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喜劇 “夫”売ります!!

一応東映映画なのだが、撮影所システムが崩壊し始めた60年代後半の作品だけに、元々他社で活躍していた役者たちの参加が目立ち、東映映画っぽくないのが特長。

東映イメージの役者と言えば、ヒロイン役の佐久間美子さんと若い頃の小林稔侍さんがちらり出て来る程度で、フランキー堺さん、森光子さん、田武謙三さん辺りは東宝のイメージだし、川崎敬三さんは大映…、芦屋小雁さんも特に東映と言うイメージもなく、主要なキャストが皆他社イメージの人ばかり。

おまけに、この時代の日本映画で「喜劇」とタイトルについている作品で本当に笑えるものは少なく、この作品も、フランキーさんや森光子さん、三木のり平さんまでゲスト出演しており、まるで東宝の「駅前シリーズ」などを連想させるが、特に笑えるようなシーンはなく、基本は普通の地方舞台の人情ドラマ。

フランキーさん、佐久間さん、川崎さん、森さんの誰が主人公なのかはっきりせず、ドタバタ喜劇と言った印象もなく、群像劇に近い。

組紐作りと言う女性が現金収入を得られる地場産業があるために、髪結いの亭主のように気概がない夫が多い地方を舞台に、対照的に気が強くしっかり者の佐久間さんや森光子さんを目立たせようとする、どちらかと言うと女性客を目当てにした企画だったのではないかと想像するが、当時の東映の客層ではピンと来なかったのではないか?

森さんはともかく、佐久間さんヒロインで喜劇は難しいだろう。

笑いを取れる唯一の役者フランキーさんが、覇気のない消極的な男ではドタバタにも発展しようがないし…

とは言え、伊賀上野の珍しいロケ風景なども楽しめるし、原作ものだけに展開もそれなりに楽しめ、決して出来の悪い作品ではない。   
▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼
1968年、東映、岸宏子「ある開化」+花登筐原作、池上金男脚色、瀬川昌治脚色+監督作品。

組紐用の糸車を背景にタイトル

伊賀上野 大阪から名阪特急で2時間

人口6万のちっぽけな街

産業ちゅうたら…、おっと今日は年に一度の天神祭やさかい、おしゃべりは後で…(と、山内松雄役芦屋小雁のナレーション)

産業ちゅうたら組紐と酒蔵くらいなんやけど、組紐は西陣に卸され、酒は灘に卸されなだの生一本になるので、伊賀は目立たない。

お庭番の精神やねん。 忍者の里としても有名で、百地三太夫や石川五右衛門も伊賀の生まれだと言われているし、松尾芭蕉も忍者だったと言う説がある。

そう云う土地柄のせいか、地元の人間は日頃は慎ましく生活しとるが、その代わり、互いに監視して噂を流すような所が今でもある。

忍者の顔出し人形に隠れていた2人組の青年の1人(小林稔侍)がカメラを手に、下駄屋の息子と雑貨屋の娘がデートしている所を目撃し、すぐさまその噂を町中に広める。

30分後には、天神祭りの山車に乗っていたおじさんたちもそのことを噂し合っていた。

さらに30分後には町中に噂が広がり、雑貨屋のお袋(武智豊子)が、NTVの取材を受けていた市役所の戸籍係をしている山内松雄(芦屋小雁)に、松雄はん!と呼びかけながら近づいて来て、家の娘と下駄屋の息子が出来ていて、家の娘にはもう2人も子供がいるなんて噂が出ているのよ!と嘆いてみせる。

それを聞いた松雄は、これが忍者精神ですよと取材班に伝える。 この街では女が組紐をやっているんで、男が楽している。

あの男がそうです、山内杉雄(フランキー堺)、一緒にいるのが妻のなつ枝(森光子)と松雄が詳しく説明するので、さすが戸籍係ですなとテレビ局員が感心すると、僕はあの杉雄の弟なんですと打ち明けた松雄は、そこに高級車が乗り付けて来て、群衆が一斉にその車に注目したので、神代様のお出ましですわと言う。

婆やのよね(浦辺粂子)が先に車から降り、その後から降りて来たのが和服姿もあでやかな神代里子 (佐久間良子)だった。

近くにいて畏まっていた山内杉雄となつ枝に気付いた里子は、支配人、山内の奥さんにご祝儀をお上げとよねに命じると、今夜、お客さんが来ます、あんたも来なさいと杉雄に声をかける。

祝儀袋の中味が500円と知ったなつ枝は、組紐が1日300円しか稼げないのに!と感激し、祝儀袋に香りが付いている事に気付く。

奥様のお好きな白檀やと教えた杉雄は、今夜の飯代、お呼ばれで助かるやないか!と、ちょっと嫉妬めいた目つきになったなつ枝をなだめる。

その頃、神代家では、副支配人の石上弘(川崎敬三)が父親の支配人石上三之助(多々良純)に、醸造工場の誘致の話、市長に話してますと報告していた。

その後、弘は、織り子の集配係二条きく子(橘ますみ)と勝手口の所で密会し、きくちゃん、今に観てみと言いながらキスしようとしていると、そこに杉雄が入って来たので、酒造部の運転手やったな?と不機嫌そうに言葉をかける。

奥様にお呼ばれしまして…と杉雄が伝えると、不審そうにしながらも、弘は杉雄を案内し、客の前で踊りを披露していた里子の部屋に連れて行く。

杉雄は弘に、自分は奥様とは小学校の同級で、奥様は女の級長、私は男の級長でしたと間柄を説明し、部屋の中に入ろうとするが、蹴躓いてしまう。 それに気付いた他の客たちは、場違いな杉雄の登場でざわめき出す。

それに気付いた里子は、山内!何しに来た!ここはあんたのような者の来る所やないやろ!と怒り出し、今日のお招きはこれで終わりにします!と宣言してしまう。

その頃、山内の自宅では、娘のあつ子がリンゴを手に握って寝ている中、杉雄の母の内ぎん(安芸秀子)が、知人の南出老人 (田武謙三)に酒を振る舞っていた。

ぎんが、ミシンに座っていたなつ枝に酒を買って来てくれと頼むが、もう閉まっていますとなつ枝はきっぱり断る。 なつ枝!わしに恥かかす気か!タコも買わんと、これイカやないか!南出先生は一番の茶飲み友達や!とぎんが叱るが、タコが高くて買えなかったんですとなつ枝は答えるので、南出先生は居心地が悪くなり帰ろうとする。

そんな南出先生に、ぎんは、寝ていた孫が握っていたリンゴを取って、土産にと渡そうとするので、それを取ったらこの子が起きたとき泣きます、前々から欲しがっていたのを祭りの日までと我慢させていたものですから!となつ枝は止めようとする。

そこに杉雄が帰って来たので、又なつ枝にいびられとった、タコも買えんそうじゃと泣きついたぎんは、隣に風呂借りて来ると言って出て行く。

足1本120円もするんですとなつ枝が言い訳すると、そのくらい買えるじゃろう?給料12万全部入れたぞ?と杉雄が言うと、なつ枝は、あつ子の医者代、南出先生にラーメンでもてなしたなどと最近の出費を事細かに報告するので、駅前ラーメンでか?と杉雄は聞く。

お呼ばれで飯を食って来なかったと杉雄が言うが、何もないと言うので、杉雄は、棚の中に入ったイカの煮物を見つけ、それを食おうとする。

それでも、なつ枝は、三切れ残っているとお義母さんが覚えとるんじゃ!と小鉢を取り上げる。

そこに、風呂上がりの銀河戻って来て、隣の奥さんは良う出来た嫁じゃ、隣にはテレビちゅうものがあって、年寄りを楽しませているなどと嫌みを言うが、さっさとなつ枝たちが布団に入って寝ようとするので、襖閉めとるからなとまたも嫌みを言って、隣の部屋に向かう。

布団に入った杉雄は、なつ枝が泣き始めたので、どうしたんだ?と聞く中、隣では火鉢の前で、良う泣くな、慎みのないと嫌みを言いながら、ぎんが孫のリンゴを切って食べていた。

杉雄は、先ほど観た里子の踊りを思い出しながら眠りにつこうとするが寝付けないので、なつ枝の布団に潜り込もうとするが、寝ていた娘のあつ子が寝覚め、お父ちゃん、どうしたの?と聞いて来たので、何も出来なくなった杉雄は悔しがる。

翌日、神代産業では、支配人の石上三之助が里子に在庫の報告などをしていたが、うち、出かけるわと里子が言い出したのでどちらへ?と聞くと、支配人、うちかて自分の時間くらいあるのよ、心配せんで宜しいと里子はぴしゃりと答える。

そして、表で車を洗っていた杉雄に近づくと、山内、早う、車を出しなさいと里子は命じる。

その頃、外で弘と会っていたきく子は、うちが組紐の問屋をやるの?と弘の話を聞き驚いていた。

小売は4000円、手間賃、原料費会わせて500円、京阪神に1本1500円で卸せば月300万は儲かる。

レストランバーの利益もあるしリベートが100万、月5000万で10年で6億や!と弘は景気の良い話を聞かせる。

いつホテル建つの?ときく子が聞くと、まだ奥さんには何にも言うてないんやと弘が言うと、あれ、奥様やないか?ときく子が眼下を指差す。

確かに、橋の所にいたのは里子と杉雄だった。

小学生のとき、ここに遠足に来た時、あんたに叩かれたわと里子が言い出すと、そんな滅相もないと杉雄は否定するが、私があんたの麦飯弁当を笑ったら…、往復ビンタやったわと里子は言う。

申し訳ございませんでした!と杉雄が思い出して謝ると、20年前のこと、今沙汰謝られるとは…と言いながら、里子がちょっと崖から足を滑らせかけたので、手を貸して!と甘えて来る。

そこへハイキングに来た女性グループが通りかかったので、杉雄と里子はちょっと離れるが、うちはあれから1度も叩かれたことがないそ、叱られたこともない。みんな腫れ物に触るよう。

薄暗い部屋に閉じ込められた人形やと里子は打ち明ける。 なあ、山内、うちを叩いて!と突然里子が言い出したので、最初はとんでもない!と拒否していた杉雄だったが、仕方なく優しくなでるように頬に手を添えると、それを上から観ていたきく子は、あいつ運転手のくせに愛撫しとるわと指摘する。

その後、神代家に帰って来た里子は何事もなかったかのように、婆や、お風呂入ったら、すぐ食事にしてやとよねに声を掛けると、側にいた年寄りに、パチンコの景品やと言い手渡す。

そんな里子を観た三之助は、困ったもんだ奥様の気まぐれも…と嘆くが、ヒステリやとよねは指摘する。

すると、そこに戻って来た弘が、その通り、32と言えば女の最盛期、3度目の婿養子の話壊したそうじゃない。

あの千姫のように夜な夜な男漁り…と三之助に話しかける。

どないしたら良いのかね?三人目も死んだら、男殺しと言う噂が立つ…と三之助が悩むと、男をあてがうのですと弘は提案する。 その後、弘の部屋にやって来たきく子が、聞いとったわ、今の話…と話しかけて来る。

あの男は奥様に夢中やと弘が教えると、後はリモートコントロールやねときく子は弘の計画を察したので、忍法影武者やと弘は笑う。

作戦開始やな…と、弘からブランデーグラスを受け取ったきく子もほくそ笑む。

伊賀鍵之辻

きく子はいつものように織り子たちの家を回り、出来上がった組紐を集めていたが、なつ枝の所に来ると、奥さん、紐屋始めん?織り子さん集めて1本400円でもらうわと声をかける。

なつ枝は驚き、きく子さんが?と聞くと、内の知り合いが京で問屋するんや、月6万の余録や、今度来る時まで考えといてと言い残し帰りかけるが、思い出したように、山内さん、特別の夜勤ある言う取ったわとなつ枝に伝える。

一方、近くの丘に呼び出され、弘から話を聞いた杉雄は、できまへん!と拒否するが、奥様も人間だぞ、目つぶって、ここは風呂屋や、君は風呂に入るんや、女も20人ばかり入っている。

裸、裸、裸ばかりやと弘は妄想イメージを語りかける。 奥様の腕のここには疱瘡の注射痕がある。

奥様も人間や!裸の君はぶつかれば良いんや。

さもないと神代家の浮沈に関わるんや! 神代家もこれまでのように組紐と酒造りだけではあかん。

世の中レジャーブーム、伊賀には鍵之辻や石川五右衛門の家もある。

巧くやれば観光客が溢れるんやぞ! しかし決定するのは奥様や、その奥様を動かせるのは君しかない!と弘は懸命に杉雄を懐柔しようとする。

その夜、寝室の布団の上にいた里子は、婆や、按摩はまだ?と聞くと、どこも出かけているそうです。

1人とっても按摩が巧い男がいるのですが…、山内でございます、山内は玄人はだしだそうですとよねが言い出したので、驚いた里子は、婆や!とたしなめようとする。

しかし、よねは構わず、白衣姿になって弘と待機していた杉雄を里子の部屋に招き入れる。

里子は部屋にお香を焚き始め、布団の中に潜り込む。

恐縮しながら杉雄が寝室に入って来て黙っているので、婆やが勝手に呼んだのよ、来たらやりなさいと里子は恥じらいながらも命じる。

よねは、神棚にお神酒をあげようとして手を滑らせる程の動揺振りだった。

里子は、寝間着の上から手をもまれながら、奥さんにもこうやるんや?仲ええんやろ?でも夜なんか…などと杉雄に嫉妬めいた詰問をし、杉雄がしどろもどろになると、寝るわ!もうしゃべらんといて!などと言い出す。

杉雄は、部屋に充満し始めた白檀の香りに気付き、そっと部屋を後にしようとするが、里子は狸寝入りをしているだけで、すぐにう〜んと声をあげ自分の右腕を伸ばすと、腕、直に揉んでと頼む。

やむなく腕を直に揉み始めた杉雄だったが、気がつくと疱瘡の注射痕がないので驚く。

女やから、他の所へしたんやと教えた里子は杉雄の手を握りしめて来たので、杉雄も辛抱できなくなり、奥様!と言いながら抱きしめる。

すると里子は態度を急変させ、お放し!お帰り!汚らわしい!と言い放つ。

それを聞いた杉雄は、思うた通りや、他の女と違います。奥様は神様ですわ。それで良いですわ…と泣き出し、部屋を後にしようとする。

すると里子は、お待ち!うちを他の女と違う言うたな?小学校の頃、ぶたれた時と同じや!

うちかて女よ、そこに寝なさい、さ、お調べ、山内、どこが違うの!お調べ!と命じる。

そんなサツ子の部屋の電気が消えるのを、離れの二階の窓から弘ときく子が監視していた。

柿が色づく秋 自転車に乗った松雄がなつ枝の自宅へやって来て、ぎんが連れていたあつ子に、あっちゃん!と愛想を振りまくが、ぎんは嫁にいびり出されたんじゃなどと嫌みを言う。

その後、家にいたなつ枝に、姉さんすまんな、母ちゃんも根っから悪い人間やないんやと銀のことを詫び、一番悪いのは兄貴や、張りがないんやなどと言いながらも、1000円化してくれんか、忍者サークル作るんじゃなどと金の催促をする。

なつ枝は呆れ、この前の洋服代の前借り1500円を返して欲しいわと言い返して来たので、忍法打って返しやなと松雄は苦笑する。

そこにふらふらの状態の杉雄が帰って来て、昼寝しに帰って来たんや、ここんところ、夜勤が続いとるもんで…と言う。

奥の部屋に杉雄が行くと、姉さん、夜勤っていつからやねん?と松雄が不思議そうに聞いて来たので、2ヶ月前から…、仕事きついのかげっそりして…。いつあるか分からないらしいので自発的に待機しているって…となつ枝は答える。

運転手に夜勤なんてないはずやし、兄貴に良う確かめた方が良いでと松雄は忠告する。

その言葉が気になったなつ枝、寝ていた杉雄の服の中からハンカチを取出し匂うと、いつか里子からもらった祝儀袋と同じ白檀の香りだと気付く。

その時、寝ていた杉雄が、奥様、又ですか?堪えて下さい!などと寝言を言うので、なつ枝の表情が厳しくなる。

その頃神代家では、建設資金は銀行から融資してもらい、ホテルが出来たらそれを抵当に変えるのです。後は奥様のご判断一つ!と、弘が里子にホテル建設計画を打ち明けていた。

すると里子は、山内の意見も聞いてみると言い、呼び鈴を鳴らして杉雄を部屋に招き入れる。

1億円の融資受けたいと言うのですが…と里子が用件を言うと、杉雄は、ほう…、そうですか…などと言いながら、鷹揚に弘の隣に座りタバコを口にする。

里子は弘に、副支配人、火を付けてお上げと命じるので、弘は面食らうが、自分がコントロールしていると思い込んでいる杉雄に自分に従えと目配せして来る。 杉雄はそれには構わぬような態度ながら、奥様のためにホテルを建てるのが一番だて…、言う通りにしなさいと答える。 その時、突然、部屋の前にやって来たのはなつ枝だったので、何しに来たんや?と杉雄は仰天する。 里子は慌てず、なつ枝を案内して来たよねたちに下がるように命じる。 うちの山内が偉いお世話になっているそうで、毎晩細かい所まで面倒観てもらっているそうやけど、さすが神代家、噂一つ出んかった…と用件を口にしたなつ枝は、里子に嫌みを言う。 それを聞いていた杉雄が焦れ、何しに来たんやともう一度聞くと、あんたを売りに来たんやとなつ枝は答える。 うちが姑に泣かされても何も出来ん。そんな亭主なんか買うて欲しいんですわ。

嫌なら、うちのんはお手つきじゃと言いふらします。 この男50万でどうですやろ?神代家のお道具としてはお値打ちやと思いますけど?となつ枝は奥面もなく申し出る。

黙って聞いていた里子は、分かりました、この人を買いましょう。お金は帳場でもろうて下さいと返事する。

なつ枝は、奥様とうちの人のことは何も言いませんと里子に約束すると、せいぜい大事に扱うてもらいと杉雄にも言い残して去って行く。

その後、南出老人の家に母親のぎんを連れてやって来た杉雄は、ここへ置いてやって下さいと頭を下げるので、なんにも言えんのか!とぎんはふがいない杉雄を殴る。

それでも杉雄は、なつ枝にもなんも言わんで下さい、一生に関わることやからと平身低頭するばかり。

そこに、母親の荷物を持った夏雄となつ枝がやって来たので、嫁が亭主を閉め出すなんて反対やないか!と南出老人は呆れる。

しかしなつ枝は、婿がおらなんだら姑やないときっぱり言い切ると、杉雄と南出老人に算盤を私、おぎん婆さんがこれまでに使った金額9460円と計算させる。

それを聞いたぎんは、わしゃ払わんぞ!と抵抗するので、先生払うて下さい、私が後から払いますからと杉雄は頼む。

さらになつ枝は、松雄さん、洋服の月賦の立て替え賃1500円!と要求し、今日の運び賃と言いながら10円だけ松雄に渡す。

訳だけは聞かんといて下さいと南出老人に頭を下げ家を出た杉雄は、なつ枝!と呼びかけるが、用事あるんや!となつ枝はあつ子を連れ帰るので、あっちゃん!お父ちゃんの所へ来るんや!と声をかける。

しかしなつ枝は、この子はわしが育てるんやと言い残し立ち去って行くので、杉雄はそれをつらそうに見送る。

事情が分からず杉雄と離れるのをためらうあつ子に、この頃はお菓子でもおまけがつくやろ?神代家の子になったら、あんた、日陰者やないか。

あっちゃん、おいで!となつ枝はリンゴを取り出して娘を誘う。

見てみいな、お父ちゃんは売りとうなるような男やないとあつ子に言い聞かしたなつ枝は、早よ帰り!町中に神代さんの噂立てまっせ!と立ち去りかねていた杉雄に声をかける。

杉雄はとぼとぼと神代家に帰って行く。 働きないから売ってしもうたんじゃとなつ枝がそれを見送ると、買うて来て、お父ちゃんと言いながら、あつ子が10円玉を差し出したので、あつ子、お母ちゃんな、50万もお金持ってるねん。

お母ちゃん、これで紐屋始めるねん。そしたらあっちゃん、何でも欲しいもの買うてやるとなつ枝は言い聞かそうとするが、あつ子は泣き出す。

一ヶ月後

織り子を集め組紐屋を開業していたなつ枝の元に、品物もらいに来たけどと集配係のきく子がやって来る。

なつ枝はきく子と2人になると、きくちゃん、うちと組まん?2人で問屋作るんや、あんたが専務でセールスマンや。

心斎橋から梅だにある小売店全部回ったったと切り出す。

あんたが毎月、1本600円の組紐を1200円で卸とるのバレとるんじゃ、あんたの顔と身体やとなつ枝が言うと、色仕掛けで売れと言うの?ときく子は驚くが、身体安売りしたらあかん、身体はお金持ってから売るんや、高く売るにはお金もっとらんといかんのや、月50万にはなるんや!あの奥さんに負けんように売るねん!となつ枝は言い切る。

神代家では、ホテルを建てることになりました。

石上副支配人の提案ですと従業員たちに説明していた。

名称は神代観光ホテル、敷地は1000坪、伊賀鉄道の推薦ももらいました。 ホテルの責任者借り支配人には山内杉雄になってもらいますと里子が言い出したので、一緒に聞いていた杉雄も弘も愕然とする。 山内は今日からホテルの責任者です。しっかり監督するんですよ。

目標を持ちなさい、良いですね?と里子は言い聞かす。

しかし、この突然の発表に納得できない弘は、奥様、酷いじゃないですか!あの男は中学も出てないんですよ。

ホテルはあの男のアイデアじゃありませんと文句を言うと、誰ぞ、あの男を操ってたん?と皮肉を言い返した里子は、ホテルはうちの意志で始めたことや。それだけは承知しておきなさいとぴしゃりとやり込める。

自室に戻ろうとした弘は、自分の荷物が階段下に卸されているのを知り驚く。 俺の部屋は?と聞くと、酒蔵のへ屋にと言うので、ここには誰が?と聞くと山内支配人ですと言われてしまう。

そこにやって来た三之助が、お前には他の仕事があるからやと、お前は支配人やがただの男じゃ、このわしに何を言うても構わんが、奥様に逆ろうたりしたら承知せんぞ!と言い聞かせる。

その様子を、帰って来たきく子が物陰から見ていたが、三之助が去ると弘に近づき、どうやら一切の計画が失敗したようねと話しかける。

問屋を始めたら…と弘は言い訳しようとするが、うち、なつ枝と手を組んだんやと打ち明けた菊枝は、退職届とハンカチを渡し、さよなら…と言い残して家を出て行く。

その後、神代ホテル建設現場で工事が始まり、杉雄と里子が状況を見ていた。

なつ枝ときく子も組紐屋に精を出していた。

街には花火が上がり、宣伝用のビラが撒かれる。

公衆電話では、客が何人も外で待っている中、1人の男(三木のり平)が、温泉マーク作っとるんや!部屋の真ん中にベッド作るんや!と興奮気味に長電話していた。

町中で、奥様にややこが出来たらしいと言った噂が立ち始め、ハレンチホテルを許すな!と言った看板が建ち、ホテル反対運動が巻き起こる。

組紐屋の織り子たちもそのビラを持っていたので、きく子がそれを取り上げ、なつ枝は、専務、その怪文書をみんなの前で詠みなさいと命じる。

そこには、里子と杉雄には淫らな関係があり、ホテルは観光産業と名乗っているが、実は、未亡人の腰巾着になった男のエロプランなのだと言ったことが奥面もなく書かれていた。

建設現場にいた工事用トラックが一斉退去し始めたので、驚いた杉雄が現場監督に文句を言いに行くと、工事は一時中止や、銀行から金借りれんようになったと言うではないか。

神代家では、建設会社への支払い3000万は?と三之助たちが狼狽しているので、うちの宝石を処分しなさいと里子は命じる。 しかし銀行の〆切は3時までですと三之助は教える。

その頃、松雄は、義姉さん、今、買い戻したらどうだよ?と提案していた。

兄さん、ああ見えても根は正直者や、貧乏人には困った男やろうけど、兄さんが安もんに見えるのは、義姉さんが安もんやからないか?と松雄は言い聞かせる。

神代家では、昼間から泥酔した弘が、支配人、銀行に行ったとしても無駄や!と三之助にくだを撒くので、何酔ってるんじゃ!と三之助が叱ると、俺は酒蔵の番なのだから利き酒して何が悪い!と弘は言い返す。

僕を邪魔にしたからこうなったんです。僕がやっていたら不渡りなんか出さなかった!と弘が言うので、三之助は殴りつける。

支配人は高校までで解けば良いと言われ、カタツムリのように殻を背負わされて…と弘の愚痴は続くので、わしら操っていたんはお前や!と杉雄が弘を責めるので、もうお止め!言い争ってみた所で事態が変わる訳でもないと里子が制する。

それを聞いた弘も、わいが出来ていればもう辞めてる!わいの身体にはとことん神代家に尽くすサービス精神の血が流れとるんや…、アホや…と自嘲する。

その時杉雄は、2時じゃ!と気付く。 後1時間で神代家もお終いね…と里子も覚悟を決める。 そこに、金を借りられました!石川様の所から…、後50万あれば助かる!と三之助が知らせに来る。

それを聞いたよねは、50万!と杉雄を見て叫んだので、その意味を悟った杉雄は、奥様、わしを売って下さい!と申し出、三之助も、この男を50万で売りましょうと里子に提案する。

杉雄は、奥様!わしを売って下さい!と懇願するが、その時、奥様、来はりましたで…と知らせが来たので、なつ枝が?と杉雄は驚く。

松雄も一緒にやって来て、兄さん、安心せい、買い戻しに来たんやと杉雄に声をかける。

なつ枝は、50万は高すぎる、あの時は、この人の気持が奥さんに傾いとったから悔しゅうて50万と言うたけど、今でもこの人はまだ奥さんに傾いとる。

車「も下取りしたら半値や、ええとこ5万やな、あつ子が泣くさかい、お父ちゃん買うで、5万や!となつ枝は言う。

それを聞いていた松雄は、年間所得計算したら、3年で元取れる、25万でどうや!となつ枝を説得するが、お止めなさい、ここは人買いの市やないんです!この人売る訳いきません!この人、品物やないんです!と里子が注意する。

するとなつ枝は、奥さん、買うたやないですか!と文句を言うと、預かっただけです。渡さん訳ではない。

あんたがこうして来たんですから… 山内!奥様の家にお帰り!と里子は杉雄に命じる。

神代家は終わったんです…、死にかけた神代家に手当をしても無駄です。犠牲になってはいけない…。

ご主人はお金では買えない力のある人です、大事にしておあげ…と里子はなつ枝に告げる。

そして、一人静かに自分の部屋に戻って行く里子。

杉雄を連れ帰途についた夏雄が、義姉さん、儲けたの!兄さんただでもろうて…となつ枝に話しかけると、ここに50万ある、保管料や、後で届けといてと札束を松雄になつ枝は渡す。

あんたには当分ちゃんと働いてもらうで、休みは盆と正月の2日です!となつ枝は杉雄にも言い聞かし、杉雄が馴れ馴れしく触ろうとすると、触らんといてよ!と叱りつける。

神代家では、三之助とよねが、巧くいきましたな…、あの怪文書が効きましたな…、手形は支店長が落したし…などと2人きりで密談していた。

建築代600万だけ損でしたねとよねが残念がると、その内値上げするまで待てば良いと三之助が笑う。

これで尾家は安泰じゃ…とほくそ笑みながら、2人は神棚に手を合わせる。 4ヶ月後 121日目に怪文書の噂も忘れられました。

なつ枝と菊枝がバスに乗り込むと、そこにあつ子が乗っていたので、どっから乗ったんや?と驚くと、見張りやとあつ子が言う目の先には、バスの運転手をしている杉雄の姿があった。

又売られんようにするんやで!となつ枝が睨むと、悲しんで良いんか、喜んで良いのか…と杉雄はぼやきながら発射しようとするが、すぐに急ブレーキを踏み、バカたれ!気を付けんか!と前方に向かって怒鳴りつける。

バスの前を横断しようとしていたのは南出老人とははのぎんだった。

それに気付いたなつ枝は、あんた!謝ることない!どこ見て歩いとるんや!と自ら窓から身を乗り出し、路上で文句を言っているぎんと言い争いを始めたので、バスの周囲に野次馬が集まって来る。

伊賀上野の街全景


 


 

 

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