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お夏捕物帖 通り魔

「お夏捕物帖 月夜に消えた女」(1959)に次ぐシリーズの二作目らしい。

大衆向けの分かりやすい娯楽捕物帖になっており、通常、親分が二枚目、子分がお笑い出身の人と言うパターンが多い捕物帖をひねってあるのがまず面白い。

親分がアチャコで、その娘が捕り物小町と呼ばれる主人公のお夏。

それを助ける二枚目が若き田村高廣さんで、田村高廣さんがアチャコの物まねを披露すると言う二枚目半的なおとぼけも見せてくれるのが楽しい。

本作で注目したいのは、瑳峨三智子さんの実母山田五十鈴さんも出ている所だろう。

山田さんは前作にも出ていたらしいのだが、何故か2人が絡むシーンは全くない。

別撮りで撮っているのかと思うくらい、2人が一緒に写っているシーンがないのだ。

この当時の山田さんはややぽっちゃりとした体形である。 事件は通俗ものらしく、若い娘の髷を切る通り魔が現れ…と言う扇情的な発端から始まり、現代風の衣装を着た山田五十鈴さんの踊りなどサービスシーンの方が多めで謎解きはやや甘い、いかにも典型的な捕物帖らしい展開になっている。

冒頭の髪切事件の度に落ちた髷を誰かが素早く拾うシーンがあるのに、その謎解きは最後までなかったりする。

アチャコが意外と真面目な芝居をしており、子分役の谷晃、今回はライバル役の車坂の勘助の子分を演じている田端義夫さんも、さすがにお笑い畑の人ではないので、その穴埋めの意味なのか、秋田Aスケ、Bスケと言う漫才コンビがお笑い担当として出ているのも珍しい。 個人的には、このコンビを初めて見たような気もする。

典型的なコント芸を披露しており、今見て面白いというよりは、ちょっとわざとらしすぎて引いてしまうような雰囲気もある。

谷晃さんはずっと東宝の大部屋出身の方と思っていたが、この時代、連続して松竹作品にも出ていたことを知った。

琴姫を演じている宇治みさ子と言う女優さんも馴染みがなかった。

一歩間違えればコントになりそうな落ちなのだが、何とか笑いにならずに、悲劇として納めた感じである。

出来は当時の松竹としては平均的な所ではないだろうか。
▼▼▼▼▼ストーリーをラストまで詳細に書いていますので、ご注意ください!▼▼▼▼▼
1960年、松竹、小国英雄脚本、萩原遼監督作品。

タイトル 廻り灯籠をバックにキャスト、スタッフロール

弘化7月9日 浅草寺

四万六千日で賑わう縁日

客でごった返す沿道の中を進む深編み笠の浪人 一軒の茶屋の前で客引きをしていた看板娘のお光(北条喜久)は、深編み笠の浪人が通り過ぎた瞬間、頭の上から何かが落ちたのに気づき地面を見ると、自分の髷が落ちていたのでショックのあまり泣き出してしまう。

そこに駆けつけて来たのは目明かしの車坂の勘助(山路義人)とその古文の三吉(田端義夫)だったが、彼らに気づかぬよう、落ちな髷を拾って行く者があった。

お光の母親の証言から深編み笠の浪人が怪しいと聞き沿道を追って行くが、客引きをしていた「ジャガタラお蝶」の「夏の踊り」を見せる見世物小屋の前辺りで相手を見失う。 舞台では、今しも、双子の姉妹(ザ・ピーナッツ)が歌を歌っていた。

楽屋で待機していたお蝶太夫(山田五十鈴)に出番ですの声がかかる。

そのお蝶が舞台に出て踊り始めた時、客席に入って来た勘助は、突然赤いライトに照らされ驚くが、その姿に気づいたお蝶の方も驚く。

舞台裏を調べ始めた勘助に気づいた奥役が何をなさっているのです?と注意するが、編み笠の浪人が逃げて来なかったと?と聞くと、勝手に舞台裏を覗き込んだので、そこを覗かれたら奇術の種が!と奥役は慌てる。

舞台裏には、舞台の水芸のための樽がいくつも配置されており、水の流れの調整をしている浪人がいたので、あれは?と勘助が聞くと、うちの一座の用心棒をやってもらっている方ですと奥役は教えるが、今逃げて来たに違いない、あんなに汗をかいていると指摘するので、この仕事で汗はかかない訳がありませんよと奥役は呆れる。

その浪人前田重四郎(北上弥太朗)の着ている着物の紋は「丸に二引」だった。

その頃、お光とその母親から事情を聞いていた平助(谷晃)は、この辺は鳥越の亀五郎親分の縄張りだと言い張っていたが、芝居小屋の帰りにその言葉を聞いた勘助が、この辺はこの車坂の勘助の縄張りだ!と怒鳴りつけ、いきなり平助を殴りつける。

その頃、平助の親分亀五郎(花菱アチャコ)は、髪結いの息子の政次郎(田村高廣)と将棋を指していたが、あっさり若僧の政次郎に負けたので癇癪を起こし、ええ腕の髪結いのおかみさんがいて遊んでばかりいて将棋も巧くなっただけやないか!、毎日何をしてるんだ?と負け惜しみの文句を言うと、朝、町道場で剣の稽古をしていると言うので、最近では腕を見込まれ、先生の代理をやっているそうやないか!髪結いのくせにやっとうが巧くて何になる?と嫌みを言う。

すると政次郎も負けずと、時々、親分の捕り物を手伝っているじゃないですかと言い返して来たので、確かにお前は素人にして花冠が悪い方じゃない、2〜3年仕込んでやったら一人前の目明かしになれそうだから、俺の子分にならないかと亀五郎が誘うと、親分には捕り物小町がいるじゃないですかと政次郎がやり返す。

それや、お夏の奴、小さい時分に母親を亡くし、わいの男手一つで育てられて来たものだから、女だてらに目明かし気取りでいるんやと亀五郎は困ったように言う。

そのお夏(瑳峨三智子)と友達のお絹(川口京子)は、政次郎の母親の店で髪を結っていたが、髪の結いがいがある器量良しはこの辺じゃお夏ちゃんとお絹ちゃんが両横綱だとお世辞を言われ喜ぶが、お絹が来月、上総屋の若旦那と祝言を挙げることを女将からからかわれたので、恥ずかしがってお夏を急かし、早々に帰ることにする。

帰り道、世間じゃ上総屋と祝言するのは珠の腰だなんて言われているけど本当は嬉しいのとお絹が言うので、好きな人と一緒にいるのが女の幸せじゃないのとお夏も祝福する。

その頃、髷を切られたお光は母親に、おっかさん、こんな髪じゃ茶屋暮らしは出来やしないと嘆いていたが、そこにやって来たお夏が、何か下手人の手がかりは?と聞くと、確か着物の紋が「丸に二引」だったと教える。

その夜「三つ葉葵」の紋の入ったお小姓姿の深編み笠の人物が、すれ違ったお絹の髷を切って立ち去る。

髷を切られたことに気づいたお絹の嘆きは大変なもので、翌日、自害したお絹の死体が発見される。

現場に駆けつけて来たお絹の父親の多兵衛(井上晴夫)の嘆きぶりを哀しげに見ていたお夏は、野次馬の中に「丸に二引」の紋をつけた前田重四郎の姿を見つける。

その重四郎に、ジャガタラお蝶一座の浪人だな?と確認し、番屋への同行を求めたのは車坂の勘助と三吉だった。

番屋で勘助から刀を拝見と言われた重四郎は、おとなしく刀を差し出すが、刃を抜いて調べ始めた勘助に、懐紙を口にくわえるよう作法を注意する。

しかし、その刃に血のりは付いていなかった。

放免され、番屋を出ようとした重四郎は土砂降りの雨に気づき足を止めるが、そこに傘をさしかけて来たのはお夏だった。

2人並んで歩いていると、お夏の下駄の鼻緒が切れたので、重四郎が手ぬぐいに端を噛み切って修繕してくれる。

その後、近くにあった「どぜう」の店で一緒に飲み始めた重四郎は、昼間から声をかける夜鷹かもと冗談を言って来たお夏が、実は鳥越亀五郎の娘お夏と名乗ると、元小倉藩の前田重四郎と名乗る。

曲げ切りくらいできると冗談を言った重四郎だったが、窓から中の様子を覗き込もうとしていた三吉にどじょう汁をわざとひっかけて追い返す。

お夏はそんな重四郎に、私は勘助も知らないことを知っていますと切り出すと、水茶屋のお光ちゃんの髷を切ったのは「丸に二引」の紋だったそうですと睨みつける。

その頃、ジャガタラお蝶の楽屋を訪れた河内屋の番頭はお迎えに上がりましたと挨拶するが、その時、お蝶が畳んでいた羽織の紋所が「丸に二引」だった。

駕篭に乗って河内屋にやって来たお蝶は、河内屋伝右衛門(河津清三郎)から「ゴロ」と言う唐織りの帯を見せられ、これは水がかかっても濡れぬものなので、舞台で来て世間に広めてくれと頼まれる。

牧野の琴姫様には献上されましたか?と確認したお蝶は、まだだと聞くと、自分が持って行くと申し出る。

その後、駕篭で浄心寺の前にやって来たお蝶は、牧野邸の前で駕篭を降り、琴姫(宇治みさ子)に対面すると、河内屋より持参致しましたと、唐織りに透かし模様で金鶏鳥を描いた「ゴロ」の帯を見せる。

琴姫は、美しい…と喜ぶ。 花火を楽しむ子供達や盆の迎え火をする江戸庶民 亀五郎は、また縁側で遊びに来た政次郎とへぼ将棋をしていたが、そこに突然訪ねて来たのが、亀五郎と同じ八尾村から来て淀橋の河内屋の丁稚になったと言う丁松(秋田Aスケ)半松(秋田Bスケ)で、今日から薮入りやけど、自分たちの親戚はおじさんしかいないから、ここに泊まってやるなどと上から目線で亀五郎に申し出る。

そのときやって来たのが亀五郎の子分の半助で、髷を切られた女達がみんないなくなってしまったと言う。

お光の母親に会いに来たお夏は、お光が夕べから帰らなくなった聞き、お絹さんのように早まっていないでしょうねと案ずると、母親は大店の旦那さんの家に、髪が伸びるまで居させてもらうことになったので探さないでくれという手紙とこれが残されていたと2両を見せる。

その頃、亀五郎の家で山盛りの飯を振る舞われていた丁松と半松は、将棋をしていた亀五郎の話に出て来た金鶏鳥の話に食いついて来て、店で扱っている帯の柄に女の髪の毛で織ったと言う金鶏鳥が描かれていると言う話をする。

その話を聞いていた政次郎は急に帰ると言い出し、表に出た所で帰宅して来たお夏と出会ったので、鳥もの小町などとからかい、すぐにいつもの口喧嘩が始まったので、長屋のおかみさん達が面白そうに笑って見学する。

翌日、浄心寺に様子を見に来たお夏は、「丸に二引」の門の浪人が近づいて来たことに気づかなかった。

その後、お夏は「ジャガタラお蝶一座」の芝居小屋にやって来る。

舞台ではお蝶が「ゴロ」の帯を締め踊りの途中でわざと噴水状に吹き出している水の中をくぐってみせ、そこに登場した奥役が客に帯を触らせ、濡れていないことを確認させる。

外に出たお夏に、「丸に二引」の紋の深編み笠の浪人が迫って来たので、お夏は髪に付けていた矢型の針を投げつける。

その後、「どぜう」屋に呼び出した前田重四郎が仕立て下ろしの着物を着ていたので、さりげなく右の袂を見たお夏は、そこに刺さっている針を確認する。

その重四郎の方が飯台に置いておいたお夏の針を珍しがり、これは何の針だ?と聞いて来たので、先ほど浪人に襲われた話をしたお夏は、これと同じ針を相手の右の袂に刺しておいたと打ち明ける。

重四郎が自分の右の袂を見ると、そこに飯台の上においてある者と同じ針が刺さっているのに気づく。

お夏は、同じ者でございましょう?重四郎様と指摘する。

しかし、そこにやって来た平助が、また髷を切りやがった!とお夏に知らせたので、今度の曲げ切りは拙者ではないとお認めでしょうな?と重四郎がお夏に念を押す。

切ったのは浪人かい?とお夏が聞くと、平助は、お小姓姿だったと言う。

一座に戻って来た重四郎は自分がもらったこの着物の由来を聞くと、お蝶は、重四郎がそれまで来ていた着物が羊羹色になっていたからあつらえたのだと言う。

女の移り香が残っていましたが?と重四郎が聞くと、寸法を見るため、二三度自分が袖を通してみたからさとお蝶は答える。

私のために作っていただいたのならどこで?と聞くと、河内屋でとお蝶は答える。

お夏は、平助を伴い客を装い河内屋で出向くと、番頭が勧めて来た唐織りの帯を見て、都鳥とかの柄はないのか?と聞くと、錦糸鳥だけで、これは女の髪の毛で織られているという噂ですと番頭は言う。

その時、お夏は先客の御用人とお供の侍が政次郎と亀五郎の変装と知り驚く。

政次郎と亀五郎はとっくにお夏のことに気づいていたようで、2人して、この帯の評判を聞きつけ、その内、鳥越の流れ女でも買いに来るだろう…などとお夏をからかいながら帰って行く。

一方、一座の楽屋では、まだ重四郎がお蝶に、この着物を犯人が着ていたのは事実です。髪切りとは言え、自殺する者まで出るようでは、いたずらですむ話はなくこれは明らかに人殺し…と迫っていた。

お蝶は考え込み、こうなったら何もかも打ち明けます。今宵5つまでに…、5つの鐘が鳴りましたら、目明かしの娘御と一緒にここへお越し下さい。

その時に何もかもお話ししますと約束する。 しかしその会話を盗み聞いていたのは一座の奥役だった。

帰宅した亀五郎は平助から、お夏がどの辺まで事件を読んでいるのか聞いてみると、いなくなった娘達に絵描きの身内がいないかか自分に調べさせている。

誘拐された娘がゴロを織らせているかも知れず、絵心がある者がその中にいれば、何か手がかりを帯に織り込むかも…と言うことらしいと平助は答える。

それを聞いた亀五郎は、さすがわいの娘や、大体同じようなこと考えてるなどとごまかす。

そのお夏は、1人で風呂に入っていたが、それを覗きに来た出歯亀2人(小田草之助、市木信孝)を、やって来た政次郎が突き飛ばしたせいで、風呂を囲っていた垣根が壊れてしまい、お夏はそこに残っていた政次郎を覗きと間違え、出歯亀!と罵倒する。

そこにやって来た重四郎と連れ立って表に出たお夏は、お侍さんが髷切りとは思えない…と打ち明け、とにかく行って聞いてみましょうよと5つになったのでお蝶の一座へ向かう。

ところが、楽屋に来てみると、お蝶は背中に刀が刺さり倒れていたので、重四郎は驚いて抱き起こすと、髷を切って歩いていたのは私です。私に違いありませんと言い残し、お蝶は息絶える。

その楽屋を覗き込む野次馬の中には奥役も混ざっており、恐怖に震えていた。 そんな野次馬の中にいた双子の歌い手が、怪しいお侍が舞台裏にいますよとお夏らに教える。

そこにやって来たのが河内屋伝右衛門で、太夫!しっかりしろ!とお蝶を抱くと、その場にいた重四郎を睨みつける。

お夏は、橋の上で一座から逃げ出して来た深編み笠のお小姓姿に詰め寄っていた。

お夏は、刀を抜いて来た相手に針を投げて難を逃れると、駆けつけて来た重四郎と共に逃げ去った相手の後を追い、浄心寺の中に逃げ込むのを目撃する。

中に入り込むと、屋敷の近くにわらじが片方脱げていたので近づこうとすると、いきなり家人と思しき侍が斬り掛かって来たのでくせ者!と重四郎が怒鳴りつけると、どちらがくせ者だ!他人の家に勝手に忍び込んだのはどっちだ!と相手方の森隼人(安井昌二)が言い返して来る。

これは自分たちの方に非があったと気づいた重四郎は、確かにこちらが悪かったと詫び、早々に屋敷から立ち去る。

その時、浄心寺の尼がいたので、越智らのお屋敷はどちら様の?とお夏が聞くと、牧野大和守様の下屋敷と伺っておりますと尼は答える。

屋敷に戻って来た隼人に、琴姫が何事じゃ?と聞き、屋敷に入り込んだ者が降りましたので叱りつけましたと隼人が答えると、夜中の警護、大儀に思いますと琴姫はねぎらう。 後日、大目付よりの書状を手に、お夏は琴姫に対面する。

お夏は、春頃から市中で髪切が横行し始めたことを教えると、奥山で見せ物をやっているジャガタラお蝶をご存知ですかと聞くと、長崎奉行をしている父が贔負にしていますと琴姫は答える。

そのお蝶大夫は亡くなったとお夏は教え、太夫は髪切犯人を知っておりました。私が楽屋を訪れた時殺されたんです。太夫は髪切犯人は自分だと言って死にましたと伝えると、琴姫は、そんなこと!と驚いたようだった。

太夫は何か仔細があって死んだと思います。その犯人は後藤家に逃げ込んだのです。深編み笠のお小姓姿でしたとお夏が説明すると、琴姫は突然涙を流しだす。

御縁者か、御家来衆の中で知りませんか?ご存知でしたらお引き渡しを…とお夏が聞くと、心当たりがありますと言い出した琴姫は、実は弟ですと語りだす。

縫之助は幼少の頃から陰気で、ある時、次女の1人が気に食わぬと、髷切りをしました。

その後、侍女と云う侍女の髷を切ったので、姉として妾が泣いて諌めた所、しばらくの間は止めていましたが、最近また外で始めたのでしょう。

この姉の手で縛ってお渡ししましょう、それまでお待ちくださいと琴姫がひれ伏して頼むので、お手をお挙げください、お待ちしますとお夏は答え帰って行く。

琴姫は、廊下に待機していた森隼人が刀に手をかけたので、なりませぬ!と叱りつける。

浄心寺の外では、河内屋が、待たせていた駕篭に乗って帰るお夏の姿を見ていた。

やがて駕篭が出発すると、寺から出て来た深編み笠にお小姓姿の人物が駕篭の前に立ちふさがり、お夏に斬り掛かろうとする。

駕篭を降りたお夏は、得意の針を構えて対峙するが、その時、近くの草むらに隠れていた政次郎が、足を狙え!と声をかけたので、驚きながらもその言葉に従う。 結果、逃げ出した小姓姿の人物の足に針が刺さる。

急ぎ、寺の中に戻ったお夏は、応対に出て来た尼に、琴姫様にお伝えください。

たった今、縫之助に襲われました。縫い針を投げましたので怪我をしていると思いますと告げて寺を後にする。

すると、外の道で自分のことを噂している政次郎と亀五郎がいるではないか。

跳ねっ返りがどうだと言うんだい?と政次郎に詰め寄ると、おいらの御用人姿の方が化け方が巧かったと言ってたんだと政次郎が愉快そうに言い返して来たので、お夏は膨れて先に帰ってしまう。

それを見ていた亀五郎は、お夏に惚れているなら、俺の子分になれと政次郎に又勧める。

すると政次郎は、ものすごいこと言わはるわ!とアチャコの物まねをして立ち去る。

その頃、屋敷内で河内屋に会っていたこと姫が、一座の者が事情を知っているかも…と案ずると、上総屋が金轡噛ませてありますと河内屋は答える。

その頃、ジャガタラお蝶一座にやって来た車坂の勘助は前田重四郎を前に、お蝶殺しの大罪人!元はお蝶の情夫だったが、最近お夏に乗り換え、邪魔になった太夫をばっさり!と自らの読みを聞かすと、太夫のは背中に突いてあったぜと重四郎は反論する。

それだけじゃねえ、一座の奥役まで殺したくせに!と勘助が言うので、ふん、奥役が?と重四郎は驚くが、太夫は自分にとっての恩人、その仇を討つまでは貴様らなんかに捕まるわけにはいかん!と言い捨てるとその場を逃げ出す。

やがて、お夏の家に近づいた重四郎は、笹山鶴之丞(天津七三郎)が琴姫様よりのお言伝で、約束を果たしたいのでお越し下されのこと…と家人が駕篭を用意して迎えに来ているのに気づく。

それを見送った亀五郎は、平助に着替えの用意をさせると、会うのはお奉行様や!お夏が危ない!ホシを当てた時、目明かしが一番危ないんや、こんな時、政次郎がいてくれたらな〜とぼやく。

その頃、河内屋で丁稚総動員の荷運びが行われていたが、番頭があいつは誰や?と半松に聞くと、あれは政やんと言うて、大阪から来た遠い親戚やと説明する。

その頃、琴姫の前に戻って来た笹山鶴之丞が、召し連れて参りましたと伝えると、笹山鶴之丞(天津七三郎)が牧野の家の使いと名乗ったのではないか?と琴姫が案ずるので、使い人など出したことがないとはねつければ良いだけのことと森隼人が答える。

そんな屋敷に潜り込んでいた重四郎。

別室で待っていたお夏の元にやって来たのはお小姓姿の縫之助で、右手首と足にお夏から投げられた針の傷に包帯を巻いた部分を示す。

身柄を引き取りに詣りましたとお夏が言うと、御主の命もそちの思うがままなどと威嚇して来たので、琴姫様にお目にかかりとうございますとお夏が頼むと、領外もの!余に取り次ぎを致せと申すか!と縫之助は憤慨しながら部屋を出て行く。

しかし、その後、琴姫は日本刀を携えお夏の元に姿を現すと、お約束を守れぬことになりました。家中の者が渡せぬと聞き入れてくれません。そなたを生かしておけないと申すので、この刀で自ら自害してください。

その代わり、妾も一緒に死にますとお夏に迫って来る。 お夏が身を引くと、日本刀を抜いて琴姫が斬り掛かって来たので、針を髪から抜いて投げるお夏。

すると、刃を構えた琴姫の右腕に包帯が巻かれているのが見えてしまう。

今しがたその包帯を自ら見せた縫之助と同じであることに気づいたお夏は、琴姫こそ縫之助であることを知り、逃げ出した琴姫の後を追う。

やがて、自分の部屋に逃げ込んだ琴姫だったが、転んでしまい、鬘が吹き飛ぶ。

部屋に入って来て、琴姫の露になった頭部を見たお夏は、お可哀想に…と言いながら急に泣き出す。

琴姫の頭部は醜くはげており髪がなかったのだ。

自らの恥部を見られた琴姫は、持っていた刃で自らの胸を突く。

部屋の外の渡り橋では、森隼人らと姿を現した重四郎が斬り合いをしていた。 それに気づいて駆け寄ったお夏に、障子を閉めて!この頭を見られとうない!と琴姫は虫の息の中頼む。

障子を閉めた直後、隼人が駆けつけて来て声をかけたのので、隼人は知っております。隼人だけ入れてと言い、お夏殿、もうお分かりでしょう?縫之助とは私のことなのです…、ここへ来て回りの者の髷がなくなった私は、町に出て美しい髷を切ることにしました。

まさか、髷を切ることが、人の命取りになるとは思わなかったのです…と、お夏に寝床に寝かせられていた琴姫は打ち明ける。 側に座って聞いていた森隼人は、姫ご幼少の頃、侍女の過ちで煮え湯を頭に浴びられたのです。

その侍女がお蝶さんだったのですと打ち明ける。 しかし、あの夜、妾が楽屋に行った時には既にお蝶は殺されていました…、お蝶を殺したのは妾ではありません…と琴姫が言うので、誰です?とお夏は問いかけるが、もうその返事はなかった。

琴姫の死を知り涙する隼人の前で、お夏は傍らに転がっていた鬘をかぶせ、唇には紅を引いてやり、死化粧を終えると、隼人様、家人の方に別れのお目通りを…と伝える。

お夏の心遣いを知った隼人は、かたじけのうござると感謝する。

寺の前に駆けつけて来た亀五郎に、寺から出て来たお夏が、お蝶殺しは縫之助じゃなかったのよと教え、この家の人じゃなかったら分かってますと言い残し、どこかへと向かう。

船に夜通し荷を積む作業を続けていた河内屋の番頭は、また見慣れない丁稚が混じっているので、あれは誰だと丁松に聞いていたが、顔中あばただらけのその丁稚は、小便したくてたまらねえや!と言いながら奥へ駆け込んで行く。

そこへ近づいて来た河内屋伝右衛門は番頭に、手なずけておいた目明かしから知らせて来た、明け六つに出航させるから間に合わせろと命じる。

奥の蔵の中に忍び込んだあばた面の丁稚は、実はお夏の変装で、床の一部から光が漏れていることに気づくと、柱の中のからくりを見つけ、それを引いて、床を開く。 下には隠し部屋があり、そこでは何人もの髷を切られた娘達が帯を織らされていた。

不思議そうに見上げた娘がお光と気づいたお夏は、お光ちゃん!と声を掛けるが、そこへ入って来た河内屋伝右衛門に捕まり、貴様、女だな?捕り物小町のお夏だな!と見破られる。

世間に顔向けできない身体にしてやる!と着物を脱がされそうになったお夏だが、その時、柔道の練習ですか?と言いながら、二階から下りて来たのは先に丁稚に化けて忍び込んでいた政次郎だった。

貴様は誰だ?と河内屋に聞かれた政次郎は、河内屋の丁稚ではねえが、遠山の金さんって柄でもねえからな…などととぼけて見せる。

河内屋が蔵の外に逃げ出したので、政さん!と着物を脱がせかけられたお夏が声を掛けると、おら、出歯亀なんかじゃねえからな、女を裸にはしないよと言いながら、側の葛篭の蓋を開け、中から男物の着物を取り出してやる。

それを羽織ったお夏と共に河内屋を座敷に追い込んだ政次郎は、籐椅子に腰掛け、お夏の絵解きを聞く。

お蝶と奥役を殺した張本人は河内屋さんですね?とお夏が迫ると、お蝶は俺の女だぜ、それを殺すはずがないだろうと河内屋はとぼける。 あんたは琴姫様の秘密を知るとそれを種に父親の牧野大和守を脅し、抜け荷の目こぼしをさせていたんです。

お蝶さんはそれを知っていた。

それに気づいた奥役の御注進であんたはお蝶さんを殺したんだが、そこまでするとは思っていなかった奥役があまりに怯えていたので、このままでは危ないと察して奥役も殺したんですとお夏は絵解きをする。

それを聞いていた河内屋は、なかなか面白い話で事実とそう違ってもいないようだが、俺がお白州で、琴姫様のことを恐れながらと訴えたらどうなると思う?と笑って開き直る。

その強請はもう効かないんです。姫は我が身を恥じ、御自害なさいましたとお夏は教え、あんたはさらに髷を切らせた娘達をかどわかし、地下蔵で「ゴロ」を織らせていたんです!とお夏は続けるが、俺をここで縛れると思ったら大間違いだぜと河内屋は凄んで来る。

すると椅子を立ち上がった政次郎が、俺は町人には珍しくやっとうの名人だけどねと言って、お夏をかばおうとしたので、河内屋はいきなり床に煙玉を投げつけて破裂させ、白煙に隠れて背後の隠し通路に逃げ込む。

部屋に用心棒達がなだれ込んで来たので、政次郎は壁に飾ってあった青龍刀を掴み、それで相手をし始める。

お夏は細帯を部屋に置いてあった金魚鉢の水で濡らすと、それを鞭のように伸ばし、浪人達相手に戦い始める。

中庭に出ると、そこでは前田重四郎が、お蝶の仇!と言いながら戦っていた。 そこに、さらに用心棒達がなだれ込んで来る。

蔵の中に逃げ込んだ河内屋は、大葛篭の中から刀を取り出す。

お夏は、重四郎を狙って短筒を取り出した浪人がいたので、得意の針を投げ、銃を落とす。

そこに、夏っちゃん、だらしないぞ!と言いながら、青龍刀を持った政次郎が駆け付けると、浪人の刀を奪い、それをお夏に渡してやる。

河内屋はまたも、煙玉を地面に投げつけ姿をくらます。

その時、亀二郎が呼び寄せた奉行と捕り方が河内屋の店の中になだれ込んで来る。 店の中では丁松と半松が浪人達相手に邪魔していたので、ちょろちょろするな!河内猿!と亀五郎が叱りつける。

河内屋は、番頭が竿を使う小舟で川に逃げ込もうとしていたが、そこに飛び乗って来た重四郎が2人とも斬り捨てる。

河原に灯籠流しを見物に来た松五郎は、一緒に付いて来た平助に、あいつら、今は仲良くしとるけど、最後は喧嘩や!と橋の上にいたお夏と政次郎のことを言う。

お夏は、ねえ政さん…、私はまだお父っあんみたいな目明かしじゃない。もっとちゃんとした目明かしだったら、太夫も琴姫様も死なずにすんだのに…と首相にも反省していた。

それを聞いていた政次郎が、女らしくしたかったら、嫁にもらってやっても良いぜ!とからかうと、ふん!あたしに言い寄ってくる男は履いて捨てるほどいるんだよ!とお夏も言い返して来たので、何だと!と政次郎はむきになり、お夏も何さ!と粋がってそっぽを向く。
 


 

 

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