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超高速!参勤交代

かつて、脚本を何より重視したと言われる松竹の城戸四郎氏を記念しても設けられた「城戸賞」受賞作の映画化。

映画化前提の脚本新人賞のはずなのだが、過去、この受賞作を元に実際に映画化された作品はそう多くないし、ましてや、興行的に成功した例を私はほとんど知らない。(脚本から小説化を経て映画化された「のぼうの城」くらいか?)

何が原因なのかは分からないが、不毛な賞のような印象を持っていた。

そもそも「良い脚本があれば良い映画が出来る」と言う城戸氏が持っておられた理念自体が、既に過去のもののような気がしていたのだ。

確かに「良い映画」にはなるかも知れないが、「良い映画=大衆に受ける映画」ではないだろう。

「良い映画」と言うだけで客が呼べたのは、娯楽が少なかった戦後のわずかな期間だけだったのではないか?

一握りのマニアが褒めるだけでは、映画の成功とは言えないだろう。

そもそも「良い脚本があれば客が呼べる」と言う発想の裏には、哀しいかな「金をかけなくても」と言う貧乏臭い言い訳が日本映画にはあったと思う。

だから、60年代の松竹などは、栄光の座から滑り落ちたのだ。

「良い脚本にふんだんに予算を投ずる」と言う発想にならなかったことが、客を遠ざけた一因だったような気もする。

低予算でも実現出来るような内容なら、出来上がる映画も「地味な内容」になりがちで、興行性は著しく弱くなる。

城戸賞受賞作がなかなか日の目を見なかった原因もその辺りにあったのではないか?

「のぼうの城」は、脚本の面白さに加え、かなり予算を投じていたからこそ客が呼べた好例だろう。

今や、ぶっ飛んだアイデアを持っている新人ほど、予算で制限が多過ぎる映画などを選ばず、最初から「小説」や「マンガ原作」の方へ応募するのではないか?

この作品は、「のぼうの城」ほど大掛かりな話ではないが、同じように、どこか時代劇コミックを読んでいるような印象があり、軽いタッチで奇想に富みそれなりに面白く仕上がっている。

もはや、昔の時代小説を映画化したようなシリアスタッチなど陰も形もない。

それは同時に、かつてTVで良く見かけた「明朗TV時代劇」の雰囲気にも近いものがある。

シリアス、リアリズムと言うより、通俗味が強い、お気楽に見られる大衆時代劇の感覚。

ナンセンスのような人情もののような…

おそらく、今の脚本の傾向と言うのは、多かれ少なかれ、こうした「コミックの原作」のような雰囲気になっているのかも知れない。

書く方もそれが普通だし、読む方もそれが普通になっているのだろう。

個人的にも、この手の軽いタッチは嫌いではないし、ユーモア時代劇は大好きである。

松竹メインの映画にしては珍しく、アクションシーンもまずまず迫力はあるし、ユーモア表現も成功している。

忍者好きとしては、忍者が出ている事自体は嬉しいのだが、忍者アクションがやや平板かな?

忍者たちにもうちょっと活躍して欲しかったが、アクションに強いとは言えない松竹にしては頑張ったと言うべきかも知れない。

ご都合主義の連続や、ギャグやパロディとして描いているのか?と思えるほどのパターン化した悪役キャラなど、若干気になる部分もないではないが、まずは娯楽時代劇として成功している部類だと思う。

ただ、悪役が退散して以降のラストのもたつき感は何とかならなかったのか?

せっかく冒頭からテンポ良く進行して来たリズムが、最後の最後でもたついてしまったのがいかにも惜しまれる。

明朗さを強調する為か、悲劇性を全部なくしてしまった結末も、若干首をひねりたくなる。

とは言え、長らく不振が続く松竹には、今後もこの手の映画をコンスタントに作り続けて欲しいものだ。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

2014年、「超高速!参勤交代」製作委員会、土橋章宏脚本、本木克英監督作品。

8代将軍吉宗の時代

参勤交代は全国の大名家に取って苦行でした。(アニメによる参勤交代の行列描写)

1年おきとは言え、かかる費用は莫大。妻子は江戸に住まわせられ、言わば人質同様。

徳川幕府としては、諸藩の忠節心を見極める為だったのでしょうが…(と、茂吉によるナレーション)

享保20年…

磐城国、湯長谷藩(いわき市)

藩主内藤政醇(佐々木蔵之介)は、1年間の江戸での勤めを終え、10日がかりで国元に帰り着き、思わず顔をほころばせていた。

馬上の政醇は、大義であった!と同行した家老の相馬兼嗣(西村雅彦)にねぎらいの言葉をかける。

同様に、先頭を歩いていた秋山平吾(上地雄輔)、今村清右衛門(六角精児)、増田弘忠(柄本時生)、荒木源八郎(寺脇康文)らが、帰り着いたら真っ先に何をやりたいかと言い合う。

そんな一行に気安気に声をかけて来たのは、畑仕事をしていた農民の茂吉(神戸浩)だった。

政醇も気安く応じ、ええのが取れたよ!と言いながら、茂吉が持って来た土の付いた掘りたての大根をその場でかじり、旨い!良い土の味がする。今年も旨い漬け物を食わせてくれと声をかける。

湯長谷城

やっぱり国元が一番だの〜…、ようやく城に帰り着いた政醇は安堵していた。

台所では、おときとおつるが、独身の殿様はまだ側室をおもらいにならないのかしら?などと噂話をしていた。

しかし、そんな2人も、政醇の厠のことには同情していた。

厠に入っていた政醇は、戸を半分開けていながらも、狭いの〜と文句を言っていた。

そんな厠に近づいて来たのは家老の相馬で、そろそろ修養のお時間ですと外から声をかける。

分かっておる!と中から政醇が応えるが、昨日もそうおっしゃられましたのでと念を押した相馬は、戸を閉めるなよと中から言われ、はっと頭を下げた瞬間、尻が戸に当たり、戸が閉まってしまう。

その瞬間、中から政醇が慌てふためいたように飛び出して来る。

その後、政醇は、剣や弓の稽古に励む家臣たちの様子を見学に出かける。

増田相手に剣の稽古をしていた秋山は、今日は調子が悪いと言い、一方的に止めてしまう。

その後、鯛を裏返して朝食を食べていた政醇は、やはり鯛は裏返して食べる二日目が旨いの〜と悦に入っていたが、側に控えていた相馬は、最近とみに財政が思わしくありません。そろそろ年貢を上げねば…と苦々しそうに報告する。

しかし、政醇は沢庵を旨そうに食い、これで十分ではないか。我々が我慢すれば良いだけじゃなどと言うので、大体殿は人が良過ぎます。飢饉の時も他藩に米を送ったり…と相馬は苦言を呈する。

すると政醇は、我が藩の白水山の金山に望みがあればな…と呟くので、あれは人騒がせでした…と相馬も応じる。

そんな所に、一大事でござる!と叫びながら早馬で江戸から駆けつけて来たのは江戸家老瀬川(近藤公園)で、書状を政醇を手渡しながら、5日以内に参勤交代せよとの上様のお達しです!と言うではないか。

老中松平信祝が、当藩の金山の届け出に偽りがあるとのことで…と瀬川が説明すると、蔵にはこおろぎが鳴いていると言うのに…と政醇は呆れる。

しかし、参勤交代せぬと当藩はお取り潰しになりますと瀬川は無念がる。

政醇は、困惑したように、上様からの書状に目を落とす。

タイトル

江戸城松の間では、将軍徳川吉宗(市川猿之助)が松平信祝(陣内孝則)に、湯長谷藩の金山の話は真か?と念を押していた。

信祝は、隠密が金が出たと報告に参りました。このような嘘をつく藩には仕置きをするのが一番でございますと平伏して応える。

少し酷ではないか?と、同席していた老中首座松平輝貞(石橋蓮司)は信祝の案に疑問を投げかけるが、武士の本分をどれだけ見せられるかが分かるはずですと信祝は応える。

大義であった!と信祝を下がらせた吉宗は、残っていた輝貞に、如何致す?と問いかけると、輝貞はただ、試金石となりましょうな…と応える。

その頃、湯長谷藩の政醇の元に集まった家臣たちは、江戸まで60里はあり、通常では8日はかかる参勤交代を5日でやるとなると、1日10里以上は進まねばならず、想定無理だし、金もねえ…、又参勤交代をするとなると、何やかで382両は必要になる!と相馬は資産額を提示し、絶望的な表情になる。

それでも、政醇は、ご老中の狙いは金山よ…と冷静に読んでいた。

賄を贈ってみては?と相馬は提案するが、何の咎もない我らが何故に賄など!と反対意見が出る。

いっそ無理にでも謹慎し、直訴しては?と荒木源八郎が提案するが、降参しろと言われているのに断れば謀反と思われると異論が出る。

有り金を全部送り、自ら蟄居するのはどうか?と秋山平吾が提案したので、荒木が怒りだしてつかみ掛かって行く。

そうした内輪もめを観ていた瀬川は、これも拙者の不徳でござる!あの時、何としても食い止めれば良かった…と悔む。

(回想)九官鳥用の餌をすり鉢ですりつぶしていた松平信祝は、今回のことをなにとぞご容赦を!あんまりです!と頼みに来た瀬川に、御上の沙汰が不満か…?と睨みつけ、滅相もないと瀬川が否定すると、ならばこれを食ってみろ!とすり鉢を差し出して来る。

我が藩はこれまで誠実に御仕えして来たはずです!と瀬川は頭を下げるが、そんなことは誰でも言う!と信祝が癇癪を起こして部屋に入ろうとしたので、瀬川はすり鉢を手に取り、取りの餌を食い始める。

良う食うた!と喜んだ信祝だったが、しかし、もはや決まったことだ!下がれ!と怒鳴りつけて来る。

(回想明け)政醇は立ち上がり、そうよ、決めたぞ、直ぐに仕度しろ!と家臣たちに命じる。

驚く家臣たちに、金はなくとも参勤交代が出来ることを見せつけてやろうぞ!と政醇が檄を飛ばしたので、我が藩を潰すのでございますか!殿は、上様に漬け物を献上したりするくらいの貧乏なのに…と相馬は嘆く。

その頃、屋敷内で甲賀の隠密頭夜叉丸(忍成修吾)が控える中、酒を飲んでいた松平信祝は、今頃、奴等肝をつぶしていることであろう…とあざ笑っていた。

座敷にやって来た隠密に対し、金山のこと、大義であったとねぎらう。

湯長谷藩の金山の情報をもたらした隠密は、いささか骨が折れましたが…と自慢げに応える。

褒美を取らすと言って立上がった信祝は、その場でその隠密を斬り捨ててしまう。

そして、上座に座ると、鯛は旨い所が少ないの〜と言いながら、目の部分だけを喰い始める。

そやつをすぐに処分しろ!と命じられた甲賀の虎之助(和田聰宏)と小太郎(冨浦智嗣)は、いきなり殺された仲間の死体を呆然としながら運び出す。

芋侍には骨になってもらうぞ!と嘲笑する信祝に、黙って酌をしてやる夜叉丸だったが。

湯長谷城では、相馬が地図を前に、街道沿いに進んでいてはとても間に合わないので、山を突っ切り直線距離を進むしかないと説明していた。

山と言っても、間道や獣道があると言うのだ。

そして、宿場町では足軽たちを雇い、役人どもの目を交わす。すでに瀬川が準備の為に先発していると言う。

しかし、気がかりは山…、山で走るのは至難だからだと言う。

その話しを黙って聞いていた政醇が、いきなり立上がって鴨居架けにかかった槍を手にしたので、相馬は自分が失言をして怒らせたと思い謝る。

次の瞬間、政醇が槍を突きだしたのは天井であった。

くせ者が落ちて来て庭に逃げる。

何奴!と政醇が誰何すると、天井に潜んでいた男は、庭の奥の木の陰に身を潜めていた者に手裏剣を投げて仕留めると、くせ者はあちら、公儀隠密でござる、この屋敷は無防備過ぎて隠密だらけでござると言うと、自分は戸隠流の雲隠段蔵(伊原剛志)だと名乗る。

湯治に来ていてたまたま話を聞き込み、手を貸そうかと…、東国は戸隠流の足下のような物、山のことなら何でも知っていると言う。

すると、相馬が算盤を弾き出し、こやつの手を借りれば参勤交代は140両ですみますと言い出す。

段蔵はそんな相馬の近くに来て、自分の雇い料10両と酒を好きなだけ…と言いながら、算盤を弾いてみせる。

その後、案内役として、他の藩士たちにも段蔵を紹介した相馬は、用意しておいた刀を選べと言い出す。

それは竹みつだったので、一同驚くが、普通の剣を腰にしていたのでは重くて走れん。お供の者が持つ道具類も大半を置いて行けと相馬は命じる。

今後の参勤交代は過酷な物になる!我が藩の存亡に関わるので、みんな、走るぞ!と政醇自ら声をかけ走り出したので、全員その後に付いて走り出す。

二日目

えっさ!こらさ!とかけ声と共に山道を走り、湯谷から次の役人がいる高萩までの直線コースを進む一行。

先に瀬川が手配していた地元の中間たちと合流するが、急な事だったので、50人はいる中間が25人しか揃わなかったと言う。

そして、瀬川は直ぐに、次の取出宿に向け、次の手配をするため去って行く。

困惑する相馬に、今こそ兵法の見せ所、何とかせよと政醇は無茶を言う。

高萩宿にやって来た一行は、下に〜、下に〜と通常の参勤交代の格好で通過して行く。

見守る宿役人は、湯長谷藩の参勤交代のようだが、確か、2、3日前にも来たような気がするが…と首を傾げる。

宿場の端に来た先頭部分の荒木たちは、周囲の仲間たちにかねて打ち合わせ通り、宿場の裏手を廻って後方に戻って行く。

そして、参勤交代の末尾に到着すると、その後に付いて何喰わぬ顔で行進を始める。

これで、25人の行列が100人にも見える策略であった。

昔、楠木正成公が、かかしを兵隊に見せた故事もある…と荒木は自慢げに呟く。

馬に乗って列に加わっている政醇に、随行していた段蔵が、殿は駕篭には乗らぬのでござるか?通常、馬に乗るのは家老のはず?と聞くと、余は駕篭が嫌いじゃと政醇は答える。

その直後、政醇たちの参勤交代の列は、反対方向からやって来た水戸藩の参勤行程の列とすれ違うことになる。

先方の列の駕篭が、政醇が乗っているはずの駕篭の横で止り、扉が開いて、中から水戸藩主徳川宗翰(前田旺志郎)が、政醇殿か、又あの大根が食べたいの〜…、顔を見せいと声をかけて来る。

しかし、政醇が乗っているはずの駕篭の扉は開かず、一行は緊張するが、その時、馬上の政醇が、本日は体調が優れぬので失礼つかまつると腹話術で声を出したので、それに気づいた段蔵は、山彦の術!と感心する。

それを聞いた宗翰は、ちょうど八幡神社に詣でた帰りなので、お守りを一つ上げようと言いながら差し出す。

すると、政醇の乗っているはずの駕篭から素早く手が伸びてそのお守りを受け取り、馬上の政醇は、ありがたき幸せにござりますると礼を言ったので、宗翰の一行は動き出すが、その時、宗翰の乗っているはずの駕篭の方から、甲高い奇妙な声が聞こえたので、宗翰の駕篭はぴたりと止り、宗翰が不思議そうに振り返る。

その直後、増田弘忠が奇妙な声を出して見せたので、宗翰は聞き違いか…と納得したのか、そのまま列を進めさす。

身と藩の参勤交代を無事やり過ごした後、不審に思った段蔵が駕篭の中を空けてみると、中にいたのは晴れ着を来た猿だった。

菊千代じゃ。鉄の爪を持っているから気をつけろと政醇は教える。

その後、臨時雇いの中間たちと別れ、又、政醇と山に分け入った一握りの側近たちは、山道に慣れた段蔵に急かされながら、息も絶え絶えに走り続ける。

そんな一行を追尾する謎の旅人が数名いた。

夕方になったので、一同、食料調達をする時間になるが、皆疲れきって動けず、獲物は何もない。

それを見越した段蔵が、先に捕っておいた大量の雉や酒を差し出したので一同大喜び。

料理担当の今村清右衛門が腕を振るうことになる。

そんな中、近隣に色々調達に行くと言い出した相馬は、くれぐれもこの酒は飲むんじゃないぞと釘を刺し出かけて行く。

その頃、江戸の松平信祝は、戻って来た夜叉丸の報告で、政醇たちが参勤交代で江戸に向かっていると知り、足止め出来るであろう!と激怒していた。

夜叉丸が恐縮しながらも、敵の道案内にいささか腕の立つ相手がおります故…と言い訳すると、殺せ!必ず止めよ!と信祝は怒鳴りつける。

荒木たち一行は、飲むなと言われて飲む酒ほど旨い物はない!等と言いながら、すっかり焼き雉を肴に、山中で良い気分になっていた。

その一行を襲撃しようと近づいて来た甲賀隠密衆は、草むらから出現した雲隠段蔵にくないを投げるが買わされる。

そのくないの形を観た段蔵は、服部の手のものか?と聞き、狙う獲物は同じじゃ。俺は牛久まで一緒に行き、そこで金をもらえば後は知らんと声をかけて来る。

雲隠段蔵の名を聞いた甲賀衆は、東国一と言われた抜け忍の?と呟く。

一方、たき火を囲んでみんなが浮かれている中、1人酒にも手を出さず、まじめに態度を崩さない秋山に近づいた政醇は、飲まんのか?と声をかける。

こんな綱渡りのような企てが巧く行く訳がございません!と秋山は呟く。

では、田舎の小藩は幕府の言いなりになって良いのか?と政醇が聞くと、何故私のような者をお加えになったのですか?と秋山は聞き返す。

強いだけでは勝てぬ。御主のような冷静さも必要じゃ。たまには御主も羽目を外しても良いのではないか?と政醇は諭す。

そこへ戻って来た相馬は、みんなが酒を飲んでいたので怒り狂うが、馬を用意しましたので、殿は先に次の宿へ急がれ、「鶴屋」と言う旅籠で合流しましょうと政醇に提案する。

余だけ楽をするのか?と政醇が聞くと、足を怪我して江戸までは行けませんと相馬が答えたので、知っておったか…と政醇は感心する。

軟膏も用意しましたので…と言いながら、相馬は調達して来た薬も政醇に渡す。

そこに、段蔵がふらりと姿を現し、当たりを見回しておりましたと言う。

そんな段蔵に、道中、皆を頼むぞ!と頼んだ政醇は、これは我家の家宝じゃ、報償の代わりに受け取ってくれと小刀を手渡し、馬で出発する。

遅れて出発した一行は、江戸にいる政醇の妹琴姫の琴を噂し合う。

琴姫はこの中の誰を好いているかと言う他愛のない戯れ言だったが、みんな自分だとうぬぼれ合う。

今村までもがわしかも知れんなどと言い出す始末。

三日目

馬に乗って牛久に向かう政醇だったが、その牛久の宿では、湯長谷藩の下がり藤の家紋を持った「鶴屋」の女将が、まだ寝ていた飯盛り女たちを叩き起こし、その家紋を観たらすぐ知らせるんだよ。お尋ね者だとさと触れ回っていた。

その直後、その女中部屋に、良くもあたいの客を取ってくれたね!と怒鳴り込んで来た女がおり、二人の女のつかみ合いの喧嘩が始まる。

そのあげく、お咲(深田恭子)と言う女郎は、包丁まで振り回し始める。

その頃、一行を霞ヶ浦と言う所まで案内して来た段蔵だったが、今村が急に便意を訴えだし、さらに増田弘忠が肩に乗せていた菊千代までもが逃げ出す騒ぎになる。

それを追おうとした増田の目の前に狼が出現する。

一行はパニック状態になるが、そこに近づいて来た相馬が、酒と甘いもんはいかんぞ!と今井に声をかけると、狼に近づき、毛皮を取ったら300文にはなるかな〜…などと言いながら、狼をなではじめる。

しかし、今井は恐怖のあまり、漏らしてしまう。

その頃、「鶴屋」に到着した政醇は部屋に案内される途中、庭先に縛られていたお咲を見る。

部屋に落ち着いた政醇は、風呂から上がった後、女将に庭に縛られている女は何だと聞く。

悪い女で山猫みたいな子ですよと聞くと、そのお咲とやらを呼んでくれと政醇は言い出す。

お客さん、そんな好みですか?まじめそうなのにお好きですね〜…と女将は苦笑しながら引き下がって行く。

その頃、雲隠段蔵は、甘いな…、普通、旅の最初に半金、終に半金払うのが常識なのに、こんな所で全部渡すなんて…と、十両の入った袋を手にし呆れていた。

相馬たち一行は、牛久を前に、お堂の中で眠りこけていた。

これをもらえばもう用はないか…と段蔵は呟く。

一方、政醇に呼ばれたお咲は、何ださっきの貧乏侍か!と政醇の顔を見て馬鹿にしていた。

それだけ口が達者なら、腕力もあろう。腰を揉んでくれと政醇はうつぶせになって頼む。

信じられないような表情で、政醇に股がったお咲は、言われるがまま腰を揉み始める。

あんた、すんげえこってるね?とお咲が揉みながら聞くと、湯長谷から来た。ようやく士官の口は見つかったでな…、後2日で江戸まで行かねばならぬと政醇が答えたので、お咲は唖然とする。

そんな貧乏なのに、何で女なんか買うんだ?とお咲が聞くと、ちょっと間があって…、弾みじゃと政醇は答える。

あんた、まさか…、私の為に…、そんなことある訳ないよね…と自問自答したお咲は、急に立ち上がると着物を脱ぎ始める。

それに気づいた政醇は、何してんだ?と聞くと、お咲は、決まってるだろ!カッコ付けるな!と言い返したので、ああ…、それか…、今日は良い。お前の指加減がちょうど良いので揉んでくれるだけで良いと政醇は言う。

それだったら、楽だから良いんだけど…、噓じゃないだろうね?とお咲が疑うので、二言はない!と政醇は言い切る。

再び、政醇の腰を揉み始めたお咲は、政醇が枕元に置いた印籠に付いた下がり藤の家紋に気づく。

その頃、相馬は、お堂の前の井戸に腰掛け、水を飲んでいた。

空には雷が鳴り始める中、政醇の事を案じていた相馬は、バランスを崩し、背中から井戸の中にハマってしまい。そのまま落下してしまう。

お堂の中で眠りこけていた荒木たち一行は、突如、堂内に侵入して来た甲賀忍び衆から、刀を床に突きつけられ、全員目覚める。

刺客だ!と気づいた荒木たちは飛び起き、老中の手先か?と言い当て、嘗めんなよ!我らは武芸百般を究めし者たち。一騎当千、飛んで火にいる夏の虫じゃなどと口々に相手を罵倒し始める。

そして、含み笑いを浮かべて剣を抜いた一行だったが、それが竹みつであることを忘れていた。

今度は甲賀忍び衆の方が、子供の玩具相手か?と苦笑し、斬り掛かって来る。

菊千代は側の桶の中に身を隠し、一行は、ほとんど素手で対抗し始める。

そんな中、増田弘忠が斬られようとすると、何と、飛び出して来た菊千代が真剣白羽取りで助ける。

料理番の今村清右衛門は、持っていた小さな包丁で相手をする。

それでも、相手が悪いので、一行はお堂を後にして夜の闇の中を逃げ出す。

甲賀衆はその後を追って来るが、一行は突然現れた崖から全員落下してしまう。

甲賀衆が下を覗き込むと、下は急流が流れていた。

その頃、井戸から這い上がって来たのは、紙はザンバラになり、はだけた着物はずぶぬれ状態の相馬であった。

何とか、井戸の外に降りてお堂に向かった相馬だったが、中を覗くと、人っ子一人姿が消えていたので、神隠しだ〜!と叫んで腰を抜かす。

その頃、牛久宿では、役人が鶴屋に宿改めに来ていた。

お咲はと言えば、戸を開け放して用を足している政醇の姿を目撃し、部屋に戻って来た政醇に、何か用心でもしてるのかい?と聞く。

仔細あってな…と答えた政醇、わしの言えは世継ぎに恵まれん。心して育てよと修行僧に言われたんだそうだ。それでわしは、子守り女に育てられたんだが、その女が心を病んでおってな…、毎日折檻ばかりよ。

その度にわしは、暗い蔵の中に閉じ込められ…、それ以来、狭い所が苦手になって…、それで駕篭も乗らん。それでも、1日1日、その日だけ良ければ良いと思うようになった。小名浜の海が見えれば良い日…とかな。

その内に仲間も出来るようになった…、そう打ち明けた政醇は、黙って聞いていたお咲の両手首の縛られた痕から血が出ていることに気づき、相馬からもらった軟膏を取り出すと塗ってやる。

そんな政醇の態度を観ていたお咲は、ねえ、あんた…、追われてるよ。役人が探しているよ。早く逃げた方が良いんじゃないの?私、あんたが人殺しでも極悪人でも、今までの客よりはよっぽど良いと話しかける。

それを知った政醇は驚くが、でもわしは、ここで仲間を待たねばならぬ…と悩む。

やがて、役人たちが店の主人と女将を従え、部屋を改めに来るが、部屋の中はもぬけの殻だった。

役人たちが立ち去った後、そっと押し入れが開くと、中にはお咲と政醇が隠れていた。

かたじけない…と礼を言った政醇は、こんなことをしたら御主の身が危ないと案ずる。

するとお咲は、私もとっくに死んでいるんだ…と言いだす。

あたいは親に売られたんだ…と告白する。

(回想)少女だったお咲は、女衒に連れられて旅する途中、疲れただろう?足を揉んでやろうなどと優しい言葉で身体を触られ、着物を脱がされそうになる。

(回想明け)まだ男も知らなかったあたいに、その女衒は手を出しやがって、手込めにしやがって…。それからは客を相手に寝る毎日…、死んだ方がましさ…。殿様や紀伊國屋文左衛門だって同じ人間、クソもすれば女も抱く。偉い奴等は貧乏人を下人みたいに見下しやがる!とお咲は想いのたけを吐き捨てる。

それを聞いた政醇は、苦労したのじゃな…と同情する。

あたいが助かったって、今度は妹が売られる…と嘆くお咲は、突然何かを思い出したように、あんた、狭いの怖いんじゃなかったのかい?と言い出し、それを聞いた政醇も、あっ!と驚く。

その頃、別の料亭で芸者を上げて酒浸りになっていたのは雲隠段蔵だった。

店の主人が、あんまり無尽蔵に酒を飲む客を怪しみ、そろそろお勘定を…と頭を下げに来たので、鐘なら心配ないぞ、ここに10両ある…と相馬から受け取った金袋を取り出して見せる。

芸者は驚き、中を確認すると、みんな汚い古い金ばかりじゃないかと驚く。

古くたって金は金だ!と酔った段蔵はくだをまくが、畑仕事でもして来たのかい?と言いながら、金を触って汚れた手に顔をしかめた芸者を観てはっとし、自分で袋の中の金を全部取り出してみる。

それは、相馬が死にものぐるいでかき集めた、土の中に埋めてあったなけなしの埋蔵金のようだった。

馬鹿な奴!と言いながら立上がった段蔵は、ああ〜!と絶叫する。

四日目

翌朝、荒木たち一行は、流された川の下流の方の岩場にたどり着いていた。

その時、一行は、家老の相馬の姿が見えないことに気づき、神隠しだ〜!とおののく。

御家老は泳げない…と誰かが思い出し、尊い犠牲だったな…と全員で合唱して冥福を祈る。

そして、泣いている場合じゃない!御家老様の為にも江戸へ行くぞ!と一行の意気は上がる。

その後一行がたどり着いたのは、牛久を過ぎた藤代宿の近くのようだった。

牛久宿を通り過ぎてしまっていたのだ。

今から、殿の待つ牛久へ戻ろうか?と誰かが言い出すが、既に残された時間はなかった。

その時、すぐに牛久に飛脚を立てろと言い出したのは秋山だった。

自分たちはこのまま進もうと言い出した秋山の意見を聞いた荒木は感心する。

行くと決めたら行く!拙者とて湯長谷の侍だ!と答えた秋山は、必ず間に合わせるぞ!と声を上げ、一同それに続く。

その後、飛脚からの手紙を受け取った政醇は、馬の所に来ていた。

その頃、部屋で起きたお咲は、貝殻に入った軟膏が側に置いてあることに気づく。

そんな中、鶴屋に再びやって来た役人が、政醇の人相書きを主人と女将に見せていた。

それを観た2人は、これは、お咲の客だ!と気づき、お咲の部屋にやって来るが、もうお咲の姿も消えていた。

慌てて玄関先に出た女将たちだったが、そこにふらりと戻って来たお咲が、もう行っちまったよと教えたので、てめえ知ってやがったな?番所に突き出してやる!と主人と女将はお咲を捕まえようとする。

その時、待て!妹のことは何とかする!乗れ!と声をかけて来たのは、馬に乗った政醇だった。

お咲は、戻って来た政醇に驚くが、本能的に馬に飛び乗っていた。

政醇はお咲を後ろに乗せ、驚いて見送る主人と女将たちを尻目に走り去って行く。

その頃、荒木や秋山達一行は、山奥の吊り橋にたどり着いていた。

その橋はあまりに危なそうだったので、全員びくびくしながら渡りきるが、中に1人、途中で足がすくんでしまった者がいた。

鈴木吉之丞(知念侑李)だった。

渡り終えたみんなが向こう岸から励ます中、鈴木はどうしても足を勧めることができなかった。

その時、橋の今来た方に、不気味な人影が立っているのに全員気づく。

髪は落ち武者のようなザンバラ、着物ははだけ、顔は落窪んだ家老相馬兼嗣だった。

全員、幽霊が出たと思い、迷うて出られたか!南無…!と一斉に合掌して冥福を祈りだす。

しかし、相馬の姿は消えないどころか、嬉しそうに近づいて来たので、途中で怯えていた鈴木は迫り来る相馬の恐怖に勝てず、急に走り出すと仲間と合流する。

迫って来た相馬を前に、悪霊退散!と叫びながら竹みつで斬りつけた荒木は、痛がった相馬の頭から血が出ていることに気づき、もしかして生きておられますか?と聞いたので、相馬は、当たり前じゃ!と怒る。

五日目

山道を馬で走っていた政醇とお咲は、突然、馬の尻に手裏剣が刺さり、驚いて暴れた馬から落下する。

その周囲を待ち構えてい甲賀衆が取り囲む。

内藤政醇と知ってか?と問いかけながら身構える政醇。

広義隠密か?隠密は斬り捨てごめんじゃ!と言い、近づいた1人を斬り捨てると、それを観た小太郎が、居合いの抜刀術です!と仲間たちの知らせる。

もう1人を斬り捨てた時、おい!刀を捨てろ!と政醇の背後で声がかかる。

お咲を捕まえた虎之助だった。

卑怯!と政醇は叫ぶが、忍者は勝つ為なら何でもする!と虎之助は答え、藩の一大事に女郎などにうつつを抜かしやがって!それでも大名か!と嘲る。

それを聞いたお咲は驚く。

身分など関係ない!わしはその女を好いとる!と答えた政醇は、刀を捨てれば、この女を助けてやると言われ、おとなしく刀を地面に置く。

それを観たお咲は、何やってんだい!と呆れるが、虎之助は、やれ!と小太郎に命じる

小太郎が、跪いた政醇を斬ろうとしたその時。待て〜!と声が聞こえ、馬に乗った男が近づいて来る。

馬から降り立ったその男は、信祝様の使者だと名乗り、政醇を生きて江戸まで連れて来いとのことじゃ。自らとどめを刺したいそうだと言う。

政醇に近づいたその男は、いきなり小太郎を斬り捨てる。

それに驚いた虎之助が、お咲を放して駈け寄ろうとすると、政醇が刀を取り斬り捨てる。

御主は?!政醇は助けてくれた男が、雲隠段蔵の変装だったと知り驚く。

助かったぞ!段蔵!御主、生きておったか!みんなは、隠密に襲われ散り散りになったらしい…、良く来てくれたな〜、逃げても良いものを…、御主こそ男の中の男よと政醇は段蔵を褒めちぎる。

それを黙って聞いていた段蔵は、殿!時間がありませぬ!と忠告する。

どうだな、皆、首を長くして待っているであろうと気づくと、段蔵が乗って来た馬を借り、お咲と共に江戸へとひた走る。

その頃、相馬たちは、次の取手宿で使う臨時の中間たちと対面していた。

そこには馬さえ鳴く、ロバがいるだけ。

金が足りぬと言うのか!と相馬は、その急ごしらえ中間の姿の哀れさを見て驚く。

代表者のような男は、そっちが待たせたのが悪いんだ。昨日待った分も払ってもらいたい。金をもらえないのならこれで…と言い、全員きびすを返して帰って行く。

御主等!それでも武士か!と相馬は背後から怒鳴りつけるが、わし等は時に百姓、時には侍…、その時その時、移り行く世を楽しむだけよ!文句があるなら奉行所に訴えろ!こっちに分があると思うがな…と言い残し、その連中は、参勤交代用の道具類一切も一緒に持ち去って行く。

終だ…と相馬は肩を落とす。

御家老、ここまで来て!と増田は抗議するが、もはやこれまで!と言いながら、その場に正座した相馬は、腹を出し、刀を抜いて自害しようとする。

しかし、抜いた刀は竹みつだったので、切腹すら出来ぬ!と相馬は泣き崩れる。

その時、遠くから、下に〜、下に〜と言う声が近づいて来る。

大名行列が来たと知った一同は、取りあえず道の端に整列し、頭を下げて通り過ぎるのを待つが、その眼前に駕篭が止る。

相馬ではないか!と声をかけ、駕篭の中から顔を出したのは、磐城平藩主の内藤政樹(甲本雅裕)であった。

こんな所で何している?その格好は何じゃ?と聞きかけた政樹は、一行の異様な悪習に気づき鼻を摘む。

実は…と打ち明けた相馬の話を聞いた政樹は、何!わずか5日で参勤致せと!と驚く。

さもないと、我が藩はお取り潰しになりますと相馬は打ち明ける。

それでえ、野宿などをして…と政樹は事情を察する。

かくなる上は、このしわ腹かっ斬って詫びるしかございませぬ。お刀をお貸しいただけませんでしょうか?と相馬は頼み込む。

すると政樹は、相馬、面を上げい!と言い、御主の目は節穴か?と問いかける。

行列なら、お前の目の前にあるではないか!と言い出したので、相馬は、ええ!と仰天する。

でも…、良いのですか?

政醇殿には随分世話になった。飢饉の時、米を送ってくれただろう?あれは助かった…と言うので、かつて、政醇は人が良過ぎるとバカにした自分の不明を恥じる相馬。

泣くな!この行列を好きに使え。どうせ我らはゆるりと帰る所じゃ。その老中とやらに、磐城の気骨を見せてやれ!と政樹は言ってくれる。

取手宿にいた役人は、通過する見事な行列の荷物に下がり藤の御紋がついて斬ることを確認、湯長谷藩か…、気迫がみなぎっており、見事!と感心する。

宿場を通過し終えた所で、相馬たち一行は、政樹の行列と別れることにする。

殿!かたじけのうございました!と相馬が礼を言うと、武士は相身互いじゃ。政醇殿に宜しくな〜!と政樹は笑顔で答え、去って行く。

相馬たちは、もはや時間がないことを知っており、江戸でとのを待つのみだと言い、先を急ごうとする。

その時、またもや、別の大名行列が向うからやって来るのに気づく。

仙台藩だった。

小藩である湯長谷藩の方が道を譲らねばならなかった。

ここで、大名行列をやり過ごしていたのでは時間が無駄になる。

またもやピンチに陥った一行は、相馬の知恵にまた頼る。

さすがに考えあぐねる相馬だったが、その時、1人が転んでふんどしが見えたので、見えた!策が!と喜ぶ。

近づいて来る仙台藩の大名行列の横を6人の裸の飛脚が走る抜けて行く。

全員、着物を脱いで飛脚に化けた相馬たちだった。

若干怪しまれながらも旨くやり過ごすことに成功。

産婆と飛脚は行列の前を走っても良い規則だったからだ。

その頃、段蔵と馬に乗った政醇とお咲は取手宿に到着していたが、湯長谷藩の行列が既に通り過ぎたことを知り、自分たちも後を追うことにする。

その後、湯長谷藩江戸屋敷にいた政醇の妹琴姫(舞羽美海)は、怪し気な飛脚共が屋敷内に侵入したと聞き、長刀を持って玄関口に出て来る。

しかし、そこにいたのが相馬たちだと知り、琴姫はあっけにとられる。

兄上は何処に?と琴姫が聞くと、途中ではぐれました。後から追いかけて来るかと…と相馬は答えるが、刻限は暮六つ、兄上がいなければまだ到着したことにならぬ!相馬、知恵を出せ!と琴姫が責めるので、またですか〜?と相馬は困りきる。

かくなる上は、江戸屋敷の人員を全員参勤交代の要員に化けさせ、時を稼ぐより仕方ありませぬと相馬は答える。

折しも、江戸の町には大風が吹き、町人たちは皆家に引きこもり、雨戸を堅く閉ざし始めていた。

湯長谷藩一行が江戸に接近していることを知った松平信祝は、誰も彼も鼻薬を要求しおって!もうすぐわしは老中首座だ!芋侍に嘗められてたまるか!こうなれば、伊賀、甲賀、根来、全て使い、皆殺しじゃ!と絶叫する。

その頃、江戸へ渡る大橋に行き着いていた段蔵は、もはや暮六つ、走りますぞ!と政醇に告げる。

お咲を連れ、江戸市中に入った3人の前に立ちふさがったのは、信祝が召集した忍びの者たちだった。

老中の手先か!お咲をかばい、身構える政醇と段蔵。

忍者たちは一斉に手裏剣を投じて来る。

その時、突如、道で大爆発が起き、やが忍者の首に突き刺さる。

下に〜、ほれ、下に〜、ほれ!と言う馴染みの声が近づいて来る。

湯長谷藩の大名行列だった。

それに気づいた政醇は、相馬!と叫ぶ。

その声を聞いた相馬は、者共、殿が危ない!突っ込め〜!と命じる。

政醇に近づいて北相馬は、殿!良くご無事で!と喜ぶ。

段蔵はお咲に、ここに隠れておれと、政醇用の駕篭の中を指す。

忍者たちの頭領は、皆殺しにしろ!と命じるが、立ちふさがった荒木源八郎たちは、我らは武芸百般を究めし者たち。一騎当千!負けると思うか!小藩の力を徳と観よ!とお馴染みの口上を言い、全員、今度は本物の刀を抜いて構える。

段蔵は屋根の上に飛び移り、夜叉丸と戦っていた。

夜叉丸が投じたくないの1本をたたき落とした段蔵だったが、もう1本のくないが足に刺さったことに気づく。

陰手裏剣か…と呻きながら、くないを抜きくずおれる段蔵。

痺れて来たな…と近づく夜叉丸。

くないにはしびれ薬が塗ってあったのだった。

しかし、段蔵は何ごともなかったかのように立上がると斬りつけて来る。

わしに毒は効かぬ。効くのは酒だけよ!倒れた夜叉丸に対し、段蔵は呟く。

屋根の上から狙う忍者たちの身体に次々に鈴木吉之丞が放つ矢が当たって行く。

物陰に隠れた忍者に対しても、カーブする矢を放ち仕留める。

忍者たちは、橋の前に、木を組んだ足止めを設置して妨害する。

その時、前に進み出て、1人で足止めの綱を斬り始めたのは、冷静なはずの秋山平吾だった。

それを観た荒木たちが驚いて声をかけると、拙者とて、たまには無茶もする!と答える秋山。

しかし、その直後、秋山が襲いかかって来た忍者たちにめった斬りにされる。

秋山!と駆け寄る政醇。

拙者に構わず…、先に行って下せえ…と呟く秋山をその場に置き、政醇は橋を渡って行く。

大勢の忍者を舞いにした段蔵は、空中に火薬を撒くと、火の点いたくないを投げつけ、崩れた足止めを炎に包むと、早く行け〜!と叫ぶ。

今村清右衛門たちも、橋の前で横たわった秋山に、見てろよ〜!と声をかけ先を急ぐ。

江戸城の大手門で待ち受けていた松平信祝は、松平輝貞自らやって来たので驚くが、暮六つには間に合わなかった故、湯長谷藩はお取り潰しですな…などと苦笑する。

もはや刻限を過ぎ、大手門が閉まりかけた時、しばらく〜!と声がして、湯長谷藩、ただいま参上致しました!と相馬たちが駆け込んで来る。

それを観た信祝は、鐘は当に鳴り終わったわ…と嘲笑する。

しかしその時、時を知らせるけ鐘の音が聞こえて来るではないか。

大義であった…、輝貞が相馬たちに声をかける。

こんな馬鹿なことが…、何かの間違いでございます!と信祝は狼狽するが、又、鐘の音が聞こえて来る。

実は、鈴木吉之丞が矢を放ち、寺の鐘を鳴らしていたのであった。

ともかく、まだ鐘の値が続いている中、続々と湯長谷藩の面々が大手門に集まって来る。

しかし、まだ肝心の内藤政醇の姿がないことに気づいた信祝は、藩主がおらねば参勤になりませぬと輝貞に告げる。

その時、待たせて申し訳ございませぬと声がして、駕篭の方から歩いて来たのは政醇本人だった。

その政醇の姿を確認した輝貞は、湯長谷藩の金山届けに偽りがあったと申すが?とその場で尋ねる。

これでございますか?と政醇は、持って来た包みをその場で開き、石ころを出してみせる。

やっぱりあったではないか!と、それを観た信祝は喜ぶが、これは金ではございませぬ。慌て者の隠密が金と間違えたようですが、これはただの鉄(くろがね)でございます!と政醇は言う。

よって、金の算出なしとは間違いありませぬ。欲に目のくらんだ誰かが、隠密の知らせを鵜呑みにしたようでございますが…と、政醇は横に立っていた信祝を当てこするように言う。

面子を潰された信祝は、この田舎者が!と政醇を罵倒する。

しかし、政醇、にこりともせず、この不始末、ご老中はどうなさるおつもりか?田舎者にもはっきりお見せ下さい!と迫る。

輝貞も、今回の件、言い出したのは信祝殿、責めを負わねばなりませぬな…、かねてより隠密を勝手に使い、私腹を肥やしていたようだな?こたびのこと、沙汰あるまで謹慎を申し付ける!と睨みつける。

しかし、この信祝、決して引かぬぞ!と叫ぶと、腰の刀に手をかけたので、警護の者たちが色めき立つが、信祝はおとなしく抜いた刀を手渡すと、とどのつまりは生まれの善し悪しよ!田舎侍に天下のご政道の何が分かる!と言い捨て、その場を立ち去って行く。

内藤、大義であったな…、改めて輝貞は政醇に声をかける。

その時、門前に置いてあった駕篭の中から出て来たのは、駕篭酔いをしたお咲だった。

口を押さえ、吐きそうな様子で門を入って来たお咲は、そこにいた輝貞を見ても誰だか分らず、誰この人?と聞いて来る。

政醇が、馬鹿者!と叱るが、内藤様がお殿様だったんだから、わたしゃ何があっても驚かないよ!殿様や紀伊國屋文左衛門だって同じ人間、クソもすれば女も抱く。偉い奴等は貧乏人を下人みたいに見下しやがる!とお咲は啖呵を切ったので、きょとんとして見ていた輝貞は、それはすまなかったな…と詫びる。

この方は、江戸のご老中様だ!と政醇がなだめ、お咲も、輝貞の裃に点いた葵の御紋に気がつくが、吐きそう!と口を押さえる。

その頃、門の前までも、夜叉丸と段蔵の戦いは続いていた。

段蔵は、夜叉丸の腹を、政醇からもらった家宝の小刀で突き刺し、お堀に死体を蹴落とすと、口にくわえていた笹の葉も投げ捨てる。

こたびの参勤、上様の策でございましたか!

江戸城内で徳川吉宗と会い、酒を注いでもらいながら、政醇は絶句していた。

信祝の企みは分かっておった。随分襲われたことであろうな…と吉宗は苦笑する。

そして、唖然としている信祝を見ながら、不服か?余は、弱い家来などいらぬぞと吉宗が言うので、民のことを考えると肝が冷えて参ります。まことに愚かであれば、民が苦しみます故…と政醇は真顔で答える。

それを聞いた吉宗は愉快そうに笑い出し、そちの申す通りじゃと頷く。

しかし上様、我が藩が金山など持っておらぬとどうして思われた?と政醇は聞いてみる。

先の参勤で、御主は漬け物を献上したであろう?あのような大根を持って来る奴に悪い奴はおらん!政をおろそかにしてはならぬぞ。磐城の土を守り抜くのだ。この先、とこしえにな…と吉宗は言い聞かす。

政醇が平伏すると、湯長谷藩の参勤、しかと見届けた!その心意気、値千金なるぞ!と吉宗はねぎらう。

参勤交代のお陰で、江戸時代には長い間戦は起きなかった。

これも、参勤交代のお陰だったかも知れない…(と、又茂吉の声のナレーション)

江戸屋敷では、琴姫が秋山の手当をしていた。

別の間では、荒木たちが、琴姫様が秋山を好いておったとはの〜…と全員ため息をついていた。

政醇はそんな一同を前に、こたびは大儀であったとねぎらう。

まことに大変でございました…と相馬も頬を緩める。

そして、あの女子はどうするつもりですか?と相馬が聞くと、それはな…と政醇が笑う。

その時、琴姫が見違えるほどきれいになったお咲を連れて来たので、一同は唖然とする。

さ、ご挨拶をと琴姫がうながすと、咲と申しますと戸惑いながらも丁寧に頭を下げるお咲。

これは美しい…と見とれる一同を前に、実はな…、この者を余の側室にすることにしたと政醇が言い出したので、百姓娘を!と一同魂消るが、すでに、武家の養女としたと教えた政醇は、時には百姓、時には侍…、移ろい行く世をらの市区生きるのみじゃ!とどこかで聞いたような言葉でしめる。

その後、政醇は、子供の頃、折檻で入れられた鎧兜などが収納された蔵に1人でやって来る。

そこに咲がやって来て、殿様、ここにおられたのですねと言いながら入って来ると、自ら戸を締めた政醇は、お前となら平気じゃと答える。

そんな政醇に、これを段蔵様が…、身請けの資金にせよと…と言いながら、10両の入った袋を咲は手渡す。

それを聞いた政醇、段蔵、もう行ったか…と懐かしがる。

段蔵は、政醇からもらった家宝の小刀を握りしめ、下に〜!下に〜!と呟きながら、青空の中、旅立って行く。

国元へ帰る途中、江戸からの大橋の上を通過していた湯長谷藩の大名行列が途中で止まってしまう。

政醇に近づいて来た相馬が、困ったことになりました。費用は片道分しか計算しておりませなんだと言い出す。

まさか…と政醇は呟く。

帰りも走らなければなりませぬな…と、さも当然と言う風に相馬は答える。

さあ、走りますぞ〜!遅れた者は半年間焙烙なしだ!と相馬が檄を飛ばす。

なじょしてこうなるのだ…、みんなは唖然としながらも駆け出す。

駕篭から降りて来た咲が、走るのですか?と困惑したように聞いて来たので、我が藩は貧乏なのだ、貧乏はまことに辛いの〜と苦笑いで答えた政醇は、咲と手を取り、走り出すのだった。


 

 

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