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東京大地震マグニチュード8.1

日本テレビの「木曜ゴールデンドラマ」枠で放送されたらしい特撮スペクタクルパニックドラマ

テレビドラマとしては破格の予算を投じたらしきミニチュア特撮や合成シーンが楽しめるが、そこで描かれている地震の様子は、「日本沈没」(1973)以来繰り返されて来た当時の東宝ミニチュア特撮のパターン通りであり、目新しさはほとんど感じられない。

都心部での地震で一番危険性があるのは、高層ビルから降り注ぐであろうガラスの破片と言う当時の学説の再現などが丁寧に描かれているが、他は意味不明の爆発の連続だったりと、3.11を経験した今の目で観るとさすがに嘘くさく感じる表現も少なくない。

現実の地震映像で火事が発生することはあっても、あまり爆発シーンと言うのは観たことがない。

やはり、ミニチュア特撮での炎表現は水と同じように縮小出来ない難しいテクニックであり、リアルな火事表現は難いため、ついつい派手な爆発シーンでごまかすと言うことになるのではないか?

高速道路が倒壊したり、渋滞して停まった自動車のガソリンタンクに次々と引火して爆発の連鎖が起きるなどと言う表現も、それなりの仮説に基づいて表現しているのだとは思うが、既存のパニック特撮映画で見慣れたイメージだったりするため、衝撃度は薄い。

むしろこの作品、陸上自衛隊の協力を得ているのか、登場する軍用車やヘリコプターはミニチュアではなく、みんな実機であるのが凄い。

さらに、代々木公園を想定したと思われる避難民のキャンプ地なども、本格的に大きなセットとエキストラで表現されており、その辺は見応えがある。

ドラマ的には、いかにも2時間ドラマだなと感じさせるような、分かり易く安っぽい展開で、ご都合主義の連続なのがご愛嬌と言った所。

男に捨てられ人間不信になったヒロインが、地震の中で新しい男と出会うドラマに、この手のパニックものにはお馴染みのパニクって理性を失う支店長などがお約束通り登場している。

通俗娯楽なので細かいことには目をつぶるべきだろうが、広告代理店の台所の冷蔵庫に何も入っていないばかりでなく、何故か、停電して1時間程度しか経過していないはずなのに製氷機の中には水しか残ってなかったり、金庫の中にも何も入ってないばかりか、鍵も開けっ放しの状態で置かれているなど不自然な部分も多い。

あくまでも、瀕死の老婆に水を飲ませるためのヒロインの行動を若干ハラハラさせるためだったり、主人公が危機を脱する道具立ての為だけに用意しているからだろう。

他にも、途中までヒロインたちと一緒に行動していたはずの旅行代理店の女子店員が後半でいなくなったり、観ていると、政治家としてまじめにやっているように見える岡田英次が、何だか最後は悪役のような扱いになっていたりする部分も気にならないではない。

結局、恋人を失ったヒロインの元に主人公が帰るためなのだろうが、かなり強引で不自然な展開と言わざるをえない。

主人公である千葉真一が、岡田英次を責めるように言っている内容自体も的外れな気がする。

コメディリリーフ風に登場している赤塚真人と木内みどりの新婚夫婦のドタバタ劇も、特に成功しているとも感じられないし、柴俊夫の唐突なラストもあっけにとられる展開である。

こう書き連ねて来ると、何だか失敗作のように聞こえるかもしれないが、お茶の間でただで観る2時間ドラマとしてはそれなりに楽しめる作品にはなっていると思う。

いかにも時代を感じさせるキャスト陣も見所で、政治家や科学者役には伊豆肇や村上冬樹、増田順司など、映画出身のベテランたちも顔を揃えており、ナレーションは神太郎だったりと、懐かしい要素に溢れており、当時を知る世代には堪らない作品なのではないだろうか。

根上淳が取り出す携帯機器が「ポケベル」である事など、今の若い世代が観ても、おそらく理解不能だと思う。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1980年、よみうりテレビ+東宝映像、下飯坂菊馬+笠原和夫脚本、西村潔監督作品。

木曜ゴールデンドラマのタイトルロゴ

新宿のビル群が倒壊する特撮シーン

タイトル

東京湾で地引き網漁をしていた猟師が、水平線の向こうに奇妙なものを発見する。

蜃気楼だ!関東大震災の前にも見えただよ!と猟師たちは騒ぎだす。

198X年4月20日

新宿の自宅マンションに帰って来たのはツアーコンダクターの江田かおる(竹下景子)だった。

部屋の中に入った彼女は、置いてあった手紙を開く。

それは、恋人の信夫からで、「結婚することになった。これまでのことは忘れてくれ。君は君の道を歩いて欲しい。さようなら」とだけ書かれていたので、驚いたかおるは、すぐに信夫に電話をかけ事情を尋ねる。

さっき成田に着いて、今帰って来た所なの。ねえ、本当に、私たちの3年間は終わってしまったの?会って話して!と頼んだかおるは、1時にいつもの所でと約束する。

その頃、大臣秘書小林(千葉真一)が自宅にいた水原大蔵大臣(岡田英次)に、山下幹事長から会いたいと電話がありましたと伝えると、大蔵大臣は金のなる木だとでも思っているのかね?と大臣は面白くなさそうに答える。

小林は、民政党のためにも山下先生のようなご老体にはそろそろ引退して頂いた方が…と促すと、君が身を固めて一人前になってくれれば良いんだよと大臣は、娘の令子(中島ゆたか)を前に意味ありげに答える。

上野公園の西郷隆盛像前では、大分から一緒に上京していた孫の慎太郎を連れた祖母が、昔、おばあちゃんが慎ちゃんと同じくらいの年だった頃、この辺で大きな地震があって一杯人が死んだんだよ。それで、おじいちゃんの国の大分に移ったんだよと、関東大震災のことを教えていた。

気象庁

その頃、地震観測所では異常なデータに色めきたっていた。

犬と散歩中だった高原(根上淳)は、突然持っていたポケベルが鳴りだしたので、近くの公衆電話から地震連絡会に電話を入れると、房総沖相模トラフに異常が見られると言うので、本当かね?と驚く。

息子の結婚式に向かう所だった榊曾太郎教授も、同じように地震連絡会から非常呼集を受け、何ごとかと電話の背後で気を揉む妻に、先に式場へ行くように促す。

気象庁地震判定連絡会に集まった各教授たちは、早速データを元に、警戒警報を出すべきか否か検討を始める。

海底の岩盤にひずみが出ていると言う報告を聞いたメンバーたちは、その場所が震源地になるとすると、予測していた東海地域ではなく、東京を含む南関東に大地震が起こる可能性があることに気づく。

高原教授はその時になって、これまで東海ばかりに気を取られ過ぎ、東京は地震強化地域に指定されていなかったことを悔む。

部屋を出た高原は記者たちに取り囲まれ、何が話し合われたのか聞かれるが、官邸に報告しに行かねばならんと答えるだけだった。

西新宿の高層ビル群の下で再会した信夫は、僕は出世したいんだ。相手は会社の重役の娘なんだ。すまないと思っているが、君はどんどん離れて行き、会いたい時には君は東京にいないと言う。

それを聞いたかおるは、これからの女は外に出て働かなくてはいけない。ツアーコンダクターの仕事を勧めたのも信夫さんじゃない!両親がいない私の帰る所は信夫さんしかいないのよ。これまで、信夫さんがいるからこそ生きて来れたのよと訴え、相手の人にはいつ会ったのと尋ねる。

二ヶ月ほど前、会社のパーティだと信夫は答え、愛しているの?とかおるが聞くと、多分…と自信なさげに答える。

あなたが働いているあのビルは、今まで輝いて見えたけど、今からはただの冷たいコンクリートの固まりにしか見えないわ。何もかもが廃墟に見える…、巨大な廃墟…と言いながら、周囲のビル群を見渡したかおるは、お別れしましょう。今までのお礼を言います。お幸せに…と言い残し、その場を立ち去って行く。

午後3時 首相官邸

気象庁からの連絡を受けた首相(佐々木孝丸)は、各大臣を召集し、南関東が危ない旨を伝える。

議員会館では、小林が陳情団の相手をしていた。

官邸の震災対策会議の席上、水原大蔵大臣は国土庁長官(細川俊夫)に予想される被害状況を聞いていた。

国土庁長官は、推定死者数3万5000、負傷者6万3000人と計算が出ていると答える。

それを聞いた水原大蔵大臣は、周辺市部も含めると1400万人と言われる今の東京では、もっと甚大な被害が出るのではないかと危惧する。

消防庁の方からの予測では、大震災が起きて多くの建物が一斉に炎上すると、消防活動にも限界があるとの報告もある。

今や、戦争中のように強制疎開させると言う手段に出る訳にもいかなかった。

経済的には300億ドルが灰になる計算で、戦後営々と築いて来たものが一挙に崩れ去ることになる。

戦争から立ち直ったように又立ち上がるよと大臣が発言すると、マグネチュード8クラスの地震と言うのは、広島型原爆の20個分に相当するそうだと憂い顔で答える。

とにかく、都民がパニックを起こさぬよう、警戒宣言はあらゆる準備を整えた上で、マスコミ発表後に行うことに決まる。

議員会館に戻った水原大蔵大臣は、自宅に電話を入れ、小林を呼びだす。

自宅に電話が繋がると、令子は帰っているかと聞き、令子が電話に出ると、お前、来月アメリカ旅行に行きたいと言っていたが、今夜中に発つんだ。ワシントンの鈴木大使に会えば良い。これは命令だ。1年くらいの長期滞在になると考えておきなさいと一方的に伝える。

そして、小林が来ると、空港まで令子を送ってやってくれと水原は頼む。

小林は、令子との待ち合わせは新宿の高層ビルでと指定する。

電話の向うの令子は、何か重大なことがあったのねと聞いて来るが、職務上の秘密は話せん。6時に小林君と会うんだと命じて、水原は電話を切る。

先生、一体何が起こっているんです?と小林も聞くが、気象庁長官の所に呼ばれたんだ。それで大体察しが付くだろうと水原が答えると、まさか東京に!と小林は驚く。

榊教授は、何とか、息子のひろし(赤塚真人)とみち子(木内みどり)の結婚式に間に合った。

二人は教会を出ると、出席した友人たちにも送られ、小型車に乗り込んで新婚旅行へと出発する。

陸上自衛隊のヘリコプターパイロット高木(柴俊夫)は、ヘリから降り立った所で後輩の大島から声をかけられるが、その直後、立川より緊急連絡が入ったとの知らせを受け、自宅に電話を入れる。

すると、電話に出た新婚三ヶ月目の新妻は、今日は何の日か知っているでしょう?私の誕生日よ!と文句を言って来たので、謝りながらも帰宅出来ない旨を伝えて電話を切る。

そんな新婚ほやほやの高木のことを大島がからかって来る。

夕方の5時半、小林は西新宿の地下駐車場に車で到着する。

新宿の地下街にある「スペーストラベル」のフロアに来て、係員の佐野(江木俊夫)に大分への便の確認をしていたのは、上のにいた慎太郎とその祖母だった。

8時に羽田を出発するので、9時40分頃には大分に到着しますと説明した佐野は、母親が迎えに来るので到着時刻を電報を打っておいて下さいとおばあちゃんから頼まれ、電報局なら出た所にありますからと呆れたように教えていた。

その頃、令子は、小林と会う約束をした西新宿の高層ビル内のレストランにいた。

5時45分

「スペーストラベル」の支店長(穂積隆信)は、いきなり出社したかおるから、1人になって考えてみたいんですと退職を切り出され驚いていた。

何とか思い留まるよう説得していた支店長は、そこに民政党の小林が来たことに気づき、愛想良く出迎える。

小林は、今夜のニューヨーク便を何とか用意して欲しいんだと言いだしたので支店長は慌てる。

支店長は帰りかけたかおるに、明日じっくり話し合おうと声をかけるが、かおるは、明日はもう出社しないと思いますと言って店を出ようとする。

その時、突如、地鳴りの音が響き、大きな揺れが地下街を襲う。

高層ビルからは多量のガラスが地上に降り注ぎ、レストランにいた令子も大きな揺れに襲われていた。

地面は大きく割れ、その中に通行人が次々に飲み込まれて行く。

横断歩道が倒壊し、ハンドルを取られた車が建物に突っ込んで行く。

高速道路上を走行中の自動車も次々に衝突炎上して行く。

「スペーストラベル」の店内にいた小林は、みんな、大丈夫か!と周囲を見渡すが、その時、慎太郎が叫ぶ、おばあちゃん!と呼ぶ悲痛な声で、おばあちゃんが倒壊した瓦礫の下敷きになっていることに気づく。

助け出そうとした時、又大きな余震が襲って来たので、小林はここの方が安全だ!とみんなに声をかける。

慎太郎は、おばあちゃん!と声をかけるが、側に来たかおるが、大丈夫よと慎太郎に声をかける。

小林たちが、おばあちゃんの上に覆いかぶさっていた瓦礫を取ろうとした時、急に周囲が明るくなったので、出火したのか!とみんなは色めき立つが、自家発電に切り替わったと言うアナウンスが聞こえて来る。

高層ビル内のレストランでも、このビルは耐震構造なので安全です。フロアの真ん中に集まって下さいと言うアナウンスがあり、令子がフロアの中央部分に移動しようとした時、又大きな余震があり、窓際にいた男が割れたガラス窓から外に墜落してしまう。

令子はその後、訳もなくビルを出るが、結果的にこれが彼女を救うことになる。

ビルの下の階から出火したからだった。

車がビルに飛び込み炎上する。

沿岸部のガスタンクも爆発し、海上に溢れ出た原油に炎が移り、海も火の海と貸す。

羽田に接近していた旅客機の乗客は、窓から見える炎上する東京の姿に恐れおののく。

「スペーストラベル」内では、佐野と小林が何とか瓦礫を取り除き、下敷きになっていたおばあちゃんをソファーに寝かせていたが、うっすら目を開けたおばあちゃんは、慎太郎!と孫に声をかける。

その時、小林は腕時計で6時になった事を知ると、人に会う約束があるのでこれから出て行くが、必ず戻って来ると約束する。

しかし、かおるは、本当に戻って来るんですか?と疑わしそうな目で問いかける。

支店長は、我々も連れて行って下さいと頼むが、行って下さい。別に罪じゃありませんから…とかおるは淡々と伝える。

地下街から外に出た小林を襲ったのは、高層ビルから降り注ぐガラスの破片だった。

道路上の歩行者たちに、警官が代々木公園へ避難するよう声をかけていた。

そんな中、小林は、令子と約束した高層ビルに入ろうとするが、玄関にいた警官に止められる。

45階にいる人に会いに行くんだと小林は説明するが、38階から出火したので登れないと警官は言う。

マグネチュード8.1の地震で、高速道路上の車は身動きが取れなくなり、新婚旅行二向かっていたひろしの車もその中に混ざっていた。

ガソリンタンクに引火したらしく、次々と爆発の連鎖が近づいて来るので、恐怖に駆られたひろしは新妻を置いて外に逃げ出す。

都内の火災発生は7000軒を越え、消防活動は到底追いつかない状況だった。

特に江東下町地区は炎に巻き込まれて行った。

「スペーストラベル」のソファーに寝かせられていたおばあちゃんが、水…と言ったので、かおるは台所に向かい、水道を捻るが断水状態だった。

やかんの中にも冷蔵庫の中にも何もなく、冷凍庫の中の製氷皿に残っていたわずかばかりの水を見つけると、それをコップに注いで持って行ってやる。

そんなかおるに、おばあちゃんは、孫を大分まで連れて行ってくれませんか?大分の母が待ってますから…。私はいつ死んでも良いんです。もう年ですから…、私は関東大震災も東京大空襲も運良く生き残りました。孫を助けることができ、今日まで生きて来て良かった。この子は不幸せな子でね。親が2年前に離婚し、久しぶりに大分から東京の父親に会いに来たんですと話しかけると、慎太郎には、ええか。このお姉ちゃんの言うことを良く聞いて死んだらいけんぞと声をかける。

大丈夫よ、おばあちゃん、慎太郎君は必ず私が大分に連れて行くわとかおるは約束するが、それを聞いたおばあちゃんは安堵したかのように息を引き取る。

慎太郎は、国東に帰るんじゃ!お母ちゃんの所に帰るんじゃ!と泣き始めたので、抱きしめたかおるは、私が連れて行ってあげる。生きてここを出るのよ!と慎太郎を励ます。

航空隊の高木は、ヘリコプターで燃え盛る東京上空を飛んでいた。

代々木公園に負傷者が多数集まっているので、衣料品を投下してくれとの連絡が入り、直ちに代々木公園に向かう。

ヘリが公園内に着陸すると、待機していた自衛隊員たちが次々と衣料品を運び出す。

自衛隊の医療車なども次々と集結して来る。

降り立った高木は、公園内に集まった避難民の多さに愕然とする。

その頃、高木の新妻は、団地内の部屋で、倒壊して来たものの下敷きになって身動きが取れなくなっており、あなた!助けて下さい!と必死に訴えていた。

そんな代々木公園にたどり着いた小林は、突然見知らぬ母親から、抱いていた赤ん坊にミルクを下さいと迫られ呆然と立ち尽くす。

その後、小林は、避難民の中に佇んでいた令子を発見、お嬢さん!ご無事でしたか!と声をかけながら近寄る。

しかし令子は、父もあなたも、地震が来るのを分かっていながら何も手を打たなかったの?と小林を責める。

今はそんなことを言っている場合じゃありません。立川の緊急対策本部にお父様はいるはずですと伝えた小林だったが、その時、ヘリコピターの側に立っていた高木を発見する。

高木じゃないか!と驚いて声をかけて近づいた小林に、高木の方も驚いたようで、先輩!と答える。

小林は高木に、水原大蔵大臣のお嬢さんがいるんだ、俺と2人だけ乗せてくれと頼む。

しかし高木は、もうヘリコプターの中は重傷者で一杯です!ときっぱり断ると、敬礼して去ってしまう。

がっかりして戻って来た小林に、ダメだったのね?と冷たく聞いた令子は、腕の見せ所だったのに…と皮肉る。

そんな令子に、この際、特権意識は捨てて下さい。死にかけている人が大勢いるんですと頼んだ小林だったが、あんまりがっかりさせないで頂戴と言い残し、令子は1人で別のヘリの所へ向かうと、その操縦士と勝手に交渉し、さっさと避難用のヘリに乗り込んでしまう。

「スペーストラベル」では、店員の佐野が、小林さん遅いですね~…と不安がっていた。

すると、あんな奴、戻って来るもんか!いつも口先ばっかりで、他人に対する正義なんてこれっぽっちもないんだ!と支店長が吐き捨てるように言う。

その時、又余震が起こり、床に落ちていた灰皿から出火する。

そこに戻って来たのは小林だった。

かおるは驚いて、小林さん!と声をかけるが、小林は、火が来るぞ!防火シャッターのスイッチは?と聞いて来る。

だが、スイッチを押した小林は、停電で動かないことに気づき、手動スイッチの場所を聞く。

小林が手動で何とかシャッターを閉めた瞬間、支店長と佐野はその場を逃げ出そうとするが、佐野は瓦礫の下敷きになる。

戻って来た小林に慎太郎は、おばあちゃん死んじゃったよと教える。

逃げ道が見つからないらしく戻って来た支店長は小林に、あんた1時間も放っておいてどこに行ってたんだ!と文句を言って来る。

上も大変なんだと小林が言い訳すると、逆上した支店長は、もう出られないんだ!俺たち、完全に閉じ込められてしまったじゃないか!と怒鳴り始める。

そして、奥にも通路がある!俺はここにはいたくない!と言うと、支店長は店を飛び出して行く。

シャッターも焼けて来たので、ここにいても死ぬ。出ようと小林は決断する。

奥の出口付近は瓦礫で埋っており、死体が転がっていた。

小林は、みんなで力を合わせて頑張ろうと言うと、自ら瓦礫を取り除き始めるが、少し隙間ができた時、俺が先に出るんだ!と叫んだ支店長が階段を登りかける。

その時、又余震で落盤が起き、支店長は下敷きになってしまう。

進退窮まった小林は、店の奥は?と女子店員に聞く。

すると、金庫室になっていると言うので、その部屋に入り、金庫をずらしてみると、その背後の壁に出入口があった。

しかし、そこは何年も使ってない部屋に通じる扉だったらしく、開けようとしてもびくともしなかった。

女子店員は、お母さん!死ぬの嫌だ!怖いわ〜!と泣き叫びだす。

そんな中、かおるは小林に、ありがとうと声をかける。

何故?と聞き返した小林は、おばあちゃんが死んだのは僕のせいだと思っているんでしょう?逃げたと思ったんでしょう?と聞き返す。

私、誰も信じられなくなっていたんです。自分さえも信じられなかった。地震さえなければ、今夜の列車に乗ってどっかに行くつもりでした。死ぬつもりだったのかも知れません。皮肉ですね。地震が私を思いとどまらせたんです。おばあちゃんと約束しましたんです。この子を大分に連れて行くって…とかおるは打ち明けるのだった。

それを聞いた小林の方も、あの時、高木のヘリに乗っていたら、今頃立川の基地に着いており、あなた方のことは忘れていたかもしれない…と、申し訳なさそうに答える。

女子社員は、相変わらず、死んじゃう!怖いわ!と泣き叫んでいたが、その社員の頬を叩いた慎太郎が、泣いちゃいけん!と叱る。

そんな慎太郎の様子をたくましそうに観ていた小林だったが、突然、プロパンガスのボンベがないかと聞く。

女子社員はありますと言うので、小林はそのボンベを金庫室に持って行く。

そしてかおるや慎太郎、女子社員を部屋の外に追い出し扉を閉めると、奥へ通じる開かずの扉の前にボンベを起き、コックをひねってガスを放出し始める。

その後、自分は、開いていた金庫の中に入ると、扉を内側から閉め、隙間から火の点いたライターを投げる。

金庫室内は大爆発が起きる。

驚いて駆け込んで来たかおるは、奥への扉が壊れて穴が開いていることを発見するが、小林の姿がない。

大声で小林を呼ぶと、倒れていた金庫の中からノックの音が聞こえるではないか。

扉を開けてみると、中から小林が出て来て、巧く行った!さあ脱出だ!と女子社員や慎太郎たちに告げる。

階段を登り外に出たかおるは、助かったのね…、私たち…と安堵するが、抱いて来た慎太郎が、おばあちゃんを連れて来たいと言い出す。

かおるは、今戻ったら、おばあちゃんがもっと哀しむわと言い聞かす。

その時、又余震が発生する。

最初の地震が来てから2時間が経過していた。

都内では1400軒から出火し、その炎が帯状に都内を焼き尽くしていた。

そして、海から吹き付けた東南東の風で、炎は強大な渦巻き状に成長する。

俗に言う「ハンブルグ旋風」の発生だった。

小林たち一行は、何とか代々木公園の避難所にたどり着く。

その時、慎太郎が水が欲しいと言いだしたので、小林は水を探しに行く。

慎太郎と待っていたかおるは、避難テントの側に、左手を負傷したらしく吊って立っていた信夫を発見する。

信夫もかおるを見つけると驚いたようで、無事だったんだねと声をかけ、腕は応急手当をしてもらったが、血が止まらないんだと言う。

じっとしてなきゃ…とかおるが案ずると、心にもないことを言うなよ…と信夫は言う。

死んだ方が良いと思っていたんだろう?とまで言うので、そう思いたければ思えば良いわ。今は1人でも多くの人に生きていてもらいたいの。今日の昼間のことが遠い過去のことのように思え、懐かしいの…と、かおるは答える。

その時、近くを、ゆかりちゃ〜ん!と呼びながら、子供と生き別れ、正気をなくしたような女が通り過ぎる。

すると、側にいた慎太郎が、ママだ!と言い出し、ふらふらと女の後を追って行くが、地震の時、真っ先に誰のことを思い出したと思う?君さ、君のことさと言う信夫の言葉につい聞き入っていたかおるはそれに気づかなかった。

そこに、水を入れた紙コップを持った小林が戻って来て、慎太郎がいないことに気づく。

信夫は、じゃあ、後で…と言い残し立ち去って行ったので、慎太郎君は?と小林から聞かれたかおるは、はじめて、慎太郎がいなくなっていることに気づく。

慎太郎は、ゆかりちゃ〜ん!と呼びかけながら歩き続ける女の後を、ママ〜!と呼びながらどこまでも付いて行っていた。

その後ろ姿に気づいた小林とかおるが後を追って行く。

その時、狂った女の目の前のデビルが倒壊し、爆発が起きて、その炎が女の身体を包み込む。

その瞬間、小林は追いついた慎太郎の目を隠し、抱いてかばう。

そこにかおるも駆けつけて来る。

慎太郎はまだ、ママ〜!と呼びかけていたが、小林が、ママじゃない!と言い聞かせ、その場を立ち去る。

悪夢のような一夜が過ぎた。

ハンブルグ旋風は、23区内の60%を焼き尽くした。

午前6時

とんでもない被害状況が立川の緊急対策本部に報告されつつあった。

その頃、小林、かおる、慎太郎の3人は、1枚の毛布に包まって寝ていた。

推定死者数200万人…、すでに第二次世界大戦の犠牲者を上まわっていた。

水原大蔵大臣は、あの時すぐに避難命令を出していれば…と悔む大臣に、仮にあの会議の直後に出していたとしても、たったの2時間でどれだけの人が逃げられる…と反論する。

その間も、物資の輸送任務を続行していた高木に、副操縦士の大島が、機長良いんですか?奥さんが助けを待っているんじゃないですか?と声をかけて来る。

しかし高木は、大島黙ってろ!この緊急時に駆けつけられる訳がないだろうと叱る。

その時、ヘリが運んで来た物資目がけ、避難民が殺到して来たので、高木は、並んで!と大声で制止する。

危険を感じた自衛隊員が銃を発砲しだしたので、それに気づいた高木は撃つな!と止める。

しかし、パニック状態になった群衆を止めることは出来なかった。

そんな群衆の中にいた小林も、止めろ!と制止しようとするが、いつしか高木は、群衆の中でもみくちゃにされていた。l

小林と大島が慌てて倒れた高木に近づくと、うっすら目を開けた高木は小林に気づいたのか、先輩!と一言言い、そのまま息絶えてしまう。

大島は理不尽な先輩の死に泣き出す。

その頃、別な地域の炊き出しのテントの中で、避難民に炊き出しを配っていたのは、何とか自力で脱出していた高木の妻だった。

甲州街道から成城学園辺りの一体は全部焼けたそうよ。ご主人、きっと助けにくるわよと、隣で一緒に炊き出しの手伝いをしていた主婦が、事情も知らず明るく妻に教えていた。

テント内に運び込まれた高木の遺体の前で、大島はまだ泣いていた。

慎太郎、かおると一緒にそこに付き添っていた小林だったが、ふらりとテントの外に出ると、後について出て来たかおるが、小林さんのお友達だったんですねと声をかけて来る。

良い奴でした…、何故高木が殺されなくちゃならないんです。仙台の高校時代、同じラグビー部の2年後輩でした。

正義感の強い立派な奴でした。俺は貧乏な百姓の生まれだから、金と権力でい来るしかないと思っていた、でも高木は、人と人のつながりが大事だと言う考えでした…と小林が悔むように言うと、小林さんも同じだわとかおるが言う。

何故自分に素直にならないんです?何もかも信じられなくなっていた藁市を助けてくれたのよ、あなたは…。私、あなたを信じていますとかおるは続ける。

そこへ、慎太郎が見知らぬ女の子と一緒に配給品の乾パンの缶詰を持って来る。

良く頑張りましたよと言い出した小林は、慎ちゃんのこと頼みます。自分は立川基地に行きますとかおるに伝える。

立川基地内の緊急対策本部では、首相が、国家緊急存亡の危機の時には、渡しのような年寄は使い物にならないと政治の世界の老害について反省していた。

その首相から被害予想を聞かれた水原大蔵大臣は、推定で20兆は越えるでしょうね。戦後稼いで来た外貨が一晩で吹っ飛んでしまいました。広島型原爆の20倍と言われていましたが、実際は被害は50倍にもなったのは、都市生活の複雑さと近代工業主義の結果でしょうと答え、しかし、それ以外に、戦後の日本が進むべき道があっただろうか?と自問する。

その後、水原と令子のいる部屋にやって来た小林は、ご心配をおかけしました。お嬢さんもご無事で何よりでしたと挨拶する。

そんな小林に、水原は、腹が減っただろう?食え、食えと、自分たちに配布されていた豪華な仕出し弁当を勧め、自分はコニャックを飲みだす。

都民の6人に1人が死んだ…、我々は命があっただけで良しとせねばならん。防災計画なんて絵に描いた餅だよ。戦災からも立ち直った日本だ。必ず又立ち上がるさ。石油は先付けで買い続ける。のるかそるかだ!今後も石油消費型にするのが妥当なのかイギリス型にするのが妥当だろうね…と、水原はこれからのことを熱弁しだす。

それを黙って聞いていた小林は、先生、あなたは何をおっしゃっているのです?政治は天災の前では無力だったと言うことですよ。巷では人が飢えている。殺し合いすら起きているんですよ。あなたはここを一歩でも外に出たことがありますか?それなのにあなた方はのうのうと、こんな贅沢なものを食っているじゃないですか!と言い出したので、無礼だぞ!と水原は怒る。

しかし小林は、やっと私は自分の生き方が分かりました、少なくとも私は、こんな所で空疎な議論をするつもりはありませんと答えたので、一緒に聞いていた令子は、あなたは野心家に見えても、所詮は安っぽいセンチメンタリストだったのねと嘲る。

水原も、君は工事現場のヘルメットの方が似合う。カイザーはカイザーの元へ帰りたまえと言い渡す。

小林は、辞表は改めて提出させて頂きますと頭を下げ、部屋を後にする。

かおるは、テントの中で炊き出しの手伝いをしていた。

そのおにぎりをもらう列に並んでいたのはひろしだった。

その同じ列に並んでいた新妻のまち子は、ひろしに気づくと近づいて来て、あなた!と呼び掛け互いに抱き合う。

しかしその直後、あなた、私を置いて逃げたでしょう!とひろしを責めだす。

まち子さん、あなたこそ逃げ出したじゃないですか!とひろしが反論すると、泣き出したまち子は、離婚する!と言いだす。

昨日結婚したばかりだよ、握り飯を食べようと言い、仲直りする。

そんなひろしにかおるが、そこに大勢の人が埋っているので、掘り起こす手伝いをして下さいと声をかけると、ひろしはちょっと当惑する。

それでも、新妻に睨まれると、これを食べ終わったからで良いですか?とおにぎりを見せ、かおるが頷くと安堵したように食べ始める。

その後、避難所にいた子供たちと一緒に追いかけっこをしていたしんのすけが草むらに倒れ、咲いていた花を見つけて取ろうとする。

そこに、小さな命も大切にしなくちゃ行けないよと声をかけて来たのは小林だった。

それに気づいた慎之助は、あ、おじちゃん!と喜ぶ。

もう何も怖いことはない。おじちゃんが九州まで連れて行ってあげようかと言いながら、小林は慎之助を抱き上げる。

あなたも一緒に来てくれますか?と声をかけられたかおるは頷く。

慎太郎君のお母さんってどんな人だい?と小林が聞くと、お姉ちゃんみたいにきれいだよと慎之助が答えたので、かおるは、まあと言って喜ぶ。

観てご覧、慎之助君、きれいな夕日だよ。あれがまた明日、東の空から登って来るんだと小林は慎之助に教える。

東京タワーを捉えた空撮にキャストロールが重なる。


 

 

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