白夜館

 

 

 

幻想館

 

七つの弾丸

三國連太郎主演の犯罪映画。

橋本忍さんの脚本だけに、事件に巻き込まれ人生が変わる幾人もの人物の生活が平行して描かれている。

一見綿密に練られ、周到に準備を重ねた犯罪計画が現実は見るも無様な失敗に終わる様が描かれており、いわゆる完全犯罪物などとは趣が違っている。

劇中でアパートの管理人が探偵小説を読んでいる事から、ミステリブームの中で作られた作品だと思うが、橋本さんは、いわゆる謎解きものは得意ではなかったのかもしれない。

まだ二枚目風キャラを演じている今井健二さんの真面目な演技が珍しい。

伊藤雄之助、菅井きん、織田政雄と言った個性派トリオで地方の貧しい農民を描いているのも興味深い。

伊藤雄之助さんのダメ男演技も印象的だが、それ以上に妻役の菅井きんさんの薄幸演技はインパクトがあり、代表作の1本ではないかとさえ感じる。

主役の三國連太郎さんは犯罪者をやっても刑事をやっても似合う人だが、本作では、犯罪によって得た金でしばし余裕のある生活をしているキャラと、回想シーンでの底辺をのたうち回っていた頃の対比を巧く演じ分けており、後年の「飢餓海峡」(1964)などに通ずる物を感じる。

「カミカゼタクシー」などと言う言葉や、初乗り「80円」らしきタクシーの窓に書かれた数字も時代を感じさせる。

当時の東京の風景も貴重。

全体的に地味な印象だが、話の面白さでついつい引き込ませる秀作になっている。
▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼
1959年、東映、橋本忍脚本、村山新治監督作品。

人を殺すと言うのはこれほど根深い悪行である…(とテロップ)

9月6日 明和銀行新橋支店

その前に立った矢崎哲男(三國連太郎)が銀行を監視していた。

目標はこの銀行 大きな理由は2つあり、1つはこの銀行の前交通量が多く逃走に有利な点 前回までの経験上、5分以内に捕まらなければ逃げられる可能性が高い。

もう1つは隣に交番がある事から、日頃から警戒が脆弱な事を示している。 銀行内では、出納係の大西次長(松村達雄)が安野良一(今井健二)を呼び、書類の判子の事で指示を出していた。

そんな明和銀行の為替係を訪ねた矢崎は、まだ参っておりませんとの返事を聞くと、その足で両替の安野の所へ来て、1万円札を全部千円札に両替をしてもらう。

西堀交番では、警官の江藤隆(高原駿雄)が、前島が宮崎で捕まり、30万が戻って来るそうですと電話で聞いた内容を、先輩警官に報告していた。

と言う事は実際の被害は6~7万か…、それだけのために…と先輩警官は罪の大きさを嘆く。

1時30分、いつもこの時間になると1人の警官がパトロールに出かける。

その交番所近くで靴磨きをしながら、矢崎は交番の様子を監視していた。

明和銀行では、安野がかかってきた電話に、安達病院?安野道夫?弟の道夫が!と表情を変えていた。

通夜の準備をしている自宅に帰った安野は、駆けつけた母親の兄田辺(加藤嘉)が、道夫も何をそんなに慌てて…と絶句する。

カミカゼタクシーに轢かれて死んだ弟の道夫も信号無視だったらしいと親戚の男(小塚十紀雄)が噂する。

そこに、みんな後から来るけど、僕が代表ですと大西次長がやって来たので、安野と母親のさと(村瀬幸子)が恐縮しながら出迎える。

その通夜の帰り、大西次長が女子行員らと乗ったタクシーが正にカミカゼで、怯える女子行員が怖いと叫ぶので、交通事故で亡くなった人の通夜の帰りなんだからゆっくり走ってくれよと大西は運転手の竹岡直吉(伊藤雄之助)に声をかける。

矢崎はその後、新橋駅から明和銀行の方へ向かう。

その深夜2時頃、明和銀行は閉まっていたが、隣の交番では、江藤巡査が部長昇進テストのための試験勉強をしており、本を音読していたので、奥の休憩室で仮眠していた先輩警官松村巡査(石島房太郎)が、眠らせてくれよ。

明日は子供を連れてはぜ釣りに行くんだからと文句を言っていた。

自宅アパートに戻っていた江崎は、黙々と拳銃の手入れをしていた。

同じ頃、おでんの屋台で仲間の運転手たち(杉義一)とだべっていた竹岡は、自動車強盗なんかに滅多に会えねえよなどと笑っていた。

クラブの入り口に出て来たホステス杉井陽子(星美智子)が、運転手さん、1人来て!と呼びかけたので、すぐに立ち上がった竹岡は、俺は今日はこれで上がるからなと仲間に伝えていく。

客を竹岡のタクシーに乗せた陽子は、都立大学までと行き先を指示し、竹岡が出発した後は、チップをドレスの胸の谷間に入れる。

安野家では、兄さん、私はどうしても諦めきれない!ようやく大学を出て、120人に1人の入社試験に通ったばかりなのに…と、さとが田辺に死んだ道夫の事を愚痴っていた。 安田は、だから生命保険に入っておけって言ってたでしょう!とさとを叱る。

それを宥めた田辺は、これからは親1人子1人なんだから、お前も早う嫁でももらうんだなと言い聞かす。

その頃、アパートの部屋にいた矢崎は拳銃を構えてみていた。

翌朝、竹岡は、アパート「南風荘」に帰って来ると、服を脱いで下着姿になり座り込むと、栓抜きで牛乳瓶の蓋を開け一口飲むと、横で陽子が寝ているにキスする。

腸カタルの子供の診察をしていた女医の原三千代(久保菜穂子)は、矢崎からの電話を受けて、今日?夕方行くわ…、電話待ってたのよ…、これから会社?行ってらっしゃいとうれしそうに応答する。

江藤巡査は相変わらず、西堀派出所内で試験勉強に励んでいた。

安野家では、田辺が、もう間に合わんじゃろう、両国からの直通に…と帰りの列車の心配をしながら、さっきの話、適当な人がいるんだったら早く話を進める事だ…と結婚の事を急いて来たので、だっておじさん…、先方にも都合があるんだから…と安野は言い返す。

すると田辺は、先方にもよく事情を話して寒くならない内に…と勧める。

矢崎に会った原三千代は、病院を作るには270〜280万、機材も100万相当かかるんじゃない?と聞かれるままに必要な金額を教えていた。

すると矢崎は、君だけのために計画を立てているんじゃない、病院さえ建てば、一生楽になる。綿密な計画と実行力が必要なんだよ、貿易関係の仕事ではね…とうそぶく。

明和銀行では、忌引きが後1日残っているのに出行してきた安野が、後片付けもすっかり終わりましたから…と支店長代理(岩城力)に挨拶していた。

9時、いつも通り明和銀行はシャッターを開けていた。 江東タクシー配車係(花澤徳衛)は、突然会わせてくれとやって来た竹岡の妻満江(菅井きん)に竹岡直吉?と戸惑っていた。

従業員名簿のどこにもそんな名前はなかったからだ。

そう伝えても満江は、確かに…、主人は確かに!と繰り返すだけ。 配車係は困り果て、運転手小西(滝島孝二)を呼び寄せて竹岡って知らんか?と聞くと、それは石岡さんの事です、あの人、免許証3枚くらい持ってますからと言うではないか。

石岡の事か…、あの人は会社に迷惑のかけっぱなしで…2ヶ月ばかり前に辞めてしまいました。

奥さんの前で言うのもなんですが、エントツのやり放題で…、あんな事したら今に働く所なくなるんじゃないですかなと配車係は厳しいことを言う。

西堀派出所では、パトロールから帰って来た松村巡査郎が、堂々と交番内で試験勉強をしていた江藤巡査に、君が部長になろうとけ石になろうと構わんが、今は勤務中じゃないか、君は寮でも評判悪いらしいじゃないかと注意していた。

アパートにいて、警官は奥の休憩所に閉じ込めて…と銀行強盗計画を練っていた江崎は、突然ノックされたので慌てるが、ドアを開けると管理人と警官(牧野狂介)が立っていたのでさらに仰天する。

しかし、警官は、最近アパート専門の空き巣が横行しているので何かあったら連絡くださいと言う告知をしただけだった。

満江は「山城館」と言う宿に夫を訪ねて来ていたが、宿の女将(不忍郷子)は、何でも下宿が見つかったとかで出て行きましたよ、お盆頃だったかしら?2ヶ月前くらい前になるわと言う。

陽子が出かける前の化粧を鏡台の前でしている奥の炊事場で、竹岡はフライパン片手にうれしそうに手料理を作っていた。

安野は、音楽堂前で中谷君子(能沢佳子)とデートしていた。

君子は、うちも女の子が後に2人もつかえているもんだから…と結婚に前向きな発言をするので、そうか!1日も早く君に来てもらって…と安野は喜ぶ。

情事の後、ベッドで化粧を直していたネグリジェ姿の原三千代は窓辺で浴衣を羽織って扇風機に当たり出した矢崎に、ねえあなた、子供何人欲しい?病院で来たら一緒に住むんでしょう?あなたは計画的だから…、私は3人、上が女で下2人が男…などと甘えたように話しかけていた。

安野家では里がうれしそうに仏壇に手を合わせた後、トントン拍子で話が進んだから…、式は彼岸が良いよ。どのくらいで売れるかな、田舎の土地だよ…などと一方的に話を進めようとするので、お母さん!と安野は不機嫌になる。

取引先の人何時に見えるの?と三千代が聞くと、矢崎はキスをしながら9時と答える。

三千代は、ぶらぶらして10時過ぎに又来るわと答えるが、話つかんかもね…と矢崎は牽制する。

しかし三千代も、病院の寮、暑苦しくて…と文句を言うので、もうちょっとの辛抱だよと矢崎は言い聞かせる。

仕方ないわ、お仕事なら…と言い残し、三千代は帰って行く。

良一!分からん事言うもんじゃないよ!とさとは安野と言い争いをしていた。

僕たち結婚しても共稼ぎのつもりなんだ。結婚式に数万もかける事ないんだよ!と安野も負けずに言い返す。

そんな無駄な金使って何になるんです。僕の定年まで28年、退職金も大体分かります。

父さんの遺産があると言ってもむざむざ…と安野は母親に言い聞かせようとする。

矢崎はアパートに1人閉じこもり、銀行と交番の見取り図を描き、交番から銀行まで27歩、銀行の階段は3段、全部で1分30秒もあれば十分だと強盗計画の最終調整を行っていた。

問題は逃亡に使用する自動車だ…と矢崎は考える。

貨物列車が走る地方 自宅に戻って来た竹岡満江は、長男直治(桜井基男)、長女良子(久淑子)、次男正治(田井要)の3人の子供たちがラジオの「3つの歌」を聞いている中、農協への申し込みに付いて訪ねて来た平井勇造(織田政雄)から、6貫注文しとくか?と念を押され、今日は東京さ行ったんだろう?直さん、どんな案配だ?と外に呼び出され小声で聞かれる。

矢崎は、自動車は結構日の朝どこかで…と決意すると、天袋に隠していた拳銃を取り出すとズボンの中に押し込む。

アパート「青葉荘」を出ようとすると、入り口横の管理人室にいた管理人が、お出かけですか?と聞いて来たので、暑くて寝られないから散歩してきますよと笑顔で答えた矢崎は、管理人が読んでいた本に気付き、お?探偵小説ですねと笑いかける。

その後、近くの鉄橋の下にやって来た矢崎は、列車が上を通過する轟音に紛れ、川に向かって銃を試射してみる。

いよいよ決行だ! その前に、この謎のような男の履歴を聞いてくれ(とナレーション)

(回想)北海道函館の荒物屋に生まれたが、幼い頃に母を亡くし、その後、父親に育てられていたが、終戦後その父親も結核で他界、東京の知人を頼って海を渡ったが、東京は彼を歓待しなかった。

世界第三の都市も彼にとっては砂漠でしかなかった。(東京タワーの情景) 彼は12の職業を転々とした。 砂漠の中にもオアシスがあった。

1年前に夕刊関東新聞の臨時雇いになった事と、東京女子医大の原三千代と知り合った事だ。

安アパートに遊びに来た三千代に、うらやましいな、お父さんの遺産で病院建てるんだろう?と矢崎が言うと、バイトせずに学校出られるだけよと謙遜した三千代は、矢崎さんも記者でしょう?その内出世するのねと逆にうらやましがる。

ある日、夕刊関東新聞の広告部では、臨時雇いじゃ張り合いがないだろうから、部長に頼んで君もやっと8月7日付けで正式社員になれるよよと課長(神田隆)が矢崎に告げていた。

喜んだ矢崎だったが、ついては卒業証明書がいるんだ、大学の…と課長が言い出したので、矢崎は、北海道なので、ちょっと時間がかかるかも…と言い訳するが、彼は翌日から出社しなかった。 10ヶ月前の入社の時、彼は大学卒と偽っていたからだった。

夜行列車で神戸の知人横山(成瀬昌彦)に会いに出かけた矢崎だったが、突然の事なんでどうにもできないぜと言われるだけだった。

松崎の所、知らん?と矢崎が聞くと、景気良うないぜ、下宿へでも行ってみたらどうや?と住所だけ教わる。

神戸まで来る必要はなかった… 外に出た矢崎は、目の前がくらくらした。 夕べは夜行列車で一睡も出来なかったからだ。 松崎の下宿を尋ねなければ、もう東京へ帰る汽車賃もない… 「湊側公園」付近で矢崎は呆然としていた。

何とか訪ね当てた下宿では女将(桧有子)が夕食の支度の最中で、松崎はもう1ヶ月も帰って来ていないと言うので、出張ですか?と聞くと、失業者に出張なんておますかいなと女将は呆れ、1ヶ月程前に会社首ですわ。

内の下宿代どうするつもりだっしゃろ?などと言うので、矢崎は黙って帰ることにする。

もはや希望の欠片も失った矢崎は、炎天下、もうろうとしながら歩いていたが、途中で行き倒れてしまう。

気付いた矢崎は、交番の奥の休憩所で寝かせられていた。 パトロールから帰って来た警官(打越正八)が矢崎に気付き、何や?と聞くと、日射病や、発見者が担ぎ込んで来たんやと同僚(久保一)が教える声が聞こえて来る。

まだ気を失ったいると思ったのか、帰って来た警官は、休憩所の畳の上に上着と拳銃ベルトを投げ出し、奥の洗面所に向かう。

既に気付いていた矢崎は、目の前に置かれた警官の上着から財布がはみ出していることに気づく。

洗面所に行った警官は顔を洗い始め、全く矢崎の事は気にしていない様子。

矢崎は寝た姿勢のまま、すぐ横にある警官の財布と、拳銃と警棒の付いたベルトを観察する。

その時、自転車泥棒や!と被害者が走り込んで来た声が聞こえ、行ってくるで!と言い残し、もう1人の同僚警官は出かけて行くが、まだ洗面所の警官は石けんで首筋を丁寧に洗っていた。

タオルを取ろうと、警官が鏡が付いたロッカーの方へ移動した時、鏡に写った背後の様子に気付き、何をするんだ!と絶叫しながら休憩所の方に来るが、立ち上がった矢崎は、警官の警棒で相手の頭を殴りつける。

警官が昏倒すると、矢崎は自分のトランクの中に拳銃を入れる。

新聞社の輪転機が回る。

矢崎はその拳銃を使い、浜松と名古屋で銀行強盗をやる。

矢崎の新しいアパートへやって来た三千代 は、TVもあるのね!と急に暮らしぶりが変わった矢崎の事を驚いていた。

金を拾ったんだよ、その金で株を買ったら、羽が生えたみたいに儲かっちゃって…、先物相場の綿花のように、大変なおこぼれに預かったんだよなどと矢崎は嘘をつく。

新聞紙上には、「浜松-名古屋 三度目ははたしてどこ?」の文字が踊っていた。

(回想明け)ある雨の日 西堀派出所に勤務中の江藤巡査に、同郷の青森から代議士に陳情に来たと言う昔なじみの仁科(清村耕次)が挨拶に来ていた。

その頃、再び、上京した竹岡満江が夫を訪ねて来た宝タクシー会社では、交代時間が過ぎて4時間だぜ、全くなちゃいないよ!と松本(増田順司)がぼやいていた。

竹岡君が帰って来てもないしょですがね…と前置きした松本は、竹岡には女が出来ているんですよ。今同棲してるんですと満江に打ち明ける。

その時電話がかかって来たので受話器を取った松本は、何!トヨペット91!と驚く。

竹本はハンドルを誤り人身事故を起こしており、竹本直吉36歳…、勤務先は宝タクシー…と、警官の事情聴取に応じていた。

一方、江藤巡査は仁科 と食堂で丼物の昼食を取っていた。

昇進試験が来月の5日だと言う江藤が、部長の上は警部補、その上は警部、その上は警視と先が長い事を教えると、大変だべ、勉強…と仁科は同情するが、末は警視総監だなとうらやむと、仁科さんは農業組合の理事になるんだろう?村長の次じゃないですかと江藤は相手を持ち上げる。

宝タクシーに戻って来た竹本は、妻の満江が来ている前で、雨降りの道を75kmか…、どうする損害賠償?人身事故だから、先方の言いなりに金払って内々にするか?会社は規定の保険金払うだけだよと松本から嫌みを言われる。

矢崎は美千代に電話を入れ、神戸へ出張だ、見送りに来なくて良い、明日の朝早いんだからと伝えていた。

明和銀行は、その日の業務時間を終えシャッターを下ろしてた。

安野は恋人の君子から電話を受け、自分の会社にやって来たさとが、結納金の金額から親交旅行の費用まで聞いて来て困っていると相談される。

一方、竹本はアパートに帰ると、陽子に20万出してくれと泣きついていた。

そんな金どうするの?と陽子が相手にしないでいると、銀行にためているだろうと竹本が言うので、私の金よと言い返した陽子は、私、お店休むから、一緒に映画でも行かない?私がおごるから…、出かけるのが嫌なら、お風呂へでも行ったら?と勧める。

大きな雌犬だったんだ…事故の事をぼやいた竹本は、どうせお前の銀行の金なんて大した事ないじゃないかと悪口を言って来る。

そりゃ、私だってパトロンの1人や2人はいるわよ、あなただって奥さんいるじゃない!独身でずっと1人だなんて嘘付いて… 挙げ句の果てに、血の滲むようにしてためた私のお金を!と陽子がなじって来たので、竹本は逆上し、馬鹿野郎!と言いながら陽子の顔を殴りつける。

矢崎はアパートで、拳銃と七発の弾丸を並べてじっくり見ていた。

帰宅した安野は夕食の席で、私にすりゃあね、お前しか頼る物がいないのよと言う母さとの愚痴を聞かされていた。

どうして中谷君につまらん口なんて言うんです?と安野が責めると、愚痴?私だって無駄な金なんて使いたくないんだよとさとはむきになる。 結婚するのは僕と中谷君なんです。

母さんのつまらん見栄や体裁のためじゃない!母さんの理屈で何でもやって良いってことじゃないんです。

お母さんのわがままですよと言う安野に、そのくらいのわがまま許してくれよ、結婚式くらいしか一生のうちに何の楽しみがあるんだよ!とさとも言い返す。

満江は、久々に実家に帰って来た竹本が子供の土産に持って来たマンガ雑誌を取り合いしている子供たちを哀しげに見つめていた。

竹本は大西と一緒に近くの橋の所で話し合っていた。

満江さんは農協に預けてある17万と少々の金で事故のけりをつけるつもりなんだと大西は言い聞かせていた。

直さん、この土地に落ち着いて、親子水入らずで暮らしたらどうだ? 東京さ戻るんなら、満江さんと子供3人連れて行くんだな…、満江さん、直さんと一緒なら、田畑手放しても良いって腹決めてるだと大西は打ち明ける。

計画実現のために何より大切なのは熟睡である。 決行日前日、矢崎は睡眠薬を飲んで床に入る。

家に帰って来た竹本は満江から、東京って広いんだろうね…、手を合わせて拝みたくなるわ…、分家の助けがなかったら、古いこんな家、二束三文に叩かれるんだかららね…などと話しかけられたので、俺が悪かった…、生まれ変わった気持で働くよと答えると、私、又、4ヶ月なんだって…と満江が言い出す。

それを聞いた竹本は、今度も男の方が良いな…、明日から働くぞ!と張り切る。

翌日、紳士風の服に着替えた矢崎は、橋の所でタクシーを止めると、小田急線の登戸までと行き先を告げる。

登戸に来て、人気のない道へ矢崎が誘導すると、新しい車だから田舎道はどうも…と運転手は渋り出す。

ストップ!ちょっと行き過ぎちまたんだよ、その奥の別荘に行くんだとさらに狭い道へ誘導した矢崎は、突然銃を突きつけると、騒ぐと撃つぞと運転手を脅す。 僕は君の命も金も欲しくないんだ。

この車を2時間ばかり借りたいだけなんだ。君だって奥さんも子供もいるんだろう?出過ぎた真似はしない方が良い…と矢崎は運転手に言い聞かせると、運転席から卸、後部のトランクを開けさせる。

そして、2時間か3時間の辛抱だよと言いながら矢崎が押し込もうとしたので、運転手はその場から逃げようとする。

あ、馬鹿!と怒鳴った矢崎は背後から射殺する。

安野家では、出勤する安野に、今日は早いんだろうね?とさとが不機嫌そうに聞くと、勤め人だから残業もあるし、何とも言えませんねと安野の方も仏頂面で返事して出かける。

西堀派出所では、江藤巡査が松村巡査に、中村が腹痛で交代が2時間くらい遅れるそうですと報告していた。

それを聞いた松村巡査が、子供を歯医者に連れて行かなければ行けないんだと言うので、私が残りますよと江藤が答える。

宝タクシーに戻って来た竹本は、同僚の川西(潮健二)から、アパートの出物の話を聞いていた。

西堀派出所に電話が入り、神奈川で運転手らしい男の射殺遺体が発見されたと言う緊急通報を受け取っていた。

そんな派出所に奪ったタクシーで接近していた矢崎だったが、思わぬ殺人で動揺していた。

そこに、すまん、すまん!夕べの天ぷらが悪かったらしいと詫びながら、交代要員の中村巡査が到着する。

それをタクシーから目撃した矢崎は、警官3人だ!これでは1人パトロールに出ても交番に2人残る事になる!と慌てる。

その時、後ろからクラクションを鳴らされた事もあり、計算外の事が多すぎると判断した矢崎は、本日の決行は中止する事にする。

東京のアパート住まいを始めた満江は、3人の子供を連れ、初めての学校訪問をしようとしていた。

すると、竹本が乗ったタクシーが近づいて来て、今日初めて東京の学校行くんだから乗せてやるよと声をかけたので、子供たちは喜んで乗り込み、満江も、お前も乗れよ!と竹本から言われるがまま、やや恥ずかしそうに助手席に乗り込む。

安野家では、さとが近所の主婦相手に縁側で、無条件降伏なんですよ、息子たちの言うままに…とうれしそうに話していたが、そこに中谷君子がやって来たので主婦は遠慮して帰って行く。

君子は安野がいると思っていたらしく、今さっき出かけたとさとから聞くと、電話してみようかしら…、今日、人事課長から自発的に会社を辞めて欲しいと言われたんですと告げる。

安野さんは共稼ぎだと強硬だし…と困った風に言う君子に、良一には良一の考えがあるんでしょうけど、私もそう長く生きられる訳ないですし、君子さんには御勤めしてもらうより家の事を覚えてもらう方が良いんですけどねとさとは専業主婦になる事を勧める。

西堀派出所では、交代する警官たちが、江藤君張り切ってるな、ゴール寸前だからな、部長試験…などと噂し合っていた。

新橋駅を降り立った矢崎は、その西堀派出所の前にさりげなく立ち止まり、もう30分もすれば1人パトロールに出ると考えてながら、明和銀行の前を通過する。

明和銀行の中では君子から電話を受けた安野が、困るよ!君も母も軽率だよ、僕にも計画があったんだよ、それを今さら…と愚痴っていた。

近くのビル内のトイレに入った矢崎は白手袋をはめて出て来ると、やって来たタクシーを止めて乗り込む。

そして、明和銀行脇で一旦停めると、金を私、ここで待っててくれる?2〜3分だと運転手に頼んで降りる。

西堀派出所にいた江藤巡査に、こんな物が落ちていましたと矢崎が差し出したのは空薬莢だった。

名前を尋ねられた江崎は「高山一郎」と書かれた偽の名刺を差し出すと、ちょっと中へと江藤から奥の休憩室へ招き入れられる。

銃を取り出した矢崎が背後から突きつけ休憩室へ押し込もうとすると、江藤巡査が激しく抵抗したので思わず発砲してしまう。

その音は、近くに停めていたタクシーの運転手にも聞こえてしまう。

計画の最初方いきなりつまづいてしまった矢崎はすっかりパニック状態になり、拳銃を持ったままとなりの明和銀行に向かったので、多数の目撃者が出てしまう。

銀行内に入った矢崎は拳銃を振りかざし、動くな!と怒鳴ると、カウンターを乗り越えると、水筒係の安野がちょうど金庫に金の入った袋を入れている前に降り立ち、その場で安野を射殺、金袋を担いで表に飛び出す。

ところが待たせていたタクシーの運転手は危険を察知しいち早く逃げ出していた。

野次馬に取り囲まれてしまった矢崎はヤケになり威嚇発射するとその場を逃げ出し、逃げる車を物色し始める。

そこにやって来たのが竹本のタクシーで、銃を突きつけ素早く乗り込んだ矢崎は車を発車させる。

警視庁司令室では、銀行強盗はタクシーを奪い昭和通りを築地方面へ、車は55年トヨペット!と緊急手配を発する。

矢崎は竹本に銃を突きつけ、信号が赤になった交差点に来ると強引に右へ向かわせる。

交通整理の巡査の停止も振り切って逃げるが、途中で急に車が停まる。

どうした?と矢崎が聞くと、あんまりスピードを出したんでエンジンがエンスト起こしたんですと竹本は言い、扉を開けて逃げ出そうとしたので、ふざけやがって!と言うなり矢崎は竹本の背面から射殺する。

パトカーが接近して来て、降り立った警官が駆けつけて来たので、その警官に向かっても発砲する。

その後、矢崎は、神林運送と書かれた軽トラを停め、その荷台に乗ってさらに逃走を図る。

京浜工業地帯へ向かった軽トラは、ゴルフ場を通過し、第十号埋立地に近づく。

さらに多くのパトカーが追尾する中、襲撃された西堀派出所や明和銀行内では、現場検証が行われていた。

そんな中、大西は君子からの電話を受け、安野を出してくれと言われたので、ちょっと安野君は今…と口ごもってしまう。

足下の床には、その安野の死体の輪郭線だけがチョークで描かれていたからだった。

軽トラはどん詰まりに差し掛かり急ブレーキをかけたので、荷台に身を伏せていた矢崎は頭頂部をしたたか後アオリに打ち付けてしまう。

荷台から降り立った矢崎は近くの草むらの中に逃げ込むが、すぐに到着した警官隊は、運転手の無事を確認すると、直ちに矢崎の後を追い始める。

矢崎は、又発砲するが、それを最後に弾切れになってしまったので、銃を投げ捨てて喚く。

その直後、飛びかかって来た警官に捕獲された矢崎は、頭から血を流していた。

それから1年11ヶ月…(刑務所の外観) 矢崎哲男の死刑が執行された。

法律的に罪は消えた。 江藤巡査の故郷である青森の実家では、父親(左卜全)が訪問して来た仁科に、犯人も死刑になった事だし、あれも二階級特進した…、村を出てみた所で2男や3男の仕事など何があると諦め切ったように話していた。

江藤家を出た仁科は、隆さんが東京へ出ていたのの何が悪いんだ?あんな奴さえいなければ…と犯人の事を恨んで呟く。

君子は別の男(草刈竜平)と新婚旅行の車中にいた。 君、御見合いどのくらいした?とお琴は公金から聞くが、君子は何も答えなかった。 安野の母さとは養老院に入れられており、1つ積んでは母のため〜♩などと、うつろな眼差しで口ずさんでいた。

そんな変わり果てた妹の姿を目の当たりにして愕然とする田辺に、案内して来た保母(三戸部スエ)が、犯人が死刑になったと教えたんですが、そんな事しても良一は戻って来ないと喚くだけで、もう丸2日も食べてないんですよ。

院長先生と相談して精神病院へ入れる事になりましたと伝える。

竹本満江は、赤ん坊を背負った格好でデパートで万引きをした所を捕まっていた。

満江も赤ん坊も泣き出すが、一緒に付いて来ていた3人の子供たちはそんな母親の様子を哀しげに見つめるだけだった。
 


 

 

inserted by FC2 system