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東海道お化け道中

大映の「妖怪三部作」の最終作。

一見、最初の方から幼女が出て来るので「昭和ガメラ」シリーズ後期同様幼児向けか?とも思えるが、全体としては妖異ものの形を借りた股旅物だと思う。

妖異の部分は付け足し程度で、大半は子連れの道中股旅ものと言った雰囲気だからだ。

「大魔神」や「妖怪百物語」等同様、大映京都作品なので、どちらかと言えば大人向けの作りで、いかにも子供騙し風の作りにはなってない。

ただ大映の経営が傾いていた時代の作品だけに、初期の頃に比べ低予算になっており、派手な見せ場に乏しく、後半は古典的なお涙頂戴パターンだし、最初に妖怪が出て来るのも開始後30分近く経った所なので、同時上映だった「ガメラ対大悪獣ギロン」目当てに来た子供の目からすると全体的に退屈だったのではないかと言う気もする。

妖怪も着ぐるみの状態が悪かったのか、はっきり映るものは少なく、大半はシルエットでごまかしているので見応えはないし、いくら親を思う子供心とは言え、幼女が丁半博打をやる描写に関しても若干抵抗がないでもない。

それなりにシリアスなタッチで描いている内容であり、ユーモア描写などではないからだ。

それでも逃げる幼女と追いかけるヤクザと言う単純なサスペンスはそれなりにハラハラさせるし、大人の目からすると、いたいけな少女の事が愛おしく描かれている。

大映出身ではない戸浦六宏さんがこの種の映画に出ているのが珍しいが、重要な役所になっている。

このシリーズお馴染みのお笑いの人だが、今回もちゃんと島田洋介、今喜多代コンビが出ている。

この当時は伊達岳志名義になっていたらしい伊達三郎さんも後半に出番が増えており、ベテランらしく芝居は巧い。

人気子役だった保積ペペさんは、もうかなりお兄ちゃんになっているのも見所。

妖怪物を期待して見るとやや物足りない感じがしないでもないが、普通の因果物の映画として見るとそれなりにまとまっていると感じる。
▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼
1969年、大映、吉田哲郎+浅井昭三郎脚本 、安田公義+黒田義之監督

人気のない森の中、しめ縄が巻いてあるご神木らしき大木に女の笑い声が重なり、タイトル

霧深い森の中を背景にキャスト、スタッフロール ご神木の根元の祠の前で祈祷を唱える老人 そこにやって来て、よ、父っつぁん、おめえさん、いつまでここで拝んでるんだね?と聞いて来たのは、旅姿の五郎吉(上野山功一)だった。

何故じゃ?と老人甚兵衛(左卜全)が聞き消すと、俺っちゃここで人を待ってるんだ、済んだら帰った方が良いぜと五郎吉が言う。

ご祈祷がまだ済まんでよと甚兵衛が答えると、五郎吉の背後にいた親分らしき男火車の勘蔵(山路義人)が詰め寄ろうとするが、そこに、親分!と別の子分の紋太(山本一郎)が駆け寄って来て、もうじきやってきますぜと伝えたので、勘蔵は良し!と答える。

どうします?あのオヤジは?と五郎吉が聞いて来たので、構うことねえ!と勘蔵は受け流し、おい、抜かるんじゃねえぞ!と子分丑松(伊達岳志)と連れていた浪人俵権九郎(五味龍太郎)に声をかける。

その時、待ちなせえ、おめえさんたち、人を待ち伏せていなさんだな?と甚兵衛が声をかけて来たので、だからよお、とばっちりを受けねえうちに、早く行けってんだよと五郎吉がうるさそうに手を払ってみせる。

すると甚兵衛は、いかん、ここで殺生はいかん。

ここで血を流したら、恐ろしい祟りに遭う…と言い出したので、何を言いやがる!脅かしやがって!と仁兵衛が言い返すと、嘘じゃない、わしはこの鬼塚の塚守じゃと甚兵衛は教える。

戒めを破った者は必ず鬼塚の霊がつきまとい身を滅ぼすと甚兵衛は言う。

まして今宵は年に一度の深淵はおろか、遠い深山幽谷沼沢野原に住む妖異があの鬼塚に集まる事になっている。

この鬼塚は古くから日本中の妖異の住処に繋がっていると伝えられている霊地なのじゃと甚兵衛は言う。

命が惜しかったら夜迷いごとを言ってねえでとっとと消えろ!と勘蔵が凄むと、親分、そろそろ来ますぜ!と丑松が声をかける。

そんな勘蔵に、止めろ!と甚兵衛が止めに来たので、勘蔵はうるせえ!と突き飛ばす。

そこに、宮守の仁兵衛(玉置一恵)がやって来たので、待ってたぜ!と勘蔵が声をかけた所に、又、甚兵衛が止めろと止めに来たので、うるせえな!と言うなり、勘蔵は一太刀で斬って棄てる。

何をしやがる!罪もねえ人を!とそれを見た仁兵衛が文句を言うと、邪魔をさらすからだと勘蔵は答え、やい仁兵衛!てめえの懐の中にある書き付け、俺にとっちゃ命取りになる。

渡して貰いてえんだと言うので、何を言いやがる!てめえがどんなあこぎな真似をしてるか証拠の品だ!と仁兵衛が言うので、叩き斬れ!と勘蔵は子分たちに命じる。

仁兵衛の子分の長助(暁新二郎)は権九郎に斬られ、仁兵衛も権九郎に追いつめられるが、その時勘蔵は、まだ死に切れていなかった甚兵衛がしがみついて来て、必ず恐ろしい祟りに遭われるぞと言って来たので、もう一度刀を振りかぶるが、その時、仁兵衛の悲鳴が聞こえたので見やると、既に子分たちから斬られていた仁兵衛が近づいて来たので、勘蔵が一太刀浴びせ、丑松と五郎吉がとどめを刺す。

倒れた仁兵衛の懐から五郎吉が取り出した書状を勘蔵が読んで確認していた時、いませんぜ…オヤジ…と紋太が、甚兵衛の倒れていた場所を見て指摘する。

逃げたか…と五郎吉が悔やむと、どうせ長い事はねえ、おい、こいつら谷ん中へ放り込めと勘蔵が命じたそのとき、自分が持っていた書状がふわりと空中に飛び上がったので勘蔵は慌てて追いかけ、やっと掴んだので急いで自分の懐にしまい込む。

そして安堵した顔になると、何をしてやがるんでえ、早くしろ!と急かしたので、丑松がおいと声をかけ、他の子分たちと死体の始末に取りかかる。

沼に2体の遺体を沈めた後、帰る途中で、紋太が、ねえ親分、あのオヤジが言った祟りって本当にあるんでしょうかね?と聞いて来る。

そんなものあるもんか…と苦笑しながら懐から書状を取り出した勘蔵は、見知らぬ紙切れが入っていたので、何だ、これはと丸めて棄て、さらに懐の中を改めて見るが、書き付けがない事に気付き、落したかな?と焦る。

仕方がないので、書き付けを探しながら元いた鬼塚の方に戻って来ると、幼女が書き付けを持っていたので、びくついた紋太が、何でしょうね?と怪しむと、ただの子供だと勘蔵は言う。

書き付けを持ってやがる…と紋太が呟くと、幼女のお美代(古城門昌美)は怖がって後ずさろうとする。

やるんで?と五郎吉が囁きかけると、見てやがったに違いねえ…、それにあの書き付け…と勘蔵は睨む。

危険を感じた用事は山の奥へと逃げ出したので、紋太と五郎吉が後を追う。

しかしお美代は木の間に身を伏せていたので、捜し倦ねた紋太が、おかしいな、消えちまった!と愚痴を言うので、まさか…、どっかに隠れてやがるんだろうと五郎吉は言い返す。

五郎吉たちが一旦離れて行ったので、持っていた書き付けをその場に棄ててお美代は逃げ出すが、その逃げる姿に気付いた五郎吉が紋太に声をかけ後を追おうとしたとき、突然、稲光のような強い光が差し込んだので、五郎吉達は驚いて身を伏せる。

不思議な事にお美代が棄てた書き付けはふわりと空中に浮かんでどこかへ消えてしまう。

家に帰り着いたお美代は、家の中で倒れていた甚兵衛を、おじいちゃん!と揺り起こそうとするが、甚兵衛は、お美代…、おじいの言う事を良く聞くんだぞ。

ここから東海道に出て東へ40里、由比と言う宿がある。 そこに彫辰と言う人がいる。

その家に東八と言う男がいる。

その人を訪ねるんだぞと言うので、何故?とお美代が聞くと、その人がおめえのお父っつぁんなんだと甚兵衛は教える。

お父っちゃん?とお美代が聞くと、おめえにゃ今日まで死んだ事にしていたがな…、これを見せりゃ、親子と…、良いか?お父っちゃんに会えるんだぞ…、忘れるな…、彫辰と言う人の所…と甚兵衛は、2つのサイコロを手渡し言うと息絶える。

おじいちゃん!死んじゃいや!と泣き出したお美代だったが、家の外から、紋太!こっちだ!と声が聞こえて来たので、慌ててサイコロを袋の中に入れ裏口から逃げ出す。

その直後、入り口から入って来た五郎吉と紋太は、甚兵衛がこちらを見ており、そのまま倒れ込んだのを目撃し肝をつぶす。

さっきのオヤジだぜと紋太が言うと、地面に落ちていた玩具を拾った五郎吉が、さっきのガキのだ!と気づき、開いていた裏口の戸を見る。

子供の足だ、まだ遠くへは行くめえと五郎吉は言い、後を追いかける。

その頃、森の中を進んでいた勘蔵に、火車の親分!と声をかけて近づいて来たのは賽吉(戸浦六宏)だった。

首尾は?と聞く賽吉に、バラしだぜと勘蔵は答える。

そうでしたか…、もう1人伊勢に代参に行っている百太郎って厄介な奴がまだ残ってますと賽吉は言う。

道草さえ食わなきゃ、明日頃この藤川の宿ですと賽吉が教えると、おめえが会ったらどうだ?と勘蔵が言い出したので、あっしが?へえ…と賽吉は躊躇する。

首尾よく始末を付けたら仁兵衛の所はおめえに任せても良いぜと勘蔵は言う。

百太郎さえいなけりゃ、仁兵衛一家でおめえに楯突く奴はいねえんだろう?と勘蔵に言われた賽吉は、へえ、ようがす!任していただけるならやりやしょうと答え、賽吉は出かけて行く。

先生、百太郎って奴はめっぽう腕の立つ野郎だと聞いています。

どうせあの野郎もやられるでしょう。

百太郎は先生に御願いしたいんで…と勘蔵が持ちかけると、可哀想に今の男、はしもとは夢だけで終わりか…と権九郎は答える。

その夜、旅籠で寝ていた銭座の百太郎(本郷功次郎)は胸苦しさで苦しんでいた。

うなされて起き上がった百太郎は、獄門首を見た錯覚で怯える。

ちぇ!夢か…と正気に戻ると、枕元の膳の上の徳利から残っていた酒を湯のみに注ぎ飲もうとするが、その酒に真っ赤な血が混じっている事に気付き驚く。

しかし、しばらくすると元の透明な酒に戻ったので、ちっ!まだ酔ってるのかとぼやき、酒を飲み干し横になった百太郎だったが、どこからともなく、百太郎…、百太郎…と自分の名を呼ぶ声が聞こえて来る。

障子を開け、外の様子を伺おうとした百太郎だったが、その時、行灯の灯が点滅し、壁に立てかけておいたお守りがまっ二つに割れたので驚く。

翌日、1人で東海道を歩いていたお美代は、地蔵の所で握り飯を食べていた馬子の新太(保積ペペ)に出くわす。

あの…、由比ってまだ遠いの?とお美代が聞くと、由比ってずうっと遠くだぜと新太が答えたので、黙って通り過ぎようとしたお美代だったが、お前、1人で由比まで行くのかい?と新太は立ち上がって聞く。

うんとお美代が言うので、無理だよそれはと新太は止め、おいらが浜松まで連れてってあげるよと申し出るが、お美代は良いのと断る。

馬が変えるか?と聞くと、ううん、お金が…とお美代が言うので、お前、一文もないのか?と聞くと、うんと言うので、腹減ってるんだろう?飯食ったら連れて行ってやるからと新太は気を利かせ、持っていた握り飯を渡そうとする。

しかしお美代は首を振り逃げて行くので、慌てて追いかけようとした新太だったが、その時、弱っちまったな兄貴…、どこまで追っかけりゃ良いんだいとぼやきながら紋太が五郎吉とやって来る。

このまま帰ってみろよ、親分にどやされるぞと五郎吉は答え、新吉に気付くと、おい、小僧、ここをこんくらいの娘っ子が通んなかったかいと手で背の高さを示しながら聞いて来る。

ううんと新吉が否定すると、おかしいな、さっきの奴は通ったって言ったな、どこ行きやがったんだとぼやき、五郎吉たちは去って行く。

その後、雨宿りしながら、鼻緒の切れた草履を手にしていたお美代は2人の姿が見えたので、慌てて小屋の中に身を隠すが、その場所にやって来た紋太は、弱っちまったな…、娘片付けないで帰る訳行かないし…と軒先でぼやき始める。

それにあの書き付けだ、どうしても取り返さねえ事には…と五郎吉もぼやく。

お美代は、五郎吉の足下に落していた自分の鼻緒の切れた草履を見つからないかと気にするが、小屋の中を覗き込もうとした五郎吉に、兄貴、止んだぜと紋太が声をかけたので、良し行くかと言い、2人は走り去って行く。

しかし、外を覗こうと動いたお美代が、立てかけてあった竹を何本も倒してしまったので、その物音に五郎吉が気付いて振り返る。

小屋の中に入ると、裏口から逃げ出すお美代が見えたので、紋太を先回りさせ、挟み撃ちにしようとする。

結局五郎吉が捕まえ、紋太が書き付け拾ったろう?と手を差し出しながら聞く。 知らない!と言うお美代に、しぶといガキだと言いながら五郎吉がビンタをしていると、何やってんだ!と突然飛び込んで来たのが百太郎だった。

2人を殴りつけ、こっち来な!とお美代を抱き寄せた相手が百太郎だと五郎吉も紋太も気付く。

百太郎は、てめえらの面にも覚えがあるぜ、車一家の御あ兄さんたちだろう?と指摘し、火車一家じゃかどわかしもやるのかい?とからかう。

すると五郎吉は、うるせえ!おめえなんかの出る幕じゃねえ!引っ込んでろ!と凄んで来るが、そうはいかねえ!大の男がこんな小さな子に乱暴働いているのを黙って見過ごす事は出来ねえ!と百太郎は言う。

飛びかかって来た2人だったが、百太郎が刀を抜いて、やるのかい!と挑んで来たので、覚えてやがれ!と捨て台詞を残し逃げて行く。

お美代に近寄った百太郎は、可哀想に…、相当ひでえめに遭わされたんだな…と着物の埃をはたいてやりながら話しかける。

その後、飯屋に連れて来たお美代から話を聞いた百太郎は、それで、お父さんを訪ねて、由比まで行くのかい?と聞く。

惜しい事したな、あの野郎たち、何故お美代ちゃんを追いかけて来たのか泥を吐かせりゃ良かったと言いながら飯を勧める百太郎。

おっ母ちゃんは?と聞くと、私を生んだ後、すぐ死んだんだってとお美代は言うので、表情を曇らせた百太郎は、お父っつぁんの名前は東八として、このサイコロ見せりゃ分かるって訳だな…とお美代が持っていたサイコロを手に取ってみる。

変わったサイだな…と振ってみた百太郎は、もっと食べな、おじさんがお父っつぁんの所まで送ってやるよとお美代に優しく言葉をかける。

それを聞いて驚いたようなお美代に、ずっと飯食ってなかったんだろう?おじちゃんがおごるからと百太郎は言い聞かす。

翌朝、富士を見ながら出発した百太郎は、お美代の足が止まりがちなので、疲れたのかい?と振り返って聞くと、あたいを本当に由比まで連れてってくれる?と言うので、何だ、そんな事を心配してたのか…、夕べも言ったろう?お美代に酷い事した奴らと格好は似てるけど、おじちゃんはあんな奴らとは違う!さ、行こうと手を取ろうとすると、それを振り払ったお美代は、あたしのお父っつあんはおじちゃんみたいな人かしら?とお美代は聞いて来る。

俺みてえ?とんでもない、彫辰さんって人が家にいるんだろう?素晴らしいお父っつぁんに決まってるよ、お美代ちゃんを見たらきっとビックリするぜ!と言い聞かすと、どうして?と聞き返されたので、どうしてって…、お美代ちゃんみたいな可愛い娘なら誰だってビックリすると百太郎は答える。

おじちゃんがお父っつぁんでもビックリする?とお美代が言うので、当たりめえよ、そうよなぁ〜、おじちゃんがお父っつぁんだったら、もう二度と他所にやらねえ、大事にするぜと百太郎は笑顔で答え、どうだい?おじちゃんの子になるかい?と聞く。

お美代は顔を背けたので、やっぱり本当のお父っつぁんの方が良いらしいな?ち百太郎はからかう。

お美代がうんと正直に答えたので、良いよ、おじちゃんが本当のお父っつぁんの所まで送ってやろうと百太郎は笑顔で言い聞かせる。

再出発した百太郎は、通りかかった飴屋から、飴と風車を買ってやる。

その後、お美代の着物も買ってやり旅を続けていた百太郎は、草鞋の紐を結ぶ振りをして、三度笠で顔を隠していた賽吉に出会い、声をかける。

よお、兄貴か!と今気付いた風を装い賽吉が立ち上がったので、何してるんだ、こんな所で?と百太郎が聞くと、親分の言いつけで浜松まで来た帰りだと賽吉は答える。

帰り道か?親分は元気にしてるかい?と百太郎が聞くと、ああと賽吉が答えたので、そうか…、そりゃ良かった…、ちょっと気になる事があってな…と百太郎は言う。

そんな2人の様子を近くから監視していた紋太は、賽吉のやろう、何しゃべくってるんだろう?と気にする。

まさか、てめえの裏切りを百太郎に話もしめえと五郎吉が言うと、そりゃまあそうだ…と紋太も答えるが、歩き出したぞ、おい、とにかく付けるんだと五郎吉は言いながら自分たちも歩き出す。

渡し船に乗り損なった百太郎が悔しがると、お美代は川の方へかけて行ったので、気を付けるんだぜ!と声をかけ、お美代が落して行った傘を拾い上げてやった百太郎に、兄貴、あの子は一体どう言う子なんで?と賽吉が聞いて来る。

身も知らないオヤジを訪ねて由比まで行く可哀想な子だと百太郎が教えると、オヤジ?と賽吉は驚くが、火車の一家があの子を鬼塚からずっと追ってやがる…、何か曰くがありそうだと百太郎が言うと、賽吉は黙り込む。

百太郎が、さらにお美代の傘の付け紐を拾い上げようと屈んだとき、いきなり賽吉が斬り掛かって来たので、それを交わして相手の腕を取った百太郎は、てめえ!何故俺を?言え!と迫る。

その手を振り払い、刀を振り回しながら賽吉は逃げ去るが、その時、おじちゃ〜ん!とお美代が戻って来る。

どうしたの?あのおじちゃん…とお美代が聞くので、何か忘れ物したんだとよとごまかした百太郎は、荷物を拾い上げてお美代に持たせ、渡し船が戻って来たのを見ると、さ、渡ろうとお美代の手を握る。

一方、逃げて来た賽吉を待ち受けていたのは用心棒の俵権九郎だった。

おめえさん、どうしてここに!と賽吉が驚くと、俺は百太郎を知らん、だから、お前に教えてもらおうと思ってな…と権九郎は言う。

おめえさん、一体…と賽吉が言うと、お前さんの手に負える相手ではなさそうだと俵権九郎は答える。

畜生!と悔しがった賽吉だったが、そこに五郎吉が駆けつけたので、おお、あんさん方、火車一家の!と気付く。

どうやら、お前さんと同じ用事が出来ちまったようだ。あの子娘の始末だけだったが、今は百太郎も片付けなきゃならなくなったと五郎吉は告げる。

と言うと?と賽吉が聞くと、あのガキは拾った書き付けを百太郎に見せやがったらしいと五郎吉は言うので、そいつはまずいなと賽吉が答えると、どうでえ?いちょ組まねえか?おめえさんもあの浪人に先を越されたくあるめえ?と五郎吉は焚き付ける。

まずあの小娘を何とかして攫うんだ、娘を盾にすりゃ案外容易く奴を片付ける事が出来らあと紋太も賽吉に言うので、良し、組もう!と賽吉は答える。

旅籠に付いた百太郎は女中に、何か旨えもん作ってくれと頼む。

女中が出て行った後、別の女中がやって来て、百太郎さんですか?同業の方がお会いしたいって、表で待ってるそうですよと伝えに来たので、すぐ帰って来るからなとお美代に言い聞かせ、部屋を後にする。

その隙にお美代のいる部屋に来たのが賽吉で、事情を知らないお美代が、おじちゃん、忘れ物あった?と無邪気に聞くと、さ、行こう、今そこで百太郎のおじさんに会ったら、都合で宿を変わる事になったんで、さ、行こうと賽吉はお美代の手を引いて連れて行こうとする。

荷物は?とお美代が案ずると、後で届けてくれるよと賽吉はごまかし、部屋から連れ出す。 外に出た百太郎が、誰もいないので、おかしいな…と不審がり、すぐに部屋に取って返す。

一方、近くで様子を見ていた紋太は、巧く行ったらしいなと呟き、五郎吉は落ち合う先は浜松だ、行くぞ!と声をかける。

部屋に戻って、お美代がいない事に気付いた百太郎が、通りかかった女中に女の子は?と聞くと、今しがた男の人が連れて行きましたよと言うので、やりやがったな、畜生!と荷物を持って飛び出して行く。

そんな百太郎の前に立ちはだかったのが俵権九郎で、退かねえか!俺は急いでいるんだ!と焦れる百太郎に、死に急いでるのか?俺はお前を斬る!と言うので、斬るだと?誰に頼まれたか知らないが、俺はそんな暇はねえんだ!と百太郎は言い返す。

そんな百太郎に、小娘探しなら無駄だ、賽吉が攫ってさっきここを通って行ったと権九郎は笑いながら教える。

あの野郎…、畜生!てめえもグルだな?と言う百太郎に、いきなり権九郎が斬りかかって来る。

側にあった荷車を巧みに使いその刃をよけた百太郎は、この刀は賽吉を倒した後の楽しみに残しといてやらあ!と捨て台詞を残し立ち去って行く。

森の中で賽吉の手を振りほどき逃げようとしたお美代だったが、すぐに転んでしまい、おじちゃ〜ん!と助けを呼ぶ。

すぐに賽吉が追いついて捕まえようとしたとき、鋭い稲光のような光と雷鳴が轟いたので、賽吉も耳を押さえてかがみ込む。

気がつくと、一面にわかに暗くなったので、お美代を背負って歩き始めた賽吉だったが、おかしいな…、さっきから同じ所ばかり歩いているみたいだな…と警戒する。

その内、賽吉の歩き方がおかしくなったので、お美代がどうしたの?おじちゃんと聞くと、何だか知らないが、やけに重くなりやがった…と賽吉は愚痴る。

するとお美代が、もっと重くなるわよと不思議な事を言い出す。

気にせずさらに歩き回っていた賽吉は、妙だな、まるで石でもおぶってるみてえだと息を荒げる。

すると、浜松なら右だよ…と背中のお美代が教えたので、おめえ、どうして知ってるんだ?何故だ!と賽吉が聞くと、行きゃ分かるよとお美代は答える。

言われるまま右へ向かおうとした賽吉の前に、枝に巻き付いた蛇が落ちて来る。

すると背中のお美代が、急ぐとくたびれるよと忠告して来たので、黙ってろい!と叱りつけた賽吉だったが、目の前に、今背負っているお美代が経っているのが見えたので立ちすくむ。

どうしたの?と背中のお美代が聞くので、良く目を凝らすと目の前のお美代は消えていたので、何だ、気の迷いか…と賽吉が呟くと、そうじゃないよ!と背中から語りかけたのは、白髪の老婆だったので賽吉は仰天して振り放そうとする。

気がつくと、大きな蛇を首から巻いた白髪の老婆蛇骨婆(石井喜美子)は目の前に立っており、逃げようとした賽吉のからだを金縛りにすると、愚か者め、その邪な心を棄てろ!さもないとお前をはっかんはちれつの地獄へたたき落としてくれるぞ! この東海道の宿場宿場、我ら一族がある事を忘れるな!と蛇骨婆は身体が思うように動かない賽吉に告げる。

何とか刀を抜いて斬り掛かろうとした賽吉だった。

我が一族がある事を忘れるなと言いながら、蛇骨婆は笑い声とともに消えてしまう。

そして、又稲光が怒り強風が吹いて来たので、賽吉は狂ったように刀を振り回すが、やがて堪え兼ねて地面に身を伏せてしまう。

気がついた賽吉は、怯えてそのまま森から逃げ出してしまう。

その後、蛇骨婆の同類たちが数名姿を現し、賽吉を見送る。 一方、お美代はサイコロの入った袋を右手に握りしめ気絶していた。

気がついたお美代は立ち上がると、森の中を見回し、百太郎のおじちゃ〜ん!と呼びかける。

富士山を背に浜松宿の道標 宿場では、紋太が、遅いな〜、あの野郎、何してやがるんだろうと、五郎吉と共にいつまでもやって来ない賽吉を探していた。

関取、つかぬ事を尋ねるがな、旅姿のこのくらいの娘見なかったかな?と五郎吉が、木の根元に座っていた関取島の洋(島田洋介)に聞くと、このくらいのちっちゃい子か?その娘ならと言い、まさか百太郎じゃないだろうな?と紋太が案じると、百太郎?違う、1人だと関取は答える。

島の洋は、飯屋にやって来ると、小さい女に近づき、お前さんに用があると言う人を連れて来たと告げるが、その女はお喜多(今喜多代)と言うれっきとした大人だった。

誰かしら?と女が立ち上がって周囲を見渡すが、立ってみれば良いじゃろうなどと島の洋が言うので、バカ!これで立ってるんだよ!とお喜多は怒り出す。

おいおいこれかい?と五郎吉は呆れ、俺たちは小娘を捜しているんだ!こんなひねたんじゃねえんだ!と紋太も文句を言う。

それを聞いたお喜多は、ひねたんって何だよ!こう見えたってれっきとした娘だよ!江戸日本橋の大和屋と言えば江戸一番の米問屋だ!と怒り出す。

それを聞いた島の洋が、そこの娘さんかい?と聞くと、娘だなんて…、女中だよとお喜多は照れるので、そうだろう、江戸一番がこんな所で丼飯食うはずないものと島の洋は納得する。

じゃあ、これとは違うんですかい?と島の洋が五郎吉たちに聞くと、ちょいと!これとは何よ!人の荷物じゃないんだよ!と又お喜多は怒り出す。 大違えだ、こっちが探しているのは7つくれえの小娘だと五郎吉は教える。

7つか…、背格好はちょうど7つくらいだったがな〜と島の洋が詫びると、畜生!と興奮したお喜多が五郎吉たちに飛びかかろうとして、身をかわされたのでそのまま表に飛び出し、瀬戸物の中に飛び込んでしまう。

大丈夫か?と島の洋は案ずるが、五郎吉たちはさっさと店を出て行ってしまう。

その店で飯を食べていたのが新太で、あいつら、まだあの子を追っかけているのかな?と心配する。

額に軟膏を貼ったお喜多に、勘弁してくれや、人間誰しも思い違いと言うのはあるもんじゃと島の洋は詫びていた。

何が思い違いよ!退いてよ!とお喜多が怒りながら立ち去ろうとするが、島の洋が襟首を掴んで引き戻そうとするので、ああ面倒くさいと言いながら、お喜多は島の洋の股の間を潜って立ち去りかけるが、そんなお喜多はやって来たお美代を見て、可愛いわね、ちょっとお出でと誘い、ちょっと、7つと言ったらこの子くらいだよ、ちょっと比べてごらん!と島の洋に文句を言いに戻って来る。

見比べてみた島の洋は、するとあんたが7つのときはこの子の半分くらいだったのか?と聞いて来たので、何を!いっぺん血みどろの喧嘩しようか!とお喜多はむきになる。

分かった、分かったとお喜多の首根っこを押さえながら、島の洋があんた、いくつだ?と聞くと、お美代は7つと答えたので、あんた、誰か探してへんか?と島の洋は聞く。

何か言う取ったわ、1でなし2でなし3でなし…と島の洋が数え出すと、ろくでなし!とお喜多が口をだし、そうろくでなし…と乗りかけた島の洋は、違う…、百…、そうだ、あんた百太郎と言う人を知らんか?と聞いたので、お美代は百太郎のおじちゃん?とうれしそうに答える。

知ってるか!と喜んだ島の洋は、どこにいるのおじちゃん?とお美代が聞くと、じゃあ、何かい?私、この子と間違われたの?そんなに私って可愛いかしらとお喜多が照れ始めたので、思わず吹き出した島の洋は、まだあの辺にいるじゃろう、連れて行ってあげるわとお美代に話しかける。

そこに、お前、やっぱりいたのか?と近づいて来たのが新太で、お喜多が、あんた知り合い?と聞くと、うん、俺、親方の使いで藤枝まで言った帰りだから…、うん、1日くらい遅れたってどうってことないや、俺がこの子を家まで送ってやらあと新吉は言う。

この子には大人の連れが2人もいるんじゃと島の洋が言うと、いけねえよ、そんな奴!と答えた新太は、お美代に、お前、三度笠の男を見て逃げ出しただろう?あいつらお前を捜しているんだ、あいつら悪者だろう?と聞く。

うんとお美代が頷いたので、ちょいお前さん、その人たちからいくらかもらったのかい!とお喜多が島の洋に嫌みを言う。

とんでもない、金なんぞ…と否定した島の洋は、そうか…、危ない所だった〜とお美代に笑いかける。

さ、おいらと行こうと新太がお美代の手を引いて行こうとすると、ちょいとお待ち!と止めたお喜多が、ドンガラは大きくてもこんな頼りないのがいるかと思うと、お前さんみたいに小柄でも役に立つんだと島の洋と新太を比較して褒める。

ちょっと!この子たちに餞別をやってみる気になってみないかいとお喜多から言われた島の洋は、今そう思ってたんだと言う。

じゃあ、お出し!とお喜多が命じると、懐に手を入れた島の洋の懐から、何をぐずぐずしてるんだいと巾着袋を取り上げたお喜多は、やけに深い巾着袋の中に手を突っ込み、何だい、これだけかいと小銭を取り出して呆れると、外身は大きいけど、中味はお前さんと同じだねと島の洋をからかう。

島の洋は、すまん!と首をすくめ、お喜多は、ふんと鼻で笑う。

宿場を出て街道を歩いているうちに茶店の前にやって来た新太は、お前、おなか空いてるんだろう?と聞き、お美代がうんと頷いたので、よ〜しと張り切り、中に入ろうとするが、そこで酒を飲んでいた五郎吉と紋太を見つけ、いけね!と叫んで逃げ出す。

店の中でそれに気付いた五郎吉たちも慌てて後を追いかける。

新太とお美代は、樽や瓶が置いてある場所へ逃げて来るが、壺の中に入り込む暇もなく、五郎吉たちが迫って来たので、慌てて瓶の後ろに身を伏せる。

駆けつけて来た五郎八は、三つの壺が伏せてあるのに気付き、どれだと思う?と紋太に聞き、1つずつ転がしてみせる、中には誰も隠れていなかった。

その直後、伏せた桶が動いているのを発見した五郎八は、静かに近づき、紋太が捕まえようとすると、凄いスピードで逃げ出したので、慌てて2人は追いかけ回す。

ようやく桶を捕まえた紋太が、用心深く桶の下から手を差し込むと、中にいた犬に噛まれて、桶はそのまま逃げて行ってしまう。 その隙に、新太とお美代は逃げ出すが、五郎吉が気付いて後を追って来る。

近くの森の中に逃げて来た新太だったが、前から紋太がやって来たのに気付くと、挟み撃ちされたと気づき、持っていた鉈を棄てたので、どうして棄てるの?とお美代が聞くが、良いんだと言って、新太はお美代の手を引いて森の中へ逃げる。

そこは「八つ墓」と書かれた石塚が立っていた。

五郎吉と合流した紋太も森の中に入り込み、すぐに新太とお美代に追いつく。

待て!世話を焼かせやがって、このガキは!と五郎吉は迫り、おめえは何だ?と新太に聞くと、おいらがこの子を由比まで連れて行ってやるんだと新太は答え、早くドスを捨てろ、棄てないと大変な事になるぞと言い出す。

どう言う事だ?と五郎吉が聞くと、この八つ墓山には刃物を持って入ると罰が当たるんだと新太が教える。

すると紋太が笑い出し、小僧!そんな浅知恵でだまされると思ってるのか!と笑いながらバカにする。

嘘じゃない、林の入り口の立て札にちゃんと書いてあるんだ。早く棄てないと御山の主が怒り出すぞ!と新太は忠告するが、いい加減な事言いやがって!と五郎吉は刀を抜くと、やい小僧、その子をこっちに渡せ!さもねえとお前の命を…と迫る。

すると突然強風が吹いて来て、五郎八が刀を振り上げようとすると、どこからともなく土が落ちて来て紋太と五郎吉にぶつかる。

その隙に逃げ出した新太とお美代だったが、すぐに追いついて来た五郎吉が、このガキ!と刀を振りかぶり、お兄ちゃん!とお美代が新太にしがみつく。

その時、五郎吉は刀を持った手を誰かに掴まれた事に気付き振り返ると、人間の物とは思えない長い手が掴んでいた。

紋太も怯え、次々に伸びて来る手を斬り落して行くが、落ちた手はすぐに木の枝に変化する。

気がつくと、五郎吉たちの周囲には普通の木が生い茂っているだけで、いつの間にか子供たちの姿も消えていた。

やがて、頭上から木の葉が次々に落ちて来たので紋太は怯え、兄貴、祟りじゃないかなと言うので、バカ!そんなことがあるもんけ!と五郎吉は否定する。 その時紋太が何かを見つける。

それは頭の大きな老人のような妖怪だった。 驚いて逃げ出した2人は壊れかけた門のような所に迷い込む。

やがて、その門の所に怪しげな物の怪たちが集まって来る。 霧が濃くなった中、五郎吉は、何か大きな影が背後にいるのに気づき、お引けえなすって!と仁義を切り出す。 その様子を、近くにいた新太とお美代は木の陰から見ていた。

あんな所で仁義切ってる!と新太が驚くと、仁義って?とお美代が聞いて来たので、挨拶みたいなものと教える。

早速お引けえなすってありがとうござんす!と五郎吉と紋太が、刀を背中に回し仁義を切っていた相手は墓の石碑だった。

その墓は、一つ目の大きな妖怪土ころびに変化すると、行けと言うように新太たちに手を振ってみせる。

新太たちが逃げ出すと、物音に気付いた五郎吉たちは、ごめんなすって!と土ころびに挨拶して立ち去って行く。

木の陰に隠れてしゃがみ込んだ新太たちだったが、すぐに追いついた五郎吉たちが回り込み、しぶといガキだ、面上げろ!とお兄ちゃん怖い!と叫ぶお美代と紋太の首根っこを掴んで振り向かせようとすると、振り返った2人の顔はのっぺらぼうになっていたので、紋太たちはすくみ上がる。

その時、笑い声に気付いて振り返った紋太たちが見たのは、八つの墓の石碑が変化した妖異たちだった。

五郎吉と紋太は肝をつぶし、刀を振り回して妖異を蹴散らそうとするが、刃は空を切るだけだった。

2人は刀を棄て、そん所場に倒れてしまう。

生きて帰せぬお前たちじゃが、一度だけは許してやる。

早々にこの場から立ち去るが良い!と言う山の主の声が聞こえ、その後は笑い声が響く。

新太はお美代を連れ、頑張れ!ここを過ぎれば家だ!と励ましていた。

その頃、森の外を歩いていた百太郎は、偶然、やって来た賽吉と出会いつかみ掛かると、お美代ちゃんをどこにやったんだ、どこへやったんだ!と迫る。

知らねえ!と答えた賽吉に、俺をやろうとしたのも何か曰くがあるんだろう!吐け!と百太郎は襟元を締め上げる。

その時、おめえを仁兵衛の所へ送るためさと背後から声をかけて来たのは用心棒の権九郎だった。

何だと?と百太郎が聞くと、しゃべるな!と賽吉が止めるが、心配ねえ!三途の川で行き先を迷わねえように教えてやるんだと権九郎は答える。

おめえの親分の仁兵衛はな、火車の勘蔵があの世に送り込んだと言うので、何だって!と百太郎が驚くと、その男の手引きでなと権九郎は打ち明ける。

てめえ!と賽吉の首を絞めた百太郎は、旅籠でいつか、酒が血の色に染まったときの事を思い出す。

その時、賽吉が手を振り切って逃げ出し、権九郎が斬り掛かって来たので、刀を抜いて交わした百太郎は、てめえなんかの相手している場合じゃないんだ!どうでもやらなきゃ行けねえ用事があるんだ、そいつが終わったら必ず行くから、勘蔵にそう言っとけ!と言い残し、百太郎はその場を立ち去る。

由比宿に着いたお美代は、茶店で団子を食べていた。 そこに戻って来た新吉は、お美代ちゃん!分かったよ!彫辰さんの家はその道を入ったらすぐそこだって、早く行こう!お父っつぁんの家はすぐそこだよと教える。

一緒に茶店を出ようとした所にやって来たのが賽吉だったので、いけねえ!と叫んだ新吉は、又お美代の手を引いて逃げ出す。

賽吉もその後を追って行き、すぐに追いついて、新吉を突き飛ばし、お美代を抱きかかえると、どうしても助けたきゃ、百太郎って奴を探して言えと賽吉は言う。

百太郎?と新吉が聞くと、おっつけこの宿に来る俺の同僚だ。

取り戻したければ、火車の親分の所に来いってな!と言い残し、賽吉はお美代を連れ立ち去って行く。

新吉は野次馬たちをかき分け掘辰の家に向かう。

訪ねて来た百太郎からお美代の事を聞かれた欄間職人の彫辰(水原浩一)は、いや、来ないよと答えていた。

じゃ、東八って人は?と百太郎が聞くと、東八?ああ、あれは7年前にここを出て行ったと彫辰は教える。

で、今どこに?と百太郎が聞くと、風の噂で聞いたんだが、何でもヤクザに成り下がって…、いや、どうも、これはすまねえ…と彫辰は百太郎の姿を見て詫びて来たので、いや、良いんだと百太郎は受け流す。

で、どこだい?と百太郎は賽吉の行方を聞くが、さあね〜と掘辰は知らないようだった。

そうですかい…、同業なら何とか手を回して探すさと百太郎が言うと、腕は良いんだが、博打が飯より好きでね、子供が生まれたときも、産後の肥立ちが悪くて女房が死んだときも博打場に入り浸りで帰って来なかったんだ。

で、可愛い孫を任しちゃ置けねえと、死んだ女房の親父さんがまだ名前もつけてねえ女の子を引き取って行ったんだ…と、百太郎に茶を出しながら彫辰は打ち明ける。 そのすぐ後だったな〜…、あいつがここを飛び出して行ったのは…と彫辰は続ける。

親方、厄介な事を頼むが、そのお美代って女の子がここに訪ねて来たら、何にも言わずに預かっといておくんなせいと百太郎は頼む。

良いとも、するとその時生まれた子供かい?その子は…と彫辰が聞くと、ええ、じゃあ、お願え致しますと挨拶し、百太郎は辞去する。

その時、入り口で百太郎とぶつかり、おじさん!東八って言う人いるかい?と言いながら飛び込んで来たのが新太だった。

今もこの人が訪ねて来たばかりだと、入り口の所で新太の言動を気にして立ち止まっていた百太郎を指しながら彫辰が教えると、ええ?と振り返った新太は、ひょっとしたらおじさんが百太郎さんじゃ?と新太は聞く。

そうだよと百太郎が答えると、お美代ちゃんを助けてくれよ!勘蔵の所に連れて行かれたんだと新太は訴える。

勘蔵の所へ?畜生!と口走った百太郎は外へ飛び出して行く。

その頃、勘蔵の家に、籠に乗せたお美代に随行して来た賽吉は、どうして連れて来たんだ、その子?と聞いて来た丑松に、百太郎を片付けるための人質なんで…と答えると、百太郎?まだ始末付けてねえのかい?と丑松は呆れたように聞く。

途中で出会った五郎吉さんたちの手も借りたんだが手強い野郎で…、だが、この子さえ捕まえときゃこっちのもんだと賽吉は説明する。

奴は必ず取り戻しに来る、そこでこの子を枷に奴の手足を封じて料理すりゃ…と賽吉が言うので、なるほど、良しと納得した丑松は、子分にお美代をどこかへ閉じ込めておけと命じる。

五郎吉さんたちはまだですかい?と賽吉が聞くと、どこほっつき歩いているのか、まだ帰ってねえと丑松が教える。

あの用心棒は帰ってるんですか?と賽吉が聞くと、先生は帰ってるが…、どうして?何かあったのかい…と丑松は、あの野郎…と呟いた賽吉に聞く。

お美代は物置に閉じ込められ見張りが付く。

賽吉から事情を聞いた勘蔵は、先生、何故そんな余計な事まで百太郎にしゃべっちまったんだ?と横で酒を飲んでいた権九郎に聞く。

どうせ地獄へ送る奴だと権九郎答えると、何も仁兵衛をバラした事まで…と勘蔵は愚痴る。

心配するな、奴はどうせ俺が斬るんだ…と権九郎は平然と答える。

そんな権九郎に、その百太郎がここに来ますぜと賽吉が言うと、子供を枷にするなど、そんな小細工をする必要はない。

拙者が土地を用意して片付けて来ると言い、権九郎は立ち上がって部屋を出る。

それを見送った勘蔵は、おい、念のためだ、若い奴も付いて行けと子分に指示する。

親分、あっしはあの小娘を叩いて書き付けをどうしやがったか聞き出してみますと賽吉が申し出ると、ああ、そうしてくれと勘蔵も頼む。

賽吉が部屋を出て行くと、親分、本気であいつに仁兵衛の後を任すつもりですかい?と丑松が勘蔵に聞いて来る。

すると勘蔵は、百太郎が片付けば、次はあいつだと答える。

お美代が閉じ込められていた物置小屋にやって来た賽吉は、見張りに自分が代わろうと言い追出す。

おい、お前、拾った書き付けを棄てたと言ったが、本当は百太郎に渡したんじゃないのか?と賽吉はお美代に迫る。

お美代が首を振ると、本当の事を言わないと痛い目に合うんだぞ!と賽吉が脅すと、お美代は泣き出す。

泣いたってダメだ!それともおめえ、まだ隠して持ってるんじゃねえのか?と賽吉は疑うが、お美代は、本当に棄てちゃったのと答えるので、まだそんなこと言いやがって!やっぱり持ってやがるんだな!と良いながら、お美代の懐から袋を取り出す。

私のもの!と言うお美代を押し倒し、この中か?と聞く賽吉に、違う!とお美代は否定するが、中を覗き込んだ賽吉は仰天する。

おめえ、この賽を誰からもらったんだ?言わねえか!と賽吉が聞くと、おじいちゃん…とお美代が泣きながら答えたので、名前は?おじいちゃんの名前はなんてぇんだ?とさらに聞くと、お美代は甚兵衛…と答える。

それを聞いた賽吉の表情が変わり、入り口の障子を開けて廊下に人がいないか確認すると、大事にしまっとくんだよ、落すんじゃねえよと、サイコロを袋に戻すと、お美代の懐に戻してやり、おめえを逃がしてやると言い出す。

ここを出たら百太郎を探すんだと、急に優しい顔になった賽吉はお美代に言い聞かす。

お美代を連れ、外に逃がそうとした賽吉だったが、賽吉の子分に見つかり、何しようって言うんだ!と迫られたので、賽吉は刀を抜いて子分に襲いかかって来る。

子分は、誰かいないか!と大声を出し、お美代も戻って来て、おじちゃん!と声をかけて来たので、早く逃げるんだ!と叱った賽吉の前に、他の子分も駆けつけて来る。

お美代は路地に置いてあった桶の裏に隠れ、追っ手をやりすごすが、そこへふらふらと帰って来たのが、五郎吉と紋太の2人組だった。

お美代は逃げ出そうとするが、すぐに紋太たちに見つかって捕まってしまう。

一方、縛り上げた賽吉を前に、小娘を何故逃がした?と勘蔵が詰問していた。

言わねええかい!親分が直々聞いてなさるんだぞ!と丑松が叩いて責めると、急に気が変わったんだ、あの子が可哀想になっただけさと賽吉は言い訳する。

この野郎!いい加減な事言いやがって!急に百太郎が怖くなったんだろう!と丑松が嘲ると、そんなんじゃねえ!と賽吉が否定するので、じゃあ、どうして自分で攫って来た小娘を逃がす気になりやがった?と勘蔵は聞く。

だから、可哀想になっただけだと言ってるじゃありませんか!と賽吉は繰り返す。

そこに、五郎吉らに捕まったお美代が連れて来られる。 おじちゃん!と賽吉の側に近づいたお美代に、左目を殴られ痣になった賽吉が頷く。

そんな賽吉に、聞こうじゃないか、てめえが急に心変わりした理由をよと勘蔵は迫る。

言わねえかい!と丑松が蹴ると、また、おじちゃん!とお美代が案じて近づいて来る。

どっちみち、てめえもその娘もただじゃ置かねえ…と勘蔵が言うので、どうするつもりだ!と賽吉が聞くと、それはてめえが良く知っているはずだと勘蔵はキセルをくゆらしながら答える。

俺は覚悟が出来てるが、この子だけは逃がしてやっておくんなせえと賽吉が哀願する。

急にそんな仏心を出しやがった訳を言え!と勘蔵が迫ると、なあ、お前、由比までお父っつぁんを訪ねて行くと言ったな?と五郎吉がお美代に話しかけて来る。

うんとお美代が頷くと、そのお父っつぁんの名前、なんてえんだい?と五郎吉が聞くと、東八とお美代は答える。

東八?おい賽吉、お前、確か昔は東八って言ったんじゃねえか?と五郎吉が確認すると、違う!俺はそんな名じぇねえと賽吉は否定する。

親が初手から賽吉なんて名を付けるはずがねえ、サイコロを巧妙に作るんで賽吉って呼ばれるようになったって聞いてるぜと五郎吉は言う。

おら…、おら…と賽吉は狼狽するが、なるほど、娘と分かって逃がす気になったんだな…、飛んだ巡り合わせだ!と勘蔵も事情を察する。

親分!お願えだ、こいつだけは逃がしてくれ!俺はどんな仕置きでも受ける!と賽吉は訴える。

五郎吉はお美代に、これがお前が探している父っちゃんだぜと賽吉を指して教える。

本当におじちゃん、あたいのお父っちゃんなの?と立ち上がって賽吉に近づいたお美代が聞くと、お美代…と賽吉が呟いたので、お父っちゃん!とお美代は抱きつく。

そんなお美代を五郎吉が引き離したので、頼む!仕置きは覚悟の上だ、頼む!お美代だけは!と賽吉は頼んで来るが、丑松に蹴飛ばされたので、お父っちゃんを勘弁して!とお美代の方は勘蔵にすがって頼む。

それを振り払っただったが、その時、お美代が袋を落したので、何だこりゃ?と拾い上げると、それ、あたいのだ〜!とお美代が取り戻そうとする。

中味を取り出した勘蔵は、サイコロじゃないか…、蛙の子はやっぱり蛙か…と呟き、おめえ、勝負をやるのかい?とお美代に聞く。

どうだ、俺と勝負して、勝ったら、おめえもオヤジも助けてやっても良いぞと勘蔵が言い出したので、賽吉は慌てて、いけねえ!そんなの!子供相手に何て事を!と抗議する。

どうだ?と聞かれたお美代が、お父っちゃんを助けてくれるの?と聞くので、やるんじゃねえ!と賽吉は叱るが、丑松は準備をしに行く。

それを見た賽吉は、止めろ!ただのサイコロじゃねえんだと必死に訴えるので、じゃあ、どんなサイコロだい?と紋太が聞く。

丑松が壺を持って来ると、さあ座るんだと五郎吉が壺の前に座らせ、お美代!バカな事をやるんじゃない!と賽吉は叱るが、やるのか、やらないのか!と勘蔵が迫ると、どうやるの?とお美代は無邪気に聞いて来る。

何でも良い、サイコロを振ったら丁か半だ、どっちでも好きな方を言やあ良いんだと勘蔵が教えると、丁か半か?とお美代は念を押す。

そうだ、勝ちか負けかはおめえの親父が見てくれると言う勘蔵に、あたいが勝ったら、本当にお父さんを許してくれる?とお美代が聞くと、その代わり俺が勝ったら…と勘蔵は凄んでみせる。

五郎吉が刀を抜いて縛られている賽吉の胸元に突きつける。

良いな?と勘蔵が聞くと、お美代は頷く。 勘蔵から促された丑松が壺を振って伏せると、お美代は賽吉の方を見るので、堪り兼ねた賽吉は顔を伏せる。

さあどっちだ?丁か半か?と勘蔵が聞き、早く言いなと丑松も急かすと、丁!とお美代は答える。

俺の方は半だと勘蔵が答えると、勝負!と丑松が言い、壺を開く。

1、1の丁だったので、丁だ!丁だ!と賽吉は喜び、あたいが勝ったの?とお美代も喜び立ち上がるが、おっと待った、もう一度だ、今のは小手調べだなどと勘蔵が言い出したので、卑怯だ!おめえさん、子供との約束を!と賽吉が叫ぶが、五郎吉が殴りつけて黙らせる。

親父を助けたかったらもう一度だと勘蔵が言うと、お美代は賽吉の顔を見ながらもう一度座る。

丑松がもう一度壺を振り、今度はどっちにする?と勘蔵が聞くと、丁!と又お美代は答える。 壺を開くと、2、2の丁だったので丑松は驚く。

お美代が賽吉の顔を見ると、賽吉はうれしそうに頷く。

すると勘蔵が、分かって来たらしいな?勝負と言うのは三度でつけるもんだなどと言い出したので、そんな身勝手な!子供をいたぶるのは止めてくれ!と賽吉は抗議する。

俺はどっちでも良いんだぜと勘蔵が開き直り、今度で本当にお終い?とお美代が聞くと、そうさと答える。

やる!とお美代が答えたので、勘蔵は丑松に促す。

へえと答えた丑松は、2、2のサイコロを振らずに、傾けた壺の影でそのまま片方を1に転がしただけで壺を伏せる。

さあ、今度はどっちだ!と勘蔵が聞くと、またお美代は丁!と答える。 また丁か、じゃあ俺は半だと勘蔵は言う。

壺を開けた丑松は、又2、2の丁になっていたので、こいつはイカサマ賽だ!丁としか出ないように作られているんだ…と気付く。

舌打ちした勘蔵は、それでただの賽じゃねえって言ったのか…と賽吉を睨むと、違う!そんなんじゃねえ!と賽吉が否定したので、じゃあ何だって言うんだ?と丑松が聞くと、例え小娘とは言え、イカサマをやりゃあ簀巻きか地獄だぜ!と勘蔵は凄む。

言いがかりだ!てめえたちこそ半目が出るように仕組んでいたくせに!と賽吉が言い返すと、それがどうして丁目に変わるんだ?それでもイカサマ賽じゃないと抜かすのか!と丑松は聞いて来る。

女房の魂にそんな細工が出来るもんじゃねえと賽吉が答えたので、何?女房の?と丑松は聞き返す。

すると賽吉は、そのサイコロは死んだ俺の女房の骨で作った形見なんだと打ち明ける。

何?と驚く丑松に、きっと女房が守ってくれたんだ!と賽吉は感激する。

気味悪がって丑松がサイコロを床に落とすと1、1の目になり、さらにサイコロは自分で転がってお美代の膝の上で1、1の目を出す。

それを見て驚く勘蔵、丑松、五郎吉、紋太たちは、部屋を囲んだ障子の向こうに浮かんだいくつもの妖異の影を見て肝をつぶす。

その時、わしは鬼塚の主だ…、鬼塚を血で穢した者は奈落の苦しみを味わって死ぬのだ…と不気味な声が聞こえて来る。

次の瞬間、突然天井が崩れ、瓦礫や土ぼこりが四人のヤクザの頭上に降り掛かって来る。

一方、寺の境内に駆けつけて来たのが百太郎と新太で、俺の役目だ、怪我するといけねえ、あっち行ってな!と新太を下がらせると、かくれんぼうしてるんじゃねえ!出て来たらどうだ!と百太郎は声を上げる。

するお堂の後ろから姿を現したのは勘蔵の子分たちで、やっぱり来たなと言いながら姿を見せたのは俵権九郎だった。

当たり前だ、勘蔵の奴は生かしてはおけないんだ!と百太郎は言う。

権九郎は笑い、貴様の行き先はここまでだと言う。

百太郎は飛びかかって来た子分を数名斬ると、慌てるねえ!と怒鳴る。

邪魔するな!と権九郎が進み出ると、行くぞ!と言うなり斬り込んで来る。

相手の剣を地面を転がりながら巧みに交わし、立ち上がった百太郎は権九郎の腹を斬る。

それを見た子分たちは恐れをなして逃げ去って行く。

おじちゃん!と新太が駆け寄って来たので、刀を鞘におさめた百太郎は、急ぐんだ!と走り出す。

ところが、勘蔵にやって来るとやけに静まっているので、誰かいねえのかい!と百太郎が呼びかけるが返事がない。

百太郎は、新太を外で待たせ、自分だけ上がり込んでみる。

家の中でも人の気配がないので、怪しみながら奥の部屋の障子を開けると、そこにはお美代と賽吉がおり、おじちゃん!とお美代が駆け寄って来る。

無事だったかい!と安堵した百太郎だったが、側に落ちていた刀を拾うと賽吉の前に放り投げ、取れ!丸腰の者は斬りたくないと告げる。

しかし賽吉は沈み込んでおり刀を取ろうとしないので、取らねえかい!と百太郎が焦れると、おじちゃん…とお美代が口を開く。

心配いらねえ、おじちゃんが良いって言うまで、そのお目目とお耳を塞いでてくれねえか?と百太郎が言い聞かせると、お美代は首を横に振り、お父っちゃんを勘弁してと言う。

お父っちゃん?と百太郎が驚いて賽吉を見やると、兄貴、おらあ、因果の恐ろしさを身をもって知ったんだ…、俺を斬ってくれ!おらあ…、おらあ…と悔やむように頭を下げる。

そんな賽吉に、お父っちゃん!とお美代が駆け寄り、お美代!と賽吉も抱きしめる。

それを見た百太郎はおめえが東八だったのかい…と全てを察する。

そこにやって木谷が新太で、ここの奴ら、ドスを振りかぶりながら、向こうの竹やぶに入って行ったよと教える。

竹やぶへ?といぶかしがった百太郎は、よ〜しと呟くと自分も竹やぶに向かう。

勘蔵たちは、竹やぶの中で妖怪の姿に囲まれながら、狂ったように刀を振り回していたが、斬っても斬っても妖怪は現れる。

やがて、妖怪たちが見えなくなったので、どっかへ行っちまいやがったと勘蔵は呟き安堵すると、突如、紋太が、兄貴!助けてくれ!と叫びながら空中に浮き上がって行く。

次の瞬間、血まみれの姿の紋太が落下して来る。

それを見た五郎吉が、親分!と怯えると、騒ぐんじゃねえ!と制した勘蔵は、こっちが弱みを見せりゃ、化け物は図に乗りやがるんだと言い聞かせる。

その時、近くの水車小屋の水車が回る音が聞こえて来て、その水車の中には二つの生首が浮かび上がる。 回る水車には灯が灯り、火車の中の仁兵衛の生首が勘蔵に襲いかかって来る。

怯えて勘蔵は刀を振り回すが、竹が斬れて、倒れていたのは五郎吉だった。

親分…と丑松も恐怖に駆られていたが、その時、周辺の竹やぶの奥に何体もの妖怪の姿が見える。

すると、又勘蔵らの前に妖怪が出現したので、丑松はその場から逃れようとするが、ぬらりひょんなどのようかいに取り囲まれてしまう。

丑松と勘蔵は、互いに相手の顔が仁兵衛の生首やぬらりひょん、甚兵衛や蛇骨婆の顔に見えるようになる。

化け物!と叫んだ勘蔵は、丑松を化け物と思い込み滅多斬りに斬殺してしまう。

その時、勘蔵は、自分の左手にぞろ目のサイコロを握っている事に気付き、投げつけようとするが、貼り付いたようにサイコロは掌から離れない。

勘蔵は刀の柄を使いサイコロを引きはがそうとするが取れないので、刃の方を使って取ろうとしてじぶんの掌を斬りつけてしまう。

痛みに苦しんでいた勘蔵の目の前を、あの書き付けがふわりと横切って行ったので、慌てて追いかけるが、書き付けが落ちた先にいたのは百太郎だった。

それを拾って読んだ百太郎は、勘蔵!てめえ、これを取るために親分をやったんだな!と突きつける。

勘蔵が斬り掛かって来たので返り討ちにした百太郎だったが、倒れた勘蔵の手元に2つのサイコロが落ちていたので拾い上げると、不思議な事だ…、考えられねえ事でもやっぱりこの世にはあるんだな…と呟く。

そこに、おじちゃ〜ん!と呼びかけながら新太に手を引かれたお美代と、賽吉がやって来る。

賽吉がその場に跪くと、これ、お美代ちゃんのだったな?と言いながらサイコロを返してやる百太郎。

その時、兄貴分!死んでも拭えねえ罪を犯しちまった俺だが、俺を斬って…と賽吉が呼びかけると、賽吉!お美代ちゃんが心配してるぜ、おめえを独ぼっちには出来ねえよな?と百太郎はお美代に優しく聞く。

お美代はうんと答え、お父っちゃん!と賽吉に駆け寄ったので、お美代!と賽吉は抱きしめて泣き崩れる。

森の奥の地面の下から次々と妖怪たちが浮き上がって来て、うれしそうに踊り出すと、百鬼夜行のように、ご神木の根元にある祠の中に消えて行く。


 


 

 

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