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眠狂四郎円月殺法

大映の眠狂四郎シリーズ13作目だが、今作から市川雷蔵に代わって松方弘樹が狂四郎を演じている。

松竹作品が多かった佐藤友美さんや川津祐介さんなどが出ていることもあり、大映色はやや曖昧になっているようにも感じるが、大映時代劇の底力はまだ残っており、病気でパワーをやや失っていた感のある市川雷蔵版の末期作品よりは立ち直ったようにも見えるが、マンネリ感はいかんともしがたい。

ライバル役を演じている神山繁さんや成田三樹夫さんと云った個性派の魅力が楽しめる。

松方さんの狂四郎も雷蔵さんとはまた違った印象でそれなりに魅力があり、悪くはない。

主役が代わったからと言って、特に予算を投じたり、趣向を凝らしたと言った感じでもないが、プログラムピクチャーとしては無難にまとめた一作だと思う。
▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼
1969年、大映、柴田錬三郎原作、高田宏治+高橋稔脚色、森一生監督監督。

森の中で弓を引いた徳川敏次郎(川津祐介)は、飛んでいた山鳥を射止めるが、落ちた鳥に気づき、可哀想にと拾ったのは3人の村娘であった。

次の瞬間、弓を手にした敏次郎が草むらから姿を現したので、お許しを!と村娘は詫びるが、鳥を持っていた女を見た敏次郎はつかみ掛かり着物を脱がせ始める。

怯えた他の娘2人はその場から逃げ出そうとするが、敏次郎に付いていたお供の侍2人から斬られてしまう。

そこへ、江戸表より御使者が!と言う知らせが敏次郎の元へ届く。

屋敷に戻った敏次郎を待っていたのは、徳川家慶の乳母で侍女頭、松浦(長谷川待子)であった。

江戸へはまだ戻れぬのか?もうかような山鹿暮らしは飽きたと敏次郎は文句を言う。 松浦は共に連れて来た佐野勘十郎(神山繁)を紹介する。

側には明日心剣(成田三樹夫)もいた。 佐野は、江戸表にお迎えに参りましたと敏次郎に伝える。

天保12年6月 徳川家慶(川津祐介-二役)は久能山参詣の帰り、佐野勘十郎の館に宿泊する。

その夜、就寝していた家慶の部屋に飾ってあった鎧が急に立ち上がる。 気配に気付き目覚めた家慶の前で、鎧武者は自らの面鎧を取ると、その下から現れたのは家慶と瓜二つの敏次郎だった。

その方は!と驚く家慶に、鎧の武者は徳川家慶!と答え、いきなり斬りつける。 そこに館の主の家慶が入って来ると、敏次郎が倒れた家慶を蹴る。

タイトル

江戸城

夜中、松浦が見守る中、腰元達らによって家慶の部屋から運び出される畳の上の何か。

部屋の中では、長岡采女正(木村元)は家慶に、何故殿は夫のある身ばかりをお求めになるのですか? 又、辱めを受けた女が自害致しました。

久能山へお詣りになられて以来、西の丸へ戻られてから何故突然狂われたのですか? 殿はお人が変わられたのですか?と詰問していた。

しかし、家慶は、退け!わしはこの秋、朝廷の御位を受けられる身だぞ!と言い放つと、いきなり刀を抜き長岡を斬りつける。

その時、長岡は家慶に成り済ました敏次郎が左手で剣を持っている事に気付き、その手は左利き!あなたは御世継ぎ様ではない!と仰天する。

さらに、そこに大目付の佐野勘十郎がやって来たので、その事を教えようとした長岡は、その佐野にまで斬りつけられたので、貴様!と真相に気付くが、そのまま息絶える。

その後、供を連れ馬に乗って出かけていた敏次郎は、道の真ん中に座り込み、通行を阻止する娘に気付き馬を止める。

西の丸の御世継ぎ様と見受けまする。私は乱心したとして斬られ、家も断絶させられた長岡采女正の妹志津(梓英子)ですと娘は名乗ると、お尋ねします。何故に兄は突然乱心したのでしょう?訳が知りとうございますと言う。

すると、馬を下りて来た敏次郎は、良し、教えてやろう、わしと一緒に城へ参るのじゃ!と言いながらいきなり志津を捕まえ、草むらに押し込もうとしたので、やはり噂通り、乱心したのは殿の方だったのですね!と叫んだ志津は、天下御政道のためお覚悟!と言いながら懐剣で敏次郎を突こうとして、逆に共の家臣から斬られる。

手傷を負いながらも何とかその場から逃れようとした志津だったが、簡単に家臣達に捕まえられてしまい、敏次郎は、かまわん、足首を斬れ!と命じる。

家臣が刀を振りかざしたそのとき、どこからともなく礫が飛んで来て剣をはねる。

道の奥から近づいて来たのは眠狂四郎(松方弘樹)だった。

我らは御世継ぎ様の家臣だ、歯向かうとたではすまんぞ!と家臣は志津を取り返そうとするが、狂四郎は、ほざくな、恥を天下にさらすばかりだ!と吐き捨て、剣を抜くと、地面に刃先を向けゆっくり回転させ始める。

円月殺法だった。

家臣の剣をあっさり交わした狂四郎に、素浪人、その女を置いて行け!余は、徳川家慶なるぞ!と敏次郎は名を騙るが、姓名は承った…と答えた狂四郎は、左利きだな?武士には珍しい…と動ぜず答える。

敏次郎はむかつきながらも名を名乗れ!と聞いて来たので、眠狂四郎…とだけ名乗り、狂四郎は志津を連れ、金八(大川信)と住む長屋に向かう。

外にいた金八は、自分が呼ばれていると知って部屋に戻ると、志津が寝かされた横に狂四郎が座っていたので、どこで釣って来たんです?と冗談を言うが、医者を呼んで来てくれと狂四郎に言われ、すぐに外へ飛び出す。 金八は、宗徒衆が通り過ぎた後を歩いて来た医者に目をつけ家に来てもらう。

狂四郎が部屋の隅で座り目をつぶっている間、医者は、志津の背中の傷を切開しようと刃物を取り出すが、御主何流を学んだ?伊賀流と言う流派ではないのか?その刃物は直すためのものではなく殺す道具だろう?と狂四郎が声を掛けると、いきなり宗徒衆が部屋になだれ込んで来る。

狂四郎は、金八逃げろ!と声を掛け、志津を託すと、変装した乱波たちと戦い始めるが、志津を連れ表に逃げ出した金八はすぐに敵に斬られそうになる。 その時、礫を投げて邪魔して来たのは鳥追い姿の女だった。

乱波たちは、邪魔が入ったと気づくと、退け!と声をかけ全員姿を消すが、家の外に出て来た狂四郎は、黙って闇の中に去って行く鳥追い姿の女の後ろ姿を怪訝そうに見送る。

金八は自分のねぐらに狂四郎と志津を連れて来ると、今度はまともな医者を連れてきますよと言い残して出て行く。

布団に寝かされた志津は、何としても兄乱心の真相を突き止めます。 御老女松浦様に聞いてください…と志津は狂四郎に頼む。

城中ではその松浦が佐野と密かに会い、老中評定が行われる。敏次郎が大納言の位を得るまで、水野越前守には油断なりませぬぞと言い聞かせていた。

念のため敏次郎をお浜御殿にお移り願い、厳しい見張りをここ当分な…と佐野も答えると、あなたが御老中になるかならぬかの瀬戸際…、気のもめる事…と松浦はからかう。

その松浦が駕篭で城を出た時、立ちふさがったのが狂四郎だった。

供の者は行かれい!と声をかけ、歯向かって来た者斬り捨てた狂四郎は、刀で駕篭の戸を開け、近くに無住の寺があるのでご同行願おう!と松浦に命じる。

寺に来た狂四郎は、長岡采女正乱心の真相が知りたいと申し出る。

事が起こった時にそなたと佐野勘十郎がいたとか?と迫ると、知らぬとは言わぬ。

乱心して御世継ぎ様に刃を向けたので成敗されただけですと松浦は言う。

すると狂四郎は剣をひらめかせ、松浦の着ていた打ち掛けを斬り割く。

松浦は慌てず、長岡の妹の志津を匿ったのはそなたであったか…志津は美しかろう?と松浦がからかうように聞いて来たので、美しかろうが醜かろうが、女に興味はないと狂四郎が答えると、噂では、そちはバテレンの言うサタンの申し子とか?その美しい顔で妾を抱いてくれ…、無限地獄に堕ちても本望じゃなどと言い、自ら着物を脱いで狂四郎に抱きついて来る。

高貴な身分では双子を嫌い双子の弟の方を捨てるそうだ。

家慶が生まれた時、双子の弟があったのだろう? 不運な乳飲み子の消息、そなたなら知っているはずだ。

匿うたのはそなたと佐野勘十郎であろう? 狂四郎が迫ると、いきなり裸の松浦は懐剣で狂四郎を脅し、外へ逃げ出そうとするので、立ち上がった狂四郎は、刃で松浦の喉を突いて殺す。

ほどなく置き去りにされていた松浦の駕篭に近づいて来た家臣達は、駕篭の中に横たわっていた裸の松浦の死体の上に「合掌 眠狂四郎」と書かれた紙が置いてあるのに気付く。

狂四郎め!殿に挑戦して気負ったのです!志津の行方も知れませんと明日心剣が佐野に報告していた。

大事の前だ、あらゆる手を尽くして眠を斬れ!と佐野は命じる。

金八が、長屋に帰って来た狂四郎に、酒の肴でも買ってきますと言い残し出て行ったので、部屋の中では寝ている志津と狂四郎の2人きりになる。 志津殿、西の丸の中には殿様はいない。

画策しているのは佐野勘十郎だ、兄上は佐野勘十郎の犠牲になられたのだ、あなたは危うく巻き添えを食らう所だったのだ。

命が助かっただけでも運が良かったのだ。もはや全てを捨てて女に戻る事だな…と狂四郎から諭された志津は、狂四郎様、私にお力添えを!あなたにおすがりするしかありません。徳川のために…、兄の死を無駄にさせたくない…と志津は言い出す。

そんな事をして兄上が喜ぶと思うのか?と狂四郎が問いかけると、はい、その代わり、この身体を…、私には何も差し上げるものがありませぬ故…とまで志津が言い、自ら着物を脱ぎ始めたので、忠義のためには女に操も捨てると言うのか?と狂四郎は言い、志津の身体に触れてみて、そなた、始めてだな?冷たい!身体は女でも木石同然、抱く気にもなれん!と拒絶したので、志津は、狂四郎様!と呼びかける。

その頃、敏次郎はお浜御殿で腰元相手に酒を飲んでいた。

途中でその腰元を抱き寄せようとした敏次郎だったが、そなた、探りに慣れているな?木偶人形など興味はない!お浜御殿にも飽き飽きした!言うと席を立って出て行こうとする。

その前に立ちふさがった宗田儀兵衛(北城寿太郎)は、殿!ご辛抱を!と諌めようとするが、二言目には辛抱だ!宗田!御主は余の近習なのか、それとも佐野の家臣なのか?と敏次郎が嫌みを言うと、殿、離れの方へお出向きを!と願い出る。

それも佐野の差し金か?と聞く敏次郎に、ご案内捕まると先導した宗田は、そこにいた女を前に、某の妻すがでございますと紹介する。

人妻好みの敏次郎はすがを気に入ったようで、宗田、忠義者だな…、もう二度と出て行くとは言わん、下がって良いと告げる。

部屋を下がって廊下に出た宗田は、そこに狂四郎が立っているのに気付き慌てるが、狂四郎は刀を突きつけ、そうだにもう一度離れの前に戻るよう促す。

部屋の中では、すがが夫に言われてお側に参りましたと言い、それに対し敏次郎が宗田を近習頭に抜擢してやると答えている会話をしていた。

それに対しすがは、私は二度と夫の元へは帰れません。西の丸へお呼びくださいと言い出したので、敏次郎は、夫のある御主を側室には出来ぬではないかと困惑する。

するとすがは、では夫を長岡采女正のように…、さすればすがは一生殿様のお側に…などと言い、敏次郎も望み通りにしてやるぞなどと言いながらすがを抱き寄せるが、その会話を外で聞いていた宗田は青ざめる。

狂四郎はそんな宗田を部屋の中に突き飛ばし、宗田、見ろ!と声をかける。 宗田とすがは、互いに恥辱で動けなくなる中、敏次郎は槍を持って狂四郎を突こうとするが、その槍をあっさり奪い取った狂四郎は、道場で聞けば家慶は左利きではないそうだ。

敏次郎殿!家慶殿はどこだ?既に亡き者にしたのか!と迫る。 敏次郎は狼狽し、狂四郎、命だけは助けてくれ!と懇願して来る。

しかし狂四郎は、御主が将軍になれば天下の笑い者、それを見物するのも一興…と言い残し離れを出て庭先から帰ろうとするが、そこに駆けつけた明日心剣らが立ち向かって来る。

狂四郎は持っていた槍で突こうとするがあっさりはねのけられたので、剣を抜くと、今宵は中秋の名月…、時も良し、所もまた良し…と言いながら、剣の切っ先を下からゆっくり回して行く(ストロボ表現)

その直後、心剣!勝負は五穀!と叫んだ狂四郎は、塀を飛び越え外に逃げ出す。

追っ手が来る中、旦那、こちらへ!と町人が塀の横に誘って来たので、そちらに身を隠した狂四郎は追っ手を交わす事が出来る。

その直後、狂四郎は自分を救ってくれた町人にいきなり斬りつける。 町人と思ったその男は見事なトンボを切り身をかわし、暗闇から狂四郎にいきなり銃を突きつけて来たのは、いつぞや長屋で金八と志津を救って去っていった鳥追い姿の女おりょう(佐藤友美)だった。

お前さんは知り過ぎたからね…、徳川800万石の御世継ぎ様の話に何故近づくのじゃ?命あっての物種と思わないのかい?と迫って来るが、狂四郎は、思わん、ますますその気になると答えると、向けられた短筒も恐れずそのまま立ち去って行く。

おりょうは結局、引き金は引かなかった。 脇道に狂四郎を誘った町人姿の男が、姉御、とんでもない奴が飛び込んできましたね…、放っておいたんじゃまずいんじゃ…とおりょうに話しかけるが、何、勝手な真似はさせないよとおりょうは言う。

長屋に戻って来ると、志津を抱え刃を首にあてがった賊が部屋に中で待ち構えており、狂四郎、刀を捨てろ!さもないとこの娘の命はないぞ!と迫って来る。

すると志津が、この命に代えて志津の頼み聞いて下さいませと言うなり、自ら刃に首を押し付け自害する。

驚いた賊を斬り捨てた狂四郎に、良くも見殺しに出来たもんだよと、近づいて来たおりょうが嘲ると、忠義と言うものが見殺しにしたのだと狂四郎が答えたので、いかなお前さんだって、このこの最後の望みを聞いてやるんだろうね?助けてやるよおりょうは言うが、公儀の情けか?断る!俺は俺流でやるだけだ!と狂四郎は答える。

腐り切った無頼のその手に何が出来るものか!とおりょうは言う。 その後、水野越前守(鈴木瑞穂)に屋敷で対面したおりょうは、家慶殿の行方はまだ知れぬのか?来月中旬、殿が京に登られる事が決まったぞ。このままでは公儀の面目が潰れるだけではなく、天下争乱の元になる。

狂四郎の口は塞いだのか?と迫られ、私に考えがございますればお任せを!とおりょうは答える。 ある夜、川遊びの屋形船の中にいたのは敏次郎と佐野で、京に上れば将軍職になる。そちのお陰だ。

家慶は生きておるのか?と聞いて来た敏次郎に、もはや生ける屍…と答えたさのは、どこに幽閉しておるのだ?と聞かれたので敏次郎に耳打ちをする。

その時、呼んでおいた芸者衆が入って来たので、みんな裸になれ!裸になって踊れ!と敏次郎はいきなり命じる。

その時、突然銃を突きつけて中に入って来たのがおりょうで、みんな早く出てお行き!と芸者達を逃がすと、尋ね人があってね、隠している方はどこにいるの?と言いながら銃を敏次郎に向け、佐野に聞く。

居所を教えようと敏次郎が怯えて言いかけるが、俺が言うと声をかけた佐野が、甲府城内の牢におられるのだと打ち明けたので、信じよう…とおりょうは納得するが、その時突然、屋形の天井から刀が突き刺さって来て、障子を開けて狂四郎が入って来る。

大目付佐野勘十郎!と呼びかけた狂四郎に、眠狂四郎か?と佐野は睨みつける。 先刻からの話では、伊豆代官所の土牢と聞いたが?と狂四郎が言うので、とんだ借りが出来ちゃったね…とおりょうは苦笑する。

狂四郎がろうそくを斬り火を消すと、伊豆へ発つのか?ならば離れるなよ…とおりょうに言いながら、佐野達に対しては円月殺法の構えに入りかけるが、おりょうは持っていた三味線の胴に小柄を刺して、佐野の方へ投げつけると、それは爆発して煙を発する。

翌日、深編み笠をかぶった狂四郎は伊豆へ向かっていた。(無双正宗今日も斬る~♩と言う松方弘樹自身が歌う曲をバックに)

そんな狂四郎は、助けてくださいませ!と追っ手に追われた女お蓮(中原早苗)と出会う。

追っ手の男達が言うには、この女は保土ヶ谷宿の茗荷屋と言う店に売られておきながら、文句ばかり言って客を取らないどころか逃げ出したのだと言うが、お蓮は自分は子供に会いたかっただけなのだと言う。

しかし狂四郎が動こうとしないので、もうちょっと骨のある男と思ったよ!こうなったら煮て食うなり焼いて食うなり好きにして!と開き直り、男達に連れて行かれる。

その後、茗荷屋に宿泊した狂四郎は、背中に白狐の入れ墨がある女を呼んでくれ、俺の好みだと店の者に頼むが、何故か相手は困惑するだけなので、行灯部屋か土蔵の中か?俺の方から出向こうと言い出すと、店の者が止めようとするのも構わず立ち上がって土蔵の方へ向かう。

すると、その中で吊るされた半裸のお蓮が鞭打たれていたので、その場で仕置きをしていた男達に金を出してやり追出すと、お蓮の綱を解いてやる。

お蓮は、お前か…とふてくされてように言うが、手の込んだ芝居をするもんだ、子の話を使っておびき寄せたのは褒めてやろうと言った狂四郎は、お蓮の着物を剥ぐと、その中に隠してあった含み針を見つけ、ご苦労なことだと苦笑する。

お蓮は、恐ろしい男だ…、とても私に倒せるような相手じゃない…、だが私も白狐のお蓮と異名を取った女、存分になさっておくんなさいと開き直る。

でも、せめて死ぬ前に一度、旦那のような強い男に抱かれて死にたい…、お願い!抱いて!と云いながら狂四郎に背後から抱きついて来るかに見えたお蓮だったが、いきなり隠し持っていた鎖で狂四郎の首を絞めて来る。

狂四郎を床に組み敷いたお蓮の背中の入れ墨に、天井に隠れていた男が水を垂らすと、入れ墨が解け、下にいた狂四郎に垂れかかる。

狂四郎!私の身体の子の毒液を飲めば身体も腐る!とお蓮は言うが、狂四郎は小刀を抜いてお蓮の腹を突き刺す。

お蓮の身体をはねのけた時、天井に忍んでいた忍びが降りて来たので、これもその場で斬り殺す。

翌日、まだ毒の影響で体力が戻っていなかったのか、道ばたで休んでいた狂四郎に、通りかかった馬子のお糸 (梓英子-二役)が、お侍さん、馬いらんかね?どうかしたのかい?と声をかけて来る。 お糸の顔を見た狂四郎は、死んだ志津に瓜二つなので気を許し、水を飲ませてくれんかと頼む。

お易い御用だと、持っていた竹筒を差し出そうとしたお糸だったが、身体と気づくと、汲んで来てやると言うので、こんな峠に清水があるのか?と聞くと、あたい見つけたんだ!と笑顔で答えたお糸は、崖を下り、川から水を汲んですぐ戻って来る。

どうだ、早かったろう?あそこの水は美味しいんだと言いながらお糸が狂四郎に竹筒を渡そうとしたとき、その背中に短剣が刺さり、お糸は倒れる。

危のうござった、その水には毒が仕込んである…と言いながら姿を現した雲水(伊達三郎)は、その女は佐野勘十郎の手の者…、見てみるが良い、本性を見せた凄まじい死に顔を…と言いながら、お糸を抱き起こしかけた狂四郎に斬り掛かって来たので、狂四郎はその雲水を斬り殺す。

狂四郎は死んだお糸を近くに埋めてやると、馬が付けていた鈴を、卒塔婆代わりの木の枝の先に飾ってやる。

その後、海辺を歩いていた狂四郎は、先ほどお糸が連れていた馬が一軒家の表に戻って来ていることに気付く。

見ると、その家の子供らしい男の子が駕篭に入って泣いていた赤ん坊をあやしていたので、あれはお前の家の馬か?と声をかける。

うんと答えた男の子は、姉ちゃんが帰って来ないんだよ、いつもは一緒に帰って来るのにな〜、姉ちゃん、どこ行ったんだろう?と言うので、両親は?と聞くと、お母ちゃんは死んでしまったし、お父ちゃんは牢屋だ、回りの人と一緒に捕まったんだと言うではないか。

父の名は?と聞くと吉松だよと言うので、狂四郎はその足で伊豆代官所の前に来ると、門番が制止するのも聞かず、代官所の大看板を切断してしまう。

そのまま自ら捕まった狂四郎は、後で拷問にかけて吐かせてやると代官の大野木源右衛門(玉置一恵)に言われ、牢に入れられてしまう。

その牢にいたいかにも牢名主風の男にここは長いのか?と狂四郎が話しかけると、ざっと3年かな?こは水呑百姓ばかりで話し相手がなかったんだ、俺は松が枝の権六(遠藤辰雄)と言う博打打ちだと嬉しそうにと答えてくる。

狂四郎も名乗り、この奥はどうなっている?と聞くと、狂四郎?妙な名だなと言いながらも、奥には一人牢がいくつかあると教えてくれる。

さらに吉松と言う男を知らないか?と聞くと、新田の男だろう?一人牢に入っているよ、昨年の一揆の音頭取りとして捕まったのよと教えた権六は、一丁どうだい?と言いながら、床下に隠したサイコロを取り出してみせ、腹の中に大枚の金を抱いているじゃないかと見透かして来る。

お前は何を賭けるんだ?と聞くと、俺は何もないよと言うので、身体をもらうぞと狂四郎は言い、勝負に乗ることにする。

そんな伊豆代官所にやって来たのが明日心剣で、代官の大野木の部屋に通される。

大野木さん、久しぶりだなと挨拶した心剣は、いよいよ大願成就が間近に迫ったので、その前に例のお方に消えてもらわなければならぬ…と用件を話していたが、その時、大野木が持っていた剣に目を止め、どこかで見覚えがあるような…とその剣を手に取って確認する。

無双正宗!持ち主はどこに?と聞くと、牢にぶち込みましたと言うので、狂四郎の奴め、刺客の目を潜りここまでやって来るとは…と心剣は感心する。

牢の中では、狂四郎が半!と言い、又勝負に勝ったので、相手をしていた権六は、旦那にはどうしても勝てない、閉めて200両の負けだ…と落胆する。

そんな権六に、約束通りそちの命貰い受けるぞと狂四郎は言う。

狂四郎の奴、家慶様を探るためにわざと捕まったなと気付いた心剣は、もはや墓穴を掘ったも同然!と言うと、手かせ足かせの上、牢から出してもらおうと大野木に頼むと、役人を引き連れ牢に向かう。

牢に入って来た役人は、狂四郎に立て!と命じ、手かせをはめようとするが、狂四郎がその役人の手を逆にひねり上げた時、権六が、みんな逃げろ!と叫んだので、捕まっていた農民達は一斉に牢から脱出しようとする。

しかし、そこに同行していた心剣が権六を斬り殺す。

その時、農民に混じって牢から抜け出た狂四郎が、出口とは逆の奥へと向かったのでその後を追う。

そこへやって来たのはおりょうだった。

林の中に入り込んだ狂四郎に、狂四郎!無双正宗だ、受け取れ!と心剣は呼びかけるが、受け取れば御主の鉄鞘に斬り込まれると狂四郎が言うので、無腰でわしと立ち会うと言うのか!と心剣は驚き、良い覚悟だと感心する。

そして心剣は斬り掛かって行くが、狂四郎はその剣を真剣白羽取りで受け止める。

貴様!いつの間にそのような技を?と心剣は驚くが、たった今だ、極意は自ずと虚無から生まれると狂四郎が言うので、ほざくな、狂四郎!ならば来い!ここでは円月殺法は封じられた!鹿島流鉄鞘の剣、受けてみるか!と正宗を奪われた心剣は挑む。

確かに、木の生い茂った林の中で剣を回すことは難しかったが、狂四郎は受けてみせようと応ずると、自分の周囲の木を次々に切り倒して空間を作る。

そして狂四郎が円月殺法の構えになったので、狂四郎、覚悟!と叫びながら心剣は片手に剣を持ち突っ込んで来る。

狂四郎は慌てず斬り付け、心剣は倒れる。

奥の牢に向かうと、そこには心身ともにやつれ切った家慶がおり、狂四郎の気配に気づくと、苦しゅうない、早う斬れ!死んだ方がマシじゃと言って来る。

そこに銃を構えたおりょうがやって来て、狂四郎、手伝っておくれと言うので、天下の政には無縁な男だと言い残し、隣の老に入っていた男に吉松か?と聞くが、隣だとその農民は言う。

狂四郎は牢の鍵をこじ開けようとするがなかなか開かない。

その時、おりょうが短筒を撃って鍵を壊す。

さらに、他の1人牢の鍵も全部撃ち落として行く。

吉松か?と隣の牢から出て来た男に声をかけた狂四郎は、子供達が待っている、早く帰ってやれと言う。

後日、二条城では、御世継ぎ様、ご案内のお越しでございますと佐野が朝廷へ向かう準備を終えて待っていた敏次郎に伝えていた。

その時、佐野は廊下にいる狂四郎に気付く。

そんな生き人形を操っての猿芝居、まだ目覚めていないのか?周りを見回してみろ、御主に踊らされる者はもうおらん…、筋書きに無理があったようだな…と狂四郎が語りかけて来たので、佐野は、やれ!やれい!と家臣達をけしかける。

しかし狂四郎は、御主達の汚れた血でここを穢しとうない!と言うが、斬り掛かって来た家臣達を斬り捨てると、佐野勘十郎!一旦血を吸うた正宗は止まる所を知らんぞ!次ぎは御主の番だ!と言いながら、家臣達と斬り合いながら迫って行く。

下郎、許さん!と吐き捨てたさのに、佐野!家臣達が誰もおらんではないか!と狼狽しながら責て来る。

真の家臣達は家慶様殿と今日へ向かわれるために江戸へ戻った!御世継ぎ殿どうなさる?と狂四郎が教えると、佐野はいきなり、お覚悟!と言いながら、自ら敏次郎の腹に刀を突き刺す。

狂四郎がそれを見て立ち去ろうとすると、待て!狂四郎!と叫びながら庭に降りて来た佐野は、たかが無頼の輩一匹のために…と言いながら、自ら腹をかっ捌いてその場に倒れる。

狂四郎はそんな佐野を振り返ることもなく去って行く。

白鳥が一斉に飛び立つ中、江戸へ戻っていた狂四郎は、途中で待っていたおりょうと出会う。

お前さんのお陰で水野様もことのほかお喜びだよ。士官しないかとのお話だけど、その気はなさそうだね…とおりょうは見抜く。

当てのない旅だ、どこかで悪い噂を聞いたら狂四郎が達者だと思ってくれ…と言い残し狂四郎は立ち去って行く。

それを黙って見送るおりょう。


 


 

 

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