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天才詐欺師物語 狸の花道

主要な登場人物が「社長」シリーズでお馴染みの面々なのだが、真面目なイメージの小林桂樹さんが詐欺師役、いつもはちゃらんぽらんなイメージの三木のり平さんが刑事役、偉そうな森繁さんが特殊なメイクでアクの強いキャラクターを演じたりと、通常のイメージとはかけ離れたキャラクターを演じているのが楽しい。

ただし、のり平さんの宴会芸だけは、この作品でもちゃんと披露されているのがにくい。

小林さんやのり平さんが比較的おとなしい芝居と、追っかけなどの身体を使った古典的な笑いを組み合わせて見せているのに対し、森繁さんが好き勝手で奔放に見えるワンマン芝居をしているので笑わせる。

小林さんの女房役が、いつもはママさん役などが多い淡路恵子さんで、所帯染みた汚れ役を演じているのも面白い。

小林さんの娘を演じている坂部尚子ちゃん、坂部紀子ちゃん姉妹は何故か2人で1人の役を演じ分けている。

片方が病気にでもなったか、学校を優先したためだろうか? 志村喬、山茶花究、司葉子、高橋紀子、沢井桂子、北川町子、中真千子、中北千枝子、藤原釜足、伊藤久哉と言った当時の東宝常連組がちらちらゲスト的に登場しているのも嬉しい。

詐欺ものとしては、大掛かりなトリックや騙しが出て来るような痛快犯罪譚ではなく、ちまちまとしたスケールの小さな詐欺を集めた庶民的な話だが、コントでも見るような気軽な気持で見れば、十二分に楽しめる作品ではないかと思う。
▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼
1964年、東宝、町田浩二原作、平戸延介脚色、山本嘉次郎監督作品。

競輪場

連勝複式42360円と出た掲示板の表示

タイトル(競輪場の予想屋の様子)

南口商店街をとぼとぼと帰る仙田喜市(小林桂樹)は、残金24円、朝から何も食べてない…と心の中で考えていた。

その時、開店祝いの花束が並んでいるパチンコ店を見かけた仙田は、すぐ側で、主婦らしき女性が男からタバコを35円で買っている所を見て、タバコはあんなに簡単に買えるのかと感心する。

その時、近くにタバコ屋を見つけた仙田は、心の中で、仙田喜市、勇気を出せ!女房子供が待っているんだぞ。3度も女に逃げられたじゃないか。今度逃げられたら終わりだ。子供の頃から口だけは巧かったじゃないか、得意な舌先三寸を活かすんだ。さあ一歩を踏み出すんだ!と自分を励ましていた。

迷いながらも、近くのタバコ屋に近づいた仙田は、店先にいた小池美代(高橋紀子)に、今日開店したそこのパチンコ屋だけど、「光」急いで500と「ピース」300!と注文し、自分はパチンコ屋の入り口付近で待つ事にする。

そこでも、今ならまだ止められると迷っていた仙田だったが、美代が「ピース」のケースを抱えて持って来るとつい受け取り、「光」もでしたね?と言い、美代が店に走って戻った隙に、受け取ったタバコを持って路地裏に逃げ込む。

自宅に戻って来た仙田は、家の中が暗いので、テル子!風呂にでも行ったかな?カツ丼注文して来たぞ!玉江!土産持って来たぞ!と呼びかけるが、女房も子供の姿も見えなかった。

すると隣の親父(沢村いき雄)が窓越しに、飛び出して行ったぞ、あの様子じゃ帰って来ないな…などと教えてくれる。 残っていたテル子の着物を質屋で金にした仙田は、翌日もまた、競輪に行ってすってしまう。

呆然として帰っていた仙田は、バスの営業所前に差し掛かった時、洗車をしていた運転手から誤って水をかけられ謝られる。

仙田はその直前に通り過ぎたタバコ屋に戻ると、そこの観光バスのものだけど、明日運動会があるんだ。

「ピース」500持って来てくれないかと嘘を言う。 そしてすぐにバスの営業所へ戻り、このバス、何人乗りかね?などと洗車中の運転手に聞くと、運転手はかぶっていた帽子をバックミラーに引っ掻け答えてくれる。

そこにタバコ屋の姿さん(小野松枝)が注文のタバコを包んだ風呂敷を持って来たので、さりげなく運転手の帽子を取ってかぶった仙田が受け取ると、マッチ100ばかりと追加注文し、婆さんが店に戻った所で風呂敷包みを持ったまま逃げ出す。

路地裏で、着ていたジャンパーを裏返し、大通りの方へ逃げるが、向こうから自転車に乗った警官が近づいて来たので、今来た道を戻る事にする。

ところが、そこに先回りしていた警官が、君、今僕の姿を見て逃げたよね?と聞いて来たので、駅の方へ急いでいたので…と仙田が答えると、駅は反対方向だよ。すまんが交番まで来てくれんかね?と言われる。

ご一緒しましょうと素直に付いて行く仙田だったが、途中で、警官に、喧嘩です!短刀を持っているんです!と店から飛び出して来た女が訴えて来たので、君、ここで待っていてくれと警官は自分の自転車を仙田に任せ、店の中に入って行く。

仙田はすぐにその警官の自転車の股がり逃亡する。

しかし、その後も又競輪ですり、歩いていて見つけたのが「関東放送」と言うテレビ局の前のタバコ屋で、今そこでクイズ番組撮っているんだけど、景品が足りなくなったんだ、ピース300!と注文すると、店の主人は小学生の息子(太田豊彦)にピースのケースを包んだ風呂敷包みを持たせ、仙田に同行させる。

放送局の入り口で、ここまでで良いよと風呂敷包みを受け取ろうとすると、2万円です。現金と引き換えです。最近タバコ詐欺が流行っているからなどと息子が言うので仙田は困惑する。

一階横の事務机の上にタバコを包んだ袋を置いて、ここなら安心でしょうと息子に安心させると、会計係に行こうと言い、階段を一緒に登るが息子はなかなか離れない。

会計係は今医務室だそうだなどと、部屋の中に出入りしてごまかそうとしても、じゃあ医務室へ行きましょうなどと息子は言う。

困った仙田は、判子持ってる?受取の判子だよと言うと、取ってきますと言い残し、息子が店に帰って行ったので、仙田はエレベーターで1階に下りるが、そこに階段を降りて来た息子がいたので、慌ててエレベーターを待っている人に化ける。

息子が放送局を出て行くと、急いで、事務机に置いてあったタバコの包みを持って表に出ると、タクシーを停めて乗り込むと、新宿へやってくれと頼むが、そこに泥棒!と叫びながら、タバコ屋の主人と息子が追いかけて来たので、慌てた仙田はタクシーを飛び降り逃げ出す。

タバコ屋の声に気付いた近くの通行人や床屋の客などが一斉に追いかけて来たので、道ばたで傘修理をしていた男は自分の事を泥棒と言われているのかと勘違いし、修理中だった赤い傘を持ったまま逃げ出す。

仙田は角を曲がった所で警官が立っているので驚くが、それは交通安全用の看板だった。

大勢の追跡者達が曲がり角を曲がって、警官の看板を追い越して行くが、最後の方に付いて来ていたタバコ屋の息子が、看板の背後に隠れていた仙田に気付く。

又逃げ出した仙田は、子供達が遊んでいた家の撤去後の広場に逃げ込む。

そこに追跡者達がなだれ込んで来るが仙田の姿が見えない。 息子が遊んでいたタケシに知らないか?と聞くと、お風呂入っているよと言う。

取り壊された家の跡に残されていた湯船の部分に仙田は身を屈めて隠れていた。

追跡者達は一斉に飛びかかると、仙田が持っていたタバコが散らばったので、みんなタバコを奪おうと大騒ぎになる。

そこに警官2人が駆けつけて来て来ると、タバコを拾っていた追跡者の中から仙田が抜け出してさらに逃げようとする。

警官2人は、道の反対側の塀をよじ上ろうとしていた仙田の尻を、引き下ろすどころか、逆に押してやって塀を乗り越えさせてやる。

塀を乗り越えた仙田が見たのは、建物の脇で休息している警官の姿だった。

そこは大宮署の敷地だったのだ。

入り口から先ほどの警官2名の追跡者達が近づいて来て退路を絶つと、仙田はあっさり捕まってしまう。

42件、総計163万か…、これを全部競輪で使い果たしたと言う事か…と、間宮課長(伊藤久哉)から事情聴取を受けた仙田は、すみませんと殊勝に謝る。

間宮課長は、自分は明日から研修所へ行くので、君の事は小仏刑事に頼んで行くからと言い、隣の机にいた小仏刑事(三木のり平)を呼ぶ。

よお、局長!タバコで儲けているのは専売局とお前さんだけだと気さくに言いながら、近づいて来た小仏は、タバコを差し出して勧めるが、私はダメでして…と仙田が断ると、吸わないで金儲けだけか、さすが局長さんだけの事はあるなどとからかう。

留置場に入れられた仙田は、すぐに腹の虫が鳴き始めたので、今恋しいのは女房子供より…と考え、やって来た小仏に間宮さんは?と聞くと、研修所だと言う。

仙田は、実は3200円貸してるんで、その金で差し入れでもしたいと思いまして…、間宮さん、家にもって帰ったかな?カツ丼食いたいんですけど…などと言い出す。

刑事室に仙田を連れて来て、大宮の机の中を確認しようとした小仏だったが、鍵がかかっているので開かない。

お前詐欺だったな?と小仏が聞くと、かもね…などと仙田はとぼける。

しかたなく研修所へ電話を入れて間宮を呼び出そうとした小仏だったが、相手が講義中と知ると、急ぎじゃありませんからと言い電話を切る。

仕方なく、小仏が立て替えてカツ丼を食う事に成功した仙田だったが、翌日、間宮課長に聞いたら、お前から預かった金は32円だったって言うじゃないか!と留置場にやって来た小仏は怒り、局長さんは俺たちが薄給で命を賭けている事なんか知らないだろうと嫌みを言う。

その代わり、旨い事もあるそうで…などと仙田がからかうので、仙田、俺の母ちゃん、来月にも臨月だぞ!と小仏が泣きつくと、必ず返します。私に任してください。

パンクまでにはすっかりお返ししますからなどと仙田は調子の良いことを言う。

その後、刑事室に呼ばれた仙田は、詐欺の被害者達の前で詫びを言う事になる。 無事ここを出られましたら今度こそ働いて弁償させていただきます。

けれど…、何分にも出られるかどうか…などと言いながら、仙田は苦しそうに咳き込んで胸を押さえてみたりするので、聞いていた被害者の小池美代は仙田が胸を病んでいると思い込んだらしく、医者に見せた方が…、ここでお金を上げたら規則にでも触れるのでしょうか?と小仏に聞く。

小仏は、そんな規則はありませんが…と戸惑うと、美代やとみ子(沢井桂子)とその母(三田照子)ら被害者達たちは互いに顔を見合わせ、その場で全員金を出し合いカンパする事になる。

2400円恐縮しながら受け取った仙田は、留置場に戻って来た後、カツ丼150円16杯分だなどと満足げに言いながら小仏に借りた分を返す。

詐欺で巻き上げた金の一部を受け取る事に若干抵抗を感じながらも小仏が医者を呼んでやっても良いぞと言うと、これはほんのアクセサリーでして…などと言いながら胸を押さえた仙田は、この手で軍隊も返されたんですなどと自慢する。

それを聞いた小仏は、とんでもない奴だ、大日本帝国まで騙すとは…と呆れる。

さらに仙田は、小仏さん、私撰弁護士を呼んでくれませんか?と言い出す。

小仏は、私撰弁護士など呼ばなくても俺が知っている弁護士を呼んでやるよと同情する。

やって来た弁護士の駒井(志村喬)と2人きりになった仙田は、160万全部すったと言うのは嘘です。50万も使っちゃいませんよ。150万は九州の弟に送ってありますと打ち明けると、弟の写真を出してみせる。

そこに写っていたのは仙田そっくりの男だったので、生き写しだ!と驚いた駒井に、その弟に連絡をしていただいて、先生への礼金と保釈金として50万、先生へ送金してもらいたいんですけど、出来ますでしょうか?などと言うので、駒井は、わしへの謝礼など後で良いよと遠慮する。

しかし仙田は、そう言う訳にはいきません、まずは先生にお礼をしておいて…などと殊勝に言うので、すっかり仙田の人柄に惚れた駒井は、何とか努力してみますと答える。

すると仙田は、時に申し上げにくいんですが、私、ここをやられておりまして…と胸を押さえ、大分やられておりますので1日でも早く釈放されたいんです…と苦しそうな表情で訴える。

すると、見かねた駒井は、志ですが…と言いながら金を渡して来る。 それを後から知った小仏は、あの高慢ちきな弁護士まで騙すとは…、お前はイナゴの小便だよ、田にしたもんだ(大したもんだ)と呆れる。

懲役3年だったが、真面目に勤めたので2年半で仮釈放になった(と、仙田のモノローグ) 自宅に戻って来た仙田は、テル子、今帰ったよ!と言うと、入り口で足に絆創膏を貼っていたテル子(淡路恵子)が返事もしないでふてくされている。

ムショで働いた賞与金1860円と言って金を渡そうとすると、仙田玉江(坂部尚子)が姿を見せたので、玉江か?父ちゃんだよ、覚えてるだろう?などと声をかけながら近づこうとする。

すると、入り口でしゃがんでいたテル子は、ノコノコ上がんないでよ、それっぽっちの金で亭主面する気かよ、やすやすとこの敷居は跨がせないからねなどと言って家に入れようとしない。

実は部屋の奥には、テル子が連れ込んでいたタア坊(桐野洋雄)が夕食の席に座っていたのだが、仙田はそれに気付いていなかった。

全くここだけは達者なんだから!と口元を指したテル子は、もうたくさんだよ、出て行きなよ!と言うので、今晩一晩だけでも泊めてくれよと仙田は泣きつくが、テル子が無視するので、銭金さえ持って来りゃ文句あるめえ!と啖呵を切り、家を飛び出て行く。

すぐに、タバコ屋を見つけた仙田は、以前のように気安く、ピース1000個届けてもらえないだろうか?と店主に声を掛けるが、店主は、店の中に貼っていた仙田の手配書を見る。

その様子から、手配書が回っていると気づいた仙田は、当分、タバコは禁物だな…と呟きながら伊勢を離れるが、警官の姿を見ると慌て、手近の店の中に逃げ込む。

そこにはアケミ(中真千子)と言う女が1人おり、家の中を素通りするだけのつもりだった仙田が、奥の部屋を明けようとすると、人が使っているからと止めたアケミは、甲斐甲斐しくビールなどを持って来て仙田に勧める。

良い子だねと腰を据えた仙田は、君、大阪に行く気ない?今度大阪に支店を作ろうと思うんで、これになってくれたら、そこの支配人にして5万ずつあげるぜと小指を立てながら誘う。

すると、アケミちゃん、二階でお呼びだよとママさん(北川町子)が出て来てアケミを二階へ追いやると、大阪に支店出すんだって?月末まで5万ほど融通してくれないかしら?私の身体を担保にしてさ…、あんな若いのよりずっと喜ばせるわよなどと色目を使ってにじり寄って来る。

その時、ママさん!私のお客さん取る気!と二階から下りて来たアケミが食って掛かって来て、ママさんと大喧嘩を始める。

仙田は逃げ出そうと、奥の部屋のふすまを開けると、そこから出て来たシミーズ姿の女(若松久代)が、ママさん、今、裏口から誰か逃げてったよ、交番、交番!と言いながら外へ飛び出そうとするので、そんなの呼んだら、みんなブタ箱行きだよ!とママさんが慌てて止める。

「アジアホテル」の前に逃げて来た仙田は、ホテルから出て来た男女が車に乗って帰って行くのを見ながら、貝原産業と言う洋服店の前に来る。

ショーウィンドーに飾ってあるスーツを見ているうちに何かを思い付いた仙田は、店の中に入るとちょっと電話を拝借!と店主の貝原新作(山茶花究)に断り、店の電話を取り上げると、警視庁?内線23願います。こちら松本刑事、係長を呼んでくれなどと芝居を始める。

例のホシのいる所を見つけたんだが、中の様子を見ようにも、今ルンペンの格好をしているからどうしようもないんだ。

至急服を持って来てくれ。アジアホテルの裏口だと言い、電話を切ると、電話賃を言いながら上着のポケットに手を入れる。

すると貝原はとんでもないと断って来たので、この事はご内密に…と口止めした仙田は、あの服見本でしょう、ちょっとお借りできませんか?と申し出るが、今日、展示会に出品しますので…と断られる。

それでは…と帰りかけた仙田は、店内に飾られている多数の表彰状を見て、防犯協会の会長さんでしたかと感心したように貝原を見る。

すると、1時間くらいで宜しければ…と答えた貝原が聞いて来たので、それだけあれば本官は立派に逮捕してみせますと仙田は答え、服を借りれると知ると、ついでに安全剃刀もと頼み、ヒゲも剃る事にする。

その後、玉江の小学校の前で待っていた仙田は、玉江が出て来ると人形を買い与え一緒に自宅に戻る。 ところが、自宅にいたテル子は喜ぶでもなく上げようともしない。

その時、仙田はテーブルの上に置いてあった見知らぬ男物の靴下を発見したので、それ誰の何だ?と聞くと、1人じゃ食べていかれないからね、あんたとはとっくに別れたつもりだからなどとテル子は言う。

がっくりして1人歩いていた仙田に声をかけて来たのは着物姿の小仏だった。

ここの管轄に移されて部長になったんだ、女房に逃げられたんだそうだな?などと小仏は言い、ちょっと付き合わないか?と言うので、酒の事だと思った仙田は、私はダメなので、お茶くらいならなどと遠慮するが、小仏が入ったのは公衆便所で、何故か組んだままの仙田の手を離そうとしなかった。

旦那、今日は非番ですねと仙田が言うと、そうだ、今日は大いに語り明かそうじゃないか。

お前の事は貝原産業から届けが出てるんだぞ!と小仏は言う。

ヤバいと思った仙田は逃げ出し、小仏が慌てて追いかける。

交通量の多い街道を渡るため、仙田も小仏も、通学児童用の黄色い旗を持って道路を横断する。

仙田は他人の家のもんの中に飛び込むと、中からかんぬきを指して安心するが、横の塀が壊れており、そこから簡単に入って来た小仏に気付くと、又慌てて逃げ出す。

又道路を横断する時、仙田が黄色い旗を全部持って渡ってしまったので、小仏は追いかける事が出来なくなる。

しかし、黄色い旗を大量に持って逃げる仙田に気付いた緑のおばさんが追いかけて来て、仙田は駆けつけて来た警官に捕まってしまう。

あなたのような人がいるから、今現在832名もの学童が犠牲になっているんですと緑のおばさんが説教している間に、ようやく道路を渡って来た小仏も到着する。

再び留置所に入れられた仙田だったが、今度は雑居房で、牢名主のような不気味な男赤井紋太(森繁久彌)が、最近の未解決事件は全部自分がやったんだと自慢している所に遭遇する。

紋太は、看守はおらんか!と怒鳴るので、うるさいな…とぼやきながら看守(藤原釜足)が近づいて来ると、マルタだ!マルタも知らんのか?タバコだよ、タバコくれ!などと威張る。

看守が断ると、俺は一つヤマを吐いただけでもこれなんだよ!と自分の首を絞める真似をして見せると、後はお宮入りなんだなどと自慢した紋太は、署長を呼べ!と鷹揚に命じる。

それを聞いて少しビビった看守は、タバコを取り出し、自分で一口吸って火を点けると、牢に中に入れてやる。

それを受け取った仙田の手から他の仲間の手を介して、タバコは紋太の手に渡る。

俺の落ち度になるから黙っていてくれと看守が言うので、くよくよするねえと返事をした紋太は、これだから小者は付き合いにくいと吐き捨てるようにううと、新入りこっちへ来い!と仙田を呼び寄せる。

赤井紋太だと自己紹介したので、ついあの有名な!と仙田が調子を合わせると、タバコを勧められたのでダメなんで…と断ると、じゃあこれか?と盃を煽る真似をするので、それもダメでしてと言うと、つまらねえ男だなとバカにしたように紋太は言う。

俺は間もなく死刑になる男だぜと続けた紋太は、俺の発明した忍びの秘伝を教えてやると言い出し、暗闇でも見える方法知ってるか?と留置場の中、向かいの留置場に入っているもの達にまで聞くが誰も知らなかった。

こうするんだと言いながら、T字型に両手を組んで顔の前に当てると、両方の目で別々の方角を見るんだ、すると真昼のようにありありと見えるようになる。やってみろ!と紋太は命じる。

仙田やその他の老仲間達が全員、外にいた看守までそのポーズをやってみるが、みんなピンとこないようだった。

続いて紋太は、ノビ師の大敵は犬だと言い出し、犬を黙らせるには俺はこうなると言い、まずは屈んで低い姿勢になってみせる。

こうすると犬は自分より小さい相手と思い油断する。その時立ち上がって大きく見せると、犬は驚くのなんの、飛んで逃げていくなどと言う。 前は160万で3年、今度は3万で2年、やはり真面目に勤めたので1年半で仮釈放になった。

小仏さんの口利きで、俺は貝原産業で働く事になった。(と、仙田のモノローグ)

仕事はきつく、運んでいた布地の重さに絶えかね落とした仙田を叱りつけた貝原は、お前を更生させるためにわざときつい事をやらせているんだなどと言い、便所の仕事でもやってろと命じる。

便所では別の女店員が朝顔の掃除をやっていたので、俺が代わるよと仙田が声を掛け、その女店員の返事から山形出身だと気づく。

おら、ここ辞められねえだと言うので、借金のカタか?いくらもらってるんだ?ただ働きか?などと仙田は知る。

女店員井川って朝顔の掃除を始めた仙田は、そこに貝原がやってきたので、便器に手を突っ込んでつまりを直す。

その後、組み合いの寄り合いに出かけると言う貝原から、手提げ金庫の鍵を受取り、これを入れておいてくれと頼まれた仙田は、貝原が出かけ、店内に自分一人になった時と知ると、つい金庫の中の札束を見つめる。

その時、仙田よと自分を呼ぶ声がどこからか聞こえて来たので店内を見回すと、展示してあった布地の裏から出て来たのは赤井紋太だった。

達者で何より…などと言いながらテーブルに座った紋太を見た仙田は、まさか脱獄じゃ?と驚くが、お察しの通りよと笑うと、いっちょ乗せてくれよ、助けてくれるな?などと言いながら、タバコ入れの中のタバコを近くにあった足袋の中に詰め込み始める。

仙田が持ち合わせの小銭520円を渡すと、おりゃコ○キじゃねえぜ!おめえ、1人占めする気か?それよ!と手提げ金庫を顔で指す。

これだけは勘弁してくれ、俺はここの信用を得るために半年もかかったんだと仙田が言うと、じゃあこれをもらっていくぜと靴下を手に取り、これは木綿か?と紋太が聞くので、ナイロンですよと答えると、最近はみんなナイロンになりやがって…などとぼやきながらも、恩に着るぜ、しっかりやれよ、浮き世は住みにくくなった。俺は山谷のプリンスホテルにいるからな…などと言いながら紋太は帰って行く。

貝原産業店員全員揃っての食事時、小仏からかかって来た電話を受けた貝原は、相談があるから来てくれと言う事だと仙田に伝え、ついでにこれを銀行に入れて来てくれと手提げバッグを渡される。

警察署に行ってみると、玉江が保護室に入れられており、アンパンかっぱらったんだと小仏が説明し、娘を出してやる。

お前のせいだぞ、1円も持ってないんだと言うので、留置場の外で頬を叩いた仙田は二度とやったら承知しないぞ!と叱りつける。

泣き出した玉江は、母ちゃん、2日も3日も帰って来ないんだものと言うので、父ちゃんが悪かったと詫びる。

その後、玉江を連自宅に戻った仙田は、そこにいた玉江に、何してたんだ?テル子いい加減にしてくれないか?俺だって真面目に働いているんだと文句を言うと、さぞ貯まったろうね、何故1文も入れてくれないんだい?と嫌みを言って来る。

10万都合できないかい?それだけあればあいつと別れる事が出来るんだ。あの人、女心をくすぐるのが巧いんでねなどとテル子は言って来る。

以前玉江が病気したりして借金があるんだよなどとテル子は言うので、つい、持っていた貝原産業の手提げ鞄の中の金に手を出した仙田は、店に帰った仙田はしばらくお貸しください、6ヶ月も給料をもらってないんですからと貝原に手をついて頼む。

しかし貝原は、給料払うなら前科者なんか使うか!前科者なら全員指紋採られているから安心だろう。今夜中に取り返して来い!また臭い飯を食いたいのか!と叱りつける。

その時、休みで出かける店員達が挨拶しに来たので、門限は11時だぞと貝原は言い聞かす。

仙田も金を取り戻しにいくように、では行ってきますと貝原に挨拶して出かける。

自宅に戻って来た仙田が、暗いので電灯をつけると家の中がもぬけの殻だと気づく。

その時、又隣の親父が、バカだよお前は!本当にバカだ!と窓越しに声をかけて来たので、行き先の心当たりでも?と聞くが、さあねと言うだけで親父は顔を引っ込める。

諦めて家を出ようとしたとき、背後に何かが落ちた音がしたので振り向くと、そこには隣の親父が投げ込んでくれたらしいマッチが落ちており、そこには「割烹 ことぶき」の名が印刷されていた。

その足で、山谷のプリンスホテルと言う木賃宿にいた赤井紋太を訪ねた仙田は、向こうの方が一枚上手でしたと貝原にこき使われている事を明かすと、助けにもらいに来たんですと頼む。

良いって事よ、ここん所はトーンと俺に任せておきな!と鷹揚に答えた紋太だったが、そこにやって来た宿仲間(鈴木和夫)が、何で俺の猿股洗ってないんだ!もう焼酎買ってやらないぞ!と文句を言うと小さくなり、仲間が姿を消すと、世を忍ぶ仮の姿よと仙田には説明する。

展示会は今日までで明日は土曜日…と計画を仙田が話しだすと、金庫破りか?俺はノビ専門だからな…と紋太はトーンダウンする。

金庫のダイヤルは私、知ってますし、店員達はみんな映画に行っていますと仙田が続けると、ここは吉良仁吉の名シーンだななどと言い出した紋太、仙田の話を聞く様子もなく、勝手に浪花節をうなりながら毛布をひっかぶって眠る振りをする。

その夜、貝原の住居部分の庭先に紋太と2人で忍び込んだ仙田は、紋太直伝の夜でも見える秘伝を試そうとするが、一向に視界は明るくならなかった。

暗闇の中、少し前に出た紋太が、出た!と慌てた声を出したので仙田が近づくと、外に出してあったマネキンの山に突っ込んで身動きできなくなった紋太を見つけたので助け出す。

雨戸に近づこうとした仙田がすぐ背後に付いて来た紋太が震えているのに気付くと、武者震いだと言う。

そんな紋太が、池の飛び石を渡ろうとするが、足が震えて足を滑らせかける。

慌てて元に戻って来た紋太は、水渡りの術を教えてやる。まず俺を負ぶうと言うので仙田がおんぶして池の飛び石を渡ると、どうでえ、渡れたろうと仙田の背中から降りた紋太は自慢する。

今度は雨戸外しですと仙田が紋太に頼むと、ヤットコ持ってないか?と言い出したので、持ってませんと言うと、俺はヤットコ使いの名手なんだが…などと紋太は言い訳する。

仕方ないので、ここは留め金が外れているんですと言いながら、仙田が1枚の雨戸を外から簡単に外してみせる。

その時、庭にいた犬が吠えて来たので、自宅の中で寝ていた貝原は目を覚ます。

犬を退治してくださいと仙田が頼むと、敵は秋田か土佐か?と何故か腰が引けた様子の紋太が聞くので雑種でしょうと仙田は呆れたように答える。

すると紋太は、死んだ真似をする。

商事をそっと開け、廊下を覗いてみた貝原は、雨戸が開いている事に気付き、怯えて布団の中に戻ると、枕元の電話で警察に連絡をする。

まだ庭にいた仙田は紋太に、あんたは貝原を押さえつけておいて、私が金庫を開けるからと相談するが、室内では、布団の中に潜り込んで怯えた貝原が、早くお願いします!とまだ電話をしていた。

庭では紋太が犬に近づくに近づけず怯え切っていた。

犬はまだ吼えていたが、それは白いスピッツだった。 やがて、パトカーが到着し、警官2名が店内を見回すと荒らされているのが分かる。

庭先を懐中電灯で照らすと、逃げ後れた紋太が手を挙げて降参する。

一方、金を奪い外に逃げ出た仙田は公衆電話ボックスの中に隠れる。

自首しよう…と心の中では怯えていたが、奪って来た封筒の中味が300万と知ると、一番小さい袋を掴んだのに!もうダメだ!金額が多すぎる!と後悔する。

そして、マッチを取り出すと、そこに書かれた「割烹 ことぶき」に電話を入れる。

電話を受けたのはテル子だったが、相手が仙田と気づくと、厨房にいた板前(二瓶正也)を呼んで電話を代わらせる。

電話を代わった板前が、テル子?そんなのいねえと答えるが、今出た女を出しや良いんだね?と相手の言いなりになり、結局テル子が出るしかなくなる。

お金は確かに渡したわよ、今の所引っ越したのとテル子が答えると、相談に乗って欲しい。

九州か北海道へでも逃げて親子3人で暮らさないかと仙田が言うので、今夜は無理よとテル子は抵抗する。

すると、板前が何か書いた紙をテル子に見せる。

明日の昼12時に人間がごちゃごちゃいる所が良いので、駅前の勝鬨って言うパチンコ屋に来てくれと仙田は指定する。

翌日、勝ちどきにやって来たのは小仏だった。

勝鬨の家には忌中の札が下がった隣のパチンコ店に入ると、店主(大村千吉)に、こんな奴が来るから合図をしてくれ。何か特別な音楽でも流してくれと小仏は頼んで店をせる。

店主は女店員に軍艦マーチがあったろう?とレコードを指定する。

パチンコ屋を出た小仏は、近くの交番前の路上に組み立て椅子を出すと、そこに座って待つ事にする。

勝鬨の親父死んだのか?と聞くと、風呂の中でひっくり返ったそうですよと警官は答え、暇つぶし用に実話雑誌を小仏に渡す。

それをぱらぱら見ていると、突然軍艦マーチが聞こえて来たので、慌てて立ち上がった小仏だったが、それは近くの店のテレビから聞こえて来た事が分かったので、それを止めてくれるように頼む。

椅子の所へ戻って来ると、今度は反対方向から軍隊マーチを演奏するチンドン屋が近づいて来たので警官に言って止めさせる。

その直後、パチンコ屋の店主が係の女店員に、おい、軍艦マーチ!と命じる。

大きな軍艦マーチが鳴り響いたので、パチンコ屋に入って来た小仏だったが、店主が押させていた客は人違いだった。

がっかりして店内を見回っていた小仏は、不自然な程大きなあごひげを生やし、学生服を着た見るからに怪しげな男がパチンコをしていたので様子をうかがうと、その学生は次々に台を変えていく。

ずっとその背後に付いた小仏に気付いた学生姿の男が、僕に御用ですか?と振り向いたので、そのあごひげを引っ張ると、それは付け髭だった。

小仏はその場で学生に化けていた仙田に手錠をかける。

警察署で奪われた300万を貝原に返しながら、貝原さん、6ヶ月もただで使っていたそうじゃないですか?と小仏が嫌みを言うと、月々25000円払うつもりでした、いずれお払いしますと貝原が言うので、仙田はこの300万を拾ったと言っています。

それが本当なら30万返さなければ行けないんですよ、給料の半分でも渡してやってくださいと小仏は頼む。

仙田と一緒にその場にいた赤井紋太に拘置所がお呼びだと小仏が告げると、お世話になりましたと仙田は礼を言い、長生きしろよと言い残して紋太は連れて行かれる。 残った仙田に、女って怖いもんだな、お前さんを指したのは女房だよと小仏は教えてやる。

拘置所に入れられた仙田の隣の牢に呼ばれた看守は、中の女容疑者から一文もないので金を貸して欲しいと頼まれ、100円でも戻って来たためしがないと断る。

そして、仙田の牢の前に来ると、お前立て替えてやんな、女は紙やなんか持ってないと…と話しかける。

仙田は、金なら小仏さんが持ってますから使ってくださいと答えるが、私は女なんか嫌いですときっぱり言い切る。

その直後、隣の牢から出て来た女は、仙田の牢の前を通る時、ご親切にありがとうございました。

須藤敏子(司葉子)と申します。宜しくお願いしますと丁寧に頭を下げていく。

その敏子の美貌に仙田は心惹かれる。

その後、刑事部屋に呼ばれた仙田は、紋太が全て吐いたので、今回はムショ送りにならずにすんだと小仏から教えられる。

あの人は大物でしょう?と仙田が聞くと、あの赤井が?担がれたんだ、あいつは食い逃げやかっぱらいしか出来ない常習者で、2〜300円のことしかできない奴なんだと小仏は笑いながら教える。

須藤敏子ってどんなヤマ踏んだんです?と仙田が聞くと、身分不相応なものばかり買い込む取り込み詐欺らしいな、係が違うので良く知らんが…と小仏は言う。

それを聞いた仙田は、あんな上品な人が…、まさかそんな!と驚くと、あの女にカツ丼でもごちそうしてやるか?と小仏は勧める。

小仏が外で見守る中、2人一緒の保護室で、差し向かいでカツ丼を食べる事になるが、敏子は、まずは仙田の端と小鉢を机に置いてやり、割り箸を割ってあなたからどうぞと勧める。

そして、お願いがあるんですけど…と切り出した敏子は、もう競輪だけは止めてくださいませ。私が億様ならきっと止めさせていたでしょうと熱いまなざしで訴える。

それを聞いた仙田がが、止めます!と即答すると、嬉しい!と敏子は喜ぶ。

2人がカツ丼を食い終えた頃を見計らい入って来た小仏も、競輪だけは止めた方が良い。水入らずの差し向かいでさぞ巧かったろうなとからかうと、洗濯物が貯まっているから洗ってくれや、変な真似するんじゃないぞと仙田に言いながらも、目で敏子と巧くやれとけしかける。

洗濯物を持って風呂場にやって来た仙田と敏子に、今日はもう誰もいないからゆっくりやって良いぞと言い残し部屋を出て行った小仏だったが、その後の部屋の中の様子を覗こうと、木椅子を積み重ね、その上に乗って、部屋の上部の空気窓から中を覗き込む。

私が洗いますからと言い、風呂場の中に置いてあった紙を広げて中の石けんを取り出した敏子だったが、その包み紙をじっと見つめる。

何が書いてあるのかと不思議に思った仙田も覗き込むと、それは新築の家の宣伝だった。

一遍で良いから、こんな生活が出来たら良いでしょうねと敏子が呟くので、あの…と何か言いかけた仙田だったが、言い出す事が出来ず、ダメだ…と悔やむ。

前科者でなかったら…、とても結婚なんて言いだせないと思わず口走ると、私みたいなもの…と敏子は喜ぶ。

諦めますと仙田は言うが、私こそいけません、喜んでしまっててんなどと敏子の方もまんざらではなさそうなので、夢中で廊下で中をのぞいていた小仏は思わず足を踏み外し、後ろにひっくり返ってしまう。

風呂場の中では、あなた、すぐ出られるんでしょう?私もすぐ出られるんです。

あなた先に出て、私のうちをきれいにしてもらえませんかと仙田が頼むと、夢のようですわと敏子は喜ぶ。

5万預けていますと仙田が教えると、そこに入って来た小仏が、やることやらんか!と叱ると見せかけ、仙田に敏子を抱くように顔で促す。

先に留置場を出て行く敏子に、じゃあ、お願いしますと仙田が声を掛けると、早くいらしてねと答えた敏子は、愛らしく手を振ってみせる。

ほどなくして仙田も解放され、意気揚々と自宅に戻ると、家の前に軽トラが止まっており、中をのぞくとたくさんの家財道具が置かれていた。

喜んで上がり込んだ仙田だったが、見知れぬ主婦(中北千枝子)が出て来て、どちら様でしょう?と言うので、このたびはお世話になりましたと礼を言った仙田が、敏子さんは?と聞くと、また、あんた、一体どなたですの?と聞いて来る。

須藤敏子さんを知りませんか?と聞くと、その方は存じませんが、私は、須田敏江って方からこの家の権利を買いました。

一昨日、権利金をお渡ししましたよと領収書を主婦が出してみせる。

そこに、祝い金を手にした隣の親父が訪ねて来るが、仙田は詐欺か!と呆然となり泣き出す。 その後、警察署の小仏を訪ねて来た仙田は、おかげさまで須藤敏子と結婚する事になりました。これからは真面目一方でやって行きますと挨拶をする。

それを聞いていた小仏は、良し、お祝いをさせてくれと言い出すと、被害者達も招待してさせていただきますと仙田は言う。

そこへ、良かったなと看守を言葉をかけに来る。

その後、料亭で、仙田と敏子の結婚祝いとしてどんちゃん騒ぎをする事になる。

ひとしきり踊った仙田に代わり、次は看守が詩吟をうなりだしたので小仏はうんざりした顔になりながらも、仙田を呼び寄せ、ま一杯やれ!そうか、お前はダメだったか…と仙田が下戸だった事を思い出すと、しかし今度の女は大当りだったなと褒めてやる。

すると、一杯だけ頂きます。これが飲まずにいられよか!と言い出した仙田はビールを一息で飲み干すと、私のこの気持を分かっているのは部長さんだけですよと小仏に礼を言う。

その後、玄関口に来た仙田に、お出かけですか?刑事さんと料亭の内儀(水の也清美)が声をかけて来たので、二次会場を探しにいくんだとさらっと答えた仙田は、誰のだか知らないが真新しい革靴を自分のだと言い、それを履くと、みんなにはじゃんじゃん飲ませてやってと二階を見ながら内儀に言い残し出て行く。

二階では、小仏部長が得意の宴会芸を踊りまくっていた。

「日本スポーツ杯争奪戦」の大きな横断幕がかかった競輪場に向かって歩いていく仙田は、途中でサイズが合ってなかった革靴の片方が脱げたので、慌てて拾いに戻り、また意気揚々と競輪場に向かって歩き出すのだった。
 


 

 

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