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びっくり六兵衛(アジャパー騒動)

伴淳主演で上映時間39分と中編の時代劇コメディで、東京映画第一回作品「春の囁き」に次ぐ東京映画目黒スタジオ第2回作品らしい。

伴淳演じる六兵衛の女房おこん役の旭輝子さんと云うのは神田正輝さんのお母様で、神田沙也加さんのおばあ様に当たる方である。

中編なので落後の軽い小話でも聞いているようなシンプルで他愛無い構成になっており、美貌の女房を持つ桶職人が、女房の浮気に焼きもちを焼くあまり、何でも見通す力を持っていると見栄を張ってしまったことから思わぬ事件に巻き込まれると言うコメディになっている。

同じように強度の焼きもち役の奥方と言うのも登場しており、身分は違えど夫婦の諍いはどこでも起こっていると言う風刺にもなっている。

インチキから始まった透視能力が何故か当たるようになってしまい、それをきっかけに新興宗教の教祖みたいな立場になってしまう桶職人を演じる伴淳の奇矯な扮装やパフォーマンスが愉快。

▼▼▼▼▼ストーリーを途中まで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼
1953年、東京映画、目黒専吉原作+脚本、組田彰造脚本+監督作品。

トントン桶屋の女房は~♩トントンとっても良い女子~♩と子守娘が歌う歌に合わせて長屋の中道でマリをつく少女たち。

トントン桶屋ご心配~♩ろくろく仕事も手に付かず~♩テテシャラ、テテシャラ~…と手鞠唄の続きを歌っていた時、「丸に六」の字が書いてある部屋の前の大きな風呂桶の中から、こらっ!と顔を出して叱ったのは桶屋六兵衛(伴淳三郎)だった。

次の瞬間、マリが六兵衛の頭に当たり、一旦は桶の中に落ちかけた六兵衛だったが、すぐに頭を出して馬鹿野郎!と怒鳴りつけたので、女の子たちは蜘蛛の子を散らすように逃げて行く。

それでも遠くへ逃げた女の子たちはまた、桶屋の六兵衛~♩と囃し始めたので、又言ってやがるな~!と一旦家に戻りかけていた六兵衛はトンカチを振り上げて再度追い払いに行く。

家の前に戻って来た六兵衛は、家の中から愉快そうに笑う声と、好きだわ、私しゃまだまだ好きだよと言う女房の声が聞こえて来たので、そっと戸を開けて中を覗くと、裏通りで魚屋太助(須永康夫)と談笑している女房のおこん(旭輝子)の姿が見えたので、おい、見通しだよと注意する。

すると丼に魚を入れて戻って来たおこんは、おや怖い顔して、又焼きもちなの?とからかう。

それでも六兵衛は、うるせえや、俺はお見通しだぞ!と威張るにで、何だね~何を見通したのよ、お前さん、又表の風呂桶で寝てたんだろう?とおこんはやり返し台所へ向かったので、おいおこん、今なんて言った?と六兵衛は追いかけ、好きだ好きだって、あんな魚屋のどこが好きなんだよ?と六兵衛は追求する。

するとおこんは、いやだねお前さん、好きだと言ったのはこのタマのことだよと言いながらおこんは猫を抱き上げると、猫にまで焼きもち焼くと笑われるよ、ほらタマが笑ってるじゃないとおこんはからかう。

仕事に戻る六兵衛は、おい言い訳してもダメだぞ、俺は見通しの名人だぞとおこんを睨みつけるので、呆れたね〜、この人は…とおこんは笑い、猫を下に降ろすと、ねえ昔の1人のことを考えたらどう?好いて好かれて一緒になった夫婦じゃないか…と諭すように言う。

私の心くらい分かってくれてるだろうに…とおこんが恨み言を言が、六兵衛はふて腐れたままなので、あんた〜、分かってくれないの〜とお魂は甘えてみせる。

するとようやく、分かってるけどさ〜と六兵衛が言うので、本当?とおこんは喜んでみせると、ええい、分からねえや!とおこんの手を振り払い、お前があんまり良い女だからいけないんだよと六兵衛はぼやく。

世間の奴に良い女だって言われたら悪い気はしないだろう?と六兵衛がからかうと、そりゃあねえ…とおこんがにやけたので、それだ!その了見がいけねえんだよ!こんちくしょう!と六兵衛は怒り、トンカチで作りかけの桶を殴ったので、あらお前さん、この桶、夕方までに大家さんに届けるんじゃなかったの?とおこんは案ずる。

大家に届けようと届けまいと関係ねえ、俺のこと知ってる訳ねえじゃないかと言いながら桶を持ち上げた六兵衛は、底が抜けたままであるのに気付き、ありゃ?パーだねこりゃ…と呟く。

井戸端で洗い物をしていた男に、タマや!と探しながら近づいたおこんは、うちのタマを見なかった?と聞くが、さあ?と男は首を傾げる。

家で桶の端を整えていた六兵衛は、タマや?タマ!と外で呼ぶおこんの声を聞き笑顔になる。

そこにおこんが戻って来て、お前さん、タマしらないかいと聞いて来たので、おりゃ知らないねと答える。

どこ行ったのかな〜、今朝からちょっとも顔を見ないのよとおこんが嘆くので、それは心配だな、俺が見通してやるよと六兵衛は安請け合いする。

するとおこんは、入らないよ、お前さんの見通しなんか当てになるもんかと言い返し、又外へ探しに行く。

それを見た六兵衛は、側のひっくり返していた桶を少し開け、中に隠していたタマが鳴いたので、何がニャーだと言いながら頭をこづく。

そこに、こんにちはとやって来たのは大家の隠居(中村是好)で、どうだね、例の方巧く行ったかね?と聞いて来たので、どうもこうもありませんよ、教えてもらった見通しの方はいくら臍の下に力入れたってちっとも効きゃしない、カカアの奴が大事にするのは猫ばっかり…と六兵衛はぼやく。

それを聞いた隠居は、ふ~ん…、昔から猫の好きな女は浮気性と言うからななどと言うので、いっぺんで良いから内のカカアの野郎、うちの人は何と見通しの名人だろう、浮気は出来ないって真っ向から信じる方法はないかな~と悩みを打ち明ける。

うん、じゃあこうしよう!と隠居が言うと、そうしよう!と六兵衛が即答したので、バカ、まだ何も言ってないよと隠居は呆れながらも、ちょっと耳を御貸しよと言い、六兵衛に何事かを伝授する。

どうだ?忘れないようにしなさいよ、お前さんは至って忘れっぽいからなと隠居が言うと、冗談じゃねえよ、絶対忘れねえ俺は!と六兵衛は約束する。

そこにおこんが戻って来て、あらいらっしゃい、ご隠居さんと挨拶したので、立ち上がった隠居は、じゃ頼んだよと六兵衛に言いそそくさと帰って行く。

お構いもしませんで…と六兵衛も笑顔で送り出すと、お前さん、何頼まれたんだい?風呂桶かい、それとも…とおこんが聞いて来たので、いや、今夜俺の見通しを店で実験するんだとさと六兵衛は答える。

実験?とおこんが不思議がると、ああ、お店の人や出入りの人障子屋に集めてね、俺の見通しが当たるか当たらねえか試すんだってさと六兵衛は言う。 するとおこんは、バカバカしい、それをお前さん真面目に引き受けたのかい?と聞いて来たので、真面目も糞もあるもんかい、今夜隠居さんちに行ってちちんぷいぷいで見通しだ!と言い張る。

呆れたね~、見通すより恥をかくよとおこんは忠告するが、恥をかくかかかないか、お前も一緒に行って、その二つの目で良く見るべえ!と六兵衛は言い返し、これから六兵衛様様だ!と威張る。

苦笑したおこんだったが、それよりもタマどこ行っちゃたんだろう?と又周囲を探し出したので、おいと呼びかけた六兵衛は側に伏せてあった桶をこんこんと叩いたので、御こんがその桶を持ち上げてみると、そこにタマが入っていたので、あなた又!と言いながら抱きしめる。 タマタマっていやになっちゃう!とそんなおこんに六兵衛も呆れる。

その夜、隠居の家に集まった人達とおこんを前に、箱の中を見通したり、人の心をぴたりと当てるのを唐天竺では千里眼と言う…と隠居が前説をしていた。

これは教えて出来るものではなく、聞いて出来るものでもない、つまり生まれつきの神業である、こうした人間は500年目に1人ずつ産まれる、ここにいる六兵衛さんはその500年に1人産まれる見通しの名人らしい、黙って座ればぴたりと当てる…、さあ説明はこのくらいにしておいて、ではこれから…と隠居は六兵衛に向かい合って互いに頭を下げる。

ちょっと気弱そうだった六兵衛にがんばれ!と隠居が声を掛けると、その場で正座したまま六兵衛は持って来た桶を頭からかぶって隠居とは逆向きへ身体を向ける。

隠居が出す問題が全く見えない状態になっていると言う証しだった。

すると隠居が、まず煙草入れを目の前に置かれた大きな釜の中に入れて蓋を閉めると、さあ六兵衛さん、これは何でしょう?と聞く。

かぶっていた桶を取り、釜を凝視し出した六兵衛はちょっと考える振りをして、火に関係があるものです、煙草入れと答えたので、ご名答!と隠居が答えたので六兵衛はにやりと笑い、見物客から拍手が起きる。 一緒に見ていたおこんはほっと安堵の息を漏らす。

次!と隠居が言うと、又一礼した後、桶を頭からかぶった六兵衛は後ろを向いてまた元に戻る。

その間に釜の中に何かを入れた隠居が、さあ六兵衛さん、これは何でしょう?と聞くと、動物!…あ~ら女のお人形!と六兵衛が答え、ご名答!と隠居が言う。

又拍手の中、六兵衛はおこんにウィンクをしてみせたので、おこんも笑顔になる。

では次は少し趣向を変えててんと隠居が言い、さあ六兵衛さんこの部屋の中に十両包みが2つ隠してある、さあどこだかズバリ当ててご覧と言うと、何故か六兵衛はくしゃみをし出したので、早く願いますよと野次が飛ぶ。

分かってますよ、今やりますよとそれをいなした六兵衛に、さあすっぱり手際の良い所を願いますよと隠居も急かすが、六兵衛は客に見えない所で、隠居に手を上に向けて開いて見せる。

どうやらあらかじめ打ち合わせしていた場所を忘れたと言う合図らしかった。 隠居も困って、客の方を向いて背中に手を回し場所を指差すが、勘が悪い六兵衛は、その意味が分からず、ここが痛いんですか?などと背中をさすろうとするので隠居は焦れる。

隠居は必死にある方向を指差すが六兵衛にはそれが理解できず、その指を摘んだり、隠居が桶の縁をなでると同じように触ったり、立ち上がって尻はしょいしてみたりと色々やるが場所が出て来ない。

隠居が桶の上を丸くなでてみせたので、六兵衛も立ち上がってその場でくるくる回り始める。

すっかり目が回り、障子にぶつかった六兵衛だったが、その上の額が外れ、そこに隠してあった十両包みが2つ落ちて来たので、出た!出た!と喜び、見物客が拍手する中、おこんも感激して駆け寄って来ると、あんた!見直したわ!と言葉をかけ抱きついたので、六兵衛はまんざらでもない顔になる。

その後、六兵衛さんは昨日泥棒を三つ見つけたそうだ、俺も占いのお陰で10両富くじを当てたよ、当たっちゃ恐ろしいね、桶六は見通しの名人だよなどと長屋で噂が出ていた。

それを側で耳に挟んだ侍がいた。 34番!おこんが次の客の番号を読んでいた。

今ではすっかり六兵衛の見通しの噂が広まり、六兵衛に一目見通してもらおうとする客で家の前はぎゅうぎゅう詰めの大にぎわいになっていた。

35番!このにぎわいにすっかり上機嫌になったおこんが受付係をやって、客たちに気札を渡していた。

六兵衛はと言えば、すっかり医者か教祖のようになり、尋ねて来た親子客にどうしたかね?と鷹揚に聞いていた。

申し上げるのも恥ずかしいのですが、この子は生まれつき笑わないのでございます、もう嫁入りの年頃でございますのに…と娘を前にした母親(出雲八重子)が泣き出しそうに切り出す。

六兵衛は、あんた、泣いたってしょうがないやとなだめ、ぼちぼちね、ちょっとだけと言い、娘の左手の脈を診るような素振りする。

そして三宝の上に置いた大麻(おおぬさ)を軽く振り回し、奇妙な歌のような呪文のようなものを唱える。

そして娘(田川晶子)の前で変顔を披露し出すが、娘が全く無反応なので、竹の先っちょを娘の唇にくっつけ、それを裏返しにして自分の唇と間接キッスなどし始めたので、それを見たおこんが、お前さん!と叱りつける。

しかし六兵衛は商売、商売と言い張り、さらに変顔を続けるが一向に娘は笑わない。

困り抜いた六兵衛が何か次の手を考えていた時、目の前の洗濯桶の中に座っていた娘が少し笑い、それをきっかけに堰を切ったかのように1人で笑い出す。

それを見た母親は、笑った、笑った、ありがとうございます!と六兵衛に感謝する。

母親と一緒に娘が立ち上がって替える時、娘の着物から何かが洗濯桶の中に落ちる。

六兵衛が祖手を摘み得ゲルと、それはハツカネズミだった。

娘は着物に入り込んだネズミがくすぐったくて笑ったのだった。

その時、入り口を埋め尽くす客をかき分けて前に出て来たやくざ(滝謙太郎)が、やい桶六!てめえは昨日逃げたカカアの野郎が晩になったら戻るとはっきり抜かしやがったな、この野郎!と片肌脱いで六兵衛の前に座り込む。 戻らなかったか?と六兵衛が聞くと、おう、今朝になってもまだ姿を見せねえや!この嘘つきの大騙りめ!とやくざは興奮しながら詰め寄るので、いや戻るよ、今日戻らなければ明日戻ることになってるんだと六兵衛は必死に言い訳する。

何を言ってやんでえ、てめえのそんなはったり占いなど信じられねえ!と息巻くので、信じられねえだろう?俺だって信じられねえんだよと六兵衛が言うと、何言ってやんでえこの野郎!とやくざは右手を振り上げるが、いや〜興奮しちゃいけねえ、興奮知っちゃいけねえよと六兵衛はなだめ、ヤクザを手招くと、俺のはデタラメなんだよ、それが不思議に当たるから面白えじゃないか、な。この気持分かるだろう?と囁きかけると、一旦はにやついていたヤクザだったがすぐに真顔に戻り、何をこの野郎!と良いながら六兵衛につかみ掛かる。

六兵衛はトンカチで、おこんは帚を手に取ってヤクザを追出そうとするが、ヤクザはドスを抜く。

その時、ヤクザの背後から掴み転ばした人物がいた。 何しやがるんでぇ!とヤクザは怒るが、馬鹿者!と一喝したのは初老の侍だった。

いらっしゃいませと六兵衛は出迎えると、貴殿が見通しの名人六兵衛殿か?と侍は聞き、拙者は松平の家老寺田勘祐(大庭六郎)、ちとお願いが筋があってまかり越したと言うので六兵衛は緊張する。

寺田を家に上げている間、すぐにおこんは家の前に「本日休占いたします」と書いた障子を立てかけ他の客払いをする。

実は奥方御所蔵の大切なお鏡が、昨夜何者に盗まれたか一夜にして紛失…と寺田が話し始めたので、鏡ですか!と六兵衛は驚き、脇に置いてあったおこんの粗末な鏡に目をやる。

そのお鏡を奥方は殿が隠したとでも思っていられるらしい、恥を申さねば分からぬが、殿は御養子の身分、それに奥方は酷い焼き餅焼きでのう…と寺田が続けるので、一緒に聞いていたおこんは六兵衛にそっとヒジウチする。

そこでじゃ、貴殿のことが殿のお耳に入り、至急六兵衛殿を城内に召し連れよとのお言葉、これから身共と一緒に城内に参って欲しいのじゃと言うので、とんでもない、そんな滅相なこと!と六兵衛は恐縮し辞退しようとするが、その心配はご無用、ご無用!と寺田は軽くいなす。

それでも六兵衛は私の占いはね…と反論しようとするが、おこんが寺田に会釈をして六兵衛を勝手口へ引っ張って行く。

おこんは、お前さん、運が向いて来たんだよ、大宮のようにぴたりと当てればご褒美がどっさりもらえるよと言う声が筒抜けなので、寺田は身体の向きを替え聞こえぬ振りをして茶を飲み始める。

その大宮の一件と言うのはね…と六兵衛は反論しかけるが、分かってるよ、あれ以来、あたしゃお前さんを見直しているんだよとおこんは笑顔で言うので、六兵衛は苦笑いするしかなかったが、おこんは何笑っているのよ、気持悪い!と叱る。

それでも六兵衛が迷っているので、お前さん、留守の間が気にかかるんだろう?分かったよ、安心しておくれ、若い男どころか雄猫一匹寄せ付けないからねなどとおこんは言う。

猫?何、猫か…と六兵衛は呆れる。

その頃城内では、高飛車に追求された上に長刀を振り回し始めた奥方(立花満枝)から、違う、違う!と低姿勢で言い訳しながら殿様(小笠原章二郎)が慌てて逃げ回っていた。

長刀の柄で取り押さえられ、やったのでしょう!と奥方から責められた殿様は、違う、違う、今、六兵衛と言う見通しの名人が来れば余がそちのあの鏡を好きな女にやったかやらぬか一目瞭然分かる、成敗はそれからにしてくれと頼む。

そんな城内に、精一杯正装した六兵衛が家老の寺田に連れられやって来る。

それに気付いた殿様は、おお六兵衛が参ったようじゃと喜び、おい、早くお近くへ持て!と小姓に脱ぎ捨てられていた打掛を持って来させると、町の者にこのような所を見せたら笑われる、さ、奥方らしく、奥方らしく!早う着て!さあ参ろうと言い聞かしながら奥方に打掛を着せてやる。

そこへやってきた寺田が、殿、六兵衛を召し連れて参りましてでございますと挨拶するが、当の六兵衛は緊張で身体が震え足下もおぼつかない様子。

おお六兵衛!近う、近う!と殿様が声を掛けると、敷居に躓きながら六兵衛は部屋の中に進み出る。

そちは聞く所によればなかなかの見通しの名人とのこと、相違あるまいな?と殿様直々に聞かれた六兵衛は、へえ…と恐縮するしかなかった。

これこれどうしたのじゃ?震えているが風邪でも引いたのか?と殿様が案ずると、いいえ、あっしは占いをするまでは武者震いがするんでございますよと六兵衛は極度の緊張をごまかす。

武者震いとは頼もしいと殿様は喜び、ところで早速だが、紛失の鏡、どこにあるか見通してみよと命じるが、廊下で控えていた腰元千草(津山路子)がそっと顔を伏せる。

はいっ!と六兵衛が懸命に返答すると、奥方が、妾から聞くが、隠された鏡、女にゆかりのある所にあるかないか?どうじゃ?と聞いて来る。

女にね?と六兵衛が念を押すと、女の手になど渡ってはいまいと殿様が横から口を挟んで来たので、えっ?と六兵衛は戸惑うが、女に縁があろう?と奥方がさらに追求して来たので、嘘じゃ、女などに関係はないと殿様は奥方に反論する。

あります!と奥方が言い張り、ない!と殿様は否定して、互いに向き合い言い合いになる。

あんまり殿様がないない!と喚くので、奥方がお黙りなさい!と叱りつけ、殿様はがっくり力を落し、気を取り直して六兵衛の方を向くと、既にそこには寺田も六兵衛もいなくなっていた。

廊下に出た寺田はいつ頃まで見通しできるかな?と聞くので、六兵衛は、はあ…後3日くらいお待ち願いたいんでございますと申し出る。

まあ良い、殿様も身共も六兵衛殿の力は信じておる、何分宜しくな…と寺田は頼む。

はいと答えた六兵衛は、あの御家老様、鏡はどのくらいの大きさです?と聞くと、さあ?そいつはまだ身共も見たことはないが、聞く所によるとこのくらい…と手で大きさを示すので、このくらい?と六兵衛が物差しで計ろうとすると、いやこのくらい、いやこのくらい…と徐々に手で示す大きさが大きくなり、怪しげな情報のまま何分宜しく頼むぞと言う。

ちわっ!と言いながら、自分に用意された部屋に入ろうとした六兵衛は、何か包みに足を引っかけたので、何でしょう?と言いながら包みを開けて中を確かめてみると、そこには鏡が入っていたので仰天するが、物差しで測ってみると、寺田が言っていたのより小さかったので、これは違うと呟き、床の間に放り投げる。

そしてフカフカの座布団に座ってみた六兵衛はすっかり上機嫌になり、大きな火鉢に物差しをキセルに見立ててタバコを吸う真似をし、ちょっと姉ちゃん、酒持って来い!と冗談を言うと、廊下からははいと女が返事したのでさらに驚く。

早苗が姿を見せたので、思わずいらっしゃい!と応じた六兵衛に、御家老様の御言い付けで貴方様のお世話をしろとのことで参りましたと千草は言う。

はい、すみませんと礼を言った六兵衛は、早速ですがね、あっしは桶屋なもんですからね、桶が側にないと心細いんですよ、こんなのを1つ御願いしますと手で大きさを示して願い出る。

はいと答え障子を閉めた千草だったが、そのまま中の様子を気にする。

その後、城内の庭先では、では奥方に叱られた腹いせにその鏡を隠したと申すのだな?と、千草から事情を打ち明けられた男が念を押す。

私がお殿様とちょっと話していただけで…、たったそれだけなのよと千草は訴える。

だのに一時も呼び寄せて、まるで悪いことでもしたように…、いくら奥方でもあんまりだと思ったわ…と千草は胸の内を打ち明け、父上、この気持分かってくれる?と言うので、側で聞いていたその男、千草の父親で医者の玄沢(大邦一公)はうん分かる、分かる、あの焼き餅焼きにはわしにも良い薬がないほどだ…と答える。

だがその鏡を探しに町から見通しの名人とかが来そうじゃないかと玄沢が聞くと、はい、それで急に恐ろしくなったので鏡はそっと返しておきましたと千草は言う。

返した?奥方へか?と玄沢が聞くと、いいえ、見通される前にと思って六兵衛さんの部屋に黙って…と千草が言うので、うんそうか、名案、名案!と玄沢も納得する。

六兵衛の手から殿の手に渡ればお前の罪も闇から闇に消えるだろうと玄沢は言う。 しかし千草は、それがね、どう言うことか、鏡に手もつけず、本人はただうろうろしているばかりなの…、私気味が悪くって…と不満げに言うので、で、今日は何をしとる?と玄沢が聞くと、桶占いだと言って、皆様を廊下に集めてお出ででしたと千草は答える。

城内の廊下では、皆の者、これより六兵衛殿の桶占いを致す、神妙に致せと寺田が集まった家人たちに説明していた。

廊下の両脇に男女別に並んで正座していた家人たちは全員桶を頭からかぶっていたが、その前で六兵衛はいつもにおかしな祝詞をあげ始める。

そして、家人たちの中央を歩き始めた六兵衛は、両脇の家人の桶を棒で軽く叩き始める。

それは木琴の音色のように聞こえたので、調子に乗った六兵衛は演奏を始める。

その時、六兵衛!と奥方の声が聞こえたので慌てて畏まった六兵衛の前に殿様も近づいて来て、まだ見通しは立たぬか?と聞くので、六兵衛は持っていた物差しを指し、まだ半分ですなと答える。

桶六の家の前には「本日休占」と書かれた桶が吊り下げられていた。

家の中ではやって来た隠居から真相を聞かされたおこんが、ではあの人に刃物を見通す力などなかったんでございますか?と驚いていた。

うん…、おこんさんにはすまぬ話じゃが、六兵衛とわしが前もって仕組んだ芝居での、種はちゃんと分かっていたんじゃよと隠居が見通しの実験の夜のことを打ち明けるとおこんはすっかり気落ちしたので、これもみな、お前が可愛いからこそやったことだよと隠居は言い訳する。

あの人、お城で鏡見つけるでしょうか?とおこんが案じると、まあ奇跡でも怒らん限り難しかろうの〜と隠居は正直に答える。

もし鏡が見つからなかったら、あの人どうなります?とおこんが聞くと、殿を騙した罪で打ち首か…と隠居は言うので、打ち首!とおこんは驚く。

どうしましょう、ご隠居さん、どうしましょう?とすがって来るおこんだったが、隠居はお城に行って今日でもう3日目…と呟く以外、何も答えることは出来なかった。

何とかして!と訴えるおこんだったが、この上は神様にも御願いするしか仕方あるまいと隠居は言う。

するとおこんは、神様は占いより信じられましょうか?と聞くので、隠居は答えに窮する。

立ち上がって柱にすがりつけ泣いていたおこんは、桶にすがって同じように鳴いている猫を発見する。

その頃、城内の庭先では六兵衛が千草に首に猫の鈴の付いた首輪を巻いてもらっていた。

その途端、急に猫真似を始めた六兵衛は庭を四つん這いで徘徊し始める。

やがて石灯籠の下で、あった!と叫んだ六兵衛だったが、それは鏡でも何でもなかったのでがっかりする。 そんな六兵衛の様子を見ていた千草は真相を知っているだけにいたたまれない様子だった。

さらに四つん這いで庭木の影に回り込んだ六兵衛だったが、そこにいた番犬に吠えられてしまう。

六兵衛は猫真似で対抗しようとするが、番犬に追われて逃げ回るだけだった。

一方殿様は、今日は殊の外美しいぞ!などと奥方の機嫌を取っていた。

しかし奥方はすねてそっぽを向いてしまったので、肩をももうかな?などと殿様はサービスしかけるが、ふと見ると、廊下にいた小姓がこっそり振り向いて見ていたので一瞬手を止めるが、すぐに奥方の肩をももうとすると、その手を振り払った奥方はその場から立ち去ってしまう。

後を追って廊下に出た殿様は、なあそう膨れるな、今日が約束の3日目、今夜の九つじゃ、鏡は六兵衛がきっと見出してくれると殿様は奥方の機嫌を取ろうとするが、そんなこと当てにはなりません!と奥方はきっぱり言い返す。

いや、そんなはずはないと殿様は言うが、いいえ、六兵衛は殿様が好きな女に与えたことは見通しておりますと奥方は言い出す。

見通してはおりますが、殿様の御言い付けでまだ黙っておるのでなどと奥方は憶測を言うので、いや、それは邪推じゃと殿様は笑うが、では今夜の九つになっても出ぬ時にはこれで六兵衛を打ち首になさいますか?と奥方は長刀を渡して問いつめる。

追いつめられた殿様は、うん、これで打ち首でも斬り首でも望み通りしてみせると殿様は答えるが、その縁の下に紛れ込んでいた六兵衛は、その言葉を聞いて愕然とする。

桶六の自宅では、おこんが藁をもすがる思いで1人神頼みをしていた。 御守りください!と頭を下げるおこんの前にはいくつもの神社から集めたお守り札が重なって並べられていた。

すると、そのお札の前に供えていたお供えものが動き、入り口から戸板に乗せられた六兵衛の死体が奴たちに運ばれて帰って来る幻影を見る。

思わずおこんは、お前さん!と叫びながら玄関口に走り、やがて泣き崩れる。

その夜、城内の自室に戻っていた六兵衛は悩んでいた。

ふと掛け軸を目にした六兵衛は、そこに書かれた鍾馗の絵が抜き出て来て、こら!逃げると承知しねえよ!と言いながら迫って来たので怯えながら、思わず、床の間に置いていた包みを手に取って振り上げ追い払おうとする。

すると小さな侍の姿は消えていたので安堵した六兵衛は、持っていた鏡の包みを又部屋の隅に放り投げてしまう。

そしてそっと襖を開け、外の様子を伺った六兵衛は逃げ出そうとしていた。 外では千草が玄沢と散策しながら、分かりません、何のために鏡を部屋の中に置いているのか?分かりません…と六兵衛の行動の不可解さを明かしていた。

そうするとその鏡が紛失した品であると言うことを知らんのではあるまいな?と玄沢は言い出す。

いいえ、そんなこと信じられませんと千草は否定し、私を見る目、あに目は私の心を見通している目でございますと断じる。

そうすると…と玄沢が聞くと、私の口から白状させるつもりでございます!と千草は怯える。

白状すれば罪は重いぞと玄沢が言うと、覚悟しておりますと千草は言うので、玄沢は千草に何事かを耳打ちする。

えっ!と千草は驚愕するが、これ!と声を制した玄沢は、六兵衛が話さぬ先に一服盛るのだ、そしてその懐に鏡を入れておけば全てが楽じゃと言う。

しかし千草は、私にはそんなことできません、できません!と拒否するが、やらねばお前の命が危ない!と玄沢は迫る。

それでも千草は、出来ません!と答えその場から逃げ出す。 城内では、荷物をまとめた六兵衛がそっと逃げ出そうとしていた。

そこに庭先から戻って来た千草がやって来たので、2人は廊下で鉢合う。

一瞬逃げようとした六兵衛だったが気を取り直し、こんばんは、桶六でございますと挨拶すると、どこかへお出かけで?と千草が聞くので、いいえ、その…、あの…、散歩ですけど?と六兵衛はごまかし、あなたこそ今時分どちらにいらしたんですか?と聞く。 すると千草は少し考え、はい、あまり毎晩眠れませんので、眠り薬をもらいに御典医まで参りましたと答える。

はあ、御若いのに寝られない?そら御気の毒だ、私は良いまじないを知っておりますからね、それをやれば今夜は良く眠れますよと言いながら六兵衛は千草に近づいて行く。

早い方が宜しいですからそこにお座りなさい、私がね、すぐやってあげますから…と言いながら千草を廊下に座らせ、背中に背負った荷物を下ろした六兵衛は桶を千草の頭に被せると、大麻(おおぬさ)を持っていつもの奇妙な祝詞をあげ始める。

御世話になりました〜などと言う言葉を交えながら、六兵衛はじょじょに千草の前から遠ざかって行く。

そして庭に飛び降りた六兵衛は一目散に逃げ去る。

暗闇の中で走りに走った六兵衛だったが、結局広い庭を堂々巡りしているだけで、最後には疲れ果て気絶してしまう。

倒れていた六兵衛は千草に見つかり、城内の自分用の部屋に寝かされ、玄沢が様子を見ていた。

これをそっと湯に入れて飲ますのだ…、南蛮渡りの秘薬だから決して露見するようなことはないと玄沢が言いながら薬を千草に手渡す。

やるのなら一刻も早い方が良いぞ、良いな、分かったな?と玄沢は言い聞かせ部屋を出て行く。 自宅では、あなた!とおこんが案じていた。

部屋に寝ている六兵衛と2人だけになった千草は湯を茶碗に入れ始める。

眠っていた六兵衛はおこんと魚屋が仲良く遊んでいる悪夢を見てうなされていたので、思わず、どうした〜!と大声を上げる。

湯を入れた湯のみを持って部屋に戻って来た千草は、その声に驚いて湯のみを落してしまう。

声とともに六兵衛は起き上がるが、寝ぼけたまま目の前にいた千草がおこんに見えたので、見通しだぞ!と指を指して叫ぶ。
 


 

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