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妖怪大戦争('68)

大映妖怪三部作の2作目

子供向けの2本立ての1本なので、上映時間は1時間20分程度とやや短め。

着ぐるみ妖怪が日本各地の方言でしゃべる親しみやすいキャラクターになっている上に、登場する子供たちとも友達感覚で描かれており、さらに悪い妖怪と戦うと言う対決パターンになっているので、いかにも子供に好まれそうな作品になっている。

最後は悪妖怪が巨大化と、後のスーパー戦隊物のようなパターンになったり、妖怪が人間と普通に会話している辺りがマンガ風で愉快と言えば愉快。

ただしこの作品、子供も出て来るし、全体の雰囲気は明らかに子供向けなのだが、大映東京の「昭和ガメラ」シリーズのように、子供が話の中心と言う風にはなっていないのが大映京都らしい。

妖怪の中でも油すましがリーダー的に描かれているが、河童が狂言回し風に活躍しており、このイメージが角川版の「妖怪大戦争」(2005)の阿部サダヲさん演じる河童川太郎につながっているのかもしれない。

「ゲゲゲの鬼太郎」の「西洋妖怪対日本妖怪」の発想なのだが、鬼太郎のようなスーパーヒーローがいない分、人間と妖怪の共闘と言うクライマックスになって行く。

もともと日本の妖怪は戦闘に向いているような存在ではないので、対決ものにするにはこう云う形にするしかなかったのだろう。

しかし子供向けと言う事もあり、大人の目線で見るとおかしな設定で、ダイモンが何故遠路はるばる日本にやって来たのか、その理由が何も説明されていない。

人間に化け、人の生き血を吸って生きながらえるだけなら、日本である必要は何もない訳で、何故、バビロンの近くにもいくらでも国はあるのに、何故東洋までやって来たのかと言う部分が分からない。

封印された何かがたまたま日本にやって来た…と言うような描き方ではなく、バビロンで復活したダイモンが、何か目的でもあるかのように一直線に日本に向けて飛んで来たように描かれているからだ。

さらにダイモンの能力もはっきりせず、一見強そうな反面、人間や妖怪たちが周囲を動き回っても気がつかない鈍感さが気になったりする。

結局、日本でやっているのは、悪代官に成り代わり、酒や女にうつつを抜かしていると言った俗っぽさ。

その俗っぽいダイモンと元の代官を神田隆さんが、悪役キャラと温厚なキャラの両方で演じ分けているのがまず見もの。

日本各地の方言をしゃべるメインの妖怪たちが、何故、伊豆の墓場にたむろしているのかも良く分からなかったり、後半、千絵が墓場で妖怪たちを目にしても特段反応を見せなかったり…と不自然な部分もあるのだが、その辺は子供向けファンタジーの御都合主義と言う事なのだろう。

冒頭部分に特撮シーンがあるので、大作か?と期待させるが、本編が始まると意外に低予算で、舞台は基本的に代官所の屋敷内中心。

登場人物も屋敷内の者だけで、大人数が出て来るようなスペクタクルシーン等はあまりない。

せいぜい墓場で役人数名と妖怪軍団が鉢合わせするシーンと新任の代官の行列シーンくらいだが、3作目の「東海道お化け道中」に比べれば、まだ予算があった方ではないだろうか。

クライマックスの戦い等を見ると、一見大量の着ぐるみを作っているように見えるが、メインの妖怪以外は同じ着ぐるみの使い回しや衣装でごまかしているようにも見えるし、ダイモンは合成で増やしているだけなので、見かけ程は予算はかかってないようにも見える。

門番役で当時追うしている漫才コンビ若井はんじ、若井けんじは、頭の先までピーコピコ!と言うギャグで当時人気があった若手で、「ダイビングクイズ」の司会等でも知られた有望株だったが、お兄さんのはんじさんの方が夭折したため、志半ばで消えて行ったコンビである。

今回新たに気付いたのだが、二面女を演じている行友圭子さんと云う女優さんは、藤村志保さんを連想させるかなりきれいな和風顔の方だと言う事。

後半、初期のタモリのようなアイパッチ姿になった伊織に化けたダイモンが1人だけ座敷に呼び寄せているのも分かる。

妖怪三部作の中では一番面白いエピソードかもしれない。
▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼
1968年、大映、吉田哲郎脚本、黒田義之監督作品。

人魂が画面両脇から2個飛んで来る。

油すましら妖怪の姿

タイトル

砂漠らしき土地に建つ石像の足 ここは数千年の昔、優れた文明を誇ったバビロニアの都…、その遺跡である。

いつの頃か、この廃墟には凶暴な妖怪が眠っていて、4000年経った日に目を覚まし、再びこの世に現れると予言した者があり、以来、難を恐れて旅人の足は全く途絶えていたが、年月が経つとともに予言はいつしか忘れ去られ、埋蔵された宝を狙う者が密かに現れるようになった。

巨大な足の石像の下に穴を掘った墓盗人が、古代の壺のような物を見つけて、外にいたもう1人に渡す。 続いて2人一緒に穴の中に入り、不気味な飾りの付いた杖のような物を掘り出した時、突然、穴が崩れて来る。

すると、空の一画から黒い雲が涌き出し、なおも地震が続いたので、怯えた盗人は持ち出そうとした杖を放り出す。

やがて、巨大な足元の穴から何か霊気のような物が噴出し、不気味な妖怪ダイモン(橋本力)が出現する。

周囲の遺跡が崩壊し、墓盗人たちを押しつぶす。
嵐の海に翻弄される帆船。

空を飛ぶ妖怪ダイモン そのダイモンが起こす強風に転覆する帆船。

海辺の岩場から海釣りを楽しんでいた千絵(川崎あかね)は、又釣れたわ、お父様!とはしゃいでいた。

ほお、ではそれをきりに引き上げるとするかな…と答えたのは、一緒に釣りを楽しんでいた父親の磯部兵庫(神田隆)だった。

あら、もう帰るの?せっかく面白くなって来たのに…と千絵が文句を言うと、あれをごらんと沖合に湧き出た黒雲を指した兵庫は、一雨来ると予測する。

お前たちは先にお帰り、わしは浜を一回り見回って来るからと、風が強くなって来た中、兵庫は千絵とお供の御用人川野佐平次(木村玄)に指示する。

漁師たちの網等を干してある場所に来た兵庫は、空中に出現した青白い煙のような者を見て怪しむ。

刀に手をかけようとすると、にわかに強風が吹き付けて来て、兵庫は立っている事が出来なくなる。

さらに雷鳴と雷光が轟く中、這いずって逃げていた兵庫の目の前に立っていたのはダイモンだった。

ダイモンの足が兵庫の着物の裾を踏んでいたので、身動き出来なかった兵庫だが、何とか立ち上がり剣を抜くと、おのれ、妖怪!と言いながら斬り掛かるが、ダイモンの姿は消える。

兵庫は怯え、刀をめちゃくちゃに振り回したため、網を干していた木の柱を斬ったため、自分に網が覆い被さって絡まってしまう。

強風で砂埃が舞う中、またダイモンが出現し、目の前に近づいて来たので、おのれ、妖怪!と又兵庫が斬り掛かると、ダイモンは杖で受け止め、兵庫の刀はあっけなく折れてしまう。

折れた刀を棄て、小刀を抜いて立ち向かおうとした兵庫だったが、ダイモンは杖の頭に付いている鳥の化け物のような飾りの口から炎を吹き出し、兵庫が苦しみながら倒れた所に近づいたダイモンは、兵庫の首筋に噛み付く。

倒れていた兵庫を前にしたダイモンが杖を振ると、死んでいたはずの兵庫は立ち上がり、折れて転がっていた刀もくっついて元通りになる。

「伊豆代官所」 先に帰って来て、庭先で犬をなでていた千絵は、佐平次!お父様、どうなさったのかしら?嵐はとうに収まったと言うのに…と帰りの遅い兵庫の身を案じていた。

きっと隅々まで見回っておられるのでしょう、領民思いの殿の事でございますから…と佐平次は答える。

そうだと良いけれど…と千絵が答えていると、佐平次が綱を持っていた犬が何かを見て吠え出す。

庭の池の渡り橋の上には兵庫が立っていたので、お父様!と千絵が駆け寄り、佐平次はいつの間に?と不思議がる。

しかし、兵庫が近づいて来ると犬が激しく吠えるので、これ、黙りなさい、お父様じゃないの!と千絵が叱りつける。

すると兵庫はいきなり刀を抜き犬を斬ってしまったので、驚愕した千絵は、無言で屋敷内へ向かう兵庫の後に、お父様!と呼びかけながら追う。

兵庫は座敷に入り、そこに神棚がある事に気付くと、槍を取り出し、いきなり破壊し始める。

それを見た千絵は、お父様!と絶句し、左平次も、何と言う事を!と唖然とし、殿!何故左様な…と問いかける。

兵庫が、不浄な物は取り払うのだ!と言うので、不浄な物?神が不浄だと申されるのでございますか?と左平時はあっけにとられ聞き返す。

黙れ!と怒鳴った兵庫は、さらに奥に安置してあった仏像まで破壊しようとするので、待って!お父様!と止めようとするが、退け!と払いのけられたので、いいえお父様、神様や仏様が何故不浄だと?と疑問を口にする。

今朝の今朝まで敬い尊んでいらしたお父様なのに、どうして急に?お父様!とすがりつこうとするが、兵庫は、わしのやる事に口出しするな!と言い千絵を突き放すと、槍で仏を破壊し始める。

そして、さっさと片付けい!神棚もろとも燃やしてしまうのだ!良いな!と左平時に兵庫は命じ、立ち去ってしまう。

そんな兵庫の豹変振りに、本当にどうなさったんだろう?まるで人が変わってしまったみたい…と千絵は悲しむ。

その時、現場に駆けつけた役人真山新八郎(青山良彦)が、御用人、何事にも穏やかな殿がこのような御振る舞い、よくよくのご事情が…と話しかけて来たので、分かっておる…、新八郎、お嬢様を頼むと言い残しその場を去る。

かぶり方が分からない様子で兜をいじっていた兵庫の部屋にやって来た左平次は、殿!一体どうなされたのでございますか?嵐の間に何が起こりましたので?と聞く。

くどいぞ!左平次!と睨んだ兵庫は、しかし!と言い返そうとした左平次をいきなり斬りつけようとするが、刀は飾ってあった壺に当たり、障子を破って庭先に飛び出した壺は池に落ちる。

その壺が頭の皿に当たって気付いた河童(黒木現)が水面に顔を出し、屋敷内の様子を見渡し、あれ?と不思議がる。

座敷内で左平次と対面していた兵庫の顔が見慣れぬダイモンに見えた河童は、何だ、あいつは?代官様に成りすますとはふてえ野郎だと呟く。

しかし殿!先刻からのお振る舞い、ただ事とは思われません!ただ…、まさかとは存じますが、お気が…と左平次が言いかけると、黙れ!無礼を言うと捨て置かんぞ!と兵庫に化けたダイモンは叱る。

ダイモンは右手に杖を出現させ、それを徐々に大きくさせると、左平次はその場に倒れ込む。

ダイモンはその左平次の首筋を持ち上げると顔を近づける。

池から屋敷の側に瞬間移動した河童が中を覗き込むと、首をダイモンに噛まれた左平次が絶命する所だった。 左平次から身を離したダイモンの身体から、もう一体のダイモンが分離し、左平次の身体に乗り移る。

すると、倒れていた左平次も起き上がり、怖い表情のまま部屋から出て行く。

それを見ていた河童は、あれ?どうなったんだろう、あの御用人は?と首を傾げる。 新八郎が戻って来た左平次に、御用人、殿のご様子は?と聞くと、何をしておる!何故速やかに焼き捨ててしまわん?殿の御指図に背く物は断罪だ!と言い、左平次!と呼びかけた千絵にも、千絵様、あなたも同様ですぞ!と左平次は睨んで来る。

余計な口出しをなされば、お嬢様とて容赦は致しませぬと左平次は言うので、一体どうしたの?お前までがそんなことを言い出すとはと千絵が困惑すると、黙らっしゃい!と左平次は言い返して来る。

そして、仏壇を壊しながら、かかれ!即刻燃やしてしまうんだ!と家人たちに命じる。

屋敷内を覗き込んでいた河童は、畜生…、味な魔術を…と呟くと、近くの竹筒から流れ出していた水を口に含み、ダイモンが化けた兵庫の背中に水鉄砲を吹き出すが、水は途中で反転し、河童の顔に命中してしまう。

振り返ったダイモンは、何だ?薄汚い奴めと河童に聞いて来たので、お見かけ通りの河童だ!と名乗ると、河童?とダイモンが不思議がったので、河童は河童でもただの河童とは訳が違わい!おいら、この屋敷の主だ!と河童は自慢する。

主?と聞くダイモンに、どこの妖怪野郎か知らないが、勝手に俺の縄張りに飛び込んできやがって、我が物顔で振る舞われたんじゃ面白くねえや!とっとと出て行きやがれ!と河童が文句を言うと、ダイモンは笑うだけで相手にしなかったので、待ちやがれ!と近くに瞬間移動した河童は、そうつもりならおいらにも覚悟があらあ!泣きっ面かくな!と言いながら、四股を踏み相撲を仕掛けようとする。

頭の皿で頭突きを食らわそうと飛びかかった河童だが、ダイモンの身体をすり抜けてしまい、挙げ句の果てに捕まって、柱に頭の皿をすりつけられてしまう。

池の側に瞬間移動して逃げた河童だったが、ダイモンが杖を出して振ると、凍った池の上に河童は弾き飛ばされ、向こう岸の岩に頭に皿を打ち付けてしまう。 それを見送ったダイモンは、笑いながら又兵庫の顔に戻る。

おお痛え…と言いながら付きが出ている墓にやって来た河童は、古井戸のつるべを動かして、頭の皿に水をかけると、おい!おい!誰もいねえのか!と周囲に向かって呼びかける。

おかしいな?とぼやく河童の背中に手を触れたのは傘お化けだったので、何だ、おめえかと河童は振り返る。

びっくりするじゃないか!他の連中は?と河童が聞くと、ここにいるったい!と言う声と白い霧のともに、周囲に続々と妖怪たちが姿を現す。

血相変えて、一体何やねん?と油すましが声をかけて来たので、皆に一肌脱いでもらいたいんだ、おいらに力を貸してくれと河童は呼びかける。

どするとな?とのっぺらぼうが聞くので、塒を追い立てられちまってんだよと河童が答えると、塒を?誰にや?と油すましが問いかける。

とてつもねえ化け物なんだ!と河童が言うと、化け物?とろくろっ首(毛利郁子)が言い、一体どんな?と油すましが聞くので、鬼のような面に獣の身体、そいつに噛み付かれると人間共はがらっと人が変わっちまうんだよと河童は説明する。

人が変わる?と二面女(行友圭子)が驚くと、うん、今日まで見た事も聞いた事もねえ化け物なんだと河童は強調し、来てくれるんだろうな?と頼むが、傘お化けは、とんでもなか!と即答する。

何でだよと河童が聞くと、他ならねえおめえのことだから、本当に追い立てを食ったのなら何を置いても飛んでってやるが?おい、それじゃあ、皆嘘だって言うのかい!と河童は皆に聞く。

すると、油すましが河童の両手に「妖怪紳士録」と「日本妖怪大図鑑」なる書物を出現させたので、何だこりゃ?と河童が聞くと、良う見てみい、それには日本中の妖怪が載っているんやで、お前が言うようなお化けは出てへんと油すましは叱るように教える。

しかし…と河童は呟くが、水が温うなったんで、夢でも見たん違うか?夢でも…と油すましはバカにする。

しかし河童は、違うよ、嘘だと思うなら来てみりゃ分かるよ、本物だって!信じてくれよ!ね?と主張するが、ま、頭でも冷やしてやれ!とのっぺらぼうが言うと、傘お化けが緯度のつるべの水を河童の頭の皿に浴びせかける。

その頃千絵は、しのぶ、ここで心配してても始まらない。

もう下がってお休みと言うので、でも…と腰元のしのぶ(井上ヒロミ)は案ずる。

その時、座敷の障子が開き、そこから青白い霊気が侵入して来て、千絵が居眠りを始めると倒れ込んだので、しのぶは驚き、お嬢様!と言いながら近づく。

お嬢様!千絵様!と呼びかけていたしのぶも頭痛を覚え苦しみ出す。

部屋の障子にはダイモンの姿が浮かび上がる。

すると、しのぶはうつろな目になり立ち上がると、廊下に出てダイモンの影と重なる。

庭先に潜み、しのぶの同行を見ていた真山新八郎は、音もなく開く兵庫の部屋の障子の向こうに消えたしのぶの様子を見て怪しむ。

その直後、燭台を手にした千絵が木戸を開けて出て来たので、千絵殿!どうなされました?と声をかけながら近づくと、お前もこんな所で何を?と千絵も聞いて来る。

殿や御用人の急に人が変わられた謎の手がかりでも掴めれば…と張り込んでおりましたが、お嬢様は?と新八郎が聞くと、私も気になって眠れないまま腰元の忍ぶとおしゃべりをしていたら、ふと眠くなり、気がつくとしのぶがいなくなっていたので…と千絵は答える。

眠っている間にしのぶ殿が?…と新八郎は怪しむ。

胸騒ぎがするので探しに来たのですが…と言う千絵に、私が調べてみましょう、お嬢様はお部屋に戻って待っていて下さい、さ!と新八郎は勧める。

新八郎は、怪しく揺らめいているように見える兵庫の部屋を恐れながらも、思い切って近づいてみると、殿!と呼びかけてみる。

新八郎か?と読書をしていたらしき兵庫は声をかけて来て、はっ!と返事を聞くと、入れと命じる。

この夜更けに何の用だ?と兵庫が言うので、しのぶ殿がこちらへ?と聞くと、参らんと言うので、しかし殿…と新八郎が食い下がろうとすると、用件はそれだけか?戯言を申しおって…、下がれ!と不機嫌そうに命ずる。

はっ!と答え、障子を締めた新八郎だったが、その時、彼の名を呼ぶ千絵の声が聞こえたので、いかがなされました?と近づくと、やって来た千絵は、しのぶが!部屋に変えるとしのぶが!と慌てたように言う。

えっ?と驚き千絵の部屋に向かうと、しのぶが部屋のなかで倒れていた。

しのぶ殿!と呼びかけながら新八郎が抱き起こすと、首筋に噛まれたような痕と出血が見られたので驚く。

その後、オン・キリキリ・バザラン・バッテン!と祈祷を続けていた大日坊(内田朝雄)は、相談に訪れ背後で控えていた新八郎に、新八郎!みじんの疑いの余地もない!全て魔性の者のなせる技じゃと告げる。

それではその魔性の者は代官殿と見て間違いないのですな?やはり…と新八郎が聞くと、魔性の命は人の生き血をもって長らえると言う、忍ぶと言うお女中もおそらくは、その生け贄となったのであろう…と大日坊は、炎に向かいながら言う。

魔性の生け贄…、伯父上、ではその魔性を代官殿から取り除く手だては?と新八郎が聞くと、ない!と大日坊は即答する。

え?と驚いた新八郎に、代官殿に魔性が乗り移ったのではなく、魔性が代官殿の姿を借りておるのじゃと大日坊は言う。

では代官殿は?と新八郎が問うと、既にこの世の人ではあるまい!と大日坊は答える。

驚いた新八郎は、それではいかにすればその魔性を打ち拉ぐ事が出来るのでございますか?と聞くと、御仏にお頼みするだけじゃと大日坊は告げると、護摩壇から二つの三宝を持って新八郎の元へ近づいて来る。

今夜戌の刻を喫し、この3本のロウソクを魔性の住む部屋の回りに立てろと大日坊は、持って来た三宝の片方に乗っていたロウソクを見せて勧める。

近づけば我らの意を感じ取ろうが、この守り札を身に帯しておれば魔性の力を防ぐ事が出来る。

万一の場合はこれを射よと、もう1つの三宝に乗っていた弓矢を見せる。

お灯明さえ灯す事が出来れば、後は御仏にすがるのみ!一身をなげうってもわしは勤める!と大日坊は決意を述べる。

伯父上!と呼びかける新八郎に、行け!速く!と急かす大日坊。

屋敷に戻って来た新八郎は、戌の刻を告げる鐘の音が聞こえて来たのを確認すると、兵庫の部屋に近づき、太いロウソクに火打石で灯を灯し、部屋の周囲の通路に3本立てる。

大日坊は護摩壇の前で祈祷に没頭していた。

その頃、左平次と2人で酒を酌み交わしていた兵庫は、左平次!大人ばかりでは飽きが来る。

育ち盛りの若い血も欲しいものだと話していた。 大日坊の怨霊退散の祈祷はさらに激しさを増す。

すると、盃を口にしていた左平次が急に苦しみ出したので、それに気付いた兵庫は外を睨むと、杖を取り出し振る。

すると、廊下に立ててあったロウソクの炎が外に向かって伸びる。 大日坊はさらに祈祷に打ち込むが、いつしか廊下に立てたロウソクの炎は3本とも消えてしまう。

それを庭先から見ていた新八郎は驚き、大日坊の元へ駆けつけると、大日坊は倒れており、身体が焼けたようにくすぶっていた。 新八郎は持っていた弓を握りしめると、見ておれ!必ず!と呟く。

とある農家に藁を大量に運んで来た身体の大きな子供茂市(渡辺幸保)に、力があるのう!と室内で藁を編んでいた両親がうれしそうに騙りかける。 そこに突然乱入して来たのは、役人と左平次だった。

危険を感じた両親が裏から茂市と妹を逃がすと、おのれ!御上に逆らう気か!と言いながら、左平次が、裏の戸を閉めその前に立ちはだかっていた両親に斬り掛かって来る。

逃げていた茂市と妹お咲(神田真里)は、背後の人の気配を感じしゃがんで身を隠すと、すぐに裏口から出て来た左平次が、子供を捜せ!と役人たちに命じる。

お咲は茂市と一緒にその場を逃れ、墓場にやって来て身を隠す。

お兄ちゃん、お化けずらよとお咲が怖がると、茂市が大丈夫、悪いことしてなきゃとなぐさめる。

そこに役人たちが近づいて来て、まさかこの中には入るまいと言い帰ろうとしたので、何故引き返す?と左平次が聞くので、ここは…と役人が言い訳しようとすると、妖怪が何だ!いたら対峙するまでだ、行け!と左平次は叱る。

その側の古い度の所に立ち上がった河童は、畜生!誰一人信じてくれないとは…、ああ、嫌になっちまうとまだ嘆いていた。

そこへ近づいて来たのがお咲と茂市兄妹で、その2人に出くわした河童は、出た!お化けが出た!と腰を抜かし、声をあげたので、何事かと妖怪たちが一斉に姿を現す。

何を言ってるんだね、人間の子だよ、お化けはあんたの方じゃないか、しっかししなよと呆れながら二面女が河童を助け起こす。

見かけねえ顔を急に出すから悪いんだと河童が文句を言いながらも、何だってこんな所へ?と聞くと、お願いだから助けて下さい!おいらたちをと茂市が言うので、何?助けてくれ?と河童は驚く。

その時、二面女が悲鳴を上げ、河童も一緒に驚くと、俺たちはそのお守りに弱いんだと、兄妹が首から下げていたお守りの事を指摘し、頼むよ、引っ込めてくんなと頼む。

茂市とお咲は、すぐに承知し、お守りを目立たない着物の裏に隠す。

代官に捕まったら殺されるかもしれないんだと茂市が言うので、何故だ?と河童が聞くと、何故か知らないけど、連れて行かれた近所の友達がみんな死んで帰って来るんだよ、おいらたちも捕まったら、きっと殺されると言うので、話を聞いていた油すましが、おいおい…、ここの代官はものすごい情け深い人やで、そんな人殺しをするような悪い人やない!と言い返して来る。

だから言っただろう?そいつは代官じゃなくてお化けだって、代官の姿を借りてるだけのお化けなんだ!と河童が言う。

そんじゃあ、ほんまやったんじゃね〜とろくろっ首も河童に話しかけたので、やっと分かってくれたかいと河童な喜ぶ。

それにしても、一体何者やろうな〜、そいつは…と油すましが考え込む。 その時、バビロニアの妖怪さ…と言う声が聞こえて来たので、妖怪たちは驚く。

バビロニア…と油すましも繰り返すと、ダイモンと言う奴さと言う声のする方を見た二面女が、あ、青坊主と雲外鏡のおじさん!と喜ぶ。

誰?知っとると?と河童とのっぺらぼうは新しく出現した2体の妖怪に戸惑うが、お腹の大きな雲外鏡(花村秀樹)が、良く見ろ!と言いながら、大きく息を吸い込み太鼓腹をさらに膨らますと、そこにダイモンの映像が浮かんで見えて来る。

こいつや!と河童は感激し、油すましも見るからに悪党面や!と言うので、手を貸してくれるかい?と河童が頼むと、当たり前や、こんな奴のさばらしといたら、日本お化けの名折れやと油すましも答える。

そうたい!とのっぺらぼうも答え、坊やたちは安心して待っちょるんよとろくろっ首が子供たちに言い聞かす。

油すましは、周辺にまだ役人たちがうろついているのを見ると、良し、行き掛けの駄賃にあいつらを一丁へこましたろ!と提案する。

頷いた妖怪たちは皆一斉に姿を消す。 怯えながら墓場をさまよっていた役人の1人が何かに足を取られ、足が!足が!とパニック状態になる。

仲間たちが手を貸して引き上げてやると、足にしがみついていたのはのっぺらぼうだった。

逃げ出した役人たちの前に次々と妖怪たちが姿を現す。

動揺して逃げ惑う役人たちの前に鬼火が飛び、1人の役人の方に手を置いたのは傘お化けだったので、それに気付いた役人が悲鳴をあげる。

そんな役人たちの前に妖怪たちが勢揃いで登場し、ろくろっ首も姿を見せると、怖いか?三品!とのっぺらぼうが嘲る。

これで、おまはんらに狙われた子供らがどんだけつらい思いをしちょったか分かっつろうが!とろくろっ首が言い、どうや?それが分かったら二度とえげつない真似しいな!とっとと出て行け!と油すましが役人たちを叱りつける。

一旦消えた妖怪たちを怪しみ、役人たちがぐずぐずしているので、帰りとうないのか?と又妖怪軍団が姿を見せると、悲鳴を上げて役人たちは逃げて行く。

油すましが、ほな行こう!と呼びかけ、妖怪たちは一斉に姿を消す。

奉行所のびびりの門番(若井はんじ)が、何か生温い風吹いてないか?と怯えて聞くと、もう1人の門番(若井けんじ)は、そうか?と受け流す。

誰か来たんとちゃうか?と又びびりの方が聞くと、別に…ともう1人が答える。

そうか?そんな気がするねやけどな〜と気の弱い方の門番が良いながら周囲を見回しながら、おう云う晩わな、何か恐〜い事が起こるんやでて、死んだおばあちゃん言うてたでと言うので、迷信ちゅう奴やな、わいは何も感じへんでともう1人の門番は答える。

そんな気丈な門番の頬に上から降りて来たこんにゃくがぺたりと貼り付いて来たので、さすがにビビる。

どないした?とびびりの門番が聞くと、誰かがわいのほっぺた…とやせ我慢していた門番が答えると、お化けや!お化けやど〜とびびりの門番が断定する。

一瞬、その言葉に乗りかけた門番だったが、あほ、そんなもんおるか!とすぐに否定する。

おるんや、ほんまはおるんやで〜と良いながら、びびりの門番が、いたずらを仕掛けたこんにゃくを下げて言うが、そのびびりの門番の頬をなでる手があった。

ああ!と怯えると、もう1人が、どないしたん?と言いながら振り向くが、その背後に傘お化けが降りて来たのを見たびびりの門番は凍り付く。

それを見た孟1人の門番は、おい、何ブルブル震えてるねん?と聞きながら、後ろを振り向くが、傘お化けが上に上がった後だったので、誰もいないやないか!おい、何目向いてんねん!と叱る。

傘小僧のお化け、それ!とびびりの門番が答えてもう1人の背後を指差すと、そこにこんにゃくを持っていたので、これ何や!ともう1人の門番は聞いて来る。

こんにゃくがバレたことに動揺したびびりの門番は、こんにゃくを隠そうとして、思わず自分の口に入れかけ、食べる?と勧めると、いらんわ!どうせこんなこっちゃろうと思うてた、いい加減にせい!ともう1人が文句を言うと、さっき、お前のほっぺたぺろっと嘗めたんはわいやけどな…とびびりが説明しかけるが、おい、いい加減にせんと怒るど!ともう1人がそっぽを向こうとするので、ほんまや!と追いすがろうとするびびりをもう1人は振り払おうとする。

その時、門を叩く音が聞こえて来たので2人とも驚く。

さらに、開門!開門!と声が聞こえて来たので、小窓を開けて外を覗くと、下働きの子供を連れて参ったと言う笠をかぶった役人と駕篭が見えたので、ただいま開けますと答えたもう1人の門番は、びびりと一緒に門の閂を外す。

籠と役人が入って来たので、ああやれやれ、これで安心やなと門番は安堵する。

何か?と役人が問いかけると、いや別に…、ただちょっとだけ、形だけ改めさせてもらうとびびりの門番が言い、駕篭の中を覗き込む。

すると、中に妖怪がいたので、びびりの問題は飛び退くが、もう1人の門番が、どないしたんや?と言いながら駕篭を覗き込むと、そこには美女が乗っていたので笑顔で応えると、ものすごい可愛い子、ちっとも怖い事ないよと、脇で震えているびびりに教えると、そんなアホな!とびびりは信じないので、何言うてんねん、良う見てみい!ともう1人がびびりの手を引いて駕篭に近づける。

びびりが恐る恐る駕篭の中を覗くと、又醜い妖怪がいたので飛び退き、何が可愛いのや、あれが!と文句を言う。

そんなびびりの襟首を捕まえたもう1人の門番が、こっち来い!可愛いやないか、目の玉ひんむいて良う見てみい!と言いながら一緒に駕篭の中を覗くと、きれいな美女の顔がくるりと回ってみにくい顔が出て来たので2人とも驚く。 駕篭の中にいたのは二面女だったのだ。

門番2人はあっさり気絶してしまう。

戻って来た役人たちは、実は妖怪が化けた姿だった。

役人と駕篭はその場で消え去る。

屋敷内では、かどわかされて来た若い娘や子供が泣いていた。

見張りの役人は居眠りしている中、部屋に現れたのは二面女で、私についておいでと優しく子供たちに話しかける。

そして、子供たちを連れて行った後に出現したのは妖怪たちだった。

居眠りをしていた見張り役が目覚めて部屋を見ると、元通り娘や子供がいるので安心するが、その時、別の役人がやって来て1人の娘を連れて出て行く。

見張り役が又居眠りを始めると、子供たちに化けていた妖怪はみんな消えてしまう。

部屋で酒を飲んでいた兵庫の元に役人が娘を連れてきましたと告げる。

座敷に入った娘が正座をして一礼すると、こちらへ参れと声をかける兵庫の顔は、娘にははっきり妖怪ダイモンに見える。

そのダイモンに近づき、抱かれたと思った娘の首が伸び、ダイモンの身体に巻き付いて行く。

ろくろっ首だった。 しかしダイモンはその首を捕まえ、馬鹿め、こんな事で参るわしだと思うか!と嘲る。

そして、ろくろっ首の長い首を結んでしまったのでろくろっ首は慌てるが、そこに出現した油すまし、青坊主、雲外鏡らがダイモンに組み付く間、河童、のっぺらぼうがろくろっ首を救出する。

しかし、油すましたちはダイモンの杖の威力には敵わず、翻弄されてしまう。

高笑いするダイモン。

傘お化けもダイモンに立ち向かおうとするが、あっさり杖で弾き飛ばされ障子を突き破り身動きできなくなったので、河童と雲外鏡が救出する。

畜生!と庭先に逃げた妖怪たちだったが、部屋から出て来たダイモンが強風を起こすと、風にあおられた妖怪たちはそのまま姿を消してしまう。 墓場に戻って来た妖怪たちは、傷ついた仲間を労り合う。

中でも雲外鏡が一番弱っていた。 一方、代官所では、新八郎が高笑いしていたダイモンの姿を物陰から監視していた。

そこに、お父様!と千絵が近づいて来たので、ダイモンは又兵庫の姿に戻る。

その兵庫が部屋に戻ろうとしたとき、走り出て兵庫の前に立ちふさがった新八郎は、ついに正体見届けたぞ!と言いながら、刀を抜く。

そこにやって来たのが千絵で、父親に刀を向けている新八郎の姿を見て驚き、新八郎!と叫んだので、お嬢様!これなるは代官殿ではございません。お父上を殺したばかりか、その名を騙る憎っき妖怪!と兵庫のことを新八郎が教えると、千絵は、ええ!と狼狽する。

その証は、ごらん下さい!と言った新八郎だが、兵庫は苦笑しながら、乱心したか新八郎…と言うだけ。

その頃、仲間の妖怪たちから介抱されていた雲外鏡の腹に映った代官所の様子を見たのっぺらぼうは、あ、映った!侍がダイモンと斬り合っとるばい!と驚く。

侍が!とろくろっ首が言った時、雲外鏡の腹の映像が消えてしまったので、もう一度気張れ!と青坊主が励ます。

すると、又、白黒映像が腹に映るが、千絵が、待って!新八郎!と叫んだ所で映像は消えてしまう。

頑張れ、おじさん!と二面女が励まし、今大事な所や、息吐いたらあかん!などと妖怪たちが雲外鏡を叱咤激励する。

畜生、せっかく良い所なんじぁに…とろくろっ首が悔しがるが、しようがない、もういっぺん押し掛けよう!と油すましが決断する。 行こう!と言ってみんな姿を消した中、一本しかない足を痛めた傘お化けと二面女が後に残る。

傘お化けも無理に行こうとするので、二面女が止める。 代官所では、兵庫がダイモンの杖を取り出して新八郎に迫っていた。

新八郎は大日坊からもらった護符を差し出すが、ダイモンが杖でその札を払いのけると、吹き飛んだ護符は出現した河童の頭の皿に貼り付く。

すぐに河童の身体が赤くなり、痛え!助けてくれ!と河童が苦しみ出したので、仲間の妖怪たちが助けようと河童の身体に触れると、みんな護符の威力に感電したかの要に一斉に赤くなり苦しみ出す。

妖怪たちは霊気となり、墓場に吹き飛ばされると、そこにあった壺の中に封じ込められ、蓋に護符が貼り付いてしまったので出られなくなる。

殺生や!やっかくええ所やったのに!閉じ込めるとは!と油すましたちは、中から何とか蓋を押し上げようとするが開かなかった。

代官所では、刀を杖で弾き飛ばされた新八郎が兵庫に追いつめられていた。

兵庫が杖を振りかぶって来たのを避けながら、腰に付けていた弓に気付いた新八郎は、とっさにそれを射て、兵庫の右目に屋が突き刺さる。

苦しんだ兵庫はダイモンの本性を現す。

庭先に強風が吹き荒れ、倒れ込んだダイモンは兵庫の姿に変化する。

一方、墓場の壺の中では、河童が、ああ情けない事になっちまったな…としょげていた。

その時、雲外鏡の腹に、兵庫の身体からダイモンが分離する映像が映ったので、あっダイモンだ!おい!ダイモンがやられたぞ!と、映像を見た河童が仲間たちに知らせる。

代官所の庭に倒れた兵庫の遺体に、お父様!と駆け寄った千絵は、新八郎、お前の言う通りでした…、これでみんなが安心して暮らせるようになるでしょう…、父に代わって礼を言いますと頭を下げる。

壺の中の雲外鏡の腹の映像で、まだ生きている左平次の姿を見たろくろっ首は、いけんがね、あの2人はダイモンが死んだと思うちょるよ、抜け出した事を知らせちゃらにゃ…と焦る。

そうだ!分身の用人を残して置くからには奴はきっと戻って来るぞ!と河童が指摘する。

しかし、こんな所に閉じ込められとっちゃ知らせる方法もなか!とのっぺらぼうが嘆く。 弱ったなあ〜、どうしようと青坊主が言うと、河童も頭をひねる。

山の中の街道を近づいて来た駕篭に、仲間数名と近寄った左平次は、停まった駕篭の横に跪くと、拙者側用人を勤めまする川野佐平次、大館伊織殿をお迎えに参りましたと籠の中から顔を見せた新任の代官大館伊織(大川修)に告げる。

伊織じゃ、若年もの故、何かと面倒をかけるであろうが宜しく頼むぞと言葉を返して来る。

はっ!と左平次が畏まった瞬間、一転にわかにかき曇り、雷鳴が轟いたので、お付きの者達は動揺する。

落雷で木が避け、嵐のような突風が巻き起こったので、お付きの者達がうろたえている中、籠の中の伊織の背後に出現したのはダイモンだった。 伊織の肩をつかんだダイモンは、振り返って驚愕した伊織の首筋に噛み付く。

すると、黒くなっていた空が元の青空に戻ったので、起き上がった音もの者達は、伊織が右目から出血して手で押さえているのに気付き、殿!どうなさいました!と駆け寄って来るが、当の伊織は、騒ぎ立てる程の事ではない!先を急げ!と命じる。

その時、左平次が、殿!これを!と言いながら眼帯を差し出し、それを受け取った伊織が右目に巻いているのを見るとにやりと笑う。

眼帯を付けた伊織も満足そうに頷き、駕篭は再び出立する。

その頃、墓場では、後に残っていた傘お化けと二面女が、皆はどこに行ってしまったんだろう?どこを探しても…と困惑していた。

護符が貼られた壺の横を2人が通り過ぎた時、壺の中から叩く音に気付いた傘お化けが引き返して来て二面女を呼び戻す。

やっと見つけてくれたかい!と壺の中から河童が呼びかけると、この中に入るの?と二面女が問いかける。

二面女が蓋に触ろうとすると、触ったらあかん!と油すましが注意したので、思わず手を引っ込めた二面女は、どうしてこんな所に閉じ込められたの?と不思議がる。

そんな事よりまず代官所へ突っ走れ!と油すましが壺の中から声をかけたので、代官所へ?と二面女は聞き返す。

真山新八郎と言うお侍はんにな、ダイモンがまだ生きているさかい油断するなと伝えるんや!と油すましは命じ、そうしてな、その人にここまで来てもろうて壺に貼り付いているお札を取っちもろうてくれ!そうすりゃ、万事解決たい!急げ!とのっぺらぼうも頼むので、あいよ!と答えた二面女は立ち去る。

伊豆代官所に伊織たちの駕篭が到着する。 門の前で待ち受けていた役人たちの前で駕篭を降ろさせた伊織は、真山新八郎とはそなただな?と駕篭の中から声をかける。

はっ!と答えた新八郎だったが、いきなり、召し捕れ!と伊織は命じる。

何故のお召し捕りにございまするか!と左平次らに捕えられ驚いた新八郎が聞くと、磯部兵庫殿を殺害せし罪だ!と伊織は言う。

代官殿を手にかけたるは奇怪なる妖怪の仕業!と言い訳しかけた新八郎だったが、黙れ!左様な戯言に惑わされる伊織だと思うのか!と怒鳴りつけ、左平次、それ!と命じる。

その時、お待ちくださいませ!と駆け寄って来たのは千絵だった。

大館様、父の死は確かに妖怪の仕業、私もこの目で恐ろしさを見ました!と伊織の前にかしずき訴える。

しかし伊織は、あなたまでが何を申される、千絵殿、この世に妖怪等おろうはずがない!途方もない事を申すな!と言い返す。

そして、新八郎を見て、死罪を申し付ける!と伊織が言い出したので、それを聞いた千絵は、ええっ!と驚愕し、大館様!と声をかけるが、伊織は、左平次、引っ立てい!と命じる。

駕篭がそのまま屋敷内に入って行くので、新八郎は、殿!まこと妖怪の仕業!殿!と訴えるが、黙れ!鎮まれ!と左平次に連れて行かれる。

それをなす術もなく見送る千絵… そんな代官所の庭先に潜んでいた二面女は傘お化けに、どうしよう?相手がダイモンでは…、そうよ、私たちの手には負えないわ…、良い方法がないかしら?と話し合う。

まだ庭に残っていた千絵は、突然出現した傘お化けと二面女に驚くが、私たちは悪いお化けじゃないのよ、仲間を助けてくれたら、私たちもみんなで新八郎さんを助け出そうじゃないかと二面女が話しかける。

新八郎を?と千絵は応答し、伊織と言う新任の代官はお化けのダイモンなんだよ、あなたのお父さんを殺した奴だよ!と二面女が教えると、千絵は、それじゃあ、まだ生きていたの!あの恐ろしいと怯える。

分かったら早く!と千絵に近づいた二面女は、ぐずぐずしてると新八郎さんが処刑されてしまうよと説得し、代官所から千絵を連れ出す。 墓場に千絵を連れて来た二面女は、その壺についているお札を剥がしておくれと頼む。

お札を?と不思議がった千絵だったが、言われるがままに護符を剥がし、壺の蓋を開けると、中から霊気が飛び出して来て、良かった、良かった!ほっとした!などと言いながら周辺に妖怪たちが姿を現す。

新八郎はんは?と傘お化けに聞いた油すましは、事情を聞き、何やて!やっぱりダイモンめ…、そんな汚い手を使うてきやがったんか…と考え込む。 その時河童が、おいみんな、壺から出してもらったご恩がある。

このまま引き下がらねえぞと言い出す。

そうだ!今戦わんと、日本中の人間がダイモンに血を吸われてしまうたい!第一、あんな奴をのさばらせといちゃ、日本妖怪の名折たい!とのっぺらぼうも賛同する。

しかしどうやって?奴は不死身だぞ…と青坊主が油すましに聞く。

すると油すましは、いや、奴にも弱い所がある!新八郎はんが教えてくれたやないか!目や、目!と言い出す。

目?と妖怪たちは驚く。 怖いのは色んな魔力を秘めている杓の内や!あれを封じて、奴の残る左目を潰したらきっと勝てる!と油すましが言うと、そうか!それじゃあ、全国の仲間を集めよう!一丸となって当たるんだ!と雲外鏡が提案する。

良し、それ!と油すましや河童も賛成する。

しかし、代官屋敷にいた伊織が、魔法の杖を取り出して振ると、走っていた二面女が動きを封じられ、空中に浮かび上がる。

それに気付いた河童は、畜生!と悔しがる。

座敷で酒を飲んでいた伊織の部屋の障子が音もなく開き、二面女が出現する。

立ち上がった伊織が掴んで来たので、一体どうするつもりなんだい?と二面女が聞くと、そんな怖い顔するなと化け物の顔を裏返し、美女の方を向けると、飲め!と盃を取り出したので、誰がお前なんかの!と二面女は拒否するが、聞かぬと二度とこの世に出られなくなるぞと伊織は脅す。

何言ってるんだい!あたいだって妖怪だよ?妖怪は不死身さと二面女は強がるが、ふん!俺がその気になれば、不死身でおれる奴はいない!と伊織は言い放ち杖を取り出す。

その時、障子を破って部屋に入って来たのが河童で、この野郎!やいやいやい!待ちやがれ!と伊織の前に立ちふさがる。

すると伊織は、来たか河童…、性懲りのない奴めと伊織が凄むと、何を言ってやがるんでえ!それはお前の方だい!二度の悪いことが出来ないよう、日本の妖怪の底力を見せてやらあ!さあ、表に出ろい!と槍を持った河童は気丈にも言い返す。

良し!仲良くくたばれ!と伊織が言うと、杖の先から炎が噴出する。

しかし河童は、二度とその手に乗るけえ!と言いながら槍を投げつけるが、杖で交わした伊織は、それだけじゃないぞ!と、さらに炎を噴出したので、熱いじゃねえか!と河童はうろたえる。

その時、二面女が障子を開け、外に向かって指笛を吹く。

熱さに堪え兼ねた河童が瞬間移動で庭の池に飛び込むと、炎が座敷から庭先に広がって来る。

池の表面にも炎が広がり、河童が悲鳴をあげる。 畜生!弔い合戦や!と油すましが叫び、青坊主や雲外鏡らとともに伊織に立ち向かう。

伊織はダイモンの姿に変身していた。 そのダイモンが杖を前に出すと、強風が吹いて来て3匹の妖怪は吹き飛ばされ、塀に叩き付けられる。

倒れた3匹にダイモンの杖から吹き出した炎が迫る。

ダイモンが両手で杖を握りしめると、ダイモンの分身が何匹も出現する。

その間も二面女は指笛を吹き続けていた。 その音を目指し、大量の妖怪たちが百鬼夜行のように更新してやって来る。

何体ものダイモンは炎と風で打ち倒そうとするが、次々にやって来る妖怪に防戦一方になる。

その時、油すましが、自分の杖でダイモンの左目を点くが、まだダイモンの分身は笛ていたので、目が急所じゃなかったと?とのっぺらぼうが聞くが、そんなはずない!と油すましも狼狽する。

妖怪軍団とダイモンの戦いはまだ続いていた。

何だ、お前らしくないぞ!と青坊主が声をかけて来たので、そやかて…と油すましは弱気になる。

分身を攻めるからいかんのだ、本当のダイモンお目を攻めれば必ず勝つ!と青坊主は励ます。

しかし青坊主、どうやって本物を?みんなそっくりで区別がつかんぞと雲外鏡が聞くと、油すましが雲外鏡の手を取って、ダイモンに近づくので、どうするんだ?と雲外鏡は狼狽する。

おかしいな?と呟いた油すましは、又別のダイモンの側に雲外鏡を連れて行くと、雲外鏡の腹にダイモンの姿が写ったので、あっ、こいつや!こいつが本物や!と油すましは本物を見極める。

雲外鏡も、あいつだ!と皆に知らせると、その本物のダイモンは一気に巨大化する。

そして、二面女を捕まえてしまう。

二面女が手の中で消えると、次は青坊主が捕まる。

傘お化けの足に捕まった油すましが、おじさん、頼むぜ!と烏天狗に頼むと、烏天狗が大内輪を扇いで風を起こす。

その風に乗って、傘お化けが空中に浮き上がる。 その足に掴まっていた油すましは、ダイモンの顔の所まで上がって行く。

ダイモンの足下では他の妖怪たちが総出で足を攻撃していた。

それにダイモンが気を取られていた隙に、油すましと、空を飛べる妖怪2体が一斉に杖をダイモンの左目に投げつけ突き立てる。

複数の分身ダイモンたちは苦しがり、1体残った本物のダイモンは元の大きさに戻っており、メガ見えなくなったのでヨロヨロと歩き、やがて池の中に沈んで行く。

池には赤い血の色が浮かび上がる。

その時、おい、ダイモンが逃げて行くぞ!あっ、逃げて行くと妖怪たちが騒ぎ出した中、ダイモンは池から浮かび上がって行く。

俺たちが勝ったんや!日本の妖怪が勝ったんやど!と油すましが叫ぶ。

その後、あの野郎、酷え目に遭わせやがって…とぼやきながら、池から這い上がって来たのは河童だった。

仲間たちが手を貸し引き上げた河童の姿を見た油すましは、おお、お前、無事やったか!と手を取って喜ぶ。

河童は、くたばってたまるもんけえ!と強がりを言う。

その時、鐘の音が聞こえたので、さあ引き上げよう!と油すましが号令をかける。

その言葉に従うように、妖怪たちは全員姿を消してしまう。

夜が明け、庭には左平次と伊織の死体が転がっていた。

そこにやって来た千絵は、新八郎!勝ったのよ、日本の妖怪が勝ったのよとうれしそうに語りかける。

きっと追い払ってくれたんだわ!と言う千絵に頷いた新八郎、二度と戻って来る事はないでしょうと朝日を見ながら答える。

朝霧の中、山の奥の方へ行進して行く妖怪たち。

空には2つの人魂が浮かび、すぐに消えてしまう。


 


 

 

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