白夜館

CG17
CG18
CG19
CG20
CG21
花のヒロイン 

 

 

 

幻想館

 

白馬童子 鉄仮面の恐怖

山城新伍さん主演のテレビ時代劇で、他の映画会社に先んじていち早くテレビの可能性に気付いた東映がテレビ朝日(元NET)と組んでテレビ用に作っていた今なお続く子供向けヒーローもの路線の走りの時代劇。

戦う前に一くさり、格好良い決め台詞を言う所など、既に後の東映ヒーローもの特有の形はこの時点からできている。

東映は時代劇人気で稼ぎまくっていた時期で、当時の新人たちを起用し、テレビでも時代劇や子供向けヒーロー物、刑事物などを量産していた時期の作品である。

ただし当時の子供向けと言うのは始まったばかりで対象年齢層などまできちんと想定していたとは思えず、ドラマ自体は大人向けとそんなに違いはなく、本編に登場する忠助と同じくらいの小学生辺りでもきちんと話を理解していたかどうかは疑問である。

白馬童子が出て来て活躍する所は覚えていても、ストーリーそのもののは全く覚えていなかったりするのはその為ではないかとも思う。

山城さんが途中から主役を務めた前番組「風小僧」が映画の「新諸国物語」に登場したキャラクターを使ったスピンオフ企画だったのに対し、「白馬童子」は「鞍馬天狗」や「快傑黒頭巾」系統の覆面ヒーロー時代劇になっている。

今回の内容は九州小倉藩のお世継ぎ騒動に端を発した話で、大人の目で見ると時代劇では良くある定番設定なのだが、途中かなりカットされている部分もあるのに加え、時代劇特有の分かりにくい言葉も使われているので子供には良く理解できない内容ではないかと思う。

出来も「東映娯楽版」のような低予算の子供向け中編映画と同じ程度に感じられ、スターが出ていない分取っ付きにくさはあるが、しばらく見ていれば慣れて来る感じはあるが、テンポは異様に遅い。

同じ時代の東映の現代劇マスクヒーロー「七色仮面」なども、今の感覚で見るとあまりのテンポの遅さに驚くと思う。

なので、近年のテンポアップした時代劇を見慣れた若い世代の人には、白黒映画と言う事もあり退屈に感じるかもしれない。

ただ子供向けとは言っても、当時の時代劇に良く出て来た大時代なセリフはそのまま使われているので、往年の時代劇の雰囲気が味わえる部分はあるような気がする。

九州小倉藩が舞台なのが分かるが、後に長崎での事件に遭遇しているのでその途中と言う事なのだろう。

葵太郎のお供の忠助と小助と言う子供と大人コンビがピンチになると必ず白馬童子が出現して救うと言う展開も、子供騙しの御都合主義と言う以外に説明しようがないのだが、見ていた子供たちはそう云う不自然さに気付かないと言うことを前提に作られていたのだろう。

洞窟内のピンチ表現なども、既に敵は逃げ去った後なので、先に導火線の火を斬るなり踏み消せばすむのに、何故か牢の鍵を開ける方を優先しているのも子供向けのサスペンス表現と言う事だろう。

先君の遺言書の隠し方など、いくら子供向けとは言えうかつ過ぎと言うしかなく、こんなに味方側が愚鈍なら、悪人に支配されるのも仕方がないのでは?と思えるほど。

鉄仮面などは海外の発想ではないかと思うが、当時の子供向け時代劇にはこうした海外のアイデアを翻案した物が良く使われていたような気がする。

尺の長さからするとCMが入る30分番組用1本分にしては少し長いし、映像的にも随所に不自然にカットされたような部分が見受けられる上に話の展開から考えても、数回分をまとめた物ではないかと想像する。

主役の山城新伍さんは本来左利きなのに、画面上の殺陣ではそれに気付かれぬよう右手を中心に刀を握って戦っているのが分かる。

ちなみにキャストロールに名前はないが、夢の中に登場する奇妙な3人巫女の1人を演じているのは汐路章さんではないか?と言う気がする。
▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼
1960年、東映テレビ部、巌竜司原作、村松道平+高田宏治脚本、仲本睦監督作品。

愛馬「流れ星」に乗って失踪する白馬童子

その「流れ星」が停まると、白馬童子!と呼びかける子供たちの声

日本国中隠れなき太陽の子!白馬童子!(馬上の白馬童子のアップ)

タイトル

スタッフ、キャストロール

第一篇

葵太郎(山城新伍)と共に旅を続ける忠助(山本順大)、小助(神木真壽雄)、夕香里(晴海洋子)の3人は、途中茶店で名物「大団子」をもらってあまりの大きさに驚いていた。

良い気候になったな、やはり春だなと言いながら近づいた太郎が3人の横に座ると、梅一輪、一輪ほどの暖かさかな…、服部嵐雪の句ねと夕香里が教養のある所を披露する。

すると、お団子一皿!と忠助が言い、一皿だけの旨さかな…と小助が混ぜっ返す。

それを聞いていた太郎は笑顔になり、亭主、どうやらお代わりらしいぞと呼びかける。

あんたたちは歌詠みの心、すなわち詩情も解さぬ哀れにも飢えたるタヌキねと夕香里は呆れたように言う。

すると忠助が、花より団子だよ!と言い返し、小助も、ウ〜ンそうですよ、団子に恨みは数々ござるってねなどとおかしなことを言う。

全くこれが男性の姿かと思うと憂鬱になるわ…と、夕香里は団子にかぶりつきながら嘆く。

茶店を後にした忠助は、ああ苦しい、おなかが満腹だ~と満足そうな不平を漏らす。

小助さんと忠助ちゃんは食べる事以外に望みはないの?と夕香里が聞くと、ありますよ、私は太郎さんみたいな強くて優しい立派な武士になりたいんですよと小助は答え、おいらだってそうだよと忠助も言うので、その為には早く立派な手柄を立てて大名に認められるんだなと太郎が言い聞かせる。

夕香里も、だから食べてばっかりじゃダメだって言ってるのよと忠助に忠告すると、忠助は、だから女の子の浅はかさって嫌になっちゃうんだよと言い返す。

腹ペコでは戦も敵い申さぬってことも知らないんだからなと小助が意地悪く言うと、孔子様曰く、女子と小児は養いがたしってねなどと忠助は子供のくせに偉そうに言うので、ま、酷い!と夕香里は膨れる。

そんな夕香里に、夕香里ちゃんは何になりたい?と太郎が聞くと、早く理想の男性を見つけてお嫁に行くんだなと言い聞かすと、夕香里は恥ずかしがって笠で顔を隠して立ち止まってしまったので、忠助は、あれえ!夕香里姉ちゃん、真っ赤になったぞと言い、小助も、へ〜、このお転婆さんがね…とからかい出す。 あれでお嫁さんになるんだってさと忠助がからかうと、ああ可哀想に…と小助も調子に乗る。

すると笠から顔を出した夕香里が、まあ誰が可哀想なの?と聞いて来たので、だって…、相手の男性がですよ…と小助は答える。

それを聞いた夕香里は、まあ憎らしい!と怒って、小助に笠を投げつけるが、その笠が近くで腰を下ろして休んでいた旅の夫婦者にぶつかり、それを避けようと後ずさってバランスを崩した小助が亭主(香住佐久良夫)の方に尻餅をついてしまう。

慌てて身を起こした小助は、どうもすみませんでしたと詫びながら立ち去るが、女房(太田優子)は夫を気遣い、大丈夫かい?と心配そうに声をかける。

すると気の弱そうな亭主は、だから旅は嫌だって言ったんだよと弱音を吐いて来たので、女房は不機嫌になり、だって一生に一度の新婚旅行じゃないかと言い返す。

女房は木の枝を拾って竹刀のように構えると、気を付けて下さいね!と遅れて近づいて来た太郎たちに文句を言ったので、夕香里はすみませんと頭を下げ、太郎もどうか許してやっておくれ、こいつは拙者の旅の連れだが年がら年中失敗ばかりしているんだと謝罪する。

それを聞いた女房は、ねえあなた、お侍さんが謝っているの、許してあげてと亭主に話しかける。

しかし臆病そうな亭主は、もう何が出るか分からない!家へ帰ろうよ!とだだっ子のように身をよじり出す。

よちよちと赤ん坊をあやすように女房がなだめると、御主ら旅の者だとすると小倉の城下は通って来たのであろうな?と太郎が聞くと、へえそうですよと女房は言うので、小倉までの道のりを聞きたいのだが?と尋ねる。

はい…と言いながら立ち上がった女房だったが、それがですねお武家様、小倉までは後五里ばかりですがね、だけどダメですよ、お武家様、私たちも小倉で一日宿を取るつもりだったんですよ、そしたらね〜、運の悪い事に…、御城主の小笠原種久様が御重病で、網状かは火の消えたような寂しさ、お侍がうろうろしているだけで、私たちも早々に御城下を抜け出して急いで来たんですのさと言う。

小倉15万石の御太主様が御危篤と言えば無理もないんでしょうけどさ、新婚気分の雰囲気じゃありませんよ、じゃあご免なすって…とおしゃべりな女房はうれしそうに挨拶する。 立ち上がった亭主が、自分の笠も一緒にも抵抗としたのに気付いた夕香里が、私の笠!と声をかけると、女房はすぐに返し、じゃあご免なすってと言い残し、亭主の袖を引っ張って急いで去って行く。

太郎は、小倉まで後五里だそうだ、急がないと日がくれるぞと皆に言い渡すと、でも小倉は…と小助が何か言いたそうにする。 しかし我々は一夜の宿が欲しいだけだ、急ごうと太郎は言う。

再び歩き出した一行だったが、あのご亭主いくじなしね、何が出るから分からないから早く帰ろうなんて…と夕香里がぼやくと、山賊みたいな顔をしているくせにさと忠助も負けじと嫌みを言うので、忠助君、そんなことを言っていると本当の山賊が出てきますよと小助が注意すると、平気よ、太郎さんがいるもんと夕香里が笑顔で答えるので、だっていきなり鉄砲で殺されたらどうする?と忠助が聞くと、前方から突然短筒の音が聞こえて来たので一行は驚く。

見ると、2人組の侍が大勢の侍に囲まれており、右頬に痣がある侍が、おい、御主ら小倉から我々の後を付けて来たのであろう?と2人組に詰め寄り、可哀想だが生かしておけん!と言うと、懐から短筒を出して2人に向ける。

すると、右腕を撃たれていた侍の1人が若君をどこへ隠しもうした?矢吹!我々はどうなっても良い、若君だけはお救い申してくれ!と頼む。

しかし右頬に痣がある矢吹五郎太(木島修次郎)は、うるさい!逆らう者はことごとく抹殺せよとのご命令じゃ!諦めろ!と答える。

そこに駆けつけた葵太郎が小柄を投げ、矢吹の右手に突き刺さって短筒を落す。

邪魔が入ったと気づいた矢吹は、他の仲間たちに合図をしてその場から立ち去って行く。

太郎は、小助!忠助!と命じ、2人に矢吹たちの後を追わせると、合点!承知の助!と答えて2人は矢吹たちの後を追う。 太郎は大した傷ではない、御気を確かにされいと右腕を撃たれた侍を励ます。

かたじけないと礼を言った侍は、拙者、小倉藩家中斎藤猛(和崎俊哉)と申しますと名乗る。

すると、同行の若衆髷の侍も、私は弟の繁(倉丘伸太郎)と申しますと太郎に頭を下げ挨拶をする。

おおそうか、拙者は葵太郎と申すきままな素浪人と太郎も答え、これなる連れの者は夕香里と申す拙者の妹同様の者でござると紹介する。

夕香里に戸惑いながらも、さすれば貴殿が!葵太郎様ですか!と斎藤兄弟は喜ぶ。 何の何の…、先ほども申した通りただの素浪人と太郎は笑って謙遜し、しかしご兄弟には何か仔細がありそうだな…と言い、微力ながら拙者御力添え申そう、話してはくれぬかと2人に申し出る。

ご親切なお言葉かたじけのうございますと頭を下げた兄猛に、兄上、ここで葵太郎様のお助けいただいたのは全く天佑でございますぞと弟繁が話しかける。

考えていた猛は、葵様、既にお聞き及びかもしれませんが、我らの主君小笠原少将種久公には、長のお患い…と意を決したように語り出す。

(回想)小倉城(絵) 床に伏せていた小笠原種久(藤川弘)は、光久!光久はおらぬか?と側に控えていた家老斎藤頼照(浪花五郎)に話しかける。

家老頼照は、は!ただいまお探し申しております故、間もなく…と答えながらも、同じく側に控えていたお蓮の方(吉野登洋子)とその子久丸(福本久一)や三船九左衛門(団徳麿)たちの顔をそっと見やる。

その時、国家老の松本幹太夫(近衛雄二郎)が部屋から出ていったので、それに気付いた斎藤頼照の娘で腰元夕月(横田真佐子)が何やら考え込む。

私共の父頼照は家老を勤めておりますが、かねてから同じ国家老の松本幹太夫が正当の世継ぎの光久君を押しのけて、側室のお子でまだ幼い久丸君を御世継ぎにしようと企んでいることに気付いておりました…と猛は語る。

廊下に出た松本は、庭先に控えていた矢吹に何事かを命じるが、その様子を後を付けて来た頼照は物陰からそっと観察していた。

そして殿のご帰国と同時に光久君が突然行方不明になられたのでございます。 その後、久丸と廊下に出て来たお蓮の方を追って来た夕月は急いでその場から立ち去る。

松本の奸策に違いない!私共は光久君をお探ししました、しかし若君の行方は杳として知れず… 探索後、馬で城に戻って来た猛と繁を表で待っていたのは妹の夕月で、姉上、如何致した?と繁が聞くと、兄上様!先ほど矢吹が松本様の命を受け手勢を連れて密かに出発致しました、すぐに後を追えとの父上のご命令ですと伝える。

それを聞いて、良し!と覚悟を決め出立する兄弟を心配げに見つめる夕月。

(回想明け)夕香里から傷の手当を受けながら事の仔細を語り終えた猛に太郎は、すると父上は、松本幹太夫がおのれの腹心を光久君幽閉の場所に向かわせ暗殺するのではないかと心配されたのだな?と確認する。 何とかして若君を見つけ出さねば…と繁も憂う。

そうだ、こうしてはおれん、小倉15万石が松本一派の思うがままになってしまう…、繁!矢吹らをすぐ追え!と猛は焦る。

すると太郎は、まあお待ちなさい、既に私の供を走らせてあると言い聞かせる。

その頃、小助と忠助は頬かぶりをして、山の中を進んで行く矢吹一行の尾行をしていた。

途中、小助は懐紙を道の横の崖に突き刺し、そこに2人が書いた走り書きを残しておく。

小助と言う名前と、忠助を現すネズミの絵だった。

近くの納屋に兄猛を残し、繁は外へ飛び出して行く。 傷の手当を続けていた夕香里に、葵太郎様は?と猛が聞くと、太郎さんは小助さんたちの後を追って今頃山中を駆け回っている事と思いますと夕香里は答える。

左様か…、猛の不覚…、若!若君!お許しください…と藁の上に寝かせられた猛は無念そうに呟く。

そこに繁が戻って来て、兄上…と呼びかけるが、何も収穫がなかったのか、自分の非力を恥じるように黙り込む。

その頃、小助と忠助は厳しい崖を上っており、ちぇっ!もうちょっと楽な道を行けば良いのにな〜とぼやく忠助に、忠助君、このくらいの事でへこたれちゃ一人前の武士にはなれませんよ、さ、元気を出して、急がなきゃ…と小助が励ます。

次の瞬間、忠助が足を滑らせ、慌てて先に登っていた小助の足を掴んでしまったので、小助も引っ張られて一緒に滑落してしまう。

気がつくと、2人の前に、手に菓子が乗った三宝を持った3人のおっさんみたいな巫女が近づいて来る。

喜んだ忠助が起き上がり、その三宝の上の菓子に手を延ばすとおっさん巫女が空手チョップで頭を叩いて来る。

そして三宝を下に置いたおっさん巫女たちは奇妙な動きで踊りのような事を始める。

やがて疲れ切ったように3人の巫女の動きが止まったので、小助と忠助は三宝を集めて菓子を貪るように食い出す。

しかしそれは一緒に縛られて気絶していた忠助と小助の見ていた夢だった。

小僧!目を覚ませ!と呼びかけられ、忠助と小助が目を開けると、自分たちは背中合わせで縛られており、目の前には追っていたはずの矢吹らがおり、貴様ら、あの浪人者に言いつけられ、我々の後を付けて来たのであろう!と迫られる。

可哀想だが生かしておけぬ、直ちに銃殺じゃ、これを見ろと矢吹が言うと、彼の背後に控えていた家臣たちが一斉に種子島を向けて来る。

それを見た小助は、忠助君、せめて死に際だけも男らしく武士になったつもりで死のうと背中合わせの忠助に言う。

すると忠助は、うん…、だけど残念だな~と死を理解できないように答えたので、それを聞いていた矢吹は苦笑し、撃て!と命じる。

家臣たちが一斉に種子島を発射した瞬間、小助と忠助の前の煙の中に突如姿を現したのは白馬「流れ星」に股がった白馬童子だった。

馬上の白馬童子が哄笑すると、あ!白馬童子!と驚いた矢吹は、撃て!撃て!と命じる。

家臣たちは一斉に種子島を構えると、白馬童子が右手を差し出し、えい!と声を出す。

すると家臣たちの前に煙玉が次々に爆発したので矢吹たちは狼狽する。

さらに捕縛が切れた小助と忠助が立ち上がり、やい、悪人ども!正しい者はいつも白馬童子のおじさんが助けてくれるんだぞ!と勝ち誇ったように言う。

白馬童子の煙玉攻撃にひるんだ矢吹たち一行は這々の体で逃げて行く。

それを見た白馬童子は笑いながらさって言ったので、忠助も、白馬童子さんていつも凄いな~と感心すると、小助さん、おいらたちどうする?と聞くので、こうなったら最後まで悪人どもを追いつめないと、太郎さんや夕香里さんたちに笑われちゃうよと小助は答え、うれしそうにうんと答えた忠助と一緒に又伊吹らの後を追うことにする。

納屋では眠り込んだ猛の横に座した繁が、夕香里殿、兄は小倉藩中きっての剣道の達人で若の御指南役を務めておりますと打ち明けていた。

それが…、悪人どもの奸計にかかって…、剣を抜き合いもせず鉄砲でやられたんですから、さぞかし無念なのでしょう…と兄の気持を察したように悲しむ。

あなた方ご兄弟の苦しみは私にも良く分かりますと夕香里が言うと、私は兄と違って若年の未熟者、兄君どもに一太刀も報いぬのが残念です…と繁が悔しがるので、何をおっしゃいます、戦いはまだこれからですわ、一日も早くお兄様に良くなって頂いて…と夕香里は励ます。

はいと答えた繁は、そうだ、私は日の暮れぬうちに食料を仕入れて参りますと言い出したので、夕香里はお願いしますと頼む。

繁が出掛けた後、猛の額の手ぬぐいを交換しかけた夕香里は、猛が目覚めた事に気付き、お目が覚めましたか?と声をかける。

猛は、夕香里殿、ずっと拙者の側にいてくれたのかと感激し、かたじけないと礼を言うと、で、葵太郎さんは?と聞く。

夕香里が、はい、まだ御出でになりませんと答えると、左様か…と言い動こうとするので、なりません!静かにお休みになりませねばお傷に触りますと夕香里は叱る。

夕香里殿、葵太郎様の御親切に甘え、こうして安閑としておられましょうや?今この一刻に若君の身に悪人どもの魔手が伸びているとも知れぬ、その時、拙者がこうして…と猛は悔しそうに身悶えする。

お察し申し上げます、でも斎藤様、あなたは一日も早く元の御身体に戻られるようご養生されるのが大切でございましょう?それが若君様への一番のご奉公と思いますと夕香里は言い聞かせる。

夕香里殿、ふがいなき拙者をお笑いくだされ…と猛は自嘲する。

この大事に当たって、正義の人葵太郎様に巡り会えたのが不幸中の幸いでした…と猛はふさぎ込んだように言う。

その頃小助は矢吹たち一向に追いついたので、忍び込んで様子を探るんだと言い出すと忠助に何やら耳打ちをする。

矢吹の配下で1人見張り役が残っていたが、その見張り役は木の枝を持って身を隠しながら動いている忠助の姿を見つけ、おいこら!と言いながら捕まえようと近づく。

すると、背後から忍び寄った小助が棒で見張りを殴りつけ気絶させる。

その内小助と忠助は、弓や武器弾薬が隠してある洞窟の中に入り込む。

しかし、すぐに矢吹が持った龕灯(がんどう)の灯りを照らされ発見されてしまう。

矢吹は、小僧共!鉄仮面と一緒に冥土行きだ!とあざ笑う。

結局、小助と忠助はまた縛り上げられてしまう。

その2人の目の前に集まった配下の者達の前で矢吹は、上島氏、鉄仮面様にはご機嫌麗しいかな?と仲間の1人に問いかける。

この小倉藩隠し砦の土牢は世に言う地獄の一丁目、ご機嫌伺いとは趣味が悪いと上島と呼ばれた手下が答えると、御家老松本幹太夫様のご命令じゃ、本日ただいま、鉄仮面をその地獄の一丁目より地獄の釜の底に葬り去るべし!と矢吹は答える。

して大殿には?と手下が聞くと、まずは今日明日は御寿命の末…と矢吹は答える。

しかし巧く行きましたな…と上島が笑うと、いやいや、まだ片付けなければならぬ輩が大勢いる!まず斎藤一派!そして事と次第によっては城代の三船九左衛門も…と矢吹は言う。

しかし鉄仮面様を亡き者にすれば、彼らにもどうにもなるまいて…と上島が指摘すると、矢吹も愉快そうに頷く。

そして上島は火薬の用意!と仲間に命じる。

仲間が2人火薬を取りに行く様子を不安げに眺める忠助と小助。

その不安は的中し、運び込まれて来た導火線付きの火薬箱は小助と忠助の目の前に置かれる。

矢吹は洞窟の奥にある扉の方へ向かいながら、じゃあ鉄仮面殿に最後のご対面をと言い、扉脇の紐を引くと扉が開く。

中は牢になっており、その中には鉄兜と鉄仮面をかぶせられた身分の高そうな衣装を着た男が入れられていた。

それを見た矢吹は、哀れむべし鉄仮面!今日は朽ち果てた山菜とともに灰燼と化し、土塊となるか…と愉快そうに笑いながら配下の者から火種を受け取ると、鉄仮面に隠されて小笠原光久は今日限りこの世から姿を消すのだと言う。

その火種を導火線に近づけたその時、小柄が飛んで来て矢吹の掌を射る。

そうはさせぬぞ!と声をかけて来たのはいつの間にか洞窟内に入って来ていた葵太郎だった。

又出よったな?と矢吹が言うと、元より招かれぬとも幾度でも出る!と取り囲んだ矢吹の仲間たちに言い放つ。

太郎が斬り合いを始めると、矢吹が導火線に火を点けたので、それに気付いた忠助と小助は身をすくめる。

牢内の鉄仮面は無言のまま事の顛末を見つめていた。

導火線の火花は刻一刻と火薬箱に近づいて行く。

第二篇

太郎も導火線に気付くが敵が多くて近づけない。

忠助と小助の綱を斬ってやった太郎は、鉄仮面を助けるんだ!と命じる。

しかし、格子の扉に付けられた鍵は歯が立たず、忠助が、兄ちゃん!鍵が開かないんだ!と太郎に呼びかける。

太郎はその直後、矢吹を斬り殺したので、仲間たちは驚いて洞窟から逃げ出す。

太郎も牢の鍵を外そうとするが、導火線の陽は火薬箱に近づいていた。

太郎が何とか力で鍵をねじ切ると、中にいた鉄仮面を太郎と小助が肩を貸して助け出し、洞窟の外へと連れ出す。

かろうじて外に鉄仮面を連れ出した直後、洞窟内の火薬が爆発する。

導火線を先に消して出てくれば尻餅なんか付かずにすんだんだよ…と爆発音に腰を抜かした忠助が愚痴ると、いや、あんな洞窟はどうせろくな事には使われん、吹っ飛ばした方が良かったんだと太郎は笑顔で言う。

その時、その方は誰じゃ?何故に余を助けてくれたのじゃ?と鉄仮面が太郎に聞いて来たので、葵太郎、気侭な浪人者ですとだけ太郎は答えると、おお、ではそなたが!と鉄仮面は驚く。

御家のあらましは斎藤家の兄弟から聞いていますと太郎が言うと、斎藤…と鉄仮面が考え込んだので、話は後ほど…、とにかくその鉄仮面を外してもらいましょうと太郎は答える。

すると鉄仮面はダメじゃ、この面は余の顔を誰にも見られぬよう、悪人どもが南蛮鉄をもって特別に作らせたもの…、いかに葵太郎殿と言えども取り去る事は敵わん…と説明する。

しかし…と太郎が困惑すると、肉と共にはぎ取るなど、取り去る事も可能であろう…と鉄仮面は怯える。

取り去る術はただ一つ、悪臣どもの手にある鍵じゃ…と鉄仮面は言うので、鍵?と太郎は考え込む。

その頃、腰元たちが庭先を警護する中、茶室でお蓮の方と会っていた松本幹太夫は、お蓮の方様、大奥の鍵もいらなくなりましたと言うので、では?とお蓮の方が聞くと、物見の者の知らせによりますれば、隠し砦はかねてよりの爆薬で木っ端みじん、光久君も間違いなくこの世から失せられましたと幹太夫は報告する。

鉄仮面をかぶせられたまま、誰にも知られずに今頃冥府を彷徨っておられましょう…と幹太夫は鍵を手に言う。

御世継ぎは間違いなく久丸に?とお蓮の方が問いかけると、左様…、あなた様のお子様、久丸君に、すなわち今日から小倉中を守る貴方様のものも同然でございますと幹太夫は答える。

しかしお蓮の方は、憎い事をおっしゃる、事件は全てあなたの手に渡るのではないかと顔を背けながら指摘する。

苦笑した幹太夫は、それにはまず邪魔者を除く事でございますとうそぶく。

城代家老の三船大老は毒にも薬にもならぬジジイでござりまするが、斎藤頼照は真っ先に!と幹太夫は身を乗り出す。

小倉城内で父斎藤頼照に父上様と呼びかけ近づいた夕月は、大殿様の御具合は?と聞く。

いかん…と首を横に振り、以前御昏睡のままであらせられる…と容態が悪い事を打ち明ける。

それでは兄上様や繁からはまだ何も?と夕月が聞くと、うん、音沙汰なしじゃ…と頼照はうなだれる。

若君様はもしや…と夕月が案ずると、心配じゃ、若君様に万一のことがあれば…と頼照も嘆く。

その時、斎藤氏と声をかけて来たのは城代三船九左衛門で、全く心配じゃ、三船九左衛門、おいの身をどうしたら良いか分からんわいと上様の容態を憂う。

殿の容態も今身罷らねばこの小倉15万石は松本ら一派の悪の巣と化すわ…と九左衛門が落ち込むので、いやいや、そう奴らの思うつぼにはさせません、拙者、命に代えても光久君を御世継ぎとして押し通すつもりでござると頼照は覚悟を述べる。

太郎と小助は鉄仮面に肩を貸し山を下りていた。

一方、夕香里は納屋で、繁が持ち帰って来た食料で猛の為に粥を作っていた。

葵太郎様はどうされたであろうか?と粥を食べる為に身体を夕香里から起こされた猛は案ずる。

その時、表に馬のひずめといななきが聞こえたので、首を傾げた繁が戸を開けて見る。 そこにいたのは白馬童子の愛馬「流れ星」だった。

「流れ星」に近づいた繁は口元に文が結わえ付けられている事に気付き広げて読むと、急に笑顔になり、兄上!夕香里殿!吉報ですぞ!と納屋の中に文を持って駆け込む。 若君は葵太郎様と共に小倉に旅立たれました、若君は生きておられたんです!と繁は文を見せ伝える。

驚いた猛は文を読んで喜色を浮かべる。

誰が知らせたんです?と夕香里が聞くと、白馬です、真っ白な馬がその手紙を!と繁は答える。

猛が無理して起き上がり夕香里と共に表に出てみると、1匹で去って行く白馬が見えたので、「流れ星」だわ!白馬童子様が!と夕香里がうれしそうに教えたので、え!あの馬が「流れ星」?白馬童子の「流れ星」なんですか?と繁は驚く。 猛は「流れ星」を見ながら、かたじけない、若君は生きておられた、それも葵太郎様のみならず、白馬童子まで我々に援助の手を差し伸べて下さるとは…、ありがたい…と感謝し、頭を垂れる。

兄上、すぐ小倉へ帰りましょうと繁が言うと、猛もうん!と答える。

その頃、体力を失った鉄仮面と共に小倉を目指していた太郎たちは、途中、鉄仮面の体調に気づかいながら、休み休み進んでいた。

一方、小倉城中では、医者の庵野乗道(鈴木全哉)が城主小笠原種久の容態を診ていた。 寝込んでいた種久は、跡目は光久に…と言い残し目を閉じる。

九左衛門、斎藤頼照らと供に側に控えていたお蓮の方は、殿!確かに承りました!と呼びかける。

その直後、種久の息が途絶えた事に気付いた種久らは、殿!と呼びかける。 その時、後ろに控えていた松本幹太夫が、お蓮の方様、殿の御遺言をご披露くださりませと声をかける。

家老たちの方を向いて座り直したお蓮の方は、されば妾より大殿様の御遺言をお伝えします…と言うと、大殿様は今際の際に、跡目は久丸に継がせよと仰せられましたと言い出したので、お蓮の方様!それは…、それはお聞き違い!と後ろに控えていた夕月が異議を唱える。

しかしお蓮の方は、黙りゃ、夕月!そなたは口を出す謂れはありません!と叱りつける。

大殿様の御遺言は久丸を世継ぎに致せと…このお蓮に告げられました!のお?乗道殿…と、お蓮の方は突然医者に話を振って来たので、乗道は驚きながらも、は!確かに私めも…、そのようにうかがいましてでござりますると答えたので、幹太夫は御城代!即刻総登城の布令を出し、御世継ぎに関し藩の総意を決定いたそうではありませんかと九左衛門に迫る。

そう迫られては、九左衛門も仕方あるまいと答えるしかなかった。

全員が早々に退室して行く中、1人悔しそうに部屋に残っていた夕月は、種久の敷き布団の間に書状が挟まっている事に気付く。

立ち上がった夕月は、部屋にもはや人気がない事を確認した後、その書状を引き抜き広げて読むと、「遺言 跡目は光久を以って相続致さす可き事 種久」と花押付きで書かれていた。

驚いた夕月は、考え込みながら廊下を歩いていた父斎藤頼照にその御遺言書を手渡す。

一読驚いて一旦懐にしまった頼照は、夕月、光久君はいまだに行方が不明、これを持ち出しても松本めに一蹴愛されるのみだと言う。

しかし万一と言う時にはこの御遺言書を盾に対抗できぬ物でもない、そなた、わしが命じるまでこれを保管しておいてくれと言い、遺言書を夕月に渡す。 その会話を、柱の影にいた庵野乗道が密かに聞いていた。

そして夕月が自室の棚の中に遺言書をしまうのを、障子の隙間から目撃する。

その後、登城して来た重臣たちを前に九左衛門は、各々方にも既にご承知の事、先刻、大殿には安らかにご逝去あそばされたと報告する。

今ここに各々方に登城を要請したのは…と九左衛門が言うと、大殿の遺言をご披露申し上げる為じゃと横に座っていた松本幹太夫が言葉を続ける。

御城代、即刻御遺言書を皆の者に!と幹太夫が急かすので、隣に座していた頼照が口を開き、各々方、この重大事に当たって、斎藤頼照率直に申したい、言うまでもなく小倉15万石御世継ぎの事でござる、所で幸いな事に、我らが主君小笠原少将種久公には英明を持って聞こえたる正嫡の御世嗣光久君がおられる。

御世継ぎを光久君と決定するのに、皆々、何の依存もござるまいと頼照は言う。

すると幹太夫は、斎藤氏、その光久君は遠乗りに出掛けて以来既に一ヶ月行方知れずではござらんか?と横やりを入れて来る。

主なき世継ぎを決めて将軍家にそう知らせれば小倉15万石直ちに破滅でござるぞと脅すが、しかし光久君の生死が今だ確認できぬ上は我々としては天の定めたる正道を踏み、正統なる御嫡子英明勇武の光久君を御世継ぎと定めるべきが当然と頼照は主張する。

その時、頼照!異な事を言いやるの?と声をかけて来たのはお蓮の方だった。

障子が開いて部屋に入って来たお蓮の方は、では久丸は正統な子ではないと言いやるのか?久丸が英明ではなく愚鈍と言いやるのか?と難癖をつけて来る。

頼照が何も言い返せないでいると、松本、御遺言を!とお蓮の方は命じる。

はっ!と頭を下げた幹太夫は御遺言を申し上げる、御世継ぎは久丸君と致すべき事…と重臣たちに伝える。

これには頼照だけではなく、九左衛門も憮然として幹太夫とお蓮の方の顔を見つめるしかなかった。

お蓮の方はうれしそうに微笑んでいた。 

その頃、太郎とともに鉄仮面を抱えて荒れた屋敷に連れて来た小助は、汚い所だけど、ここならきっと安全ですよ、さ、しっかりして下さいと鉄仮面に話しかける。

縁側に座らされた鉄仮面は、父上…、父上…と呟く。

城内では、家臣たちを前にしたお蓮の方が、皆の者、よもや殿の御遺言に不足はあるまいな?と確認していた。

御遺言は妾のみではなく御典医庵野乗道も御重臣方も聞いておったはずじゃの?とお蓮の方が聞くと、横に座していた幹太夫も頷く。

お蓮の方がほくそ笑んだその時、拙者、異存がござる!と斎藤頼照が再び発言する。

何!とお蓮の方が睨むと、殿の御遺言書をただいまご一同にご披露致すと頼照は言い出したので、ん?御遺言書がござったのか!と九左衛門も驚く。

ございました、それを見れば殿の本当の御意思が光久君を御世継ぎと定められた御意思が判然と致すと頼照は言う。

そこに夕月が文箱を持って九左衛門の元に届けるが、それを見ていたお蓮の方と幹太夫はほくそ笑んでいた。

九左衛門が文箱の中の遺言書を取り出して開くと、三船、読みなさい、全てがはっきりしますとお蓮の方が自信ありげに命じる。

幹太夫も、御城代どうぞと促す。

遺言 久丸を以て世継ぎと致すべし、なお、久丸病にて藩政の総裁に支障のある間は松本幹太夫を以て城代家老に任じ、久丸の後継人とすべし、種久…と読み上げた九左衛門は憮然とする。

諫臣!計り追ったな!と斎藤頼照が叫び、保管をしていた夕月は父上様!と呼びかける。

その時、松本幹太夫は、斎藤頼照、並びに娘夕月、その方ら御家の大事に乗じ、おのれの野心を達成せんとして数々の策を弄せしこと不届き千万なり!よって松本幹太夫、久丸君御後見状態としてその方ら両名に閉門蟄居を命じる!と言い放つ。

家の門を封鎖され蟄居状態になった夕月が、父上様、夕月は無念にございます…いつの間に御遺状をすり替えられたのか…と嘆くと、隠居状態になった斎藤頼照は、夕月、これは人の世の定めじゃ…、しかしいつかは正しきがきっと勝つ…と言い聞かせる。

兄上様や繁がいてくれたら…と夕月がこぼすと、言うな、若君の最期を知ったなら決して生きては帰るまい…と頼照は覚悟する。

市中に先に様子を見に来ていた夕香里は、町外れで待ち受けていた斎藤兄弟の元へ帰って来る。

いかがでした?と聞かれた夕香里は、大変です!町の人の話では御城主様はお亡くなりになり、跡目は久丸君に決まったそうですよと伝える。

それを聞いた斎藤兄弟は落胆する。

廃屋に一旦身を落ち着けた鉄仮面に太郎は、松本幹太夫なる悪臣のやり口ははなはだ悪辣、それより用意周到…と語りかけると、太郎様、余はこの鉄仮面のままでも良い、すぐさま登城して…、登城して松本以下悪臣と相見え!と鉄仮面が興奮気味に言うので、なりません、拙者が城外にて探りし所から推察しても、今の小倉城は隅から隅まで悪臣の罠、今となってはこのまま様子を伺い、忠義の士に光久君ご存命を伝え、慎重に悪事転覆を計るを以って最上と考えますと太郎は意見を言う。

しかし久丸御世継ぎとして将軍家のご裁可が降りたら、万事お終いじゃ…と鉄仮面が言うので、ご安心あれ、葵太郎はそれほどのうつけ者ではございません、忠助、小助、今一度城下の様子を見て来る、後を頼んだぞと托すと太郎は出掛けて行く。

その頃、夕香里と自宅前に様子を見に来た斎藤兄弟たちは、竹を交差させ閉門されているのを見て驚く。

一計を案じた猛は、夕香里に火事です!火事です!来て下さい!と門前で騒がせる。

その声に誘われ、門番たちが夕香里が走る方向へ付いて行く。

その間、闇に乗じ、がら空きになった横門から斎藤兄弟と夕香里が自宅に入り込む。

庭に入り込んだ猛は、父上!夕月はおらぬのか?と声をかける。 その時、蝋燭を手に外廊下を歩いていた夕月がその声に気付き、兄上様!繁!と答える。

駆け寄った猛は、おお夕月!と再会を喜び、繁も姉上と呼びかける。

良くご無事で何よりでしたと夕月も喜ぶ。

父上は?と猛が聞くと、はい、先刻よりずっと奥へ籠られたきりでございますと夕月は言う。

そうか…と言い、わらじを脱いで上がり込んだ兄弟と夕香里は、奥の部屋の前に来ると跪き、猛にございます、繁です、ただ今戻りましたと声をかけるが返事がない。

異変を感じ、父上!と何度か呼びかけながら障子を開けた猛は、部屋の中で自害して果てていた父頼照の姿を見て驚愕する。

白衣姿で突っ伏していた頼照を抱き起こした猛は、父上!何故早まった事を!と問いかけ、夕月も父上様!と泣く。

廊下で控えていた夕香里は斎藤兄弟の悲哀を見るに偲びず、そっと障子を閉めるのだった。 遺言状が置かれていたので、猛が開いて中を読み始める。

奸臣の口径に飲まれ、大殿の御遺言状を奪われ、御意思を全うできない始末、ひとえにこの父の誤り、願わくばお前たちは光久君を一日も早くお救い申し、小倉15万石万代の礎を築いてくれるよう、死してこそ先君へのご奉公にもなる、お詫びも立つだろう、お前たち若者こそ小倉藩の力だ、生きて正しき者の力を示せ 頼んだぞ猛、繁、夕月… 父上!と言いながら、猛は頼照の右手から短刀を抜き取ると、その刃先を睨んで、おのれ、松本幹太夫!と言い放つ。

その頃、幹太夫は御典医庵野乗道と護衛の侍を庭先に呼び寄せ、乗道、わしが一番信用しているのは御主だ、この大役を無事果たせるのは御主を置いて他にはないと言うので、庭先に控えていた乗道は光栄に存じますと平伏する。

良いか?江戸表に着いたらただちに藩邸を訪ね、江戸詰め家老に命じるのじゃ、即刻、将軍家に久丸君、御世継ぎの御裁断主眼すべしと!と幹太夫は指示する。 それを聞いた庵野乗道は、はっ、私が行けば万事抜かりはございませんと答える。

その乗道に書の入った包みを手渡すと、当の者はえり抜きの強者揃い、御主、万一為損じるとこれじゃぞと幹太夫は自ら腹を斬る真似をしてみせる。

目立たぬよう、出奔まではかち(徒歩)で行け!と幹太夫は命じる。

4人の護衛付きで江戸に出発した庵野乗道を白馬童子は「流れ星」の馬上から監視していた。

その白馬童子の尾行に気付いた護衛が乗道に、怪しい奴が付けてますと報告すると、分かっていると乗道は答える。

その後、乗道たちは白馬童子が来るのを崖上で待ち伏せする。

白い装束に白馬に股がっていますと護衛の1人が教えると、乗道は笑って白馬童子かと言うと、誰でも良い、邪魔になる奴は誰でも殺すのだと命じる。

白馬童子がその下に通りかかると、乗道がそれ!と合図をし、崖上から岩を落す。

慌てて「流れ星」を停め、上を見上げた白馬童子を嘲るように、乗道と護衛たちが崖上で笑っていた。

第三篇

それ!と乗道が護衛の者達を率い、下の道に降り立って見ると、そこにはもう白馬童子の姿はどこにもなかった。 狼狽して周囲を探していると、崖の上から笑い声が聞こえ、そこに白馬童子が立っていた。

道に降り立った白馬童子は、不意を襲って岩石の大盤振る舞いかな?無粋な奴!と言いながら乗道や護衛の者達と戦い出す。

護衛が倒されたのを見た乗道は電光二刀流!と怯える。 白馬童子に迫られた乗道は一旦刀に手をかけながらも、到底敵う相手ではないわとあっさり諦める。

刀を抜いて地面に置いて跪いた乗道に、命を大切にするのは良い心がけじゃのう…とこちらも刀を収めた白馬童子が皮肉る。

はっ、命あっての物種でござると乗道は正直に負けを認めると、これが将軍家御世継ぎご裁可の請願書、こっちが路銀じゃ50両、これで全部じゃ受け取って下されと懐から松本幹太夫から預かった物をあっさり差し出して来る。

それを白馬童子が受け取ると、現れたとは残念と自分の腹を見て、わしのへそくりじゃ、300両と言いながら、腹に巻き付けた風呂敷も外して差し出す。

それも受け取った白馬童子は松本から受け取ったのだろうと言い当てる。

どうしてそれを…と乗道が驚くと、御主はまだ白馬童子の神通力を知らぬと見えるなと白馬童子は笑いながら答える。

いやそれは…、噂は良く聞いておりますが…と乗道がへりくだると、御主、根は好人物らしいな?と白馬童子は指摘する。

どうだ、悪事から足を洗って拙者の味方にならぬか?と白馬童子が持ちかけると、何!と乗道は驚きながらも、なりますとも、ならぬと言えば殺されるし、このまま城へ帰っても使者の役目を失敗したからにはちょんでござるからなと言いながらと言いながら乗道は自分の首を触る。

しかし白馬童子は松本よりは怖いぞと脅すと、はっ!と乗道が緊張したので、約束を破ればたちどころに首が飛ぶ…と白馬童子はさらに脅してみる。

すると乗道は、破らぬ!絶対に破らぬ!と約束する。 だが御主に一つ言い聞かせる事があると言い出した白馬童子は、光久殿は生きておられると教えると、乗道はえっ!若君が?しかし松本は鉄仮面をはめて殺したと…と教える。

白馬童子は偽りは申さぬ、光久君の為に心を改めて忠誠を尽くさぬか?と問うと、はい、それはもう、もちろんですとも!と乗道は即答する。

では人目につかぬよう、この道を小倉へ戻るのだ、葵太郎が迎えに来ると白馬童子は言い聞かせる。

それを聞いた乗道が葵太郎様もお味方に?と驚くと、 ははは…と笑った白馬童子は、正義の士は必ず一つ所に集まる、御主も今日から正義の人だ、正義の人らしく堂々と生きるんだと言い聞かせる。

はっ!ありがとうございますと感激した乗道はその場に跪きひれ伏して礼を言う。

白馬童子は受け取った金を乗道の目の前に放り投げ立ち去る。

小倉城内では、幹太夫と対座していたお蓮の方が、松本殿、斎藤親子が役人どもを斬って何処かへ逃げたそうではないか?と話していた。

世俗よりも逃げたら放し鳥の一羽二羽、逃げた所が夜泣きがせいぜい、いずれ草深い山里で百姓でも致すつもりでござろう、御安堵くだされ、もはや勝負は付き申した…と幹太夫は答える。

それもそうじゃ、今はただ、江戸表のご裁可だけが待ち遠しい…、久丸が小倉15万国の主として天下晴れて君臨するまでは一日が千秋にも思われるとお蓮の方は言う。

何をおっしゃる、既に当城の主は久丸君、江戸表の事は形式だけ、それも庵野に任せておけば何の憂いもござるまいて、さ、それよりもお蓮の方様、拙者お贈り致しきものがござるが?と幹太夫は言い出す。

それは何じゃ?とお蓮の方が聞くと、幹太夫は手を打ち鳴らし、控えていた腰元が障子を開けると、そこに新たな腰元が控えていた。

斎藤頼照の娘夕月を罷免して後、お蓮の方様には何かとご不自由と察し、お側御用の腰元を1人召し抱えました、これなるは庵野の身寄りの者にて香織と申し、これに持参致し、庵野の書状がございますと幹太夫は紹介状を差し出す。

香織と申すのか?表を上げいとお蓮の方が言うと、顔を上げたのは夕香里だった。

しかし夕香里とは面識がないお蓮は、おお、愛くるしい顔をしてやる、気に入りました、松本殿、厚く礼を良いますぞえと言う。

お気に召しまして幸いにございますと幹太夫も喜ぶ。

香織こと夕香里は宜しくお引き立てを申し上げます…としとやかに挨拶する。

一方、小助と忠助もお庭番として小倉城内に入り込み、庭仕事をしながら中の様子を伺っていた。

その時突然、あんたたち、何をきょろきょろしてるの!と声をかけられたので思わず土下座をすると、あんたたち今日来たばかりのお庭番でしょう?と屋敷の中から話しかけて来たのは1人の少女だった。

いくら庵野乗道様のお口聞きでも新米は新米、奥向き上女中の私よりはずっと下役なんですからね!と少女は先輩面で威張ったように言う。

へえと小助たちが平伏すると、あ、その小さいの、早くお庭の掃除をなさいと少女は忠吉に命じる。

さらに、あ、ちょっと待って、そののっぽさん、ちょっとこっちへいらっしゃいと指先を曲げて手招くので、へいと小助が近づくと、私の方を叩きなさいとその場にしゃがんだ少女は偉そうに命じる。

肩でございますか?あの〜按摩でございますか?と小助が戸惑うと、そうよと少女は言うので上がり込んだ小助は肩を叩き出す。

そして、上女中様、上女中様はお偉い方でございますから定めしお城の奥のことなどご存知でしょうね?と小助が聞くと、うん、まあそうですねと言うので、お蓮の方様のお部屋など定めしご立派でございましょうねと聞くと、当たり前ですと言う。

お城のどの辺にあるんでございますか?と聞くと、この廊下の…と指を差し出しかけた少女だったが、急に自分の指を押さえ、その方たち下司下郎の知ったことではない!その方たちはお庭と掃き溜めの在処を知っておれば良いのじゃ!と叱りつける。

小助は思わず空手チョップをしようとするが、何をしてますか!と聞かれたので、いえ何も…とごまかし又肩をもみ出す。

その頃、廃屋にいた鉄仮面に会いに来た斎藤兄弟に回り廊下で会っていた鉄仮面は、余は自分一人の幸不幸は考えておらん、ただ久丸はまだ幼い…、それ故に奸智に長けた松本に全権を握られた小倉15万石の行く末が心配じゃ…と話していた。

何の松本ごとき、昨夜私めに若君ご存命を知らせてくれましたる白馬童子殿、さらには若君をお救い申した葵太郎殿にはそれぞれ知勇において天下の整合を二分する方々点と猛が言う。

我々光久君にお味方する者にとっては100万の兵を得たよりも心強い存在でござりますると猛が言うと、その通りじゃ、2人の力を得たことは天佑神助と申すべきであろうのう…、加うるに斎藤一族と言いそちと言い、忠義な家来を持った余は果報者じゃと鉄仮面が背後に語りかけると、そこにいた庵野乗道が、お恥ずかしい!とひれ伏す。

すんだことはすんだこと、今は乗道殿は我々にとっては有力なる味方です、そう恥ずかしがられることもないと猛が横から慰めると、乗道は益々恐縮し、お恥ずかしいと身をすくめる。

小倉藩の仇、そして父の仇は松本です!と思い詰めたように繁が指摘する。

若君の鉄仮面をお外しする鍵は松本の手にあるとして、乗道殿が盗み出してお蓮の方様に手渡したと言う大殿の真の遺言書の行方が問題ですと猛が指摘する。

どこに隠したのか?誰が持っているのか?と繁が悩むと、何ともはや…と乗道が言うので、乗道様は昨夜葵太郎様にお会いになってから恥ずかしい、恥ずかしいの一点張りですねと繁がからかうと、又、お恥ずかしゅうござると乗道は頭を下げる。

その時、夕月が太郎様!と気付く。

おお、太郎殿!いかがだった?と鉄仮面も立ち上がって問いかけると、巧く行きましたと言いながら帰って来た太郎は、乗道殿、御主の紹介状が効いて、小助も夕香里も巧く城中に入ることができました、これで我々の計画も一歩前進したことになりますと報告すると、改めて礼を申すと言うと、いやいやお恥ずかしい!と初めて乗道に笑顔が戻る。

それを見ていた夕月が、乗道様ってよほど恥ずかしがり屋なんですねとからかうと、はっ、どうもお恥ずかしい!と又頭を下げる。

そこで乗道殿、今一度口入れ屋になってくれませんか?と太郎が頼むと、お恥ずか…、いや喜んで!と乗道は承知する。

その乗道の松本幹太夫宛の書状を回り廊下で読んだお蓮の方は、その方、京で鳴り響いた名高い刀鍛冶だとか?と問うと、庭先で畏まっていた男が、三條小太郎めにござりますると挨拶する。

庵野乗道の書状には大層そなたのことを褒めそやしています、今までに色んな方の御腰の物を作り上げたとか? 恐れながら、今上の帝の守り刀を始め、古くは三條内大臣実麿卿様、近頃ではかの白馬童子様の日輪丸も…と小太郎が言うと、何!帝を奉り、白馬童子の日輪丸もそなたが!とお蓮の方は驚き、さすが庵野、人を選ぶにそつはないと感心し、のう松本殿、久丸の守り刀も早速この者に…と側に控えていた幹太夫に話しかける。

は、しかし庵野乗道め江戸へ出立するにあたって良くまあこう色々と次から次へと人間を寄越したものでございますなと、幹太夫は怪訝そうに小太郎を見る。

それが庵野の偉い所じゃ、良く気の付く男よのう…とお蓮の方はすっかり満足げに、これ、三條小太郎とやら、小倉15万石の主に相応しい腰のものを頼みましたぞえと依頼する。

ははっ、それに付きまして一つお願いがございますと言い出した小太郎は、私はこの仕事に全生命を打ち込む覚悟でおりますが、これまで作りましたどの刀を見ても地金の点で不満がございました、日本の技術に飽き足らず勉学のため長崎に参りましたる所、南蛮精錬の鉄が世界で最高と知り、小倉藩の御家老が先年南蛮鉄の仮面を御作らせになったと聞きました、三條小太郎、一世一代の名刀打たんとの心意気に免じ、その仮面は意見させては頂けませんか?と願い出る。

お蓮の方は気まずそうに幹太夫の方を見やると、それを見てどうするのじゃ?と幹太夫が聞く。

すると小太郎と名乗っていた太郎は、私もその道では一通り名の通りし者、その鉄を一目見れば製法を看破できますると言うと、だが残念ながらその面は紛失したと幹太夫は答える。

それは残念至極、後藤家若君様の為に日本国開闢以来の名刀を打たんものと八百万の神に念じました…と小太郎が無念がると、松本殿、面の鍵をお持ちであったのう?と御蓮の方が言い出す。

しかしお蓮の方様…と幹太夫は戸惑うが、久丸のためです、妾が命じます、その鍵、三條小太郎に与えなさい、もはや必要のない品ですと言う。

はっと答えた幹太夫は、小太郎とやら、これが南蛮鉄じゃと言いながら懐にしまっていた鉄仮面の鍵を取り出す。

かたじけない、これさえ手に入れば…と言いながら、小太郎と称していた太郎は鍵を手にする。

小太郎、頼みましたぞとすっかり小太郎を信じ込んだお蓮の方は言うので、はい、ではこれにて…と挨拶して立ち去る太郎は、鍵を見てほくそ笑む。

それを見送っていた幹太夫が田畑!と名を呼ぶと、背後に控えていた田畑金吾(大城泰)がまかり出る。

茶坊主の案内で渡り廊下を歩いて帰りかけていた太郎だったが、突然障子の奥から刀が次々に差し出されて来る。

太郎は刀の柄を掴むと廊下に引きづりだし、そこに駆けつけて来た松本の配下を前に、これが一介の刀鍛冶に対する小倉藩の礼儀か?と睨みつける。

まかり出た田畑金吾は、その方、ただの刀鍛冶ではあるまい?今の手並み尋常ではないぞと指摘する。

それで松本様は何と?と太郎が聞くと、斬ってしまえとの仰せだ!と言いながら田畑が斬り掛かって来る。 太郎は相手の剣を奪い庭先に降りて応戦する。

それを怖々見ていたのは小助と忠助だった。

太郎は途中で剣を捨て屋敷の中に逃げ込むが、それを追おうとした金吾たちの後頭部に石をぶつけて邪魔する小助と忠助。

そんな太郎の前に現れたのは三船九左衛門で、太郎に目配せしながら部屋の中に入れと手招きする。

屏風の影に太郎を隠した九左衛門は、廊下で松本幹太夫の声がしたので、自ら障子を開け、三船殿!と驚いた幹太夫に、これはこれは御城代と声をかける。

三船殿、ただ今城内に盗賊が一匹侵入致しましたが、御貴殿には御気がつかれなんだかな?と部屋の中をうかがいながら幹太夫が聞くと、いや、一向に…と九左衛門は答える。

本当に御気がつかれなんだか?と幹太夫が念を押すと、いかにも、ネズミは愚か虫一匹…と頭を下げながら九左衛門は言う。

すると幹太夫は失礼致したと言い残し立ち去って行く。 廊下に出た九左衛門は、反対側に隠れていた金吾に気付いて睨みつけたので、金吾もバツが悪くなり退散する。

障子を閉め座についた九左衛門は出て来なさいと屏風の背後に呼びかける。

屏風から出て来た太郎はその場に座し、かたじけない、御城代三船九左衛門殿とは貴殿でござったか?と聞くと、否、今は松本が城代家老…、拙者は何の力も持っておらん、拙者はその方が松本らに追われているから助けたまでと九左衛門は答える。

盗賊ならば早々に立ち去れ!それとも江戸表の隠密か?と九左衛門は聞く。

ここで三船殿に会えたのはもっけの幸い、拙者は天下の浪人葵太郎と申すと太郎が名乗ると、貴殿が葵太郎殿!と九左衛門は驚く。

いかにも、旅の途中ふとしたことから斎藤家の兄弟を救い、さらに御当家の若君、光久君を救いましたと太郎が言うと、九左衛門は、何!若君はご存命か!と驚愕する。

その頃、廊下で苛ついていた幹太夫の元に戻って来た金吾は、御城代、三船のジジイめ、どうも臭いように思いますがと報告すると、油断をするなと幹太夫は忠告し2人して去る。

その縁の下に寝そべっていた忠助と小助は、太郎兄ちゃん巧く逃げたよね、巧く行ったらしいねと話し、庭先に尻から出て来る。

すると柄杓でその尻を叩きながら、あんたたち感心ね、縁の下までお掃除するの?とあの奥女中の少女が嫌みを言う。

その後、頬かぶりをした馬子に引かれた馬で城から出掛けた三船九左衛門を尾行する金吾たち。

市中に来た所で、金吾は、その馬子が待ち受けていて襲いかかって来たことに気付く。 頬かぶりをした馬子に化けていた太郎は金吾たち追っ手を当て身で眠らせる。

廃屋にやって来た九左衛門が、若君!と呼びかけると、出て来たのは斎藤兄弟だったので、おお猛に繁!と九左衛門は驚き、御城代様!と跪いた猛に、御主たち兄弟にこの世で会えるとは…と感激する。

太郎もやって来ると、御城代、若君がお待ちです、どうぞと猛が奥へ誘う。 夕月、乗道らと座していた鉄仮面は、部屋に入って来た三船九左衛門を見て、おお、爺!良く来てくれたのとねぎらうが、鉄仮面をかぶせられた光久の姿を見た九左衛門は、お労しや…、お顔、お姿…と嘆く。

その時、葵太郎が、殿、ご免!と言いながら鉄仮面の背後に回り仮面の鍵を開けると、小笠原光久(唐沢民賢)の顔が出て来る。 取れた!取れた!と感激する光久に、若!と乗道、夕月、斎藤兄弟は驚き、九左衛門たちも喜ぶ。

葵殿、かたじけない!光久益々天地の光明ますます輝かしく思います!と光久は太郎に頭を下げる。

それを聞いていた九左衛門も、若君の御災難は全く拙者の不注意から起こった事…、それ故今、元気なお姿を拝しうるはひとえに葵太郎殿のお陰でござる…、かたじけない…と涙を流して感謝する。

そんな中、戦いはこれからですと太郎は皆に言い聞かすと、三船殿、明日は先君のご逝去のため法要が営まれるのでしたな?と確認する。

左様、ごく内輪でござるが、御城下の万松寺において…と九左衛門が答えると、心は大君の御意思のみ、行くえ知れぬ御遺言書を探し出す為に一か八かの大博打…と太郎は呟きながら取れたばかりの鉄仮面を手に取る。

翌日、「従二位 小笠原少将種久公御法要斎場」と書かれた立て札が掲げられた万松寺の本堂にいた九左衛門は境内の様子を気にしていた。

その頃、城の中にはお庭番姿の忠助と小助が忍び込んでいた。 しめしめ…法要で誰もいないよと小助が周囲を見回し喜ぶと、絶好の機会だねと忠助もうれしそうに言う。

手近な部屋に忍び込んだ小助は、隠しものはね、案外何でもない所に隠してあるんだよなどと言いながら物色し始める。

天袋を開くと中に箱が入っていたので、これだ!と言いながら取り出して蓋を開けると、焼芋!と忠助が喜ぶ。

中に入っていたのは2本の焼芋だったので、2人は喜んで取り出し匂いを嗅いでいると、泥棒!と声がして入って来たのは奥女中の少女だった。

まあ呆れた!と言いながら箱の側にやって来た少女は、あなたたちの鼻には敵わないわねと言うと、半分あげるから内緒よと言いながら、忠助が持っていた焼芋を取り上げて出て行ってしまう。

残った小助と忠助は残った1本の焼芋を分け合うが、忠助の方が大きい方を取ってしまう。

廃屋に残って案じていた夕月に近づいた乗道は、夕月殿、もう心配されることはあるまいと慰めるが、敵のまっただ中に乗り込んで行くんですもの…と夕月は言う。

夕月殿のご心配は兄上や繁殿以上に葵太郎殿のことではござらんかと乗道は指摘すると、夕月は恥ずかしそうに顔をそらす。

万松寺の本堂内では焼香が始まり、松本幹太夫に促され久丸が最初に立とうとした時、待たれい!と声がかかり、列席者が庭を振り向くと、そこにいたのは斎藤兄弟だった。

右腕を吊った斎藤猛が、これより小笠原光久公、ご焼香のためただいまご到着!一同の物、控えませい!と列席者に伝える。

その兄弟の背後に現れたのは鉄仮面をかぶった謎の男だったので、狼藉者!皆の者何をしとる!取り押さえい!と松本幹太夫が命じる。

家臣たちが鉄仮面を取り押さえようと近づくと、斎藤兄弟がそれを払いのける。

前に出た鉄仮面は、そこな奸賊の敵によって遠乗りの地を捕えられ、生身を剥がさぬと取れぬ地獄の攻め道具鉄仮面をはめられ、冥土を彷徨う事順日あまり、ようやく現世に蘇り、閻魔大王直々の許しを得て仇討ちなさんとする!余は光久の亡霊じゃと口上を述べる。

しかし松本幹太夫は怯まず、そこな偽者じゃ!光久君がいないのを良い事に殿の御霊前を顧みず、何が狙いの大騙りか!出あえ!出あえ!と反撃して来る。

寺から出て来た配下の者達の件をさばきながらさらに前に進み出た鉄仮面は、おのれが野望を遂げんが為に偽遺言状を盾に得意の限りを尽くす奴が大騙りとは片腹痛い!と言うと寺の中に流れ込む。

境内でも猛、繁兄弟が剣を抜いて応戦を始める。

久丸を連れ法要に参加していたお蓮の方も突然の斬り合いに狼狽する。

三船九左衛門も心配そうに戦いを見守る。

鉄仮面は松本幹太夫につかみ掛かると、時も良し、所も良し!亡君の御霊前だ!真の遺言状を出せ!と詰め寄る。

完結篇

松本幹太夫、遺言書を出せ!と迫る鉄仮面に、何を世迷いごとを並べておる!遺言書は一つしかない!と言い放つ。

すると鉄仮面が、皆の者!小笠原光久は死んでおらんぞ!と言うので、それを聞いた重臣たちは、真でござるか?貴殿はどなたじゃ?と驚き、お蓮の方も狼狽する。

小笠原光久公の影…と今は申しておく、今日明日に必ず真の遺言書を探し出し、小倉15万石を独占しようとする悪人どもを成敗する!助力を頼むぞと鉄仮面が言うと光久公がご存命とあらば我ら一命を捧げます!と家臣たちが応じたので、松本幹太夫!この顔を覆いたる仮面はまぎれもなく貴公が南蛮人に作らせた鉄仮面!その仮面を誰にはめた?よもや忘れはしまい!と鉄仮面は松本幹太夫に迫る。

どうとあらば今この場で外してみせようか!と鉄仮面が続けると幹太夫が斬り掛かって来たので、それをかわした鉄仮面は御一同、いずれ又!と言い残し本堂を出る。 庭で戦っていた斎藤兄弟に近づいた鉄仮面は、かねてよりの計画通りことを運ぶんだ!と指示し、2人はその場から去って行く。

その様子をじっと見守る九左衛門。 寺の外に逃げ出した斎藤兄弟を待っていたのは夕香里で、こちらへ!と逃げ道に誘導する。

夕香里殿、太郎様からの御伝言です、今日のことで松本たちはすぐにでも殿の御遺言状を隠滅しようとするに違いないから小助、忠助にも連絡し、彼の動きに目を離さぬようにとのことですと刀を収めた猛が言うので、夕香里ははいと答える。

夕香里殿、我々の為にあなたをこのような危険な目に遭わせ、拙者心苦しい…と猛は恐縮する。

すると夕香里は、いいえ、私は猛様の御身の上が心配で…、まだお傷も癒えぬのでございましょう?と聞く。

その時、繁が兄上、追っ手が来ます!と教えたので、では夕香里殿と猛は別れを惜しみ、夕香里も思わず長けるにすがりつこうとして踏みとどまる。

お願い申すと言い残し猛らは立ち去って行く。

寺の境内では、御城代、今の鉄仮面の主は何者でございましょう?と家臣たちが松本幹太夫の回りに集まり聞いていた。

小倉藩に騒ぎを巻き起こさんと企む逆賊じゃと幹太夫が言い切ると、しかし…、人間離れした素早い剣の冴え…と家臣たちが不審がると、霞のように消え去りおったわ…と幹太夫は言う。

しかし斎藤家の兄弟は何故あの者の味方をしているのでござろう?と家臣が疑問を口にすると、父頼照殿の恨みを原さんとしているのでござろうと言いながら近づいて来たのは三船九左衛門だった。

…と言うことは、誰のことでござるかな?と家臣が聞くが、九左衛門もお蓮の方も幹太夫も何も答えなかった。

「遺言書の動きに注意 夕香里」と書かれた文を読んだ小助に、遺言書が出て来るのかな?と忠助が聞くので、これだけじゃ分かんないな…と小助がぼやいていると、何ごそごそ相談してるの?と又あの奥女中の少女が口を出して来たので、これはこれは上女中様!と小助がへりくだると、私、おきんちゃんって名前なのと少女(石原のり子)は明かすと、小助、今何か懐に隠したでしょう?お見せ!と命令する。

いえ、何も隠してなんか…と小助が否定すると、嘘おっしゃい!私、ちゃんと見たわ!とおきんちゃんは攻めて来るが、まあ真っ赤になって、そんなに恥ずかしいものなの?などと邪推して来る。

え?あ…、はい!あの〜…、恥ずかしいのでお見せするのはどうも…、今度内緒でそっとお見せしますから…今日の所はどうか…と小助が機転を利かせて答えると、ああ分かった、忠助がいると具合が悪いのね?何持てれなくても良いのに…、小スケさん、あんた私をどう思ってるの?などとお金ちゃんはさらに妄想を膨らませたようだった。

どう思ってるって…、弱っちゃったな…、何のことですか?と小助は戸惑うばかり。

下を向いたままのおきんちゃんは、あんたまごついているのねなどと大人びたことを言う。

小助さん、身分の違いはどうだって良いの、私前からあんたの気持知ってたの…と言うと背中を向けるので、ええ!と驚くと、小助さん、これ!と手紙を取り出して差し出したおきんちゃんは恥ずかしそうに去って行く。

何だこりゃ?と言いながら渡された手紙を開いて読んだ小助と忠助は吹き出してしまう。

そこには「あなたのお嫁さんになってあげます おきん」と書かれていたからだ。

その後、再び茶室にやって来た松本幹太夫は、松本殿、厄介なことにならねば良いがのう…とお蓮の方から相談され、何が…でございましょうか?と聞き返す。 何は?とは気楽なこと…、今日の法要での出来事じゃとお蓮の方が言うと、鉄仮面のことでござるか?大丈夫…と笑った幹太夫は、例え何人が何と言って来ようが、殿の御遺言は曲げられませんと自信ありげに答える。

それに間もなく将軍家ご裁可の使者と共に庵野乗道が戻って参るでござろう、そうなれば久丸君は小倉藩15万石の盟主と仰ぐについて何人たりとも文句を差し挟むことはできませんと言う。

でも真、光久殿がご存命ならば…とお蓮の方が案ずると、鼻で笑った幹太夫は、案ずるには及びません、この通り、先ほど江戸表の庵野乗道より書簡が届きましたと言いながら手紙を差し出す。

それを読んだお蓮の方は喜色を浮かべ、明日将軍家の御使者を伴い帰城するとな…、明日か…、松本殿、これで妾もやっと安堵しましたと言うと、そのご安堵をさらに完全なるものに致す為、例の御遺言書を…と幹太夫は要求する。

燃やしてしまうのですか?とお蓮の方が察すると、左様…、鉄仮面が狙っておりますれば…、何事も早めに、念には念を入れるのが上策かと存じますと奸智に長けた幹太夫は言う。

一方、廃屋に戻って来た斎藤兄弟が包帯を取り替えている中、1人うなだれていた夕月に、念には念を入れた策略じゃ、夕月殿心配せんでも宜しい…と乗道が慰めていた。

しかしいよいよ明日が決戦となれば心配で…と弱気を見せる夕月に、夕月、葵太郎様のことなら案ずる方がどうにかしてるぞと猛が励ますが、その時、光久がやって着たので、あ、若君!と居住まいを正す。

座した光久が、猛、遺言書は?と聞くので、はっ、葵太郎様は、本日中に奪い取るとのことでしたと猛は答える。

その頃、城中の部屋に行灯を運んで来た腰元は、部屋の中に鉄仮面がいることに驚き、お部屋様!お部屋様!鉄仮面が!鉄仮面が!と廊下で呼ぶ。

くせ者だ!出あえ!出あえ!と騒動になる中、鉄仮面は庭先の木の陰に身を隠す。

お庭番として駆けつけた忠助も、鉄仮面はそう簡単に捕まらないよ、ねえ小助さんと話していると、その通りだと言いながら、すぐ背後から鉄仮面が姿を現し仮面を取ってみせる。

その素顔を見た忠助は、何だ太郎兄ちゃんかと安堵するが、太郎はしっ!と口に指を当て、小助らと一緒にその場から離れる。

騒ぎの中、腰元を連れとある部屋の前にやって来たお蓮の方は、廊下で腰元たちに、そなたたちはここで待っていやと言いつけると、自分で行灯を持って1人で部屋に入って行く。

待たされた腰元の中に香織こと夕香里も混じっていた。

部屋の中に入ったお蓮の方は、柱の一部の表面をめくり、その中から遺言書を取り出す。 やがて部屋を出て来たお蓮の方は、手持ち行灯を腰元に持たせ去って行くのを夕香里はジッと観察していた。

一方、忠助と一緒にいた小助は、忠助君、何か鼻紙のようなもの持ってない?と聞く。

すり替えるんだろう?さっきのおきんちゃんの手紙がちょうど良いじゃないかと忠助が言うと、手を打って思い出した小助は、おきんちゃんの手紙を取り出し、これがあった、これがあったと喜ぶ。

あなたのお嫁さんになってあげます…と読んだ小助は、ちょっともったいないけど…と惜しがるが、遺言書と言うのも大体このくらいの大きさだろうと言っていると、お蓮の方達が近づいて来たので慌てて座っていた廊下の階段から離れる。

ところが、それを見たお蓮の方は、こんなに夜更けてまで懸命に勤めていやる、感心な者たちじゃのうと小助と忠助のことを勘違いする。

小助と忠助は、水まきや掃き掃除をやってその場をごまかしていただけだった。

ところが調子に乗ったのか、小助が柄杓の水をお蓮の方の方にかけてしまったので、無頼もの!何をしやる!とお蓮の方は叱りつける。

すみません、飛んだことを致しました!と詫びながら、お蓮の方の側に駆け寄った忠助と小助は勝手にお蓮の方のきものを手ぬぐいで吹き出したので、何をしやる!誰かおらぬか!出あえ!出あえ!とお蓮の方は騒ぎ出す。

すると小助が、あの〜、こんなものが落ちてましたけど…と言いながら書状を差し出す。

それを見たお蓮の方は慌てて懐の中に隠す。

そこに他のお庭番たちが駆けつけて来たので、この狼藉者を引っ捕らえい!とお蓮の方は命じる。

吊り下げられた忠助は、小助さん、とうとう運が尽きたらしいねと言うと、何度も言うようだけど死に際だけでも武士らしく死のう…と小助が答える。

頬かぶりをした1人の番人がそんな2人の横に座り込んだので、やい番人!殺せ!一思いに殺してくれ!と怒鳴りつける。

すると番人が立ち上がり刀を抜いて歯を触り始めたので、おい、そんなに急ぐことはないんだよ!気の早い奴だな〜、ちょっと待ってくれよなどと2人の言動は急変する。

次の瞬間、番人が斬ったのは綱だったので、太郎さん!と地面に落ちた小助は喜ぶ。

2人とも良くやってくれたなと感謝しながら、太郎は2人を縛った綱を解いてやる。

それで遺言書は?と小助が聞くと、夕香里ちゃんが掏摸とって渡してくれたんだと太郎は教える。

そうだったのかと忠助も大喜びする。

お蓮の方の部屋にやって来た松本幹太夫は、先ほどは酷い目にお遭いなされたとか?と同情すると、もう良い、宜しいのです、それよりこれを!と懐から書状を取り出す。

受け取った松本幹太夫は、この遺言書さえ灰にしてしまえば奴らがいかにあがこうとも…と言いながら中を確認しようとすると、松本殿、早う焼いてくれや、もう見るのも嫌じゃとお蓮の方が言うので、はっと承知し、遺言書を火鉢で焼きながら、これで勝負は久丸殿の勝ちでござると松本幹太夫はお蓮の方に話していた。

その証拠に御使者の下向が待ち遠しいなどとお蓮の方も応え、幹太夫と2人で哄笑する姿を、同じ部屋に腰元に化けて座っていた夕香里が憂い顔で見守っていた。

翌日、久丸、今日からそなたはこの城の太守様なのですよとお蓮の方は息子に言い聞かせていた。

そこに将軍家御使者大目付吉川三河守様御入り〜!と声が響いたので、久丸と供にお蓮の方も平伏して使者を出迎える。

家老として使者を出迎えた松本幹太夫は平伏して、将軍家御勅使には遠路はるばるお越し下され、小倉藩城代家老松本幹太夫、相続人小笠原久丸に成り代わり、厚く御礼申し上げ奉りますると挨拶をする。

出迎えの口上、大儀であるぞと使者吉川三河守は言う。

ははっ!応え、静かに顔を上げた幹太夫は目にしたのはあの鉄仮面だったので驚愕する。

久丸とお蓮の方も顔を上げ仰天する。

その鉄仮面の脇に並んで座していたのは斎藤兄弟だった。 小助と忠助も侍の格好で並んでいた。

その時、それまで幹太夫の横にひれ伏していた三船九左衛門と鉄仮面を伴って来た庵野乗道が鉄仮面の前に進み出て幹太夫の方を見据えると、小倉藩正統の御世継ぎ光久君じゃ、松本幹太夫!ご挨拶申し上げんか!と頼照は言い放つ。

庵野乗道!裏切りよったか!と幹太夫が吐き捨てると、今頃気がつかれたか…、私は予定の行動をとったまででござると乗道は穏やかに応える。

松本幹太夫、頭が高い!と使者の太刀持ちをしていた猛が叱ると、あざ笑った幹太夫は、笑止な大騙りめ!15万石の若君が鉄でできているとはとんだお笑いぐさじゃと言う。

その時、光久は自ら鉄仮面を外して顔を見せたので、その素顔を見た松本幹太夫とお蓮の方は声をあげて驚く。

光久の顔を確認した家臣たちは全員喜び、若君!良くぞご無事で!と感激しながら頭を下げる。

すると松本幹太夫は、各々方!先君の御遺言に背かれるか!と言いながら懐から遺言状を取り出すと、遺言!久丸を以て世継ぎとなす!と内容を繰り返し、御遺言は絶対じゃと言い張る。

これに背く者は見よ!と言った幹太夫が背後を見ると、襖が開き、鉄砲隊がなだれ込んで来る。 憮然として光久が立ち上がり、九左衛門と庵野乗道が若君を庇わんとその前に立ちはだかる。

光久殿、運良く生きていたものを又ぞろ死地に飛び込むとはよくよく死神に取り憑かれておられるの~と幹太夫は嘲る。

そもそも貴殿には当藩の御世継ぎたる資格はないのじゃ!と幹太夫が言うと、聞いていたお蓮の方が薄笑いを浮かべる。

潔く諦めるが良かろう…と幹太夫は迫る。 その時、哄笑の声をとともに姿を現したのは白ずくめの剣士白馬童子だった。

おお、白馬童子!と、弟繁とともに光久を守っていた斎藤猛が喜ぶ。

この白馬童子が天に成り代わり、光久君が真の御世継ぎである事を証明しよう…と、九左衛門と庵野乗道の背後から進み出た白馬童子は言う。

1つ!亡き小笠原種久公の御遺言状、すなわち曰く!跡目は光久にして相続致さすべし!と言いながら、懐から取り出した遺言状らしき者を差し出して白馬童子は言う。

2つ!松本幹太夫、その方の悪事のからくりの一切、なかんずく鉄仮面の策を弄し、光久殿を隠し砦に幽閉し、死屍奉らんとした事! 松本幹太夫!その方が昨夜お蓮の方と灰にせし遺言状は実はただのただの恋文、のう?小助と背後に侍に化けて潜んでいた小助に効くと、はい、その通りでございます!と小助は応える。

それを聞いていたお蓮の方は小助の顔を思い出し、さてはそなた、昨夜の狼藉者!と罵ると、幹太夫は鉄砲隊に撃てい!と命じる。 しかし引き金を引いても発砲しないので鉄砲隊は狼狽する。

松本幹太夫!このような子供騙しに乗る白馬童子と思うか?と白馬童子は本物の遺言状を九左衛門に預けて迫ると、おのれ!と幹太夫は後ずさる。 鉄砲と言う鉄砲は昨夜のうちに全て空だ!と白馬童子が教える。

幹太夫は手にしていた偽の遺言香を破り捨てると、出あえ!と呼びかける。

すると襖が開いて敵の援軍が乗り込んで来る。

斎藤猛、繁兄弟が刀を抜いて前に出て来る。 斬れ!と幹太夫が命じると、敵の配下が襲いかかってくる。

二刀流の剣を抜いた白馬童子は、天に輝く太陽で光が届かぬ所には白馬童子の愛刀電光日輪丸が常に輝いている!天下無双の電光二刀流、今生の名残に見事受けてみい!と決め台詞を言うと果敢に敵に立ち向かって行く。

斬り合いが始まったので、夕月、町人姿に戻った小助、忠助らは慌てて部屋の中から逃げ出す。

三船九左衛門と庵野乗道も敵と戦う。

侍のきものを脱いだ小助も忠助や夕香里と部屋を飛び出す。

光久も剣を交えていたので、殿!と案じた九左衛門が声をかける。

その九左衛門を庇いに来た猛、弟の繁も懸命に戦っていた。

そんな中、松本幹太夫が裃を外し光久に近づく。

松本!とそれに気付いた光久も剣を構える。

松本が力で勝り光久を押し倒すと剣で突こうとするが、横からその剣を払いのけたのは白馬童子だった。

廊下に出た白馬童子を襖の裏から斬りつけて来たのは、襷がけ姿になった松本幹太夫だった。

白馬童子は二刀流で幹太夫を追いつめ、そこに斎藤兄弟が駆けつける。

3人掛かりで松本幹太夫に斬り掛かり、兄猛が一頭を浴びせた直後、腹に件を突き刺したのは弟繁だった。

松本幹太夫は廊下に倒れ、そこに頼照と小姓姿の夕月、そして光久が駆けつける。

若様!とひれ伏した兄弟に、猛、でかした!と光久は賞賛するが、いつの間にか白馬童子は姿を消していた。 繁は夕月に姉上!とすがりつく。

白馬童子は愛馬流れ星に股がって町を去って行く。

その後、海辺の崖に近づいて来たのは久丸と御高祖頭巾で頭を隠した御蓮の方だった。

お蓮の方は覚悟を決めたように崖っぷちに近づくが、そこに夕香里、小助、忠助と共に駆けつけて来た太郎が止める。

危ない!我が子が可愛いのは深情け、咎めはせぬが、いくら死にとうなっても、この罪もない久丸とのが可哀想ではないかと太郎は言い聞かす。

その言葉に我が身の身勝手さを覚った御蓮の方は久丸に抱きつく。

その哀れな姿を哀しげに見つめる太郎たち。

この母はそなたが可愛いばかりに盲目の愛に悪事に迷い込みましたた…と久丸に詫びる。 そんなお蓮の方に、母上!と久丸が抱きつく。

青空の元、無事小倉藩主になった光久、斎藤親子、腰元らが総員で見送りに来てくれたので、光久殿、わざわざのお見送りかたじけないと葵太郎は頭を下げていた。

何の、何の、ほんのそこまでお見送り致そうと思いましてな…と光久は言う。

小助、夕香里、立派だぞと太郎が声をかけると、武士姿になった小助は、はい、私…、いや拙者は一日中固くなって鯱張って参りますと応え、腰元姿の夕香里も、普段もっとお行儀良くしていれば良かったと後悔していますと言う。

小助さん、私より身分が上になったけど威張らないでねとおきんちゃんが言ってそっぽを向いたので、それを笑った光久は、太郎殿も今度の旅はいよいよ1人ぽっちですな、夕香里と小助は当家が預かり、忠助君は三船の爺の所に養子にやる、何だか私が悪い事したような気がするなと言うので、何、それどころか拙者心から3人の幸せを喜んでおります、今後とも3人の力になってあげて下さいと太郎は頭を下げる。

その時、お~い、兄ちゃん!と背後から声が聞こえて来て、駆けて来たのはすっかり着飾った忠助と三船九左衛門だった。

殿、遅参して申し訳ありませんと九左衛門が光久に頭を下げる。

忠助、あんまり三船のおじいちゃんを困らせるなよと太郎は言い聞かせ、小助も夕香里も忠勤を励むんだぞと言葉をかける。

2人がはいと答えると、それではこれにて…と太郎が挨拶すると、江戸出府の折は改めてお目にかかろう、ではこれにて…と光久も会釈する。

ではいずれの方もお別れ申すと言い、葵太郎は1人去って行く。

その後ろ姿に、兄ちゃん!兄ちゃんと忠助が手を振って別れを惜しむ。

すると太郎も振り返り名残惜しそうに手を振って返す。
 


 

 

inserted by FC2 system