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士魂魔道 大龍巻

大坂夏の陣の負け戦の中、すっかり荒んだ世の中で運命を翻弄される大阪方の下層兵や女たちの生き様を描いた時代劇大作。

円谷英二のミニチュア特撮が楽しめる娯楽時代劇で、若き市川染五郎(九代目 松本幸四郎)さんと夏木陽介さん、佐藤允さん辺りが主役になっている。

タイトルの「大竜巻」は、途中から登場する三船敏郎が比喩的に言った「運命」の事と、後半実際に起こる自然現象のダブルミーニングになっている。

この作品で注目したいのは、星由里子さん演じる小里の姉菊里を演じている久我美子さんだろう。

戦の中で身を落として行く美貌で薄幸な女の生き様を見事に演じ分けている。

くノ一役の水野久美さんも、父の仇として憎んでいた相手を好きになってしまうと言う豹変振りを見せており、こちらも、きりっとした技と女性らしい演技の両方を演じ分けているが、やや設定に無理があるように見える。

男優陣では、一介の飯炊きが先生と呼ばれるまでになる戸上城太郎と、それを操ろうとする稲葉義男の小悪党振りや、佐藤允さん演じる辻斬りなどが興味深い。

過去、何度か見た記憶があるが、そのときは短縮版だったのか、あまり面白かった記憶はないのだが、今改めて見てみると、それなりに面白い事に気付かされる。

ただ、大掛かりな特撮やセットを使いそれなりに金をかけている割に、その中で演じられているドラマは案外地味なのが気にならないでもないし、ミニチュア特撮も成功しているとは言いにくい。

「大阪城物語」(1961)で作った巨大な大阪城のミニチュアシーンを再利用しているだけのように見えなくもない。

東宝系の爆発音はみんな怪獣系の爆発音と同じと言うのも興ざめする。

当時、東宝は市川染五郎、中村吉右衛門 (2代目)兄弟を売り出そうと何本か作品を作ったが、結果、興行的に成功したものがなく、東宝自体が製作から身を引いた事もあり、今知られているものが少ないのが残念。

今見てもそれなりに面白い作品がない訳でもないからだ。

この時期の染五郎さんは若いのはもちろん、かなり気難しそうな顔をしておられ、いわゆる優男タイプではない。

余談だが、六条河原の処刑の見物人の中に黒部進さんがいるように見える。
▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼
1964年、宝塚映画、南条範夫原作、木村武脚色、 稲垣浩脚色+監督作品。

東宝マーク 宝塚映画ロゴ タイトル(横に流れる動きが付いたカラーバック)

大坂夏の陣 最後の日ー 煙に包まれた大阪城(のミニチュア)

徳川家康の本陣へ幾度か反撃を試みた真田幸村の軍勢もついに崩れ去り、幸村戦死の悲報は大阪方全軍に広がった。

勝ちに乗じた徳川勢は城内に入り、難攻不落を誇った大阪城ももはや落城の時を待つばかりであった…(とナレーション)

攻め入る徳川軍。

大砲の砲撃で崩れ去る城壁や橋。 銃撃隊の攻撃 そんな中、樽から水を口に含み、刀に吹きかけた草薙修理(佐藤允)は真田の陣も破れた…、俺の軍勢も浮き足立っている…、これまでか!と嘆く。

そこに集まって来た仲間が、草薙の持っていた二つの御璽を見て、修理!大したものだ、大した手柄じゃと褒めるので、いやあ、名のある奴だろう…と答えると、勝ち戦なら五千石と言う首だが、もはや三文の値打ちもなくなった!と吐き捨て、首をその場に投げ捨てる。

陣地で敵を待ち受けていた大阪方の兵は、今日はどうなったるんだ、当分ダメだ!などと話あっていたが、1人が、蝉の野郎め、良く鳴いておるわ…とぼやくので、戦のように思えんな…と仲間も言う。

こう着状態の中、兵は疲弊し、ああ、苦しい…と泣き出すものも出る始末。

飯は出来たか?腹が減っては戦は出来ん!などと兵糧係の元へやって来た侍が聞くので、おぬし、まだ戦うつもりか?と聞く兵糧係に、おう!と言いながら、出来ていた握り飯を取って頬張る。

落城だと言うのに初めてうまい飯が立てたぞと飯炊き武藤満太(戸上城太郎)が言うので、腹を斬る前に飯を食わす気か、おのれは?と鷲尾九十郎(稲葉義男)が聞くと、俺のような腕の立つ勇士に飯炊きを頼んだ方が悪いのだと答える。

俺は腹を斬らす前に飯を切らすのかと聞いてるんだ!と鷲尾が怒りながら聞くと、腹を斬ろうが斬るまいが俺の知った事か!腹を斬る?それはお前だ!俺は飯炊きだ!と飯炊き武藤は言い返す。

そんな落城寸前の大阪城を石垣の所から見ていた深見重兵衛(六代目市川染五郎)に近づいて来た奥野久之助(夏木陽介)が、ぐずぐずすると逃げ後れるぞと声をかける。

どうするんだ、おぬしは?おい、おぬしは行くのか、行かんのか?と焦れた奥野から再三聞かれた深見は、あの立派な城でさえ崩れ去るんだ…、人間なんて小さなものだな…と答える。

この大きな城と死んでも本望だ!と深見が言うので、正気か?と奥野が聞くと、今小気な奴がいると思うか?と深見は問い返して来る。

何の恩も義理もないこの城と死ぬのはキ○ガイ沙汰だと奥野は言うと、久之助、おぬしは夢のない奴だな~と深見は苦笑する。

しかし奥野は、夢では生きられん、俺は生きる事しか考えてないのだ、死ぬ事を考えて何になる?と答える。

この歴史の中で死ぬのも一生だ、どうせいつかは果てるんだ、俺は死ぬよ!と深見が言うので、じゃあ逃げないのか?と奥野が聞くと、俺は腹を決めたんだ、戦うだけ戦った…、短い一生だったが好きな事もした。

負け戦に加わったのも運命だと諦めればば気も晴れ晴れして来る。

おぬしは死ねそうもない奴だ、逃げるんならどうぞおかまいなく、どうぞ…と深見が勧めるので、奥野が荷物をまとめてその場を立ち去ろうとしていると、おい!貴様ら、逃げる相談か!と呼びかけて来たのは草薙だった。

意気地なしめ!武士の端くれなら、何故敵陣に斬り込んで潔く戦わん!と言うので、俺は死ぬのはいやだ…と正直に奥野が言うと、重兵衛、貴様もか!と草薙は迫る。

すると深見は、俺は切腹に決めたと答えたので、何?腰抜けどもが!と言いながら草薙は深見の方を揺すぶって来る。

俺は腰抜けか?と言う深見に、同じ死ぬ気なら俺と一緒に来い!と言い、草薙は深見を引っ張って行こうとする。

そんな深見を止めた奥野は、いっぺん死んだらお終いだ、俺と一緒に逃げろ!と深見の腕を取ると、戦うのも逃げるのもいやだ!と言いながら深見は2人の手を振り払い、やっぱり切腹にするよと言い張る。

貴様ら~!と草薙が怒鳴りつけようとしたとき背後で爆発が起きる。

壕で待機していた兵の中には狂気に見舞われ叫び出すものまで出る。

どうだ?やるのかやらぬのか!と鷲尾は飯炊き武藤に突っかかっていた。

貴様も相当悪者だな?と武藤が感心すると、どうせこの城にいたって敵に捕まれば打ち首だと鷲尾は笑う。

俺に手伝いしろと言うのか?と武藤が聞くと、生きるのに裏切りもとんぼ返りもある物か!巧く行けば出世の糸口だ…と鷲尾は武藤の襟首を掴み囁きかける。

うん、命が助かるならやってもみるが、一体何をやるんだ?…と武藤も態度を変える。 千畳敷に火を点けるんだ…と鷲尾は提案をし、武藤は驚く。

大阪城内では、自暴自棄になった男たちが女たちを襲っており、男に組み敷かれていた菊里(久我美子)が、姉上!と声をかけて来た小里(星由里子)に、小さと!速く逃げて!と呼びかけていた。

外では、まだ草薙が迫り来る敵に孤軍奮闘していた。

城の中で、男に犯され泣いていた菊里の前に立ち上がった相手の男は、悪く思うな…、これで思い残す事はないと満足そうに言うと、そのまま1人腹をかき斬って果てる。

それに気付いた菊里は愕然とする。

一方、深見は、いつまでも去らない奥野に、まだまごまごしてるのか、貴様?と聞いていた。

まごまごしてるのは貴様だろうと奥野が言い返すと、どこか見晴らしの良い死に場所を探しているんだ、何せ一世一代の事だからな…と深見は言い返す。

巧いこと言うな、俺は貴様の切腹を見届けんと安心して逃げられんのだと奥野は言う。

その頃、松明を持った鷲尾は、油壺を持ち込んだ武藤に早くしろとけしかけていた。

武藤は油を立てかけた襖にかけていたが、その時、狼藉者!と仲間たちが駆け込んで来たので、思い切って松明を投げた鷲尾たちは、火事だ!と騒ぎ始めた仲間たちを突っ切り脱出する。

千畳敷から火の手が上がった事に気付いた深見は、おい、急がんと危ないぞと背後から忠告する奥野に、ではこの辺でやらかすかと言うと、座り込んで腹を斬る準備を始める。

煙の中からよろめきながら出て来た男に気付き、野々村様!と駆け寄って来た小菊は、野々村が若君国松を抱いている事に気付き驚く。

わしはもうダメだ…、そなたに頼む!と野々村は小里に若君を託す近江の石山に山田六左エ門と申すものの家がある。

そこへ若君をお連れ申せ、国松君の乳母の里だと言うので、きっとお連れもうしますると小さとは答える。

万一のことがある、若君と共に死ぬのだ、決して敵に若君を渡すでないぞ…と言い残し、野々村は息絶えてしまう。

命に代えても必ず…と小里は答えるが、その時、黒装束の忍びが2人、小里の側に降り立ち、いきなり若君をさらって行く。

若君!と慌てて後を追う小里、爺!小里!と叫ぶ国松。

くせ者!と叫ぶ小里の声と自分たちの方へ近づいて来た忍び2にんを発見した深見と奥野は、驚きながらも刀を取ってその前に立ちふさがる。

くせ者!捕えておくれ!と言う小里の叫び声の中、奥野と深見は忍びと戦い始め、小里は何とか国松を取り戻す。

奥野は、煙玉を相手に投げられ、おのれ、忍術!とひるむが、深見の方は忍びを1人斬り殺す。

斬られた忍びは自分の顔を自分で斬りつけ正体を分からせないようにする。 深見は奥野が苦戦していたもう1人の忍びに立ち向かうが、組み伏せようとして、相手が女である事に気付く。

そのくノ一は織江(水野久美)だった。 大きくジャンプして石垣の上に飛び乗った織江は、良くも父を…、伊賀者の周年で必ず討ち果たしてやる!と深見に言い残し姿を消す。

そんな織江を唖然と見上げていた深見と奥野に、お味方の衆とお見かけしてお願いがあります、私たち2人を大見までお連れくださいと国松を抱いた小里が声をかける。

ちょっと待ってくれ!と深見は言い返そうとするが、お願い、そなたもこの城で働いたものなら嫌とは言えぬはずと小里が言うので、そなたは?そしてその子供しは?と深見が聞くと、このお方は国松君…と小里は教える。

それを知った深見が、若君!と驚きその場に跪くと、重兵衛、どうやら切腹は出来んようになったらしいな…と奥野も控えながら囁きかける。

国松を負ぶい石垣を降りて逃げていた深見は、死体漁りをしている奥野に、久之助!ぐずぐずするな!と呼びかける。

しかし奥野は、まあ待て!待て、ここまで来たら急ぐ事はない、これから先は金がものを言うのだと言い、死体が持っていた巾着袋を差し出しながら言う。

ぐずぐずするな!速く!と深見は急かすが、こいつ、死ぬまでこんなに金を持ってどうするつもりだ、馬鹿者どもが…などと言いながら、まだ奥野は巾着袋を集めていたが、そこに敵が近づいて来たので、慌てて逃げ出す。

一方、森の中に逃げ延びていた菊里は、茫然自失で草薙修理がふらついているのに遭遇していた。

お情けないそのお姿…、菊里でございます!修理様!と呼びかけるが、草薙が応じないので、菊里は思わず泣き出してしまう。

そこに近づいて来た敵兵たち3人が、城の奴だ!あ、女だ!と気付いて2人に近づき、菊里を捕まえると、あんな死に損ないは放っておけ!と言いながら、菊里を連れ去ってしまう。

避難民の列が続く道ばたで、平民に変装し終えた奥村は、重兵衛、俺はここで別れるぞと言うと、役に立つから持ってけと巾着袋を1つ深見に手渡す。

すまんな…と深見が礼を言うと、どうせ俺の腹は痛まん金だ、礼は死んだ奴に言ってくれ、おぬしが死ななかったんで救われた気持なんだ、俺は…、長生きしろよ…と奥野が言うので、俺は死んでみせるぞ、必ず…と深見が言うと、ワラッや深見は何の為に死ぬんだ?もうあんな死に場所など見つからんぞと奥野は言う。

深見が国松を抱いている小菊を見ると、すみませぬ…と小菊は詫びる。

今度会うときは変わった姿でお目にかかると思ってくれてんと言いながら立ち上がった奥野は、避難民の列に紛れて離れて行ったので、深見も国松を抱いた小菊を誘い、避難民の列の中に紛れ込んで旅を続ける事にする。

その頃、とある屋敷の部屋で鷲尾と待たされっぱなしだった武藤は、いつまで待たせる気だ!命を助けるなどと言いおったが、騙すつもりじゃないだろうな?と焦れていた。

びくびくするな、先の出方でこちらも目算がある…、出来るだけ大きな面をしているんだと鷲尾は言い聞かせる。

そこに三宝を持って入って来た家人に曽我又左衛門(平田昭彦)が付いて来て、これは諸国を通行できる割り符だと2人に告げる。

両名の神妙な訴えによって格別のお示しじゃ、大阪方残党としての罪も問わん、いずれの大名に仕官するも勝手、ありがたい御沙汰と思うが良い…と曽我が言うので、ではこれが我ら両名へのご褒美と言われるのですな?と鷲尾が笑いかける。

文句があるのか?と曽我が聞くと、大いにござる!と憤慨した鷲尾は、小悪党め!と言う曽我に、何が小悪党だ!我々が千畳敷に火を放った故、本丸は混乱し、お味方を有利に導いたのではないか!いわば我々は殊勲者だ!罪人扱いを受けるとは思わなかった!当日の味方は二の丸しか責め取る事が出来なかったのでござるぞ!もし我々が火を放たなかったなれば…と鷲尾は言い放つ。

それを聞いていた曽我は、黙れ!と一喝し、己ら命が助かりたいばかりに城に火を放った武士の風上にも置けぬ外道!取り扱いが気に入らんなら気に入るよう、罪人としてその首をはねてやろうか?と迫る。

家人たちが2人の周囲を取り囲むと、我ら2人の首をはねても事はすまぬぞ、賞罰の見分けも付かん関東方とは思わなかった!城を去った豊臣方の御行は数万、やがて巻き返しを起こすであろう!豊臣の時代が来る!必ず来るぞ!と鷲尾はふてぶてしく言い放つ。

あやつなかなかの痴れ者にて、秀頼公は存命などと公言…と阿部備中守(香川良介)に曽我が報告すると、 秀頼は御自害されてないと申すのか?と阿部は面白がり、ともかくで鎌瀬を申すキ○ガイ…と曽我が言うと、おもしろい、又左衛門、その小悪党殺すでない、金を与えて使うのだと阿部は命じる。

その頃、避難民の列を離れて旅を続けていた深見と小里は、関東方の捜索隊に遭遇していた。 捕えた者には褒美を取らすなどと捜索隊の頭は命じていた。

深見はその乳母の里へ行くのは危ないと思うがな…と深見が言い出すと、俺なら、どこかの寺へでもお預けして、世の中の落ち着くのを待つな…と提案すると、いいえ、そんな事は出来ません、他の人とは違います、大事なお方ですと小里は言う。

大事なお方だから言っておるのだ!と深見が言うと、どうしてもお届けせよと言いつかりましたと小里が言い返すので、敵に渡すなとは言われなかったのか?と深見は念を押す。

俺は用心棒だからそこまで立ち入る必要もないが、とにかく日暮れまで待とう!今は危ないと言い、小里とともに、草むらの中に座り込む。

日が暮れて、国松をおぶった深見と小里は乳母の家に到着するが、案の定、敵軍の見張りが外で待ち構えていた。

それに気付かず、2人は国松を乳母に会わせるが、せっかくお立ち寄りになりましたが、すぐにお発ちにならないとお危のうございます、このうちは敵の役人に囲われています、速く、早くお逃げくださいまし!と乳母の亭主(内田朝雄)が言うので、小里は驚く。

そら見ろ!と深見は小里に言い、国松を再びおぶって出ようとしたとき、いきなり入って来た敵兵と遭遇し、深見は戦い始める。

逃げろ!と小里に声をかけた深見だったが、裏から茂木が乗り込んで来て、国松君を捕えろ!と敵の頭が命じる。

小里は抵抗するが、あっさり敵兵に奪われてしまう。 深見はとりあえず小里を守って、敵と斬り結びながら外に逃げ出す。

深見と小里は森の中の物置小屋に身を隠す。 外には2人を捜す敵兵の姿が見えていたが、そんな中、小里は、国松を助けなくては!と再び飛び出そうとするので深見は助けられると思うか!と止める。

しかし小里は、放っといて!このままでは申し訳がございません!などと我を張るので、捕まったのは罠にかかっただけだ、そなたの罪ではない!と深見は言い聞かすが、いいえ、私はどうしても!と小里は言う事を聞かないので、何度も何度も藁の方へ押し戻し、小里がビンタして来ても動かず、最後は疲れてしゃがみ込んだ深見の頭に、側にあった桶をぶつけて来る始末。

それでも国松を助けに行けぬと悟った小里は悔しさに泣き出す。

若君を助けると言ってどこをどう探すんだ?女のか弱い足で…と深見が聞くと、必ず敵に渡すなと言われました…と小里が嘆くのでそれが渡ってしまったんだと深見は言い聞かすが、万一の事があれば共に死ねと言われました!私、死にます!と小里は言うと、側にあった鎌を手に取ろうとするので、こら!死んでどうするのだ!と鎌を奪い、深見は叱る。

申し訳を致します!と小里が言うので、誰に?何の為にだ?と深見は聞くと、私はこの心にお詫びを致しますと小里が言うので、それは立派な志だ、だが、そなたに頼まれたお陰で死に損なった俺はどうなる? 俺はせっかくの死に場所を逃してしまった。

そなたは自分の心に申し訳をすると言ったが、始めっから俺の事など勘定に入れてなかったんだな?ただの御雑輩、物の数ではなかったんだな?と深見は責める。

俺には一言の礼も言わず、自分勝手に死ぬと言うなら死ぬが良い!と深見は冷たく言い放つ。

それでもなおを、立ち上がって出て行こうとするので、当て身をくらわし気絶させた深見は、手間のかかるお姫様だ…と嘆く。

そして、小里の足を縄でしばると、近くの農家に進入し、怯える家人に対し、騒ぐな!物取りではない、握り飯を作ってもらいたいんだ、それから、女…、この着物を脱いでくれと頬かぶりをした深見が言い出したので女は怯えるが、金は払うと言い小判を囲炉裏端に投げ出す。

その頃、奥野の方は町に出て古物商相手に、捨て値にしても20両の品だと刀を見せていた。

しかし古物商(谷晃)は、戦の前ならそうかもしれまへんけどな、今はあきまへんわと言うので、じゃあいくらだ?と聞くと、まあ…と言いながら指三本出すので、バカな!仮にも関の唐草だぞと奥野が抗議すると、あんさん、所司代からの御達しご存知おへんのか?と古物商は聞いて来る。

盗電の売却を申し出た者は内密に届け出よと言う…、あてらそんなアホな事せえへんけどな…、どうどす?3両で…と笑顔で古物商が言うので、良し、その代わり、お前の店の前3間ほど貸してもらいたいと申し出た奥野は、古物商の店先で、自分が持っていた着物類の大安売りを始めたので、むちゃくちゃ屋がな、あんた!と主人は文句を言う。

すると奥野は、20両の刀3両で売ってやったんだ、文句言うな!と言い返すと、店先の台に置いてあった壺を主人に私、そこに自分が腰掛けると、易いよ、バカみたいに安いよ!どうだ?これもかわないか!等と言いながら、自分が着ていた着物までその場で脱いでみせるので、壺を抱いた主人はあっけにとられる。

その頃、地蔵が立っている場所まで来た小里は、付いて来た深見に、お願い、どうか私の好きにさせて下さいと頼んでいた。

草鞋を結び直していた深見は、仕方がない…、しかし都へ行っても、若君を取り返す事は難しいぞと諭すと、では達者でな…と別れの挨拶をする。

それに気付いた濃さとは、貴方様は?と聞くので、これからどうするか考える、戦がすんだら何だか頭の中が空っぽになってしまって先の見通しもなくなった…と深見は答える。

どうぞご無事で…と小里が会釈すると、かたじけない…と答え深見が立ち去ろうとすると、もし!と小里が呼び止め、お名前を聞くのを忘れておりました、私は古里と申します…と言うので、小里殿か…、良い名だ…、わしは深見重兵衛!覚えておいて下さる必要もないと思うが、では…と会釈し立ち去って行く。

その直後、深見に投げ縄を投げて来たものがいたので、何者!と深見は抵抗し、小里も異変を感じ、側の地蔵の背後に身を隠す。

深見に縄を投げたものは、側にあった木に深見を縛り付け、早くやれ!ともう1人の人物が近づいて来る。

とうとう捕まえたぞ!と声をかけて来たのは織江で、縄で深見を木に縛り上げたのは忍び仲間の大次郎(久保明)だった。

お前は!と驚く深見に、伊賀者は執念深いと言ったはずだ!大次郎、しっかり縄を引けと織江は命じる。

覚えているか、父を殺した事を!と織江が言うので、あれは戦の中の出来事だ!と深見が答えると、伊賀者はいつも戦だ!と織江は言い返す。

何故尋常に勝負をしないのだ!2人がかりで、しかも人を縛り付けて置いて敵討ちとは卑怯だぞ!と深見が睨みつけると、いつも身の安全を図って戦うのだ!と織江は嘲笑する。

そこの女、この男がどんな姿で死ぬか良く見ておけ!と織江は地蔵の後ろで様子を伺っていた小里にも語りかける。

良いか、これをお前の顔と胸に撃ち込んでやるんだ…と言いながら、織江はくないを取り出し、投げつけようとしたそのとき、織江の右腕に飛んで来た棒が当たり、邪魔が入る。

大次郎と織江は、棒を投げて来た虚無僧に飛びかかって行くが、敵わぬと気づくと、織江は煙玉を投げ、大次郎と共に逃げ去る。

縄を逃れた深見に近づいた虚無僧は、大阪方の残党らしいな?と言葉をかけてくる。

おのれは何者?何で伊賀の邪魔をした?と深見が聞くと、邪魔?おぬし死ぬ気だったのか?と虚無僧は不思議そうに答える。

どうせ切腹をし損じたものだ、仇となって討たれてやっても良いと思っていた深見が言うと、命を粗末にする奴だ…、たわけ!と笠を少し持ち上げ虚無僧は叱りつける。

すると屈辱されたと感じた深見が、藁に包んで隠し持っていた刀を抜いて構えて来たので、腹が立ったか?と虚無僧は言う。

そんな2人の様子を、近くの木の背後に隠れて見守る小里。 戦が終わってもこれから何が起こるか分からん、大きな竜巻に巻き込まれて自分の生き方を間違えないよう用心しろ…と、尺八の包みらしきものを構えて虚無僧は言い聞かす。

まず手始めに、あの御女中を一人歩きさせるな!女を守ってやるのも武士の勤めだ…と虚無僧は側にいる小里のことを言うと、そのまま歩き去る。

夜、談笑しながら歩いていた3人の男たちは、前からやって来た侍に気付き黙ってやり過ごそうとすると、おいお前は運の良い方か悪い方か?と声をかけられたので、ロウソクを持っていた真ん中の男が苦笑するが、どっちだ?と重ねて聞かれると悪い方で…と答えると、この世にいても仕方がないだろう、死ね!と言いながら、いきなり相手は刀を抜いて斬り掛かって来る。

悪い言ふても斬る、良い言ふても斬る、そいつに出会うたら百年目や…と、その辻斬りの噂を飲み屋で客がしていると、大阪名物言うたら、辻斬り、夜の女やろう?いやな世の中になったもんやで…と主人も話に加わる。

その話に笑いながら、戦では何万と言う人間が殺されたんだもの…、その恨みだけでも良い世の中にはならないさ…、おじさん、もう一本!と声をかけて来たのは、遊女に成り果て酒を飲んでいた菊里だった。

もう1本?銭持ってるのか?と呆れたように主人が聞くと、ふん!これから稼ぐよ!と菊里はふて腐れたように答えると、ねえ、どう?遊ばない?と客の老人の横に身を寄せて行く。

一方、嫌もクソもあるかい!と馬喰に襲われかけていた小里は、相手の手をひねり手刀を加えて倒していた。

そこへ馬を引いて帰ってきた深見が慌てて馬喰を殴りつける。 川で椀を洗う小里の元に、すっかり馬子になった深見が戻って来ると、いつまでこんな所にいるつもりなんだ?京に行くとおばさまやらの知った家があると言ったくせに…と不満げに聞く。

すると小里は、放っておいて下さい、私は私で勝手に働いているのですから…と反抗的に答えると、あなたこそ、お侍のくせに馬喰の仲間などになって…、いつまでこんな所にいるつもりなんです?と逆に聞くので、俺は好きでやっているんだから放っておいてくれ!と深見も言い返す。

いい加減にこんな場所から去らんと馬喰たちの慰み者になってしまうぞ、一生を台無しにしてしまうぞと深見は言い聞かすと、私の事は…とまた小里が言い返そうとしたので、放っておいてくれか?と深見が言うと、小里は黙り込む。

よ〜し、もう今日ただいま限り、そなたの事は一切構わんぞ、今に俺を…と言っていると、側に3人の行者姿の男がこちらを見ており、深見ではないか?おい!と声をかけて来る。

行者に近づいて行く深見の様子を不安げに見守っていた小里の側に戻って来ると、深見は、城の仲間が秘密で集まる事を知らせてくれた、何か計画があるらしい…と伝える。

それなら若君様の安否も分かるのでは?と小里が言うと、そなたとは又別れられなくなったらしいな…と深見は答える。

秀頼公は薩摩の国へ落ちられた…、それだけの理由がある。徳川家康は今年いくつだと思われる?確か72か3じゃ、いずれ遠からず亡くなる!そのときこそ徳川の天下を奪う機会だと仰せられられるのだ、上様は薩摩で旗を上げられ、我ら残党は天下至る所で蜂起する。

勝たずとも良い!天下をかく乱するに一月かかるときは、加藤、津島、毛利その他の大名が味方して天下の形勢が一変する!と集まった残党たちに報告していたのは鷲尾と生き延びていた元飯炊きの武藤満太だった。

その後、京都所司代より「豊臣秀頼嫡男 豊臣国松」「乳母 常磐」「その夫 田中六左衛門」の3人を市中引き回しの末、六条河原にて斬首するとの高札が都に立つ。

奥野は、くだんの古物商の店先でまだ勝手に衣装類の安売りを続けていた。

ごらんの通り、そんじょそこらで手に入る品じゃないぜ、大きな声じゃ言えないが、大阪城の落城に悲劇に見舞われたお女中が泣きの涙で手放したものだ、男に生まれた甲斐性に一生に一度、手前のかかあに…と言葉巧みに民衆を呼び込んでいた奥野だったが、そこに通りかかった鷲尾と武藤の姿を見ると黙り込むと、側で迷惑そうにはたきがけをしていた古物商の主人を親父!と呼び店を頼むと、2人に近づく。

人気のない場所に来た鷲尾は、所司代の高札を見たか?と聞いて来たので、残党狩りの褒美の金でも出すのか?と奥野が皮肉ると、御いたわしや、国松様は処刑になるのさ…と武藤が教える。

そうか…、やっぱり捕まったか…と奥野が呟くと、太閤殿下秀吉様のたった1人のお孫様…、何としてでも奪い返さねばならん、力を貸してくれんか?と武藤は言う。 すると奥野はおれは商売人だ堪忍してくれと断る。

おぬし、大阪の残党としての一片の真心があればそうは言えぬはず…と武藤が言うと、仰々しい物言いは止めてくれ、飯を炊いていたおぬしがどんな風の吹き回しでそんな格好をしてるか知らんが、人に一片の真心を問う前に己に聞いて見ろ…と言いかけると、貴様、先生に対して!と鷲尾が口を出して来たので、先生?と奥野は驚く。

いや…、おぬしはあの時代の拙者しか見ておらんからの…と武藤は、いっぱしの武芸者のような顔つきで答える。

銭儲けの話なら聞くが、そんな話に時を過ごすのは惜しい、せっかくだが すると鷲尾が、大事を打ち明けたのだ、無事に暮らせると思ったら大間違いだ!と鷲尾が立ちはだかるが、止せ九十郎と武藤が制すると、おぬしとは金の事でこれからは話し合う事にしようと奥田に言う。

その後、深見に誘われた小里も参加した集会では、また武藤が、御いたわしや年端も行かぬ若君を流罪ならともかく、打ち首の処刑とは鬼か蛇か!おのおの方はこれを何と見る!と集まった残党たちを鼓舞していた。

しかも町民たちの面前でこれを行なうは天下に徳川の武勇を示そうと言う意味があるのだ! ともすれば刑場から我々残党が若君を奪い返す事は逆に豊臣の武勇を示す事になる! そればかりか、徳川家康や将軍秀忠の寿命を縮める事にもなるのだと武藤が言うので、流刑場からお助け申しても長い年月に渡ってお育てする用意があるのか?と深見が聞くと、もちろんそれは他の同志に任せる事にし、ここにお集まり願ったご一同には命を捨ててもらわねばならん…、後3日! その三日間に1人が3人の同志を集めて下さるなら総勢100人を超える事になる。

さすれば実践で鍛えた各々方、成功疑いなしじゃ…と武藤は説得する。

その後、武藤と鷲尾は、まず当日5〜60人は集まるはず…と曽我又左衛門に密告していた。

いずれ行者、山伏や僧侶、町人などに姿を変え、六条河原の降り口に陣を構えて待ち構える山伏のホラを合図に斬り込む手はずになっておると武藤は報告する。

では、お味方の伏兵はその向い側に法華太鼓の列を作りそこに鉄砲槍組を忍ばせ山伏のホラ貝を合図に撃ってでて…と鷲尾が計画を打ち明ける。

処刑当日、法華太鼓の背後の掘建て小屋には鉄砲隊が隠れていた。

そんな事とは知らない深見は小里を連れ六条河原に紛れ込んでいた。 織江も大次郎を連れ群衆の中に忍び込んでいた。

やがて国松たち処刑者が刑場に連れて来られ、見物客たちの中には合掌してしゃがみ込むものも出て来る。 鷲尾と武藤も笠をかぶってにやつきながらその場に来ていた。

小里は、馬に乗せられ近づいて来た白衣姿の国松の姿を良く見ようと群衆の中で目をこらしていた。

幼い国松の姿を見た老人たちの中には泣き出すものも現れ、小里も見るに耐えなくなり思わず深見の背中に目を伏せる。

その時、山伏太刀のホラ貝が一斉に鳴り響く。

山伏に身をやつしていた残党たちがこれを合図に飛び出すと、法華太鼓の背後に控えていた雑兵たちも飛び出し、河原は大混乱になる。

見物客は一斉に逃げ出す中、野武士に化けていた残党は次々に斬り殺されて行く。

残党たちはほとんど嬲り殺しに近かった。

深見を飛び出そうとするが、なりませぬと小里が止めようとするので、何故止める!と深見は抵抗する。

深見が隙を見て前に出て刀を抜くと、小里も側に付いて行き懐剣を抜いて敵に立ち向かう。

それに気付いた織江は、大次郎、敵に渡すな!と命じ、自らも戦いの中に飛び込んで行く。

深見が雑兵に捕まりかけると、側で煙玉を焚いて敵を攪乱し、傷ついた深見を抱えて逃げ出す。

小里も1人果敢に戦っていたが、そこに近づいて来たのがいつぞやの虚無僧だった。

虚無僧は尺八で雑兵をいなし、小里はその隙に逃げ延びる。

その後、役人たちは尼寺に残党が逃げ込んだとの情報を受け駆けつける。

応対に出て来た秀月尼(草笛光子)は、ここは清浄な尼寺でござるぞ、不浄な役人が勝手に立ち入る事は出来ませんと叱りつける。

お言葉なれど、貴方様が匿ったのを我々は確かにこの目で見たのだと役人は言う。

あの女子は豊臣方の落人、それもただの落人ではない、今日刑を受けるはずの豊臣国松を奪い取ろうとした代罪人の一味!隠し立てなさると一大事となりましょうぞ…と役人は説明する。

すると秀月尼は、あの娘は確かにこの寺におります。しかし尼になりたいと申し出て参ったもの故お渡しする訳には参りませぬ、仏門に入るものを引っ捕らえる事が出来ぬと言う事、ご存知のはずだと思いますが?と静かに言うので、役人は、なるほど…、尼になるものを捕える訳にはいかん、だがその事真実でありましょうな?と聞くと、確かに…と秀月尼は答える。

我らを偽って逃がそうとなさってもそれは出来ませぬぞ!寺の回りは厳重に見張らせますと役人は念を押すと、配下のものを見張りに向かわせる。

役人たちが去ると、奥に隠れていた小里が出て来たので、小里!と秀月尼は呼びかけ、小里もおばさま!と言いながら跪く。

苦労したと見えますな、戦があるたびに女子は哀しい想いをします。 15年前、関ヶ原の戦の後、私は19…、今のそなたと同じようにこの寺へ逃げてきました…と秀月尼は明かす。

妻と鳴り母となる喜びを捨てててんと言い感極まった秀月尼はひしと小里を抱きしめる。

一方、鷲尾と武藤は曽我から三宝に乗った小判を見せられ、その金子はこの度の褒美ではないぞ、豊臣家再興の軍資金じゃ、今後とも今日、大阪におる残党を饗応致せと言われたので、あれだけ誠を示したのにまだ我々が信じられんと言う訳ですか?と鷲尾が不満を口にすると、言うな、お目付役は物わかりの良いお方だ、黙って頂戴致せと横に座っていた武藤が諌める。

大阪の夜の道、ちょいとお侍さん!と声をかけた菊里は、貴様、運が良い方か悪い方か?と問われ、さあ?夜の辻に立つ女に幸せがあると思うかい?と答えると、運が良い方か悪い方か?女!答えるのだ!と又問いかけられる。

笠をかぶったその辻斬りは草薙で、相手が菊里と気づくと愕然とする。 このような姿の私が運が良いと言えるかしら…、お前様も同じように…と菊里が言うので、菊里…、そなた…と草薙は絶句するが、けれどお互い生きてられるのはまんざら運が悪いとも言えないでしょうと菊里はさばさばしたように答える。

しかし笠を取った草薙は、バカもん!こんな…、こんな姿で…!と草薙が嘆くと、お前様、哀しいの?と菊里は聞いて来る。

草薙は正直に、哀しい…、こんな姿のそなたと会うなどと…と答える。

辻斬りの痩せ浪人と夜の女とどう違うと言うの?私には過ぎた過去など消えた夢なの…と菊里は言う。

ただ…、生きる為なら何だって良いじゃない…と言った菊里は、来る?一緒に私の小屋に…と問いかける。

人間もいざとなれば犬みたいに巣を作るのよ…、汚れた身体を隠さなければならないから…と言い草薙を連れて来ると、これが私の小屋…、中に私のヒモがいる…と菊里は家の前で教える。

私を働かせて酒と博打。怠け者のウジ虫よ…と言う菊里の説明を聞きながら小屋の中に入った草薙は、中に板2人に気付く。

ヒモの男と相棒はいくらか稼いで来たか?と菊里を引っ張り込もうとするが、その背後から姿を現した草薙に殴り倒される。

菊里はヒモに、私の昔なじみさと草薙を紹介すると、2人で話があるんだから、お前たち出ておゆき!さあ、さっさと出ておゆき!と菊里は命じる。

2人のヒモは刀を抜き草薙に向かって来るが、死ぬのが嫌ならお止し!と菊里は外に出された2人に警告する。

しかし2人は草薙にかかってきたので、そのまま近場で2人とも草薙にあっさり斬られてしまう。

小屋の中で鏡を見て居住まいを直していた菊里は、帰ってきた草薙に、始末は付けたの?と聞く。 草薙が黙って頷くと、戸を閉めてこっちへ…と菊里が誘う。

草薙が刀を抜いて中に入って来ると、菊里は灯火を吹き消し、草薙にしなだれかかる。

城にいた時とは変わったな…と草薙が語りかけると、菊里は死にました…、5月7日のあの戦で…、大阪城と共に死にました…、ここにいるのは名もない行きずりの女…と言いながら菊里は草薙に微笑みかけ、さあ、私を抱くのよ、お前の勝手にするのよ!と命じる。

しかし、その身体を振り払った草薙は、何故生きていたのだ、何故!と問いかける。

大阪城にいた菊里はこんな女じゃなかった!と草薙は嘆く。

若侍はみんな騒いだ…、俺もな…、浪人ものの倅が初めてお城に仕えてそなたを見た時、竜宮城で乙姫にあったようなものだ…、早く手柄を上げてあの女を妻にするような身分になりたい…、それが出来ないときは討ち死にしても仕方なかろう…、そう思って俺はいつの戦にも遅れをとるまいと戦って来たんだ!と草薙は言う。

あなたが手柄を立てて帰った時、戦が負けていてもうれしかった…、けれどあの落城の日、名も知らぬものに私が操を奪われ、その男は私の目の前で死んでしまった…、それからの私はこの世の男と言う男を呪ってやろうと思って…、色んな男に抱かれながら男を嘲り笑ってやろうと思った…と菊里も昔語りすると、いきなり立ち上がった草薙は小屋の外へ出て行ってしまう。

後に残った菊里は悲しむ。 とある五重塔にやって来た大次郎は、入り口の前で合図の音を鳴らし扉を開けさせると中に入ると、何じゃ、まだ片をつけんのか?と織江がまだ深江を生かしたままでいる事を知って聞く。

織江は、やりたい時にやるさ!これでどこに逃げられると言うの?と、仏像が安置してある台座の横に縛られている深見を見ながら言う。

大次郎は刀を抜いて、鞘で深見の胸を軽く叩き、早く片をつけぬと情がうつるぞと織江に忠告するが、織江の表情を見て、姉!お前、もう情がうつっとるのと違うか?それで殺せなくなったのと違うか?と問いつめる。

黙れ、ガキのくせに!と織江が叱ると、お前が殺せねば俺がやってやる、いつまでもあんな奴に構っておれん、放せ!と大次郎は言うが、何をする!お前はわしの言う事が聞けぬか!と織江は必死になって弟を止め、頬を叩く。

そして、大次郎を外へ連れ出した織江は、大次郎、本当のことを言う、わしはあの男の子が産みとうなったのだと身悶えしながら告白する。

やっぱり…と大次郎が呆れると、わしらの母もそうしたと織江は言う。

伊賀者の男は子供の出来ぬ身体に鍛えられるので、旅人から子種をもらわなければならなかった…、わしもお前もそうして生まれた!と言う織江に、だがあいつは父の仇だ!姉は仇の子を産むつもりか!と大女郎は反論する。

しかし織江は、好きになったのじゃ、あの男が…と苦悩を打ち明けるので、どうして!と大次郎は聞くが、許しておくれと織江は言うばかり。

大次郎はそんな兄の襟首を掴み突き放すと、魔が差したんじゃな?女は魔性なんじゃな?と悔しがる。

柘植一族の為じゃ、姉、あいつの子を産め!としばし考えた末大次郎は言い出したので織江は驚くが、そう言いたいが、俺は嫌だ!と言って大次郎はその場を去ろうとする。

どうする?と織江がすがると、殺してやる!と大次郎は言うので、いけない!と止め、塔の外で姉弟のたやかいが始まる。

姉!と呼びかける大次郎を綱で縛り上げた織江は、縛られている深見の所に戻ると、お前、私ともう一度会う約束をしておくれ!と言い出したので、何故そんな…?と深見が聞くと、私はお前が好きなのだ、もう一度会う約束をすれば助けてやると織江は打ち明ける。

山刀で捕縛を切った織江は、早く逃げて!と深見に勧める。

きっとだよ、もう一度!と約束させ、寺の外で抱きしめた織江は、綱を解こうとしていた大次郎の身体を押さえ、深見の逃げる時間を稼ぐ。

町に出た深見は、聞いたか?豊臣の残党が20何人も捕まったそうだと言う町人たちの噂話を聞く。

何でも飯屋に集まっていたのをお役人が押し掛けて捕まえたんだと… 夕方、橋の上に来た深見は、水面に小里の面影を思い浮かべていた。

そんな深見に近づき、ちょっと、私と遊ばない?と声をかけて来たのは菊里だった。

何してたのさ?女を捜してたのと違うのかい?と菊里が笑顔で近づいて来たので、そうだ、女を捜していたんだと深見が言うので、そうれごらんと菊里がからかうと、だが俺が探しているのはお前のような女じゃない…、すまん、悪く思うな…と深見は詫びる。

そこに、おぬし、運が良いか悪いか?と言いながら頬かぶりをした草薙が近づいて来る。

驚いた菊里が何か言おうとすると、下がっていろ!と草薙は言う。

辻斬りだな?と気付いた深見は斬り掛かって来た草薙と戦い始める。

待て!と深見が呼びかけると、命を助けろか?そうはいかんぞと草薙は言う。

その声が聞きたかったんだ、聞いたことがある声だからだ、おぬし、俺の声に聞き覚えはないか?と深見は相手に呼びかける。

ない!あっても昔の事は忘れた!と草薙が言うので、待て!おぬし、修理ではないか!草薙!と深見は気付く。

それでも草薙が斬り掛かって来るので、剣を交えながらも、生きていたんだな、おぬし、討ち死にすると言っておったが…と深見は喜ぶ。

俺は立派に戦った…、最後まで戦った…、共に戦って死ぬ事ができなかった、おぬしは切腹すると言いながら何のざまだ!と草薙は言い返す。

俺も武運拙く…と深見が答えると、良し、では俺が!と草薙が言うので、待て待て!何故人が斬りたいのだ?と身を離した深見が聞くと、憎いのだ、人間どもが!と草薙は答える。

良い奴も悪い奴もか?と深見が聞くと、くどい!と草薙が腹を立てたので、おぬし、本当は心が弱いんだ!と深見は見透かす。

心が強ければ憎い奴を殺すはずだが、おぬしは弱い奴も殺す、自分の気に入らん奴は殺す、それは心が弱いからだと深見が言うと、起こった草薙は黙れ、黙れ!と言い、深見に背を向ける。

なぜだ?斬り損じた…といつかきっと斬ってやるぞ!と言い残し草薙は立ち去って行く。

菊里は深見に近づくと、良い事を言ってくれたね、ありがとう…、あんた…、女を捜していると言ったね?と聞くと、名は小里、大阪城にいた人だが、その人が見つかったら重兵衛が探していたと伝えてくれと深見が言うと、菊里は驚き、重兵衛さん、その人を探すなら、京の都の立花寺を訪ねてごらん、いるかもしれないと教える。

立花寺?と深見が驚くと、その女、そのお寺の尼さんだから…と菊里は言う。

それを聞いた深見は、全体あんたは誰なんだ?と聞くが菊里は答えなかった。

翌日、尺八の音が聞こえている立花寺では、髪を斬ろうとする秀月尼に、どうしても出家せねばなりませぬか?と小里が聞いていた。

むごいようじゃが、そうしなければそなたの命が危ないと秀月尼は言い聞かせる。

すると小里は、秀月尼様、私には心に想うお方がございます。どうしても出家は嫌でございますと手を付いて詫びる。

約束したの?そのお方と…と秀月尼が聞くと、いいえ…、でも私は心で…と小里が打ち明けると、小里、そなたはここを出て、嵐の中に飛び込んで行くと言うの?と秀月尼が念を押すと、はい、小里は女子で生きとうございますと答える。

命を失うても?と秀月尼は問うが、小里は、はい!と答えるが、その時寺の中に入って来た虚無僧が、可憐な花を散らす事もなかろう?と声をかけて来る。

笠を取ったその男は明石守重(三船敏郎)だった。

小里は怯えて身を隠そうとするが、秀月尼は、まあ、ご無事でございましたか!と明石の顔を見て喜ぶ。

すると明石は、今は無事だが、この首には賞金がかかっておる…、だからこんな姿だ…と答える。

このお方は?と恐る恐る秀月尼の背後から小里が聞くと、叔母上の夫となるはずだった男だ、明石嘉門!と明石が答えたので、小里は驚く。 明石が上がり込むと、お互いいばらの道を踏んで参りましたと秀月尼は言う。

今度の戦いで豊臣家は滅びるのでございましょうな?と秀月尼が聞くと、滅びる!と明石は即答する。

天下は徳川のものになるのでしょうか?と秀月尼が聞くと、世の中はもう豊臣でも徳川でもどちらでも良い、戦がなくて楽しく暮らせたら…、そう云う時代になって来た…、わしもそう思う…と明石は言う。

それを聞いた秀月尼が、ご自分の城も、親御、お兄弟、何もかも犠牲になされたお殿様が…と驚くと、無情を悟ったと言う訳だと答えた明石は、小里と言ったな?あの若い男はどうした?町へ出てあの男を捜せ!一生一度の恋を取り逃がすな!俺たちのように…と声をかける。

はい!と小里は平伏するが、しかしこの子は外に出て行けば大阪方の落人として捕えられます!命が…と秀月尼が説明すると、命は自分で守れば良い!この寺からはわしが逃がしてしんぜようと明石は言う。

それを聞いた秀月尼は驚きながらも、小里、生きておくれ、女として…、そなたは私が出来なかった事をやり通しておくれと、小里の手を取って言い聞かせる。

尼に身をやつした小里は連れの尼と共に立花寺を出るが、怪しいと睨んだ役人たちが後を追うとすると、待て待て!ここに大物がおるのに見逃して女一匹を追うつもりか?と寺から出て来たのは明石だった。

何?大物?と役人が聞くと、さよう、大坂冬の陣の生き残り明石嘉門守!引っ捕らえれば手柄になるぞと挑発すると、良し、引っ捕らえろ!と役人が命じたので、明石はその場で雑兵たちと戦い始める。

その間に、小里は尼の衣装を連れに渡し、町娘の姿で逃げて行く。

町にやって来た小里だったが、同じく小里を探していた深見と気付かぬまますれ違う。

そんな小里を捕まえたのは織江だった。

一方、歩いていた深見に手裏剣を投げつけて来たのは大次郎で、もう逃がさんぞ、己は姉を騙しよったな!俺が貴様を殺してやる!と剣を抜いて向かって来る。

深見は、そんな大次郎の左足を刀の柄で殴って倒すと、その場から逃げ去る。

立花寺にやって来た深見に会った秀月尼は、遅かった、遅かった!重兵衛殿とやら、小里を早く探してやって下さいと告げると、あの人が拙者の事をそんなに思ってくれていたとは知らなかったと深見も驚く。

あの子を幸せにしてあげて、頼みます!と秀月尼は頭を下げる。

一方、広間、とある家に戻って来た武藤は、慌てて起き上がった鷲尾が女を連れ込んでいた事を知ると、出世の出来ん奴だ!とバカにしながら部屋を出て行く

土間に鷲尾が出て来たので、女はどうした?と武藤が聞くと、疲れて寝てるわと言うと、夕べ町で拾って来た、ちょいと可愛い顔しておるとにやけるので、素性の知れぬものを引き入れて良いのか?と武藤は聞くと、向こうは商売、銭で事はすむと鷲尾は答える。

おぬしも夕べは戻らなかったではないか?と鷲尾が言い返すと、九十郎!ちょっと座れ!と武藤は厳しい表情で言う。

そう、九十郎、九十郎と安っぽく言うな!大先生に祭り上げたのは誰だ!ちっとは思い知れ!と鷲尾が怒ると、おぬしが俺を祭り上げたのは自分が大将の器でない身分を知っているからだろうと武藤は冷静に言い返す。

俺はだんだん大きくなる。おぬしはだんだん小さくなる…と言うと、止めろ!俺に何が言いたいのだ?と鷲尾は立ちはだかる。

俺もおぬしも命が危なくなったと武藤が言うと、バカな!と鷲尾は狼狽する。

つい先日も又左衛門は500両と言う大金を我々にくれたではないか!奴らは俺たちを使う事で手柄になるはず、何故首にする必要がある?と鷲尾が反論すると、だからおぬしは小さいと言うのだ!目腐れ金に甘んじて精神までぼけたのだと武藤が指摘すると、言うな!大阪城の飯炊きめ!と鷲尾が罵倒すると、それで言う事は終いか?と武藤は冷静に聞く。

あのままではうだつの上がらん奴、俺の知恵が今のおぬしを作り上げた、いわばおぬしは俺の作った人形に過ぎんと鷲尾が自分の頭を指して自慢すると、その人形がどえらい事を目論んでいるとしたらどうする?と武藤は答える。

大阪城の焼け跡から掘り出された豊臣家の隠し金が金28000枚、銀24000枚、その内の金8000枚は表向きは麦の積み荷のように見せかけて江戸へ送る事になっている…と武藤が説明すると、驚いたような顔で鷲尾は座り込む。

おぬし、まさか…と鷲尾が聞くと、その金を奪い取るのだ!と武藤は言い切る。

そ、そんな事が出来るか!と鷲尾が唖然とすると、国の残党を集めて道中を襲うのだと武藤は答える。

九十郎、やるか?と武藤が聞くと、失敗したら今度は生きられんぞと鷲尾は狼狽する。

奴らは俺たちを首にしようとしている、その裏をかいて8000両奪って、ルソンかマカオに高飛びだ!と武藤は計画を明かす。

どうだ九十郎、所司代に利用され、果ては殺されるより、この方が望みはデカいぞ!と武藤が持ちかけると、鷲尾はため息をついたので、何だ、その顔は?怖いのか?と武藤が言うと、黄金が8000枚か?と鷲尾は念を押し、表向きは豊臣家再興のお題目で腕の立つ奴を集めるのが貴様の役目だと武藤が指示すると、奥から物音が聞こえる。

話を聞いたのは菊里で、聞かれたと知った武藤たちは刀を持って後を追う。

鷲尾が庭先から逃げようとしていた菊里の背に刀を浴びせる。 傷ついた菊里は竹林の中に逃げ込む。

逃したか?あの女、菊里と言う城にいた女だ、まずい奴を引き込んだな!と武藤は鷲尾を叱る。

だが、あの深手では遠くへは逃げられない、どっかその辺でお陀仏だ!と鷲尾は言うが、とにかく探せ!と武藤は命じる。

表を通りかかったのが草薙で、3人の役人と出くわし、捕縛されかかるが、その3人を斬り殺し、側の荒れ屋敷の門の中に隠れる。

着物で血を拭い刀をおさめた草薙は、菊里の小屋を訪ねノックするが返事はなく、戸を叩いた手に血が付いている事に気付き慌てて中に入ると、菊里がうつぶせに倒れて呻いていた。

菊里!どうしたのだ、菊里!と抱き起こして呼びかけると、菊里が目を開けたので、誰だ、相手は?と聞くが菊里はもう答える力がない。

死ぬな!菊里!死んでくれるな!菊里!お前は俺の命だ!死んでくれるな!と呼びかける草薙。

すると菊里は、うれしい…、こんな汚れた私を…、うれしい…と呟いたので、どうしてこんな事になったのだ?言ってくれ!と草薙が聞くと、そんな事どうでも良いの…、私はあなたに会えて幸せ…と菊里は言う。

妹に…、小里に会いたかった…と言い残し、菊里は事切れる。

菊里!と呼びかけた草薙は泣き出す。 夕方、神社の狛犬の台座に座っていた草薙に気付いた鷲尾が、草薙氏ではないか?わしは鷲尾九十郎…と笠を脱いで呼びかける。

ほれ、大阪落城のみぎり、同じ陣におった者じゃと馴れ馴れしく笑いながら近づいて来たので、近づくな!昔なじみであろうと、俺は斬るかもしれんぞ…と草薙は制する。

すると鷲尾は、その腕を実は買いに参ったと言うので、何!と草薙は驚く。 我らのような小物を1人2人斬るより、もっと大勢を斬る方が愉快ではないかと鷲尾は持ちかけて来る。

人を斬りたいだけ斬って捨て、しかも大義名分の立つ仕事、興味はないかな?と鷲尾が誘うと、大義名分には興味はない!と言いながらも、斬りたいだけ切れるなら相談に乗っても良い、今の俺はただ人を斬りたいだけだ!と草薙は答える。

古物商の前では、主人が奥野の商品の安売りを代行していた。 すると店の中から出て来た奥野が、おい、親父、あんまり派手にやるな!店の商売の邪魔になるとを言うと、どうもこら、すんまへん!と主人が詫びる。 いつの間にか、すっかり立場が逆転していたのだった。

そこに編み笠の2人が来たので、おいでやすと奥野が頭を下げると、だいぶ景気が良いらしいな?と笑いかけて来たのは武藤と鷲尾だった。

店の中に招き入れ、おぬしらも景気が良さそうではないか?たくさんの同志が死んだと言うのに…と奥野が皮肉ると、御家再興までには多少の犠牲はやむを得ん事だと武藤は答えるので、多少の犠牲か…と奥野は鼻で笑う。

すると鷲尾が、久之助、おぬし深見重兵衛の居所を知らぬか?と聞いて来る。

知らんなと答えると、どうしても腕の立つ奴が必要なのだ、今度の仕事で…と鷲尾は言うので、又大勢を犠牲にしようと言うのか?と奥野は興味なさそうに答える。

それを聞いた鷲尾は、口を慎め!ためにならんぞ!と怒鳴って来たので、重兵衛の居所を尋ねるだけなら2人そろって来なくても良かろうと奥野は言う。

実は…と武藤が言いかけると、商人の俺に何が望みなんだ?と奥野は聞き返すと、武器鉄砲などを用立てて欲しい…、嫌とは言わせん!と武藤は申し出たので、奥野の表情がこわばる。

しかし奥野は、商いの取引と行こうじゃないか、ただでは嫌だ、それも現金先払いなら相談に乗っても良いと商売人の顔に戻る。

御家再興と言うのに商取引とはあきれ果てた奴だ!と武藤が語気を強めると、俺は侍じゃない、商人だと笑う奥野は、豊臣も徳川もない、商売にならねば相談には乗らんと言うと、良し!と武藤が言うので、では2〜3日中に荷はまとめておこう、必ず金を持って来るよう…、まず700両…、びた1文欠けても渡さんからそのつもりで…と奥野が言うので、700両!と鷲尾は驚く。

しかし奥野は、危ない橋を渡るのだ、嫌なら止せ…と平然と答える。

後日、仲間を連れ山中に馬でやって来た武藤は、荷物はしばらくここに置けと配下の者に命じると、あの一軒家は我らの本陣にしようとかねてより目をつけておった。

ここなら人に知れる事もあるまいと、同じく馬で来た鷲尾に語りかける。

その一軒家の農家で、帰ってきた主人を出迎えた老妻が、あんたら、本当に仲が良いのお、いつまでもここにいてもらいたいよと話しかけたのは、小里と織江だった。

織江は小里に、心配する事はないんだよ、私はお前に何もしやしない、だからおとなしくしてれば良いのさ…と言いながら、農家の作業を手伝う。

本当に深見重兵衛様は来るのでしょうか?と小里が聞くと、来るさ、お前がここにいると知ったら飛んで来るだろうよと織江が言うので、そしてあなたはあの人を殺すのでしょう?と小里が指摘する。

殺す?と織江が驚くと、私を囮にあの人をおびき寄せて…と小里が言うと、お前、本当にあの人が好きなんだね?と織江は聞く。

はいと小里が頷くと、そうかい…、そうだろうね、あの人なら誰でも好きになるのが当たり前だよ!と織江は小里に背を向け言う。

ね、あの人を殺さないで!と小里が頼むと、お前、命がけであの人を自分のものにする勇気があるかい?私にはあるけど…と織江は挑んで来る。

すると小里があります!と答えたので、急に笑い出した織江は、そうかい!じゃあ、私と勝負しようじゃないか!と言い出す。

えっ!と小里が驚くと、私もあの人が好きなんだ!と織江が明かすが、そこに農家に賊が侵入して来たので、織江は間一髪逃げ延びるが、小里は捕まってしまう。 そこに武藤がやって来て、おお、小里殿!良い所にいた!と驚き喜ぶ。

あなた方は何を!と農家の主人が声を上げると、斬れ!と武藤は命じ、主人も老妻も娘も一気に斬り殺されてしまう。

近くの森に逃げ込んだ織江は、煙玉で追っ手から逃げ延びる。 何故罪もない人を殺すのです!と小里が武藤を責めると、仕方がない、御家の為だと武藤は笑って答え、配下の者達には後3、4日すれば仲間たちが来る、それまで羽を伸ばすんだと言い聞かせる。

その頃、深見は、バカ抜かせ!己の面は良く覚えてるんだ!と言う馬喰から因縁をつけられ、人違いだ!と振り払おうとしていた。

えい、些細な事を遺恨に喧嘩を売るなら承知できん!やってやる!束になってかかって来い!と深見も立ち向かう覚悟を決める。

深見が大勢の馬喰相手に大立ち回りを始めると、待て待て待て、町の衆、頼むから待ってくれと止めに入って来た男がいた。 奥野だった。

おのれは何だ?と馬喰から聞かれた奥野は、仲裁だ、事の起こりがどうあろうと喧嘩が大きくなったら所司代に知れて御とがめがあるぞ、相手はキチガイだと背後の深見のことを言うと、俺たちはキチガイか?と馬喰が言うと、何、この人はちょっと気が変なのだ、仲裁は時の氏神、話を俺に預けろ…と奥野は言葉巧みに馬喰たちを押さえる。

古物商の家に連れて来られた深見は、とうとう俺をキ○ガイにしてしまいおったな…と呆れたように奥野に言うと、間違いとキ○ガイはどこにでもある、まあ事が収まったんだから気にするなと奥野はいなす。

あのヤクザもの良くおとなしく戻ったな…と深見が不思議がると、これさ、万事これで片がつくと、奥野は人差し指と親指で輪を作り教える。 あんな者が羽振りを利かすのも大阪城が負けたからだ…と深見は嘆く。

すると奥野は、大阪城は負けたが町は負けなかった…、つまり侍は負けたが町人は負けなかったと言う事だと言う。

重兵衛 !これからは町人の世の中になって行くぞ、俺は近いうちに大阪に乗り出して大阪商人のど根性を作ってみせる!と奥野が言うので、だが俺には町人にはなれんと深見は言う。

うん、あの腕を持っていてはなてんと奥野も理解をし、それならそれで芸一筋に生きるんだ!と奥野は諭す。

江戸に出て兵法の一理を立てるのも良いだろう。

いつまでも女を捜していると自分の行く道を見失うぞ、路銀は俺が都合しようと奥野は言う。

そんな奥野の豹変振りに驚いた深見は、おぬしちょっとの間にどうして金持ちになったんだ?と聞くと、商売熱心なら金が金を生む、もっとも危ない橋を渡る事もあるが…と奥のが言うと、危ない橋?と深見が聞いたので、武藤と鷲尾九十郎が又何か悪巧みを巡らせたらしい、武器鉄砲を都合しろと言って来たと奥野が明かすと、御家再興などと名目を付けていたが分かるもんか…、あ、そうだ、おぬしの事も聞いていた。

腕の立つ者が欲しいと言ってな、危ない所へ近づくなよ…と奥野が言うので、武器は?と深見が聞くと、売ってやったさ、700両現金引き換えにだ…と言うので、700両!と深見は驚く。

商売だと奥野が答えると、商売なら悪事と分かっていても加勢するのか?と深見が聞くと、商売だからな…と奥野は答える。

それが商売人のど根性か?ヤクザと同じだ!と深見は睨んで来る。

偉そうな口を叩いても所詮は火事場泥棒の成り上がりものだ!悪事に加担して何か商人のど根性なんだ?分からん!分からん、分からん!と言いながら立ち上がり、深見が帰ろうとするので、待て重兵衛!と奥野は呼び止めるが、もう何も話す事はない!と奥野は帰ろうとするので、待て!と呼び止める。

おぬしは俺に金銀よりも尊い事を言ってくれた…と奥野は感謝する。

古物商を出た深見を待っていたのは織江で、その話を聞いた深見は、どこだ?すぐに案内しろと言って付いて行く。

それに気付いた奥野は店から出て来て、重兵衛!詰まらん事に巻き込まれるな!と注意すると、織恵も、待って、その前に話したい事があるのと言い出したので、話なら後だ!場所はどこだ?と深見は急かす。

帝塚山の麓店と織江は教えると、良し!と言い、織江と2人で駆け去って行く。

それを見送った奥野は、竹を割ったような奴だと心の中で感心する。

その後、「将軍家御用」の札が立った荷物を運ぶ列があった。

その頃草薙は、他の残党と一緒に鈴鹿峠へ向かっていた。

馬で鈴鹿峠に向かっていた織江と深見とすれ違った明石は、何だ急がしそうに?又命を粗末に走り回っているのか?と虚無僧の笠を上げながら聞くと、おぬし、女を守るのも武士の勤めだと言ったな?と深見が馬を止めて答えたので、では小里に何か?と明石も気付く。

小里の命が危ない!と言い残し、深見は馬を走らせ、止めようとした明石は、待て!場所はどこだ!と聞くと、鈴鹿峠!と走り去る深見は教える。 荷物を積んだ馬の列が鈴鹿峠に近づく。 それを監視している者あり。

陣屋代わりの一軒家では、鷲尾が集めた残党たちに計画を指示していた。

そこに伝令が戻って来て、列が坂を上り始めた!半の内に峠に向いますぞ!と待機していた武藤に知らせる。

立ち上がった武藤は、ではかねてよりの打ち合わせ通り、奪った金は豊臣家再興の軍資、くれぐれも約定に沿う事ないようこの小屋に運ばれたい!と武藤は残党たちに言い聞かす。

では!と鷲尾は声をかけ、残党(堺左千夫)たちは一軒屋を後にする。 家の中で寝ていた草薙も仲間に起こされ出立する。

峠を登って来た運搬の列の護衛を鉄砲で撃ち落とす。

さらに銃撃で敵の護衛をかく乱した直後、火を点けた荷車を坂道で押しながら運搬舞台に混乱を招く。

その様子を峠の上で見ていた鷲尾たちは、襲撃部隊の一員として敵を斬りまくる草薙の姿を見て、巧く行った!と喜ぶ。

その頃、一軒家に残っていた小里は、同じく残っていた武藤に襲われそうになっていた。

もう半時もすれば、大番8000枚手に入る、言う事を聞けば何でも望みのままと武藤は迫るが、小里は、嫌!豊臣家再興と言うのは?と抵抗すると、そんな事はどうでも良い、言う事を聞け!と武藤は言う。

そんな一軒家に馬で駆けつけたのが深見で、残っていた残党たちが立ち向かう。

織江は、迫って来た残党をおびき寄せるように馬を走らせる。

小里はどこだ!小里!と斬り結びながら深見は呼びかける。

その声を聞き、側へ向かおうした小里を武藤がお姫様抱っこで抱きかかえると裏から逃げ出す。 残党たちを斬り捨てながら一軒家に入り込んだ深見は、さらに小里!と呼びかける。

その小里は、農家の裏手で武藤に木に縛り付けられていた。

深見がそこに近づこうとすると、担当を出して武藤は小里を突こうとするので、思わず立ち止まった深見は残党たちに捕まってしまう。 縛り上げろ!と武藤は命じる。

その頃、鷲尾は奪った荷物を背負った馬を案内していたが、鷲尾氏、道が違うぞ!と仲間に言われても、こっちだ!と別の道に案内していた。 おのれ、裏切ったな!と仲間は気づき、鷲尾に迫る。

鷲尾は、荷物を積んだ馬を走らせていたが、やがて仲間らに追いつめられる。

一方、深見も捕まり、小里とともに近くの木に縛り付けられていたが、気のどきだが死んでもらおうと武藤は言い、どっちが先だ?と深見に迫る。

そこに、戻って参りました!と知らせが届く。

どうしたのだ?と武藤が聞くと、裏切りだ!金を持って逃げようとしたのだと鷲尾を連れて来た仲間が言う。

おのれ!と武藤が睨みつけると、どうする気だ?俺を殺せるか、貴様に?と鷲尾は言い返す。

大先生に作り上げた俺を殺せると言うのか?と鷲尾は威張る。

すると武藤は、裏切り者だ、容赦はせぬ!と言うので、裏切り者だと?本気で言うのかと笑いながら答えた鷲尾は、おのれの方が裏切り者のくせに!と言い返す。

何!と武藤が気色ばむと、方々聞いてくれと言い出した鷲尾は、この男こそ裏切り者なのだと武藤の事を告発し、豊臣家再興とは嘘の皮!方々を騙し御用金を盗もうと企てたのはこの男だ!大泥棒だ!と鷲尾は残党たちに言いふらす。

それを聞いた残党たちは、九十郎の言った事は真か?偽りか?偽りなら許せぬぞ!と武藤に迫る。

その時、おい止せ、止せ、いい加減にしたらどうなんだと声をかけて来たのは草薙だった。

御家再興だ?裏切りだ?バカバカしい!こんな同士討ちをしている前に奪った者が本当の黄金かどうか調べてみたらどうなんだい!と提案する。

その頃、裏手の気にしばれられていた深見は、小里殿、すまんな、こんな事になって…と、側の木に縛られていた小里に言葉をかけると、いいえ…、それより、あなたに会えてうれしい!と小里は明かす。 それを聞いた深見も、わしもうれしい…と打ち明ける。

小里は涙を流しながら、このまま死んでも私は…と言うので、深見を笑みを浮かべる。

家の中では奪った千両箱を開けた所、中にはぎっしり本物の小判が入っていた事が分かる。

どうした?黄金の光を見たら気が変わったか?裏切りはどうしたんだ?御家再興は!と草薙は言い、からかうように笑い出す。 どっちにしても御用金を奪った盗人に間違いはない。

いずれは縛り首か火あぶりだ!と草薙が言うと、火あぶりなどなるものか!俺はこれを持ってルソンに逃げるつもりだと武藤は言う。

境港に船の手はずは付いている、おぬしら!豊臣家再興の望みなど捨てて、俺に従え!と武藤が呼びかけると、騙されるな!それよりもこの金を分配してめいめい勝手に逃げようではないか?どうだ?と鷲尾が言うと、そうだな…と賛同する者が出る。

その時、待て!と呼びかけた残党(山本廉)が、それではただの盗人になるぞ!と言い出す。

生涯世の中に出られなくなるばかりでなく、捕えられれば火あぶりだ!と言うと、俺はルソンに逃げると言う者(小川安三)も出る始末。

どおうやら小悪党の正体を現し出したな?と草薙が指摘すると、貴様はどうする?と武藤が聞いて来る。

俺は金などに未練はない!どこか人間どもの匂いがしない所へでも行くさと言いながら立ち上がるので、修理、待ってくれ!この人だけを助けてくれ!と裏手の木に縛られていた深見が声をかけて来る。

すると草薙は、俺は人助けなどしたくないのだ…と言うので、それなら俺たち2人を殺して行けと深見は呼びかける。

小里、覚悟してくれ!と言う深見に、黙って頷く小里。

それを聞いた草薙は、小里と言ったな今?と声をかけた草薙は、はい!と小里が頷くと、菊里と言う女を知っておるか?と裏手に降りた草薙が聞く。

私の姉ですと小里が答えると、そうか…、大坂夏の陣に勝っていたら、菊里と俺は夫婦になっていたはずだが、可哀想に…と草薙が言うので、姉がどうかしましたか?と小里が聞くと、斬らて死んだ!と草薙は教える。

部屋に戻って来た草薙に、その菊里を殺した奴がここにおるぞ…と武藤が教える。 何!と草薙が驚くと、この九十郎だ!と武藤は暴露する。

それを聞いた草薙が睨みながら迫ると、俺は斬れと言われて斬ったのだ!と鷲尾は言い訳するが、言うな!と絶叫しながら草薙は斬り捨て、鷲尾は握っていた小判をこぼしながら倒れる。

そして草薙はそのまま一軒家を出ると、そこにやって来た明石から、おい、小里と言う女はどうした?確かにおるはずだが?と聞かれるが、何も答えずそのまま立ち去って行く。

その時、銃声が聞こえ、草薙は倒れる。 徳川方の鉄砲隊が近くに迫っていたのだった。

明石はその弾を避けながら一軒家の側に逃げて来る。

倒れた草薙は、菊里!と呼びかけながら息絶える。

明石は、一軒家から出て来た残党を倒しながら家の中に入り込むと、この家は役人に囲まれておるぞ!小里はどこだ、小里!と呼びかける。

裏手の小里はその声を気付くが、縛られている気にも銃弾が飛んで来る。

おぬしら、銃があるなら撃ちかえせ!役人どもが来ておるぞ!と明石が指示すると、裏手に縛られていた小里を助けに行く。

武藤は、黄金を馬に積んで裏から逃げろ!と指示を出す。

売れ手に出た武藤は、小里の捕縛を解こうとしていた明石を見ると、斬れ!と命じたので、残党たちが斬り掛かる。 明石が抵抗するので、武藤本人が刀を抜き相対する。

明石も残党が持っていた剣を奪うと武藤に立ち向かい、あっさり斬り捨てる。

徳川方の鉄砲隊は発砲しながら一軒家に近づいていた。

小里を助けた明石だったが、深見の綱も切ろうと近づくと銃弾が飛んで来て近づけない。 深見様!と小里は叫び、その小里を抱きかかえてた明石も、重兵衛!死ぬな!と呼びかけその場を離れる。

近くの洞窟に小里を連れて来た明石だったが、重兵衛様が!と小里が案ずるので、ここを動くな!良いな!と小里に言い聞かすと、深見を助けに戻る。

しかし鉄砲隊の銃弾が激しくなかなか近づけない。

一軒家の中では、奪った小判を奪い合い、同士討ちが始まっていた。 そんな一軒家に大きな竜巻が接近する。

明石は小里を守って洞窟の中に身を隠す。 深見は木に縛られたままだった。

鉄砲隊は竜巻に巻き込まれ空中に飛び上がって行く。 一軒家の中の残党と小判も、吹き込んで来た竜巻に吹き飛ばされる。

農家の屋根がめくれ上がり、残党は壊れた家屋の下敷きになる、 周囲の木々も根こそぎ押し倒され、竜巻は通り過ぎて行く。

明石と小里が一軒家に戻ると、まだ深見は木に縛られたまま気絶していた。

その捕縛は自然に解け、自由になった深見に駆けつけた小里が抱きつく。

織江は、そんな一軒家を気にしながらも、1人寂しく帰っていた。 生き残ったのは3人だけか…と深見が言うと、竜巻は善も悪も、敵も味方も蹴散らして行きおった…と明石が答える。 おぬしらは、ともかくその中で生きられたのだ。

その命、大事にするのだな…と明石は言い聞かすと、重兵衛、抱いてやれ!と声をかける。

それを聞いた深見は、寄り添っていた小里をお姫様だっこすると、明石の後を付いて行く。


 


 

 

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