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白い粉の恐怖

三國連太郎主演の麻薬捜査物だが、麻薬の恐ろしさを訴えた内容でもあり、汚れ役に挑んでいる清純派の中原ひとみさんが実質上の主役のように見える。

山茶花究さんなどは相変わらず巧いのだが、中原ひとみさんがこんな若い頃にこんな汚れ役を演じていた事は知らなかった。

三國さんが、自分の事をスーさんなどと称しているのも興味深い。

須川と言う役名だからなのだが、「釣りバカ」のスーさんをつい連想してしまう。

情報屋として付き合った娼婦と麻薬捜査官の関係が描かれているのだが、捜査官の方はあくまでも仕事として付き合っているのに対し、娼婦の方は身寄りがない事もあり、捜査官に何となく甘えたい気持がある事を捜査官の方も薄々気付いていると言う微妙な関係性が見所。

この時代は麻薬問題が深刻化していたらしく、他にもこう言った麻薬の潜入捜査ものはあるが、今作もなかなか見応えがある秀作になっている。

今井健二さんが新人として登場しているし、地獄大使こと潮健児さんも、右肩に入れ墨を入れたヤクザ役で登場。

東映版「月光仮面」こと大村文武さんが悪役を演じており、松村達雄さんもほとんどセリフがないちょい役ながら出演しているし、松竹映画でお馴染みの菅原通済さんまで麻取の所長として登場している。
▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼
1960年、東映、栗山信也原作 、舟橋和郎脚色、村山新治監督作品

タイトル

芥子の花の映像に芥子について書かれたローマの古詩が重なる。

薄ら笑いを浮かべている男の顔のアップ。 その男の右腕にはネッカチーフが巻かれていた。 その部屋に入り込んで来た女が、薬ない?金ないのよ…、後で返すから…と天井を向いて横になっていた男に話しかけるが、男が無視しているので、人の足下見やがって!と女が睨むと、男はシャツの胸元から紙包みを一服取り出し渡してやる。

女は男が右腕に巻いていたネッカチーフを取り上げると、受け取った薬を小皿の上で水に溶かし、注射器に液体を吸わせた後、ネッカチーフを巻いて血管を浮き上がらせた時分の左腕に注射器を射す。

麻薬は古来「霊薬」と呼ばれた。

鎮痛薬等として使われていたからだった。 しかし、戦後麻薬中毒者が激増し、今や中毒者は20万人とも言われている。

社会の裏に咲く悪の華… この街の裏には麻薬関係者が500人とも言われている。 この街には今夜も役を探す客が来る。

さらに麻薬を売る者も… 一方、麻薬捜査官たちが今夜も網を張っている。(とナレーション※加藤嘉?)

夜の新宿のバス停前にいた麻取の須川弘(三國連太郎)は朝鮮人の金山(山茶花究)と合流する。

ごくろうさん、間違いないね?と路上で須川が確認すると、間違いない、川井組の宮川の家…と金山は教える。

側に停まっていたトラックの幌付き荷台の中には、麻薬捜査官が数名座って待機していた。

中の1人が緊張しすぎで小便をしに外へ出たので、桜木君どうかね?俺だって最初はドキドキしたものさと、今日が初めての出動になる新人の桜木(今井健二)に先輩捜査官が話しかける。

そこに、小便から戻って来た捜査官が金山来ましたよと全員に声をかけ、その直後、須川が金山を連れて荷台に入って来ると、杉山さん、間違いないらしいですと待機していた主任の杉山(浜田寅彦)に声をかける。

金山は、今奴は女と一緒にいる、パン助だと思うと教えると、須川から金を受け取って帰って行く。

捜査官たちはトラックを降り、喫茶店前の建物に近づくと、二階の部屋に乱入する。

そこには宮川(潮健児)とパンパンらしい女ユリ子(中原ひとみ)がいたが、宮川は踏み込んで来た捜査官たちにその場で手錠をかけられたので、逃げやしねえよ!と息巻く。

服を脱がせたり、仏壇の位牌まで分解して、部屋の中から薬を探していた捜査官たちだったがなかなか見つからない。

そんな中、須川が襖の引き手を外すと中から薬が数袋出て来たので、宮川は観念する。

関東信越地区麻薬取締本部 物はどこから仕入れた?お前も使ってるんだろう!と宮川への尋問が始まるが、俺が打ったらお終えだろうが!と宮川は否定し、入手先に関しては頑として口を開こうとしなかった。

1つ2000円だったな?原価は500円くらいか?などと探りを入れるが、ゲロしたらこっちが消されしまうとかわした宮川は、一体今度は誰が指したんだ?と逆に密告者の事を聞いて来るので、井本はどうした?と追求すると、兄貴は薬とは関係ない!と宮川は否定する。

一方、別室で須川が相手をしていたユリ子は、あたい、妊娠してるんだよ。誰の子か分からないし、堕したいんだけど薬を買うのでお金がない。手術代がないのだなどと言う。

いつから打ってる?と聞くと、正月くらいから…、正月くらいに、宮川さんがあげるって言うから…、最初打ったら、その内これは高いんだから払えって言い出し、それまで働いていた所辞めたのよなどと言うので、仕事でいくら稼いでいるんだ?と聞くと、1日3000~4000円くらいと言う。

そんなに薬は良いのか?と須川が聞くと、薬のためだったら何でもかっぱらう。

男なんかより耳かき一杯の薬の方が良いよなどとユリ子は言い、ぶち込まないでよ!と頼んで来るが、そうもい薬かない、現行犯だからねと須川は言う。

あたいみたいな小者捕まえたってしようがないだろう?もっと大物捕まえなよ!とユリ子が抗議すると、大物を叩こうとは思ってるんだが、ルートが分からないんだよ…、絶対秘密にする方法があるんなら手術代も出すよ、本当に情報くれる?と須川は言い、その後、主任の杉山に、この女、泳がしてみませんか?と相談に行く。

許可を得た須川は、ユリ子を帰す事にする。 宮川を警察に送ってからだ、あんまり打つなよ、酷くなると頭も身体も腐っちゃうんだよと須川は言い聞かせる。

その後須川が休憩室に来ると、夏木(増田順司)ら今日出動した仲間たちが一杯引っかけ帰る所だった。

1人残った桜木に、君、今日、初めてだったんだって?と須川が聞くと、今まで都庁にいたんですが、こんな仕事とは思いませんでしたよ、厚生省って言うので…と桜木は苦笑いし、どうして麻薬患者が多いんでしょう?と聞いて来る。

例えば胃けいれんの鎮痛剤として使うだろう?それがきっかけでって言う事もあるし、さっきの女のように売人に打たれて中毒になるんだ。

それで薬を買うために売春ですか?と桜木が聞くと、売春が一番簡単だからね…と須川は言う。

さっきの朝鮮人金子ですが、奴は?と桜木が聞くと、本人はやっとラらんと言っとるがね、金が欲しいんだろう。我々に合わせていると安全だからね。

麻薬捜査だけにおとり捜査が認められているんだけど、後味悪くてね…と須川は情報提供者に頼らざるを得ない状況を憂える。

翌日、金山は人気のない裏通りを歩いている所で井本(曽根晴美)ら組員に呼び止められ、お前夕べ、宮川の所に薬を買いに行ったんだどう?そのすぐ後に厚生省が入ったんだ!と良いながら殴られる。

てめえが厚生省と一緒にいたの、見た奴がいるんだ!と井本は睨み、金山は子分たちに袋叩きにされる。

金山は捜査本部の須川を訪ね、旦那といる所を見られたよと言うので、俺の顔が分かるはずがないと須川は否定するが、旦那の顔写真は裏で出回ってるよ。

もう新宿には住んでいられない、川井組に睨まれたから…、仕方ない、大阪に行くか、ダチがいるから…などと言い出した金山は、少し都合してくれないか?少しまとまったものがあれば何とかするよと言う。

須川は課長の矢野(河野秋武)に相談に行き、伝票を書いてもらって桜木に渡し、経理課で金に換えさせる。

その伝票に須川がサインしているのを見た金山は、お礼に1つ情報があるよと言い、西口の「つるや」に川井組の売人が出入りしているらしいよと言う。 後日、「万楽」と言う店にやって来た須川は、そこでだらだらしているユリ子と会う。

どうした子供?と聞くと、やっと堕ろしたよ…、大変だったわ、旦那…、などとユリ子が言うので、旦那はないだろう、スーさんだよと須川は答える。

今夜どう?などとユリ子が誘って来たので、そんな事で来たんじゃないんだよ、こないだの商売の話だけど、やってくれる?と言った須川は少し金を渡し、お茶でも飲みに行くか?と誘う。

喫茶店「ドリーム」でコーヒーを注文した須川は、西口の「つるや」って店知ってる?と聞くと、良くお見通しだねとユリ子はからかうように答える。

良く行くの?と聞くと、西山さんのいない時…、粉場への案内人がいるのよ、でも車でぐるぐる回されるので粉場の場所は分からないわとユリ子が言うので、紹介してくれない?と須川が頼む。

するとユリ子は、一度本当のお客になってよなどと甘えて来たので、馬鹿野郎!と須川は小声で叱る。

「つるや」は間口の狭い飲み屋で、ユリ子と一緒に店にやってきた須川は、顔がバレないようにサングラスをかけており、チュウにガツくれよと女店員に慣れた風に注文する。

女店員がそんな須川に、こちら新顔ね?と指摘したので、この人、薬欲しいって…、値のお客よと隣に座っていたユリ子が伝える。

入り口の方の客に相談に行った女店員は、戻って来て、良いってさと言うので、ユリ子は、あたいも行きたくなったよなどと笑う。

そこに、井口がやって来て、一杯グラスをあおっただけですぐに店を出て行ったので、須川も店を出てその後を追う。

近くのパチンコ店でパチンコをしていた麻取の捜査官たちも店を出て、一緒に井口の後を付ける。

大黒屋前の通りで井口がタクシーの助手席に乗り込むと、サングラス姿の須川も他の客と一緒に後部座席に乗り込む。

井口は須川を怪しみ、いきなりサングラスを取りあげたので、須川は窓の方に目を向け、井川にはっきり顔を見られないようにする。

そのタクシーの後を、杉山と桜木が乗った車が追い、後から来るか?と杉山が聞くと、付いて来ていますと後ろを確認した桜木が、仲間が乗ったトラックが付いて来ている事を教える。

タクシーの井口も絶えず背後を気にしており、尾行に気付いたのか、畜生!今日の所は終わりだぜと言うと、運転手に西口に向かわせ、須川たちは西口に付いた所で降ろされてしまう。

須川に近づいた井口は、旦那、あんまり派手な真似はしない方が良いですよと嫌みを言って来る。

次の日曜日、自宅にいた須川は、まだ幼い息子の写真を撮り、久々の休暇を楽しんでいた。

今日は仕事じゃないの?日曜でもいつも出かけてるじゃないと食卓に出て来た妻の妹の明子(春丘典子)が皮肉を言うと、愚連隊に顔売れ過ぎちまってね…と須川は答え、妻の作ったカレーを食べ始める。

そして、いきなりカレーを頬張った明子の写真を撮るので明子は怒るので、いるよ、明ちゃんの御相手、桜井って言ってね、なかなか良い青年なんだと須川は結婚相手として勧める。

すると妻の滋子(岩崎加根子)が、麻薬取締官なんて何だか不安な職業じゃない?私、あなたが留守のとき、電報来るのが嫌なの…。

私、あなたがこんな仕事だとは思わなかったのよ…、厚生省技官って言うから…と嘆く。

その時、隣から電話ですと知らせに来たので、滋子が行って電話に出て見ると、ユリ子からだったので、不機嫌そうな顔で自宅に戻って来た滋子は、あんた、電話よ、ユリ子さんから!と嫌みっぽく伝える。

ユリ子は、スーさん、「つるや」の一件で、私組に睨まれちゃったのよと言うので、じゃ、喫茶店で1時に!と伝え電話を切る。

自宅に戻ると、誰?一体!と滋子が睨んで来たので、パン助だよ、情報提供者だから仕方ないじゃないか!と須川が教え、世の中にバタ屋とかパン助とか肥汲みがいないと困るだろう?と言うと、カレーを食べていた明子が、嫌だわと顔をしかめたので、ライスカレー食べてる時まずかったか!と須川は自分の失言に気付き苦笑する。

喫茶店「ドリーム」で会ったユリ子は、あの連中に睨まれたら商売できないわと言うので、辞めたら?と勧めると、1日5000円になる仕事なんかないわ!とユリ子が言うので、さらに辞めたら?と勧めると、あたいをぶち込むつもりだね!とユリ子は怒り出す。

船橋に麻薬治療病院がある。睡眠薬で2週間眠らせてくれるんだ。

今の生活を続けていたら、2~3年で死んじゃうよ。 辞めたら、君も幸せになれるんだよ。ペイ打たなかった昔を思い出してごらん?平和だった時代を…と須川が説得すると、でもお金が…と言いながらユリ子は泣き出す。

2万もあれば大丈夫だ、福祉事務所とも相談して何とかするよと須川はなだめる。

後日、須藤はユリ子を連れ、船橋の病院へやって来る。 そこにはたくさんの女性麻薬中毒者が入院していた。

麻薬中毒者って嘘つきが多いのよ、病気を治すのはあなたの意志よと看護婦(山本緑)は言い聞かせ、ユリ子を鉄格子の付いた部屋に案内したので、まるで刑務所ね…とユリ子は暗い表情で言う。

すると看護婦は、今までの方が地獄よ。地獄から這い上がらなくちゃと言い聞かす。

その後、麻薬取締本部では所長(菅原通済)を交え、会議が開かれていた。

所長は、所長会議でも問題になったが、様々な犯罪の温床になっている麻薬撲滅なくしては問題は解決しませんと力説する。

それに出席していた須川に電話が入ったと言うので席を外すと、電話の相手はユリ子だったので、予定より早いんじゃないの?と案ずると、もう出て良いって言うんですものとユリ子が言うので、苦しかったかい?と聞くと、眠りから覚めた時はね…とユリ子は打ち明ける。

飯、食える?と聞くと、須川さんに知らせたい事があるのと言うので、情報か?じゃあ「ドリーム」で会うか?と聞き、1時間後に会う約束をする。 しかし、新宿に向かったユリ子はばったり井本に出会ってしまう。

よお!しばらくぶりだな?ペイあるぜ、欲しくなったらいつでも来なと声をかけて来る。

喫茶店「ドリーム」で須川と再会したユリ子は、井本なんか早くパクっちゃえば良いのに…と恨めしげに頼むが、捕まえる物証がないんだよと須川は詫びる。

病院で知り合ったサヨちゃんって子から聞いたんだけど、「ヒカリ」って言うパチンコ屋あるだろう?その支配人と言うのがやってるらしいよ、あたいがやるわよ、あんたのためなら!とユリ子が言うので、麻薬の禁断症状は2週間で治る。

でも又欲しくなるんだと諭した須川だったが、誰かあのパチンコ屋知ってる奴いないかな?と考え込むと、あたいが勤めようか?とユリ子が志願する。

「ヒカリパチンコ」の事務所にいた支配人田口(大村文武)は、赤ん坊を背負った主婦が薬を3つと要求して来たので言われた通りに金庫から取り出し渡す。

そこに入って来たユリ子が、あの~、サヨちゃんから聞いて来たんですけど、雇ってもらえませんか?と声を掛けると、主婦は慌てて部屋を出て行き、田口は、おめえもやってるな?ペイ中は雇わないってことにしてるんだ、ペイ欲しいんだったら稼いで来るんだな!と言い渡す。

店の外で須川は待っていたが、ユリ子が出て来たので、近くの「食道楽」と言う店に連れ込み、おでんを注文すると、どうだった?と聞く。

断られちゃった…と答えたユリ子は、私の前に帰って行った赤ん坊背言った女、井本の何からしい…、10万くらい買ってたと教える。

支配人はどんな奴だった?と須川が聞くと、アロハシャツを着た30くらいの男で二枚目だよ、あんたに似てたよなどとユリ子はうれしそうに答え、あたい薬見ても何ともなかったと自慢する。

明日1時、「ドリーム」で会える?とユリ子に確認した須川は、先に立ち上がると、2人分のおでん代100円を払い、さっさと帰って行ってしまったので、後に残ったユリ子は寂しそうな顔になり、お酒ちょうだい!と注文する。

「食道楽」を出たユリ子は、周囲から聞こえて来るパチンコの音が頭に響くのか、突然耳を押さえその場を逃げ出す。

アーネスト・ボーグナイン主演「警部物語」がかかっている映画館の前に来たユリ子だったが、まだ頭の中にはパチンコのイメージと芥子の花のイメージが錯綜する。

再び「ヒカリパチンコ」の事務所を訪れたユリ子は、後でお金もらって来る!と田口に言うと田口から薬を受取ると、すぐさまそれを近くの薬局に持って行く。

須川は「ヒカリパチンコ」に課長の矢野を同行して来るが、矢野は下に降りて来た田口の顔を見るなり、驚いたようにすぐ店を出てしまったので、訳が分からず須川も後を追って来る。

課長、どうしたんです?と須川が聞くと、田口って知っているんだよと矢野は打ち明ける。

本部に帰って来た矢野は捜査員たちを前に、田口耕造と言う議員の息子なんだと詳しく説明する。

オヤジは心配してね、相談された事があるんだが、結局、八丈島に島流しになった。 向こうで仕事をすると言う名目だったんだ。

だが2年くらいで帰って来て、すぐにヤクを買いやがったと矢野が言うと、あのパチンコ屋の親会社は太陽商事と言う会社で、社長は佐伯ですと須川が調べた事を報告する。

その後、開店前の「フェニックス」と言うバーにやって来た須川は、すみません、5時からなんですけど?と戸惑うホステス紅子(山本桂子)に、ユリちゃんいない?と聞く。

すると、紅子がお客さんよ!と奥にいたユリ子を呼び出す。

その後、「ヒカリパチンコ」の事務所に来たユリ子から話を聞いた田口は、太陽商事の佐伯に電話を入れ、社長ですか?田口です、大口があるそうなんです、バーに来る客なんだそうですけど…と伝える。

どこの会社なんだ?と佐伯から聞かれた内容を田口が繰り返すと、何とか製薬って書いてあったわとユリ子が言うので、製薬会社だそうですと田口は受話器に言う。

電話を切った田口は、金庫から拳銃を取り出すとそれをベルトの中にしまい、ユリ子と一緒に出かけて行く。

ユリ子に連れられ喫茶店にやって来た田口は、そこでスーツ姿で待っていた須川と桜木のテーブルに座る。

須川が薬が大量にいるんですと切り出すと、どこの製薬会社なんですか?良く警察がこう云う事をやるもんで…、素性を聞かないと…と田口が聞いて来たので、最初はためらっていた須川と桜木も、意を決したように名刺を差し出す。

そこには大和製薬の秘書課と書かれてあったので、大和製薬さん程の会社がどうして?と田口がいぶかしむと、ご存知の通り、今や各メーカーが乱売をしており、今のうちにテコ入れしないと…と説明し、で、どのくらい?と手に入れられる薬の量を聞いて来る。

すると田口は、それは社長と相談してもらいたいねと答え、電話口に行くと、大和製薬本社の秘書課に電話を入れ、そちらに安井と浜田と言う社員が勤務しているはずですが?と聞く。

すると、電話に出た女性事務員(田中恵美子)が、2人はちょっと外へ出ておりますが?とあらかじめ打ち合わせ通りに応対する。

その場には、大和製薬秘書課の課長(松村達雄)と一緒に麻取の主任杉山もその電話の応対を注視していた。

田口に連れられ、太陽商事にやって来た須川と桜木は、社長室に通され、社長の佐伯(永田靖)と対面する。

須川と佐伯が親しげに握手をしている間、田口は部屋にいた子分たちに何事かを耳打ちする。

秘書課として特命を受けまして…と急いでいる事を須川が匂わすと、金儲けは運ですよ、明日中に取引しましょうと佐伯が言うので、場所や時間は?と須川が聞くと、こちらから御知らせしますと言うだけなので、仕方なく須川と桜木は握手して帰ることにする。

会社の前には、麻取の仲間が自動車で待機していたが、そちらには近づかず、須川らはタクシーを呼び止める。

そのタクシーを、先ほど田口から指示された子分たちが車で尾行する。

それに気付いた桜木が付けてきますよ、あの分じゃ拳銃の1丁や2丁持ってそうですねと言うので、須川は運転手に日本橋の大和製薬本社へと向かわせる。

タクシーは本当の大和製薬本社前に停まり、須川と桜木も社員のようにその中に入って行ったので、尾行していた子分たちの車はそのまま帰って行く。

須川はユリ子にアルバイト料と称して金を渡すと、危ないわ…、どこに隠れようか?と案ずるユリ子に、万一の時は僕んちに来るんだと伝え、君、又やってるの?と聞くと、この前、いっぺんだけよと言うので、田口から買ったんだな?と須川は察する。

あたい、もう2度とヤクはやらないわ…と言いながら、何か錠剤を飲んでいるのに気付いた須川は、それが睡眠薬だと気づき、身体壊しちゃうよと注意する。 ユリ子は、こんな事でもしないと薬が追いかけて来るのよ、あたい、もう絶対やんないわと誓う。

やがて大和製薬本社に佐伯が来て、今受付にいると連絡があったので、奇襲攻撃して来たなと須川は呟き、秘書課に通して下さいと女性事務員に伝える。

そして、秘書課に来た須川と若木は、本当の大和製薬社員に2つ机を貸して下さいと申し出、課長が指示した2人が席を須川と桜木に譲る。

机に座った須川は他の社員たちに普段通りやって下さいと声をかけ、自分も社員を装って仕事をする振りをする。

そこへ女性事務員に連れられ佐伯がやって来たので、須川は立ち上がり、浜田君と桜木を呼んで一緒に応接室へと案内する。

須川と対峙した佐伯は、今日は重役さんとお会いしたいと切り出して来たので、須川が桜木に、常務まだ?ちょっと呼んで来てと支持すると、廊下で待機していた杉山が応接室にやって来たので、山本常務ですと須川は佐伯に紹介し、一両日中に御取引いただけますか?と迫る。

杉山も、急ぎで御願いできないとなると他の資金調達を考えないと…と急かすようなことを言うので、7時に神楽坂の「かぶと」と言う店でと佐伯は答え、品物は2回に分けて渡します。

250g10個で400万ご用意願いますと指示して来て、私も1人で参りますので、そちらからもお1人で…と言うので、杉山は、安井君、君行ってくれと須川に向かって命じる。

すると須川は困惑したように、私だけでは薬の分別がつきません。薬の純度とかになりますと…と自信なさげに答え、専門家を連れて行っては行けませんでしょうか?と佐伯に聞くと、ご心配ならどうぞと佐伯は答えさっさと席を立つ。

その後「フェニックス」のユリ子に会いに来た須川は、いよいよパクるよ、家に来たよと誘うと、あたい、色々支度しないと行けないからとユリ子がぐずるので、じゃあ7時半に「ドリーム」で待ってると良い、須川は帰って行く。

ユリ子は奥の部屋で自分のハンドバッグの中から少し金を取り出すと、紅子を呼び、少し貸してくれない?1000円ばかり…と頼む。

紅子は何に使うのさ?と疑いながら1000円を貸すと、このバッグ預かっとくよと、担保代わりにユリ子のバッグを手にする。

その夜、帰宅した須川はユリ子を連れており、当分家にいてもらうからねと滋子に説明するが、滋子は幼い息子を寝かせに隣に部屋に連れて行き出て来なくなる。

明子が巨人戦をテレビで見ていたので、新聞のラテ欄を見ながら須川は、今日はパリーグの方が良いんだけどな~と言い出す。

明子も自分の部屋に引き下がると、チャンネルを変えた須川はパリーグの野球を見始める。

その時、隣の部屋から須川を呼んだ滋子は、あの人どう言う人?パンパンだった人?うちは坊やだっているのよ!いきなり連れて来て…と険しい目で聞いて来る。

聞こえるじゃないか!と小声で制した須川は、坊やは関係ないじゃないか、冷たい事言うんじゃないよと叱りテレビの前に戻って行く。

やっぱりパリーグの方が力に威力があるねなどと須川が言うと、おじいちゃんもいるのねとユリ子が言うので、どれ?これ、監督じゃないか!と須川が呆れ笑い声を上げたので、隣で坊やを寝かしつけていた滋子は苦々しい顔になる。

翌朝、滋子が台所で食事の支度をしていると、起きて来たユリ子が不機嫌そうに蛇口の水をコップに汲んで飲むので、どうしたの?と聞くと、喉が渇いただけだよとユリ子は無愛想に答える。

その夜、佐伯の自宅近くでは、村井(須藤健)、藤本(多魔井敏)、大場(清村耕次)、堀田(菅沼正)に矢野課長も含め麻薬取締官たちが総出で数台の車に分乗し待機していた。

須川の自宅に帰宅して来た明子は、畳にユリ子が電気も点けずににやけた顔で横になっていたので驚く。

台所にいた姉の滋子に伝えると、明子ちゃん、お風呂涌かしてと頼まれたので、お風呂くらいあの人に頼めば良いのよと膨れると、あの人、縦の物を横にもしないわ!と滋子は不機嫌そうに答える。

そこにそのユリ子が現れ、奥さん、旦那、今日遅いの?と聞くので、手入れがある日は12時過ぎる事もあるわと滋子が答えると、須川さん、怖い時もあるけど好きよと言いながら、奥さん、須川さんとは恋愛?とユリ子は聞いて来る。

何でそんな事を?と滋子が驚くと、知りたいのよとユリ子がせがむので、御見合いよ、平凡な…と滋子は答える。

7時5分前、車で待機していた須川は少し早いけど行くか?と声をかけ、夏木と一緒に車を料亭「かぶと」の前に乗り付け、降りて中に入って行く。

部屋に案内されると誰もいなかったので須川は驚き、佐伯さんは?と仲居に聞くと隣の部屋から風呂敷包みを持った佐伯が出て来る。

1袋250gが10袋で2500gですと佐伯は風呂敷包みを差し出し、須川は札束を取り出すが、市川技師ですと須川が佐伯に紹介した夏木が、薬を嘗めて調べてみる。

その夏木が頷いた瞬間、須川は、何をする!と気色ばむ佐伯の腕を取り、麻薬取締法違反で逮捕しますと言いながら手錠をかける。

同時刻、他の捜査官たちは一斉に佐伯の自宅に侵入し、ガレージ内にあった麻薬の精製工場を襲撃する。

そこにいた数人が慌てて窓から庭伝いに逃げ出そうとするので、桜木らが後を追い、塀をよじ上ろうとしていた二三名を取り押さえるが、その中の1人が、僕だよ旦那、様子を探りに入っていただけなんだ、見逃してくれ!と桜木に泣きついて来る。

何とそれは大阪に行っていたはずの金山だった。

桜木はそのまま手錠をかける。 麻薬取締本部に連行されて来た佐伯を前にした取調官は、あんた、元特務機関だってね?佐伯機関として随分あくどく儲けたようだね?と追求していた。

すると佐伯は、あれは軍命令だ!と睨み返して来る。

須川は、佐伯邸の手入れから戻って来た杉山から、金山がいた事を知らされる。 矢野課長は、付いてないよ、田口の奴だけパクれなかったと悔やむ。

家に帰って来た須川は、問題はタグチは銃を持っている事だ…、新宿へは絶対行っちゃいけないよとユリ子に注意する。 滋子は須川に、ユリ子さんを匿うにはもっと適当な場所があるんでは?と嫌みを言う。

翌日、麻薬取締本部の会議では、佐伯はモルヒネを月に15キロ精製し、田口を使い川井組に回していたと矢野が報告する。 その席で須川は、金山の事なんですが、どう言う扱いにしたら良いでしょう?と質問する。

所長は、現行犯だからな…と言うが、協力者を見殺しにすると今後支障があるのでは?と須川は指摘する。

その後、交流している金山に会った須川だったが、金山は明らかに中毒症状を起こしていた。

旦那、頼むよ、大目に見てくれよ!こんな真似絶対しないよ、頼む!1本だけ打たしてくれ!1本だけだよ!とせがんで来るので、金山、俺にそう云う事が出来ると思うかと言い聞かせると、旦那は散々僕を利用したじゃないか!少し麻薬入れなけりゃ、誰が信用してくれる?と金山は敵に近づくためやったように言い訳するが、保護室へ連れて行けと須川が命じると、いや〜!と金山は絶叫する。

その頃、須川の自宅にいたユリ子は何かを探していた。 それに気付いた滋子が何してるの?と声を掛けると、私のストッキングは?と聞くので、汚れてたから洗濯機の中に入れちゃったわよと滋子は答える。

それを聞いたユリ子は仰天し、慌てて洗濯機の所へ駆けつけると、水に浸かっていた丸まったストッキングを取り上げる。

その中には紙包みが2つ入っていた。

バカ!奥さんのバカ!とユリ子が怒るので、それ何なの?と滋子が聞くと、ペイだよ!2つもダメにして!余計な事して!などとユリ子は言う。

あんた、家でも打ってたの?と滋子が驚いて聞くと、これがないち生きていけないんだよ!あんた、弁償して!とユリ子は怒鳴りつけて来る。

滋子はすぐに隣に電話を借りに行き、須川を呼び出すと事情を話し、どうしたら良いの?すぐに帰って来て!私、怖い!と頼む。

その間、ユリ子は部屋に置いてあったカメラ等金目の物を物色して逃げ出してしまう。

自宅に滋子が戻って来た時、既にユリ子の姿はなかった。

滋子!どうした?と、すぐに須川は帰宅して来るが、どっか行っちゃった、あなたのカメラも万年筆もみんな持ってっちゃたわと滋子が教えると、あの子、家を出たら危ないよと狼狽する。

滋子はそんな須川に、あなたが悪いのよ、麻薬取締官なのに、あの子が家で麻薬打ってたの知らなかったなんて!家まで仕事を持ち込まないで!そんなに大事なら一緒に連れていれば良かったのよと責める。

ユリ子を探しに新宿へやって来た須川は「フェニックス」や「つるや」に立ち寄るが、ユリ子は来てないと言う。

夜の新宿をさまよい歩いていた須川は、ばったり井本に遭遇する。

君、ユリ子知らないか?と聞くと、お門違いですゼ、俺ん所より、旦那の所にいるんでは?と井本は皮肉り、川井組の子分たちも嘲笑し出す。

その後、周囲の通行人たちが何かに向かって走り出したので、何かあったんですか?と須川が聞くと、変死体だそうですと言うので、須川は花園神社へと向かう。

野次馬が覗き込んでいる中を通り過ぎ、むしろがかぶせてあったのをはいで見ると、それは正しくユリ子だった。

麻薬の常習犯でした。僕が保護していましたと側にいた刑事に須川が伝え、他殺ですか?と聞くと、外傷はないようですと刑事(相馬剛三)は言う。

その後、ユリ子の遺体を解剖した監察院の技官(片山滉)は、ヘロインによるショック死です。

1gのヘロインが血中から見つかりましたと須川に言うので、では他殺ですね、あの子は薬の打ち方を知っていた…と須川は答える。

あなたがいたい引受人になっていただけますか?と技官が聞くので、僕が引き取りますと須川は答える。

焼き場で遺体が焼き上がるのを待っていた須川は、新聞の片隅に小さく載っていたユリ子の事件の記事を読んでいた。

一緒に喪服姿で待っていた滋子は、もっと考えてあげていれば良かった…、こんな事になるんなら…と悔やんでいた。

火葬場の職員(中村勝利)が2人を呼びに来たので、2人はユリ子の骨を拾いに行くが、ユリ子の骨はぼろぼろになっており、形をとどめてなかった。 骨の髄までしみ込んだヘロインのためだった…(とナレーション)

須川はそんなユリ子の骨を掴もうとするが、箸につまんだだけで崩れてしまい、ほとんど骨壺に移す事も不可能に近かった。

ユリ子は麻薬のために全てを…、その骨さえも失ってしまったのであった(とナレーション)

遺骨を持って焼き場を後にする須川夫婦


 


 

 

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