白夜館

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花のヒロイン 

 

 

 

幻想館

 

腰抜け巌流島

マンガの実写化作品で、「腰抜け二刀流」(1950)で偽宮本武蔵を演じた森繁が二度目の武蔵役に挑んでいるコメディ。

若い頃の森繁が大映作品に出ていたことも森一生監督にこんな軽いナンセンス作品があったことも知らなかった。

冒頭の関ヶ原の合戦シーンからセット丸出しで、吉岡道場のシーンなどもほとんど書き割りの前のコントである。 巻物を持った古風な忍者なども登場するファンタジー要素もあり、見るからに低予算の添え物作品だと分かるが、澤庵和尚から木に吊るされたり、吉岡道場を破ったりと言った有名なエピソードを面白おかしくコント仕立てで描いている感じの展開になっており、若々しい森繁のコント芸が楽しめる。

森繁と言えば、後年演技派俳優のようなイメージになるが、この当時はコント芸人みたいなポジションだったことが分かる。

翌年の東宝作品「海賊船」や「完結 佐々木小次郎 巌流島決闘」でも、口の達者な軽い男と言うイメージだったので、当時はそう云うおしゃべりで陽気なキャラとして人気者だったのだろう。

戦前から活躍している横山エンタツからすると、戦後デビューして早いうちから主演作もある森繁はどう見えていたのだろう?

ぽっと出の新人と思っていたのか、それとも脅威と写っていたのか?

森繁からするとエンタツは映画の大先輩に当たる訳で、後の「社長シリーズ」等でも加東大介さんなど戦前から活躍している先輩を部下として扱っていた訳で、現場ではやりにくかったのではないかとも思うが、画面上は堂々と渡り合っているように見える。

本作ではまだ若々しい森繁が、気絶してぶっ倒れたりする身体を張った笑いをやっているが、ナンセンスが冴え渡っていると言う感じでもなく、全体を通しコメディとして成功していると言う印象もない。

ただ佐々木小次郎役が大泉滉さんと云うのは見物で、美形と言う点では古今東西一番の美形小次郎かもしれない。

▼▼▼▼▼ストーリーを途中まで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼
1952年、大映、荻原賢次「異本宮本武藏」原案、民門敏雄脚本、森一生監督作品。

タイトル(マンガイラストを背景に俳優たち数名でタイトルを叫ぶ)

キャスト、スタッフロール(マンガイラストを背景に男女混成合唱団による軽快な歌とともに)

火を噴く大砲

大砲の弾が炸裂する中、両軍の戦士たちが斬り合う戦国時代の戦場 若者よ夢をもて!(その屍を背景にテロップが重なる)

そして図々しく世を渡れ!

「関ヶ原」の道標を背に、大砲の弾が炸裂する中、仁王立ちする2人の戦士。

日頃の手並みによって武士となる絶好の機会!(と武蔵の独白) あれに見えるは御領主池田輝政公の御陣屋と覚えたり!又八!続け!(と佐助は心の中で叫び槍を突き上げて前進しようとするが)

ちょっと待った!とそれを制して立ち小便をする相棒又八に呆れた武蔵(たけぞう)こと後の宮本武蔵(森繁久彌)は、貴様、先ほどからなんべん催しておる!この臆病者!と文句を言う。

臆病者?よ〜し、死ねば良いんだろう?死ねば!とやけになった又八は、死んでこましたるわい!続け!とばかりに泣き顔で前進しようとするが、ちょっと待て!と武蔵が槍で又八の胴を押さえたので、それ見ろ!と又八は怒るが、違うんだ!お前の言う通りな、お互いこれが最期かもしれんと言う瀬戸際、やっぱり、やっぱりな…、打ち明けておいた方が良いと思うことがあるんだよと武蔵は言い出す。

又八、怒っちゃいけないよと、爆裂音にかき消されそうになりながら武蔵は叫ぶ。

その後を続けようとした武蔵は、あんまり周囲の爆発音がうるさいので、やかましい!と怒鳴りつけると、爆発が逆回転で萎んでしまう。

静かになった所で、又八、実はな…、俺な、あの…、村があるだろう?としどろもどろで武蔵が言うので、はっきりしろ、何言うんだ?と又八が急かすと、そうだ、あの…、村のな、娘っ子な…、長い間おかしな話なんだけどよ、あの〜、思い焦がれてな…と武蔵が言うので、お前みたいな図々しいのが…と又八は呆れる。

いや、この道ばかりは別なんだよと言い訳した武蔵は、そいでな、散々思い悩んだあげく、とうとうな、こっちへやって来る前の日に思い切ってな俺は…と武蔵は明かす。

(回想)庭先で横笛を吹いていたお通(三條美紀)の家にやって来た武蔵は、垣根から庭先を覗き込み、お通さん、私の心はあの有名な古い歌の通り「しのぶれど 色に出でにけり わが恋は…富士の高嶺に蟹とたわむる…」と、ジェスチャーまじりに伝えようとする。

しかし背中を向けていたお通には通じなかったので、懐に入れて持って来た瓜を2つ取り出して渡そうとするが、それも後ろ向きのお通には分からないので、お願い!とつい声を出して力を出し過ぎたため瓜の1つを握りつぶしてしまう。

その声に気付いたお通が嬉しそうに振り返るが、武蔵は垣根の陰に身を潜めてしまう。

誰です?そこにいるのは?とお通が声をかけると、近くの木下に移動した武蔵がモ〜と牛の鳴きまねをしたので、意気地なし!と怒ったお通が、思い切り薪割り台に笛を叩き付けたので、反動で飛んだ薪が武蔵の頭に当たり、武蔵はにやけながら卒倒する。

(回想明け)笑って話し終えた武蔵に、誰だい、その許嫁ってと又八が聞くと、お前だよと言うので、えっ!何!と又八は驚く。

武蔵も慌てて、いや!女はな、お通さんなんだと打ち明けると、武蔵(たけぞう)!そんな!と言いながら又八が立ち上がり、近くで大砲の弾が炸裂した中、槍を武蔵の方へ向けたので、慌てるな!又八!問題は彼女と…と武蔵も立ち上がって槍を構え、又八、槍が反対だ!と教えるが、その時、武蔵の槍の先が大砲の弾に当たって弾け飛ぶ。

武蔵は、あれっ!と驚くが、又八も気勢をそがれたようで、あっけにとられる。

武蔵の槍の切っ先は飛んで行き、ちょうど、御主君池田公の名を辱めることのなきよう心してかかれ!良いな、それ!と歩兵たちに命じていた馬上の武将の胸に刺さり、武将は馬から落ちる。

それを見た又八は、武蔵(たけぞう)、あれは味方の侍大将だ!と怯える。

味方の!と武蔵も驚くが、こりゃ大変だ!と又八は動揺するので、ことの重大さを覚った武蔵も逃げるんだ!と又八に呼びかけ、2人してその場から逃走する。

又八は一目散に逃げ去るが、武蔵は持っていた切っ先のない槍を林の中に投げ捨てるが、誰かに当たったようなので、当たったか?すまん!と詫びる。

林の中から痛そうに顔をしかめながら出て来たのは澤庵和尚(横山エンタツ)だった。

ああ無茶しよる、待て!と呼びかけた澤庵和尚は、貴様の所と名はちゃんとここに書いてあるぞ!と手にした槍を叩いて武蔵に迫る。

しかし武蔵は、見たか、坊主、貴様訴えるつもりか?と言いながら胸ぐらを掴んで睨みつけたので、いや究明したいのじゃと澤庵和尚は訴える。

わしは澤庵と言うてな、こう見えても池田輝政公とは長年昵懇の間柄じゃ、決して悪うはせんと言う。

今わしがここで縄を受けたんは、お前の身のためじゃ、どうじゃな?と澤庵が言うと、バカだな〜こいつ、良い年しやがって、この!などと言いながら武蔵は澤庵の頭を叩く。

あり?と澤庵は呆気にとられるが、あり?何を言ってやがるんだ、そんなこと聞いたって今更お前を生かしておけねえじゃないか!と言うと、武蔵は小刀を抜いて澤庵に突きつける。

すると澤庵は、そうか…、そりゃ弱ったな…とぼやくので、良し、堪忍してくれ?と武蔵が迫ると急に笑い出すと、突如、喝!と大声を挙げる。

するとどうしたことか、武蔵はにやっと笑ってその場に昏倒してしまう。

後日「宮本武蔵 右の者先般関ヶ原戦場に於いて、当家侍大将宍戸勘左衛門を暗殺せし咎により 明日場内に於いて新身の一刀試斬に処す 慶長5年9月18日 池田輝政」と書かれた高札が立つ。

それを眺める町人たちに混じって、お通も高札を読んでいた。

武蔵は捕まり、場内の大木に縛られたまま吊るされていた。

気を失っていた武蔵を見上げに来た池田輝政と澤庵は、遂に気力も尽きたと見えるな、可哀想に…と同情するが、その時、お通さん…と武蔵が呟いたので、あ、女の名!と澤庵は驚き、他愛もない…と輝政は呆れる。

満月が空にかかる夜、城内に忍び込み、その大木に武蔵が縛られていた大木を斧で斬りつけている女がいた。

そこにやって来た澤庵は、これこれ無茶なことは止めなさいと女に声をかける。

しかし女は斧を振るうのを止めないので、お通と言うのはお前さんか?と澤庵は問いかける。

すると振り向いたお通がきっと睨んだまま斧を振りかざして来たので、こりゃいかん、喝!と大声を出すが、お通には効かず、畜生と言いながら斧で斬り掛かって来たので、澤庵は大木の回りを逃げ回ることになる。

お助けください!と叫びながら逃げ回る澤庵を応援しようと、駆けつけた侍たちも気の回りをぐるぐる追いかけ始める。

橋を渡って帰るお通に付いて来た澤庵は、会いたいのは良く分かっている、だが3年待ってくれ、3年後の今月今夜、この花田橋で武蔵(たけぞう)と必ず会わせてやるからなと澤庵は約束する。

勉学に励む武蔵 そして3年

読む本も山になり蜘蛛の巣が張るまでになっており、その中で武蔵もいつしか髭もじゃになっていた。

ある夜、城の前の花田橋で横笛を吹いていたのはお通だった。

武蔵(たけぞう)さんとお通から呼ばれ、ぎょっとしたのは髭もじゃになっていた武蔵だった。

生来女に臆病者の武蔵は、そんなお通を前にし、意を決して、ああ美しき…と跪いて愛を訴えようとするが、どうしてもそれ以上のセリフが出て来なかった。

そんな情けない武蔵の顔を見たお通は誰だか分からずいきなり笑い出す。

その後も武蔵はお通に言い寄ろうとするがその度に言葉に詰まり、お通はただ笑うだけなので、ダメか…と諦めその場を立ち去る。

そこに澤庵がやって来て、名前も今日から宮本武蔵じゃ、立派になったぞう、もうどこへ出しても押しも押されもせぬわ、びくともせんぞ、殿さんに京いよいよお目通りじゃとお通に教える。

ちゃんと用意をしている最中にわしがちょっとお前の話をしたら闇夜にぽーんと飛び出して出て行きよったんじゃ、着物はぼろぼろじゃ、ヒゲぼうぼうじゃ、タヌキみたいな顔し取ってな…と説明していた時、お通はさっきの奇妙な男が武蔵だったと気づき、慌てて追いかけて行く。

その頃武蔵は刀でひげを剃り、刃に映る吾が顔を見て、う〜ん良い男だ、ほれぼれ…と自画自賛する。

翌日、たった2文で京都に当てればあめ玉30個!奈良20で、和歌山でとうとう5つだ!〜、さあさ、心臓やったらこれやってご覧!と子供が子供相手に飴売りをしていた。

そこに通りかかった武蔵は、そこに集まっていた子供たちのために2文出してやることにする。

そして売り子から吹き矢を受け取り、さあさ回してと言うと、売り子がいくつかの地名を書き分けた丸いルーレット板を回したので吹くと、一発で京都に当たったので子供たちは一斉に歓声を挙げる。

すると売り子は、やられた!のっけから京都とはやられたねと自分の頭をちょんと叩き、はいあめ玉30個と袋を差し出したので、それを受け取った武蔵は、あめ玉はいらんのだと返そうとしたので、欲のないおじさんだな〜と売り子は呆れる。

それを聞いた笑った武蔵は、わしは自分の行き先を決めたんだと答える。

京都か…、京都は四条西の洞院の吉岡道場か…と独り言を言う。 武蔵はその吉岡道場の前に何故か飴売りの子と2人でやって来る。 玄関先に近づくとベートーバンの「運命」が鳴り響く。

頼もう!と武蔵が声をかけると、おお!と言う凄い返事が中から響いて来たので、武蔵はちょっとビビる。

出て来た門人が誰じゃ!と聞いて来たので、拙者は作州の浪人宮本武蔵!と名乗ると、同じく門人城太郎(西岡タツオ)!と飴売りの子も名乗ったので、こら!と叱り、先生ご在宅なら…と門人に聞くと、先生始め高弟たちは不在じゃ!だがせっかくの御入来とあらば、我々が揉んでしんぜようと言いながら自分の腕を叩いてみせる。

ありがたき幸せと礼を言い、中に入ろうとすると、城太郎も一緒に入ろうとしたので、城太郎、お前は門の所で待っとれと言い聞かし、城太郎が去ると、ああ強そうだな〜と背後の門弟たちのことにビビる。

門の所に来た城太郎が「京流 吉岡道場」と書かれた看板を外そうとしていると、そこに帰って来た老人が、こら!大事な看板をどうするんじゃ!と叱って来たので、良いんだよ、今うちの先生が道場破りに来ているからね、どうせこれ剥がして帰るんだ、おじさん、手伝ってくれよ!と城太郎は言い返す。

すると老人も、そうか、良し良しと言って手伝い始めようとするが、急に我に返って、ふざけるな!と怒鳴りつけたので、城太郎は老人の顔の前で手をくるくる回してからかって逃げ出す。

その時、道場内からは門弟たちが次々と逆回転のようにきりきり舞いしながら飛び出して来て、門の外に倒れる。

その後、老人から傷の手当を受けて包帯だらけとなった門弟たちの所に戻って来た城太郎は、だらしがないな〜、包帯巻いちゃって、これ痛いのかいなどと言いながらけが人に触りからかう。

そこに駕篭に乗って吉岡清十郎とおゆら(清川虹子)たちが帰って来たので、老人が、先生、道場破りでございますと伝えると、何!と気色ばむ。

門前に包帯だらけでうずくまっていた弟子たちの姿を見た吉岡は、何だ、このざまは?見苦しいぞ!吉岡の門弟たる者は恥を知れ!恥を!で、何奴だ?と聞く。

は、作州の宮本武蔵とか言う両刀使いにございますと弟子の1人が答えると、宮本武蔵?で、どの方へ行ったんだ?と吉岡は聞くと、は、まだ道場から出て参りませんと言うので、何!まだ中におるのか?と驚く。

良し、武蔵とやらを連れて参れ!と吉岡が命じると、怪我をした門弟たちは怯え、お前連れて来いとめいめいに言い合うので、最期に声をかけられた男が、お前連れて…と後ろを見るが誰もいなかったので、仕方なく立ち上がると足を引きずりながら道場へと向かう。

その後ろ姿を見た吉岡は、あいつ、大分やられたな…と呟く。

おゆらはそんな吉岡の方にすがって微笑んでいた。 良し!と決意した吉岡は、羽織を脱いで襷がけをして準備を始める。

そこに呼びに行った門弟が足を引きずりながら戻って来て、見えませんぞどこにも…と報告するが、その男こそ宮本武蔵だった。

いない、いない!と繰り返す武蔵の言葉を聞いた吉岡は、おらん?と聞き返し、逃げたか卑怯者…、一同奥へ引っ込め!と門弟たちを叱りつける。

門弟たちが去った後、1人その場に残っていたけが人に気付いた吉岡は、御主、誰だったかな?と不思議がるので、高笑いして飛び上がって包帯を振り落とした男は、やっ!宮本武蔵だ!と名乗る。

う〜ん、おのれ!と斬り掛かって来た吉岡を、落ちていた2本の棒を掴んで二刀流で叩きのめす武蔵。

この出来事は瓦版でたちまち世に知られることになる。

吉岡道場破らる(空に舞う瓦版にテロップ)

突如現る二刀の怪剣士

宮本武蔵

川に投げ込まれた「吉岡道場」の看板を、城太郎と共に橋の上から眺めた武蔵は愉快そうに笑う。

そして、城太郎の地名ルーレットに又吹き矢を吹くと、「京都」「大阪」「紀州」「兵庫」「滋賀」などがある中、今度は「奈良」の所に針が刺さる。

その頃、お通は、橋の上で店を開いていた易者呑斉(益田キートン)に武蔵の行方を占ってもらっていたが、あなたの尋ねる者は、今、京より奈良へ向かわんとしておると呑斉は言う。

巡り会うのは同じ大和の柳生じゃと言うので、相手が私をどう思っているか、そこまで分かりません?とお通が聞くと、うん、こりゃちょっと難題じゃなと言うと、呑斉は筮竹を握る。 天の配剤か、宿世の変幻か、今日唯今、ちっこくの間に、彼は享楽の寵児と相成ったぞと答えた呑斉は、これを見なさいと瓦版を広げて見せる。

そこには、「突如現る二刀の怪剣士 宮本武蔵」の文字とマンガが描かれていたので、それを見たお通は、まあ嬉しい!と喜び、呑斉の額にキスをすると、どうもありがとう!と礼を言って立ち去って行く。 塀の壁に次々と付いて行く黒い足跡。

次の瞬間姿を現した素ッ破の佐吾郎(坊屋三郎)は、城太郎と一緒に歩いて行く武蔵の後ろ姿を追って行くが、武蔵がその気配をとっくに気付いており、角を曲がった所に身を隠して、近づいて来た佐吾郎に当て身を食らわす。

すると佐吾郎は大きくジャンプして松の枝に飛び移ると大笑いし、さすがに俺の尾行に良く感づいたとキセル片手に褒めて来る。

立派なもんだよ、それまではな…と嘲笑するので、その時城太郎が吹き矢を吹くと、佐吾郎の額に命中したので、痛い!イタタタ!と叫んで地面に落ち尻餅をつく。

ああ苦しい〜、痛い!助けてくれ〜!あ〜イタタタッ!と泣き叫び始めた佐吾郎は、毒は鴆毒(ちんどく)かハンミョウか、青酸カリか猫いらずか!助けてくれ、苦しいよ〜と呻くので、毒なんて塗ってやしいよと城太郎はバカにする。

それを聞いた佐吾郎は、え、何だって?としらふになる。

すっかりおとなしくなった佐吾郎に、誰に頼まれて俺の後を付けて来たのだ!と刀に手をかけた武蔵が聞くと、え、実は…、吉岡道場で…と佐吾郎はあっさり打ち明ける。

何!と武蔵が驚くと、あ、旦那、気をつけなくちゃいけませんぜと佐吾郎が言うので、何だ、何だ?と武蔵がしゃがみ込んで聞くと、向こうはね、清十郎先生があなたのために腰が立たなくなりましたからね、それで弟の伝七郎さんを中心にして八方に手を尽くして敵討ちを狙ってますぜと佐吾郎は教える。

ふ〜ん、そのお陰で不思議な術を見せてもらったと言う訳だなと武蔵は納得し、はは〜、あれが天狗飛び切りの術だろう?と佐吾郎をおだてる。

それを聞いた佐吾郎も、へへへ、とびきり上等の…と洒落で返し、この1巻のお陰でございますと言いながら巻物を見せる。

その時、あ、旦那、一丁良い所お見せしましょうか?かと佐吾郎が言い出したので、あ、見せてもらいましょうと武蔵も承知する。

巻物を持って立ち上がった佐吾郎が、えんやこささのえいへいはっ!えい!と呪文を唱えると、佐吾郎の身体は後ろに飛び、塀の中に吸い込まれてしまったので、あっ!なくなりやがったと言いながら、武蔵は嬉しそうに城太郎と一緒に拍手する。

すると塀の中から、こら!くせ者捉えたぞ!え〜い!と声が聞こえ、塀の中から佐吾郎が突き飛ばされて来る。

アイタタタタ!と武蔵の側に転がって来た佐吾郎に、お〜い君!秘伝の一巻は拙者が預かっておくぞと言う笑い声が塀の中から聞こえて来たので、着物を改めた佐吾郎は盗まれたことに気付き、畜生!と悔しがる。

取り戻したければ家来におなりなさい、拙者は当家の食客、佐々木小次郎じゃと塀の中の声は名乗る。

それを横で聞いていた武蔵が、佐々小次郎と言うのは一体何者じゃと聞くと、え?旦那知らないんですか?と佐吾郎は呆れたように聞き、知らないと武蔵が答えると、年はまだ19歳だが、去年の春、ツバメ返しと言う不思議な剣法を編み出してそれ以来、ず〜っと誰にもいっぺんも負けたことがないと言う、ま古今無双の天才でさぁ、知らなくちゃしようがないな全く…と佐吾郎は教える。 ほお、そんなに強いか?と武蔵が聞くと、強いのなんのって…と佐吾郎が言うので、ふ〜ん、しからば一度会ってみようと言い出した武蔵は、塀の隙間から中を覗こうと集まっていた娘たちに、おい、俺にも見せろと頼む。

嫌らしいわねと娘が馬鹿にすると、退けろって!と武蔵は脅し、娘たちは全員逃げ去って行く。

城太郎と塀の隙間から中を覗くと、しばらく!白昼覗き見とは武士として穏やかならんようですな、武蔵殿とやら…と声がかかる。

それに驚いて顔を上げた武蔵が、知ってやがら〜と驚くと、先生、出掛けましょうよと飽きた城太郎が勧める。

くそ、覚えてろ!と思わず扇子で城太郎の頭を殴ると、痛っ!と城太郎が声を挙げたので、慌ててその頭をなでながら、うん、出掛けようと武蔵は答え、その場を立ち去る。

塀の中では、マンガを読んでいた佐々木小次郎(大泉滉)が、ふん!あの恥知らずの田舎もん!と去って行った武蔵のことをバカにしていた。

そんな小次郎に、私がこんなに遅くなったのも、あなたに良いものを持って来てあげたのよと媚を売っていたのはおゆらだった。

そのおゆらが見せたのは、宮本武蔵のことが書いてある瓦版だったので、それまで読んでいた荻原賢次のマンガ「異本宮本武藏」を投げ捨てた小次郎は、ああ宮本武蔵!と感激する。

恐ろしいほど強い男、あなたにも負けないくらいよとおゆらが教えると、瓦版をおゆらに突き返し、やかましい!と言って、側の木に立てかけてあった長い刀の鞘を抜いて放り投げると鞘が池に落ちたので、小次郎様!とおゆらが呼びかけると、又、やまかしい!と叱ったので、でも鞘が…と言う。

やかましい!と三たび叱った小次郎だったが、次の瞬間、又か…と自分の失敗に気付き、悪い癖だ、どうしても直らん…と情けない顔になる。

その御、「宝蔵院道場」の中では、武蔵が槍を持つ坊主相手に暴れ回っていた。

あまりの暴れぶりに「宝蔵院道場」全体が揺れて壊れて行くので、外では弟子の坊主と城太郎が、片っ端から木っ端を打ち付け応急修理をしていた。

仕事が追いつかないので、ああダメだと言ってトンカチを捨てた坊主に、そんなこと言ったってしようがないだろう?と城太郎が言い聞かせると、本当にしようがないとぼやきながらはちまきを取ろうとしていた坊主だったが、その時、板壁を突き破って坊主が飛び出して来たので、あ、先生!と驚いた弟子が駆けつける。

やられた…と板壁を突き破った坊主が言うので、あの〜、予定通り動きましたね?と城太郎が言うと、何を!と言う弟子に手伝いましょうか?と声をかけ、2人で負けた坊主を外に引っ張り出す。

しかし道場の中では武蔵が坊主の足を引っ張っていたので、坊主はどちらにも出るに出られず、その振動でとうとう道場全体が崩壊してしまう。

崩れた屋根瓦の中から顔を出した武蔵が泥だらけの顔で、飲むは宝蔵院…と呟く。
 


 

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