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雲の剣風の剣

近衛十四郎、松方弘樹親子競演の伝奇時代劇。

後の人気テレビ時代劇「素浪人月影兵庫(後の花山大吉)」(1965)で主役を演じた近衛十四郎の相方的存在、焼津の半次こと品川隆二も登場しているのも嬉しいが、残念ながら両者が同じ場面に登場することはない。

冒頭から富士山が今にも噴火しそうな天変地異の前触れのようなシーンから始まるので、その後の展開に胸が躍るが、話が始まると案外単調な道中ものになっており、ちょっと拍子抜けさせられる。

添え物で案外低予算で作られているのか、テレビのスペシャル時代劇を見ているような雰囲気に近い。

近衛十四郎さんや息子の松方弘樹さんのチャンバラが楽しめるシーンはあるが、役人達が噂が広がるのを避けるため、意図的に捜査を控えていると言う設定になっているので、大掛かりな立ち回りはなく、意外とこじんまりとした展開になっている。

陽炎小僧こと己之吉役の山城新伍さんも、前半の進行係にはなっているが、目明かしの明鴉の仙蔵役原健策さんと同じく、後半になると活躍の場は失われる。

山城さんの肥満が既に始まっていることから、 松方さんと共演した「伊賀の影丸」(1963)とほぼ同時期の作品であることが分かる。

己之吉の子分、油蝉の十吉役の星十郎さんなど途中で姿を消してしまっている。

女優陣もあまり目立っておらず、途中から登場する山娘のわらび役三島ゆり子さんがちょっと活躍する程度で、おしの役の富永佳代子さんもおゆう役の桜町弘子さんもあまり見せ場がない。

では、主演の近衛十四郎さんや美剣士役の松方弘樹さんの見せ場はたっぷりかと言うと、こちらもW主演のような印象があるためか、若干物足りなさを感じなくもないが、ラストの親子競演シーンは貴重だと思う。

剣の道になぞらえ、新人役者に言い聞かせる先輩役者の言葉と言う風にも聞こえる所が微笑ましい。

作品としてはやや凡庸かもしれないが、近衛十四郎、松方弘樹、品川隆二、山城新伍辺りのファンにとっては懐かしい作品だと思う。
▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼
1963年、東映、北山信治郎原案 、結束信二脚本、河野寿一監督作品。

宝永4年 富士山は大爆発を起こした。

その後、富士は日本の象徴としてそびえて来たが、これはその大噴火の直前の江戸中期の物語である。(とナレーション)

江戸の町には地鳴りが起こり、空には怪しげな雲が迫り、町民達は、一体どうしたの?気味が悪い…、津波でも来るんじゃないかしら…などと口々に不安を言い合っていた。

料亭で芸者達を侍らせて飲んでいた旗本などは、津波が貧乏人を流してくれたら江戸もさっぱりするぞなどと悪態をついていた。

そんな中、芝増上寺山内 神君家康の御霊屋の見張りをしていた3人の侍達も、どうも嫌な感じだな…、津波が来ると言う年寄りもいるが?昔から年寄りは見て来たような嘘を言うから…などと雑談を交わしていた。

その時、 御霊屋から宝剣を手に出て来た浪人がいたので、御宝剣を盗んだな!斬るぞ!と見張りは気色ばむが、万一御主達が俺に勝てても、この剣には勝てぬぞ!と叫んだ浪人は、あっという間に3人の見張りを斬り殺してしまう。

その直後、その浪人牟礼大蔵(近衛十四郎)は、近くの松の背後に身を隠して見ていた町人に気付き、貴様、見ていたな!と睨みつけるが、その町人己之吉(山城新伍)が、怯える風でもなく、いいえ…と答えたので、ただのネズミじゃないな!と牟礼は見抜く。

旦那、恐れ入りましたね…、東照神君の御霊屋から盗むなんて…と己之吉が話しかけると、いい加減に失せろ!さもないと…と大蔵は言い残し、その場を去っていくが、残った己之吉は、冗談言うねえ!このまま引っ込んでたまるもんか!と呟く。

御霊屋から宝剣が盗まれたことを知った老中安藤対馬(香川良介)らは驚愕し、寺社奉行や町奉行を集め善後策を検討し始めるが、前代未聞の不祥事が世間に知れたら我ら一同ただではすまない、とりあえず口封じも兼ね、御霊屋に関わる役人を全員捕えていらぬ噂が世間に流れるのを防ぐことじゃと言い渡した対馬は、万一と言うこともある、皆、腹を斬る作法くらいは知っていようの?とその場に集まった役人達に念を押す。

役人達が帰った後、庭先にまかり出た公儀隠密服部寅次郎(品川隆二)に、刀身に雲と風が描かれた、元々富士の浅間神社に納められていた「天地正大の剣」と言う宝剣を代々幕府の宝剣としてきたがそれが盗まれた。

ただし手がかりも一切なければ、世間に目立たぬように手配もしないが必ず奪い返さねばならぬ。寅次郎、良いな!と無茶な指示を出す。

三日後、とある女郎屋に泊まっていた大蔵は盗んで来た「天地正大の剣」を抜いて、じっと見つめていた。

その隣に居座っていたのが己之吉で、そこに子分の油蝉の十吉(星十郎)がやって来て、兄貴、隣のさんぴん変わりませんか?と聞くと、役人はちっとも動いていない。

増上寺の御霊屋から刀を盗んだのなら、江戸中がひっくり返るような騒ぎをするはずなんだがな〜?だと不思議がる。

すると己之吉は、役人にも体面があるだろう、下手をしたら、町奉行、寺社奉行全員切腹だぜ。

だからこうして3日も女郎屋で待ってるのさと答える。

いっそのこと御上に訴えたら?と十吉が提案すると、おれたちは盗人だろ?盗人が盗人訴えるなんて聞いたことがない。

今にあのさんぴんから刀盗んで、御上の屋敷の軒下にぶら下げとくのさなどと己之吉は夢を語る。

隣のさんぴん、いつまでいるんでしょうね?と十吉が聞くので、役人の動きを張っているんだろうと己之吉が言っている所へ、そのさんぴんこと大蔵がやって来て、いつまでつきまとう?ただではおかんぞ!貴様、役人にも届けない所を見ると何の真似だ?と聞いて来る。

あっしも陽炎小僧と言われている男だ、いずれその内、頂きますよと己之吉は答えると、もの好きな男だ!と大蔵は呆れる。

これだけの良い男だから泣く子もたくさんいますなどと己之吉が冗談で返すと、では泣かさんことだなと言い残し、大蔵は部屋から出て行く。

大蔵が女郎やから出ると知った己之吉は、野郎の面知ってる奴は誰もいないんだと言いながら、自分もその後を追っていくが、十吉には、金払っときな!と言い残し、宿泊代を払わせる。

その後、六郷の渡しの側に来た大蔵が、船に乗ろうともせず外で寝ているので、後を付けて来た己之吉と十吉もその場を動きかねていた。

その時、己之吉に声をかけ来たのは、馴染みの目明かし明鴉の仙蔵(原健策)の娘おしの(富永佳代子)だったので、驚いた己之吉に挨拶する。

俺とお前が会ってるようじゃ、ろくなことはないからな…と皮肉を言いながらも、どちらへ?と己之吉から聞かれた仙蔵は、女連れだから、足の向くまま気の向くままさなどとごまかしながら、おめえ達こそどこに行くんだ?と逆に聞く。

己之吉も、ちょいと近くまで野暮用で…とごまかす。

その時、兄さん、船着きましたよとおしのが教えるが、あっしらは人を待っているんだと己之吉は答え、千蔵とおしのとその場で別れる。

捕物名人明鴉の仙蔵と会うとは…と己之吉は驚いていたが、十吉が、さんぴん起きましてぜと言う。

目を覚ました大蔵は、今の男、目明かしだな?あの男の身のこなしは何十年も獲物を狙って来た猟犬だ、わしが分からんでもこの剣が分かると己之吉に話しかけると、側にあった茶店に向かうと酒をくれと注文する。

その後、神奈川の旅籠に泊まった大蔵の隣の部屋に陣取った己之吉と十吉は、夕飯に出された蛸を見て、神奈川は蛸が名物か?隣の浪人も蛸を食ってるのか?と女中に聞き、隣の浪人が夜中に出発したら教えてくれと頼む。

その時、女中が、又地鳴りが!こんな海辺の近くだし、津波が来るんじゃ…と怯える。 この頃、御上のすることでろくなことはない。

どれもこれも貧乏人を苦しめることばかり。

その頃、別の宿に泊まっていた仙蔵は、地鳴りが世直しの戒めに聞こえてならねえ…、おしの、どうやらお前に手伝って貰いてえことが出来たようだと娘に話しかけていた。 大蔵は、その日も部屋で1人、天地正大の剣を抜いて見ていた。

翌日、大蔵は街道を進んでいたが、その後を尾行していた己之吉と十蔵は、あの野郎、又茶店に入るぜと呆れていた。

その時、背後から声をかけて来たのが仙蔵だったので、己之吉は驚き、おしのさんは?と聞く。

しかし仙蔵はそれには答えず、ちょっと付き合ってくれ、己之吉、お前には随分世話したもんだぜ、そこで一休みしようじゃないかなどと言い、己之吉を近くに呼び出すと、おめえ、あの浪人を付けているんだな?と聞いて来る。

六郷の渡しで見たときから、その格好では旅支度する暇もなく追って来たんだと分かっていたんだ。

あの浪人の何を目星付けてるんだ?命や身体じゃあるめえ、刀か?と聞くと、御上の御法に触れるような事はしないと己之吉が言うので、陽炎小僧が衣装一度のお願いか?とからかった仙蔵は、おっと、浪人ものが茶店を出て行くぜ、そろそろ本心現して来るぜ、今夜は藤沢だろう。

その格好じゃ金ないだろう?と言いながら小銭を渡す。

その金を受け取った己之吉は、遠慮なく!お先に!と挨拶し、再び十吉と大蔵の後を付け始める。

その後 藤沢宿にやって来た2人だったが、兄貴、藤沢素通りですぜ!と十郎が大蔵の行動に驚く。

小田原まですっ飛ぶ気だな…と己之吉は推測する。

そんな藤沢宿の旅籠に泊まっていたおしのが下にやって来た隠密らしき男に合図を送る。 やがて、十吉が、もう一歩も歩けねえ!と腰を抜かしてので、後から必ず来るんだ、小田原の町外れで会おう!と声をかけ、己之吉1人で大蔵の後を追うことにするが、そんな2人を追い抜いて先を行く旅人が数人いたので、夜道を急ぐ旅人がいるものだな…と己之吉は驚く。

小田原宿 「もみじ屋」と言う旅籠にやって来た大蔵を見た牟礼幽玄斎(明石潮)はおお大蔵!と喜び、大蔵の方も、父上、ただ今帰りました!と挨拶する。 首尾は?と聞いた幽玄斎に、天地正大の剣でございます!と大蔵は持参した宝剣を差し出して見せる。

刀身を抜いて、中に彫られた風と雲の文様を確認した幽玄斎は、でかした大蔵!まさしく天地正大の剣だ!良く引き上げてくれた、礼を言うぞと感謝する。

大造様!と幽玄斎の側から声をかけたおゆう(桜町弘子)に、おゆう、そちらこそ大変だったろう、お年をめした父を連れて山を下りて来て…とねぎらった大蔵は、家康の御霊屋から追うて来るものはなかったか?と幽玄斎が聞いて来たので、小僧と目明かしらしい男が私を追っておりますと答える。

それを聞いた幽玄斎は、目明かし風情が単身で来るとは…と意外そうに言うので、女が目明かしの手足になって動いているものと思われますと大蔵は答える。

そんな「もみじ屋」の側には、服部寅次郎と隠密衆が集結していた。

「もみじ屋」の2階の窓からその姿を見た大蔵は、まさしく6人!公儀隠密の一党と思われます。

ここは私が斬り割きます!と言い残し、部屋を出て行くと、宿の前に姿を見せると、闇を斬り割いて手裏剣が飛んで来る。

相手は公儀の隠密だ、おゆう、急ごう!と立ち上がった幽玄斎は天地正大の剣を手に部屋を出ようとするが、廊下の隅に隠れていた己之吉がその剣を奪おうとすると、盗賊ごときが手を掛ける剣ではない!と一喝し、走れ!とおゆうに剣を託して命じる。

仙造と己之吉はその様子を見ていたが、もう1人の若い泊まり客浅間寛四郎(松方弘樹)も二階から騒動を眺めていた。

外に飛び出し、近くの森の中に逃げ込んだおゆうだったが、後を追って来た服部寅次郎が鎖鎌を宝剣に絡め、その刀、神妙に引き渡されよ!と命じる。

すると、おゆうは宝剣を目の前の崖の下に投げ捨ててしまったので、驚いた服部は自ら崖を飛び降りる。

そこに駆けつけて来たのが、「もみじ屋」の二階から様子を見ていた若侍浅間寛四郎で、その場にいたおゆうに、同宿していた者だが、事情ある刀と見たと声をかけて来る。

おゆうは浅間寛四郎を味方と判断し、お願いでございます、あれを取り戻してください。富士の浅間神社に納めし天地正大の剣でございますと教える。 それを聞いた浅間は、あれが伝え聞く天地正大の剣か!と驚く。

その頃、隠密達を蹴散らし「もみじ屋」に戻って来た大蔵は、隠密達に斬られた父幽玄斎の死体と対面する。 店の主人が、お役人様にお届けしましょうか?と聞いて来るが、無駄だ…と断る。

そこにおゆうが戻って来たので、刀はどうした?と聞くと、お許しください、谷へ投げ込んでしまいました!と詫びたお優は泣き出してしまう。

驚いた大蔵は、どこの谷へ投げ込んだのだ?と聞く。 翌日、谷底の河原を全身傷だらけでぼろぼろの状態になった服部が、宝剣の在処を求めてさまよっていた。

天地正大の剣は、木の枝にぶら下がっていたが、服部はそれに気付かない。 同じ河原に、浅間も来て探していた。

仙造と共に河原に来ていた己之吉は、こんな谷底で剣を探すのには半年はかかりますぜとぼやいていた。

仙蔵は、服部様が飛び込んだそうだぜと教えると、5〜60条はありますぜ、御城下で人を集めて山狩りをすれば?と提案するが、御上がそんな後手を踏まんだろう。

自分らが可愛いからなと仙蔵は吐き捨てるように答える。

その時、倒れていた服部を発見した仙蔵は、服部様!と呼びかけ抱き起こすが、刀は見つかったか?手分けして探すのだと服部は命じる。

その頃、山に弓を持って猟に来ていた山女のわらび(三島ゆり子)が、気にぶら下がっていた宝刀を発見し、誰が落としていったんだろう?きれい!貰っとこ!と言うと持ち去る。

その近くに浅間が近づいて来る。 お優を連れた大蔵もまた、近くに探しに来ていた。

わらびは山奥にある天然の露天風呂にやって来ると、服を脱いで湯につかる。

そこに近づいて来たのが風魔衆で、女だ!と気付くと素早く近づき、わらびを襲おうとする。

その時、待て!恥を知れ!と呼びかけながら駆けつけたのが浅間寛四郎で、風魔衆を斬って追い払うと、もう大丈夫だと服を着たわらびに声をかける。

すみませんと礼を言ったわらびは、里のものか?今のは?と聞いて来た浅間に、富士の裾野に住む風魔の一族ですと教える。

そんなわらびは、早く行くが良いと声をかけた浅間に、これ上げますと持っていた山鳥を差し出すが、せっかく穫った獲物だろう、帰るが良いと遠慮する。

じゃあ、拾った剣を…と言いながら、気に駆けておいた宝剣を取ろうとしたわらびだったが、剣がなくなっている事に気付き、ここに置いておいたのに…と不思議がる。

それを聞いた浅間は、1人逃げた…と、斬り損なった風魔のことを思い出す。

塒に戻って来た仲間からその宝剣を受け取った弥藤太(楠本健二)は、凄い!凄い刀だ!」これからはこの刀を富士の風魔の守り刀にする!と仲間達に宣言する。

その頃、浅間は、1人で行って取り戻して来る。俺は乱波ものの一族に負けるような男ではないとわらびに言い聞かせ出立しようとしていたが、わらびは、近道を教えてあげると言って付いて来る。

仙蔵と己之吉は傷ついた服部を抱えて山道を進んでいた。 おゆうを連れた大蔵は、温泉の側で風魔の死体を見つけ、風魔の一族だ!誰かが風魔を斬って、刀を奪ったのだと推測する。

御主、若い剣士に頼んだと言ったな?とおゆうに紀伊多大蔵は、死体を観察し、見事な切り口だ、一流の道に通じた者の仕業だと断定する。

同行していたわらびに名乗った浅間寛四郎に、富士浅間流ね!古い道場があるもの!とわらびが嬉しそうに答えると、俺の富士浅間流は別だ!と浅間は吐き捨てるように言う。

一方、大蔵はおゆうに、おゆう、その方はもう良い、もう女の足ではこれ以上無理だ。元々父の看護のため里から来てもらっていたのだ。

役目はすんだ…、おゆう、里へ帰ってくれと言い聞かせていたが、あの刀があなたの手元へ…、富士へ戻るまで戻りませんとおゆうは答える。

今は封魔の手にあるんだぞ、例え奇人のような連中であっても、亡き父のために…、富士の御山のために…、風魔から取り戻してみせる!と大蔵は誓う。

その頃、風魔の塒に戻って来た頭領の風魔蚊竜斎(戸上城太郎)は、血の匂いが立ちこめる気がする…と、宝剣の刀身を眺め、表裏に雲と風が描いてある。

天地正大の刀だ!と喜んでいた。 江戸の安藤対馬守の屋敷に来ていた奉行の土田甲斐守(矢奈木邦二郎)と大倉備後守(那須伸太朗)は、あまりの重圧に耐えかね、お役御免を!と願い出ていた。

牢屋に監禁した10数人の役人もいつまで隠し通せるとお思いです!と奉行達に迫られた対馬守は苦悩する。

一方、服部寅次郎をあばら屋に寝かせた仙蔵は、服部様、こうなったらはっきり申し上げます。破傷風です!と告げ、側に付き添っていた己之吉も、やっぱりご無理過ぎましたと気の毒がる。

剣が風魔一族に取られた以上、宿場で養生をなさってください。

あんな妹でも役に立つはずですと仙蔵は言い聞かそうとするが、そうはいかん!そなたに刀のことを打ち明けたのも何としても奪い返すため。

この刀を焼いて、足を斬ってくれ。例え片足を失っても、手が動く限り剣を取り戻すことは出来る!仙蔵、やってくれ!と服部は言い張る。

しかし、仙蔵が動こうとしないので、ならば俺がやる、己之吉!太い木の枝を探して来てくれ、足に縛り付けるのだ!早く行け!と服部は命じる。

満月が雲に隠れる。

山中で浅間とともに野宿をしていたわらびは、火を絶やすと狼が来る。何百、何千と来るからお終いさと教えていた。

余が開けたら風魔の所まですぐだと言うわらびに、言えで心配しているぞと浅間が案ずると、お父もお母も死んでしまった…とわらびが言うので、俺も父も母もない、1人だと浅間は教える。

お侍さん、どうしてあの刀が欲しいの?とわらびが聞くと、俺は日本一の剣客になろうと思っている。

俺は世間には知られていない貧しい剣客だ。

誰にも負けないように剣の修業をしたが、俺はどこにも相手にされない。

だから日本一の剣客になってやろうと思った。 その時、天地正大の剣を知った。

俺はその剣を持って、この俺が日本一の浅間浅間流の剣客だ!と叫びたいんだ、分かるか!子供みたいに思うかもしれないな…と浅間が言うので、お侍さん、良い夢だよ。あたいだって夢は見るさとわらびは嬉しそうに答え、さ、早く寝なさいよと浅間に進める。

お前が休めと浅間が言うと、あたいは平気だよ、山歩きは慣れているもん…とわらびは笑顔で答える。

その頃、大蔵とおゆうも野宿をして眠り込んでいたが、焚き火の火が消えかけていたので、狼の群れが近づいていた。 それに気付いた大蔵が、おゆう、起きろ!火を燃やせ!狼だ!と呼びかける。 暗闇に無数の狼の光る目が迫っていた。

おゆうは慌てて火を点けようとする。 もっと燃やせ!と狼を凝視しながら大蔵が叫ぶ。 何とか焚き火が大きく燃え上がったので、狼達は去って行く。

もう大丈夫だ、助かったぞ…、危うく軍狼の衛士気になる所だったと安堵した大蔵は、もう休め、おゆう、付いて来るんだな?どこまでも…と再度確認する。 はい…とおゆうは答える。

朝 風魔の塒の前にいた見張りは、見慣れぬ娘おゆうの姿を見てちょっかいを出そうと近づいて来て、隠れていた大蔵の当て身を食らう。

塒に近づいた大蔵は、出て来た弥藤太たちから、大蔵、何か用か!と聞かれたので、蚊竜斎に会いたいと申し出ると、御山に行った!浅間神社に宝刀を奉納に行ったんだ!と言うではないか。

慌てて後を追おうとした大像に、風魔一族が襲いかかって来て斬り合いになる。

そこに浅間寛四郎も駆けつけて来て加勢に加わる。

その腕を見た大蔵は、御主なかなかやるな!と褒めると、浅間は、貴殿は?と不思議がる。

その時、おゆうが、この方にお願いしたのですと大蔵に伝えたので、お力添えかたじけない!と大蔵は礼を言う。

しかし浅間は、確かにその女から頼まれたが、慌てるな、刀は俺が貰う!と言い出し、弓を引いたわらびも、あたいが拾った刀をこのお侍にやったんだ!と言い、大蔵を狙う。

流派を聞かれた浅間が、富士浅間流と名乗ると、御主に富士浅間流を継がせるわけにはいかないと大蔵も気色ばむ。

それでも浅間は、俺が世間に知らしめる天下一の剣客になるんだ!それまでその命預けておく!と叫んでその場を離れると、すかさずわらびが矢を射かけて来たので、それを刀で払い落とした大蔵は行くぞ!とおゆうに呼びかける。

風魔蚊竜斎は馬で浅間神社を目指していたが、棒を杖代わりに、自ら片足を切り落とした服部寅次郎は1人で浅間神社に向かっていた。

いつの間にか姿を消していた服部に気付いた仙蔵と己之吉も、服部を探して浅間神社の方角に来ていた。

さんどうにたどり着いた服部は、馬で近づいて来る風魔蚊竜斎たちに気付くと、木の陰から様子をうかがうが、蚊竜斎が宝剣を持っていることに気付くと、わざと道の真ん中に倒れ込んで進路を塞ぐ。

しかし、蚊竜斎たちはそんな服部の身体を避けて通り過ぎようとしたので、服部は得意の鎖鎌を投げて足止めしようとするが、風魔達から矢を一斉に射られ、その場に倒れる。

風魔一族が通り過ぎた後、仙蔵と己之吉が倒れていた服部に気付き、駆けつけて来るが、既に服部の息はなかった。 一方、大蔵とおゆう、わらびと浅間は、それぞれ2頭の馬に乗って浅間人ジェへの道を競争していた。

先行していた浅間の馬と並んだ大蔵は、持っていた鞭で浅間を馬からたたき落とす。 落とされた浅間とわらびは、走って後を追う。

浅間神社に歩いて近づいていた風魔蚊竜斎たちに小柄を投げて近づく大蔵。 おのれ…大蔵!と風魔蚊竜斎が立ちふさがるが、天地正大の剣を邪険にするのは許さん!と言いながら、大蔵も対峙する。

風魔達は矢を射かけて来るが、それを避けた大蔵は、風魔に囲まれてしまう。

天地正大の剣は和が手にある!と蚊竜斎が抜こうとしたので、触ってはならん!と大蔵は叫ぶが、時既に遅く、蚊竜斎は宝剣を抜いていた。

その時、一点にわかにかき曇り、強風が吹いて来たので、天の怒りだ!と大蔵は呼びかける。

すると、太陽が陰って行き、日食で周囲が夜のように暗くなったので、さしもの蚊竜斎もおののく。

蚊竜斎!恐ろしさを思い知ったか!刀を放せ!と呼びかける大蔵。 それでも、出て来い!と叫びながら、蚊竜斎は宝剣を振り回す。

その時、暗闇の中から現れた大蔵が一刀の元に蚊竜斎を斬り殺す。

次の瞬間、周囲に強風が吹き、周囲が明るくなる。

大蔵様!と駆け寄って来たおゆうに、雲の剣が風を呼んだのだと教える大蔵。

そんな大蔵に崖の上からわらびが矢を射かけようとしていたが、待て!日本の剣士はそんなことはしないものだと制した浅間は、大蔵!その剣はまだ御主のものではない!勝負で決しよう!と呼びかけながら近づいて行く。

すると大蔵は、付いて来いと答えると、側の岩陰に隠れていた仙蔵と己之吉に、おい目明かし!江戸からはるばるご苦労だったな!と声をかけて来たので、知ってやがる…と仙蔵は苦笑する。

どこへ行く気でしょう?と己之吉が遠ざかって行く大蔵と浅間を見送る。

天地正大の剣を持った大蔵が浅間を案内してやって来たのは富士の火口であった。

浅間は、面白い…、富士の山頂で浅間流の雌雄を決するのか!と喜び、片手に宝剣を握ったまま自分の剣で向かって来た大蔵と斬り合う。

しかしすぐに浅間は剣をたたき落とされてしまったので、未熟さを恥じた浅間は、斬れ、早く斬れ!と呼びかける。

すると大蔵は、これを見ろ!と言うなり、持っていた天地正大の剣を火口の中に投げ入れてしまう。

俺の祖先が富士の平安を願った剣だ。元に戻っただけだと大蔵は言う。 負けた…と肩を落とした浅間に、寛四郎!御主に買ったのは俺ではない。

御主は天地正大の剣に負けたんだ。 御主の腕はまだまだ小さい!分かるか?寛四郎と大蔵が言い聞かすと、天地正大の剣書くを名乗るには俺は小さ過ぎた…と浅間も納得する。

良く言った!一生かかっても目指すのが剣の道だ…と大蔵は我が子に言い聞かすように語りかける。

ほどなくして将軍が代わり、富士の御山は変わることなく気高くそびえていた。(とナレーション)
 


 

 

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