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八つ墓村('78TV版)

石坂浩二主演で人気を博した市川崑監督による映画版とほぼ同時期、古谷一行を金田一に起用し、テレビ版として作られていた「横溝正史シリーズ」の「Ⅱ」の1本。

「八つ墓村」の原作自体は、ミステリ要素に加え、宝探しの伝奇要素も加わった長編である一方、劇中で登場する寺田(多治見)辰也の手記と言う形で書かれている事もあり、小説としては面白い反面、金田一耕助の存在感が弱かったり、ラストの犯人描写が弱かったりと、本格ミステリとしてはやや食い足りなさを感じないでもない部分もある作品のような気がする。

映画版では、この原作の中の宝探しの要素を外し、原作では冒頭でさらりと書かれているに過ぎない伝説の虐殺シーン等を見せ場として派手に描いているので、映画としての面白さはあるものの、ミステリとしては、あちこちに不自然さが残る作品になっている。

このテレビ版は、1時間番組の全5回放送と言う長尺である事もあり、映画版では省略されている宝探しや、「似た職業や境遇の2人ずつを書き連ねた殺人メモを元にした連続殺人」の部分なども再現しており、かなり原作に近い印象の作品になっている。

しかも、5回放送の各回ごとに見せ場を作る意図もあってか、登場人物や筋立てが微妙にアレンジされており、原作で不満要素であった金田一の登場の遅さなどもちゃんと補ってある。

そのアレンジ部分に関しては、原作ファンの中でも評価が分かれるであろうが、個人的には、そう悪くないような気がした。

後半の鍾乳洞のシーン等は、美術セットもよく頑張っており、テレビドラマらしからぬ手の込んだセットが組まれているし、登場人物も、映画版ほどではないにしろ、豪華と言って良いだろう。

中村敦夫演ずる要蔵の殺戮シーンは、日本刀を逆手に持っている事もあり、何だか、狂った木枯らし紋次郎に見えなくもない。

濃茶の尼を演じている白木万里は、「必殺」シリーズでの中村主水の妻りつとは全く印象が違っており、よく観察しないと誰だかわからない。

森美也子役の鰐淵晴子は、もちろん「ノンちゃん雲にのる」(1955)のノンちゃんだが、さすがにこの当時になると、きれいはきれいなのだが、そのバタ臭い容貌に若干違和感を感じるような雰囲気になっている。

でもその違和感が、美也子役に合っていると感じる人もいるだろう。

古谷一行も若々しいし、日和警部を演じる長門勇さんも絶好調と言った感じ。

このシリーズに長門さんが起用されたのも、やはり岡山出身で岡山弁が出来ると言う強みがあったからだろう。

このシリーズ自体、「スチャラカ社員」「三匹の侍」と並ぶ、長門さんの代表シリーズと言っても良いと思う。

▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼

1978年、毎日放送+大映京都+映像京都、広澤栄脚本、池広一夫監督作品。

八つ墓村…、刑部川流域に存在していたと言うが、その後、消滅してしまったのか、今では誰も知る由もない。

だがここで、奇怪で異様な出来事があったとは、記憶の中にはっきり痕跡をとどめている。(…と村の遠景にナレーションが重なる)

【第一回】

物語は、今から29年前、昭和24年の神戸から始まる…

「三味線ブギ」が流れる闇市にやって来た寺田辰也(荻島真一)は、一軒の馴染みの飲み屋に来ると、主人(梅津栄)に、リュックに入れて来たメリケン粉、米を渡しながら、経済警察に見つけられ捕まりそうになったと笑う。

主人は、苦労して物資を運んでくれた辰也に礼を言うと、辰也の名前を確認した上で、さっきラジオの尋ね人であんたの事を探していたので、紙に書いておいたと言いながら、壁に貼っていた紙片を辰也に渡す。

そこに書いてあった「諏訪法律事務所」に行ってみた辰也は、応対した諏訪弁護士(内田朝雄)から色々身元確認をされる。

寺田と言うのは養父の名前で、自分は母の連れ子であり、自分が7つの時に亡くなった母の名は鶴子と言った。本当の父親の名前は知らないと聞かれるまま話した辰也は、身元を証明できるようなものを持っておられるか?と聞かれたので、子供自分から肌身離さず持っていたお守り袋を取り出して見せる。

そこには、大正12年3月6日出生と書かれた紙で納得した諏訪弁護士だったが、一緒に、「鬼火の淵」とか「龍の顎」と書かれた不思議な地図のようなものが入っていたので、これは何ですかと聞く。

(回想)亡くなった母鶴子(神崎愛)は、辰也が赤ん坊の頃から常々、大事に持っているんだよ。手放しては行けませんよ。この地図はあなたを幸せにしてくれるかもしれない…と語りかけていたものだった。

(回想明け)諏訪弁護士は、言いにくいが、裸になって、身体を見せてくれないかと言い出したので、さすがに辰也も我慢しきれなくなり、訳も教えず、裸になれとは失礼じゃないかと憤慨する。

もっともな言い分なので、諏訪弁護士は謝罪し、ある人があなたを捜していて、偉い金持ちなんだが、あなたを引き取って、お世話したいと言うとる。その探しとる人には余人にない目印があるはずと言うんじゃと説明すると、ようやく納得したのか、辰也は自ら上着をまくり上げ、左脇腹に残る火傷の痕を見せる。

飲み屋に帰って来た辰也から話を聞いた主人は、天涯孤独のあんたにもようやく芽が出たなと喜び、酒をおごってくれる。

しかし辰也は、探している相手が、どうして26になる今まで自分の事を放っておいたのかが気にかかり、妙なことが起こる気がする…と考え込む。

その予感は当たっていた。その晩から、異様な出来事が相次いで起こる。

下宿に帰る途中、辰也は、誰かに付けられているような気がし振り向くと、帽子にマント、下駄を履いた男のシルエットを観かける。

それから数日経った後、下宿に帰って来た辰也に、今日変な人が来てあんたの身元をあれこれ聞いて行った。マスクを付け、帽子を目深にかぶり、トンビの襟を立てたけったいな人やったと教えた女将が、手紙が来てますねんと言いながら封筒を渡す。

寺田辰也宛の封筒を開けた中には、八つ墓村に帰って来てはならぬ 八つ墓明神はお怒りだ。

お前が帰って来たら、血だ 血だ 血だ また八つ墓村は血の海になる…と、下手な字で書かれた脅迫めいた紙が入っていた。

その後も、帰宅途中で背後に人の気配を感じた辰也は、落ちていた棒を拾い上げると、それを振りかざして、誰だ、貴様!と振り向くと、トンビを来た男が逃げようとしたので取り押さえ、俺の下宿まで後を追って来たのはお前だろ!と追求すると、その男(古谷一行)はマスクを外し、人違いだ!僕は金田一耕助と言うものですと名乗り、何事かと集まって来た野次馬に、何でもありませんと追い払うと、僕ちょっと急ぎますので…と人なつっこい笑顔を見せ、立ち去って行く。

翌日

辰也は、再び訪れた諏訪弁護士事務所で、母方の父親だと言う井川丑松(北村英三)なる老人と対面する。

諏訪弁護士が言うには、本当にあんたを捜しているのは母の兄で多治見家じゃ。あんたの本当の父さんの名は多治見要蔵と言うと教え、家族写真を辰也に見せる。

そこには、多治見家の家族、辰也の兄に当たる久弥(中村敦夫)、姉の春代(松尾嘉代)、双子の大おば、小竹(毛利菊枝)、小梅(新海なつ)が映っていた。

久弥も春代も身体が弱く、今後も子宝に恵まれる希望はない。

それで、大おばの小竹、小梅が心配していると諏訪弁護士がかいつまんで説明すると、用があるからと言って中座する。

丑松と2人きりになった辰也は、僕が生まれた村は八つ墓村と言うのか?最近僕の身元調査やっているのはあなたですか?と聞き、持参した例の手紙を取り出して見せる。

すると、それを目にした丑松は急に咳き込みだし、洋服掛けにかけてあった上着のポケットから粉薬を取り出すと、それを飲むが、次の瞬間、急に苦しみだした丑松はその場に踞ってしまう。

驚いた辰也が近づき、大丈夫ですか?おじいさん…と声をかけるが、床に倒れた丑松は口から血を出しており、もう生きてはいなかった。

井川丑松(66歳)が変死と言う新聞記事をラーメンを食べながら読む金田一耕助

重要容疑者として警察署に連行された辰也は、刑事から、丑松は、諏訪弁護士と対談していた30分間は何でもなかったんだ!と追求され、留置される。

しかし、その後辰也はあっさり釈放される。

辰也は、引き取ってくれた諏訪弁護士に、もうこの件からは縁を切らせてもらうと逮捕された事への文句を言うが、実はあんたの嫌疑を晴らしてくれたのはこの方なんだと言って、1人の女性を紹介される。

逆光の中から現れたその女性は、森美也子(鰐淵晴子)だと言う。

丑松には喘息の持病があり、その持病の薬を持ち歩いていたが、その薬の中に毒が混入していた。丑松の遺体は親族がもう荼毘に伏して村に持って帰ったので、自分が丑松に変わって辰也を迎えに来たと言う。

八つ墓村に向かう機関車の中で、辰也は、八つは加村の祟りとは何の事なのか?と例の脅迫状を見せて美也子に聞く。

それを観た美也子は、これはひどいイタズラだわ!と答えるが、辰也は、僕に取っては気がかりだ…と真剣な顔を見せたので、美也子も、あくまでも伝説なんだけど…と前置きして、八つ墓村に伝わる昔話をし始める。

今から380年ほど前の永禄9年、出雲尼子が毛利元就に降伏し、一族の1人尼子義孝が7人の家来と共に、馬2頭に3千両を積み、再起を誓って、密かに多治見家のある村へ逃げて来た。

しかし、村人は、尼子探索の報奨金と3千両の噂を聞きつけ、村はずれで密かに暮らし始めていた8人の落ち武者たちを、ある日襲撃する。

まずは、山道で2人を竹槍で刺し殺し、尼子義孝らが住んでいた小屋に迫り焼き討ちをする。

これに気づいた尼子らは、全員鎧を着て応戦するが、多勢に無勢、おのれ卑怯な…、この恨み、七生のちまでこの村に祟ってやるとの言葉を遺し、全滅する。

落ち武者8人の遺骸は刑部川に棄てられたが、それ以来、川の色が変わったので、村人たちは、それを8人の祟りと思い込み、霊を祭る8つの墓を作った…

駅に降り立った辰也は、その後祟りはありましたか?と陸橋上で美也子に聞くが、美也子は、今頃、そんなバカな事ないわよと一笑にすると、3千両はいまだに見つからないんですって。その宝探しを2人でやらない?とおどけたように言う。

その時、彼らの背後から近づいて来たのが金田一耕助で、奇遇ですな。今の下りで来られたんですか?私は30分ほど前の上りで、八つ墓村の鍾乳洞を観ようと思って降りたんですと親し気に辰也に話しかけると去って行く。

あの方、お知り合い?と美也子が聞くので、まあ…と辰也は答えるが、内心、あいつは一体…、どう言う事なんだ…と考えていた。

丘にやって来た美也子は、眼下に広がる八つ墓村を辰也に見せる。

大きな屋敷が多治見家で、あなたの生まれた家で、昔は名主で、代々分限者で、この辺りの田畑や山を持っていると教えると、私の家は川の側の小さな家で、昔は西家と言う分家だったんだけど、今ではあんなにちっぽけになって…、私はやもめで後家さん、夫は5年ほど前に亡くなったの、気ままなメリーウィドウ…、だけど私のようなおばあちゃん、誰も相手にしないわ…等と言うので、そんな事はないと辰也は否定する。

村に近づいた辰也の前に、突然飛び出して来たのは、不気味な衣装の女(白木万里)で、辰也に対し、来てはならぬ!帰れ!帰れ!村が血で汚れる。お前の爺が何故死んだか知っとるか?今に8人の死者が出るのだ!と脅すように言葉をかけて来る。

辰也が戸惑っていると、その手を引いて歩き出した美也子は、あの人は濃茶の尼と言い、少しおかしいのと説明する。

多治見家に案内して来た美也子は、出迎えた春代を辰也に紹介する。

家に上がった辰也は、まずは風呂に入れと勧められる。

いきなり風呂?と戸惑う辰也だったが、この家のしきたりだからと言われると断る訳にも行かず、風呂に入っていると、春代がいきなり入って来て、背中を流すと言い出す。

すぐにその意図を理解した辰也は、湯船から上半身を出し、左脇腹の火傷の痕を見せ、これで目印の確認が出来たでしょうと皮肉る。

その後、大おばの小竹、小梅は、対面した辰也の顔を見て、あの頃の鶴子そっくりじゃと感心すると、どこかで大あて違いでがっかりしているだろう。いい気味じゃ…と互いに笑いあう。

兄、久弥にも会えると思っていた辰也だったが、体調が優れないとの理由で、翌日にしようと大おば2人が言い出す。

病気の事を聞くと、肺病だと言う。

出戻った春代も、子宮筋層炎と言う病気で子宮を取られたので、子供が産めん。辰也、お前酒飲みだそうだが、この家では酒は出さん。禁酒してもらうと大おばに命じられてしまう。

その頃、金田一耕助は、八つ墓村のよろず屋で地酒を飲んでいた。

よろず屋の主人(常田富士男)が、どこからおいでんさった?と聞くが、金田一は八つ墓村の祟りってどう言うの?と逆に聞く。

しかし、主人が答えようとしないので、近くに宿屋はないか?と金田一が聞くと、この村には宿は一軒もないと言う。

この寒いのに野宿かな…と金田一が頭をかくと、フケだらけじゃない!お客さん、ただのルンペンなの?と聞いて来たのは、店の娘のかず子(津山登志子)だった。

私立探偵だよ。シャーロック・ホームズとか知らない?と金田一が言うと、シャーロック・ホームズだったら、もっとましな格好しているよとかず子は呆れる。

その頃、辰也は、母の鶴子が住んでいたと言う離れの今に春代に案内されていた。

部屋には、能面が壁にかかっていたが、26年前、母さんはここにいたんだな…と、床に入った辰也は感慨に耽っていた。

辰也さん、良く来てくれたわね、はるばると。私、いつかあなたがここにやって来ると思っていた…、母の鶴子がそう言っているような気がした。

ここに来たのは母の魂の導きだったのか?母さん、そうなんですか?と心の中で聞いていた。

そんな中、能面の目の部分が光ってことに辰也は気づかなかった。

深夜、辰也の寝所に何者かが忍び込んで来る。

その人物は、辰也の顔の横に来ると、首筋に触れて来たので、思わずまだ寝ていなかった辰也は悲鳴を上げる。

すると、侵入者は逃げ出し、辰也の声で駆けつけた春代が雨戸を開けて、どうしたの?と聞いて来たので、今、この部屋に人が!と訴えると、共きちんと閉まっているし、外からは絶対に入れるはずがない。辰也さん、夢でも観たんじゃないの?と春代は信じられない様子。

しかし、人が確かにいたんですよ!と辰也は興奮していたが、あの影はいつかの…と、内心、神戸で自分を尾行していた謎の人物や、不気味な脅迫状の事を思い出していた。

【第二回】

前回のダイジェスト紹介

万屋の2階で泊めてもらっていた金田一の部屋にやって来た、店の娘のかず子は、足で布団を蹴飛ばして寝ていた金田一を起こすと、私の寝間着、色っぽい!と、金田一が寝間着代わりに来ていた女物の着物をからかう。

お父さんは?と金田一が聞くと、とっくに野良に行ったと言う。

これ幸いとばかりに、そのかず子に、祟りの一軒聞かせてくれる?と金田一は頼む。

一方、多治見家の方では、春代は離れの辰也に、持って来た朝食を食べるよう勧めていたが、辰也は何故か手を付けようとしなかった。

そこにやって来たのは森美也子だった。

春代は、夕べ変な事があって…と美也子に打ち明け、辰也は、顔をのぞいたんですよと説明するが、美也子は、泥棒じゃない?と信じられない様子。

神戸にいるときからずっとつきまとっている奴ですよと辰也がいら立つと、辰也さんって、とっても臆病だもの…と美也子はからかう。

しかし辰也の表情は硬く、何か僕に隠している事がありますね?と言うので、あなた、疲れてるみたいよと美也子が心配すると、じゃあ、これは一体なんですか?と辰也は窓を開け放つ。

そこには、格子がはめ込まれており、襖のさんに、格子をはめ込むための穴の痕跡があった。

これは座敷牢の跡でしょう。母かこの部屋に閉じ込められていたんだ!と辰也は断定し、姉さん、大事な事を話してませんよと迫ると、庭先で聞いていた美也子が諦めたように、じゃあ、お話ししますわ…と語りだす。

(回想)今から26年前、要蔵はアル中で突然狂ったの。大おばたちから甘やかされて育てられたせいで、大酒飲みで暴れるようになっていたんだけど、その頃、要蔵には奥さんのおさきさん、幼かった久弥と春代と言う子供がいたの。大正12年夏の頃、おさきが夜中に起きて観ると、赤い着物の上から白い打ち掛けを羽織った要蔵は、頭に2本懐中電灯を角のように角で巻き付け、胸にもカンテラ、両手には日本刀と猟銃を持っていると言う異様な姿で立っており、声をかけると、いきなりに本当で斬りつけて来た…

ちょうど、村は、盆踊りの日で、やぐらを囲んで若者等が踊っている最中だったのだが、まずは踊っていたいっちゃんと言う娘は背中から日本刀で串刺しになり、狂った要蔵は、日本刀を逆手持ちにして次々に村人を斬って行き、やぐらに乗っていた者たちも斬りつけると、上に登って猟銃を乱射し始めた。

その姿は悪魔そのもので、何かに取り憑かれたんじゃないないかって、八つ墓明神が乗り移ったんじゃないかって村人たちは言ってたわ。

その後要蔵は、自分が犯した罪を自覚したのか、山に逃げ込んだそうです。

洞窟の奥まで探したんだけど、その姿を見つける事は出来なかった。村人たちは、今でも生きているに違いないと言っているわ。

濃茶の尼は妙蓮と言う名前なんだけど、その時の犠牲者の1人で、ご主人と子供を殺されたの。

そもそも要蔵が狂った原因は、鶴子おば様がその原因なの…

大正11年

村野郵便局に勤めていた鶴子さんは、当時19歳だった。

要蔵は妻子がありながら、その鶴子さんに邪な心を抱いたんです。

ある日、帰宅途中だった鶴子さんを待ち伏せていた要蔵は、いきなり抱きつき押し倒すと、暴力で犯し、この家に連れて来ると、この部屋に閉じ込めたのです。

鶴子さんには、当時、小学校教師の亀井陽一と言う恋人がいたのに、その後、会う事も出来なくなった。

鶴子の父丑松は、多治見家に乗り込み、大おばの2人に、娘を返さないと出る所へ出ると談判したが、金で解決したのか、その時既に鶴子さんは妊っており、翌春、男の赤ちゃんを産みました。

それが辰也さん、あなたなのです。

その後、鶴子さんは、座敷牢の鍵を密かに開け、赤ん坊を連れ逃げ出したんですけど、それを知った要蔵の怒りは凄まじく、それ以来おかしくなったのです。

(回想明け)その時殺されたのは32人、8人の落ち武者は4杯の生け贄を要求したって訳で…と、同じ頃、八つ墓村に金田一耕助を案内しながら、かず子も又、その時の惨劇を説明し終えていた。

墓に着いた金田一が、墓石の2つが破壊されている事に気づくと、2ヶ月ほど前の番に落雷があり、その衝撃で、壊れたのだとかず子は言う。

又ゾロ、祟りが始まる前兆じゃないかって村人たちが言っている矢先に、村に帰って来たのが辰也さん…とかず子は説明するが、その時、金田一が、墓の側に裂いていた花を取ろうと手を伸ばすと、それには触っちゃいけねえ!カブト菊と呼ばれる毒草で、牛や馬にも食わしちゃ行けねえって、この村では言われているのと注意する。

金田一は、少し離れた所で草刈をしている男の事を聞くと、富蔵と言う人で、戦争中顔に大やけどをしたので、あんな面をいつもつけているのとかず子は教える。

あの面は、鎧を着る時に顔に付ける面貌と言うものだろう?と金田一が聞くと、古い甲冑なんてこの村にはいくらでも残っているし、あの人は元々、村の者ではないけれど、戦後やって来た所を、寺の洪禅(こうぜん)さんに拾われて寺男をやっているのとかず子は言う。

多治見家の離れでは、辰也が神戸に帰ろうとしており、それを春代と美也子が必死に止めていた。

僕には恐ろしい人殺しの血が流れているんですよ!と辰也は興奮状態だったが、そこにやって来た小竹、小梅の大おばたちは、ゆるさん!お前はこの家の跡取りじゃ。勝手な真似はさせんぞ!と睨みつける。

その迫力の前で萎縮してしまった辰也は、母屋に集まっていた親戚一同に対面する事になる。

医者の久野恒美(永井智雄)とその妻のよし江、しかし、久野は戦時中の看護兵上がりで、いまだに無免許だと言う。

里村慎太郎(草薙幸二郎)は、3番目の弟の倅だが、里村家は死に絶え、いまだに一人身を囲っていると言う。

戦争中は、軍刀をぶら下げていたと大おばが説明する。

美也子の隣に座っていたのは、森そう吉で、美也子の姑に当たると言う。

そして、寝床に寝ていたのが、辰也の兄に当たる久弥(中村敦夫)だった。

久弥は辰也を観ると、こんな良い男が多治見家におったとは…、皆に可愛がられるようになれ。それとせいぜい気をつけて財産取られないようにしろと言葉をかけるが、この際、全財産である山地図を辰也に渡しておこうと言い出し、春代にもって来させようとするが、突然、咳の発作に襲われ、大おばが粉薬を渡して飲ませるが、次の瞬間悶絶して息絶えてしまう。

久野医師が脈を確認するが、ご臨終ですと言い、興奮されたので死期を早めたのでしょうと大おばらに告げる。

そんな中、違う!これは普通の死に方ではない!毒殺だ!と心の中で叫んでいたのは辰也だった。

同じ頃、配達途中だったかず子の自転車をいきなり奪い取り、走り出したのは金田一耕助だったが、かず子は、そんなに急いじゃダメだ!その自転車ブレーキ壊れてるんだよ!と背後から叫ぶが、焦っていた金田一には聞こえなかったらしく、八つ墓村駐在所にそのまま突っ込んで行く。

ぶつけられた駐在の工藤忠治(江幡高志)は、怪しい風体の金田一を怪しみ、何事かと睨みつけるが、本庁の日和警部に連絡を取りたいと金田一が申し出ると、急に緊張する。

二日後、久弥の野辺の送りが行われていたが、金田一はと言えば、万屋で、間に合うかな~…などと言いながらのんびり飯を食べていたので、かず子は、一昨日はあんなに泡食っていたくせに…と、その態度の急変振りにあっけにとられていた。

野辺の送りの最後尾で参加していた馬の仲買人吉蔵は、あのガキのせいじゃ要蔵の忘れ形見だと言うあのガキじゃと悪態をついていた。

その時、濃茶の尼が列を塞ごうと飛び出して来たので、小竹が、妙蓮さん、お下がりなさい!無礼ですぞ!と一喝する。

その頃、一台のジープが八つ墓村に向かって急いでいた。

乗っていたのは、金田一からの連絡を受け、馳せ参じた日和警部(長門勇)だった。

埋葬しかけていた墓にやって来た日和警部を待っていたのは、工藤巡査だった。

参列者たちは、待った!待ってつかあせえよ!と言いながら突然の侵入して来た日和警部にざわめくが、そんな様子を木陰から覗いていたのは、面貌をかぶった富蔵だった。

久弥氏の死に疑問があるので死体を調べたいと申し出るが、大おば2人はいきり立つ。

そこにやって来たのが金田一で、私立探偵と名乗ると、丑松さんのこともありますし、不審な点があれば、徹底的に調べてもらったらどうですか?その方が多治見家のためかと…と口添えをする。

日和警部は、金田一さん、久しぶりだな。何でこの件嗅ぎ付けたん?と小声で話しかけて来るが、犬も当たれば棒に当たるで、まぐれですよと金田一は答えをはぐらかす。

その後、辰也と2人で八つ墓の所へやって来た金田一は、このたびは災難でしたね。あなたはひどく疑惑の目で見られていますよ、村人たちからね。あなたが村に帰って来たら何かが起きる。祟りが起きる…と。名神ですよ。でも迷信だから怖いんです…と教える。

兄さんも、死に方は丑松さんのときと同じでしょう?2人ともあなたの目の前で起こった…。2人が飲んだ薬は、久野先生が調合したものらしい…と金田一は言う。

その頃、日和警部は工藤巡査と共に、久野医師の病院に事情を聞いていたが、薬の調剤は妻のよし江がやっていると言い、たまたまそこに、馬の疝痛の薬をもらいに吉蔵が入って来たので、薬剤室には村の者なら誰でも自由に出入りできる事が分かる。

久弥の枕元で、誰かが薬を入れ替えた可能性もあるな…と日和警部は推理するが、横に立っていた工藤巡査が、辰也さんが戻られたとたん事件が起きると言うのも…と口を出すと、そうか!と日和警部は指を鳴らし、何かに気づいたようで、工藤巡査も、奴がやったに相違ありません!と自信ありげに断定する。

八つ墓村の所にいた金田一も、2つの事件と、あなたがこの村に帰って来たことに関係あるんじゃないですか?2度ある事は3度ある…、不審な事があったら私に教えて下さい。苦しい立場に追い込まれるかもしれませんと辰也に念を押していた。

その後、金田一が予言したように事件は起こる。

数日後

久弥の初七日の夜

多治見家の台所では、来訪客のために料理を準備していた。

日和警部と工藤巡査も、別室で待機していたが、工藤巡査はのんきに眠っていた。

招かれて来ていた梅幸尼は辰也に、一度折り入って、あなたにお話がしたいことがある。身の上に関する大変大事な話で、この事は、蓮光寺の洪然様と私しか知らない事です。明日にでも来て下さいと話しかけていた。

その後、辰也は、春代に言われるがまま、出来上がった食事の膳を洪然の前に置く。

金田一耕助も多治見家にやって来るが、玄関先でカラスに鳴かれたので、金田一もお返しにカーと言い返す。

膳に乗ったふろふき大根を口にした洪然は、突然、苦しみだしたかと思うと、その場に倒れる。

美也子は悲鳴を上げ、その場にいた日和警部も、どうしたんじゃ?と言いながら、洪然の席に近づこうとするが、その時、そのまま!皆さん、そのまま動かないで!と声をかけながら座敷に入って来たのは金田一だった。

【第三回】

これは、激烈な薬による毒殺ですね?と、洪然の遺体を調べだした久野医師に金田一が確認すると、本庁の警部であるわしの目の前で!と日和警部は憤慨する。

金田一は工藤巡査と手分けして、客たちに出されふろふき大根を調べ始める。

ほぼ全員、ふろふき大根に手を付けていたので、気分の悪くなった方はいませんか?と金田一は確認するが、誰も何ともないようだった。

つまり、洪然和尚のふろふき大根だけに毒が入っていた事になる。

そんな中、工藤巡査が、たった1人、ふろふき大根に手をつけてない人物に気づく。

辰也だった。

どうして食べなかった?と日和警部が聞くと、大根が嫌いなのでと辰也は答える。

しかし日和警部は、洪然さんの所に膳を運んだのはあなたでしたな?丑松さんと久弥さんの時もあなたはその場に居合わせた…、と言う事は、ホシはお前だ!と指摘する。

それを聞いていた春代は、そんなバカな事はありません!と否定するが、金田一さん、反証あるかな?と日和警部は自信ありげだった。

金田一は、さっき、毒物学者に電話して聞いたんですが、県警本部の調べでは、久弥さんに使われた毒はアコニチン及びアチシンで、その毒はこの村のどこにでもあるものなんですよと言いながら、庭に降りると、そこに咲いていた花を摘み、座敷に持って来て皆に披露する。

カブト菊と言うキンポウゲかの植物で、鎮痛薬等に使われますが、大量に用いると吐血し死にいたる猛毒で、トリカブトとも言います。八つ墓村の廻りにも群生していますと説明する。

すると、祟りと言う事…?と大おばが口にするが、少なくともよそ者の辰也さんは、この事を知らなかったでしょうと金田一は辰也を弁護する。

誰が毒を入れたんですかね?と工藤巡査が呟くと、誰か調理したもんやと言い出した日和警部は、台所にいた婦人たちに確認しに行く。

ふろふき大根を担当したのは、私とキワさんとコウさん…と春代が証言したので、2人の名前と住所を聞くと、片岡キワは、馬の仲買人吉蔵の妻だった。

もう1人のコウは、何と工藤巡査の女房だった事が分かる。

日和警部は、今度の犯人は意地が悪い。刑事生活18年のわしじゃが、こがいにバカにされたのははじめてじゃと憮然とする。

分からんのは犯人の意図ですよ。こんな広い台所では、誰にだって出来る。狙って洪然の所に持って行くのは至難。殺す相手は誰でも良かった。無差別殺人なんですよと金田一が指摘すると、わしが殺されていたかも…と日和警部は青ざめる。

悪い奴はこの家の中にいますよ…と金田一は呟く。

離れに戻った辰也に付き添っていた美也子は、私はあなたを信じていますよ。いつでもあなたの味方よと囁きかける。

翌日

朝食を済ませた辰也は、梅幸尼の所に行くと春代に教えるが、里村慎太郎と言う人は、僕が帰って来なかったら、多治見家の財産を継いでいたのでは?と聞いてみる。

春代は、大おば様が、あの人の陰気な所を毛嫌いしてね…と言い、あの人と美也子さんを結婚させようとしているのも、財産が他に渡らないようにしているのよと教える。

里村さんは神戸に行きませんでしたか?と辰也が聞くと、その頃、美也子さんが神戸にいたので行ったかも…と春代は言う。

辰也は、里村の事を警戒しながらも出かける事にする。

すると、農作業をしていた里村と出会ったので、聞いておきたい事があるが、今日は先を急ぐので…と声をかけて別れる。

辰也は心の中で、あんな奴にはめられてたまるかと里村への敵意をむき出しにしていた。

小竹と小梅は、春代に、辰也はどこに行った?と聞き、梅幸尼の所と知ると、あいつ近頃、よう美也子と連れ歩いとるらしいな?そんなに美也子にのぼせているのか?辰也に良く言い聞かせるんじゃ。美也子はあくまでも分家の嫁、その辺のけじめを付けんといかんとなと春代に命じる。

橋の袂にやって来た辰也の前に、今日はどこに行く?等と言いながら、又しても濃茶の尼が立ちふさがって来たので、辰也が押しのけようとすると、その場に倒れた濃茶の尼は、人殺しじゃ!警察を呼べ!等とわめきだし、近くにいた村人たちが辰也の周囲を取り囲む。

しかし、今の辰也は強気になっており、どけ!多治見家に文句があるなら、改めて訪ねて来い!と叱責し、梅幸尼の住まいに来るが、呼びかけても返事がない。

玄関先に座り、タバコを吸おうとしていた辰也だったが、座敷に血が滴っているのに気づき、その上に目線をあげると、梁から紐で吊るされた梅幸尼の胸に、槍が突き刺さっているのを発見する。

逃げ出そうと玄関を開けると、そこには美也子が立っており、梅幸尼の死体に気づくと悲鳴を上げる。

日和警部と警官たちが現場に走ってやって来る。

そこに、美也子と一緒に辰也もいる事を知った日和警部は、あの男、またいるのか…と怪しむ。

工藤が状況を説明し、先に来ていた金田一が、槍は見せかけ、死因は絞殺ですよ。毒の本体を見極められたので、殺し方を変えたのでしょうと教える。

日和警部は、昔、落ち武者がやられたのと同じやり方だな…と不気味がるが、その時、金田一は、何か人名を書き連ねたメモ書きが落ちているのに気づき拾い上げる。

そこには、相次いで殺された名前が書かれていただけではなく、この村で共通する身分や間柄の人間の名前を並べて書いてあり、死んだ人間の名前は、赤いペンで消してあった。

美也子に筆跡に見覚えがないかと日和警部が、そのメモを見せると、知らないが、辰也さんの字ではないと美也子は答える。

殺人計画メモじゃ…と日和警部の表情が強張る。

多治見家の離れに戻って来た辰也は、何故か、春代から酒を勧められる。

禁酒のはずなのに?と辰也は不思議がるが、色々心痛が続いているので、今夜は特別に飲ませてやれと大おば様が言い出したのだと春代は説明する。

辰也は、春代にも飲むように進めるが、春代は全然だめだと言い、大おば様が、辰也さんには好きな人がいるのか確かめてくれと言われたと言いながら、見合い写真を差し出すが、辰也は、いやですね、僕は…と拒否する。

美也子さんが好きなの?そう…、そうなの…と春代は辰也の表情を見て判断するが、僕は、大おばさんやこの家の掟に縛られたくないんです!と辰也は言い放つ。

その後、1人で飲み明かしていた辰也は、この家は本当に嫌な所ですね?などと、亡くなった母親に語りかけながら。菊の花をいじっていたが、その花瓶をひっくり返してしまい、中の水が部屋の隅に立ててあった屏風に掛かってしまう。

慌てて、花瓶を拾い上げた辰也だったが、ふと気がつくと、屏風の表面の濡れた所が透けて、中に貼ってあったと思しき文章が読める事に気づく。

それは、母鶴子が恋人亀井陽一に宛てた恋文だと分かるが、はじめて「龍の顎」で熱き情を受けしこと…等と書かれた文から守り袋の中の地図を思い出した辰也は、急いで確認してみる。

「龍の顎」って何の事なんだろう?母さんは、会う事さえ敵わぬ恋心を、この屏風に閉じ込めておいたのか…辰也はあれこれ想像を巡らせる。

その後、床に着いた辰也だったが、深夜、雨戸を開けて、行灯をつけた小竹、小梅が離れに入って来て、辰也の寝ている様子を覗き込んで来たのに気づく。

呆れた大酒飲みだの…、この先が思い知らされる。ぐっすり眠っている。早く行こう等と言う2人の話し声を、まだ寝入っていなかった辰也は、狸寝入りをしたまま聞いていた。

やがて、部屋の壁にかかった能面の目の部分が光る。

どうやら、隣の納戸に大おばたちが灯りを点けたらしい。

起き上がった辰也は、その能面を外すと、裏に小さな赤が開いている事が分かったので、そこから隣を覗いてみると、小竹と小梅が、納戸の中に置いてある大きな箱を横に移動させ、その下に降りて行くのが見えた。

どうやら秘密の抜け穴のようだった。

どうやら、大おばたちは、今夜、この中に入るために、自分を酒で眠らせようとしたに違いないと気づいた辰也は、抜け穴の部分を確認すると、急いで寝床に戻り、又寝た振りをする。

すると、2人の大おばが戻って来たらしく、小梅さん、気のせいだよと小竹の声が隣から聞こえて来る。

小梅は、納戸の電気がついていたように思ったが…と言っている。

危うく、辰也が納戸の電気を点けていた事に気づかれる所だったのだ。

その頃、日和警部は、万屋の二階の金田一の部屋を訪ねていた。

金田一は、いつもの逆立ちをやっていた。

わしの方も五里霧中だ、夕べから、このメモとにらめっこじゃ…と金田一にこぼす。

どうやら犯人は、ここにかかれた人物の誰が死んでも良いように思える。そんな殺しがあるか?よっぽどくるくるパーの仕業だと嘆くが、それを聞いていた金田一は、表面は迷信に見せかけているが、裏に本当の動機があるのでは?と助言する。

南京豆と茶を出した金田一は、怪しいと思う名前を挙げて行ってみてくれと言う。

まずは辰也…、そう日和警部は名を挙げ始める。

仮面で素顔を見せん蓮光寺の富蔵、戦争中、将校だったらしい里村慎太郎、26年前、要蔵に両親を殺害され、多治見家に恨みを持っている馬の仲買人の吉蔵、そして、小竹、小梅と言う奇怪な双子の老婆…

わしは最近「毒薬と老女」ちゅう映画を観たが、その犯人がやっぱり老婆なんじゃなどと日和警部が熱心に話していると、それを聞きつけたのか、店の娘かず子が勝手に入って来て話に加わる。

何もんじゃ?と日和警部がかず子を怪しむと、事件を手伝ってもらっているんですと金田一が説明し、かず子は、調べて来た結果、メモの紙は、美作銀行が配ったポケット手帖の1ページに違いなく、この村でその手帖をもらったのは、多治見家、一宮と言う家、そして久野先生の3軒だけなのだが、多治見家と一宮家では、ちゃんと手帖が残っており、破られたページもなかったが、久野先生だけは手帖をなくしたと言っていると報告する。

そう聞いた日和警部は、そう言え割れれば字も久野医師のものに似ていると言い出し、すぐさま、金田一と共に、久野病院に事情を聞きに行く。

すると、久野医師は、手帖は往診鞄に入れておいたのだが、ある時、往診か版後と盗まれて困っていたら、後に、手帖以外の鞄は刑部川に落ちていたと話す。

それを聞いていた工藤巡査は、濃茶の尼だ!と気づく。

時々、賽銭箱の小銭等の盗癖があるのだと言う。

この筆跡はあなたのものでは?と金田一がメモを見せると、久野医師は、知らん!わしゃ知らん!と全面否定する。

その後、辰也は、自分も秘密の抜け穴に入ってみる事にする。

納戸の下は、広い鍾乳洞に繋がっていた。

蝋燭の灯を手掛かりに、少し周囲を歩いていた辰也だったが、別の穴から光が見えたので、慌ててろうそくの火を消す。

近づいて来たのは、懐中電灯を持った美也子だった。

散歩していたら、洞窟の中に光が見えたのだと言う。

美也子は、今日、御隠居から、辰也に近づくなと言われたけど、私、そこまで本家の指図を受けたくないのと教える。

辰也も、僕は君が好きなんだと告白し、2人は暗い洞窟の中で抱き合う。

その時、洞窟から見える外の闇に、里村が歩いている所が見えた。

こんな時間にどこに行くんだろう?と辰也が怪しむと、時々、刑部川の河原をうろついているらしいの。今、里村が来た方向は、妙蓮、つまり濃茶の尼の庵よと美也子が教える。

深夜、泡を食って万屋にやって来た日和警部は、金田一を叩き起こすと、久野先生が身支度してとんずらしてしもうた!奥さんには、絶対潔白じゃ言うて…。あの先生、偽医者だったそうじゃ。わしとした事が、えらいしくじりをしてしもうたと悔しがる。

しかし、話を聞いた金田一は、しくじりじゃないかも知れませんよ。逃げ出したってことは、本員があのメモを書いた事を実証したようなものと言って慰める。

真犯人は久野先生じゃない。別にいる!と金田一が推理すると、又何か起こるな…、矢継ぎ早になっとるから…、今夜辺り、何か起こるんじゃないかと予感があるんじゃと日和警部も緊張する。

すると、かず子がいきなり、小竹か小梅のどちらかじゃないの?メモで赤インクがなかったの2人だけでしょう?と言い出す。

何を言うか!とバカにしていた日和警部だったが、案外この推理は…と、妥当性がある事に気づく。

慌てて多治見家に出向いた日和警部と金田一耕助だったが、小竹も小梅も無事で、わしらの事を心配するより、あんた、いつ真犯人を召し捕ってつかあさるんじゃ等と嫌味を言われる始末。

その頃、洞窟の中を歩いていた辰也と美也子は、懐中電灯の光の中に、人影らしきものを発見して腰を抜かしていた。

しかし、落ち着いて良く見ると、それは鎧甲冑が置いてあるだけだったので、辰也が安心すると、美也子が、中に人がいる!と言い出す。

さらに、懐中電灯の光を当て注意深く観察してみると、鎧の中にあったのは人間のミイラだった。

一体誰なんだ?と驚愕する辰也に、あなたのお父さん…、26年前、山に逃げ込んで行方不明になった要蔵さんよと美也子が指摘するのだった。

【第四回】

慶勝院で梅幸尼殺される。

そうか、これが父、多治見要蔵なのか…と鍾乳洞の中で見つけた甲冑を着たミイラの正体に気づいた辰也は、そこに添えられていた花を、夕べ、小竹大おばが持っていた事に気づく。

夕べは、要蔵さんの命日だったのかも…と美也子が指摘し、村の人から聞いたんだけど、多治見家が要蔵さんをどっかに匿っているに違いないって。あの大おばたちが家名や世間体を考え、この穴の中に匿っていた要蔵さんを毒殺したんじゃないかしら?あのドクカブトで…、そして、家中を着せてここに連れて来たんだわ。それを久弥さんも春代さんも知っているに違いない。陰険なのよ、多治見家は。ここは、小作人が押し掛けて来た時、当主が逃げ込む隠れ場所よ。多治見家って、財産や家名を守るためにどんなひどい事でもやるのよ。本当にひどいものよ。本家以外のものたちは冷酷無残なやり口で…とこれまで胸に貯めていたものを全部吐き出すように言う。

翌日、静かな朝を迎えた。

日和警部は、とんだ他人の疝気病みだったな、夕べは何事もなく拍子抜けした…などと呟きながら、宿泊先の民家の裏で歯を磨いていたが、そこに工藤巡査が駆けつけて来て、また殺しです!濃茶の尼が殺されているのを新聞配達が発見しました!と報告する。

工藤はその後、万屋の金田一も起こしに行く。

声をかけても返事がないので、呼子の笛等吹いたりするが、探偵さんは留守じゃと主人が迷惑そうに出て来る。

2人は幼なじみらしく、工藤が主人の事を寝小便たれが!と罵ると、主人の方は、工藤の帽子を取って、毛あるか?等と言い返す。

その時、かず子が二階から降りて来て、今朝は珍しく早起きして、飯も三杯も食って出かけたと教えるが、2人の口喧嘩は続いていた。

金田一はその頃、役所で、26年前の事件の犠牲者たちの戸籍謄本を調べていた。

応対した役人は、村の者は祟りと言うとりますなどと興味本意で金田一に話しかける。

濃茶の尼の庵の戸を工藤巡査と共に破って中に入った日和警部は、胸に日本刀が突き刺さって息絶えている妙蓮の死体を発見する。

5人目の生け贄じゃ…と日和警部が呟いている時、金田一が現場に到着し、落ち武者殺しの再現ですか?と聞いて来る。

すると日和警部は、梅幸尼殺しと同じじゃ、高札じゃ。日本刀は見せかけ、憎い奴じゃと分析して見せる。

それに感心した金田一は、室内の電燈が点きっぱなしである事に気づき、犯行は夕べの事かと見抜く。

裏をかきよって、不敵な奴だ…と悔しがる日和警部は、被害者が抵抗したらしく、腕時計が9時12分で止まっている事に気づく。

夕べの9時ちゅうと…、辰也の奴を連れて来い!所在不明じゃ!と工藤巡査に命じる。

夕べ、多治見家の小竹と小梅を訪ねた時、辰也がいなかった事を聞いていたからだった。

辰也は美也子と刑部川の河原で会っていた。

神戸にお帰りなさい。あなたをこの村に連れて来たのは間違いだったわ。責任を感じているの。濃茶の尼が殺されたのよ。夕べの9時と言えば、私たちが幌穴の中で会っていた頃。警察があの時、多治見家にやって来て、あなたがいないことを確認しているのよと美也子は辰也に教える。

しかし辰也は、あの時、里村が庵からこっちにやって来たと思い出す。

あなた、それを警察に言うの?そうしたら、要蔵さんの死体を確認した事も世間に知られてしまうわ。犯人はあなたを狙い撃ちにしているのよ。私、心配になって来たわ。この村にいたら、身動きできなくなってしまうんじゃない?もう、多治見家の財産なんて放棄して欲しいのと美也子が言うと、前には、どんなことがあっても絶対に放棄するなって言ってたじゃないかと辰也は反論する。

あなたは犯人にされるどころか、今にあなた自身が殺されてしまうんじゃないかって…、そんな予感がして…と美也子は辰也に訴える。

日和警部は、緊急手配を命じていた。

良く考えて下さいよ。あの人の行く所、必ず人が死んでいる…、あんまり合っているのがおかしいと日和警部は金田一を説得しようとしていたが、この刀は昭和新刀と言って、軍刀ですよと金田一が指摘すると、この村でこんなものを所持している言うたら、 里村慎太郎じゃ!と日和警部は気づく。

急いで警官を引き連れ、里村の家に向かった日和警部だったが、里村が今朝までここにいた形跡は残っていたものの、中にいたのは数多くの猫たちだけだった。

部屋の壁には鍾乳洞の地図が貼ってあり、ロープやカンテラが遺されていたのを発見したので、夜、1人で徘徊していたと言う里村が、洞窟内を探検していたらしい事が判明するが、大の大人が何でそんな真似をしていたのかは分からなかった。

一方、金田一は、万屋の二階に辰也を呼んでいた。

夕べも美也子さんとお二人でしたか?と金田一が聞くと、濃茶の尼殺しとは何の関係もない!と辰也はいきり立つ。

昔の話をしようと思いました。あなたの知らない事実を、出生の秘密を知るために、あなたの部屋からこれをお借りしてきましたと言いながら金田一が見せたのは、あの離れに置いてあった屏風だった。

勝手にこんな事を!と辰也は怒るが、解決の糸口を掴むには、これが必要なんですと強調した金田一は、隣村の経師屋を呼んで中を調べた所、意外なものが出てきました。下張りにこんな手紙が!と言って、井川鶴子 亀井陽一さんと書かれた辰也の母親の恋文を見せる。

(回想)大正11年、あなたのお母さんである鶴子さんは、村野郵便局に勤めており、恋文のやり取りには便利でした。

恋日である亀井の父母は、お前がそこまで好きで、しかも、校長が媒酌をしてくれると言うなら反対はしないと言ってくれたようでした。

ところが、逢い引きをしていた2人の様子を密かに目撃し、鶴子さんに邪な心を抱いたものがいました。

要蔵は、ある日、1人で帰宅途中だった鶴子さんを襲い、多治見家の離れの座敷牢に監禁してしまいました。

それでも、恋人亀井への思いは断ち切れず、鶴子さんは時折恋文をしたためていましたが、それに気づいた要蔵は、いきなり座敷牢の中に入って来ると、鶴子さんと殴りつけました。

(回想明け)全くひどいものでした。しかし、要蔵さんがどこで鶴子さんを監視していたのかは不思議です…と金田一が言うと、離れの壁にかけてあった能面の目の覗き穴を思い出した辰也は、あの抜け穴だ!と気づく。

何か、お心当たりでも?と金田一は問いかけるが、辰也は、別に…と言葉を濁す。

(回想)鶴子は、隣村から経師屋を呼び寄せ、手紙を屏風の中に貼り、時々、外から水を吹きかけて文字を浮き上がらせては、それを読んで泣いていた。

(回想明け)話を聞いていて辰也も、いつの間にか泣いていた。

本当に、あなたのお母さんは、お気の毒な人だったんですね…と金田一は同情する。

その亀井陽一と言う人は、恋人を奪われて何もすることが出来なかったんですか?と辰也が聞くと、その頃は、多治見家も今より強大で、金の力で小竹、青梅の2人が密かに解決したのでしょう。

一介の小学校訓導ではどうする事も出来ず、校長に説得され、この村を去る事になったようです…と金田一は説明すると、重大な事を教えましょうと言い出す。

亀井陽一さんの写真が一枚、屏風の中に閉じ込められていましたと言いながら、金田一が差し出した写真を観た辰也は驚愕する。

そこに写っていたのは、自分に瓜二つの青年だったからだ。

そうです。あなたは、その亀井陽一さんと鶴子さんの間に生まれた子なんですと金田一が告げたとたん、雷鳴が轟き、室内が停電する。

下の万屋では、主人とかず子が慌てて蝋燭に灯を灯していたが、灯が灯ったとたん、窓から覗いた顔を見たかず子が悲鳴を上げる。

覗いていたのは、不気味な面貌を付けた富蔵だった。

煙草を切らしてしもうてな…と富蔵が言うので、主人は驚くやら怒るやら、言葉が出て来なかった。

その富蔵は、雷鳴轟く帰り道で、もう1人の面貌を顔にかぶった男と遭遇する。

その頃、小竹と小梅が、遺骸を他の所へ移すんじゃと、春代のいる前で話し合っていた。

辰也は今頃、ほら穴の中で観た事もしゃべっとるに違いない。いざとなれば、家名等より我が身が可愛い。あの男はそう言う奴じゃと小竹は断ずる。

私は、要蔵さんの子じゃないんですね?万屋の二階では、辰也が金田一にそう確認していた。

金田一は、お守り袋を見せてくれませんかと頼む。

そこには「大正12年3月6日出生」と書いた紙が入っており、鶴子さんが拉致されたのは、大正11年8月20日と分かっています。ですからあなたは、拉致される前に出来た子なんですと金田一は説明する。

(回想)要蔵さんは、生まれて来たあなたが自分に似ていない事に気づき、逆上して、焼け火ばしを赤ん坊時代のあなたの脇腹に押し付けたのです。

(回想明け)その時の傷は脇腹にちゃんと残っているはずです…と金田一が話し終えると、僕は多治見家の跡取りではないので、財産をもらう権利もない。でも、恐ろしい血を受け継いでもいないと言う事ですねと安堵したように言う。

しかし、肝心の犯人はその事を知っているのかな?だとすると、怖いな…、あなたの身に危険なことが起こるかもしれないと金田一は呟く。

亀井陽一はどこにいるんですか?と辰也が聞くと、さあ?と金田一は答えるだけだった。

その頃、小竹と小梅は、ほら穴の中の要蔵の遺体の所へやって来ていた。

ここも永眠の場所じゃなくなった。もっと静かな所へ行こうと要蔵に話しかけるように大おばたちが言っていた時、小竹が、鎧が動いた!と言い出す。

最初は半信半疑の2人だったが、やがて本当に鎧武者が動きだし、小梅の首を絞め始める。

万屋に日和警部が来ると、主人が出て来たので、金田一を呼んでもらうと、春代さんが知らせて来たんじゃが、小梅が鎧武者にさらわれたそうじゃと伝える。

金田一や日和警部と共に、多治見家の離れに戻った辰也は、納戸の箱を押して、床の抜け穴を示す。

それを見た金田一は、辰也さん、こんな大事な事をなぜ僕に言ってくれなかったんです!と焦る。

辰也や金田一と共にほら穴の中に降りた春代は、そこに脱ぎ捨てられていた鎧を見つける。

懐中電灯を持った工藤巡査に先導させ、奥に向かった日和警部らだったが、すぐに行き止まりに突き当たってしまう。

金田一は、辰也の地図を見せてもらうが、それでは、自分たちが今いる現在位置が分からなかった。

春代は、この洞窟は八幡の薮知らずになっており、迷って死んだ人も何人もいると言いだしたので、ロープ等を用意して出直すしかない事に気づく。

数日後、ほら穴の探索は続けられたが、小梅は見つからなかった。

その間、連日、豪雨と雷鳴が轟いていたが、雨が止んだある日、雨で崩れた八つ墓村側の地面から、人間の手が覗いているのが発見される。

農民たちが集まって、日和警部や警察はどうしているんだ?と話し合うが、全員、ほら穴の中で探索中だと言う事が分かったので、自分たちで掘り出してみる事にする。

出て来た遺体は、久野医師のものだったが、側にもう1人埋まっている事も分かる。

それは里村慎太郎の死体だった。

それを見た村人たちは、祟りじゃ!八つ墓村の祟りじゃ!と騒ぎ始める。

馬の仲買人の吉蔵が、ガキの仕業じゃ!俺たちの手でふん捕まえるんじゃ!と先導しだす。

そして、その夜、洞窟の奥深い中では…

日和警部や金田一たちは、夜行後家の一種が群生して不気味に光っている沼に出会っていた。

金田一は「鬼火の淵か…」と呟く。

そんな中、同行していた辰也が、沼の中に鞠のようなものが…と言うので、そちらに全員目をやると、それは浮き上がって来た小梅の後頭部だった。

騒然とする辰也たちの様子を、近くの岩陰から密かに監視していたのは、不気味な面貌を付けた富蔵だった。

【最終回】

八つ墓村で起きた事件の犠牲者は8人にもなってしまったのです。

八つ墓村は今朝も霧

この灰色の朝、大詰めの幕が静かに上がる。

興奮した農民たちが、多治見家に押し掛けていた。

工藤巡査が慌てて自転車で駐在所に飛び込んで来たので、うどんを食べかけていた日和警部は、丼をひっくり返し、側にいた別の経験にお玉からうどんを浴びせかけてしまう。

村人が暴徒化して多治見家に押し寄せ、辰也は洞窟に逃げ込んだと聞いた日和警部は、ジープで洞窟の入口付近にやって来る。

そこには、いきり立った吉蔵らが騒いでいたので、県警の命令により、洞窟内への立ち入りを厳禁すると日和警部は宣言する。

その頃、金田一耕助は、駅に到着した諏訪弁護士を迎えに行っていた。

金田一は、怪しむ諏訪弁護士に、あの方からのお言い付けで万事心得ておりますから…と耳打ちし、安心させていた。

美也子は、洞窟の中で辰也と合っていた。

弁当を持って来たのだが、日和さんが、全部の入口を警戒しているので、人が入って来る心配はないと言う美也子だったが、君はどうやって?と辰也が聞くと、裏庭に穴があり、そこから入って来たと言う。

長年積もっていた怨念が爆発したんだわと、美也子は、村人たちが放棄した事を分析すると、大丈夫よ、その内、皆の気持ちも鎮まるわと辰也を安心させる。

そして美也子は、「龍の顎」とか探検してみない?などと言い出す。

洞窟の入口付近で村人たちと集まっていた吉蔵は、カラスが鳴いとる。祟りじゃ!洞窟の中で、9人目の犠牲者が出とるかもなどと言い出したので、近くにいた日和警部は、この中には辰也以外、誰も入っとらんと叱りつける。

26年前、鶴子さんはこんな所まで来たのね…、私たちのように…と、辰也と共に洞窟の奥に進んでいた美也子は言う。

辰也も、不思議な気がするな…、母の胎内に入って行くようだ…と感慨深気に呟く。

やがて2人は、石筍が口を開いた龍の歯のように並んで生えている「龍の顎」を見つける。

ここか…、ここが母と陽一さんと…と辰也は感激する。

はじめて熱きお情けを賜りし…と恋文に書かれていた場所であった。

ここなの?26年前、鶴子さんがここで…、ひたむきな愛を貪るように…と美也子も感極まったようで、いつしか、辰也とキスをして強く抱き合っていた。

抱擁がすみ、起き上がった美也子が、今、何時頃かしら?などと言って、洞窟の天井付近を見上げると、そこにコウモリの巣を発見する。

そのコウモリが飛び立つのと同時に、棚のようになったその近くから、黄金に輝く何かが降って来る。

それは昔の大判だった。

辰也が伸び上がって、棚の上のような部分に合った朽ち果てた箱を触ろうとすると、さらに大量の大判が降り注いで来る。

それこそ、落ち武者が村に持ち込んだと言われていた3千両だった。

そうか!母の魂の導きだったんだ!母が恋人とここで逢い引きを重ねている時、これに気づいたんだ!そして、それをそっくり、僕に遺そうと、お守り袋に地図を入れてくれたんだと辰也は感激する。

いつかあなたを幸せにしてくれるかもしれない…、確かに亡き母親鶴子はそう言っていた。

美也子は、そんな辰也に、もう多治見家なんか棄てたら?どこか2人で知らない所へ行きましょうよと誘う。

一方、駅から、万屋の二階に諏訪弁護士を連れて来た金田一は、あのお方は?と聞かれ、先生はこの村のご出身だそうで?と逆に聞き返す。

誰に聞いた?と諏訪弁護士の表情が厳しくなったので、口外してはいけなかったんでしたねと金田一は低姿勢で謝る。

しかし、その後も、先生のご両親は、26年前、多治見要蔵に殺害されたんですよね?その後、単身この村をお出になり、刻苦勉励の末、弁護士になられたとか?と続けると、久しぶりだな、20年になるか…と諏訪も答える。

すると金田一は、変ですね?2、3日前にも来られていたのでは?先生は、最近、ちょくちょくこの村に来られていますよね?と追求し、自分は金田一耕助と言う私立探偵ですとはじめて正体を明かす。

一切合切、話して頂けませんか?もっとはっきり申せば、諏訪さん、あなたこそ、真犯人の1人だ!と金田一は問いつめる。

むっとした諏訪弁護士は立ち上がると、忙しいので帰ると言いだすが、ふすまを開けると、そこに立っていたのは日和警部で、本庁の警部でもおえんかな?と、諏訪弁護士を押し戻すように部屋に入って来る。

あなたはさる人から頼まれて犯行に手を貸した…と金田一は話し始める。

ことの発端は、さる人が法律事務所に来て、この紙片を見せたことでした…と言いながら、金田一が差し出したのは、あの久野医師が書いた殺人計画メモだった。

久野医師は選挙に出たものの失敗し、それは村人が協力してくれなかった事が原因だと恨みを抱いていたのです。

その紙片を観て、あなたは恐ろしい企みを考えた。八つ墓村にjらくらいがあり墓石が壊れた事をきっかけにし、祟りとして、次々と殺そうとしたのでしょう。

目的は、ことが成就した暁には多治見家の莫大な財産をそっくり横領する事。

最初の丑松殺しは、主犯が郵送しておいたトリカブトの毒を、あなたが事務所の洋服掛けに掛かっていた丑松さんの上着のポケットの中の薬とすり替えておいたんです。

2番目と3番目は主犯の手で。

4番目の梅幸尼殺しはは、違う手だてにし、あなたが背後から梅幸尼の首に紐を引っ掛け梁に吊り上げたんでしょう。あれは1人の力では到底不可能だ。

濃茶の尼や里村殺しは、主犯がやりましたが、あなたも何らかの手を貸していますね?

それを黙って聞いていた諏訪弁護士は、物的証拠はあるのか?と反論する。

すると金田一はいきなり諏訪弁護士の持っていた鞄をひったくり、逆さまにして中味を畳に落とすと、そこには富蔵が付けているのと同じような面貌が入っていた。

それを日和警部が指摘する。

あなたがこの村に来たときは、富蔵に化けていた物的証拠ですと金田一が説明する。

あなたは恐ろしい殺しを次々と…と金田一が追求すると、よう調べたな…と諏訪弁護士は観念する。

だが、あんたにはわしの心が分かるまい。わしの一生の仕事じゃった…。

八つ墓村の歴史に込められた怨念が、わしの小さな肩に集まって来たんじゃ。

悔しいのは、捕まった事じゃない。仕事が終わらんのじゃ…と言いながら、諏訪弁護士は泣き出すが、その手にしっかり日和警部の手錠がはめられていた。

洞窟の中にいた辰也は、突然、女性の悲鳴が聞こえたので、美也子さん!?と応じながら、悲鳴の場所にやって来るが、そこで倒れていたのは春代だった。

どうやら、辰也のために弁当をこしらえて持って来た所だったらしい。

姉さん、どうしたんです!?と抱き起こすと、辰也さん、しっかり抱いて…、私、もうダメ…。でも、あなたの腕に抱かれて死ぬのが嬉しい。私、死ぬのだから、もうどんな事を言っても良いわね?私、あなたが好きだった。とっても…。あなた、私の本当の弟じゃないのよ。知ってたの、最初から…。私だけじゃない。久弥兄さんも…と春代は苦しい息の中で話し続ける。

じゃあ、兄さんは?それでも僕を多治見家の跡継ぎに?と辰也が驚くと、兄はいつも、父の血を継いでいる事を苦しんでいました。父の血を継いでいない辰也さんにと…、私、苦しかったの…。辰也さん、私を姉としてしか扱ってくれなかったから…、私、それがとても悲しかった…。辰也さん、何も思い残す事はないけど、最後に一言だけ言わせて…。ワツィを襲った犯人の小指を、私噛んだの。私、」はっきり分かったの。その人が!恐ろしい!と春代は言い、犯人の名を辰也の耳元に打ち明ける。

驚愕する辰也の腕の中で、春代は息絶える。

金田一耕助と日和警部の乗ったジープが、雪の降りしきる中を走っていた。

真犯人は洞窟の中にいるはずですと金田一は、後部座席から、助手席に乗っていた日和警部に話しかける。

面貌が出て来るまで、確信が持てなかった。今は確信を持って言えます。

連続殺人の恐ろしい殺人鬼は…

洞窟の中にいた辰也に、美也子が近寄って来るが、辰也は、来るな!君って人は恐ろしい人だ!夢にも思わなかったよと怖い顔で呼びかける。

どうしたの?と近づいた美也子の左手を取った辰也は、その小指に包帯が巻かれているのを示しながら、君が犯人だなんて…と続ける。

春代さんに聞いたのね…、美也子は諦めたようだった。

じゃあ、私たち、もうお終いなのね?私は恐ろしい女よ。あなたを殺すために、この村に連れて来たの。でも、どうしてもそれが出来なくなって…と言う美也子に、僕だって信じられないよ。否、信じたくない!どうして君が?と辰也は問いかける。

多治見家に対する怨念よ…と美也子は答える。

主人は戦時中、事業をやって失敗したの。本家にお金を貸してくれって頼んだけど、2人の大おばと久弥さんに冷たくされ、主人の会社は倒産したの。

家や土地まで人手に渡り、あげくの果てに主人は自殺したわ。

本家は、冷ややかに私たちを無視して、そのくせ後日、自分たちで土地を買い戻したのよ。そんな金があるのなら、なぜ主人を助けてくれなかったの?

冷酷な本家に対する怨念が…と美也子は続ける。

すると、宮こと諏訪が組んで?と、日和警部は、ジープの中での金田一の推理を聞いて驚いていた。

濃茶の尼が拾った久野医師の鞄の中にあった手帳を、たまたま近くにいた美也子が金を出して買い取った。久野医師は、河原に呼び出した美也子と諏訪が殺したんです。我々の捜査を攪乱するためですと金田一は説明していた。

私と死んで下さい!そう言いながら、辰也に近寄っていた美也子は、コートのポケットからカミソリを取り出していた。

あの恐ろしい女の事を知っていたのは里村慎太郎でした…と、金田一はジープの中で話していた。

事件の後半、美也子は消極的になった。辰也さんを好きになったからです。

辰也さん、死んで!美也子はカミソリを突き出しながら、辰也にぶつかって行く。

辰也が逃げると、辰也さん!私から逃げるの?と叫びながら追いかけて来る。

辰也は、「鬼火の淵」の所まで逃げて来たとき、足をくじいてしまう。

死んで!辰也さん!カミソリを持った美也子が迫って来る。

その時、どこからともなく現れた面貌をかぶった富蔵が、美也子の前に立ちふさがり、その首を閉めようとする。

美也子は抵抗しながらカミソリを振り回し、富蔵の首をかき斬ってしまう。

富蔵と美也子は、共に相打ちでその場に倒れて息絶える。

少し後、現場にやって来た金田一は、運び出される犠牲者の姿を観ながら、春代さんまでも…と愕然としていた。

富蔵は、どうして僕の事を?その場に残っていた辰也が不思議がると、あの面貌を取ってご覧なさいと金田一が勧める。

美也子の遺体と並んでその場に置かれていた富蔵の面貌を取ってみると、その下にあったのは、白髪になってはいるが、辰也そっくりの顔をした男だった。

その死に顔を唖然と見つめる辰也に、あなたのお父さん、亀井陽一さんですと金田一が教える。

陽一さんは、始めからあなたの存在を知っておられたのです。26年前、恋人が強奪され、村に残して来た忘れ形見を忘れなかった。

戦後、この村に戻り、こっそり暮らしていたのですが、密かに多治見家があなたを捜していると聞いて…と金田一が説明すると、そうか!多治見家の離れで!と辰也は思い出す。

夜、寝ていた自分の顔を触って行ったのはこの父親だったのだ。

生涯、陽一さんは日陰の身だったのです…と金田一は教える。

真犯人も知っていた。最後の瞬間まで僕をかばい、我が身を犠牲にして…、そう吐き出すと辰也は泣き出す。

反人の美也子はこの事を知らなかった。もしそれを知っていたら、犠牲者は出なかったかもしれない。彼女もそう悩み、苦しまずに住んだかも…。人間の業と言う事かもしれませんね…と金田一耕助は締めくくる。

数ヶ月後

日和警部が、「三味線ブギ」が流れる闇市にやって来て、食堂で1人飯を食っていた金田一を見つけると、今朝の新聞はもう読んだか?と聞きながら、持って来た新聞を差し出して見せる。

そこには、台風の影響で氾濫した刑部川の濁流が、麓の村を全部押し流したと書かれていた。

伝説の三千両の黄金もな…と日和警部が言い添える。

そんな中、洞窟の中から行方不明の水死者が1体見つかり、それは、寺田辰也26歳と判明と書かれてあったのを呼んだ金田一は、何で洞窟の中へ?恋人が死に、父も死んだあの穴…と不思議そうに呟く。

見えない糸にたぐられて入って行ったと言いたいんでしょう?と言いながら、自分も注文した雑炊の中を覗き込んだ日和警部は、そこに写っている自分の目玉を汁の具と間違えそうになる。

金田一耕助も、髪をかきあげると、又雑炊をかき込むのだった。

八つ墓村…

その奇怪な名の村は、現在、日本中の地図を探してもどこにも見当たらない…(…とナレーション)

 


 

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