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怪傑鷹 第一篇 蛟竜風雲の巻

東宝系の宝塚映画による珍しい子供向けマスクヒーロー時代劇。

一応、寿々喜多呂九平監督が自分で書いた原作を映画化したものらしいが、戦前からあるダグラス・フェアバンクス主演「奇傑ゾロ」(1920)の翻案と言われる「怪傑たか」(製作年不詳)をヒントにしているのはマスクの形態などからして明らかだと思う。

本作でのマスクヒーロー鷹も、剣を片手でフェンシングのように操る剣法を使っており、あちこち飛び跳ねたりロープを使ってターザンのような振り子移動などアクロバチックなアクションを披露したりと、どう見てもゾロのイメージを踏襲している。

そこに、鞍馬天狗の杉作や快傑黒頭巾の友之助とバットマンの相棒ロビンをミックスしたような子供キャラ隼童子の蝉丸と言う少年も登場している。

マスクは目の部分に両翼に開いた鷹の羽のような飾りが付いていて、頭をすっぽり覆む黒頭巾の端を後ろの結び目から長く垂らしたものの頭頂部に羽を重ねて貼ったような、ちょっと見ロシア帽のような物を目深にかぶっているように見える。

つまりライダーマンのように口元は出ているが、頭髪や髷は一切見えない。

マスクデザインはこの時代にしては格好良く、平成仮面ライダーなどを彷彿とさせるシャープなシルエットは悪くないと思う。

ロケ地はその荒廃振りからセットには見えず、どこか昔の屋敷や塀が残る地域を使ったのではないかと思われるが、特定が出来ない。

戦前版は断片的な物しか残っておらず、完全版を見たことがないので断言はできないが、衣装などから察するに江戸時代よりもっと古い時代設定だったのではないかと想像すが、本作の舞台は江戸時代になっている。

戦後のこの作品は1本の上映時間が40〜50分程度の中編で三部作構成になっていたようで「快傑鷹 第一篇 蛟竜風雲の巻」(1954年10月6日公開)「怪傑鷹 第二篇 奔流怒濤の巻」(1954年10月13日公開)「怪傑鷹 第三篇 剣風乱舞の巻」(1954年10月27日公開)と立て続けに公開されている。

これはおそらく、東映の「新諸国物語 笛吹童子」(1954年4月公開)をはじめとするいわゆる子供向け中編「東映娯楽版」が当たっていたことに対する便乗企画ではないかと思われる。

尺の短さだけではなく、この三部作の併映作は「新鞍馬天狗 第一話 天狗出現」「少年ケニア」「仇討珍剣法」と言ったヒーローもの、冒険もの、コメディと言った子供向けと思われる作品だからだ。

東映の方は同時期に「三日月童子三部作」や「竜虎八天狗三部作」を続けざまに公開しているし、松竹も「怪人二十面相三部作」を公開しており、東宝もこの作品以外に「あんみつ姫三部作」や「新鞍馬天狗三部作」そして「ゴジラ」を公開しているし、正に「子供向け映画」乱立の時期。

映画黄金時代と言われるこの時代も、興行的には「子供頼り」の傾向があったと言うことだろう。

そうした中にあって、この作品が今ほとんど忘れ去られているのは、東映の時代劇人気に及ばなかったと言うだけではなく、三部作公開直後の11月3日にあの「ゴジラ」が封切られ、さらに11月10日には雪村いづみ主演「あんみつ姫」と言った具合に、強力な東宝作品に人気を引っ張られたからではないかと想像する。

未曾有の特撮大作とアイドル映画に比べたら、正直この作品は「華」がなさ過ぎるし、話の背景も複雑で子供には分かりにくく、東映の後追い企画としてはちょっと魅力不足と言わざるをえない。

分かりにくいのはヒーローが王政復古を画策する人物を味方しているからで、幕末の勤王志士鞍馬天狗ならともかく、それ以前の江戸時代では幕府に楯突く人物の方が逆賊なのでは?と素朴な疑問が涌いて来る。

弱い者を味方すると言う部分では確かに鷹はヒーローっぽいのだが、宇宙人やギャング団相手に戦っているのとは訳が違い、政治がらみや権力闘争の背景が絡むと考え方や立場の違いで、必ずしもどちらが正しいとは言えなくなるからだ。

悪役が普通のおじさん風で悪役にしては魅力がないと言うのもこの手の勧善懲悪ドラマとしては弱い所で、魅力のない悪役と戦うヒーローも今ひとつ魅力も説得力も感じないように思う。

とにかく戦後の作品なのに知っている俳優さんがほとんど登場していないと言うのが辛い。

当時はそれなりに人気があった方達なのかも知らないが、若く愛くるしい扇千景さんと長門裕之さんが出ている以外は見覚えのない方達ばかり。

長門さんは、日活で活躍なさる前、子役から大人の役者へ移行する時期には、松竹、大映、東映、そしてこの東宝系の宝塚映画など各社に出ておられたようで、何とこの作品では、きりりとしたイケメン剣士としての登場になっている。

もし東映のようにこの宝塚作品が大ヒットして、長門さん人気もこの時点で爆発していたら、ひょっとしたら全く違った売れ方をなさったかもしれないなどと想像する。

この作品、ヒーローが初登場するまでが遅いし、画面も暗く、話としても凄く成功しているとは言いにくいのだが、皮肉なことに、東映の子供向け時代劇の便乗企画ながら、アクロバチックなアクションなどはむしろ後年の東映マスクヒーローに先んじているような印象がある。

このアクションを最初からもっと前面に押し出した演出だったら、もっと子供人気は上がったと思う。

▼▼▼▼▼ストーリーを途中まで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼
1954年、宝塚映画、寿々喜多呂九平原作、加味鯨児脚色、ロクヘイ・ススキタ監督作品。

鷹だ!と叫ぶ声と夜の庭を走る数人の侍たち。

タイトル

塀沿いを走る十数人の侍たち。

鷹だ!と言う呼び声を聞き、屋敷内から出て来た髭もじゃの侍黒木原平太(光岡龍三郎)は庭に走り出るが、その直後屋敷から出て来た頭巾姿の3人組は庭とは逆の方へ向かう。

庭に来た黒木原は、そこに倒れていた侍に、鷹はどこだ!と聞きながら身体を持ち上げると、一方向を指差してそのまま又倒れる。

その後も、倒れている侍を見つけては、鷹はどこに行った?と黒木原は聞くが、既に事切れていて答えがない。

その時、あそこだ!と声がしたのでそちらへ向かうと、塀の角の所でどこに行った?と大勢集まってきょろきょろしており、やって来た黒木原に、残念ながら…と言うので、取り逃がしたか?と黒木原は睨みつける。

バカたれ!たかが賊1人にこれだけの人数がいるのに取り逃がすとは何事だ!バカたれ!貴様らに何故高い飯を食わせておると思う!このバカたれ共!と黒木原の怒りは収まらない。

さらに近くにいた数人の侍たちの頭を叩きながら、どいつもこいつも役に立たん奴ばかりだ!このうつけ者め!とんま、バカたれ!と悪態をつく。

その頃、屋敷の中から反対側に走った頭巾姿の3人組は、塀を乗り越えて外へ逃げ出す。

それを木の陰から見ていたのは、刀を背負った1人の少年隼童子蝉丸(本松一成)だった。

親分、今夜はまんまとしくじりやしたねと頭巾の1人が言うと、親分と呼ばれた頭巾の侍もうんと答え、今日は日が悪い、二郎、又八、引き上げじゃいと親分は言い、3人は去って行く。

木の陰から現れた隼童子は3人組を見送る。

屋敷の中の柱には「告」と書かれた書状が短刀で突き刺されていたので、侍2人がこれを外す。

屋敷の中では京都所司代池上伊予守(寺島貢)が家老堀越兵庫(大谷日出夫)と2人で賊に怯えながら奥の部屋に隠れていたが、そこに殿!と呼びかけ駆けつけたのは5人の家臣たちだったので、何だお前たちか…と伊予守は安堵して姿を見せる。

くせ者はどうした?と伊予守が聞くと、残念ながら取り逃がしましたと家臣の1人は言うので、馬鹿者め!と伊予守は叱りつける。

そこに「告」と書かれた書状を携えた2人がやって来て、殿、このような物が…と差し出す。

何!と驚いた伊予守は、兵庫!と家老に声をかける。

首座に戻った伊予守の横にその書状を携えて座った家老堀越兵庫は、私はたびたび貴殿に京都所司代の役目を引退されるよう勧告申し上げた。

しかるに聞き入れて下さる様子がない、拙者はもはや貴殿の謀略の前に虐げられた安易に苦しめられる人民を見るに忍びず、敢然として立ち挑戦の火ぶたを切る。

貴殿のごとき冷血鬼のような小鬼役人は民のために許しておくことは出来ない。

試みに貴殿の今まで犯した悪行の罪を挙げてみよう。

第一、人の命を軽んじ、無闇に領民を手討ちにし、人の路を踏みにじった。

その第二、人民から不当な税金を取り立て、年貢を吊り上げ私服を肥やし、しかも過酷な使役を…と読み進めていたが、さすがに堪え兼ねた伊予守は、もう良い!と制止する。

又してもいらざるお節介…、兵庫!余のやることにつべこべ抜かす許されざる憎い奴、町奉行に言明して即刻引っ捕らえ、余の面前に連れて参れ!と伊予守は兵庫に命じる。

それから三位頼房を拷問にかけろ!鷹は確かに奴の一味に相違ない…と伊予守は推測する。

後ろ手に縛られた公卿綾小路三位頼房卿(高松錦之助)が正座した膝の上に石を抱かせ拷問を加えた兵庫は、さあ白状しろ!鷹とは、天下に弓引く汝らの一味に相違あるまい!その隠れ家はどこにある?言え!と鞭打って問いただしていた。 しかし頼久は、知らん!そのような者は知らん!と言うだけ。

ええ、強情な…、良し、白状せんとあらば、おい!焼きごてを当てろ!と兵庫は命じる。

焼きごてを押し付けられ苦悶の声を挙げる父親を牢の中から見て、お父様!お父様!と涙ながらに呼びかけていたのは錦姫(呉羽寿美)だった。

翌日、町奉行仁礼左衛門(澤村國太郎)を屋敷に呼び寄せた兵庫は、用と言うのは他のことではないが、例の鷹と言うくせ者のことですと話を切り出す。

どうもこの都をああ言う不逞分子の跳梁に任せておくのは、ずばり町奉行の怠慢ではないか!…と殿は言われるのだが…と兵庫は言うと、は、何ともはや…と仁礼は恐縮する。

ここは一番、仁礼殿の働き所、宜しく頼みますぞと兵庫は伝える。

それからと言うもの、夜間も見回りが厳しくなり、例の3人組の頭は、ちぇ、こう警戒が厳重では我ら情報屋は上がったりでい!とぼやく。

仁礼自身も見回りに出ており、途中会った部下が御奉行様!と驚くと、何か怪しい者は?と聞き、はい、今の所…と部下が言うと、そうか、十分警戒してくれと指示する。

その直後、見回り隊の大垣が、派手な頬かぶりにひょっとこの面をかぶり、刀を背中に担いでふらつきながら歩いていた1人の怪しげな男を見つけ、待たれい!我々は町奉行署の者だ、その面を取らっしゃい!と声をかける。

するとその男は、面を取れと言われるか?こいつは参った、どうかそれだけはご勘弁…と酔っているような口調で返事をするので、大垣は益々怪しみ、う~ん、面を取れ!と迫り、役人自ら面を剥ぐ。

するとその男は仁礼左衛門の息子仁礼六郎太(中川晴彦)だったので、これはこれは六郎太様…と大垣は慌ててお辞儀をする。

すると六郎太は、ああ、遂に見つかったか…とふざけ、大垣さん、父上には内緒に頼むぜと声をかける。

どうも、あのガンコおやじと来たら小言の国から小言を背に売りに来たような…と六郎太は愚痴るが、その時、大垣の背後から現れた仁礼左衛門に気づき、これはこれは父上、今晩は…と急に殊勝な態度になって挨拶をする。

たわけ者め!良くも今頃までうろつき回っているのだ!少しは身分名を考えろ!と仁礼左衛門は叱りつける。

都大路の安寧を預かる町奉行の息子がこの体たらくは何事だ!そもそも…と仁礼左衛門が説教をしていると、父上、お話中ですが…と六郎太が口を挟んで来たので、黙れ!と左衛門は叱る。

小言でしたら、ただ今私の耳の鼓膜が壊れておりますので、修繕するまでもうしばらくお待ちくださいと六郎太は一礼すと、ではさようなら…とお辞儀をし、ふらふらと立ち去って行く。

六郎太が帰宅すると、あ、兄上様!と美鈴(扇千景)は喜んで座布団を指し出して来たので、まだ起きてたのか?と六郎太が聞くと、兄上様のお帰りをお待ちしておりましたのよと美鈴は言い、今日の夕方こんなものが私の机に置いてありましたわと言いながら書状を差し出して来る。

何だ?と言いながら受け取った書状を読み始めた六郎太は、緒形麗三郎殿、追補の手を逃れ無事落ちさせたもう、ご安堵しかるべし、いずれ花咲く季節が来たら…、鷹…、鷹?と読み終えて戸惑うと、ええ、鷹からよとと美鈴は嬉しそうに言う。

うん、すると麗三郎殿は…と六郎太が呟くと、お戻りになられたのね、嬉しいわ、今日まで犬死になされたとばかり思っておりましたのに…と美鈴は喜ぶ。

ね、御兄上様、私、思うんですけど、もしかしたら、あの鷹と称する人こそ麗三郎様が世を忍ぶ仮の姿ではありますまいか?美鈴が言うと、いや〜、あるいはそうかもしれんな…と六郎太は答える。

あの神出鬼没、俊敏風のごとき行動活躍、いかにも緒形麗三郎らしいやり方だ…と六郎太は納得したので、でしょう?ああ良かった…と美鈴は胸を撫で下ろす。

その頃、緒形麗三郎(長門裕之)は、見回りの目を逃れ夜の町を歩いていた。

翌日、飲み屋「升屋」では、昼日中から池上家の侍たちと酌婦がみんなに陽気に歌っていた。

そんな中飲んでいたヒゲの黒木原平太が、酒の1升や2升飲んだって、奈良の大仏がすずめの涙をかけられたほどにも堪えぬわと自慢していたが、その相手をしていた酌婦が、だってもし正義の鷹がここにひょっこり現れたらどうなさいますの?と聞くと、ハハハハ、心配無用、もし鷹が現れたら直ちに捕まえて焼き鳥にして食ってやるわいなどとヒゲ侍はホラを吹く。

だが鷹はわしの前には出てくまい、あいつはわしを怖がっておる!いつでもわしを避けてばっかりおる、あいつはわしの武勇を恐れているんじゃ、それに決まっとる、大体、鷹、鷹と鷹が何か期待の良い犬であるが如く祭り上げたのはのろまな君たちの逃げ口上だ!鷹がなんだ!鷹がどうしたと言うのだ!鷹1人に都大路をかき回され、町奉行の役人どころか所司代の役人まで手も足も出ないとは笑止千万! 鷹が何だと言のだ!鷹!出て来い!この黒木原平太と堂々と勝負を挑む勇気があるなら出て来い!出て来〜い!と黒木原が呼びかけると、笠を目深にかぶった1人の僧が店に入って来る。

席に腰を下ろした僧は、酒!冷やで良い、一升升でくれと笠を取って注文するが、見るとその男も顔は髭もじゃだった。

その怪しげな僧を凝視する黒木原と池上家の侍たち。 僧は升酒を一気にあおると、小銭を飯台の上に起き、黙って帰って行く。

何だ、あの坊主は?多分、比叡山の山法師だろうなどと侍たちは話合う。

又みんなが飲み始めた時、神妙にせい!と外から声が聞こえ、2人の侍が女を押さえて入って来たので、この女は何だ?と黒木原が聞くと、は、我々の姿を見て急に逃げ出そうとしました、どうも挙動がおかしいので引っ捕らえて参りましたと2人の侍は報告する。

そうかと答えた黒木原は女の顎を上げ、顔を見せろと命じると、じっとその顔を覗き込み、見覚えがあるぞ、お前確か綾小路三位卿の召使いだな?と思い出す。

いいえ、違いますと女は否定するが、嘘をつけ!姿形は変わっとるが、お前は確かに三位卿の召使いだと黒木原は断定する。

この黒木原平太の眼はごまかされんぞ!と迫るが、女は違います、私は…と言いかけるが、黙れ!縄を打て!と黒木原は命じる。

その時、女は2人の侍を押しのけ、入り口から入って来た、羽を広げた仮面を付けた黒装束の謎の人物の背後に隠れる。

その人物を見た黒木原平太は、出たな、鷹!汝を待つこと久し、かくいうわしはと名乗ろうとすると、所司代随一の武勇を誇る自称豪傑、そそっかしのがちゃがちゃ侍黒木原平太だろう?と鷹からからかわれてしまう。

黒木原は、おのれ、ほざいたな!と激高し剣を抜くと、店にいた侍たちも一斉に刃を抜いて身構える。

しかし鷹は逃げもせず、むしろ女を庇いながら店の中に踏み込んで来る。

鷹が侍たちと戦い始めると、女が逃げようとするが侍が逃がすまいと絡んで来る。

その時、店の一隅から隼童子蝉丸が現れ出て、女を入り口から外へと連れ出して行く。

酒場の中では鷹も剣を抜き、片手持ちで飯台の上に飛び乗り、侍たち相手にファンシングのような剣法で立ち向かう。

鷹は黒木原に向けて剣を投げつけると、並べてある飯台から飯台へと飛び移り、さらには二階の梁にまで飛び移るアクロバチックな動きで侍たちを翻弄。

二階の渡り廊下に上がった鷹は、斬り掛かって来る侍たちに素手で立ち向かう。

侍を下に突き落とすと、綱を伝って下に降りて来る。

そして又二階の渡り廊下に登ると、ロープでターザンのようにぶら下がり店から外の家の屋根に飛び移る。

侍たちも外へ飛び出すが、地面でトンボを切った鷹は侍たちを尻目に逃亡する。

塀添いの路に追って来た黒木原は、どこに逃げた?くそ〜と悔しがっていたが、その塀を乗り越えて来た鷹が、えいっ!と背後から黒木原の背中を蹴って逃げる。

蹴飛ばされてよろけた黒木原は振り返って、あっ!鷹!と気付き後を追う。

鷹は二階屋の屋根の天辺に現れたり、塀を乗り越えたり、門の柵を飛び越えたり身軽な所を店侍たちの追っ手をからかう。

途中、柵を乗り越えようとして帯が引っかかり、前に進めなくなった黒木原の背後に現れ、帯を抜いてやったりするが、黒木原はそれに気付かずそのまま走り去ってしまう。

鷹は背後にいた、先ほど酒場で助けた女と隼童子を見てその場を立ち去ろうとするが、女があの…と呼びかけて来る。

その頃、侍たちと合流した黒木原が鷹はどうした?と聞くと見失いましたと言うので、う〜ん、残念だな…と悔しがる。

一方、寺の裏庭で酒場で助けた琴枝(大和七海路)から頼みがあると言われた鷹は、その場に座り話を聞くことにする。

はい、私の主人頼房卿はかねがねから鎌倉以来の政治をもう一度王政に取り戻さんとして、大坂の陣以後、急に増えた浪人の一味や徳川方に不満を持つさる西国大名などと手を握り、密かに準備を整えておられました。

ところがその秘密がどこから漏れたものか、ある晩突然、所司代の追補の手が伸びて、ある者は斬り死にをなさり、ある者は捕えられ、頼房卿始めお姫様も遂にとらわれの身になられました…と琴枝は明かす。

そのご主人様親子の仇をどうか貴方様のお力でお救いくださる訳には?と琴枝が申し出たので、そうですか…、頼房卿のことは私も前から聞き知っておりました、いや宜しい、何とかお力沿いを致しましょうと鷹が答えると、鷹のおじさん、どうぞ宜しくお願いしますと隼童子も言って来る。

おいらたびたび六角の牢に忍び込んだんだけど、見張りが厳重でおいら1人じゃどうにもならないんだと隼童子が言うので、それにしても良く牢屋に忍び込めたな〜と鷹が感心すると、そんなことはお茶漬けさらさら、漬け物ぼりぼり朝飯前さ!こう見えても、おいら、鷹のおじさんに負けないくらいはしっこいんだぜと隼童子蝉丸は自慢する。

名前からして隼童子の蝉丸ってんだと子供は名乗るので、そうか、じゃあ我々はこれから仲良しになろうと鷹は手を差し出す。

するとありがとう、これでおいらも千人力だ!と喜び鷹とがっちり握手する。

その夜、拷問され体力の衰えた頼房と錦姫が幽閉された牢がある屋敷の外を提灯を下げた見回りが巡回していた。

そこに近づいた隼童子は将棋を指していた見張りの目を盗みそこを突っ切ると、目指す牢にたどり着くと鷹から預かった手紙を渡す。

そこには「救助の手動きつつあり 機会を待たれよ 鷹」と書かれてあった。

隼童子が見張り番の隙を見て逃げ出した直後、くせ者だ!と騒ぎが起きる。

見張り番も慌てて飛び出して来るが、隼童子はちょこまか逃げ回り、木の蔦を登って石垣を下るが、そこで又見回りの侍たちに発見される。

しかし屋敷の外に馬に股がった鷹が待ち受けており、逃げて来た隼童子を抱き上げて逃げ去る。 警護の侍たちも馬で追跡する。

鷹は夜の闇に乗じ途中で隼童子を降ろし、単独で逃げるが、追っ手はそのことに気付かず追って来る。

そして鷹自身も途中で馬から頭上の橋に飛び移って逃げ去る。

その頃、伊予守は腰元たち相手に酒を飲んでいた。 その時、ご免下されと襖の影から声がかかったので、何奴じゃ?用があれば明朝にせい!と伊予守が叱ると、僧はしておれん、こちらにも色々都合がある!と襖の奥の声は答える。

何?ウ〜ン何者だ?と伊予守が呼びかけると、ご存知、鷹でござる!と声は答えたので、腰元たちは悲鳴を上げて逃げ出し、伊予守が刀に手をかけた時、黒ずくめの鷹が部屋に入って来る。

伊予守が斬り掛かると、それを交わした鷹は逆に伊予守に刃を突きつけ、拙者先刻来色々勧告申し上げたはず、伊予殿まだ拙者の申し出を聞く気になれませんか?と迫る。

あなたの評判は四面楚歌、今の間に職を退いて、のぼせた頭を冷水で冷やした方が賢明、美しい情婦、結構な住まい、贅沢な料理、これは皆、働いている人民から絞り上げた金で賄っているのだ、渇いている物は麦飯を食え!公儀役人だけが銀飯に山海の珍味を味わう、誰が決めたのだ!返答どうだ!と鷹は言う。

しかし伊予守は、危ない、危ないではないかと突きつけられた刃に抗議するだけで、その時、部屋の外で家臣たちの騒ぎが聞こえて来たので、鷹は部屋の外に飛び出し、屋内警護の侍たちと戦い始める。

者共、鷹を捕まえろ!逃すな!追え!と伊予守は部屋から呼びかける。 翌日、町の通りには冥加金の取り立ての高札が立つ。

徳川の天下を覆そうとする奴らが蔓延って、いつ何時又戦にならんとも分からんので軍資金の足しにするんだろうが、こっちこそ良い迷惑だ!体裁の良いこと言いおって、貧乏人の財布を絞ってみんな手前たちの懐を肥やすんだ、懐を…と高札を読んだ町人から不満が出る。

しかしそれを聞いていた役人がその不満を言っていた町人を背後から掴み、もう1度言ってみろ!と言いながら乱暴を働き、そのまま連行しようとするが、その時、塀を乗り越えて鷹が出現し、捕まえられていた町人を逃がすと役人たちと戦い始める。

2人を川に投げ込んだ鷹は十手を差し出す役人を残し走り去る。

その活躍を、塀の影から覗いて微笑む美鈴。

そこに、おいどうした?とやって来たのが黒木原平太で、鷹が…と役人が答えると、何?鷹!どこにいるんだ?と聞き、あっちに逃げましたと聞くと、良し!と言い残し走り去る。

しかし見失った黒木原が通りかかった町人を呼び止め、鷹を知らんか?と声をかけると、鷹?ああ、トンビならあそこにおりますがと空を指差したので、黒木原はあっけにとられて上を見る

屋敷では伊予守が兵庫と相対し、さて頼房親子の処分じゃが…、命を絶つことはいつでも出来る…と言うので、いやしかし、邪魔者は一日も早く処分しておきませんといつ何時、あの鷹と言う奴の手が伸び…と兵庫は言い返す。

ウ〜ン、それも心配じゃが、いやわしにも1つの考えがあるのじゃと伊予守は言う。

近く江戸より老中堀田相模殿が上洛する、そのおもてなしにわしはあの娘を利用してはと思っておるのじゃ…と伊予守が言うと、なるほどそれは御分別でございますと兵庫は一礼する。

何分、堀田様はあの道にかけては評判のお方でございますと兵庫が笑顔で言うと、伊予守もそれよ!と答える。

それなればこそこの献立は何よりのごちそうであろうと言うものだと伊予守が笑顔で言うと、御意!と兵庫は答える。

したが、それならばあの六角の牢に置くのは危険、いっそ今のうちにこっそりここへ連れ移しまして…と兵庫が提案すると、そうよなぁ〜…、しかし護送の途中は大丈夫であろうか?と伊予守は案ずる。

もちろん鷹の出現に備えなければいけませんが、それには良い計略がございますと兵庫は答えると、伊予守に何やら耳打ちを始める。

後日、六角の牢から駕篭に乗せられた錦姫の移送が行なわれる。

仁礼左衛門ら役人も出張り、黒木原平太ら警護の侍や奴たちまでもが途中の林の中に潜んで待ち受ける。

やがて駕篭の列は、農民が引いた牛車が立ち往生している所に差し掛かり動きが止まる。

その時、列の背後の塀から飛び出して来たのが鷹だった。

あ、鷹!と警護のもにが気付くと、先ほどからここで待ち受けていた、部下を貰い受けると言うと、敵の刀を奪い戦い始める。

鷹が警護の侍を脇道へ連れ込んだ隙に、牛車を修繕していたかに見えた農民たちが駕篭を奪って立ち去って行く。

鷹はその後を追い、さらに後から追って来た護衛に向かって奪った剣を投げ捨てると、駕篭と共に姿を消す。

護衛の侍たちが角を曲がると、そこには駕篭だけが置き去りにされていたので、用心深く近づくき駕篭の扉を開くと、そこにはおかめの面をかぶった人物が寝ていたので、面を取って見るとそれは怪我をして気絶した警護の侍だった。

その頃、鷹は錦姫を馬に乗せ逃亡していた。 その夜、と言う訳でな、今日はまんまと鷹のために一杯はめられたんだと仁礼左衛門が娘の美鈴に明かしていた。

すると美鈴は、そりゃお父上様、その鷹を計略にかけようと言うのが無理でございますわよ、鷹って本当な良い人間でしょう?それをみんな寄ってたかって捕まえようって、ちょっと可愛そうよと言うので、お黙りなさい!鷹は不逞の輩に力を貸す所司代のお尋ね者だと左衛門が言い返すと、でも鷹は弱い人達の味方よと美鈴は言う。

バカなことを言いなさい、鷹はな、わしにもたびたび煮え湯を飲ませた憎い奴だと左衛門が言った時、突然障子の向こうから笑い声が聞こえて来て六郎太がやって来たので、何がおかしい!と左衛門が叱ると、いくら力んでも、ぼんくらな父の配下には鷹はおろか雀だって捕まりますまいよと六郎太はからかう。

黙れ!と左衛門が気色ばむと、父上、ムダな忠義立てはお辞めになったらどうですか?父上は身分を偽って今の職に就いておられるのでしょう?と六郎太は指摘したので、何を申すか…と左衛門はちょっと気弱になる。

私は何もかも存じております、父上の前の身分は豊臣家の残党でございましょう?と六郎太が指摘すると、おい、声が高い!と左衛門は慌てて制する。

私は父上の系図を見てちゃんと知っております…と六郎太は静かに言う。

父上、あなたはそれほどまでして栄達の道が欲しかったのですか?敵にも等しい徳川の禄を食むことに気が咎めなかったのですか? 父上がいかに隠していられても、やがて父上の身分が暴かれる日がきっと参ります、父上にはその時のお覚悟が出来ておりますか?と六郎太が懇々と説くと、もう良い、もうそのことは申すな…と制して左衛門は落ち込む。

その後、自分の部屋に戻って来た美鈴は机の上に置いてあった書状に「明日昼 南禅寺の門へ来れ 鷹」と書いてあるのに気付く。

翌日、美鈴は指示通り南禅寺の門の所に行ってみる。

するとそこに1人の虚無僧が近づいて来て、笠を取ると、美鈴さん、しばらくでしたと語りかけて来る。

貴方様は!と美鈴が笑顔で近寄ると、びっくりされたでしょう?と答えたのは緒形麗三郎だった。

良くご無事で!と美鈴が喜ぶと、あの晩、危うい所をやっと逃れて…と言うので、本当に嬉しゅう存じます、それに又、綾小路三位卿の姫君を貴方様の手でお救いくださいまして…と美鈴が言うと、ああ、あれは私ではありません、鷹野やったことですと麗三郎が言うので、その鷹とは何を隠そう、あなたのことでございましょう?と愉快そうに美鈴は笑い出す。

しかし麗三郎は、冗談でしょう、私はそんな…と否定するが、お隠しになってもダメでございますわ、この美鈴はちゃんと存じておりますとそう信じ込んでいる美鈴は聞く耳を持たなかった。 困りましたな、勝手にそう決められては…と麗三郎は苦笑する。

いいえ、良いのよ、違ったら違ったで宜しゅうございますわと美鈴は言って笑う。

そこに黒木原平太と侍たちが近づいて来たので、人が来ました、では又…、お尋ね者に人目に立ってはお互いのためになりません、さらばと挨拶し、追いすがろうとする美鈴を残し、笠をかぶって立ち去る。

寺から帰る美鈴に目をつけたのは、草むらに身を隠していた例の三人組の盗賊だった。

美鈴の背後から近づき、いきなり身体を抱えて拐かそうとしていた時、3人組の前に現れたのは隼童子の蝉丸だった。

やい、おのれ!その人をどうするつもりだ!と隼童子が聞くと、何?この小童(こわっぱ)の洟垂れめ!邪魔立てすると鼻息で吹き飛ばすぞ!と首領が脅す。

すると隼童子は、吹き飛ばすなら吹き飛ばしてみろ!ただの小童(こわっぱ)とは小童(こわっぱ)が違うぞ!と怯まず言い返し、背中の刀を抜いて3人組に斬り掛かって行く。

足を切られようとしたので、慌てて抱えていた美鈴を降ろしたので、隼童子は美鈴を背後に構え3人組に対峙する。 小童(こわっぱ)斬るぞ!と首領が刀に手をかけた時、その背後に現れたのは鷹だった。

あ、鷹のおじさん!と隼童子が叫んだので、振り返った3にんは鷹に気付き斬り掛かって行くが、彼らの腕で敵うはずもなく、3人組は這々の体で逃げ出して行く。

隼童子は、刀を振りかざしてそんな3人組を追って行く。

美鈴は隼に向い麗三郎様ありがとうございましたと礼を言うと、蝉丸、そこまでお送り申し上げろと隼は戻って来た隼童子の命じると立ち去る。

美鈴様、お供致しましょうと隼童子が刺そうと、美鈴も嬉しそうにええ、すみませんねと答える。

その様子を3人組はそっと見ており、美鈴を送り届け帰って来た隼童子を見つけると、あれや!と首領は黒木原に密告する。

隼童子は、黒木原とその仲間の侍たちに取り囲まれてしまう。

その夜、捕まって池上伊予守の屋敷に連れてこられた隼童子に、鷹と言うのは一体何者だ?鷹の正体を教えろ!と黒木原は迫る。

言えぬ!と隼童子が言うと、貴様が知らぬはずがない!白状しないと痛い目を見せるぞと迫るが、知らねえ者を白状できねえや!鷹のおじさんは今まで誰にだって顔を見せたことはないんだから…と隼童子は気丈に答える。

ええい、あくまでシラを切るか!と怒った黒木原は隼童子の顔を殴り始める。

しかし隼童子は、いくらでも殴れ!だがおいらを殴ったことを忘れるな!と泣かないで言うので、何!と言うと、おいらの後ろには鷹が付いているんだぞ!と隼小僧は言う。

鷹のおじさんはきっとおいらを助けに来る、きっと来る!と隼小僧が言っている時、その通り!と言う声が背後から聞こえて来る。

鷹、ただいま参上!と言う声とともに、塀の上に鷹が出現する。

庭に飛び降りた鷹は隼童子の手を引いて屋敷の中に逃げ込む。

護衛の侍たちが襲い来る中、鷹は敢然と戦い始める。

黒木原は槍を突いて来る。

さらに屋敷の奥へと逃げ込んだ鷹と隼童子だったがすっかり敵に囲まれてしまった上に鉄砲隊までやって来て逃げ道を塞がれてしまう。

鷹、さあどうだ?貴様の運命ももはや極まった!鷹の面を取れ!と槍を構えた黒木原が迫る。

お面を取れ、命令に背くとこの種子島が一斉に火を吐くぞ!さあ面を取れ!と黒木原に言われた鷹は剣を捨て、マスクの後ろの結び目に手を延ばす。
 


 

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