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たそがれの東京タワー

上映時間63分と言う、二本立ての添え物風中編作品

ヒロイン役の仁木多鶴子さんは「猫は知っていた」(1958)などにも出ていた方で、庶民的と言うか、ごく普通の娘さんと云った印象で、どちらかと言えばちょっと地味なキャラクターかも知れない。

そんな仁木さんが本作では、終始孤独で暗いキャラクターと、鏡の中の笑顔が可愛い明るいキャラクターと云う二面性を見せており、仁木さんファンには得難い作品ではないかと思う。

時折、「初代コメットさん」を演じた九重佑三子さんに似ているようにも見えたりする。

内容も何だかミステリと言うか怪奇幻想風な描写があるので、そう云う幻想的な展開になるのか?と思わせるが、案外シンプルな恋愛ものになっている。

同年ほぼ同時期に公開され、同じく東京タワーを舞台に描いた、日活の「東京ロマンス・ウェイ」に設定が似ているのも興味深い。

こしゃまっくれた小学生が出て来たり、貧しいヒロインが東京タワーで出会った運転手風の青年の方が社長令息だったり… 2本まとめてみると、競作だったのだろうか?と疑いたくなるほど。

鏡の中のもう1人の自分というのが、若い娘特有の夢だったのかどうかも最後まではっきりしないが、どうなるんだろう?と物語に引き込む要素になっているのは確か。

有名スターが出ている訳でもなく、派手な見せ場がある訳でもない内容なのだが、結構、最後まで見せられてしまう展開になっている。

ヒロインの先輩を演じているのは、今では服飾評論家として知られる市田ひろみさん。

当時は目鼻立ちのはっきりした派手な感じの美人である。

その市田さんの恋人茂ちゃんを演じているのは、後の昭和ガメラシリーズなどで知られる藤山浩一さんで、この頃は痩せており、リーゼントスタイルが似合うバタ臭い感じのイケメン青年である。

憎まれ役の女性として登場している金田一敦子さんもなかなかの美貌で、ヒロイン役の仁木さんと印象が似ているように見えるので、一瞬区別しにくかったりする。

特撮担当は築地米三郎さんであるが、正直、どのシーンが特撮なのか良く分からなかった。
▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼
1959年、大映、星川清司脚本、阿部毅監督作品。

(フランク永井が歌う主題歌と東京タワーをバックに)タイトル

銀座の裏の「レディス・ファッション・クラブ リラ」と言う洋裁店では、店主の大川アヤ(三宅邦子)と助手の春江(市田ひろみ)が、今日のショーで気に入ってくれた常連客の採寸をしていた。

お届けは月曜日で宜しいですか?とアヤが聞くと、結構よと常連客は言い帰って行く。

奥の作業場では、針子たちが、今日連れて来たの誰?年下じゃね…、贅沢言ってるわなどと恋人話に花を咲かせていたが、そんな中、ミシンに向かって1人暗い顔をしていたのは、新人の針子、吉野京子(仁木多鶴子)だった。

彼女は田舎から出て来たばかりの孤児院出身の孤独な娘で、東京には知り合いなどまだ誰一人いなかったのである。

お母様に宜しくとアヤが常連客を送り出すと、パトロン(嵯峨善兵)が顔を出し、どう?終わったの?とアヤに声をかける。

それに気づいた縫子たちは、パトロンよ、お茶を出して、先生と呼ぶのよ。

お紅茶よ、レモンを忘れないでねなどと京子に指示して来る。

するとアヤが、今日は早じまいよ、明日は休みにしましょうと針子たちに声をかけ、そのままパトロンと遺書に帰ってしまったので、奥で紅茶の準備をしていた京子は、左手の人差し指に巻いた絆創膏をじっと見つめる。

針子たちは、今から映画間に合うかしらと焦りながら帰り支度を始めるが、春江が、後は2人でやっとくからと声をかけたので、4人の針子たちは礼を言うと嬉しそうに帰って行く。

そこに紅茶を2つ盆に乗せて京子が持って来たので、それ私がもらう。

あんたも呑みなさいと春江が勧めると、あんた、気の毒ね、行く所なくて…と同情する。

そして、先に寝ていて良いわ、私、出かけて来るからと言い出した春江は、恋人に電話をかけ、茂ちゃん?箱根?夕方帰れば良いんだから…、待ってて!と言い終えると、電話を切り、今夜は帰れないから。

戸締まり気を付けてね。明日4時までに変えるわ。

さっきのお客さんのやっといて、ピン打っといたから、そのくらいできるでしょう?と京子に頼み、自分もさっさと帰ってしまう。

京子は、玄関ドアのカーテンを閉めると、ますます暗い顔になり、店内のマネキンが来ているコートをそっと触ってみると、自分が着ている薄いガーディガンの穴が空いている部分を見つめる。

二階の自分の部屋に来た京子は、田舎にいる祖母を思い出し、 おばあちゃん、東京に来て三ヶ月になりました。 ここの先生はパリに行ったこともある偉い先生です。

養老院は不便なんでしょうね。 また少しですがお金を送ります。

東京には何でもあるけど、私に手に入るようなものはありません。

みんな幸せそうだけど、私は1人ぽっちで、空に浮かぶ月と同じ。 私は時々、自分が若い娘であることが寂しくなります…と心の中で語りかけていた。

すると、部屋にある割れた鏡に写った自分が、今夜は月が明るいのよ、ぱーっと出てみたら!と明るい笑顔で話しかけて来る。

京子は、鏡の中の自分に向かい、若い娘がこんな格好で出て行けると思う!と怒ったように言い返す。

さっきの服、1つくらいあんたに合う奴あるわと鏡の自分が提案したのを聞いた京子は、ちょっと待って!考えてみるわと気持が揺らいで来る。

すぐに帰ってくれば良いじゃないと鏡の中の自分がそそのかすので、ちょっとだけね…と同意した京子は、マネキンが来ていたコートを羽織り、そのまま店を出ることにする。

銀座の街を歩き始めた京子は、ウィンドーショッピングを楽しみだす。

すると、すれ違った男が口笛を吹いて来たので、嬉しくなってしばし足を止め、思い切って振り返ってみた京子だったが、もう口笛の男は立ち去っていた。

そんな京子は、夜の街にそびえ立つ東京タワーを見上げる。

展望台に登ってみた京子は、溢れかえった修学旅行生たちとぶつかったりするが、窓から見える東京の夜景はすばらしく、まあ、素敵!と声を出してしまう。

そんな中、お菓子を持って走って来た子供(白田和男)とぶつかって転ばしてしまったので、ごめんなさい!と詫びながら子供を助け起こす。

すると、その子の連れらしき若い青年津田直樹(小林勝彦)が、やあどうも、すみません!と言いながら近づいて来る。

望遠鏡を見たくてしょうがないんですよと子供が走っていた理由を教えたその津田は、あなたも見ません?と京子を望遠鏡の所に誘う。

10円で2分間だけ見られるんですよ、考えたものですねと笑い、10円を投入して子供に覗かせる。

子供は、汽車やバスが見えると喜ぶ。

側に寄った京子は、大変な人ですねと混雑振りを言うと、今日は土曜日だからと津田は言い、進君、お姉さんにも見せて上げなさいと子供に声をかける。

進と呼ばれた子供が場所を譲ったので、京子も望遠鏡をのぞいてみると、ダンスを踊ってますわと感激する。

するとまた進むが僕にも見せてよとせがんで来る。 お宅はどの辺なんですか?と津田が聞いて来たので、ずっと遠くですと京子は嘘をつく。

それを聞いた津田は、東京じゃないんですかと言うと、それびしてもデカいものを作りますね、エッフェル塔より高いそうですよと東京タワーのことに話題を変え、階段が何段か知ってますか?と聞くので、知りませんと京子が答えると、僕も知らないんですと津田は笑う。

お仕事は?と京子が聞くと、今の所、職工ですねと津田は答える。

その後、展望台の喫茶室でカルピスのようなものを呑みながら談笑していた津田と京子だったが、仲間はずれにされ飽きた進が、わざとカルピスのコップを京子の方へ倒し、中身をこぼしたので、借り物の服を来ていた京子は驚いて身を避ける。

ねえ帰ろうよと進が言い出したので、ピストルかってやる約束したんですよと津田はすまなそうに詫びると、またいつかお会いしたいですねと名残惜しそうに言う。

京子はつい、明日1日空いてます。

お稽古ないものですから…と嘘を言い、じゃあ、1時頃ここで…と津田は約束し帰って行く。

京子は、テーブルにこぼれたカルピスを拭こうと津田がかぶせたハンカチが残っていることに気づく。

翌日、津田の車に乗った京子は、これ、あなたの車?凄いわ!と驚くと、実は会社のですと津田が言うので、自動車の技師さんね!と京子は早合点する。

どこ行きましょうか?と津田が聞くと、ビルがたくさんある所、丸の内みたいな…と京子はリクエストしたので、津田は、え?と戸惑う。

丸の内のビル外を眺める京子は、孤児院から初めて東京に連れて来られた時、一遍でもあの明るい窓の中で働きたいと思ったわ…と心の中で考える。

今度はどこ?と運転する津田が聞くと、外苑に行ってください、私あそこがとっても好きなのと京子は頼む。

外苑に来ると、ゆっくり走ってみてと京子は頼み、楽しいわ…と喜ぶ。 心の中では、おばあちゃん、今、京子は幸せです。

昨日まであんなに哀しかったのに…と考えていた。 ここは明るくて…と呟いた京子は、車を止めさせ、売店から菓子を2人分買って戻って来る。

菓子を受け取った津田は、僕、君の名前を知らないんですと言い出したので、京子は名と19歳という年齢を明かし、津田も名乗って24歳と自己紹介する。

いつもは日曜も忙しいんですと京子が教えると、僕、時々会いたいんだけど…と津田がせがむので、金曜の夜なら空いてますと京子は答えたので、じゃあ、又、タワーで会いましょうと津田は約束する。

その時、ダッシュボードの時計を見た京子は慌てたように、私、帰らなきゃ!と言い出したので、送りますよと津田が申し出るが、タクシー拾いますからと言い、京子は車を降りて立ち去ってしまう。

2時5分前 店に戻った京子は、持って来た津田のイニシャル入りのハンカチを洗って干すと、馴染み客のドレスを急いで仕上げ、それを自分の身体に合わせて鏡を覗いてみる。

すると又、鏡の中の自分が、まあ素敵!とても良いじゃないのと褒めてくれる。

そんな鏡の中の自分に向かい、京子は、これ無理しちゃった。ちょっと痛いけど我慢しなくちゃと言いながら、買ったばかりのハイヒールを箱から取り出してみせる。

あの人どう思うかしら…、絶対自信あるんだけど…と京子が呟くと、鏡の中の自分が風引いたかな?あなたも気をつけるべきよと喉を押さえながら忠告する。

春江さん、ずいぶん遅いわね…、相手はあんまり魅力ない人だったけど…と京子が悪口を言うと、明日顔を合わせるわよと鏡の自分に注意されたので、悪い子ね、私…と京子は反省する。

次の金曜日の夜、約束より15分遅れの7時15分に東京タワーの展望台にやって来た京子は津田の姿を探していたが、いきなり背後に近づいて来た津田に脅かされ、遅刻したのは君だからねとからかわれる。

京子は、この間のハンカチ…と言って津田に差し出すが、受け取った津田は、これは新品じゃないですか!と驚く。

京子は、あれ、いただきたいんです…と恥ずかしそうに申し出る。

津田は、京子がやけに立派なコートとドレスを着ているので、今日、何かあったんですか?正装して…と聞くと、父の誕生日なんですと京子はまた嘘を言う。

しかし、その日は霧が深く、展望台からは何も見えなかったので、階段がいくつあるか分かりましたか?と京子は聞く。

津田が、分からないけど300くらいかな?と適当に答えると、私は323だと思うわ、数えてみましょうよと京子は言い出す。

しかし、履きなれないヒールを履いて来た京子は、階段を夢中で数えながら下り始めた津田から徐々に遅れ始め、待って!いじわる!と言いながらヒールを脱いでしまう。

それでも津田は階段を数えながら下り続けるので、もう止めた!私諦めるわと京子がギブアップすると、僕がおぶってあげるよと津田が言い出す。

嫌よ!と恥ずかしがって駆け下りようとした京子に、転ぶよ!と注意した津田は、京子をお姫様だっこして、キスして来る。

ごめん、怒った?と津田が京子の顔色をうかがうと、ねえ、うちのパパおかしいのよ…、いつも私をおんぶしてやるって言うの…と京子はいつもの虚言癖が出てしまう。

パパ、船乗りでしょう?たまに変えると、私のこと子供に思うのね、パリにいつか行かせてやるというの。

デザインの勉強をしたら、銀座に大きなお店出すわなどと嘘をすらすら話しかけるので、君が色んな話をするから階段分かんなくなったよと津田は諦める。

店を出したら、あなたを車の運転手として雇ってあげるわと京子が言うと、君、ママは?と津田が聞いて来る。

小さい時亡くなったの…、パパの話によると、とてもきれいだったんですって…、今は子犬のチビとお手伝いさんといるのと京子が嘘を続けると、僕の親爺も頑固なんだ。

今日、会ってもらおうと思ってたんだけど、何か哀しいことあったんじゃ?と津田は案じる。

すると京子は虚勢を張って、私、今まで、哀しいことなど一度もなかったわと言うので、父にあってくださいと津田は頼む。

しかし京子は、いきなり走ってその場から逃げ去る。

京子は、もう会わない方が良い…と考え始める。 ある日、店で大川アヤが採寸していた客が、どう?巧くやってる?と聞いて来る。

京子を孤児院から紹介した沢女史(岡崎夏子)だった。 筋はいいわとアヤが答えると、18になると施設にも帰れないし…、宜しく頼むわね…と沢女史は言う。

奥の部屋で作業していた縫子たちは、そんなアヤの最近の様子の変化に気づいており、あの人、この頃変よ、恋人でもできたんじゃない?まさか?などと噂し合うが、そんな陰口が聞こえた京子はいたたまれなくなり、二階の部屋に逃げ込む。

箱に仕舞った津田のハンカチを取り出した京子は、それを眺めながら、やっぱりダメ!私、会わずにいられないわ!と呟く。

次の金曜日、又、マネキンの着ていたコートを着てみて悩む京子。

二階に上がると、鏡の中の自分が、頭痛いな…と顔をしかめながらも、どうしたの?と聞いて来る。

既製服屋さんがみんな持って行ったのと京子が答えると、扁桃腺を押さえながら、鏡の中の京子は、ショーウォンドーに1つあったわと教える。

あれはマダム用だし、少し大きいわ…と京子が言うと、あなたなら着こなせるわ、アクセサリーかなにかを付けたら?見本が来てたじゃないと鏡の中の自分がアドバイスして来る。

しかし京子は、もう会わないわ…と答える。

そこに、突然帰って来たのが春江で、ラーメン頼んでよと京子に命じる。

しかし、そこに春江、いますか?と訪ねて来たのが茂ちゃん(藤山浩一)で、いつかのあれ、買ってやるからよ!と店の奥に声を掛けると、それを聞いた春江は急に喜び、ラーメン、もう良いわ、お土産買って来るわね!と京子に言い残し、いそいそと出かけて行く。

京子も急に機嫌が直り、長い物差しを手のひらの上でバランスを取りながら立てたまま二階へ来る。

その後、マダム用のコートに見本のアクセサリーを付けた京子が東京タワーの展望台に来て、先に待っていた津田に、お待ちになった?と聞く。

もう来てくれないかと思った…と津田が喜ぶと、今日の私、何だか地味でしょう?と京子は案じる。

なかなか良いと思うけど…と答えた津田は、今日はもう逃げないでしょうね?今日はちょっと豪遊できるんだ。任しといてくださいと誘う。

レストランのテーブルで向かい合ったた2人だったが、何を考えてるの、1人で?と、暗い表情の京子に津田が聞く。

私、何だかあなたと会ってるのが怖いの…、いつかお別れする気がして…と京子が打ち明けると、何か隠してるんだ、違う?と津田は言い当ててみせる。

京子は手袋を外し、左手の人差し指の絆創膏を見せると、今朝、チビにかまれちゃったのと嘘を言う。

食後、タワーの外の公園に来た津田は、僕、君のパパに会いたいんだ、いつまでもこんな気持でいるの、嫌なんだ。

僕は、自分の腕で生きることだってできるんだ、分かっているじゃないか、君だって!と津田が迫ると、もう言わないで!何も言わないで!と京子が拒否するので、それとも他に好きな人がいるの?と津田が聞くと、思わず京子は津田に抱きつく。

2人はキスを交わすが、その時、京子はコートの胸に付けていたブローチがないことに気づく。

すぐにレストランに戻った2人だったが、ボーイは、クロークにはございませんでしたか?気がつけばお預かりしとくのですが…と言うだけでブローチは見つからなかった。

津田は、どこで買ったの?銀座?行ってみよう、まだあるかも知れないからと、落ち込んだ京子に声をかけ、賞美堂という宝石店に付いて行く。

すると、同じ物が展示してあり12000円と値札が付いていたので、これをくれたまえ、どうせ何か送ろうと思っていたんだと津田は言い、そのブローチを購入する。

京子がさりげなく、津田の財布を見ると、中にはたくさんの札束が詰まっていたので、思わず、津田が金庫破りをしたり、スリをやっているイメージを思い浮かべる。

外に出ると雨が降り出していたので、津田は、今夜こそ親爺に会ってくれよと頼むが、でも、うちで心配しているかも知れないから電話するわ、ここで電話かけさせてと京子が言うので、そうしなさい、僕はここで待っているからと津田は車に乗り込み答える。

京子は、近くの公衆電話へ向かう振りをしてそのまま逃げてしまう。

ある日、車の修理をしていた津田の元へやって来た仲間が、おい津田!テスト終わったのか?どんな子なんだ、この車に乗せたの?と冷やかして来る。

津田が答えないでいると、親爺はお前をローマへ連れて行くと言ってるぞと仲間は教える。

「リラ」では、客が依頼したコートにかぎ裂きができているとアヤがクレームを受けていた。

アヤは、そのコートを縫った和代(真中陽子)を呼び、事情を聞くが、和代も困惑するだけ。

みんな、もっと自分の仕事に責任を持たなくちゃダメ!とアヤは縫子たちに注意する。

そのコートを着て出かけた京子は、思い出せないわ…、いつやったのかしら?もし渡しだったら…と思い悩んでいたが、部屋に戻ると、鏡の中の自分が、しようがないな、みんな私のせいね…と、頭に氷嚢を乗せた姿で答える。

もう会えないわ…、先生や和代さんに悪いし…と京子は決心する。 しかし、次の金曜日の夜も、やはり京子は東京タワーの展望台に来てしまう。

その頃、津田の車の助手席に乗っていたのは、幼なじみの佐竹暁美(金田一敦子)だった。

今日は絶対に降りないから!誰に会うの?先週も約束破ったじゃない!どうかと思うわ! 嫌よ!絶対私、離れないから!と暁美は迷惑そうな津田に迫る。

その時、白バイから停められ、免許証の提示を求められるが、津田は免許証を見つけられず、派出所へ連れて行かれる。

その様子を、助手席に乗っていた暁美は嬉しそうに見ていた。 誰もいなくなった展望台に1人残っていた京子に、守衛が近づいて来て閉塔でございますと声をかける。

後日、とにかく、あなたを見たって人がいるんです!とアヤは京子が店の服を勝手に来て外出していたことを知り詰問していた。

京子が何も言わずうつむいたままなので、じゃあ、やっぱりあなたなのね?あのコート破ったのも、あなたね!とアヤは怒りだす。

でも…と京子は口を開くと、着なかったというの?相手の男の人もいたそうじゃない!第一、そんなことしたら、相手を騙しているんじゃない? 誰でも楽しむ権利はあります。でも店でやるのは困ります。沢さんの家に来なさい。今夜とは言わないけれど、荷物をまとめてといてちょうだい!とアヤは叱りつける。

京子は二階の部屋で荷物を整理しながら、箱の中から津田のハンカチを取り出し、そっと触る。

そこにやって来たアヤは、私の着古しで悪いけど、田舎の名にやろうと思って直しといたのよ…と言いながらコートを京子に渡す。

京子は思わず泣き出したので、ごめんなさいね、もっと気をつけてあげてれば良かったのに…、言い過ぎたわ、今度から気をつけてねとアヤは優しく許してくれる。

それを聞いた京子はさらに泣き崩れる。

そんなある日、届け物をしに出かけていた京子は、見覚えのある津田の車を発見する。

慌てて、電柱の陰に身を隠し、様子を見ていると、家の中から出て来た津田が、女中らしき見送りの女性に、皆さんに宜しく!と挨拶し、車に乗って走り去ったので、すぐにその家に近づき、中に入りかけた女中に、今のは津田直樹さんではありませんか?こちらはどう言うお宅なのでしょう?と聞く。

すると女中は、セントラル・モータースという会社に行って聞いて見たら?社長さんの息子さんですからと言うではないか。

セントラル・モータースの社長室では、25日、オランダ航空が取れましたと二枚のチケットを携えた秘書(川島祥二)が、社長の津田武吉(見明凡太朗)に手渡す。

二枚のチケットには津田直樹と佐竹暁美の名前が記してあった。 武吉は部屋に来ていた津田に、お前、暁美さんのことどうするんだ?あの子のお父さんに対しても困ると説教する。

お前はいずれここに座るのだ。機械いじりも良いが、そろそろ経営学も学んでもらわんと…と話すが、津田が無言のままなので、誰か良い人でもいるのか?無理にとは言わんが、わしに会わせられんような女なのか?と武吉が聞くので、違うもの!でもまだちょっと早いんだ…と津田が言うと、ちょっと座りなさい、お前とはゆっくり話そうと思っとったんだと武吉はソファーに誘う。

(フランク永井の歌う主題歌をバックに)町中をさまよい歩く京子だったが、ふと東京タワーを見上げる。

その時、京子の姿を見て、あっ、お姉ちゃん!と気づいたのは佐竹暁美と一緒に歩いていた弟の進だった。

暁美は進と一緒に京子の後を尾行し、「リラ」に入って行く所を確認する。 二階の部屋にやって来た京子は、鏡の中が真っ暗で、そこにいた明るい自分が消えていることに気づくと泣き出す。

店の外に来た暁美が、誰なの?と進に聞くと、直樹のお兄ちゃんとタワーで会ったのと進は答える。

しゃべっちゃダメよと暁美が口止めすると、100円くれる?とちゃっかり進が要求したので、後で上げると暁美は答えその場から立ち去る。

落ち込んでいる京子の部屋にやって来た晴江は、どうしたの?何かあったの?喧嘩したんでしょう?男なんてすぐにけろっとしちゃうんだからなどと慰める。

その後、進は100円頼んだよと良いながら津田を「リラ」に連れて来る。

店に入り、アヤに京子のことを尋ねると、昨日出て行ったきりなんですよ、この間叱ったものですから…、行く所なんてありゃしないんですけどね…と心配そうにアヤが教える。

津田は進と一緒にまた東京タワーの展望台に来てみるが、京子の姿は発見できない。

望遠鏡で見てみたら?などと進は言う。

翌日、セントラル・モータースの社長室では、やって来た暁美がそこにいた津田に、おじ様出かけたわよと教え、私みんな聞いちゃった!あなた社長になりたくないなんて言ったそうね? 私電話したわ…、いなかったでしょう?彼女、あなたのお金が欲しかったのよと暁美が京子を侮辱すると、人を中傷しているのは嫌いだ! 例え滑稽でも、僕は僕の道を行くんだ。僕は子供の時から君を一緒だけど、結婚しようと思ったことは一度もないよ!と暁美に言うと、津田は部屋を飛び出して行く。

その頃、東京タワーの展望台の望遠鏡の所に来たのが京子で、私、やっぱり一目だけでも会ってお詫びして来ようと決心する。

セントラル・モータースの受付に津田を訪ねた京子の前に降りて来たのは暁美だった。

直樹さんは、ちょっと出かけているの。ご用があるって言うのはあなたね?私が承っておくわと良いながら応接室へ京子を招く。

暁美は、あなた、「リラ」の方ね?私、直樹さんと…、こんなこと話してもしようがないわね。

あなたまさか、直樹さんの話を本気になさたわけじゃないでしょう?お金のことなら私に相談して…などと女房気取りで暁美は話す。

それに驚いた京子は、私はただ、あの方にお詫びをしようと思って…と言い残し、帰って行く。

社長室に戻って来た暁美は、おじ様、とうとう私たち、おとぎ話を信じちゃったようねと言うと、航空チケットを取り出した武吉は、これはわしが行くことにした、名前を書き換えて、わしのビザを取っといてくれと秘書に渡すと、世の中のこと、巧くいかないものだ…とため息をつく。

年寄りと一緒に旅行してくれるかね?と武吉が聞くと、連れて行ってくださるの!と暁美は喜ぶ。

しかし、その後、進と一緒にパフェを食べに行った暁美は、お姉ちゃん、がっかりしないで食べなさいよと進から慰められるほど落ち込んでいた。

その頃、津田は、武吉の車に乗せられどこかへ向かっていたので、どこに行くんですか?と聞くが、まあ良いと武吉ははぐらかす。 東京タワーの展望台に連れて来られた津田は、望遠鏡の側に京子が立っていたので、お父さん!と驚く。

お礼は暁美さんに言いなさいと答えた武吉は、閉塔でございますと呼びかけて来たエレベーターガールに、しっ!と声をかける。

京子は、近づいて来た津田に、ごめんなさい、私、嘘をついていたんですと謝る。

僕も嘘をついていたんだ。愛しているよと答えた津田は京子を抱きしめ、そのまま一緒に、父親がドアを開けて待ってくれていたエレベーターの方へ向かう。
 


 

 

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