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監獄への招待

日本映画では比較的珍しいタイプの潜入捜査もの。

翻案物でも観ているような印象で、途中のサスペンスの盛り上げ方もなかなか巧い。

見所は主演の田宮二郎と、彼が化ける相手の女房役を演じている野際陽子が英語でセリフを言い合うシーン。

両者ともなかなか英語は達者である。

この当時の野際陽子は、TVで人気を博した「キイハンター」が始まる直前頃で、目元の化粧は濃い感じだが、当然ながらまだ肌に張りがあり若々しく、今で言うクール・ビューティーと言った印象。

その野際陽子と三角関係になり悩む娘役が真理アンヌで、劇中で大学生設定をやってくらいだから、こちらもかなり若い…と言うよりも、まだどこかあどけなさが残っている。

TVの人気子供番組「ウルトラマン」の科学特捜隊インド支部パティ隊員としてゲスト出演したのと同じ年の作品であり、ここでもインド人とのハーフとして、エキゾチックな魅力でヒロイン役を勤めている。

グラウ役を演じているマイク・ダニンは、この当時の邦画には良く出ていた外国人俳優の1人。

この映画で一番印象に残るキャラクターと言えば、そのグラウの秘書波川役を演じている渡辺文雄だろう。

謎の使用人と言った感じで、終始無表情で態度は慇懃無礼、底知れない不気味さを秘めており、どこか「007/ゴールド・フィンガー」に登場する、ハロルド・坂田扮するオッド・ジョブを連想させるキャラクターになっている。

主役の田宮二郎も颯爽としたダンディ振りで、どこか、当時流行っていたスパイ映画のヒーローのような雰囲気もある。

プログラム・ピクチャーとしては悪くない出来なのではないだろうか。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1967年、大映、義永充原案、舟橋和郎脚本、井上昭監督作品。

手錠をかけられた手をバックにタイトル。

刑務所の中の扉を開ける看守

入って来たのは、目が悪そうな囚人河西義男(田宮二郎)

3ヶ月振りだ…、何も変わっちゃいない…

ここでは時間と言う怪物と戦わなければならない。退屈な時間との勝負だ。

それに比べ、今までの3ヶ月は実に充実していた。二度と忘れないだろう。

ベッドに横になった河西は、右首の耳の下の傷跡を擦り、そう言えばあの日は雨が降っていた…

(回想)1985番!河西は自分の囚人番号を看守から呼ばれ、メガネを取れ!と命じられる。

その頃、警視庁では、戸田警部(河野秋武)とFBIのジョン・スタッカー警部(フランツ・グルーベル)が、10時に刑務所を出てこちらに向かっている河西の到着を待ちわびていた。

スタッカーから、河西の経歴を聞かれた戸田警部は、大学の法科を出ており頭は悪くない。組織などには属していない言わば一匹狼の知能犯で、一時、米軍のキャンプに勤めていたこともあり、英語は堪能であるなどと伝える。

その時、当の河西が到着したので、壁際に立たせメガネを外させると、スライド映写で映し出された人物と対比させる。

スタッカーも部屋にいた刑事たちからも、そっくりだ!まるで兄弟みたいだ!と驚きの声が上がる。

君には、近々サンフランシスコから来日するヘンリー野坂と言う人物の替え玉になってもらうと戸田警部からいきなり切り出される。

ヘンリーは麻薬を買いに来る。我々が今回捕まえたいのは麻薬を売りつける組織の方であり、その組織は反米思想の持ち主であり、特に米国の黒人に取り入ろうとしている。

報酬は50万円出すと戸田警部は説明するが、その額を聞いた河西は、おとなしく後1年3ヶ月待てば釈放されるのに、そんな危ない仕事はできないと直ぐに断る。

戸田の方も直ぐに1万ドル出そうと言い出したので、360万円か…と考えた河西はやはり首を横に降る。

2万ドルと言われても河西が承諾しないので、むっとした戸田警部だったが、その場にいたスタッカー警部を紹介すると、FBIと知ってもっとボレると踏んだのか、河西は3万ドルを要求して来る。

その額を聞いたスタッカー警部は渋々承知するが、ヘンリー野坂のことを知ってもらわなければならないので、あなたをアメリカに連れて行きますと言い出したので、さすがの河西も驚く。

ゴールデンゲイトブリッジのあるサンフランシスコに連れて行かれた河西は、ただちに手術室で首筋の傷をヘンリーと同じように入れられ、さらにコンタクトを目に装着させられる。

さたに、16mmフィルムで隠し撮りをした、レストランを経営していると言うヘンリーの日常の様子を見せられ、ヘンリーの右肩を上げ、やや前かがみになって歩く癖や、笑い方などを良く観察するように命じられる。

さらには、ヘンリーが3年前結婚した妻の加代子(野際陽子)の事、ヘンリーの過去の学歴経歴なども徹底的に教え込まれ、どんなことを聞かれてもヘンリーに関することならすぐに即答出来るまでになる。

日本航空の旅客機で河西が帰国した直後、ヘンリー野坂が来日する。

刑事たちの車に乗り、河西は、ヘンリーが向かったホテルまで尾行する。

650号室に入ったヘンリーは、すぐさま部屋の中に盗聴装置が仕掛けられていないかどうかチャックすると、一階ロビーに向かう。

そんなヘンリーの様子を、中二階のロビーから興味深そうに観ているサングラス姿の女がいた。

ヘンリーが部屋を空けた直後、その部屋に侵入した中山刑事(早川雄三)と鏑木刑事(杉田康)は、素早く盗聴装置を仕掛ける。

その頃、近づいて来たサングラスの女をコールガールと気づいたヘンリーは、2万でどうかと交渉する。

部屋番号を教えた後、650号室のベッドで待っていたヘンリーは、やって来た女が別人だったので怪しむ。

しかし、その女は、姉さんの代わりに来たのと言うので、ヘンリーは了解し、いきなり女のスカートをたくし上げるとベッドに押し倒し、乱暴に女を扱うと、貪るように抱こうとする。

その寝室の様子は、別室に控えていた刑事たちの耳に、盗聴装置越しに筒抜けだった。

結果、ヘンリーの部屋に入った女はただの淫売と判断される。

ベッドの中で女を抱いている最中だったヘンリーは、ドアがノックされたので、誰かと聞くが、ボーイだと言うので、呼んでないといいながらも、ドアを開けそこに立っていた男を確認する。

ボーイの姿をしたその男は、素早く、トランプのジョーカーを半分にちぎった割り符を差し出す。

ヘンリーも、ネクタイの後ろに隠していた割り符を差し出し、照会する。

ボーイは、煙草を1本勧めて部屋の前から去って行く。

ヘンリーは、受け取った煙草に、「クラブ男爵」と言う文字と数字が書き込まれていたのをその場で暗記すると、その煙草に火を点け、巻き紙を剥がし、中の煙草の葉もぐちゃぐちゃにして灰皿に捨てる。

ボーイに化けていた波川(渡辺文雄)は、洗面室でスーツ姿に戻るとゆっくり手を洗うが、その右手の甲には目だつ火傷の痕があった。

ヘンリーは、ベッドの女ミツコ(渚まゆみ)に、用事を思い出した。すぐ帰って来ると言い残し、部屋を出て行く。

この会話を聞いていた刑事たちは怪しむ。

ホテルの前でタクシーを拾ったヘンリーは、「クラブ男爵」を指定。

そのタクシーの後を刑事たちの車が追尾する。

タクシーは突然地下駐車場に入ると、戸惑うヘンリーを残して、運転手が降りてしまい、外から鍵をかけてしまう。

次の瞬間、車内には催眠ガスが噴出、驚いたヘンリーは、車外へ脱出しようともがくが、ドアは全て堅く施錠されており、たちまち昏睡状態に陥る。

その様子を近くの車の陰からうかがっていた刑事と河西が駆けつけ、ヘンリーの身体を車外に運び出すと同時に、河西がタクシーに乗り込む。

戸田警部が河西に、しっかりやれよ!と声をかける。

やがて、あらかじめ連絡を取っていたかのようにその場に救急車が到着する。

「クラブ男爵」に河西が到着すると波川が待っており、尾行されなかったでしょうね?と確認すると、ドイツ人のフリッツ・グラウ(マイク・ダニン)を紹介する。

ステージでは、エキゾチックな美女がグラスに入れた蝋燭を両手に踊っていたが、河西が見つめていると、自分の娘でルミ(真理アンヌ)と言い。大学に行っているが、踊るのが好きなのだとグラウが教える。

その頃、気を失ったヘンリーは、「山村精神科クリニック」と言う病院の1室に連れ込まれ、ベッドに寝かされていた。

車で移動中、波川が河西に、東京に来るのが遅れたが?と質問していた。

河西は、何故かビザの発行が遅れたんだと言ってごまかす。

波川は、FBIが動いている様子なので警戒しているようだった。

やがて、3人を乗せた車は、番犬が鳴いているグラウの屋敷に到着する。

屋敷の書斎に落ち着いたグラウは河西に、お金の用意はして来たな?20kgの品物の用意はできている。キャッシュで払えるか?と聞いて来る。

河西が、金はある所にあると答えると、品物が届くまでこの屋敷で過ごしてくれ。1人での外出は認めない。いつも波川が同行するとグラウは言う。

河西は、荷物を残しているので、今夜は一旦ホテルに戻ると言い、屋敷を出ようとするが、そこにルミが戻って来たので挨拶をする。

ホテルまでは波川が送ってくれたが、降りた河西は、今夜はホテルに泊まる。実は女がいるんですと打ち明けると、明朝9時に迎えに来ると波川が言うので、それでは早過ぎる。昼過ぎにしてくれと河西は頼む。

部屋に戻った河西は、ミツコがシャワーを浴びていることに気づく。

その時、部屋の電話が鳴ったので取ると、別室で待機していた戸田警部からで、すぐに報告をしなくちゃ困る。女は早く返せと言う催促だった。

しかし、ムショ暮らしで女を抱くのは1年振りだった河西は、シャワー室から出て来た女を抱くが、どうしたの?いやに優しいのね…と先ほどのヘンリーとの落差をミツコから指摘される。

戸田警部たちは、河西が接触したドイツ人フリッツ・グラウと言う人物は、元ナチス党員で、8年前に死別したインド人妻との間にルミと言う娘がおり、青山に美容院を経営していると言うことを調べ上げ、潜入捜査のため、婦警の片桐早苗(笠原玲子)を美容院に送り込むことを捜査会議で発表する。

一方、病室のベッドの上で目覚めたヘンリーは、医者に化けてやって来た鏑木刑事から、夕べ何したか覚えていませんか?あなたは、「男爵」と言うナイトクラブに行き、入口の所で、出て来た婦人の髪を掴んで引き倒したんですと説明され、作り事だ!と心の中で考える。

しかし、医師から。今日8月24日付けの新聞を見せられると、自分のことが記事に載っているではないか。

あなたは頭を殴られて記憶が混乱しているようだと医者が説明している時、院長山村博士(伊東光一)と婦長(目黒幸子)もやって来て、警察があなたのことを暴行容疑で調べたいと言って来ているが、あなたは夢遊病と言う奴ですと説明される。

その頃、屋敷の河西の部屋に来たルミは、パパからあなたをもてなすよう言われていますと伝えたので、河西の方も、波川さんにはクサクサしてたんだと答える。

彼に監視されているの?と聞いて来たルミに、あなたも家にじっとしていられないたちのようですね?波川さんをまいて、どっかに行きましょうか?河西が誘うと、湘南にで行かない?とルミも乗り気になる。

その時、ドアの外から、カリカリと言う奇妙な音が聞こえて来たので、河西がドアを開けてみると、クルミを手の中で動かしながら廊下を去って行く波川の姿が確認出来た。

ヘンリーの部屋にやって来た婦長が、薬を飲ませようとした時、ヘンリーは婦長に飛びかかり、ドアから外に逃げ出そうとするが、そこに駆けつけて来た山村博士と鏑木刑事に捕まる。

私が乱暴させたと言う女性に会わせろ!とヘンリーは言い、その願いが聞き届けられそうにもないと知ると、やっぱり噓だ!そんな女性はこの病院に入院しているなんてことは噓なんんだろう?と問いつめる。

それを聞いていた鏑木刑事は、その女性に会わせてやって下さいと院長に頼む。

ヘンリーが連れて行かれた別の病室には、左頬に痣がある女性がベッドに横たわっていた。

あなたの指の痕ですと医師に化けた鏑木刑事から女性の顔の痣のことを聞かされたヘンリーは愕然とする。

その頃、河西は、ユミの運転する車に乗って湘南の海へ向かっていた。

浜辺に着いた河西は、彼らの背後の砂浜にスーツ姿で座っていた波川に麦わら帽子をかぶせてからかうが、東京から追って来た波川はにこりともしないで無言のままだった。

そして、水着姿のルミに、彼は君が好きなんじゃない?わざと彼の前で仲良くしてやろうじゃないかと言い、サーフボードを持って海に入って行く。

そんな河西の脳天気な様子にいら立ったように、波川は、手の中でクルミをこすり合わせる。

波間でルミと共にはしゃいでいた河西だったが、大波をかぶった瞬間、コンタクトが外れてしまったことに気づき狼狽する。

波川の目の前だけに、目が悪いことを見られ、別人だと悟られはしまいかと焦ったのだった。

取りあえず、洗面所に向かい、サングラスをかけてごまかすことにしたが、妙に動き回ると、目が悪いことがバレてしまうので、塩水で目をやられたらしいんだと弁解し、ルミの車に乗って早々に帰ることにする。

途中、ルナをけしかけ、尾行して来る波川の車をまいて、ホテルにやって来た河西だったが、ホテルに戻って来て、ルミが立ち去った直後、ホテルの中へ逃げ込もうとするが、目が悪いため、無様にも転んでしまう。

何とか立上がった時、波川の車が到着し、私と一緒に屋敷に御帰り下さいと声をかけられたので、私は1週間も禁欲しているんだ!あんまりうるさいこと言うと、アメリカに帰るぞ!と癇癪を起こした振りをし、波川を追い払う。

戸田警部たちの待機室に戻って来た河西は、コンタクトレンズをなくしてしまったと報告し、戸田警部は勘づかれたか?と案ずる。

いい加減、逮捕したらどうなんですと河西がいら立つと、証拠もないのに逮捕出来るか!と戸田警部も答える。

もう降りたくなったな…、こんな仕事…と河西が弱気を出すと、天才的なペテン師じゃないかと戸田は励ます。

一方、グラウの経営する美容院にやって来た波川は、ヘンリーの様子がおかしいと報告する。

それを聞いたグラウは、立川米軍基地にいるディクソンをヘンリーに会わせようと提案するが、店に潜入していた片桐早苗がその会話を聞いていた。

早苗からの電話で、ヘンリーの幼なじみを会わせて本人確認するらしいと聞いた戸田警部は、米軍に依頼して外出させないようにしようと考え、直ぐに警視庁を通じて手配を頼む。

しかし、連絡を受けた米軍の反応は悪く、電話に出た米軍副官(ヴンツ・ドラント)は、ディクソンなどと言う兵隊はたくさんいると素っ気ない返事だった。

その間、立川にやって来た波川は、こっそりディクソン(ロバート・ベイン)にコンタクトし、ヘンリーと会って欲しいと依頼していた。

かくして、あっさり基地から外出したディクソンは、波川の運転する車で河西の泊まっているホテルに向かう。

戸田警部は、一足違いで外出したそうだ!と電話連絡をホテルで受け、側にいて話を聞いていた河西は、ぐずぐずしているとやってきますよ!と焦る。

戸田警部は河西に、フロントに鍵を預けてお前は外出しろと命じると、山村精神科クリニックに電話を入れる。

戸田からの連絡を受けた山村院長と医師に化けた鏑木刑事は、あなたの記憶テストをするので、子供の時の友達に会わせてみるとヘンリーに伝え、タクシーでホテルまで連れて行く。

その頃、ホテルには、波川とディクソンがやって来るが、フロントが、ヘンリーは今出かけており、すぐに戻って来ると言うので、取りあえず波川は車に戻って待機することにする。

やがて、ヘンリーを連れた山村と鏑木刑事がホテルにやって来る。

ロビーで待っていたディクソンは、ヘンリーの姿を見かけると直ぐに声をかけて来る。

今は、横田基地にいると話すディクソンとヘンリーは、ロビーのテーブルに座って思い出話に花を咲かすが、そのテーブルに案内したボーイも警察の人間で、テーブルの下には盗聴装置が仕掛けてあった。

2人の会話は、物陰に控えていたスタッカー警部等が注意深く聞いていた。

帰るディクスンをホテルの前まで見送ったヘンリーは、ロビーに戻って来ると、8月24日の新聞を探し出し、病院で見せられた記事が本当かどうか確認するが、ホテルの新聞にもちゃんとあの記事が載っていたので呆然となる。

そこへ近づいて来た山村医師と鏑木は、あなたはまだ記憶が分裂しているのですと説明し、逃げ出そうとしたヘンリーを両脇から支え、そのままホテルを出て行く。

その直後、待機していた刑事が、今ヘンリーが座っていたテーブルに近づき、素早く、偽の新聞ページを破り捨てると、テーブルの下に仕掛けていた盗聴装置も取り外して行く。

車でディクスンを送りながら、ヘンリーのことを聞いた波川だったが、あれは間違いなくヘンリーだ。2人だけしか知らないはずの子供の頃のこともしっかり覚えていたとディクスンは太鼓判を押す。

その報告を波川から受けたグラウは、それは良かったと安心し、明日の10時に会いたいと彼に伝えてくれと頼む。

そんな中、羽田空港に降り立った1人の女性がいた。

ヘンリーの妻加代子だった。

ホテルにいた河西は、波川から、明日の10時に来てもらいたいと連絡を受けていたが、部屋にはルミが来ていた。

目は何ともない?どっかへ連れて行ってと甘えるルミをホテルの外へ連れて行く河西だったが、その姿を目撃したのが、夫に会いにホテルにやって来た加代子だった。

加代子は、見知らぬ若い娘を連れた嬉しそうな夫の姿に驚くと、その後を尾行する。

河西はルミとゴーゴークラブで踊るが、その様子も加代子は客席からジッと観察していた。

その後、車に河西を乗せ屋敷に戻って来たルミは、もう着いちゃったね…、私、帰りたくない…とすねる。

そんなルミの車を、タクシーで付けて来たのは加代子だった。

10時にパパと会う約束?つまんない外屋敷の前でルミが甘えるので、河西は、ルミさん、今夜、君の部屋に行って良い?と聞き、玄関の前で抱いてキスをするが、その様子も加代子は物陰からしっかり観ていた。

屋敷に入ると、待っていた波川が、時間を守ってくれないと困るねと文句を言う。

グラウは、明日の夕方に香港から品物が来ます。午後5時には受け渡しをしたいので、3時にはここを出発しますと説明するが、その時、玄関のチャイムが鳴る。

ルミが応対に出て、野坂さんの奥様が御見えになりましたと知らせに来たので、それを聞いた河西は、えらいことになった!と内心焦る。

加代子が部屋に入ってきたので、愛想良く出迎えたグラウが、秘書の波川と娘のルミを紹介する。

加代子は、4時に羽田に着きましたと落ち着いて説明したので、河西は、一体この女はどこまで知っているのだろう?ボロが出るかもしれないので、女と1対1になったら絶対まずい!と警戒する。

部屋を出たルミは、1人泣き始める。

河西の横に座った加代子は、あなた、いつの間にゴーゴー踊れるようになったの?といきなり聞いて来たので、彼女は焼きもちを焼いているんですよと河西はグラウに笑ってごまかそうとする。

しかし、加代子は、主人は人が変わってしまったようですと言うので、河西は笑顔が凍り付く。

アメリカで教習を受ける際、ヘンリーの笑い顔に注意するように言われたことを思い出したからだった。

その時、加代子は、少し口にしたワインの入ったグラスを床に落とすと気絶してしまう。

驚いたグラウは、ベッドへ!と言ってくれたので、河西はこれ幸いと、加代子を抱きかかえると寝室に連れて行き、軽い脳貧血ですから心配しないでと言い、付いてきた波川を部屋の前で追い返す。

加代子をベッドに寝かしていると、ノックの音がし、出てみるとグラウが、加代子が落として行ったバッグを持って来てくれていた。

すぐに加代子は気づくが、河西は睡眠薬を飲まそうとする。

そして、キスをしようと顔を近づけるが、何故か加代子は拒否し、ヘンリー、いつものご挨拶をして!とねだる。

このプライベートな要求には、さしもの河西も動けなくなってしまう。

キスでごまかそうとすると、加代子は突然バッグから銃を取り出し、「Who are you?」と睨みつけて来る。

これ以上ごまかせないと悟った河西は、バレたか…、あんたのご主人は監禁されているよと素直に教える。

あなた、警察?と加代子が警戒して来たので、俺がポリスに見えるかい?と河西は苦笑し、ヘンリーのことが大事なら、明日の夕方大切な取引があるので、それまでおとなしく女房の振りをしているんだなと説得する。

すると、加代子は素直に、承知するわと答える。

河西は素早く、加代子の銃を取り上げると、睡眠薬を改めて飲まし、加代子を寝かしつける。

その後河西は、ルミを哀しませない為に、二階のルミの部屋に向かうが、ルミは泣いており、部屋の中に入れてもらった河西は、僕は君が好きなんだ。あの女房は…と言い訳しようとする。

しかし、ルミは、帰って下さい。出て行って下さい。これ以上、私を苦しめないで下さいと言うので、河西は、すまない。許してくれと謝罪して部屋を出て行くしかなかった。

1人部屋に残ったルミは、湘南で撮った河西とのツーショット写真を哀し気に見つめるのだった。

翌朝、グラウ、ルミと共に朝食を食べることになった河西と加代子だったが、ドイツのことをグラウから降られた加代子が、ハネムーンでドイツのライン川に行ったなどと余計なことを言いだしたので、河西は慌てる。

ライン川の印象はどうでしたか?とグラウから聞かれたので、私はラインよりワインの方が好きですと河西は機智で返し、何とかその場を乗り切る。

そんな中、ルミが突然立上がり、気分が悪いと言って部屋を出て行く。

河西は銀行に行くと言うと、波川が送ると言うので、加代子と一緒に波川の車に乗せてもらい、神宮外苑の所まで送ってもらう。

車を降りた河西と加代子は、近くの銀行に向かう振りをして、タクシーを拾うと、その場を逃げ出す。

どこに連れて行くの?と加代子が聞いて来たので、ヘンリーに会わせるよと河西は言う。

すると加代子は煙草をくわえ、ライター返してよと言う。

夕べ奪い取った拳銃のことらしかったので、警戒しながら河西が取り出すと、撃ってみたら?と加代子は平然と言うので、思い切って引き金を引いてみると、銃口から火が灯ったので、なるほど良く出来てるねと河西も苦笑する。

山村精神科クリニックにやって来た河西は医師に化けていた鏑木刑事に、加代子をヘンリーに会わせてやってくれと頼む。

鏑木刑事は加代子をとある病室に案内し、彼女が中に入ると、外から施錠して閉じ込めてしまう。

その間、河西は、ホテルの649号室、つまりヘンリーの泊まっている隣の部屋の戸田警部に電話を入れる。

閉じ込められたと悟った加代子は、ライター型の銃を取り出すと、弾倉に弾を込めだす。

それは、ライターにも見せかけられるトリッキーな本物の銃だったのだった。

ホテルに来るように戸田から指示を受けた河西は病院の玄関口にやって来るが、そこで待っていたのは波川だった。

お迎えに上がりましたと丁寧に挨拶をした波川だったが、河西を車に乗せ、運転させると、早くしろ!と銃で脅し、車を走らせる。

どこへ行くんだ?と河西が聞くと、決まっているじゃないか。ボスの所さと波川は無表情に言う。

やがて、車の検問をしている警官の姿が見えると、脇道へ迂回させる波川。

河西は思い切ってアクセルを踏み、スピードを上げると、人気のない造成地にやって来る。

異常を感じた波川がスピードを落とせ!と銃で脅して来ると、急ブレーキをかけ、相手の姿勢が崩れた隙を付き、銃を奪い取って波川の頭を殴りつけ昏倒させる。

そして、気絶した波川の足をアクセル部分に置くと、そのまま車を走らせ、河西は飛び降りる。

気絶した波川を乗せた車はそのまま崖から墜落炎上する。

ホテルの戸田警部のいる部屋にやって来た河西は、波川をやってしまったよ。何とか交通事故に見せかけたが…と報告し、金を持って3時までにグラウの所へ行かねばならないと伝える。

戸田警部は、金の用意はできていると冷静に応じる。

一方、加代子の部屋に入ってきた鏑木刑事は、警察手帳を示しながら、あなたを保護しますと告げるが、急に拳銃を出した加代子は、それを取り上げようと飛びかかって来た鏑木刑事を撃って部屋を脱出する。

ヘンリーの部屋を見つけ、中に入った加代子は、本物の夫と再会するが、邪魔をしようとする婦長を振り払い、2人で病院を抜け出す。

屋敷に戻って来た河西はグラウに100万ドル入ったトランクを見せ、妻はホテルで休んでいると説明する。

グラウは、今さっき警察から連絡があり、波川が交通事故で死んだそうです。

あの男が死ぬなんて、不吉です…、信じられませんと嘆きながらも、河西と共に出かけようとする。

そんなグラウの屋敷に、外から電話を入れたのはヘンリーだった。

電話を受けたのはルミで、河西と連れ立って屋敷を出て行きかけていた父親に、ヘンリーの奥様からお電話ですと呼びかける。

それを聞いた河西は驚き、自分が出て来ますと言い残し、屋敷に戻ると、受話器に向かって、お前どこにいるんだ?グラウさんはもう出かけた!と短く言い、すぐに電話を切ってしまう。

そしてルミには、大切な話がありますが、今は時間がないので、今夜帰って来てから話します。待っていて下さいと頼み、屋敷を出て行く。

電話の声を聞いた加代子の方は、あいつが出たわと夫のヘンリーに伝える。

屋敷を出かけたグラウの車を、待機していた刑事たちの車が尾行し始める。

3時40分、警邏全車に包囲体勢が発せられる。

グラウがやって来たのは「Chacolotte」と言う大きなビルだった。

グラウは受付に金の入ったトランクを預けると、「10」と書かれた預かり用の番号札を受け取る。

河西等は、招待客として、胸ポケットに羽飾りを付けられる。

海上には大勢の外国人客が集まっており、前に立ったグラウは、自分のビューティースクールの開設記念の挨拶を始める。

やがて、パーティが始まり、客たちは思い思いに踊り始めたので、麻薬の取引が行われると予想していた河西は、呆然として様子を眺めるしかなかった。

客はカップルばかりで、一向に麻薬の取引などが行われる気配は見えなかった。

グラウは麻薬を持ってない。誰かが麻薬を持って来ているに違いないのだが、20kgの麻薬はどこにあるか分からなかった。

外では、覆面パトカーに乗り込んだ戸田警部等が、河西からの合図を今か遅しと待ち受けていた。

取引を確認したら、河西が窓からハンカチを落とす手はずになっていたのだったが、一向にその気配が見えず、戸田警部等はいら立っていた。

河西は思い切って、海上にいた女性たちに次々に声をかけ、踊りの相手をしてもらいながら、さりげなく相手がどこから来たのかを聞いて行く。

すると、女性たちは、韓国、横田基地、沖縄などと答えたので、各地の米軍基地からやって来たんだと河西は気づく。

ふとグラウの方に目をやると、グラウは、その時踊っていた黒人女性に番号札を渡し、何事かを頼んでいるようだった。

黒人女性は頷いて会場から出て行く。

その内会場内に、パーティの記念に、ささやかな品物が用意してありますので、お帰りの際御持ち帰り下さいと言うアナウンスが流れる。

それを聞いた河西は、その記念品用の手みやげこそ、麻薬が入った箱に違いないと直感する。

とことがそこにやって来たのが、ヘンリーと加代子夫妻で、河西を見つけると、この中に偽者が混じっています!その男は警察の回し者です!と指差し大声を上げる。

河西は、その時踊っていた女性を盾にし、会場から廊下に出ると、窓から胸に挿していたハンカチを落とす。

それに気づいた戸田警部は、全員は位置に付け!と命じる。

グラウは客たちに、お前たちは荷物だけ持って逃げろ!と叫ぶ。

その後、警官隊がビル内に乱入して来る中、グラウたちは、機関銃を持ち出して、窓から応戦を始める。

記念品を階段から外へ媚びだそうとした一味だったが、そこに河西が襲いかかり邪魔をする。

その乱闘の最中、またもやコンタクトが取れてしまう。

ビルの外に飛び出した河西は、銃撃をかい潜り、何とか戸田警部の元に駆け寄ると、メガネを下さいと訴える。

しかし、戸田警部は、もうその必要はないし、メガネは持ってこなかったとつれない返事。

やがて、捕まったヘンリー夫妻とグラウたちが建物から出て来る。

同じ頃、グラウの屋敷にも警官隊が突入していた。

刑事たちが家宅捜査をする中、ルミは呆然と立ち尽くし涙していた。

潜入捜査が無事終了し、河西はスタッカー警部から約束の3万ドルを受け取る。

1人警察本部の部屋に残った河西は、久しぶりにタバコを吸いながら感慨に耽っていたが、その時、湘南海岸でルミと一緒に撮った写真を落とす。

そこにやって来た戸田警部は、もう1度ムショに戻ってくれないか?そうしないと、君江オ波川殺しで逮捕しなくちゃならん。おとなしく戻ってくれれば、事故死と言うことで処理してやると言いだしたので、河西は憤慨し、あれは正当防衛だった。そっちがその気なら、裁判で争いましょうやと言い返し、私は約束があるので失礼と言い残し、部屋を出て行く。

河西はグラウの屋敷にやって来るが、二階のルミの部屋に入ると凍り付いてしまう。

ルミが床に倒れていたからだった。

手から薬の瓶が転がり落ちており、服毒自殺をしたようだった。

そのルミの遺体の側には、ガラスが割れた写真立てが落ちており、その中には、河西とルミが湘南で撮った記念写真が治められていた。

その写真を取り出した河西は、一足遅れで部屋に駆けつけてきた戸田警部と中山刑事に向かい、刑事さん、ムショに帰りますと告げる。

(回想明け)全てが瞬間的に過ぎ去った…、何もかもが幻のようだ…

だが、この傷がある限り(と、首筋の傷を触りながら)あのことは忘れないだろう。俺の心はきりきり痛むのだった…

河西が収容されている刑務所の外では、子供たちが野球ごっこをして遊んでいた。


 

 

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