白夜館

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花のヒロイン 

 

 

 

幻想館

 

この虹の消える時にも

昭和のアイドル御三家の1人、西郷輝彦主演映画で松原智恵子さんがお相手役を務めている。

少年院上がりで不遇な青年と目の不自由な娘の邂逅を描いたお涙頂戴純愛もので、ティーン向けにしてはかなり暗く感じる。

色々偶然が重なり不幸が不幸を呼ぶ昔ありがちだった泣かせ展開なので、多少古い映画やドラマを見慣れた世代の人にはわざとらしく感じる部分もあるかもしれないが、そう言うパターンを知らない人にとっては逆に新鮮かもしれない。

主人公の友人役で山内賢さんもしっかり参加している。

60年代後半と言えば日活も映画斜陽の影響をもろに食らっていた時期で、もはや幅広い世代向けにバリエーション豊かに作る余裕がなくなり、基本、低予算のティーン向けの映画中心に作ることを会社が決意していた頃だと思う。

後半は、本作の少し前頃までの日活作品ではお馴染みの下町の工場などが登場し、そこで働く勤労青年を演じる西郷さんはいかにも古き良き時代の日活の主演スターと言った雰囲気になる。

テルテルの愛称で親しまれていた当時の西郷さんは鹿児島出身で、熊本出身の高良健吾さんなどにどことなくイメージが似た、いかにも九州男児らしいきりっとした太眉が凛々しいイケメン。

今では歌手としてより俳優としてのイメージの方が強い方かもしれないが、この当時から単なるアイドルの余技とは思えないしっかりした演技力を見せている。

同じ御三家の舟木さんや橋さんも決して下手ではなかったと思うが、西郷さんの演技は明らかにこの時点から一味違う。

西郷さん演じる更生中の元不良と言うキャラも当時の日活では珍しくないが、人気アイドルが演じているのは珍しいような気がする。

この時点で既に何本かの映画出演をこなしていた西郷さんだが、影のある元不良役をそつなくこなしているのは天性の資質だと思う。

この後、TVドラマ「どてらい奴」の主演などに抜擢され、順調に役者としてのキャリアを積んで行かれたのも、単なる話題作りのためのアイドル起用と言うだけではなく、その演技力が認められてのことだったのだろう。

松原さんはアイドルのお相手役が多かった時期だが、舟木一夫さん主演「夕笛」の後半同様、本作でも目の不自由な薄幸な娘として登場している。

バラードが得意だった舟木さんの「夕笛」(1967)よりは明るいキャラだが、この当時の日活は、その後韓流や2000年代以降の日本映画にも影響を与えたと言われる純愛+難病やハンデのような薄幸な素材の組み合せが1つの売りだったような気もするし、個人的には松原智恵子さんと云うとこうしたドラマでの薄幸の美少女役のイメージが真っ先に浮かぶ。

ハンデにもめげず明るい性格のヒロインと言うのは目新しいが、突然町でぶつかった見知れぬ青年に自分から頼んで目的地まで案内させると言う設定はいくらなんでも御都合主義過ぎないだろうか?と言う疑問もあるが、今の少女コミックの実写化などの感覚に近いのかも知れない…とも感じる。

低予算のプログラムピクチャーなので大スターのような人が出ていないが、荒木一郎さんや若い頃の大滝秀治さんなど意外な顔も確認できる。

この頃の大滝さんは本当に不気味な悪役顔をしている。

「男はつらいよ」のおばちゃん役として知られる三崎千恵子さんも出ておられるし、少年院上がりの主人公に近づく怪しげな人買い役で、TVアニメ版「あしたのジョー」の丹下弾平こと藤岡重慶さんも出て来たりして興味深い。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼
1966年、日活、吉田憲二原案、石森史郎+堀江喜一郎脚本 、森永健次郎監督作品。

憂いを含んだ朝比奈健(西郷輝彦)の白黒の顔写真数枚

タイトル(赤文字)

東京の空撮を背景にキャスト、スタッフロール

引っ越し荷物を詰んだトラックが「隅田荘」と言うアパートにやって来る。

その荷台に家財道具と森川夏子(牧理恵)一緒に乗っていた野坂哲夫(高山秀雄)は、地面に降り立つと、やっぱりここ、隅田川の匂いがするんだな~と感心したように言う。

目が不自由なための白い杖と小鳥の入ったかごを持って助手席から降りて来た森川チエ(松原智恵子)は、姉さん、今度の家、花壇があるの?と荷台に乗っていたに聞く。

どうして?と夏子が聞くと、チエは菊の匂いがすると言うので、残念でした、チエちゃん、鉢に咲いてるんだよと教える。 そう…、良い匂い…と答えたチエはアパートに向けて歩き出す。

さあやるか!と野坂が張り切るって手を差し出すと、悪いわね、せっかくの休み使っちゃって…と夏子が詫びながら荷台から降りる。

良いから、良いからと野坂が答えていると、一代の乗用車がやって来て、そこから降り立った不動産屋が、やあどうも…、今お着きですか?と声をかけて来る。

あ、その節はどうも…と夏子が会釈して迎えると、あの…、お取り込みの所を申し訳ありませんがね、敷金の残り今いただけませんでしょうか?と申し出て来る。

敷金?昨日お店の方に持ってうかがいましたけど?と夏子はいぶかしげに答え、あ、あの人に渡しましたわ?領収書もありますわと運転席から降りていた若い男松本三郎(荒木一郎)を指すと、それなら良いんです、どうやらお宅ではなかったらしいんで…と不動産屋は言う。

車の横にいた松本に近づいた不動産屋は、お前に渡したと言ってるんだぞ、どうした?と詰め寄ると、それがその…と松本が口ごもる。

その背中をどついて、使い込みやがったな!と責めると、とんでもないですわ、実は…と松本は言い訳を始める。

その後、隅田荘の新しい部屋に荷物を運び入れた野坂は、チエの鳥籠を窓辺に吊るし、良いかい、この辺で…とチエに確認していた。 ええ、どうもありがとう…とチエが礼を言っていると、野坂さん、どうぞ…、コーヒー淹れたわ…と盆を持って部屋にやって来る。

引っ越しコーヒーか、気分出ないな…とチエが生意気なことを言いながらちゃぶ台の前に座る。 やっと慣れたと思ったら引っ越しでしょう?また道を覚えるのが大変だな…、早く公団アパート当たると良いわね…などとチエは言いたい放題。

すると夏子は、ご免え、チエちゃん、私最近申し込んでないのよと明かす。

どうして?とチエが聞くと、色々条件があってね、収入が5万円ないと資格が取れないのと夏子は言う。

ぎりぎり一杯生活している者にとっては益々住みにくくなるな~と野坂もこぼす。

するとチエは、私が早く手に職を付けて稼げるようになると良いのね?2人の収入を合わせりゃそれ以上になるわよと言い出したので、そんな心配は良いの、チエちゃんの目は見えるようになるかもしれないんだもの点と夏子は答える。

するとチエは、お姉さん達のためにもそんなのんきな事言っていられないわ、ね?野坂さんと聞くので、野坂は返事に困って夏子の顔を見ると、じゃあ、俺失礼するよ、組合の用事があるんだと言って立ち上がったので、どうもありがとう、助かったわと夏子とチエは礼を言い、帰る野坂を見送る。

送りがてら階段を一緒に下りて付いて来た夏子に、ね、夏ちゃん、うちの工場移転の話ね、やっぱり決定したよと野坂が打ち明けたので、じゃあ、福島に行くの?と夏子は聞く。

うん、来年の4月に工場の半分が向こうに転任になるらしいんだと野坂は言うので、野坂さんも?と驚いたように夏子は問いかけると、いや、まだ分からないけど…、ね、僕たちもっと真剣に結婚のこと考えるべきじゃないかな?と逆に聞いて来る。

ええ…と夏子が考え込むと、君さえその気なら僕はいつでも君を迎える心の受け売れ体勢はできているんだ…と野坂は言う。

あなたの気持、本当に嬉しい…、でも今のままじゃ、私…と答える姉の言葉が、部屋でコーヒーを飲んでいたチエの耳にも届いていた。

君の都合一切承知して言ってるんだよ、福島行きが決まるまでに何とか決心しといてくれないか?と野坂がの言葉も聞こえていた。

バス停に一緒に着たチエに、明日早番だから買って来てあげるって言ってるのに…、迷子になるわよと夏子が注意すると、大丈夫よ、浅草なら歩き慣れてるわ、それにデパートの小鳥売り場なんてどこも同じよ、エレベーターで屋上に上がれば良いんだもん!と白い杖を持った知恵は明るく答える。

車に撥ねられたって知らないわよと夏子が冗談を言うと、平気、平気、これもあるし、目立つようのこんなマフラーしてるんじゃないとチエは白い杖を持ち上げて笑う。

強情っ張り!と夏子はチエの頬をつつくと、お姉さんの心配性!とチエも負けじと言い返す。

そこにバスが近づいて来る。

その後、バスの車内では、次は二天門前、二天門前でございますと車掌が乗客に伝えていた。

じゃあ、姉さん、次で降りるけど、松屋はこの次よ、降りたら左へまっすぐ歩いて行けばデパートの入り口よ、気を付けてね?と座席に座っていたチエに教えていた。 大丈夫だってば…とチエは笑顔で応える。

それでも夏子は、知ったかぶりして方々歩かないのよ、良いわね?気を付けるのよと注意すると、二天門前で下車して行く。

その直後、乗客お知らせ願いますと車内を巡りだした車掌に、車掌さん、浜松町行くのはどこで乗り換えたら良いんですか?とチエは聞く。

浜松町駅前で降りたチエは、あのすみません、この近くにマッサージの学校があるんですけどご存知ないでしょうか?と通りかかりの主婦に声をかけて聞く。

主婦はチエの手を引いて「鍼灸科 マッサージ指圧科 東都衛星学園」に連れて来てくれる。

その頃、近づいて来た車の前に仲間数人と一緒に出て来た松本三郎は、やあ!健、助けてもらいてえんだ、顔貸しな!とフロントガラス越しに運転席の健に声をかけて来る。

車を降りて近くの林の中に付いて来た健は、冗談じゃねえや!と三郎の申し出を断ると、まあ穏やかに話そうや!と肩を叩いて来た三郎に、ふざけんじゃねえ!手前の始末だろう?手前でカタ付けな!と冷たく言い返す。

すると三郎は、それができねえから、申し上げているんじゃねえか?とにやついて来る。

な、頼むぜ…と松本が肩を叩くと、俺は帰る!と言い出したので、その胸ぐらを掴んだ三郎は、それがダチ公に対する態度か?と凄んで来る。

健は、俺はおめえ達の仲間じゃねえぜ!ときっぱり答えるが、でけえ面をするんじゃねえ!少年院出のくせに!と三郎が脅して来たので、馬鹿野郎!おめえらみたいな虫けらと一緒にされてたまるか!と健は言い返す。

すると、この!と三郎が顔面を殴って来たので、よろめいた健を仲間たちが襲って来る。

健は1人で全員の相手をする。

その後、苛立った健が車から降りた時、通りかかったチエがぶつかったので、気を付けろ!と怒鳴りつけるが、すみません、どうも…とチエが詫びると、何だ、メ○ラか…と気づいてふて腐れる。

それを聞いたチエは、失礼だわ、あなたからぶつかったんじゃない、悪いのはあなたの方だわ!お陰で方角が分からなくなったわ、連れてって頂戴!と気丈に言い返したので、どこへ?と健は戸惑う。

するとチエは、デパートの小鳥売り場!と答える。

小鳥売り場?冗談じゃない、俺は忙しいんだ!な!と健は断り立ち去ろうとするが、勝手だわ!あなたは身体障害者に親切心がないのね、社会人として失格だわ!とチエは言い出し、周囲に何事かと野次馬が集まって来たので、分かった、分かった、来いよと健は小声で答える。

するとチエは、はい!と右手を差し出して来たので。

仕方なく健はその手を引いて松屋に向かう。

デパートの屋上の小鳥売り場にやって来たチエは、鳥籠から聞こえる鳥の鳴き声を聞いて、ほら、鳴いてでしょう?どんなのかしら?と手を引いている健に無邪気に聞く。

黄色だよ、そうだな…、目がちょっと生意気で、くちばしがわがままでちょっと気の強そうな感じで…とケンが教えてやると、チエは喜んで、まるで私みたい!とはしゃぐ。

きっと一人息子なんだわとチエが言うので、どうして雄と分かるんだい?と健が聞くと、声よ、たくましいもの…、チッチッチって、何て言ったか分かる?とチエは逆に聞いて来る。

そんなの分かる訳ないよ!と呆れて健がそっぽを向くと、俺にも恋人が欲しいなって!とチエが笑顔で答えたので、調子良いな…とケンが呆れたので、ごめんなさいね、こんな所まで引っ張って来ちゃって…とチエは詫びる。

でも良い人で良かった…とチエが嬉しそうに言うので、俺が?止せやい!と健は驚いたように聞き返す。

するとチエは、分かるの、あなたの笑い声、とっても明るいんだもの!とチエは言い切る。

これにするんだろ?500円だぜと教えた健は、店員を呼んで、止まり木で胸張ってふんぞり返ってるのいるだろう?これくれと注文すると、箱を千恵に渡し、さあ、もう良いだろう?と言い聞かせ帰ることにする。

するとチエは、地下にアイスクリームコーナーがあるの、凄く美味しいのよ、奢るわ、お礼よと勧めて来る。

大した銭入ってなかったぞとチエの財布の中の事をケンが指摘すると、失礼ね、ラーメンでも良いわよとチエは膨れるので、冗談じゃないんだ、俺、忙しいんだ、な?な?と健は言い聞かせる。

デパートから出て来た健は、停留所に泊まったバスの運転手に待ってくれよ!と声をかけ、チエを乗せてやる。

チエはどうもありがとう、さよなら!と声をかけたので、健もさよなら!と答えてバスを見送る。

自分の車に乗り込み走り出した健はご機嫌になり「星娘」を歌いだす。

衣料会社「ラッキーバード」に戻ると会社の前で飯島義介(嵯峨善兵)と共に帰りを待っていた弁護士で保護司の伊藤(大滝秀治)から頬の傷に気づかれ、どうした?と聞かれたので、ちょっと急停車したものですから…と健はごまかす。

気を付けたまえよ、近頃は車の事故が多いからねと伊藤は注意して来るが、疲れている所申し訳ないが、すぐに日本橋の三ツ星デパートまで行ってくれんか?19枚を150催促されていると飯島は頼むと、出発しかけていた会社の車を停め、その車、関内門は通るか?と運転手に確認すると、伊東さん行きましょうと声をかける。

その声に釣られ飯島の方へ向かいかけた伊藤は、分かってるだろうが、社長さんやみんなの期待を裏切らんように頑張ってくれよな?と言い聞かせ、健の二の腕を軽く叩いて来る。

伊東に先に車に乗るように勧めた飯島に、ただいま!と声をかけて来たのは、高校から帰って来た娘の真理(東山明美)だった。

飯島も車に乗り込むと、車に乗りかけた健に、ねえねえどこまで?と聞いて来たので、日本橋ですよと答えると、あ、そう、銀座まで送ってくんない?と真理は頼む。

良いですよと健が答えると、あっちで荷物積むんでしょう?待っててねと言い残し、真理は着替えに一旦家に戻る。

家の門の所で母親の良枝(三崎千恵子)と出会った真理は、ただいま!ちょっと大学まで願書取りに行って来るわ、朝比奈君の車でと告げて家の中に入ろうとするので、バスで行きなさいと良枝は注意するが、気にしない、気にしないと真理が言い返したので、真理ちゃん!と叱る。

分かってる、分かってる、あの子とあんまり親しくしてはいけないと言うんでしょう?今も保護司の伊東さんが来てたわね?と玄関に入りかけていた真理は答える。

そこに、和田さんが見えていますと良枝に社員が知らせに来たので、良枝は和田(弘松三郎)に挨拶しに行く。

和田は車に荷造りをしている健を見て、あの子ですね、例の子?と良枝に聞く。 ええ、知り合いの弁護士さんが保護司をしていましてね、頼まれたんですよ、私は反対なんですけど人手不足でしょう?…と良枝は苦笑しながら答える。

いやあ、今日日の雇い主はそのくらいの太っ腹じゃなくちゃ…、社長さん、偉いですよと和田は褒める。

愛想笑いで答えた良枝は、健の手伝いをしていた城島和也(桂小かん)に、城島君あんたいい加減に免許取って頂戴よ、5回も受けりゃ要領も大概分かりそうなものじゃないのと文句を言い、その場を去る。

城島は健に、お前良い所で取ったよなと羨ましがる。

銀座に向かう車の中で、可愛子ちゃんとドライブしてるんじゃない?嬉しそうな顔してよと助手席に乗せた真理からからかわれるが、健は終始仏頂面をしていた。

ねえ朝比奈君、私が嫌い?などとしつこく聞くので、俺みたいな男とあまり親しくしない方が良いですよと健が忠告すると、関係ない、私は人の胸の中を覗き込むような趣味はないわと真理は答える。

それでも健の表情が変わらないんで、暗い目をしてるのね、私と一緒だとどうしてそんな目をするの?と真理は不服そうに聞く。

生まれつきですよと健が答えると、嫌いよ、そんな目をする朝比奈君!と真理は批判する。

とあるゴーゴー喫茶の前で真理を降ろすと、朝比奈君、早く!と真理が健も降りるように急かすので、俺、帰りますよと健は答える。

ダメ、もうすぐ飛び入りコンテストがあるの!私の歌聞かせてあげる!と真理はしつこくせがむ。

しかし健は、まだ仕事中ですからね…と断るが、何言っちゃって、おふくろがごちゃごちゃ言ったら援護してやるわよ、早く!と真理は剣の腕を掴み、強引に車から引きずり出す。

ビートルズメンバーの顔写真が壁に飾られている店内のステージではエレキバンドが「フリフリ」を演奏をしており、フロアでは若者たちがゴーゴーを踊っていた。 真理が戸惑う健を暗い店内に引っ張り込むと、真理!と先に来ていた娘達が手を振って来る。

真理は健と同じテーブルに腰を下ろす。

ねえ、あの子ちょっと見て!ねえねえ、あの子格好良いじゃない?ニヒルな感じイカすじゃん!貸して!、ダメよ、真理のポケットボーイだもん…などと店内の娘達は健の姿を見て好き勝手な論評をし合う。

素人バンドの演奏が終わり、司会者がステージに出て来て、どうもありがとうございました、フリーランサーズの「フリフリ」でしたと挨拶する。

それではここで明日のスターを生む「飛び入りファンデー」!と司会者が叫ぶ。

ステージに演奏するバンドが上がり始め、親爺やお袋には内緒!と健に笑い明けた真理も友人達の声援に送られステージに上がる。

それではトップバッターは真理さんに御願いしましょうと言い、司会者は真理と握手する振りをして手の甲にキスをして来る。

真理は、我家は楽しい汽車ぽっぽ♩と明るい歌を歌いだしたので、友人達は客席から声援を送る。

健はあっけにとられたように口をぽかんと開け、真理の歌う姿を見ていた。

夜、「レストランキング」と言う店の前に来た健に、よお、健!と呼びかけたのはコックの加納宏次(山内賢)だった。

おお!と近づいた健に、俺んとこに来たのか?と加納は聞き、ちょうど良かった、頼まれて欲しいことがあるんだよと健の腕を叩くので、何?と健は聞く。

ちょっと…と暗がりに連れ込んだ加納は、ブレザーが欲しいんだよ、お前んとこで買うと安いんだろう?欲しいんだと手を合わせて来たので、お前、彼女できたな?と健は察する。

えっへっへ…、って言いたいんだけどね、残念でした!と笑った加納は、いやね、店の慰安旅行があるんだよ、しゃきっとして行きたいだろう?と言うので、分かる、分かると健も苦笑すると、かっこ良い奴、頼むよな!と加納は言うので、聞いて見る都県は答える。

所で用事って何だい?と思い出したように加納が聞くと、うん、サブ来なかったか?と健が聞くと、サブ?と加納は思い出せないようだったので、ほら、栗山の時一緒だったサブだよと説明すると、ああ、サブがどうかしたのか?と思い出したように加納は聞く。

2万円貸せと言って来たんだと健が教えると、ばっきゃろ~!と加納も憤慨したので、はったおして追っ払ってやったよと健は答える。

お前を狙うんじゃないかと思ったんだと健が言うと、いやまだ現れない…、大丈夫だよ俺だってガキじゃないんだからな…と加納は言う。

相手にするなよな、お前すぐカッとなる方だろう?ああ言う連中とはきっぱり縁を切ったんだからよ…と権は言い聞かす。

心配するなってと加納が言うので、電話でも良かったんだけどよ、もしお前がカッとしちゃって栗山に送り返されたら事だからな…と健は優しさを見せる。

毎度心配かけて申し訳ないと加納は礼を言うと、どうだ、俺の焼いたビフテキ食って行かないか?と健の腕を取って店の前まで戻って来るが、又今度にするよ、用事があるんだと健は断る。

すると加納は、たまには来てくれよな、店の連中にも紹介するしよ、親友じゃんと健の肩を叩いて来るが、その内にな…と笑顔で答え、健は帰って行く。

その時、あ、宏次君!調理場で呼んでたわよ、早く!と店から出て来た女店員が加納に声をかけて来たので、すみません、どうも!と頭を掻きながら加納は調理場へ向かう。

翌日、会社で健は、朝比奈、お前は午前中、渋谷と新宿同時に行ってくれ、午後からは下請け回りだとその日の仕事の指示を受けていた。

仕事の途中、加納と再会した健は頼まれていたジャケットを渡していた。

それをその場で着てみた加納は、割と似合うじゃないかと健から言われ、生まれて初めてだからな…と嬉しそうに言い、高かったろう?と聞くので、オヤジさん、月賦で良いって言うんだと健は答える。

シェーだね、そいでもってよ、ある時払いの催促なしだったら最高なんだけどななどと加納がおどけて言うので、調子の良い奴!と健は苦笑する。

そんな加納があくびをしたので、寝不足か、まだお前、あそこの店の夜警やってるのか?と健は聞く。

ああ、稼がなくちゃな…、銭がないことには夢は実現できないからな…と加納が言うので、ドライバー相手の食堂か…と健が加納の夢を思い出すと、それはだってよ、お前みたいに車乗り回したいさ、だけどよ、試験に受けに行ったら色盲だってはねられたんだよ、あん時はショックだったよ…と加納は寂しげに教える。

随分泣いてたっけな…と健が同情すると、あ、俺の始める店はよ、カレーライスとビフテキが自慢なんだ、ドライバーの連中は俺の店のカレーとテキを食って安全運転に励むって訳さと加納は明るく言うので、カレーライスとか…、思い出すな~、クリーニング屋にいた頃、給料もらった日にはいつも大盛りのカレーを食いに行ったっけな…と健は思い出す。

一緒に笑った加納は、俺今でもあの夜の夢を見るよ…、君には本当にすまないと思っていると急に真顔になって詫びて来たので、止せよ、昔のことなんか…と健は苦笑し、トシ、俺もお前に負けないように頑張るぞ!と笑顔で応える。

ああ、久里浜出る時よ、院長嫌な奴だったけど、1つだけ良い事言ったな、覚えてるか?自分が正しいと思ったことはまっすぐ進め、迷うことはないんだって、つまりボーリングマイウェイ?…ゴーイングマイウェイさ!と加納はうる覚えな言葉を思い出し、あ、行かなくちゃ、じゃあな!これサンキュー!と挨拶し、自転車に乗って帰ろうとするので、一張羅汚すんじゃないぞと声をかけた健は、宏次!サブが来ないかな?と案ずる。

来やしないよ、恐れをなしているんだろうと加納が言うので、相手になるなよな…と見送った健は、ゴーイングマイウェイか…と呟く。

岡持を持って自転車で店の前まで戻って来た加納に、宏次!と停まっていた車の中から声をかけ降りて来たのは松本三郎だった。

宏次、お前、本当に良い所に勤めたよな…「レスとランキング」って一流じゃないか?と言いながら近づいて来た三郎に、お前も元気そうじゃないかと加納は応じ、じゃあなと走り出そうとするので、逃げるなよと三郎が止める。

忙しいんだよと加納は言い訳をすると、お前にちょっと助けてもらいてえことがあるんだよ、2万円ばかり都合してくれないか?と言いながら三郎はかけていたサングラスを外す。

ある訳ねえだろ、そんな銭…と加納が答えると、前借りするって言う手もあるだろう?景気も良さそうだし…、同じ釜の飯食った仲間じゃねえか…、助けてくれよと三郎は、新調した加納のジャケットを触りながら言う。

その手を振り払った加納は、脅迫するのか?警察に話しても良いんだぜと言い返す。

すると三郎は、人聞きの悪いことは止してくれよと苦笑し、俺は頭下げてんだぜと言うので、馬鹿野郎、チンピラじゃねえかと加納が蔑むと、人を見てからもの言ってくれや、ちゃんとした不動産屋の社員だぜと三郎が言うので、じゃあ自分こそ前借りすりゃ良いだろうと加納は反論する。

すると三郎は、自転車の後ろの岡持から皿を取り出し地面射落として割り始め、嫌なら良いんだぜ、その代わり、俺の仲間がお前の店に遊びに行くかもしれねえ、何やらかすか分からねえが俺は知らねえぜと嫌がらせを始めたので、サブ…と加納は呆れたように言う。

お前の気持次第だよ、お前だって久里浜に戻りたくねえだろう?5時までに何とかしてくれや、雷門の地下鉄の所で待ってるからな、頼むぜ!などと三郎は脅して去って行く。

店の自分の部屋に戻った加納は預金通帳に残っていた20000円の金額を確認していた。

「メンズウェア GQ」と車体に書かれた「ラッキーバード」の車で移動中だった健は、泣いている男の子を発見し車を停める。

そこにいたのは森川チエで、そのチエの前で泣いている男の子と、チエを叱っている母親らしき姿があったので、近づいた健は、危ないよおばさん、あんたこの子の杖が見えなかったのかい?謝るのはあんたの方だろう?謝んな!と母親に注意する。

すると母親は悔しそうに唇を噛み締めて、行きましょう!と子供を誘いその場から去って行く。

その後ろ姿にふん!と言った健は、俺だよ、覚えているかい?とチエに話しかける。

するとチエは、あなたね、デパートの小鳥売り場に連れて行ってくれた…と健のことを覚えていたので、偶然だな…と健が照れると、どうもありがとう、又助けられちゃったとチエは礼を言う。

あの…と2人が同時に話そうとしたので、どうぞ…とチエが笑いながら譲ったので、今日は随分遠慮深いんだなと健は笑いかける。

チエも笑いながら、良かった、あなたに見つけてもらって…と喜ぶ。

この先にうちの下請けやっている家があるんだ、君んちどこ?送ってってあげるよ、盲がノコノコ歩いていたら危険だよと健が言うと、チエが黙りこくったので、大丈夫だよ、俺はそんな悪い人間じゃないよ…と健は弁解する。

するとチエは、分かってるわ、でも何だか図々しいみたい、私もあなたも…と笑顔で答える。 結局、健の車に乗ってチエは送ってもらうことにする。

助手席に乗ったチエが急に笑い出したので、どうしたの?と健が聞くと、私って不良ね、だって良く知らない人の車にすいすい乗っちゃって、まだ名前も知らないのよ、私たち…とチエは言う。

それを聞いた健も笑い出し、本当だ、君の名前は?と聞くと、森川チエ…、チエはカタカナ…とチエが答える。

すると健も、俺は朝比奈健、健康の健さ…、「ラッキーバード」に勤めているんだよ、身長は1m78、体重60kg、特技は運転、趣味は音楽、特長は…、う~ん…、チョイとした二枚目さ…と教える。

それを冗談だと思い笑ったチエは、じゃガールフレンド大勢いるんでしょう?と聞くと、ああ、星の数程ねと健は悪ノリして答える。 そう…とチエが寂しげに言うと、ねえ、又会ってくれる?と健は申し込む。

私に会ってくれる時間があるの?とチエが聞くと、無理して作るよと健は笑いながら答える。 するとチエも笑いながら、無理して会ってあげるわと答える。

笑った健は、ね、俺君のことなんて呼ぼうかな?と聞くので、チエちゃん、チー坊…、チー坊じゃ男みたいだな…と健が呟いていると、私、男の子みたいだって良く言われたわとチエが言うので、良し、じゃあチー坊に決めたと健は答える。

するとチエは、私、健ちゃんって呼ぶわと応じ、ねえ、お店に電話して良いかしら?と聞く。

電話?と健が驚くと、私、電話もかけられるのよとチエは言うので、へえと驚くと、迷惑?とチエが不安がるので、そんな事ないと健は答える。

教えてくれる、番号?とチエが聞くので、623の0101番と健が教えると、チエはその番号を復誦する。

隅田荘の前でチエを降ろしてやると、どうもありがとう、さようならとチエは礼を言う。

走り去る健の車をアパートの入り口で見た夏子は、友達って、どこで知り合ったの?とチエを部屋に誘いながら聞く。

あの人よ、ほら、デパートで親切にしてくれたって言ったでしょう?とチエは答えるので、チエちゃん、あんたどうして簡単に気を許すの?用心しなくちゃいけないって言ってあるでしょう?と夏子は注意する。

しかしチエは、大丈夫よあの人は…と答えるので、目が見えても騙されるのよ、そう言う世の中なのよ、あなたを騙すのは赤ちゃんみたいに簡単なんだから…と夏子は言い聞かせるが、そんな人じゃないったら…とチエは言い返す。

それでも夏子は、チエちゃんには分からないのよと呆れたように言うので、チエは、分かるわ、お姉さんより良く見えるわ、心の目でね…、その人の心の仲間で見えちゃうの…と答える。

すると夏子が呆れたように、チエちゃんの御得意が始まったと言ので、電話番号まで教えてくれたわ、信用できなかったらかけてみる?とチエは挑発する。

一方、車で帰る健の方も、運転席の前に吊り下げたマスコット人形をいじりながら嬉しそうだった。

部屋で食卓の準備を始めた夏子は、棚からチアが落した小さな小物を拾い上げ、チエちゃん、これな〜に?東都衛生学園って?どうしたの?と不思議そうに聞く。

チエは悪戯がバレた子供のようにはにかみながら、ごめんなさいと謝るが、ごめんなさいじゃないわよ!どうして勝手にこんなこと決めたの!と夏子は叱る。

私、マッサージ師になりたいの…とチエが言い出したので、何言ってんのよと夏子は憮然とする。

それでもチエは、お姉さん、私、働きたいの、いつまでも姉さんの荷物になっていたくないのよと言うので、そんなこと考えなくたって…と夏子は答えるが、聞いて、私の話、最後まで…とチエは言い返し、お姉さん、野坂さんと早く結婚しなくちゃ行けないんでしょう?私がいなかったらもっと早く結婚してたかもしれないわね?そりゃ、野坂さんも言ってくれてるわ、私の面倒を見て下さるって…、でもひょこひょこ付いて行けないわ、お舅さんだっているんだし、お姉さんも野坂さんも可愛そう…、そんな両方で辛い思いで暮らすなんてお互いに惨めだわ…、だからお姉さんと私は離れてお互いのことを想いながら暮らした方が幸せだと思うの…、ねえ?私に電気治療器買ってくれないかな?と言うので、電気治療器?と夏子は問い返す。

マッサージの機械よ、指のマッサージより効果的だし、お金だって儲かるんだって…、お父さんが遺してくれたお金があるって言ってたわね?とチエが聞くので、夏子は、あのお金は手術費よと答える。

気を取り直した夏子は、チエちゃんの目は角膜を移植すれば見えるようになるのよと教えるが、そう言われながら今日まで待ったわ…、3年間も…、でも角膜をもらえるのは1年に4〜5人でしょう?これから先いつ来るか分からないチャンスを待ってるなんて時間のロスだわとチエが言うので、明日、そのチャンスが来たらどうするの?と夏子は諭す。

働いてお金を貯めれば、又チャンスはあるわよ、それにいつか生まれて来るお姉さんの赤ちゃんにだっておばさんとしてなんか買って上げたいもの…、ね?と明るくチエが言うので、夏子はそれ以上何も言えなかった。

その後、突然夏子が突然工場にやって来たので、出て来た野坂が、やあ、どうしたんだい?と聞くと、相談したいことがあるのと夏子は言うので、うん、俺も話したい事があるんだと野坂も答える。

工場の社員食堂で話を聞いた野坂は、なるほど、チエちゃんらしいな…と感心すると、私たちのことに凄く気を使ってる…、聞いてて胸が痛くなって来ちゃった…と夏子も申し訳なさそうに言う。

俺はチエちゃんの面倒見る気でいるよ、結婚すれば社宅にも入れるからねと野坂は明るく答えるので、ごめんなさい、そんな心配まで…と夏子は恐縮する。

すると野坂は、何言ってるんだ、俺だって義妹だぜと言い返すが、しかしな〜、お互いの幸せを考えたら希望通りにしてやった方が良いと思うな…と答え、実は福島に行くことに決まったんだと明かす。

えっ?と驚いた夏子に、4月の先発隊だよ、ね、夏ちゃん、それまで俺たち結婚できないかな?公なるかもしれないって前から話しておいたね?決断して欲しいんだよ!と野坂は迫って来る。 親爺やお袋も俺と一緒に行くって言ってるしね、君が来てくれれば新しい年で新しいスタートが切れると思うんだと野坂は頼む。

どうだろう?君は不満かもしれないけど、チエちゃんがそこまで思い詰めているならその通りにしてやるのが本当の愛情じゃないか?俺はそう思うね、分かってても俺のエゴに聞こえるかもしれないけど、例え俺たちが引き取って面倒見たとしても一生気兼ねして暮らすと思うんだと野坂は言う。

チエはその頃1人で外出していた。

随分勝手だわ、そんな男だったの…、自宅に来た女友達の信子(山本陽子)が話を聞いてそう言うと、しょうがないわよ、私の方に理由があるんだもの点と夏子は答える。

ダメだな、そんな弱気じゃ…、だから白紙に戻して考えようなんて言われるのよ、思い切って飛び込んで行っちゃいなさい、何とかなるものよと信子が言うので、うらやましいわ、あなたの性格…と夏子は答える。

間違いだったのよ、そんな人好きになっちゃうの…と信子は断じる。 私なんか最初から姑のいる相手とは結婚しないって主義だったんだわ、それでも結構苦労してるのよ…、こぶ付きの結婚だと相手だって考えちゃうけどね…と信子は打ち明ける。

アパートの部屋の入り口まで帰って来ていたチエは、そんな2人の会話を表で聞いてしまう。

そのまま階段を降り、下の部屋の戸をきいたチエは、すみません、電話貸して下さいと頼み中に入る。

どこにかけるの?チエちゃん…と下の階の女が聞き、ダイヤル回してやるわねと言ってくれるが、大丈夫です、自分で出来ますからとチエは言う。

チエは、ダイヤルの穴の一を確かめながら健にかける。

「ラッキーバード」では電話を受けた社員が、健ちゃん、電話だよ!と呼ぶ。

もしもし?君か!と驚く健に、本当にかけられたでしょう?電話…と語りかけたチエは、私、お願いがあるの、連れて行っていただきたい所があるの、ええ、出来たら早い方が…、お願いできませんか?と頼む。

健がチエを送った先は野坂の工場だった。

チエに会いに出て来た野坂は、チエちゃん、おねえさん、とっくに帰ったよと伝えると、お姉さんのことでお願いに来たんですとチエは言う。

僕に?何だい?と野坂が聞くと、結婚して欲しいんです、お姉さんと…とチエは頼む。

野坂が真顔になると、お姉さんをしっかり捕まえて欲しいの、野坂さんがそうしてくれないと一生私の犠牲になってしまうわとチエは訴える。

すると野坂は、俺だってそうしたいんだよ、チエちゃん…、しかしね…と言い出したので、私のことなら心配ないわ、今の学校1年通って国家試験にパスしたらマッサージ師の資格が取れるのよ、立派に1人で生きていけるわ、だからね、お願い!お姉さんを幸せにしてあげてとチエは頼む。

そんなチエの姿を、車の横で健はじっと見ていた。

その頃女を乗せて走らせていた車で事故った三郎は、それを知って駆けつけた不動産屋の上司と手下達からどうしてくれるんだ!使いもんにならないや!誰がスケこましに使えって言った?あ?社長から営業で借りてるんだぞ!手前で修理しろよ、分かったな!と脅されていた。

分かってんのかよ!返事をしろ!と殴られ倒れていた三郎は、手下た達から足蹴にされる。

その後、三郎は、出前の途中だった加納を待ち受け、宏次!と呼び止めると、7万で良いや、都合しろよと脅す。

何で俺がお前の尻拭いをしなけりゃいけないんだ?と加納は言い返すが、聞いてるんだよ、都合するのかしねえのか?と三郎は言うだけなので、ある訳ないだろう、そんな大金…と加納が答えると、宏次!お前、仲間けしかけたらどうなるんだ?え?後で泣き言並べたって知らないぞと三郎は居丈だけに言って来る。

何やるか分からねえからな、あいつら…と三郎は意味有りげに脅す。

その後、店の厨房に戻りジャガイモの皮をむいていた加納は考え事をしていたため指を斬ってしまったので、アホンダラ!どうかしてるな、この頃のお前は!とコックのマスターから怒鳴られる。

すみません!と加納が詫びると、表通りの雀荘だと先輩コックが次の出前先を教える。

出前の途中、大和銀行の雷門支店の前を通りかかった加納は、銀行から金を降ろして出て来た女店員夏子の姿を目撃し、自転車を止め考え込む。

その後、店に戻った加納は、三郎の手下達が店に乗り込んで来て暴れ回る想像をする。

森川夏子の名札が付いたロッカーのアップ。

車で町に出ていた健は、コック服姿の加納が三郎と路地裏に入って行く所を目撃する。

バカな、うちの店に泥棒がいるとでも言うのか?とマスターが文句を言いに来た女店員の夏子に言う。

大事なお金なんです、警察に届けて調べてもらって下さい!と夏子が訴えると、まあ待てよ、店の信用問題だとマスターが落ち着かせるが、マスター、宏次じゃないですか?とコックが横から口を出したので、証拠があるかい?とマスターは聞くと、いいえ、別に…、しかしあいつは前があれですから…とコックは加納の過去のことを持ち出す。

それを聞いたマスターは、そんな真似したら久里浜送りだ、それを知っててやるわけないだろうとマスターは半信半疑。

そこに加納が戻って来たので、宏次、まさかお前じゃないだろうな?とマスターが聞くと、何ですか?と加納が来くので、10万円盗まれたんだとマスターは教える。 知りませんよ、何だったら身体検査したって良いですよと加納は答える。

その時、加納君お客さんよと女店員が呼びに来る。 すると客席にいたのは健で、よお、飯食いに来たんだ、お前の焼いたビフテキ食ってやろうと思ってな…と健が笑顔で話しかけるが、どうしたんだ?顔色悪いぞと加納の異変に気づく。

別に…と加納が口を尖らしたので、宏次…と健は話しかけるが、それを留めた加納は、腕によりをかけて焼いて来ると言い残して厨房に戻って行く。

席に座った健は、どう?分かった?10万円も入っているのにどうして鍵をかけとかなかったのよ!と金をなくした夏子と女店員の会話を耳にして驚く。

酷い人もいるわね~、何のお金だと思っているのかしら…と女店員は、金をなくした夏子に同情しながら言う。

そこへコーヒーを運んで来た加納が、これでも飲んでてくれよと言うので、宏次!と健は立ち上がって腕を取ったので、加納は仕事があるんだよと迷惑がるが、すぐすむよ!と健は言い聞かす。

加納と一緒に店を出て行く健に夏子は見覚えがあった。 外に出た健は、宏次、お前じゃないよな?と念を押す。

何だよ?と加納が聞くので、金を盗まれたって青くなったのがいるじゃねえか…と健は答える。

お前までがそんな目で見るのか?と加納が苛立ったので、いや…、それで安心したよと健が答えると、うるせえな、何だってすぐ俺だ!と加納は怒りだす。

その様子に気づいた健が、宏次、正しいならどうして怒鳴るんだ?お前、覚えてるだろう?俺たちよ、栗山で約束したっけな?もう2度とバカな生き方はしない、サブみたいな連中に誘われても負けないで生きるって…、だからどんなときだって俺だけはお前を信じてるよ、お前だってやっと夢に手が届いたって喜んでるんだろう?人のものを盗むマネなんかするわけないって…、けどよ、さっきなんでお前サブと会ってたんだい?と問いただす。

しかし加納は壁の方を向いたまま何も答えないので、こっちを見ろよ、どうしてなんだい?おめえまさか…?と健が詰め寄ると、すまねえ…、今度だけはおめえに迷惑をかけたくなかったんだと加納は又健に背を向けて答えると泣き出す。

それを聞いた健は、宏次…と絶句する。

健は右頬を触りながら過去を思い出す。

(回想)クリーニング屋が火事になった夜、家の中に取り残されたトシ坊と言う子供を救うため、健が飛び込んで行く。

それを店の外から見守る店の主人夫婦( 紀原土耕、若原初子)と宏次。

健は店の子供を抱いて飛び出して来て倒れ込む。

主人夫婦が子供に駆け寄る中、倒れ込んだ健に駆け寄った宏次が見かねて、オヤジさん、健が!オヤジさん!健のケガも診てやってくれよ!と頼むと、何!この野郎!手前のアイロンの不始末だ!この野郎!畜生め!と主人は激情して宏次を殴りつけて来る。 馬鹿野郎!俺が苦労して作った店を火事にしやがって!死んじまえ、馬鹿野郎!と叫びながら加納を殴りつける店の主人に逆ギレした加納を見る健。

その後、栗山少年院で作業をさせられていた加納は、車の運転をしていた健をうらやましそうに見つめる。

その時、一緒に車の運転練習をしていた三郎が加納を轢きそうな悪戯をし始めたので、車を停め降りて来た健は木の椅子を三郎の車に投げつけ、降りて着た三郎と殴り合いを始める。

騒ぎを起こした三郎が看守達に連れて行かれる中、すまねえ宏次…、番長風吹かせやがって…、一度三郎をぶん殴ってやりたかったんだと健は加納に詫びる。 すると加納も、俺もだ、先手打たれたな、けどよ、俺の不始末でこんな所に引きずり込んで本当にすまねえと加納は詫びる。

言ったろう?1年2ヶ月、俺はムダ飯は食わねえよと健は言う。

(回想明け)宏次、謝りに行こう…、正直に白状するんだよ、そりゃあ簡単に許してもらえるなんて甘っちょろく考えちゃいないよと、塀に妻勝て泣いている加納の背に手をかけ健は言い聞かす。

だけどここで黙っていたら俺たちを見る世間の色眼鏡に又負けたことになるんだよ…、分かるだろう?と健は言う。

一生懸命謝って、それで許してもらえなけりゃそれでも良いじゃないか?と健が言っていた時、許すもんですか!と声が聞こえる。

女店員の夏子だった。

あんたも前科者なの?と近づいて来た夏子は、お金を取って妹まで騙そうと言うのね?と言うので、妹?と健が驚くと、森川チエは私の妹よと夏子は言う。

他の女が相手にしてくれないから妹なら騙せると思ったのね!と夏子が言うので、違うんです!違うんです!と健は否定するが、どう違うの?あんたを信用しろって言うの?少年院上がりのあんたを?と夏子は睨みつけて来る。

聞いた和、何もかも…、さ、お店に戻りましょう、マスターに話して保護司に連絡してもらうわと夏子は健と加納に言う。

許して下さい、それだけは!と加納が言い、御願いします!と健も頼むが、何言ってるのよ!と夏子は言い返す。 聞いて下さい、こいつだってやっと今の所で働けるようになったんです、あのお金だって昔の仲間に…と健が言い訳すると、同情しろって言うの?甘ったれないで!と夏子は言い返して来る。

少年院には戻りたくない!あんな所にはもう戻りたくない…と加納は言い頭を下げるが、止してよ、そんなことでごまかされないわと夏子が拒否するので、違うんだ、あんたには分かってもらえないんだ、少年院がどんな所か…、俺たちはもう2度とあの生活は味わいたくない…と健が口を出す。

踏まれても良い、蹴られても良い、どんなに白い目で見られてもシャバの方がずっと幸せなんです、頼みます、こいつを許してやって下さいよ、お金は俺が責任持って返します、御願いします…、御願いしますと健も頭を下げて訴える。

すると夏子は、今の言葉に間違いないわね?と念を押すので、じゃあ?と健が聞くと、許すとは言ってないわ!お金を返してくれたらその時には黙っていて上げるわ、約束を守れなかったら警察に届けるわよ、良いわね?一時の言い逃れだったら承知しないから!覚えといてね!と夏子は言い残し、頷く2人を後に店に戻って行く。

深く夏子に頭を下げた加納は、俺、死んじまいたいよなどと言うので、馬鹿野郎と健は叱る。

アパートに帰って来た夏子からその話を聞いたチエは、嘘よ、そんなの嘘に決まってる!と反論する。

本当よ、あの子、本当に少年院にいたのよと夏子は明かし、私の言った通りでしょう?信用できるような子じゃないのよと言い聞かす。

そんな人じゃない!とチエは否定するが、まだ言ってるの?あなたのお金を盗んだ仲間なのよ、そう言う男の子なのよと夏子は言う。 耳を手で塞いだチエは、嘘!嘘、嘘!と言い返す。

チエちゃん、あんた少年院上がりの子の言葉は信用しても、姉さんの言葉は信用できないって言うの?と夏子が叱るので、酷い!目が見えないからって、そんな風に言わなくたって!とチエは嘆く。

その子は明日ここへ来るって言ってたわ、そうすれば何もかもはっきりするわと夏子は言う。

その夜、「東南荘」と言う雀荘から出て来た三郎を、店の前に来た健がちょっと!と呼び寄せる

暗がりに連れて着た権は、サブ、宏次から巻き上げた金を返してくれと頼むが、もうありゃしねえよと三郎が言うので、何?と驚く。

車の修理代に使ってしまったのさ、残りは麻雀でみんなパーだとサブは言って嘲るように笑い出す。

頭にきた健は、この野郎!と言いながらサブを殴りつける。

何しやがるんだよ〜?と頬を押さえた三郎はすぐに反撃して来る。

健はそんな三郎を締め上げ、貴様って奴は!と言い捨てると、三郎はその場に倒れ込む。

翌日、夏子とチエの部屋に加納と一緒にやって来た健が差し出した金を見た夏子は、何これ?約束が違うわと言う。

サブの奴、使っちまったんです、俺の貯金これで全部なんですと健は金を差し出す。 図々しいわね〜、これで許して欲しいとでも言うの?女だと思ってバカにしないでよ!と夏子は突っかかる。

残りは2人で働いて返しますと健が言うと、加納も必ず返します!と頭を下げて詫びる。

しかし夏子は、何言ってるのよ?約束は約束よ!警察に行っても良いのね?その覚悟で来たんでしょう?さ、行きましょうと加納に迫る。

許してやって下さいよと健は頭を下げるが、俺がやったんだ、当然だよ、これ以上お前には迷惑かけない…と加納が言うので、バカと叱った健は、お金はきっと返します、宏次をそっとしておいて下さい、ね?お願いします!と夏子に頼む。

俺が馬鹿だったんだ、俺が!と加納も自分を責めるように平身低頭する。

御願いします!と頭を下げる健を前にしていたチエが、お姉さん、許してあげて、警察連れて行かないで、私からもお願い!と言い出したので、チエちゃん!と夏子は驚く。

ね、良いでしょう?とチエは言うので、チエちゃん、すまない、大事なお金を…と健は絶句する。

するとチエは、チー坊って呼んでくれるはずじゃなかった?と言い返したので、健はぐっと詰まってしまう。

隅田荘からの帰り道、健、又お前に面倒かけちまったな?と加納は詫びる。

よう宏次、何とか言ってたな?あの子の目手術すれば見えるようになるかもしれないって…と健が聞くと、あ、肋膜!…じゃない、何だかそんな名前だったな?と加納は答える。

あ、角膜だ!角膜移植だ!と健が思い出すと、どんな手術なんだろうな?と加納も不思議がる。

榊原医院と言う所へ医者にそのことを聞きに行った健は、角膜移植?と医者から聞かれ、本当に手術すれば見えるようになるんですか?と聞く。

うん、まあ体質にもよるがねと医者は答える。

それに非常に難しい手術だ、ま、見えない目に別の人の目から取った角膜を移すんだからね…と医者は説明する。 じゃあ、俺が希望すればこの目をくれてやることも出来るんですね?と健は聞く。

ああ、でも君の生きているうちはダメだよ、ま、法律でそうなってるんだと医者は教える。

例えばさ、例えばの話だけど、俺が片一方の目をくれてやると言っても?と健が念を押すと、いや盲腸じゃないんだよ君、生きたまま目を取り出すなんてそんな残酷な真似は出来ないねと医者は言う。

でもさ、若い女の子が一生メ○ラで暮らさなければいけないなんて…、その方がもっと残酷でしょう?と健は言い返す。

うん、まあ手術を希望するんなら、正規の手続きをして申し込むんだねと医者は教える。

自分の目を与えたい人はアイバンクか、日本文化協会の光のプレゼント係に自分の角膜を登録すると良い、ま、死後4時間以内に相手の目に移されてその意思が全うされると言う訳だ…と医者は言うので、死ななきゃダメなんですか…と健は呟く。

車で移動中、岡持を下げて出前から帰る途中の加納に気づき、よお宏次!と呼び止めた健は、サブのこともう心配いらねえよ、保護司の伊東先生に頼んだんだと教える。

栗山に引き取ってもらうって言ってたよと健が伝えると、良いのか?あいつにはヤクザ付いてるからな…と加納は案ずる。

あんな野郎に夢をぶち壊されてたまるか!と健は吐き捨てる。

警察が調書取りに来たらはっきり証言しろよと健は念を押す。

ああ、OK!と加納も承知する。

その後、店に戻った健の車に気づいた真理が、朝比奈君!と嬉しそうに近づいて来る。

明日の日曜日に行かない?と誘って来たので、ボウリング?と健が聞き返すと、クレイジーにいた友達ね、あの連中も一緒なの、ユーを連れて来いって言うのと真理は言い、ねえ、チエって女の子、誰?誰なのよ!と睨みながら聞いて来る。

どうかしたんですか?と聞くと、電話よ泊まりが不機嫌そうに言うので、健は慌てて電話の所へ向かう。

それを見送った真理は、近くにいた城島に、ねえ、チエってどんな子?朝比奈君のガールフレンド?と聞く。

電話をして来たチエは、え?私が怒ってる?と健の言葉を聞き意外そうに答える。

怒ってたら電話なんかしないわ、ね、明日お店お休みでしょう?私ね、健ちゃん誘惑したいのとチエは言いだす。

え、本当?じゃあ待ってるわ、言問橋の上でね…と嬉しそうにチエは言う。

うん、分かったよ…と笑いながら電話を切った健は嬉しそうだった。

その夜、健は寝床でリンゴをかじる。

翌日、言問橋の袂で待っていたチエの前に停まった車から健がチー坊!と呼びかける。

2人は東京タワーに登る。

展望台に着いたチエが、私の家こっち?と窓側に近づこうとすると、違う、ほらこっちだよとその方角の場所に健が連れて来る。

見えるわ、窓に鳥籠が下がってる小さなアパート…とチエは窓の方を見ながら言うと、ねえ健ちゃん、知ってる?この東京タワーの高さ?と聞くので、え〜と確か何か入り口に書いてあったな…と健が考え込むと、333mよ、この展望台は125mの高さ、世界一高いって言われているパリのエッフェル塔は312mだから、21mもこっちの方が高いのよとチエは教える。

その後、日比谷公園の噴水の前に来た健は、いつか映画で見たことがあるんだ、お金を投げて願い事をするとそれが叶うって言う泉があった…と話すと、ローマのトレビの泉でしょう?とチエが即答したので、何でも知ってるんだなと健は感心する。

行ってみたいとチエが言うので、願い事があるんだろう?と健が言い当てると、1つだけとチエは頷く。

目が見えるようになること?と健が聞くと、さあ?とチエがとぼけるので、言えよと健が迫ると、当ててご覧なさいよとチエは微笑む。

分かんねえなと健が投げやりに答えると、ダメよ、良く考えもしないでとチエが叱る。

敵わねえな…と健が呆れると、宿題よ、今度会うときまで…とチエは思わせぶりに言う。

難しいな…と言いながらチエの横に座った健は、いつから見えなくなったんだい?と聞く。 するとチエは5年前…と答えたので、急にかい?と健が聞くと、ううん、中学2年の時だったわとチエは教える。

廊下の曲がり角で走って来た男の子にぶつかったの、その時目を強く打って、だんだん見えなくなって来たの…と明かす。

その時視線を感じたのか、何見てるの?とチエが聞いて来たので、いや別に…と、チエの顔をじっと見つめていた健はとぼける。 腹減らないか?奢るぜ、チー坊の一番好きなもの!と健が誘うと、よ〜し、破産させちゃおう!とチエは冗談で返す。

車でラジオのスイッチを探すチエの手をラジオの部分に移してやると、チエがスイッチを入れ、音楽が流れるチャンネルを押す。

この虹の〜♩と西郷輝彦の「この虹の消える時にも」が流れて来たので、運転しながら健が歌いだす。

それを助手席に乗ったチエが嬉しそうに聞く。

さあもう向島だぞと健が教えると、もう!とチエがmpの足りなさそうなので、もう一回りしようか?と気を利かせると、良いわ、約束の時間守らないと、この車カボチャになってしまうかもしれないんだものとチエは断る。

カボチャ?冗談じゃねえよと健が笑うと、健ちゃんシンデレラの話知らないの?とチエが不思議そうに聞く。

へえ、シンデレラってカボチャが好きだったのかい?と健が驚くと、ロマンチックじゃないの…とチエは笑う。

その後、公園のブランコに乗った健は、そうか、シンデレラってそんな話だったのか…、全く俺は常識がないからな…と、横に乗っていたチエに答える。

私、中学だけでも卒業したかった…とチエが言うので、うん、俺も後悔してるよ展と健も答える。

学校へは行ったんでしょう?とチエが聞くと、ぐれたたんだ、その頃…、他の家に引き取られていたんだよと健は教える。

ガキがピーピー多くて、俺なんか小学生の頃から体の良い女中だったと言うと、お父さん、お母さんは?とチエが聞く。

おふくろは俺が7つの時に死んじまったよ、トラックに撥ねられて…、かつぎ屋だったんだ、おふくろのくたばった後を見たら米が一杯散らばっていたんだ、重くて避けられなかったんだよ…、バカだよ全く!と健は嘆く。

オヤジは見たこともない…、伯母の財布から2000円なくなったことがあった、俺のせいにしやがってさ、頭に来て、5万ばかりかっぱらって飛び出してやったよと健は言う。

色んなことやったな〜、かっぱらいに、強請に、たかりに…、それから…と言うと、何?とチエが聞く。

右の頬を触りながら健は、だから俺、そんな生き方のバカバカしさに気がついて、真面目に働こうと思ったんだよと答える。

ところが世の中なんて言うものは、そう甘っちょろくはなかった…、挙げ句の果ては少年院にぶち込まれていたよと健は言う。

するとチエが、そう…、偉いわと言うので、偉い?と健は振り向く。

だって立派にそんな風に働いているじゃないとチエは褒めると、所がそんな目で見てくれやしなかったよ、君も俺なんかには電話しない方が良いと思うよと健は言い聞かせる。

何故?私と一緒だと恥ずかしい?とチエが聞くと、違う、そんな意味じゃないよと健が言うので、だったら取り消して…とチエが頼むので、うん、ごめん…と健は素直に詫びる。

じゃあ又会ってくれるわね?とチエが問いかけるので、うん、チー坊さえ良けりゃねと健は答える。

でも健ちゃん、ガールフレンド、星の数程いるって言ってたわよね?とチエが思い出したので、冗談だよ、1人もいやしないよと健は苦笑する。

目が見える健康なガールフレンドが出来たら、その時は言ってね?いつでも御分かれするわ、メクラの私が付きまとっていちゃ可哀想そうだもんとチエが笑顔で言うので、バカ!そんな気を起こすくらいなら、今日だって来やしないよと健が叱る。 本当?とチエが念を押すと、健はうんと答える。

夕方帰って来た健を出迎えた真理は、いい気なものね、自分の物みたいな顔して店の車乗り回したんでしょう?メ○ラで良かったわねと言うので、お嬢さん!と健は驚く。

盲は騙しても、私の目は両方ともはっきり見えるんですからね!ごまかさないで!そんな顔したって分かるわ、目の見える子に相手にされないからメ○ラを引っ掛けたんでしょう?などと真理は酷いことを言って来るので、そんなんじゃないんですよと健は否定するが、何よ、少年院上がりのくせに!と言いながら真理はビンタして来る。

そして泣きながら家に戻った真理に気づいた良枝が、どうしたの、真理ちゃん?と声をかけると、何も答えず泣き続けるので、やっぱりそうなのね…と良枝は感づく。

ある雨の日、車を運転していた健は、三郎の仲間の武林(深江章喜)ら「不二興業」のチンピラ達に取り囲まれ停まる。

良くも兄貴をぶち込んでくれたな、たっぷり礼はさせてもらうぜ!と降り立った健にサブのことを言いながらつかみ掛かって来たチンピラ達は、車に乗せてあった品物を外に放り出す。

その後、突如店を辞めると言い出した健を前にした飯島が何故?と聞くと、すみません、これ以上会社に迷惑かけたくないんですと健は言う。

雨の中傘もささずに会社から出て来る健を、ちょうど学校から帰って来た真理が見かけ、朝比奈君、どうしたの?と聞くが、健は何も答えず出て行くので、朝比奈君!と呼びかけ追って来た真理は、出て行くの?と問いかける。

健は何も言わずに去って行くので、その後ろ姿を真理は哀しげに見送る。

その後、雨の中「不二興業」を出たチンピラグループは、そこに待っていた健に気づくと、よお、しけた面してどうしたんだよ?お前、首になったのか?分かったか?ぶるんじゃねえよ、鑑別所上がりじゃねえか!などと罵声を浴びせかけると、健はいきなり暴れ始める。

その直後、パトカーのサイレン音が聞こえて来たので、健もチンピラ達も慌てて逃げ出す。

止せよ、そんな飲み方!と夜の繁華街の飲み屋でやけ酒を飲む健に、呼ばれて来た加納が言う。

俺だって飲みたくて飲んでるんじゃねえやと健が言うので、健、これからどうする?伊東先生が俺の店に来たぜ、お前の行きそうな所教えろってなと加納が聞くと、結ってやりゃ良かったんだよ、俺の行く所は久里浜しかねえってな…と健はヤケになって答える。

健!と加納が諌めると、そうだよ、俺なんかまともにゃ暮らせねえんだ、ロケットで宇宙旅行するより難しいんだよ!と健は吐き捨てる。

それがお前の本音か?お前がそんなこと言うのかよ!殴るぞと加納が怒ると、おう殴れ、殴れ、少年院上がりがどうしたって言うんだよ、宏次、良く見てくれよ、俺が人ごろしに見えるか!かっぱらいに見えるかよ!と健が大声を出すので、止せよ健…と加納は止める。

すると見知らぬ男(藤岡重慶)が威勢が良いなと酒瓶片手に近づいて来たので、あんた誰だ?と健が怪しんで聞くと、ま、良いから良いから一杯やんなと言いながらコップに酒を注いで来る。

ビールの方が良いかな?オヤジビール!酒もだ!とその男は注文し、健の隣りに腰掛ける。

旅館の一室の布団で目覚めた健は、よお、眠れたかい?と声をかけて来た男が先ほどの酒場で横に座った客だと気づく。

運転免許を持ってるって言ったな?と聞いて来た男は、昼から発ってもらうよと言い出したので、昼から?どこへですと健は聞く。

すると男は、とぼけてもらっちゃ困るな?約束したろう?昨夜…、昨夜の飲み代、この宿の料金、みんな俺のサービスだ、言ってくれるな?と言うので、健は戸惑いながら、どこへです?と聞く。

とぼけるな!ダムだよ、秋田の山ん中だと男は叱って来る。 どこでも同じでな、ダンプの運転手が足りねえんだと男は苦笑しながら言う。

ダムにはな、お前の仲間も大勢働いていると言うので、白い目の中よりお前もその方が働きやすいだろう?などと男は言う。

高望みしなけりゃ面白おかしく暮らせるのが人生ってもんだ、支度金だ…と言うと、男は2枚札を放って来る。

向うへ着きゃ、もうそれだけもらえる、東京より天国さ、嫌だって言うんなら連絡してやっても良いぜ、伊東とかって言う先生になと男が言うので健は絶句してしまう。

「東都衛生学園」の前で待っていた健は、授業を終え出て来たチエにチー坊?と声をかけると、健ちゃん、お店辞めたんだって?電話したのよ、何故すぐ連絡してくれなかったの?とチエは聞いて来たので、話があるんだと言いながら健はチエの手を引く。

川縁にやって来た健に、話って何?どうかしたの?とチエが聞くと、素性バスで浅草まで行こうと健は誘う。

水上バスの乗ったチエが健の話を聞き、別れる?どうして?どうしてなの?と聞くと返事がないので、あ、そうか、好きな人が出来たのねと早合点する。

健ちゃん、良いのよ、正直に言って!やっぱり私なんかと付き合っているから嫌な思いをしたのねとチエが勝手に言うと、そんなんじゃないよと健が否定するので、じゃあ、どうしたって言うの?とチエは問いかける。

すると健がダム行くんだと突然言い出したので、チエは驚く。

秋田だよ、俺みたいな人間は山ん中へでも引っ込んでいた方が良いらしい…、楽しかったよ…、チー坊と一緒の時は…と健は打ち明ける。

だから礼を言って別れたかった…と健が言うと、意気地なし!私だって頑張っているのに!とチエは叱る。

分からねえんだよ、俺の気持なんか…と健が言うと、私の気持だって分かってないわ!とチエは言い返す。

健ちゃん、私はね、健ちゃんが真剣にそう決心したならどこへ行こうとどこで働こうと構わないのよ、寂しいのは私1人我慢すれば良いんですもの…、でも何だかやけくそになっているような謙ちゃんと別れるのは耐えられない!とチエは言う。

すると健は、仕方ないじゃないか、普通の人間とは違うんだ、俺もチー坊も…と答えたので、私はそうじゃない、そんな弱虫じゃないわ私!とチエは言い返す。

それを聞いた健はむかつき、へえ、随分でかい口聞くんだな?と嘲ると、メ○ラのくせに?一人前でもないくせに?見せて上げるわ、私が一人前の女だって事を、何だって出来るわ!とチエは言い放つ。

その後2人はゴーゴークラブ「クレージー」にやって来る。

チエは健に、ねえ、踊りましょう?と誘う。

白い杖を健に渡し手袋を脱いだチエは健の両手を握り、大勢の客のいる前で踊りだす。

野次馬の視線に耐えかね、もう帰ろうと健が言うと、今度はボウリングよとチエは言う。

芝ボウリング場でボールを投げたチエは、ガーターだったことにも気づかず、どう、巧いでしょう?と自慢する。

その時、同行していた健にたむろしていたチンピラ達が気づく。

ボウリング場を出た知恵が今度はどこへ行く?と言い出したので、あれだけ出来りゃ1人で帰れるだろうと健が答えると、そう?お別れね…とチエは表情を曇らせる。

ああ…と健が答えると、餞別に何もあげるものないけど、これ見て!と言いながらチエは左手を差し出す。

その手首には自傷の痕があった。

私、目が見えなくなったとき生きていく気がしなかった…、人に迷惑をかけ、同情されて生きていくくらいなら死んだ方がましだと思って…、お湯につけると楽に死ねるって聞いたもんだから切ったんだけど、失敗しちゃったの、目が見えないもんだから…、でも私ね、今行きていて良かったと思ってるの、負けないで生きようと思った時から何でも見えるようになったわ、こんな風だろうなって想像すると心の目にそう見えちゃうの、青空だって花だって、健ちゃんだって!いつかの宿題覚えてる?あれはね、一目で良いからこの目で健ちゃんを見たかったの!でもメ○ラで良かったわ、そんな風な情けない健ちゃんを見なくてすむから!と言い終えると、白い杖をついて去って行く。

アパートへ帰って来たチエに、お帰り、遅かったじゃない!と夏子が声をかけると、お姉さん!と言いながらチエが泣き出したので、チエちゃん、何があったの?どうしたの?と夏子は驚く。

目が…、目が見えるようになりたい!とチエは漏らすと夏子の腕の中に泣き崩れる。

人買いの男と秋田へ向かう列車に乗り込んだ健だったが、列車が走り出すといきなり立ち上がると、もらった金を放り投げホームに逃げて行く。

人買いの男は慌てて窓からオ〜イ!と呼びかけるが、もう動き出した列車では後を追うことも出来なかった。

バッグ1つ抱えて仕事を探しまわった健は、とある塀に貼られていた求人募集を見つけ、それを剥がす。

その会社の中山(玉川伊佐男)は健の渡した履歴書を読み、少年院にいたのか?こんなこと書いちゃ不利じゃないのか?と聞く。

健は、隠し通せる事でもないでしょう、その時になってうだうだと言われたくありませんからねと健は答える。

少年院でどのくらい喧嘩した?と中山が聞くと、それと就職と何の関係があるんです!と健は気色ばむ。

しかし中山は、質問に答えろと言うので、チンピラの喧嘩がそんなにおもしろいのかい?久里浜に行ってみな、毎日やってらあと健は突っかかる。

それを聞いた中山は、久里浜か…と呟くので、ね、雇って下さい、働きたいんです、何でもやります、ね、御願いしますと健は頭を下げる。

すると中山は、手を出してみろ、両方の手を出して見せろと言う。 健が差し出した両掌を見た中山は、働いていた手だなと見抜き、俺も昔は鑑別所にいたことがあるんだと笑顔で言うので、健も思わず笑い出す。

中山は、この会社は実力次第だ、学歴や経験は問題じゃない、真心とやる気さえありゃ重役にだってなれる、しっかり働いてくれと言うので、健ははい!と答える。 どうだ?配達からやってみるか?と言い出した中山は、昼間はセールスに歩くんだな、お客さんの信用を得るのが第一歩だとアドバイスする。

製品の信用、君の信用、明日から君は配達をし、セールスする製品がどうやって作られるか良く見ておくんだなと中山は言いながら、ベルトコンベアでピロンと言う飲料が出来て行く工場内を健に見せる。

就職先が決まった健は、それを報告しようとチエのアパートを訪れ、チー坊!と呼びかけるが、下の大家が、まだ帰って来ないんですよと教える。

そうですか…、いつもこんなに帰りが遅いんですか?と聞きながら階段を降りて来た健が聞くと、いえ、いつもならとっくに帰っている時分なんですけどね…、どうかしたのかしら?と大家は答える。

その頃チエは、健が待っていると言われ、チンピラ達の車で「不二興業」の事務所に連れ込まれていた。

本当に健ちゃんが待ってるんですか?と聞きながら車を降りたチエを、こっちだ、足下に気を付けな、階段だよとチンピラが案内する。

二階の部屋に案内されたチエが、健ちゃんはどこ?と聞くと、そこにいるよとチンピラが教え、いきなり数人が襲いかかって来る。

必死に抵抗し逃げ出そうとしたチエだったが、階段から落ちて気絶してしまう。

入院したチエを看病していた夏子は、やって来たのが健だと気づくと、あんたは帰ってと部屋から追出す。

みんなあなたのせいよ、あなたと付き合わなかったらこんな事にならなかったはずだわ、もう妹には近づかないで、良いわね?と夏子は廊下で健に言い放つ。

そんな…と健は絶句するが、私がいけなかったのよ、あなた達の交際を黙認していたけど、もう許さないわと夏子は言う。

そこに駆けつけた野坂が、チエちゃん、気がついたかい?と夏子に話しかけると、2度と近づいたら承知しないわよと健に忠告した夏子は野坂と共に病室に入って行く。

夜中、健に呼び出された加納が、チエちゃん、大丈夫なのか?と声をかけると、黙ったまま健が去ろうとするので、どこに行くんだよ?と加納は慌てて聞く。

どうしたんだよ一体…と聞きながら付いて来た加納は、健が道ばたに落ちていたから瓶を拾い上げ、その場で割るのを見る。

殺してやる!と呟いた健に、健!と絶句する加納。

あいつ、ぶっ殺してやる!と激高した健に、バカな真似は止せよ、又チンピラに逆戻りしてえのか?と加納は注意するが、そんなもん、どうなってかまやしねえや!と健が毒づくので、馬鹿野郎!と叱りつける。

今までぎりぎりで生きて来たのが何にもならないじゃないか!そんなことしてチエちゃんが喜ぶと思ってるのか?どうしてもやりてえんなら俺を殺してから行けよ!と加納は立ちはだかる。

それを聞いた健は握りしめていた瓶を放す。 翌朝から健はピロン配達の仕事に励みだす。

伝票を書いていた健の元へ来た中山は、初日にしては良い成績じゃないかと褒める。

中山さんの教えてもらった通りセールスしただけですよと健は答えると、いつ先輩に追いつくかな?俺も楽しみだよと中山は嬉しそうに答え、成績表に健の成績を書き加える。

やがて、健の成績の棒グラフは会社内一に伸びる。 驚いた奴だな、もうすぐトップになるじゃないかと中山は健に声をかけると、中山さんのお陰ですと健が礼を言ったので、君に良い言葉を教えよう、3年分の価値ある苦労を1年ですれば10年の基礎が出来、10年分の苦労を3年ですれば一生の土台が出来る…、これは社長の信念なんだと中山は教える。

生きている異常は1分1秒もムダにしちゃいけないって言うことですねと健も意味を理解する。

ある日、健はチエの病室に見舞いに行く。

健ちゃん…、健ちゃんね?とすぐにチエは気づく。 チー坊…と声をかけると、どうしてもっと早く来てくれなかったの?とチー坊が聞くので、仕事の都合でね、秋田へは行かなかったんだと椅子に腰掛けながら健は答える。

するとチエは、聞いたわ宏次さんから…と言う。 へえ、宏次来るのかい?と健が驚くと、お姉さんのいない時を狙って…とチエは教え、健ちゃんも言われたんでしょう?私に会っちゃいけないって…と聞いて来る。

うん…と正直に健が答えると、でも私毎日会ってたわ、夢の中で…、健ちゃんの顔がはっきり見えたのとチエは言う。

ねえ健ちゃん、健ちゃんの顔に触らせてくれない?とチエが頼むので、健は右頬の傷を気にするが、待ってたの、来てくれるのを…と言いながらチエは両手を差し伸べて来る。

健はその両手を握って自ら自分の顔に触らせる。

嬉しそうに健の顔を触りながら、チエは、夢で見たのとおんなじ!と喜ぶ。 さらに、でもショック…と言い出したチエは、思ってたより二枚目なんだもの…と言う。

健はチエの手を握りしめ、早く目の手術が出来ると良いねと言葉をかけると、別に…、今のまんまでも良いわよとチエは答える。

どうして?手術が嫌なのかい?と聞くと、健ちゃん、角膜移植って知ってるでしょう?誰かが死なないと手術は出来ないのよ、誰かが死ぬのを首を長くして待つ…、そんな気持考えた事ある?そんな思いをして待つくらいなら、このままでいる方が気が楽よ…とチエは言う。

それに私には目があるわと言うので、心の目?と健が聞くと、ううん、健ちゃんよとチエは答えるので、健は当惑する。

健ちゃんが側にいるってことだけで、安心して歩いて行けるような気がするの 良し、俺ずっとチー坊の目になってやるよ、時々暴走するかもしれないけどね…と健は約束する。 その時は私が手綱を締めるわとチエも笑って答えたので、まるで逆だなと健は笑い出す。

その時、ドアの窓ガラスを叩く音がし、よお、健、来てたのか!と入って来たのは岡持を下げた加納だった。

よお宏次、元気か?と健も喜ぶと、すこぶる付きだよと加納は答え、チエはいらっしゃいと歓迎する。

健は岡持の蓋を開け、スペシャル弁当と言いながら取り出したので、いつもすみませんとチエは礼を言う。

健、悪いけど一人前なんだ、お前が入院した時は毎日届けてやるからなと加納が言うので、俺が入院なんかするかよ!車にぶつかったって入院するのは車の方だぜと健は言い返す。

するとチエは、健ちゃん、2人で半分ずついただかない?と言いながら弁当を差し出したので、これは良いなと健が答えると、おいおい、弁当作ったり働いたり全く調子狂ちゃうな〜と加納が文句を言って来たので、何言ってるんだと健は笑いながら加納の腹をつつく。

その後、ピロンの会社に配達から戻って来た健は、中山と話している伊東に気づき、先生と呼びかける。

随分探したよ、朝比奈君と伊東が近づいて来たので、先生、俺をくり浜に連れて行くんですか?と健が聞くと、そのつもりでここに来たんだと伊東は答える。

すると中山が、朝比奈、心配しなくて良い、お前の身柄は俺が責任を持って預かることにしたと言って来る。

本当ですか?と健が喜ぶと、中山さんが熱心にそうおっしゃるんでそうしてもらうことにしたよと伊東も笑顔を見せる。

ありがとうございます、どうもありがとうございますと健は頭を下げて礼を言う。

すると中山が、月が変わったらお前に城東地区の営業所を預けることになったからなと言い出したので、ええ?と健が驚くと、社長がお前の仕事熱心を認めて営業所長に抜擢しろと言われたんだと中山は教える。

そんな…、俺には責任重過ぎますよと健は遠慮するが、うん、19歳の営業所長は冒険かもしれんが、お前ならやるだろうと中山は言ってくれる。

営業所の下には5つの専売店がある、それを若いセンスでどう動かすか、会社も期待してるよと中山は励ます。

その夜、「レストランキング」の前にやって来た健は、出前から戻って来た加納を見つけ、よう宏次、俺店持てるんだよ、営業所長だってよ、ついて来たぜと嬉しそうに教えると、加納は真顔で、健、サブが出て来たってよと教える。

何?と健が驚くと、お前に話があるってと加納は言う。

警察に連絡しよう!と加納は言い出すが、良いから、どこにいるんだ?と健は聞く。

それを聞いた加納が、お前行くのか?と驚くと、あんな屑みたいな虫けら野郎に精一杯生きて来た俺が負けるとでも思ってるのか?と健は逆に聞いて来る。

加納は俺も行くよと申し出るが、さぼんなよ、ボーナスに響くじゃないかと健は苦笑する。

指定のガード下にやって来た健は、1人かい?と三郎が仲間たちと待ち構えていたので、少年院にいたときからそうだったな?1人じゃ喧嘩も出来ない腰抜けだったよとサブをからかう。

それまでにやけていた三郎が、何を?と睨んで来ると、いきなり殴りつけた健は、てめえらに俺たちの生き方を邪魔されてたまるか!と言い放つ。

殴り合いが始まると、すぐに三郎はナイフを出して来る。 危険を察し身を引いた健に三郎がナイフを刺して来たので、腹を刺された健はその場に倒れ込む。

それを見た仲間たちが逃げ出し、三郎もその場にナイフを捨てて逃げて行く。 何とか立ち上がった健の元に、健!大丈夫か!と呼びかけながら加納が近づいて来る。

タクシーに乗り込んだ健にどこに行くんだ?と同乗した加納が聞くと、飲み過ぎくらいでガタガタ言うんじゃないと健は言い聞かし、おい、そこで停めてくれと運転手に頼む。

病院の前に到着したので、ここは?と加納が戸惑うと、宏次、すまねえ、頼まれてくれと言いながら降りた健は、チー坊をここへ連れて来てくれと頼む。

しかしお前…と健を案じる加納だったが、良いから早く!と健は、だけどお前、そんな身体で!と案ずる加納の身体をタクシーの中に押し込むと、行ってくれ!と運転手に声をかける。

タクシーが走り去ると健は病院の中に駆け込む。

直ちに緊急手術が行なわれるが、しっかりしろ、輸血をすれば助かる!と声をかける医者に、俺が死んだらやってくれ…、チー坊に、俺の目…、頼むよ先生…と虫の息の健は托す。

君!と医者が呼びかけると、畜生…、暗えや…と健は呟く。

タクシーでチエと夏子を連れて病院に戻る途中の加納は、俺が…、俺が代わりに刺されりゃ良かったんだよ、畜生!と悔やむ。

加納と夏子に支えられ、病院の中に入ったチエは、健ちゃんはどこ?と聞くので、しっかりして、チエちゃん!と夏子が励ます。 そこに出て期待者が、チエちゃん…、患者の知り合いだね?と声をかける。

先生、健ちゃんどうなんですか?とチエが聞くと、うん、輸血がいるんだ、君たちの中にO型は?と医者聞くので、私、O型です、私のを取って下さいと夏子が申し出る。

するとチエも、私もO型なんですと答えたので、チエちゃん!と夏子は諌めるが、先生、私の血で健ちゃんを治して下さいとチエは訴える。 彼は君に目をやってくれと言っている…と医者が伝えると、いらないわ、健ちゃんがいない世の中なんて見たくない!とチエは答えるので、夏子は動揺する。

御願いします、私の血で早く健ちゃんを治して下さい!とチエは訴えるので、夏子も黙って医者に頷いてみせる。

手術室の健の横に寝かされたチエの左腕から健の右腕にチューブを通して血が送り込まれる。 廊下でそわそわ待ち受ける夏子と加納。

輸血を終え起き上がったチエが、先生、健ちゃん、大丈夫ですか?と聞くと、向うで休ませなさいと医者は看護婦に声をかける。

どうなんですか?先生…と聞くチエだったが、看護婦に連れられ手術室から出る。 隣りの部屋のベッドに寝かされたチエは、しばらくこのままでいるんですよと看護婦から言われる。

手術室では、おい君、血圧は?40です!などと慌ただしい声と交錯する足音がチエの耳に聞こえて来る。

至らん!木村先生呼んでくれ、早く!と叫ぶ医者の声を聞いたチエはゆっくり身を起こす。

血圧は?30です!と言う声が聞こえて来る中、チエは、健ちゃん…と呟き、部屋から出て行こうとする。

暗い階段を上がって行くチエ。

手術室に加納とともにいた夏子に、妹さんは?看護婦が入って来て聞くので、チエがどうかしたんですか?と夏子が聞くと、見えないんですと看護婦は言う。

外に出た夏子と加納は屋上にいるチエに気づき、何してるの、こんな所で?心配したじゃないの!と駆け上がって聞く。

健ちゃんは?と建物の端に立ったチエが聞くので、チエちゃん、あんた!と夏子が呼びかけ近づこうとすると、側に寄らないで!そこで言って、健ちゃん助かったの?それともダメだったの?とチエは聞く。

危ないじゃないの、そこから降りて!チエちゃんと夏子は呼びかけるが、言って…、どっちなの?とだけチエが頼むので、何も答えないでいると、ダメだったのねとチエは察する。

大丈夫だよ、健は助かったよ!と加納が答えると、本当?お姉さん!と言いながらチエが手を差し出して来たので、駆け寄った夏子はバカね、バカ、バカ!と言いながら抱き留める。

夏子と加納に連れられ手術室へ戻って来たチエは、両手を差し出して健の手を触ろうとする。

手を握りしめたチエは、健ちゃん…と呼びかける。 薄目を開けた健がチー坊と答えると、目なんかいらない、健ちゃんが側にいてくれるだけで幸せだって言ったでしょう?とチエは答える。

ダメよ、私を独ぼっちにしちゃ…、健ちゃんが死ぬなら私も死んじゃう…、健ちゃん、私の目なんだもの…とチエが言うと、そうだったな…、死ぬもんか…、もうどんなことが会っても…と健も泣きながら答える。

そうよ、約束してね、私と生きていくって…とチエが頼むと、健は黙って頷く。

その健の手に頬を掏り寄せるチエの姿を見た夏子も涙ぐむ。

加納もいつしか泣いていた。

健はベッドの上で目をつぶりチエの言葉を噛みしめていた。

隅田川を背景に(終)
 


 

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