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次郎長三国志('63)

鶴田浩二が清水次郎長を演じる東映版「次郎長三国志」の第一部に当たる。

若き次郎長の人柄に惚れて、次々に子分達が集まって来る展開をテンポ良く見せている。

津川雅彦、長門裕之兄弟に、松方弘樹、山城新伍と言った若手が中心となり、明るくユーモラスに描かれている。

藤純子(富司純子)さんが、まだ10代の小娘役で登場しているのも見所だろう。

ただし、後半は藤山寛美さんとのコミカルな舞台芝居のようなシーンがメインになっているし、全体を通して立ち回りシーンは少なめで、大チャンバラ映画のようなものを期待しているとちょっと肩すかしを食うかもしれない。

前半を引っ張っているのは、三枚目役に徹している山城新伍さんの明るく憎めないキャラクターの魅力。

中盤で松方弘樹さんが加わり、山城さんと藤純子さんとの青春ラブコメ風のタッチになり、大木実さんの大政が加わった辺りで大人向けの次郎長一家になるかと思いきや、田中春男さん扮するコ○キ坊主の参加やイケメン時代の津川雅彦さんの登場で、また軽いタッチに戻って行く。

第一部だけあってプロローグ的な作品と言うべきかもしれない。
▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼
1963年、東映、村上元三原作、マキノ雅弘+山内鉄也脚本 、マキノ雅弘監督作品。

タイトル

「秋葉山大権現」の幟が立つ「馬定祭り」の神社の片隅で、むしろで囲った賭場が昼日中から行われていた。

ふらりそこにやって来た清水の次郎長(鶴田浩二)が遊ばせてもらおうと中に入りかけるが、入り口に居座っていた馬定(加藤浩)から、ここは堅気だけなんだ、無職は遠慮してもらいてえと断って来たので、やむなく外に出る。

そんな賭場で、負けが込んでいたのか、着物を脱いでこれでもう一度張らせてくれと頼んでいた桶屋の鬼吉(山城新伍)は、ダメだ!小僧、出ろ!と凄まれて嫌々ながらむしろの外に出て来る。

そこにいた次郎長が、若ぇの、いくら負けたんだ?と聞くと、3両2分1朱132文などと細かい返事をした鬼吉は、名古屋で桶屋をしている吉五郎で、鬼吉と言うあだ名があると自己紹介される。

鬼吉はまだ遊び足りないらしく、今脱いで持っていた自分の着物を次郎長に差し出し、これ1分で買うてちょうよなどと頼むので、 イカサマ博打にいくら張っても無駄だよと次郎長が忠告すると、このままじゃ男が立たんよ!親父から金もろうて来たんや!桶屋思うてバカにしやがって!と逆上し、裸のまま今出て来た賭場に飛び込んで暴れ始める。

表に放り出した鬼吉を囲んだ馬定組の子分衆が、みんな叩き斬れ!と叫ぶので、待て!と「声をかけた次郎長は、俺は清水次郎長と言う駆け出しだが、祭礼の境内で刃物を出すのは御法度じゃないのかい?と注意するが、そんな言葉も無視して斬り掛かって来たので、じゃあやるぞ!と次郎長も刀を抜いて応戦し始める。

それを見た鬼吉は、俺の喧嘩だよ!と文句を言うが、行くんだ!と次郎長は言い聞かす。

その後、川で身体を洗っていた鬼吉の元へやって来た次郎長は、俺もならず者でうちにいられなくなった男で、米屋の長五郎と言うんだと声をかける。

聞かない名だな…と言いながらも、あんたどっか見所があるよと嬉しそうに答えた鬼吉は、俺が子分になってやるよと言うので、縁があったら清水に訪ねて来い。

飲んだくれで名の通った男だと言いながら、懐をあさっていた次郎長は、1本の簪を出して三度笠に突き刺すと、財布を取り出し、着物を買って早く行けよと言いながら幾ばくかの銭を渡してやる。

それを受け取った鬼吉は、恩に着るよ、約束の印に受け取ってちょうよ、雑巾にでもしてちょと自分の着物を差し出し、その場を去って行く。

清水港 駿吉、良い男~♩などと自慢の歌を歌いながら、大熊組に外から帰って来た駿吉(堺駿二)は、玄関先に三度笠をかぶった男が入って来たので驚き、自分は駆け出しの駿吉で、仁義を受ける程のものじゃありやせんと詫び、お嬢さん、助けて!と奥に呼びかける。

すると、何事かとお蝶(佐久間良子)が出て来たので、大熊親分の妹でお蝶さんとお見受けします。

訳あって笠を取らずに失礼しますと言うと、仁義を切り出し、お蝶さん、長五郎が夫婦約束に頂いた品です!持っていた簪を差し出す。

それを見たお蝶は、どうしてあなたが持ってるの?と驚きながらも、すぐに事情を察し、相手の三度笠をむしり取ると、想像した通りその男は長五郎こと次郎長だった。

女らしくなったな~と次郎長がお蝶の顔をまじまじと見て感想を言うと、2年って長かったわ!とお蝶は喜ぶ。

その後、飲み屋の「すず屋」の前に出て来たお千(富司純子)に、向かいの桶由(阿部九洲男)があんまり飲ませるなよ、長さん飲むと暴れる男だと注意していた。

「すず屋」の二階で次郎長と対面していたのは、和田島の太左衛門(香川良介)と大熊(水島道太郎)だった。

何故、ヤクザになって戻って来た?と太左衛門が聞くと、とにかく食って行けない。

名を次郎長と改め、一本どっこのヤクザになった。 賭場で稼いでやっとこの2年生きて来たんだ、勘弁してくれ親父!大熊の兄貴!と次郎長が詫びると、ヤクザなんて外道の世界だよと苦々しげに大熊は答えるので、百の承知だ、きっと人のためになる良いヤクザになってやると次郎長は約束する。

それを聞いた太左衛門は、大熊の…、諦めるんだなと大熊に言い聞かせると、今の話、今度は忘れたとは言うなよと寺領町にも釘を刺す。

そこに顔を出したお千は、私、18になったんで、もう怖がらないから飲んでねと顔なじみの次郎長に笑いかけるが、俺は酒はぷっつり止めたんだと次郎長は言い出す。

その頃、大熊一過の家にやってきたのは鬼吉だった。 鬼吉来たで!と声を掛けるが、玄関先で留守番代わりに1人将棋を指していたのは駿吉だけだった。 駿吉は、すず屋で一杯飲んでら~と言い、店の場所も教える。

すず屋の前に来ると、お千が桶由のおじさんに、長さん、お酒止めたんだってと教えている所だった。

そんなお千に、長さんここに来てるか?飲んだくれの長五郎だよ!と聞き、いると知ると、わらじも脱がずに二階へ駆け上がって行く。

鬼吉の姿を見た次郎長が、おい桶屋!良く来たな!と喜ぶと、親分、見てよ!子分になろうと、金で揃えて来たんだと、いっぱしのヤクザ風の自分の成りを披露すると、俺には銭も家もないとすまなそうに言う次郎長に、わいが働いて食わせるから!と鬼吉は約束する。

そんな鬼吉を見た大熊は、次郎長親分、こいつは良い子分になるずらよと頼もしそうに笑いかける。

そこに追いかけて来たお千が、ここ土間じゃないの!わらじ!と教えたので、わらじを履いたまま上がって来たことに気付いた鬼吉は詫びながら、自分の着物に袖で廊下に付いた汚れを拭き始める。

一緒に雑巾がけをしてやる次郎長に、親分の簪の子とあの子と、どっちが良い女か?などと鬼吉が聞くので、馬鹿野郎!と次郎長は怒る。

その後、鬼吉を連れ家に戻って来た大熊は、みんな親分のお帰りだぞ!長五郎が次郎長と言う弟分になったと、お蝶と駿吉ら子分衆に伝える。

鬼吉はたった1人の子分だと聞いたお蝶は、駿吉にすすぎを持って来るんだと命じる。

それに感謝した鬼吉は、姉さん、俺、親分が好きで子分になったんだと打ち明けるが、この人、女より男が好きなのよと笑いながら、お蝶は鬼吉を座敷に上げる。

すると、そこに見覚えのある自分の着物がかけてあったので鬼吉が驚くと、必ず鬼吉さんがやってくるからとこの人が言ってたので急いで繕ったのよとお蝶が言うので、うれしいやん!と鬼吉は感激する。

翌朝、桶由の店にやって来た鬼吉は、俺、桶屋やっとったんで住み込みで働かせてくれと一方的に親父に頼む。

日当いくらだ?と親父が恐る恐る聞くと、金よりこの場所が気に入ってるだよ。父っつぁん、あの子だよ、何と言う名だ?と「すず屋」の前に出ていたお千のことを聞く。

親父が教えてやると、すぐにお千に近づき、鬼吉と呼んでちょうよ、名前は怖いけど、気は至って優しいのよと自己紹介する。

そこに次郎長も来たので、桶由は、親分さん!そちらの子分がうちの職人になるだとよと教える。

鬼吉は次郎長をすず屋の中に引き入れると、わし、家事と喧嘩見ていると、かーっと身体とチンチンが熱くなるんやけど、お千ちゃんを見てもそうなるんや、どうないなっとるんやろ?と相談するので、馬鹿野郎と次郎長は殴り、お千ちゃん、この鬼吉がな…と教えようとすると、当の鬼吉は恥ずかしがって背中を見せる。

鬼吉さんは親切な人よ、今夜から火の用心回ってくれるんだってなどとお千ちゃんは無邪気に答える。 鬼吉がお千ちゃんに惚れたんだとよと次郎長が教えると、お千ちゃんは恥ずかしがって逃げる。



「桶由」の提灯を下げ、大きな声で町内の火と泥棒の用心を叫んで回ることになった鬼吉だったが、すぐに、うるさい!静かにしろ!と家々から文句を言われたので、小声で火の用心してちょ…と言うはめになる。 ある日、次郎長の元へ、馬定一家の使者として参りました!5つ、三保の松原においで下さい。お返事願いとうございますと若い関東綱五郎(松方弘樹)がやって来て口上を述べる。

それを聞いた次郎長は、後で返事をしてやる、帰れ!と答えるが、このまま帰っても宜しいのでしょうか?嬉しいね、これまでは白羽を突きつけられたりしたもんですが、ありがとうござんす、今晩、白刃の下でお目にかかりましょうと挨拶し、綱五郎は帰って行く。

それを見送った次郎長は、人を食った野郎だなと苦笑する。

すると、俺が返事役をやってみると鬼吉が言い出したので、お前なら今の奴良い勝負だろうと次郎長も承知する。 桶由にやって来た鬼吉は棺桶を用意させると、俺が中に入るんや、小さくないか?と言いながら自ら中に入ってみる。

なかなか鬼吉が戻って来ないので、まさかあいつ…と案じていた次郎長の前に帰ってきたのは、棺桶を担いだ鬼吉だったので驚く。

そんな鬼吉に、お千ちゃんが渡してくれと…と言いながら簪を渡すと、ここに刺してちょと鬼吉は嬉しそうにはちまきに刺してもらい、口上は分かってる、行って来るぜ!と言い残し出て行く。

本当にお千ちゃんがくれたのか?と大熊が聞くと、角の小間物屋で買って来たんだと次郎長は笑って教える。

三保の松原で待ち受けていた馬定一家と側の松原で歌を歌っていた綱五郎は、短筒を手にしていたので、珍しいもん持ってるな?と馬定の子分達が近づいて来ると、あっしの兄が鉄砲鍛冶で、こっそり盗んで来たんだと綱五郎は言う。

威勢良く撃ってくれ!と頼まれた綱五郎は、助っ人の骨折り損になちゃ困るんで、今助っ人料を貰いてえ、あの世に催促行く訳にいかねえからななどと言い、ぶつぶつ言いながら相手が出した金を受け取ると、良い晩だ、喧嘩には惜しいやとロマンチックなことを言う。

そこに棺桶を担いだ鬼吉がやって来たので、尾張名古屋の鬼吉だ!首っ玉でも洗って待ってろ!と言うので、棺桶はどうするつもりだと聞くと、討ち入りする時入る棺桶だよと鬼吉は答える。

頭の簪は?と聞くと、お千ちゃんがくれたんだ、俺に惚れとるだと鬼吉が言うので、死んだら泣くか?と綱五郎が聞くと、泣くわ!と言うので、そら可哀想だな…と同情した綱五郎は、馬定一家の連中が鬼吉に斬り掛かろうとしたので、撃つぜ!と逆に脅す。

おめえ味方はねえのか?と馬定から聞かれた綱五郎は、金を返せば関係ないだろう。昼間次郎長は俺を返してくれたと言うと、鬼吉には、みんなと戻って来いと言ってその場を逃がそうとする。 それでも馬定一家がやれ!と言うので、撃つぞ!と行った綱五郎は一発威嚇射撃をする。

そこに駆けつけて来たのが次郎長達で、おめえ、良いもん持ってるなと綱五郎に笑いながら、馬定と斬り合いを始める。

「すず屋」の前の辻では、次郎長が売り出したと集まった連中が噂していた。

そこに、山本長五郎を象った印の入った半纏を来た綱五郎が鬼吉を連れてやって来て、こいつは俺の兄弟分だよなどと先輩風を吹かすと、「すず屋」に鬼吉を引っ張り込むと、兄弟の固め酒をやろうと言い出す。

鬼吉は、お千ちゃんに、次郎長一家の半纏だよ!と自慢げに披露すると、手前、大瀬半五郎と申します!と半五郎がお千ちゃんに仁義を切り出す。 お千ちゃん!この鬼吉が寝言でいつも…などと綱五郎は止めようとする鬼吉を無視してお千ちゃんに話しかける。

大熊の家では、すまねえな、又居候が増えてしまって…と次郎長が大熊に詫びていたが、男が男に惚れる。おめえの魅力だと大熊は鷹揚に答えていた。

その時、おちょうが次郎長に山長の半纏を着せると、良い看板だと大熊は褒める。

鬼吉が好きか?俺にはちゃんと証拠がある!簪だがや!などと、「すず屋」では、まだ綱五郎と鬼吉がお千ちゃんの話を続けていた。

あの簪か…と綱五郎が思い出すと、喧嘩の時、親分に届けてくれたあの簪だがや…と言いながら懐を探していた鬼吉だったが、簪が手に触らないのか、忘れて来たかな?と不思議がる。

ないだろ?鬼吉、あめえの腹の中にあるんだ。今、酒飲んだろう?あれが簪だなどと綱五郎が謎めいたことを言うので、今、取って来るがね!と大熊の家に戻ろうとした鬼吉に、怒るなよ…と前置きした綱五郎は、俺が拾ったんだ。それを金に換えて酒に変えてやったんじゃないか、怒るな!と鬼吉に念を押す。

怒った鬼吉は綱五郎ともみ合いになりながら二階へ上がろうとするが、その時、喧嘩の仲裁、時の氏神だと言いながら見知らぬ侍が二階から下りて来る。

斬るぞ!と刀に手をかけながら店の外まで追って来た侍が言うので、こちとら丸腰だ!と綱五郎と鬼吉が及び腰になると、お前達算したじゃ話にならん!親分を呼んで来い!と言うので、親分呼んで来るまで待ってろよ!と言い残し、綱五郎と鬼吉は大熊の家に帰って行く。 戻って来た綱五郎達から事情を聞いた次郎長は、分かった、行こうと答えるが、大熊は、長五郎待て!と留める。

しかし、「すず屋」にやって来た次郎長は、あんたには恨みつらみはないが、わざわざ次郎長と名指しされたからには表に出てもらおうと店の中で待っていた侍に伝える。 あんた!と心配して付いて来たおちょうが駆け寄ろうとするが、それを大熊が止める。

余計な手出しはするなよ!と子分達を制した次郎長は、表に出てやりを構えた侍から、抜くのはお前さんの方からと勧められるが、俺はヤクザ剣法だから…と自分流を通すことにする。

すると侍は、待て!さすがは長五郎だ、話があるち言って槍をおさめると、小川先生から聞いて来た、立派なものだ、恐れ入ったぞと言い出したので、冷や汗が出ましたぜと次郎長も刀を引いて安堵し、酷いよ、お侍と苦情を言う。

尾張の伊藤政五郎(大木実)、三州吉良の教え子だと侍は名乗る。

伊藤さん、一杯やりましょうと次郎長は勧めるが、その時、伊藤は、側にいた女を見てぬい!と驚くと、持っていた槍を捨てて、立ち去る女を追って行く。

人気のない浜辺に来た伊藤は、良く良く来てくれたな、ぬい!と呼びかける。 ぬい(小畠絹子)は泣いていた。

泣くでないと伊藤は声を掛けるが、お帰りください、お願いでございます!とぬいは懇願する。 しかし伊藤は、嫌だ、俺は帰らんと答える。

足軽だった俺は、そなたの家に迎えられたが、それがいけなかったんだ。お前が愛おしくなった。

立派な侍にならねばならんと考え努力を重ねた。 槍を持っては藩中一と言われる伊藤になったが、何故人はそねむのか… 耐えられん!侍の世界に帰りとうない!と伊藤が言うと、存じております…、しかし何とぞ、伊藤家の家の名を絶やさないでくださいとぬいが言うので、俺はお前を愛おしく思うぞ。辱めも忍んできた…、お前はいつまで武家の家名に未練があるのだ?俺は1人で暮らしたい…と伊藤は答える。

ぬいは未練な女でございます…、いつまもお達者でお暮らしくださいませ…とぬいは別れを告げる。

その夜、頬かぶりをして泥酔した伊藤が黒田節を歌いながら大熊の家の前まで来た所で倒れる。 大バカものよ!伊藤政五郎…と叫んだ声で気付いて戸を開けた駿吉が気づき、お侍さんが!と玄関口で叫ぶ。

どうなさいました!と次郎長が出て来ると、次郎長親分…、見てくれと言いながら伊藤がかぶっていた頬かぶりを脱ぐと、町人風の髪型になっていたので、どうなすった?成り形まで変えて!と次郎長は驚く。

皆さん、笑ってくださるな、今日より侍稼業に愛想を尽かしヤクザになった…と伊藤が言うので、政五郎さん!と次郎長は絶句する。

わしは仁義も知らん…、稼業の何たるかも知らん…、でも子分にしてくれ!頼む!と伊藤は頭を下げる。

ある夜、出入りでござる!大戸を閉めなすっておくんなさい!と清水の町を叫んで歩く大熊の子分達の姿があった。

家では次郎長が、大熊、出かけよう!と勇んでいたが、その時、大政と呼ばれるようになっていた伊藤が、この喧嘩、待ってくれ!と止めに入る。 おめえに仁義が分かるものかと次郎長は大政を諌め、津向の文吉に喧嘩を売られた和田島の叔父貴を助けにゃなるめえと言い聞かそうとするが、大政、おめえ何か考えがあるな?と気付く。

親分はやがて街道一の親分になる男だ、仲裁役を買って出るんだと大政が言い出したので、できねえよ、今の俺の貫禄では…と次郎長は叔父気付くが、姉さん、親分に本当の男の器量があれば出来るんだ!とその場にいたお蝶に大政は話しかける。

大政!できるもんなら急ごうぜ!と次郎長も覚悟を決める。

次郎長達が喧嘩の場所の河原へ向かう途中、ぼろぼろの僧衣をまとった法印大五郎(田中春男)と言う汚い男が、喧嘩やろ?わいも一緒に行かせてくれ!と声をかけてきて勝手に付いて来る。

河原で、対岸の相手と対峙していた和田島の太左衛門に、叔父貴、待ってくれ!呼びかけながら近づいて来た次郎長に、助っ人に来たんじゃねえのか?と太左衛門は問いかける。

理に適わねえことは出来ねえ!叔父貴、今度の喧嘩はどうも腑に落ちねえと話し始めた次郎長は、きっかけは三馬政のことだって聞いたが、三馬政ってのは?と聞くと、そこに助っ人に来ていると太左衛門は言う。

確かに、近くにいた男がその三馬政(中村錦司)と分かったので、叔父貴、あれはどこの旅人だ?と聞くと、甲州の旅人だと太左衛門は言う。

甲州と言えば、津向を知ってるんだな?紬程の人だ、何か訳があるに違いねえ、この喧嘩、俺に預けてくれねえか?と次郎長が頼むと、横で聞いていた大熊が、しくじったら命はないぞと忠告する。

叔父貴、どうだろう?と次郎長が重ねて聞くと、良し、預けたと太左衛が言うので、大熊も預かって来い!と次郎長を力づける。 川向こうに向かう次郎長に、喧嘩、飯より好きや!混ぜてくれよ!と言いながら法印大五郎も付いて来る。

川向こうに控えていた津向の文吉(原健策)の前に進み出た次郎長は、自分の名を名乗って駆け出し者ですが、今夜の喧嘩のきっかけを伺いとうございますと申し出ると、三馬政は元々俺の所にわらじを脱いでいたんだが、太左衛の所に腕づくで取り返されて、その太左衛の奴が色々俺の悪口を言いふらしていると伝えて来たんだと文吉は説明する。

それを聞いた次郎長は、何か勘違いをしていなさる。三馬政なら向こうの助っ人に来ていますぜ。貸し元、奴は勝った方に付いて売り出そうとしている奴だ、そんな奴の話に乗っちゃいけねえ。

今、連れてきましょうと次郎長が申し出ると、次郎長と言ったな?この喧嘩、お前に預けてやると文吉は言い出す。

すぐに浅瀬の川を戻って、子分達全員で三馬政を捕まえると、担いで文吉の元へ運んで行く。

その後の夜「すず屋」の前には、笛を吹く男がいた。 「すず屋」に集まっていた次郎長と子分達は、あっしたちは少し旅に出ますと大熊に挨拶する。

何とかして旅に出ろよと紬の貸し元が声を掛けると、叔父貴逃げて下せえと次郎長は太左衛の身を案じると、太左衛の方も、次郎長気を付けろ!と言葉をかける。

家の周囲は役人と捕り方たちに取り囲まれており、大熊!開けろ!と戸を叩いていた。

今度は本当に私のものよ、元気でねと言いながら、お千ちゃんが簪を鬼吉に渡すので、なら、この簪を貰っとくと言って、綱五郎がお千ちゃんの髪から簪を抜くと、綱五郎さん、身体大事にしてねとお千ちゃんは言葉をかける。

簪を受け取った鬼吉は、お千ちゃん、うれしゅうていかんが!と感激する。 お蝶!と呼びかけた次郎長は、俺はこいつを連れて旅に出るぜと言うと、またお蝶の髪から簪を抜いて行く。

ぎょうさん来よりましたぜ!と外の様子を監視していた法印大五郎が言う。

外では蜷川の喧嘩で騒がしたものは出て来い!と役人達が戸を蹴破ろうとしていた。

役人達を斬るんじゃねえぜ、突き飛ばすだけだ!と次郎長は子分達に言い聞かし、残った大熊達に皆さん、お願い致しますと声をかけ、お蝶も気をつけてねと答える。

俺は縄を受けるような真似はしていない。旅に出ることにしたんだ、暴れようぜ!と次郎長が言うと、綱五郎と鬼吉が一緒にとを蹴破って外に出て行く。

表を取り巻く役人達の中に飛び込んだ綱五郎は、拳銃をぶっ放して相手を動揺させる。

翌日、役人達を逃れて無事旅を始めた次郎長達は、歌を歌って歩いていたが、親分、一雨来そうですぜと空を見上げて大政が言うと、良い所、知ってますねんと法印大五郎が言い出し、近くにあった無人寺に案内する。

わい、これでも街道中の寺を知ってますと大五郎は自慢するが、どこまで付いて来る気だ?とさすがに綱五郎が呆れたように聞いて来る。

何日も風呂に入ってないせいか、大五郎の体臭にはみな閉口していたからだ。 親分、子分にしてくれはりますやろ?と大五郎が甘えて来たので、どうする?と大政は次郎長の意見を聞く。

買っての付いて来るものを追い返す訳にもいくめえ、薄汚えが根は良さそうだと次郎長があきらめ顔で言い、子分にしてやるが仲良くするんだぞと大五郎に言い聞かす。

旅を続けることになった次郎長達は、道で刀を抜き合っている一行に出くわす。

若い美男子と一緒の娘おきね(御影京子)が、助けてください!仇討ちです!と助勢を頼んで来て仇はあいつだ!と美男子も言う。 次郎長は、大政に任せることにする。

何者だ?と大政が聞くと、そっちから名乗っては?とからかって来た美男子は増川仙右衛門(津川雅彦)と名乗り、赤鬼の金の所の源衛門を叩き出したら、姫の為五郎の子分達が襲って来たんだと言う。

赤鬼の金平親分には俺から話をしてやると次郎長が声をかけてやると、俺の勝てる勝負だが、親分に預けますと増川は言って、おきねと立ち去って行く。

その後、次郎長は今夜は豪勢な所に泊まらせてやると言い、昔付き合いがある沼津の佐太郎と言う男がやっている駿河屋と言う店に子分達を連れて行く。

ところが、記憶にある場所にその店はなく、しばらく近くを探しているうちに、薄汚い駿河屋を見つける。

それを見た次郎長は、昔はもっと豪勢にやってたんだがな〜?と首を傾げる。 中の様子を探ろうと鬼吉が入り口から入ろうとするので、次郎長は勝手口から入るんだと注意する。

こっそり中に入り、こちらは沼津の佐太郎さんの家でしょうか?と鬼吉が声を掛けると、奥から、又博打行ってたの!と怒鳴りながら出て来たお徳が、鬼吉だと気づくと、うちはヤクザと付き合いはありません!と睨みつけて来る。

驚いて次郎長に伝えると、次郎長も不思議がるので、今度は大五郎が入り口から、ごめんやす!と言いながら入ろうとすると、家の人は留守や!入ったらいかん!とお徳が叱りつけて来る。

諦めて店から立ち去ろうとしていた次郎長は、前からやって来る男を見て、佐太郎さん!と呼びかける。

佐太郎(藤山寛美)は、長五郎はんやないか!皆さん、子分さん?と次郎長が連れている面々を見て驚きながらも、中に入ってくださいと勧めるので、今、断られた所なんだと次郎長が説明すると、そんなアホな…と言いながら、佐太郎が今帰ってでと声をかけながら入り口の戸を開けようとするが何故か開かない。

何とか開けて、おとく!と奥へ呼びかけた佐太郎は、こんな汚い所に入ってもらわなあかん…と恐縮しながら、顔を出した乙訓、長五郎はんや!と次郎長を紹介する。 おとくさん、お久しぶりです!と次郎長は声をかけ、佐太郎に二階へ案内される。

汚い所やけど、本陣宿やさかいなどと言いながら、佐太郎は座布団を配ろうとするが、どれもわたがはみ出ているようなボロ座布団ばかりだったので、佐太郎はごまかすしかなかった。

何も愛想ないけど酒だけは…と言いながら下に降りた佐太郎だったが、見ると、おとくが自分の着物をタンスから出している所だった。

堪忍やで、男同士の付き合いと言うのがあって、ない袖を振らなあかんのやと佐太郎が詫びると、おとこは分かっているよと言いたげな顔で、質屋に向かう。

その直後、二階からそっと降りて来た次郎長は、少ない酒をお銚子に分けていた佐太郎に自分の財布を差し出し、わらじ銭くらいはある、受け取ってくれとこっそり声をかける。

それをありがたく受け取った佐太郎は、前は盛大にやってたんや、それが悪い病気が出てもうたんや…、女房は良い奴なんや…と言うので、そうだったのか…、出来ることなら博打を止めて、清水に来てくれ。俺も何とかお前達2人くらいできるようになったから…、このことは誰にも言うんじゃねえぞ、おとくさんにもな…と言い聞かした次郎長は、お銚子を受け取って又二階へ戻って行く。

その直後、つまみの入った岡持と徳利を持ったおとくが帰って来て、まだ次郎長から貰った財布を手に持っていた佐太郎に気づき、それ、どないしたんや?何で私に隠すんや!と聞いて来る。

財布を受け取り中を確認したおとくは、ぎょうさん入っとるやないか!と驚く。

バレてしまった佐太郎が、隠すつもりはなかったんやけど、長五郎はんにこっちの懐具合悪いの丸分かりや。

俺の顔潰さんように言うてくれたんやと白状すると、これ返して来て!あんたも長五郎はんの兄貴分やろ?気悪いやろ?とおとくは財布を差し出し、後はあてに任しとき、何とかなる!と言うので、おとく!これやっぱり返した方がええな!返そう!と佐太郎も納得する。

二階へ上がって、次郎長を廊下に呼び出した佐太郎は、あんな…、これやっぱり返しとくわ。おとくに怒られたんや。見つかったんや…と打ち明ける。

その直後、店を訪ねて来たのは、増川仙右衛門とおきねだった。 客かと思って断ろうとしたおとくに、お客の次郎長親分に用があるんだと増川は言い、おきね、疲れたろう?足もんでやろうと優しく労る。

二階から次郎長とともに様子を見に降りて来た大五郎が、何やボンボンかいなと驚く。 親分、三島の様子を探りに行きました。あの2人が金平の所に入りましたから、ただじゃすまないと思いますと増川が言うので、そんなに難しいか?と次郎長は表情をこわばらせる。

大政は、あずかってやると言ったら、ちょこまか嗅ぎ回るようなこと真似はしねえで、黙って日込んどいたら良いんだぞ!と余計な真似をした増川を叱りつける。 妹はんやろ?とお杵のことを大五郎が聞くと、俺の情婦(イロ)だよと増川は平然と答える。

おきねさんとか言ったね?親御さんは何してる人だい?と次郎長が聞くと、三島で笊屋をやっておりますとおきねが答えたので、堅気のくせに駆け落ちしちゃいけないよと諭すと、親父に口聞いてもらいたい、お願いしますと増川が頼んで来る。 親分、どうします?と大政が聞くと、佐太郎さんに言って、今晩一晩だけでも泊めてもらおうと次郎長は言う。

佐太郎は増川とおきねを下で寝るように指示する。

二階では、綱五郎が、親分は人が良すぎらあ…と呆れていた。 深夜、おきねが寝た後、着物を質に入れた金を佐太郎に見せ、こんだけや…、前の分の利息を取られたんやとおとくは情けなさそうに報告する。

すると佐太郎は、長さん、俺の所に泊まっているんやから、預かっといてくれと言うんやと、さっきの財布を取り出してみせる。 おとこは言い聞かすように、返さなあかんやろ?私たち堅気なんやからわらじ銭のうても良いんや…と言う。

家はあの娘と寝るからな…とおきねと同じ部屋におとくが入ると、ご主人!と佐太郎に声をかけて来たのは、まだ寝入ってなかった増川だった。

起きてたんか!と佐太郎が困惑すると、金のことなら心配入らない、俺に任してくれと言いながら増川は頬かぶりをしながら、おめえ、表で待っててくれなどと言うので、お前、どこ行くねん?と佐太郎は聞く。

階段を登って二階へ上がった増川は、次郎長達の着物を全部持ち出して降りて来ると、佐太郎と一緒に賭場にやって来る。

増川は最初は勝ち続けたので、付いて来た佐太郎は、これでわらじ銭が出来た、帰ろうと勧めるが、増川に帰る様子はなく、続けて丁に張るろ負けてしまったので、金がねえなら帰らなあかんやろうとぼやきながら立ち上がるが、佐太郎の様子がおかしいので、金、あるのか?と聞いて来る。

この金は絶対負けられへん金や!と佐太郎が次郎長から預かった財布を握りしめて言うと、金出せ!勝負にならん!と増川は言って、又勝負に戻って行く。 翌朝 目覚めた次郎長と子分達は、みんな着物がなくなっているのに気付き、寒さに震え上がっていた。

まさかこんな家に泥棒が入る訳ないんやけどな〜と大五郎は首を傾げる。

ひょっとしてご亭主とあの小僧が!と綱五郎は犯人の目星をつけるが、間違っていたらこちらのご主人に迷惑がかかると大政が諭す。

下に降りると、佐太郎と増川がいやへんわとおとくが言っているではないか。

外に出てみると、入り口の端で、裸になった増川と佐太郎が震えていた。

いてもうたんや…と佐太郎は身を縮めて言い、増川は皆さんの着物を拝借してパーだ!と開き直り、着物は返します、こいつを奉公に出して、その前借りで皆さんの着物をお返しします…などとおきねを捕まえて言うので、次郎長は思わず増川を殴りつける。

てめえ、それでも男か!博打が出来たら一人前の男とでも思うのか!親に免じて国に帰れ!と次郎長は叱りつける。

すると増川は、親分!俺のおふくろはな、親父が死んだ後、男を家に引き入れて、俺をほっぽり出したんだ。俺には帰れったって、帰る当てもねえ!おふくろもねえ!俺にはおふくろなんていねえんだ!と叫ぶと次郎長に抱きつく。

結局、次郎長一家は増川も子分にして、全員裸で佐太郎の駿河屋を後にすることになる。 長五郎はん、堪忍やで…と佐太郎が詫びると、大丈夫だよと言いながらも次郎長はくしゃみをする。

去って行く次郎長達を見送りながら、おとく、長さん、立派になりはったな点、今に街道一の親分になりよるで…と佐太郎は話しかける。

道ばたに腰掛けて休んでいた森の石松(長門裕之)は、半股引にさらしと言った半裸姿で街道を走って行く次郎長一家を見かけ、裸!と愉快そうに笑って見送る。
 


 

 

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