昭和時代のマニアの間では「怪獣映画のバイブル」とか「怪獣映画の最高峰」などと称賛されていた怪獣映画の名品で、後年の平成ガメラや「ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃」(2001)などにも影響を与えている。 東宝特撮初のカラー作品としては「白夫人の妖恋」(1956年6月公開)が半年先に公開されているが、怪獣映画としては本作が初のカラー作品である。 一見大作風だが、本編全体でも1時間20分程度という意外と短い作品であり、その分面白さが凝縮している印象がある。 当時の予告編には「製作費2億!」などと言う文字が踊っているが、当時の「映画年鑑」などを調べてみると、宣伝費を除いた直接製作費は5000万円台くらいだったようだ。 宣伝費を直接製作費並みと見積もって加えてもとても2億など行くはずもなく、相当下駄を履かせた宣伝文句だったのだろうと推測するが、映画全盛期ならではの本編部分の絵作りの確かさ、ミニチュアワークなど特撮の洗練度など今見ても感心させられる部分は多い。 それでもCGIに見慣れた今の目で見るとさすがに特撮のアラも目立つし、前半の濃密さに対し後半の展開の大雑把さも気にならないでもない。 一番気になるのは阿蘇山が大噴火を起こしたらラドンどころではなく九州全域のみならず日本の大半が大被害を被るはずで、それがハッピーエンド風なラストを迎えるのだから、ハリウッドの怪獣映画で安直に核攻撃するのと同じで御都合主義も極まれりと言う感じがする。 「ゴジラの逆襲」のラストもそうなのだが、怪獣を封印するためその周辺を爆撃して瓦礫で埋没させる展開というのは、スペクタクルとして見ているとかなり単調である。 とはいえ、怪獣プロレスが主流となる前の「単独怪獣もの(厳密には単独種と言うだけで1匹だけ登場するわけではない)」なので、まずは物語の導入として怪獣出現までのサスペンスドラマが用意されているのだが、これが圧巻。 この濃密なメガヌロンとの攻防戦が、わずか30分ほどの前半部分で描かれており、この部分だけは今見ても傑出していると言わざるを得ない。 この辺の冒頭部分は「放射能X」をヒントにしているとも言われているらしいが、全国から荒くれ男なども集まっていたと想像される炭鉱という設定も巧みだし予算をかけているので本作の方が圧倒的に見応えがある。 佐賀辺りで長期ロケを敢行したらしく、本物の炭鉱町と暗い炭鉱の坑道内を舞台に、本当の坑夫や主婦たちに見える大部屋俳優たちの存在感も加わりリアルかつ息詰まるような恐怖ドラマが繰り広げられる。 エキストラ動員も大量で、まさに黄金期の邦画の底力を見せつけられるような作品である。 まず人間を襲う牛くらいのサイズの怪獣が出現し、さらにその小型怪獣を餌にしていたさらに巨大な怪獣が出現する辺りの段階的な恐怖の盛り上げ方は上手い。 肝心のラドンが全身像を現すまでの焦らし方も上手く、飛行雲で暗示的に見せ、当時話題になっていた「空飛ぶ円盤」を想像させたり、阿蘇でカップルが襲われるシーンなども、姿は見せないまま恐怖を盛り上げている。 「平成ガメラ」1作目で飼い犬がギャオスに襲われるシーンの間接描写などはこの辺からの影響大だろう。 怪獣だと判明する前の未確認飛行物体を空飛ぶ円盤では?と想像させるのは、大映の「大怪獣ガメラ」(1965)より本作の方が先である。 劇中、ラドンが超音速飛行のまま宙返りをしてジェット機を破壊すると言う描写があるが、「ゴジラ キング・オブ・モンスターズ」(2019)で旋回飛行するラドンは、それを意識していての新演出だったようにも思える。 劇中、阿蘇のカップルの死体が見つからなかったり、放牧中の牛が消えている描写があるということはラドンが食べたという暗示なのだろうが、これも「ゴジラ キング・オブ・モンスターズ」に受け継がれている。 中盤になってもなかなかラドンは全身像を現さず、主人公の記憶喪失などといった焦らしドラマで見せてゆくので、今の感覚で見るとやや退屈に感じるかもしれない。 しかし後半は出現した巨大怪獣が長崎から福岡中心部を襲うと言うミニチュアショーになり、瓦飛ばしなどを含むミニチュアの精巧さ、破壊スペクタクルとしての見応えはある。 とは言え人間側の攻撃は単調になりがちで、ドラマ展開としてはやや大味になっている。 スペクタクル要素は見世物としては派手な要素なのだが、それが多すぎると見ている側としては単調な気分になり、緊迫感や恐怖感は薄れる恨みがある。 同じ原作者(黒沼健)の「大怪獣バラン」(1958)も、もともとテレビ用作品ということもあるのか、怪獣が登場して以降ちょっと単調気味なので、作者の特徴なのかも知れない。 ラドン出現の原因については本作でも原水爆実験の影響の可能性が触れられるが、「ゴジラ」の頃に比べるとトーンは弱くなっており、「ゴジラの逆襲」(1955)での扱いなどから見ても、初代ゴジラでの原水爆の扱いはメッセージというより、当時の社会流行ネタを怪獣出現の方便に使っただけのような気がする。 流行ネタだったので、翌年からの映画での扱いが軽くなり、怪獣出現を説明する方便用にすり替わってしまったのだと思う。 子供でも年少組は前半のドラマは退屈に映り、後半のスペクタクルに目を奪われるだろうが、10歳くらいになると前半の面白さも理解できるようになるし、大人になると完全に前半のドラマ部分の方が面白く感じられる。 こうした演出を「昔の怪獣映画は大人向けだった」と解釈する人もいるが、当時の興行記録などを調べてみると観客の大半は子供中心だったようで、「多羅尾伴内」などの例と同じように、純粋な子供映画が少なかった時代にこの手の荒唐無稽な映画は大人よりも子供たちを虜にし、そうした現象を映画館や制作側も気付いた上で製作していたのだと思う。 初期特撮ものには必ずといって良いほど、森永の広告がどこかしらに登場していたりするにも、子供客をターゲットにしていたことの証だと思う。 当時は海外市場にも売れていたので、お色気シーンなどは海外を意識して付け加えられていただけで、国内市場では最初の方から子供をターゲットにしていたはずだ。 ラドンが最初から1匹だけではなく2匹飛び出してアジア中心に被害を与えているのは途中のラジオ放送などで暗示されているのだが、2匹のラドンの外見的な区別がつきにくいため、クライマックスも2匹で福岡襲撃しているのがはっきりせず、ラストの阿蘇の噴火シーンでようやく2匹いたんだ…と判明するという分かりにくさになっているのは惜しい気がする。 分かりにくい原因の1つは、洞窟内で河村が目撃する卵から孵化したラドンが1匹だけだったことだろう。 このシーンがあるために、その後地上に出現したラドンが孵化したラドンが急成長したものと思い込みやすいのだが、実際は地上に出現した2匹のラドンとひなラドンの関係性もはっきりせず、いったい何匹のラドンが阿蘇の洞窟内に生存しているのかもも判然としないままだったりする。 特撮に関しても、ジェット機のアップシーンで操縦席のガラスの合成の抜けが甘かったり、空を描いたホリゾントの一部汚れが一瞬映っていたりといったミスもないではない。 正直、空中戦のシーンはあまり出来が良いとは言えない。 福岡攻防戦での戦車部隊も玩具にしか見えなかったり、福岡駅から飛び立つラドンの背中にしっかりピアノ線が見えたりするので、この辺はノリで見るしかないだろう。 当時の特撮映画は映画館以外で見る方法はなく、今のように二次視聴で何度も見直すということを考えて作られていたわけではなかったため、粗探し的な見方をすると色々な失敗箇所は残っている。 福岡に飛来したラドンが天神を一旦通過し、当時中洲にあった日活ホテル(当時、映画会社の日活はホテル業もやっており映画製作よりも堅調だったらしい)を破壊するのは、ライバル会社だったからか?(「84ゴジラ」でマリオンを壊すときも、松竹の部分だけを壊したりしている) 戦車隊が集合する天神地区の岩田屋デパート裏手にあったスポーツセンター(かまぼこ型の屋根で横に設置された水槽から水が溢れるシーン)というのは、当時、相撲の九州場所をやっていた場所である。 天神地区や中洲に貼られた「パンビタン」や黒人がストローでコップのカルピスを飲んでいる看板、森永キャラメルのネオンサインなどは時代を感じさせる。 今回、坑夫役の1人が「水戸黄門」の「風車の弥七」で有名な中谷一郎さんであることに気づいた。 メガヌロンに襲撃される坑夫役でその恐怖芝居は初代「ゴジラ」における山本廉さんと同じ重要度ではないかと思う。 |
▼▼▼▼▼ストーリーを途中まで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼ |
1956年、東宝、黒沼健原作、村田武雄+木村武脚本、本多猪四郎監督作品。 模様ガラスの背後でうごめく光をバックにタイトル、キャスト、スタッフロール 九州 阿蘇山 村近くでボタ山が見える炭鉱の町 おい、またやったって言うじゃないか、ダメだよ!と炭鉱の坑道入り口前で上司に叱られた炭鉱夫は、すみませんと謝る。 炭鉱内から外へ石炭を運ぶトロッコ。 止さねえか!何だ、たかが酒の上のことで!ともみ合ってい炭鉱夫の二人を引き離す仲間たち。 しか一旦離れた片方が、相手のポケットから出勤表を引き抜いて捨てたので、また喧嘩が始まる。 お前たちは何でそういがみ合ってばかりいるんだい!同じ職場で働いているくせに、え?由造!と上司が仲間たちが引き離した一方の由造(鈴川二郎)に聞き、五郎もそうだぞとケンカ相手の五郎(緒方燐作)を叱る。 諌められた五郎が由造をにらみながらもその場を離れると、さあ、みんな、仕事だ、仕事だ!黒いダイヤがまってるぜ!と上司がその場に集まっていた炭鉱夫たちに命じる。 それを聞いた坑夫たちは一斉に、戻ってきた作業員たちにおはよう!と挨拶しながら人車乗場入り口に並んで向かう。 坑夫たちを乗せたトロッコが穴の中に向けて動き出す。 同じトロッコに乗り込んだ五郎を由造は睨みつけていた。 技師室で設計図を引いていた河村繁(佐原健二)は、よお、今日は馬鹿に暑いねと言いながら、部屋に入って来るなりスーツの上着を脱いだ石川技師(今泉廉)に朝の挨拶をし、地球がドンドン暖かくなるそうじゃないですかと声をかける。 それを聞いた石川技師は、地球温暖説か?と苦笑しながらハンカチで首筋の汗を拭う。 北極と南極の氷が全部溶けると地球が水浸しになるって話か…、嫌だね~と石川技師が笑いながら言うので、河村も計算尺を使いながら笑いかえす。 そこに内線電話がかかってきたので、それに出た河村は、何?水が出た?排水ポンプは?と電話の相手に聞くと、うん、すぐ行く!と答える。 西坑の右に増水ですと電話を切った河村は石川技師に報告する。 どうもおかしいな、あそこはそう地下水の湧く地盤ではないんだが…と洗面所で水を飲んでいた石川技師は答える。 突き当たりの炭層が臭いですね、徹底的に調べてみますと言いながら河原は事務所を後にする。 坑夫の格好になった河村は、サイレンが鳴り響き、関係者以外を足止めしていた炭鉱の入り口から中に入る。 ご苦労さんと坑夫たちから労われ、河村はトロッコで降った現場付近に降り立つ。 どうだ、水は?と河村が聞くと、ポンプ1台増やしてやっと食い止めたんで!と現場責任者が答える。 どっから水は出たんだ?と聞くと、そいつが掴めないんで…、とにかくあっという間に増水ですからな~…と責任者は不可解そうに言う。 ケガ人はなかったかね?と河村が聞くと、由造と五郎の2人が見えねえんですと坑夫が答える。 少し考え込んだ河村だったが、とにかく水を止めよう、2~3人手を貸してくれと頼む。 大丈夫ですか?と案ずる声が上がるが、河村は気丈にも大丈夫だと答え、仙吉(中谷一郎)、サブ、来い!と命じる。 気をつけてな!と仲間たちが声をかける中、河村たちは坑道の奥へと向かう。 増水した部分に到達した4人だったが、水没した坑道を慎重に進んでいた時、水面に浮かんでいる坑夫の姿を見つけ、あっ由造だ!と坑夫の1人が気付く。 驚いた河村たちは急いで浮かんでいた由造の体を掴み、外へ運び出す。 医務室の水槽で煤で汚れた体を洗った後、由造の死体を検死した検屍官(須田準之助)は、事故死じゃない、刃物で斬られている…、致命傷は頭の傷だが、しかしあんなによく斬れる刃物って一体何だ?…と手を洗いながら河村たちに教え、うん、警察に届けなくてはならんねと言い出す。 それを聞いた河村は、は、一応事故のことだけは報告してありますと答える。 その時、医務室の前で会わせてください!と騒ぐ声が聞こえたので河村が出てみると、そこには他の主婦たちに連れてこられた由造の妻お民(水の也清美)がおり、生きてるんでしょう?生きてるんでしょう?会わせてください!お願いです!とすがりついてくる。 待て!今手当てをしているからしばらく待て!と坑夫仲間が興奮状態で赤ん坊を背負ったお民を抑える。 なだめられたお民と背中の赤ん坊はその場で泣き始め、それを主婦たちが慰める。 さ、行きましょうと坑夫たちの声をかけその場を離れる河村に、五郎の奴まだ捕まりませんぜと坑夫の1人が耳打ちする。 おい!犯人は‥と別の坑夫が諌めるが、昨夜から酒食らって喧嘩しやがって!とその坑夫は怒りもあらわに言うので、警察の調べがあるまでうっかりしたことは言わない方が良いと河村が注意する。 だって坑内で一緒に仕事してたんでしょう?その五郎がなぜ姿を見せないんです?とその坑夫が詰め寄ったので、とにかく騒がないようにみんなに言い聞かせてくれたまえと河村は指示する。 建物から出た河村は外で顔を伏せて立っていた吾郎の妹(白川由美)に近づくと、キヨちゃんと声をかける。 本当に兄さんが?とキヨが聞いてきたので、バカな!と河村は否定するが、だってみんなが…とキヨは悔しそうに言う。 兄さんを信じるんだ、そりゃ五郎さんはすぐカッとなるが、あんな残酷なことができる人じゃない、そうだろう?と河村は優しく慰める。 しかしキヨは泣き出す。 通りがかりにそれに気づいた主婦たちが互いに噂しあい、キヨを避けて足早に通り過ぎてゆく。 とにかく事件がはっきりするまで出歩かない方が良いよ、さ、行こう?と河村はキヨに声をかけ一緒にその場を離れる。 集合した坑夫たちの点呼が行われている場所にやってきた2人は別々の方向へ分かれる。 名簿を受け取った坑夫長は、監視員を除いて全員集合しました、やっぱり五郎は上がってきませんよと所長に報告する。 その頃、坑道の中に調査に入った田代巡査(熊谷二良)が案内してきた坑夫たちに、すると五郎はこの奥に残っていると言うんだね?と聞いていた。 外に出るにはここを通らなければ出られませんからと案内した坑夫の捨やん(如月寛多)は答える。 その時、奥の方から水音が聞こえてきたので、いた!と案内の1人仙吉がおびえるが、ビクビクするない!と捨やんが叱りつける。 まだ誰か残っているのかね?と懐中電灯で暗闇を照らしながら田代巡査が聞くので、いえ、残っているとなりゃ五郎でさあと仙吉が答える。 よし、行ってみよう!と田代巡査は決意し、捨やんもええと賛成し、早くしねえかと仙吉からロープを受け取ろうとする。 仙吉は、世話を焼かせやがるな〜吾郎の奴‥とぼやく。 そのロープを互いの胴に巻いて命綱として繋がり、捨やんを先頭に3人は水が溜まった坑道内に進んでゆく。 やがて奥の暗闇の方から奇妙な音が聞こえてくる。 あの音は何だい?と田代巡査は聴きながら腰から拳銃を抜く。 五郎か?五郎っち〜!と捨やんが暗闇に向かって声をかけるが返事はない。 田代巡査は捨やんを促しさらに奥へと進む。 さらに水音が聞こえたので、五郎か?吾郎っち〜と仙吉も声をかける。 次の瞬間、水音が響いたので、仙吉が誰か!と怯えるが、てめえみたいな腰抜けはないぞ!付いて来い!と捨やんが叱るが、次の瞬間、先を進んでいた捨やんは恐怖の悲鳴をあげながら水の中に沈んでしまう。 奇妙な鳴き声が大きくなり、暗闇に向かって発砲した田代巡査も水の中に引きずり込まれる。 ロープで自分も水の中に引きづられた仙吉は持っていたナイフでロープを切断し、その場から逃げ出す。 水から上がり、壁面に設置された坑内電話で表に連絡しようとした仙吉だったが、背後に迫った謎の陰に襲撃されてしまう。 やがて坑内で見つかった3人の遺体が担架で医務室に運び込まれて来る。 技師室に集まっていた井関(田島義文)ら記者たちは電話で各本社と今回の凶悪事件について連絡を取っていたが、検視を終えた検屍官らが所長室にやってきたのに気付くと自分たちも一斉に所長室へ向かう。 記者たちがペンを構える前に立った検視官は、こんな殺しってありませんよと言い出す。 どんな凶悪な犯人でも屈強な男を4人までも続けざまに殺す‥、田代巡査の首は皮一枚残してほとんど千切れかかっている、日本刀のような鋭利な刃物でもなければ考えられませんと検死官は言う。 凶器は何です?と警官の西村(小堀明男)が聞くと、全然見当がつかんのですと検屍官は首をかしげる。 まさか日本刀を持って入坑している事は‥と所長が聞くと、もちろん考えられませんと部下が即答する。 とにかく万難を排して坑内を徹底的に捜索しようと西村は提案する。 その夜、炭鉱長屋では、興奮してキヨの家に向かうお民を主婦たちが何とか止めようと慌てていた。 主婦たちを振り払いキヨの家にやってきたお民は、おキヨちゃん!おキヨちゃん!と叫びながら玄関を叩くので、中に浴衣姿でいたキヨは怯えて襖の陰に身をひそめ、離して!一言言ってやりたいんだよ!と外から聞こえて来るお民の怒声に耳を傾ける。 玄関前では、そりゃあさ、あんたの気持ちは分かるけどさ!と必死に主婦たちがお民を取り囲んで止めていた。 ね、落ち着いてね!と言い聞かせ、泣き出したお民を家まで送って行く。 遠ざかって行くお民の鳴き声を聞きながら、襖に身を持たせかけたキヨは茫然自失の状態だった。 主婦たちに抱きかかえられ、泣きながら連れ帰られていたお民とすれ違い、キヨの家にやってきた河村だったが、キヨは泣いていた。 突然河村が戸を開けると、驚いて顔を上げたキヨだったが、恋人の河村と気付くと立ち上がり、繁さん!と言いながら抱きついて行く。 河村はそんなキヨをちゃぶ台の前に優しく連れて行くが、キヨはちゃぶ台に顔を伏せて泣き続ける。 ちゃぶ台の上には布巾をかけた五郎用の夕食が置いてあった。 キヨちゃん、僕は五郎さんじゃないって確信ができたよと河村はキヨに話しかける。 驚いたように顔を上げたキヨに、殺された捨やんも仙吉も五郎さんとは仲良しだった…、殺す理由なんて何もないんだ!そうだろう?と河村は指摘する。 僕は五郎さんという人を知っているつもりだ、良いかい?まだ諦めちゃいけないよ、ね!と河村はキヨを力づける。 その言葉に頷いたキヨだったが、またすぐに泣き出し、河村の掌の上に顔を伏せる。 その時、河村は長屋の裏庭から聞こえてきた奇妙な鳴き声に気づき驚く。 開け放った障子の間から姿を見せたのは牛ほどの大きさの見たこともない巨大昆虫だった。 巨大昆虫は部屋の隅の置いてあった鳥かごを振り払って部屋に上がり込もうとしたので、河村とキヨは玄関の方へと逃れる。 表に出た河村は、お〜いみんな!来てくれ!早く!と助けを叫ぶ。 その声に気づいた警官や仲間たちが一斉に長屋に駆けつけてくる。 集まってきた警官たちをキヨの家の前に案内してきた河村が、中に何か しかしメガヌロンは突き進んできたので、警官たちは玄関から外に逃げる。 外では、みんな早く、西町の方へ逃げてください!と呼びかける。 どうしたの?と騒ぎに気付いた主婦たちが聞いてくる。 宿舎中にサイレンが鳴り響き、住民が暗い外に出てくる。 メガヌロンは裏庭から逃げ出したので、その報告を受けた警官たちもメガヌロンが向かったボタ山の方向へと走る。 先頭を走っていた河村は、聞こえてきた鳴き声でボタ山を登っていたメガヌロンに気づき、あそこだ!と指差す。 銃を持った西村は、よし、行くぞ!と仲間たちに声をかけ、ボタ山に向かう。 ボタ山の天辺付近に登ったメガヌロンを前に、撃て!と西村は命じ、警官隊は一斉に銃撃を始める。 銃弾が命中したメガヌロンは1人の警官に覆いかぶさってくる。 警官を掴んだメガヌロンは警官もろともボタ山を転げ落ちてゆく。 部下を失った西村は、しまった!と悔やむが、よし行くぞ!と命じてボタ山を降りてゆく。 山の下には血まみれの2人の警官の死体が転がっていた。 その場でその傷口を調べた検屍官は、河村くん、今までの犯人もあいつだったと教えたので、あいつが!と河村は驚く。 メガヌロンはまだ死んでおらず、草むらから洞窟の中に姿を消す。 炭鉱事務所の所長室に戻ってきた西村は捜査本部に電話をかけ、本部?西村だ、警備隊はどうしたんだ、茜巡査と加藤巡査がやられたんだ!何をしてるんだ、とにかくね、ピストルじゃ歯が立たないんだから!早くしてくれ、早く!こっちは待ってるんだ!と怒鳴りつけたので、部屋にいた所長たちは驚いて互いに顔を見合わせる。 そこへ警官が駆け込んできて、怪物はバリケードを破って坑内に逃げ込みました!と西村に報告する。 坑道の入り口前では多平(榊田敬二)という坑夫が血まみれで倒れていた。 駆けつけた坑夫仲間が抱き起こし、西村が担架に乗せるよう命じる。 傷を見た監視官が、すぐ病院へ!と指示する。 その時、技師長、中に五郎さんが!僕が探してきます!と坑夫の1人が声をかけ他ので、ばかな!今入れば危険だと技師長は止める。 西村は、とにかく連隊が来るまで待ちたまえと坑夫に言い聞かせる。 やがて夜の闇の中、マシンガンなどを装備した警備隊の車両部隊が到着する。 マシンガンを抱えて坑道の入り口にやってきた警備隊に敬礼した西村は、ご苦労でしたと労うと、案内してくれたまえと坑夫に頼む。 坑道内の電気が灯され、西村と案内役の坑夫数名、警備隊員たちは坑道の奥へと下ってゆく。 そして警備隊は銃器をその場に設置する。 先頭を歩いていた河村は、あ、水が引いている!と気付く。 坑夫たちは用心しながら坑道を降りてゆき、先頭にいた河村は、五郎の死体を発見し、五郎さん!と呼びかける。 そこにメガヌロンが迫ってきたので、警備隊はマシンガンを発砲する。 それでもメガヌロンはビクともせず坑道を登ってきたので、河村や警備隊員たちは後退する。 その時、河村は、単車を落とします!と言い出し、坑道の線路に停めてあったトロッコの留め金を外しに行く。 石炭を積んだトロッコに自らも乗り込み走り出したトロッコから、河村は勢いをつけたところで飛び降りる。 トロッコは下から登ってきたメガヌロンに激突して、弾き飛ばされたメガヌロンは水没していく。 河村たち坑夫は五郎の死体を回収しようと近づくが、石をどけようと側の穴の内部に河村が脚を踏み入れた時、またメガヌロンが姿を現したので、またいたぞ!撃ってください!と河村は穴の中から警備隊に呼びかける。 西村や警備隊がそれに応え発砲してくる。 その時、落盤が起き、河村は岩の下敷きになるメガヌロンと同じ穴の中に閉じ込められる。 穴の外から、西村が、河村くん!河村くん!と呼びかけるが、穴の中は落ちた岩で埋まっていた。 後日、連絡を受けてやってきた古生物学者柏木久一郎(平田昭彦)を前にした所長が、メガヌロンの写真を見て、こうしてみるとヤゴですな〜ど感心していた。 古生物学にとって驚くべき発見です、メガヌロンと呼ばれる巨大なトンボがいたことは化石によって証明されているのですが、これはその幼虫ですと柏木が指摘しているところに井関記者がやって来て、西武新聞の井関ですと柏木に名刺を差し出す。 石炭層の中にそのメガヌロンの卵が埋もれていて、それが孵化するにふさわしい温度なり湿度に恵まれて…、ご存知でしょうが3〜4年前、何千年か昔の蓮の実から芽が出て花が咲いたという話もありましたな?と柏木が言うと、聞いていた西村ははあ、ありましたと頷く。 今度の場合は地殻の変動によって自然にメガヌロンの幼虫が発生する状態が生じた…と考えられるのですと柏木が解説している時、坑夫が入って来て所長に挨拶をする。 河村くんはどうした?と所長が聞くと、思いの外落盤がひどいので全然応答がありませんと坑夫は答える。 その時、あ、地震だ!と記者の1人が気付く。 天井の電灯が揺れ、近くの火山から噴煙が湧き出し、地盤が陥没する。 その直後、地震研究所の砂川宛に柏木博士から電話が入る。 地震の原因は?何か噴火の兆候でも?と柏木が聞くと、はあ、断定はできませんが近くに変動が起きていることは事実ですと砂川は答える。 で、震源地はやはり火口付近?と柏木が聞くと、それが違うんです、炭鉱と火口のほぼ中間の地点で極めて浅い地殻の変動ですと砂川は答える。 わかりました、早速調査に参りますと答え電話を切った柏木博士を前に、車の用意!と西村が部下に命じる。 ジープ2台で震源地付近に向かうが、路上に立ちふさがった男たちがダメだ!と手を振って止める。 ジープから降りた西村や記者たちが近づくと、そこから先の地盤は陥没しており道路も消えていた。 不思議です、これでも我々の方から言いますと震度ゼロ!ほんの地表の陥没なんですと随行してきた地震研究所の砂川は言う。 その時、ほら、あんなところに人が!と井関記者が陥没した地面部分を指指す。 ふらふらと歩いてきて倒れた人影を見た西村たちは救出に向かうが、その男は行方不明になっていた河村技師だった。 河村くん!河村くん!しっかりして!と駆けつけた炭鉱仲間が声をかけるがなぜか反応はなかった。 どうしてこんな所へ?と西村は驚くが、柏木は首をかしげるばかりだった。 河村さん!西武新聞の井関ですよ!河村さん!河村さん!と井関記者が呼びかけるが、助け起こされた河村は井関を不思議そうに見返すだけで何の返事もしなかった。 怪我の手当てを済ませ炭鉱事務所に連れてこられた河村を抱えていた医者水上(高木清)は、完全な記憶喪失ですと出迎えた所長に告げたので、所長はえっ!と驚く。 技師室に連れてこられた河村に、河村さん!お帰りなさい!と同僚たちが声をかけるが、河村は全く反応しなかった。 所長室の椅子に腰掛けさせられた河村に、河村君、僕だ、僕の顔が分からんのか?よく見るんだ!思い出すんだ!と所長が肩を揺すって呼びかけるがやはり無反応だった。 僕の名前を言ってみたまえと所長が命じても河村は悲しそうな顔をするだけだった。 そこに恋人のキヨが連れてこられる。 柏木に勧められ、河村の側に近づいたキヨは、繁さん!と何度も呼びかけるが、やはり河村は怯えたような顔でキヨを見つめるだけだった。 そんな河村を目の当たりにしたキヨは、その方に顔を埋め泣き出す。 水上さん、一体どうすれば良いんだ?と所長が医者に問いかけると、は、極力過去の記憶を呼び戻す手を尽くすより方法はありませんと水上医師は答える。 こう言った完全記憶喪失は一万人に1人くらいしかないんです、回復するかどうか疑問です…と水上は悲しげに告げ、ひとまず入院させますと言う。 医者たちが河村を部屋から連れ去ると、後に残されたキヨは泣き崩れる。 はい、静かに!目を瞑って!もう一度目を瞑って!大きく深呼吸! 水上医師の病院に入院した河村に治療が始まり、キヨもその様子を見守っていた。 やがて河村に古代の恐竜の絵などを見せ、これは?と柏木と学者たちが質問し始める。 これはメガヌロンと言う君が現実で見た古生物だ、思い出さんかね?と言いながら柏木が写真を見せるが、河村はその写真を凝視するだけで、やがて苦しくなったように頭を抑える。 キヨが案じて、繁さん!と呼びかけ立ち上がらせるとベッドに連れていき横にならせる。 その頃、西村の警察署に阿蘇の火山研究所から電話が入る。 うん?阿蘇に噴火の兆候?火口付近は立ち入り禁止?分かりました、期間は当分の間…、はい分かりました、すぐ通達を出しますと西村は答える。 その会話を聞いていた警察署長(千葉一郎)が、嫌なことばかり続くじゃないか、炭鉱の怪物事件も原因不明なのに…、今度は阿蘇の爆発か?とぼやいて来る。 飛行機雲を残しながら青空を飛ぶジェット機から、こちら、北原、国籍不明の一機、福岡方向に向かって飛行中!高度2万!進路北北西!超音速!という報告が航空防衛隊基地に入る。 なに?音速を超えている?と報告を受けた航空自衛隊司令(三原秀夫)は驚く。 北原機、北原機!こちら司令、直ちに追跡詳細を知らせ!直ちに追跡詳細を知らせ!と航空自衛隊幕僚武内(津田光男)が無線で指示する。 ジェット機に搭乗していた北原は了解、了解!と答え、国籍不明機を追尾し始める。 しかし謎の飛行物体は空中をありえないスピードで旋回飛行する。 その直後、司令部、司令部!こちら北原、こちら北原、福岡に向かって追跡中!速力は我が方の1倍半!と北原が返信して来たので、司令部では、なに!1倍半?と驚きの声が上がる。 国籍、機種ともに判明せず!との報告に、北原機!北原機!追跡しろ!出来る限り食い下がるんだ!と武内は無線で呼びかける。 北原は、了解、了解!と答えて追跡を続行する。 やがて、あっ、方向を変えました!突っ込んできました!途方もない巨大な!畜生!という無線を残し、北原からの連絡は消える。 司令は、北原!北原!と無線に呼びかけるが応答はなかった。 その後、井関記者も同席の中、届けられた血まみれの北原の遺品のヘルメットを前にして、バカな!と司令は吐き捨てるが、しかしレーダーがその状況をはっきり捉えておりますと武内が答える。 君そんなこと考えられるか?超音速のまま宙返りをしたらどんなことが起きるか?と司令が詰め寄ると、は、もちろん不可能です、しかし目撃したものはみんな口を揃えて…と武内が答えたので、司令は不機嫌になり机に戻る。 じゃあ君は一体何だと思うんだね?と司令が問いかけると、空飛ぶ円盤か何処かの国の秘密兵器でしょうと武内は答える。 そこに電話がかかってきたので、受話器を取り、いるよと答えた武内は、君!局からだと井関に声をかける。 電話を受け取った井関は、えっ?IBOAが一機不明?何?東シナ海に空飛ぶ円盤?は、すぐ帰りますと電話相手に返事したので、側で聞いていた司令と武内も耳を攲てる。 受話器を置いた井関はイギリスの旅客機が消息を絶ったそうです、原因は例の飛行物体ですと司令たちに知らせる。 それを聞いた司令は、えらく荒らし回るじゃないかと腕を組んで考え込む。 この未知の飛行物体に関して世界中の放送局が情報を流し始める。 北京、フィリピン、沖縄、東京… 地球は狙われているのでありましょうか? 空飛ぶ円盤と想定される物体の被害は実に想像を絶するものがあります、しかもその飛行物体は速度、航続距離から判断すると、ただ一体の被害とは考えられません。 すなわち北京襲撃11時、マニラ襲撃11時20分、いずれも日本時間…とニュースが流れていたが、白い手袋の女がカーラジオのスイッチを止める。 お止めになったらいかがです?何れにしても火口は見られませんと、車に乗り込む若い新婚カップルにホテルの支配人が声をかけていた。 すると若い男の方が、地震研究所に友人がおりますのでなんとか見て来ますよと答え、運転席に乗り込むと車を出発させる。 阿蘇の火口付近にやってきた若いそのカップルは、夫の方がカメラを構え、新妻の写真を撮ろうとしていた。 岩に腰掛け、空を見上げてポーズを取ろうとした新妻は空に何かを発見し唖然としたような顔になる。 次の瞬間、悲鳴をあげる新妻に高音を発する何かが接近する。 夫の方も驚き、妻の手を取ってその場から逃げようとする。 巨大な黒い影が逃げる二人の上を飛び去ってゆく。 妻が転び、夫だけ先に逃げようとするがその上を巨大な影が飛びすぎる。 脱げた新妻の白いハイヒールに強い風が吹き付ける。 井関は西村の警察署に持ち込まれたそのハイヒールや壊れたカメラを前に、心中なんてとても考えられません、仲間はそんな男じゃないですよと友人らしき男が証言しているのを聞いていた。 状況判断からして、心中にしちゃ、このきゃキャメラと靴が落ちていた位置が遠すぎやしませんか?と井関は西村に告げる。 そうなんだよと西村も頷くと、しかも靴は片方だけ、だいたい死ぬって奴は決まって揃えておくもんですがね〜と井関は指摘する。 そこに、あの〜、また阿蘇で放し飼いの牛が三頭盗まれたと言うんですと被害届を出しに来た男の話を聞き終えた警官が報告に来る。 そりゃあ君…と西村が立ち上がった時、現像室から係官が現像ができましたと、カップルのカメラに入っていたフイルムを持って出てくる。 お、できたな!と喜んだ西村は、君、良く調書をとっておきたまえと警官に指示し、受け取ったフイルムを見ながら、井関君、このカメラに入っていたフィルムなんだよと教える。 ほお、なるほどね、心中するには楽しそうだよと2人の姿が映ったフィルムを覗き込んでいた西村だったが、あ?何だい、こりゃ?とある一コマに写った不思議な影を見つけて聞く。 その後、井関は柏木博士のもとにそのフィルムを焼いた写真を持ち込み、先生、空飛ぶ円盤にしちゃ変でしょう?何かこう…、動物のような…と質問する。 一緒にその写真を見ていた助手2人がすぐに書棚から参考文献を数冊抜き出す。 一枚の想像図を写真に重ね合わせた助手の葉山(松尾文人)は、これですよ、プテラノドンですと教える。 しかし柏木は、葉山君、まだそう断定するのは早いと言い聞かせる。 しかしこの写真、そっくりじゃありませんか?と井関は横から口を出す。 そんな井関に、プテラノドンはせいぜい27〜8フィートだったと推定されているんですと答えた柏木は、それがジェット機を叩き落とすというのはどうでしょうか?と問いかける。 それでも井関は、しかしこのプテラノドンですか?この一種だとしたら人間や獣をさらったとしても不思議はないでしょう?阿蘇では頻々と放牧された牛や馬がいなくなってるんですよ!と食い下がる。 そうです、同じ時代のメガヌロンも発生してますからと葉山も横から指摘する。 河村君が回復していてくれたら何か手がかりがつかめるかもしれないと柏木は漏らす。 その頃、入院中の河村は一人黙々と何かの絵を描いていた。 そんな河村の世話をしていたキヨは、ベッドの支度ができたのでどうぞと声をかける。 キヨが絵を覗いてみると、そこには坑道の中の様な模様が描かれていた。 無反応な河村にがっかりしたキヨは、窓辺に下げていた鳥かごの中の様子を見やる。 そしてキヨは、繁さん、見てごらんなさい、可愛いわ〜、赤ちゃんが生まれるのよと鳥かごの中を見ながら話しかける。 そしてカゴから取り出した鳥の巣を茂の前に持ってきて中を覗かせる。 そこには小さな卵が2個あり、その片方が動いて今まさに殻を割って雛が生まれるところだった。 それを見た河村は、坑道内の洞窟で落盤の後、気がついたときのことを思い出す。 (回想)目覚めてふらつきながらも立ち上がった河村は、不思議なキノコの様な物が生えた洞窟内を見渡す。 洞窟内にはコウモリが飛び回っていた。 岩の上には何匹ものメガヌロンが蠢いていたので、怯えて逃げかけた河村の眼の前にあったのは巨大な卵だった。 その卵はゆっくり動き出し、表面にヒビが入ると上部の殻が割れ、中から巨大な鳥の様な怪獣の子供が姿を表す。 怪獣の雛は近くにいたメガヌロンをついばみだす。 殻の中の雛が羽ばたくと、風が巻き起こる。 そんな状況の中、河村の顔から表情が消えてゆく。 (回想開け)病院のベッドに寝かせられた河村が何かに怯え出したので、繁さん!繁さん!とキヨは河村の手を抑えながら呼びかける。 やがて興奮状態から脱した様子の河村はキヨの顔を見て、キヨちゃん!と呼びかけてきたので、キヨも繁さん!と喚び返す。 キヨちゃん、僕は?僕は一体?と戸惑うので、繁さん、あなたは気がついたのよ!あなたは!とキヨは呼びかける。 連絡を受けた井関が駆けつけてくる中、病室で柏木博士からプテラノドンの想像図を見せられた河村は、これです!これに間違いありませんと断定していた。 西村も同席している部屋でありがとうと礼を言った柏木はその想像図を所長に見せる。 想像図を受け取った所長は、う〜ん、こいつが坑道の奥でヤゴを食って大きくなったと言うんだね?と信じられないといった表情で河村に聞く。 そうです、大きな卵が目の前で割れて‥、それがヤゴを食べたんですと河村は答える。 それを聞いた柏木は、よし、はっきりその所在を確かめましょう、宜しくお願いしますと西村に依頼する。 河村を伴い、再び坑道内に入った西村と坑夫達は、問題の洞窟内に入ってみる。 ここです!確かにここに大きな卵があったんですが…と案内してきた河村が怪訝そうに西村や柏木に教えるが、それじゃあ河村君、卵の殻でも残ってそうじゃないか?と西村が疑問を口にする。 うん、しかし落盤で埋まってしまったのかもしれない、弱ったな〜と柏木博士が口を挟む。 すると河村が岩の間に隠れてい卵の殻の一部を発見し、先生、これです!これが卵の殻です!と嬉しそうに差し出す。 これが?と言いながら、殻を叩いてみた柏木だったが、その時、同行していた坑夫達が、落盤だ!と叫んで逃げ出す。 西村がみんな逃げろと誘導し、全員その場から脱出する。 額に負傷しながらも、何とか卵の殻を持ち帰った柏木博士は早速研究を始める。 そこへ葉山助手が分析の結果を持って来て、ほとんどカルシウムといって良いくらいと告げると、パーセンテージは?と柏木が聞くので90%と葉山は答える。 そうか、電子顕微鏡で見た結果も、この鶏卵の構造とそっくり同じだよ、ま、覗いてごらんと柏木博士は顕微鏡から目を離して葉山に勧める。 顕微鏡を覗いた葉山は、なるほど、卵の殻と同じですねと感心する。 問題はこの卵の大きさだ、このカーブを形成する球面体の大きさが問題なんだと柏木は、洞窟から持ち帰った卵の殻の一部を前に言う。 南物理学研究所の電子計算室に持ち込んで、コンピューターで卵の大きさを計算してみるが、これが卵とはどうしても信じられんな、まるでアラビアンナイトに登場する怪鳥の卵だよと出たデータを見た南博士(村上冬樹)は苦笑する。 今はもう宇宙旅行をやろうとする科学の時代だよと言いながらデータを柏木に渡した南博士は、こんな途方も無いものが自然に…とからかうが、自然は人間の想像以上に奇なりか‥、世の中にはまだまだ不思議な出来事が無数に転がっているよとデータを見た柏木博士は言い返すし、データを連れて来た葉山と須田助手(草間璋夫)に見せる。 しかし君…と南博士は何か言い返そうとするが、いやありがとう、これが確信ができたと言いながら柏木博士は嬉しそうに立ち上がる。 警察署内にできた「緊急対策本部」では柏木博士による記者会見が行われる。 繰り返すまでもなく、このプテラノドンは空飛ぶ生物の中で史上最大のものとして記録されておりましたが、発見された卵殻の一部から計算されたラドンは、実に翼の全長約70フィート、体重は100トンを超える数字が電子計算機によって実証されたのでありますと柏木は警察関係者と記者に発表する。 この巨大なラドンの飛翔力を同じく電子計算機によって計算いたしますと、あのソニックブーム…、つまり衝撃波を起こす破壊力も当然と言う答えが出て参りますと柏木は続ける。 その場には河村も同席していた。 話を聞いていた西村が、博士、質問があります!と言い出す。 どうぞと柏木が許すと、ではこのようなラドン誕生の原因について博士はどうお考えになりますか?と西村は質問する。 私もその原因については確信を得ておりません…と答えながら虚空自衛隊司令の横に座った柏木博士は、ただ1つ考えられることは原水爆実験、空気や海水を汚したなかりでなく、大地にも相当大きな影響を与えていると言う、この新しい強烈なエネルギーが2億年も眠り続けていたラドンを今日になって揺り起した!とも考えられるわけですと答える。 やっぱりそうでしたか…と西村が納得したので、断言はできません!そう断言するわけにはいかない…と柏木博士は自信なげに答える。 博士は、現実問題としてラドンがどこからこの地上に飛び出したのか?その点を一つ…と航空自衛隊幕僚武内が聞く。 立ち上がった柏木は黒板に貼られた地図を指しながら、間違いなくこの炭鉱から阿蘇火山に通じるこの地域ですと大まかに囲って示す。 特に火口内側にできた空洞とこの陥没地点を結ぶ線、これを十分監視調査の必要がありますと柏木は司令に伝える。 その後、ジープ3台に分乗した関係者たちがその場所に向かう。 先頭車両に乗っていた西村が合図をし、停まったジープから記者たちが降りると、目の前の地面が噴出しだす。 異変を察知した記者や警官たちが高台に登って眺めると、何だあれは?と驚く。 地底からラドンが地上に姿を現したのだった。 あ、あれだ!確かにあれだ!僕が洞窟で見た!と河村がラドンを指差す。 良し!すぐ対策本部に連絡を取れ!と西村が命じる。 奇声を発したラドンは、連絡のため走り出した一台のジープに目をつけ飛び上がる。 驚いた河村や西村、柏木や記者たちが倒れこむと、飛び立ったラドンは走るジープに向かってゆく。 ジープのすぐ真上をラドンが飛びすぎると、翼が巻き起こしたソニックブームでジープは横転大破する。 ちくしょう!と叫びながら河村は立ち上がろうとするが、そこにまたラドンが舞い戻ってきたので全員身を伏せる。 ラドンはどこへともなく飛び去ってゆく。 何?ラドンが飛び出した?良し分かった!と対策本部に待機して電話を受けた武内が答える。 直ちに航空自衛隊のジェット機三機が飛び立つ。 しかし飛行機雲を出しながら超音速で飛ぶラドンにはなかなか追いつけない。 何とか近づき発砲しても、ラドンは急旋回で方向を変えてしまう。 ミサイル攻撃しても、すれ違った時のソニックブームでジェット機は破壊されてしまう。 2番機、3番機、応答なし!と対策本部の無線係が報告する。 そこへ、司令部、司令部、こちら岩村!ただいまラドンは佐世保上空を通過!と言う声が飛び込んでくる。 それを聞いた司令は、良し、海上へおびきだせと命じる。 了解、了解!と答えたパイロットの岩村は追加のジェット機たちとラドンを追尾する。 佐世保の街中にサイレンが鳴り響き、市民たちが何事かと空を見上げる。 山頂にいたピクニック客たちが、ラドンだ!と指差す。 長崎の大浦天主堂の上を通過するラドン。 西肥バスに乗った観光客も空を見上げる。 パイロットの岩村は必死にラドンの後部から射撃を加える。 しかし急旋回して戻ってきたラドンは完成したばかりの西海橋に接近する。 橋の上に大勢集まっていた見物客たちに、皆様、危険ですからバスにお戻りください!とバスガイドが声をかける。 それを聞いた観光客たちは一斉にバスに駈けもどる。 次々に出発しその場を離れる西肥の観光バス。 追尾するジェット機はさらにラドンに攻撃を加えるが、ラドンには全く効果がない。 ラドンは西海橋に急接近したので、橋の近くで見上げていた地元民たちは逃げ出す。 ラドンは海中に落下したかに見えたので、パイロットの岩村はやった!と喜ぶ。 ジェット機3機は橋の上を飛びすぎながら海に射撃を加える。 大きく旋回してまた西海橋に接近して来たジェット機だったが、その時海中からラドンが急に飛び上がってくる。 飛び立ったラドンはジェット機を追いかけ西海橋を通過したので、西海橋はソニックブームのあおりを受けて倒壊する。 岩村パイロットは、ラドンは福岡方面に逃走中、我が命中弾により速力半減!と連絡する。 やがて博多港が見えてくる。 港にサイレンが鳴り響き出す。 戦車や自衛隊車両が福岡市内に入ってくる。 天神地区の新天町商店街も、サイレンの中、店の片付けが始まる。 急いでシャッターを下ろす店、雨戸を閉める店。 対策本部に待機していた防衛隊幹部(向井淳一郎)たちは双眼鏡を持って窓の外を見守る。 その時ラドンの姿を見つけた司令は、あ、来たぞ!と叫ぶ。 市内中央部に位置する大濠公園上空をラドンは天神地区方面へと飛び去る。 街中を逃げ惑う市民たち。 ラドンは中洲地区の上空に飛来する。 日活ホテルや近隣のビルがソニックブームで倒壊する。 橋の上の西鉄バスも吹き飛ばされ那珂川に落下する。 早く、早く!急いで急いで!と避難民を誘導する自衛隊員。 まだ店内で客が逃げていた天神地区の岩田屋デパートの屋上にラドンは降り立つ。 鳴き声をあげたラドンが羽ばたき、西鉄福岡駅と停まっていた電車が横転する。 近隣の民家の屋根瓦が吹き飛ばされ、ラドンが飛び降りて岩田屋裏の福岡駅を破壊する。 強風で西鉄街が破壊されたので、それを見た防衛隊幹部は特殊隊に岩田屋裏手のスポーツセンターを包囲させ、ラドンに集中攻撃させる。 戦車部隊がスポーツセンターに集まってくる。 ラドンに対して砲撃を開始する戦車隊。 ラドンが羽ばたく中、戦車はカルピスの看板を押し倒し接近する。 特殊車両のポンポン砲も発射される。 苦しんだラドンは飛び上がりスポーツセンターの屋根に飛び上がる。 スポーツセンターがラドンの重さで倒壊し、横についた水槽から水が溢れ出す。 怒ったラドンは羽ばたき、周囲の家の屋根だけではなく家そのものも次々に吹き飛ばされていく。 その大風から身を守ろうと街路樹にしがみついた自衛隊員だったが、すぐに吹き飛ばされる。 吹き飛ばされたタンクローリーが、豊楽遊技場に突っ込み火を吹く。 強風に煽られ火は瞬く間に燃え広がる。 その惨事を窓から双眼鏡で見守る防衛隊司令と幹部たち。 その対策本部の部屋にもラドンが接近して壊し始めたので、幹部たちは逃げ出す。 遊技場の火事の延焼を防ぐため消防車が近づいてくる。 崩壊した対策本部で、幹部たちが体勢を立て直しかけたとき、報告!高度1万!新しいラドン出現!との連絡が入ったので、向こうだ!と司令や幹部たちは別方向の窓に向かう。 海上へおびきだせ、海に誘い出すんだ!と双眼鏡で新たなラドンを見ながら司令は命じる。 スポーツセンター付近で攻撃されていたオスラドンの上空を角がやや短いメスラドンが飛んでいく。 メスラドンの空からのソニックブームで特殊隊がひるんだすきに、オスラドンが飛び立つ。 西村や柏木博士たちが対策本部に駆けつけると、見てくれ、この始末だと司令は部屋を見渡しながら答えたので、ひどいなこれは…と西村はあまりの惨状に驚き、ラドンは?と聞くと、逃げられたと武内は無念そうに答える。 ここだけではない、八幡地区も相当な被害を受けていると言う。 夜になり火事が続く町の様子。 以上、各地の情報を総合しても、その後ラドンはどこにも現れてはおりません…と翌日の会議で武内が報告する。 どこか熱帯のジャングルにでも逃げ込みましたかな?と参加者が発言すると、いや、ラドンは必ず阿蘇にいますと柏木博士が答える。 阿蘇にですか?と聞かれた柏木は頷き、阿蘇には帰巣本能と申しまして住処に舞い戻ってくる習性があるんです、河村君の証言によっても、今の所阿蘇が彼らの巣と考えるほかありませんと柏木博士は発言する。 その後、ヘリで阿蘇上空を飛んだ柏木博士らだったが、同乗した井関記者は下界の様子を見て、いませんねと言うので、柏木博士は降りてみましょうと司令に指示する。 すると、白いハイヒールと白骨が散乱している岩場の側の洞窟にラドンの姿を発見したのが見えたので、いたぞ!やっぱりいた!と気付く。 対策本部に戻ってきた司令は、第一攻撃隊はあらゆる火砲を阿蘇火口に撃ち込んで洞窟の入り口を閉鎖する、同時に第二次攻撃隊はこの陥没地帯を爆破して徹底的にラドンの脱出を不可能にする!と作戦を披露するが、ちょっと待ってくださいと口を挟んだ地震研究所の砂川は、そんなことをしたら阿蘇は大爆発を起こしますと警告する。 噴火が誘発されたらめっけものじゃないかと武内が答えると、とんでもありません、もし溶岩が山麓付近に流れ出したらどうします?と砂川は指摘する。 しかし…と武内が反論しようとするが、いや私は絶対反対です!と砂川は反対する。 砂川さん、もちろんそうするためには危険地帯の住民を即刻避難させますと西村が横から口を出すが、それだけで済む話ではありません、山林は…、田畑は…と砂川の姿勢は強硬だった。 それに対し西村は、御覧なさい、北九州一帯のこの被害を…、ラドンが生きている限り我々は文句も持って行き場のない被害を被らなければいけないのですと説く。 これにはさすがの砂川も黙り込むしかなかった。 阿蘇の麓の住民たちの避難が始まる。 防衛隊の戦車やミサイルが阿蘇山麓に運び込まれる。 用意されたバスに乗り込む避難民たち。 本部、本部!こちら前線司令部! 14:07分、現在地、火口山頂地震研究所にに設営完了!以後の連絡はこちらから参ります!と無線の準備も整った中、西村さん?住民の避難は全部無事完了、事後の報告を前線司令部と共にする!と電話連絡も始まる。 第一次攻撃部隊準備完了次第報告せよ! そんな前線司令部に来ていた河村は、窓から外を見て驚いて部屋を出てゆく。 キヨが近づいているのが見えたからだった。 外に出た河村はキヨちゃ〜ん!と呼びかけ、その声に気づいたキヨは走り寄って来て、繁さん!と呼びかける。 みんな避難したんだろう?どうして君だけ?と河村は咎めるように聞と、私、どうしても来たかったんです、ごめんなさいとキヨが詫びて来たので、その腕を掴んだ河村は、ありがとう、ここは危険だ、さあ、早く行こうと前線司令部となった地震研究所へ案内する。 第一攻撃隊準備完了!攻撃開始!はい!と前線司令部では作戦が遂行されていた。 攻撃開始!発射!前線部隊が無線の指示を聞いて手旗信号を出し、ミサイルを発射する。 次々とミサイルが阿蘇の火口付近に命中し爆発する。 瓦礫がラドンが隠れていた洞窟の入り口を塞いでいく。 戦車隊も砲撃を火口に加える。 さらに大量の崩落した瓦礫がラドンの巣の入り口に降り注ぐ。 その時、大変です!大噴火の前兆です!ここは危険、直ちに退避してください!と砂川が幹部たちに伝える。 どうします?と聞かれた司令は、良し、草千里の尾根まで退避しようと決断する。 火口付近への攻撃はその後も続行される中、前線司令部はジープで草千里へと移動する。 度重なる攻撃の結果、ラドンの巣の入り口付近は完全に塞がれる。 第二攻撃隊準備良し!良し、攻撃開始!と双眼鏡で草千里の尾根から火口付近を監視していた司令が命じる。 さらにミサイルが阿蘇火口付近に命中する。 その時、ラドンが1匹飛び出すのを発見する。 同時に阿蘇山は大噴火を起こし、溶岩が岩肌を流れ出す。 その噴煙の上を2匹のラドンが戸惑ったように飛び回る。 それを見守る河村とキヨ。 メスラドンが力なく落下してゆき、溶岩の熱で燃えてゆく。 それを上空から見守るオスラドン。 キヨは直視できなくなって河村の肩にすがって目を伏せる。 やがてオスラドンもメスラドンの死骸の上にゆっくり舞い降り、一旦飛び上がろうとしたところで力尽きたかのように落下して行く。 攻撃態勢を解け!司令部から各隊に命令が下る。 2匹のラドンは溶岩の熱で一緒に燃え上がる。 終 |