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ルドルフとイッパイアッテナ

児童文学の3Dアニメ化らしいが原作は知らない。

ひょんなことから住み慣れた街から遠い東京へ来てしまった猫が、地元の野良猫と知り合うことで保護されるだけでなく、学ぶ大切さを覚え成長する内容で、子供に学ぶことの意味を分かりやすく教えている所は好ましい。

苦労猫のイッパイアッテナが世間知らずな飼い猫のルドルフにあれこれ言い聞かせるのは、正しく親が子供に伝える姿だろう。

ただ、子供向けの話なだけに、大人からすれば展開はある程度予想できる範囲のもので、ラストもほぼ予測できる。

文学作品だけに、奇想天外なファンタジーのような派手な展開はなく、あくまでも日常を舞台にした身近なイメージをベースにしたものになっている。

絵柄的には、背景は情報量を極力省力しながらもリアルなタッチ、キャラクターは人間も動物たちもかなりデフォルメした造形になっている。

色調も押さえ気味で、落ち着いたと言うか、やや地味な印象の世界になっている。

真面目に描かれた世界だけに、親が子供に見せたい類いの作品ではないかと思う。
▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼
2016年、「ルドルフとイッパイアッテナ」製作委員会、斉藤洋+杉浦範茂原作、加藤陽一脚本、湯山邦彦+サカキバラ・モトノリ監督作品。

日本テレビ会社ロゴ クッションを枕にお昼寝をしていた黒猫ルドルフ(声-井上真央)は桜の花弁が落ちて北野に気付いて目を覚ます。

気がつくと、縁側の硝子戸が少し開いており、庭の桜の木が満開になっていることに気付く。

しばし花弁と戯れていると、ルドルフ、来る?とソファーに寝そべっていた飼い主のリエ(声-佐々木りお)が声をかけて来たので、その胸元に飛び込み頭をなでてもらう。

リエはファッション雑誌でパーカーのカタログを見ていたが、母親(声-下田レイ)が、安井さんまでイチゴ届けて欲しいんだけどと言うので、え?イチゴ?と聞くと、さっきおばあちゃんから届いたのよ、春イチゴ一杯と母親は言う。

それを聞いたリエは立ち上がり、イチゴ、私も食べたい!と良いながらリビングの方へかけて行く。

こんなに!と行ったリエが一つつまみ食いをしたので、洗ってないわよと母親が注意すると、平気、平気!とリエは言いなながら母親に付いて行く。

ルドルフが自分用のペットフードを食べ始めるが、その時、リエが行ってきますと部屋から出て行こうとしたので、自分も付いて行こうとするが、ルド、又付いて来ようとしたでしょう?と叱るように頭をなでられ、じゃあねと言い残し、リエは1人で出て行ってしまう。

ドアを閉められたと知ったルドルフは、急いで縁側の開いた硝子戸の間をくぐり抜け、庭先に飛び出すと、リエの後を追いかける。

しかし、玄関先へ回った所で門を閉められてしまい、ルドルフが外へ出ることは叶わなかった。

一声鳴いたルドルフは、あ~ら、寂しそうな声出しちゃって…、一緒に外連れてってもらいたいわよね~と隣の二階の出窓から、白猫(声-甲斐田裕子)が話しかけて来たのに気付く。

別に…、リエちゃんいなくたって、ボク散歩してるし…とルドルフが負け惜しみを言うと、へえ…、と白猫は応える。

この辺りのことなら詳しいよ、ここにあるのはお花畑、で、こっち来るとでっかい池!それでこっちにはこの辺で一番でっかい桜の木!と言いながら、ルドルフは桜の木を伝って屋根まで登ってみせる。

すると、隣の白猫が、一つ良いかしら?狭いわ!とルドルフの行動半径が家の敷地内だけであることを指摘して来る。

おばさんだって、そこから出たことないくせに!とルドルフが言い返すと、まあ、ここから出たことないのは確かね…と隣の白猫も頭をなでながら答える。

屋根の天辺に登って、遠くの山に城が見え、途中にロープウェイがある町の風景を見たルドルフは、リエちゃん、いつも1人で出かけちゃうんだよな…と寂しげに呟く。

その直後、隣の白猫とルドルフは、リエちゃんが締めて行ったはずの門の鍵がきちんとかかっておらず、少し開いていることに気付く。

ルドルフは、ちょっと!危ないわよと注意する隣の白猫の言葉を無視し、門を頭で押して外に出てみることにする。

ルドルフは車や通行人が通る道路を1人で進んで行き、リエちゃんを捜す。

角の所でリエちゃんを見つけたルドルフが喜んで近づこうとすると、トラックが走って来たので、慌てて縮み上がり、前を見ないで進んでいると、前から来た自転車にぶつかりそうになったので、思わず魚屋さんのスチロールはこの中に逃げ込んでしまう。

顔を出したルドルフは、箱の中に入っていたシシャモをくわえていたため、魚屋さんは泥棒猫と思い込み、モップを持って追いかけて来るが、途中にお置いてあった台車に乗り上げバランスを崩してしまう。

その時、逃げていたルドルフの前に動き出した軽トラがあったので、ルドルフはその後を追いかけ、ジャンプして荷台に飛びつく。

そこに、台車で転んだ魚屋さんの持っていたモップが吹っ飛んで来て、ルドルフのお尻に当たり、中に押し込まれる。

ルドルフは軽トラの荷台に乗り、暗くなって来た富士山に向かう。

タイトル

翌朝、ルドルフは荷台の中で目覚める。

側には、昨日魚屋からくわえて来たシシャモが落ちていた。

その時、駐車場で停めていた軽トラの運転手が、荷台の幌が開いているのに気付き、閉めようと近づいて来たので、ルドルフはシシャモをくわえたまま外へ飛び出す。

夢中で逃げていたルドルフは見知らぬ商店街に迷い込み、通行人や自転車にぶつかりそうになりながら何とか人のいない場所に逃げ込む。

その時、おい若いの、お前、この今夜の猫じゃねえな?と塀の上から大きな猫が話しかけて来る。

そもそもノラじゃねえ…と見抜かれたルドルフは驚いてくわえていたシシャモを放してしまう。

だったら何?と言い返すと、塀から飛び降りて来た大きな猫イッパイアッテナ(声-鈴木亮平)は、そのシシャモ、置いて行きな!今日の所はそれで見逃してやらあ!と脅して来る。

思わず口から話したシシャモを、そんなに欲しいなら持って行けば?とルドルフは無関心そうに言うので、その態度にちょっと驚いたイッパイアッテナは、お前、そんなデカい口叩いて、俺が怖くないのか?とルドルフの顔の近くまで迫って睨みつける。

するとルドルフは、怖いからシシャモ置いて行くんでしょう!と必死に言い返す。

すると、地面に置いたシシャモを加えたイッパイアッテナが、それをルドルフの頭の上に放り投げ、そいつは返してやると言いながら帰って行く。

ルドルフは頭のシシャモを振り落とすと、いらないよ!一度あげたんだから!と言い残し路地から立ち去ろうとする。

路地から飛び出したルドルフは大通りに出て、向かって来たバスに轢かれそうになるが、次の瞬間、追って来たイッパイアッテナがルドルフの首筋を加え、間一髪救ってやる。

路地までくわえて戻って来たイッパイアッテナは、死にてえのか、手前は!とルドルフを叱りつけると、名前はなんて言う?と聞く。

ルドルフ…と答えたルドルフが、そっちは?と聞くと、俺か?俺の名前は…とちょっと考え、イッパイアッテナと答える。

イッパイアッテナ?変な名前…とルドルフは驚くが、それを聞いたイッパイアッテナは愉快そうに笑い、落ちていたシシャモを、もらっといてやると言ってくわえる。

そして、ぺろりとシシャモを平らげたイッパイアッテナは付いて来なと言いながら歩き始めたので、迷った末、ルドルフも後に付いて行き、屋根の上まで昇る。

お前、どこから来た?と聞かれたルドルフは、3丁目…と答えるが、イッパイアッテナは3丁目ってどこなんだ?と聞く。

3丁目は3丁目だよ、リエちゃんがそう言ってたもんとルドルフは答えるが、だからどこの3丁目だよとイッパイアッテナは焦れたように聞き返す。

え?とルドルフは驚くが、3丁目なんざ日本中に数えきれないくらいあらあ…とイッパイアッテナが教え、大体お前どうやってここへ来た?と聞くと、屋根から見えるスカイツリーや日暮れどきの東京の街を見ながら、で、気がついたらこの辺にいたんだ、ねえ3丁目ってどの辺だと思う?どう行けば帰れるのかな~?と事情を話したルドルフはイッパイアッテナに困惑したように聞く。

するとイッパイアッテナは、帰れる訳ねえだろうが…と答える。 え!と驚いて振り向いたルドルフに、内には帰れねえとイッパイアッテナは言い聞かす。

何で?とルドルフが聞くと、お前はトラックに一晩も乗って来たんだ、お前が住んでいた3丁目はこっから見える所にはねえ!とイッパイアッテナは断定する。 第一、3丁目なんざどこにでもある。

大事なのは何県何市って地名なんだ。そいつがお前には分かってねえ!帰りようがねえんだよ…とイッパイアッテナは屋根の上でルドルフを追いつめるように教える。

それを聞いたルドルフは、焦って瓦から滑り落ちそうになりながらも、絶望の気分を味わう。

その夜、ルドルフは、神社の軒下にあるイッパイアッテナの家に世話になることになる。

不安でなかなか眠れないルドルフは、柱の礎石の部分に身体をこすりつけ、リエちゃん!と思わず呟いてしまうが、うるせえ!眠れねえじゃないか!とイッパイアッテナから文句を言われてしまう。

ルドルフはごめんなさいと謝りながらも、ついつい泣き出してしまうが、そんなルドルフのことがイッパイアッテナには気になるようだった。 翌朝、寝ていたルドルフを起こしたイッパイアッテナは、行くぞと声をかけて軒下から出て行く。

どこに?とルドルフが聞くと、ノラってのはじっとしてちゃ生きていけねえんだよとイッパイアッテナは答える。

公園に来たルドルフは、そこのベンチに人相が悪い猫が3匹睨んでいたので、イッパイアッテナの背後に隠れて怯えていたが、イッパイアッテナがその猫たちを一瞥しただけで3匹はベンチから逃げ出そうとして転げ落ちてしまう。

公園を抜けたイッパイアッテナは、小学校にやってきたので、付いて来たルドルフはそっちに何があるの?と聞くが、イッパイアッテナはゴミ箱の上に乗って覗き込んだのは給食室だった。

そんなイッパイアッテナを窓から発見した給食係のおばさん2人は、又来てるよ、シチューの日は必ず来ますね?どうして分かるのかしら?と不思議がりながらドアを開けて外に黒と、今日は黒猫ちゃんと一緒だとルドルフのことも気付く。

縁起悪い…、やだねえ〜などとおばさんたちから言われたルドルフはちょっとショックを受ける。

ちょっと待ってなと言いながらおばさんたちが給食室に戻ると、すっかり気落ちしたルドルフの様子を笑い出したイッパイアッテナは、黒猫が縁起悪いなんて言うのは迷信だ、そんなことを今頃信じているのは教養がない証拠さと慰める。

教養?とルドルフが聞き返すと、そう云うのがないのを教養がないって言うんだとイッパイアッテナはからかう。

その直後、また給食室のドアが開いて、おばさんがしシューの肉のは言った金属皿を2つ、イッパイアッテナとルドルフの前に置いてくれる。

ルドルフが戸惑っているので、食わねえのなら俺が食うぞとイッパイアッテナが言うと、恐る恐るシチュー肉を口にしたルドルフは、美味しい!僕お肉大好きなんだ!と感激する。

そんな2匹の様子を二本足でつま先立ち、近くで監視している動物の姿があった。

夕方になると、山河魚店と言う店にやって来たイッパイアッテナを見た主人は、デカじゃないか、アジでも持って行くか?などと親しげに話しかけ、ある家の前に来たイッパイアッテナは、哀しげに鳴き声を上げる。

すると、老婆が顔を出し、おや?トラじゃないか、ちょっとお待ち…などと話しかけて来る。

又、塀の上を歩いていると、あら、シバスケ!などと布団を干していた奥さんがお声をかけて来たりするので、同行していたルドルフは驚き呆れる。

ねえねえ、何で人間たちはイッパイアッテナのことを色んな名前で呼ぶの?とルドルフが聞くと、それじゃ安芸区が、お前のルドルフッテナは自分でつけたのか?と逆にイッパイアッテナが聞き返す。

ううん、リエちゃんのお父さんがつけたんだよ、大昔の王様の名前なんだって!かっこ良いでしょう?とルドルフは自慢げに教える。

すると、ああ…、それはハプスブルグ家のルドルフ一世のことか?とイッパイアッテナはあっさり答える。

ハプスブルグ?とルドルフが不思議そうに聞き返すと、まあ、良いってことよとイッパイアッテナははぐらかすと、俺の名前はみんなが勝手に付けていた。ほら、ボスとかデカとかな…と打ち明ける。

だから、お前と始めて会った時、俺の名前は「一杯あってな」と答えたんだ。そしたらお前は「イッパイアッテナ」が俺の名前だと持っちまったとイッパイアッテナは教える。

そうだったんだと納得したルドルフだったが、どうしてイッパイアッテナはあんなに人間たちと仲が良いの?と聞くと、あのな、野良猫は人間と巧くやらないと旨いもんの一つも食えやしないんだとイッパイアッテナは言う。

でも何で、人間と仲良くするのがあんなに上手なの?飼い猫だったこととかあるの?などとルドルフがさらに聞くが、イッパイアッテナは、さあな…と答えると、1人で高い塀の上にジャンプし、先に帰ってろと声をかけて去って行く。

1人になったルドルフは、何で?怒っちゃったの?と戸惑うが、そんなルドルフの背後に学校から付いて来た謎の生き物が付いて来る。

神社に帰る途中、気になったルドルフが急に振り返ると、そこには見知らぬ猫がおり、やあルドルフ!と声をかけて来たので、ルドルフは飛び上がって警戒する。 何で俺が名前を知ってるかって?俺の知らないことなんて何もないからさとその猫は自慢する。

ていうか、ステトラと一緒にいると有名にもなるさと言うので、ステトラ?とルドルフは驚く。

ステトラって言うのはお前の兄貴分のこととその猫が言うので、イッパイアッテナのこと?と聞き返すと、ルドはそう呼んでるんだよな、この辺じゃあいつ、ステトラって呼ばれているんだなどと相手の猫は言う。

でこ、この俺はこの界隈のことならお任せ!キャッチフレーズはファッショナブルトラディショナル!…なんとカット訳のわからない言葉とポーズを取るので、名前は!と切れたルドルフが聞き返すと、ブッチー(声−八嶋智人)、分かりやすく言えば、商店街の金物屋の猫…と答え、宜しく!と言いながら片手を差し出して来る。

ルドルフもその手にタッチして挨拶すると、早く話しかけたかっんだけど、なかなかすけトラがいなくならなかったからさ…とブッチーは言う。

怖いの?と聞くと、ワ〜オ、直球!とブッチーは肯定する。

くだらないこと聞いちゃったね、何でお日様は東から昇るの?と聞くのと同じだよ〜と言うので、やっぱり怖いんだとルドルフが喜ぶと、怖がってないのは、小川さんちのデビルくらいなもんだよとブッチーが言うので、デビル?とルドルフは不思議がる。

その後、ルドルフを連れ、とある家の前にやってきたブッチーは、ここがデビルが住んでいる小川さんち!と言う。

そこには「猛犬注意」の看板が貼ってあった。

この辺は有名なデンジャラススポット…、つまり危ないって事ねと常におどおどしながらブッチーが教える。

へえ、そうなんだ…とルドルフは興味なさそうに答えるが、反応が薄いと知ったブチーは、急に改まると、何たってデビルのキャッチフレーズは「地獄の番犬」!と脅かしたので、さすがのルドルフも縮み上がる。

荒い牙と鋭い爪で相手を斬り割いちまう!と言われているんだとブッチーが脅かすので、ルドルフは震え上がる。

その時、ブッチーの背後の佐久の所に、犬の手がかかってうなり声が聞こえたので、ブッチとルドルフは飛ぶように逃げて行く。

金物屋の前まで逃げて来たブッチーは、デビルやべ〜!あれはやべえよ!と怯えるが、ちょっと俺んち寄ってく?個々なんだけどと振り返ると、そこは「昭和金物店」と書かれた看板がかかっている店だった。

ああ、怖かった〜とルドルフも後に付いて看板のかかった軒先の上に行くと、だろ?とブッチーが良い、あれじゃイッパイアッテナのこと怖がらないかもねとルドルフは言う。

ああ、だけどステトラだって、前に他の犬と喧嘩した時は凄かったんだぜ!とブッチーは言い出すしたので、ルドルフは、え!と驚く。

(回想)そいつはステトラの何倍もデカい犬だったんだけどさ、猫をみんな追いかけ回すんだよ、本当に怖いの!でもステトラは、そいつの右頬にパンチを食らわせて、耳にパクーって食らいついた!とブッチーの話が続く。

(回想明け)それで!とルドルフが聞くと、キャイ〜ンと鳴き声を上げやがった犬に、ステトラはこう言ったんだ…とブッチー。

(回想)今度この辺をうろついてたら両耳ちょんぎって、頭つるんつるんにしてやる!とイッパイアッテナは威嚇する。

(回想明け)って!とブッチーが話し終えると、怖い!両耳ちょんぎって、頭つるんつるんにしてやる!とルドルフは怯えながらもイッパイアッテナのセリフを自分でも何度も言ってみる。

良いねなどとその様子を見ていたブッチーだったが、下の通りに1匹のシャム猫が通りかかると、俺、用が出来たから…と言い出したので、知り合い?とルドルフが聞くと、これから知り合っちゃうんだよとブッチーは答え下へ降りようとしたので、もっとイッパイアッテナのこと聞きたかったな、何で人間と仲良く出来るのかとか…と名残惜しそうにルドルフが聞くと、それ聞きたい?と途中で立ち止まったブッチーは、ステトラは昔飼い猫だったんだと教える。

ああ、やっぱりそうだったの!とルドルフが喜ぶと、ペルシャ猫が路地に入り込んだのに気付いたブッチーは、やべえ!じゃあな!と焦って地上に降りて行く。

でも残ったルドルフは、色々イッパイアッテナの秘密を知ることが出来て満足だった。 うきうき気分で神社に戻って来ると、イッパイアッテナが遅かったなと声をかけて来る。

そんなイッパイアッテナに、ねえ!ちょっと見て!と答えたルドルフは、今度この辺をうろついてたら両耳ちょんぎって、頭つるんつるんにしてやる!と覚えたてのセリフを披露してみる。

すると、突然ルドルフの目の前に飛びかからんばかりの勢いで近づいたイッパイアッテナは一声吼え、何それ?ノラってものがまだぜんぜん分かってねえ!と睨みつけて来る。

これ、昔、イッパイアッテナが言ったセリフでしょう?と怯えながらもルドルフが確認すると、脅し文句ってのは軽はずみに口に出して言うもんじゃねえ、命を賭けて本気で言うもんだ!とイッパイアッテナは叱りつける。

あいつだって、好きで野良犬やってた訳じゃねえんだ…と空を見上げ、思い出すようにイッパイアッテナは呟く。

金物屋のブッチーから聞いたな?とイッパイアッテナが聞くので、うんとルドルフが答えると、あいつ教養のない奴だと哀しそうな顔になる。

ねえイッパイアッテナ、昔は飼い猫だったと言うのは本当?と軒下の方へ向かいかけたイッパイアッテナにルドルフが声を掛けると、睨みつけるように振り返ったイッパイアッテナは、それもブッチーから聞いたのか?と問いかけて来る。

うん…とルドルフが頷くと、ま、良いか…とイッパイアッテナは自分の顔をなでて苦笑する。

その後、イッパイアッテナがルドルフが連れて来たのは小川邸の隣の空き地だったので、あっちはデビルの家だよね…と怯えながらルドルフが聞くと、ああ…とイッパイアッテナは答える。 この隣のここで飼われていたんだ…とイッパイアッテナが言うので、え!とルドルフは驚く。
置き捨てられていた壊れた冷蔵庫の上に昇ったイッパイアッテナは、ある時、飼い主がアメリカに引っ越すことになった…と話し出す。 アメリカ?とルドルフが聞くと、お前のうちよりずっと遠い所にな…とイッパイアッテナは言う。 俺を置いていかなきゃいけないんだとイッパイアッテナが言うので、そうなんだ…とルドルフが同情すると、飼い主は旅立つ前に俺にあることを教えてくれたんだ。

1人で生きていくのに役立つはずだった…とイッパイアッテナが続けたので、何を教えてくれたの?とルドルフが聞くと、人間の文字だよとイッパイアッテナは言う。

回想)タイガー、これが「あ」だ…と、飼い主はスケッチブックにマジックで「あ」の文字を書いて読み聞かせる。

タイガーって言うのは飼い主が俺に付けた名前だとイッパイアッテナは説明する。

あいつは一向に止める様子はなかった。

そういう風にして毎晩毎晩、1年の間勉強して、俺は新聞くらいなら読めるようになったんだ…とイッパイアッテナは言う。

(回想明け)人間の字なんか読んで役に立つの?とルドルフが聞くと、あの時はきつかったが、やっておいて良かったよ、例えば小学校でシチュウーが出る日が分かるのも字が読めるからだしな…とイッパイアッテナは打ち明ける。

本当に!とルドルフが驚くと、ああ、給食室にはメニューの予定を書いた献立表が貼ってある。

そいつを読みゃ分かるんだとルドルフは打ち明ける。

さてと…と冷蔵庫から飛び降りたイッパイアッテナに、まだ字が読めると良いことあるの?とルドルフが聞きながら付いて来ると、ああ、色んなお宝が見つかるとイッパイアッテナは答える。

お宝?とルドルフは聞くと、説明するより見る方が早い、今度連れてってやるよとイッパイアッテナは言う。

その時、隣の塀の柵から顔を出したデビル(声-古田新太)が、よお、負け猫!久しぶりじゃないかと声をかけて来る。

ほお、ちっこいの引き連れて…、食いもんでもあさってるのか?ふん!ノラは楽じゃねえな…と嫌みを言って来る。

どうだ、ちっこいの、余った肉でも恵んでやろうか?とデビルはルドルフにもちょっかいをかけて来る。

じっとデビルに対峙していたイッパイアッテナは、何も言わずくるっと振り向くと、行くぞとルドルフに声をかけ立ち去る。

帰り道、今のがデビルだね…とルドルフが聞くと、ああ…と、イッパイアッテナは答え、仲悪いんだねと聞くルドルフに、昔は隣同士、普通にやってたんだがな…、俺がノラになった途端、いきなり見下すようになりやがった…と言う。

その後、又小学校にやって来たルドルフは、背後に隠れて付いて来たブッチーに気付く。

確かに私がルドルフさんに余計なことを言ってしまった側面は否めませんが、それはルドルフさんが必死に知りたがっていたからでありまして…と言い訳をしながらイッパイアッテナに近づいて来る。

静かにしろ!付いて来るならな…とそんなブッチーをイッパイアッテナは叱る。

ブッチーは頭を抱えて怯えながらも言う事を聞くようになる。

ゴミ箱の上に乗ったイッパイアッテナは、窓をこじ開け、無人の学校の廊下に降り立つ。

そして後に続いたルドルフに、今度はお前がやってみろと勧める。

ルドルフがドアを開けると、ほお〜、こきがが教室ってやつか!とブッチーは驚く。

おい、これが本だとイッパイアッテナが、教室の後ろにある本棚を見せると、こう云うの、リエちゃんも読んでた!教科書とか雑誌って言ってたけど…とルドルフは思い出す。

世の中にはもっと色んな種類の本があると言いながら、イッパイアッテナは本棚から動物図鑑を取り出して、見てみろと勧める。

開いたページにはライオンが載っており、こう云うのを読んでいくと教養ってのが身に付いていくんだとイッパイアッテナは言うので、ルドルフとブッチーはちょっと白ける。

ライオンはネコ科でトラに次いで2番目に大きい…とイッパイアッテナは、ライオンの説明に書いてある文字を読んでみせ、心の目で想像してみろと指示する。

言われた通り、ルドルフとブッチーが目を閉じると、突然、本が輝き出したように感じられ、二匹は本の世界に飛び込む。

そんな二匹に、雄は体重250kgを超えることもあるとイッパイアッテナは説明する。

主な生息地は広い草原、サバンナ…とイッパイアッテナが読むと、いつしか3匹の身体はフラミンゴの群れが飛ぶサバンナの上を駆け回っていた。

サバンナにはライオン以外にも色んな動物が生きている…とイッパイアッテナが言う中、象やキリンの群れに遭遇したブッチーは、鼻長!首長!と驚きの声を上げる。 こいつはヒグマだ!と、彼らの目の前に立ちはだかった動物を教える。

どうだ?字が読めるようになったら、もっと色んなことが分かるってことだ…と、現実の世界に戻ったイッパイアッテナが言う。

その時、別の絵本を読んでいたブッチーが、かわいこちゃんだ!と猫の絵を見ていると、そいつはオスだ、字が読めればそう云う間違いもしなくなるとイッパイアッテナが指摘する。

やべえ〜とブッチーは慌て、ルドルフは、僕も勉強すれば読めるようになるかな?と目を輝かせる。

もちろんだ、だけど、ちょっとやそっとじゃダメだ!人間の子供たちは何年もかかって何百もの文字を練習するんだとイッパイアッテナは教え、それに書けるようにならなくちゃいけない、俺もまだまだ勉強の途中だと謙虚に付け加える。

字が読めるのにまだ勉強するの?とルドルフが驚くと、まあな…、やりたい事があるんだよとイッパイアッテナは言う。

ね、ね、僕にも字を教えてよとルドルフはねだる。

するとイッパイアッテナは、教えてやっても良いが、約束できるか?絶対途中で投げ出したりしないって!と言い出す。

うん!とルドルフが答えるが、ブッチーは、まだ別の猫の写真を見ながら、これはメスかな〜?などと悩んでいた。

そのページの左隅には、「オスのレオン」と書いてあった。

小学生たちが登校して来たとき、イッパイアッテナたちは学校を後にしていた。

その日から、イッパイアッテナは、軒下の地面を使ってルドルフに字を教え始める。

ある日、又小学校に来たルドルフが、今日はみんないないの?時くと、ああ、夏休みだからな…、俺たちにとっちゃ都合が良いとイッパイアッテナは答える。

学校の職員室の前に来たイッパイアッテナが、急に泣き声を上げ始めたので、誰かいるの?とルドルフが聞くと、先生の中には夏休みの間にも来ているのがいるのさとイッパイアッテナは言う。

すると、ドアが開いて、熊が出て来た!とルドルフは怯えるが、おお、何だ、ボスか…と声をかけて来た相手は大柄な体型の先生だった。

ヒグマだ!熊人間だ!とルドルフは髭もじゃの先生のことを怖がるので、イッパイアッテナは苦笑する。 入るなら入れとドアの中に2匹を招き入れてくれた先生は、今日はお仲間連れか、良いな猫は、暇で…、こっちは夏休みだと言うのに色々あってな…などと言う。

イッパイアッテナが廊下へのドアを引っ掻いているのに気付いた先生は、そっちに行きたいのか?と気づき、ドアを開けて廊下に出してやる。

イッパイアッテナはニャー、ニャー鳴いて先生の方を振り返りながら歩き始めたので、どうした?お前、俺をどっかに連れて行きたいのか?と言いながら、先生は二匹の後をついて来る。

イッパイアッテナが先生を連れて来てドアを開けてもらったのは図書室だった。

先生が蛍光灯をつけてくれたので、ルドルフはたくさんの本があることに気づき感激する。

凄いね!と感激するルドルフに、お前の好きな図鑑もたくさんある、動物、植物、鳥、魚、何でもある…とイッパイアッテナはその図鑑の前で解説する。

ルド、お前は学級文庫だけで満足していたから、世の中にはもっと凄い所があるんだよ、まあ、ひらがなとカタカナしか読めないようじゃ、いくら本があっても無駄だがななどとイッパイアッテナが嫌みを言うので、じゃあ漢字も勉強するもん!とルドルフが言い返すと、ほお…と言いながら、イッパイアッテナは漢字の載った本を開いて読み始める。

夜、神社の境内の蛍光灯の下や学校の砂場でイッパイアッテナはルドルフに字を教え続け、子供の姿などが見えると慌てて砂をかけて書いた字を隠す日々が続く。

ある日、いつものように小学校に行くと、先生が、弁当の一部をイッパイアッテナとルドルフにお裾分けしながらテレビで高校野球観戦をしているので、涼みながらテレビを見ているために来てるなとイッパイアッテナは見抜く。

次は岐阜大一商業ですとテレビから聞こえて来た時、ルドルフは眠くなりあくびをする。

長良川の鵜飼いで有名な凡そ42万人が暮らす岐阜県の県庁所在地でもありますとテレビで地元の紹介をしていたのでなにげにその画面を見上げたルドルフは、あ!あれ、僕が住んでいた街だ!と叫んだので、イッパイアッテナも、何?と驚く。

ロープウェイも、ほら、お城も!とルドルフはTV画面に釘付けになっていた。

騒ぐルドルフにちょっと黙ってろ!と制したイッパイアッテナは、ここはどこだろう?と画面に見入るが、その時、岐阜市(ぎふし)と言う文字が大きく画面に出る。

岐阜か!と気付いたイッパイアッテナは、すぐにルドルフを地球儀のある教室へ連れて来て、まずな、お前のいるのはここ日本だ!と教える。

今いるのは、この日本の東京都の江戸川区の北小岩とイッパイアッテナが教えると、こんなに小さいの!とルドルフは新小岩のイメージの小ささに驚くと、世界が大きいんだよとイッパイアッテナは言い聞かせる。

じゃあ岐阜は?とルドルフが聞くと、あそこだ!と地図のイメージの中でイッパイアッテナが教える。

あそこが僕の家?これで帰れるよね、リエちゃんの所に!とルドルフが喜ぶと、そう単純じゃねえ!とイッパイアッテナは叱る。

東京から岐阜までどれだけかかると思う?とイッパイアッテナが聞くと、どれだけかかっても平気だよとルドルフは答えるが、なら考えてみろ、いつもの神社から学校まで道があるだろう?ここから岐阜まではその何百倍もかかるんだとイッパイアッテナは指摘する。

つまり何百回も学校に行くくらいじゃないとたどり着かねえ、普通に考えて猫がこんな距離を移動する方法なんてねえ!とイッパイアッテナは言う。

しかし興奮状態のルドルフは、そんなことないもん!と言い張ると学校から外へ飛び出して行く。

そんなルドルフの様子を塀の上で見かけたブッチーが、呼びかけて降りるが、それに気がつかない程突っ走っていたルドルフは、人間の字を覚えて色んなことを勉強したんだもん!帰る方法はある!と呟いていた。

並走していたブッチーが、帰るの?どうやって?と驚くと、トラックでやって来たんだから、又トラックに乗っちゃえば良いんだとルドルフが言うので、なるほど…、いいねえ〜とブッチーは納得する。

とある駐車場に来たルドルフは、止まっていたトラックの後部ドアの片方が開いており、そこに「ギフ」と書いてあったので、あれだ!と喜ぶ。

ブッチー、じゃあね!と言い残し、ルドルフは一目散にそのトラックの荷台に飛び込んでしまう。 その時、駐車場にやってきたのがイッパイアッテナだったが、ルドルフが飛び込み、気付かず運転手が後部扉を閉めたそのトラックは冷凍車だった。

後部扉に書かれていたのは「冷凍 ギブ&テイク」と言う文字だったのだ。 それに気付いたイッパイアッテナは、まずい!と叫び、ブッチーと一緒に走り出したトラックの後を追跡し始める。

冷凍車に乗ったルドルフはあまりの冷気に凍えかけていた。 角を曲がった所で、トラックが店の前に止まっていることに気付いたブッチーは、後部扉を開いて荷物を降ろそうと仕掛けていた運転手の足下に駆けつけ気を引こうとする。

その間に、荷台に飛び込んだイッパイアッテナは、既に凍り付いていたルドルフを見つけると、くわえて外に飛び出す。

路地に氷の塊を持って来たイッパイアッテナは、両手で氷を掴むと全力で氷を割ってみせる。

何とか生き返ったルドルフがイッパイアッテナを見て喜ぶと、いきなり殴りつけたイッパイアッテナは、バカなことするんじゃねえ、下手すりゃ死んでたぞ!と怒鳴りつける。

イッパイアッテナ…とルドルフは鳴きそうになり、だからってぶつこと…とブッチーも抗議するが、やみくもに帰るなんて教養のない奴がすることだ…とぼやきながらイッパイアッテナは立ち去って行く。

取り残されたルドルフは、周囲に散らばっていた氷の破片のきらめきが集まり、リエちゃんと暮らしていた幸せな日々のことを思い出す。

神社の住まいに戻って来たルドルフは、寝床の中でもリエちゃん…と寝言を言っていたので、それを見ていたイッパイアッテナは、外に出て何事かを考えるように境内のイチョウの木を見上げる。

そのイチョウの木が黄色く色づき、やがて雪が降る冬になった頃、結局僕は帰れないんだね…、岐阜に住んでいたことが分かったって何にもならなかった…とルドルフは神社の下であきらめ気味になっていた。

そんなルドルフに、絶望は愚か者の答えだって言うんだ…、お前にはまだ分かってない…と寝床で横になっていたイッパイアッテナが教える。

絶望は愚か者の答え…とルドルフがその言葉を繰り返していたとき、雨が降り始めた軒下に風にあおられたポスターが貼り付く。

そこには「東京発 岐阜紅葉バスツアー」の文字が書いてあった。

これは商店街のポスターだな…と、軒下に持ち込んだポスターを眺めたイッパイアッテナも気付く。

岐阜って書いてあるよね…とルドルフが指摘すると、ああ、岐阜にバスで行くってことだとイッパイアッテナも頷く。

その時ルドルフが何かを思い出す。 晴天になった翌日、イッパイアッテナとルドルフは地元の情報通ブッチーを訪ねる。

2匹から話を聞いたブッチーは、金物屋の看板の軒先の上で、この辺のエリアの情報なら俺に御任せだよと自慢するので、じゃあバスツアーのことも知ってるよね!とルドルフが聞くと、もちろんだよ〜と言うブッチーの様子がおかしいので、どうしたの?ブッチーとルドルフが不思議がると、こいつはあれだ…、恋の病…とイッパイアッテナが気付く。

見ると、向かいの蕎麦屋の軒先に雌の猫が座っていた。 ルドルフは、このメス猫に頼み、ねえあなた、バスツアーのこと知ってる?と聞いてもらうと、うんうん!と頷いたブッチーは、このこと知り合いなの?とルドルフに小声で来て来る。

ミーシャ(声-水樹奈々)とは今は友達になったばかりとルドルフが答えると、ミーシャって言うんだ!とブッチーは上機嫌になり、バスツアーのこと知ってるんだったら教えてあげてとミーシャが頼むと、うんうんうん!と頷きながらも、バスツアー?とブッチーが初めて聞いたように驚いたので、聞いてなかったの!とルドルフは呆れる。

ミーシャも一緒に4匹で「ちよだ商店街事務局」と言う店の前にやってきたルドルフは、あのポスターが貼ってあるのを確認する。

11月10日午前06:30 商店街南口出発と書いてあった。 その日付を狙って乗っちゃえば良いんだ!とブッチーは勧める。

これなら絶対岐阜に行けるってことだよね?当てずっぽうじゃなくて…とルドルフがイッパイアッテナに確認すると、ああ…とイッパイアッテナも答える。

いよいよ明日か…、明日の朝には行っちまうのか…と、神社にその後訪ねて来たブッチーはルドルフに名残惜しそうに話していた。 さみしいな〜…、良し!今夜はお別れパーティだ!とブッチーが言い出す。

じゃあミーシャも呼ぼう!とルドルフが提案すると、良いね、良いね!とブッチーもうきうき気分になり、ルド、何が食べたい?と聞く。 肉かな〜?とルドルフが答えると、肉か〜…、でも家は肉は出ないんだよな~とブッチーは考え込む。

その側の階段でイッパイアッテナは寝ていた。

その時、そうだ、まず出発場所確かめに行こうかな!とルドルフが言い出したので、もう何度も行ったのに?とブッチーは呆れる。 その会話を聞いていたイッパイアッテナは、行って来ても良いが、浮かれすぎるんじゃねえぞ、乗れなかったらそれまでなんだからな…と言い残し出かけようとするので、イッパイアッテナは?とルドルフが聞くと、俺はちょっと用があるとイッパイアッテナは答える。

夕方、神社の軒下に、ただいま〜、見て来た!と言いながら帰って来たルドルフは、イッパイアッテナがいないのに気付く。

そこに慌てたブッチーが、大変だ!ルド、大変だ!と叫びながら軒下に近づいて来たので、どうしたの、ブッチー?とルドルフが聞くと、ステトラがやられちまったと言うではないか。

どう言うこと!とブッチーの側に駆けて来たルドルフが聞くと、デビルとやったんだ!ステトラ動けねえ!とブッチーが言うではないか。 驚いたルドルフが、小川邸の隣の空き地に向かうと、そこに確かにイッパイアッテナが倒れていた。

何とか起こそうと試みたルドルフだったが、イッパイアッテナは重過ぎて全く動かすことが出来なかったので、どうしよう!どうすれば良いんだ?僕たちにはどうすることも…とルドルフは悩んで諦めかける。

しかし、次の瞬間、ブッチー、ここで見張ってて!と頼むと、どこ行くの?と残されるのを不安がるブッチーをその場に残してルドルフは去って行く。

そして、ある家の前に来たルドルフは、懸命に鳴き声を上げ始める。

その家の窓から、何だ?と言いながら顔を覗かせたのは小学校の先生だった。

階段を降りて来た先生は、地面に「ぼすしぬ」と文字を書いたルドルフの姿だった。 待て、どうした?クロ…と戸惑いながら、走り出したルドルフを先生は追いかけ始める。

ルドルフに導かれ空き地にやって来た先生は、そこに倒れていたイッパイアッテナに気付くと、本当にボスじゃないか!と驚く。 抱き上げた先生は、良し、まだ生きてるな!と確認するとどこかへ連れて行くので、ルドルフも後を追う。

先生が駆け込んだのは「いまど動物病院」と言う所だった。

玄関先で閉め出されたルドルフとブッチーは心配げに様子を見るしかなかったが、ねえ、どうしてこんなことになったの?とルドルフは聞く。

それがさ…、俺小川さんちの近くを通りかかったんだよ。そしたら、ステトラ、デビルの所に…とブッチーが話し始める。

(回想)小川さんの家の塀の上にやって来たイッパイアッテナは、デビル、頼みがあると声をかける。

するとデビルは、何だ、貧乏猫、聞いてやらねえでもねえぜ店と、降りの中で寝ていたデビルが答える。

お前の牛肉を分けてくれないか?とイッパイアッテナが頼むので、ほお、何でだ?とデビルが聞くと、どうしても食わせたい奴がいるんだとイッパイアッテナは答える。

(回想明け)それって僕のこと?とルドルフが気付くと、その様子を覗き見していたらしいブッチーは、ああ…と答える。

(回想)まあ、確かに俺のうちの牛肉は最高だ…、お前の飼い主が食ってたのとは大違いよとデビルは嘲るように言う。

良いとも、分けてやらあと言いながら折から出て来たデビルだったが、ただって訳にはいかねえ、おい!降りて来て芸でもしてみるか?とイッパイアッテナをからかうように言う。

そしたらステトラはこう答えた…(とブッチーが言う)

何でもするぜ…とイッパイアッテナは塀の上から答える。

(回想明け)よっぽどお前に肉を食べさせたかったんだろうな…とブッチーが言うので、ルドルフは衝撃を受ける。

(回想)じゃあ、早く降りて来いとデビルから誘われたイッパイアッテナがデビルの前に降り立ち、何をすれば良い?と聞くと、そうだな…、腹を上にして転がりダンスでもしてもらおうか…とデビルは要求する。

あの野郎!調子に乗りやがって!それでも、ステトラはやろうとした(とブッチーの声)

次の瞬間、隙を見せたイッパイアッテナの上にデビルが襲いかかる…

(回想明け)ステトラはとっさによけようとしたんだけど、間に合わなかった…と語るブッチーの話を聞きながら、ルドルフは泣き出していた。

やがて、イッパイアッテナを抱えた先生が病院の入り口から出て来て、お!まだいたのか?ボス、助かったよ、でも2週間は動かしちゃいけないそうだ、家で面倒見るからな…と言いながら、包帯を巻かれて眠っているイッパイアッテナをルドルフの前に近づけて見せてくれる。

自分のアパートにイッパイアッテナを抱えて連れて来た先生は、付いて来たルドルフとブッチーを前に、お前たちも泊まって行くか?と冗談を言うが、その時、地面に「ぼす しぬ」と書かれた文字を発見して、ルドルフを振り返ると、まさかな…と笑いながら部屋に戻る。

その晩、ルドルフは、先生の部屋で寝かせられたイッパイアッテナの横に付きっきりで朝を迎える。

何とか目覚めたイッパイアッテナは、ルド…と気付く。 大丈夫?と案ずるルドルフに、ああ…、ブッチーの奴、俺のこと何か言ってたか?とイッパイアッテナが聞くので、車に撥ねられたって…とわざとルドルフは嘘をつく。

それを聞いたイッパイアッテナは、安堵したように、そうなんだよ、ドジだな〜、トラックに気付かなかったんだよ…と自嘲し、無理に笑おうとするが、傷が痛むので顔をしかめる。

ルド…、飛んだことになってすまねえなと詫びたイッパイアッテナは、本当は一緒に岐阜に行こうと思ってたんだけどな…、お前1人で帰れるか?と言うので、イッパイアッテナ、ありがとね…と急にルドルフが礼を言い出したので、何行ってる?とイッパイアッテナは呆れる。

僕、最初にこっちに来た日からずっと面倒見てくれて…とルドルフが感謝すると、別に面倒見る気なんかなかったけどな…とイッパイアッテナはとぼける。

その時、窓際にやって来たブッチーが、バス!集合場所に来たよと教えたので、ほらルド、早く行け!俺に心配かけさせたくなかったらな…とイッパイアッテナは言う。

それじゃあ、イッパイアッテナ、長い間世話になったね…、ありがとうと頭を下げたルドルフが、じゃあね!と言って部屋を出るが、イッパイアッテナは顔を背け返事もしなかった。

しかし、ルドルフが降りたのは集合場所の方ではなかったので、同行していたブッチーが注意しながら付いて来ると、ブチー、イッパイアッテナには僕がちゃんとバスに乗ったと言ってとルドルフは頼む。

ああ…、ルドルフ…、おれ…、ステトラがあんな大けがしたのに俺だけ無傷で帰って恥ずかしくてさ…と、珍しくブッチーも沈みがちになる。 ルドルフとブッチーがやって来たのは小川さんの家だった。

塀の上まで付いて来たブッチーが、でもどうやってあいつをやっつけられる?と聞くので、こうしよう…ブッチーとルドルフは耳打ちする。

そして、おいデビル!とルドルフが呼びかけると、降りの中で寝ていたデビルが目覚める。

塀の上にいたルドルフは、今日は牛肉をもらいに来たんじゃない!と言いながら、デビルの前に降り立つと、お前の肉を頂きに来たぞ!と威嚇する。

お前、タイガーの仇を討ちに来たのか?と言いながらデビルは檻から出て来る。

そうだ!お前みたいな卑怯者には負けない!猫が相手でもだまし討ちしか出来ないだろう!とルドルフは言い返す。

すると、デビルが飛びかかって来たので、ルドルフは必死に逃げ出す。

しかし、先回りしていたデビルは、この庭のことなら何より俺が分かってる!と嘲る。

そして、シーソーの上に乗ったルドルフを弾みを付けて空中高くはね飛ばす。

落ちて来たルドルフは、下で口を開けて待ち構えていたデビルの魔の手から間一髪ずれて金網に着地するが、地面に叩き付けられてしまう。 一方、勢い余ったデビルの方も犬小屋にぶつかり壊してしまう。

追いかけて来た出るから逃れようと、池の上をジャンプしたルドルフがブッチー!と呼びかけると、後を追ってジャンプしたでビルの横からブッチーが飛び出し、アチャー!と脅かしたので、慌てたデビルは空中でバランスを崩し池に落ちてしまう。

するとデビルが池に溺れかけ、助けてくれ〜!俺、泳げないんだよ〜!と頼んで来たので、もう猫に果てを出さないと約束するか!と池の外からブッチーは聞く。

約束するなら命だけは助けてやる!とルドルフも迫る。

約束する〜!とデビルが答えたので、ルドルフは側に立てかけてあった竹箒を池の上に倒してやる。

デビルがそれにすがりつくと、おい!もし今度猫に手を出したら、両耳ちょん切って、頭つるんつるんにしてやるからな!とルドルフは言い放つ。

その後、先生の部屋で目覚めたイッパイアッテナは、目の前にルドルフがいるので、ルド…と呟くと、ブッチー、僕のこと何か言ってた?とルドルフが聞くので、ああ、バスツアー、乗り遅れたんだってな?とイッパイアッテナは答える。

うん…、僕もドジだよねとルドルフが言うと、イッパイアッテナはふん!と笑い返す。

その後、ルドルフは、かつてイッパイアッテナが訪ねていた家々を訪ねると、クロとかジルと言う風に夫々の家の人が別の名前を付けて餌を恵んでくれる。

やがて雪が降る季節になる。

そして桜吹雪が舞う春になり、神社の外に出てあくびをしていたルドルフは、ハロー!と言いながらやって来たブッチーが、ミーシャも連れて来ており、どうして俺とミーシャがいるのか気になる?と聞いて来る。

戸惑うルドルフに、どうして2人だと聞きたいだろう?聞いて良いんだよと無理強いして来たブッチーは、良いよ、聞かないでおくとルドルフが言うと、ええ!と驚く。

聞いてくれよ!どうして2人でここにいるのか?それはデートだからさ!とブッチーが勝手に教えると、聞いてないけど…とルドルフは呆れたように呟く。

聞いてくれなきゃ!自慢したいし!ステトラは?と浮き浮き気分のブッチーが聞くと、どっか行ってるみたい…、イッパイアッテナ、最近良く出かけているんだよねとルドルフは答える。

するとブッチーは、ええ?あ、あ、もしかして…と何かに気付いたようだった。

ステトラが住んでいた家が取り壊されて、最近新しい家が建ち始めたんだ…、それが気になって観に行ってるんじゃないかな?と教えたブッチーの言葉をヒントに、ルドルフは小川さんちの隣に来てみる。

すると、小川さんちの鉄柵の向こうにデビルが顔を覗かせていたので、デビル、イッパイアッテナ見なかった?と聞くと、いや、見てねえと言うので、そうか…とルドルフは落胆し立ち去ろうとすると、イッパイアッテナか…、良い名前だなとデビルが呟いたので、ルドルフは驚いて振り向く。

そう?と聞くと、名前が一杯あるってことは、名前を呼んでくれる友達も一杯いるってことだろう?とデビルは言う。 俺にはそんなのいないからな〜…と寂しげにデビルは言う。

お前たちに池に突き落とされてから考えたんだよ、俺はつくづくケツの穴のちっせえ犬だったとな…とデビルはしみじみと言う。

あいつの飼い主がいた頃は仲良くやってたんだ…とデビルは昔を思い出す。

(回想)隣の塀の下の割れ目から、イッパイアッテナが自分の食べ物をデビルにそっと渡し、デビルは喜ぶ だがあいつがノラになってからは、俺はありもしない酷えことを散々言っちまった…とデビルは反省する。

(回想)隣とのへ井上を歩いていたイッパイアッテナに気付いたデビルは、飼い主が夜逃げしちまった奴は大変だな!あいつが出す肉まずかったし、どうでも良いか…とバカにするとイッパイアッテナは、何も言わず、塀を飛び降りて姿を消してしまう。 結局俺はタイガーのこと、ひがんでいたんだよ…

(回想明け)毎日あいつは自由だった。俺は1人でこの庭を出たことがないからな…とデビルは自嘲する。

そしてデビルは、肉が二切れ入った皿を差し出し、朝飯の残りだが、いつかのタイガーに詫びを入れて…、それで何て言うか…と口ごもるので、友達になりたいとか?とルドルフが言い当ててみせると、まあ、そうかもな…とデビルは苦笑する。

そんなデビルの変貌振りに、ルドルフもつい笑ってしまう。

その後、神社の軒下に帰って来たイッパイアッテナに、デビルからもらって来た二切れの肉を前にしたルドルフが、お帰り!一緒に食べようと誘う。

それを見たイッパイアッテナは、デビルの奴…と呟いて、じゃあ、食べようか?と言うルドルフに、ああ、食ったら行くとこがあるぞと伝える。 食後、イッパイアッテナについて外出したルドルフが、ねえ、どこ行くの?と聞くと、聞いて驚くなよ、岐阜まで一発で行く車と言うのをはねねえけれど、岐阜に繋がる高速を使ってここまで来る車があったんだとイッパイアッテナが打ち明けると、ちょうど金物屋の店先だったので、ええ!とブッチーが声を上げる。

すご〜い!どこにそんなトラックがいたの?と降りて来たブッチーが聞くので、ここだよとイッパイアッテナが教えると、へ〜…、うちじゃん!とブッチーは驚く。

ブッチーの家に瀬戸物を運んでいる親父がいるだろう?とイッパイアッテナが聞くと、いるいる!とブッチーは頷く。

あの親父が、今日は東名高速が混んでたとか話してたんだとイッパイアッテナは言う。

うんうんそう言えば…、ん?何で俺気付かなかったんだ?とブッチーが不思議がると、ミーシャちゃんのことばかり考えてるからだ、ごめん!とルドルフに詫びる。

後はこのイッパイアッテナ先生がお前を引率してやる、岐阜までちゃんと送り届けてやるからな…とイッパイアッテナは言い出す。

それを聞いたルドルフは、何となく黙り込み、考え込んでしまう。

その後、一緒に神社まで戻って来たイッパイアッテナは、ずっとふさぎ込んでいるルドルフに、どうした?と聞く。 するとルドルフは、あのね…、僕1人で帰ると言い出す。

だけどよ…、お前が本当に岐阜に着いたかどうか心配じゃないか…とイッパイアッテナが言うと、それなら、岐阜からイッパイアッテナが戻れるかどうか、僕も心配になるよとルドルフが答えるので、俺は大人だから良いんだよとイッパイアッテナは言う。

すると、僕だってもう大人だよ!イッパイアッテナが僕に教えてくれたことは無駄じゃないよとルドルフは言い返す。 するとイッパ イアッテナは思わず笑いながら、デカい口叩きやがってと言いながらの気下へ向かう。

翌日、車道の所に連れて来たルドルフに、良いか、金物屋に来るトラックに乗ればすぐに帰れる訳じゃないとイッパイアッテナは言い聞かす。

車を巧く乗り換えるためには…とイッパイアッテナが言うと、ルドルフは、通り過ぎる車にはみんなナンバープレートが付いている事に気付く。

そうだ、ナンバープレートに付いている場所をしっかり読んで、岐阜に生きそうな車に乗らなきゃ行けねえ、だからそっちに近い地名を覚えるんだ、それに高速のインターチェンジやパーキングエリアの名前も覚えとけとイッパイアッテナはルドルフに小学校の地図を見せながら教える。

うん!漢字は一杯勉強したもん、大丈夫!とルドルフは元気に答える。 すっかり仲良しになったデビルは、夜、自分の庭にやって来たルドルフとブッチー、ミーシャ、イッパイアッテナたちに、取っといたステーキだ!とごちそうしてくれる。

デビルはイッパイアッテナがにこやかな顔を見せたので、照れ笑いし出す。

そんな2人の仲直りを見たルドルフもつい笑ってしまう。

すっかり上機嫌になったブッチーが、デビルの檻の上でカンフーの真似を披露したりする。

そんな中、ルド、俺なアメリカに行こうと思うんだとイッパイアッテナが言い出したので、デビルやブッチーたちも一斉に驚く。

俺は飼い主がいつかあの家に帰って来るんじゃないかって思ってた…とイッパイアッテナは、工事中の隣の家を前に打ち明ける。

新しい家を建て始めたのを見て分かったんだ、やっぱり帰って来ねえんだな…、飛行機は難しそうだが、貨物船なら潜り込めそうなんだ…とイッパイアッテナが言うので、大丈夫なの?とアドルフが案ずると、ああ、ボーイズビーアンビシャス!な?英語で少年よ大志を抱け!大きな夢を持てってことさとイッパイアッテナは答える。

へえ〜とルドルフが感心すると、俺もルドに負けてられねえよとイッパイアッテナは言う。

その時、ルド〜!ステトラ〜!とブッチーが泣き出すと、デビルも突然大泣きを始め、せっかるルドともタイガーとも仲良くなったのに2人ともいなくなるんだよ〜!と手で地面を叩きながら悲しがる。

そして、ブッチー!これからも宜しくな〜!と言いながら、ブッチーを掴んで振り回し始めたので、ルドルフとイッパイアッテナは互いに見合って苦笑し合う。

神社への帰り道、ルド、お前なら途中で何があってもきっと帰れる!最後まで諦めず顔を上げろ!とイッパイアッテナは言い聞かすと、うん!絶望は愚か者の答えだもんね!イッパイアッテナもアメリカ、気をつけて!とルドルフも力強く答える。

あぁ、お前もな、ルド!とイッパイアッテナも返事する。

いよいよ、金物屋の店先に瀬戸物屋のおじさんのトラックが来る日がやって来る。 トラックの荷台に忍び込んだルドルフを、看板のある軒先の上からイッパイアッテナ、ブッチー、ミーシャの3匹が見守っていた。

トラックが走り出すと、みんな元気でね〜!とルドルフは呼びかける。

夕焼けの東名高速を走るトラックの中で、ルドルフはしっかり目を開いて周囲を見る。

やがて、パーキングエリアで降りたルドルフは、静岡ナンバーの車の荷台に乗り込むと、お前、名前何て言うんだ?と運転手のおじさん(声-毒蝮三太夫)が聞いて来たので、鳴いてみせると、猫左衛門か、古くせえ名前だななどと勝手に名付けてくれる。

猫左衛門、俺はこの辺りで荷を下ろすんだよ、お前はどうするんだ?と運転手のおじさんが聞いて来たのは富士山のそばだった。

次のパーキングエリアにやって来たトッラックの運転手はドアを開けてルドルフを降ろすと、じゃあ、気をつけてなと声をかけてくれる。

駐車場内に停めてあった車のナンバープレートを確認していたルドルフは、岐阜と書かれた車を発見する。

暗い中走り出した軽トラの荷台に乗り込んだルドルフは、行け!いよいよこれで岐阜に帰れるんだ!リエちゃんの所に!と張り切る。

ところが、途中で車のエンジンから煙が出始め、止まった車から降りて来た運転手は、こりゃレッカー呼ぶしかないなとぼやくのが聞こえて来る。

意を決して荷台から飛び降りたルドルフはとぼとぼと歩き始めるが、やがて披露でふらふらになる。

危うく後ろから来た車に惹かれそうになるが、その時、脳裏に、絶望は愚かものの答えって言うんだと言うイッパイアッテナの言葉が浮かぶ。

それをお見出したルドルフは、きっとまなじりを決し、さらに歩き始める。 すると、とある橋から見覚えのある山の姿が見えて来る。

頂上にお城があるあの山だった。 それを見たルドルフは元気よく走り出す。

やがて見覚えのある魚屋の前を通り過ぎ、ついにリエちゃんの家の前に到達する。

塀の上に飛び上がって中をのぞくと間違いなく見慣れたあの庭先だったので、ルドルフは思い切り鳴き声を上げてみる。

その時、隣の家のベランダから、あら!久しぶりじゃない!と声をかけて来たのは猫のおばさんだった。

おばさん!久しぶり!とルドルフも挨拶を返すと、おばさん?あなたも随分大きくなったようだけど…とおばさんは答える。

リエちゃん見た?と聞くと、いいえとおばさんは言う。

思わず庭に飛び降りたルドルフだったが、おばさんは、それよりあなたに教えてあげないと…と声をかけようとする。

そんな声を無視して、自分でガラス戸を開け、中に入り込んだルドルフは、ソファーで寝ているリエちゃんを発見する。

喜んで近づこうとした時、おじさん誰?と聞いて来たのは、小さな黒猫だった。

驚いたルドルフが、誰って、君こそ誰なんだ?と聞き返すと、僕はルドルフ、ここの家の猫だよと言うではないか。

え!何?とルドルフが聞き返すと、だってそうなんだものと小さな黒猫は言う。

ルドルフ?ここの家の猫?とルドルフが聞き返すと、今年の春もらわれて来たんだと小さなルドルフは答える。

前にいた猫がいなくなって、ちょうど1年が経って、それでもその猫が帰って来ないから僕がもらわれて来たんだと小さなルドルフは言う。

前にいた猫…とルドルフが呟くと、うん!その猫もルドルフって言うんだ!と子猫は教える。

僕とお母さんが一緒だから兄弟なんだってさと子猫が言うので、僕の弟?とルドルフは小声で呟く。

他にも兄弟がいてね…、リエちゃんは本当はもう一匹欲しかったんだと言いながら、子猫のルドルフはボールとじゃれ始める。

でも2匹は変えない、1匹じゃないとダメって言われて僕を選んだんだ…、僕は前のルドルフに目が似てるんだって!と弟ルドルフは無邪気に言う。

その話を聞いて愕然としたルドルフに気付いた弟ルドルフは、どうしたのおじさん?と聞く。

1匹じゃないとダメ…か…と呟きながら、ルドルフは、まだソフェーで寝ているリエちゃんの方を振り返る。

近づくと、寝返りを打ったリエちゃんが無意識にルドルフを抱いて頭をなでてくれる。

その手を抜け出し庭へ出ようとしたルドルフに、ねえ、おじさん、誰?と弟ルドルフが聞いて来たので、僕の名前はイッパイアッテナ…と答える。

すると、弟ルドルフは、え?イッパイアッテナ!変な名前と口走ったので、お前もそう思うか?と笑いかけたルドルフは、棚の上に飾ってあった自分を抱いたリエちゃんの写真を発見する。

その時、リエちゃんが目覚めて弟ルドルフを抱く様子が見えたので、そっと窓ガラスの隙間から庭先に出たルドルフは、お前のリエちゃん宜しくな!と呟きながら振り返る。

そして、塀の上に飛び上がったルドルフは、もう一度庭を振り返ると、今来た道を走り出し、お前リエちゃんなんかじゃない!本当は僕のリエちゃんなんだ!と心で叫び出す。

そんなルドルフの前に、いつか見覚えのあるトラックが見えて来る。

入道雲が涌く夏の東京… 神社に戻って来たルドルフは軒下に入り込むが、もうイッパイアッテナの姿はなかった。

空を飛ぶ飛行機雲を見上げながら、イッパイアッテナ…と呟いたルドルフだったが、そのとき、聞き覚えのあるブッチーの奇声が聞こえて来る。

ブッチー!とルドルフが驚くと、どうしてここにいるんだ?と、ミーシャを連れて近づいて来たブッチーもうれしそうに聞いて来る。

いや…、なんてね、こっちで暮らすことにしたんだとルドルフが答え、イッパイアッテナいないよね…と聞くと、横から、ルド…と言いながらイッパイアッテナが近づいて来る。

ふっと笑いかけたイッパイアッテナの顔を見たルドルフは思わず自分の顔をイッパイアッテナの顎下にこすりつけ泣き出してしまう。

それを見たブッチーももらい泣きしそうになる。

俺はアメリカに行こうとしたんだが、予想外のことが起きたと云いながら、イッパイアッテナはルドルフを小川さんちの方へ連れて行く。

本当の飼い主が帰って来たんだと言うと、すっかり建て直った新築に家に車が停めてあった。

その車の横に建っていた主人が、お帰り!お?友達か?とルドルフやブッチー、ミーシャのことを発見する。

夜、さ、タイガー、猫用に作ったんだぞ、友達の分もな…と主人はイッパイアッテナに言いながら庭先の屋根付き休息所を見せ、お前の名前は黒いからクローってのはどうだ?英語でカラスって意味だと主人はルドルフの頭をなでながら言う。

ルドルフが鳴いてみせると、そうか、気に入ったか、それは良かったと主人は言いながら家に戻って行く。

クローだってとルドルフが苦笑すると、あいつはアメリカで、このすき焼きと言う店を出して大成功してな、この家を新しく建てたんだとイッパイアッテナが言う通り、猫たちの前にはすき焼きが入った皿が置かれていた。

その時、隣のデビルがジャンプしながらこちらの様子を覗こうとして池に落ちたのに気付いたので、イッパイアッテナとルドルフは慌てて柵の所へ助けに行く。

すると、何とデビルは犬かきをして泳いでいるではないか。

顔を見合わせたイッパイアッテナとルドルフは笑い合う。 その後、休憩所の屋根の上でルドルフは、イッパイアッテナ、又、飼い猫になったってこと?と聞くと、名前が一杯あるのと同じだ、どんな名前で呼ばれようが俺は俺、飼い猫だろうがノラだろうが、俺は俺だ!とイッパイアッテナが言うので、そうだね!とルドルフも答える。

もうどこにでも行ける気がする、今度は日本一周でも行っちゃおうかな?イッパイアッテナに止められるかもしれないけど!と満月を眺めながらルドルフはうそぶく。

すると、イッパイアッテナは、へ!スケールがちいせえな!どうせなら世界一周て言ってみろ!と励ます。

それを聞いたルドルフは思わず笑い出し、イッパイアッテナも釣られて笑うのだった。

エンドロール

ルドルフが地面に「おわり」と書く。
 


 

 

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