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イン・ザ・ヒーロー

特撮オタク以外にはあまり馴染みがないかも知れない「スーツアクター」の世界を描いた映画の舞台裏ものなのだが、その素材の新奇さ以外は、割と良くあるタイプの平凡な印象の映画になっており、特に出来が悪いと言う訳ではないのだが、期待度が高かっただけにちょっと残念だった。

印象としては、可もなく不可もなく…と言った所だろうか。

何故か、全体的に、やや古くさい感覚の映画に思えてしまうのが気になる。

裏方の世界と言っても、映画ファンや特撮ファンなら薄々知っている範囲内のことばかりで、特に意外なものを観たと言う感動は薄い。

そう言うことを全く知らない人が観れば面白いのかも知れないが、この手の映画を、全く映画にも特撮にも興味がない初心者が観に来るだろうか?と言う素朴な疑問がある。

映画の内幕ものとしては「蒲田行進曲」の「特撮版」のような印象もあるのだが、「蒲田行進曲」のヤスに対し、本作の主役本城は、ベテランスーツアクターとしてそれなりにスタッフやキャストから一目置かれているし、小さいながら自分のアクション事務所も持っているくらいだし、特撮オタクのおっさんには分かってもらえているのだから、マニア向けスターと言う感じで、業界の底辺にいると言う雰囲気はない。

さらに、観客が多かった映画全盛期を舞台にしていた「蒲田行進曲」と違い、今、なかなかその実態が一般人には捉え難い映画の現場の状況やTVとの作り方の違いなどがきちんと見えて来ないので、そうした業界で働いている人たちの立場やジレンマも分かり難く、何だか全体的に「狭いオタク業界」だけの内輪話に見えてしまう所がある。

つまり、広く一般の人が興味を持つような舞台には思えないのだ。

この映画が狙っている客層が、分かるようで良く分からないからかも知れない。

まさか、こんな内容の作品を見るのは子供か特撮ファン中心で、そうした連中は、この程度のドラマでも十分感動するだろうと甘く見ている…などとは想像したくないのだが…

普段の日本での仕事と対比的に語られなければいけないはずのハリウッド映画も、日本映画なら2~3本は撮れるなどと言っているほど豪華な物に見えないこともあり、日頃の仕事とのギャップをあまり感じさせず、クライマックスのカタルシスも弱い。

顔出しのアクションスターに憧れていたが、日本ではスーツアクターに甘んじるしかない現実に絶望しかけていた主人公が掴んだ一世一代のチャンスが「ハリウッド映画のマスクをかぶったスタンドイン」で、夢の実現になるのだろうか?

そもそも、ハリウッドが、いくら日本を舞台にした映画とは言え、ロケーション部分ではなく、セット撮影の為にわざわざ日本の狭いスタジオを借りて撮るだろうか?

セット部分は普通本国で撮るだろう。

時代劇風に作りたいのであれば、日本人俳優と殺陣師を日本から招けば良いだけのことで、慣れない上に狭いだけの日本のスタジオで撮るメリットが全く思い浮かばない。

その辺の説明が劇中で何もないことと、登場しているスタジオセットが、日本映画としてもしょぼいんじゃないの?と言いたくなるようなレベルだから、余計に不自然に感じるのだ。

さらに、そこでのラストアクションも、本城の大活躍は描いているのに、最後に国際的に成功しているのは若い一ノ瀬リョウの方で、いくら「主人公は裏方の方だから」とは言え、途中から本所に学び、真摯にアクションに取り組み始めた一ノ瀬リョウの方の成長をうかがわせるような映像がほとんど描かれていないと言うのも、何だかすっきりしない所。

リョウがハリウッドに憧れていると言う設定も、一応劇中でその真意の説明があるからこそまだ納得できるが、実写ハリウッド映画が日本市場で勢いを失った今観ると、何となく一昔か二昔前の夢のように見えなくもない。

又、損得抜きで夢に向かって突き進む主人公との対比だとは分かるが、金儲けにしか興味がないような人物をバカにしているような描写もありきたりで、物がなく、国民全体が貧しかった戦後間もない頃や、マネーゲームに浮かれていたバブルの頃ならまだしも、経済的に低迷している今の時代の風刺になるだろうか?

何となく全体的に、映画バカやオタクが、自己弁護と言うか、自己陶酔しているだけのように見えなくもなく、観ているこちらも同じ映画バカ、オタクの端くれだけに、共感すると言うより、むしろしらけてしまう部分がある。

更に言えば、クライマックスの大チャンバラシーンも、ノーワイヤー、ノーCGで撮ると言うチャン監督の劇中設定とは違い、明らかにワイヤーやCGを使い、しかもカット分けして撮られているため、現場での唐沢さんやアクションチームの生身の頑張りやそれを支える現場スタッフたちの努力が巧く画面上に出ておらず、驚愕の本物アクションシーン!と言うほどには見えないのが残念である。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

2014年、「イン・ザ・ヒーロー」製作委員会、水野敬也+李鳳宇脚本、武正晴監督作品。

試写室

変身ヒーロー番組「神龍戦士ドラゴン・フェイブ」の映像が映し出されている。

控え室に戻って来たドラゴンピンク役スーツアクター海野吾郎(寺島進)は、渡君だけ顔出せるなんて羨ましいよ!やっぱりヒーローは赤だよね、赤!とからかうと、ドラゴンレッド役スーツアクター本城渉(唐沢寿明)は、申し訳ない!と恐縮する。

俺なんてタッパないから無理だけどねと言いながら、衣装を脱ぎかけていた海野のテーブルに置いた携帯が鳴りだし、「今日もおつかれさま」と書かれた大きな♡マーク型のメール画面になる。

撮影所を出かかった本城に「渉!相変わらずやってるか?」と車の中から声をかけてくれたのは、大ベテランスターの松方弘樹(本人)だった。

昔からの馴染みなだけに、今でも気さくに声をかけてくれたのであった。

遊園地で行われている実演ヒーローショーの舞台裏で、マイクを使ったナレーションを担当していたのは、「ドラゴンフォー」ではボーナック星人・チャーピーをやっている真鍋満(草野イニ)だった。

ショーが終わって裏に戻って来た本城にその真鍋が、リーダー!先ほど東洋TVの内山プロデューサーから電話がありましたと伝える。

「ドラゴンへの道」のブルース・リーのポスターが貼ってある下落合にあるアパートに戻って来た本城は、ベッドに横になると、痛ぇ~と笑いながら、首筋にシップ薬を貼る。

そして、電話をしたのは、離婚した元妻の元村凛子(和久井映見)へだった。

「ドラゴンフォー」観るか?と聞くと、観てないわよと即答されたので、観てねえのかよ…と落ち込んだ本城だったが、噓よ、たまに観てるわよと答えが返って来たので顔をほころばす。

そして、今日、プロデューサーから、映画版で新しいキャラを俳優としてやらないかって話があったんだと嬉しそうに伝えると、首、大丈夫なの?と凛子の不安そうな声が聞こえて来る。

首は全然問題ない!と本城は言い切る。

本城の部屋の本棚には「五輪書」や「燃えよ剣」などの時代劇関連の本が並んでいた。

後日、映画版「神龍戦士ドラゴン・フェイブ」の本読みの席、映画版で登場する新キャラドラゴンブラック役として紹介されていたのは、ガムをかんで出席していた新人アイドル一ノ瀬リョウ(福士蒼汰)だった。

部屋の隅で座っていた本城は、ドラゴンレッドとドラゴンブラックの両方のスーツアクターとして紹介されただけで、本読みが始まると部屋を出るように促される。

外のソファーで待っていた本城は、部屋から出て来た内山プロデューサーを呼び止めると、どう言うことなんですか?と抗議するが、曲のお偉いさんに頼まれちゃってさ…、これでも戦ったんだよ!と内山プロデューサーは言い訳する。

そこへ近づいて来たのは、一ノ瀬リョウのマネージャーで、本城とは、新人を世話になっていた門脇利雄(小出恵介)だった。

門脇は、リョウは、スタンリー・チャンの新作のオーディションを受けている最中なんですと教え、彼に殺陣の指導をして頂いたら…と頼む。

本城は、他のメンバーもいるんでご紹介しましょうかと答えるが、リョウに対しては、さっきガム噛んでたろ?人前でガム噛むな。ヒーローだったら、子供の夢を壊すだろ。

子供いなかったし…とリョウが不機嫌そうに答えたので、子供の心を持った人はいるだろ!と本城は言い聞かす。

そんなリョウと共にスタジオの前にやって来た本城は、トカゲ怪人の中に入っていた、いつもはドラゴングリーン役のスーツアクター森田真澄(日向丈)が入口の所に出て来て挨拶したので、リョウに紹介する。

森田は嬉しそうに、リョウにハグして来たので、リョウは迷惑そうな顔になるが、そんなことにはお構いなしに、森田は、保険に入ってる?と保険の勧誘を始める。

本城はリョウを、自分の仲間たちがやっている「HAC」のトレーニングジムに連れて来る。

本城に、今度ブラックをやることになった一ノ瀬リョウ君だと紹介すると、リーダーがやるはずだったのでは?とドラゴンブルー役スーツアクター大芝美咲(黒谷友香)が聞いて来たので、ま、色々手違いがあってな…と本城は言葉を濁す。

興味なさそうに、ちわっす!と挨拶したリョウの言葉を聞いた美咲は、ひょっとして、今の挨拶?一体どこの事務所?と大阪弁突っかかって来る。

スターガーデンだと聞いた美咲は、コネやん!200%コネやないの!とあけすけなく吐き捨てる。

さすがに腹に据えかねたリョウは、うっせえんだよ!この筋肉ババア!と美咲のことを罵倒したので、美咲も迫って来るが、それを押さえた本城は、どうせすぐに消えてしまう奴だよと美咲に小声で耳打ちする。

トレーニングの様子をあまり興味なさそうに見始めたリョウに、門脇マネージャーは、本城さんってアクション25年だからね。リョウ君も頑張って吸収してよと声をかけるが、やはり、リョウはガムを噛んでいた。

翌日、「LAST BLADE(ラストブレード)」のオーディション会場にやって来た金髪の女性プロデューサーが審査員席に着くと、中央に座っていた新作の監督スタンリー・チャン(イ・ジュニク)が、この水は何ですか?と置いてあったペットボトルを指差して聞く。

「富士の天然水」ですと日本人スタッフが答えると、軟水はダメ!硬水にしてくれとチャン監督が言い出したので、硬水に替えて!と女性プロデューサーも指示する。

水が分からない奴は映画が分からない!とチャン監督は断定する。

そのオーディションにやって来たリョウは、審査終了後、外で待っていた門脇の車に乗り込むと、自信満々に、最終10人には残ったんじゃないかな?などと伝える。

相変わらずガムを取り出したリョウは、ハリウッドじゃ歯を白くするのにガム噛むのは当たり前だし、今更ジャリ映画なんかじゃね…と吐き捨てると、コンビに寄ってもらって良いですか?と運転していた門脇に頼む。

一方、チャリで自宅を出た本城は、久しぶりにファミレスで娘の元村歩(杉咲花)と会って食事をする。

本城は「ドンキホーテ物語」と言う本を手渡すと、無理だ!私、本嫌いと言われてしまう。

その時、店長を呼んで来い!と言う大声が店内に響き渡る。

何事かと見やると、1人の客が、注文した肉が冷えていたことに対し、持って来た岡本と言うウエイトレスに怒鳴っている様子。

歩は、父親の性格を知っているので、放っときなさいよ!こういうの、お店の人に任せるものよと注意するが、俺はこういうの嫌いなんだと言いながら立上がった本城は、その客のテーブルに近づき、あんたの大声が廻りの人に迷惑をかけているんですと注意する。

それでも、その客が難癖を付けて来たので、上着を脱いだ本城は、ブルース・リーの真似のようなポーズを取って威嚇してみせると、止めて下さい!警察を呼びますよ!と岡本と言うウエイトレスから注意を受けたのは本城の方だった。

結局、怒鳴っていた客は金の堪るノウハウ本を読みながら食事を始め、本城は歩に、時々家で俺の話出るか?などと聞いていた。

嫁が肺炎にかかったときも帰って来なかったバカ男っておばあちゃんが言ってた…とだけ、歩は教えるが、さっきもらったほんの中に入った封筒に気づくと相好を崩す。

小遣いが入っていることが分かったからで、お父さん、ありがとう!大好き!といきなり本城に甘えて来ると、今度映画やるんでしょう?と聞いて来る。

本城は気まずそうに、手違いがあって、他の奴がやることになったんだと答えると、誰と言うので、一ノ瀬リョウの名を教えると、いきなり歩の目が輝きだす。

超有名なんだよ!今度サインもらって来て!と歩がねだるので、あいつはまだ俳優として心構えがなってないと本城が言うと、お父さん、俳優じゃないじゃない!と歩は呆れたように指摘する。

そこへ、ウエイトレスがショートケーキを運んで来るが、それに目を細めて食べ始めたのは本城の方だった。

いよいよ映画版の撮影が始まり、スタジオの外で撮っていた本編部分で、リョウが変身ポーズを決めると、続いてスーツアクター本城へ交代するが、高い所から降りて来たリョウに、今の…、決めのポーズがイマイチだったなと先輩らしく指導する。

弁当番のスタッフに近づいたリョウは、余ってますか?と聞き、肉、魚、肉と3つも弁当を要求したので、ドラゴンブルーとして側に待機していた美咲が、せっこいアイドルやな~!と突っ込む。

その頃、「ラストブレード」の日本パーツ撮影を手伝っていた日本側ラインプロデューサー石橋隆生(加藤雅也)は、レナと言う女の子を準備中のスタジオに連れて来ると、このハリウッド映画の予算だと、日本映画2本、否3本撮れるかもねなどと、自分のことのように自慢していた。

チャン監督はスタッフたちに、模型と人形を使い、俳優がノーワイヤー、ノーCGで、セットの二階か三階から落ちた後、不死身なんで起き上がって、敵を斬って斬って斬りまくるんだ!俳優はやがて炎にまかれる!その4分50秒をワンカットで撮りたい!と説明していた。

火はどこで作るんですか?と、唖然としながらスタッフは質問するが、これは私の作品だ!とわめくチャン監督は、もう人の話など聞いてなかった。

演じるフェン・ロンを連れ、スタジオのセットの上階に案内して来たチャン監督は、君はここから落ちるんだ!ノーワイヤーで!とあっさり説明する。

リンゴをかじりながらそれを黙って聞いているフェン・ロン

その日も、本城は高所からのジャンプの撮影に参加していたが、顔バレしていたことが判明、もう一回!と言うことになる。

リョウの方は、バイクシーンの撮影を終えて、どうだった?俺のバイクテク?と門脇マネージャーに聞いていたが、殺陣の方、大丈夫?と門脇は心配そうに確認する。

しかし、リョウは、あの人ただのスタントマンでしょう?などと小馬鹿にし、小道具のブレスレッドを美術のスタッフに無頓着に投げ渡す。

その小道具を受け損ね、地面に落ちた女性スタッフ静子は、慌てて拾い上げ、すみませんと自分の方が謝る。

その場を立ち去りかけたリョウに、何やってんだ!そのブレスレッド!超アップ用だろ?壊れたらどうするんだ!と美術班のスタッフ徳永が怒鳴りつける。

作り直せば良いじゃないですか?とリョウが答えると、一体いくらすると思っているんだ!と徳永が怒り続けているので、3~4万くらい?とリョウは軽く答える。

この子が何日徹夜して作ったと思ってるんだ!と徳永が静子を指しなおも絡んで来るので、それがあなたたちの仕事ですよね…と言い捨て、リョウはその場を去って行く。

その後、特撮班の現場に門脇は連れて来るが、リョウは、こんな現場興味ないですよ…と言うだけだった。

そんなリョウに、人気ゲームの名をあげて観たことある?と真鍋が聞くと、その内の1本は観たことがあると言うので、ゲームキャラ用のモーションキャプチャーをスーツアクターが演じているスタジオに連れて行く。

世界中の何百万もの人がリーダーの分身で遊んでいるんだ!スゲエだろ!と真鍋は嬉しそうに教える。

その日の仕事を終えた本城は、真鍋とリョウを連れ、馴染みの飲み屋の座敷に連れて来る。

注文を取りに来た女性は、リョウに気づくと、後でサインをくれませんかと頼むが、リョウは迷惑そうに、違いますよ!人違いですよ!と否定する。

それを観ていた本城は、「礼は寛容にして慈悲あり」!武士道の話を例に、礼儀やファンへの夢を壊すなと諭すと、自分が持ち歩いている色紙をリョウに渡す。

楽しいですか?スーツアクターの仕事…、顔も名前もでないじゃないですか…、今日観たゲームの仕事なんかは凄いと思いましたよ。でも日陰ですよね?とリョウが聞くと、陽の当たる部分だけが全てじゃない。誰も知らなくても命を賭けるものはあるんだ!と言いながら、本城は店内に貼ってあったブルース・リーのポスターに目をやる。

俺は、50mの鉄塔の上でも、30mの海底でもアクションをやって来た。

でも、俺がやっているって分かってくれるのは特撮オタクのおっさんだけだ…と、他の客たちは皆帰り、閉店間際の店に最後まで残っていた本城は、リョウに無念そうに言う。

リーダーの回し蹴りは、世界中の子供たちに夢を与えているんだ…と酔いが廻り横になった真鍋が呟く。

本城は、お前には何か夢はないのか?とリョウに尋ねる。

ありますよ、俺の夢はアカデミー賞、もちろんアメリカのですよを取って、スピーチをすることなんですとリョウが答えると、アイドルがアカデミー賞なんて取れるはずないじゃないか…と、ベッドで寝ていた真鍋が寝言を言う。

本城は、最高の夢じゃないか。頑張れよ!とリョウを励ます。

本城の自宅アパートに酔った真鍋を連れて来たリョウは、ヌンチャクや木人拳などが置いてある中、本城が家族と一緒に写った写真を見つける。

それ、凛子さん…と、ベッドに寝ていたはずの真鍋が言うので、起きてたんですか!とリョウが驚くと、こいつは、寝むりながらしゃべるん癖があるから…と本城がフォローする。

翌日、歩が学校に行くのをそっと見送るように「求村薬局」の横で待機していた本城は、何となく立ち寄った風を装い、薬局の中に入ると、歩がどうしてもって言うから…と言いながら、リョウにもらったサインを入れた紙袋を入口付近に置いて行こうとするが、どうしてそんな遠くに置くの!こっちに持って来てよと凛子に言われたので、渋々と言う風に元妻の手に渡す。

誰のサインと凛子が聞くので、一ノ瀬リョウって奴…と教えると、映画、残念だったわねと凛子はさりげなく言うと、キネシオと言う新しいシップ薬を出してみせたので、もらっとこうかと本城は金を出そうとするので、良いわよとそのまま渡しながら、身体、本当に大丈夫なの?と凛子は聞く。

ああ…と答えた本城は、何かあったらいつでも連絡しろ。泥棒とか嫌がらせとか…と言いながら帰りかけると。昨日外の電気が消えてたぞ…と、いつも気になって店を観に来ていることをバラスと、早く幸せになれよと言う。

それを聞いた凛子が、一応、私に幸せになって欲しいの?と嫌味を言うと、当たり前だよとふて腐れたように言い残し本城は店を出て行く。

その直後、誰か来てた?西尾さん?と言いながら、凛子の母が店に顔を出すが、凛子は無視する。

あの人、たくさん薬買って行ったでしょう?と母は言う。

後日、映画の控え室にやって来たリョウは、本城さん、この前のこと覚えていますか?と聞き、本城がそれには答えず、熱心に脚本を読んでいるので、何でいつも脚本を読んでいるんですか?と聞く。

当たり前だろう?台本読んで、全員の気持ちを掴かまないと…と本城が答えると、子供映画ですよ。そこまで観てますかね?とリョウは疑問を口にする。

大人も子供も関係ない!と答えた本城は、村瀬と言うスタッフに、撮影までの時間を聞くと、後30分はかかると言うので、椅子から立上がると、お前、ちょっと服脱いでみろ!教えてやるよ、アクションを…とリョウに言う。

ヒーロースーツを着せられたリョウは、その中では、視界も酷く狭くて見え難いし、外の指示の声もほとんど聞こえない上に、動き難いと言うことを知る。

いら立ったリョウは、マスクを脱ぎ捨てると、別に俺、スーツアクターになりたい訳じゃないですから!第一、何言ってんのか分からないし!と不機嫌そうに文句を言う。

その日、自宅マンションに戻って来たリョウは、幼い弟と妹に持って来たロケ弁を手渡し、叙々苑の焼き肉弁当の方が良かったなどと言う彼らに、来週持って来てやるよと約束し、一緒に夕食として食べる。

その後、妹たちがじゃれ付いて来る中、腕立て伏せなどを始める。

「元村薬局」の居間では、マッサージ椅子に腰掛けた母親が、駅前で買ったお惣菜に中国さんのクラゲが入っていたなどと友達に電話をし終えると、あんた今年でいくつになった?と凛子に聞く。

38ですけど…と凛子が答えると、悪い人じゃないのよ、こんな豪華な椅子もらって…とスイッチを入れた母親は、急に椅子が思いがけない動きをしたので、慌てて、2人とも停めて!止めて!とわめく。

翌日、映画の撮影現場に歩とその友達を連れて来た本城は、休憩時間に入ったリョウに紹介する。

歩と梢と言う熱狂的なファンらしき友達は、サイン下さいとねだって来たので、サインはちょっと…とリョウが断ろうとすると、本城が睨んだので、分かった!サインすると言うしかなくなる。

歩たちが帰ると、さっきはすまなかったなと本城が詫びて来たので、殺気が半端じゃなかったので…とリョウも苦笑する。

付いて来いよと、そんなリョウを本城は誘い、リョウが戸惑っていると、アカデミー賞取るんだろう?と本城が言うと、覚えていたのかよ…とリョウはぼやく。

本城がリョウを連れて来たのは、スタジオのセット前で、中で明日の準備をしているスタッフたちの仕事ぶりを見せ、映画は力を合わせて作るんだ。スタッフさんを大事にしろと諭す。

しかし、リョウは、違うんだな…、俺はトップになりたいんです。裏方じゃない!と反論する。

アクションは1人でやるもんじゃない。受け手がいて、成立するものなんだと本城は辛抱強く言い聞かす。

翌日、リョウの所にやって来た門脇マネージャーが、最終選考に残っているらしいですよと教えると、特撮ヒーローものはアイドルの登竜門と言われているんだから、観といて損はないよと言い、スーツアクターたちがやっているスタジオに連れて来る。

すると、突然、リョウが監督に、このシーン、俺にやらせてもらえませんか?スタントやらせてもらえませんか?一回観てもらえませんか?と申し込む。

できるの?できるんだね?と監督は懐疑的だったが、哀しいかね、日本のアクションは、ハリウッドじゃ通用しないんだ…とぼやく。

しかし、いざ、リョウにやらせて見ると、他のメンバーたちとの息が合わず、ドラゴンブルー役の美咲は筋肉を痛めてしまう。

何だよ、今のアクション?虫みたいだったぞ!ハリウッドじゃ通用しないよ!とリョウの失態を観て声をかけて来たのは、女の子を連れ、スタジオに見学に来ていた石橋だった。

その時、うちの役者に何言ってんだ!礼儀のなってない男はお引き取り願いたいな!と石橋に言って来たのは本城だった。

おれを知らないのか?とサングラスをかけた石橋が虚勢を張ると、少なくとも武士じゃないな…と本城は断定する。

これだから、ジャリ相手の現場は嫌なんだよ!と吐き捨てると、石橋はその場を去って行く。

しかし、スタジオを後にした石橋は、本城渉…、まだ現役なのか!と呟く。

その夜、マンションに帰宅したリョウは、黙々とスクワットの練習に励んでいたが、いつものように、妹の夏がじゃれ付いて来たので、お前ら、俺の邪魔をするなよ!とつい怒鳴ってしまい、ごめんなさい…と夏がしょげてしまったことに気づくと、ごめんな!と抱きしめ、リョウは自分の感情的な失言を謝る。

(回想)映画館で、母親と一緒に「孫悟空」のアニメを観ていた妹の夏と弟の雄太

映画館の係員から連絡を受け、映画館に駆けつけたリョウは、そこで、女性係員に保護されていた夏とリョウを発見する。

係員から、母親が遺していた置き手紙を渡されたリョウは、母親が突然、彼ら幼い兄弟を映画館に残してアメリカに行ってしまった事を知る。

とある雪が積もった朝、本城のアパートの前で待っていたリョウは、出て来た本城に、あの…と話しかけようとする。

しかし、本城がそのままランニングに出発したので、リョウもその後を追って走らざるを得なくなる。

やがて、神鳥前島神社と言う境内にやって来た本城は、賽銭箱に小銭を投じ、何事かを祈ると、そのまま帰ろうとするが、リョウが苦しそうにしているのを見ると、へばっているのなら休んで行けと声をかける。

へばってないっすよとやせ我慢をしたリョウに、何の用だ?と本城が聞くと、俺…、このままでは「ラストブライド」の最終セレクションに落ちます。でも俺…、このオーディションに受からないとダメなんです!やっと受かったチャンスなんです!ハリウッドで成功するのは、雄太と夏の為でもあるんです!と訴える。

門脇さんから聞いたよ、弟と妹の面倒見ているそうだな…と本城は答える。

アカデミー賞取って、その受賞スピーチで、アメリカのどっかにいる母ちゃんに、あんたのこと恨んでないって、大変だけども、母ちゃんのこと大好きだから、大丈夫だって…言いたいんです。そしたら、又いつかみんなで…、本城さん、俺にアクション教えて下さい!お願いします!と言うと、リョウは深々と頭を下げる。

しかし本城は、アクションを嘗めるな!受けを会得するだけで3年かかると言われているんだろ叱る。けどな…、本気で学ぶ気持ちがあるんだったら…、アクションは個人競技じゃない。受ける相手があって成立するチームプレイだ。分かるか?と教え、お前、何か願いないのか?と聞く。

良いっすよ…とリョウが言うので、お前の分だと言いながら、小銭を出した本城はそれを賽銭箱に投げ入れてやる。

本城は、「HAC」のトレーニングジムにリョウを連れて来て、他のメンバーたちに事情を話すと、ほんまに言うとるんか?言うとくけど、うちらの練習はメチャメチャ厳しいで!と美咲が釘を刺す。

唯一の救いは、うちの手料理喰えることだけや…と美咲が続けたので、美咲さんが手料理!…ですか?とリョウは驚く。

キャラが違うと言いたいんやろ!食べたら、絶対土下座するで!と美咲は自慢する。

その後、いよいよ「HAC」の練習が始まる。

ドラゴンフォーの現場でも、神社の境内での殺陣の練習も毎日本城はリョウに付き合う。

リョウは、夏や良太の前でも、1人黙々と殺陣の練習に励む。

毎日、神社で練習する本城とリョウの姿を観ていた神社の巫女さんが、お茶を振る舞ってくれたりする。

「ラストブレード」のオーディション会場では、チャン監督が何事かに怒り興奮状態だった。

海野吾郎の結婚式が行われる。

お相手は美術スタッフの静子だった。

披露宴では、海野のスーツアクターとしての思い出の写真が何枚も披露される。

その中には、セーター服姿の海野の写真もあった。

海野が「HAC」に入ったいきさつ、30年間も継続して来たことがナレーションで会場に流れる。

その直後、入口から会場に乱入して来たのは美咲で、余興用のマスクをかぶって悪役を演じている。

螺旋階段の上に現れたのはドラゴンブラック役の一ノ瀬リョウで、変身ポーズを取ると、ドアの背後に引っ込むが、余興用に二階で着替え中のメンバーたちが間に合わないでいる様子を見ると、又階段上に現れ、変身ポーズの芝居を繰り返し、場内から失笑が起きる。

花嫁席に座っていた新婦の静子は、いつの間にか、隣の席に座っていたはずの海野がいなくなっていることに気づく。

お馴染み、ドラゴンフォーの面々が会場に出現、余興的なアクションを披露した後、レッドドラゴンがマスクを外すと、それは海野吾郎だった。

海野は、静子〜!俺が守るから!と新妻に宣言をする。

会場に参加したリョウは、何か、良いっすよね…と表情が和らぎ、美術スタッフの徳永は、静子からお世話になりました!と礼を言われると、早く現場に戻って来いよ!と祝福する。

すっかり出来上がって、二次会の店から出て来た面々は、酩酊した海野をおぶって帰る静子のたくましい姿に目を細める。

三次会に誘われたリョウだったが、マネージャーから電話があって…と言い訳し、すぐに、弟と妹が待っているんで!と本音を言う。

それを聞いた美咲は、カモン!と全員を誘う。

リョウのマンションにやって来た「HAC」メンバーたちが、良太と夏の相手をしている間、美咲が自慢の手料理を作り始める。

本城は、リョウのDVDコレクションを観て、「007」が全部揃っていることや、世界の三船の作品がある事を知ると、メキシコでは、日本人のことをミフネって言うんだぜと豆知識を披露する。

その時、リョウのマネージャーの門脇がやって来て、「ラストブレード」のオーディションに受かったと伝える。

リョウやメンバーたちはそれを知ると感激し拍手が起こると、

本城も、良かったな!とリョウに声をかけ、リョウは、門脇の手を握りしめると、ありがとうございますと感謝する。

その後、門脇も部屋にあげて、みんなでお祝いをすることにする。

翌朝、本城はアパートのドアをノックする音で目が覚める。

ドアの外に立っていたのは森田真澄だった。

26の時から、下落合の「HAC」でお世話になり、リーダーには良くして頂いたんですけど、俺、辞めさせて下さい!俺もこれまで、人の気持ちに残るようなアクションをやって来ました。でも…、リョウ君に会って分かったんです。

成功する人間とそうじゃない人間は違うって…

グリーンになったばかりじゃないか…、お前本当に良いのか?決めるのは早いんじゃないか?と本城が諌めると、じゃあ、いつ決めれば良いんです!俺はリーダーは特別な人間だと思ってます。夢を追い続けられる、俺たちのヒーローです!でも、俺は…、すみません!と頭を下げ、森田は足早に帰って行く。

「ラストブレード」の製作現場では、主演のフェン・ロンが嫌だ。降りると言い出し、制作スタッフは騒然としていた。

緊急ミーティングで、今からでも遅くない。ハリウッド本社からの電話で指示を受けた女性プロデューサーは、CGとワイヤーを使うように。600万ドルを無駄にするなとチャン監督に伝える。

その日のアクションシーンの為に、メイク室で待機していたリョウは、突然、今日は終わりだとスタッフから聞かされる。

スタッフミーティングでは、脚本を変更し、日本の戦国時代をそっくり中国に変更出来ないか?とか、ソウルで撮影したらどうか?あそこなら高速道路まで使えるなどと意見が飛び合っていた。

どうなるんだよ…と頭を抱えていた石橋は、ふと何事かを思い出すと、チャン監督に声をかける。

サウナに入っていた本城の所にやって来た石橋は、覚えてますか。私のこと…と言いながら、サングラスをかけてみせる。

ああ…、あの時の…と本城は思い出すが、場所を変えませんかと言う石橋に、今入ったばかりだからと答えると、じゃあ…と言った石橋は、室温をわざと上げると、自ら着ていたコートを脱いで本城の隣に腰を降ろす。

実は、今撮影中のハリウッド映画で、フェン・ロンが降りたんです。日本に来て、寿司喰っただけで香港に帰って行った。

クライマックスシーンをあなたに演じてもらいたいと、チャン監督は言っています。確かに危険なスタントです。でも、誰もやったことがない。あなたにしか出来ないアクションなんです。やって下さい。お願いします!と深々と頭を下げる。

無言で考えている本城に、日本にはアクション俳優はいないって言ってるんですよ!と言う石橋のあおり言葉を聞いていた本城の脳裏には、これまで色々聞いて来た言葉が蘇って来る。

お父さん、俳優じゃないじゃない…と言う歩の言葉

ハリウッドで成功したいのは、雄太と夏の為なんです!と言うリョウの言葉

その後、自宅の近くの踏切で、電車が通り過ぎるのを待ちながら考え込んでいた本城だったが、電車が通り過ぎ、遮断機が上がると、ランニングを始めながら、徐々に微笑みが浮かんでくる。

そのまま「元村薬局」に飛び込んだ本城は、凛子!今度ハリウッド映画に出るんだ!スタンリー・チャン監督の映画だ。今度こそ間違いない!やったよ!と喜んで報告する。

どんな役なの?と凛子が聞くと、主人公の相棒の白忍者役だ!と本城は答える。

夢が叶ったわね…と喜ぶ凛子

CGは使わない。ワイヤーも使わないんで、フェン・ロンは香港に帰っちゃったんだと本城が教えると、あなた、バカじゃないの!あなたの首、もう治らないんだよ。

あなたはいつまで戦国時代に生きているつもりなの?そんな映画バカなところが嫌いなのよ!勝手にスタントでもやって、勝手に死ねば良いじゃないの!そんな事言わせないでよ!と凛子は積年の思いをぶつける。

本城は一言も言い返せず、すごすごと帰るしかなかった。

凛子の方も、床に落ちた薬箱を拾いながら泣き出していたが、奥の部屋から、そうした凛子の様子を覗いていたのは母と娘の歩だった。

「HAC」のトレーニングジムにやって来たリョウから、本城のハリウッド映画出演の話を聞いた美咲たちが、準備時間がなさ過ぎる!私たち使い捨てられるんや!と猛抗議をする。

止めたんだよ!でも、リーダーは、日本人のアクションを見せるんだって…とリョウも落ち込む中、俺はリーダーの気持ち、分かる気がする…、みんな、いつか自分の名前と顔を大スクリーンに写したい思ってこの仕事やっているんだろ?夢はいつか叶うって信じていたよな?と呟いた海野は、リョウ君、石橋って言うプロデューサーに連絡取れないかな?と頼む。

自分のアパートのベッドに腰掛け、電気も点けず考え込む本城だったが、そこに電話がかかって来る。

本城が無視していると、自動的に留守電に切り替わるが、電話してきたのは凛子だった。

あなたの気持ち、私が一番良く知ってるのよ。でも又、きっとチャンスは来ると思うわ。今度の仕事は止めて!嫌な予感がするの…と凛子は留守電に残す。

その言葉をじっと聞いている本城。

翌日、セットを訪れた本城は、飛び降りる二階部分のセットの広さなどを美術スタッフに確認していた。

そこへやって来たリョウは、本城を外へ呼びだすと、本城さん、子の仕事、俺の為に引き受けてくれたんなら、止めてもらえませんか?と頼む。

俺は自分の為にやっているんだ。ガキの頃、身体弱くてな…、家にはいつもお札やお守りで一杯だった。だから、ブルース・リーに憧れたんだ。俺はブルースになるためにこの世界に入った。

好奇心の赴くまま色々武術をやってみた。毎日ぶっ倒れるまで練習し、凛子にも迷惑をかけた…

でも、なれないんだよな…。日本ではブルース・リーになれないんだ…と本城が嘆くと、今でも十分に立派じゃないですか!と本城は反論する。

分かってんだよ…。でも、ブルースが俺のヒーローだったように、俺も誰かのヒートーになりたいんだ。

俺がやらなきゃよ、誰も信じてくれなくなるぜ、アクションには夢があるってこと…。

リョウ!お前も誰かのヒーローになってくれ…そう告げた本城は、一人黙々とトレーニングを開始する。

それをじっと見つめるリョウ。

いよいよ本番の日、スタジオ前にやって来た本城に、サンキュー!と握手を求めスタンリー・チャン監督。

石橋と通訳が同席する中、スタジオ前のテント内のテーブルで、ハリウッド側の分厚い契約書を説明される本城。

撮影中、大怪我をする可能性がある…とくどくどと説明される中、本城は説明途中にも関わらず、自らサインをしてしまう。

歩のケイタイには、リョウからの連絡が入っていた。

控え室で、白忍者のコスチュームに着替えた本城は、静かにマスクを取り上げる。

その頃、凛子は、西尾俊久(及川光博)なる男とレストランで見合いをしていた。

やっと、凛子さんをお食事に誘うことができた!と嬉しそうに西尾は話す。

凛子さんて、結構スポーツをされる方なんですね?僕もゴルフはやります。元村薬局はビルに立て替えた方がお金になります。そうすれば、働かなくてもお金が入るんですと、得意の金の話ばかりして来る。

本城に出番を知らせるスタッフの声が聞こえ、本城は立上がる。

レストランでは、まだ西尾が金儲けの話を得意げに話していた。

大半の日本人は頭を使ってないと思うんです。薬屋で商品を売ってたって、売上は20%しかない。だったら、売上が上がる業種に替えた方が良いと言うので、でもご近所には遠くへ行けないご老人もいるのに…と凛子が言い返すと、僕は坪単価の利益をあげることを考える…などとまだ西尾が自説を続けるので、だったら私、バカで良いです。西尾さん、仕事に命賭けられますか?と凛子は聞く。

どう言うことですか?と戸惑う西尾に、武士とは死ぬことと見つけたり…、失礼します!と言い残し、凛子はテーブルを去る。

外へ出て、タクシーを停めようとしていた凛子に声をかけて来たのは、バイクに乗って来たらしきリョウだった。

スタジオ前で、対決する黒忍者軍団と対面した本城は、その前列に並んでいるのが、「HAC」メンバーたちだと気づく。

さらには、辞めたはずの森田まで忍者姿で立っていた。

すんません!リーダーと詫びる森田。

いつもは斬ってばかりなんで、たまには切れれる側に廻ってみたよ。思い切り暴れて来い!と本状に言葉を書けて来たのは、首領役を自ら買って出てくれたらしい松方弘樹だった。

その黒忍者部隊を引き連れ、本城はスタジオに入って行く。

チャン監督は、セットの松明に灯をともすように指示する。

3階部分のセットに登った本城だったが、スタッフがお願いしますと声をかけても、もう少し時間下さいと頼む。

下のベースで様子を観ていた石橋は、どうしたんだよ?伝説のスーツアクターさんよ!と、自分が推薦した手前、チャン監督の横で苛ついていた。

その時、リーダー!と声がかかり、リョウが凛子と歩をスタジオ内に連れて来た事を知らせる。

それを観て頷いた本城は、準備出来ました…とスタッフに告げる。

レディ!アクション!と声をかけるチャン監督。

3階部分から2階部分に飛び降りた白忍者役の本城は、そこで出現した黒忍者首領松方弘樹との一騎打ちを始める。

松方有利の展開になり、欄干に追いつめられる本城は、松方の一振りで、欄干が斬れ、そのまま後ろ向きに地上に落下する。

しばし、動かない本城をスタッフたちは心配そうに見守るが、黒忍者たちが周囲を取り囲むと、いきなり立上がり応戦し始める。

次々に押し寄せる黒忍者軍団。

百人斬りのシーンは続き、「HAC」メンバーたちとの対決になる。

少しよろめいた本城の姿を観たメンバーたちは、本城が相当無理をして戦っていることに気づく。

真鍋が斬られ、森田が斬られ、美咲は、リーダーの気持ちを推し量り、泣きながら倒れる。

続いて、海野との対決になる。

粘ったアクションの末、海野も倒れる。

そこに黒忍者が放った火矢が飛んで来て、その一部が白忍者の右足をかすめ、衣装に火が付く。

松方弘樹率いる黒忍者部隊が迫り、松方が、やれい!と命じる。

白忍者の忍び装束全体に火が回り、白忍者は最後の黒忍者たちを斬って行き、松方演じる首領も倒す。(スローモーション)

そして、セット内の池の中に飛び込む。

スタジオ隅で観ていた凛子が、娘の歩をしっかり抱きしめる。

グリーンスクリーンの本能寺セットが炎で包まれる中、立上がった白忍者は、焦げてぼろぼろになった装束姿でカメラに向かって刀を構える。

それを観たチャン監督も石橋も大喜び。

その時、本城は後ろの池に倒れ込む。

驚いた凛子と歩が池に駆け寄り、凛子はコート姿のまま池に入ると、気絶していた本城を抱き上げる。

遅れて駆け寄るスタッフたち。

リーダー、起きて下さい!

後日、いつものように、遊園地の実演ヒーローショーのセット裏で、ナレーションを担当していた真鍋は、演技を終え戻って来たメンバーから水をもらって、その日の迫真の出来を褒められたので、演技の神が降りて来たな…と嬉しそうに自画自賛する。

これを観て、今の仕事を続けなさいって言う医者はいないでしょうね…と、レントゲン写真を観ながら、病院の廊下で凛子に説明する医者。

これまでも何度も止めて来たんですけど聞かないんです。

これからは監視します。彼の側でずっと…と言いながら、病室内でベッドに寝ている本城と、その横にいる歩の姿を見つめる凛子。

全身包帯だらけの本城は、部屋の中に戻って来た凛子に、元気になったよ、ほら!と言いながら、腹筋の真似をしてみるので、凛子は呆れて、止めなさい!と叱る。

それでも本城は懲りないで、何度も腹筋の真似をして見せる。

エンドクレジット

トレーラーの中にいたリョウが外に出ると、そこには外国人の女の子が大勢おり、リョウにサインのねだる。

それに応じ始めたリョウだったが、女の子の中に1人、帽子をかぶった女性が交じっていることに気づく。

その女性がゆっくり顔を上げると、リョウの顔が明るくなる。

ハリウッドでは、ダメなプロデューサーたちが多く、彼らが映画をダメにしているんだ。

映画は監督のものだ!とディレクターチェアに座って、スクリーンに向かって主張するチャン監督。


 

 

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