白夜館

 

 

 

幻想館

 

ふたりのイーダ

夏のある日、田舎の古びた洋館で、幼い兄妹が怪異に遭遇する…という、まるで「となりのトトロ」のような牧歌的でファンタジックな要素(実際、劇中に登場素つ洋館のイメージは「となりのトトロ」に出て来る屋敷に似ているようにも思える)と、原爆症の発症におびえる被爆女性の再婚までに至るリアルな大人の葛藤劇が平行して描かれている。

正直な所、この全く異質な二つの要素が観客を戸惑わせるのではないかと思われる。

子供向けにしては、被爆した母親とその両親の苦悩が理解しにくいだろうし、後半、かなりショッキングなホラー的表現も出てくる。

逆に大人向けとしては、ゆう子を乗せた椅子が庭先をふわふわ飛び回ったり、イーダの死を知らされた椅子が、その言葉を信じられずに一人で広島まで旅をするなどといった、いかにも幼児発想表現がどこかしらじらしい。

原爆の残酷さ、悲惨さを訴えようとする意図は、頭ではわかるのだが、画面として観る限り、さほど強烈に胸に迫るものがないのだ。

例えば、「原爆死」と刻まれた墓碑のアップをいくら強調されても、その「原爆死」なるものが、具体的にイメージできない大半の観客(子供も含め)にはピンと来るはずもないのである。

子供を意識して、具体的な被爆の残酷描写を避けたと言うのも分からないではなく、この種のメッセージ映画の表現の難しさを痛感した。

いわさきちひろさんの童画タイトル、2才児くらいの誠に愛くるしいゆう子ちゃんの笑顔、祖父役とはいえ、まだまだ自転車を乗り回すほど元気だった森繁、祖母役には可哀想なほど若々しい高峰秀子、巧みな仕掛けで動く椅子のテクニックなど、見所はいくつもあるのだが、作品としては今一つと言うしかない。

子供から大人まで万人向けにと意図したことが、逆に、どの層にとってもあまり面白く感じられない中途半端な結果にさせた原因ではないだろうか。

とはいえ、決して悪い作品ではなく、少年の一夏の経験といったジュブナイルタイプの映画好きには一度は観て欲しい作品ではある。

プロデューサーの山口逸郎氏のお話だと、原作を読んだ山口氏が松山監督に読ませた所、気に入られ原作者の松谷みよ子さんに許可を貰いに行った所、既に山田洋次監督のお嬢さんが山田監督に映画化を勧めているとのことだったので、山田監督に脚本をお願いしてみた所、あっさり承知していただいたと言うことらしい。

劇中に登場する椅子は、てぐすを使って動かしたらしい。
▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼
1976年、映画「ふたりのイーダ」プロダクション、松谷みよ子原作、山田洋次脚本協力、松山善三脚本+監督作品。

いわさきちひろさんのイラストを背景にタイトル、キャスト、スタッフロール(ぎっちょん、ぎっちょん♩機織れ、機織れ♩と幼女の歌う声が重なる)

電車が何台も通過する。

団地

そこから出て来た相沢美智(倍賞千恵子)は、先に下に降りて待っていた長男直樹(上屋建一)と長女ゆう子(原口祐子)の所に来ると、一緒に出かける。

東京駅前に停めた車から降り立った広岡研二(山口崇)は、駅構内の売店で、急いで弁当3つ購入すると、ホームで出発を待っていた列車の窓を叩く。

直樹とゆう子が気づき、美智が驚いてデッキの所へ行くと、弁当を渡しながら、送りに来たんじゃないんだ、君の顔を見に来たんだ、後、追いかけるから!と伝えた広岡は、又窓の所へ行くと、ホームからおどけた顔を見せる。

眼鏡、きらい!とゆう子は言うが、そんなこと言うなよ、広岡のおじちゃんは好きなんだから…と直樹が言い聞かせる。

そんな子供達と一緒に席に戻って来た美智は、弁当と一緒に渡された手紙を開いて読む。

キャメラマンは2日遅れても良いとデスクが言うので後から向かう。仕事が終わったら君のお父さんに会うつもりだ、その前に君の気持を聞かせてくれと書かれてあった。

花浦駅のホームでは、美智の両親須川利一郎(森繁久彌)と菊枝(高峰秀子)が、娘と孫達が乗る列車が着くのを今は遅しと待ち構えていた。 列車が見えると、来た!と2人とも大喜びする。

車で利一郎の家に到着する。

木に蝉がとまり鳴いていた。

菊枝がかき氷を孫達のために持って来る。

美智は、父親のためにスコッチウィスキー、菊枝のために浴衣を土産として渡す。

2人とも預かってもらうんだから…と千枝は言うが、今晩広島に行くのか?と利一郎は聞き、一晩くらい泊まって行けば良いのに…と菊枝も寂しがる。

その間、直樹は捕虫網を手に蝶を追って外を走り回っていたが、川の所で取り逃がしてしまう。

その時、直樹は、川の中から黒い水がわき出して水面に広がるのを見る。

不思議に思い周囲を見渡すと、歩いている木の椅子を発見、椅子だ!椅子が歩いている!木の椅子が歩くなんて!と驚きながらも、好奇心には勝てず、後を付け始める。

椅子が歩いて行く(ワセリンかなにか塗ったようなフィルター処理)

川面を蛇が泳いだり、アメンボが浮いている。

山の上の 一軒の洋館の二階の窓から鳥が飛び出して来る。

直樹はその屋敷に玄関ドアから入ろうとするが、鍵が閉まっているのか開かない。

しかし、次の瞬間、強い風にあおられて応接室のガラス窓が開く。 中を覗き込んだ直樹は、いない…、どこにもいない…と呟いている木の椅子を発見する。

須川家では、美智とゆう子と菊枝が、お寺の和尚さんがカボチャの種を撒きました!と言いながら遊んでいた。

テーブルの前に座った利一郎は、ゆう子からビールを注いでもらいご機嫌だった。

もう一本貰おうかと利一郎がねだるので、さっき貰ったウィスキーを飲みんさったら?と菊枝は勧めるが、あれはとっとくと言うので、直樹ちゃん、栓抜いてやって!と菊枝はビールのお代わりを頼む。

おじいちゃん、この辺にお化け出る?と急に直樹が聞いて来たので、お化け?と利一郎は聞き返し、河童なら出るちゅう噂があるけど…と菊枝が答える。 あんたがいなくなったら、ゆう子が泣きゃせんかな?と菊枝は、すぐに出かけようとする美智に声をかける。

すると、あたし泣かないとゆう子は言う。 一方、直樹が妙に元気がないので、お兄ちゃん、元気ないわね、すぐ帰って来るからねと美智は声をかける。

その時、ゆう子が、イーだ!と顔をしかめてみせる。

いつもこう言うのよ、泣いたら、イーダちゃんって呼んでやってねと美智は菊枝に頼み、明日7時の船で島へ行くのよと説明するが、その間、直樹は正座して何事かを考え込んでいた。

翌日、美智は小舟で海上プラントへ向かっていたが、途中で広岡からの手紙を破って海に捨てていた。

利一郎は自転車で農事試験場へ向かう途中、小倉と言う家の前で、今年も虫が出るかもなどと話していた。

試験場に到着した利一郎は顕微鏡で稲の様子を見ていた。

やがて雷が鳴り始め、夕立が振り始める。

ゆう子は菊枝と一緒にてるてる坊主の歌を歌いながらてるてる坊主を作っていた。

利一郎は気象庁に電話をかけ、雨は止むのか止まんのか!孫達がトンボ釣りに行けんけん!と無茶な質問をしていたが、止む?ほんまじゃろうの?と念を押す。

その頃、直樹とゆう子は下着姿になって庭先に飛び出し、雨にわざと濡れて遊んでいた。

その後、利一郎は自宅の菊枝に電話を入れ、大きな虹じゃけんと知らせていたが、菊枝は今2人とも昼寝じゃと言うので、お前だけ見とけ!と利一郎はつまらなそうに言って電話を切る。

菊枝は2人の孫の寝顔を見て、良う寝とるの…、虹よりお前達の寝顔の方がよっぽどきれいじゃと目を細める。

(アニメで)大きな虹がかかる空の上から大きなブランコが吊り下がっている。

その横に立っている直樹とゆう子の顔写真付きイラスト。 虹を渡っていた2人だったが、途中、虹の真ん中に穴が置いており、直樹はそこから落ちてしまう。

落ちた所には木の椅子があり、その木の椅子から直樹は追いかけられる。

目が覚めた直樹は、隣で寝ていたはずのゆう子がいないので、ゆう子?と呼びかけながら外に探しに行く。

やがて直樹は、あの無人の洋館の前で1人遊びしているゆう子を発見する。

ゆう子は庭先の花を摘みながら、「お花のサラダですよ、ご飯出来たよ!早く食べてください!」とおままごとをしていた。

美味しい?は~い、待ってて!と誰かに返事をしたゆう子は、鍵がかかっていたはずの入り口のドアを開け中に入って行く。

中を覗き込んだ直樹は、ゆう子があの木の椅子に腰掛けているのを見つけ、椅子だ!あの歩く椅子だ!と驚く。

ゆう子はどうしてここに来たんだろう? 椅子と仲良く遊んでいる…、怖くないのかな?何か椅子がしゃべっているらしい… でも直樹少年の耳には何も聞こえませんでした。(とナレーション)

それでも妹のことが気になるので、玄関ドアをノックして、ごめん下さい!と声を掛けると、ドアはあっさり開く。

所が中に入ると、背後で戸が閉まったので直樹は驚く。 おかしな家だ…、誰か人が住んでいるんだろうか?まるでお化け屋敷じゃないか… この中に入ると蝉の声も聞こえなくなってしまいました。

それでも勇気を出して直樹が奥へと進むと、そこには木彫りの人形が下がっていた。

ゆう子!と呼びかけると、どこからかゆう子の笑い声が聞こえて来る。

ギッチョン、ギッチョン♩米搗け、米搗け♩と歌いながらユーコは木の椅子に載って歌っている。

それ、お化けの椅子だぞ!と直樹が声をかけても、はいじ、はいじ♩私のお馬♩とゆう子は歌い続ける。

さよならあんころ餅、又きな粉!さよならあんころ餅、又きな粉! ゆう子が歌うと、彼女を乗せたまま椅子が空中に浮かび上がる。

直樹はゆう子を助けようと、浮かんだ椅子の足を引っ張り降ろそうとする。

放せ!と怒りだす椅子。 このお化け椅子め!ともみ合っていた直樹は、階段を転げ落ちてしまう。

ゆう子も泣き出し、椅子は直樹の足を噛もうとする。

お母さ~ん!と助けを呼ぶ直樹だったが、靴が抜けたので何とか足が抜ける。

農事試験場にいた利一郎に菊枝から電話があり、直樹が熱を出したと言うので、お揃いて本城医院の先生と看護婦を呼ぶと、早よ、早よ、先生!と急かして自分は自転車で自宅に帰る。

自宅で寝ていた直樹を診察した本城医師は、大したことないなと拍子抜けしたように言う。

聴診器を当てられていた直樹は、思わず母さん!と呼ぶ。

利一郎は宿で原稿を書いていた美智に電話を入れ、直樹が熱を出したことを報告する。

お医者さんは何と?と聞かれた利一郎は、軽い日射病って言ってたと答えるが、その時起きて来た直樹が電話を取り上げ、お母さん?あのね…と側にいる利一郎を気にしながら、仕事すんだらすぐ帰って来てね!お母さんに話したい事があるんだ…と言うと、また、側でビールを飲んでいる利一郎を気にし、何でもない、おやすみなさい!とだけ言って電話を切る。

電話を終えた美智はちょっと案じるが、そこにやって来たのが広岡だった。

しゃかりきで仕事して来たんだぜ、手紙読んでくれた?と広岡は嬉しそうに話しかけるが、あんな手紙書かない方が良いわ、私、3つもあなたより年上よ、もっと若い女性をもらいなさい、こんなセコハンじゃなくて…と答えた美智は、お風呂入ってらっしゃいと勧める。

謎の洋館の中の椅子は、もやのような中に佇んでいた… 椅子は何を考えているんでしょう? 昔を思い出していたのです。

この家にはおじいちゃんとイーダちゃんが住んでいました。

ある日、2人は揃ってどこかへ出かけて行き、それから何年経っても戻ってきません。

椅子は昨日も京も待ち続けていたのです。(とナレーション)

イーダ、お前はどこへ行ってしまったんだ?と椅子が呟く。

防空頭巾をかぶったイーダのイメージ 玄関先には大人用の下駄と赤い幼児用の下駄が並んでいた。

翌朝、起きた直樹はすっかり見違えるように元気になり、菊枝が作った卵焼きの朝食をがつがつ食う。

梅干しじゃと菊枝は勧めるが、直樹は首を横に振っ手をつけない。

利一郎は、氷枕は日陰にな…と独り言を言いながら、水を抜いた氷枕を物干竿にかけていた。

その時、k路クエが庭先にいた蝶蝶を発見する。

からすアゲハだ!と気付いた利一郎と菊枝は、揃って捕虫網を持って外へ飛び出して行く。

川の側で利一郎が何とかアゲハを捕まえるが、それを網から取り出そうとした菊枝が逃がしてしまったので、孫が喜ぶと思ったのに!と利一郎は怒るが、その直後、2人は蜂に追われて逃げ出してしまう。

その頃、直樹はまた、謎の洋館を覗きに来ていた。

すると、木の椅子の方から、待っていた、上がんなさいと話しかけて来る。

屋敷の中に入った直樹は暗くて木の椅子の姿を見つけられなかったので、おい、どこにいるんだよ?と怖々周囲を見回しながら、カーテン開けるよと言いながら、窓ガラスのカーテンを引っ張るが、カーテンごと上から落ちて来て直樹の頭にかぶさってしまう。

パニクった直樹が暴れているのを見た木の椅子は笑い出す。

私は嬉しいのだ、イーダが帰って来たから、ところが私のイーダをお前はまたどこかへ連れて行ったと椅子が言うので、ゆう子は東京からお母さんが連れて来たんだ!と直樹が反論すると、嘘をつくな!嘘をつくと閻魔さんから舌を抜かれるぞ!イーダのお母さんは死んだ!と椅子は怒る。

それを聞いた直樹は、君は何か勘違いしてるんじゃないか?と言い返すが、あの子はイーダだ、ただいまって帰って来たと椅子が言うので、ボクはゆう子の兄ちゃんだぜと直樹が教えると、じゃあ、お前もこの家の子だと椅子は言う。

アンデルセンの童話に「イーダちゃんの花」と言う本があるぞと直樹が教えると、イーダちゃんのお母さんが元気だった頃、その本が好きだったと椅子が言うので、家のゆう子はイーダじゃない!と直樹は言い聞かせるが、じゃあどうしてこのうちに帰って来たんだ?と椅子は反論する。

このうちに住んでいた人は誰?と直樹が聞くと、おじいちゃんとイーダちゃんに決まっているじゃないか!あれを見ろ!と言うが、大人用と子供用の茶碗が伏せてあるだけで、 壁の奥には昭和天皇と皇后陛下の御真影が飾ってあったりした。

そのおじいちゃんはどこ行ったんだい?と直樹が聞くと、椅子は、知らん、昨日2人で出かけて行ったと言うので、そんなはずがないと直樹が否定すると、昨日の昨日かもしれんと椅子は混乱し始める。

もっと先じゃないのかい?と直樹は言いながら、壁にかかったカレンダーを見ると「(皇紀)2605年 8月6日」になっているではないか。 おなしいな?今は1976年のはずなのに…と直樹は首を傾げる。

イーダ、おかえり!遅かったね。私のイーダ、どこへ行ってたんだ?とゆう子に椅子が語りかけると、スイカを食べて来たのと言いながら、ゆう子は椅子に腰掛ける。

そして、さよならあんころ餅、またきな粉!と歌いながら、洋館の外に出て椅子と遊びだす。

暑いから帽子かぶりましょうと言いながら、ゆう子は椅子の背もたれ部分に無理矢理自分の帽子をかぶせようとしたり、怖いお目めを取りましょうなどと言いながら、背もたれ部分にある目のような飾りを突こうとする。

その時、椅子が、誰だ!そこにいるの!と声を荒げるが、それは玄関ドアから外をこっそり覗いていた直樹のことだった。

私と一緒にあの空を飛ぼうと椅子が言い出すと、又椅子はゆう子を乗せたまま空中に浮かび上がる。

外に飛び出して来た直樹は、ゆう子!それはお化け椅子だぞ!と浮かび上がって飛んでいる椅子に腰掛けたゆう子に向かって呼びかける。

直樹は洋館の中にまた入り、階段を上がって二階の部屋を開ける。

そこはたくさんの人形が置いてあるイーダちゃんの部屋だった。

その日本人形、西洋人形の量に圧倒された直樹は恐怖を覚え逃げ出すが、階段を駆け下りる途中で腐った板を踏み抜いてしまう。

それでも、壁にかかっていた謎のカレンダーを持ち出し、須川家に走って帰る。

その姿を、両手にスイカを下げて帰って来ていた菊枝が見かけ、直樹!と呼びかけるが直樹は気付かないようだった。

埃まみれになって帰って来た直樹に、どこ行っとったんじゃ?と聞いた利一郎は一緒に風呂に入ることにする。

ゆう子も風呂上がり、裸で部屋の中を駆け回るので、菊枝がバスタオルで包んでやるが、ゆう子が不思議な手鞠唄のようなものを歌っているので、どこからそんな変な歌覚えて来たんじゃ?と不思議がる。

30年前、山の椅子は、広島やヨーロッパで戦争が起こり、たくさんの人が死んだことを知らなかったのです。(とナレーション)

お母さん、早く帰って来てね!お化けが出るんだよ!と直樹は電話で美智に伝えるが、椅子がしゃべる分けないじゃないと美智は呆れるだけだった。

広岡は、海上プラントの写真を撮りまくっていた。

しかし、美智がお寺さんに原爆の話を聞きに行くと言うので、今回の記事は瀬戸内海の若者と言うテーマじゃなかったのかい?と広岡は戸惑いながらも付いて来る。

しかし、島の住職は美智の原爆の取材を快く思ってないようで、自分の写真を撮りまくる広岡に、止めんか!と叱りつける。

分からなければいけないと思っていますと美智が原爆取材の必要性を説得しようとすると、住職はマッチを取り出し、その内の2本をつまんで火を点けると、左手の指をその炎の中に差し込みながら、あんたもこの中に手を入れてみい!みんな火に焼かれて死んでしもうた…、あんたも入れてみんさいや!と住職に言われた美智は絶句してしまい、その場を逃げ出してしまう。

広岡も慌てて後を追い、だから止せって行ったじゃないか!何故今頃被爆者の話を聞くんだ?きれいな写真や若者の話を書いていれば良いじゃないかと美智を捕まえると言い聞かせる。

すると美智は、私も被爆者なの…、誰にも言ったことなかったけど…と言い出したので、それがどうしたと言うんだ?と広岡は詰め寄る。

美智は泣き出していた。 物置に隠しておいたカレンダーを取りに来た直樹は、利一郎に捕まり、やっぱりお前か!こんなものどこから持って来た!と叱られたので、拾ったんだと嘘を言うと、30年も前のカレンダーだ、道に落ちてるはずないじゃないか!どっから盗んで来たんだ!と利一郎は追求する。

すると直樹は諦めたように、おじいちゃん、誰にも言わない?人に絶対言っちゃダメだよと念を押した上で、ボク、歩く椅子を見たんだ…と打ち明ける。

すると利一郎は、母屋の書斎から原爆関連の資料集を出して来て直樹に見せる。

それを見た直樹は、長崎にも原爆落ちたの?と驚いたようだったので、1発でも酷かったのに…と利一郎は呟く。

その後、直樹は利一郎を連れ、問題の洋館に案内する。

あれだよ、おじいちゃんと教えられた利一郎は、あれか…、宗像さんのうちだよ…と答える。

いくつくらいの人?と直樹が聞くと、生きてりゃ、もう100歳くらいじゃの…と言いながら、洋館の中に入った利一郎は、人のうち来たら帽子取るんだよ!と直樹の頭を叩く。

そして、どこに掛かっとったんだ?このカレンダーと直樹に尋ね、カレンダーを元の場所に戻すと、歩く椅子ってのはどれだ?と聞く。

直樹があれ!と教えると、おい!こっち向け!などと椅子に呼びかけた利一郎だったが、動かんじゃないかと言うので、変だな…と直樹も困惑する。

お化けが出たんで持って来たのか?もう持って来ちゃいかんぞと直樹に念を押した利一郎は、首筋に何か触ったので取り上げると、天井から落ちて来た枯れ葉だった。

口も聞くんだよと直樹は教えるが、その時、利一郎は、玄関に並べてあった赤い小さな子供用の下駄を見つける。

利一郎が先に帰って行ったので、直樹が1人屋敷に戻って来ると、又椅子が動いたので、どうしたんだい?と聞くと、出て行ってくれ!無断でこのうちに変な男を連れて来るな!と椅子は怒りだす。

僕たちのおじいちゃんなんだ、僕とゆう子のだ、イーダちゃんは別の子だと直樹は説明しだす。

これは30年前の8月6日のカレンダーだ、もし君のイーダちゃんが生きていたら大人だよ。

30年前の8月6日のことなんだ、僕は僕のおじいちゃんに聞いたんだ。 昔、ここにはおじいちゃんと可愛い女の子が住んでいたんだ。

2人は朝早く広島に行ったきり2度と帰って来なかった。 原子爆弾で死んでしまったんだと直樹が教えると、そんな嘘で私をだまそうと思っているのか!イーダは生きている!と椅子は怒る。

その時、私を呼ぶイーダの声が聞こえるぞ!と椅子が言い出し、ただいま!とゆう子が屋敷の中に入って来る。 私とイーダの邪魔をしないでくれ!と椅子は命じるが、直樹は家から持って来た広島の原爆写真集を椅子に見せる。

広島に行ったイーダとおじいちゃんはこうやって死んだんだ、あの子は僕のゆう子だ!もうこんなうちに来るもんか!と直樹も切れるが、あの子が私のイーダと言う証拠を見せようと椅子は言い出し、背中にきれいに並んだ3つに並んだほくろがあるはずだと言い出す。

それを聞いた直樹は、あるもんか!見せてやる!と言うと、ゆう子の上着をその場で脱がし、背中を椅子に見せてやる。

どこにほくろがあるんだ!これは僕の妹のゆう子だ!と直樹は言い残し、ゆう子を連れて帰ってしまう。

1人になった椅子は泣き出し、広島の悲惨な写真を思い出す。

利一郎は家で、灯籠に文字を書いていたが、直樹の様子がおかしいので、熱でもあるんじゃないのか?と案じ、菊枝もおかしな顔して…と直樹を見る。

その時、無言だった直樹は庭先から外を見て、お母さん!と呼びかけながら飛び出して行く。 仕事を終えた美智が帰って来たのだった。

僕ね、可哀想なことしちゃったんだ…、イーダの椅子にと打ち明けると、何言ってるのよ?と抱きつかれた美智は戸惑い、明日、広岡のおじさんと会えるのよと伝えると、今度は直樹の方が戸惑う。

椅子は広島に行ってみようと決心しました。(とナレーション)

もし広島が焼け野が原だったら…、イーダちゃんが怪我して泣いていたら、おぶって帰って来よう。

椅子はこの目で広島を見て帰って来ようと思ったのです。(とナレーション)

椅子は道路の真ん中まで歩いて行って停まっていると、そこに通りかかったトラックの運転手(砂塚秀夫)が降りて来て、面倒くさそうに椅子を掴むと荷台へ放り上げてしまう。

どんなに酷い目に遭っても、イーダちゃんに遭うまでは我慢しよう!と意志ははを食いしばって頑張りました。(とナレーション)

利一郎がビールを飲みながら本を読み、菊枝もビールを注いでやりながらお茶を飲んでいる所へ、浴衣姿になった美智がやって来て、何してるの?と聞くので、坊主とゆう子のセーター編んでやろう思うて…と菊枝は答え、相談したい話って?と聞く。

お母さん、私、結婚しようと思うのと美智が切り出すと、美智!止めなさい!わしら原爆に遭うとるんじゃ!と菊枝は反対する。

でも、お母さんも私もこんなに元気じゃない。

今、広島に来てるの、その人、明日、原爆ドームの前でその人に会う約束してるのよ。

会ってちょうだい、お墓参りの後でも先でも…と美智は頼む。 翌日 お寺の鐘が鳴り、原爆の日の行事が始まろうとしていた。

汽車で広島に向かっていた利一郎は美智に、子供は敏感じゃに、お前の様子がおかしいと気づいたんじゃろうと話しかける。

隣の座席で直樹が黙り込んでいたからだ。

何か怒っとるんか?と利一郎が直樹に聞くと、じいちゃんは信用しないだろうけど、椅子は動いているんだ。

今朝言ったら椅子がいなくなっていた。

どこかしらないけど、イーダちゃんを探しに行ったんだと直樹は言う。

動く椅子は、道路上のゴミ捨て用のポリバケツの横に捨てられていたが、残飯を捨てに来たコックが、側に置いてあった椅子もポリバケツの中に捨ててしまう。

ラーメンまみれになりながらも、臭えな〜とぼやきながら椅子は自力でポリバケツから抜け出すと、又1人で歩き始める。

途中、道路上に停まっていた椅子に気付き、持ち去ろうとした通行人もいたが、すぐに元の場所に戻して行く。

原爆ドームの前で待っていた広岡に、美智は駆け寄る。

利一郎、菊枝、美智たちは、一緒に墓参りをし、広岡は墓の入り口の所で見守っていた。

利一郎は十字架を持っていた。 これ、誰の墓?と直樹が聞くので、おばあちゃんのお父さん、お母さん、姉さん、そして妹達だと利一郎は教えてやる。

原爆ドームのイメージ

墓の横に刻まれた名前を手で触りながら、成仏で金じゃろうが、私らにはどうすることも出来んと言いながら菊枝は泣き出す。

そして、入り口の所で見守っている広岡を見て、美智、あの人はお前が原爆に遭うとるのを知っとるのか?と聞く。

話したわ、私…、お父さんと美智が答えると、あん人にも、お線香あげてもらおうかな?と菊枝が言い出し、仏様も喜びなさるじゃろうと利一郎も賛成する。

美智はすぐに広岡の側に行き、お母さんがあなたにもお線香をあげて欲しいって言ってるのと伝える。

一年に一度、広島に帰って来るべきだって、私、今始めてそう思えたの。

先月貧血で倒れた時、始めて原爆の文字が飛び込んで来たの…。 30年忘れていたわ…と美智が打ち明けると、貧血!それで被爆者の話を…と広岡も驚いたようだった。

広島に来た本当の目的は原爆病院で診てもらうことだったの。

生きていきたい…と美智が言うと、大丈夫だと広岡は励まし、明日正式にお父さんに会うよと広岡は約束する。

明日病院の結果が出るわ、それまで待ってと美智は頼む。

悲しみの涙が町にあふれていました。 椅子は広島でたくさんの人が死んだことを知ったのです(とナレーション) いない…と椅子は途方に暮れていた。

暗くなって、川で灯籠流しが始まる。 美智、菊枝、直樹が川に持って来た灯籠を流しているのを、ゆう子を抱いた利一郎と広岡が見守っていた。

美しいと言うか悲しいと言うか…と広岡が灯籠の印象を語ると、人魂じゃ…、家に来てビールでも飲まんか?あんたは正直そうな人じゃと利一郎は誘う。

すると広岡は、明日改めて伺います。お願いしたい事がありますからと広岡は言う。

川面に浮かぶ灯籠に手を伸ばそうとした菊枝に気付いた直樹が、おばあちゃん、危ないじゃないの!と身体を支えると、死んだ姉さんが川の底から呼んだような気がしたの…と菊枝は答える。

あの椅子、お墓詣りに行ったんだ…と直樹は呟く。

川の側で流れて来る灯籠を見ていた椅子は、イーダが死んだら私も死ぬと言い、自ら川の中に身を投げる。

イーダ! 川底から出現した手が椅子の足を掴んで来る。

手はたくさん出て来る。 誰だお前は!と椅子が聞くと、私は郵便局の浦に住んでいた狸穴妙子!30年前川に落ちて死にました。

父と母はいまだに探しています。私がここにいることを伝えてください。

お願いします!お願いします! その時、別の手が、待ってくれ!と椅子に呼びかける。

俺の骨も披露に来るよう言ってくれ。 30年、待って、待って、待っていたんだ。

誰かが俺の骨を拾いに来るのを待っていたんだ。 愚痴を言うんじゃない。 手足は火傷で、何が起こったのか俺は知らない。

俺には優しい女房がいたんだ。 可愛い子供もいた。 俺の骨を拾いに来てくれ!

他のたくさんの手も川底で蠢いていた。

イーダ!私のイーダ!こんな所で何してる?さあ帰ろう!と、防空頭巾をかぶったイーダを発見したかと思った椅子は呼びかける。

帰りたいわ…でも出来ないわ… 私死んだの…、30年前の8月6日に お父さんに会いに来てピカドンに遭って死んだの…とイーダは答える。

帰ろう、あのうちに!と椅子が勧めるが、帰らない…、私、死んじゃったの…とイーダは答える。

少女の写真が周囲から燃えるイメージ 川底に幼女のものらしい頭蓋骨が沈んでいた。

イーダは死んだ!イーダは死んだ! そう叫びながら、椅子も川の中でバラバラに分解する。

椅子の残骸が川面に浮き上がる。

翌日、広岡が見守る中、記念公園の鳩と遊んでいたゆう子と直樹の元に、病院で検査結果を聞いて来た美智が帰って来る。

お母さん来たよ!と広岡が教えてやる。

どうだった?と広岡が聞くと、ただの疲れだから心配ないってと答えた美智は、ゆうたん!と言いながらゆう子を抱きしめる。

この子たちが心配だったの、良い子ねと美智はほっとしたように言う。

その後、海辺に親子水入らずで海水浴に来た美智は直樹とゆう子相手にバーベキューを楽しむ。

ゆーたん、美味しいわよ!と美智は話しかけるが、ゆう子は、ギッチョン、ギッチョン、米搗け、米搗け♩と歌いながら勝手に水辺で遊んでいる。 それを聞いた直樹は椅子のことを思い出す。

どうしたのお兄ちゃん?電話で話したい事があるって言ってたわね?おじいちゃんの家で何かあったの?と美智が聞くと、何でもないや!と直樹が答えたので、変な子と美智は不思議がる。

熱出たっていってたわね?身体だるくならなかった?頭いたくなかった?目が回らなかったと美智は案じながら聞くが、直樹はみんな否定する。

直樹は、ゆう子、来い!と言うと、ビーチボールを投げて妙にはしゃぎだす。 その時、水辺に流れ着いていた灯籠と椅子の残骸を発見する。

あの椅子だ!と驚いた直樹は、水の中に入り、どうしたんだ?しっかりしろ!バラバラになっちゃった!可哀想に…、しっかりしろ!と励ましながら部品を浜辺に持ち帰り組み立ててやる。

何とかもとの姿に戻ったので、出来た!出来た!お前、どこへ行ってたんだ?と聞き、ゆう子、お前の椅子だぞ!とゆう子に呼びかける。

おい、歩け!おい、何か言えよ!と無反応の椅子に話しかける直樹。

やがて、椅子はゆっくりしゃべり始める。

私、30年間、毎日イーダちゃんを探して待っていた。

雪の日も雨の日も風の日も… 私は原爆を見た…と椅子が言うので、イーダちゃんに会ったのか?と聞くと、私はイーダの所へ帰る。

私のイーダの所へ…と行った椅子は自ら海に入って行く。

おい、どこへ行くんだ!と直樹が呼びかけ、ゆう子も泣き出す。

光る海面に浮かび遠ざかる椅子。

椅子は海に消えて行きました。

海の底に消えたのではありません。

直樹ちゃんとゆう子ちゃんの胸の奥へ消えて行ったのです…(とナレーション)

いわさきちひろさんのイラストを背景に「終」の文字

協力者の名前の羅列
 


 

 

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