本の娘紀子(小林千鶴子)から、何の用?パパならここに来ても会えないわよ!と怒鳴りつけられ、無理矢理追い出される。

紀子は女中に、おしゃべり!と叱りつける。

その後、屋敷から買物で出て来た女中を待ち伏せていたみどりは、何とか話を聞きだそうとするが、女中は迷惑気に無視し、商店街で食パンを購入するが、ずっとみどりが側で監視しているので、根負けして、甘味所であんみつ二杯ごちそうになったので、旦那様には女の人がいて、その人とマンションに住んでいるんですと打ち明けてしまう。

早速、女中に聞いたマンションの503号室「西本」と表札がかかった部屋の前まで来たみどりだったが、突然、部屋のドアが開き、ひげ面の男が飛び出して来て逃げて行ったので、唖然としながらもドアの中を覗くと、玄関脇の靴箱に、見覚えのある母章子の靴が置いてあるのを発見する。

さらに部屋の奥を見渡すと、絨毯にバラの花が散らばっており、勇気を振り絞って中に入ってみると、頭から血を流し、床に倒れた西本らしき男の死体を発見する。

すぐさま連絡を受けた警察が現場にやって来て、発見者のみどりは、自分が出会った男のことを長さんと呼ばれている松本(宮阪将嘉)、矢島(高山秀雄)両刑事に伝える。

しかし、とっさの事だったので、30~40才くらいの背の高い男だったとくらいしか言えず、もう1度会えば分かりますと言うしかなかった。

その時、室内で西本と章子が一緒に写った写真立てを刑事が持って来て長さんに渡したので、それを観たみどりは動揺する。

長さんは、知ってるんですね?とみどりに聞いて来る。

「マンション殺人事件 消えたマダム」と言った記事が新聞に載る。

みどりは、クラブの横田の元に行き、章子と西本の事を知ってたんでしょう?と追求するが、横田は、大人の世界にはいろんなことがあるんだよ。お母さんは人殺しなんか出来る人じゃない…と言い聞かせようとするが、みどりは、ママなんか大嫌い!と言うと店を飛び出して行ってしまう。

夜、歩いて帰宅していたみどりは、いきなり背後から来た車に轢かれそうになり道路脇に避難する。

その車は一旦停止すると、バックで迫って来たので、みどりは又必死で逃げようとして転倒するが、そこにタクシーがやって来て停まったので、問題の車は逃げ去ってしまう。

タクシーから降りて、みどりさんじゃないか!と近づいて来たのは谷沢だった。

谷沢がやって来たのは、西本の家族から頼まれ、マンションで章子が使っていた日用品を返却に来たのだった。

屋敷の応接間で、白いトランクを開けて中味を確認したみどりに、辛いでしょうね。僕は違うと思います。新聞や雑誌は君のお母さんを犯人みたいに書いているけど…。僕も何度かあの店に行ったことがあるけど、マダムは優しい人でした。お力になりますよ。元気出して!と谷沢は慰める。

その言葉を聞いたみどりは、心細さから、谷沢さん!とすがりつくように呼びかける。

谷沢が帰った後、佐久間家に松本と矢島領刑事がやって来て、あれからお母さんから連絡あったかね?と聞いて来る。

いいえ…とみどりが答えると、それじゃあ、何故、捜査願いを出さないの?お母さんが出て来ないと困ったことになるよ。マンションで見つかった凶器と女物の傘から同じ指紋が出て来たんだ。君のお母さんは有力な殺害容疑者なんだよと刑事は迫る。

じゃあ、私が観た男は?…とみどりが反論すると、背が高くて30過ぎ、そんな男を観たと言う目撃者がいないんだ。最初からそんな男はいないのでは?と言われたので、私を疑っているんですか?と気色ばむと、とにかく、お母さんから連絡があったら、逃げ隠れせずに出て来るように勧めるんですねと言い残し、刑事は一旦帰る。

その直後、電話がかかって来たので出てみると、それは章子からだった。

会いたいの、今すぐと章子は言うので、たった今、警察の人が来てたのよと話すと、後1時間したら目黒通りを駅の方へ歩いてちょうだい。車に注意してねと章子は提案して来る。

1時間後、みどりは家を出て目黒通りへ向かうが、帰ったと見せかけて、ずっと近くで待機していた松本、矢島両刑事が尾行し始める。

母親の指示通り、目黒通りを歩いていたみどりは、突然、お嬢さん早く!と横に停まった車の中から横田に声をかけられる。

乗り込んだみどりの車を、タクシーを捕まえた刑事たちが追って来たので、みどりが尾行されている事を伝えると、横田は、刑事は僕がまきますから、お嬢さんは、後楽園のメリーゴーランドの所へ行って下さいと横田は言う。

角を曲がった途端、急停車した車から降りたみどりは、側にあった電話ボックスに飛び込み隠れる。

追って来た刑事のタクシーは、発進した横田の車をそのまま追って行く。

後楽園のメリーゴーランド脇で待っていたみどりの肩に触れて来たのは、サングラスをかけた章子だった。

(はしだのりひことクライマックスの「花嫁」のメロディがかかる中)みどりと一緒に後楽園タワーに乗った章子は、ごめんね、心配かけて…と詫びる。

みどりは、西本って人を殺したんじゃなければ、逃げ隠れせずに説明すべきよと説得するが、章子は、みどりとは関係ない事よ…とはぐらかそうとするので、私はママの娘よ!隠し事なんかしないでよ!ママはもう私のものじゃなくなったのね…と哀しむ。

タワーを降りた章子は、近づいて来るサングラスの男に気づくと、又しばらく会えなくなるわ。困ったことがあったら横田さんに相談して。もうしばらく待ってちょうだいと言い残し、立ち去ろうとする。

みどりはしばしためらった後、章子に追いつき、ママ、私も連れて行って!ママの側にいたいのよ。もう何も聞かないから…とすがる。

しかし、章子は、危険なのよ!と言うので、ママが嫌だと言っても、私、付いて行くから!とみどりが迫ると、みどり!と感激した章子はみどりを抱きしめる。

ね、警察へ行きましょう?ママが犯人じゃないと、私知ってるわ!とみどりが勧めると、今出て行っても信じてくれないわ…、ママは罠にかかったのよ、西本も…。犯人の手掛かりをつかまなくちゃダメ。私は犯人を知ってるの、しむけた相手は…、ママは犯人にされてしまうわけにはいかないの!と章子は答える。

それを聞いていたみどりは、西本さんを本気で愛していたのね…とみどりは言い出し、分かってくれたのね!と感激した章子は再びみどりを抱きしめる。

その時、2人に近づいて来たのは、まいたはずの刑事たちだった。

追いつめられた章子はもう逃げる術がなかった。

第一取調室に連れて来られた章子は、凶器からあなたの指紋しか出ていないと矢島刑事から追求されても、やってませんと言うしかなかった。

しかし、3日間も逃げ回っていたあげくに黙っていては、不利になるばかりだよ…と松本は言い聞かせる。

章子はやむなく、西本さんが殺された日は静岡の東名高速側のモーテルにいました。西本さんから先に行っているように言われ、待ってたんです。あの人は身の危険を感じ、逃げようとしていたんでしょうと答えたので、すぐさま矢島が確認に飛び出して行く。

その後も、章子は松本に、西本は別の会社に移る事にしたんです。西本は技術部長なんで、技術の流出を恐れた大平機械が…西本を…と自分の想像を話していたが、そこに戻って来た矢島から耳打ちされた松本は、あんたが泊まったのはモーテル東海の13号室だったね?と章子に確認し、今調べたら、その日13号室の泊まり客はなかったそうだ!そろそろ本当の事を言ったらどうだ!世話を焼かせるんじゃない!と怒鳴りつける。

取調室の前でみどりは、部屋から矢島に連れ出される章子を呆然と見送っていたが、共に待ち受けていた記者たちに、部屋を出て来た松本が、章子への逮捕状を請求したと説明したので、みどりは愕然とする。

母は逮捕ですって!私が観た真犯人はどうなるんです!と取調室に戻った松本にみどりが詰め寄ると、目撃者が誰もいないんだよと言うので、娘じゃ信用してもらえないんですか!とみどりは迫る。

そこに、横田が弁護士の橋爪(大滝秀治)なる男を連れて来る。

橋爪は松本に、取調べ調書を拝見したいと言い出す。

その後、章子に接見した橋爪は、犯人は大平機械ですわと訴える章子に、証拠もないのに、ただの憶測だけで言っているとあなたが不利になるだけですよ。裁判は事実で争うべきですと忠告する。

章子は、そんな橋爪に、西本の真犯人を見つけて下さい!と頼むが、そんな事をしたらみどりさんが危ない。顔を見ていると言っているようだが、本当なら犯人が放っとかないでしょう。西本さんの例もあります。あり得ない事ではないです…と脅すような事を橋爪が言うので、まさか、あなた、会社から言われて来たのでは?と章子は警戒する。

すると、橋爪はむっとしたように、分かって頂けなければ弁護士を辞退するしかありませんと冷たく言い放つ。

「部長殺し 自供」という記事が新聞に載り、章子は留置場に収監される。

面会に訪れたみどりは、ママが殺人犯だって本当なの?!真犯人は私が観てたのよ!と問いつめても、みどり、もう何も言わないで…、西本はもういないのよ…などと言うので、ママは真犯人を探すつもりだったんでしょう?と聞くと、みどり、もう忘れてちょうだい…と章子は冷めたような顔で答える。

私だって、子供じゃないんだから!とみどりは興奮するが、私にはもうあなたしかいないのよ!と章子は訴える。

しかしみどりも、私のためにママが殺人犯になるなんて嫌よ!と訴える。

皇居のお堀端で谷沢と会ったみどりは、ママは脅迫されている…。ママは大きな力に動かされているんだわ…、それは大平機械じゃないかと…、そんな気がするんですと話す。

それを聞いた谷沢は、しかし、うちの会社が部長を殺すなんて…と戸惑うが、みどりは、私が動くと犯人側は困るんでしょうと言うと、強くなったね…と谷沢は感心する。

ママには随分甘えて来たから…、私、どんなに危険でも、母の無実を晴らせてみせる!とみどりが決意を述べると、僕もお手伝いするよと谷沢も言う。

東京地方裁判所で章子の公判が始まる。

検察官(伊藤孝雄)は、章子は3年前から西本と同居していたが、相手方の家族が離婚に応じず、本年4月15日にあなたは西本に離婚を迫ったが断られたので、青銅の花瓶で西本の頭部を殴打、脳内出血で死亡させたんですね!と起訴事実を読み上げる。

裁判長(清水将夫)から、何か申し述べる事は?と聞かれた章子は、何もありませんと答えたので、では起訴事実を認めるんですね?と確認される。

検察官は次々に証拠類を読み上げて行く。

裁判所前でみどりは弁護士の橋爪に声をかけ、近くのカフェテラスで話を聞く事にする。

あんなに証拠が出て大丈夫でしょうか?みどりが不安そうに聞くと、あんなものをひっくり返すのは簡単ですよと橋爪は鷹揚に答える。

私は証人にはなれないのでしょうか?母は誰かに脅迫されているんです、私のために…と訴えると、犯人を観たと言うくらいではね~…、警察もその線を捨てたくらいですから…と乗り気ではないようなので、でも、言うだけ言ったら、犯人側も放っておかないでしょうし…とみどりが食い下がると、分かりました、何とかしてみましょうと橋爪は答える。

夜、何気なくベッドで目覚めたみどりが廊下に出てみると、電話が鳴りだしたので、驚きながらも出てみると、怪し気なうめき声のような声が聞こえて来たので、みどりはすぐに受話器を置いてしまう。

玄関のドアを確認しに行くと、ちゃんと鍵はかかっているが、その直後、ノックの音がしたので、怯えながらも、どなた?と聞くが答えはない。

心底怯えたみどりは電話で110番にかけるが、電話が通じない。

リビングに行ってみると、突然、窓ガラスを突き破り、白猫の死骸が放り込まれる。

さらに、リビングのドアから男が侵入して来たので、廊下に逃げると、そこにもう1人の男が待ち構えており、みどりを捕まえると、おふくろから預かっているものがあるだろう?今更隠したって無駄なんだよ!思い出さなかったら無事じゃすまないぞ!と言いながら、みどりの首を背後から羽交い締めにして来る。

しかし、みどりが何も答えないので、ハンカチに染み込んだエーテルのようなものを嗅がされる。

そこに、リビングから忍び込んだもう1人の男が近づいて来る。

翌朝、みどりは、ベッドの上で何ごともなかったかのように目覚める。

到底夢とは思えないので、交番の巡査(米倉斉加年)を呼び寄せて、室内を点検してもらうが、リビングでは窓も割れてなければ、ドアも内側から施錠されており、部屋の電気も異常はないし、もちろん猫の死骸も跡形も残ってなかった。

さらに、切れているはずの電話も通じていると言い、こんな事で呼びだされたんじゃ敵いませんよなどとブツブツ言いながら、巡査は帰って行ってしまう。

再び、拘置所で章子と面会したみどりは、夕べ、誰かが家に入って来て、ママに何か預かったんじゃないかって言われたんだけど、気がついたらベッドに寝かされていたのと打ち明ける。

章子は驚き、本当に何にもなかったんでしょうね?と案ずる。

何を探しに来たのかしら?心当たりある?とみどりが聞くと、章子はいいえと答える。

ママを脅迫している人を教えて!このままでは有罪にされてしまうわと迫っても、ママの人生は終わってしまったんだから…と章子は諦めきったような表情で言い、深入りしちゃダメよ!ママの事は良いから…、自分を大事にしてちょうだい。良いわね?とみどりに言い聞かせる。

拘置所を出ると雨が降っており、送って来てもらった横田の車で帰るみどり。

大平機械では、谷沢が計算尺を手に考え事をしていたが、そこに女性社員が、部長がお呼びよと知らせに来る。

岡部部長(下條正巳)は、その後どうだね?佐久間の娘だよ。今日、母に会いに行ったそうだ。母親から何かを聞いたかも知れん。早速、会って聞き出したまえと谷沢に命じる。

どうしても僕がやらなくちゃいけないんですか?と谷沢が抵抗すると、外に持ち出された技術を他社の手に奪われたとしたらどうなる!娘に変に同情して、ミイラ取りにならないようにな…と岡部部長は釘を刺す。

やむなく、地下街にある茶店にみどりを呼びだした谷沢は、お母さんは何と?と聞くが、みどりは、ママは覚えてないんです。大事なものですから覚えてないと言うのもおかしいんですが…と不思議がるが、その時、窓ガラスの外の通路を歩いていた男の顔を見た途端、あの男だわ!私が観た男!と叫んで店を飛び出して行く。

驚いた谷沢は、会計をすませて、みどりの後を追うが、途中で見失ってしまう。

口ひげにサングラス姿の男は、地下駐車場の中に入って行ったのでみどりも後に続くが、尾行に気づかれていたらしく、無人の駐車場の中で襲われ、車の中に引きずり込まれると、そのまま車で夜の都心部に出る。

男は、やっと会えたね、お嬢さん。おっと、飛び降りるつもりかい?その方が手間が省けて助かるよ…などと運転しながらからかい、とある工事中のビルの屋上にみどりを連れて来る。

革手袋をはめた男は、みどりを無人の屋上の縁に追い込むが、そこに懐中電灯を照らした夜警が、何をしてるんだ?と呼びかけながら近づいて来たので、男は逃げてしまう。

第二回公判

証人台に立ったみどりは宣誓書を読み上げる。

裁判長は、偽りを述べると偽証罪になりますよと念を押して来る。

弁護士の橋爪から、事件について何か被告人から聞いた事はありませんか?と聞かれたみどりは、西本さんを殺してないと言ってましたと答える。

母親の無実を信じているのは何か証拠でもあるのですか?と聞かれたみどりは、男にぶつかりました。一昨日、建てかけのビルに連れて行かれ、殺されそうになりましたと訴える。

続いて、検察官が証人として呼んだ、信濃町の共栄ビルの警備員(長浜藤夫)は、一昨日の9時頃、屋上で男女のも目頃がありましたか?と聞かれると、いいえと答えたので、谷沢の隣で傍聴していたみどりは唖然とし、私を助けてくれたじゃないですか!と呼び掛け、裁判長から注意される。

次の証人は、みどりが屋敷を調べてもらった交番の巡査だった。

巡査も検察官に問われるまま、ダイニングの窓は割れてなかったし、猫の死骸もなかった。電気も点いたし、電話線も切れてなかったと証言する。

最後に検察官から呼ばれたみどりは、母親と被害者の関係を知ってましたか?と聞かれ、西本さんが殺されて、刑事さんから聞きましたと答えると、母親に騙されていたんですね?と言うので、その後、町で会いましたからと反論するが、検察官はみどりの証言の信憑性に疑問を投げかける。

母は脅迫されているのです!会社に脅されて…とみどりが続けようとすると、言葉を慎みたまえ!ビルの屋上から突き落とされたと言う事実もなければ、5月20日の例も同じで、交番巡査の証言のように何もなかったにも拘らず、何の裏付けもなく母を救いたいばかりに別の犯人をでっち上げたいんだな?本官は、証人の精神鑑定を願い出て、偽証罪で訴えます!とまで言うので、私はキ○ガイじゃない!とみどりは絶叫し泣き出す。

そんなみどりの様子を、傍聴席から谷沢はじっと観ていた。

公判後、近くの音楽堂にみどりとやって来た谷沢は、もうダメだわ…とみどりが嘆くので、そんな事はない。実は今まで黙っていたけど、喫茶店で観た男、僕は知ってるんだ。上村(牧野義介)と言う、会社に出入りしている情報屋なんだと打ち明ける。

もう一つ、謝らなければいけないならないことがあり、僕が君に近づいたのは会社の命令なんだ。会社は、西本部長が君のママに渡した秘密の書類が欲しいんだよ。ずっと打ち明けたかったんだけど、なかなか決心がつかなくてね…、この償いはきっとしてみせるよと言い残し立ち去ろうとしたので、みどりは思わず、待って!償いってどうするの?と聞くと、上村を捕まえて会社の陰謀を暴くんだ!と谷沢は答える。

1人で大丈夫なの?と聞くと、僕も怖いんだ。でも、君を観ていたら勇気が出たよ。感謝しなくちゃと谷沢は言う。

その後、再度、拘置所に収監されている章子に面会に出向いたみどりが、ママ、まだ思い出せない?西本さんから何か預かったでしょう?と聞くと、でも、あれは…と章子は何かを思いついたようだった。

秘密書類なのよ!私に渡して!とみどりは頼むが、法廷で頑張ってくれたわね、嬉しかったわと章子は言うだけ。

新犯人の素性が分かったのよ!私、武器が欲しいの。ママのためじゃないの、我慢できなくなったの!このままだと、私、一生ダメになってしまうわ。私のために会社と戦ってくれる人がいるの。私がママなら、きっと西本さんに当たる人だわとみどりが言うと、ぬいぐるみのペロちゃん知ってる?と章子は言い出す。

知ってるわ!マスコットですもの…とみどりが答えると、あなたにあげてって、西本からもらったのよと章子が言うので、ママ!とみどりは驚く。

自宅に帰り、谷沢と共に、ペロを斬り裂いて中を調べると、中から、手帳と新製品の設計図が出て来る。

手帳の方を読んでみた谷沢は、会社の脱税…、製造原価のもみ消しについて書いてある!西本部長は、まさかのときのためにこれをもっていたのに殺されたんだ!ここは一つ賭けてみるか!と谷沢は呟く。

大平機械の岡部部長は、谷沢から、西本が持っていた資料を見つけたと聞いて興奮する。

しかし、こっちの目的を気づかれましたと言う谷沢が、その現物を持ってないと知るとすぐにがっかりし、娘はまさか、警察に渡すつもりじゃないだろうな?と案ずる。

今のところは大丈夫です。自分で西本殺害の犯人を見つける。うちの会社と関係あるんじゃないかと疑っており…明日中に証拠を見つけないと警察に届けると言ってます…と谷沢は答える。

娘は今どこに?と岡部が聞くと、姿を消しましたが、江ノ島のヨットハーバーに隠れていますと谷沢は伝える。

その後、岡部部長は重役(滝沢修)に報告に行くが、重役室のインターホンを観ながら、全部聞いたと重役は答える。

どうしたら宜しいでしょう?と岡部が聞くと、あの男…、娘に惚れたな…、この話は何も知らなかった事にしよう。君も私も、最初から何も知らなかったと言うことだ。良いね!と念を押して来る。

岡部部長は困惑した表情で頷くしかなかった。

江ノ島のヨットハーバーに係留されている一艘のクルーザーの中にみどりは隠れていた。

そこにやって来た谷沢は、打つだけの手は打って来た。警察にも電話したけど、あの刑事たちは出かけていたんだと報告する。

来るかしら?あの上村って人…とみどりが聞くと、しっ!と黙らせた谷沢は、船室の窓からそっと外を見る。

埠頭には、見知らぬ若者が通り過ぎて行くだけだったが、みどりは思わず、怖い!と言って谷沢に抱きつく。

男の手が、密かにクルーザーの舫綱をビットから外す。

船室内で潜んでいた谷沢は、人の気配を感じ、みどりを船室にいるように言い聞かせた上で甲板に出て様子を見る。

すると、物陰に潜んでいた男から殴られる。

殴ったのは横田だった。

気絶した谷沢を他所に、横田はクルーザーを操縦して沖合に出ると、船を停止させる。

そこに、もう一艘のボートで近づいて来たのは上村だった。

船室にいたみどりに迫り、西本部長を殺したのはこの男で、会社に密告したのは俺さ…と横田が告白する。

あんたの母親が好きだったし、兼ねも欲しかった。俗に言う色と金に目がくらみって奴さ…と横田は自嘲する。

上村も、殺すつもりじゃなかった。ものの弾みさ…と言いながらみどりに迫るが、ちょっと待て!あれがないと…、お嬢さんが持ってるんですよね?と横田が聞いて来る。

その時、甲板上で気絶していた谷沢が起き上がり、上村に捕まったみどりが、放して!と抵抗している中、操縦席に潜り込み、クルーザーを動かす。

それに気づいた横田が、操縦席に登って来ようとするが、谷沢は海に蹴り落とす。

そして、横田と谷沢が戦い始める。

操縦士を失い暴走を始めたクルーザーが、崖にぶつかろうとしているのに気づいたみどりは、自ら操縦し、何とか方向を変えた後、船を停止させる。

谷沢は横田を殴り倒していたが、そこに駆け寄ったみどりは、谷沢さん、あの手帳が!と伝える。

手帳は横田に奪われてしまったのだった。

仕方ないよ…と谷沢は慰めるが、章子の無実を勝ち得るには必要な証拠品だった。

その時、クルーザーに接近して来た船があった。

その船に乗っていたのは、連絡を受けて駆けつけた松本、矢島の両刑事と、海から救い上げられていた横田だった。

「部長殺し 逆転」の新聞報道

拘置所の入口で待ち受けるみどりは、雨の中、女性看守の傘に守られながら出て来た母親章子と再会する。

赤い傘をさしかけたみどりに頷いた章子は一緒に外に出て行くが、その少し先で待っていたのは黒い傘をさし、レインコートを着た谷沢だった。

みどりに近づいて来た谷沢は、みどりに微笑みかけると、章子に会釈し、バッグを自分が持ってやる。

赤い傘のみどりと章子、黒い傘の谷沢は、雨の中、並んで帰るのだった。


 

 

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