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黒い誘惑

井上梅次監督はミステリものが得意だったのか好きだったのか、何作かその手の作品があるが、この作品は中でも出来が良い方ではないかと思う。

田宮二郎主演の「黒シリーズ」の一作のようにも思えるが、原作物が多かったそれまでの作品と違い、本作はオリジナル作品だけに、ミステリとしては甘い作りなのではないかとの一抹の不安もあったが、観てみると意外性も十分だし、テンポも悪くなく、安心して観られる展開になっていた。

江波杏子が色仕掛けで男をたぶらかす悪女役を演じているのが興味深いが、全体的に、女は基本的に欲深く、金の為なら何でもすると言うような描き方をしてあるのが時代を感じさせる。

さすがに、女性の映画観客が増えた今、こんな女性への偏見のようにも思える露骨な描き方はしないはずである。

劇中、高見警部が、結婚を決めたと言う主人公に、気をつけろ、女が良く使う手だから…などと忠告するシーンがあるのも、男の客は笑えるのだが、女性客からすると、余裕で笑えるかどうかは疑問が残る。

ミステリなので、公開当時もそれなりに女性客も観に来ていたのではないかと思うが、当時は別にクレームをつけるような表現でもなかったのかもしれない。

当時の通俗ミステリでの女性の描き方の典型のような気もしないでもない。

空港職員として警察に協力する主人公が、途中から、刑事よりも先行して、積極的に事件関係者に会ったりしているのは奇妙な気もするが、当時の社会派ミステリでは良くある素人探偵の描き方である。

ただし、この作品は、どう見ても社会派ミステリではない。

比較的古風な色と慾との愛憎劇である。

飛行機の空中爆発と言うショッキングな出だしと、空港が舞台と言う設定が、当時としては新しく感じる要素だったのだと思う。

冒頭の空中爆発は、もちろんミニチュアである。

CGを見慣れた今となっては、玩具丸出しの飛行機が出て来た瞬間からしらけるかもしれないが、爆発を前提にする設定の表現としては、全体的に低予算でプログラムピクチャーを作っていた当時の日本映画としては、これ以外の方法がなかったのである。

逆に言うと、当時はこの種の表現は、観ている方もお約束の表現としてミニチュアでも納得していたはずで、今だと、飛行機の爆発のリアエイティなどがネックとなり、なかなかこの種の映画は作られないのではないかと思うが、当時は案外、あっさり企画が通っていた訳である。

当時の大映は、東宝と並んで特撮が得意だった事もあるだろう。

それでも、ミニチュア表現以外では、そんなにチャチで観ていられないと言うほどのことはなく、普通に楽しめる出来になっている所が撮影所システムの底力だったのかもしれない。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1965年、大映、田口耕三脚本、井上梅次脚本+監督作品。

東京から大阪に向かう新日本航空の707便

通路にやって来たスチュワーデス笹本令子(加藤雅子)は、とある男性客から、少し前の方に座っていた歌手の花屋かおる(紺野ユカ)にサインをもらってくれないかと頼む。

花屋にそのことを伝えると、隣の人物からブロマイド写真を取り出させ、それにサインを入れて渡す。

スチュワーデスからそのブロマイドを受け取った男性客は花屋に礼を言う。

その次の瞬間、707便は空中で大爆発を起こし、機体は飛散する。

あなたの子供を産みたいわ…

そう、ベッドの上で、獅子内三郎(田宮二郎)に呟いていたのはスチュワーデスの谷由加(中原早苗)だった。

断ったわよ、この間の縁談…と迫られた獅子内は、今日のムードにふさわしくないな…、僕は縛られるのが嫌いでね…と由加の言葉を封じようとする。

私、1人なのよ、私、あなたと別れられないのよ!三郎さん!離さない!その夜の由加はいつになく積極的だった。

そんな由加を獅子内も愛おしくなり抱きしめる。

その時、ベッド脇の電話が鳴ったので獅子内が取るが、受話器を耳にした直後、707便が!と絶句する。

新日本航空のカウンターは、駆けつけたマスコミや関係者でごった返していた。

獅子内は、一緒に駆けつけて来た由加に、君は制服を着た方が良いと言い聞かす。

獅子内は同僚社員から、707便が伊丹に着かないんだと聞かされる。

ロビーの片隅では、花屋かおるの夫で元スター俳優だった竹村謙一(村上不二夫)が記者たちに取り巻かれていた。

花屋は、すでに竹村と離れ、今回の大阪行きも、新しい愛人である野球選手の有川に会いに行ったのではないかと記者たちは追求する。

由加の側にやって来た仲間のスチュワーデスたちは、二見さんと山本さんが乗っていたのと伝える。

そんな中、20時35分頃、紀伊半島の上空に大きな火の玉が飛んで行ったと言う新情報が発表される。

その頃、黒めがねの女が、寝室で電話をかけていた。

ニュースを聞いたわ。とうとう想いを遂げたわ。これで10億が手に入るんじゃない。実行したのはあなたよ。これで大金持ちになるか、死刑になるかの瀬戸際よ…と女は相手に話し、電話を切ると、私じゃない…、でもこれで、みんな私のもの!と喜ぶ。

翌日、新日本航空の本社での会議の席、707便には乗客36名、乗務員6名の計42名が乗っており、空中爆発が起きたことが発表される。

そこへ、検察庁の栗林検事(原田玄)と警視庁の池永警視(花布辰男)が参加を申し込んで来る。

刑事は、警視庁内に捜査本部を立ち上げたが、こちらでも連絡本部として部屋を一つ用意して欲しいと要求する。

新日本航空社長(隅田一男)は、総務部庶務課の獅子内を事件発生時の警察との協力係として池永警視に紹介する。

早速始まった捜査本部の会議の席上、本部長である池永警視は、川島警部(夏木章)と高見警部(北原義郎)を副本部長に指名する。

最初に立った高見は、今回の事件の動機としては、怨恨もしくは復讐、保険金目的、精神異常など色々なものが考えられると発言、その後、三つに分けた三木班、川島班、高見班それぞれに、捜査の対象を振り分ける。

その時、高見に、連れて来ましたと部下の中西刑事(小山内淳)が声をかけ、廊下を通り過ぎて行ったのは由加だったので、獅子内は驚いて、うちのスチュワーデスだが、何か?と高見に訳を尋ねる。

夕べの707便に乗るはずだったが、急遽交代したので、事情を聞くだけだと高見は説明する。

(回想)今夜、会えない?私、縁談があったの…。弁護士でハンサム点、あなたより収入は上よ…と昨日の由加は、会社であった獅子内に言っていた。

(回想明け)獅子内は高見に、由加と昨日自宅マンションで会ったことを打ち明ける。

事情を知った高見は、結婚するのか?と聞き、そろそろ年貢の治め時かと…と答えた獅子内を観ながら、その場から取調室の中西刑事に電話を入れ、気をつけろよ、女が良く使う手だから…と獅子内に笑いかける。

祖と廻りから捜査本部に帰って来た刑事たちは、店屋物のざるそばや、インスタントコーヒーにクリープを入れたりして一服していた。

その頃、とある焼き鳥屋にいた玩具商の山根昭夫(大川修)は人目を気にするように怯えており、後からやって来た黒めがね姿の鬼頭啓(藤山浩二)が、俺たちは火薬と爆弾をくっつけてだけなんだと言いながら封筒に入れた金を渡しても、俺はこんな金はいらん!と受け取らず、そのまま店を飛び出して行く。

あの後を追いかけた鬼頭だったが諦めて、公衆電話から親父さんに、山根の奴に逃げられたと連絡を入れる。

親父こと郷田は、消せ!今夜中だと命じる。

翌日の新聞に、赤川に身元不明の水死体が上がったとの小さな記事が載る。

捜査本部では池永本部長が、黒板に書き連ねた707便の被害者全氏名を前に、殺される動機がありそうな人物を数名に絞り込んで行っていた。

高利貸しで敵が多い三崎源蔵や、最近、竹村謙一と言う夫がありながら最近は年下の野球選手有川との熱愛報道が噂されており、当夜の飛行機にも重いバットを3本も荷物とし持ち込んでいたし、最近5000万と言う保険をかけた有名歌手の花屋かおるなど数名の名前が挙がる。

早速、中西刑事たちを従えた獅子内は空港内の荷物係りに会い、当夜707便の荷物に怪しいものがなかったかを聞く。

すると、三崎さんの秘書と名乗る黒めがねの男がやって来て、三崎さんのボストンバッグを出してくれと言われた直後、又別の黒めがねの女もやって来て、同じ事を言っていたと言うではないか。

その女がバッグに爆弾を入れたのか!と刑事たちは緊張するが、荷物係りが言うには、女がバッグの中を開けて見たのは本の一瞬で、何かを入れるようなことはなかったと言う。

その女は、28、9の小柄だったと言う。

そんな中、獅子内は、10日ほど休暇を取りに来たのだと言う由加と出会ったので、航空内の喫茶店で話をすることにする。

自分の身替わりになり707便の犠牲となった笹本令子の事を思うと申し訳なくて耐えきれないのだと由加は沈んでいた。

獅子内は、新聞でも飛行機事故の犠牲者のことは連日大きく扱っているけど、こんな水死体の記事なんて誰も気にしなかったりするだろ?と言いながら新聞を見せ、可哀想だけど、人生なんてそんなものじゃないかな…と言い聞かせる。

獅子内は更に、三崎のボストンバッグと花屋かおるの衣装ケースが爆弾を仕掛けられた可能性が高く、怪しいのではないかと由加に教えるが、由加は、母親と二人暮らしだった笹本令子のことが可哀想でならないと言う。

それを聞いた獅子内は、由加も又、両親に早く先立たれ、他に寄る辺もない一人身であることを思い出し、突然、由加、結婚しよう!この事件が解決したら…と言い出す。

由加は、本当と言いながらも目を輝かせ、思わず獅子内の手を握る。

そこに、高見警部から今連絡があり、赤坂の「柏」に行ってくれと言って来たと言いながら中西刑事が近づいて来たので、獅子内も同行させてもらうことにする。

料亭「柏」の女将(橘喜久子)は、当夜、三崎の部屋に顔を出したと言う仲居ちえ(三島愛子)も同席させ、刑事たちに、事件前日、山中電機の社長と桑田部長が金貸しの三崎源三を連れて店にやって来たと教える。

高見や獅子内を驚かせたのは、その座敷に黒めがねの女がやって来たと女将が話したことだった。

それは、27、8で小柄な女でしたか?と荷物係りが言っていた特長を明かすと、22、23で背の高い女だったと言い、名前は町田小百合と名乗っていたと言うではないか。

高見は三崎の写真を女将に見せ、当夜この店に来ていたのが三崎に間違いなかったことを確認する。

女将が言うには、その女が帰った後、山本電機の社長が突然荒れ始め、あんたの乗った飛行機に爆弾を仕掛けてやる!と怒鳴ってましたと言うではないか。

すぐさま、山本電機の社長(竹村洋介)と桑田部長(春本富士夫)に会いに行った高見と獅子内は、事件前夜、赤坂の「柏」で三崎と会ったかどうかを確認する。

社長は会ったことを認め、実は最近会社の経営が思わしくなく、東亜電機化学がうちの下部を買い占めようとして来たので、三崎に助けてもらいに行ったと言う。

社長は当夜、三崎の乗る飛行機に爆弾を仕掛けてやると怒鳴られたそうで?と聞くと、覚悟を決めたような表情になった山本社長は、桑田君、何もかも話した方が…と、同席した桑田に同意を求める。

(回想)707便が惨事に会った前夜、山本社長と桑田部長は、赤坂の料亭「柏」で三崎源蔵(見明凡太朗)と会い、融資の話しを切り出していた。

和気あいあいに話は進み、場の雰囲気もくつろいで来た頃、仲居のちえがやって来て、町田小百合と言う方が三崎さんに会いに来ていると言う。

それを聞いた三崎は、部屋を貸してくれとちえに頼み、別室でその女性と会うことになったと言う。

桑田部長は、社長、巧く行きそうですなと笑顔になっていたが、三崎が戻って来たので、桑田はウィスキーを勧め、山本社長は、こんな場所にまで女性が来るとは大したものですなとお世辞を言う。

すると三崎は、女ほど腹黒いものはないなどと言い、明日は大阪に飛行機で立たねばならぬので、今日はこのくらいでと言いながら帰ろうとする。

慌てた桑田が、先日御願いした融資の件、書類が出来ていますので…と言うと、色々ありましてその話は御断りしますと三崎は答えたので、山本と桑田は驚く。

まさか、東亜電化から邪魔が入ったのでは?うちの株を買い占めようと言うのではないでしょうね?と山本が聞くと、実はそうなのだと三崎は平然と答え、部屋を出て行こうとする。

その言葉と態度にかっと来た山本社長は、思わず立上がって、三崎の胸ぐらを掴むと、お前の乗る飛行機に爆弾を仕掛けてやりたい!とつい興奮して行ってしまったと言う。

(回想明け)話を聞き終えた獅子内が、当日は、空港へ行ったんですか?その時、黒めがねをかけていませんでしたか?と聞くが、すると、桑田が、あの日は私が御誘いして一緒に飲みに行ったではないですか?と山本のアリバイを証明する。

その時、警視庁から電話が入ったと言うので、中西刑事が電話に出る。

戻って来た中西刑事が言うには、花屋の愛人が家に戻ってないらしい。

セネターズの背番号21番有川(豪健司)は、事件以来、さっぱり打てなくなっていた。

その日のナイトゲームで打席に立っても、全く良い所がないまま三振を重ねたので、客席からヤジが飛んでいた。

試合後、有川は1人で屋台で飲んでいたが、その時、新たに横に座って来た客が、一枚のメモを有川の前に差し出す。

有川がそれを拡げて読んでみると、試合の後でデートしましょうと書いた自分の字だと気づく。

九州遠征からの帰りの飛行機の中で頂きましたわと言うので、横に座った女の顔をまじまじと観た有川は、あの時のスチュワーデスさん!と思い出す。

由加は名乗ると、そのまま有川とホテルに直行する。

有川は、誘いに乗って来た由加とすぐにベッドを共にしようとするが、服を脱ぎかけた由加は、その代わり、あなたと花屋さんのことを話してとせがむ。

花屋は夫の竹村から、手切れ金3000万寄越せと迫られていたそうだ。

竹村の愛人のまり子の差し金さ。今やっているバーの隣の土地を買い、クラブを作る資金がいるのさ。

まり子は以前、元大部屋女優の女に金を貸してくれって頼みに行ったそうだ。

竹村に頼んだ金策が全部ダメになったので、まり子がそそのかしたんだね…と打ち明けた有川は、由加にキスをしようとするが、由加は相手の唇を噛んで身を離す。

そして、脱ぎかけていた服をまた急いでき直しながら、この事件に幸せかけているのよと言うので、じゃあ、最初から騙すつもりで近づいたのか!と有川が愕然とすると、女は目的の為にはまるっきり見境がなくなるものなのよと言い訳し、由加はさっさと部屋を出て行ってしまう。

その頃、獅子内の方は、竹村に会う為、バー「まり子」に来ていた。

しかし、竹村は来てないと素っ気なく教えたマダムの沖まり子(長谷川待子)は、あれじゃあ花屋さんに捨てられるのも無理ないわねと人ごとのように苦笑してみせる。

そこに、人相の悪い男がやって来て、獅子内の隣に座ると、やはりまり子に、竹村は?と聞いて来る。

それを潮に、獅子内は帰るが、誰だ?とそれを見送った人相の悪い男、郷田造(守田学)はまり子に聞く。

竹村のことを探っているの。気をつけた方が良いわとまり子は答える。

その後、バー「まり子」のビルの裏口にやって来たマスク姿の男が階段を登り事務所に入って行くのを、その後も張り込んでいた獅子内は発見する。

さらに、郷田も鬼頭と一緒に事務所に登って行き、先に部屋に入っていた竹村と立ち会わせになる。

竹牟田は郷田に、松川の親分をあの飛行機に乗せただろう?と迫るが、そこにまり子もやって来て、ここじゃまずいわよと郷田たちに注意する。

郷田は鬼頭に、こいつをどっかに匿ってやれと命じ、鬼頭は言われるままに、竹村を連れ事務所から降りて行く。

物陰でその様子をうかがっていた獅子内が後を付けようとするが、角を曲がった所で待ち構えていた鬼頭と、もう1人の子分に囲まれてしまう。

貴様、サツか?と言いながら殴り掛かって来た鬼頭は、獅子内が警察の人間ではないらしいと知ると、命が惜しかったら出しゃばるな!と脅し付け、その場を立ち去って行く。

捜査本部に戻った獅子内は、高見から見せられた要注意人物の写真の中から、今脅して来たのは進行ヤクザの郷田組の鬼頭啓だと知る。

関東一円を仕切る八州会の後釜は郷田ではないかと高見は説明する。

そこに、中西刑事がやって来て、桑田と山本社長の事件当日のアリバイが崩れたと言って来る。

その時、本部に呼ばれていた三崎の奥さんが帰りかけていたので、その姿を観た獅子内は、彼女が、当日空港の荷物係りにやって来た黒めがねの女ではないか?と。その日たまたま呼びだしていた荷物係りに今の女の写真を見せながら確認させる。

中西刑事は、すぐに桑田家に電話を入れる。

その頃、アリバイがあっさりバレた桑田部長は、会社の部屋で遺書を机の上に置くと、薬瓶から毒を飲んで自殺する。

駆けつけた高見警部が読んだその遺書には、事件当日、空港の荷物係りに、三崎のバッグを出してくれと頼んだ黒めがねの男とは自分だった。社長の代わりに、三崎を殺そうと、時限爆弾を用意していたが、結局果たせないままだったと書かれてあった。

社内を捜査した結果、未使用の時限爆弾が見つかったので、結果的に、桑田が爆弾未遂だったことを裏付けることになる。

部屋に駆けつけて来た山本社長は、桑田君、ありがとう!と遺体に抱きつき、泣き崩れる。

一方、三崎の家を訪れていた獅子内は、賠償金のことなら私が御相手しますと言って来た三崎家の顧問弁護士岡春彦(杉田康)と同席する。

受取人は奥様で宜しいでしょうか?と獅子内が聞くと、妻三崎邦子(江波杏子)は遺産の相続人は私ですと肯定するが、岡弁護士の方は、遺産の3分の2は、私が立ち会って三崎氏が作った遺言状に書かれている相続人になりますと横やりを入れる。

それを聞いた邦子は気分を害したのか、私の言うことを聞かないつもりね?御帰り下さい。あなたとは二度とお会いしたくありませんと岡弁護士に言い、自分はさっさと二階に上がってしまう。

残された岡は、遺言状で奥様に不利になった上に、今回の事故なのでヒステリーですな…と獅子内に説明し、そのまま帰って行く。

直後、女中が獅子内に二階へお越し下さいませんかと呼びに来たので、上がってみると、そこは寝室で、邦子はベッドの上に横たわっていた。

失礼しました。頭痛がしたものですから…と、戸惑っている獅子内に詫びながら起き上がって来た邦子は、獅子内に身体を支えてもらいながらソファに腰掛ける。

ごめんなさいね、みっともない所を御見せして…と詫びて来た邦子は、自分が夫に尽くして来たのは金の為だったといきなり本音を打ち明ける。

ところが、岡の入れ知恵で、三崎が別れた前妻と別の男の間に出来た女を相続人に仕立て上げ、亭主が死ぬと、その女が見つかったと岡が行ってきましたと言う邦子は、このところ寝てないものですから…と獅子内に甘えかかり、手を貸して。お金ならいくらでもあげるわ。私を助けて欲しいの…と迫り、そのまま成り行きでキスをしてしまう。

その相続人の名前は町田小百合と言い、年は23、4と言う話でしたと言う邦子の言葉を聞いた獅子内は、やっぱりあの女だ!事件前夜、「柏」に現れていますと教えると、今後もお力になりましょうと約束して帰る。

その頃、刑事たちは水道局を装い、水道メーダーを調べる振りをして鬼頭のアパートにやって来る。

高見警部から呼びだされた郷田は、知らぬ存ぜぬで取り調べを終え、あっさり捜査本部から帰る。

その後、高見警部の元に戻って来た中西刑事が、鬼頭が姿を消したと報告する。

そこにやってきた獅子内は、空港の荷物係りに再度確認した所、当日やって来た黒めがねの女の方は、まり子に似ていると言っていたと高見に伝え、邦子夫人には謎があるようですよとも付け加える。

その時、獅子内宛に電話が入る。

急用と言うので出かけた獅子内は、電話して来た由加と合流し、「山根商店」と言う玩具商の店の前に来る。

この前あなたが見せてくれた水死体の主がこの店の主人なのと説明する由加は、主人は郷田組の元ヤクザで、この店、玩具だけじゃなく、火薬も扱っているよと、閉まった店の看板を示しながら指摘する。

あの爆弾は、犯人が他に作らせたんだと思うわ。ここ一週間ばかり、私も事件を追っているのと言う由加は、獅子内を山根が住んでいた「若葉荘」と言うアパートへ案内して来る。

2人で無人になった山根の部屋に入り込み、中を物色していると、由加が押し入れの中に置いてあったジュラルミンケースの中に火薬が入っているのを発見する。

獅子内もそれを確認した瞬間、突然、部屋の灯りが消え、入口から入って来た人物が2人に銃を突きつけながら、寄越すんだ。そのケースを寄越すんだ!今度こそ命はねえぞ!と脅して来る。

今度こそ?その言葉を聞いた獅子内は、相手が鬼頭だと気づく。

鬼頭は、ジュラルミンケースを奪い取り、窓から脱出して行くが、獅子内は、山根を殺したのは奴に違いない!と直感し、外に出ると、すぐに公衆電話から高見警部に連絡する。

戻って来た獅子内に由加は、やっぱり花屋が狙いよと告げる。

獅子内は、三崎のことを忘れられないんだ。岡弁護士に会ってみようと言い、その後岡を訪ねる。

裕福そうな自宅で獅子内を迎えた岡弁護士は、あの奥さんから誘惑されませんでしたか?あなたはたくましくて力ありそうですから…と笑われたので、獅子内は、あなたもご経験がありそうですねと答える。

三崎氏もあの人を嫌っていてね…と岡が言うので、相続人は町田小百合と言うのでは?を尋ねると、母親の民江が三崎と別れた後他の男と作った娘が松野百合子、私生児ですと岡は打ち明ける。

民江はまだ生きていますから、娘に関してもこれからじっくり調べますが、要するに、誰でも町田小百合になれる訳ですと岡弁護士は言う。

邦子は元々女優だから…、東日映画の大部屋にいたそうですと岡が打ち明けていた時、夕べ、ママが待ってたわよ…と言いながら、1人の見知らぬ女が部屋に入って来る。

その女を観た獅子内は、松野百合子(泉かおる)さんですね?あなたの愛人?と岡弁護士に聞くと、岡はご名答!とあっさり答える。

「柏」と言う店に行きませんでしたか?前夜来たそうですと獅子内は百合子に聞くが、それを聞いていた岡は、何だって!畜生!と突然怒りだす。

そんな岡を観ていた獅子内は、何を怒っているんですか?あなたはもう1人の町田小百合を知ってるんですね?だとすると、この松野さんは偽者と言うことになる…と追求する。

しかし、岡の方も、戦いましょう堂々と、法定で…と受けて立つ。

中西刑事は高見警部にまだ鬼頭が見つからないと報告しながらも、鬼頭が事件に絡んでいることを突き止めた獅子内の手柄は、刑事たちも感心していた。

その後の日曜日、久々に自宅マンションでゆっくり寝ていた獅子内だったが、高見から電話で起こされ、あの山根の部屋にあった火薬は、大体飛行機の残骸に残っていた燃えカスと一致したと教えられる。

花屋と郷田が交差しているようだと言って来た高見に、獅子内は、三崎も忘れないで!と念を押す。

そんな獅子内の部屋に無断で入って来たのは、三崎邦子だった。

あれから、岡さんに会ったんじゃないかと思って…、私お願いがあります。こんな恐ろしい日本は嫌になったので、一緒に外国へ言って頂けないかしら?と邦子は言い出す。

そんな邦子に対し、竹村とはどんなご関係ですか?と獅子内が聞くと、同棲してましたの、でも花屋が取って行きましたの…と邦子はあっさり答える。

その後、竹村との交流は?と更に追求すると、そんなに責めないで…、私を助けて欲しいのと邦子はまたもや色仕掛けで迫って来る。

何もかも話してくれますか?僕の力が欲しかったら…と無表情に獅子内が聞くと、良いわ…、話す代わりに…と答えた邦子はそのままキスを仕掛けて来て、力になってねと甘えてみせる。

半年ほど前、竹村は私に3000万貸してくれと言って来たの。まり子さんの店の為と言われたわ。郷田の女ですよ。もう、かおるの保険金を狙うしかないと言ってましたわ…と打ち明けた邦子は、一緒に香港に行きましょう?お金をこの身体もあなたのものよ…と誘って来る。

そうはいかないんです。香港へは御送りしましょう。ただ、事件が解決するまで、出国は無理かも…と獅子内が冷静に応じたので、騙したのね!と邦子は怒りだす。

ストリップ小屋の地下にいた郷田に密かに会いに来ていた鬼頭は、10万で九州に逃げろなんて虫が良過ぎますぜ。どうせ向こうには殺し屋が待っているんだ。500万は出してくれ。高飛びしたいんだと要求するが、郷田は黙って銃を取り出す。

鬼頭はそれでも、上ではストリップやってるんだ。ここで撃てば大変なことになりますぜ…と余裕の表情だったが、上の舞台に出ていたストリッパー3人がガンマンのスタイルをしており、次の瞬間、取り出した玩具の拳銃を3人が音を立てて撃ち始めたので、郷田はその音に紛れて撃つつもりだと気づき青ざめる。

待て!親父さん!撃たないでくれ!と叫びながら逃げようとした鬼頭だったが、背中を撃ち抜かれる。

その頃、獅子内はまり子のバーの事務所に行き、三崎夫人は何もかも話しましたよと詰めよっていた。

すると、まり子は、計画したのは三崎邦子よと話し始める。

竹村はあなたに話し、あなたは郷田に頼んで爆弾を用意させたんですね?と獅子内は確認する。

結局、竹村はダイナマイトを仕掛けるきっかけをなくしたのよ、花屋は亭主を殺す気だったのよ。

私は爆弾を持って、あの女の所へ行ったの…とまり子は教える。

(回想)まり子は邦子に会いに来ていた。

邦子は、竹村をそそのかしているのはあなたじゃないですか!とまり子をバカにするが、花屋は有川とホテルに行っちゃって、これを仕掛けるチャンスがなかったのよと、爆弾を見せながらまり子は邦子に説明する。

御気の毒に…と邦子は応じるが、10億って金がなくなったのよ!あなたがボストンの中にこれを入れれば、10億の金が転がり込んで来るのよ!とまり子は勧める。

そう迫られた邦子は、まり子の前に三崎の旅行用ボストンバッグを持って来て、挑むかのような目線を向けながら、中に時限爆弾を詰め込んでみせる。

スイッチを入れなければ爆発しないのよとまり子は注意する。

(回想明け)翌日、確認に行ったわ…とまり子が言うので、黒めがねをかけてね…と獅子内が捕捉する。

(回想)空港の荷物係りから三崎のボストンを出してもらったまり子は、チャックを開け、爆弾の様子を覗いてみて、いつの間にかスイッチが入っていたので驚く。

(回想開け)一体誰がスイッチを入れたんだ?と獅子内が聞くと、三崎邦子よ!私じゃない!3000万欲しかっただけなのよ!とまり子は否定する。

そこへ入って来たのは郷田だった。

たった今、鬼頭をやって来たと言いながら、獅子内に迫って来た郷田だったが、その背後から現れた鬼頭に撃たれる。

鬼頭はまだ死んでなかったのだ。

背中を撃たれた郷田も撃ち返し、まだくたばらねえのか!と叫びながら、非常階段を降りて逃げようとする。

その後を追い、なおも執拗に発砲する鬼頭。

獅子内はその場から高見に連絡し、すぐバー「まり子」に来てくれ!と依頼する。

すぐに駆けつけて来た中西刑事等は、非常階段の下で倒れていた郷田を調べ、既に死んでいると答える。

獅子内は、階段の途中に血まみれで倒れていた鬼頭を抱き起こし、竹村はどこだ?と呼びかける。

瀕死の鬼頭はうっすら目を開けると、八甲…と答え息絶える。

それを一緒に聞いた中西刑事は、竹内の別荘がありますと高見に伝える。

その後見つかった竹内は、私は被害者です!と言い、取調室で取り乱していた。

私はただ、金を貸してくれって邦子に言っただけです!と中西刑事に訴える竹内。

恐ろしい女だ、邦子は…、三崎を飛行機に乗せるなんて…、みんな、俺をはめようとする悪党じゃないか!竹内は半狂乱になって叫び続ける。

まり子は、邦子の屋敷に押し掛け、包丁を突きつけながら、あんたがスイッチを入れたじゃないか!と迫っていた。

邦子は否定し、2人は取っ組み合いになる。

まり子は邦子の背中をめった突きにすると、邦子の方も、側にあったナイフを手に取り邦子を刺す。

2人が殺し合って病院に運び込まれたと聞いた獅子内と刑事たちは2人の病室に駆けつけるが、まり子はあの女がスイッチを入れたんですと言って息を引き取り、邦子の方も、獅子内さん、信じて…、スイッチは切れていたわ…、入れたのはまり子よ…と言い残し、こちらも死んでしまう。

結局、どちらが爆弾のスイッチを押したのかは分からなかったが、お互いに殺人計画を立てたのは確かだった。

新聞には、事件解決か?との報道が載る。

しかし、捜査本部にいた獅子内は何事か考え込んでいた。

10億の三崎の相続人って誰ですか?町田小百合って人ですよ…と獅子内が指摘すると、聞いていた中西刑事は、どこのうちでも財産でもめるものですよ…と人ごとのように答える。

「柏」に来た町田小百合はどこにいるんですかね?獅子内はそこに拘っていた。

その頃、とある女の訪問を受けていた岡弁護士は、女から渡された書類の内容を読んで、松野百合子が舟人夫の娘であることの証拠書類ですね?と女に語りかける。

すると黒めがねをかけた女は、私、必死なの!降って湧いた幸せを壊さないようにと…、私には愛している人がいます!と訴えて来る。

10億の金をふいにするつもりかね?取引の半分は頂きますよ。私の方の町田小百合は引っ込めましょうと岡は答え、2、3日前に邦子から送って来たんですと言いながら、ブランデー「ナポレオン」を開けると、二つのグラスに注ぎ分け、私と組もうとしてるんでしょう?女の良くって恐ろしいものですね…と言いながら、岡弁護士は片方のグラスを女に手渡す。

ところで、あんたのフィアンセって誰なんだい?その幸運な…と言いながら、自分のグラスを空けた岡だったが、突然苦しみだしその場に倒れる。

そのブランデーに毒が!女だ!邦子だ!と呻きながら、苦悶する岡。

そこに、獅子内さんと言う方が見えましたと女中が言いに来て、岡の異変に気づく。

その部屋にはもう黒めがねの女の姿はいなかった。

その直後、部屋に入ってきた獅子内は、どうしたんだ?と岡を抱き上げる。

邦子が毒を!…と岡弁護士は苦しそうに答える。

誰か来てたんですか?と、もう一つのグラスを観た獅子内が女中に確認すると、町田小百合って言う人が…と言うではないか。

707便の三崎と一緒に大阪に行くはずだった…と呟いた岡に、どうしてやめたんだ?と獅子内は聞くが、岡は、それは…と言った所で息絶えてしまう。

その後、連絡を受けた高見警部等が駆けつけて来て、死人の殺人か…と、邦子の執念の恐ろしさにおののいたようだった。

しかし、獅子内がまだ考え込んでいたので、相変わらず町田小百合に拘ってるねと高見が声をかけると、当日、キャンセルした客は誰もいなかったと教える。

自宅マンションに帰って来た獅子内は、シャンパンが冷やしてあり、呼びつけた由加が待っていたことに気づく。

何故私を呼んだの?と由加が聞いて来たので、会いたかったからさと獅子内は笑いかけるが、いつものあなたのようじゃなかったわね…と、電話の様子を語る由加。

シャンパンを空けて、二つのグラスに注ぎ分けた獅子内が、まさか毒が入ってるんじゃないだろうね?と言うと、驚いたのか、由加は自分のグラスをこぼしてしまう。

さっき、岡弁護士が毒を飲まされたんだよと言いながら、獅子内は何ごともなかったかのように乾杯をする。

何の為に乾杯するの?と由加が言うので、君の幸せの為に…と答えた獅子内は、前の縁談、断ったんだよね?と確認し、弁護士だったね?と聞く。

岡じゃなかった?と問うと、あなた、何もかも知っているんでしょう?と由加は答える。

岡は死ぬ前に、町田小百合と言う女のことを話したと獅子内がかまをかけると、そうよ、私が町田小百合よと由加は告白する。

事件の半年ほど前、岡が訪ねて来て、全て任せて欲しい。結婚して欲しいって…。断ったら、証拠がないんで、全ての話はぶち壊してやるって…

(回想)事件の前夜、私は会いに行ったのよ、邦子に…

庭先から邦子のいる部屋に近づこうとしていた由加は、部屋の中で、まり子が邦子に爆弾をボストンの中に入れるように促している声を聞いてしまう。

驚いた由加は、父親に知らせようと、三崎家の婆やに居場所を聞き、「柏」に向かう。

(回想明け)話す由加の顔色を観ていた獅子内は、だが、三崎は君を歓迎しなかったのだろう?と言い当てる。

他の男との子だと言うの。母への面当てだったのでしょうと由加は答える。

魔がさしたのよ。億って金が黙ってたら転がり込んで来るかもしれないのよ。

翌朝、私は欠勤届を出したわと由加が言うので、僕との逢い引きの前に君は三崎に会ったんだね?スイッチを入れたのは君だね…と獅子内は指摘する。

あの日、君はシャワーを浴びたね。まるで嵐にでもあったように何度も…、嵐は三崎だった!と獅子内。

そうよ!三崎がこの身体を自分のものにしたのよ!と泣き崩れる由加。

あの日、三崎から電話がかかって来て、大阪に発つ前に会いたいって言って来たの。会うと、世話したいと言いだしたの。嫌なら遺言は書かんって!夜にはあいつはいなくなるの…

(回想)ホテルのベッドで由加を抱いた三崎は、先にシャワーを浴びるが、ベッドに横たわっていた由加は、急にダイナマイトのスイッチのことが気になり、三崎のボストンバッグを空けて中を覗いてみる。

すると、スイッチが切ってあるじゃないの!

無我夢中でスイッチを入れる由加。

(回想明け)それで君は、花屋の廻りに事件を集めようとしたんだね?女には悪魔が潜んでいるんだ。翌に来るって暴れだしたんだ。気味が悪いんじゃないと慰めながら由加を抱いてやる獅子内。

すると由加が、ねえ、警察を呼んでと頼む。私の為にあなたまでも狂わせたくないの。さあ、呼んで!呼ぶのよ!と訴えるので、仕方なく、獅子内はその場から高見警部を呼びだすと、今、スイッチを入れた真犯人は自白しました。すぐ僕のアパートに来て下さいと伝える。

電話の向うの高見警部は、事情が良く分からないようで、どう言うことなんだ!と聞き返して来るが、その間、ソファに腰を降ろした由加は、泣き崩れた顔の化粧を直していた。

受話器を置き、ソファーの由加の隣に腰を降ろした獅子内は、黙って由加の身体を抱きしめてやるのだった。


 

 

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