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オケ老人!

見る前から面白そうだと思っていた音楽コメディだが、見てみたらやはり面白かった。

ダメな楽団が紆余曲折の後で立派な楽団に成長すると言う話自体は昔から良くある話で、若者向けの似たような作品は近年でもなくはない。

これは年配層に話を絞った所が異色で、何となく話の展開は想像できるのだが、ほぼ想像通りの展開ながら安心して楽しめる作品になっている。

ライバル役の登場や若いヒロインたちの恋の行方など、若い層にも普通に楽しめる要素も入っており、特に年配向けと言う訳ではない。

前半はかなりコミカルなタッチで描かれているが、途中からは良くある感動ドラマのパターンに変化しており、コメディの雰囲気は薄れる。

ロンバールの件なども、いくらなんでも御都合主義すぎるのではないかと思わないでもないが、娯楽映画のお約束と言うことだろう。

それでも、左とん平、小松政夫、藤田弓子、石倉三郎と言ったベテラン陣が安定感のある芝居を繰り広げ、老け役の森下能幸さん、茅島成美さん、喜多道枝さんらがじんわり老人のカリカチュアを演じてみせる。

ヒロイン役の杏さんの奮闘振りもさることながら、その教え子役の黒島結菜さんの演技もなかなか達者。

笹野高史さんのおじいさん役も、こんな老人言葉使う人実際にいるか?と言う疑問はあるものの、手慣れた演技で好ましい。

派手さはないが、やはり人間ドラマって面白いなと思わせる作品。
▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼
2016年、「オケ老人!」製作委員会、荒木源原作、細川徹脚本+監督作品。

オーケストラの演奏を客席から聞き感動する小山千鶴(杏)

引っ越したばかりの自宅マンションの一室に帰ると、昔使っていた弦の切れたバイオリンを取り出し、弦を張り替えてちょっと弾いてみたりする。

さっき聞いたオケの名前を思い出し、梅が岡交響楽団のホームページをパソコンで見つけると「団員募集」の告知が載っていたので、夜、思い切って千鶴は電話をしてみる事にする。

ページのアップデイトの日付が2009年10月11日なのには気がつかなかった。

はい、野々村ですと電話の相手が答えたので、とっても感動しました。

実は私、学生時代オーケストラで演奏してまして、それで就職してしばらく音楽から離れていたんですけど、梅が岡交響楽団さんを聞いて目覚めてしまいまして、それで、あの…、入団させていただいたりしないかと…と千鶴は思い切って切り出す。

野々村なる相手は、え~っと…、それは…と戸惑った様子だったので、すみません、突然、聞いてみただけなんですと慌てて千鶴は詫、すみませんでした、失礼しますと言って切ろうとすると、ああ、御待ちください、ぜひ入団していただきたい!こちらからも御願いします!と野々村が言い出す。

驚いた千鶴は、入団させていただけるんですか?と半信半疑で聞き返すし、ぜひ御願いします、ありがとございます!と感激して礼を言う。

翌日、指定された中央公民館の「梅が岡交響楽団」の利用時間に駆けつけた千鶴だったが、ロビーで待っていると、やって来るのは老人ばかり。

さらに、コントラバスのケースを重そうに抱えて来たのは、和服を着たおじいさん花田富雄(小松政夫)と、その汗を拭いてやっているのは老妻花田昌江(藤田弓子)だった。

さらにやって来たのは、酸素吸入器を弾いて瀕死の病人のような老人竹岡亮吉(森下能幸)。

あまりに動けないようだったので、先に来ていた老婆が手を引いてソファに座らせてやる。

そこにやって来たのが、娘から持たせられたと言うスマホの使い方が分からないとぼやいているおじさんの戸山(石倉三郎)だったので、さすがに千鶴は自分が場違いな所に迷い込んでいる不安感に襲われる。

念のため、ロビーのホワイトボードに書かれたその日のスケジュールでもう一度確認してみると、梅が岡交響楽団の上に書かれているには「セックスソルジャーズ」と言うさらに怪しげな名称だったので、千鶴はますます混乱してしまう。

その時、小山さん?小山千鶴さん…と声をかけて来たのは、電話に出た野々村秀太郎(笹野高史)らしく、野々村です、梅が岡交響楽団で指揮者をやっております。

良く来てくだすった、ありがたい事ですなどと良い千鶴の腕をさすりながら挨拶して来たので、千鶴は唖然とする。

みんな揃って!と野々村がソファに座った面々に挨拶するので、昨日の方達は後からいらっしゃるんですか?と釈然としない千鶴が聞くと、昨日?昨日何かありましたかな?と野々村は意味が分からない様子なので、ほら、コンサートですよ!と千鶴が説明すると、コンサート…は、やっとらんですなと野々村は言う。

だって、梅が岡音楽堂で…と千鶴が言うと、ああ…それは…、梅フィルの定演があったそうですな…と野々村は答える。

梅が岡フィルハーモニーと言いましてな、たまに間違えられますんじゃと野々村は耳の垢をほじりながら説明する。

それを聞いた千鶴は、えっ?間違えちゃった!と心の中で叫ぶ。

しかし、一切関係ありませんからな!一切!と野々村は吐き捨てるように言うと、そんな事よりも、わしらのオケに入ってくださるなんて、まあ嬉しい事ですと言いながら、また千鶴の両腕をさすって来る。

オケ?…、棺桶?と千鶴が呟くと、オーケストラ、オーケストラのオケ!と野々村は説明する。 すみません、驚きのあまり…と千鶴が謝罪すると、我々は梅が岡交響楽団じゃ!と野々村は言うので、フィルハーモニーじゃなくて…と千鶴は苦笑いする。

そこに「セックスソルジャー図」らしき若者が部屋の鍵を持ってやって来たので、その鍵を受け取った野々村が、開きましたぞ!とみんなに声を掛けるが、千鶴は帰るに帰れず、どうしようかと戸惑ってしまう。

しかし、野々村たち老人は、そんな千鶴の事など無視して全員部屋に入って行く。

やむなく、メンバーと一緒に部屋で位置に着いた千鶴だったが、野々村は、今日は「威風堂々」からい来ますと言う。

「エルガー」だ!あんなオケの定番曲、そんなに難しくないけど、とにかくクラシックだ!と千鶴はとりあえず安堵し、楽譜を確認する。

やはり「エドワード・エルガー」の「威風堂々」だった。 マエストロで70代、80代は珍しくない…、このオケだって、案外やるのかもしれないと千鶴は自分を落ち着かせる。

しかし、始まった演奏は酷いものだった…

タイトル(白い3DCG文字が崩れ落ち、手描き風のよれよれのタイトル文字になる)

エドガーに謝れ!弓の使い方がバラバラ!リズムも揃ってない!理由ははっきりしていた。 誰も指揮者を見てない、指揮者もオーケストラを見てない! 顔だけじゃん!(富雄の演奏を見て)

お願いだから芝居だけでもして!(隣で何も演奏せず、ただにこやかに千鶴の演奏を眺めているだけの宮崎しま子(喜多道枝))

見ないで~! 富雄と呼吸器を付けた老人は途中で疲れ切り、早々に演奏を止めていた。

やがて野々村が何かに気付き、新記録じゃ~!と雄叫びをあげ、メンバーたちと歓喜の握手を交わし始める。

意味が分からない千鶴が、何があったんですか?と聞くと、何があったもどうも、ここまで来られたのは初めてなんですよ!と富雄が嬉しそうに教える。

今までの最高はね、98小節ですからなどと富雄は言う。 なかなか100の壁を越えられなかったの…、それが一気に14小節も!もう嫌んなっちゃう程ご苦労さん!と、及川(左とん平)も千鶴に笑顔で教え、頭を下げてくる。

そして、完璧!と言って、千鶴に勝手に握手して来る。

いや~、良くなってきましたな~と野々村もすかりご満悦のようだったので、これより悪かったの!と千鶴は心の中で呆れる。

その直後、おばあちゃんたちが買って来た今川焼や自家製の漬け物などを配り始めたので、千鶴は困惑するが、さらに、今日は小山さんの歓迎会と言う事で近くの店を押さえてありますが…と言って来たので、歓迎会?と驚く。

何か御用がおありじゃったんですかな?と野々村が言うので、あの…と言う以外断るタイミングを失ってしまう。

その後、寿司屋で宴会のような事が始まり、どうじゃろうかな?うちのオケは?一つ小山さんの思う所を忌憚なく聞かせてもらえんじゃろかと野々村から聞かれた千鶴は、忌憚なく…ですか?と確認し首を傾げて考える。

そして、とうとう我慢できずに立ち上がった千鶴は、酷い!最悪のオーケストラです!と断言する。

すると、野々村を始め団員たち全員が引きつけを起こしたような状態になったので千鶴は焦る。 ただ1人、及川だけが、勝手にカウンターの中で寿司を握っているだけだった。

それは実は千鶴の妄想で、現実の千鶴は、アサンブルの縦の線とか、音程は改善の余地はありますね…などと無難な意見を言うに留める。

すると野々村も、確かにそう云う所もあるかもしれんな~などと曖昧に答えたので、思わず立ち上がった千鶴は、あるんですよ!間違いなく!と強めに主張する。

ベルリンフィルもミスはあるし…と野々村は反論し、カラヤンじゃってありますよ…と富雄まで一丁前のことを言うので、一緒にしないでください!今言ったのは音楽を作る基礎ですからね!と千鶴は熱弁を振るう。

それを聞いた戸山は唖然とし、野々村も腕を組み、さすがに良い事をおっしゃるの~と感服する。

で、どうすれば基礎がしっかりするのです?と野々村が聞いて来ると、富雄も、それです!それです!とかぶせて来る。

とにかく練習です、練習あるのみですと千鶴が答えると、練習はやってるわよ!と清水真弓(茅島成美)が反論して来る。

もっとやるんです。やって出来なければ出来るまでやるんですと千鶴は答えるが、そうそう、最近の電話は字が小さくて敵わん…と、酸素吸入器をした爺さんが関係ない事を言い出し、みんなが笑う。

さらに、食べて!と及川さんが握りたての寿司を千鶴に渡すので、話はそこで途切れてしまう。

どうか宜しくね!なんてね…と富雄が戯け、千鶴も宜しく御願いします…と返事するしかなかった。

富山もビールを勧めて来るので、千鶴は無理にグラスを空ける。 翌朝、千鶴は二日酔いの状態で職場である高校へ向かう。

途中、ちょっと気のある男性教師坂下(坂口健太郎)に出会ったので、挨拶するが、その後、なかなか話すきっかけが掴めないままだった。

千鶴は梅が岡高校で数学で虚数解の事を教えていた。

あると言えばあるけど、ないと言えば…と言いかけた千鶴は、後ろの方の席で眠っている女子高生を見つけ、そこのあなた!起きてくださいと声をかける。

そして、このグラフは何を表していますか?と聞くと、何も答えないので、良いですか?ここは一カ所だけ接しています。

つまりこの方程式の解は…と千鶴は、赤チョークで接点を強調し、再度説明しようとするが、女生徒は急に「垂れ乳」!と二つ並んだグラフがそう見えると言う事を指摘する。

生徒たちは笑い出し、静かにしてください!と注意しかけた千鶴だったが、終業のチャイムが鳴ってしまう。

教室の入り口のガラス窓を見ると、次の授業の坂下が待っていたので、すみません、待たせちゃって!と詫びながら千鶴が教室を出ようとすると、先生!小山先生!と呼びかけて来たのは、さっきの居眠り女生徒で、昨日はどうもありがとうございましたって!祖父から言付かりましたと話しかけて来たので、祖父?と千鶴は当惑し、坂下も、野々村のおじいちゃん、千鶴先生と知り合いなの?と聞く。

野々村?と千鶴が聞くと、野々村和音(黒島結菜)ですと、その女生徒は自己紹介し、先生が祖父のオーケストラに入ってくださったんですなどと坂下に教えたので、千鶴は慌てる。

へえ~…、素敵ですね、千鶴先生!オーケストラなんて凄いな~…と坂下から言われた手前、千鶴は謙遜するが、凄いんだって祖父が言ってましたと和音は言い、あ、そうだ…、そう言えばタクシー呼んだ方が良かったかな~…って、先生、酔っぱらって電信柱に…と言いながらおでこに手を当てたので、千鶴は慌てて、ホームが始まっちゃいます!野々村さんもおじいちゃんに宜しくね!と坂下と和音を教室に押し込み、話を終えようとする。

すると和音は、こちらこそ祖父を宜しく御願いしますと丁寧に返事して来たかと思うと、急に顔をしかめて睨みつけて来る。

次の練習日、補聴器をした戸山は1人でティンパニーを打ち鳴らし、他の団員はその音のうるささに呆れる。

堪らず、酸素吸入器をした竹岡が戸山の背後に回り、その補聴器をきちんと耳にはめた途端、戸山は自分が叩いていた音に驚いて倒れる。

外れていると聞こえないからどんどん叩いちゃうんだと、千鶴の側の老人が教え、年寄りって面白いだろう?何が起こるから分からないからねと言うと、大笑いし始める。

数日後、その笑った老人の葬式で千鶴は遺影に合掌するはめになる。 野々村や富雄、昌江夫婦も弔問に訪れていた。

外に出た野々村は、うちはいつメンバーがいなくなるか分からんからの〜…とぼやき、先生ファーストバイオリンの方を宜しくと頭を下げて来る。 さすがに、もう嫌だ!と考えた千鶴は退団届けを用意し、中央公民館のトイレにこもっていた。

しかし、歌を口ずさみながら洗面所で手を洗う宮崎しま子の声が聞こえて来たので、なかなか出られないでいたが、水を流しっぱなしで出て行ったので、急いで蛇口をしめると、絶対辞めてやる!と決心する。

練習部屋に来てバイオリンを取り出そうとしていると、どうだろうね?小山先生にコンマスを御願いしてみちゃ?そうすな〜、それは良い考えですな〜などと話し合っている野々村と富雄たちの声が聞こえて来る。

慌てて2人の前に立ち上がった千鶴は、ちょっと待ってください、私まだ入ったばかりですから…と遠慮する。

すると、年長者とかじゃなく、やりたい人がやれば良いのよ!と昌江が言って来て、真弓もそうそうなどと相づちを打つ。

千鶴はいやいやいや…、やりたいとかじゃなくて!と拒否しようとするが、結局、新しいコンマスにさせられてしまう。

又、寿司屋で、新しくコンマスになった千鶴先生から一言!などと野々村からのせられてしまった千鶴は、若輩者ですが、精一杯頑張りたいと思いますと自分の気持とは裏腹なことを言ってしまう。

心の中では、私のバカ、バカ、バカ!と千鶴は後悔する。

そんな千鶴に、小山先生、おめでとう!と及川さんがビールを勧めて来る。

練習後は毎回、運営会議と言う名の飲み会があった…(と千鶴の独白)

中でも千鶴がまいったのは…、老人たちの愚痴を聞かされる事だった。 4年前じゃ、コンマスをやっとった大沢(光石研)の奴が裏切ったんじゃ…と野々村がぼやく。

あいつ、おめえ…、オケのメンバーそそのかして梅響退団しおった! しかもあろう事か、梅フィルなぞ結成しおって!あの悪魔め!犬に食われて死んでしまえ!と歯ぎしりしながら野々村は割り箸をへし折り、聞いとるのか、先生!と絡んで来る。

野々村さんが大沢を憎むのにはもう一つ訳があった…(と千鶴の独白)

ある日、千鶴は「野々村ラヂオ商会」と古びた看板の出た店の前に来ると、近くの「オーサワデンキ」と大きな看板を出したビルから、絶えず「OSAWAデンキ」のCMソングが流れている事に気付く。

ある日、高校の購買部に昼食用のパンを買いに来た千鶴は、梅フィルに入るんですか?と坂下に聞かれ、入れるかどうか分からないんですけど…、音楽習いたいな〜ってああまえたように言ってみる。

すると坂下は、凄いな〜、千鶴先生!と褒めて来ただけではなく、何か、千鶴先生といると僕まで元気になれるってい言うか…などと言って来たので、えっ?と聞き返すが、ああ、コロッケパン、狙ってたのに〜…と坂下は話をそらせてしまう。

そこにやって来たのが和音で、どう言う事よ、これ!と退団届けの封筒を差し出して来る。

梅フィルに入るって?うちと梅フィルの関係知ってるんでしょう?おじいちゃん、冗談抜きで心臓悪いのよ!と和音は責めて来る。

すると千鶴は、野々村さんに伝えといて、私はただ、ちゃんとしたオーケストラでやりたいだけなの!と言い返す。

その気持は、梅響出て、梅フィル作った人たちも同じなんじゃないかな?と千鶴は続け、じゃあね!と言い残し、和音と別れる。 下校時、学校を出た千鶴は、そこに和音が待っていたので、話は終わったはずだけど…と話しかける。

すると和音は、おじいちゃんが最後に話を聞いて欲しいから時間をもらえないかって…と言うので、もう話す事もないわよ!と千鶴は冷たく突き放す。

先生にはご迷惑をかけたかもしれないって…と和音が言うので、さすがに拒否できないと考えた千鶴は、車に和音を乗せ目的地に来ると、良い?会うのはあくまでもわだかまりをなくしたいからだからね…と言い聞かす。

和音も分かってますと答え、一緒に車を降りる。 しかし、その場所と言うのは「ホテル インペリア」と言う怪しげな場所だったので、本当にここなの?と千鶴は疑う。

その時、クラさんこと及川がふらつきながら出て来たので、大丈夫ですか!と駆け寄った千鶴だったが、その現場を路地裏に潜んでいたフードをかぶった誰かに盗撮されてしまう。

撮りましたぞ…と言いながら出て来たのは野々村だった。

野々村は今デジカメで撮った、ホテル前で及川を抱きとめた千鶴の姿を差し出して来て、まずいですな〜、オケメンバーと教師の淫らな不倫疑惑!と野々村がカメラを見せ、これ、学校に送られたらどうなりますかね?と及川が脅迫して来る。

どうなりますって…、私とクラさんの不倫って…、いくらなんでも無理があるでしょうと千鶴は答えると、そうなの?と及川は野々村に聞く。

誤解せんで下され、先生を陥れようなんてこれっぽっちも思っておらんのじゃから店と野々村は言い訳して来る。

ただ…、うちのオケを辞めると言う話…、あれをなしにして欲しいんじゃ…と野々村、和音、及川の3人は同じポーズをして頼む。

なあ先生、お願いじゃ…、辞めんで下さらんか…と3人が頭を下げて来るので、千鶴は頭をかいてしまう。

野々村さん、こんな事のためにこんな格好して、こんな隙間でずっと待ち伏せしてたんですか?と呆れたように千鶴が聞くと、フードを脱いで、そうじゃともと答えた野々村は、これを見て、良う考えてくださいと言いながら、デジカメをいじっていたが、おじいちゃん、どこ押したのよ、データ消えちゃってるよ!もう…、だから言ったのに…、良い加減覚えないと!と和音がデジカメを取り上げ怒り出す。

デジタルめ!デジタルめ〜!と悔し泣きしながら野々村がしゃがみ込んだので、おじいちゃん!と千鶴は声を掛けるが、そのまま野々村は地面に倒れる。

もう、野々村さん、いい加減にしてください!と千鶴は呆れて野々村の腕を軽く叩き、及川も、芝居巧いんですよ!と野々村を指差して及川も笑いかけて来るが、野々村はそのまま地面に倒れて苦しみ出す。

あまりに様子が変なので、おじいちゃん!おい!野々村さん?と3人が駆け寄るが、及川が、まずい、救急車!と言うので、車の方が早い!と判断した千鶴は、自分の車に駆け寄る。

野々村さんは検査のため数日入院する事になり、しばらく指揮する事を禁じられた…(と千鶴の独白)

野々村を病室に見舞った千鶴に、和音と名付けたのはうちの婆さんなんじゃと野々村はバイオリンをてに話す。

和音が生まれてすぐに逝ってしまいよったがな…、もう17年になりますかの〜…、娘夫婦に店を任せられるようになったら楽器をやってみたいと言うて…、気が急いて、先にバイオリンを買うてやったんじゃが…、触る事もなく、急にの…、で、わしがやる事にしたんじゃ…とベッドの上で野々村は言う。

わしらの時代にゃ、特別な家にでも生まれにゃ、楽器なんぞは出来んじゃった…、ま、その憧れもあっての…と野々村が寂しげに語り終えたので、野々村さん、良かったら、復帰されるまで私が練習見ますよ…とおずおずと千鶴は申し出る。

本当かの?と野々村が聞くので、はい!と答えると、これ…と指揮棒のケースを渡し、ありがたい事じゃと野々村は合掌し、千鶴を拝んで来たので、あ、そんな…、拝まないでくださいと千鶴は恐縮する。

こうして千鶴が指揮を担当しオケの練習が始まるが、やはり老人たちの演奏はバラバラ。

まず、管楽器の皆さんからもう一回弾いてみましょうと声を掛けると、及川、昌江、真弓の3人が演奏を始める。

首を傾げた千鶴は、クラさん、ちょっとだけピッチが低いかな〜って…、高めで行ってみましょうと指示すると、及川はOK、OK!と安請け合いする。

しかし、1人で吹かせてみると、完璧などと自慢するので、惜しい!今度は高かったかな店と優しく指導する。 もう1度及川に吹かせて、素晴らしい、完璧!と千鶴はお世辞を言うが、心の中では、何やってんだ、私はと…と、心の中で自嘲する。

じゃあ、皆さんでもう一度…と言いかけると、脇で聞いていた野々村が、棒がもう少し遅い方がええと思うんじゃが…と千鶴のタクトに注文をつけて来たので、少し早過ぎましたかね?と千鶴は素直に答える。

練習後、腑抜けたように座っていた千鶴の横に座って来た野々村が、食わんのならそれもらって良いかと、千鶴が持っていた饅頭の事を指して来たので、力強く手渡してやり、分かってますね?野々村さんが戻ったら、私、すぐ辞めさせてもらいますから!指揮なんかやった事ないんですから!と小声でと念を押す。

復帰はいつ頃になりそうですか?と聞くと、大げさに咳き込んでみせた野々村が、こればっかりは医者次第じゃからの〜などととぼけて来る。

そして、また咳き込んで饅頭を食った野々村は、しかしこれでデジカメの勉強をしなくてすみますわいなどと野々村が言うので、千鶴は、ン?と不思議がる。

どうしても辞めるんだら、もう一回引っかかってもらわなならんと思うて、トミーと練習しとったんじゃなどと野々村は言い、隣に座っていたトミーこと富雄もにやりと笑って来る。

千鶴は頭に来て、牛丼屋で、絶対辞めてやる!絶対辞めてやる!とぶつぶつ言いながら丼を掻き込んでいたので、他の客が何事かと千鶴を凝視する。

その時、表の自販機の前に来たカップルの女性の方が和音と気づき、慌てて千鶴は顔を隠そうとするが、あっさり入って来た和音に見つかってしまう。

喫茶店に入り、大沢コーイチ君(萩原利久)と和音からボーイフレンドを紹介されるが、慶応学園の1年!エリートだね…、て言うか、1年って年下?と聞くと、何か問題あるの?と和音が膨れたので、いや…、やるな〜って…と千鶴は説明し、私は小山と言います。野々村さんのおじいちゃんのオケで指揮をやってますと自己紹介する。

オケ?うちの父もオケやってますよとコーイチが言うので、へえ…と千鶴が生返事すると、梅が岡フィルハーモニーのコンマスですと言うではないか。

梅フィルのコンマスの大沢さんってもしかして…と千鶴が気付くと、OSAWAデンキの…と和音が答える。

父の会社ですとコーイチも言うので、えっ?じゃあ、あのOSAWAデンキの社長の梅フィルの大沢さんの息子ってこと?と千鶴は驚く。

すると和音は、コーイチ君はおじいちゃんの事何も知らないのと言うので、だって…と千鶴は戸惑う。

2人の会話を聞いていたコーイチが、どう言うこと?と聞いて来たので、和音は言葉に詰まる。

僕、梅フィルの事も和音ちゃんのおじいちゃんの店の事もぜんぜん分かってなかった…とコーイチが言うと、こっちは凄いな〜って思うけど、そっりはヘタッピーのオーケストラとか潰れそうな店とか…、気にかけないもんね…と和音は言う。 そんな和音に、和音ちゃん、知ってどうなるものでもないけど、和音ちゃんと一緒に悩んだり、考えたりできる…、だから、和音ちゃんも何でも話してくれると嬉しいよとコーイチは話しかける。

本当、酷いよな、うちの親父…とコーイチが言うと、和音が笑顔で、私たちは関係ないよと答える互いに中が良さそうだったので、何となく疎外感を抱きながら、そう言えばさ、梅フィルの演奏ってアマチュアレベルじゃないよね…と千鶴がお世辞を言うと、12月の定期演奏会で凄い指揮者に振ってもらえるって親父が言ってましたよとコーイチが言う。

確か、フランスの人で…、この人ですとコーイチがスマホの画面を魅せたので、ロンバール!あの小さな巨人が梅フィルで振るの!嘘でしょう!と千鶴は驚く。

それを聞いた和音は、誰?小さな巨人…と聞くので、知らないの?ロンバールよ、ロンバール!すっごい有名な指揮者なんだよ!と千鶴はスマホを和音に見せて説明する。

その時千鶴は、そのスマホ画面に「楽団員募集」が載っており、「ヴァイオリン 1名」「ヴィオラ 1名」と書いてあるのを発見する。

千鶴は高校の屋上でオーディション曲である「四季」の「春」の猛特訓を始める。

梅が岡交響曲の練習でも、指揮棒入れをヴァイオリンに見立てて指の練習をする千鶴は、ネットで見つけた321040円の「防音室」の購入まで考える。

そして「防音室」まで自宅に購入し、そこで練習を重ねた千鶴は梅フィルのオーディションの日を迎える。

壇上に立った千鶴に、審査員席中央に座ったコンサートマスターの大沢が自己紹介し、どうぞと演奏を促す。

問題はこれから…、楽譜の黒っぽい部分に突入する…と演奏を初めてしばらくした千鶴は、難関に差し掛かった覚悟をする。

必死に弾いていると、結構です、外で待っていてくださいと大沢が声をかけて来る。 後日、クリーニング屋に出向いた千鶴は、店員がバイトの和音である事に気付く。

何だ先生か…と和音がぼやいたので、何打はないでしょう…、一応私お客だよ…、ここでバイトしてるんだと言いながら洗濯物を出すと、さっさと洗濯もの出して帰ってと和音は冷たく言い放つ。

そんな和音に、あ、良い事あったんだけど聞きたい?と千鶴が言うと、和音は千鶴の服を持って臭い!と嫌みを言い、めんどくさいな…と迷惑がる。

そんな和音に、実はね…と千鶴は打ち明ける。

(回想)正直、単純に巧い下手を言ったら、死ぬんじゃないかって感じだったんですが、味と言うか、迫力があると押す方もいましてね…と、審査員の女性からオーディション後の結果を聞く千鶴。

(回想明け)合格したの?と先に和音が言ったので、何で言っちゃうのよ、自分で言いたかったのに!と千鶴は悔しがる。

で、どうするの?梅響と二股かけるの?と和音が大人びた口調で聞いて来たので、いや…、二股って訳じゃないけど…と千鶴が口ごもると、何でそこまでしてオーケストラやりたいんだ?家族からしたら正直あんましありがたくないんだよね…と和音が言って来る。

感じが分からんって、大音響でガンガンやって…、親なんかぶーぶー言ってるよ…と和音が言うので、でもあなたは野々村さんに割と協力的じゃない?と千鶴が聞くと、私が聞いてあげないと、おじいちゃんの味方、誰もいなくなっちゃうじゃない…と和音は答える。

店の事でももめちゃってるの、親は儲からないから閉めたがってるのね、でも、おじいちゃんがうんと言わないの…、あの辺の土地をOSAWAデンキが買うって言って来てるらしいんだ…と和音は打ち明ける コーイチ君と付き合っててて大丈夫?と千鶴が聞くと、私たちには関係ないもん!と和音は言う。

ただ、親は売るなら今だって焦っちゃって…、おじいちゃんをせっつくでしょう? おじいちゃん怒っちゃって…、もう毎日戦争だよ!と和音がぼやくので、あなたんち、OSAWAデンキに縁があるよね…と千鶴は同情する。

良い縁だけにしてもらいたいんだけどさ…と呟いた和音が表を見たら、そこにコーイチがいたので、千鶴は帰ることにする。

梅フィルの練習は想像以上だった。

もちろん、ロンバール自身が練習に来る訳ではないが、練習担当のトレーナーも1流中の1流のプロ。

79からセカンドだけ!とトレーナーは指示して来る。 3プルトだけ…、小山さんだけ74から…とトレーナーは、千鶴をピンポイントで指導する。

一方、梅響の指揮者としては、クラさん!当てずっぽうで入らないの!楽譜を見てください、楽譜を!と千鶴の指導が厳しくなる。

違う?とクラさんが反論すると、ちゃんと見ろよ!と戸山が注意するので、頭領もでっかい音でごまかさない!と千鶴は注意する。

それにここアダルガントでしょう!マーサさんもアンパン食べないの!と昌江に注意すると、クリームパンよなどと言い返して来たので、どっちでも良いです!、じゃあもう一回!最初から行きますよ!と千鶴は苛つく。

さんはい!とタクトを振りかけたとき、ごめん!帰る!ゴルフがあるんだったと及川が急に帰ってしまう。

その千鶴も、梅フィルの練習中、ロンバールが来る!と思わず立ち上がってしまう。

ロンバールがね、今度の日曜、練習見に来るんだって!もうどうしよう!と千鶴は高校の屋上で千鶴は和音相手に嬉しそうに報告する。

それを聞いた和音は、日曜?どうするのよ、梅響の練習?と聞いて来る。

あ、そうよね、私が梅フィル行ったら、公民館行けないし…、私が行かなかったら、梅響休みになっちゃうし…、どうしよう?と千鶴もその重大性に気付く。

しかし和音は、知らないよ!自分が掛け持ちしてるのが悪いんでしょう!と指摘すると、だよね…、ごめん!と千鶴は詫びる。 すると和音は、指揮が出来たら良いの?と聞いて来る。

喫茶店で再び和音が千鶴に合わせたのはコーイチだった。

ピアノが弾けるの!と千鶴が驚くと、そんな御聞かせする程じゃないんです!と謙遜したコーイチは、でも指揮はやった事ないんですと言うので、大丈夫!大丈夫!誰も指揮なんか見てないから、適当にこうやて振ってれば大丈夫よ、みんなには妹の結婚式って言ってるから、宜しくね!などと言って千鶴は頼み込む。

梅フィルの方では、千鶴は相変わらずトレーナーからミスを指摘され、呆れられていた。

練習後、疲れ切った千鶴に近づいて来た大沢が、どうですか?うちは…と聞いて来たので、皆さん、素晴らしく御上手ですよね…と千鶴は恥ずかしげに答える。

小山さんも頑張ってください、セカンドの尻に火を点けてもらわないと困るんですよと大沢は言う。

とんでもない、私なんか教えてもらわないといけない事ばっかりで!と千鶴が恐縮すると、教える?誰も教えてなどくれません。

ひょっとしてうちのシステムご存じない?と大沢は怪訝そうに気来て来る。 梅フィルでは全員が演奏会に出られる訳ではない。(自宅の防音室内で練習しながら千鶴の独白)

全てのパートで少なくとも1人、舞台に上がらない降り番が決められる。

しかし、トレーナーから、小山さん、ちゃんと練習してる?と次の練習日に冷たく言い渡される。

さらに、女性マネージャーからも、小山さん、練習が終わるまで出て来てもらう必要はありませんから!と言われてしまう。

千鶴は焦り、演奏会までには何とかしますから!すみません!とトレーナーに跪いて詫び、それを見た大沢たち団員が大笑いする。

しかし、それは夢で、教室の生徒の前で、すみませんでした!と叫んで目覚める千鶴。

マンションでは防音室での練習に疲れ切り、床に倒れ込んで眠り込んだ千鶴だったが、ふと目覚めると、その日は5月31日、練習日の当日日曜日の午前9時45分で、練習開始時間は10時からだった。

急いで会場に向かった千鶴だったが、中に入りかけた時、女性マネージャーに止められ、小山さん、やはりロンバーニさんの前に出てもらう訳にはいかないかな、お疲れさまでした!と言い渡されてしまう。

さらにマスコミに突き飛ばされ、転んだ千鶴の目の前を大沢に先導されたフィリップ・ロンバール(フィリップ・エマール)がマスコミ陣に囲まれ通り過ぎて行く。 転んだ拍子に、千鶴のバイオリンも壊れてしまう。

テレビでオーサワデンキ社員研修所前でのロンバールの報道が流れ、翌週、公民館の梅響の練習へ向かった千鶴は、昌江らから妹さんへのお祝いにと言われ、卑猥な木彫り像をホールで進呈されてしまう。

お祝いだから、打ち上げ行こうと及川が言い出し、みんな帰りかけたので、さすがに切れた千鶴は立ち上がり、ちゃんとしましょうよ!ちゃんと音楽やりましょうよ!こんなだから、みんな梅フィルに行っちゃうんですよと声を上げてしまう。

しかし、練習を始めてみると相変わらずのお粗末さのままなので、威風堂々って分かる?ここでアガルガント!…と心の中で言いながらタクトを振っていた千鶴だったが、気付くとみんなが自分の宅とを見ている事に気付く。

練習を終えた千鶴は思わず拍手してしまう。

凄い、素晴らしいです!と褒め、この間来た子、何をどう教えたんですか?と聞いてみる。

すると昌江が、ピアノを弾いてくれたのよと言う。 ピアノ?と聞くと、指揮を始める前に、ピアノをわしらの前で弾いてくれたんだと富雄も言う。 ピアノだけじゃなかったよと戸山が言う。

何とコーイチは、みんなの前でバイオリンやフルートまで演奏してみせたのだそうだ。

そう云う方法が、この老人たちには音楽の構造を巧く見せてあげられる…(指揮を再開した千鶴はそう考える)

これまでの彼らは良い音楽と言うのがどう言うものか掴めてなかった… いちつしか千鶴はタクトを振るのを辞めていたので、先生、どうしたんだ?調子悪いのかい?と富雄が聞いて来る。

何でもないんですと千鶴が言うと、本当に変なんじゃない?と真弓が案じて来る。

大丈夫です…と答えた瞬間、千鶴は倒れてしまう。 老人たちが驚いて駆け寄り、額に手を当てて熱があるよ!と指摘すると、千鶴は思わず泣き出してしまう。

マンションで寝ていた千鶴は、何度もチャイムやノックが聞こえるので迷惑がっていた。

鍵開いてるよ…と呟く声が聞こえ、先生、死んじゃったの?入るよ!と言いながら部屋の中に入って来たのは和音だった。

千鶴は、ベッドの上で何とか起き上がり、ちょっ、ちょっと待って!と声を掛けるが、和音は部屋の中に置いてあった防音室を見つけ、何これ!と興味を示す。

千鶴の寝室へはテーブルのしたを潜るしかないと気づいた和音は驚くが、早く帰って!と千鶴が迷惑がると、先生が喜ぶお見舞いあるのと和音が言い出し、玄関から、こんにちは!と聞き覚えのある坂下の声が聞こえたので、千鶴は大慌てで部屋の中を整理し始める。

坂下が土産で持って来たシラスご飯をベッドで食べた千鶴は、むちゃくちゃ美味しいです!と感激する。

坂下はそれを聞き、良かった〜!と喜ぶと、僕家事大好きなんですよと言うので、もしかしてこのプリンも手作り?と千鶴が聞くと、はい、料理が趣味で、特におかし作りは得意なんですと言う。

早速プリンを口にした千鶴は、凄い!と感激する。

すると坂下は洗い物までしますねと言い出すし、又台所の方へ向かおうとテーブルの所に来たので、ごめんね、いちいち潜らなくてと千鶴が詫びると、いいえ、ぜんぜん、楽しいですよ、とってもと言いながら坂下はテーブルの下を潜って行く。

そんな2人の様子を見ていた和音が、うひょひょひょひょ!とからかって来たので、変な声出すな!と千鶴は叱る。

やがて、御大事にと言い残し2人が帰ると、1人千鶴は、バイオリンケースを開け、壊れたバイオリンを見つめる。

千鶴は、野々村の店に行く。

練習は順調のようですなと野々村から話しかけられた千鶴は、唐突な事で、またお身体に触ると困るんですけど…と前置きし、私やっぱり退団させていただきますと申し出、エルガーの行進曲の楽譜と指揮棒ケースを返そうとする。

すると野々村は、そうですか…承知しましたと言って来る。 先生のような御若い方にうちにいてもらうと言うのが最初から無理な話じゃったんじゃ…と野々村は言う。

分かっとって引き止めたんは、あんなオーケストラでも、わしらには夢だったからでの…、やっぱり梅フィルに帰るんですかの?と野々村が言うので、いえ…、音楽辞めるんです。私なんてそんなもんだって分かっちゃったんで、だからしようがないんです…と千鶴は答える。

すると野々村は、先生、わしゃもう指揮は出来んですよ…と言い出す。 この年で手術もようやらん…、指揮だけでのうて演奏するのもこの先御法度なんだと…、やりとうてもできん…。

先生は、出来るのにやらんと言う…、今やらんかったら、後でしもうた!と思いますぞ…と野々村は諭す。 その時、表に車が停まり、降りて来て店に入って来たのはあのロンバールだった。

どうやらカセットの調子が悪いので見て欲しいと言う事らしかった。 調べた結果、コンデンサーだな?と野々村は気付き、捨てられた電化製品の中から使える物を取っといての…と言いながら、ケースから交換部品を取り出す。

ただちにハンダ付けした野々村がスイッチを押してみると、無事動く事が分かり、感激したロンバールは野々村に抱きついて喜ぶ。

父親が初めて買ってくれたこのラジカセで音楽を聞くと、子供の頃と同じ情熱がわき上がって来るんですよと通訳・アリノ(声-飛永翼)は、その場で音楽を聴きながら話すロンバールの言葉を野々村と、まだ店に残っていた千鶴に聞かす。

カセットには子供の声も吹き込まれており、だから僕にはこのラジカセが絶対必要なんですとロンバールは言う。

なのに、電気ショップの社長は最新のプレーヤーをくれました。

こんな古い機械直す必要ないと…、彼には私の音楽が理解できなかった…、お代はいくらですか?とロンバールが聞くと、野々村は冗談でフランス語で返事しかけるが、真面目に!と千鶴が注意すると、サービスでやっとるだけだから、お代はいらんよと答える。

するとロンバールは、あなたはプロだ、きちんとして報酬を受け取るべきだとロンバールは言うので、じゃあ、100円くらいもらっても良いかの?と千鶴に尋ねる。

その時、千鶴が立ち上がり、実は私たち、指揮者を捜しているんです。どなたかご紹介いただけないでしょうか?と言い出す。

出来れば日本人で辛抱強くて優しくて…、そして分かりやすく教えていただけるみたいな…誰か…と条件を出すのを呆れたように見る野々村。

するとロンバールは立ち上がり、精一杯協力させていただきます、本番は私が振りましょうと答えてくれたので、えっ!ロンバールさんが?と千鶴は驚く。

でもうちのメンバーすっごく下手で、メンバーも揃ってなくて、演奏会もないんですよと千鶴は慌てて説明するが、ロンバールは、問題ありませんと言うではないか。

それを聞いた千鶴は、野々村さん!凄いですよ!と声を掛けるが、立ち上がった野々村は、ロンバールさん、せっかくですが、今の話は御断りしますじゃと言うので、何でですか!と千鶴は仰天する。

うちにはちゃんとうちの指揮者がおりますでなと野々村は言うので、はい?と千鶴が聞くと、先生、あんたの事じゃと言うではないか。

千鶴は慌て、ロンバールさんが振ってくれるって言ってるんですよ、何で私なんですか、おかしいでしょう!私退団したんですよ!と小声で野々村に説明するが、退団は認めんと野々村は急に前言を翻して来る。

失礼じゃないですか!と千鶴が抗議していると、ロンバールが、あなたは指揮者なんですか?と、千鶴が置いていた指揮棒入れを手にして聞いて来たので、そんな指揮者だなんて!と千鶴が否定すると、横から野々村が、こん人は音楽が嫌になって、うちも梅フィルに入るのも辞めると言うと説明する。

それを通訳から聞いたロンバールは、梅フィル?と驚き、通訳も、あなた!と先日、転んだ千鶴を見た事を思い出す。

梅フィルのやり方はナンセンスです、私はアマチュアだった頃に戻りたいと思う事が良くあります。

音楽を純粋に楽しめるのがアマチュアだからです。

音楽を辞めようと思わせるようなやり方は絶対に間違っていますとロンバールは千鶴に話しかける。

ですから、ロンバールさんがうちのオケを振ると言うのは賛成できんのですと野々村が口を出す。

うちにはずっと練習して来た団員がおります。そう云う連中を指揮できるのはうちの指揮者しかおらんのですと言いながら、野々村は指揮棒入れを千鶴に渡す。

するとロンバールも、その通りです、私が間違ってましたと言い、野々村に抱きついて来る。

と言う訳じゃから、これからも梅響宜しく御願いします!と野々村は千鶴に頭を下げ、それが良い!梅フィルだけを辞めなさい。

私…とロンバールが言うので、それを訳していた通訳も、私も梅フィルの指揮を辞める!と驚く。

それを聞いた千鶴は動揺し、そんな!梅フィルを辞めるなんて!と恐縮するが、ロンバールは、お店のキャンペーンにも十分協力しました。私は広告塔ではない、ただ音楽がやりたいだけなんですと千鶴に伝える。

野々村も笑顔で拍手する中、私が本当にやりたい事は何なんだろう?と千鶴は自問する。 答えはすぐに出た。

私は梅フィルを辞めて、梅響の指揮をやる事に決めた。

コーイチにも協力してもらい、千鶴と梅響メンバーとの練習は徐々にに変化して行く。 そしてとうとう楽譜の最後まで初めてたどり着く。

最後まで行った!と及川や戸山ら全員が大喜びする。

そんな中、富雄が、こんな物作って来た!と言いながら、風呂敷に包んだ「梅か岡交響楽団 団員募集」のポスターを取り出して千鶴に見せる。

全部、毛筆で書かれた独特の物だった。 その内、コーイチまでバイオリンで演奏に参加しているのに気付いた千鶴は、コーイチ君どうしたの?と聞くと、僕も梅響に入れてくださいと言うではないか。

だってそんなの…、お父さん大丈夫?と聞くと、父は関係ありませんとコーイチはきっぱり答え、それに梅響は団員募集中でしょう?と言うので、千鶴も頷くか、て言うか、すんごく楽しいです!とコーイチは言う。

それを聞いた団員たちも喜び、コーイチ君、横顔がカラヤンそっくり!などと昌江が褒めて来て、私の漬けた漬け物食べない?などと言うので、漬け物は良いからと押さえた千鶴は、コーイチを団員の席に入れ、最初から練習を再開する。

やがて1年が過ぎ、梅響のメンバーも増え、コンサートを開く事になったと千鶴は野々村に報告に行く。

とうとうそこまで来たんじゃな〜と野々村は感激する。

それで色々ご相談したい事がありまして…と千鶴が言うと、わしゃあ何でもええ、あんたらの方で決めれば…それで…と野々村は答え、コンサート…と改めて喜びをかみしめる。

その後、及川の「クラ寿司」に集まったメンバーたちに千鶴は、梅が岡交響楽団、コンサートを開きたいと思いますと発表する。

それを聞いたメンダーたちはブラボー!と大喜びするが、静粛にさせた千鶴は、ブラボー早い!まだ何にも始まっていません。コンサートを成功させるには、何を演奏するかが全てと言っても過言ではありません。

ここで意見を出し合ってふさわしい曲を選びたいと思いますと提案する。

すると、まず富雄が挙手し、私は「第九」がやりたいと言うので、いきなりはちょっとなぁ〜…と千鶴は頭を抱える。

今度は竹岡が「四十番」がええ、哀愁をおびとってな〜…と言い出したので、けど、あれ確か、トランペットないですよと教えると、本当かの?じゃあ、止めとこ…と竹岡は取り下げる。

次いで、棟梁こと戸山が「復活」はどうだとい出したので、あの素晴らしい楽曲知らないのかよ!と戸山が不機嫌になると、コーイチが知っています、ニールセンの奴、ティンパニのグリスタンがあるやつ!と答えると、そうだよ、そうだよ!と戸山は喜ぶ。

すると真弓が、ダメに決まっているでしょう、それよりドビッシーの「ティランクス」と言い出す。

3分間、フルート1本しか出て来ない奴と及川が思い出したので、選曲がソロが銅貨で決まるもんじゃありませんからねと千鶴は注意する。

その時、俺、一度で良いから、「グリスタン」やってみてえんだよ。いつお迎えが来るか分かんねえしよ…、今度やらせてもらえないんだったら…と戸山が悲しげな顔で立ち上がったので、千鶴は泣き落とし禁止!と叱る。 その時、宮崎しま子がドボルザーグを静かに歌い始める。

「新世界の第2楽章」!とコーイチが言い当てる。

そうなの、私、この曲が大好きなのよ!としま子は打ち明ける。

それを聞いた及川が、じゃあ「新世界」で行こうと言い出したので、いや、実は私が用意していたのが…と言いながら、千鶴が持って来たCDを掲げると、やはり「新世界」だった。

それを見たメンバーたちも一斉に拍手したので、じゃあ「威風堂々」と「新世界」は決定で良いですか?と千鶴が確認すると、みんな賛成する。

すると富雄が、〆は「第九」!などと言い出す。 かくして「クラ寿司」の夜は更けて行く。

いよいよコンサート向けの練習が始まる。 全員、練習日以外の日でも練習に明け暮れ、「新世界」を必死に覚え込む。

やがて月日は巡り…(町の姿が四季で移り変わる様子) 練習場にやってきたのはロンバールと野々村だった。

千鶴!と呼びかけながら驚く千鶴にロンバールが抱きついたので、事情を知らない団員たちは騒然となる。

何かロンバールが話しかけて来たが、野々村は、良う分からなんけど急に来たので連れて来たと言うだけ。

さらにロンバールが話しかけて来たので、ちょっと言ってる意味が分からない、あの通訳さんは?メガネの…と千鶴は戸惑うが、坂下が通訳役を買って出て、大変感動しましたとロンバールの言葉を通訳すると、団員たちは大喜びする。

この人も練習を見たくて、ツアー途中の香港から勝手に来ちゃったそうですと坂下は通訳する。

坂下君凄いね、フランス語覚えて来たの?電話して1時間経ってないのに…と千鶴が感心すると、僕少し話せるんです。学生時代にちょっと…と坂下は言い、でも凄いですね、千鶴先生と感心するので、千鶴は舞い上がってしまう。

そんな2人の様子に気付いた富雄が、よ、ご両人!などと囃して来たので、千鶴は慌てる。

そこに遅れて及川が来て野々村に挨拶するが、誰、あのちんちくりん?とロンバールのことを富雄に聞いたので、この人はロンバールさんだよと富雄が教えると、この人が!と驚いた及川は感激して思わず抱きついてしまう。

そんな及川、戸山がロンバールの写真をスマホで撮り始めた中、真弓に、またB管忘れちゃった!いつもの奴あるだろう?と言い出したので、真弓は何故か大根を手渡す。

及川はその場で大根をくりぬき、それにマウスピースを付けて吹いてみせると、それを見たロンバールは感激し、クラさんのために曲を書きます。

世界で初めての曲書きますと言い出す。

かくして、2016年11月17日(日)第一回定期演奏会 「世界初披露!<大根協奏曲>フィリップ・ロンバール作曲」「新世界より 第二楽章 ドヴォルザーク」「威風堂々 第一番 エルガー」「交響曲第6番 田園 ベートーヴェン」と書かれたコンサートのポスターが完成する。

千鶴もホームページのレイアウトに付いて和音と電話で相談していたが、和音は、そんなことよりちゃんと誘ったの?と聞いて来る。

えっ?と千鶴が聞き返すと、坂下君!と和音が言うので、関係ないでしょう、あなたには!とちょっと喜びながらも素っ気ない振りをする。

年下はガンガン行かなければダメだよ、向こうは遠慮してるんだからと和音は恋の先輩としてアドバイスして来るので、そう云う物?と驚きながらも、放っといて!と答え、スマホを一方的に切ると、あいつめ…と呟く。

その直後、棟梁こと戸山から電話が入り、申し込みが殺到してるんだよ、公民館じゃ入りきれないんだよ!と言うので、急遽、コンサート会場を公民館から梅が岡音楽堂大ホールに変更し、サイトを書き直す千鶴。

そのサイトを社長室で読んでいた大沢は癇癪を起こす。

練習場では、千鶴が疲労困憊の様子なので、団員たちが大丈夫?と声をかけて来る。

千鶴は、すみません、本番何着たら良いのかな〜と思って…と悩んでいる理由を説明すると、団員たちは何だ…とほっとし、戸山などは、心配させるんじゃないよバカヤローと注意する。

さらに昌江が、千鶴ちゃん、心配しなくても大丈夫よ、ねえ!と真弓と頷き合う。

練習の休憩時間、スマホに和音からメールが入っていたので、何?恋愛講座受けてる暇ないんだけどとぶっきらぼうに電話すると、先生、おじいちゃんが!と言うではないか。

すぐさまコーイチと病院に駆けつけると、そこには和音と両親、そして大沢もいたので、お前なんでこんな所に?とコーイチに大沢が聞いて来る。

父さんこそ、どうしてここに?とコーイチも戸惑い、大沢は答えないので、何があったの?と千鶴が聞くと、大沢が「株式会社 OSAWAデンキ」の不動産売買契書を提示し野々村の土地を買おうとし、野々村が、売らんと言ったら売らん!売るにしたって、こいつにだけは絶対に売らん!と拒絶したのがことの発端らしかった。

(回想)お前らなんかに負けるもんか!わしらのオケも…と野々村が我を張るので、大沢がまだ当時のことを…と嘲笑すると、裏切り者!とつかみ掛かろうとした野々村の様子がおかしくなったと言う。

(回想明け)事情を知ったコーイチは、和音ちゃん、ごめん!と頭を下げる。

そして、お父さんもちゃんと謝ってよ!と大沢に詰め寄る。

無言のままの大沢に、さらに、謝ってよ!と迫るコーイチに、コーイチ君…、今日は帰って!と和音が言う。

それを聞いた大沢は、帰るぞとコーイチの手を引っ張り、和音の両親たちに一礼して帰って行く。

千鶴が小声で、あの…、容体は?と聞くと、和音の母は泣くばかり。 和音に手術をするのかと聞くと、年齢的なこともあって難しくないかと言う。

次の練習日、練習場に入った千鶴は、1人先に来て、黙々とオーボエの練習をしている及川の姿を発見する。

やがて、戸山も富雄と昌江夫婦も竹岡もやって来たので、そんなみんなの熱意を感じ、千鶴も決意を新たにする。

その後、野々村の気力で手術が成功したと聞いた千鶴は病室に見舞いに行く。

担当の先生がびっくりしていたみたいですよと、リンゴの皮を剥きながら褒めると、これのお陰じゃよ…と答えた野々村はラジカセのスイッチを入れ、「威風堂々」を聞かせ、手術の間、和音がかけてくれとった…と嬉しそうに話す。

それにしても、大沢にあんな息子がおるとは知らんかった…と野々村が言うので、良い奴なんです。

今回のことも随分気にして、自分に何か出来ることないかって…と千鶴が教える。

梅響のこと助けてくれて、入団までしてくれて、でもお父さんに全部ばれて、今は勘当状態だって…と言うと、そりゃあ、可哀想にの〜と同情した野々村は、わしらのこととあの子たちとのことは関係ないことじゃのにの〜…と嘆く。

そんな病室前で座っていた和音の元にやって来たのはコーイチだった。 2人は、緊張した表情からいつしか笑顔になる。

病室では、野々村が窓の外を凝視しているので、その視線の先にある枯れ葉の1枚を見ているのだと思った千鶴は、カセットの音楽が終わるとともに、最後の1枚の枯れ葉が落ちると同時に野々村も目を閉じたので、慌てて野々村さん!と駆け寄るが、何じゃ?とすぐに野々村は目を開ける。

紛らわしいことしないで下さい!こっちの心臓が持ちませんから!と千鶴は自分の胸を指して訴える。

ああ、すまん、すまん、ちょっと考え事しとったんじゃと野々村は詫びる。

良かった〜…、で、何考え事してたんですか?と千鶴が聞くと、もう、店も潮時かの〜と思うての〜と野々村は言い出す。

え?でも、ロンバールさん、あんなに喜んでくれてたじゃないですか?野々村さんみたいな仕事をする人はまだまだ必要ですよ…と千鶴が反論すると、いや、客の多くは新しい物を安く買いたいと思う取るのも確かじゃ…と野々村は言う。

ま、仕方ないことだし、悪いことでもない。時代の流れじゃよ…と野々村は達観したように言う。

そして、先生、わしも今度の演奏会、出してもらえんじゃろか?と野々村は聞いて来る。

え、いや…でも…と戸惑う千鶴に、指揮は先生がやってくれれば良い、わしはまたバイオリンをやろうかと思うとると野々村は言う。

迷惑はかけんつもりじゃと野々村は言うが、でもまた発作が起きたら…と千鶴は案ずるが、大丈夫じゃ、無理をせんと言う約束で…、バイオリンだけは無理矢理許してもろうた…と野々村は医者の許可を得たことを打ち明け、せっかくもらった命じゃもん、楽しまにゃ損じゃと言う。

万が一の時は、先生、面倒みてくだされと笑うので、分かりました!そう云うことなら…、容赦なくしごきますよ!と千鶴は言って、野々村の手を握る。

そして、野々村も加わり、最後の練習を終え、明日はいよいよコンサートですと千鶴はメンバーたちに話しかける。

そして、野々村さん、野々村さんの今のテクニックは正直まだまだです…、でも、同じメロディを野々村さんが弾いた後では、他の人の演奏が物足りなく感じるんです。

野々村さんが今まで生きて来た歴史とか人生そのものが、こう…、音楽の中で響き合っている。愛があるんですと千鶴は語りかける。

私はもう、大人になったら進歩なんてしないって思ってました。

今まで何度も諦めようって思ったし、何度も落ち込んで、何度も辞めようって思いました。

けどそんな時は、皆さんの顔を見て、皆さんに負けちゃいけないって…、励まされてきましたと千鶴は打ち明ける。

すると、それは違うよ、千鶴ちゃん!と戸山が立ち上がる。

えっ?と千鶴が戸惑うと、俺たちはあんたが頑張ったから釣られて頑張っちゃたんだよと及川が続ける。

ほうじゃ、わしらみたいな年寄りがここまで来れたんは、あんたのお陰なんじゃと野々村も言う。

そうよ、ありがとうね…と真弓と昌江も礼を言う。

そうだ、そうだ!ブラボー!と富雄たちも感謝するので、思わず千鶴は感激して泣いてしまう。

そんな千鶴に、昌江と真弓が風呂敷包みを差し出して来る。

千鶴ちゃん、これ着て頑張って!古い奴だけど仕立て直したのと真弓が説明すると、千鶴は感極まる。

みんなが拍手をし、野々村が千鶴の頭を孫のようになでる。

その夜、千鶴は坂下と食事をする。

大丈夫でしたか?コンサートの前日に誘ってしまって?と坂下が心配そうに聞くと、ぜんぜん!みんな、明日に備えて7時前に寝るって早く帰ったからと千鶴は説明する。

7時!早い!と坂下は驚くが、ねえ、いくら何でも早すぎるだろうってと千鶴も首を傾げて笑う。

そんな千鶴に坂下が小さな包みを差し出し、空けてみてくださいと言う。

そこには蝶ネクタイが入っており、これ明日付けてくださいと坂下は言うので、ありがとうと千鶴は礼を言う。

すると坂下は、僕も学生の時やりたい事があったんですと言い出す。

でも、自分には無理だって諦めちゃったんです。

だから大好きなことに必死に頑張っている千鶴先生…、凄くまぶしいですと言う。

照れた千鶴は、良く分かんないんだけどさ、仕事とか恋とか思い通りにならないことばかりじゃない?だからさ、大好きなことくらい、思い切り頑張りたいんだよね!と答える。

あの人たちにそのことを教えてもらった…と言いながら、千鶴は坂下に見つめられていることに気付き恥ずかしがる。

その時、あの…、千鶴先生…、僕、23歳なんですけど、大丈夫ですかね?と坂下が聞いて来たので、そんなの関係ないよ!むしろ、ちょうど良いんじゃないかな…と千鶴は答える。

すると坂下も、ちょうど良いですかね?と笑顔になったので、良いよ…と答えた千鶴は、シャンパングラスを取り上げ、2人の出会い…と言いながらグラスを合わせる。

いよいよコンサート当日 会場に集まった団員たちは、でけえな〜!と会場の大きさに驚いていた。

そこに、タキシードに着替えた千鶴がやって来たので、ちょっと手足が長いのねと昌江と真弓が竹が短かったことを悔やむが、最高の燕尾服です!と千鶴は気に入っている様子。

野々村が、まだ着替えるのには早くないかの?と指摘すると、ちょっと焦っちゃって…と千鶴が言うので、先生、リラックス、リラックス!と富雄がなだめる。

その時、壇上に和音が上がって来て、じゃあ、看板、上がりま〜す!と呼びかける。

「梅が岡交響楽団第一回定期演奏会」と達筆な毛筆で書かれた看板が舞台に上がる。

どうだったの?昨日?と和音が聞いて来たので、千鶴は内緒ととぼけ、次の瞬間、私たち付き合っちゃうかもしれない!まだ分かんないよ!と告白し、はしゃぐ和音をなだめる。

そこに及川が、どこに付き合うの?などと聞いて来たので、千鶴は何でもない!とごまかし、看板を見るように促す。

他の団員たちも着替え、戸山がシャツを忘れたから、及川に貸してくれと頼み、大丈夫だよ、お前は顔が目立っているからなどと断られる。

緊張する千鶴たちが待機している楽屋にやってきたのは、ロンバールと坂下だった。

ロンバールは千鶴に、思い切り楽しんでくださいと伝える。

そして、以前野々村に修理してもらったカセットデッキを取り出したロンバールは、これで梅交響の演奏、録音させてもらって良いですか?と野々村に尋ねる。

構わんの?と千鶴に同意を求めた野々村は、一応、点検しとこうかの?と言い出す。

その後、坂下は千鶴に、良く似合ってますよと褒める。

ロンバールは、野々村の手元用電気が点く修理器具を見て驚くが、お守り代わりにいつでも持っとるのと野々村は教え、デッキの点検を始める。

そこに真弓や昌江たちがお客さんが一杯!と報告しながら部屋にやって来る。

千鶴は緊張を紛らわすため、洗面所で手を洗う。

すると、その直後、閉め忘れていた蛇口の栓をしま子が閉めてやる。

ロンバールたちと会場の入り口に向かった野々村や千鶴たちの前にやってきたのは、大沢と女性マネージャー、そしてトレーナーたちだった。

これはこれはお揃いで…と女性マネージャーが進み出ると、梅フィルを御辞めになった小山さんでしたっけ?と千鶴の前に来て、お手並み拝見させていただきますよ〜と嫌みったらしく言って来る。

大沢も、野々村さん、御元気になられて良かった。又倒れないようにしてくださいよと慇懃無頼な態度で言って来る。

さらに、ロンバールさん、ダイコン交響曲なんて、大恥をおかきにならなければ良いのですが…と声をかけて来るので、坂下は通訳して伝える。

そして、行くぞ!とトレーナーたちを促し客席に入って行く大沢の姿を悔しげに見ていたコーイチの手を和音が握りしめる。

坂下も、先生、しっかり!と手を握りしめて励ます。

お客さんが一杯いる!と喜ぶ舞台袖の富雄たちに、開演ブザーが聞こえて来る。 一旦ステージに向かいかけた戸山と及川が、楽譜を忘れたと慌てて取りに戻ったりする。

最後に残った千鶴は、野々村さん、楽しみましょうと話しかけると、とっくに楽しんどるわと野々村は答える。

大鏡で最後の自分の姿を確認した千鶴はステージに向かう。 客席のロンバールが、カセットデッキのスイッチを入れる。

静かに千鶴が指揮棒を降り始め、演奏が始まる。 及川が、ダイコンでダイコン交響曲を演奏し始めると、脇から人参にマウスピースを付けた物を吹きながらロンバールが飛び入り参加する。

会場は手拍子で沸き返る中、大沢はその反応振りに動揺し始める。

演奏会の前半部分は無事終了し、控え室に戻る時、心臓大丈夫ですか?と千鶴が案ずると、やっぱり好きなことをしとるのが一番じゃ!と野々村はにこやかに答える。

会場の外は雷鳴が鳴り始める。

千鶴はエルガーの「威風堂々」の楽譜を開く。

そして、演奏が始まった次の瞬間、雷鳴が轟き、会場は突然停電して真っ暗になる。

演奏は中断してしまったので、客席に両親とともに着ていた和音は停電!と驚く。

会場の係員が、申し訳ありません!落雷の影響で電気系統が全て止まってしまいまして!と客席に詫びに来る。 それを聞いた千鶴は驚き、すぐに直りますか?と係員に聞くが、すぐにはちょっと…と言う。

お客さんには一旦ロビーの方へ出ていただきまして…と係員が言うので大沢たちは席を立つ。

その時千鶴は、待ってください!と客席に呼びかける。

そして、野々村さん、さっきのドライバーありますか?と聞く。

うん、持っとるが、どうするつもりじゃ?と野々村が答えると、千鶴は貸してくださいと申し出る。 それを受け取った千鶴は、ドライバーに付いていた小さな手元用の電球を灯らせる。

そして、皆さん、用意は良いですか?と千鶴が言い出したので、その意味を悟った野々村は、もちろんじゃと答え、バイオリンを構える。

そして千鶴は、ライトを指揮棒代わりに振り始める。 迷いはなかった。

メンバーたちは楽譜をすっかり覚えてしまっていた(と千鶴の独白) だって、あんなに練習したんだもん! 誰にも負けない努力をしたことにみんな誇りを持ってた! だからここまで来ることが出来た! 客席の和音は勘当して泣いていた。

(これまでの梅響の回想シーン)

闇の中を動くライトの指揮棒。

これが梅響だ!(その時、会場の電気が点く)

演奏は無事終了し、客席から万雷の拍手が巻き起こる。

その拍手を聞いた老人たちも感激する。

千鶴は、野々村を始め団員たちを立たせる。

ロンバールと坂下も大喜びしていた、 大沢は感動のあまり泣き出していた。

エンドロール(動画サイトにアップされた梅響の映像は凄いアクセス数になる)

大沢は野々村に詫び、OSAWAデンキの店内に「野々村ラヂオ修理工房」なるサービスコーナーが併設されることになる。

ロビーにいた千鶴の元へやって来た坂下は、先生、僕決めました!と話しかけて来る。

千鶴先生と改まって坂下が言うので、いよいよかと緊張した千鶴だったが、はいと答えるが、僕、フランスに行きます!と坂下は言い出す。

フランス?と聞き返した千鶴に、僕、お菓子が好きで、大好きで!でもパティシエになるって言う夢、無理だって諦めちゃってたんです。 お菓子?パティシエって何?と動揺する千鶴。 23歳だからって遅すぎることないですよね。僕頑張ります!千鶴先生、ありがとうございますと坂下は頭を下げて来る。 ロンバールに呼ばれ去って行く坂下の背後には、話を聞いていた和音があっけにとられていた。

今や梅響に入り直して一緒にバイオリンを弾いていた大沢が隣の野々村に、千鶴さん、迫力が増しましたね、鬼気迫る感じがします…と話しかけると、そりゃそうじゃろう、和音から面白い話を聞いたんじゃが…、実は…と野々村が答えかけたとき、野々村さん!と千鶴が厳しい表情で注意して来る。

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