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白い崖

ミステリ映画だが、ちょっと曰く付きの作品で、元々アイラ・レヴィンの小説「火の接吻」を映画化したかったらしいが、既にアメリカで映画化されていたので権利が取れず、別の内容に仕上げて公開しようとした所、先にその「火の接吻」の映画化作品を輸入した会社が「赤い崖」と題して先に公開してしまったので、何かと噂の種になってしまった作品らしい。

菊島隆三脚本だし、この作品にアイラ・レヴィンや「火の接吻」のクレジットは出て来ないことから、着想に似た部分があったとしても基本全くの別作品だと思う。

ただミステリとしては特に珍しくもない設定で、特に伏線の張り方とかアイデアで感心する程のアイデアはない。

貧しい生まれの青年が自分の才覚だけで成り上がろうとするうちに、犯罪に手を染め、やがて自滅して行くと言うパターンは、同じ年に「太陽がいっぱい」などもあることから考えると、この頃のミステリの流行だったのかもしれない。

とは言え、さすがに話の組み立て方にそつはなく、監督の手腕もあってか傑作と言える程の出来でもないと思うが、別に駄作でもなく、通俗に堕しそうな展開を何とか一定の水準に止めているように見える。

有馬稲子、佐久間良子、中原ひとみ、藤間紫と女優陣の演技も見物だが、後半になって登場する有馬稲子の印象は意外と弱い。

探偵役の景子は最後の最後まで感情移入が出来ないような嫌な女に描かれているように見えることもあり、後半の謎解きが弱いと言うか性急すぎると言うか、今ひとつ犯罪が崩れる過程に説得力を感じられず、その辺がこの作品自体のインパクトの薄さになっていると思われる。

全体としてはやや地味だが、そこそこ観られるミステリと言った感じだろうか。   
▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼
1960年、東映、菊島隆三脚本、今井正監督作品。

高い塀の中の砂利道を歩く数人の男たち。

刑務官と共に、とある部屋の扉に向かっていたのは、ひげ面の尾形徹男(木村功)だった。

部屋の中には絞首刑の縄がぶら下がっていた。

そのドアの側に近づいた時、緒方は突然、嫌だ!放してくれ!放してくれ~!と絶叫し始める。

タイトル

(回想)夏も間近の日曜日の午後だった。

湖で大橋美千代(佐久間良子)が操縦するボートに引かれ、尾形は水上スキーを楽しんでいた。

やがて、人気のない岸辺にたどり着いた2人はボートを降り、濃厚なキスをする。

尾形がミニスカートの美千代の足をまさぐろうと手を伸ばすと、いけないわ、そう云うこと、ねえお願い!結婚まで我慢して!と美千代が言うので、本当は君のそう云う所が好きなんだと尾形は答える。

良いな…と寝そべった尾形が呟いたので、そうね、きれいな空気に青い空…などと美千代が答えたので、良いってのは君と一緒にいることさと尾形は笑う。

すると美千代は顔を曇らせ、お父様が許してくださるかどうか…、あなたがうちの社員だかから言うんじゃないのよ、姉さんがフランスに絵を習いに行く時も、お前が決めたことだから洋行の費用は出してやるけど、それ以後は出さんぞですって!と言うので、結局、社長に気に入られるかどうかだよ。

僕は面接で秘書になったんだから自信はあるんだ。僕に任せろ!と尾形は言う。 目標は社長1人だった…(と、尾形の独白) その後、車で別荘から来ていた美千代と別れ、尾形はバスで帰って行く。

別荘に戻って来た美千代が、出迎えたお手伝いに、お父様はゴルフ?時くと、急な御用で東京へ帰られましたと言うので、じゃあもう少し遊んでくれば良かったと悔やみながらも、夕食に頼んだと言う仕出しは断らせ、美千代も東京へ帰ることにする。

一方、下宿先で宮原(花澤徳衛)とその妻たつ(菅井きん)が用意してくれていた食事を食べながら新聞を読んでいた尾形は、尾形さん、景気良い話ないかね?オリンピック景気らしいから尾形さんも水泳やっときゃオリンピックに出られたかもと夫婦から言われると苦笑するしかなかった。

部屋に戻ろうとする尾形に、その場に置いておいたYシャツに気付いたたつが、これ洗濯するのかね?と聞くと、襟だけベンジンで拭いといてよと尾形は頼む。

自宅の三面鏡を前にしていた美千代の方は、パリの姉景子に送る品物のチェックを頼みに来た女中の小島トミ(中原ひとみ)を前に嬉しそうにしながら、ねえトミ、お姉様の手紙に書いた方が良いかしら?などと尋ね、トミが戸惑っていると、花瓶の花びらをちぎりながら、良い?悪い?と鼻卜をし始めた美千代は、最後の一枚が良いだったので、良いんだわ!と笑顔になる。

その時、クラクションの音が聞こえたので、旦那様ですわ!とトミが教える。

何だったの?急な御用って…、日曜だと言うのに…と父の大橋治太郎(進藤英太郎)に美千代が聞くと、世間一般に合わせてたんじゃ仕事にならんよと答えた治太郎は、その直後に電話がかかってきた鎌倉の叔父大橋徳平(加藤嘉)から、今、築地の「まつ川」で次官を連れて来ており色々やっているとの報告を聞く。

日曜明けには偉いことになるぞ!と電話を終えた治太郎が興奮気味に言うので、仕事って面白いの?と美千代が聞くと、面白いさ、金あれば…もこれに従うって言うくらいだからなと答えた治太郎は、市川はどうした?金ばかり取りおって…と看護婦として雇っている市川看護婦(不忍郷子)を探す。

そんな父親に、奥さんでももらったら?と美千代は勧めるが、お前こそ良い婿さんを見つけないと…、もう誰かいるのか?と治太郎が聞き返して来たので、市川さんどこ行ったのかしら?と美千代は探しに行く振りをしてごまかす。 週明けの月曜日、木曜漁業は久しぶりに大きな相場になりましたなと言いながら、上機嫌で徳平が社長室にいた治太郎と岡林専務(山形勲)の元へやって来る。

しかし岡林専務は、これからは投資信託に力を入れ五大証券と肩を並べることだと、楽観気味の徳平に釘を刺す。

そこに秘書の尾形がやって来て、治太郎のその日のスケジュールを伝達し、信越地方を招いているので、ちょっとご挨拶を…と言い添え帰ろうとすると、君!クリーニング代ないのかね?襟が汚れている。そんなことでは料亭でモテんぞと治太郎が注意する。

その後、料亭「まつ川」で松本政務次官(小沢栄太郎)と会った治太郎は、自分の土地を坪500円、100坪で5万と言う破格の安値で譲ると申し出ていた。

別の料亭「柳月」に待機していた尾形は、同室していた同業者から、お互い秘書は出世の近道ですなどと話しかけられていたが、そこへ、社長さん、ちょっと遅くなるそうですと仲居が伝えに来たので、OKと答えた尾形はビールを飲み出す。

信越地方から招いた客たちが、治太郎社長は、常務と専務を競わせているなどと噂話をしている所へ、当の治太郎が新橋の芸者を2人同行してやって来て挨拶をする。

社長の車は?と尾形が「柳月」の女将(三宅邦子)に聞くと、お返しになったそうですと言うので、じゃあタクシーを呼んでくれと頼む。

その後、馴染みの芸者に会ったのでからかったりしているうちに、ブザーが鳴ったので、慌てて水から玄関先に社長の靴を出し始めたので、女将がやって来て恐縮する。

そこに二階から治太郎が降りて来て、タクシーは?と聞いて来たので呼んでありますと答えた尾形は、じゃあ、私はここで失礼しますと靴を履き始めた治太郎に挨拶をする。

一緒に見送った女将が、とうとう降って来ましたよと雨になったことを尾形に教え、一緒にいらっしゃらないんですか?と聞くので、行くんですよ、彼女の所へ…、社長、尻尾を出さないからねと教えた尾形は、タクシーの運ちゃんが戻って来たらここに電話させて、何か起きた時のためにねと女将に頼む。

そんな尾形に、タバコでも買ってくださいねと言いながら女将がぽち袋を差し出して来たので、すまないねと中を確認しながらポケットに仕舞うと、尾形は横柄にビールを注文する。

その後、雨の中、タクシーの運転手から聞いた住所に出向いた尾形は、角のタバコ屋の主人(中村是好)から、バーのママだと言う青木英子(藤間紫)が治太郎が来る時には店を抜け出して戻って来るなどと言う情報を聞き込んだ上で、彼女の住まいに向かう。

玄関横で隠れていた尾形は、突然、英子が飛び出して来て、隣の奥さん!お願いだからちょっと来て!などと呼びかけながら隣の家の玄関を叩き始めたので、どうなさったんです?秘書の尾形ですと話しかけ、英子に付いて家の中に上がり込む。

見ると、布団の中で治太郎が倒れていたので、一体これはどうしたんです?と聞くと、トイレに行くと立ち上がったとたんに倒れたと英子が言うので、すぐさま、知らない人ではまずいと判断した尾形は、主治医に電話を入れ、斐川町の大橋の秘書ですが、寝台車を持って来てくれ。こちら新宿若葉町…と伝えながらも、治太郎の側にいた英子には、動かしちゃいけません!脳溢血かもしれないからと注意する。

その後、自宅に治太郎を連れて来た尾形は、脳溢血の人を動かすなんてと憤慨する唐沢主治医(明石潮)に、社長は体面を気にする方だったから世間には家で倒れたことにしといてくれと頼むと、喉が渇いたから、何か冷たいものでもない?とトミに声をかける。

そこに連絡を受けた藤永総務部長(須藤健)が駆けつけて来たので、一番乗りです、記録しておきましょうと尾形は言い、他の重役たちの連絡先が分かるのかね?と聞かれると、行きそうな場所は日頃調べています、常務がまだ…と答え、「エトワール」と言う店に電話を入れ、まだ来ない?君の名前は?ユリちゃんねと確認して電話を切ると、名前を聞いておかないといい加減ですからね、彼女たちは…と言いながら、見舞客控ノートを即席に作ると、ご自分で署名してくださいと藤永総務部長に渡す。

そして藤永総務部長に、応接までお休みくださいと伝えた尾形は、ニコニコ軒に電話を入れ、下宿のおばさんに伝えてくれ、2~3日帰れないかもしれないって、今、社長の家だよ、斐川町の…と伝言する。

そこに美千代がやって来て、まだいびきかいてるわ、誰もいないから大丈夫よなどとちょっと狼狽する尾形に話かけて来る。 それでも美千代は、お父様に女の人がいたなんて…とショックを隠せないようだった。

その時、電話がかかって来て、受話器を取った尾形は常務からだと知る。 翌日会社の重役会では、岡林専務が自分が業務代行に相成りましたと挨拶していた。

河村重役(増田順司)や石山重役(小川虎之助)は、尾形が良くきり回していると感心する中、会社経営に情実主義は出来ませんと岡林専務が発言したので、徳平は嫌な顔をする。

尾形の時間外手当をどうするかと藤永総務部長が聞くと、岡林専務は君の方で処理しなさいといなす。

社長宅に泊まり込んでいた尾形は、下男の佐竹(織田政雄)に金庫を開けさすと、そこに入っていた株や定期預金を確認し、小切手はあなたが切ってください。帳簿は私がやりますと指示していた。

佐竹が出て行くと美千代がやって来て、父さん、もう大丈夫よと小康状態に戻ったことを教えて来たので、社長、僕のこと、何かおっしゃってませんでしたか?と聞くと、男の良さは男が観なければ分からないですってと美千代は答える。

その時、社長が呼んでいると言うので、寝室へ行くと、お前、どうして英子の所を知ったんだ?と聞いて来る。

尾形が言いよどんでいると、お前、若葉町へ行ってくれ。

佐竹に10万の小切手書いてもらってな、それを持って行ってくれと治太郎は頼む。

定期預金が今日我慢機ですがそちらはどう致しましょう?と尾形が聞くと、それは良いから佐竹君を呼んでくれと治太郎は答える。

尾形が退室し、佐竹がやって来ると、お前か?あいつに定期を見せたのは!しっかりしろ!お前は定年で辞めたのをこうして使ってやっているんだから!と治太郎は叱りつける。

若葉町の青木英子に10万の小切手を届けた尾形は、こう云う使い始めてなんでこう云うことをお聞きするのは大変失礼かもしれませんが、その領収書はもらった方が良いのでしょうか?と聞く。

それを聞いた英子は笑い、こう云う使いはよっぽど信用した人しかさせないわよ。

あなた、責任感強いわね、後で言っとくわよと答え、店に行くから一緒に行きましょうと誘い、鏡台で化粧をしながら、社長のこと、本当に好きだと思ってるの?などと玄関先に立っていた尾形に聞くが、困っちゃうな、そう云う質問…、やっぱり失礼します!と言い残し、尾形はそそくさと帰って行く。

社長宅にタクシーで近づいた尾形は、途中で車を停め、社長宅に向かっていた母親すぎ(浦辺粂子)に声をかけ、近くの食堂で重箱を振る舞う。

4年振りに上京する機会だったので尾形に会いに下宿に行ったら、社長の家にいると聞いてやって来たのだと言う。

兄貴は達者か?と尾形が聞くと、あの子はあんたと違うて高校しか出とらんから、村会議員に頼んで肥料会社に入れてもらった。

月給は8600円だと言うので、田舎じゃ安くこき使われているなぁと尾形は吐き捨てる。

いつ帰るんだい?と聞くと、団体旅行で上京して来たらしく、今夜は熱海に泊まるとすぎが言うので、母さん、財布出しいやと尾形が言うと、小遣いか?とすぎが顔を曇らせたので、僕が出してやるんじゃと言い、尾形が金を渡してやる。

それを見たすぎが、あんた、こんな大金を!と驚くので、今に好きなだけ贅沢させてやるから長生きなさいと尾形は優しく言い聞かせる。 社長宅での食事は一流のレストラン並みだった。

食後、市川看護婦(不忍郷子)に、注意してくれたまえと指示を出した尾形には、ベランダから見える銀座のネオンが、まるで自分のために輝いているように見えた。

社長宅ではパリに行って不在の姉の部屋をあてがわれ、夢のような幾日かが過ぎた。

夜、ダンスを踊りながら美千代が、ねえ私のこと、お父様に…と言って来たので、焦っちゃだめですよと尾形は言い聞かせるが、そこにがやって来て、君も何かとご苦労だったが、明日から会社の方へ戻ってもらうことになった。

今回の件は出張扱いにするよと言って来たので、それを聞いた美千代は驚き、それ、社長の意志なの?と聞き返し、渡し、お父様に言って来るわと部屋を出て行こうとするので、今行くと、根に持ったように思われるよと尾形は止め、抱き寄せるとキスをする。

尾形は下宿に戻ることになるが、バーにやって来た尾形からその話を聞いた英子は、飛ばされたのよと笑う。

筒抜けよ、私、原因は金庫の中じゃないかと思うわ。満期が来てますなんて言っちゃだめよ。あの人、役に立つ男はとことん利用するけど、あんまり役立ちすぎると…、分かるでしょう?と意味有りげな笑い方をする。

女も同じよ、こんなお店持たせてもらっているけど、実は借金になっているの。利息がつかないだけ。私に投資してるのよと英子が言うので、ねえ、何とかなりませんか?社長に取りなしていただけませんかと尾形ガタ飲むと、ダメダメ、今まで一度も電話したことないんだから。それが私たちのエチケット…と答えた英子は、他の客がやって来たのでそちらへ向かう。

別のホステスがやって来たので、お勘定と言うと、良いんですって、ママが…とホステスは言う。

美千代が、会社の尾形に電話すると不在だと言うので電話を切る。 その直後、尾形が戻って来たので秘書課の吉田(滝沢昭)が、今、電話があったぜ、女の声だよと教えるが、そのとき又電話が鳴り、受話器を取った秘書課員が黙って尾形に手渡す。

電話の相手は英子だった。 お昼休みでしょう?ちょっとお目にかかりたいのと言うので、場所は?と尾形は聞く。

英子が指定して来た旅館に着いた二階の部屋にはサンドイッチが用意されており、尾形が窓を開けて外を見ると、眼下に広がる多くの家々の屋根が見えた。

気がつくと、隣に浴衣姿になった英子がサンドイッチ嫌いじゃなかった?と聞いてきたので、どう言う場所なんです?ここはと聞くと、どう言う所と思った?と英子は笑い、私の方じゃ煩わしい手間を省いてるの。

前に努めていた店のお姉さんがやってるの。あの人もぜんぜん知らないのよと治太郎のことを教える。

ママ、よっぽど不自由してるんだなと答えた尾形は、67-7121と秘書課に電話を入れると、出た女子社員に、出先で社長の用事を仰せつかってね、今日は戻れないかもしれないから、タイムカード押しといてくれよと頼む。 電話を終えた尾形に、私、その下で生まれたのよ、1日中陽が当たらないの…と窓の外の町並みのことを言い出したので、止しなさいよ、身の上話なんて…と尾形は不愉快そうに答える。

すると英子は、これ高血圧の薬、ドイツ製の…、私から頼まれたって言って渡して、点数稼げるわよ。これからもお互い大人の付き合いって言う訳ねと用件を話す。

その後、薬を持って社長宅へ出向いた尾形が、お嬢さんは?と聞くと、トミが音楽会へいらしたのよと答える。

尾形が寝室へ向かうと、市川看護婦がトミに、手紙を出して来るわ、私がこんなに働いているのに、娘が学校を辞めたい何て言って来たのよと打ち明け出かけて行く。

ベッドで寝ていた治太郎に、血圧の薬を頼まれましたと英子から託された薬箱を差し出すと、つまらない使い走りをする男だ…と治太郎は蔑むような目つきで言う。

そんなことをするなら会社の仕事に打ち込むんだと忠告した治太郎は、尾形、美千代のことだが、今後近づかんでくれ。

あれがどう思っていようが、わしが許さん!君はそう云う男なんだ、何が目当てなのか知らんが、目的がないと動かん男だ!ときついことを言い出したので、驚いた尾形は必死に抗弁しようとするが、もう良い、帰れ!口答えは許さん!と激怒する。

がっかりして部屋を出かけた尾形だったが、その直後、治太郎がベッドで力なく倒れているのに気付く。

看護婦さん!市川さん!と呼びかけるが、駆けつけて来たのは佐竹だったので、電話だ!お医者さんを早く!と指示し、自分は治太郎に、社長!しっかりしてください!と呼びかける。

やがて佐竹が、近所の医者を呼びました。お嬢さんにお知らせしないと…と報告に来る。

やって来た前川医師(清村耕次)は、動かさなかったでしょうな?と尾形に確認しながら容態を診ていたが、すぐに腕時計で時間を確認し、7時37分…、私の時計は少し進んでいるので正確には32分でしょうと言うと、どうにも手の施し用がありません…、大橋さんは株の世界では有名な方でしたが、人間、死ぬ時には誰も彼も変わらないものですね…と治太郎の死を伝える。

死亡診断書は後から病院の方へ取りに来てくださいと言い残し医者が帰ると、大橋徳平が駆けつけて来て、景子には知らせたのか?と佐竹に確認し、帰る、帰らないは彼女の意志次第だと付け加える。

通夜の席、円座になった重役陣の中、巨星堕つか…と岡林専務が呟く。

遺言状みたいなものも嫌いだったし…、そうだ、誰かその場にいたんだって?と岡林が聞くと、尾形君がちょうど…と藤永総務部長が答える。

やって来た尾形に、君来たまえと招き寄せた石山重役が、何の用でここにいたんだね?と聞くと、ちょっと申し上げにくいんですと尾形が答えたので、言いにくいと言うことは個人的な、プライベートなことなのか?と岡林専務が確認する。

社長の名誉に関わることなので…とわざと言いよどんだ尾形は銀座の…と一言だけヒントを出す。

するとすぐに岡林専務は、銀座に少し金を届けて来たと言う訳か…と察し、徳平も驚いたように、そんなことは兄弟の私にも聞かせてなかったとぼやく。

岡林専務はよほど信頼されてたんだな…と感心し、徳平は、何か言ってなかったかね、会社のことなんか?と探りを入れて来たので、万一のことがあっても会社のことは心配ない…、ただ、自分がいない後はドングリの背比べ、勢力争いになる…、五大証券と肩を並べることにはならんだろう…と、すみません、社長がそうおっしゃってたんですと尾形は嘘をつく。

岡林専務らは、それは分かっているから、他に何か言ってなかったけね?と聞くと、又尾形は、人事のことなので申し上げにくくて…とわざと言いよどんでみせ、自分の後は大橋常務にさせ、岡林専務にはその補佐役に回って欲しいと…と嘘をつくが、重役たちは、社長が言ったと言えばすっかり信じ込んだようで言いなりになる。

うちのことも何か言ってなかったかね?と徳平が聞くと、申し上げにくいんですが、お嬢さんに好きにさせてやって欲しい。

私はその内に自分の意志をお伝えするつもりでしたと申し上げると、好きなようににしろと言われ、そのまま…と美千代とのことを嘘を交えて尾形は嘘泣きしてみせる。

その後尾形と2人きりになった美千代は、私、1人ぽっちになってしまったわと嘆くので、僕が付いているよと尾形が慰めると、お父様はやっぱり美千代の気持、分かってらしたのね、私たち、しっかりやりましょうねと、尾形の嘘を真に受け抱きついて来る。

3ヶ月後、私たちは結婚した。 資産は兄弟たちに分けられたので尾形には何も入らなかったが、彼の夢は実現したのだった。

車の運転もゴルフも覚えた。 会社では一番若い課長になった。 大橋邸では、トミが美千代に、前川様と言う方がお見えですと伝えに来たので、姉さんに出しといてと手紙を託した美千代が会ったのは、父の臨終を確認した近くの医者だった。

往診したとき、間違って鞄に入っていたんです。

薬だけならともかくはこの中に手紙まで入ってまして大変恐縮してますと詫びながら、大橋が美千代に渡したのは、英子が尾形に届けさせた血圧の薬だった。 手紙は英子が父治太郎に宛てたもので、尾形さんのこと、お怒りにならないでなどと書かれてあった。

大橋は、脳溢血は厄介で、一旦倒れたら遺言一つ出来ませんからねなどと言うので、父は遺言を残しましたけど?と美千代が教えると、そんなはずがありません、第一意識がないんですからと大橋は真顔で否定する。

気になった美千代は、英子を訪ねて「バー リヨン」に言って見るが、路地でゴミを捨てていたバーテンが言うには、まだ来ておらず、美容院か自宅では?と言い、自宅の番地を教えてくれる。

タバコ屋の主人に青木家のことを聞くと、今、お留守ですよ。さっき旦那と出かけましたよと言うので、旦那さんは亡くなったのでは?と美千代が怪訝そうに聞くと、婿さんが後を継いだんですよとタバコ屋は笑う。

帰宅した美千代はバッグに荷物を詰め始めるが、そこにゴルフクラブを持った尾形が入って来て、遅かったね、食事して出かけようか?などと甘い声で囁きかけて来るが、終始無表情だった美千代は、止してよ!聞いたのよ、何もかも!青木英子ってあなたの何?と問いつめたので、返事に窮した尾形がどこに行くの?と聞くと、鎌倉の叔父の家!と答えた美千代は、私に対する愛情はもっと深いと思っていたのに!と騙されたことに耐えかねるように言う。

誤解だよ!落ち着こうよと尾形は弁解しようとするが、その目、卑しい!やっぱり育ちの悪いのはダメね!と美千代が言うと、それだけは言わないでくれ!と尾形も怒り出す。

おじ様に話すわ!あなたは詐欺や泥棒と同じよ!と美千代が言うので、思わず殴った尾形だったが、後ろ向きに昏倒した美千代は暖炉の角で後頭部を強打し、そのまま倒れてしまう。

どうした?美千代!と驚いて駆け寄った尾形だったが、既に美千代の息はなく、慌てて唐沢病院へ電話しようとするが、相手が出ないのでそのまま切ってしまう。

その時ノックがあり、何だ!と聞くと、お風呂はどうなさいますか?とトミが廊下から聞いて来たので、後で良いよ!と答えて追い返す。

その後、どうするんだ?どうしたら良いんだ?と悩んだ尾形は、気を鎮めるんだ!と自らに言い聞かし、一旦ドアから顔を出し、おい!誰かいないか?出かけるから早く食事の用意をしてくれと女中たちに声をかける。

すぐに、トミやお幸(山本緑)が食事の準備を始めると、その隙を突き、美千代の死体を抱き、彼女のバッグを持った尾形は階段を降りると車庫に向い、トランクに美千代を横たえるとそのまま車を出発させる。

尾形は坂の下の塀を曲がった所で車を停め、自分はまた屋敷へ戻って行く。

洋酒をあおって気持を落ち着かせた尾形は、トミを部屋に呼び、すまないが薬を持って来てくれ、腹が痛くなったんだと嘘をつき、奥さんにも声をかけてくれと頼むが、奥さんは出かけられたのでは?さっき車が出発する音が聞こえましたとトミが言うので、怒っていたからな…、つまらん口喧嘩をしたから怒ってたんだねと尾形はごまかす。

夕食は断り、薬を飲んだらすぐに寝ると言うと、トミは、すぐにお薬をお持ちしますと答え下がる。

夜中こっそり家を抜け出した尾形は、美千代の死体をトランクに入れたまま、降り始めた雨の中、30分ばかり走らせる。

その内、警察の検問に引っかかり、どちらまでと刑事(山本麟一)に聞かれたので、銀座までと答えると、あっさり通してくれるが、その時尾形はアイデアがひらめいたので、しばし発車が遅れてしまう。

やがて人気のない崖の所に来た尾形は、車を降り、トランクから美千代の死体を抱き上げようとするが、トラックが通りかかったので、慌てて身を隠してやり過ごす。

その後、もう一度美千代の死体を抱き上げ、助手席に乗せた尾形は、バッグもその横に起き、自分が運転席に戻って崖まで少しずつ車を近づけた後、美千代の死体を運転席側に近づけアクセルを吹かすと、自分は間一髪車から飛び降りる。

美千代の死体を乗せた車はそのまま崖から墜落する。

翌朝、自宅では、かかってきた電話を受けたお幸が、えっ!事故!と驚く。

慌てて尾形の寝室に知らせに来たトミは、普通にベッドで起きた尾形に、奥様が事故に!今、警察から電話が!奥様が別荘近くの崖に落ちたそうです!と伝える。 美千代の葬儀の時も、誰も疑うものはなかった。

会社の重役会では、尾形君も大株主か…、いっそ社長でどうだ?今の社長よりましですな…などと石山重役が冗談を言っていると、入り口に尾形が立っていたことに気付き、今のは冗談だからなと慌ててごまかす。

しかし、尾形は心の中で、あれが冗談ではない日が来る、いつかきっと…と考えていた。 その後も付き合っていた英子は、奥さん、本当に事故?自殺じゃなかった?私のことで喧嘩でもしたんじゃないかと思ったの…と核心を突き、ねえ、私のこと、奥さんにしてみない?と言い出したので、本気で言ってるのかい?と尾形が聞くと、急に英子は笑い出し、本気のはずないわ、そんな大それたこと考えてないわよと言いながらも、それでさ、パパさんに借りた350万、棒引きにしてもらえないかしら?手切れ金よと言うので、尾形は承知する。

その夜、帰宅した尾形は、部屋にやって来たトミが珍しく着物を着ていたので、トミ、バカに良い着物来てるじゃないかとからかう。

今日、お見合いだったんです。母が死んだんです。父はずっと前からいません。旦那様もお気の毒に…、毎晩遅くまでお部屋の電気が付いてますよねとトミが言うので、寝ながら本を読んでいるんで消すのを忘れるんだよと尾形は苦笑するが、私も眠れないんです、毎晩…とトミが言うので、どうして?と聞きながら、尾形はトミをベッドに押し倒しキスをする。 次の日曜日、尾形はトミを連れ、無人の海辺でキスをしていた。

口紅が付いているわとトミが尾形の唇を拭きながら気遣うと、安物使っているんだなと笑った尾形は、今度買ってやるよと言うので、ねえ、これから私たちどうなるでしょう?とトミが聞くと、さあね、運命に任せるよと尾形は答える。

もう少しいましょうとトミはあまえるが、ダメだよ、遅くなるからと尾形は急かすので、立ち上がったトミは、新橋から別々に帰りましょう。私、千葉の従兄弟の家に行ったことにしますと提案する。

ところが、帰宅した尾形は見慣れぬトランクが多数玄関先に置かれているのに気付く。

フランスに行っていた景子が帰って来たのだと言う。

その景子(有馬稲子)が姿を見せ、握手を求めて来たので、教えていただければ迎えに行きましたのにと尾形が言うと、昨日羽田に着いたんですけど、鎌倉の叔父の家に行ったの…、もう父も妹もいないんですもの…と景子は寂しげに言う。

尾形は、いつでも僕はアパート住まいしますよと言いながら煙草を口にくわえると、景子がライターを差し出して来たので、それを借り受けた尾形だったが、ライターに香りが付いている事に気付く。

パリではみんな自分の匂いを持っているの…、こうしていると初めてお会いした気がしないわ、いつも手紙で美千代が書いて来たせいねと言うので、僕も同じ思いで、実物の方がお美しいですと尾形がお世辞を言うと、あなたも写真より素敵よ、美千代の話聞かせて下さいなと景子は頼む。

とても素敵な奴でしたよと尾形が答えると、おもらいになったら?新しい彼女、フランスのコントよ、奥さんに懲りた男は二度と奥さんをもらわないんですって…と言いながら、窓から見える銀座の灯りを前にした景子は、きれいになったわ、東京も…と呟き、疲れていますので、休ませていただくわ、おやすみなさいと言い残し自室へ戻る。

ところが、尾形が自分の寝室に戻り一杯飲んでいると、ドアがノックされ、又顔を出した景子が、おみやげ、気に入るかどうか分からないけど…と言い小箱を渡すと、今度こそおやすみなさいと言って去って行く。

それはアクセサリーだったが、又ドアがノックされたので慌ててその小箱を隠す。

入って来たのはトミだったので、俺、眠いんだ、疲れたんだよ、どうしたんだい?とつれなくして追い返そうとすると、急にトミが抱きついて来る。

尾形は、止せよ!誰か来るとまずい、お休みと言い、トミを帰らせる。 幸運は向こうからやって来た…、正に一石二鳥だ…と尾形は、ベッドで寝たばこを吸いながら考える。

翌日、ゴルフ練習場で、知人から褒められた尾形は、狙った間とは外したことがないんでねなどと答える。

一方、景子は妹の美千代が死んだ崖にやって来て、白い薔薇の花を一輪、崖下に投げ入れる。

その後、景子は、新聞記者の油井支局長(河野秋武)の地方事務所を訪ね、事件現場の写真を見せてもらう。

何か手がかりでも?と出かけていた油井が戻って来て聞くと、車から出ていた美千代の手を指し、手袋してませんよね?左の手首に子供の頃、火傷をしたのを気にしてましたの…、車を運転するのに手袋しないなんて…と景子が指摘する。

しかし、油井は、私が刑事でも同じでしょう、手袋だけでわね…と事件性を否定する。

これどうご覧になります?と景子が油井に見せたのは、事件当日、美千代が景子に出した手紙だった。

こうして写真を見るとどうしても…と景子が納得していない気持を見せると、事件だとすると私も記者として失格ですな。

都落ちして勘が鈍ったかな?ホシのめどは…、サツが撮り合わないものを素人が扱っても…と、油井は事件性の証明に消極的だった。

景子は、母がいなかったものですから、あの子の死が自然だとすると、寂しさのあまり家来んを焦ったのかもと…と、妹のことを案ずる。

しかし油井は、あなたの疑っている相手を現場に連れて行くなどと言うのは止めた方が良い、2度目の事件が起きますと忠告する。

その頃、尾形は岡林専務に呼ばれ、重役に抜擢したい旨聞かされていた。 一株主として、内の会社どう思う?と岡林から問われた尾形は、亡くなった社長は立派な方だったと遠回しな答え方をするが、最後に大きな損失を会社に与えた。

あの能無しを後見人にしたことだ。私が社長になろうと思うので、君も重役になって力になってもらいたいんだと岡林は持ちかけて来る。

屋敷に戻っていた景子の元にやって来たトミが、車屋から来たと言う速達を渡す。

それを受け取った景子は、領収書よ、車を買ったから…、本当に、あの子がいなくなったなんて嘘みたいなどと言いながら、机の引き出しを開けていると、景子が美千代に送っていたこれまでの手紙がちゃんと保存されていることに気付く。

徹男さんと喧嘩したことなかった?と景子から聞かれたトミは、事故のあった晩、何か言い争いがあったっておっしゃってましたわとトミが答えたので、原因は何だったの?と景子が聞くと、旦那さんはしょげていました、あの晩は酷い雨でしたから…とトミは言う。

それを聞いた景子が、それじゃあ、徹男さんが殺したようなものじゃない!と非難すると、トミの表情がさっと変わったので、冗談よ、トミは何でも本気にするのねと笑いかけるが、トミの表情の変化に別の感情を読み取り考え込む。

その後、尾形は徳平に呼ばれホテルのロビーで落ち合うと、そこには景子も同席していた。

徳平は、今度の重役会で妙な動きがあると聞いたんだが、君知らんかね?いずれ君にも重役になってもらうつもりなんだが…、君と景子の株をあわせればどうにでもなるが、岡林から何か聞いてないか?と言うので、尾形は別に…と言葉を濁す。

徳平は、別の知人に気付き席を立ったので、尾形が景子が同席している理由を聞くと、貸金庫まで来たのと答えた景子は、あなた、そっちの方は明るいんでしょう?いっそのことお願いしようかしら?などと言い出したので、金って奴が入ると何かと面倒ですから…と尾形は辞退する。

その後、でも、それだけ信用されてるって思わなきゃ、あんな叔父じゃ役に立ちませんもの…と景子はお世辞を言いながら、尾形とダンスを興じていた。

そこまで持ち上げられた尾形は、私で良かったらお力になりますよと答えるが、その時、尾形に肩がぶつかって来た別のダンスカップルがおり、それは英子だと分かる。

少し飲みましょうか?と誘った景子は、私車買ったわ、ハドソン…、今度の土曜、ドライブしない?と尾形に語りかけて来る。

尾形は気軽に、どこでも付いて行きますよと答えると、お別荘に決めましたわと景子は答える。

自宅に帰ってからも、ドライブ本当?楽しみにしてるよ、土曜日…と尾形が景子に確認しているのをトミが聞いてしまう。

夜、寝室の尾形の元へやって来たトミは、自ら抱きついて来てキスをねだると、口紅付かないでしょう?今日デパートで買って来たのと伝え、今夜はここで寝させてと甘えて来る。

土曜日に景子さんとご一緒なさるんでしょう!と責めながらトミが泣き出したので、ごめんね、今日はイライラしてるんだと尾形は詫びるが、私、奥さんになろうなんて思ってません!とトミもむきになる。

土曜の夜、尾形は自分が運転し、景子を助手席に乗せ車を飛ばしていた。

随分飛ばすのねと景子が言うので、流行ってるんですよ、第一、こんな新車でのろのろ走る手はありませんよと尾形は愉快そうに答える。

すると景子が、もうすぐね、美千代が死んだ崖…と言いながら尾形の表情を盗み見て、いやよ、美千代の二の舞は…などと付け加える。

その後、途中のドライブインでコーヒーを飲むことにした2人だったが、美千代が死んでから崖にいらしたの?と景子が聞くと、一度も…と尾形が言うので、どうして?と聞き返した景子は、ごめんなさい、嫌な話をしてしまってと詫びる。

尾形が親指の爪を噛み始めると、あなたの癖ね、何でも知ってるわよ、美千代が手紙に何もかも書いて来てたから…、あなた刺身が嫌いなくせにお寿司は好きだと言うこともねなどと話した景子は、ちょっと電話して来るわと言い残し席を立つ。

尾形は景子の行動の意図を探るため、車に戻るとトランクの中を確認する。

そこには、見覚えのある美千代のバッグが入っていたので尾形は警戒する。

一方、景子が電話をしていたのは油井支局長だったが、油井は、現場への深入りは危険です。僕は別荘にてお待ちしましょうと答えていた。

電話をかけ終えた景子が席に戻って来ると、先に席に戻っていた尾形が、さ、行きましょうか?と誘い、何食わぬ顔で又車に戻る。

助手席に乗った景子は、ねえ、美千代って用心深い子だったわよねと聞くと、50km以上出したことなかったと尾形が答えると、何かあったのかしら?最後の手紙には幸福そうなことが書いてあったわと景子は教える。

あの子、手袋手放さなかったでしょう?こんな所でスリップするかしら?などと景子は助手席で語り続ける。

こっちは晴れてましたからねと尾形が答えたので、良くご存知ですね?と景子が皮肉ると、新聞で見たんですよとごまかした尾形はどんどんスピードを上げて行く。

さすがにその異常な行動に危険を感じた景子が、どうしたの?怖い!と怯えるが、そのまま猛スピードを続けた尾形は、事故現場に来ると車を停める。

外に降りた景子に、同じく降りた尾形が、景子さん、何故僕をドライブに誘ったんですか?と聞く。

車を買ったからよと景子は答えるが、何故別荘に誘ったんだ?何だこれは!と言いながら、尾形はトランクの中で見つけた美千代のバッグを差し出してみせる。

景子はさすがにうろたえるが、バッグを投げ捨てた尾形は、せっかくだけど僕は犯人じゃない。

美千代は事故だったんだ。倒れた弾みに頭を打って死んだんだと教えると、やっぱりそうだったのね、あなたが美千代を殺したんだわ!と景子は叫ぶと、車の運転席に飛び込み車を発車しようとする。

しかし尾形も助手席に飛び乗って来たので、景子は別荘の前で急ブレーキをかけ、尾形をつんのめらせると、自分は車を飛び出し別荘の中に逃げ込む。

別荘の外には油井支局長が見張っていた。

尾形も車を降り、別荘の中に入り込むと、暗闇の中に立っていた女性の頭を持って来た棒で滅多打ちにする。 尾形は倒れた女性は景子ではなくトミだと気づく。

そこに、油井が入って来る。 景子も奥の階段をゆっくり昇って来る。

(回想明け)ここは死刑囚の終着駅だ。

刑務所に入っていた尾形に面会人だと看守が教える。

面会室へ行くと、そこにいたのは母のすぎだったので、死刑の執行が近いことが分かった。

同席していた横井教養課長(神田隆)が、尾形、お母さんがわざわざ来てくれたんだと説明し、すぎは、夜行で来たんだよ。あんたの一番好きなものをと思って…おはぎを作って来たことを明かすが、尾形は一言も口を開かなかった。

あんた、朝晩、奥さんとトミさんのことを拝んどるじゃろね?みんなわしの育て方が悪かったんじゃ…とすぎは嘆く。

尾形、何か言ってやれと横井が急かすと、早く帰れよ、母さん、俺の分まで長生きしろとだけ尾形は言う。

すっかり落胆して刑務所横を帰って行くすぎとすれ違うように、車でやって来たのは景子だった。

景子に対面した尾形は、何しに来た?俺が死ぬのをわざわざ見に来たのか?と嫌みを言うが、あんたが死んでも、美千代もトミも戻って来ないと景子が言うので、君は幸せになれないと尾形が指摘すると、あなたはやはり死刑にふさわしい男だわ!それを確かめに来たのよ!と景子も吐き捨てる。

それを聞いた尾形は興奮し、部屋を出ようとして立ち上がるが、その場に昏倒する。

様子を見た看守(織本順吉)が、軽い脳貧血ですと景子に教える。

景子さん…、きれいだったな〜、ネオンの灯り…、尾形は最後にそう呟く。

自宅に戻って来た景子は、翌日、尾形死刑囚の刑が執行されたと書かれた新聞を読むと、部屋から見える街の灯りを憎むように、カーテンをさっと閉めるのだった。
 


 

 

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