白夜館

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花のヒロイン 

 

 

 

幻想館

 

現代インチキ物語 騙し屋

庶民のバイタリティを描いた一種の風刺劇で、大阪を舞台にした詐欺師ものの一種だが、口先三寸、ぎりぎり犯罪にならないような手法を用いると言う所がミソ。

船越英二さんの三枚目演技は珍しいが、脚本の面白さで見せようとする低予算の内容だけに全体的にキャスティングが地味で、話の面白さに反して興行的には不利だったのかもしれない。

それでも、丸井太郎さんや中条静夫さんの若い頃の姿が見られたり、当時の大映作品ファンにはうれしい作品ではないかと思う。

二大強国に挟まれた日本とか、せめて三等国くらいにはしてくれなどと言ったセリフが、高度成長期だった当時の日本の庶民の実感のように聞こえる。

騙すシーンは、全員、芝居と分かるような素人臭い一本調子の言い回しをわざとやっているのだが、船越さんなどは普段は二枚目演技などが多いので落差を感じるが、伊藤雄之助さんや曽我廼家明蝶さんなどは、普段もやや芝居がかった演技が多い印象がある為か、素の芝居もあんまり落差を感じないような気もしないでもない。
▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼
1964年、大映、藤本義一+沢村勉脚本、増村保造監督作品。

大阪駅 駅前を背景にタイトル 商店街、通天閣、ストリップ劇場、串カツ屋… 人間は何の為にいるんでしょう?生きる為です。!と言う老人の顔のアップ

うずくまった学生の周辺に野次馬かたかっている。

その学生ちょこ松(丸井太郎)に邪魔だ、退いてくれ!と言いながら近づいた人夫姿の赤とんぼ(伊藤雄之助)は、どうした?昨日ここで掏摸にあった?と何かモゴモゴ言っているちょこ松の言葉を野次馬に通訳して聞かせるような大声で繰り返す。

沖縄から出て来た?今、内地復帰の噂が流れている? 今200円しか持ってないがこれをやろう、1日と20日が給料日だ、内地は掏摸ばかりじゃない!と赤とんぼが叫ぶと、万年筆をちょこ松が差し出したので、これを受け取れと言うのか?これはパーカーじゃないか?3000円は下らん奴だ、そんなものを200円でもらうのは心苦しいなどと赤とんぼは背後を取り巻く野次馬に聞こえるように棒読み口調で言う。

そんな野次馬の群れに混じって様子を見ていた河豚(船越英二)に、ええ陽気やなと囁きかけながら近づいたのはカマキリ(曽我廼家明蝶)だった。

誰か買うたったらどうや?と野次馬を赤とんぼが見渡すと、僕が買う!2000円で買うと名乗り出た男がいたので、受け取ったらええのやと赤とんぼは学生役のちょこ松に言う。

そんな2人の小芝居を笑いながら見ていた河豚は、野次馬の中で財布を抜き取った掏摸を発見、その場で押さえつけ、被害者にも声をかけ、人ごみのない裏手に向かう。

一方、赤とんぼはちょこ松に、天王寺に行く?地下鉄やなと連れてったるわと言い、野次馬の前から去り、カマキリと合流するが、その時、赤トンボはん、カマキリはん、ちょろ松さん!と声をかけて来たのは胡瓜(犬塚弘)だった。

自分も仲間に入れてくれよと言う胡瓜に、お前はパチンコの景品出しといたらええのやとカマキリは追い払う。

河豚は掏摸と被害者と3人になると、あんたポケットの財布掏られたぜと被害者に教え、出せ!と掏摸から財布を奪い返して、これ確か兄さんのやろ?警察に突き出しますか?と言いながら見せる。

被害者のサラリーマンが警察沙汰は…と迷った隙を見て掏摸は逃げてしまったので、逃げ足の速い奴やと河豚は財布を持ったまま言う。

そこへ、何し取る!と近づいて来たのが、ハンチングにコート姿のカマキリで、又かつあげか?と言いながら河豚の手から財布を取り、定期に名刺…、篠山和男、39歳とあるなと中味を確認する。

掏摸の手から取り戻したんですよと河豚が説明すると、1340円か…と財布の金額も調べたカマキリは、この男は札付きのター公(与太者)ですと被害者の篠山(小山内淳)に教え、奪い返したら何故返さんと河豚を睨みつけてみせる。

けどこれ警察に届けたらお礼もらえますのやろ?と河豚が聞くと、拾得物の場合2割だが、警察に行くと半日はうだうだと時間取られるだろうなとカマキリが刑事に扮して言うと、業を煮やした被害者の篠山は、君、200円で良いだろう?と自分の財布を取り戻し謝礼として河豚に手渡す。

その後、合流した鎌力、河豚、ちょこ松、赤とんぼは、その日せしめた金を合計し、一人頭455円!と成果を発表していた。

これからミナミで沖縄万年筆やろか?とちょこ松が提案すると、これ以上やると沖縄政府に申し訳ない、河岸変えようとカマキリは言う。

続いて彼らがやって来たのは競馬場だった。 次の第6レースに向け、彼らは早速カモを物色し始める。

ちょこ松が転んで振り返った中年紳士に向い、赤とんぼが、その節はどうも!工場で…と挨拶すると、先方の紳士が、桜レーヨンの臨時工していたことがあるのかね?社長だが…と答える。

桜レーヨンの社長見つけたと赤とんぼがカマキリに報告すると、パンツ会社か…と考え込み、良し!と何かを思いつく。

一方、場内の公衆電話ボックスに張り込み、まだですか?と先に電話をしていた専務と名乗る木村(中条静夫)に催促した河豚は、ボックスに貼り付き、木村の会話を盗み聞く。

木村は4時に社に帰ると伝え苛立たしそうに電話を終える。

河豚はカマキリに、中小企業の専務のぼんくら見つけたと報告する。

赤とんぼはオヤジが御社の守衛をしておりまして…と嘘を言いながら木村に近づくと、第六レースはもうお決めですか?等と探りを入れ、サクラキングの6-4ですよ、間違いない情報ですと吹き込む。

一方、桜レーヨンの社長に近づいたカマキリは株主総会でお会いしましたななどと嘘を付き話しかけると、4の頭からで本命は5と思いますが…、勝負しなくちゃ…等と、こちらも吹き込む。

それを聞いていた社長は、良し、4を頭に行くか…と決意する。

結果4-5が入り、16万4000円も儲かった!と社長は喜ぶが、あの情報がもっと早く入っていれば…、どうあがいてもダメ、運の良い人はとことん付いていて、運がない者はダメ…とカマキリが嘆いて落ち込んでいたので、終われんだ社長は、御気の毒ですが、あの情報のお陰で儲けたんですから些少なりともお礼を…と言い1万差し出す。

あきまへん!とカマキリは辞退するが、結局押し付けられるように1万円札をもらい、社長が去るとにんまり笑う。

一方、赤とんぼの方も、オヤジに会うたら言うてやって下さい、秀太郎はアホな奴やった、もう顔を合わすこともないやろうと…、オヤジは一生不幸でんな、孫の世話も見んとあかんとは…などと悲劇の主人公にでもなったような臭い芝居を木村の前で演じてみせる。

見かねた木村は、これで晴れ着か温かい物でも買ってやれと金をくれたので、御恩は一生忘れません!と赤とんぼは感謝する。

しかし木村が立ち去り、受け取った札が1000円と気づくと、やっぱり中小企業や…、どら息子の何にも専務や!などとバカにする。

そこに近づいて来た河豚は、ほんまに泣いてるのか?と驚くと、こうなるまではお前は5年はかかるなと赤とんぼは自慢する。

今度は堂々とやるか!とちょこ松が言い出し、次行こ、次!とカマキリも賛成する。

次に彼らが向かったのは、それなりに規模の大きな知らない社長の葬儀に参列することで香典も払ってないのに香典返しをもらって来る。

製薬会社の社長だったらしく、香典返しの中味は「スタミン」と言うアンプル材だった。

葬儀場を出てそれを飲みながら効能書きを見ていた一行は、何でも効くんかいな?何でも効くちゅうのは何にも効かんちゅうことや、製薬会社なんて騙し屋の親玉のような企業や、マスコミも一緒やなどとぼやきまくる。

そして、カマキリはちょこ松に一緒にもらって来たはがきを渡すと、郵便局で現金に替えさせてくる。

その後、今日1日、実り多き日やったな…と言いながらカマキリたちは、赤とんぼの店に帰って来るが、路地の所に胡瓜が待ち構えており、瓢箪の店に警察が来とると言うので驚く。

今日も大分騙したから…とちょこ松が怯えると、騙すと言うのは相手が騙されたと思うときや、今日、誰かそう思うた奴がおったか?とカマキリは言い返す。

俺、ちょっと店覗いて来るわと赤とんぼが1人先に行く。

店に来ていたのは警察ではなく税務署の男で、申告はせんは、帳簿はないし…、収入ないはずあらへんで、こうやって店開いているんやから…と、女将のムツコ(園佳也子)相手に文句を言っている所だった。 ムツコは、そやけどね、主人が亡くなってからは女手一つで…、生まれたんは千葉の老舗で、その頃は番頭や丁稚15~45人程度も使っていたんやけど…などと言い訳をする。

カマキリらの元へ戻って来た赤とんぼは、税務署来てるんやと教え、手心加えるような税務署やないからな…とぼやくと、ヤクザ風の衣装になって店に戻り、借金いつ返すんや?小売河岸の北村はんを紹介してこっちは保証人になっとるんや!税務署に義理立てするくらいならこっちを立ててくれ!とムツコを脅し、あんたは税金取らんでも月給下がる事ないやろけど、わしん所は差し押さえられて、家族が路頭に迷うんやと税務署の男泣きつく。

税金は国民の義務ですよと税務署の男が言うと、なら首くくってもええのも義務だっか?女将、この電話を抵当に入れたらどうや?などとムツコに無理難題を押し付ける。

さすがに呆れて税務署が帰ると、やって来たカマキリらに、どうや?と赤とんぼは自慢する。 口先三寸で稼いだ金が1万27400円!と赤とんぼたちはその日の収入を報告する。

そこに又胡瓜がやって来て、赤とんぼはん、今晩こそ飲ませてやと頼んで来るが、胡瓜、帰れ!と赤とんぼが邪険にすると、そんなこと言わんと仲間にしておくんなはれ、なあちょこ松はん!と粘るが、出て行け!分からんか、このどあほ!と怒鳴られる。

あない熱心に言うとるんや…とちょこ松は胡瓜に同情するが、将来のことを思うて言うたってんのやとカマキリは言う。

河豚は共食いだからすき焼きにするか?と赤とんぼが提案すると、贅沢や、わいに任しときと言った河豚がうどん屋に電話を入れ、天ぷらうどん5杯!瓢箪の店にいる5人やと注文する。

それを聞いたムツコが、あの店高いで、1杯50円やと忠告する。 間もなく、松川ですけど…とうどんの出前がやって来るが、5人の客は座敷で狸寝入りをしている。

角の松川ですけど!と大声で呼びかけ、河豚らが目を覚ました芝居をすると、ご注文のうどん持ってきましたと出前が言うので、注文?誰が?と河豚はとぼける。 ムツコは岡持の中のうどんを見て、ああ、えらい伸びてるがなとケチをつける。

可哀想に、可哀想やから買うたろか?と赤とんぼが声を掛けると、止めとき、腹一杯やと河豚は満腹そうな表情をする。

10円やったら買おうかな?とムツコが言うが、ちょっと電話貸して下さいと言い出した出前は店に電話をし、騙されたらしいと事情を話すが、20円でっか?と割引の料金を確認する。

あかんな、これは…、天ぷらもモロモロ…、こんなん20円も払えないわとそれを聞いていたムツコは興味を失ったような芝居をする。

頼みますわと出前が懇願するので、100円でええやろ!と赤とんぼが言い、5人前100円で購入することにする。

出前が帰ると、1杯20円になった天ぷらうどんを全員食べながら、天ぷら食うて舌を滑らかにえなあかんなどとみんな上機嫌になる。

翌日、カマキリたちが向かったのは古書店で、厚生委員会としては資料を預かっておりますなどともっともらしい能書きを足れるカマキリに、お題目は大切ですが、わしらに何をせいと?と主人が聞くと、袋貼りの内職を与えて恵まれない子供たちに少しでも温かいミルク代を与えたいんですとカマキリが雑誌を分けてくれと申し出ると、うちかて商売ですで…と主人は納得しない。

するとカマキリは、私としては十分にあなたのことを考えております、今年から勲章が復活します、社会功労賞に推薦したいと思いますとでまかせを言うと、好きなだけ持って行っておくんなはれと主人は大盤振る舞いをする。

瓢箪の店に大量の雑誌類を持ち込んだカマキリたちは、そこから目的の写真のページを切り取って行く。

そこへ又胡瓜がやって来て雑誌を持って来たので、どこから持って来たんや?と聞くと、散髪屋からそっと…と言うので、それ泥棒やないか!泥棒にも三分の理と言う言葉があるが、残り七分は悪と言う事や、わしらには一分の悪もないのや、みんな一日一悪やのうて一日一善やっとるんやなどとカマキリは言い聞かす。

お前は正道で俺らをあっと驚かしてみろ!そしたら入れたると河豚も言うので、まだあきまへんか?ほなさいなら…としょげて胡瓜は帰って行く。

その夜、暗がりで酔客を待っていた河豚は、酔客2人を呼び止め、両面キャビネで48手が96手でっせ、先生!6枚セットが1000円、12枚セットが1500円、どうです?奥さんと一緒なら楽しめ、彼女と一緒なら言わずもがななどと封筒を取り出し意味有りげに勧める。

エロ写真と思い込んだ酔客たちは6枚のを1000円出して買うと、その場で中味を確かめようとするので、楽しみはベッドの中で…などと言って河豚は止める。

続く酔客にも同じ手口で封筒を売りつけた河豚だったが、相手が河豚の制止を振り切ってその場で中味を確かめると、裸の赤ん坊の写真の印刷物が出て来たので、何だこれは?と客は怒り出し、太い奴だ、交番へ来い!と河豚を捕まえてしまう。

それに気付いたカマキリがどうしたんですか?と近づくと、ヌード写真の48手と言って、開けてみたらこれだ!と男が取り出したのは、相撲、豚や猿の写真の印刷物だった。

それを見たカマキリは、どう言う気や!そしておい、玉川!村上!と声を掛けると、ちょこマツや赤とんぼがその場で河豚を足蹴にし出す。

この男はわしらに任せて下さいと河豚のことを客に頼んだカマキリは、こいつは生きる為にエロ写真売ってます、エロ写真に道徳やモラルがあるか言うでしょうが、あんさんは名刺で商売できるええご身分や、指詰めまひょう、それで許して下さいと頼む。

すると、金だけ返してもらおうか?イカサマ写真に払った金だよと相手が言い出したので、貴方様は人品卑しからぬ人やと御見受けします、ただし、ヌード48手言われて買うたんでんな?中味はヌードに間違いおまへん、それを金返せなんて…とカマキリは呆れたように言い聞かす。

瓢箪に戻った赤とんぼたちに、ムツコが酒を注いでやる。 その日の収入は32500円だった。

これを倍にするか?とカマキリが言い出したので、裏表剥がすのか?と札を分離することを赤とんぼが想像すると、そんな悪はせんのやとカマキリは答える。

翌日骨董屋を訪れた赤とんぼは額の中央に大きな偽黒子を付けており、値段を聞くと店の主人(上田吉二郎)が仏像は10万と言うので、平凡なもんだよ、5万でどうかね?と持ちかけるが、主人が譲らないので、手付けとして3万置いておくから他のものに売らんでくれ、残りは明日必ず!と言って帰って行く。

その直後、店に入って来たのが金持ちに化けたカマキリで、息子の結婚式に送ってやりたいのだが…と言いながら店内を見て回る。

すると運転手役のちょこ松が来て、社長、駐車違反に引っかかりますと言うと、払うといたら良いがなと社長役のカマキリは鷹揚に答える。

この仏像は?とカマキリは先ほど赤とんぼが手付けを売った仏像の値を聞くので20万と主人が答えると、買うた!と即決したカマキリは、クレジットは骨董屋では効かんな?届けてくれと言うと名刺を主人に差し出し、車代は出すから20万円やと言う。

カマキリが店を出た後、やって来たのが河豚を連れた赤とんぼで、先生、こらええもん買いましたな、古美術の専門家なら30万は付ける品物ですなどと赤とんぼにお世辞を言う。

残りの7万持って来たと赤とんぼが言うと、実はさっき旧家の方が是非欲しい言うて買ってしまわれましたと主人が打ち明けると、その人物に会わせてくれ、売らんといてくれと言うたはずだ!と赤とんぼは憤慨してみせる。

さすがに約束を破ったことに対する負い目を感じたのか、主人は手付金は返しますからと詫びるが、こう云う場合は普通6万返すしかないな、この仏像が欲しい!などと赤とんぼは無理強いする。

その会話を聞いていた河豚は、先生、商人には商人の立場がありますからとなだめるので、諦めよう…、その代わりおやじさん、しばらくこの仏像この手に抱かせてくれよと頼む。

落しなや…とハラハラしながら主人は赤とんぼが仏像を赤ん坊のように抱くのを許し、赤とんぼに諦めさすように6万渡してやる。

瓢箪の店に戻って来たカマキリは、衣装代に2800円で、しめて5万9700円やと今日の成果をみんなに知らせる。

赤とんぼは、今度はカメラでもやるか?と言い出す。

翌日、カメラ屋に河豚と一緒に出向いた赤とんぼは、カメラ屋がメーカー品ですと言うカメラをいじりながら、1日ほど使ってみて、気に入ったら払うと言うのはどうかね?と切り出すと、一流メーカー品なので間違いありませんと店員は答える。

機械で量産しとると言うことはミスも起こる物やと赤とんぼは言い返す。 店員はサービスにフィルム入れましょうか?と言って来るが、赤とんぼは断る。

そのカメラを持って河豚と一緒にとあるアパートの前で見張っていると、渡部襟子(弓恵子)と表札が出た部屋から、山ちゃんと呼ばれた学生風の青年が出て来てたので、2号の中でも3級やなと赤とんぼは呟く。

好き!と部屋の中から聞こえる襟子の部屋を赤とんぼがノックすると、誰や?と声がして襟子がドアを開ける。

カメラを手に部屋の中に入った赤とんぼは、第日本帝国探偵社です、折り入って話を…、招かれざる客ですなどと言い、遠慮なく部屋の奥まで入り込む。

お話って何ですの?と襟子が聞くので、あなたの素行調査をやってますと赤とんぼが答えると、依頼人は誰?社長?と襟子は自らしゃべってしまう。 今日のことはマイクで録音テープとこのフィルムで採ってあります、明日社長はんに渡しますと赤とんぼは脅かす。

2号の生活は不健康です、社長を棄てて、あの学生さんと一緒になった方が良いですと忠告すると、ただの火遊びやんか、来月うち、カンガルーのバッグとチンチラ買うてもらうんやなどと言い出した襟子は、カメラのフィルムもテープも買い取るわ、1万5000円でどう?と言って来る。

創業以来61年、我が社はそのような不正には無縁で、あなたと山ちゃんの情事を報告せねばなりません、山ちゃんと一緒になる方が…と赤とんぼが拒否すると、金とうちの大事な物挙げるわと襟子は言い出す。

すると赤とんぼは不快な表情になり、ゆすりたかりを一番嫌いなのでこそこんな仕事をしてるんです!と憤慨してみせる。

じゃあ、自殺しろって言うの?それともアルサロに戻れって言うの?あんた、うちな、父は小学校の時死んで母もすぐ後を追ったの、それを見殺しにして良いの?女の一番大事な物よ!と襟子が必死に訴えるので、わいはフェミニストやと赤とんぼが言うと、じゃあ2万で良いわね?と襟子は勝手に喜ぶ。

一方、帰っていた山ちゃんを付け、声をかけたのは河豚で、襟子とは結婚してくれるんやな?と問いかけると、あんさんは…、社長はん?とこちらも勝手に教えてくれる。

往来ではなんだから…と、山ちゃんを側に食堂の中に誘い込むとジュースでも飲ましてもらおうかと頼む。

そして、襟子は俺のことどない言うとる?と聞くと、良い人と言ってますと山ちゃんはお世辞を言って来る。

わいも昔は千成の小六と異名を取った男や、今は土建屋や、おやじさんは元気か?と河豚が聞くと、春にヨーロッパに行きました、薬品会社として…と山ちゃんは打ち明ける。

すると河豚は、襟子には手を焼いているんや、オリンピックで土建屋は景気が良いなどと言うけど、わいらのような下っ端はダメや、襟子を任したいんや、肩代わりしてもらいたいんや、あいつの面倒を見てやって欲しいと言うと、あんな女と結婚したら、第一親が反対です、親が決めた婚約者がいます、金で解決させて下さいと山ちゃんは慌てる。

銭とかいらんのやと河豚が拒否すると、結婚だけはダメです、僕の一生のプランがめちゃくちゃになりますから…、助けて下さい!ほな承知してくれはりますか?金で…と山ちゃんが言うので、おのれを殺すちゅうのも辛いもんやで…と河豚は無理矢理相手の意を汲んで承知すると言う風な芝居をする。

結果、山ちゃんから3万、襟子から2万の収穫を得て瓢箪に戻って来た河豚と赤とんぼを見て、強請やったら刑務所行きやな…とムツコは呆れたように言い、こんな金見とったら反吐出るわなどとちょこ松も言いつつ、飯を全員で楽しげに食い始める。

後日、カマキリは和服姿のムツコを伴い大学の工学部の試験場前に集まっていた受験生の親たちの元へ歩み寄る。

すると後者の中から学生服姿で片方の耳に包帯を当てたちょこ松が出て来たので、もうできたんですか?偉いなと声を掛けると、僕は失敗しました、山を外しました、だから白紙で出して来たんです、耳がガンガン痛むし、僕はもう諦めました!とちょこ松は絶望したような表情で去って行く。

受験とは大変なもんですな、工学部となれば8~9倍の激戦区らしいですな、この中で何人が受かるのか…と何となく親たちに話しかける。

タダオ!とその時近づいて来た白衣姿の赤とんぼに声をかけたカマキリに、兄さん!と赤とんぼが気がついたように答える。

今日はキヨシの試験の日や会わんかったか?とカマキリが聞くと、僕は会わんかったですと赤とんぼは言う。

試験の心構えと言ったら、小便をしとけと言うだけですから…などと赤とんぼが答えている所へやって来たのが河豚で、先生、試験採点の会議が始まりますので工学部の8番教室の方へ学部長さんがお呼びですと伝える。

赤とんぼは、試験なんて下らんものだ、全廃すべきですよなどと言い残し、赤とんぼと河豚はその場を去って行くので、それを見ていた父兄の中の1人(見明凡太朗)は、弟さんは試験採点と?と聞いて来たので、下っ端ですよとカマキリは謙遜するように答える。

お宅の息子さんは合格でしょうな…と父兄たちはうらやみ、弟さんにご紹介願えないでしょうか?便宜を図っていただきたいのですが?と申し出て来たので、無理ですね、そう言う目的で父兄とは会えんでしょうとカマキリは答える。

するとムツコが、うちはもう4年目なんですよ、姉1人弟1人の暮らしで、女手1つで育てて来たせいか気が弱くて…、自殺したいのはうちの方ですよなどと泣き言を並べたので、奥さん、落ち着いて下さい、こんな所で言われてもどうしようもありませんから、名刺の裏に弟さんの名前と受験番号を書いて下さい、弟は曲がったことが嫌いな質ですから、渡しても何かするとは思えませんが、単に気休め程度で宜しければ受け取っておきますとカマキリは言う。

ムツコが言われた通りに名刺を渡したのを見ていた他の父兄たちも一斉に名刺の裏に受験生の名前と受験番号を書いてカマキリに手渡して来る。

いずれお礼に…などと先ほどの父兄が言うので、そんな気でおられるのなら御返ししますとカマキリは言い聞かす。

その時、試験終了のサイレンが鳴り出したので、人が来ます、不穏な空気になりますので…と言い、カマキリはその場から離れて行く。 瓢箪に戻って来たカマキリは、3枚か…、今度は経済学部に行くかなどとぼやきながらも、文学部や法学部などの試験場で集めた名刺の数を勘定し、このうち何人受かるか…と赤とんぼが苦笑すると、賭けるか?などと河豚が言い出したので、金は働いて稼ぐんや!とカマキリは叱る。

その後、工学部の合格発表があり、名刺の裏に描かれた受験番号を手がかりにちょこ松が見に行った所、金田と言う父兄の息子が合格していたことが分かり、早速その自宅を探し当てる。

カマキリの姿を見た金田はようこそおいで下さった、あなたも探していたのですと喜び言えに招き入れる。

近くを通りましたら表札を拝見し、ああ、あの時の人かと思ったものですから…、この度がご子息のご入学おめでとうございますとカマキリが見え透いたことを言うと、お礼をしなければと思っておりましたと金田が言うので、とんでもない、ご子息の実力です、家の息子などはダメでして、今二期校を受けていますとカマキリはヨイショする。

所で合格の内情をご存知ですか?何と合格すれすれの同点が86人もいたそうで…とカマキリが言うと、弟さんがお力添えを…、やっぱり!と金田は納得する。

弟はんに何かお礼を…と言うので、兄弟と言うのはどこかで繋がっているもので、他の方々に知れた場合、微妙になります。受験生の父兄と一緒にいる所を見られたりするとね…、大学と言っても財閥、派閥で醜い所です、弟の苦労も大変でしょう、そう云う男なんですなどとカマキリは言って相手を煙に巻く。

むしろあなたはんへ…と金田が言うと、そう云うことをなさると、ご子息は不正入学の劣等感を感じられますとカマキリが言うと、こっちの気がすみませんと言い封筒を手渡して来たので、ありがたいです、ご子息は86人に入られただけでも立派です、会社の後継者たりますとカマキリはやむを得ず受け取るような振りをして、安堵した金子に勧められビールを飲む。

瓢箪の店では、18人中2人合格か…、もっと合格せんか!儲けたのは学校だけやと合格者の少なさを嘆く。

その後、南北線の工事現場から大判小判など古銭が詰まった壺が発見され、その牽引現場にたかった野次馬に気付いた河豚とちょこ松は、殺人事件だっか?と聞き、小判が出よったんやと聞くと聞くと目が光る。

その後、時価1000万と推定されるその埋蔵金は中村宝飾店の先祖が埋めたものだとの届け出があったと言う新聞記事を読み、この舌3枚に下ろしたったらええのやと嫌みを言う。

その中村(潮万太郎)と言う人物はいきなり時の人になり新聞記者が押し掛けていたが、ちょこ松がカメラマン、河豚が記者を装ってその取材陣に紛れ込んでいた。

中村が言うには、5代前の先祖の家が京阪屋の裏やったんや、うちには系図もあります、わいのおばあはんが今際の際に言うてました、小判や、小判やて…、この耳でちゃんと聞いてますと言うので、ご飯やと言うてんやおまへんか?と河豚が茶化す。

他社の本物の記者たちが帰り、河豚とちょこ松だけが残っていた後、宝飾店にやって来たのは傷痍軍人の格好をした赤とんぼで、自分は小松一等兵と言い、あの金は自分と吉田兵長が軍司令官の命を受け軍資金として埋めたものだと言い出す。

すると記者役の河豚がにわかに興味を持ったと言う風を装い、ちょこ松に写真を撮るよう促すと、具体的な話を聞き出す。

昭和20年8月12日に埋めたと赤とんぼが言うと、これはどちらも証拠がないから、裁判沙汰になっても長くかかりますね、結果的に大阪府のものになるかも…と河豚は中村に聞こえるように言う。

その時、小松一等兵!と呼びかけてやって来たのが、同じく傷痍軍人姿のカマキリで、石川准尉殿!と赤とんぼが驚いたように直立すると、埋蔵金は我々のものだが、世間の人はわいらをコ○キ言うとる。

あんまり言うと傷痍軍人全体の恥やと言い聞かす。 自分は傷病兵の病院を建てたいのであります!と赤とんぼが言うと、何もかも分かっとる…、日本の政府がなっとらん、こうやって頭下げるんや、少しこの男の気持を汲んでやって下さい、そしたら黙らせます、お願いします!とカマキリが中村に言うと、しゃあない、厄払いやと良いながら中村が千円札を取り出したので、もうちょっとはずんだらどうです?1万出しても1000万の1000分の1や、世間はケチ言うやろな…と河豚が横から勧める。

悔しそうな顔をしながらも中村が2万出すと、小松一等兵!何事も辛抱や、ニューギニアやインパールの敗走を忘れたか?とカマキリは赤とんぼに言い、河豚は中村はん、良い事しなはったなと褒めたので、中村は満足そうに笑う。

店を出たカマキリらは、本日の戦果2万!と言い、いずれあの埋蔵物は大阪のものになるのは分かってるのに…とちょこ松も苦笑する。

その時、側に傷痍軍人(橋本力ら)が2人いたので、少し寄付してやるかとカマキリが言い出す。

1%やなと河豚が言い、一人頭2%と言うことにし、ほんのお賽銭代わりにと傷痍軍人に金を渡す。


ボルネオ先先では3日3晩飲まず食わずだった…とカマキリが思い出すと、戦争は嫌やなどと愚痴りながら食べていたが、今日は牛鍋か?と聞くと、犬や…、猫やったかな?とムツコが答える。

南方では蟻や蜥蜴、トンボもごちそうだったんや、土でも食ろうたんやと赤とんぼが言うと、思いやられる歯、日本の将来が…と河豚が呟く。

その時、瓢箪はここですか?入ります!と言いながらやって来たのは制服姿の胡瓜だった。

カマキリはんのお言葉に従って自衛隊に入隊しました、月給下さいますから入社と同じでありますと言うので、いつ入隊した?とカマキリが驚くと、北海道駐屯203部隊に入隊しましたと言うので、上がれ!とカマキリは喜び酒宴に招く。

自分はゆっくり出来んのでありますと胡瓜は言うが、上がり込んでカマキリの横に座る。

けどな、鉄砲あんまり使うな、飲め!今や二大強国の間にある日本やと赤とんぼは言い聞かせ、胡瓜に酒を勧めると、奮発して本物の鳥鍋と二級酒やとムツコに呼びかける。

河豚も酔いに任せて、日本を守れよ、せめて三等国くらいにはしてくれよと胡瓜に声をかけ、みんなで餞別を渡そうと言う事になる。

それを受け取った胡瓜は、お言葉に甘えていただきます、色々ありがとうございましたと言って席を立つ。

昔をもいだして万歳三唱で見送ってやろやとカマキリが言い出し、店の前で万歳三唱をする。

すると胡瓜に、あんた、えらい探したんやで!と文句を言いながら女性が捕まえに来たので、パン助か?とカマキリたちは戸惑うが、どないしたんや?と声を掛けると、胡瓜のズボンを脱がしていた女性は、うちは各テレビ局に貸している貸衣装屋で、この人に賃貸ししてたんですが、急にテレビで必要になりましたんやと言う。

その時、ようやく胡瓜のペテンに引っかかったことに気付いた連中は、みんな、軍隊ムードに飲まれたんやと反省する。

衣装代200円と貸衣装の女性は胡瓜に請求し、あんたら騙したら入れてくれる言うたやないですかと胡瓜が言うので、しゃあない、入隊を認めるとカマキリは答える。

翌日、大阪の町が見渡せる場所に来た一行、仁徳天皇やないけど、大阪繁盛しとるな、日本が繁盛する限り、わいらも商売繁盛や、この二本をこの手、その舌の上で踊らしたろ、太閤はんのように…、堂々たる運命線や…と言いながらカマキリは自分の掌を見る。

そこには中指に続く白く太い線が入っていた。
 


 

 

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