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若様侍捕物帳 呪いの人形師

黒川弥太郎主演の新東宝版「若さま侍捕物帳」シリーズの1本

「若さま侍」の映画化には大川橋蔵主演の東映版もあるが、新東宝版は白黒作品で、本作は監督が中川信夫さんと云う事もあり、怪奇趣味溢れる作品になっている。 背景はセットと絵合成で作られているのが特長。

低予算で作られているようで、映画と言うよりテレビ時代劇に近い雰囲気かもしれない。

捕物帖だけに本格ミステリ程には謎が複雑ではなく、途中で犯人はほぼ推測できる。

キ○ガイなどと言う言葉が何度も出ている所が時代を感じさせる。

18歳設定のおいとを演じる香川京子さんは相変わらず愛らしいが、歌うシーンは吹替ではないだろうか。

劇中に登場する「千人風呂」とか湯女と言う風俗が興味深い。

「千人風呂」の描写を見ていると、歌や踊りと言った余興も披露される演芸場も兼ねていたようで、今の「大江戸温泉物語」のようなレジャー施設の原型みたいな物にも見えるが、これはこの映画独自の解釈なのかもしれない。

全体としては、 特に可もなく不可もなくと言った印象で、平均的な出来ではないかと感じる。
▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼
1951年、城昌幸原作、井上梅次脚本、中川信夫監督作品。

タイトル

竹林を背景にキャスト・スタッフロール

月に群雲がかかる夜の江戸 目明かし遠州屋小吉(鳥羽陽之助)と見回りをしていた南町奉行付きの同心原勝馬(江見俊太郎)は、与力の佐々島俊蔵(田崎潤)と出会い、見回りか?と声をかけられた後別れる。

佐々島さんは原さんの事を褒めていましたよ。何か大望を抱いているとおっしゃってましたよと小吉は原に話しかける。

その時、原は、前方を相合い傘で歩く男女の姿を見かけ、雨も止んだと言うのに…、駆け落ちじゃないか?と小吉に話しかけ、待たれい!と声をかける。

何ぞ用か?と傘を持った浪人は、振り向きもせず鷹揚に答えたので、原はますます怪しんで名を問いかける。

しかし浪人は自らの名を名乗ろうとはせず、一緒の娘は名がある。

おいとと言う18の娘で向島に住んでおるなどと言うので、同じく後ろ姿のまま相合い傘に収まっていたおいと(香川京子)は、嫌な若さまと文句を言う。

その会話と振り返った浪人の顔を見た小吉は、これは、若さまでしたか…、心中か駆け落ちかと思いましたよと会釈しながら話しかけたので、いっそこのまま大川に身を投げても良いか…、風流のままに生きて行く…などと若さま侍こと堀田左馬介(黒川弥太郎)は冗談を言い、まだご不審が解けぬなら「喜仙」に来るが良い。名は…、みんなが若さまと言うと原に言い残し、そのままおいとと去って行く。

事情が分からぬ原が若さまとは?と聞くと、堀田加賀守の御嫡男で、今は故あって勘当の身ですが…と小吉が説明する。

橋のたもとへやって来たおいとは得意の歌を歌いだす。

若さまはそんなおいとに、恋は計れるのもか?とからかうと、おいとは計れます。計れたら何でも買ってくれますか?と答えたので、面白がった若さまがその答えを聞くと「値千金」とおいとは言う。

若さまがシャレたことを言うなと感心すると、若さま、何でも聞いてくれますわよね?明日、母さんとお花見連れて行ってねなどとおいとは可愛らしい願い事をする。

若さまがわらって承知した時、暗闇から突然、笑いながら男が近づいて来て、人形…、人形の呪い…、今に人形が歩き出すぞ…などと意味不明なことを言うので、どうした?気でも狂ったのか?と若さまは声をかける。

するとその男は、私は生きているのでしょうか?などと聞いて来たので、生きているように見えるな…、顔がぼやけて見えるのはわしが酔っているせいだろうなどと若さまは答える。

するとその男は、妙な夢を見たのです。人形が歩き出すんですよ、私が彫った「まぼろし」が…などと又訳の分からない事を言い出したので、このままにもしておけぬので番所まで連れて行ってやろうと若さまはおいとに話しかける。

佐々島や原、目明かし越後屋弥助(横山運平)らが集まっていた番所にその男を連れて来た若さまは、妙なキ○ガイを連れて来たぜと事情を話す。

すると弥助が、長次(山本礼三郎)じゃねえか!と男に呼びかけ、若さまには、この者は丹波守様のお抱え人形師で長次と申しますと教える。

すると原が立ち上がり、先ほどは失礼致しましたと若さまに詫びて来たので、佐々島が、この者は、南町奉行付きになりました原勝馬と言いますと若さまに紹介する。

若さまは原に、笹島と一緒に遊びに来るが良い。酒が飲めぬならダメだぞなどと冗談を言い外へ出る。 そこで待っていたおいとと合流した若さまは、不吉な影がする…と呟く。

番所の中では、丹波守様と言うのは、名奉行と言われた前田丹波守様の事ではないか?今では蔵の中に人形を集めているらしいなどと噂し合っていたが、佐々島がわしが送って行こうと言いながら立ち上がると、長次を前田家の屋敷に送って行く事にするが、弥助は丹波守様の大のお気に入りだったな…と思い出す。

屋敷内の座敷で読書中だった前田丹波守(江川宇礼雄)は、突然庭先から丹波守!と呼びかけられたので、誰だ!と誰何して目をやると、幻の人形の呪いだと言いながら姿を見せたのは、頭巾をかぶった若衆姿の者だった。

積年の恨みきっと晴らしてやる!と言いながら刀を抜いたその人物は、庭先の竹を切って塀から外に逃げ出す。

ちょうどそこにやって来たのが佐々島で、塀から出て来た若衆姿を見かけると、くせ者!待て!と呼びかけ捕まえようとする。

しかし相手は突然手裏剣を投げつけて来て、それを避けていた佐々島はまんまとくせ者に逃亡されてしまう。

その時、門から出て来て誰か!と呼びかけたのは、屋敷に住む用人木村甚内(清川荘司)だったので、佐々島は今屋敷から出て来た賊の話を話し、連れて来た長次とともに屋敷内に招き入れられる。

部屋に連れて来た長次は、幻の…、幻の呪い…などと言うので、その方は部屋に帰っておれと命じた丹波守は、何用だ?と佐々島に聞く。

長次をお屋敷に連れて来る途中、くせ者に出会いましたと佐々島が答えると、鈴を鳴らした丹波守はやって来た娘の楓(野上千鶴子)に酒の支度を頼む。

部屋に同席した木村が昔幻はお仕置きになりました。幻新三とその女房のお浜…と佐々島に打ち明けていた。

もう15年にもなるか…と丹波守も思い出していた。 この甚内も当時は鬼の与力の木村甚内と言われ、歌にまで歌われていた…と歌を披露した丹波守は、鬼の弥助は左腕♩と弥助の名を出したので、今でも弥助は死んでも十手を離さないと申しておりますと佐々島は教える。

番所では、その弥助が小吉や原達に、幻新三は盗みを18件…と話していた。 屋敷でその話を聞いていた佐々島は、それで仕置きとは…、刑が重すぎませんか?と疑問を口にしていた。

罰を重くすればこの世から悪事の種が減らせると持っていた…、しかし、仕置きを受けたものの家族から重罪人が現れるようになった…、恐ろしゅうなってお役を引いたのじゃ…と丹波守は過去の事を打ち明ける。

離れでは、楓が琴を弾いており、長次は笑いながらも鑿をふるい人形作りを続けていた。

長次か…、不憫な奴だ。わしは人形を集めるのが好きで、供養の意味も込めて長次に幻夫婦の像を彫らせたのじゃ…と丹波守は佐々島に説明していた。

美男美女の人形が出来たとき、長次は狂ってしまい、彼の妻ももだえ死んだ。

わしはそんな長次と娘を引き取ったのじゃと丹波守は話し終える。

何者でございましょう?先ほどの賊は…と甚内が問いかけると、賊は幻新三の出で立ちにそっくりで、土蔵の人形が動き出したのかと思い血の気が引いたと丹波守は答える。

その頃、番所で雑談をしていた小吉達は、いつの間にか壁に「越後屋弥助 お命頂戴 まぼろし」と書かれた紙が貼ってある事に気付く。

丹波守の屋敷でも、今まで聞こえていた楓の琴の音が急に途絶えたので、酒を飲んでいた丹波守が怪しむと、畳に文が結ばれた手裏剣が二本刺さっている事に気付く。

甚内と丹波が二つの文を開いてみると、それぞれ「木村甚内 お命頂戴 まぼろし」「前田丹波守 お命頂戴 まぼろし」と書かれていた。

楓の部屋にも同じように文が結ばれた手裏剣が打ち込まれており、その文には「前田丹波守はお前の父ではない。本当の父が知りたくば、四つ、裏庭に来い まぼろし」と書かれてあった。

その言葉に従い、四つ時に裏庭に出向いた楓の前に現れた若衆姿の頭巾の人物は、お嬢様、つやでございますと声をかけて来る。

相手は長次の娘お艶(オリエ津坂)と知った楓は驚き、何故帰らぬのです?長次は可哀想に…と聞くが、御前様に恨みがあります。おっかさんを殺したのは御前様です。

いっその事午前様も呪われた方が良いと思う程です…とつやは言い、私は聞いたのですが、お嬢様驚いてはいけませんよと前置きして、楓の耳元になのごとかを囁きかける。 それを聞いた楓は、そんな事が!と驚愕する。

柳橋米沢町、隅田川沿いの船宿「喜仙(きせん)」の二階では、酔って腕枕で寝ている若さまを前においとがいつものように歌っていた。

そこにやって来た小吉が、若さま、いたずらなすっちゃ困りますぜ!と言いながら、番所に貼られていた弥助への予告状を出して見せる。

それを見た若さまは、与力や目明かしを脅そうなんて了見を間違えているなと呆れたように言う。

その返事を聞いた小吉は、若さまじゃないなら佐々島の旦那だなと貼り紙をした犯人を推測するが、そこにこのようなものが…と言いながら当の佐々島がやって来て、丹波守と甚内に宛てた脅迫状を若さまに見せる。

それを見た若さまは、こうなるとただのいたずらじゃなさそうだな、念が入り過ぎているぜ…と真顔になる。

しかしすぐに、何を仏頂面をしておる、酒がまずくなると言い出し、おいとに酒の支度をさせると、小吉は既に盃を手に嬉しそうにしていた。

翌朝、この脅迫状の事件を知らせる瓦版を、はたして犯人は何者か〜♩と歌いながら売る早目の吉千(川田晴久)の姿があった。

翌日、花見に早く出かけたいおいとは髪の手入れで手間取っていた母親お仙(清川玉枝)を急かして一緒に二階の若さまの部屋に上がってみるが、何と若さまは泥酔して眠り込んでいた。

おいとが起こすと、桜はどうだ?などと言い出したので、ここはまだ若さまのお部屋ですよ!とおいとが怒ると、出がけにちょっと一杯と思っていたら飲み過ぎて良い気分になった…、桜は明日、明日!などと若さまは腕枕のまま返事をするので、お母様が遅いから!とおいとはお仙に当たる。

丹波守の屋敷では、昨夜からにわかにここも薄気味悪くなった…などと言いながら、丹波守が捜査に訪れた佐々島を人形が置いてある土蔵に連れて来る。

そこにあった幻新三の人形を前にした丹波守は、確かにそっくり…、だが生きているはずがない。

ただのいたずらだと思うが…と言う丹波に、新三には娘があったとおっしゃいましたが?と佐々島が問いかけると、お艶と申しての…、当家に引き取ったのだが、その後家を飛び出し、噂では曲芸師や寄席芸人になったり、今では向島で湯女になっているとか…と丹波守は教える。

「越後屋弥助 お命頂戴 今宵暮六つ まぼろし」の脅迫状が壁にまた貼り出される。 その暮六つの鐘が鳴り始める。

弥助は丹波守の屋敷に招かれ、丹波守、甚内、佐々島、小吉らとともに座敷で待機していたが、何事も起こらなかったので、大の大人がこんないたずらで…と苦笑すると、丹波守も、全くネズミ一匹も出ぬではないか…と丹波守も笑い出す。

離れでは楓がいつものように琴を奏でいたが、夜番がございますのでこれで…と弥助は丹波守に頭を下げ立ち上げる。

我々もおいとまいただきますと佐々島と小吉も言い出したので、佐々島様、裏木戸の所で待っておりますと一足先に座敷を後にした弥助は浮気度の所へやって来た所で右足の草鞋の鼻緒が切れてしまう。

屈んで、鼻緒を結び直していた弥助は突然近づいて来た人物に気付いて、誰だ!と顔を上げて睨みつけるが、顔見知りだったので、びっくりするじゃありませんかと苦笑し、又草鞋を直しだす。

そんな弥助に、鑿を持った手が近づき、驚いた表情の弥助がのけぞって倒れる。 離れにいた楓は琴の側の畳に手裏剣が刺さったので驚いて手を止める。

呪いだ!まぼろしの呪いだ!と言いながら、長次は人形を彫っていた。

その状況を若さまに報告しに来た佐々島は、楓は座敷で猫を抱いて震えていましたとも伝える。

弥助を殺した凶器の鑿は、同心の原勝馬が土蔵の中の人形が手に持っているのを発見したので、人形の呪いではないかと丹波守様も木村様も言い出していると言う。

裏木戸に出るには奥の間に通じる階段だけと聞いた若さまは、屋敷の者だな…と呟く。

土蔵を出て座敷に戻ると、第二の予告がなされたのですと佐々島は言う。

そこには「越後屋弥助 お命頂戴 明後日暮六つ まぼろし」と書かれた紙が置いてあったと言うので、夕べ「明後日」と言えば、明日の暮六つ…と若さまは気付き、おいとが膨れているのに気付く。

丹波守の庭先を警護していた原勝馬は楓に会うと、人形の呪いなど笑止と慰め、名前を名乗って若輩者なれど…と挨拶をする。

そこに佐々島に連れられてやって来た若さまが、弥助の凶器を見つけたそうだなと原に声をかけ、長次に娘がおり、今は向島の湯女になっているとかと佐々島から聞くと、丹波守は独り身のはず、娘をどこから貰い受けたのか早く調べてくれと佐々島に命じ、自分は離れに上がると楓と対面する。

丹波守は本当の親ではないと知っているか?と単刀直入に問いかけると、知りませんと楓が言うので、知っているな?誰に教わった?と問いつめるが、楓は答えない。

畳の傷跡を聞くと、猫が…と楓が言うので、猫にしては鋭い爪だなとだけ答え、若さまはすぐに辞去する。

佐々島が一番怪しいのはこいつですなどと言いながら人形を集めた土蔵に案内しようとすると、若さまは興味がなさそうに、小吉、付いて来なと呼びかけたので、どちらへ?と聞くと、生きた人形のいる所だよと若さまは答える。

町中では、早目の吉千が又面白おかしく歌いながら、事件の展開を町民達に伝えていた。

「江戸随一 千人風呂」と暖簾に書かれた湯屋に小吉とやって来た若さまは、お艶さんを呼んでくれと指名する。

お艶がやって来ると、小吉が座を外したので、どうだい、お前は俺に惚れてみねえか?などと若さまはのっけから誘いかける。

お艶が惚れて良いの?と乗って来ると、その代わり、今の旦那ときれいさっぱり別れてくれ、2人か3人か?などと若さまはからかうので、弱い女心をくすぐるのは嫌いだねとお艶がへそを曲げたので、丹波守とどっちが嫌いだ?と若さまは聞き、お前の親父は人形師の長次だな?と確認する。

お役人かい?とお艶が警戒すると、俺は縛るのが大嫌いなんだと若さまは笑う。

湯屋を後にして橋のたもとへやって来た若さまは、しょっぴきましょうか?と言う小吉に、根っからの悪人じゃなさそうだとお艶の事を評価していたが、その時、出るな…と急に言い出し、小吉、用心しろよ!と呼びかける。

覆面をした浪人もの達が数名、刀を向けて若さまを取り囲んだので、俺と初期値をやっつける気かい?こうつは良いや!と苦笑した若さまは、次々に浪人の相手をしながら、川の中に突き落として行く。

賊が最後の1人になると、若さまは自ら刀を捨て、相手につかみ掛かると、賊は頼まれただけだ、見逃してくれ!と泣きついて来たので、頼んだのは誰だ!と締め上げると、名は知らぬ。年は23〜4で色白の優男だと賊は自白する。

若さまはその賊を解放し、翼に目のくらんだネズミさ…と小吉に言う。

丹波守は楓から真の父親の事を聞かれ、やっぱりその事だったか…、母は幼い頃死んだと申していたが、いずれ分かると思っていた。

わしはこの年になっても連れ添う者をもろうた事はない。そなたは遠い親戚から…と答えるが、知っております、艶から聞きました。

私は呪われた娘でございます…と楓は嘆く。 「喜仙」ではおいとが若さまから花見を誘われ、今から行ったのでは日が暮れてしまいます。

行けない事を分かって言ってるのでしょう?と膨れていた。 暮六つ…、幻は来るかな?いや来るまい…と腕枕の若さまは呟く。

「木村甚内 お命頂戴 明後日暮六つ まぼろし」と書かれた脅迫のアップ

抜かりなく邸内の警護が敷かれた前田家の屋敷の座敷では、甚内は丹波守と碁を楽しんでいた。

はたして幻は出ますかな?幻は…などと言いながら石を打つ甚内。 丹波守も、出るかな?などと冗談めかしながら石を打つ。

お命頂戴!と言いながら石を打つ甚内。 暮六つの鐘が鳴り終わっても何事も起こらないので、甚内は安堵したように用意されていた湯のみの茶を飲むが、次の瞬間、甚内は苦しみだし、吐血して碁盤に突っ伏す。

驚いた丹波守は、目の前にあった紙を広げると「前田丹波守 お命頂戴 明日暮六つ まぼろし」と書いてあった。

毒の包み紙はお浜の人形の前に落ちておりましたと小吉とやって来た佐々島から報告を聞いた若さまは、殺された弥助は十手を抜いてなかったんだろう?抜く事もなかったんだろう。弥助の顔見知りに違いない…と推理する。

その頃、「喜仙」の1階では、おいとがお仙に帚と手ぬぐい貸して!と言っていた。

珍しいね、掃除してくれるのかい?とお仙が聞くと、早く帰ってもらわないと今日もお花見行けないわ…とおいとはぼやく。

佐々島は、原の考えで今夜は丹波守様には奉行所に移ってもらう事にしましたと言うので、そろそろ来る頃だ…と言いだした若さまは、ゆっくりして行かないか?と佐々島に勧め、自分は部屋を出て行くと、そこに置いてあった逆さまの帚に手ぬぐいが巻いてある者を無言で取り上げ、それを持ったまま下に降りると、そこにいたおいとに帚を渡し、二階の2人に酒でも飲ましてくれと頼んで自分は出かけて行く。

そこに出て来たお仙が、おや?お前さん、掃除をしてくれたんじゃないのかい?と聞くと、おいとは、おまじないが逆に効いちゃったのとすねる。

前田家の屋敷内では、楓を呼び寄せた丹波守が、これは我家の財産目録だ、わしが死んだらそちが好きなようにしなさいと話していた。

さらに丹波守は驚く楓に、その賊はわしには分かっておる、そちの兄じゃ、そなたは新三とお浜の娘じゃと打ち明ける。

仕置きに致したわしは、後に遺された寄る辺ない兄妹を不憫に思い引き取ろうとしたが、当時8歳だったそなたの兄は行方知れずとなり、まだ布団の中で泣いておった赤子だったそちを育ててやったが、兄が生きておれば22〜3になったであろう。

幻の呪いと言えば、そちの兄しかいないのじゃ…と丹波守が話し終えると、聞いていた楓はさめざめと泣き出す。

その頃「千人風呂」では、「十三夜」の歌と踊りが披露されていたが、そこにやって来た若さまはお艶を呼ぶと、もうしゃべりたい頃だと思ってやって来たんだと話しかける。

何の事です?とお艶がとぼけるので、胸に貯まったやましい事だ、ないとは言わせねえぜと迫ると、あんな恐ろしい事とは何の関わりもないんですよ、ただ丹波守が憎くて…とお艶は否定する。

そんなお艶に、おめえ、軽業やってたんだろ?と若さまが聞くと、世の中の事何から何までねとお艶が答えたので、手裏剣投げたのはお前だろう?幻の格好をしていたのもお前だろう?と指摘すると、お艶は驚いたようだった。

しかし、幻の倅に頼まれたんだろう?と聞くと、それだけはご存じなかったんですねとからかうように言ったお艶は、私だって一度会っただけなんで何にも知りませんよとしらを切り、幻の姿で丹波守を脅かしただけですよと言う。

楓の奴に何かを吹き込んだ事はなかったか?と若さまが聞くと、本当の父は幻と言う事と、人形の手に鑿を持たせるよう指示しただけですよ。父の恨みが浮かばれると言ってねとお艶は答える。

お前に頼んだ奴は体つきはすんなりしていて中肉中背、年の頃は13〜4だろう?一体誰だそいつは?おめえはその男のイロか?と若さまが聞くと、一度会っただけだと言ってるじゃないですかとお艶は嫌そうに答える。

いくらもらった?と聞くと、10両ですとお艶は正直に答える。

人形の手にのみを持たせたのは楓の仕業なんだな?では薬の包み紙は?と若さまが聞くと、知りませんよ、そんなもの…とお艶は答える。

22〜3で色白ですんなりした奴…と考え込んだ若さまだったが、すぐに立ち上がると、一風呂流して来るか、背中を洗ってもらおうかと言い出し、驚くお艶に、俺は縛るのが商売じゃないと言ったじゃないかと笑いかける。

「前田丹波守 お命頂戴 明日暮六つ まぼろし」の脅迫状のアップ 前田家では、原勝馬の提案通り、奉行所に移して不在の丹波守の代わりに原本人が猫を抱いて座敷にこもり、庭先には佐々島と小吉が待機していた。

長次は、人形を作っていた作業部屋でじっと鑿を見つめていた。

そんな中、原のいる座敷から猫の悲鳴が聞こえたので、驚いて縁側に駆けつけた佐々島と小吉が声を掛けると、尻尾を踏みつけてましたと原の声が聞こえたので、さようかと安堵した佐々島と小吉は部屋を離れる。

その直後、暮六つの鐘が鳴り始め、なり終わっても何事も起こらなかったので、原さんのせっかくの名案も無駄でしたねと小吉は笑いながら座敷の中に声をかける。

しかし部屋の中から返事がなかったので、原!と呼びかけながら佐々島は座敷に入ると、そこには抜刀した刀を握ったまま息絶えた原が倒れていたので驚愕する。

佐々島は小吉に笛だ!と命じ、小吉は呼子を吹き鳴らす。

そして再び座敷に戻った佐々島と小吉は、そこにあったはずの原の屍骸が消えている事に気付く。

その報告を「喜仙」の二階で佐々島と小吉から聞いた若さまは、何!幻が出た!と驚く。 所が屍骸が消えたんですと小吉が言うと、何?屍骸が消えた!と若さまも驚いたので、どうやら賊は天井から逃げたようです。

部屋の天井から血が落ちて来たのに気付き、小吉に調べさせた所、部屋の隅の天井いたが外れる事が分かり、中をのぞいてみたら…と佐々島が言いかけると、原の屍骸じゃなかったろう?猫の屍骸だろう?そうだと思った…と若さまが先に言い当てる。

さらに若さまは、原は抜刀していたと言ったな?この辺に何かありそうだな?これは猫の血だな?と原が持っていた「前田丹波守 お命頂戴 明日暮六つ まぼろし」と書かれた脅迫状に付着していた血痕の事を指摘する。

まんまと猫の仕掛けに引っ掛けるつもりだろうがそうはいかない…、下手人は弥助の良く知っている奴で、毒を入れるのも良く知ってるね…、奴はどこに隠れたか?と若さまが考え込むと、原勝馬の遺骸さえ見つかれば分かるでしょう。

土蔵の中も調べてみたいと佐々島が言うので、一切合切役人を引き上げろ、丹波守も屋敷に戻せば、後は俺がやってみせると若さまは命じる。

その頃、人形師の長次は、出来た!幻の呪いが出来た!と作業部屋で叫んでいた。 その事を佐々島が若様に報告すると、小吉にお艶を呼びに行かせる。

そして、部屋の外で姉さんかぶりをし、帚で掃き掃除をしていたおいとに、おいと、花見は明日行けそうだぞと声を掛けるが、桜なら夕べの雨ですっかり散ってしまいましたよとお仙が教えに出て来る。

前田家の土蔵にお艶と共にやって来た若さまは、長次が完成させた人形を見せ、どうだ?おめえに金をくれた男に似てないか?と聞く。

お艶は一瞬目を逸らすが、そうですよ、あの男そっくりですよと答える。

するとその人形を抱き上げた若さまは、今度はこっちで一杯食わせる番だ、小吉、来い!と言いながらどこかへ持って行く。

やがて暮六つの金が聞こえて来る。

土蔵の中にあった布のかかった人形の布がはらりと落ち、 若衆姿の人形が歩き出す。

屋敷の廊下を進んだ人形は、丹波守の寝所に入るなり、刀を抜き、父の仇!と叫びながら寝ていた丹波守の身体を突き刺す。

その瞬間障子が明き、廊下に立っていた若さまが、振り向いて驚く相手に、俺を知ってるらしいな?今度はお前がまんまと騙されたぜ、今、お前が刺したのは、長次が作ったおめえそっくりの人形だ!と教えると、頭巾をかぶった賊が斬り掛かって来たので、庭に出て戦う若さま。

お前が土蔵に隠れていたのは分かっていたんだよ。猫の屍骸を天井裏に投げ込みゃ、そこから賊が逃げたように見える。

幻新三に成り済まし、猿知恵を出したつもりだろうが、小賢しい知恵にはやがては己が縛られる。

今更説教しても始まるまいが…と若さまは言いながら斬り合っていたが、その時、座敷内から、兄上!と呼びかける弱々しい声が聞こえて来る。

若衆姿の賊が驚いて座敷の中に飛び込むと、布団の中の人形の上に楓が重なって隠れて寝ていた事が分かる。

後から部屋の中をのぞいた若さまも、自分の罠を楓に利用された事を悟り、しまった!と叫ぶ。

賊から刺された楓は、駆け寄った頭巾の賊に、お兄様でしょう?お顔を見せて…と頼む。

頭巾を取った原勝馬は、楓!許してくれ!と楓に詫びるのだった。 翌日、幻の呪いの正体は原勝馬だったと歌いながら町民に知らせる早目の吉千とその仲間達。

天下は太平、おめでたい〜♩ 「喜仙」の二階にやって来ていたお艶は、若さまですから、腕によりをかけて口説きますか…と酒の相手をしていたが、その会話を廊下で立ち聞きしていたおいとは気が気ではなかった。

酔ってお艶の膝枕で横になっていた若さまは、全てはお前任せてん、口説くなら口説かれよう…、浮き世の中を流れて行こう…、人は何故、憎んだり恨んだりするのか?煩わしい事だ… 鏡のように月のように…、おいとの気持のように…、きれいに生きていけないのか? 人の罪を責めて自分の罪は許すのか?嫌だ、嫌だ…、おいと!と若さまは呟くので、それを聞いていたお艶の顔が急に曇る。

おいと、歌ってくれないか?お前だけが付き合える心のきれいな奴なんだ。

来年の春には必ず桜見に行こう…と、まだ若さまはお艶をおいとと勘違いしたまま呟く。

廊下でそれを聞いていたおいとは喜び、店の前の川縁に出て、いつものように歌いだすのだった。

二階のお艶はいつの間にか帰っていた。

空には満月が輝いていた。


 


 

 

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