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歌え若人達

木下恵介監督独特のシャレたセンスが光る青春群像劇

脚本が山田太一さんというのも注目すべきだろう。

青春ストーリーなのだが、70年代の暗い挫折青春もののようなシリアスタッチではなく、この時代はまだ幸運で栄光を掴むジャパニーズドリームのようなエピソードが描かれており、 将来に夢を持てないシニカルなタイプの主人公の青年が雑誌のモデルをきっかけに、テレビスター、映画スターと、あれよあれよという間に抜擢されて行くファンタジーのような「スター誕生」ストーリーに、彼の友人たちが経験する恋のもつれを描いており、軽妙なタッチと相まって、今見ても楽しい娯楽作になっている。

当時の1月6日公開だったことを考えると、まだおとそ気分も抜けない肩の凝らないオールスター正月映画のようなものだったのだろう。 

その幸運をつかむ主人公の1人は、文字通り、大学在学中、木下監督に発見されて、これが初作品らしい松川勉さんと言う新人で、話の展開自体がこの新人スターの楽屋裏話のようにも見える趣向になっている。

正直、馴染みがない俳優さんだが、確かに爽やかで歯がきれいなモデルタイプのイケメンである。

演技はまあそれなりと云った印象で、巧くもないが、取り立ててへたと云う感じでもなく、新人としては普通程度だと思う。

他の3人は、川津祐介さん、三上真一郎さん、そして、最初見たときは一瞬別人かと迷ってしまうほど若々しい山本圭さん。

山本圭さんと言えば「若者たち」の暗いインテリタイプの大学生イメージが強いためか、ここに登場するマザコン風のへらへらしたか弱いお坊ちゃんタイプのキャラクターは衝撃的ですらある。

ヒロインも豪華で、岩下志麻さん、倍賞千恵子さん、そして、もうどこからどう見てもテレビでお馴染みのおしゃべりキャラになっている冨士眞奈美さん!

脇役陣も正月映画らしく豪華で、ほとんどゲスト出演のような短い登場の仕方ばかりなのだが、永井智雄さんに大森義夫さんと言う「事件記者」コンビから、若水ヤエ子、柳家金語楼、林家珍平、益田喜頓と言った喜劇陣も出れば、山口崇、京塚昌子と言った後のテレビの人気者、さらには津川雅彦、佐田啓二、田村高廣、岡田茉莉子と言った人気スターたちまでがちらちら顔を出している所が、今見ると贅沢と言うか貴重。

この映画の翌年からテレビの「木下恵介アワー」が始まり、ここに登場している脚本家の山田さん始め、多くの俳優たちがテレビでも活躍することを考えると、映画の全盛期からテレビへ人気が移動する端境期を象徴しているドラマのようにも見える。

そう云う意味では、作品のラストに登場する松竹主催の「新春スター・パレード」などと言うイベントそのものが、大松竹時代や映画業界そのものの栄光の最後の輝きのように見えなくもない。

劇中で登場しているテレビ局が8チャンネルのフジテレビだったり、劇中で若者たちが、あんな映画を見ても退屈だよ、どうせ安っぽい邦画でしょう?などと邦画批判を堂々としているのも象徴的。

ただ、この映画自体は軽いタッチなのにまだ安っぽいイメージがなく、今では到底再現できないような贅沢感を味わわせてくれるのが嬉しい。

邦画の自己批判みたいなことをパロディとして表現しても、新しい時代のテレビスターでも松竹は引き抜いて育てますよと云っているかのような宣伝映画と言うか、横綱相撲のような余裕が垣間見える作品である。
▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼
1963年、松竹、山田太一脚本、木下惠介監督作品。

銀座の風景

立派ですね、東京… 世界一の大都会です、色んな意味で…

そんな街角を歩く、赤いスーツに赤い蝶ネクタイ、ピエロのメイクをしたサンドイッチマンが、反対側の歩道を見て、俺より変な格好の奴がいる…と呟く。

それは、学生服に学帽をかぶった学生だった。

今時、学帽かぶっているなんて珍しい存在ですね。

ここは高名な東大

ここは早稲田

みんな学帽を捨てちゃって、頭に自由を取り戻した…

ここは慶応

高らかに…かどうかは知りませんが…

(キャバレーで演奏するバンドの姿)このバンドも学生バイトで、この人たちは働き口に困らないでしょう。

(野球場の応援団の姿)これは東京オリンピックに期待します。

(道路を走る陸上ランター2人)頑張ってます。勉強はどうか分かりませんが…

(男性ファッションモデルたち)この人も学生…、優雅です。

(学生デモの様子)勇敢な学生です。

(街の喧嘩の様子)この戦いも学生ですが、こういう所へも進出したのでしょうか? 間違えました。本物の与太者です。最近は見分けがつきませんから。(…とナレーション)

授業中の大学の教室

もちろん勉強もします。(とカメラが教室内の生徒の後ろの方へ移動すると、1人の学生が居眠りをしている)

もちろん勉強もします!(強い口調でナレーターが繰り返すと)その学生森康彦(松川勉)は目覚め前に目をやる。

どうです?希望に輝く瞳…、希望があるのかないのか… で、この映画のお話です。(とナレーション)

(色紙が下から上に落ちるカラフルなイメージを背景に)タイトル キャスト、スタッフロール

丸の内のビルの窓掃除をしていた森は、持っていたブラシを窓掃除用のゴンドラからわざと捨てる。

一緒に働いていた岡田一之助(三上真一郎)はそれを見て驚き、何してるんだ!危ないよ…と言いながら下の様子を見下ろすと、怒鳴っているよオヤジがが注意する。

当たらなかったよと森が言っても、怒ってるよと岡田は言う。

急に嫌になったんだ…、友情だ、頼むともりが言うので、岡田が下を見て、すみません!と詫びを言う。

その夜、寮に帰って来た森は、勉強していた宮本伸一(川津祐介)の横に寝そべり、これが生活か…、これが俺の人生か…と嘆いてみせたので、大げさなことを言うな!と宮本はバカにする。

寂しんだ!などとそれでも森が話しかけるので、少しは黙ってろ!と勉強に集中できない宮本は怒りだす。

お前も親切だ。今日はバカなことをした。

10日間煙草をやめると森が言い出したので、今日はどうしたんだ?と聞くと、気が弱くなったんだと森が言うので、いくら寮暮らしだからって、一銭も仕送りがないだろう?無理なんだよ、お前…、恋人でも3〜4人作るんだなと宮本は無責任な言葉をかける。

すると、同じ部屋で勉強していた岡田が、うるさいぞ!と宮本に文句を言うが、その時、どこかの部屋から「走れトロイカ」を合唱する声が聞こえて来たので、中学生の音階だよと岡田はバカにするが、俺は歌うぞ!と叫んで部屋を出て行った森は、合唱していた学生達に混じり「走れトロイカ」を歌う。

寮内では、休憩所で碁を打つもの、部屋で文庫本を読むもの、ボクシングのグラブを磨くもの、洗面所で選択をするもの、卓球をするものなど様々な学生がいた。

翌日の大学構内 歩いていた森は、見知らぬ女学生3人組の美人本庄淑子(冨士眞奈美)から、16号館探しているんですけど?アヴァンギャルド会ってそこでしょう?と訪ねられたので場所を教える。

淑子達が立ち去った直後、森に近づいて来た宮本は、おい、ぐっと来たか?とからかって来ると、彼女は何故学生の群れの中から君を選んだのか?何でもうぬぼれの種になるってことよ!と言うと、淑子達のグループに追いつき、何故彼を選んだのか?と聞く。

すると淑子は、巡り会いでしょう?ととぼけたので、特に選ばれた訳じゃないぜと森に話しかけ、今の質問に意味はないんだ、きっかけだよ、女の子とのきっかけは大事にしなくちゃなどと偉そうにアドバイする。

その後、淑子らのグループと森を伴い街に出た宮本は、あんな映画見たら退屈するだけでしょう?などと言うので、安い邦画でしょう?などと淑子も同調する。 宮本は森に、生かすのは1人きりよと、狙う相手は淑子だけに絞ることを耳打ちする。

そんな宮本にそそのかされた他の女の子達は、後楽園のコーヒーなどという聞き慣れない場所に行かされ、アヴァンギャルドよ!と喚いていた。

その後、ギター弾きが奏でるバーに付いて来た淑子は宮本と森に、いつも恨まれるのは私よなどとぼやいていた。

君なら割り勘なんて言わないと宮本が淑子にささやきかけると、2人のうちのどっちまこうかな?などと淑子が言い出したので、どうぞお好きにと宮本は余裕を見せる。

淑子は宮本と森双方に気がある振りをし、テーブルの下では2人の靴を同時に蹴ってみせる。

大学での教室では「好色一代男」の世之介の話をしている平山教授(三島雅夫)の授業をやっていたが、エロ話風の内容だったので、次々に席を立つ学生の姿があった。

岡田もつまらなそうに聞いていたが、そこにやって来たのが女子大生の中島裕子(倍賞千恵子)で宮本を探しているようだった。

彼女と一緒に教室を抜け出してみると、宮本さんってどう言う人?と裕子が聞くので、現代人ですよとはぐらかすと、どう言う意味?嫌いなの?と裕子は聞いて来る。

恋人同士じゃないですからねと、裕子と宮本が付き合っていることを知っている岡田が皮肉ると、捕まえどころがないのと教えた裕子は、お金を借りようと思っているの、1000円なのと言うので、あなたも貧乏なんですねと同情し、岡田は几帳面に折り畳んで持っていた1000円をその場で貸してやる。

淑子はそのまま帰るというので、岡田はまたエロ話を聞きに教室へ戻ることにする。

一方、淑子は結局、宮本とデートをすることにし一緒にレストランで食事をしていたが、森さん、どうしているかしら?などと案ずるので、良く見るんだな、僕よりぐっと落ちるよと宮本はけなす。 振られた森は、1人ストリップショーを見に行った後、寮の風呂に入り、部屋に戻って来ると、宮本が既に寝ていたので、あれ?帰って寝てるよ、遊び疲れたか…と呆れる。

どうしてこんな奴が成績良いんだろう?と岡田が口を出すと、頭だよ!と森は面白くなさそうに答えるので、お前もこいつのように気楽にやれと慰める。

俺には刺激がないんだ!と森が愚痴るので、地震じゃダメか、夕べの?と岡田が混ぜっ返すと、原爆もダメか…、学生が政治の中で役立つことはないし、割り切るなら今の日本は気が散りすぎる!日本中が真夜中さ、お先真っ暗!と森は不平を述べ始める。

そうした2人の会話で目が覚めてしまった宮本は、首でも吊りな!と口を挟んで来る。 そこへ、寮仲間の平尾弘(山本圭)が、食べませんか?おふくろが送ってくれたんです!と言いながら、菓子箱を持って来る。

ある日、又してもビルの窓拭きのバイトをしていた森の姿を、窓越しに見ていた「現代グラフ」の編集者平井(永井智雄)が、若い編集者(中田浩二)を呼び寄せ、あれどうだ?と森を指差す。

同僚は仲間のお恵ちゃん(八木千枝)も呼ぶと、良いですね、良いフェイスね?と意見を言う。 編集長(大森義夫)も、いけるね、平井ちゃん!と乗り気になる。 タイトルは何にするかな?と平井が考え込むと、「働くおいらの昼と夜」じゃどうでしょう?と若い編集者が提案するが、グラビアじゃないんだよ!と平井は不満を言う。

かくして、森の窓拭き中の写真と編集長のインタビュー記事が「現代グラフ」に掲載され、あっという間に消費される。 謝礼として森は1万円をもらう。

食堂のおばさん(武智豊子)が掃除中の食堂で、岡田を相手に、人の心にずかずか入ってきやがって、その謝礼が1万円か、言わばキャバレーのチップが1万ってことだなどと又へ理屈を言っていると、宮本がやって来て、森、5000円貸せ、崩して来てやると言うなり、森がひけらかしていた1万円をひったくって行ってしまう。

それを見ていたおばさんは、いつまでも粘っているからですよ、お茶がただだと思って…と、茶を要求した岡田に茶を注いでやりながら注意する。

森から金をせしめた宮本はレンタカーを借りて裕子の下宿に迎えに行く。

ところが、車に乗り込んだ裕子の機嫌が悪く、私のことどう思ってるの?とねちっこく絡んで来たので、今日の空のようにからっとしようよ、そう深刻ぶらずに…と宮本は腐るが、愛するなんて深刻なものじゃないかしら、あなたの気持をはっきり知りたいのと裕子がなおも追求して来たので、前に好きって言ったじゃないかと宮本が面倒くさそうに答えると、好きって言っただけで責任はないって言うの?とさらに裕子は責めて来る。

君、岡田から1000円借りているだろう?と宮本が反撃しようとすると、明日中にお金がいるのよ、1000円貸してちょうだいと返り討ちにあってしまう。

寮では、三寮の森康彦さん、面会ですと、妙な東北訛の管理人(若水ヤエ子)のアナウンスがこだましていた。

部屋で寝っ転がっていた森は面倒くさがり、俺は風邪引いてるからお前行ってくれと岡田に頼む。

そこへ又平井が、国のお袋が送って来たと菓子箱を持って部屋に遊びに来たので、たまには違ったものを送ってもらえよ、お前、レコードかけっぱなしにしているだろうなどと森はバカにするが、あれは自動で止まるんです。知らないんですか?森さんって案外田舎者ですねと逆にバカにされたので、帰ってくれよ!と森は追い出し、あいつは苦手だ…とぼやくが、その時また平井が戻って来て、用があったら言ってくださいねなどと余計なお節介を言って行く。

そこに岡田が戻って来て、俺ちょっと出て来る。断りきれなかったんだよ、今日は日曜だからな…と森に伝え出かけて行く。

すると又、三寮の森康彦さん、面会ですと管理人のアナウンスが聞こえて来る。

また面会ですよと顔を見せた平井に、うっかり行けないよ、行って来てくれよと森は頼む。 森を誘いに来た結果、岡田と出かけることになった淑子は、宮本さんがいない方が良かったわ、良く見るとずっと落ちるわと、いつか宮本が言っていた台詞でバカにする。

森の二度目の面会人は、意外なことにテレビディレクター浜田(椎名勝己)と香山(山口崇)と言うテレビ関係者だった。

森が載った「現代グラフ」を見て、「若者の傷は癒えない」と言う新番組に出演してくれないかというスカウトだった。

半年間に既に40人くらい面接してるんです。アルバイトと思って1〜2時間ほど潰してくれませんかと香山は説明する。 テレビ関係者が帰った後、森は平井に、今のこと言うなよと口止めをすると、ああいうの嫌いなんだよと吐き捨てる。

ところが、夕食時、食堂に行った森は、その場にいた寮生たちから拍手で迎えられ、しっかりやれ!テレビスターだからな…などと激励されたので、部屋でベッドに寝ていた平井につかみ掛かり、お前、しゃべったな!と文句を言う。 平井は、松本さんに言っただけですよなどとけろっと答えるだけだった。

その後、ボーリングをしていた宮本は、やって来た平井から、森さん、テストにパスしました、なかなか巧かったんですよと教えられる。

寮に帰って来た森は、まだ承諾した訳じゃないんだと言うが、良い金になるんだろう?とねたみを隠して聞く。

翌日、街に出た森は、ビルの屋上からブラシを延ばし壁面掃除をしているおじさん(山口松三郎)の姿を見上げていた。

8チャンネルスタジオで、共同乳業提供「若者の傷は癒えない」の収録が始まり、宮本、岡田、平井らがスタジオに見学に来るが、恥ずかしがった森は帰ってくれと頼む。 しかし、スタジオの外に出た3人は、収録が終わったら、おめでとうくらいは言ってやろうと言うことになり待つことにする。

やがて収録が終わった森が出て来て、お待ちどう!ディレクターがごちそうしてくれると言うんで付き合ってくれよ。

友達がいると言ったら連れて来いって言うんだと言う。 そこに、共演女優の厚木紀子(岩下志麻)が近づいて来て挨拶したので、3人は感激してバーに付き合うことにする。

店のマダム(坪内美詠子)が浜田に挨拶に来る中、隣のテーブルでビールをごちそうになる宮本たちは、紀子にお酌してもらっている森の姿を見て悔しがる。

泥酔した森を寮に連れ帰って来た3人は、ふん、いい気なもんだ、これがお先真っ暗な奴か?とぼやいた宮本は、自分のベッドに戻ると不機嫌そうに横になる。

あいつ1人にやられちゃったな…ケチな酒呑ませやがって!と宮本は愚痴を言い出し、色んな世界があるんだな…、意外と身近な所に…と岡田も呟く。

ある日の経済学の授業中、突然宮本が退席しかけると、教授(益田喜頓)が、待ちたまえ!君は私の授業を立つのかね?理由を言いたまえ!と睨みつけて来る。

宮本はとっさに下痢をしてるんですと答え出て行く。 教授も、下痢じゃしようがない…と諦める。

その後、レンタカーで裕子の下宿の前に行きクラクションを鳴らすが、下宿のおばさん(清川玉枝)が、いませんよ!と二階から答える。

その後も2度下宿に戻って来てクラクションを鳴らすが、裕子の返事はなかった。 宮本は結局、淑子で間に合わせることにする。

淑子は、岡田さんって人とお茶飲んだけど話が合わなくて…と打ち明けるので、君、ビール飲んで、ゲーゲー吐いたんだろう、電車道で…と、宮本は岡田から聞いた話を確認する。

その頃、森は、ドラマの本読みをしていた。 寮では、間近に迫った大学祭のダンパに向け、男子寮生同士がダンスの練習に明け暮れていた。

岡田の部屋に、みかん食べませんか?と又平井が遊びに来たので、又お母さんか?と聞くと、買って来たんですよと平井は憮然とした顔で答え、3つで良いですねと言いながらみかんをベッドに置く。

君は良い旦那さんになるよとからかうと、僕もそのつもりでいます。

岡田さんも大丈夫ですよと平井が褒めて来たので、君にそう言われると勇気が出るよと岡田は皮肉る。

あっちで踊ってますよ、行きませんか?と平井が誘うので、大学祭か?僕は勉強するよと岡田が断ると、しかし、模範学生だな…と皮肉なのか本気なのか分からないようなことを言って平井は帰って行く。

岡田は、苦手だな、俺も…と平井のことを愚痴るが、また平井が戻って来て、みかんもう1つ置いておきますね、おまけですと言い、2つ置いて行く。

夜、また裕子の下宿の前に来るまで向かいクラクションを鳴らした宮本は、今帰って来た所なのとようやく裕子が返事を返して来たので、ご飯まだだろ?と呼びかける。

裕子と一緒にラーメンを食べに行った宮本が、人生なんてまぐれ当たりさ、今日2度も迎えに来たんだぜとぼやくと、森さん、凄いじゃない!人生って面白いじゃないと裕子が話をそらして来たので、また落ち込む。

大学祭が始まり、岡田は、ケネディのハリボテ人形を持った学生(山本豊三)と一緒に大きなフルシチョフのハリボテ人形を運んでいたが、前から言いたかったんだが、僕は君たちのような修正主義者と話したくない!と叫びだし、周囲にいた学生ともめ始める。

その結果、側にいた平井が殴られ昏倒してしまう。

宮本と岡田で、気絶した平井を寮のベッドに寝かせると、お母さん…、お菓子…、腐ってたよ…と、平井は寝言を言う。

その時、森さん、電報!と管理人が持って来て、平井が寝言を言っている聞くと、夢見がちなのよなどと言って帰って行く。

腐るよ、あの管理人には…と岡田はぼやくが、あいつテレビ局だろ?見たって良いだろうと宮本が言うので、電報を開いて読むと、明日2時駅に着くと言う母親からの内容だった。

又、お母さんか…、あっちもこっちも…と宮本が呆れると、ベッドで寝ていた平井はにこやかな顔になっていた。

テレビスタジオでは雪山セットが作られ、警官に追いつめられた犯人が捕まる様子を16mmを構えた良一役の森が写しているというシーンを録画中だった。

その後、良一役の森は厚木紀子と抱き合うシーンを録画する。

無事連続ドラマを撮り終えた紀子は、休憩室で森とジュースを飲みながら、あなたの最初の相手役になれて光栄だったわと微笑みかけると、最初で最後です。僕は月給取りになるんですと森が冷めた口調で答えたので、私、今の役を取るまで大変だったのよ。

あなた、サイン求められてもしないそうね?あなた、この仕事を続けるべきよ、そうして落ち目になってひーひー言うのよ。

悔しい和、私が今までどんな苦労して来たかも知らないでとすねたように紀子は言う。 森が自分に迷っていることを打ち明けると、あなたには知性があるわ、魅力的ですわと紀子が褒めるので、そうですか…と森は答える。

東京って酷い所ね…とタクシーの中でぼやいていた森の母親(川上夏代)は、亡き夫が昔勤めていた法務省前で一旦停めさせ、懐かしいね…と建物を見やり、お前も有名になったんだからなどと言っていると、運転手(渥美清)が振り返り、お客さんは誰ですか?と聞いて来る。

テレビのスターです。今売り出し中のなどと自慢げに母は言うが、知らなかったねと運転手が答えるので、もう良いですよと森は恥ずかしがって言う。 寮では、大学祭用の仮装をした学生で溢れていた。

牛若丸の紛争をした平井が、森が連れて来た母に挨拶をし、僕もお母さんが出て来たんだと言い、自室に案内する。

そこには、平井の母(京塚昌子)がおり、森と森の母に挨拶して来る。

やっぱり大学祭で?と森の母が隣に座って尋ねると、これが頭を殴られまして…、丸太ん棒で殴るなんて…と言うので、お前、知らせたのか?と森は平井に聞く。 たんこぶができたたんですよなどと平井の母は森の母に教える。 そこへ岡田がやって来るが、森と平井の母親がいることを知ると、慇懃に頭を下げて挨拶をする。

その時、三寮の岡田さん、面会ですと言う管理人のアナウンスが聞こえて来たので岡田は去って行く。

あなたは大学祭?と平井の母が聞くと、これがテレビに出てまして…と森の母はまた自慢話を始める。

そうですね、うちも奉公人が見てますと平井の母が答えると、これで大学に入れた甲斐がありますなどと森の母が言い出したので、それを聞いた森は呆れたように母親の顔を見る。

平井の母は、最近の大学は数が増えて…と砂利の話をし始めると、最近は建築ブームでしょう?などと自分の稼業の自慢を始める。

そこに岡田が戻って来て、田舎からおばあちゃんが出て来たんだ。苦手だよ、女の年取ったのは…と言い残し自室に戻って行ったので、森と平井の母同士は顔を見合わせる。

岡田の祖母(東山千栄子)は、田舎から持って来た土産を、この干し芋は私が干したもの、この干し柿はお父さんとお母さんが干したもの、これはうちのおじさんから、これは新田の家から、これは弥左衛門の家から、これはおきんの家から、これがあなたの下着ですと言いながら次々に取り出すので、正座した岡田はいちいち頭を下げて礼を言う。

そして祖母は、あなたの責任は重いんですからね。あなたの親爺さんは養子として力不足でしたから、我家の隆盛はあなたの双肩にかかっているのですよ。

うちの先祖は加賀百万石の重臣だった人ですからね。 修行中は女は慎まねばなりませんよ!悪友はいけませんよ!と口うるさく説教する。

そこに、ひょっとこ面をかぶった宮本と本庄淑子が連れ立ってやって来る。

宮本が慌てて面を脱いで挨拶すると、そのお嬢さんは?と祖母が聞くので、お友達ですと岡田が紹介すると、失礼しちゃうわ!などと淑子が岡田に近づき睨んでみせたので、2人が出て行った後、部屋を代わりなさいと祖母は言い放つ。

その時、宮本さん、電報が来ていますという管理人のアナウンスが聞こえる。

祖母を連れ、大学祭を案内し始めた岡田だったが、自動車部の前に来ると、クラシックカーを前にした部員(津川雅彦)が、年取っているだけですから役に立ちませんなどと解説するので、それを聞いた祖母は、あんなこと言うのが学生なんですか?精神がいけません!と岡田に文句を言う。

そこへやって来た裕子が、宮本に電報が来たことを岡田から聞くと、あの人良く電報為替で送ってくるのよ。

宮本さん頼りないんですもの点、あなたダンスパーティに来てくださいねと話しかけさっていく。

岡田は自分を睨んでいる祖母に、誤解しちゃ困りますよと言い訳するが、この目で見たんです!と祖母は言う。

そこへ近づいて来たのは淑子で、宮本さん、変な顔をしてたわ。つまんないの、付き合って!ねえ、あのおばあさんは?と岡田に馴れ馴れしく話しかけて来たので、ここにおりますよ!と祖母が顔を出す。

岡田はまた、誤解ですよ!と冷や汗をかくが、帰ったら親族会議を開きますよ!と祖母は岡田に宣告したので、とんでもない!と岡田が否定すると、とんでもないことはしょっちゅうです!と祖母は睨みつける。

ダンスパーティ会場では、宮本が淑子とツイストを踊り、平井も八百屋の娘(珠樹ルミ)と踊っていたが、しかし宮本はすぐに踊りを止めたので、どうしたの?と淑子が聞くと、疲れたよ…と宮本は答える。

その時、淑子は、あら、森さんも来たわ!厚木紀子と一緒だわ、きれいね!と感激したように言うので、得意なんだろ、森の奴…と宮本は面白くなさそうな顔で言う。

体育館にやって来た森と紀子にサインを求める学生が群がるが、森が僕はダメだと拒否しているのを見た紀子は、森さん、サインして!と声をかける。 それを見ていた淑子は、対抗上踊りましょうよ!と宮本をまた引っ張りだす。

やがて、スローな曲に変わったので、これなら踊れるでしょう?来週困るでしょう?私がリードするわと言い、紀子が森を踊りに誘う。

みんな見てるよと森は恥じると、見られる商売よ!と紀子は言うが、柄じゃないんだ!と森は渋りながらも、紀子のリードでダンスを踊りだす。

すると、果物屋の娘と踊っていた平井が近づいて来て、森さん、巧いもんですねと声をかけて来たので、あなたもあの人のように無邪気になったら?と紀子は森に言い聞かせる。

すると今度は宮本が近づいて来て、よお!と森に声をかけて来る。 どうしたの宮本さん?と淑子が聞くと、対抗上誰かと踊りなと言い残し、宮本は去って行く。

その後、校庭のキャンプファイヤーを囲んで、学生達はフォークダンスと歌を歌いだす。

宮本は、岡田と嬉しそうにフォークダンスを踊っている裕子の姿を黙って見つめ、ふん!あいつもか…と吐き捨てるように言う。

そんな宮本の様子がおかしいことに気づいた森はバーに誘うと、心配事があるんなら話せよと言う。

すると、俳優はモテるからな…、ゆっくり飲もう、お前のおごりだからな…などと宮本はすねたようなことを言う。

俺なんて、1つあぶくが売り出したくらいしかならないと森は自嘲し、1年半待っていたら一流官庁が待っていると言ってたのはお前だぞと冗談を言う。

あの厚木紀子と君はどう言う関係だ?お前が手を伸ばせば手が届くってことさ?と宮本が絡んで来たので、何をこだわっているんだ?と森が聞くと、お前の幸運さと宮本は言う。

俺は計算があほらしくなったんだ、お前を見ていると…、破産したんだよ、ちっぽけな工場だったんだと宮本が打ち明けたので、母さん、出て来たのか?と森が聞くと、泣きにな…と宮本は暗い目で答える。

その頃、いつも宮本と来ていた店で、裕子は岡田と一緒にラーメンを食べ、嬉しそうにシューマイを一皿注文していた。

その後、歩いて裕子の家の前に来た宮本は、ブッブー!と口でクラクションの真似をしてみるが、冬休みで帰りました!と大家が言うので、そうですか、さようなら!と答え帰ることにする。

翌朝、寮に戻って来た宮本は、帰省する学生(林家珍平)から、良い正月を迎えろよなと声をかけられる。

寮の屋上の物干しロープに洗濯物を干していた宮本に会いに来た平井は、宮本さん、帰りますからと言いながら握手を求めて来る。

笑って正月を迎えなければいけません、笑う門には福来たる!お元気で!などと言い残し、平井は帰って行く。

残った宮本は元気ないよ…とぼやくが、そこにやって来たのは岡田だった。

みんな帰っちゃったと岡田が言うので、森は良いな、ロケーションでスキーなんだろう?と宮本がうらやむと、俺は31日の夜行で帰るんだ、テレビ台本の構成だよと岡田は答え、お前も帰った方が良いぞ、寮の生活は寂しいぞと言うと、ずっと寝ているよと宮本はやけ気味に答える。

笑って正月を過ごすんだな!と岡田が言うので、みんな同じようなことを言いやがる…と宮本はぼやく。

その時、ロープに下がった大きなパンツに気づいた岡田が、これお前のパンツか、下にもゴムが入っているのか?と聞くので、婆さんが間違って自分を送って来たんだよと宮本は答える。

お前、それを履いているのか!と岡田が驚くと、お前、バイトしてみろ、パンツ1枚おろそかにできないからと宮本は言う。

それを聞いた岡田は、それが学生の根性か!日本は真っ暗だ!と逆上し、その大きなパンツを外すと寮の上から投げ捨てる。

真っ暗になると、何かしら捨てたくなるらしい…と宮本は呆れたように、寮の下の道をパンツを屋根に乗せたまま走り去って行く車を見送る。

正月

宮本は食堂で、食堂のおばさん手作りのお雑煮をごちそうになっていた宮本は、食堂のおじさん(柳家金語楼)から、うちの車空いてますから乗りませんか?どうです?と声をかけられる。

おじさんとおばさんは、互いをからかう漫才のような会話を交わしていたが、そこにやって来たのが森だった。

1人でどうしているのかと思って…、おい、あけましておめでとうくらい言えよと森が声を掛けると、宮本も仕方なさそうにおめでとうと答える。

箱根に来ていた岡田と裕子は、側の道を通り過ぎたのが大学の「ひかり屋食堂」の車だと気がつき、停まった!乗せてもらおうよ、今年は正月から付いているわとはしゃぎながら、停まった車に近づいて行く。

しかし、覗き込んだ運転席に乗っていたのは宮本と森だったので、岡田と裕子は凍り付く。

岡田は宮本に、会わす顔ないよ…としょげると、お前の田舎、箱根だったのか?と宮本は皮肉を言いながらも乗れよ!遠慮することはないと勧める。

夕べのことどうする?と裕子が岡田に耳打ちすると、もうばれちゃってるよと岡田は開き直る。

その後、森と宮本は、身分不相応な芸者遊びをして憂さを晴らす。

寮で1人、「雪よ岩よ〜」と歌の練習をしていた森だったが、そこに岡田が帰って来たので、田舎、どうだった?と聞くと、怒られたよ、元旦に帰らなかったから…と渋い顔で答えた岡田は、宮本、怒っているか?と聞いて来る。

怒ってないよ、少し傷ついているだろうけどな…と森が教えると、まだ部屋に帰ってないんだと岡田は森に同行を頼む。

宮本の部屋に入ってみると、ベッドに寝ていた宮本は、モナリザの画集を顔にかけて寝ていたので、それを取り上げると、その下にはひょっとこの面をかぶった宮本がいたので、俺の部屋に来たんだと森が教えると、知ってるよと面を外した宮本は答える。

岡田はそんな宮本に、遊ぶじゃないんだ、あの人と結婚するんだ!俺は自由になりたいんだ!式は節分に挙げるつもりなんだ。

鬼はババア!服は彼女だ!と伝える。 そこに、今度は平井が帰って来て、困っちゃったんです、この写真と言いながら、森と岡田、宮本に3枚の見合い写真を渡すと、僕1人息子でしょう?相談に乗ってください!などと言う。

これ、女か?と岡田が写真を見ながら聞くと、間違えました、それは僕の写真です。

眼鏡を止めることにしたんですと言いながら、慌ててもう1枚の見合い写真と交換する。

実は彼女が怒っちゃって…と言うので、ああ、ダンスパーティの時一緒に踊っていた?と森が気づくと、果物屋の娘ですよ、もう三ヶ月って言うんですと平井が言うので、一瞬何のことかみんな分かりかねたが、おなかのことか?と宮本が気づく。

お前のか!とみんなが驚くと、そうでしょう?照れますよ…などと言いながら平井は嬉しそうに笑う。

4人は揃って、中華料理のバイキングを食べに行くことにする。 平井などは、食べ放題なんでしょう!と喜び、蓋さらに山盛りの料理を乗せてテーブルに着く。

岡田と裕子さんのために!いや、我々4人のために乾杯しようと宮本が提案すると、呑む前に話しておきたい事があるんだと言い出した森は、実は映画会社から契約の話が来たんだと言い出す。

契約したのか?と聞くと、軽蔑するか?と森が聞いて来たので、アルバイトじゃなくなった訳だなと宮本はうらやむ。

他の生き方は分からないんだと森が言うので、どこの会社だ?と聞くと、今度サンケイホールの「新春スター•パレード」で発表があるんだと森が隠そうとするので、言っちゃえよと急かすと松竹だよと森は打ち明ける。

大松竹か!とみんな驚く中、木下惠介に使ってもらえば良いよなどと平井が言い出し、あの監督はななかかセンスが良いなどと宮本も太鼓判を押す。

そして、松竹と森のため、平井とお前の果物屋の娘のため乾杯しようかと宮本が音頭をとる。

みんながビールを飲み、食事を始めた時、何やら指を折っていた平井が、変だぞ?インチキだ!と突然言い出すと、僕これから怒鳴りつけに行って来ます!と言いながら立ち上がり立ち去ってしまう。

松竹主催の「新春スター•パレード」のステージ上では、俳優の佐田啓二が「喜びも悲しみも幾歳月」の主題歌を熱唱していた。

客席には、岡田と裕子、平井と果物屋の娘らが来て見ていた。 楽屋では、俳優の田村高廣がデビュー作「女の園」の主題歌を稽古していた。

歌い終わると、拍手が巻き起こったので、冷やかしなよと田村は言い、緊張するな〜と言いながら部屋を出て行く。

側にいた女優が、今のは田村さんのデビュー作「女の園」の主題歌なの、あなたにとってのデビュー作も思い出に残る作品になると思うわと、紀子と一緒にいた森に話しかける。

いつか、テレビのスタジオで森を見ていたプロデューサーの中井(ロイ・ジェームス)は、会社は君を「コンクリート・スマイル」と言うキャッチフレーズで売り出そうと言ってたよと教える。

そこに顔を出したのが宮本で、淑子さんも廊下に来ていて、おめでとうを言いたいそうだと言うので、一緒に来たのか?と森が近づくと、男を連れて来てるんだ、遂に俺は1人ぽっちさと宮本は悟ったように言うと、頼むよ、3〜4人!と森に女の紹介を頼む。

廊下に出てみると、淑子がおり、彼氏と一緒ですか?と森が聞くと、何となく慌てちゃったの。頑張ってちょうだいと挨拶し、宮本も、俺も今年はやるよ、何やるか見てくれ!と言い、森と握手する。

ステージに登場したのは晴れ着姿の岡田茉莉子で、新年の挨拶をすると、今年は卯年です。

私もウサギのように飛んだり撥ねたり頑張りたいと思いますと挨拶すると、皆さんにすばらしい新人をご紹介しましょう。

松竹のホープ森康彦さんです!と紹介する。

舞台中央に歩み出た森は、森康彦です。まだ駆け出しなので…と笑顔で頭をかくと、何も言えません!どうぞ宜しく!と挨拶する。

客席では宮本が拍手をしていた。 「山手トルコ」と書かれた看板を持ち、街を歩いていた赤いスーツに赤い蝶ネクタイ、ピエロメイクのサンドイッチマンの姿が映し出される。

日本の大学生の数は54万4550人…

その中のたった4人のてんでバラバラの青春のお話でした。(とナレーション) END
 


 

 

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