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坊っちゃん('53)

お馴染みの夏目漱石の小説の映画化で、既に原作自体の記憶は遠のいているが、比較的忠実に描いている方ではないかと感じた。

短気な正義感の坊ちゃんを演じている池部良は爽やかに演じているし、口先三寸の赤シャツを演じている森繁久彌や調子の良い野太鼓役の多々良純、おとなしいうらなり役の瀬良明辺りははまり役のように見える。

山嵐役の小沢栄太郎は、若すぎて一瞬誰だか分からなかったりするが、これ又適役である。

マドンナ役の岡田茉莉子さんはおとなしい役柄であまり目立っているとは言えず、むしろ、芸者役の藤間紫さんの方がはまり役で印象に残ったりする。

下宿のおばさんを演じている三好栄子さんなども、他の映画で見る個性の強い印象とは少し違っており、人の良さそうな中年女性に見える。

お清役の浦辺粂子さんなどは婆やと呼ばれるような雰囲気ではなく、当時の実年齢としてはまだ中年期ではないだろうか。

生徒役の1人を演じているのは佐藤允さんで、デビュー当時の作品だと思うが、こういう文芸ものにも出ておられたのかと驚かされる。

白黒作品と言う事もあり、全体的におとなしい印象で、地味と言えば地味なのだが、池辺良さんの若々しい二枚目振りと森繁の達者な芝居などを見るだけでも十分楽しめる作品になっている。

のんびりしたユーモア感覚も楽しい。
▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼
1953年、東京映画、夏目漱石原作、八田尚之脚色 、丸山誠治監督作品。

タイトル

竹笹や廻り灯籠を背景にキャスト・スタッフロール

縁日の鯉釣りに挑戦していた坊ちゃん(池部良)は、なかなか獲物が釣れないので、何度も紙縒りの釣り糸を交換していた。

その後、ようやく獲得した鯉を持って、病で臥せっていた婆やのお清(浦辺粂子)の家に持って行くと、既に起きていたお清は、受け取った紙に包まれていた土産が動いたので驚いて手を離す。

これを食べると元気になるよと坊ちゃんが言うと、こんな結構なものを頂けるのも坊ちゃんならではの事…、ご先代様が生きてられたら…とお清は感激する。

たいそう高かったでしょう?とお清が案じて聞くと、80銭だと坊ちゃんが答えたので、そんなべらぼうな!どこの店です!神楽坂ですか?とお清はいきり立ったので、縁日の鯉釣りだよ、1回5銭の釣り糸を15本目にようやく釣れたんだ。

釣れるまで止めるに止められないしな…と坊ちゃんは打ち明ける。

それは止められませんね、坊ちゃんは竹を割ったような気性ですからねとお清は納得しながらも、30銭くらいの鯉を80銭も使うですからもうお止しなさいよと諌める。

あなたはもうじき中学の先生になる方ですよ。子供達の手本になるような方が子供達の真似をなすってはいけませんとお清は言う。

今に坊ちゃんは人力車を乗り回すような方になりますよ、もっともと偉くなります、婆やが保証しますよとお清は坊ちゃんを褒める。

夜になっても縁日の鯉釣りはやっていたが、もう客は寄り付かなかった。

いよいよ旅立つ日、刺抜き地蔵のお守りや虫封じなどあれこれお清が持たせる物を坊ちゃんに見せたので、これは小間物屋が出来るなと坊ちゃんは呆れる。

さすがに虫封じはいらないだろうと言うと、坊ちゃんは疳の虫が強いですからと答えたお清は、かっと来てもこのダルマさんみたいにじっと辛抱してくださいねと言いながら、小さなダルマ人形を見せる。

婆や、達者でねと坊ちゃんが声を掛けると、待ってますよ、達者でねとお清は答える。

土産は何が良い?と聞くと、越後の些々雨が食べたいねなどと言うので、四国にはないよと教えると、そこは箱根より西ですか?などとお清は聞いて来る。

何百里も先だよと教えると、そんな田舎…とお清が嘆くので、汽車で2日で行けるんだよと言い聞かせる坊ちゃん。

人力車の乗って出発した坊ちゃんにお清も一緒に付いて出かける。

箱根より向こうには化け物がいるそうですから気をつけるんですよ、道中で茶代を惜しむとバカにされますからねなどとくどくど言って来るので、もう良いんだよと言って聞かせ、坊ちゃんは先を急ぐ。

後に残ったお清は、川向こうを走って行く人力車を見送りながら涙ぐむのだった。

通過して行く線路の映像に海を渡る映像。

坊ちゃんはとうとう四国の小さな町に到着する。

宿に着いた坊ちゃんは、もっと良い部屋ないのか?と聞くが、あいにくみんな塞がっとるでなし…と、案内して来た女中は答える。

風呂はどこだと聞くと案内されたので、着物を脱いでいると、妾風の女を連れた中年男が入って来て気にせんで!などと言うので、慌てて着物を着て出て行くと、うぶなお坊ちゃんやな~とからかうように女が言う。

廊下に貼り出されていた料金表を見た坊ちゃんは、道中、茶代を惜しむとバカにされますよと言っていたお清の言葉を思い出す。

夕食は蠅に邪魔されながらの粗末な物で、ここは25万石の城下町なんですが、東京はここより良い所でしょうな、天子様にもお目にかかれるんでしょうな?などと給仕をしていた女中が聞くので、ちょいちょいねと坊ちゃんは適当に答える。

これをみんなで分けてくれと金を渡すと、もうお発ちですか?と女中が言うので、当分いるつもりだよと答えると、こんなに!と女中は目を見開く。

翌日、人力車で学校に向かう途中、坊ちゃんは中学生の制服を来ていながら、どう見ても中学生に見えないひげ面の3人組に出会ったので、君たちは中学生か?何回落第した?と聞くと、オンリースリータイムと下手な英語で返事をして来たので、俺はなんだと思う?と聞くと、会社員とか弁士だろうと生徒達は答えて来る。

その時、前方から美人が近づいて来て、生徒達がマドンナ(岡田茉莉子)だ!と言うので坊ちゃんは驚くが、マドンナはそのまま通り過ぎて行く。

その後、人力車で学校内までやって来た坊ちゃんは、職員室を覗き込むが誰もいない。

校長室に入っても誰もいなかったので、壁に飾ってあった歴代校長の写真をじっくり見て行く事にする。

小遣い室に行くと、外の井戸の所で魚を切っている男がいたので、先生は1人もいないのか?と声を掛けると、当直はいるよ、俺だと答えたその男は、こいつで一杯やろうなどと言いだすので、酒はやらんと坊ちゃんは答える。

じゃあ、スイカはどうだ?とその男はしつこく勧め、宿はどこだ?などと馴れ馴れしく聞いて来るので、山城屋だと答えると、もったいないと男は言う。

校長は?と聞くと、どうせ明日会うんだから良いとその男は言い、そこに口ひげが立派な男が入って来たので、思わず坊ちゃんが会釈すると、そのヒゲは小使いだと男は言う。

その後、宿の山城屋に戻った坊ちゃんは、何人もの女中が玄関口でお辞儀をして待ち構えており、大きな部屋に移されただけではなく、夕食時も、給仕係の女中が2人も付いた立派な待遇になっていたので驚く。

翌日、再び登校し、校長(小堀誠)に就任の挨拶した坊ちゃんだったが、今後は学問だけではなく人格からにじみ出た徳望がいるなどと言われたので、お返しします、とても自信がありませんと辞令を突き返そうとする。

すると校長は、今のは希望を述べただけだ、この辞令は1人1人に見てもらうんだと言って辞令を再び差し出す。

校長の側に立っていた教頭(森繁久彌)が丸岡義一と書かれた名刺を差し出して来る。 派手な赤シャツを来ているので、赤門出ですか?と坊ちゃんが教頭に聞くと、京都帝大ですと言うので、シャツが赤いのでそのためかと…と坊ちゃんが皮肉で言うと、さすが東京の人はウィットがありますなと教頭は感心したように答える。

続いて職員室で辞令を見せた相手は、漢文と修身担当で勤続27年と言う先生(渡辺篤)だった。

続いて国語担当の古賀先生(瀬良明)、図工担当で坊ちゃんと同じ江戸っ子だと言う吉川(多々良純)に挨拶した坊ちゃんに、まだ山城屋にいるのか?安月給だから持たんぞ、数学主任の堀田(小沢栄太郎)だと昨日小使い室であった男が言葉をかけて来て、今日はもう帰って良いぞと言う。

その後、山城屋の坊ちゃんの部屋を訪ねて来た堀田は、坊ちゃんが部屋の真ん中で大の字になって昼寝をしている姿を見る。

起こすのは遠慮し、机の前に座った堀田は、目の前の机に、多々今坊ちゃんが書いたらしい手紙が広げられてあったので暇つぶしに読んでみる。

5円の茶代弾んだら15畳の座敷をもらった。 学校の教師達にあだ名をつけてやった。校長は狸、教頭は赤シャツ、国語の先生はうらなり、図工の先生は野太鼓、数学の主任は比叡山の悪僧みたいだから山嵐と書いてあったので思わず山嵐こと堀田が笑い出すと、それに気付いて坊ちゃんは目を覚ます。

山嵐は手紙を読んで怒るどころか愉快がり、良い宿があるんでと言うと、坊ちゃんを知り合いの「いか銀」の主人(中村是好)の家に連れて行く。

玄関先に大きな狸の置物が置いてあったので、校長がいるぞと頭を叩いた山嵐と坊ちゃんは笑い出す。

女将はコロリンシャンな美人か?と二階の部屋に案内させた山嵐が聞くと、とんでもないと主人が否定したので、それは良い、落ち着いて勉強できると納得、下宿代は?と聞くと15円と聞くと又納得する。

朝飯のおかずは?と聞くと、みそ汁にお香こ、他に一品卵か海苔とやって来た女房(馬野都留子)が答える。

夕食はみそ汁にお香こにお野菜、希望のお魚などと言うのでたまには肉もつけてくれと注文した山嵐は良いだろう?と坊ちゃんに確認する。

町を歩いていた赤シャツと野太鼓は、堀田先生は暴露趣味があるなどと陰口を叩いていたが、その噂の相手である山嵐と坊ちゃんが店で氷水を飲んでいるのを見つけ慌てて通り過ぎる。 そんな2人に気付いた山嵐は、うるさい奴が色々いるからな~と赤シャツ達を見ながら言う。

何故赤シャツを着ているのです?と坊ちゃんが聞くと、英国の何とか言う奴の真似なんだと山嵐が答えたので、文句を言われないんですか?と聞くと、文学士だからな…と山嵐は言う。

翌日、始めて教室の教壇に立った坊ちゃんだったが、今日から数学を受け持つ事になったが、始めて教壇に立ったので自信がないと正直に挨拶すると、1人の生徒が立ち上がり、学校は何番で出た?と聞き、どんけつだったりしてなと別の生徒(佐藤允)が茶茶を煎れたので、クラス中の生徒が笑い出す。

むかついた坊ちゃんは、急に黒板に大きなダルマの絵を描くと、窓際の椅子に座って授業をボイコットする。

すると、あごひげを生やした先日会った生徒が静かにせいや!と呼びかけ、坊ちゃんに近づくと、先生、始めてつかあさい、今後わしが責任を持って静かにさせるけんと詫びると、新任の先生に敬意を表して拍手!と呼びかけると、クラス中の男子生徒が拍手を始める。

近くの教室で英語の授業をしていた赤シャツは、早弁を食べていた生徒を指摘すると、鮒の甘露煮か…、腹はプラスに鳴るかもしれんが、それでは英語の点はマイナスだぞと嫌みを言う。

せっかちな坊ちゃの授業の方では、生徒の1人が、早すぎて分からんので、もうちっとゆっくりやってくれんかなもしと頼んでいた。

やがて、小使いが終業のラッパを吹く。 山嵐は坊ちゃんに、嘗められたらいけないと生徒達への心構えを教える。

その夜、下宿で出された肉は、ナイフで切ろうにも固くて噛み切れないものだった。

そこに主人がやって来て、先生は大分風流なようですのとお愛想を言うので、これは何の肉だ?と聞き、牛肉だと知ると、肉の骨董品か?固くて食えやしないと坊ちゃんは文句を言う。

さらに硯を買わせようとするので、それよりもっと切れるナイフをくれと坊ちゃんは嫌みを言う。

その頃、自宅にマドンナを招いていた赤シャツは、蓄音機でドボルザークの曲を流し、スラブ民族の哀愁が忍び寄って、むせび泣くようなメロディですね…などと蘊蓄を語っていた。

その頃、うらなりの家では母親(本間文子)が、どうしたんじゃろか?うらぶれるとみんな遠のくんじゃ、遠山のお嬢さんに限ってそんな不義理な…と最近姿を見せぬマドンナこことを案じていた。

ある暑い当直の日、学校で退屈していた坊ちゃんは、生徒からみんな温泉に行ったと聞き、近いのか?と聞くと、汽車で30分と言うので温泉に行ってみることにする。

温泉ではうらなりと出会ったので、しかし不公平ですな…、校長と教頭だけ当直がないとは…と湯船の中で坊ちゃんが不平を言うと、それは言わん方が…とうらなりは困惑する。

いや、僕は言いますよ!と単細胞の坊ちゃんは憤り、どこかお身体でも悪いんですか?とうらなりに聞くと、良う眠れんので…と言うので、神経衰弱ですか…と同情する。

その時、隣の湯船に入っていた生徒達が、坊ちゃんは天ぷらそばを4杯も食ったぞ、バカの大食らいと言うぜなどと坊ちゃんの悪口を言っているのが聞こえて来たので、その通りだ!と大声で返事をすると、生徒達は驚いて黙り込んでしまう。

その夜、寄宿舎の一階の蚊帳の中で寝ていた坊ちゃんは、何かむずがゆさを感じて目覚めると、布団の中にバッタが大量に入り込んでいたので、慌てて払いのける。

さらに二階で大勢が足踏みしているような音が聞こえて来たので、部屋の外へ出て小使いを呼ぶと、自分は階段の所へ向かうが転んでしまい、向こうずねを打ってしまう。

何とか二階へ上がると、一室から大勢がわっしょい!わっしょい!と聞こえるので、こら〜!おい!開けろ!卑怯者、出て来い!出て来るまで待ってやる!とドアの外から呼びかけるが、部屋の中では生徒達がわっしょい!わっしょい!と足踏みを続けるだけでドアは開かない。

業を煮やした坊ちゃんは、まさかり持って来い!このドアを叩き壊すんだ!と駆けつけた小使いに命じると、待ってろ!今、鉞で叩き割ってやって、中に入る奴の首実検をするぞ!と部屋の中に呼びかける。

小使い室に戻って来た小使いは、校長のたぬきに電話すると、寄宿舎で生徒達が騒いでおり、当直の先生がまさかりで暴れると言うんですが正気ですかね?と伝える。

今日の当直は誰かね?と狸が聞くと、江戸っ子の先生ですと小使いが言うので、あいつか…と納得したたぬきは、とにかくまさかりは隠しておきなさいと指示する。

二階ではなかなか小使いが戻って来ないので苛立ち、さあまさかりだ!10数えるうちに開けないと戸を叩き毀すぞ!と部屋の中に向かって芝居をする。

1、2、3…と数えていた坊ちゃんが8!と数えた瞬間、戸が突然開いて、中にいた生徒達が暗闇の廊下に一斉に飛び出して逃げ去る。

しかし、坊ちゃんはその中の1人を捕まえ、部屋の中に押し戻すと、その生徒がかぶっていた剣道の面を取れ!と命じる。

面を取った生徒に向かい、何の恨みがあるんだ?お前が張本人か?卑怯な奴だ、白状するまで立ってろ!と坊ちゃんは叱る。

すると、おずおずと逃げていた生徒達も部屋に戻って来て、先生、堪えてつかあさいと詫びて来るが、坊ちゃんは、おい!クラスと名前を言え!と言うと、ノートにその名を記帳し始める。

そこにやってきたたぬきが、ご苦労様…、何せいたずら盛りで…などと坊ちゃんをなだめようとするが、私が辞めるか、この子たちを退学させるか!などと坊ちゃんの怒りは収まりそうにないので、処分は職員会議で…、もう遅いので明日の授業にさしさわりますとたぬきは言い聞かす。

翌日の職員会議で、赤シャツは、今回の事件は甚だしく教師を侮辱した行いです!と一見坊ちゃん擁護のような発言を始めるが、徐々に、しかし、侮辱されると言う事は何を意味するか?教師側に徳望がないと言う事ですなどとおかしな方向へ話が展開して行く。

侮辱された教師は学校を辞めるでしょう。それが狙いなのです。 誰が狙っているのか軽々しくは申せません。デリケートに込み入ってますからね…などと赤シャツは意味有りげなことを言う。

経験に乏しいと言われた坊ちゃんは、23年4ヶ月ですから…と言い返すが、正直にしていれば怖くないとは言え、人に乗ぜられる。 磊落なように見えても、淡白なように見えても滅多に油断できない者もいます。思うつぼに陥れない事ですなどと赤シャツは誰かを当てこするような言い方をする。

職員室に戻って来た坊ちゃんに、隣の席の山嵐が、やったな!まさかりで壊すとは…、こんな田舎に長居は無用だ!などと痛快そうに話しかけて来る。

一方、赤シャツにすり寄った野太鼓は、江戸っ子は五月の吹き流しですよ、生徒に評判良いのがくせ者…などと坊ちゃんの事を皮肉っていた。

まだほんの坊ちゃんですからねと赤シャツは軽んじ、会議は気の抜けた頃が良かろう…、来襲にでも…とたぬきが言うので、賛成した赤シャツは、古賀の事ですが、何でも抵当に入れていた屋敷を手放すそうですよ…などと吹き込む。

それを聞いたたぬきは、なかなかの家柄だったんだがな…と落ちぶれたうらなりの事を気の毒がる。

小遣い室に来た坊ちゃんが、この学校で一番人気は誰だ?と聞くと、小使いは堀田先生ですがなと答える。

先ほど赤シャツが当てこすっていた人物は山嵐の事だったと気づいた坊ちゃんは、職員室の机に座ると、隣に座っていた山嵐に小銭を差し出し、氷代を返すと言い出す。

それを聞いた山嵐は妙な顔をして押し戻そうとすると、坊ちゃんの態度が頑なので、俺の世話が嫌なら下宿を出る事だ!と言い返す。

すると坊ちゃんも、靴の底みたいな肉を出しやがって!と文句を言う。 坊ちゃんが家を移りたいと言う事を知ったうらなりは、うちの母に聞いてみましょうと親切に言ってくれる。

一方、帰宅した山嵐は、小使いからせしめて来たと言い、小魚の煎ったものを子供への土産として渡すと、今度の江戸っ子もおっちょこちょいな奴だ、もう喧嘩したよとがっかりしたように妻(三條利喜江)に言う。

又?と呆れたように答えた妻は、あなた、誰とでも…、だから万年教諭なのよと言うので、俺は教頭なんかになりたくない!と山嵐は言い放つ。

その頃、坊ちゃんは新しい下宿先を探しており、萩野と言う家のおばさん(三好栄子)に二階の部屋を見せられていた。

すると、隣の家の1階でピアノを弾いていたマドンナに気付いたので、下にもう一部屋あるんだども…と言うおばさんに、いや、ここが良いですと答える。

同じ頃、寄宿舎で騒いだ首謀者の生徒3名が山嵐の家を訪ねて来たので、張本人はお前らか!と山嵐は叱りつける。

自首して来たんで勘弁してくれ、先生だけが頼りです。あんな青二才の江戸っ子なんかに教わりとうないです。もうしやしませんからどうぞ助けてつかあさいと生徒達は頼むが、山嵐は知らん!と突っぱねる。

翌日の職員会議の席、赤シャツは、生徒を罰する前に我々の不徳を痛感する所もあるので、説諭で許したい物と考えますと意見を述べる。

するとの太鼓が徹頭徹尾賛成しますと同意し、うらなりも、どうか寛大なご処置を…と穏便に済ませようとする意見が大勢を占め始める。

その時、壁に飾られていた先代校長の写真を見ていた坊ちゃんは、そこにお清の顔が重なり、坊ちゃん!負けちゃダメですよとはが増してくれたので、私は徹頭徹尾反対です!そんなとんちんかんな処分は反対です!失敬な!新しく来た教師だと思って…と憤慨しながらと反論する。

続いて漢文の先生が、今回のバッタ事件は将来に危惧になる可能性がありますと述べると、山嵐が、全然不同意であります。学校の威信に関わると思う。このまま放置すれば、この校風はいつ矯正できるか分かりません!などと言い出したので、坊ちゃんは溜飲を下げるが、ただし、宿直中、外出して温泉に行ったのは大失態である。この…に関してはご注意ある事を願いますと山嵐が言い添えたので、これは全く悪い!謝ります!と坊ちゃんが素直に詫び、教師達は全員笑い出す。

昼食時間、職員室の机に戻った坊ちゃんは、野太鼓からちょっとと廊下に呼ばれ、今晩ご都合いかがでしょうか?と聞かれる。

教頭がお招きしたいとおっしゃっています。今後のためにも…と迫って来たので、特に断る理由もなかった坊ちゃんが承知すると、では今晩6時に…と野太鼓は念を押す。

その夜、赤シャツの家でベートーベンのレコードを聞かされた坊ちゃんは、ソファの上でうとうとと居眠りをする。

曲が終わると目を覚ました坊ちゃんは、悪びれる風でもなく、いい気持で眠っちゃった。

僕は江戸っ子なんでお神楽のバカ囃子の方が好きだと言い出す。

すると、隣に座っていた野太鼓がお神楽の踊りを真似し始めたので、違うよと立ち上がった坊ちゃんはその場でテンツク、テンツクと言いながらおどけたバカ囃子を踊りだす。

そこにやって来たのはマドンナで、坊ちゃんのバカ踊りを見るなりおかしそうに笑い出す。

知ってらしたんですか?と赤シャツがマドンナに聞くと、お隣の二階に住んでいらっしゃるの、古賀さんに聞いてとマドンナが答えたので、こりゃどうも、地の利を得たと言う訳ですねとうらやましそうに言い、しかしバカ囃子とベートーベンではね…と苦笑しながら又レコードをかける。

その後坊ちゃんは、老夫婦が揃って謡の練習をしていた萩野の下宿へ帰って来ると、手紙来てませんか?と尋ねるが、まだじゃがもとおばさんが言うので、どうしたのかな?と暗示顔になる。

二階に上がった坊ちゃんにスイカを持って来てくれたおばさんは、うちの爺さんがぶつぶつ小言を言いおってな…、仲人をするのが道楽なんじゃが、あんたに嫁さんがいる事が分かったんで…、東京からまだかまだかと嫁さんの手紙はどんなに待ち遠しいいだろうと思うてな…などと言うので、今度は坊ちゃんが笑い出す。

その時、二階のマドンナが、母さん、見事なお月様と呼びかけている声が聞こえて来る。

その後、庭の千草の〜♩と歌うマドンナの美声が聞こえて来る。 空には満月が浮かんでいた。

坊ちゃんは布団に横になり、そんなマドンナの歌声に聞く。 翌日、学校では、うらなりを前にしたたぬきが、あなたを手放すのは不本意ですが栄転ですから…と言い渡していた。

横で聞いていた赤シャツが、九州の延岡だがねと言い添えると、おとなしいうらなりは、そうですか…色々とありがとうございましたと礼を述べる。

小使い室で1人氷水を飲んでいた山嵐は、力なくやって来たうらなりに気付くと、なかなかですな…と声をかけると、色々お世話になりました。もうこの学校にも長いことないので…とうらなりが言うので、どっかに転勤ですか?と聞くと、うらなりが腰を抜かしたようにしゃがみ込んだので、どうしたんだ?古賀君!と駆け寄る。

栄転だからね…と、まだたぬきは校長室で赤シャツに話していた。

手放すのは忍びないですがここらで栄転させねばいけないでしょうな…と赤シャツも答え、タバコケースをたぬきに差し出す。

そのタバコを抜こうと手を伸ばしたたぬきは、そこに「梅の家」の名刺が挟まれている事に気付き驚く。

自分の失態に気付いた赤シャツは、郷土芸術のエッセンスを勉強しようと思いまして…、決して校長の迷惑にはなりませんと言い訳する。

校長は立ち上がり、県の視学に会って来る、後は頼んだよと赤シャツに言い残しでかけて行く。

校長室に残った赤シャツは坊ちゃんを部屋に呼び入れると、内緒話なんですが、うちの校長にも困るんです。腹が太いので職員の人事なんてこの教頭に任せっきりで…と打ち明け始める。

古賀君が転勤するんでその空きを埋めないと…、あなたの俸給について…と赤シャツが言うので、俸給は上がった方が良いですと坊ちゃんが答えると、古賀の送別会であのテンツクを…と赤シャツが頼んで来たので、まっぴらです!と断る。

あなたが帰った後、お嬢さんが…と先日の話を赤シャツがするので、軽蔑したでしょうと坊ちゃんが自分で言うと、中学の先生にも活発な方が…と、赤シャツが愉快そうに教えたので、東京にはマドンナが吐き捨てる程いますよ!と坊ちゃんは言い返す。

しかし、その後の授業で坊ちゃんは、マドンナの事が気になるあまり、ぼーっとしたまま授業にならなかった。

さすがに生徒達が文句を言いだしたので、先生だって人間だ!と坊ちゃんが答えると、ひげ面の落第生が立ち上がって、1本!先生の勝ち!と判定する。

その頃、自宅でオルガンを弾いていたマドンナの部屋にやって来た母親(平井岐代子)が、騒々しいな…、話があるからお止めと注意し、もう文学士さんの所へは出入りせん方が良い、古賀さんに悪いがなと言うので、まだ古賀さんの所へ嫁がせるつもり?とマドンナが聞くと、恩のある方だもの…と母は言う。 恩がある言うても、父さんの受けた恩に私が報いる義理があるの?とマドンナは言い返す。

その頃、古賀の母親は家で念仏を唱えていたが、今度行く所に禅寺あるのかね?と貧血で寝込んでいたうらなりに聞き、学校があるんだから寺くらいあるだろうと聞くと、そんな辺鄙な所行くなんて、遠山のお嬢さんに言いにくいな…と嘆くので、延岡にも嫁さんおるがねとうらなりは諦めたように言い聞かす。

そこに山嵐が見舞いに来て、延岡に行くんだって?と聞くと、校長のおとりなしで…とうらなりが栄転を真に受けたように言うので、島流しも同然だよ!と憤慨した山嵐は、ぐっとやって!と酒を無理矢理飲ます。

きついですな〜…とうらなりが酒に閉口すると、効くですぞ、朝昼晩に1杯ずつやることですなどと言いながら、自分もラッパ飲みしてみせた山嵐は、島流しだ、赤シャツの陰謀だよ!と又怒りだす。

赤シャツに言い返せないから生徒がのさばってしまうんだ!これはマムシ酒だ!と山嵐が言い出したので、うらなりは今飲んだ物を吐き出しそうな嫌な顔になる。

そこに同じく見舞いにやって来たのが坊ちゃんで、玄関先に置いてあった下駄を見て誰かお客さんですか?と出迎えた母親に聞くと、堀田先生ですと言うので、ちょっとためらう。

そこに姿を現した山嵐が、よお来たな、赤シャツ党の勇士!怒ったな?痛い所を突かれたからなとからかって来る。

テケテケトン…、すぐ分かるんだ、マドンナだ。あいつが生徒に教えたんだ。生徒をスパイに使ったり、告白の手紙渡したり…と山嵐が言うので、失礼しました!と気分を害した坊ちゃんはそのまま帰ることにする。

孤軍奮闘だ!とその坊ちゃんの背中に声をかけ、お大事に!とうらなりの家を出た山嵐は後を追いかける。

追いついた山嵐は、赤シャツは卑劣者だ!と言い聞かせようとするので、証明できますか?と坊ちゃんは聞く。

証明できる。うらなりからマドンナを取ろうとしていると山嵐が言うので、うらなりとは関係あるのか?と聞くと、親同士が認めた婚約者だ、校長ばかりがたぬきじゃないぞ、四国はたぬきの本場だと山嵐は教える。

その夜、町を歩いていた野太鼓は、鈴虫を買っているマドンナに出会う。

風流ですな、オツな趣向です、果報者はどなたです?などと野太鼓はからかう。

下宿で古賀のお母さんの話を伝え聞いた坊ちゃんは、やっぱり赤シャツの奴は卑怯だ!と真相に気付いたようなので、赤シャツに逆らうと損するそうだぞと山嵐は忠告するが、損しようが俺の勝手だ!と息巻く。

翌日、赤シャツの前に行った坊ちゃんは、俸給の事ですが上げてもらいたくないので固くお断りします!と言い切ると、職員室の机に戻って来て、山嵐の机の上にまだ置いてあった小銭をそっと取り戻す。 それに気付いた山嵐は笑顔になり、読んでいた「送別会の予定表」を坊ちゃんに渡す。

9月14日1時「梅の家」と書いてあった。

いよいようらなりの送別会が「梅の家」で行われ、まずは校長のたぬきが挨拶に立つ。 古賀さんは一度も怒る事なく、愛と善意に満ちた良友でありました…などと白々しい文言を並べる。

続いて山嵐が、古賀が1日も早く立ち直り、延岡などと言う酷い田舎だが、すこぶる純朴で卑劣な奴などいない場所で、良い伴侶を娶られん事を…と皮肉たっぷりな挨拶をすると、聞いていた坊ちゃんが拍手をする。

それに対し、主賓であるうらなりは、感謝の気持で胸が一杯で…と挨拶しただけで口ごもってしまう。

送別会では、〆太郎(藤間紫)が赤シャツの相手をする。

漢文の先生は、女人禁制じゃなどと言って酌婦を遠ざけるし、飲めない坊ちゃんはうぶじゃな…とからかって来た酌婦に、止せやい!と睨みつける。

やがて余興の時間になり、赤シャツが中国人と女性の2人一役芝居を演じ始めると、野太鼓が、細かい!などとお世辞を言う。 続いて野太鼓と狸が一緒に踊りだす。

その間、首座のうらなりは沈んでいたが、その隣に座った赤シャツはなかなか会が終わらないので苛立っていた。

〆太郎がウインクして来ると、赤シャツは目で促し、一緒に部屋を出ると、酔って気分が悪くなった坊ちゃんが寝ているとも気付かず、暗い部屋に入り込むといちゃつきだす。

今晩ええの?と〆太郎が聞くと、残念ながら校長のお供をせねばいかんのだと赤シャツが言うので、〆香姉さんに任せとけば?とすねた〆太郎は、今度はいつ?と聞く。

土曜日までには…と赤シャツが答えると、朝までいられるのね?と〆太郎は甘える。

そんな2人の会話を、暗闇の中寝ていた坊ちゃんは全部聞いてしまう。

下宿に戻った坊ちゃんは、縁側に鈴虫が入ったかごが置いてあったので、この鈴虫、おばさんですか?と聞くと、お隣のお嬢さんじゃがな、お隣付き合い言うて…とおばさんは答える。

僕の事バカにしてたでしょう?と先日のバカ踊りの事を思い出しながら聞くと、それが…、あんたを気に入ったんじゃろな…、さっぱりしていて面白い事をするし、気取らない所が男らしいでな…とおばさんは言うので、赤シャツの子分と思っているんだろうと坊ちゃんは分析する。

まだ心の決まっとらんお嬢さんじゃけん、ひょっとすると…とおばさんは脈がありそうな事を臭わせる。

その後、床に入った坊ちゃんは、マドンナと言う娘が鈴虫をくれた…、お陰で眠れない…などと心に思う。

やがて、町で祭りが始まる。

見物に出た坊ちゃんは、見物客の中に混じっていたマドンナを見かけ会釈をして近づくと、鈴虫ありがとう…お陰で良く眠れないんですなどと言うので、マドンナは驚いてごめんなさい!涼しい感じがするかと思って…と詫びる。

坊ちゃんは、涼しいと言うより寂しいですと答えるが、そこに近づいて来たのが山嵐で、生徒達は処分されない、君は単純だからどうにでもなると思っているんだろうと教える。

そこに生徒の1人がやって来て、又喧嘩です!師範の奴らと河原で!と言うので、良し!と答えた坊ちゃんと山嵐は、その生徒に案内させ河原に向かう。

橋の下の河原では大乱闘が起こっており、坊ちゃんと山嵐は止めに入るが、結果、2人と1人の生徒は警察の牢に入れられる事になる。

2人は逮捕されたと言う知らせはすぐに学校にも届き、たぬきと赤シャツは善後策を話し合う。

こんな事が新聞にでも乗ると、視学が動き出すかも…と狸が案ずるので、これ以上奸賊を蔓延らせておくと一大事になりかねません、この際獅子身中の虫を排除するため、公器を我に味方させようじゃないですかと赤シャツが提案すると、君に任すとたぬきは言う。

その後、町を歩いていた生徒3人が、赤シャツとの大太鼓が、四国日報の記者と一緒に料亭に入って行くのを見かけ、何事かと怪しみ、庭先に侵入して盗み聞きを始める。

座敷に招いた2名の記者に、今回の喧嘩沙汰の先生に鞭打って欲しいのです。

あれはもう暴漢に近い野蛮人ですよなどと赤シャツは焚きつける。

すると記者達も、教頭がその腹なら思い切り書きましょうと張り切る。

そん直後、ちょっと失礼と席を外した赤シャツは、廊下で待っていた〆太郎からお客さんまだいるの?と責められたので、大事な客なんだよと赤シャツが説明すると、うちより大事なの!と死ね始めたので、君は僕のベターハーフだよなどと持ち上げる。

それを聞いていた生徒は、こりゃ一大事が起こるぞ!赤シャツの奴、おれたちの事を新聞に売ったんだ!と憤ると、その場を抜け出し山嵐の所へ行くと言いだす。

警察から釈放され出て来た山嵐と坊ちゃん、生徒の3人だったが、山嵐は警察署前の店で卵を3つ買い12銭払うと、坊ちゃんと生徒に分け与える。

そこに先生!大変です!赤シャツの陰謀です!「梅の家」で記者と会ってますと生徒が走って来て報告する。

先生達を暴漢に近い野蛮人と言ってますと生徒から聞かされた山嵐と坊ちゃんは生徒とともに「梅の家」に向かう。

座敷では赤シャツが新聞記者に酌をしながら、君たちが協力してくれれば百万人の味方を得たような物ですよなどとべんちゃらを言っていた。

そこに山嵐と乗り込んだ坊ちゃんを見た赤シャツは、これはお揃いで…と動揺するが、一体貴様!と坊ちゃんが詰め寄ると、貴様とは何ですか!と赤シャツも憤慨したので、吉舎まで悪ければと答えた坊ちゃんはさらに罵倒し、持っていた卵を赤シャツの頭にぶつける。

キ○ガイです!と喚きながら逃げ出そうとした赤シャツは「梅の家」の前の川に落ちてしまう。 それを見た山嵐は痛快そうに哄笑する。

その夜、マドンナの家の裏木戸から入って来た萩野のおばさんは、うちの先生から鈴虫のお礼に…と言いながら預かって来た手紙を渡す。

手紙には「一筆啓上 赤シャツは悪い奴です。もっと立派な人を選んだ方が良いです。 失敬」と書かれてあった。

坊ちゃんと生徒達は山嵐の家にいた。 すると山嵐が、俺も東京に行くぞ!と言い出したので、生徒達も、だったらおれたちも東京に連れて行ってくださいと頼むがお前達は勉学に励むんだと山嵐は言い聞かす。 山嵐の家で生徒達は寮歌を歌いだし、山嵐も上機嫌に歌いだす。

坊ちゃんはキセルでタバコを吸う。 人力車に乗って橋を渡っていた坊ちゃんを一緒に送って来た山嵐は、鈴虫か?案外風流だなと坊ちゃんが持っていた駕篭を見て言う。 そこに生徒が近づいて来て、先生、マドンナさんからだよと言って預かって来た手紙を渡す。

「ご親切ありがたく思います。私も窮屈なこの町を去って断然理想の方を探します」と書かれてあった。

それに気付いた山嵐が、やったな!と坊ちゃんに笑いかけ、又、生徒達と一緒に歌を歌いだすのだった。

橋からカメラが引いて「終」の文字
 


 

 

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