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無限の住人

人気コミックの実写化らしいが、原作は知らない。

おそらく長い話を短縮したために、話や登場するキャラクターの掘り下げは薄まっているように思えるが、それを補ってあまりあるチャンバラアクションが楽しめる快作になっている。

若山富三郎版の「子連れ狼」シリーズを彷彿とさせるような、次から次へと登場する刺客たちの強烈な個性と奇天烈な武器などが存分に楽しめるけれん味たっぷりの趣向になっている。

「子連れ狼」同様、国内より海外市場で売れるタイプなのではないかとも思う。

主役を演じるキムタクは、お馴染みのイケメンを封じて汚れ役に扮しているため、従来のファン層からは拒絶反応が起こるかもしれないが、今の年齢を考えれば、こう言う渋い役へのチャレンジは必要だと思う。

凛を演じる杉咲花さんとは、実年齢的には親子ほどの差があると思われるのだが、かなり無理がある兄妹設定をかろうじて成立させているだけでも大したものだと思う。

演技的にももはや単なるアイドル演技ではなく、年相応の実力を感じる。

三池監督にとっては「十三人の刺客」と並ぶ見事な時代劇の代表作になるのではないだろうか。
▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼
2017年、映画「無限の住人」製作委員会、沙村広明原作、大石哲也脚本、三池崇史監督作品。

(白黒映像) 役人を斬る万次(木村拓哉) まち!と妹の名を呼びながら、まちが隠れていた場所にやって来た万次は、兄様…、おはぎを拾った…と何かを両手で持っている妹の姿を見て唖然としながらも、まち!それは馬の糞だと教える。

川にやって来たまちは、幼女のように風車を眺めている。

そんな気の触れた妹の姿を見ていた万次は、突然、まるで己の罪を見るようじゃろう?と話しかけられたので、驚いて振り向くと、河原に不気味な白いフードをまとった老婆(山本陽子)が佇んでいた。

御主は旗本を斬り、警護の同心を6人も斬ったとか…と老婆が若を知っているかのように話しかけて来たので、6人目があいつの主人だった。

俺が武士らしく腹かっ捌いたら、あいつはのたれ死んでしまう…と万次は答えると、誰かに生き死にを決めてもらえれば楽じゃの?この婆も八百年も生きているので、己の胸中分からぬでもない…と老婆は奇妙なことを言う。

その話を聞いていた万次は、いつのまちは側にいたはずの間違いなくなっていることに気付く。

近くから祭り囃子が聞こえて来たので、そちらへ向かってみると、まちが100人近い男たちに捕まっており、その中央に立っていた司戸菱安(金子賢)が、やっと見つけたぜ万次!と嬉しそうに呼びかけて来る。

兄様!とまちが呼びかけ、そのリーダー格の男が、俺の名は司戸…と名乗りかけるが、誰も名前なんか聞いてないんだぜ、今、まちを話せば見逃してやると万次は答える。

じゃあ、帰るかって…、帰る訳ないだろ!こんな賞金首前にして!良いから刀捨てろ!と司戸が言うので、万次が刀を捨てると、放してやれ!と司戸はまちを捕まえていた子分に声をかける。

子分がまちを放し、万次の方へ戻ってきかかった時、司戸がいきなりその背後から斬りつける。

まちが倒れると、放してやったぜ、死んじゃったけどな…と司戸が嘲るように言う。

それを合図にするかのように、大勢の敵が一斉に駆け寄って来たので、足下の刀を蹴り上げて掴んだ万次は、てめえら全員、ぶっ殺してやる!と叫ぶと、二刀流で次々に飛びかかって来る敵をなぎ倒して行く。

子分の背中に肩車され、その万次の戦いぶりを眺めていた司戸は、やるじゃないか!と嬉しそうに笑う。

しかし、多勢に無勢、万次は矢を胸に射られ、左手を切断され、次々に斬り苛まれて行くが、何とか倒れず、100人を皆殺しにし、最後の司戸との一騎打ちになる。

さっさと妹に会いに行きやがれ!と司戸は叫んで剣を突いて来るが、万次と相打ちの形になる。

倒れた司戸を残し、万次は死んだまちの元に近づくと、開いていたその目を閉じてやり、まち…、すまねえ…と詫びる。

その時、側に先刻の老婆がいることに気付いた万次は、婆さんよ、悪いがその辺の刀で一思いにやってくれ。

まちは死んじまった。もう生きる意味はねえ。 すると老婆は、これだけの命を奪っておいて、身勝手な奴よのう…と言いながら近づくと、小刀で倒れていた万次の胸を少し斬り割く。

痛ぇ!一思いにって言ったろう!と万次が文句を言うと、わしの名は八百比丘尼…、これはラマ僧が持っていた血仙蟲(けっせんちゅう )と言い、これをお前の身体に住まわせる…と言いながら、何か得体の知れない生き物を傷口に近づけて来る。

万次が悲鳴をあげるその顔が、白黒からカラーへと変わる。

切断されていた左手が万次の身体に繋がる。

タイトル

五十年後… 無天一流道場で、統主、浅野虎厳(勝村政信)が見守る中、一人娘の浅野凛(杉咲花)も剣の稽古をしているので、母親時()は、凛!少しは料理や裁縫も覚えてもらいたいんだけど…と注意する。

親子3人水入らずの夕食時も、がつがつ飯を頬張っている凛の姿に呆れたように、もう少しおしとやかに育って…ささやかな女の幸せを掴んで欲しいと思ったのにと時は愚痴るが、不肖の娘を持ったと思って諦めてください、おかわり!と凛は答える。

その時、道場の方で物音に気付いた虎厳が、刀を手に向かうと、そこには、天津影久(福士蒼汰)率いる剣客集団「逸刀流」の面々が立ちふさがっていた。

貴様ら、何者だ!と虎厳が聞くと、我らは「逸刀流」、流儀格式にこだわらず、勝つことを目指す剣客集団。 目的は国中の流派の敷居を外し、統一すること。 浅野殿、我らの軍門に下るか、我らの仲間になるか…。

既に無天一流は全て殺した。残りはあんただけだ。 我々の心情は1対1で戦うこと。

お望みなら、統主である私がお相手つかまつる…と言いながら、天津が剣を抜く。

虎厳は斬り掛かって行くが、その剣を受けた天津は、軽い…と呟くなり、虎厳を一刀の元、斬り殺す。

剣客の1人が、この2人は?と凛と時のことを聞くと、好きにしろ、ただし、娘の方は構うな、年端もの行かぬいたぶるのは好かぬと天津は吐き捨てる。

その時、凛は、道場に飾ってあった蝦夷由来の宝刀「クトネシリカ」を盗む山嵐のような髪型で顔の下半分を被う黒マスクをした男に気付く。

次の瞬間、兜をかぶった剣客の1人が、マントを凛の頭上にかぶせ、目を閉じろ!耳を塞いでいるのだ。

これから先はそなたの正気の限界になると耳打ちして来る。

凛が気がつくと、既に「逸刀流」の面々は消え去ってあり、後には廊下に血溜まりの中に倒れた父虎厳だけが残されており、母、時の姿はいなくなっていた。

後日、父の墓を詣った凛は、親の仇を討つため、1人剣の稽古を始める。

その時、娘!そこには誰が眠っておる?と聞いて来た老婆がいたので、父上と答えると、母親は何故来ないのじゃと老婆は聞いて来る。

父上が殺されたその日、行方知れずになりましたと凛が答えると、この先どうするつもりじゃ?と老婆は聞く。

奴らを捜して皆殺しにする!と凛が覚悟を語ると、突如奇妙な笑い声を上げた老婆は、娘よ、用心棒を雇え!決してくたばらぬ男が江戸にいる。

その男を捜せ…とその老婆八百比丘尼は凛に告げる。

その後、江戸中を歩き回り、人伝えに、山の中の掘建て小屋にやって来た凛は、本当にこんな所にいるの?と唖然とする。 裏手に回ると、薪割りをしている顔に傷のある男万次がいた。

万次さんですか?と声を掛けると、凛を見た万次は、まち?と一瞬驚く。

掘建て小屋の屋根には風車が刺してあった。 父親の敵討ちを手伝ってください!と凛が頼むと、俺のことを誰に聞いた?と万次が聞くので、八百比丘尼と言うおばあさんからと答えると、あのババア!余計な真似しやがって…と万次は不機嫌になる。

宿敵である逸刀流の居場所は分からないのですが…と凛が依頼を続けようとすると、明るいうちに帰りな、この辺は野伏(のぶせり)が出る。

頼まれたからって、誰でも彼でも斬っていちゃあ、ただの人斬りだ…と万次は言う。

それでも一応話だけは聞こうと万次がすると、凛が、逸刀流の天津を殺し、母を取り戻す!と言うので、その天津ってのが悪で、お前が善って言う訳か?そいつらも剣の達人なら、意味のない殺しなんかしねえだろう?と万次は言う。

それを聞いた凛は、理屈じゃないんです!善も悪も関係ないんです。私、悔しいんです!だって、あんなに大勢で…と言うので、お前、その敵討ちにすべてを投げ出す覚悟があるのか?だったらそれ見せてみろ!そんなに悔しいなら、お前の決意の程を見せてみろって言うんだよ!と万次は迫る。

すると困惑した凛は、だけど…と口ごもったので、どうした?ああ、口だけか…などと万次がからかうので、凛はその場で帯を解こうとするので、勘違いするな!冗談だ、ガキ!と万次は止める。

凛が諦めて帰ろうとすると、おい、待て!野伏が出るって言ったろう?暇だから町まで送って行ってやる。

ついでに人相手に剣の稽古でもするかなどと万次は言い出し、付いて来る。

その後、凛は鎧をかぶった剣客黒衣鯖人(北村一輝)に出会う。

あなたをこの手にし、永遠に私のものになる…、それこそが私の究極の愛なのだ…と凛に迫って来たその剣客の両肩にはこぶのような突起が付いており、その左肩のこぶが、凛!私はここよ…と呼びかけて来る。

マントに包まれたそのこぶは、母、時の頭だった。

それを見た凛は、殺す!お前だけはこの身を鬼に食わしても殺す!と睨みつける。

しびれるねえ!その言葉…とからかうように凛に迫って来た黒衣は、親と娘ほど年の離れた子をどうしようって言うんだ?と背後から声をかけられたので振り向くと、そこには二刀流の万次が現れる。

邪魔するな!私たちの大事な仲を…と黒衣は怒るが、万次が何も言わず近づいて来たので、無視してるんじゃねえ!と叱りつける。

ことには構わず、天津影久ってのはどこにいる?死にたくなかったら教えろ!と万次が聞くと、いきなり黒衣から斬られる。

油断したな…と黒衣は苦笑し、再び凛を触ろうと手を差し伸べるが、その時、薄汚え手で触ってんじぇねえよ!と起き上がった万次に斬られたので、貴様…、あの化け物か…と驚きながら黒衣は倒れる。

死ねるだけてめえは幸せなんだよと万次はうそぶく。

凛は万次の胸の刀傷を見て、万次さん、傷が!と驚くが、虫だ。あのババアに仕込まれた。俺はこいつに生かされている。我が身ながら呆れるぜと万次が秘密を打ち明けると、凛は落ちていた母親時の遺髪を拾い上げ泣き出す。

泣いてる場合じゃねえぞ!仇打ちたけりゃこいつらより強くならないとな。

明日から稽古だと叱りつけた万次だったが、はいと答えた凛がまだ悲しみから逃れていないので、ちっと舌打ちした万次は、凛の前に背中を向けて座ると、俺の背中で良かったら少しの間貸してやるよと言う。

凛は堪り兼ねて万次の背中に抱きつき泣き出す。

その頃、天津の住処を訪れた吐鉤群(田中泯)は、逸刀流の統主ともあろう方がこんな町外れに住んでいるとは…と呆れたように挨拶をしていた。

私の首を狙っているものも多いと聞きますので…と天津が答えると、何故それほどまでして流派を統一なさろうとするのか?と吐は問いかける。

侍は優れた剣士としてだけ認められれば良いのであって、私は流派の垣根を越えることを目指していますと天津が答えると、私の見立てに間違いはなかったと吐は得心したようだった。

公儀御用達の武芸書を作ろうと思っている。

逸刀流をその武芸書の指南としてお招きしたいと吐が申し出ると、こちらにも条件があります。逸刀流を認めるだけではなく、この私を頭取にすることと天津は答える。

それを聞いた吐は、老中のご判断を扇がねばなりませんので一旦預からせてもらいたいと言い、辞去する。

それを階段下で見送っていた真琴に、天津の旦那はいるか?と声をかけて来たのは、山嵐のような髪型で黒いマスクをした凶戴斗(満島真之介)だった。 天津に会った凶戴斗は鯖人がやられたと報告する。

相手は浅野の娘か?と天津は驚くが、横で聞いていた阿葉山宗介(石橋蓮司)が、鯖人は逸刀流の中でも10本の指に入る剣客…滅多なことで打たれるはずがないと驚く。

天津は、逸刀流に取って大事な時だ、みんなに用心するよう伝えてくれと凶戴斗に伝える。

ある日、町の刀鍛冶に大量の万次の剣を研ぐよう依頼しに来た凛は、2~3日預からせてもらうよと受け取った主人が刀を奥に持って行くと、部屋の奥に飾ってあるのが、道場から盗まれた宝刀「クトネシリカ」であることに気付く。

刀が分かるのか?そいつは名刀だぜと言いながら主人が戻って来た時、親父、出来ているか?と店に入って来た客が受け取ったのがその宝刀「クトネシリカ」だった。

ほお…、ここまで仕上げるとは大したものだと主人の腕を褒めて持って帰る若者の顔を見た凛は、あの時、道場から盗んで行った凶戴斗本人だと気付く。

持って行った刀類を全部掘建て小屋に持ち帰って来た凛は、父上の刀を持って行った奴を見つけた!と知れセルと、それを聞いた万次は、今どこにいる!と聞き、正倉寺近くの辺りに…と凛から聞くと、ここで待ってろ!と言い残し、1人で出かけて行く。

林の中で遭遇した凶戴斗から、あんたか?鯖人をやったのは?と聞かれた万次が、だったらどうする?と聞き返すと、誰に頼まれた?浅野の娘か?と問われたので、どうでも良いだろう、どうせてめえも死ぬんだから!と答えると、ふざけるんじゃないよ!と切れた凶戴斗は万次の足を斬りつけ、相手の機動を封じたなら、8割の勝機…と笑い、この辺は俺が生まれ育った場所なんだよ、小さい頃、友達がぬかるみにハマって死んでいたのを見つけたのは、ちょうど今、あんたが立っている場所だ。地の利を得ているのも勝利の鉄則などと言って来る。

その間、万次はぬかるみに足を取られ身動きできなくなっていた。

俺は百姓ので出な…、妹が幼い頃鞠つきしている時、参勤交代に出会ったんだ。

妹の手から逸れた鞠が大名馬の足を乱したと、その場でまっ二つにされてしまったが、百姓には何にも言えねえ…、理不尽な話だよな…と凶戴斗が語るので、万次の脳裏には一瞬、斬り殺されたまちの姿が蘇る。

あんたが侍なら俺の敵だ!これからあんたを雇ったあの娘を殺しに行く!と言い残し、その場を立ち去ろうとした凶戴斗だったが、その足を掴んだ万次は、させるかよ!と言うと、剣で凶戴斗を突き刺し、ぬかるみから身体を引き抜く。

言っとくがな…、お涙頂戴の話はてめえだけじゃねえんだよと倒れた凶戴斗に語りかけた万次は、おい山嵐、てめえ、なんて名だ?と聞く。

凶戴斗…と答え、相手は息絶える。

掘建て小屋に戻って来た万次を見た澪は、嬉しくて思わず抱きついて来る。

しかし、痛がった万次は、離れろ!まだ傷が塞がってないんだ!と叱りながらも、悪いな、少し、汚ししまった…と言いながら、奪い取って来た宝刀を凛に渡す。

万次さん、ありがとう、刀を取り戻してくれて…と凛が礼を言うと、まち…、その顔で俺を見るな?と万次が言うので、まち?と凛が聞き返すと、妹だ…、随分前に死なせてしまったけどな…と万次は教える。

それを聞いた凛は、私に似てたのね…、それで始めてあった時驚いたの?と聞く。

覚えていさえすればとんでもねえ力を出せることがある。また今日も、それで勝ったようなものだ。

だからお前も持っとけ、親父の思い出を…と万次が言い聞かせると、兄ちゃんのバカ!と突如凛が言う。

妹さんに似てるんでしょう?万次さんも泣いてみせてよと凛が迫ると、大体な…、呼び方が違うんだよ。

兄様!と万次は教え聞かす。 凶戴斗までやられた!浅野の娘がとんでもねえ用心棒を雇ってやがった…、不死の剣士だ。

心臓を貫いても、不気味な虫が傷口を塞ぎやがる。

あれは人間じゃねえ、化けもんだ!と逸刀流の面々は騒ぎ出していた。 凛と旅をしていた万次が、団子でも食うか?と茶店に近づいたので話しかけると、凛の様子がおかしいので、懐が寂しいのか?じゃあ麦湯で我慢するよと言い、茶店の前に座ると、凛は裏のはばかりに向かう。

椅子に置かれた地図を見ていた万次は、ふ~ん…良く探してやがる…と感心していると、そこに近づいて来た僧が、主、面白いもの見ておるな?その諸々の丸印は町道場の印…と教えて来たので、俗世に疎い坊主が良く知っているな?と万次は怪しむ。

すると、その僧は、主らの探しているものも知っておるぞ…、天津影久!と言うので、今、主らと言ったな?何故俺が1人じゃないと知ってやがる?と睨みつける。 閑馬永空(市川海老蔵)だ、なあ万次、わしと組まぬか?2人で天津を消す…と誘って来る。

勘違いするな、奴を憎んではおらぬ。あの志には敬服する。

だが所詮は人間、志半ばで倒れるかもしれぬ…。 わし1人、主1人では天津には勝てぬ…と永空が言って来たので、今日は生かしといてやる。俺の蒸すが囁くんだ、御主と組むと危ないとな…と万次は答える。

主とは分かり合えると思ったんだがな…と言い、永空は通り過ぎるかに見せて、急に襲って来たので万次は突き殺す。

はばかりから戻って来た凛が、万次の傷に気付き、万次さん、大丈夫?と声をかけて来る。 かすり傷だ…と万次が答えたので、逸刀流の人?と倒れた永空のことを聞く。

万次は茶店の主人と娘に、悪かったな、騒がしちまって…と詫びるが、その時、娘があっ!と永空の死体の方を見て驚く。

何と永空が立ち上がったからだ。 もう1度言う。主とはもっと理解し合えるはずなのだと永空が話しかけて来たので、お前もあのババアに!と万次は驚愕する。

逸刀流と関わる以前の話だ…、200年程前か?…、今まで5人の女を妻とし、それ以上の友がいたが、全て先立たれた。 先ほどまで白かった永空の髪が黒く変わっていた。 死は無慈悲だ…、だが死ねぬのはそれよりも惨い。

先ほどの話は聞かなかったことにする、考え直せ…と掘建て小屋まで付いて来た永空は迫って来る。

そんな中、万次の様子がおかしくなっており、刀に何か仕掛けやがった…、虫が弱まっている…と言うので、医者を呼んで来る!と凛は立ち上がるが、医者にどうにかできることじゃねえ!と万次は止める。

どうしてそこまで万次さんを…と凛が睨みつけると、わしが必要としているのは、わしと同じ人間だけだからだ。

それともお前もその仲間になるか?と永空は凛に迫り、口を開けさせて、匕首の刃を差し込み、舌を傷つける。

そして、自分の手のひらを傷つけた永空は、啜れ!血を伝って虫を移させると言いながらその傷口を凛に近づける。

すると凛が永空の手のひらの血を嘗めようとしたので、本気にするとはな…、こんな簡単なことで虫が移せるのなら、わしは誰1人殺さずにすんだわ…と言い、永空は刀を抜いて凛に迫る。

その時、壁を突き破って入って来たのが万次だった。 凛に手を触れてみろ!ぶった切って、その後で逸刀流全員殺してやる!と凄むので、それが主の返事か?と永空が聞くと、表出ろ!引導を渡すにはちょうど良い月よ…と万次は呼びかける。

小屋の外に出た万次と永空は斬り合い、凛も匕首・黄金蟲(おうごんちゅう)を永空に投げる。 やがて、永空は組み合った万次から何本もの刃で串刺し状態になる。

なかなか死ねねえものだな…と呟きながら、永空は身体を貫いた何本もの刃を自分で引き抜いて行く。

てめえと共有できるのは結局この痛みだけだ…と万次が言うと、永空はしかたないと言う。

万次は、てめえやっぱり刀に何か仕掛けやがったな!と睨みつけると、血仙蟲(けっせんちゅう )と言い、ちきっと手に入れたんだ。

大量に食らえば、我らとて生きていられないと永空が言うので、死ぬのか?俺たちも?と万次は確認する。

そして万次は永空を滅多斬りにすると、虫に触れんのも愛想付かされたようだな。

何で斬られた?避けようと思えば出来ただろう?と永空に問いかける。 倒れた永空は、主には分かっているはずだ…、もう生きるのに疲れた…と言い残し息絶えてしまう。

の頃、再び天津を訪れた吐鉤群は、天津殿の申し出、御老中が承知したと…伝える。

その後、天津は総主代行の阿葉山宗介に、私は高尾山に出向いて来る。伊羽研水と言うかつて公儀師範を勤めた男が道主に加わりたいと申し出て来た。余命幾ばくもないと悟られたようだ。真の志を持つものは逸刀流しかない。

研水殿は手紙にそう綴られていたと伝えると、これで他の流派も逸刀流に従わねばなるまいと阿葉山も満足げに答える。

しかしその阿葉山、例の百人斬り、このまま手をこまねいていては…と案ずるので、例の奴を使う…と天津は呟く。

その天津は、遊郭の花魁乙橘槇絵(戸田恵梨香)と出会う。

町で酒を飲んでいた万次は、右手の傷がまだ治り切っていないことを気にしていた。

万次さん、傷まだちゃんと塞がってないのねと同行していた凛が案ずると、酒は百薬の長と言うだろ、少し飲ませた方が虫だって陽気に騒ぐってものさなどと受け流していたが、その時、通りから三味線を弾く音が聞こえて来たので、万次は刀を握りしめる。

外に出た万次に、お兄さん、ちょっと遊んで行かない?とその三味線を弾いていた女が声をかけて来たので、こっちは病み上がりでな…と万次が断ると、ほんの一刻付き合っちゃくれませんか?と女がしつこくせがむので、凛、先に戻ってろと万次は言う。

凛は、あんなおばさんのどこが良いんだ?とぼやきながら離れて行く。

家の裏手に入り込んだ万次は、ここなら誰にも見られねえ、楽しもうぜ、姉ちゃん!と声をかける。 すると、女は、申し遅れましたが、私、乙橘槇絵と言う剣客です。

津影久様の邪魔になるあなたを排除に来ました。

仲間を7日に13人も斬殺したとか?万死に値する罪です!と言うので、何かの間違いじゃねえのか?俺がやったのは…と説明しかけた万次だったが、槇絵は紫色の股も露になる派手な着物に早変わりし、三節棍(さんせつこん)風の武器、春翁(はるのおきな)を構える。

万次の方も、刀の柄尻を小刀の柄尻と結合させ、両方の先端に刃が付いた槍のような形状にする。

だが槇絵の技量はずば抜けており、万次は腹を突かれ、その後も相手の姿を見失うと、家の中から腹を貫かれる。

さらに、右手まで切断されて倒れた万次は、どうした?おら!さっさと引導を渡せ!さっきまでのお前なら雑作もないことだろう?と立ちふさがった槇絵に挑発する。 すると槇絵は、戦っているときは忘れているけど、一瞬でも気を抜くと自分のことが怖くてたまらなくなる…と槇絵は動けなくなってしまう。

私の剣は人を不幸にする…などと言っている時、倒れた万次の前に立ちふさがったのは帰ったはずの凛だった。

凛、退け!と万次は叱りつける。 凛さん、あなたの復讐のために、今まで何人死にましたか?自分のしたことを怖いと思いませんか?と槇絵は問いかける。

すつと凛は、墓の前で誓ったんです!どんなに汚いことをしてでもしようと!愛してる人のためなら善も悪も関係ないじゃないですか! 万次さんは今までたくさんの人を斬って来たでしょう。

今は私のために戦っている。だから死なせる訳には行かないんです!と凛は叫ぶ。

すると涙を流し始めた槇絵は、斬れる訳ないわね。あなたみたいな子を…、ずっとその子を守ってあげてくださいねと槇絵は万次と凛に言い残すと、その場を立ち去って行く。

掘建て小屋に戻り、万次の傷の手当をする凛は、やっぱり傷の回復が遅くなっていると気づく。

すると万次は、俺はお前の何だ?用心棒の俺を助けるなんて我慢できねえ!相手を油断させて勝負を賭けるつもりだったんだ。今日みてえなことを今度やったら用心棒を降りる!と怒り出すが、私にはもう、あなたの側にいるしかありません…と凛は答える。

一方、天津は、部屋の外に気配がしたので障子を開けてみると、廊下に槇絵の髪が切って置いてあった。

翌朝小屋で目覚めた凛は、万次がいないので気になって外に出ると、いつものように裏で焚き火をしていた。

そろそろ焼けるぞ、早く顔を洗って来い。今日、ちょっと行く所がある。稽古、1人で出来るな?と万次が言うので、凛ははい!と答える。

その後、万次は、妹まちの墓参りをしていた。 まち…、俺もそろそろそっちへ行くかもしれねえ…と合掌しながら呟いた万次だったが、なんてな…と照れ隠しする。 一方、凛は、朝もやが立ちこめる森の中で1人黙々と剣の稽古をしていた天津影久を見つける。

天津影久!覚悟!と凛が出現すると、死にたいのか、小娘…と天津は軽く返す。 凛は側に置いてあった天津の武器の斧を持ち上げようとするが、重くてとても持てない。

諦めた斧をあっさり肩に担ぎ上げた天津は、お前、浅野の娘か?不死の用心棒はどうした?と聞いて来るので、殺したきゃ、さっさと殺せ!と凛は開き直る。

すると天津は、この斧は祖父のものだ…、異国の剣を使ったと言うだけで祖父は破門された。

俺の祖父とお前の祖父は、共に無天一流の免許皆伝を競い合っていた。

その詮議のため、お前の祖父は4人、俺の祖父は9人斬った。

(回想)しかし、無天一流の師範は実弟隆之の方に免許皆伝を与えることにし、異を唱えた天津の祖父に、お前の剣は資質がないと断じ、南蛮の刀を使うとは…と嘲る。

天津の祖父は、あれはあなたを守るために!と主張するが、門弟たちに取り押さえられ、そのまま道場から追出されてしまう。

(回想明け)祖父は哀れな最期を遂げた…、誰からも惜しまれず…と天津が語り終えたので、どうして私を斬らないの?と凛が問いかけると、私を殺すために付けねらうなど邪道視されるだけだ。

お前はもう同じなのだ、違うと言い切れるか?と天津は逆に問いかけて来る。

小屋に戻って来た万次が、落ち込んでいた凛にどうした?と聞くと、何でもない…と凛は答えるだけだった。

その頃、阿葉山は塒に戻っていた天津に、吐殿が宴を開いてくださるそうだ、逸刀流の全員を集めないと…と相談していた。

さらに、高尾山へのお供はどうする?待ち伏せしとらんとも限らんぞと案ずると、1つ考えがありますと天津は答える。

そんな2人の会話を、部屋の外から真琴がじっと聞いていた。

ある日、町に出向いた万次は、背中に「危」と大きな文字が入った着物を着た逸刀流の男を発見、後を尾行する。

すると、何さっきから金魚のフンみてえに付いて来るんだ!と件の男が振り向いた先にいたのは見知らぬ男女3人組だった。

てめえが百人斬りか?仲間の無念晴らさせてもらうぜ!と背中に「危」の文字を背負った剣客が言う。

えぐい殺し方するな?と、その後、男女3人組の塒に付いて来た万次が言うと、彼ら3人は「無骸流」(むがいりゅう)の尸良(市原隼人)、偽一(北代高士)と百琳(栗山千明)!と自己紹介すると、逸刀流が共通の敵であると言う事は交渉成立ですねと凛も彼らを受け入れる。

これ飲んでごらん?と百琳が自ら毒味して渡した酒を口に含んだ万次は、良い酒飲んでるじゃねえか?と感心する。

天津が女装して高尾山に向かったらしいと聞いた万次は、内通者がいるって訳か…と事情を察すると、万次と尸良、偽一と百琳がそれぞれ組んで二手に別れる計画を偽一が立てる。

尸良と高尾への街道を張っていた万次は、斧らしきものを持った女を見つけるが、尸良、怪しいと思わないか?話が巧すぎると思わねえか?と忠告するが、尸良は構わず、じゃあ、あの女で試してみようぜ!と言うなり、いきなり笠をかぶったその女を襲撃する。

額に傷を負って倒れたのは女で、酷い!顔は売り物なのに!と睨んで来るが、斧に見えたのは木彫りの偽物だったので、凝った真似しやがって!ふざけんじゃねえ!と尸良は切れる。

俺をおびき寄せるために、内通者が偽の情報を流したのか…と万次が気付くと、その内通者である真琴も路傍の岩の上に現れる。

30両の仕事が3両にしかならないじゃねえか!と逆上した尸良は真琴の右足を切断してしまう。 倒れた女にさらに覆い被さろうとする尸良に、この人は逸刀流とは関係ない!と凛が止めようとする。

すると頭に血が上った尸良は、俺はガキに指図されるのが一番むかつくんだ!と凛に怒鳴りつける。

凛はがっかりしたように力を抜くと、待て!尸良!と呼びかけた、あんたは一緒だ、私が恨んでいる連中と!と嘲る。

台無しなんだよ、後ろで騒がれていると!となおも女に股がっていた尸良が、剣を振り上げて凛を斬ろうとしたとき、どこからともなく鎖が飛んで来て、尸良の右手を切断してしまう。

ああ〜…、当たっちまったか?悪い、悪い、気にするなと呼びかけて来たのは、鎖の先に剣が付いた武器を投げた万次だった。

右手を失った尸良は、万次!てめえ!と睨みつけながらもその場から立ち去って行く。

凛に近づいた万次は、あんな頭のいかれた奴と喧嘩するバカがいるか!と言いながら、凛の傷を手当てしてやる。

私ももうダメだと思った…、万次さんみたいだったら良かったのに…などと凛が言うので、言っとくけどな、俺は好き好んでこんな身体になったんじゃねえ!と叱りつける。

俺は旗本に言われるまま、ある役人を殺した…と万次は打ち明け始める。

私腹を肥やしてた民百姓を困らせている奴だと聞いたからだ。

ところがそれは真っ赤な嘘で、その旗本こそが私腹を肥やしている張本人で、役人はそれを御上に知らせようとしている奴だった。

俺はそれを知り旗本を斬った…。 警護の同心共々な…、その中の1人がまちの旦那だった。 そのせいでまちは気が触れちまった。

俺はまちを守るために何人もの追っ手を殺した。

まちは糞みてえな賞金稼ぎに殺された。

次は俺の番だと思っていたら、あの八百比丘尼のババアが何でか知らねえが俺をこんな身体にしてしまって… 全くこんな身体になって剣の腕が鈍ってしようがねえやと万次はぼやく。

その後、町の薬屋で凛のための薬を飼う万次を偽一と百琳が付けていた。

その頃、凛は掘建て小屋を出て行く。

付けて来た来た偽一と百琳に気付いた万次が、何だ、お前ら?と聞くと、尸良はどこにいる?と聞いて来たので、てめえらと手を組む話はご破算だ!お前ら金目的だろう?雑魚1人1両くらいか?そんなことが出来るのは公儀だけだ、そりゃ、旨え酒が飲める訳だと皮肉ると、俺たちも咎人だ、言う通りにしないと殺されると偽一が言い訳する。

公儀は逸刀流などお抱えにするつもりはねえ。

凛の仇討ちだって放っときゃ終わるに違いねえ…と万次が言うので、なら、あんたは何故?とと百琳が聞くと、関係ねえよとはぐらかす。

小屋に戻って来たと万次は、凛がいなくなっており置き手紙が残されていることに気付く。

万次さん、勝手にいなくなってごめんなさい。こっから先は私1人でやってみます。

正直今の私では勝てないと思いますが、これ以上甘えていてはいられない。

万次さんは死なないと思っているんじゃなく、逸刀流と戦っていたらいつか死ねると思っているんじゃないですか? 私は万次さんを死なせたくない。 そう考えた時、これ以上一緒にいられないと思ったのです。

万次さん、今までありがとう。さようなら…と書かれてあった。 万次は小屋を飛び出すと、雨の中凛の後を追い始める。

その頃。単身で高尾山にやって来た天津は、伊羽研水(山崎努)と対面する。

お申し出の件、引き受けさせていただきますと天津が切り出すと、申し訳ないが、あの話は水に流してくれと伊羽が言うので、理由は何です?話しては頂けませんか?と天津は驚いて聞くが、伊羽は何も答えようとしない。

屋敷を出た天津は、待ち構えていた公儀の者たちに囲まれてしまう。

調子に乗り過ぎたな…、公儀は御主たちを敵と決めたと言う。

その頃、屋敷内では、利用されただけの伊羽研水が自ら割腹していた。

一方、阿葉山ら他の逸刀流一同は、吐鉤群が開いた宴の席で飲み食いしていた。 その頃、右腕を失い白髪になっていた尸良は、万次よ…、思いついたぜ…、この腕と髪の毛の償い、どう払わせるか…とうそぶいていた。

宴の席にいた逸刀流一同は毒を飲まされ死んでいた。 そこに偽一がやって来て確認する。 公儀の一団から逃れていた天津は、山道で近づいて来た凛と遭遇する。

凛は突然宿敵と遭遇し緊張するが、天津は巻き添えを食うぞ!逃げろ!と叫ぶ

逸刀流は今日から公儀お抱えではなくなった!と天津が教えると、追いついて来た公儀の人間が、逸刀流は皆殺しになった!そなはもここで終わりだ!と呼びかけて来る。

その頃、凛を追っていた万次は、山道で待ち伏せていた逸刀流の3人に襲撃される。

逸刀流は1対1だったんじゃないのか?と万次は嘲るが、左手を鎖の先の刃物で貫かれ、そのまま道ばたの斜面に引き上げられる。

万次は自ら左手を切断すると、3人を次々に斬って行く。

最後の1人が立ち上がって迫って来る中、剣を落とした万次はなかなか傷口が塞がず動かない右手を見ながら、何やってんだよ!さっさと働け!と虫に呼びかける。

その時、万次は、何故生きようとする?と木の陰から声をかけて来た八百比丘尼に気付く。

そのままじっとしていればお前の願いは叶うと言うのに、永遠の命を捨ててどうする? 結局あの娘の命がの方が大事と言うことか?優しさを捨てきれず、むざむざ不死をさまようとは…と八百比丘尼は嘲る。

その時、何とか右手が繋がり、手が動くようになったので側に落ちていた刀を掴み、斬り掛かって来た最後の1人を斬り殺す。

危ねえ!待ってろ凛!とその場を立ち去りかけた万次だったが、左手を残していたことに気付き、斜面の上で鎖の先に貫かれていた左手を回収しながら、面倒臭えな…とぼやく。

公儀の追っ手に囲まれた天津と凛は、逸刀流は壊滅した。貴様も統主なら埃ある死を選べ!と馬でやって来た吐から声をかけられていた。

しかし天津は、例え同士は失っても我らの志は滅びはしない!と答える。

凛も、待て!それでも侍か!相手は立った1人じゃないか!殺したくて殺しようがあるんじゃないのか!と叫び、天津!あんたも1人で何でも出来るような顔するんじゃないよ!と天津にも怒鳴りつける。

吐が、その女を黙らせろ!と命じた時、どこからともなく手裏剣が飛んで来る。

側の小屋の屋根の上に立ったのは追いついた万次だった。

地上に降り立った万次は、退けよ、おめえたち!と公儀の面々に呼びかけると、勝手に勘違いしやがって!雇い主が用心棒の気を使ってどうする?くたばりゃしねえよ!お前の仇討ちをさせるまでは…と凛に話しかける。

何故お前が仇をかばってるんだ?と聞くと、凛はかばっている訳じゃないと言うので、面倒くせえな、だったら俺は誰を斬りゃ良い?と万次は問いかける。

しばし考えた凛は、私のことを斬ろうとする人!と答えたので、それで良いんだよと納得した万次は、俺にとっちゃ逸刀流も公儀も関係ねえんだよと刀を抜く。

斬れ!奴を始末しろ!と吐は命じ、向かって来た公儀の追手相手に万次と天津は戦い始める。

そんな中、髪を切った乙橘槇絵も現れ、天津を守るために弓矢隊相手に戦う。

そんな中、戦いを見物しながら、吐は握り飯を食い始める。

凛も匕首、黄金蟲(おうごんちゅう)で敵を倒そうとするが、匕首の一部が万次の背中に刺さってしまったので、驚いて振り向いた万次は、痛!いつまでも上達しねえな!と文句を言う。

小屋の中に凛を連れ込んだ万次は、二階へ上がらせ、窓から一緒に外に飛び出する。離れるんじゃねえ!と凛に呼びかける。


握り飯を食い終えた吐が小屋の屋根の上に立ち上がる。 地上の公儀の追っ手はほとんど倒した天津と乙橘だったが、火薬?と気付いた乙橘は、屋根の上にいる鉄砲隊に立ち向かって行く。

しかし鉄砲隊に撃たれた乙橘は、最後の力を振り絞り、鉄砲隊全員を始末した後、屋根から落下する。

天津影久!哀れな男よの〜…、ならず者に武芸所の師範をやらせると思うか?と苦笑しながら吐鉤群が天津に近づいて来る。

尸良!と山の中に逃げ込んだ尸良を追いつめた万次だったが、それ以上近づくんじゃねえ!と尸良が制止する。

凛は小屋の壁に縛り付けられていた。

てめえのお陰で良いもんが手に入ったぜ!と言いながら、尸良は失った右手の代わりに付けたフォークのような義手を凛に突きつけ、持ってる武器捨てろ!と命じる。

またかよ…と呟いた万次は、持っていた刀類を全部側の井戸の中に捨てて行く。

全部武器を捨てたと見た尸良は、バカか?その目をひんむいてこのガキの死に様を見ろ!と叫び、凛を刺し殺そうとするが、一瞬早く、万次が投げていた手裏剣で捕縛を切られた凛は、万次の元へと駆け寄っていた。

おい、来いよ!と呼び寄せた万次に飛びかかって行った尸良だったが、組み付いてその首を絞めた万次は、丸腰でも人は殺せるんだよ!と言いながら2人は山の斜面を転がって行く。

先に滑り落ちた尸良は崖から落ちかけ、蔦にしがみつくが、途中で踏みとどまり、隠し持っていた刀を持って立った万次は、尸良!おめえの負けだ!と呼びかける。

尸良は、ふざけんな!例えここから落ちたって、必ず這い上がって、てめえの首、搔き切ってやるぞ!と喚き返すので、万次はその場で蔦を斬る。 崖を落下した尸良は途中の岩にぶつかって血しぶきを上げる。

一方、天津と1対1の勝負をしていた吐は、身体を腹でまっ二つに切断され、上半身だけで刀を掴もうとしていたがそこで息絶える。

そこに凛と共に戻って来た万次に気付いた天津は、百人斬り!お前のお陰で生き残ってしまったぞと恨みがましく言う。

万次は、あの姉ちゃんにも感謝しろよと、死んだ乙橘槇絵の方を見て言う。

私は逃げぬと天津が言うので、良いじゃねえか、悪党らしくて…、でも言っとくがよ、これ以上お前の背中を見送る気なねえぞ、天津影久!と万次は呼びかける。

それを聞いた天津は、そうか…、ならば後腐れないように、いっそお前を殺して行くか…と向かって来る。

凛!近づくんじゃねえぞ!と凛を遠ざけた万次だったが、その左手からは血が滴り落ちていた。

天津と斬り合い、倒れた相手の首筋を斬ろうとした万次だったが、万次はその刀を凛の方に差し出す。

遠くから勝負を見ていた凛は、万次の意図に気付くと駆け寄って来てその刀を握り、天津にとどめを刺そうとするが、できなかった。 立ち上がった天津は、聞け、ねんね…、何十年かかろうとも私の志は実現する。

私がいなくても、私の子らがこの国に武の恐怖を蘇らせる…と言い残し、斧を持って立ち去ろうとする。

その言葉を聞いた凛は逆上し、天津影久!と呼びかけながら後を追いかけて斬ろうとするが、天津の意図を悟った万次は、舌打ちをしてその後を追う。

天津は斧を凛の方へ打ち下ろして来るが、それを受けたのは駆けつけた万次だった。

万次が自らの身体で斧を押さえていると気づいた凛は、天津にとどめの刃を貫く。

百人斬り…、待っているぞ、お前も早く来い…と言いながら倒れる。 何が何でも、こいつを先に行かせることなどいかねえんだよと万次が答える中、天津は息絶える。

凛が万次に抱きつくと、力尽きたように万次は倒れる。

万次さん!と泣き出す凛。 万次さんの嘘つき!私より先に死なないって言ったじゃない!嘘つき! ごめんね、お兄ちゃん!と凛が倒れた万次にすがりつくと、そこは…、兄様だろう、バカ…と呟いた万次がゆっくり目を開ける。
 


 

 

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