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本日ただいま誕生

実話を元にした映画らしいが、元々僧侶の家に生まれた植木等さんが主役を演じている。

途中、クレージーキャッツの面々がゲスト出演で顔を出したり、植木さんお馴染みのフレーズがないでもないが、基本はシリアスな展開になっている。

随所に登場する当時の新人、脇役陣を発見する楽しみがある。

個人史であると同時に戦後史にもなっているので、物語前半までは終戦直後の激動の時代と傷痍軍人の苦難の人生が描かれており、それなりに引き込まれる物があるが、徐々に世の中が豊かになるにつれ、主人公の人生も貧しいながらも安定して来たように見えるので、後半に近づくにつれ盛り上がって行くような展開ではない。

後半は世の中の繁栄から置いてきぼりを食ったような貧しい人々が登場し、主人公が、世の中には自分以外にも多数の不幸を背負った人間に満ちあふれている事に気付き、再び宗教に立ち戻る姿が描かれており、中でも口が不自由な少女が、その無垢な心で人生に絶望した1人の男を救うと言うエピソードなどは、降旗監督後年の「鉄道員 ぽっぽや」(1999)などを連想したりする。

同じく戦争で人生を狂わされた不幸な女性との出会いと別れも描かれており、全体的に地味ながらも、静かに心に染み入るような展開になっている。

脇役陣の中でも川谷拓三さんが出色で、拓ぼんの映画と言っても良いような印象すらある。

テレビの時代劇でお馴染みだった宇津宮雅代さんや山口いづみさんを見られるのも貴重。
▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼
1979年、新世映画社、小沢道雄原作、下飯坂菊馬+千田由治脚本 、降旗康男監督。

曹洞宗永平寺

採世式

他の僧侶とともに読経していた僧侶大沢雄平(植木等)は、他の僧侶に手助けをしてもらい本堂の真ん中に座ると、額を前方の敷物にすりつけるようなお辞儀をする。

式の後、部屋の外の渡り廊下に出た雄平は、列車の汽笛を聞いたように思い振り向く。

(回想)昭和20年12月 中国大陸 雄平は他の日本兵と共に、満州鉄道の貨物列車に乗り込み日本へ向かっていた。

左手を負傷し既に顔色も悪いながら横に座っていた佐伯大佐(井上脩)が頼みがあると言うので、耳を傾けると、お守りを取り出し、このお守りは娘だ、わしが死んでも日本の家族に届けて欲しいと言うので、雄平は分かりましたと答える。

やがて、列車は牡丹江に到着、貨物列車の扉を近くの兵隊が開けると、外から雪が吹き込んで来る。

日本へ帰れるんだ!と兵隊たちの喜びの声が聞こえる中、連隊長殿着きました!牡丹江です!と呼びかけた雄平だったが、その目の前で佐伯大佐は崩れるように倒れ、息絶える。

夏服1つで厳寒の中、長時間貨物列車に閉じ込められていた雄平は両足とも凍傷に冒され、診察した田島軍医(北村和夫)はその場で両足切断手術を決断するが、それを聞いた雄平は仰天して拒否するが、斬らんと死ぬんだぞと言われたので、死んだ方が良い!両足なしでどうやって生きるんです!と必死に訴える。

田島軍医は、他にも斬ったりする患者はたくさんいる。

夜中までに自分で結論出せやと言い残し、一旦部屋を後にする。

1人になった雄平は、助けてくれ〜!と怯えるが、夜になり再びやって来た田島軍医が、どうだ?決心付いたか?と聞くと、軍医殿にお任せしますと答える。

田島軍医は、自分は外科医でもないしここには麻酔もない、祈りたいなら祈れ!と言うので、両足がなくなるのに神も仏もありません!ただなるべく同じ長さに斬って下さいと雄平は開き直る。

そして、2人の兵隊が雄平の肩を押さえる中、切断手術が始まるが、麻酔がないので雄平はあまりの激痛に悲鳴をあげる。

泣く赤ん坊の映像 タイトル 母親の胸乳を吸う赤ん坊 少し成長した着物姿の男の子が、畑仕事をしていた母親にやかんの茶を持って来て渡す。

小学校の校庭の鉄棒で遊ぶ着物姿の少年たち 雄平の足をのこぎりで切断する田島軍医。

その後、足を失った雄平は、抱えられて病室の床の上に寝かせられるが、頭の上に飯が置かれている事に気付くと、それを取ろうとする。

近くにいた兵隊が食べるか?と食器を頭に近づけると、自分で食べますと言った雄平はスプーンで飯をかき込もうと仰向けになりかけるが、足に激痛が走り悲鳴をあげる。

それでも、無我夢中で飯を口に詰め込むので、周囲にいた兵隊たちは唖然としたように雄平を見つめる。

昭和21年6月

病院に中国兵がやって来て、この中の重傷者を即刻日本に帰還させる。

5日分の食料を渡すが、他には何もない。 日本兵は何も持たずここへ来て破壊して奪ったのだから、帰る時も何も持っていないと中国兵は言い渡す。

重傷者の運搬係として一緒に日本に帰ろうとする横田(川谷拓三)が重傷者を物色しに来る。

最初に目をつけた重傷者に近づこうとすると、既に目をつけていた兵隊が他を探せ言うんや!と金槌を振りかざして脅して来たので諦める。

病室を見回していた横田は、雄平に目をつけ、どや、あいつ?と谷口上等兵(蟹江敬三)と森本上等兵に聞くと、雄平に近づき自己紹介をする。

もう1人、帝国大学出の坂本少尉(中村敦夫)も紹介すると、お世話になります、少尉殿!と雄平が挨拶したので、少尉はもう止せ!と坂本は不愉快そうに言い返す。

横田らの手伝いで貨車に横たわった雄平だったが、後から乗り込んで来た兵隊(小林稔侍)が、雄平の足の上に倒れ込み、すまんです!と詫びるが、雄平は何ともなかったので平然としており、兵隊の方も雄平に足がない部分に倒れていたことに気付き、互いに気まずい空気が流れた後、どちらともなく笑い出す。

それに気付いた周囲の兵隊たちも隣の貨車の兵隊たちも、緊張感が解れたのか一斉に笑い出す。

いよいよ列車は出発し、牡丹からハルピン、新京へ向かっていたが、何故か途中で線路が破壊されていたため列車は進めなくなり、全員、新京まで歩いて行くことになる。

果てしもなく延々と続く荒野を担架に乗せた雄平を運ばされる事になった横田たち運搬係は激怒する。

そうした中、まだ生きている重傷者を置き去りにし、自分たちだけ歩いているグループも出現しだした事を知った横田たちは、このままでは共倒れになると相談し合う。

翌日、疲れ切った横田は担架から手を外し、転げ落ちた雄平を、坂本がもう少しの辛抱だと言いながら担架に戻してやる。

運搬係の疲労に気付いていた雄平は、坂本に、自分用のカンパンをみんなで分けてくれと差し出すが、それを横から奪い、全部口に放り込んだのは谷口だった。

その夜、坂本に近寄った横田は、このままどうするつもりです?あいつのお陰でみんな死んでしまうかもしれん…

中尉殿!大沢1人背負って行く気ですか?谷口も森本もわいについて来る言うとるで…と小声で話しかける。

翌日、担架の上で目覚めた雄平は、周囲に誰もいなくなっている事に気付く。

這って進み、お〜い!誰もいないのか!と呼びかけるが返事などあるはずもない。

畜生!死ねるか!こんな所で死ねるか!生きるんだ…、絶対生きるんだ!と叫んだ雄平は、何とか這って前進しようとする。

その後、担架の所で気絶していた雄平を死体と思い近づいて来た中国人青年(江藤潤)は、雄平が付けていた雑納を盗もうとする。

しかし、それで正気付いた雄平は、青年がやろうとしていた事に気付き、水筒の水を飲ませてくれたら雑納はやる。

自分の水筒はもう空であると言う事を身振り手振りで伝える。

青年は理解したのか、雑納を受け取ると、担架の枕元に棒を突き立て、そこに白い布を目印用の旗のように結んで去って行く。

雄平は、去って行く青年に、頼むぞ〜!と呼びかける。

しばらくして、その旗に近づいて来た中国兵たちの女兵が、水筒の水を雄平に飲ませてくれる。

その女兵の横に立っていた兵隊が先ほどの青年だった。

船に負傷兵が運び込まれる白黒映像

昭和22年2月

無事帰国し、第五国立病院に入院していた雄平の元に、母親(原泉)と弟(河原崎建三)が見舞にやって来る。

ベッドに寝ていた雄平は、にびあで凍傷にかかって両足を切断した!と打ち明ける。

そうするしかなかったんだよ、死んでしまおうと思ったけど、生きて来て帰ってしまった!と悔いるように雄平は言う。

傷は?と母が言うので、掛け布団をめくって足を見せると、切断された足をさすり、良く帰って来たと母は泣きながら膝に唇を当てて来る。

その後、母親持参の弁当に舌鼓を打った雄平だったが、徳造兄貴はフィリピンで戦死、曹源寺の惣吉さんも胸を患って死んだので、あの寺は兄さんが継ぐ事になっちょると弟から聞かされると、この足で何が出来る!と怒り出す。

母親は、やけを起こすんじゃない!数珠もって来た、これで、仏さんとじっくり話し合う事だと言い、雄平に数珠を渡すと、お前1人くらい何としてでも食わせるからと慰めるので、雄平は、母ちゃん!と感激して呼びかける。

しかし、病棟から外に出て帰りかけた母親は、その場にしゃがみ込み泣き出したので、付き添っていた弟も、母ちゃん…と絶句する。

ベッドで数珠を持っていた雄平も、突然数珠を投げ捨てると、祈ってどうなる!俺を見捨てた観音様祈ってどうなるんだよ!生きて帰って来なきゃ良かったと泣き出したので、同じ病室内の患者たちは驚く。

ちょうど見舞にやって来た連隊長の妻(丹阿弥谷津子)と娘実緒(山口いづみ)は、床に落ちていた数珠を拾い上げ、雄平さん、どうしたんですと声をかける。

俺は分かるんだ、うちの家がどうなのか…、俺が入り込んだらどうなるか…、足のない芋虫になるしかないんだ!あなたの父さんと一緒に死ねば良かったと雄平は嘆く。

実緒は、あなたは自分の事ばかり考える。私にはあなたが持ち帰ったお守りしかありません。

今まで打ち勝ったあなたなら、嘆いていたら2本の足が生えて来るのですか?と叱る。

連隊長の妻も、私も職業軍人の妻として生きていて何になるだろうと思った事もありますが、私の命は私1人のものじゃない…と諭し、雄平さんにはお母さんも弟さんもいる。

それに私たちだって付いているじゃないですか!と実緒は励ます。

ある日、清水技師(高岡健二)が練習用の義足を雄平の足に装着し、歩行のリハビリを始めるが、立ち上がった途端、足の切断面に激痛が走り、雄平は苦痛に顔を歪める。

しかし清水技師は、1ヶ月経てば痛くなくなります。

1日500歩歩いて切断面を足の裏のように固くするんですと言い聞かせる。

雄平は激痛に絶え、懸命にリハビリを続ける。

やがて、「鐘の鳴る丘」のテーマソングを口ずさみながら、杖をついて1人で散歩に出られる程度に回復する。

そんな雄平は、木の根元で抱き合いキスをしている恋人を見かけてしまい、こら、失礼しました!と詫びて去ろうとした時、バランスを崩し倒れてしまう。

恋人の男性の方に助け起こされた雄平は、お手数かけましたと詫び、又「鐘の鳴る丘」の続きを歌いながら散歩を始める。

昭和23年1月

本楽的な義足を付けた雄平に会った清水技師が調子はどうですか?と聞き、これでズボンと靴を履けば、立派な社会人ですよと言うので、雄平はありがとうございました!と感謝する。

雄平は、実緒らの勧めで佐伯家の世話になる事になる。

佐伯大佐の仏壇の前で読経していた雄平を覗きに来たのは、2月10日の大空襲で家族を失い、雄平と同じく佐伯家で居候になっていた実緒の従兄弟の佐伯高子(宇津宮雅代)だった。

大沢雄平さんでしょう?いつも噂は実緒ちゃんから聞いてましたと話しかけて来た高子は、自分が九州で1人だけ助かったのは出かけていたからで、悪運が強かっただけ、あなたも悪運強いわと言うので、悪運か幸運かはこれからで決まるのよと、雄平に気遣った実緒がフォローする。

こうやって連隊長の家にお世話になるなんて夢のようですと感謝する雄平だったが、まだまだ生活は不自由で、つい倒れ込むと、高子が助け起こしに来る。

田舎の母と弟に、佐伯家で暮らすようになった事と、駒沢大学への編入試験に合格した事を雄平は手紙で伝える。

駒沢大の購入部に来た雄平は、本棚の詩集はこれだけなのか?クリスマスプレゼントにするんだと聞くので、お安くないなと学生仲間にからかわれたので、そんなんじゃないよと照れる。

佐伯家のクリスマス、客を招いてピアノ演奏でのダンスパーティを行っていた。

このピアノを聞くのも今夜が最後ですね…と佐伯の妻が言うので、椅子に腰掛けてダンスを見ていた訳を聞くと、レッスン用ピアノが古くなり、もう人に教える事が出来ないと言う。

将来どうするんですか?と雄平が案じると、これからは出張するわと妻は言う。

実緒が、雄平さん、踊りましょうと誘って来たので雄平はさすがにダンスは踊れませんからと断ろうとするが、実緒が強引に立たせ簡単なリズムを教える。

しかし、少し踊った所で雄平は転んでしまい、実緒が助けようとすると、自分で起きる!と怒ったように言った雄平は、壁の所に立てかけていた杖の所まで自ら這って行き、高子の援助もあって何とか立ち上がると、そのまま部屋を出て行ってしまう。

高子は静まり返った室内に向い、皆さん、踊ってらしてと声を掛けると、雄平の後を追う。

庭に出ていた雄平は、杖で木の幹を殴りつけ、自らの惨めさに耐えかねむせび泣く。

自分の部屋に戻って来た雄平は、机を叩いてさらに泣くが、その背後に近づいた高子が抱きつき、一緒に飲まない?嫌?あたしとじゃ…と誘う。

半端な男と半端な女…と高子が言うので、あなたが半端なんて…と雄平が否定しようとすると、アメリカ兵によってたかって襲われたって聞いたらみんな逃げ出しちゃうの…と打ち明けた高子は、あんたも義足の…と言いかけ、雄平さん!と抱きついたので、雄平はそのままキスをする。

母さん、片足の骨が伸びて来たので、その手術のために又病院に戻りました。

そう云う事で大学も辞めました…、雄平から来た手紙を弟が読んで聞かせる内容を、既に寝たきりになっていた母親は涙して聞いていた。

昭和24年8月

仙台(常田富士男)ら患者同盟の仲間と国会に乗り込み、傷痍軍人の苦境を訴えた雄平だったが、応対した与党議員(浜田寅彦ら)は、早急に見舞金を…などとのらりくらりと逃げようとするので、堪り兼ねた雄平は、先生、この足を見てくれ!と言いながら、自らの義足をその場で外しテーブルの上に置くと、中国の将校からこう言われた。

お前たち日本人は何も持たずここにやって来て壊した。帰るときも何も持たない!当然の理屈だ…と語る。

だがこっちは赤紙一つで呼び出され、何も持たないどころか、2本の足をあの大陸に置いてきました。

責任は国家が判然と取るべきです。

お情けの見舞金じゃなく、ちゃんとした法制を作るべきなんです。

今日は納得いく結論を聞くまでてこでも動きませんよ!と言い放つ。

その後、傷痍軍人の社会復帰を助けろ!と国会前でデモを行っていた雄平だったが、度重なる疲労のために路上で倒れてしまう。

仲間たちが、あんた働きすぎなんだよと言いながら助け起こす。

昭和25年1月

久々に佐伯家を訪れた雄平は、表札が柳田に変わっていたので、そのまま引き返す。

病院に戻って来た雄平に、この前あんたが借りたいと言っていた場所、使って良い事になったよと病院の人が言って来たので、食うために助かりますと雄平は頭を下げる。 雄平は、病院の一画で小さな貸本屋を始める。

貸本屋はいつしかパンや菓子も取り扱う雑貨屋のようになる。

ある日、買い物に来た女性たちは、雄平がおらず、無人の店の前には、ちょっと出かけています。

給食券は箱の中に入れて下さいと書かれた貼り紙を見て、あの人人間も大きいんじゃないのなどと笑い合うが、そんな様子を病院に来た高子が窓からのぞき見ていた。

その頃、杖をついてとある事務所の社長を訪ねて来た雄平は、留守だと横柄に答え椅子にふんぞり返っていた昼寝をしていたチンピラの顔をまじまじと見る。

視線に気付いた相手も顔を起こし雄平を見ると、その表情が一変し、悲鳴を上げて立ち上がると、生きとったん?と聞くので、何!と睨みつけた雄平は杖を振り上げる。

チンピラは中国で雄平を見捨てた横田だった。

横田は横手の戸から逃げ出したので、雄平を後を追おうとして転んでしまう。 必死で立ち上がろうとする雄平に気付いた横田は、恐る恐る近づいて来て、雄平が立ち上がるのを助ける。

横田は、足があるさかいビックリしたんや!どついてくれ!わしが悪かったんや!この通りや!と言うと、その場に土下座をして詫びる。

雄平は込み上がる怒りを無理に抑えるかのように、側にあったゴミ箱を杖で何度も打ち付ける。

それを見た横田は、そうやろな…、ちょっとやそっとで許せる事違うもんな…と、事務所に入り茶を入れながら呟く。

後の3人はどうした!と雄平が聞くと、谷口は満人に殺されたわと言う。

食いもんないさかい、百姓の家に泥棒に入ったんや。 森本の方は命弱っていたから殺したわ…、それもこれも、あんた置き去りにした罰やな…と横田は打ち明ける。

坂本少尉はどうした!と雄平が聞くと、横田は雄平を近くの飲み屋に連れて行く。

そこには酔いつぶれたサングラスのチンピラがおり、出来上がってんな…と女将に聞くと、昼間っからどぶろくとバクダンのチャンポンよと女将は教える。

起きてえな、珍しい人連れて来たんやと横田が呼びかけ、目を覚ましたその男が雄平に目をやると、驚いてサングラスを外したその男は坂本少尉だった。

生きてたのか…と坂本は唖然としたように言うと、おい、この人に一杯やってくれ!と女将に声をかけたので、どぶろくで良いね?と女将は返事する。

すると横田が、謝れ!大沢に土下座して謝れ!と迫るので、堪り兼ねた雄平は、止せ!もう良い!と制する。 横田は、酒くれ!こうなったら今晩は反吐吐くまで飲んだる!と言い出す。

やがて雨が降って来た中、店の外で坂本らと分かれた雄平だったが、振り向いた先に立っていた客寄せをしていた高子とばったり顔を会わせる。

高子さん…と絶句する雄平に、別にあんたが最初の男って訳じゃないから…と先に慰めた高子は、実緒の事知ってる?結婚したの…、惚れてたんでしょう?分かってんの…、本当は、私、妬いてたのかも知れない…と言うので、入れには、惚れたはれたなんて関係ない話さ…と雄平は自嘲する。

さっき気がつかなかった、あんな所に雄平さんがいるなんて…、見られたくなかったのよ…と恥じる高子に、俺、病院に小さな店作って何とかやれるようになったんだ。

朝鮮で戦争も始まって景気も良くなりそうだし…と雄平はうれしそうに教える。

しかし高子は、雄平さん、あんたの義足はあんた1人乗っているだけで精一杯よと高子は言い聞かせる。

その後、雄平を呼び出した横田と坂本は、あんた、病院で店やっているらしいけど、会社作ってドカンと行こうかと…、そうすれば、あんたへの詫びにもなる思うて…と言い出す。

今さら、お詫びでもないだろうが…、やるならやろうか?と雄平が乗り気になると、あんたが社長やでと言う横田は、場所も手打ってるんやと教える。

「甲陽物産」と名付けたその店に集まった3人は、とりあえず尾頭付きの鯛の焼き魚が入った弁当で開業祝いとする。

雄平は、自分に日本全国の物産の当てがあるのは患者同盟と言う全国組織にいたからやと横田と坂本に話し、自分はすぐに青森に行ってリンゴを手配して来ると言うので、足大丈夫か?と横田が案じると、生身の足より頑丈だと言いながら、雄平は義足を杖で叩いてみせる。

雄平が日本各地に飛び回ったお陰で甲陽物産には色んな各地の物産が届き、見る見るうちに繁盛して行く。

かなりの利益を得た3人は、揃って高子のいたバーに出向くが、もう高子は店を辞めていなかった。

横田は「上海帰りのリル」のメロディに合わせて、高子〜!どこにいるのか?誰か、高子を知らないか〜♩とホステスと踊りながら歌う。

雄平たち3人は、その後「パチンコ赤玉」と言う店を開店し、3人で揃って記念写真を撮る。

同じ頃、雄平は、他界した母親の野辺の送りに参加する。

昭和27年9月

甲陽物産で電話をしていた横田が、足下見やがって!と文句を言って電話を切ると、戦争終わったら商売やりにくくなったとぼやくので、側にいた坂本は、大手が動き出して来たからな、もう闇屋に毛の生えたような商売じゃダメだと分析する。

赤玉パチンコも抵当流れそうや、一巻の終わりや、甲陽物産もここ3ヶ月赤字続きやしな…と表情を暗くした横田は、雄平にちょこっと話があると言い、とある料亭に呼び出す。

そこに、いらっしゃいませと茶を運んで来たのが高子だったので雄平は驚き、何も知らなかった横田も驚く。

あれから、あんたがいた店に訪ねたんだけど…と雄平が打ち明けると、玉の輿に乗ったと思ったら、朝鮮戦争終わったら…、良くある話よと高子も教え、部屋を出て行く。

横田は、わし、今度、一発勝負賭けようと思うんや、博打や!一攫千金狙わんともうダメや思うんや。 相場や、ちゃんとした相場やってる奴知ってるんで、あっという間に10倍にも20倍にもなる…と横田が言うので、聞いていた雄平は、100万で足りるか?と聞く。

横田が無言だったので、100万の上、かき集められるだけ集める!甲陽物産をあんたのつきに賭けてみようと雄平は言う。

横田と別れた雄平は高子と川下りの遊覧船に乗り、久々に水入らずで話す事になるが、博打か…と呟く雄平を見た高子は、社長はんになって偉くなったかと思ったけど、前より自信ないみたい…と見抜くと、もう潰れるのを待つばかりさ…と雄平も本音を打ち明ける。

金さえあれば、こんな身体でも生きれるんだ、金の切れ目が縁の切れ目さ…と雄平が自嘲するので、さっきの人もそうなの?と高子は聞く。

あいつはここ数年俺のために頑張ってくれたから、最後だけはあいつの思い通りにしてやりたいんだと雄平は答える。

お坊さん辞めるの?と高子が聞くと、連隊長の家を出る時決めたんだ、これからは誰にも頼らないって…、お経もほとんど忘れたしね…と雄平は言う。 それが正しかったと思うの?と高子は問いかける。

横田に金を渡した雄平は、甲陽物産で坂本から、いくら渡したんだ?と聞かれ、有り金全部だ、200万だと教えると、バカヤローだ、あんたは!と怒鳴られる。

まだ裏切った訳じゃないと雄平は弁護するが、東京を発ってもう10日も経つんだ!今頃どっかの温泉場でベロ出してるよと坂本が悔しがるので、もう一度、満州で置き去りにされたあの時に戻るだけだ…と雄平が言うと、止めてくれ!と坂本は嫌な顔をする。

ある日、高子が甲陽物産の店にやって来ると、「都合により閉店します」と書かれた貼り紙が貼ってあるだけだった。 雄平はサンドイッチマンになっていた。

長時間歩く仕事で、つい足がふらついた時、肩を貸して来たのは高子で、止めてよ!雄平さん!と言うなり、広告板を取り上げ道ばたに捨てる。

自宅アパートに連れて来た高子が、バカね、こんなになるって分からなかったの?と嘲ると、あんな仕事しかないんだと雄平が自嘲するので、もう心配しないで、強がっている雄平さんって嫌い、もっと素直になったら?と高子は言う。

あんたの世話になる義理はないと雄平が困惑すると、私が雄平さんを好きでも?と言い出した高子は、雄平さん、私、嫌い?と言いながら、横になっていた雄平に覆い被さりキスをする。

あの時だって、私、雄平さんの事愛してたの…、出来心じゃなかったの…と高子が言うので、雄平派勧化j期し、高子さん!と抱きしめる。

昭和29年9月 田舎に帰って来た雄平から金の無心をされた弟は、兄ちゃん、葬式の後の100万だってやっとこさ作ったんだと困窮振りを打ち明ける。

何とかならんか?他に借りられそうな所は全部回った。

小さな貸本屋をもういっぺんやってみたいんだと雄平が言うと、養鶏やろうと思った金を出すよと弟が言うので、今すぐでなくても良いんだ、来年3月までに間に合えば…、実は高子の奴が出来ちまったんだと雄平が打ち明けたので、弟は驚きながらも良かったなと応じる。

高子と同棲していたアパートへ戻って来た雄平は、義援金と書いた募金箱を作っていたが、そこに帰って来た高子が、キッチンのシンクで吐き始めたので、驚いて立ち上がり、背中をさすってやる。

ありがとう…、お店、またお休みになっちゃう…と高子は申し訳なさそうに謝るが、その時、募金箱を見つけたので、雄平が一思いに白衣着て街に立ってみようと思うんだと教えると、そんな事ダメ!絶対許さない!もしそんな事したら!と言いながら、募金箱を窓の外に捨ててしまい泣き出す。

その時、開いていた入り口に立っていたのは坂本だった。

近くの茶店で坂本と向かい合った雄平は、まずい所見られたな…と恥ずかしそうに言うと、仲が良いのは何よりだ、これで安心して旅に出れると坂本が言うので、何か仕事か?と聞くと、 横田の居所を見つけたんだと坂本が明かしたので、もう良いじゃないかと雄平は答えるが、俺自身決着をつけたいんだと言う坂本は封筒を取り出し、これ、あんたたちへの気持、カミサんに巧いもんでも食わせてやれと言うので、ありがたく頂戴する。

その後、高子はバーで「お富さん」などを陽気に歌っていた。

アパートで高子の様子の変化に気付いた雄平は考え込み、早川産婦人科に行ってみる。

病院から出て来た雄平は、杖で側にあった石碑を打ち付けて悔しがる。

アパートに帰って来た高子に、先に戻っていた雄平が、なぜ堕ろした?今、早川病院で聞いて来たんだ!と聞くと、だって食べられないでしょう?と言うので、弟に借りるって言ったろう!と雄平は怒鳴りつけるが、その間、あんたと私、どうやって食べていけるの?と高子が鏡台の前で問いかけたので、立ち上がった雄平はつかみ掛かろうとして鏡台に倒れ掛かる。

ゆるして!と言いながら助け起こそうとする高子に、触るな!と雄平は拒絶する。

道頓堀

安ホテルのベッドに女と寝ていた横田は、ドアがノックされたので誰や?とドアを開けると、入って来たのは坂本だった。

2ヶ月探した…と言う坂本に、すっからかんや、いずれは無銭飲食でムショの中やろうと横田が打ち明けたので、何故大沢を騙した?あの会社は大沢のためだけに始めたはずだ!と坂本は迫る。

すると横田は、そう言わんとあんたが乗って来んからなとしらっと答える。 ベッドの女はもめ事を嫌い、部屋を出て行ったので、坂本はナイフを取り出す。

それを見た横田は、何や?刺すちゅうんか?と身構えた横田は、あんたかて、儲けた金でスコッチ飲んだやろ?女も抱いたやろ? お題目より食べていかんと、今頃ほっつき歩かんといかんかったやないか? 旦那は何したんや?することして言うてもらおうか! わいは自分に出来る事全部したんや!と横田が開き直ったので、言い返せないと感じた坂本は黙って出て行く。

部屋に1人残っていた横田だったが、窓の外で、止まらんと撃つぞ!と言う声が聞こえて来たので、何事かと窓から下を見下ろす。

そこには、今ナイフを持ったまま路地に入った坂本を怪しみ、警邏中の警官2人が声をかけている所だった。

振り向いた坂本は、この野郎!と叫びながら警官の1人に向かって行ったので、抵抗するか!と叫んだ警官は銃を発砲する。

その一部始終を窓から目撃した横田は唖然とする。

一方、屋台でおでんを食っていた雄平が、妙に威勢の良い客が来たのを機に店を出た時、側に止まったタクシーから、高子と見知らぬ男が降りて来たのに気付き、思わず電柱の陰に身を隠す。

高子はその中年男とともに、目の前の連れ込み旅館に入る。

その後、アパートに帰って来た高子は、横になっている雄平を寝ていると思ったのか、しょうのない人ね…、ちゃんと布団に入って寝れば良いのに…と言いながら近づくと、雄平は不機嫌そうに起き上がったので、何だ、起きてたの?何怒ってるの?と高子は聞く。

自分の胸に聞いてみろ!誰だ?あの男!と雄平が気k鞭、見てたの…と高子が呟いたので、何だ、その言い草は!と雄平は怒り出す。

仕方ないでしょう…、お金くれるって言うから…、惚れてやった訳じゃないから…と高子が言い訳するので、この売女!と雄平は怒鳴りつける。

すると高子は、私は売女よ!と開き直り、付き合わないと付け払わないと言うから身体売ったのよ!お金欲しいから!2万円よ!と言いながら札束を取り出す。

これで、帰ったらお正月のお酒もお餅も買えるでしょう?信念おめでとうって、あんたに言って欲しかったのよ!どうせ私は売女よ!と高子が言うので、止めてくれ!と遮った雄平は、お前なしでは生きていけないんだと言いながら高子に抱き付く。

正月 「佐伯高子」の表札がかかったアパートの部屋の中、布団に雄平と並んで寝ていた高子は、もう何日くらい経ったかしら?と呟く。

知らない…と答えた雄平は、このままじっとしてて楽に死ねたら良いな…などと無気力そうに言う。

布団から抜け出た高子は、灰皿に残っていた煙草の吸い殻を漁るが、もう吸えそうな物がない。

がま口を開けても、中から転がり出たのは数枚の硬貨だけ。

起き出した雄平は、俺が行くよ、女がその格好じゃ外出られないだろうと言い、煙草を買いに出かける。

アパートの外に出ると、ちょうど獅子舞がやって来たので、雄平はその後に付いて行く。

部屋に戻って来た雄平は、こたつの上に置き手紙が置いてあり、高子の姿が見えない事に気付く。

手紙には「雄平さん ごめんなさい 私疲れました さようなら」とだけ書いてあった。 こたつに1人入り込み呆然としている所にドアがノックされ、大沢!いてへんのか!わしや!と呼びかけて来たのは横田だった。

ドアを開くと鍵がかかってないので、そのまま部屋に上がり込み、こたつの上の置き手紙を読んだ横田は、雄平が返事をしない訳を悟る。

坂本がな…、死んでしもうた…、自殺みたいなもんや…、わし追いかけて…、あいつ、アホな奴やであいつ…と言いながら泣き出した横田は、わいがあいつを殺したんと同じや…と呟く。

わし、謝りに来たんや…、わし、いずれシャバにおられんようになるんでな…、坂本にお経の1つもあげてやってもらえんだろうかと言いに来たんや…と言うと、そのまま部屋を後にする。

しかし、階段の所から上がって来た刑事と、背後から迫って来た刑事に挟み撃ちにされたと気づいた横田は、黙って手錠をかけられる。

その時、横田!と呼びかけながら雄平は廊下に出て来るが、刑事たちに連れて行かれる横田に追いつこうとして又転んでしまう。

人気のない橋の下の河原のやって来た雄平は、持って来たカミソリで自分の左手の手首を切ろうとするが、その時、戦地から病院に帰って来た雄平を見舞いに来た母親が、良く帰って来た!と泣いてくれた時の事や、数珠を渡しながら、たっぷり仏さんと話をするこったと言う言葉を思い出し、母ちゃん!と叫んで泣き崩れる。

夕日が見える中、水の中に入り込んだ雄平は、急に笑い出すと、足もなけりゃ金もない…、土壇場になると死ぬ事も出来ない…、情けない奴だ、俺は…と言うと、よ〜し!と何かを決意し、お経を口にしながら、川の水で髪を濡らし、持っていたカミソリで髪の毛を剃り始める。

そして、すっかり坊主頭に剃り上げた雄平は、仏様!似合いよるかな?この頭…、今日からこれで行かしてもらいますから、宜しく頼みますよ!と太陽に向かって呼びかける。

後日、托鉢を始めた雄平だったが、どこへ行っても煙たがられ、追出される。

世間の冷たさにがっかりしていた雄平だったが、そのお時、お先にごめん!と行って通り過ぎた虚無僧(ハナ肇)が、編み笠をあげて顔を見せる。

その顔を見た雄平は唖然とし、いや〜、参った、参った、そうだったのか!と愉快そうに笑い出すが、その時、通りかかった老婆が喜捨を渡して来たので、えっ?と雄平は戸惑う。

さらに、横に家から出て来た主婦も、ご苦労さんと云いながら喜捨を渡して来たので雄平は又しても驚く。

やがて、宮下町巡査派出所の前で警官(荒井注)に呼び止められた雄平は、寄付行為を行う場合は許可がいるのだが、君の場合、法律違反になる!と呼びかけ、派出所内に座らされる。

私の身体でどうやって生きていけば良いのでしょう?と雄平が問いかけると、どっか悪いのかね?と警官が聞くので、あまり見せたくないんだが…と言いながら、裾をまくって義足を出してみせると、これは酷いな…、戦争か?とすぐに事情を察した警官は、若い警官に上天丼注文して来てくれと頼む。

その後、1日100円の木賃宿で会った厚化粧の老婆(小夜福子)に、その器量じゃ男が絶えんでしょうな?もう40は行っているか?などとお世辞を言った雄平だったが、あんまり喜ばせないで!と言いながらキャラメルを差し出して来た老婆は、ねえ?今晩付き合う?と迫って来たので、慌てて、又の機会にと言う事で…と断る。

風呂に入って頭を剃っていた雄平は、誰か入って来た気配に気づき、後ろを剃ってもらえんかな?と声をかける。

声をかけられたひげ面のヤクザの吉岡(室田日出男)は、俺に刃物持たせるなんて良い読経だななどと呆れながらも、バカに時間がかかるな?と雄平がぼやく程丁寧に剃ってくれる。

その後、吉岡の舎弟たちの部屋に邪魔になった雄平は、傷害で前科六犯の兄貴に刃物持たすなんて!とからかわれるが、刃物なんか怖くないですよ、俺が怖いのは雨です。

乞食坊主殺すに刃物はいら〜♩、雨の一つも降れば〜良い〜♩とおどけてみせ、みんなに笑われて気に入られる。

翌日からその厄介な雨の日が続き、出かけられなくで往生していると、当たり屋だと言う金子(谷啓)が、雨が降っている方が当たりやすいなどと言いながら出かけて行くのを見送る。

そこに、どうした和尚?と言いながらやって来たのは吉岡だったが、きれいにひげを剃ってスーツ姿になっていたので、雄平は、親分!ヒゲ剃ったのか!と驚く。

吉岡は、玄関先にとどまっている雄平が雨で難儀をしている事に気付くと、商売上がったりだな?と苦笑し、汽車だ、汽車!と言いながら金を差し出して来る。

そして、俺、今からここを出るからよ、関西の極道に呼び出されたから、もう2度と会えないかも知れないが達者でな、和尚と言うと、スーツ姿で控えていた子分2人の間に立つ。

雄平が念仏を唱え出したので、演技悪いじゃねえか!と子分は睨んで来るが、吉岡は胸を張り、神妙にお経を聞き終えると、何を言ってるのかさっぱり分からねえなととぼける。

そんな吉岡に、親分!あんたの目の中に仏様がいる!と雄平が言うと、からかいやがって…と言いながら、吉岡は木賃宿を出て行く。

その直後、包帯だらけの金子を連れ込んだ友人(安田伸)が、当て逃げされたんだよと言う。

ひでえ奴もいるもんだ…と苦しむ金子だったが、宿賃持ってるのかい?と女将から聞かれると黙り込む。

それを聞いていた雄平は、さっき吉岡からもらった札を取り出し、大金だ!震え来たぞ!と言いながら女将に差し出す。

昨夜からかった厚塗りの老婆は、実はもう67なのだと打ち明けて来たので、もっと身ぎれいにしたらどうだい?と雄平は助言する。

宿に泊まっていた若い労務者たちも、婆さん、しわが深過ぎて、おしろいをしわに塗り籠むんだろう!等とからかって出て行くので、あんたも国の厄介になったら?と雄平が言うと、こちらに戸籍がなくて民生委員にも相手にしてもらえないのだと老婆は言う。

雄平は一計を案じ、老婆を急病で行き倒れたと設定し、救急車を呼んで梅松園と言う養護施設に運ばせる。

病院ではもう1週間検査入院させるが、いっそあなたが身元引き受け人にならないか?そうすれば養老院に入れると看護婦から説明を受けた雄平は、喜んで身元引き受け人になる。

こうして無事養老院に入れた老婆は、おっ様のお陰だと見舞いに来た雄平に礼を言うので、喜捨もらっているだけだと俺も悪いから…と答える。

すると老婆はもう一つ頼みがあると言い出し、孫を川崎の蕎麦屋に預けていると言い出す。

今までは食い扶持を送っていたけど、もう送る事が出来なくなった。

その孫の母親が伊豆の旅館の女中をしているので、おっ様は歩くのが商売だから探して欲しいと言う。

歩くのが商売か…と雄平は困惑するが、何もお返しできねえけど、いつでも遊んであげるからと身体をすり寄せて来たので、そんな事又やったらここをおっ放り出されるぞ!と注意した雄平は、伊豆の旅館か…、あっちの方に回ってみるのも悪くないか…と決断する。

川崎の蕎麦屋の主人(犬塚弘)は、やっぱり親の方が良いさ、口がきけないから…と、妻と一緒に店の前で別れを惜しむので、マリちゃん(嶺川貴子)お礼をと雄平が言うと、まりは雄平の真似をして主人夫婦に合掌をする。

伊豆に旅立った途中の土産屋で、マリは主人から小さな木の人形をもらう。 駅に来ると、ストーブの回りに浮浪者たちが何人もたむろしていたので、わしらも仲間に入れてもらえんかな?と雄平が頼むと、マリに目を奪われた上州(戸浦六宏)が椅子に座っていた男(大泉晃)に目で立てと命じる。

何でわしだけ立つの?と文句を言いながらも男が立ってくれたので、雄平とマリがストーブの前の椅子に腰掛ける。

雄平は礼のつもりで煙草を差し出すと、そこにやって来た駅員が、退いた!退いた!お前たちのためにストーブ焚いたんじゃないんだ!と言いながら浮浪者たちを追い立てたので、雄平は持っていた杖を差し出し、喝!と言うと駅員はびくっと身をすくめる。

マリとホームに出た雄平に、駅舎から出て来たあんま(桜井センリ)が、お棒様、お急ぎでなかったら、うちへ来てくれんか?今日は女房のおふくろの命日なんだが、檀家の和尚が来れなくなったので…と声をかけて来る。

家について行くと、女房(春川ますみ)の方も目が不自由らしく、そのために信心深いのだと按摩は言う。

女房は、年頃になってからだんだん見えなくなったと打ち明け、母も病死したので、親子揃って業が深いに違いないなどと言いながらも、読経を終えると、いかの刺身などを取り分けてマリの前に置くと、たくさん食べてねと優しく声をかける。

鮮やかなもんですな〜と雄平が、女房の手さばきを褒めると、いつも私がここに座っているんでこいつが取ってくれるんですよと、マリが座っていた席を指して按摩は笑う。

翌日、海岸べりを歩いていた雄平は、マリちゃん、夕べは温かかったろう?こたつに足入れて寝るなんて久しぶりだ。

おじさん、足先がないからお腹まで入っちゃったなどと話しかける。

そこに、和尚!と呼びかけて来たのは、患者同盟の仙台だった。

マリと一緒に波打ち際で遊び出したおさよ(赤座美代子)も仲間だと言う。

その子をわしらに預けて行けと上州が言ってくれるので、雄平は1人でマリの母親を捜しに行く事にする。

その後、雄平は町中で上州の姿を見かける。 上州はある店の前に来て、そこの女将に手を差し出すと、女将は黙って金を渡すので、ほほう…と雄平は感心する。

海でおさよと遊んでいたマリの姿をじっと見つめていた上州の所へ近づいた雄平は、見事な物だったね!実に自然なんだな、相手に手を出す仕草、あの秘法をわしに伝授してくれんか?と声をかける。

すると上州はすっと手を出して来たので、授業料か?ごもっとも…と言いながら金を渡すと、そのまま上州は去って行ったので、やられた!と雄平は苦笑する。

そこに仙台が近づいて来たので、見てたのか?と雄平が聞くと、仙台はハッカの煙草を差し出して来る。

しかし、一服吸ってみた雄平は、くらっと来た、こら合わん!と言い、煙草を返すと、それで、あのおふくろさん、見当付いたのか?と上州は聞いて来るのでさっぱりだと答える。

ここの居心地が良いんで、すんでいる人がみんな親兄弟みたいだ。

お陰であの子も幸せそうだ…と雄平が言うと、おさよも、あの子がいるんで明るくなった…と仙台は言う。

やがて、雄平に近づいて来た校長(大森義夫)が禅問答のような事を聞いて来る。

校長と一緒に彼ら浮浪者が住んでいた洞窟の仲に来て見ると、駅で会った男が、やい坊主!俺たち人間が違うみたいなつもりでいるのか?お前も乞食坊主だ!と突っかかって来る。

この子もてめえが作った子だったのか?などと絡む男を殴りつけた上州だったが、雄平は上州がポケットから落した写真に、上州とマリと同じ年頃の少女が写っている事を知る。 インチキ坊主だ!と男はまだ言って来る。

その夜、眠った雄平は、仁王像に睨まれ、空中を落下する夢を見る。

落下しているのは子供時代の雄平だったり、今の雄平だったりする。

呻いて飛び起きた雄平は、洞窟の中に、おさよとマリが寝ている姿を見る。

雄平はおさよに、しばらく1人になりたいんだ、その間、マリの面倒を見てやってくれないかと頼むと、うんとおさよは承知する。 その後、雄平は無人の荒れ寺に居座り、観音像を拝み始める。

そんな雄平に、近所の女(野村昭子)が握り飯をそっと置いていく。

上州は林の中の木に縄を結び、首をくくろうとしていたが、そこに近づいて来たマリが、黙って木の人形を差し出して来たので、みんなの所に行くんだと優しく言い聞かせる。

海辺に逃げて来た上州だったが、またマリが追いかけて来て木の人形を差し出すので、林の中に逃げ込むが、マリはどこまでも追って来る。

堪り兼ねた上州は、ないてマリを抱きしめると、おじさんの子になるか?おじさんと一緒に行ってみるか?と聞くとマリはこくりと頷く。 その頃、おさよは、港中でいなくなったマリを探しまわっていた。

上州はマリをおぶってどこかへ向かっていた。 おさよはとうとう、長滝警察署に駆け込む。

荒れ寺で拝んでいた雄平の元にやって来た仙台が、和尚!マリちゃんがいなくなったんだ!警察にちゃんと話してくれれば、警察がおふくろを捜してくれると知らせに来る。

大学や先代らと街を探し歩いていた雄平は、上州さんに仏さんのお導きがあったんだ…、そう考えると納得できるだろうと自分に言い聞かせるように言うが、その時、一見の料亭の通用口から出て来た仲居が、野良犬にえさを差し出している姿を見て愕然とする。

それは高子だった。

高子は雄平に気付かず通用門の中に消えて行くが、堪り兼ねた雄平がその場から去ると、仙台達は何事が起きたかと追いかけようとするが、校長が、そっとしといてやれと制する。

荒れ寺に戻って来た雄平は義足を外し観音像の前に座ると、観音様、勘弁して下さい。私は恥ずかしい男ですと話し始める。

世の中の人は、苦しみにメンと向き合っているのに、私は足がないばかりに甘ったれていました。

勘弁して下さい! 雄平は、母や高子、横田や吉岡、マリたちの事を思い出す。

足がなくなったんじゃない、足は始めからなかったんだ! 私、大沢雄平は、本日ただいま生まれ変わりました。

今後安住の地など求めず、本当の生き方を探し求めます…と雄平は誓う。

翌日、旅立つ決心を伝えた雄平に、見送りに来た仙台が、和尚、又な!と呼びかけると、校長も、達者でなと声をかける。

憎まれ口の男も、くそ坊主、頑張れ!と励まして来る。

雄平は海岸沿いの砂浜を1人歩き始める。

(回想明け) 僧侶の姿になった雄平は、又静かに渡り廊下を歩き始める。


 


 

 

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