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聖女と拳銃

上映時間66分の中編で、ヤクザ役の大木実さんが天使のように純真な少女鰐淵晴子さんと会う事で生き方を改めると言う感動もの。

教育的なメッセージ映画とも言えるが、昔はこの手の、添え物なので地味ながらも泣かすタイプの佳作が色々上映されていたのだと思う。

この頃の鰐淵さんは、特に天才子役のような器用とか達者と言うイメージではなく、監督から言われた通りに演技をしている感じで、若干わざとらしさを感じないではないが、その従順さがまた愛らしい。

17才設定なのでそんなに子供でもないはずだが、劇中では純真さを強調するためかもう少し幼いキャラクターのように描いている気がする。

実際にこんなアニメみたいな純真な女の子がいるだろうか?と言う疑問もないではないが、当時は実写が基本だったので、こういうメルヘンタッチ表現もありだったのだろう。

柔和なイメージの役が多いような気がする永井達郎さんや明石潮さんの悪役と言うのも珍しいような気がする。
▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼
1959年、松竹、水沼一郎原作、光畑碩郎脚色、野崎正郎監督作品。

飛行機塔が回っている遊園地に一台の車が近づく。 遊園地の奥では。久松(永井達郎)達が待ち構えていた。

車で来たのは村田恭輔(大木実)だった。

おい、タバコをくれと、後部座席の隣に座っていた稔(小野良)に声をかけた時、村田達は発砲して来たので、畜生!と怒った久松は、車をそのまま久松組の連中の方へ向かわせ、袋小路に追いつめた所で拳銃をぶっ放し、汚え真似しやがって!あのシマは俺が乗っ取るぞ! パトカーが走りすぎる音に気付いた「秋本花店」で働いていた和子(鰐淵晴子)は、何かあったのかしら?と、叔父で店主の秋本真吉(小林十九二)に話しかける。

3丁目に新しい喫茶店が出来たでしょう?宣伝しに行ったけどダメだったの、造化で間に合わせるんですってと和子は言うと、ねえ、おじさん、あれから何人お客さん来たの?と聞く。

2人だよ、ダリアをねと真吉が答えると、良かった!17人目のお客さんはまだね?私のマスコットのお客様なの、良いお客様が来てくれると良いわね~と和子は夢見がちな瞳で言う。 そこに、パトカーの音を気にしながら店に入って来たのは久松だった。

久松は、450円のシクラメンの鉢を購入するが、和子が真吉に許可を受け、カーネーションをちょっとおまけなのと言い、真吉に差し出す。

その時、真吉の左手に怪我をしている事に気付いた和子は、ちょっとお待ちになって!と言うと、医療箱を取りに行き、包帯を巻いてやる。

バカに親切な花屋だなと村田が言うと、今日、お店が2周年で、お客様が17人目なんです。 17って私の年なの、だからカーネーションを差し上げる事にしたのと和子は説明する。

包帯を終えた和子はシクラメンの鉢を手渡し、村田は店の外に出るが、和子はカーネーションを置き忘れていたので、追いかけて外で渡す。 村田はその後鉄橋の上に来ると、川の中にシクラメンの鉢とカーネーションを投げ捨ててしまう。

そんな事も知らずに、夕食時、和子は、ねえ、何してる方かしら?と真吉に聞いていた。

あんまり見かけない人だからねと真吉も戸惑う。

17番目でシクラメンを好きな人に悪い人いないわ。和子の勘って当たるんですと和子は自信ありげに言う。

その時、真吉の小学生の娘春美(茂子)と息子安夫(小橋一夫)がおかわり!とが言うので、もう学校遅れるんじゃないかい?と真吉に言われた和子は、急いで二階の自分お部屋に登ると、両親の遺影に行ってきますと挨拶する。

その時、窓の外で教会の鐘が聞こえて来たので、窓辺に立った和子は十字を切るのだった。

一方、内妻マリエ(田代百合子)がやっているバー「トニー」では、村田組の若い衆(藤田功)がギター弾きながら歌っていた。

どうしたんだろ?遅いわね…とマリエは村田の帰りが遅いのを心配していた。

兄貴に限って心配いりませんよと稔がなだめていると、村田さんは?とやって来たのは、村田組のお陰で立ち退きを免れたレルトランの店主が来る。

家の人が付いている限り久松組に指一本触れさせませんよとマリエは保証してやる。

その頃、村田は久松組を追い払ったことの礼を言いに来た伊勢の秘書(諸角啓二郎)と事務所で会っていた。

秘書はさらに、社長があなたにぜひ会いたいと行っているので、ぜひ会社の方へ顔を出していただけないでしょうか。

お願いがありましてね…と言っている所へ、心配して迎えに来たマリエが来る。

その時、事務所の外で怒声が聞こえ、見ると手下達が誰かと喧嘩をしているようだった。

その声を消すように窓を閉めた村田は、とにかく明日伺いましょうと答える。

秘書は、社長は港で一番の有力者だ、あなたにとって御損はないはずですと言い残して帰る。

下に降りて来た村田が、何してるんだ!まだ相手は子供じゃねえか!と若い衆を叱ると、久松組の奴だ、事務所を覗いていやがったと言うので、組の若い衆には、これで酒でも飲んで来いと追い払い、久松組の若い者(藤田貢)には早く帰れと言い聞かす。

久松組の若い者は、恩に着せようたってそうはいかねえぞ!と捨て台詞を残し去って行く。

翌日、和子は、自転車に乗って花市場に向かう。

競り落とした大量の花を持って帰ろうとしていると、同級生で市場で働いている柏木三太(東山幸二)が、和ちゃん、そんなに買って大丈夫かい?と聞いて来る。

結婚式と落成式の2つも注文があったのよと嬉しそうに答えた和子だったが、三太君、昨日学校に来なかったでしょう?ずる休みはダメよと注意する。

運送屋の手伝いに行ってたんだ、20軒で300円さと教えた三太は、残りはオート三輪で運ぶからと言ってくれる。

自宅マンションに帰って来たマリエは、あんた巧くやったわ、伊勢さんに気に入られたでしょう?あんた出世するわよ。

私も「トニー」のママじゃ気に入らないは、その内、大きなナイトクラブとかやりたいの…と夢を語る。

お前には合うぜなどと答えながらも、着替えをしていた村田は、拳銃をチョッキの中に隠していた。

その時、マリエの髪に刺さっていた簪に気付いた村田は、これに果てを触れるなと言ってあるだろうと言いながら簪を引き抜く。

あんたのお母さんの形見なんでしょう?もう良いじゃない、あたしにくれたって…とマリエは膨れるが、おふくろは、これはお前が一番好きな女にやれって言ったんだ。二度と触ると承知しねえからな!と村田はきつく言いつける。

その後、出かけた村田はレストラン「鴎軒」に寄り、店主夫婦から礼を言われると、長居はせず、その足で「伊勢商事」へ向かう。

近松組をやっつけた礼を言った伊勢(明石潮)は、港の役に立ってくれないか?とやって来た村田に頼むと、秘書には井原君を呼びたまえと命じる。

沖仲仕に中に困った奴がおり、積み荷は抜く、仕事はしないで困っているんですと伊勢は言う。

そこに井原(鬼笑介)がやって来て、村田と挨拶し合う。

口で言っても聞かないんで、集会を痛めつけていただきたいと伊勢は頼み、井原も、私としてもこんな事はしたくないなどと言う。

港に車でやって来た実達は、沖仲仕達が日払いの給金をもらっている所を監視しながら、運転席にいた川勝(川金正直)に、兄貴に知らせて来いと言う。

波止場に1人立っていた村田の側に車を乗り付けた川勝は、8号倉庫ですと沖仲仕の集合場所を教える。

倉庫内では、集まった沖仲仕達を前に、植村俊作(三井弘次)が、このまま黙って働いていると、井原組の事を認める事になる。

組合作るしかない!と演説すると、聞いていた沖仲仕達も、力合わせて出来ねえ事はないなどと意気投合する。

その時、突然、倉庫の窓ガラスが外から割られ、村田組の若い者が入り口からなだれ込んで来て暴行を始める。

そんな中、植村は物陰に潜んでいた村田の顔を目撃する。

その事を聞いたらしい伊勢は、ご苦労でした。大分痛めつけたそうですなと感謝し、秘書に礼金を村田に渡させると、港のために働いていただいたんですから当然の事ですよと笑う。

ある日、花を持って外を歩いていた和子はクラクションを鳴らされたので振り向くと、車に乗った村田で、どこ行くの?と聞かれたので、山手教会の神父様の誕生日のためなのと答える。

乗れよと村田から勧められ、助手席に乗せてもらった和子は、良いクッション!こんな車に乗ってみたかったの、儲かっちゃったわと喜び、やっぱり17番目のお客様は良い人だったようね。花の好きな人に悪い人はいないわと自己満足する。

山手教会ではちょうど結婚式の最中だった。

花を届けに降りて行った和子は、帰りも乗せてもらう事になる。

村田さん!と呼びかけたので、どうして名前を?と村田が警戒すると、ここに書いてあるじゃないと上着の内側のネームを指差す。

その時、村田の拳銃が床に落ちたので村田は慌てる。 それには気付かなかった和子は、お仕事当ててみましょうか?サラリーマン?絵描きじゃないし…、エンジニアかしら?などと言っている間に、村田は靴先で拳銃を席の下に押し込んで隠す。

あそこに住んでいるのかい?と村田が聞くと、あそこはおじさんの家、小さい頃両親が亡くなったので私は居候なの。

でも寂しくないわ、和子の回りはみんな良い人ばかりなんだものと和子は笑顔で答える。

店に着いた和子は、車で乗り付けて来たのに驚いて出て来た秋本に、今度の公休日、江ノ島に連れて行ってもらえるの。

三太さんも一緒よ。やっぱり和子の言った通りだったでしょう?と言いながら、店から白いカーネーションを持って来ると、村田の車のウィンドーに飾ってやる。

良い人よ、村田さんは、私、分かるのと言う和子の言葉を聞いた村田は、中学時代(羽下勝也)、使い込みの濡れ衣を着せられ捕まった父親の牢の前で泣いた頃の事を思い出す。

泣くな恭輔!良いか、頼れるのは力だけだと父は言い残し、それがその後の村田の生き方の道しるべとなる。

翌日、いつものように仕事をもらいに並んだ植松達集会参加者は、井原組が嫌だったら辞めてもらって良いんだぜ、働き手は余っているんだかと組の連中から言われ、列から外される。

12〜3人の沖仲仕がその日仕事をもらえなかった。

中央病院に入院していたにやって来た柏木国造(磯野秋雄)の見舞いに来た三太は、母ちゃん、父ちゃんの具合どう?代わるよと声を掛けると、ここは良いから、薬局へ薬取りに行っておくれと母親の静江(水上令子)に頼まれ、病室を出て行く。

病室には、倉庫の集会で襲われた沖仲仕仲間が数人見舞いに来ていたが、大怪我をさせられた柏木は植村に、俺、辞めさせてもらうよ…、悪い組に付いたのが不運だと思う。

ピンハネなんてどこでもあった。カ○ワになるよりはましだよと弱音を吐く。

そう云う考え方もあるが、やってやろうじゃないか、俺、ちょっと心当たりがあるんだと植村が言い、少ないが何かの足しにしてくれ、仲間のカンパだよと言い、金を柏木に渡す。

ある夕方、和子は店に飾ってあったバイオリンを見て、自分がドレスを着てバイオリンを弾いているイメージに浸る。

そこに近づいて来て、何を見てるんだい?と声をかけたのが村田で、素敵でしょう?あのバイオリンと和子が教えると、好きなんだね、バイオリン…と村田は気付く。

小さい頃、お母さんに教わったので、バイオリンを見ているとお母さんを思い出すんですと和子は言う。

そして、明後日よと和子が言うので、覚えてるよ、ドライブの約束だろう?と村田が苦笑すると、お天気だったら良いわねと和子は嬉しそうだった。

江ノ島へのドライブの日は幸いに快晴で、途中で一緒に行くはずだった三太が待っていたので、村田が車を停めると、俺、行けなくなったんだ、工場へ行くことになったんだと三太は寂しそうに言う。

江ノ島の海岸でお弁当を食べている時、和子は村田にプレゼントとしてマフラーを渡す。

それを受け取った村田は、僕もプレゼントをしよう、クリスマスにと約束する。

それを聞いた和子は、お父さんが亡くなってから頂いた事ないのよ、嬉しいわと喜び、三太君も来られれば良かったのにと残念がる。

村田が事情を聞くと、お父さんが沖仲仕をしてて、波止場の倉庫で怪我したんですって。

知らない人に痛めつけられたんですって。三太君、演芸学校に行って、将来は庭一杯に花を植えたいんですと和子は教え、私、早く大きくなりたいわ。貧しい人や不幸な人をうんと幸せにしてやれるようになりたいのと夢を語る。

そんな純朴な少女の夢を聞いていた村田は、いつか僕の事を良い人だって言ってたね?もし僕が悪い奴だったらどうする?と聞く。

本当に悪い人なんて世の中にいないと思うわ。 でも現実には刑務所に入る奴だっているじゃないかと村田が反論すると、その人たちは弱いんだと思うの。

みんなで労って力にならなければ…、憎んだり傷つけたりしていたらきりがないわと和子は答える。

その後、「トニー」に来た村田は、マリエからお客さんがお待ちよと教えられる。

隅のテーブルで待っていたのは植村俊作だった。

村田は露骨に迷惑がるが、カウンター席に移って来た植村は、馴れ馴れしく隣に村田を座らせ、思い出すな〜、お前が中学時代、俺の家から学校に通っていた頃の事などと言い出す。

村田はその場にいた子分達を出て行かせる。 植村は、波止場で怪我させられたんだ。柏木って奴なんだが、入院してるんで助けたいんだと切り出す。

手を引いてもらいたいんだと植村が言うので、あんたらがやっている事は港の掟を破っている。

俺はそう云うのが大嫌いなんだと村田が反論すると、誰から聞いたか知らないが、井原がピンハネしてるんだと植村は言い聞かす。

しかし村田は、騙されないぞ、伊勢さんはそう言ってなかったぞ!と村田が頑に言うと、伊勢か…、そこまで思い込んでいるならしようがねえな…、だが俺の言う事も覚えとくんだな…と言い残し植村は飲み代を置いて帰って行く。

その後、村田から電話を受けた伊勢は、植村から事情を聞いた村田が不信感を抱き始めている事に気付く。

それを横で聞いていた秘書は、まずい奴に引っかかりましたね、奴は今回の事を調べて起訴しようとしてるんですと教える。

それを聞いた伊勢は、伊勢商事の屋台骨にも関わってきそうだな…、消すか?村田はまだ使える。奴さんを使って船におびき出すんだと伊勢は命じる。

その後、波止場の船にやって来た伊勢は、ウィンチ係に何事かを頼んで言ったん船を降りる。

その船の横に植村を連れて来たのが村田だった。

植村がどこにいるんだ?と聞いて来たので、探して来ると言い船に登って伊勢の姿を探した村田は、波止場の積み荷の上に秘書と一緒にいた伊勢が何か船のウィンチ係に合図をしたのを目撃する。

ウィンチ係が、積み荷を動かした下に植村がいるのに気付いた村田はその意味を悟るが、次の瞬間、落ちて来た積み荷に植村は押しつぶされる。

植村の自宅の通夜にやって来た村田だったが、それに気付いた柏木ら沖仲仕仲間達から、何しに来た!貴様が殺したんだ!帰れ!と罵倒される。

俺がやったんじゃねえ!と村田は否定するが、聞き入れられる訳もなく、その場は仏に一礼して帰るしかなかった。

その後、伊勢本人が会社社長として葬儀に参加し、香典を備えて行く。

その頃「秋本花店」では、和子が、村田さん見えたら待っててもらってね、明日クリスマスだから今日来てくださるような気がするのと真吉に頼み、自転車で出かける。

一方、村田は人気のない原っぱに伊勢を呼び出していた。

村田、どうしようと言うんだ?と伊勢が聞くと、あれが事故でも勝手に落ちたのでもない事は分かっている。

あんたがウィンチマンに合図を送ったのを見てたんだ。俺は騙されていたんだ!と村田が言うと、そこまで見られてちゃしようがないな…、だがそう云う事は知っていても言わねえことだな、身のためだからなと伊勢は鷹揚に言う。

すると、コートから拳銃を取り出した村田は消してやる!てめえのような奴がのさばっているようじゃ、港は良くならないんだ!と言い、驚いた伊勢を追いつめる。

しかしその時、前方の道を走って行く和子の自転車が見えたので、村田は引き金を引けず、悔しげに拳銃を草むらに投げ捨て暗殺を諦める。 そして、再び植村の自宅にきた村田は、その場に残っていた秋本らに、オヤジさんが死んだのは伊勢の計略だ。連れ出したのは確かに俺だが、殺したのは俺じゃない。証人でも何にでもなる!と表から声をかける。

その後、「秋本花店」に寄った村田は、和子が不在だと知ると、和ちゃんにお別れを言いたかったんですが…と、応対に出た真吉に話す。

俺は黙っていたが和ちゃんが言うような船乗りじゃない…と村田が告白すると、分かってました。世間には色々告げ口する人がいますからと真吉は答え、でもあなたは和子にとっては17番目のマスコットのお客さんですよ、あっしもそれに間違いがないと思ってますと言うと、お茶でも煎れますか?と言って準備をしようとすると、気がつくともう村田はいなくなっていた。

会社に戻っていた伊勢は、あの若僧め!この伊勢を嘗めやがって!久松君、後々の事は引き受けるから頼むよと、呼び寄せた久松に依頼していた。

今度こそ逃さないぞ!奴には恨みがあるんだ!と久松は張り切る。 マンションに帰って来た村田は、店も事務所もめちゃめちゃにされたのよ、伊勢にやられたのよ、バカよ、あんたは!さ、早く、逃げるのよ、伊勢に逆らえばここにはいられないじゃない!とマリエに責められる。

関西へでも身を隠そうよなどと言いながらマリエは荷造りを始めるが、その時電話がかかって来たので、2人とも緊張する。

しかし思い切って村田が出てみると、相手は和子で、村田さん、さっきはどうなさったの?今夜ね、教会の集まりで和子歌歌うの、来てくださるわねなどと言って来たので、村田は迷わず、行くよ、きっと行くよ、約束のプレゼント持ってねと答える。

それを聞いた和子は嬉しそうに、6時よと教える。

あの子ね、あんたがドライブに連れてったとか言う?教会に行くの?とねたましそうにマリエが聞いて来る。

もう1度会って礼を言いたいんだ。あの子に会って、本当の生き方が分かったような気がすると村田が答えると、一体ソノ子はあんたの何なの?とマリエが悔しそうに聞く。

神様がいるとすれば、あの子は俺に取っちゃそんな気がするんだと村田が言うと、バカ!とマリエが怒りだしたので、マリエ、お前をこの世界に入れたのは俺だ。すまないと思っている。

この部屋はお前にやる。事務所の権利は稔に言ってみんなで分けろと村田が言い聞かせると、それであんたはどうするの?とマリエが聞く。 村田が母親の形見の簪をr取り出すと、やるの?あの子に?いけない!待って!お願い!行かないで!とマリエは追いすがって来るが、村田は黙ってマンションを出て行く。

しかし、部屋を出た村田は、下の階に見張りがいる事に気付く。

逃げ道を探して下を見ると、久松組の車らしきものが停まっている。

非常階段に来ると、そこにも見張りがいたが、その見張りは、いつか助けてやった青年だった。

青年は村田に恩を返すつもりか、表は危ないよ、屋上へ行きなと声をかけて来る。

その頃、柏木達沖仲仕数名は、警察署の署長の前で村田の証言を話していた。

それを聞いた署長は、すぐ手配しようと答え、村田恭輔の保護手配も命じる。

神奈川県警のパトカーが伊勢商事に来て、伊勢に逮捕状を突きつける。 夜、クリスマスソングが流れる商店街を歩いていた村田は、宝石商で簪を売ると、その金でセーターとオルゴールを購入する。

その時、久松組の車が接近して来た事に気付き逃げる村田。

暗闇の物陰に逃げ込もうとした村田は、思わず転び、その瞬間、持っていたオルゴールが包みから飛び出し鳴りだしてしまう。

その音を止めようと手を伸ばす村田に気付いた久松組が、車から発砲して来る。

逃げようと立ち上がった村田は背後から撃たれてしまう。

そこにパトカーが近づいて来たので、言ったんは久松組の車は遠ざかる。

負傷しながらもなおも商店街を歩いていた村田は、クリスマスケーキを見つける。

一方、教会で聖歌隊の中に混じっていた和子は、村田の姿が見えないので悲しんでいた。 負傷した村田は、鉄橋の土手に身を隠す。

そこに井原組の車が近づいて来て、車から降り立った子分達が周囲を探し、村田を見つけると発砲して来る。

村田は土手を転がり落ちるが、そこにパトカーがやって来たので久松組は退散する。

警察署では、殺し屋を逮捕した。井原組の幹部だった。現場は南町の陸橋の上などと言う連絡を署長が受けていた。

まだなんとか生きていた村田は、和子からもらったマフラーを手に、雪が降り始めた中、金の鳴る教会へ少しずつ近づいていた。

教会内では、和子が聖歌隊と一緒に賛美歌を歌い、アーメンと祈っていた。

歌が終わり、観客達が帰って行く中、和子は教会の前の階段付近で周囲を探すが、村田の姿が見えないので悲しむ。

和子がまた教会の中に戻ると、扉が閉められる。

その直後、階段を必死で上って来た村田は、扉の横の窓を少し開けて中の様子を見る。

教会内では和子が1人残っており、神の前で祈っていた。

その姿を見た村田はその場にくずおれる。

これで良い…、これで良いんだ…、これであの子の顔をまともに見れる。

それが本当の生き方、幸せと言うものなんだ…と心に思いながら、村田は教会の前で息絶える。

雪が残っている翌朝、村田の遺体は警察の車で運ばれて行く。

一方、「秋本花店」には、村田からクリスマスケーキが届いており、春美、安夫が大喜びをしていた。

和子が、村田さんが見えたら一緒に頂きましょうと言っていると、真吉が、また村田さんからだよと新しい届け物の包みを和子に知らせる。

又来たのね!今度は何かしら?と和子は喜び、安夫も、サンタクロースみたいだねとはしゃぐ。

包みを開いてみると、それはケースに入ったバイオリンだった。

3人は大喜びをするが、和子は、夕べはどうしたんだろう?と村田がこなかった事を不思議がる。

そんな店に三太がやって来て、お父さん、今日から港へ出て行った。

僕も学校を続けられて、市場にも行くことになったんだと言うので、今度は行けると良いわね、ドライブと和子も喜ぶ。

三太が猿と、和子は店の前の雪を帚で払い、店内の花に水をスプレーで吹き付けるのだった。


 


 

 

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